(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】反応装置
(51)【国際特許分類】
C10G 2/00 20060101AFI20250327BHJP
B01J 8/04 20060101ALI20250327BHJP
【FI】
C10G2/00
B01J8/04 311A
(21)【出願番号】P 2020217586
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 篤司
(72)【発明者】
【氏名】後藤 晃
(72)【発明者】
【氏名】梶田 琢也
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-518934(JP,A)
【文献】実開昭60-115537(JP,U)
【文献】特開昭54-019479(JP,A)
【文献】特表2005-520673(JP,A)
【文献】特開昭61-054229(JP,A)
【文献】特表2009-520094(JP,A)
【文献】国際公開第2015/068640(WO,A1)
【文献】特開2019-098323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 2/00
B01J 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の筒状の反応管が平行に配置されている反応器と、
前記反応管の内部に充填され、一酸化炭素と水素とを用いたFT法による反応により炭化水素を生成する触媒を含む触媒部と、を備え、
前記一酸化炭素を含むガスが前記反応管に流入する前のガス温度と、炭化水素を生成する際に前記触媒部において最も高温となる高温領域の温度との差が30℃以下となるように構成されて
おり、
前記反応管は、断面積が上流側から下流側に向かって同じであり、
前記触媒部は、前記反応管の上流側半分に充填された前記触媒の充填量が、前記反応管の下流側半分に充填された前記触媒の充填量の50~90質量%となるように、前記反応管に前記触媒が充填されている反応装置。
【請求項2】
複数の前記反応管は、
第1の量の前記触媒が充填されている第1の反応管と、
前記第1の量と異なる第2の量の前記触媒が充填されている第2の反応管と、
を有
し、
前記第1の反応管と前記第2の反応管は平行に配置されている請求項
1に記載の反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素を製造する際に用いる触媒及び触媒が充填された反応装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス等に含まれる二酸化炭素を有効利用する方法として、二酸化炭素と水素から、エネルギー密度の高い液状の炭化水素を触媒の存在下で生成させることが検討されている(例えば特許文献1)。また、水素と一酸化炭素とを用いて炭化水素を生成する方法として、フィッシャートロプシュ法(Fischer-Tropsch process:以下、適宜「FT法」という。)が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Energy & Fuels, Vol. 23, 4195(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
FT法に用いられる触媒は、主にコバルト、ルテニウム、鉄といった金属を含有する。また、FT法における触媒反応は発熱反応であり、触媒層の中でも上流側での発熱が多い傾向にある。そのため、FT触媒層全体で反応温度を均一化するためには何らかの工夫が必要である。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、FT法による反応により炭化水素を生成する触媒部の温度の偏りを低減する新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の反応装置は、複数の筒状の反応管が平行に配置されている反応器と、反応管の内部に充填され、一酸化炭素と水素とを用いたFT法による反応により炭化水素を生成する触媒を含む触媒部と、を備える。一酸化炭素を含むガスが反応管に流入する前のガス温度と、炭化水素を生成する際に触媒部において最も高温となる高温領域の温度との差が30℃以下となるように構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、炭化水素を生成する触媒部の温度の偏りを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施の形態に係る反応装置を含む触媒システムの概略構成を示す模式図である。
【
図2】第1の実施の形態に係る反応装置の概略構成を示す模式図である。
【
図3】第2の実施の形態に係る反応装置の概略構成を示す模式図である。
【
図4】第3の実施の形態に係る反応装置の概略構成を示す模式図である。
【
図5】第4の実施の形態に係る反応装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
はじめに、本発明の態様を列挙する。本発明のある態様の反応装置は、複数の筒状の反応管が平行に配置されている反応器と、反応管の内部に充填され、一酸化炭素と水素とを用いたFT法による反応により炭化水素を生成する触媒を含む触媒部と、を備える。一酸化炭素を含むガスが反応管に流入する前のガス温度と、炭化水素を生成する際に触媒部において最も高温となる高温領域の温度との差が30℃以下となるように構成されている。
【0011】
触媒部の一酸化炭素が流入する側の端部領域は発熱が集中しやすい。そのため、触媒部における温度の偏りが大きくなる。この態様によると、一酸化炭素を含むガスが触媒部に流入する前のガス温度に比べて、炭化水素を生成する際に触媒部において最も高温となる高温領域の温度の上昇を30℃以下に抑えることで、触媒部での温度の偏りを低減できる。その結果、触媒部での安定した触媒反応が得られる。
【0012】
触媒部は、反応管の上流側半分に充填された触媒の充填量が、反応管の下流側半分に充填された触媒の充填量の50~90質量%となるように、反応管に触媒が充填されていてもよい。これにより、反応管の上流側での反応による発熱が抑制され、触媒部での温度の偏りを低減できる。
【0013】
複数の反応管は、第1の量の触媒が充填されている第1の反応管と、第1の量と異なる第2の量の触媒が充填されている第2の反応管と、を有してもよい。これにより、第1の反応管と第2の反応管とで反応による発熱に差を生じさせることができる。
【0014】
反応管は、断面積が下流側に向かって大きくなるように構成されていてもよい。これにより、反応管の上流側での反応による発熱が抑制される。なお、断面積が下流側に向かって大きくなる拡径部は、反応管の全部であってもよいし、一部に設けられていてもよい。
【0015】
反応管は、上流側半分の容積が下流側半分の容積の50~90%であってもよい。これにより、反応管の上流側での反応による発熱が抑制される。
【0016】
反応管は、上流側端部の断面積が下流側端部の断面積の50~90%であってもよい。これにより、反応管の上流側での反応による発熱が抑制される。
【0017】
反応管は、下流側半分の放熱性よりも上流側半分の放熱性が高くなるように設けられた放熱機構を有してもよい。これにより、反応管の上流側での温度上昇が抑制される。
【0018】
放熱機構は、反応管の上流側半分の領域に設けられた放熱フィンであってもよい。これにより、反応管の上流側での温度上昇が抑制される。
【0019】
放熱機構は、反応管の第1の領域を第1の冷媒で冷却する第1の冷媒機構と、反応管の、第1の領域よりも下流側の第2の領域を第2の冷媒で冷却する第2の冷却機構と、を有してもよい。これにより、複数の領域での温度差を更に低減できる。
【0020】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。また、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【0021】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述される全ての特徴やその組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、同一の部材であっても、各図面間で縮尺等が若干相違する場合もあり得る。また、本明細書又は請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限り、いかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。
【0022】
(触媒システム)
はじめに、本実施の形態に係る反応装置を用いて炭化水素を製造する触媒システムの一例について説明する。
図1は、第1の実施の形態に係る反応装置を含む触媒システムの概略構成を示す模式図である。
図1に示す触媒システム10は、上流側に配置された逆シフト反応装置12と、逆シフト反応装置12の下流側に配置されたFT反応装置14と、を備える。
【0023】
逆シフト反応装置12では、上流側から水素と二酸化炭素を含む原料ガスが導入され、収容されている逆シフト触媒を用いて、逆シフト反応により二酸化炭素から一酸化炭素が生成される。FT反応装置14では、逆シフト反応装置12で生成された一酸化炭素と、水素を含むガスが導入され、収容されているFT触媒を用いて、FT法による反応によりガス状あるいは液状の炭化水素が生成される。以下の各実施の形態で説明する反応装置は、前述のFT反応装置14に相当する。なお、各実施の形態に係る反応装置は、逆シフト反応装置12とFT反応装置14とが一体となった反応装置であってもよい。
【0024】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態に係る反応装置の概略構成について説明する。
図2は、第1の実施の形態に係る反応装置の概略構成を示す模式図である。
図2に示す反応装置20は、上流側の入口20aから導入した原料ガスから生成された炭化水素を下流側の出口20bから排出するように構成された反応器22と、原料ガスに含まれる一酸化炭素と水素とを用いたFT法による反応により炭化水素を生成するFT触媒24aを含む触媒部24と、を備える。
【0025】
反応器22には、複数の円筒状の反応管22aが平行に配置されている。反応管22aの周囲には、加熱や冷却のための媒体が必要に応じて流通する空間26が設けられている。触媒部24には、各反応管22aの内部に、FT法による反応を生じさせる、ペレット状のFT触媒24aが充填されている。FT触媒24aにおいては、FT法による反応により一酸化炭素と水素から炭化水素が生成される。
【0026】
反応装置20は、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタンといった炭素数1~4のガス状の炭化水素であるCH4、C2-C4成分と、炭素数5以上の炭化水素であって、常圧で液状の油分成分であるC5+成分(例えば、直鎖アルカンにおいて炭素数nが5以上の成分)とを生成し、ガス成分と油分とを気液分離し、場合によっては分留することで、所望の成分を抽出することができる。
【0027】
反応管22aに充填されているFT触媒24aは、FT法による反応が発熱反応であるため、触媒部24の一酸化炭素が流入する側の端部領域Rは発熱が集中しやすい。そのため、触媒部24の端部領域Rは温度が上昇しやすく、そのままでは触媒部24全体で温度の偏りが大きくなる。そこで、第1の実施の形態に係る反応装置20は、一酸化炭素を含むガスが反応管22aに流入する前のガス温度と、炭化水素を生成する際に触媒部24において最も高温となる高温領域の温度との差が30℃以下となるように構成されている。
【0028】
これにより、一酸化炭素を含むガスが反応管22aに流入する直前のガス温度に比べて、炭化水素を生成する際に触媒部24において最も高温となる高温領域(例えば端部領域R)の温度の上昇を30℃以下に抑えることで、触媒部24での温度の偏りを低減できる。その結果、触媒部24での安定した触媒反応が得られる。
【0029】
本実施の形態に係る反応装置20では、端部領域Rにおける局部的な温度上昇を抑えるために、触媒部24は、反応管22aの上流側半分(又は1/3)の領域R1に充填されたFT触媒24aの充填量が、反応管22aの下流側半分(又は2/3)の領域R2に充填されたFT触媒24aの充填量の50~90質量%となるように、FT触媒24aが反応管22aに充填されている。これにより、反応管22aの上流側での反応による発熱が抑制され、触媒部24での温度の偏りを低減できる。なお、本明細書において「上流側半分」とは、反応管22aの中心軸方向の長さを基準としたときの、一酸化炭素を含むガスが流入する側の端部から半分までの長さの部分をいい、「下流側半分」とは、反応管22aの中心軸方向の長さを基準としたときの、炭化水素が排出する側の端部から半分までの長さの部分をいう。
【0030】
なお、上流側の触媒の充填量が下流側の触媒の充填量の50~90質量%とは、この条件を反応管22aの個々が満たしていても良いし、全ての反応管22aを平均した値が満たしていても良い。例えば、全ての反応管22aの上流側半分に充填されているFT触媒24aの充填量が、全ての反応管22aの下流側半分に充填されているFT触媒24aの充填量の50~90質量%であれば、一部の反応管22aの上流側のFT触媒24aの充填量が下流側のFT触媒24aの充填量の90質量%を超えていてもよいし、50質量%未満であってもよい。
【0031】
このように、複数の反応管22aは、第1の量の触媒が充填されている第1の反応管22a1と、第1の量と異なる第2の量の触媒が充填されている第2の反応管22a2と、を有している。これにより、第1の反応管22a1と第2の反応管22a2とで反応による発熱に差を生じさせることができる。また、全ての反応管22aに満杯にFT触媒24aを充填した場合の温度分布を考慮して、温度が高くなる傾向の領域の反応管22aへのFT触媒24aの充填量を減らしてもよい。例えば、
図2に示すように、円筒の反応器22の外周側から中心に向かって、反応管22aのFT触媒24aの充填量が多くなるように複数の反応管22aを配列しても良い。あるいは、円筒の反応器22の外周側から中心に向かって、反応管22aのFT触媒24aの充填量が少なくなるように複数の反応管22aを配列しても良い。
【0032】
[第2の実施の形態]
図3は、第2の実施の形態に係る反応装置の概略構成を示す模式図である。なお、第1の実施の形態に係る反応装置20と同様の構成については、同じ符号を付して説明を適宜省略する。第2の実施の形態に係る反応装置30は、触媒部24の上流側の発熱を抑えるために、反応器32に設けられている反応管32aの断面積Sが下流側に向かって大きくなるように構成されている。これにより、反応管32aの上流側半分の領域R1に充填されるFT触媒24aが、下流側半分の領域R2に充填されるFT触媒24aより少なくなるので、反応器32の上流側での反応による発熱が抑制される。
【0033】
また、反応管32aは、上流側半分の容積V1が下流側半分の容積V2の50~90%であってもよい。また、反応管32aは、上流側端部の断面積S1が下流側端部の断面積S2の50~90%であってもよい。これにより、反応管32aの上流側での反応による発熱が抑制される。
【0034】
[第3の実施の形態]
図4は、第3の実施の形態に係る反応装置の概略構成を示す模式図である。なお、第1の実施の形態に係る反応装置20と同様の構成については、同じ符号を付して説明を適宜省略する。上述の各実施の形態で述べたように、各実施の形態に係るFT反応装置においては、反応器の上流側の発熱を抑えることで、触媒部の温度の偏りを低減している。一方、第3、第4の実施の形態に係る反応装置は、放熱設計により触媒部の温度の偏りを低減している。
【0035】
図4に示す反応装置40において、反応管22aは、下流側半分の領域R2の放熱性よりも上流側半分の領域R1の放熱性が高くなるように設けられた放熱機構42を有している。具体的には、放熱機構42は、領域R1において、反応管22aが貫通する穴が複数形成された円板状の放熱フィン42aを有している。放熱フィン42aにより、反応管22aに充填された触媒部24で生じた反応熱が空間26に放熱される際の放熱面積が増大するため、放熱フィン42aが反応管22aと接する領域に近い触媒部24の温度上昇を低減できる。これにより、反応管22aの上流側での温度上昇が抑制される。
【0036】
[第4の実施の形態]
図5は、第4の実施の形態に係る反応装置の概略構成を示す模式図である。なお、第1の実施の形態に係る反応装置20と同様の構成については、同じ符号を付して説明を適宜省略する。
図5に示す反応装置50が備える放熱機構52は、反応管22aの第1の領域R1’を第1の冷媒C1で冷却する第1の放熱機構52aと、反応管22aの第2の領域R2’を第2の冷媒C2で冷却する第2の冷却機構52bと、を有する。第2の領域R2’は、第1の領域R1’よりも反応管22aの下流側に位置している。
【0037】
第1の冷媒C1は、反応器22の上流側に位置する空間26aを流通することで、反応管22aの上流側の温度を制御できる。また、第2の冷媒C2は、反応器22の下流側に位置する空間26bを流通することで、反応管22aの下流側の温度を制御できる。冷媒C1,C2は、特に限定されないが、水や冷媒油が用いられる。冷媒C1,C2の種類又は流量等を変えることにより、複数の領域R1’,R2’の冷却能力を個別に制御できる。これにより、複数の領域同士の温度差を更に低減できる。
【0038】
上述の各実施の形態において、各触媒の形態は、特に限定されず、例えば粉体であってもよく、粉体の凝集体からなる粒状の成形体であってもよい。粒状の成形体である触媒の形状は、特に制限されず、例えば円柱状、角柱状、球状又は不定形であってもよい。粒状の成形体の粒径(最大幅)は、1mm以上50mm以下であってもよい。触媒の粉体の粒径(最大幅)は、1μm以上1000μm未満であってもよい。
【0039】
逆シフト触媒は、金属銅、若しくは酸化銅(CuO)、又はこれらの両方を含有してもよい。銅系触媒体が触媒として機能する間、銅系触媒体は少なくとも金属銅を含む。そのため、触媒は、反応に用いられる前に還元処理される。還元処理前の銅系触媒体は、酸化銅を含むことが多い。
【0040】
銅系触媒体における銅成分の含有量は、銅系触媒体に含まれる銅成分の量を全て金属銅の量に換算したときに、銅系触媒体全体の質量を基準として、20~100質量%であることが好ましい。
【0041】
銅系触媒体は、酸化亜鉛(ZnO)を更に含有していてもよい。銅系触媒体が酸化亜鉛を含有することにより、液状の炭化水素をより一層効率的に生成させることができる。銅系触媒体に含まれる銅元素の量を全て酸化銅の量に換算したときに、酸化亜鉛の量の割合が、酸化銅と酸化亜鉛の合計量を基準として、10~70質量%であることが好ましく、20~50質量%であることが更に好ましい。
【0042】
銅系触媒体は、銅成分を担持する担体を更に含有してもよい。銅系触媒体が酸化亜鉛を含有する場合、通常、酸化亜鉛も担体に担持される。担体は、例えばγ-アルミナ等のアルミナであることが好ましい。銅系触媒体における担体の含有量は、銅の含有量、酸化亜鉛の含有量及びアルミナの含有量の合計を基準として、例えば0.5~60質量%であり、好ましくは1~50質量%、更に好ましくは1~40質量%である。ここでの銅の含有量は、銅系触媒体に含まれる銅成分の量を全て金属銅の量に換算した量を意味する。
【0043】
銅成分と酸化亜鉛を含有する銅系触媒体は、例えば、銅と亜鉛を含む沈殿物を共沈法により生成させる工程と、生成した沈殿物を焼成する工程とを含む方法によって得ることができる。沈殿物は、例えば、銅と亜鉛の水酸化物、炭酸塩又はこれらの複合塩を含む。銅と亜鉛を含む沈殿物を担体(例えばアルミナ)を含む溶液からの共沈法によって生成させることにより、銅成分、酸化亜鉛と担体を含有する銅系触媒体を得ることができる。
【0044】
焼成によって形成された、銅成分と酸化亜鉛を含有する焼成体を、粉体化してもよく、更に粉体を成形して粒状の成形体を形成してもよい。粉体を成形する方法の例としては、押出成形と錠剤成形が挙げられる。焼成体の粉体とカーボンブラックを含む混合物を成形して、成形体を得ることもできる。
【0045】
FT触媒24aは、金属鉄、酸化鉄又はこれらの両方を含む鉄成分と、アルカリ金属又はアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の添加金属とを含有する鉄系触媒体が好ましい。また、FT触媒24aは、鉄成分以外に銅成分を含んだ鉄系触媒体-銅系触媒体であってもよい。鉄系触媒体が触媒として機能する間、通常、鉄系触媒体は少なくとも金属鉄を含む。そのため、触媒は、通常、反応に用いられる前に還元処理される。還元処理前の鉄系触媒体は、通常、酸化鉄(例えばFe3O4やFe2O3)を含む。
【0046】
鉄系触媒体における鉄成分の含有量は、鉄系触媒体に含まれる鉄成分の量を全て酸化鉄の量に換算したときに、鉄系触媒体全体の質量を基準として、5~100質量%であることが好ましい。
【0047】
添加金属は、アルカリ金属から任意に選択される1種以上を含む。例えば、添加金属が、ナトリウム、カリウム及びセシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。当然、添加金属が2種以上であってもよい。添加金属が、ナトリウム、カリウム、又はセシウムを含むことにより、液状の炭化水素をより一層効率的に生成させることができる。
【0048】
鉄系触媒体における添加金属の含有量は、鉄系触媒体のうち添加金属以外の部分の量を基準として、0.2~40質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることが更に好ましい。添加金属がナトリウムを含む場合、鉄系触媒体におけるナトリウムの含有量が、0.2~20質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることが更に好ましい。添加金属がカリウムを含む場合、鉄系触媒体におけるカリウムの含有量が、0.2~40質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることが更に好ましい。添加金属がセシウムを含む場合、鉄系触媒体におけるセシウムの含有量が、0.2~20質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることが更に好ましい。添加金属の含有量が上記範囲内であると、一酸化炭素から炭化水素への転化率がより向上する傾向がある。
【0049】
鉄系触媒体は、例えば、Fe3+を含有する水溶液から三価の鉄を含む水酸化物の沈殿物を生成させる工程と、沈殿物を焼成して酸化第二鉄を含有する粉体を形成する工程と、粉体を添加金属を含む水溶液に混ぜて、次いで添加金属を含む水溶液を乾燥させる工程とを含む方法によって、得ることができる。
【0050】
酸化第二鉄を含有する粉体を更に成形して粒状の成形体を形成してもよい。粉体を成形する方法の例としては、押出成形及び錠剤成形が挙げられる。焼成体の粉体とカーボンブラックを含む混合物を成形して、成形体を得ることもできる。
【0051】
原料ガスから炭化水素を生成する反応を進行させる間、各触媒を加熱してもよい。反応のための加熱温度は、例えば200~400℃である。また、原料ガスは、二酸化炭素又は一酸化炭素のうち一方のみを含んでいてもよいし、二酸化炭素と一酸化炭素を含む混合ガスであってもよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
[銅系触媒体の調製:逆シフト触媒]
γ-アルミナ(住友化学工業社製、BK-105)5.0gを、ホモミキサーで撹拌することによって純水1.0L中に懸濁させた。形成された懸濁液に、硝酸銅水和物(ナカライ試薬社製)31.7gと硝酸亜鉛水和物(ナカライ試薬社製)38.1gを含む水溶液300mLを室温で素早く加え、次いで室温で懸濁液を更に1時間撹拌した。その後、ホモミキサーによる撹拌を続けながら、炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)35.0gを含む水溶液300mLを、ローラーポンプを用いて室温にて5mL/分の滴下速度で滴下した。滴下により生成した沈殿物を含む懸濁液を、35℃で24時間放置することにより熟成させた。熟成後の懸濁液から、デキャント操作により上澄みを除去し、残った沈殿物を再び水で希釈した。このデキャントと希釈の操作を4回繰り返した。
【0054】
その後、吸引ろ過によって沈殿物を取り出し、これを再び純水中に懸濁させてから吸引ろ過により沈殿物を取り出す操作を4回繰り返した。この操作により沈殿物を十分に水洗した。得られた沈殿物を120℃で24時間の加熱により乾燥させた。乾燥後の沈殿物を、空気流通下で、150℃で1時間、200℃で1時間、250℃で1時間、300℃で1時間、350℃で1時間、400℃で4時間の順で加熱することにより、焼成した。焼成により、銅成分と酸化亜鉛を含有する銅系触媒体である黒色粉体を得た。この黒色粉体を乳鉢で微粉化し、微粉体を40MPaの圧力で成形することにより、直径3mm、高さ3mmの円柱状の成形体である銅系触媒体を得た。
【0055】
[鉄系触媒体の調製:FT触媒24a]
硝酸鉄・九水和物(富士フイルム和光純薬製)146.9gを、純水120mLに70℃で撹拌しながら溶解させ、鉄イオンの濃度が3mol/Lの溶液を調製した。その溶液に、水酸化ナトリウム47.9gを純水70mLに融解させた水酸化ナトリウム溶液(16.6mol/L)を、溶液のpHが11~12になるように滴下し、水酸化鉄(III)(Fe(OH)3)の沈殿物を含有する溶液を作製した。この溶液に含まれる沈殿物を真空ポンプを用いてろ過し、得られたろ過物を、アルカリ金属が所定量以下となるように繰り返し洗浄した。その理由は、アルカリ金属が多く(不定量)残留していると、後のアルカリ金属添加工程において、担体である酸化第二鉄に担持させるアルカリ金属の添加量を調整することが難しくなるからである。
【0056】
その後、得られた沈殿物を120℃で12~20時間加熱し、乾燥した。乾燥後の沈殿物を、空気流通下で5℃/minの昇温速度で雰囲気温度を上げながら、最終的に400℃で5時間加熱することにより、焼成した。その結果、28.7gの酸化第二鉄(Fe2O3)が得られた。
【0057】
次に、得られた酸化第二鉄5gを水酸化ナトリウム水溶液又は硝酸ナトリウム水溶液に融解し、120℃で12~20時間乾燥し、空気流通下で5℃/minの昇温速度で雰囲気温度を上げながら、最終的に400℃で5時間加熱することにより、焼成した。これにより、酸化第二鉄を主成分とする担体と、担体に担持されたアルカリ金属とを含有する鉄系触媒体の粉末が得られる。なお、水酸化ナトリウム水溶液に酸化第二鉄を溶解する場合は、焼成工程を省略し、乾燥工程だけでもよい。そして、粉末を成形し所定形態の成形体が得られる。以下の各実施例における鉄系触媒体は、直径2~3mmのフレーク状の形態である。
【0058】
なお、アルカリ金属としてカリウムを酸化第二鉄に担持させる場合には、水酸化カリウム水溶液や硝酸カリウム水溶液を用いればよい。また、アルカリ金属としてセシウムを酸化第二鉄に担持させる場合には、水酸化セシウム水溶液や硝酸セシウム水溶液を用いればよい。
【0059】
[コバルト系触媒体の調製:FT触媒24a]
硝酸コバルト六水和物1.23gを純水1.50gに溶解させた。得られた水溶液を、球状アルミナ4g(住友化学製、KHA-24)に含侵し、110℃で一晩乾燥させた。この含浸及び乾燥を2回繰り返し、アルミナ担体に12.5質量%のコバルトが担持されたコバルト系触媒(Al担持Co系触媒)を得た。
【0060】
[各触媒の還元処理]
内径1.27cmの固定床式反応管に、各触媒体を順次充填し、反応管のガス入口側(上流側)から銅系触媒体、鉄系触媒体、コバルト系触媒体の順で配置した。続いて、大気圧下、1容量%の水素と窒素からなる流通ガスを、反応管内に200Ncc/分の流量で流通させながら、触媒の温度を室温から1時間かけて150℃まで昇温した。150℃に保ったまま、流通ガスに含まれる水素の濃度を2容量%、10容量%、20容量%、50容量%、及び100容量%の順に変更した。水素濃度100容量%の流通ガス(水素ガス)に変更してから、流通の状態を2時間保持した。その後、水素ガスの流通を継続しながら、触媒の温度を200℃/時間の速度で350℃まで昇温し、350℃で7時間保持することにより、触媒を還元処理した。
【0061】
(実施例2)
[鉄系触媒体の調製:FT触媒24a]
実施例2では、鉄系触媒体の担体として四酸化三鉄(Fe3O4)を調製した。三塩化鉄・六水和物(富士フイルム和光純薬製)15.8gと二塩化鉄・四水和物(富士フイルム和光純薬製)6.3gを、純水75mLと35%塩酸2.5mLの混合溶液に、60℃で撹拌しながら溶解させた。溶解後の溶液に、温度を60℃に保ったまま、5%アンモニア水336mLを滴下し、次いで溶液を1時間撹拌した。溶液中に沈殿物が生成した。デキャント操作により上澄みを除去し、残った沈殿物を400mLの純水で洗浄しながらろ過した。得られた沈殿物を70℃で6時間の加熱により乾燥させた。得られた黒色粉体を乳鉢で微粉化した。微粉体を40MPaの圧力で成形して、Fe3O4を含む直径2mm、高さ2mmの円柱状の成形体を得た。この成形体10gに、水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)0.17gと純水4.63gを含む水溶液を含浸させ、成形体に含浸した水溶液を60℃、18時間の加熱により乾燥させて、鉄系触媒(NaFe3O4)を含有する成形体である鉄系触媒体を得た。Fe3O4に対するナトリウムの割合は約1質量%と計算される。
【0062】
(実施例3)
[鉄-銅系触媒体の調製:FT触媒24a]
実施例3では、鉄を含む触媒として鉄-銅系触媒を調製した。硝酸鉄九水和物34.6gと硝酸銅三水和物2.3gを蒸留水に溶解させて、全容100mLの溶液を調製した。続いて、温度を70℃に保ったまま、5%アンモニア水をpH=8となるまで滴下した。滴下量は212mLであった。溶液を更に室温で15時間撹拌した後、生成した沈殿物をろ過により取り出し、これを蒸留水で洗浄した。沈殿物を120℃で6時間の加熱により乾燥させた。得られた粉体8gに、水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)0.55gと純水3gを含む水溶液を含浸させ、60℃、18時間乾燥した。その後、粉体を350℃で3時間焼成して、鉄、銅とナトリウムを含有する鉄-銅系触媒を得た。鉄-銅系触媒に対するナトリウムの割合は約4質量%と計算される。
【0063】
以上、本発明を上述の各実施の形態や各実施例を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態や各実施例に限定されるものではなく、各実施の形態や各実施例の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態や各実施例における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた各実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0064】
10 触媒システム、 12 逆シフト反応装置、 14 FT反応装置、 20 反応装置、 20a 入口、 20b 出口、 22 反応器、 22a 反応管、 24 触媒部、 24a FT触媒、 26 空間、 32 反応器、 32a 反応管、 40 反応装置、 42 放熱機構、 42a 放熱フィン、 50 反応装置、 52 放熱機構。