(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F02D 41/22 20060101AFI20250327BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20250327BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20250327BHJP
【FI】
F02D41/22
F02D41/04
F02D45/00 345
F02D45/00 360A
(21)【出願番号】P 2021005620
(22)【出願日】2021-01-18
【審査請求日】2023-02-20
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 龍平
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翔平
【合議体】
【審判長】山本 信平
【審判官】八木 誠
【審判官】倉橋 紀夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-41642(JP,A)
【文献】特開平8-326590(JP,A)
【文献】特開平1-310149(JP,A)
【文献】特開昭58-65973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D41/00-41/40
F02D43/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射装置を備えたエンジンであって、
噴射パラメータに基づいて、前記燃料噴射装置による前記燃料の噴射を制御する噴射制御部と、
前記エンジンの運転状態に応じた値を出力するセンサと、を備え、
前記噴射制御部は、前記センサに含まれる特定のセンサが異常である場合には、前記エンジンの出力を下げ、前記特定のセンサの前記出力値の代わりに予め設定された所定値を用い、前記所定値に基づいて、前記噴射パラメータを補正し、
前記噴射制御部は、前記特定のセンサが異常である場合において、前記異常の発生から所定時間が経過するまでは、前記特定のセンサの前記出力値に基づいて、前記噴射パラメータを
補正し、
前記噴射制御部は、前記異常の発生からの経過時間に応じて、前記エンジンの動作モードを通常モードから第1モードおよび第2モードに順に移行させて、前記エンジンのパワーを段階的に低下させる燃料噴射制御を行い、
前記第1モードでは、前記第1モード用の噴射マップから決定される前記噴射パラメータを前記所定値に基づいて補正し、
前記第2モードでは、前記第2モード用の噴射マップから決定される前記噴射パラメータを前記所定値に基づいて補正する、エンジン。
【請求項2】
前記噴射制御部は、前記特定のセンサが異常である場合には、前記エンジンの出力を段階的に下げる、請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記噴射制御部は、前記特定のセンサが正常である場合に、前記特定のセンサの前記出力値に基づいて、前記噴射パラメータを補正する、請求項1または2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記噴射制御部は、前記特定のセンサの前記出力値を常時監視し、前記特定のセンサが異常から正常に戻った場合には、前記噴射パラメータの補正を、前記所定値に基づく補正から前記特定のセンサの前記出力値に基づく補正に戻す、請求項1から3のいずれかに記載のエンジン。
【請求項5】
前記噴射制御部は、前記エンジンの始動開始から所定時間が経過した後、前記特定のセンサの前記出力値が閾値未満である場合に、前記特定のセンサが異常であると判断する、請求項1から4のいずれかに記載のエンジン。
【請求項6】
前記特定のセンサは、前記エンジンの冷却水の温度を検知する水温センサである、請求項1から5のいずれかに記載のエンジン。
【請求項7】
前記所定値は、前記特定のセンサが正常であるときに出力される値を代表する代表値である、請求項1から6のいずれかに記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、センサ(例えば水温センサ)の出力値に基づいて燃料噴射量を制御するエンジンが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、燃料の噴射制御に大きな影響を与える特定のセンサ(例えば水温センサ)が異常であるとき、そのセンサの出力値は、センサが正常な場合の出力値に対して誤った値となる。特定のセンサの誤った出力値が制御部に送られると、制御部は、誤った上記出力値に基づいて燃料の噴射を制御するため、エンジンの誤作動などの不具合が生じる虞がある。この点、特許文献1では、特定のセンサが異常であるときの燃料噴射の制御については、一切検討されていない。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、特定のセンサが異常である場合でも、燃料の噴射を適切に制御して、エンジンの誤作動などの不具合が生じる虞を低減することができるエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係るエンジンは、燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射装置を備えたエンジンであって、噴射パラメータに基づいて、前記燃料噴射装置による前記燃料の噴射を制御する噴射制御部と、前記エンジンの運転状態に応じた値を出力するセンサと、を備え、前記噴射制御部は、前記センサに含まれる特定のセンサが異常である場合には、前記特定のセンサの前記出力値の代わりに予め設定された所定値を用い、前記所定値に基づいて、前記噴射パラメータを補正する。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、特定のセンサが異常である場合でも、燃料の噴射を適切に制御して、エンジンの誤作動などの不具合が生じる虞を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】エンジンの各動作モードでのトルクカーブの例を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施形態に係るエンジンの概略の構成を模式的に示す説明図である。
【
図3】上記エンジンの主要部の構成を示すブロック図である。
【
図4】上記実施形態における燃料の噴射制御の概念を模式的に示す説明図である。
【
図5】上記噴射制御による処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
〔1.課題についての補足〕
まず、上記した従来技術の課題について説明を補足する。近年では、各国において、エンジンの排気ガスに関する規制が益々強化されてきている。そして、上記規制に適合するために、NCD(Nox Control Diagnosis)またはPCD(Particulate Control Diagnosis)の各診断を行う制御がなされている。なお、NCDとは、後述のEGR装置に関連する診断のことであり、PCDとは、後述するDPF(Diesel Particulate Filter)に関連する診断のことである。
【0011】
例えば、特定のセンサに異常が生じ、NCDの診断においてエラーが発生すると、エンジンのパワー(トルク、回転数)を段階的に低下させる動作モードの制御が行われる。
図1は、各動作モードでのトルクカーブの例を示している。NCDにおいてエラーが検出されると、エラー検出から所定時間経過後に、動作モードを通常モードから第1モード(Low-level)に移行させ、さらに所定時間経過後に、動作モードを第1モードから第2モード(Severe)に移行させる制御が行われる。動作モードが第1モードまたは第2モードに移行した後、エンジンの最大トルクがそれぞれのモードで規定される値を超えるとき、上記規制を適切に満足することができない。
【0012】
そこで、本実施形態では、特定のセンサが異常である場合には、後述する燃料噴射制御を行うことにより、エンジンの出力が規定値を超えないようにする、つまり、エンジンの誤作動を低減するようにしている。
【0013】
〔2.エンジンの構成〕
以下、本実施形態のエンジンの構成について説明する。
図2は、本実施形態のエンジン1の概略の構成を模式的に示す説明図である。また、
図3は、エンジン1の主要部の構成を示すブロック図である。エンジン1は、例えばディーゼルエンジンであり、作業車両(作業機械)、農業機械、船舶等に搭載される。
【0014】
エンジン1は、吸気系の部材として、吸気管4と、吸気マニホールド5と、を備える。吸気管4は、外部から気体を吸入して吸気マニホールド5に供給する。
【0015】
吸気マニホールド5は、吸気管4から供給された気体をシリンダ(気筒)数に応じた数(例えば
図2では4つ)に分けてシリンダヘッド6へ供給する。シリンダヘッド6は、各シリンダを覆うシリンダヘッドカバー(図示せず)と、各シリンダの燃焼室6aに対応して設けられるインジェクタ7(燃料噴射装置)とを有する。インジェクタ7は、ECU(エンジンコントロールユニット)9によって制御され、コモンレール8に高圧で蓄えられた燃料を、所定のタイミングで各シリンダの燃焼室6aに噴射する。すなわち、エンジン1は、燃焼室6aに燃料を噴射する燃料噴射装置としてのインジェクタ7を備える。各シリンダには、燃焼室6a内を往復摺動し、コンロッド(連結棒)を介してクランク軸を回転させるピストンが設けられている。
【0016】
吸気マニホールド5には、吸気温度センサ11が取り付けられている。吸気温度センサ11は、吸気マニホールド5内の気体の温度を検出してECU9へ出力する。
【0017】
エンジン1は、排気系の部材として、排気マニホールド12と、排気管13と、排気ガス浄化装置14と、を備える。
【0018】
排気マニホールド12は、複数の燃焼室6aで発生した気体(排気ガス)をまとめる。排気マニホールド12を通過した気体は、一部がEGR(Exhaust Gas Recirculation)管17を介してEGR装置18へ供給され、残りの気体は排気管13を介して排気ガス浄化装置14へ供給される。
【0019】
EGR装置18は、シリンダヘッド6から排出される排気ガスの一部を吸気管4に戻す排気ガス再循環装置であり、EGRクーラ19と、EGRバルブ20と、を備える。EGRクーラ19は排気ガスを冷却する。EGR装置18は、EGRバルブ20の開度を調整することにより、吸気マニホールド5に供給される排気ガスの量を変化させる。吸気マニホールド5に吸気される気体に排気ガスを混ぜることにより、吸気される気体中の酸素量が少なくなるため、燃焼温度を下げることができる。これにより、NOxと呼ばれる窒素酸化物の発生を減らすことができ、排ガス規制(エミッション規制)に対応することができる。EGRバルブ20の開度は、EGRバルブ開度センサ(図示せず)によって検知される。
【0020】
ECU9は、EGR装置18に関する異常が発生した場合、上述したNCDの診断においてエラーが発生したとして、エンジン1の動作モードを上述した第1モードまたは第2モードに移行させ、エンジン1のパワー(トルク、回転数)を段階的に推移(低下)させる燃料噴射制御を行う。
【0021】
排気ガス浄化装置14は、排気ガスを浄化して排出する装置であり、DPFとも呼ばれる。排気ガス浄化装置14は、酸化触媒21と、フィルタ22と、を備える。酸化触媒21は、排気ガスに含まれる未燃燃料、一酸化炭素、一酸化窒素等を酸化(燃焼)するための触媒であり、白金等で構成される。フィルタ22は、例えばウォールフロー型のフィルタとして構成されており、酸化触媒21で処理された排気ガスに含まれるPM(Particulate Matter、粒子状物質)を捕集する。
【0022】
エンジン1は、
図3に示すように、水温センサ31と、エンジン回転数センサ32と、をさらに備える。水温センサ31は、シリンダヘッド6に設けられたウォータジャケット(図示せず)内を通るエンジン冷却水の温度を検知する。エンジン冷却水は、水ポンプの駆動により、ウォータジャケットとラジエータとの間を、冷却水路を介して循環して流れる。ラジエータで冷却された低温のエンジン冷却水がウォータジャケットを通ることにより、シリンダヘッド6を含むエンジン本体1aが冷却される。
【0023】
エンジン回転数センサ32は、エンジン1のクランク軸の回転数を、エンジン1の回転数として検出する。エンジン回転数センサ32で検出された回転数の情報は、ECU9に出力される。
【0024】
上述した各センサ(吸気温度センサ11、水温センサ31、エンジン回転数センサ32など)は、それぞれの検知対象を検知して、エンジン1の運転状態に応じた値をECU9に出力する。すなわち、本実施形態のエンジン1は、エンジン1の運転状態に応じた値を出力するセンサを備える。特に、本実施形態のエンジン1は、センサを複数備える。
【0025】
その他、エンジン1は、大気圧を検知する大気圧センサなど、他のセンサをさらに有していてもよい。大気圧センサを備えることにより、ECU9は、検知した大気圧に基づいて、エンジン1が使用される環境の高度を認識し、認識した高度に応じてエンジン1の運転条件を制御することができる。
【0026】
上述したECU9は、エンジン1の各部の動作を制御するコントローラである。特に、本実施形態では、ECU9は、噴射パラメータに基づいて、インジェクタ7による燃料の噴射を制御する噴射制御部として機能する。上記の噴射パラメータは、燃料の噴射量、噴射時期、噴射圧の少なくともいずれかを含む。また、ECU9は、時間を計時する計時部としての機能も有する。さらに、ECU9は、後述する噴射マップや、ECU9の制御プログラムなどを記憶する記憶部も有する。
【0027】
ところで、エンジン1が低温状態であり、エンジン冷却水が低温であると、エンジン1が始動しにくいため、インジェクタ7が多段階で燃料を噴射するときの噴射時期などを微調整することが必要となる。したがって、エンジン冷却水の温度は、燃料の噴射制御に与える影響が大きいと言える。
【0028】
そこで、本実施形態では、燃料の噴射制御に大きな影響を与える水温センサ31を特定のセンサとして考え、この水温センサ31に異常が生じたか否かによって、ECU9による燃料の噴射時期等の補正の仕方を変えるようにしている。以下、燃料の噴射制御について、より具体的に説明する。
【0029】
〔3.燃料噴射制御のフロー〕
図4は、本実施形態の燃料の噴射制御の概念を模式的に示す説明図である。また、
図5は、本実施形態の燃料の噴射制御による処理の流れを示すフローチャートである。ここでは例として、本実施形態のエンジン1を搭載した作業車両(例えば油圧ショベル)によって作業を行う場合の燃料噴射制御を考える。
【0030】
まず、ECU9は、水温センサ31に異常が生じているか否かを判断する(S1)。例えば、エンジン1の始動開始から所定時間が経過すれば、エンジン1は暖まった状態となり、エンジン冷却水の温度は上がる。したがって、ECU9は、エンジン1の始動開始から所定時間が経過した後、水温センサ31の出力値(温度)が閾値以上であれば、水温センサ31が正常であると判断することができ、閾値未満であれば、水温センサ31が異常であると判断することができる。なお、水温センサ31が異常である場合、ECU9は、NCDの診断を行うことができないため、NCDエラーを同時に認識する。なお、水温センサ31が異常である場合、PCDの診断開始も許可されない。
【0031】
ECU9は、S1にて、水温センサ31が正常であると判断した場合(S1にてNo)、エンジン回転数センサ32によって検出されたエンジン回転数と、指示噴射量と、予め用意された噴射マップとに基づいて、噴射パラメータを決定する(S2)。
【0032】
ここで、指示噴射量とは、作業車両を操縦するオペレータによって踏み込まれたアクセルの開度に応じてECU9が決定する、インジェクタ7から噴射させるべき燃料の噴射量(1サイクルの間に多段階で噴射を行う場合は各段階での噴射量のトータル)のことである。なお、指示噴射量の最大値は、エンジン1が出力可能なトルクの最大値(100%)を実現可能な値である。上記アクセルの開度は、作業車両側のアクセル開度センサ(図示せず)によって検知され、ECU9に入力される。
【0033】
次に、ECU9は、S2で決定した噴射パラメータを、正常な水温センサ31の出力値(エンジン冷却水の温度)に基づいて補正する(S3)。例えば、水温センサ31の出力値が比較的低い温度であったとき、ECU9は、燃焼室6a内での点火をしやすくするために、上記出力値に応じた量だけ、燃料の噴射時期を早める補正値(例えば進角で数度)を演算し、上記補正値をS2で決定した噴射時期に合算する補正を行う。この補正は「環境補正」とも呼ばれ、上記の補正値は「環境補正量」とも呼ばれる。
【0034】
続いて、ECU9は、S3で補正した噴射パラメータでインジェクタ7から燃料を多段階で噴射させる(S4)。これにより、エンジン回転数とトルクの関係として、例えば
図1で示した、通常モードでのトルクカーブが得られる。その後、S5にて、作業車両のイグニションキーをOFFにすれば、燃料噴射を止めて一連の処理を終了し、イグニションキーがOFFでなければ、S1に戻り、S1以降の処理が継続して行われる。
【0035】
ECU9は、S1にて、水温センサ31が異常であると判断した場合でも(S1にてYes)、異常の発生から第1所定時間(例えば36時間)が経過していなければ(S6でYes)、第1モードへの移行(エンジン1のパワーダウン)による作業の不都合を回避すべく、動作モードを第1モードに移行させず、上述したS2以降の処理を実行する。
【0036】
一方、ECU9は、水温センサ31の異常の発生から第1所定時間が経過した後で(S6でNo)、かつ、第2所定時間(例えば100時間)を経過していなければ(S7でYes)、S8に移行して、第1モードによる燃料噴射制御を行う。具体的には、以下の通りである。
【0037】
S8では、ECU9は、S2と同様にして、エンジン回転数と、指示噴射量とに基づいて、噴射パラメータを決定する。ここで、第1モード用の噴射マップ(最大噴射量マップ)によって最大トルク(通常時の例えば75%)が定義される。上記最大噴射量マップは、エンジン回転数と水温センサ31の出力値とによって構成される。
【0038】
次に、ECU9は、水温センサ31の出力値の代わりに、予め設定された所定値(デフォルト値)を用い、その所定値に基づいて、S8で決定した噴射パラメータを補正する(S9)。上記の所定値は、水温センサ31が正常であるときに水温センサ31から出力される値を代表する代表値である。例えば、S9では、燃料の多段噴射における各噴射時期が上記所定値に基づいて補正される。
【0039】
続いて、ECU9は、S9で補正した噴射パラメータでインジェクタ7から燃料を多段階で噴射させる(S4)。これにより、エンジン回転数とトルクの関係として、例えば
図1で示した、第1モードでのトルクカーブが得られる。なお、上記トルクカーブにおけるトルクは、第1モードで取り得るトルクの最大値を示す。その後、S5にて、作業車両のイグニションキーをOFFにすれば、燃料噴射を止めて一連の処理を終了し、イグニションキーがOFFでなければ、S1に戻り、S1以降の処理が継続して行われる。
【0040】
また、上述したS7において、ECU9は、水温センサ31の異常の発生から第2所定時間が経過していると判断した場合(S7でNo)、S10に移行して、第2モードによる燃料噴射制御を行う。具体的には、以下の通りである。
【0041】
S10では、ECU9は、S2と同様にして、エンジン回転数と、指示噴射量に基づいて、噴射パラメータを決定する。ここで、第2モード用の噴射マップ(最大噴射量マップ)によって最大トルク(通常時の例えば50%)が定義される。上記最大噴射量マップは、エンジン回転数と水温センサ31の出力値とによって構成される。
【0042】
その後、S9に移行し、ECU9は、水温センサ31の出力値の代わりに、予め設定された所定値を用い、その所定値に基づいて、S10で決定した噴射パラメータ(例えば噴射時期)を補正する。そして、ECU9は、S9で補正した噴射パラメータでインジェクタ7から燃料を多段階で噴射させる(S4)。これにより、エンジン回転数とトルクの関係として、例えば
図1で示した、第2モードでのトルクカーブが得られる。なお、上記トルクカーブにおけるトルクは、第2モードで取り得るトルクの最大値を示す。その後、S5にて、作業車両のイグニションキーをOFFにすれば、燃料噴射を止めて一連の処理を終了し、イグニションキーがOFFでなければ、S1に戻り、S1以降の処理が継続して行われる。
【0043】
S5の後、必要に応じてS1に戻ることにより、水温センサ31が異常状態であったために、例えばS1、S6、S7、S10、S9、S4,S5の順に処理を行った後、水温センサ31が正常状態に復帰した場合に、S1、S2、S3、S4、S5の順に処理を行うことができる。つまり、水温センサ31が異常状態から正常状態に戻った場合に、噴射パラメータの補正は、所定値に基づく補正(S9)から、正常な水温センサ31の出力値に基づく補正(S3)に戻る。
【0044】
なお、本実施形態では、
図4に示すように、作業車両が有する、エンジン1の制御に関連しない他の制御モジュールに対しても、水温センサ31が正常であれば、水温センサ31の出力値が供給され、水温センサ31が異常であれば、所定値(デフォルト値)が供給される。この場合、作業車両側の制御モジュールにおいて、水温センサ31の異常による誤作動が生じる虞を低減することができる。
【0045】
また、水温センサ31が異常であるか正常であるかに関係なく、水温センサ31の出力値は常時ECU9によって監視される。これにより、ECU9は、上記出力値に基づいて、水温センサ31が異常状態から復帰したかどうかを監視することができる。
【0046】
以上のように、噴射制御部としてのECU9は、センサに含まれる特定のセンサ(例えば水温センサ31)が異常である場合には、特定のセンサの出力値の代わりに予め設定された所定値を用い、所定値に基づいて、噴射パラメータを補正する(S9)。
【0047】
特定のセンサが異常である場合に、ECU9がその特定のセンサの出力値に基づいて噴射パラメータを補正し、補正後の噴射パラメータに基づいて燃料の噴射を制御すると、誤った出力値に基づく噴射パラメータの補正、および上記噴射パラメータに基づく誤った噴射制御が行われて、エンジン1の誤作動などの不具合が生じる虞がある。
【0048】
本実施形態では、特定のセンサが異常である場合に、誤った出力値の代わりに上記所定値に基づいて噴射パラメータが適切に補正されるため、補正後の噴射パラメータに基づいて、燃料の噴射を適切に制御することができる。これにより、特定のセンサが異常である場合でも、エンジン1の誤作動などの不具合が生じる虞を低減することができる。例えば、特定のセンサが異常であるために動作モードが第1モードまたは第2モードに移行した場合でも、上記した噴射パラメータの適切な補正および補正後の噴射パラメータに基づく燃料の噴射制御により、エンジン1の最大トルクを規定値以下(通常の最大トルクの75%以下または50%以下)に抑えることが可能となる。
【0049】
ところで、本実施形態では、複数のセンサのうち、吸気温度センサ11など、水温センサ31以外のセンサが異常であっても、ECU9は、水温センサ31の異常の有無に基づいて噴射パラメータを補正する(S3、S9)。すなわち、ECU9は、特定のセンサ以外のセンサが異常である場合には、特定のセンサの異常の有無に基づいて、噴射パラメータを補正する。この場合、複数のセンサの中でも特定のセンサの異常の有無を重視して、噴射パラメータの補正および燃料の噴射制御を行うことができる。
【0050】
本実施形態では、ECU9は、特定のセンサが正常である場合に、特定のセンサの出力値に基づいて、噴射パラメータを補正する(S3)。特定のセンサが正常である場合には、特定のセンサの出力値に基づく通常の噴射パラメータの補正を行って燃料噴射を制御することにより、エンジン1を通常のトルクカーブで(トルクを制限することなく)動作させることができる。
【0051】
本実施形態では、ECU9は、特定のセンサの出力値を常時監視し、特定のセンサが異常から正常に戻った場合には、噴射パラメータの補正を、所定値に基づく補正から特定のセンサの出力値に基づく補正に戻す(S9、S5、S1、S3)。
【0052】
ECU9は、特定のセンサの出力値を常時監視することにより、上記出力値に基づいて、特定のセンサが異常状態から正常状態に戻ったか否かを常時監視することができる。そして、ECU9は、特定のセンサが異常から正常に戻った場合には、噴射パラメータの補正を、所定値に基づく補正から特定のセンサの出力値に基づく補正に戻すことにより、上記出力値に基づく通常の燃料噴射制御を復帰させることができる。
【0053】
また、ECU9は、エンジン1の始動開始から所定時間が経過した後、特定のセンサの出力値が閾値未満である場合に、特定のセンサが異常であると判断する(S1)。これにより、特定のセンサが異常であるか否かの判断を精度よく行うことができる。
【0054】
また、上述した特定のセンサは、エンジンの冷却水の温度を検知する水温センサ31である。上述したように、水温センサ31は他のセンサに比べて燃料の噴射制御に与える影響が大きいため、特定のセンサが水温センサ31である場合には、特定のセンサの出力値または所定値に基づく噴射パラメータの補正を行ってエンジン1の誤作動を低減する本実施形態の制御が非常に有効となる。
【0055】
また、上記した所定値は、特定のセンサ(水温センサ31)が正常であるときの出力値の代表値である。これにより、特定のセンサに異常がある場合でも、上記所定値に基づいて噴射パラメータを正しく補正することができ、補正後の噴射パラメータに基づいて、燃料の噴射を正しく制御することができる。その結果、特定のセンサが異常である場合でも、エンジン1の誤作動などの不具合が生じる虞を確実に低減することができる。
【0056】
また、上記の噴射パラメータは、燃料の噴射量、噴射時期、噴射圧の少なくともいずれかを含む。ECU9は、これらの少なくともいずれかを補正することにより、補正後の噴射パラメータに基づいて、インジェクタ7から適切な噴射量、噴射時期または噴射圧力で燃料を噴射させて、エンジン1の誤作動などの不具合が生じる虞を回避することができる。
【0057】
なお、本実施形態のエンジン1は、過給機を備えていないが、過給機を備えた構成であっても、本実施形態で説明した燃料の噴射制御を適用することができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で拡張または変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のエンジンは、例えば作業車両、農業機械などに利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 エンジン
6a 燃焼室
7 インジェクタ(燃料噴射装置)
9 ECU(噴射制御部)
11 吸気温度センサ
31 水温センサ(特定のセンサ)
32 エンジン回転数センサ