(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/08 20120101AFI20250327BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20250327BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20250327BHJP
【FI】
B60W30/08
B60W60/00
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2021019410
(22)【出願日】2021-02-10
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 結
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-052546(JP,A)
【文献】特開2009-262629(JP,A)
【文献】特表2018-526267(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0308617(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/08
B60W 60/00
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の周囲の物体を含む周囲環境のリスクに基づいて前記自車両の運転条件を設定する運転支援装置において、
前記自車両の前方を走行する前方車両との衝突リスクである前方リスクを演算する前方リスク算出部と、
前記自車両の後方を走行する後方車両との衝突リスクである後方リスクを演算する後方リスク算出部と、
前記前方リスク及び前記後方リスクに基づいて前記自車両の運転条件を設定する運転条件設定部と、
を備え
、
前記運転条件設定部は、
前記自車両が減速中である場合、少なくとも前記前方リスクに基づいて前記自車両による前記前方車両への追突を回避するための前方リスク回避目標減速度を設定するとともに、少なくとも前記後方リスクに基づいて前記後方車両からの追突の可能性を低減するための後方リスク回避目標減速度を設定し、前記前方リスク回避目標減速度が前記後方リスク回避目標減速度よりも小さい場合には前記前方リスク回避目標減速度を前記自車両の目標減速度に設定し、前記後方リスク回避目標減速度が前記前方リスク回避目標減速度よりも小さい場合には前記自車両の目標減速度を前記前方リスク回避目標減速度よりも小さい値に設定し、
前記自車両が加速中又は定速走行中である場合、前記前方リスクを増大させず、かつ、前記後方リスクが減少するように前記自車両の目標加速度を設定する、運転支援装置。
【請求項2】
前記運転条件設定部は、
前記自車両が減速中である場合において、前記後方リスク回避目標減速度が前記前方リスク回避目標減速度よりも小さい場合
には前記前方リスク回避目標減速度が前記後方リスク回避目標減速度よりも小さい場合に比べて減速制御指示タイミングを早くする、請求項
1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記運転条件設定部は、
前記自車両が加速中又は定速走行中である場合において、前記自車両の走行車線に隣接する車線への車線変更が可能な場合、前記自車両の走行車線を前記隣接する車線に変更させ
る、請求項
1に記載の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転を支援する運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両が走行すべき走行軌跡や目標とする車速を設定して運転を支援する運転支援装置の実用化が進められている。運転支援装置の一態様として、自車両と障害物との衝突や事故に対するリスクに基づいて車両が走行すべき走行軌跡や目標とする車速を設定する運転支援装置が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、自車両が道路形状に応じて走行する場合の走行位置の推奨度合いを示す基本ポテンシャルを演算し、障害物情報により示される顕在リスクに基づく顕在ポテンシャルを演算し、自車両の走行シーンを予測するとともに潜在リスクを予測し、予測された潜在リスクに基づく潜在ポテンシャルを演算し、基本ポテンシャル、顕在ポテンシャル及び潜在ポテンシャルを加算することによりポテンシャル場を演算して、ポテンシャル場に基づいて自車両が走行すべき走行軌跡を設定する運転支援装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の運転支援装置では、自車両の前方のリスクのみが考慮され、自車両の後方のリスクが考慮されていないため、自車両が後方車両から追突されるリスクや、危険運転に晒されるリスクに対応することができない。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、自車両の前方のリスクだけでなく後方のリスクも考慮して自車両の運転を支援可能な運転支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、自車両の周囲の物体を含む周囲環境のリスクに基づいて自車両の運転条件を設定する運転支援装置であって、自車両の前方を走行する前方車両との衝突リスクである前方リスクを演算する前方リスク算出部と、自車両の後方を走行する後方車両との衝突リスクである後方リスクを演算する後方リスク算出部と、前方リスク及び後方リスクに基づいて自車両の運転条件を設定する運転条件設定部と、を備える運転支援装置が提供される。
【0008】
また、上記の運転支援装置において、自車両が減速中である場合、運転条件設定部は、少なくとも前方リスクに基づいて前方リスク回避目標減速度を設定するとともに、少なくとも後方リスクに基づいて後方リスク回避目標減速度を設定し、前方リスク回避目標減速度が後方リスク回避目標減速度よりも小さい場合と、後方リスク回避目標減速度が前方リスク回避目標減速度よりも小さい場合と、で自車両の運転条件を異ならせてもよい。
【0009】
また、上記の運転支援装置において、運転条件設定部は、後方リスク回避目標減速度が前方リスク回避目標減速度よりも小さい場合、前方リスク回避目標減速度が後方リスク回避目標減速度よりも小さい場合に比べて減速制御指示タイミングを早くしてもよい。
【0010】
また、上記の運転支援装置において、自車両が加速中又は定速走行中である場合、運転条件設定部は、前方リスクを増大させず、かつ、後方リスクが減少するように自車両の目標加速度を設定してもよい。
【0011】
また、上記の運転支援装置において、運転条件設定部は、自車両の走行車線に隣接する車線への車線変更が可能な場合、自車両の走行車線を隣接する車線に変更させることを優先させてもよい。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、自車両の前方のリスクだけでなく後方のリスクも考慮して自車両の運転を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る運転支援装置を備えた車両の構成例を示す模式図である。
【
図2】対象物(車両)のリスクポテンシャルを示す説明図である。
【
図3】走行中の車両に設定されるリスクポテンシャルの例を示す説明図である。
【
図4】同実施形態に係る運転支援装置の構成例を示すブロック図である。
【
図5】後方車両の危険度に応じたリスクポテンシャルの例を示す説明図である。
【
図6】自車両の減速状態での運転条件の設定方法を説明するために示す図である。
【
図7】後方リスクに応じて設定される目標減速度を示す説明図である。
【
図8】後方リスクに応じて設定される減速制御指示タイミングを示す説明図である。
【
図9】自車両の加速状態又は定速走行状態での運転条件の設定方法を示す説明図である。
【
図10】同実施形態に係る運転支援装置による支援処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】同実施形態に係る運転支援装置による支援処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
<1.車両の全体構成>
まず、本発明の一実施形態に係る運転支援装置を備えた車両の全体構成の一例を説明する。
図1は、運転支援装置50を備えた車両1の構成例を示す模式図である。
【0016】
図1に示した車両1は、車両の駆動トルクを生成する駆動力源9から出力される駆動トルクを左前輪3LF、右前輪3RF、左後輪3LR及び右後輪3RR(以下、特に区別を要しない場合には「車輪3」と総称する)に伝達する四輪駆動車として構成されている。駆動力源9は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であってもよく、駆動用モータであってもよく、内燃機関及び駆動用モータをともに備えていてもよい。
【0017】
なお、車両1は、例えば前輪駆動用モータ及び後輪駆動用モータの二つの駆動用モータを備えた電気自動車であってもよく、それぞれの車輪3に対応する駆動用モータを備えた電気自動車であってもよい。また、車両1が電気自動車やハイブリッド電気自動車の場合、車両1には、駆動用モータへ供給される電力を蓄積する二次電池や、バッテリに充電される電力を発電するモータや燃料電池等の発電機が搭載され得る。
【0018】
車両1は、車両1の運転制御に用いられる機器として、駆動力源9、電動ステアリング装置15及びブレーキ装置17LF,17RF,17LR,17RR(以下、特に区別を要しない場合には「ブレーキ装置17」と総称する)を備えている。駆動力源9は、図示しない変速機や前輪差動機構7F及び後輪差動機構7Rを介して前輪駆動軸5F及び後輪駆動軸5Rに伝達される駆動トルクを出力する。駆動力源9や変速機の駆動は、一つ又は複数の電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)を含んで構成された車両制御装置41により制御される。
【0019】
前輪駆動軸5Fには電動ステアリング装置15が設けられている。電動ステアリング装置15は図示しない電動モータやギヤ機構を含み、車両制御装置41により制御されることによって左前輪3LF及び右前輪3RFの操舵角を調節する。車両制御装置41は、手動運転中には、ドライバによるステアリングホイール13の操舵角に基づいて電動ステアリング装置15を制御する。また、車両制御装置41は、自動運転中には、設定される走行軌道に基づいて電動ステアリング装置15を制御する。
【0020】
ブレーキ装置17LF,17RF,17LR,17RRは、それぞれ前後左右の駆動輪3LF,3RF,3LR,3RRに制動力を付与する。ブレーキ装置17は、例えば油圧式のブレーキ装置として構成され、それぞれのブレーキ装置17に供給する油圧が車両制御装置41により制御されることで所定の制動力を発生させる。車両1が電気自動車あるいはハイブリッド電気自動車の場合、ブレーキ装置17は、駆動用モータによる回生ブレーキと併用される。
【0021】
車両制御装置41は、車両1の駆動トルクを出力する駆動力源9、ステアリングホイール又は操舵輪の操舵角を制御する電動ステアリング装置15、車両1の制動力を制御するブレーキ装置17の駆動を制御する一つ又は複数の電子制御装置を含む。車両制御装置41は、駆動力源9から出力された出力を変速して車輪3へ伝達する変速機の駆動を制御する機能を備えていてもよい。車両制御装置41は、運転支援装置50から送信される情報を取得可能に構成され、車両1の自動運転制御を実行可能に構成されている。
【0022】
また、車両1は、前方撮影カメラ31LF,31RF、後方撮影カメラ31R、車両状態センサ35及びGPS(Global Positioning System)センサ37を備えている。
【0023】
前方撮影カメラ31LF,31RF及び後方撮影カメラ31Rは、車両1の周囲環境の情報を取得するための周囲環境センサを構成する。前方撮影カメラ31LF,31RF及び後方撮影カメラ31Rは、車両1の前方あるいは後方を撮影し、画像データを生成する。前方撮影カメラ31LF,31RF及び後方撮影カメラ31Rは、CCD(Charged-Coupled Devices)又はCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)等の撮像素子を備え、生成した画像データを運転支援装置50へ送信する。
図1に示した車両1では、前方撮影カメラ31LF,31RFは、左右一対のカメラを含むステレオカメラとして構成され、後方撮影カメラ31Rha、いわゆる単眼カメラとして構成されているが、それぞれステレオカメラあるいは単眼カメラのいずれであってもよい。
【0024】
車両1は、前方撮影カメラ31LF,31RF及び後方撮影カメラ31R以外に、例えばサイドミラー11L,11Rに設けられて左後方又は右後方を撮影するカメラを備えていてもよい。この他、車両1は、周囲環境の情報を取得するための周囲環境センサとして、LiDAR(Light Detection And Ranging)、ミリ波レーダ等のレーダセンサ、超音波センサのうちのいずれか一つ又は複数のセンサを備えていてもよい。
【0025】
車両状態センサ35は、車両1の操作状態及び挙動を検出する少なくとも一つのセンサからなる。車両状態センサ35は、例えば舵角センサ、アクセルポジションセンサ、ブレーキストロークセンサ、ブレーキ圧センサ又はエンジン回転数センサのうちの少なくとも一つを含み、ステアリングホイールあるいは操舵輪の操舵角、アクセル開度、ブレーキ操作量又はエンジン回転数等の車両1の操作状態を検出する。また、車両状態センサ35は、例えば車速センサ、加速度センサ、角速度センサのうちの少なくとも一つを含み、車速、前後加速度、横加速度、ヨーレート等の車両の挙動を検出する。車両状態センサ35は、検出した情報を含むセンサ信号を運転支援装置50へ送信する。
【0026】
GPSセンサ37は、GPS衛星からの衛星信号を受信する。GPSセンサ37は、受信した衛星信号に含まれる車両1の地図データ上の位置情報を運転支援装置50へ送信する。なお、GPSセンサ37の代わりに、車両1の位置を特定する他の衛星システムからの衛星信号を受信するアンテナが備えられていてもよい。
【0027】
<2.運転支援装置>
続いて、本実施形態に係る運転支援装置50を具体的に説明する。
本実施形態に係る運転支援装置50は、車両1の周囲の障害物等に対する衝突のリスクを現す指標であるリスクポテンシャルのデータを用いて、車両1の走行軌道及び加減速度を設定し、車両制御装置41へ車両1の運転条件の情報を送信する。なお、以下、運転支援装置50を搭載した支援対象の車両1を自車両1と言う場合がある。
【0028】
(2-1.リスクポテンシャルに基づく運転条件の設定)
まず、リスクポテンシャルのデータを用いた自車両1の運転条件の設定手法について簡単に説明する。
図2は、対象物に対するリスクポテンシャルを示す説明図である。
図2では、対象物として車両の例が示されている。リスクポテンシャルの値(リスク値)R
iは、対象物(車両)に近づくほど高くなる。リスク値R
iは、対象物からの距離x
iに対する指数関数で表すことができ、例えば下記式(1)により示される。
【0029】
【0030】
Ri:リスク値
Ci:リスク絶対値(ゲイン)
xi:対象物からの距離
τi:勾配係数
ri:対象物半径
i:対象物を区別するための付番
【0031】
対象物との距離x
iがゼロの時のリスク値であるリスク絶対値C
iは、対象物に依存する値として対象物ごとに設定される。例えば対象物が「車両」又は「背の低い縁石」である場合、車両との衝突のリスク値R
iが背の低い縁石との衝突のリスク値R
iよりも高いものとして、「車両」に対するリスク絶対値C
iは「背の低い縁石」に対するリスク絶対値C
iよりも大きい値に設定される。勾配係数τ
iは、対象物にかかわらず設定される値である。周囲の車両が走行中の場合、当該車両の進行方向のリスクが高くなることから、
図3に示すように、車両の前方のリスクは後方のリスクに比べて奥行きが広く設定される。前方のリスクの奥行きは、当該車両の車速あるいは自車両に対する相対車速に応じて可変となっていてもよい。
【0032】
リスクポテンシャルを用いて自車両1の走行軌道及び加減速度を設定する場合、自車両1の走行中に検出されるそれぞれの歩行者や周囲の車両、障害物に対してリスクを付与し、それぞれのリスクポテンシャルの空間的な重なりを加算することで、複数の障害物との衝突リスクを考慮したリスクマップ(ポテンシャル場)が求められる。かかるリスクマップでは、リスクの高低が、二次元平面上に等高線として示される。上述のとおり、リスク値は二次元的な分布を持つため、リスクが低くなる軌道を選択することが可能となる。顕在化している障害物と併せて、顕在化していないリスク(潜在リスク)を考慮してリスクマップを演算してもよい。例えば曲がった先が遮蔽物により死角となっている領域を通過する場合に、当該死角領域から通行人や車両が飛び出すことを想定して潜在リスクを付与し、リスクマップに反映させてもよい。
【0033】
また、本実施形態では、運転支援装置50は、自車両1の前方を走行する前方車両だけでなく、自車両1の後方を走行する後方車両にもリスクを付与し、自車両1の進行方向のリスクだけでなく、自車両1の後方のリスクを考慮して、自車両1の運転条件を設定する。
【0034】
(2-2.運転支援装置の構成例)
図4は、本実施形態に係る運転支援装置50の構成例を示すブロック図である。
運転支援装置50には、直接的に又はCAN(Controller Area Network)やLIN(Local Inter Net)等の通信手段を介して、周囲環境センサ31、車両状態センサ35及びGPSセンサ37が接続されている。
図4において、周囲環境センサ31は、前方撮影カメラ31LF,31RF及び後方撮影カメラ31Rを含むが、その他LiDARやレーダセンサ、超音波センサ等を含んでいてもよい。また、運転支援装置50には、車両制御装置41が接続されている。なお、運転支援装置50は、車両1に搭載された電子制御装置に限られるものではなく、スマートホンやウェアラブル機器等の端末装置であってもよい。
【0035】
運転支援装置50は、制御部51及び記憶部53を備えている。記憶部53は、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等の記憶素子により構成される。ただし、記憶部53の種類は特に限定されない。記憶部53は、制御部51により実行されるコンピュータプログラムや、演算処理に用いられる種々のパラメータ、検出データ、演算結果等の情報を記憶する。
【0036】
制御部51は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置や種々の周辺部品を備えて構成される。制御部51の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。制御部51は、交通環境認識部61、前方リスク算出部63、後方リスク算出部65及び運転条件設定部67を備えている。本実施形態において、交通環境認識部61、前方リスク算出部63、後方リスク算出部65及び運転条件設定部67は、演算処理装置によるプログラムの実行により実現される機能構成である。
【0037】
(2-2-1.交通環境認識部)
交通環境認識部61は、周囲環境センサ31から送信される画像データ及び検出データに基づいて車両1が置かれている交通環境を認識する。具体的に、交通環境認識部61は、物体検知の技術を用いて車両1の前方を走行する前方車両や車両1の後方を走行する後方車両、歩行者、自転車、走行レーン(白線)、その他障害物等を検出する。また、交通環境認識部61は、車両1から見た前方車両や後方車両等の位置、車両1から前方車両や後方車両等までの距離、及び車両1に対する前方車両や後方車両等の相対速度を算出する。交通環境認識部61は、車車間通信等、車外との通信によって取得される情報に基づいて交通環境を認識してもよい。
【0038】
(2-2-2.前方リスク算出部)
前方リスク算出部63は、前方車両との衝突リスクである前方リスクRFを演算する。本実施形態では、自車両1の前方に前方監視領域MRfが設定されており、当該前方監視領域MRf内に存在する前方車両のリスクポテンシャルRfの最大値を前方リスクRFとする。具体的に、前方監視領域MRfは、前方リスクRFを計算する領域として設定される。自車両1の車速によって自車両1が単位時間あたりに進む距離が異なることから、前方監視領域MRfは、自車両1の車速が速いほどより遠くの位置を含むように設定されるようになっていてもよい。
【0039】
前方リスク算出部63は、交通環境認識部61によって自車両1の前方に前方車両が検出された場合、上記の式(1)に基づいて前方車両のリスクポテンシャルRfを設定する。このとき、前方車両が走行中の車両である場合、前方車両の進行方向前方のリスクの範囲が拡大されるように奥行きが広く設定される。前方車両前方のリスクの奥行きは、前方車両の車速に応じて可変とされていてもよい。前方リスク算出部63は、設定した前方車両のリスクポテンシャルRfと前方監視領域MRfとの重複範囲におけるリスクポテンシャルRfの最大値を前方リスクRFとする。
【0040】
(2-2-3.後方リスク算出部)
後方リスク算出部65は、後方車両との衝突リスクである後方リスクを演算する。本実施形態では、自車両1の後方に後方監視領域MRbが設定されており、当該後方監視領域MRb内に存在する後方車両のリスクポテンシャルRbの最大値を後方リスクRBとする。具体的に、後方監視領域MRbは、後方リスクRBを計算する領域として設定される。
【0041】
後方リスク算出部65は、交通環境認識部61によって自車両1の後方に後方車両が検出された場合、上記の式(1)に基づいて後方車両のリスクポテンシャルRbを設定する。このとき、後方車両が走行中の車両である場合、後方車両の進行方向前方のリスクの範囲が拡大されるように奥行きが広く設定される。後方車両前方のリスクの奥行きは、後方車両の車速に応じて可変とされていてもよい。後方リスク算出部65は、設定した後方車両のリスクポテンシャルRbと後方監視領域MRbとの重複範囲におけるリスクポテンシャルRbの最大値を後方リスクRBとする。
【0042】
また、本実施形態において、後方リスク算出部65は、後方リスクRBに当該後方車両の危険度を反映させてもよい。後方車両が危険な状態とは、例えば後方車両のドライバの運転技量が低い場合や、後方車両のドライバが居眠り運転をしている場合、後方車両が過度の速度超過をしている場合、後方車両がいわゆるあおり運転をしているような場合である。
【0043】
後方リスク算出部65は、後方車両のドライバの運転技量の情報を、例えば車車間通信によって後方車両から取得したり、後方車両のドライバを識別するデータに基づいてクラウドサーバ等から取得したりすることができる。また、後方リスク算出部65は、例えば後方撮影カメラ31Rから取得される画像データに基づいて、あるいは、車車間通信によって、後方車両のドライバの居眠り運転を検出することができる。また、後方リスク算出部65は、交通環境認識部61による演算結果に基づいて、後方車両の過度の速度超過やあおり運転を検出することができる。ただし、後方車両が危険な状態の態様や、検出方法は、上記の例に限られない。
【0044】
図5は、後方車両のリスクポテンシャルRbを二次元平面上に等高線として示した説明図である。
図5の上に示したリスクポテンシャルRb_lは、危険度が相対的に低い場合のリスクポテンシャルRb_lであり、
図5の下に示したリスクポテンシャルRb_hは、危険度が相対的に高い場合のリスクポテンシャルRb_hである。後方車両1bが走行中の場合、危険度が高い場合のリスクポテンシャルRb_hの前方の奥行きD2は、危険度が低い場合のリスクポテンシャルRb_lの前方の奥行きD1に比べて広く設定される。このように後方車両1bの危険度をリスクポテンシャルRbに反映させることにより、後方車両1bの危険度が高いほど、自車両1の後方監視領域MRb内での後方リスクRBが高くなる。このため、後方車両1bからの追突等のリスクをより効果的に低減した運転条件を設定することができる。
【0045】
(2-2-4.運転条件設定部)
運転条件設定部67は、自車両1の運転時において、前方リスクRF及び後方リスクRBに基づいて自車両1の運転条件を設定する。運転条件設定部67は、自車両1の前方及び後方にそれぞれ設定された前方監視領域MRf及び後方監視領域MRb内に前方リスクRF又は後方リスクRBが存在する場合に、当該リスクを回避あるいは低減するための運転条件を設定する。運転条件設定部67は、設定した運転条件の情報を車両制御装置41を送信する。これにより、車両制御装置41が自車両1の操舵角あるいは加減速度を制御することによって、リスクが回避あるいは低減される。
【0046】
本実施形態では、運転条件設定部67は、自車両1が減速している状態と加速している状態とに分けてそれぞれ運転を支援するための運転条件を設定する。具体的に、運転条件設定部67は、前方リスクRFに基づいて自車両1による前方車両1fへの追突を回避するための目標減速度(以下「前方リスク回避目標減速度」という)を設定するとともに、後方リスクRBに基づいて後方車両1bからの追突の可能性を低減するための目標減速度(以下「後方リスク回避目標減速度」という)を設定する。運転条件設定部67は、自車両1が減速している場合、前方リスク回避目標減速度及び後方リスク回避目標減速度を比較して、より安全に自車両1を減速させる運転条件を設定する。また、運転条件設定部67は、自車両1が加速している場合、前方リスク回避目標減速度及び後方リスク回避目標減速度に基づいて、より安全に自車両1を加速あるいは車線変更させる運転条件を設定する。
【0047】
前方リスク回避目標減速度は、前方リスクRFが低減するように自車両1を減速させるための目標値である。前方リスク回避目標減速度は、例えば現在の前方リスクRFが大きいほど大きい値に設定される。つまり、前方リスク回避目標減速度は、前方リスクRFが大きいほど、速やかに減速されるように設定される。また、前方リスク回避目標減速度が設定されると、前方リスク回避目標減速度での減速を指示する減速制御指示タイミングTsが設定される。制御指示タイミングTsは、自車両1と前方車両1fとの相対速度に基づいて予測される衝突予測時刻をゼロとして、車両制御装置41へ減速制御の開始を指示するタイミングTsを現す。制御指示タイミングTsは、自車両1の車速及び前方車両1fに対する自車両1の相対速度が速いほど早くなるように設定される。
【0048】
後方リスク回避目標減速度は、後方車両1bからの追突を受ける可能性を低減しつつ自車両1を減速させるための目標値である。後方リスク回避目標減速度は、例えば後方リスクRBが大きいほど小さい値に設定される。この場合、後方リスク回避目標減速度は、後方リスクが大きいほど小さい値に設定される。
【0049】
図6は、自車両1が減速している状態での運転条件の設定方法を説明するための模式図である。
図6中には、前方車両1fのリスクポテンシャルRf、後方車両1bのリスクポテンシャルRb及び路肩あるいは側壁に対するリスクポテンシャルRsが示されている。ここでは、自車両1の走行レーンL1の前方を走行する前方車両1fと後方を走行する後方車両1bとが存在する場合を考える。このような状況において、自車両1による前方車両1fへの追突を回避するために減速する場合、減速度あるいは減速制御指示タイミングTsによっては、自車両1が後方車両1bから追突を受けるおそれがある。
【0050】
このため、運転条件設定部67は、自車両1が減速している状態で前方リスク回避目標減速度が後方リスク回避目標減速度よりも大きい場合、後方車両1bからの追突のリスクを低減することを優先して後方リスク回避目標減速度を目標減速度に設定する。ただし、設定される目標減速度が前方リスク回避目標減速度よりも小さくなることから、前方車両1fへの追突のリスクを低減させるために、設定した目標減速度による減速制御指示タイミングTsを早くする。これにより、前方車両1fとの車間距離が小さくなりすぎることを避けつつ、後方車両1bからの追突の可能性を低減することができる。
【0051】
あるいは、設定した目標減速度による減速制御指示タイミングTsが早くなることによりドライバが覚える違和感を低減するために、前方リスク回避目標減速度及び後方減速度に重み付けをして、目標減速度を設定してもよい。例えばドライバが自車両1の進行方向前方を見ている時間割合である前方注視比率(0≦α<1)に基づいて、下記式(2)で示すように目標減速度を設定してもよい。
目標減速度=前方リスク回避目標減速度×α+後方リスク回避目標減速度×(1-α)
…(2)
【0052】
前方注視比率αが高い場合、ドライバの前方に対するリスク感受性が高いと考えられるため、上記式(2)を用いて目標減速度を設定することにより、当該リスク感受性を反映した目標減速度を設定することができる。
【0053】
前方注視比率は、例えば車内撮影カメラにより取得される画像データに基づいてドライバの視線検出を行い、所定時間にドライバが前方を見ている時間の比率を計算することによって求めることができる。前方注視比率(0≦α<1)は、ドライバが視線を進行方向前方から外した頻度に基づいて設定されてもよい。
【0054】
一方、運転条件設定部67は、自車両1が減速している状態で前方リスク回避目標減速度が後方リスク回避目標減速度よりも小さい場合、前方リスク回避目標減速度を目標減速度に設定する。この場合、設定される目標減速度は後方リスク回避目標減速度よりも小さくなり、後方車両1bからの追突の可能性は極めて小さくなることから、安全に前方車両1fとの追突のリスクを低減することができる。
【0055】
また、運転条件設定部67は、前方リスクRF及び後方リスクRBに基づいて自車両1を減速させる制御を実行する場合、後方リスクRBに応じて目標減速度又は減速制御指示タイミングTsを補正してもよい。例えば後方リスクRBが大きい場合、急減速により後方車両1bからの追突の可能性が大きくなる。また、後方リスクRBが大きい場合、減速制御指示タイミングTsが遅いことにより後方車両1bからの追突の可能性が大きくなる。したがって、運転条件設定部67は、後方リスクRBが大きいほど、目標減速度が小さくなるように、あるいは、減速制御指示タイミングTsが早くなるように補正してもよい。
【0056】
図7及び
図8は、それぞれ後方リスクRBに応じて設定される目標減速度あるいは制御指示タイミングTsを示す説明図である。
図8の縦軸は、自車両1と前方車両1fとの相対速度に基づいて予測される衝突予測時刻をゼロとする制御指示タイミングTsを示している。
図7に示すように、後方リスクRBが大きいほど設定される目標減速度は小さくされる。
図7に示した例では、後方リスクRBが大きくなるにつれて目標減速度が段階的に小さくされているが、直線的に小さくされてもよい。また、
図8に示すように、後方リスクRBが大きいほど減速制御指示タイミングTsは早くされる。減速制御指示タイミングTsも同様に、後方リスクRBが大きくなるにつれて直線的に早くされてもよい。
【0057】
このように、運転条件設定部67は、後方リスクRBが大きいほど、目標減速度が小さくなるように、あるいは、減速制御指示タイミングTsが早くなるように補正することにより、そのときの交通環境に応じて後方車両1bからの追突のリスクを低減することができる。
【0058】
図9は、自車両1が加速している状態あるいは定速走行している状態での運転条件の設定方法を説明するための模式図である。
図9中には、後方車両1bのリスクポテンシャルRb及び路肩あるいは側壁に対するリスクポテンシャルRsが示されている。ここでは、自車両1の走行レーンL2の前方を走行する前方車両は存在せず、後方を走行する後方車両1bが存在する場合を考える。このような状況において、後方車両1bが自車両1に迫っている場合、自車両1が後方車両1bから追突を受けたり、あるいは、後方車両1bによるあおり運転を誘発したりするおそれがある。
【0059】
このため、運転条件設定部67は、自車両1が加速している状態又は定速走行している状態で、前方リスク回避目標減速度がゼロ以下の場合、つまり、自車両1の減速が必要でない場合、かつ、後方リスク回避目標減速度がゼロを超えている場合に、自車両1を加速あるいは車線変更させることにより後方車両1bとの車間距離を確保して後方リスクRBを低減する。この場合の目標減速度(目標加速度)は、後方リスクRBの値及び自車両1に対する後方車両1bの相対車速に基づいて、あらかじめ設定された加速度の上限値以下となるように設定される。
【0060】
ただし、例えば後方車両1bが自車両1との車間距離を詰めてきている場合に自車両1を加速させた場合であっても、後方リスクRBが低減できないことがあり得る。特に、後方車両1bがいわゆるあおり運転をしているような場合には、自車両1が車線変更しない限り後方車両1bに短い車間距離で追従されるおそれがある。この場合、例えば隣の走行レーンL1への車線変更が可能な場合には、車線変更させることを優先させてもよい。隣の走行レーンL1への車線変更が可能であるか否かは、例えばリスクポテンシャルがあらかじめ設定した所定値以下となる自車両1を移動可能な領域が隣の走行レーンL1に存在するか否かによって判定してもよい。
【0061】
<3.運転支援装置の動作例>
続いて、本実施形態に係る運転支援装置50の動作例をフローチャートに沿って説明する。
図10~
図11は、運転支援装置50による運転支援処理の一例を示すフローチャートである。
【0062】
まず、運転支援装置50の運転条件設定部67は、自車両1が減速中であるか否かを判別する(ステップS11)。例えば運転条件設定部67は、車速センサにより検出される車速の変化に基づいて自車両1が減速中であるか否かを判別する。運転条件設定部67は、車両制御装置41等の他の制御装置から取得されるメッセージに基づいて自車両1が減速中であるか否かを判別してもよい。自車両1が減速中でない場合(S11/No)、つまり、自車両1が加速中又は定速走行中である場合、
図11のフローチャートのステップS41へ進む。
【0063】
一方、自車両1が減速中である場合(S11/Yes)、運転支援装置50の交通環境認識部61は、周囲環境センサ31から送信される画像データ及び検出データに基づいて、自車両1が置かれている交通環境を認識する(ステップS13)。具体的に、交通環境認識部61は、前方車両1fや後方車両1b、歩行者、自転車、走行レーン(白線)、その他障害物等を検出するとともに、自車両1から見た前方車両1fや後方車両1b等の位置、自車両1から前方車両1fや後方車両1b等までの距離、及び自車両1に対する前方車両1fや後方車両1b等の相対速度を算出する。交通環境認識部61は、車車間通信等、車外との通信によって取得される情報に基づいて交通環境を認識してもよい。
【0064】
次いで、運転支援装置50の前方リスク算出部63は、前方リスクRFを算出する(ステップS15)。具体的に、前方リスク算出部63は、交通環境認識部61によって前方車両1fが検出された場合、上記の式(1)に基づいて前方車両1fのリスクポテンシャルRfを設定する。このとき、前方車両1fが走行中の車両である場合、前方車両1fの進行方向前方のリスクの範囲が拡大されるように奥行きが広く設定される。そして、前方リスク算出部63は、自車両1の前方に設定された前方監視領域MRfと、設定した前方車両1fのリスクポテンシャルRfとの重複範囲におけるリスクポテンシャルRfの最大値を前方リスクRFとする。
【0065】
次いで、運転条件設定部67は、前方リスク算出部63により設定された前方リスクRFに基づいて、自車両1による前方車両1fへの追突を回避するための前方リスク回避目標減速度Gfを設定する(ステップS17)。例えば運転条件設定部67は、現在の前方リスクRFが大きいほど大きい値になるように前方リスク回避目標減速度Gfを設定する。
【0066】
次いで、運転支援装置50の後方リスク算出部65は、後方リスクRBを算出する(ステップS19)。具体的に、後方リスク算出部65は、交通環境認識部61によって後方車両1bが検出された場合、上記の式(1)に基づいて後方車両1bのリスクポテンシャルRfを設定する。このとき、後方車両1bが走行中の車両である場合、後方車両1bの進行方向前方のリスクの範囲が拡大されるように奥行きが広く設定される。そして、後方リスク算出部65は、自車両1の後方に設定された後方監視領域MRbと、設定した後方車両のリスクポテンシャルRbとの重複範囲におけるリスクポテンシャルRbの最大値を後方リスクRBとする。
【0067】
また、本実施形態では、後方リスク算出部65は、後方リスクRBに後方車両1bの危険度を反映させる(
図5を参照)。具体的に、後方リスク算出部65は、後方車両のドライバの運転技量の情報を取得し、運転技量が低い場合には後方車両1bの進行方向前方のリスクポテンシャルRbの奥行きD2が広くなるようにリスクポテンシャルRbを補正してもよい。あるいは、後方リスク算出部65は、後方車両のドライバの居眠り運転、速度超過、あおり運転等を検出した場合に、後方車両1bの進行方向前方のリスクポテンシャルRbの奥行きD2が広くなるようにリスクポテンシャルRbを補正してもよい。
【0068】
次いで、運転条件設定部67は、後方リスク算出部65により設定された後方リスクRBに基づいて、後方車両1bからの追突の可能性を低減するための後方リスク回避目標減速度Gbを設定する(ステップS21)。例えば運転条件設定部67は、後方リスクRBに応じて後方リスク回避目標減速度Gbを設定する。この場合、後方リスク回避目標減速度は、後方リスクRBが大きいほど小さい値に設定される。
【0069】
次いで、運転条件設定部67は、前方リスク回避目標減速度Gfと後方リスク回避目標減速度Gbとを比較し、前方リスク回避目標減速度Gfが後方リスク回避目標減速度Gb未満であるか否かを判別する(ステップS23)。前方リスク回避目標減速度Gfが後方リスク回避目標減速度Gb未満である場合(S23/Yes)、運転条件設定部67は、前方リスク回避目標減速度Gfを目標減速度Gtgtに設定する(ステップS25)。
【0070】
一方、前方リスク回避目標減速度Gfが後方リスク回避目標減速度Gb未満でない場合(S23/No)、つまり、前方リスク回避目標減速度Gfが後方リスク回避目標減速度Gb以上である場合、運転条件設定部67は、前方リスク回避目標減速度Gf及び後方リスク回避目標減速度Gbに基づいて目標減速度Gtgtを設定する(ステップS27)。具体的に、運転条件設定部67は、車内撮影カメラにより取得される画像データに基づいてドライバの視線検出を行い、所定時間にドライバが前方を見ている時間の比率を計算することによって前方注視比率αを求める。前方注視比率(0≦α<1)は、ドライバが視線を進行方向前方から外した頻度に基づいて設定されてもよい。そして、運転条件設定部67は、前方注視比率α、前方リスク回避目標減速度Gf及び後方リスク回避目標減速度Gbを用いて、上記式(2)に基づいて目標減速度Gtgtを設定する。
【0071】
運転条件設定部67は、ステップS25又はステップS27で設定される目標減速度Gtgtを後方リスクRBに応じて補正してもよい。例えば運転条件設定部67は、後方リスクRBが大きいほど、目標減速度Gtgtが小さくなるように目標減速度Gtgtを補正する。これにより、後方リスクRBが大きいほど急減速が回避され、後方車両1bからの追突のリスクをより低減することができる。
【0072】
ステップS25又はステップS27で目標減速度Gtgtが設定された後、運転条件設定部67は、設定した目標減速度Gtgtでの減速制御を実行させる指示を車両制御装置41へ送信する制御指示タイミングTsを設定する(ステップS29)。具体的に、運転条件設定部67は、前方車両1fに対する自車両1の相対速度に基づいて、当該相対速度が速いほどタイミングが早くなるように、制御指示タイミングTsを設定する。運転条件設定部67は、さらに後方リスクRBに応じて制御指示タイミングTsを補正してもよい。例えば運転条件設定部67は、後方リスクRBが大きいほど、制御指示タイミングTsが早くなるように制御指示タイミングTsを補正する。これにより、後方リスクRBが大きいほどより早いタイミングで減速が開始され、より緩やかな減速が可能になるために、後方車両1bからの追突のリスクをより低減することができる。
【0073】
目標減速度Gtgt及び減速制御指示タイミングTsが設定されると、運転条件設定部67は、設定された減速制御指示タイミングTsで減速支援を実行する(ステップS31)。具体的に、運転条件設定部67は、減速制御指示タイミングTsで、車両制御装置41に対して目標減速度Gtgtの情報とともに減速指示を送信する。車両制御装置41は、設定された目標減速度Gtgtにしたがって、後方車両1bからの追突のリスクを低減しつつ、自車両1を減速させる。これにより、自車両1による前方車両1fへの追突を回避することができる。
【0074】
一方、上述のステップS11において、自車両1が減速中でないと判定された場合(S11/No)、交通環境認識部61、前方リスク算出部63、後方リスク算出部65及び運転条件設定部67は、ステップS13~ステップS21と同様にして、自車両1が置かれている交通環境の認識処理、前方リスクRF並びに後方リスクRBの算出処理、及び、前方リスク回避目標減速度Gf並びに後方リスク回避目標減速度Gbの算出処理を実行する(ステップS41~ステップS49)。
【0075】
次いで、運転条件設定部67は、前方リスク回避目標減速度Gfと後方リスク回避目標減速度Gbとを比較し、前方リスク回避目標減速度Gfがゼロ以下であり、かつ、後方リスク回避目標減速度Gbがゼロを超えているか否かを判別する(ステップS51)。ステップS51では、自車両1の減速が必要でない一方、後方車両1bが迫ってきている状況であるか否かが判別される。
【0076】
前方リスク回避目標減速度Gfがゼロ以下でないか、あるいは、後方リスク回避目標減速度Gbがゼロ以下である場合(S51/No)、自車両1を減速させる必要が生じているか、あるいは、後方車両1bが迫ってきている状況ではないことから、ここでは運転支援を実行せずに、
図10のスタートへ戻る。一方、前方リスク回避目標減速度Gfがゼロ以下であり、かつ、後方リスク回避目標減速度Gbがゼロを超えている場合(S51/Yes)、運転条件設定部67は、自車両1の車線変更が可能であるか否かを判定する(ステップS53)。例えば運転条件設定部67は、リスクポテンシャルがあらかじめ設定した所定値以下となる自車両1を移動可能な領域が隣の走行レーンに存在するか否かによって、自車両1の車線変更が可能であるか否かを判定してもよい。
【0077】
自車両1の車線変更が可能である場合(ステップS53/Yes)、運転条件設定部67は、車線変更支援を実行する(ステップS55)。具体的に、運転条件設定部67は、隣の走行レーンに存在する自車両1を移動可能な領域へ自車両1を移動させるように走行軌道を設定し、車両制御装置41に対して前方リスク回避目標減速度Gfの情報及び目標走行軌道の情報とともに車線変更指示を送信する。この場合の前方リスク回避目標減速度Gfはゼロ又はマイナスの値であり、つまり、現在の車速を維持させるか加速させるかを指示するものとなる。車両制御装置41は、前方リスク回避目標減速度Gfにしたがって車速を調節するとともに、設定された目標走行軌道にしたがって電動ステアリング装置15の動作を制御して自車両1を車線変更させる。これにより、後方車両1bが自車両1を追い越しやすくすることが優先されて、後方車両1bからの追突のリスクを低減することができる。
【0078】
一方、自車両1の車線変更が可能でない場合(ステップS53/No)、運転条件設定部67は、加速支援を実行する(ステップS57)。具体的に、運転条件設定部67は、車両制御装置41に対して目標減速度Gtgtの情報とともに加速指示を送信する。この場合の目標減速度(目標加速度)Gtgtは、後方リスクRBの値及び自車両1に対する後方車両1bの相対車速に基づいて、あらかじめ設定された加速度の上限値以下となるように設定される。車両制御装置41は、目標減速度(目標加速度)Gtgtにしたがって車速を調節する。これにより、後方車両1bとの車間距離が維持あるいは拡大され、後方車両1bからの追突のリスクを低減することができる。
【0079】
<4.本実施形態に係る運転支援制御装置による効果>
以上説明したように、本実施形態に係る運転支援装置50は、自車両1の前方リスクRFだけでなく併せて後方リスクRBに基づいて自車両1の運転条件を設定する。したがって、前方車両1fとの衝突を回避する制御を実行したときに、後方車両1bから追突を受けるおそれを低減することができる。特に、本実施形態に係る運転支援装置50では、自車両1が減速中であるか、加速中又は定速走行中であるかによって、運転を支援する内容を異ならせる。このため、自車両1が置かれている交通環境に応じて、後方車両1bからの追突のリスクを適切に低減することができる。
【0080】
また、本実施形態に係る運転支援装置50は、自車両1が減速中である場合、前方リスクRFに基づいて設定される前方リスク回避目標減速度Gf及び後方リスクRBに基づいて設定される後方リスク回避目標減速度Gbのいずれが大きいかによって自車両1の運転条件を異ならせる。運転支援装置50は、後方リスク回避目標減速度Gbが前方リスク回避目標減速度Gfよりも小さい場合、前方リスク回避目標減速度Gfが後方リスク回避目標減速度Gbよりも小さい場合に比べて減速制御指示タイミングTsを早くする。これにより、後方車両1bからの追突のリスクを低減するために前方リスク回避目標減速度Gfよりも小さい目標減速度Gtgtで自車両1を減速させる場合であっても、前方車両1fとの車間距離が小さくなることを抑制することができる。
【0081】
また、本実施形態に係る運転支援装置50は、後方リスク回避目標減速度Gbが前方リスク回避目標減速度Gfよりも小さい場合、自車両1の乗員の前方注視比率αに基づいて前方リスク回避目標減速度Gf及び後方リスク回避目標減速度Gbに重み付けを行い、目標減速度Gtgtを設定する。これにより、ドライバの前方に対するリスク感受性を反映した減速支援が可能になり、運転支援によるドライバへの違和感あるいは恐怖心を低減することができる。
【0082】
また、本実施形態に係る運転支援装置50は、自車両1が減速中である場合、前方リスク回避目標減速度Gfが後方リスク回避目標減速度Gbよりも小さい場合、前方リスク回避目標減速度Gfに基づいて自車両1の運転条件を設定する。これにより、後方車両1bからの追突のリスクを増加させることなく、かつ、自車両1を過度に減速させることなく、前方車両1fへの追突を回避することができる。
【0083】
また、本実施形態に係る運転支援装置50は、自車両1が加速中又は定速走行中である場合、自車両1の車線変更が可能である場合には車線変更支援を優先して車両制御装置41へ制御指示を送信する。一方、本実施形態に係る運転支援装置50は、車線変更が不可能である場合に、前方リスクRFがゼロ以下となっていれば、車両制御装置41に対して目標減速度Gtgtの情報とともに加速指示を送信する。これにより、後方車両1bとの車間距離が維持あるいは拡大され、後方車両1bからの追突のリスクを低減することができる。
【0084】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0085】
1…車両(自車両)、1b…後方車両、1f…前方車両、31…周囲環境センサ、31LF,31RF…前方撮影カメラ、31R…後方撮影カメラ、35…車両状態センサ、37…GPSセンサ、41…車両制御装置、50…運転支援装置、51…制御部、53…記憶部、61…交通環境認識部、63…前方リスク算出部、65…後方リスク算出部、67…運転条件設定部