IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧 ▶ ルノー エス.ア.エス.の特許一覧

<>
  • 特許-発熱方法及び発熱システム 図1
  • 特許-発熱方法及び発熱システム 図2
  • 特許-発熱方法及び発熱システム 図3
  • 特許-発熱方法及び発熱システム 図4
  • 特許-発熱方法及び発熱システム 図5
  • 特許-発熱方法及び発熱システム 図6
  • 特許-発熱方法及び発熱システム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】発熱方法及び発熱システム
(51)【国際特許分類】
   F24V 30/00 20180101AFI20250327BHJP
   F17C 11/00 20060101ALI20250327BHJP
【FI】
F24V30/00 302
F17C11/00 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021040574
(22)【出願日】2021-03-12
(65)【公開番号】P2022139969
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀和
(72)【発明者】
【氏名】市川 靖
(72)【発明者】
【氏名】内村 允宣
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅紀
【審査官】広瀬 雅治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-110899(JP,A)
【文献】特開2004-333027(JP,A)
【文献】特開昭63-129264(JP,A)
【文献】特開2009-264448(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0176858(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24V 30/00
F17C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵材料を有し過剰熱を発生する複数の発熱材料系を用いる発熱方法であって、
前記複数の発熱材料系のそれぞれの稼働を制御する制御ステップを備え、
前記制御ステップでは、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量と、前記複数の発熱材料系が発する単位時間当たりの熱エネルギ発生量との差分値を算出し、前記差分値が所定範囲を超え、かつ、前記熱エネルギ要求量が前記熱エネルギ発生量よりも大きい場合には、前記差分値が前記所定範囲内となる様に、前記複数の発熱材料系について稼働状態とする発熱材料系の数を増加させ、一方、前記差分値が前記所定範囲を超え、かつ、前記熱エネルギ要求量が前記熱エネルギ発生量よりも小さい場合には、前記差分値が前記所定範囲内となる様に、前記複数の発熱材料系について稼働状態とする発熱材料系の数を減少させ
前記熱エネルギ発生量は、稼働状態となっている発熱材料系の質量と、当該発熱材料系の気相部から取得した温度及び圧力に基づいて算出される単位質量当たりの熱エネルギ発生量と、熱エネルギを供給する供給先となる外部の部品へ当該熱エネルギを供給する時間とに基づいて算出される発熱材料系毎の熱エネルギ発生量を、稼働状態となっている発熱材料系について合計した値により求められる、
発熱方法。
【請求項2】
請求項1に記載の発熱方法であって、
前記制御ステップでは、前記差分値が前記所定範囲内である場合には、稼働状態とする発熱材料系の数を変更しない、
発熱方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の発熱方法であって、
前記熱エネルギ要求量は、熱エネルギを供給する供給先となる外部の部品の質量と、前記部品の比熱と、前記部品の温度と、前記部品へ前記熱エネルギを供給する時間とに基づいて算出される前記部品毎の熱エネルギ要求量の合計値により求められる、
発熱方法。
【請求項4】
請求項1からの何れかに記載の発熱方法であって、
前記制御ステップでは、前記複数の発熱材料系のうち、稼働状態とする発熱材料系については、当該発熱材料系の気相部の温度を基準温度とし、当該気相部の圧力を基準圧力とする様に制御する、
発熱方法。
【請求項5】
水素吸蔵材料を有し過剰熱を発生する複数の発熱材料系と、前記複数の発熱材料系のそれぞれの稼働を制御する制御部とを備える発熱システムであって、
前記制御部は、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量と、前記複数の発熱材料系が発する単位時間当たりの熱エネルギ発生量との差分値を算出し、前記差分値が所定範囲を超え、かつ、前記熱エネルギ要求量が前記熱エネルギ発生量よりも大きい場合には、前記差分値が前記所定範囲内となる様に、前記複数の発熱材料系について稼働状態とする発熱材料系の数を増加させ、一方、前記差分値が前記所定範囲を超え、かつ、前記熱エネルギ要求量が前記熱エネルギ発生量よりも小さい場合には、前記差分値が前記所定範囲内となる様に、前記複数の発熱材料系について稼働状態とする発熱材料系の数を減少させ
前記熱エネルギ発生量は、稼働状態となっている発熱材料系の質量と、当該発熱材料系の気相部から取得した温度及び圧力に基づいて算出される単位質量当たりの熱エネルギ発生量と、熱エネルギを供給する供給先となる外部の部品へ当該熱エネルギを供給する時間とに基づいて算出される発熱材料系毎の熱エネルギ発生量を、稼働状態となっている発熱材料系について合計した値により求められる、
発熱システム。
【請求項6】
請求項に記載の発熱システムであって、
前記発熱材料系は、水素吸蔵機能を有する発熱材料と、前記発熱材料を加熱するヒータと、前記発熱材料と前記ヒータとを収容する収容部と、を含む熱エネルギ発生部からなる、
発熱システム。
【請求項7】
請求項に記載の発熱システムであって、
前記収容部に設置され、前記発熱材料と水素ガスとを含む前記発熱材料系の前記気相部の温度を検知する温度センサと、
前記収容部に設置され、前記気相部の圧力を検知する圧力センサと、
前記ヒータを制御するヒータ制御部と、
前記発熱材料に対して水素を供給する水素供給源と、
前記水素供給源からの水素の供給量を制御する水素供給量制御部と、をさらに備え、
前記制御部は、前記温度センサからの情報と前記圧力センサからの情報とに基づいて、前記ヒータ制御部と前記水素供給量制御部とを制御することにより前記気相部の温度および圧力を制御し、前記複数の発熱材料系のそれぞれの稼働状態を制御する、
発熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を利用して過剰熱を発生する発熱材料を用いる発熱方法及び発熱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素を利用して過剰熱を発生する発熱材料を用いて熱エネルギを発生させる技術が存在する。例えば、水素吸蔵材料を用いて発熱する発熱体セルに設けられた温度測定部による測定結果を基に、発熱体セルで過剰熱を発する部位を特定し、発熱体セル内に供給する水素系ガスの供給位置をその部位の周辺に決定する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-110899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した従来技術の発熱システムでは、発熱反応が不安定になる可能性を考慮して、複数の発熱体モジュールを設けている。そして、セル温度に基づいて正常に稼働していると特定された発熱体モジュールを使用することで熱エネルギを安定的に発生させる様にしている。しかし、外部からの熱エネルギ要求量の変化に応じた熱エネルギを迅速に発生させることが困難であることが想定され、外部からの熱エネルギ要求量の変化への対応については改善の余地がある。
【0005】
本発明は、外部からの熱エネルギ要求に応じて適切な熱エネルギを発生させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、水素吸蔵材料を有し過剰熱を発生する複数の発熱材料系を用いる発熱方法である。この発熱方法は、複数の発熱材料系のそれぞれの稼働を制御する制御ステップを備える。この制御ステップでは、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量と、前記複数の発熱材料系が発する単位時間当たりの熱エネルギ発生量との差分値を算出する。そして、その差分値が所定範囲を超え、かつ、熱エネルギ要求量が熱エネルギ発生量よりも大きい場合には、その差分値が所定範囲内となる様に、複数の発熱材料系について稼働状態とする発熱材料系の数を増加させる。一方、その差分値が所定範囲を超え、かつ、熱エネルギ要求量が熱エネルギ発生量よりも小さい場合には、その差分値が所定範囲内となる様に、複数の発熱材料系について稼働状態とする発熱材料系の数を減少させ、熱エネルギ発生量は、稼働状態となっている発熱材料系の質量と、当該発熱材料系の気相部から取得した温度及び圧力に基づいて算出される単位質量当たりの熱エネルギ発生量と、熱エネルギを供給する供給先となる外部の部品へ当該熱エネルギを供給する時間とに基づいて算出される発熱材料系毎の熱エネルギ発生量を、稼働状態となっている発熱材料系について合計した値により求められる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外部からの熱エネルギ要求に応じて適切な熱エネルギを発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】発熱システムの構成例を示す概略構成図である。
図2】20の熱エネルギ発生部の構成例を示す図である。
図3】5の熱エネルギ発生部の構成例を示す図である。
図4】外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量が、現状の単位時間当たりの熱エネルギ発生量よりも小さい場合の熱エネルギ発生部の制御例を示す図である。
図5】外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量が、現状の単位時間当たりの熱エネルギ発生量よりも大きい場合の熱エネルギ発生部の制御例を示す図である。
図6】外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量が、現状の単位時間当たりの熱エネルギ発生量よりも大きい場合の熱エネルギ発生部の制御例を示す図である。
図7】発熱システムにおける発熱制御の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[発熱システムの構成例]
図1は、発熱システム100の構成例を示す概略構成図である。発熱システム100は、複数の熱エネルギ発生部111乃至113と、ヒータ制御部120と、水素供給源130と、水素供給量制御部140と、熱エネルギ発生システム制御部150と、を備える。なお、図1では、説明を容易にするため、3つの熱エネルギ発生部111乃至113を発熱システム100が備える例を示すが、これに限定されない。例えば、2または4以上の熱エネルギ発生部を備える場合についても同様に適用可能である。なお、熱エネルギ発生部111乃至113の各構成については、共通するため、以下では、主に熱エネルギ発生部111について説明する。なお、発熱システムは、熱エネルギ発生システムと称することもできる。
【0011】
発熱システム100は、例えば、車両に搭載して用いることができる。車両に発熱システム100を搭載する場合には、熱を利用する種々の用途、例えば、ハイブリッド車両の内燃機関の暖機及び保温、電動車両のバッテリヒータ、燃料電池車両のスタックの暖機及び保温等、に適用可能である。また、車両に搭載される他の部品や機器にも適用可能である。例えば、空調設備(例えばエアコン)、温度調整が可能な部品(例えばハンドル、座席シート)などに適用可能である。なお、図1では、熱エネルギ発生部111乃至113において発生した熱の供給先となる部品や機器を対象部品171乃至173として簡略化して示す。なお、図1では、3つの対象部品171乃至173を示すが、これに限定されず、熱の供給先となる部品や機器の個数は1、2または4以上でもよい。
【0012】
ここで、ハイブリッド車両の内燃機関の暖機及び保温、電動車両のバッテリヒータなどに使用される熱が要求された場合には、その要求に対して、その要求された熱エネルギを迅速に供給することが求められる。即ち、発熱システム100が車両に搭載されている場合には、要求された熱エネルギをすぐに供給することが重要となる。そこで、本実施形態では、要求された熱エネルギを迅速に供給可能な発熱システム100を用いる。
【0013】
熱エネルギ発生部111は、収容部10と、発熱材料11と、ヒータ12と、温度センサ13と、圧力センサ14と、を備える。熱エネルギ発生部111は、水素吸蔵材料を有し過剰熱を発生する発熱材料系である。
【0014】
収容部10は、発熱材料11及びヒータ12を内部に収容するものであり、内部を密封状態にできる構造を有する。収容部10は、例えば閉空間となる筐体で構成される。収容部10の材料として、例えば、アルミニウム、鉄、スチールを用いることができる。
【0015】
また、収容部10には、収容部10の内部と外部とを連通するパージ配管165が設けられる。パージ配管165は、収容部10の内部の圧力を調整するためのパージバルブ161に接続される。そして、パージ配管165がパージバルブ161により開閉されることにより、収容部10の内部の圧力が調整される。例えば、パージ配管165は、供給配管141が接続される収容部10の端面と対向する収容部10の他の端面に接続される。なお、供給配管141は、水素供給源130から発熱材料11へ水素ガスを供給する。
【0016】
ヒータ12は、発熱材料11を加熱する加熱機器である。なお、ヒータ12として、各種ヒータ(加熱機器、暖房器具)を用いることができる。具体的には、ヒータ12は、電気抵抗体とこれに接続される電極対とを備える。
【0017】
ヒータ12の電気抵抗体は、いわゆる高電気抵抗体で構成されており、ヒータ12の電極対を介して電気エネルギが入力されることによってヒータ12が発熱する。ここでいう高電気抵抗体とは、ヒータ部材として一般的に用いられる金属材料に比べて電気抵抗が高いものであり、本実施形態ではセラミックスを用いる。例えば車両用電源のような高電圧で使用する場合に、ヒータ部材が金属材料で構成されていると、流れる電流が大きいために過熱し、劣化が促進されてしまう。これに対し、高電気抵抗体であれば流れる電流の大きさが抑制され、耐久性を確保できる。
【0018】
本実施形態で使用するセラミックスは、例えば炭化ケイ素(SiC)とケイ素(Si)とを主成分とするものである。ここでいう主成分とは、例えば50質量%以上、好ましくは90質量%以上であることをいう。ケイ素は炭化ケイ素同士を結合する結合剤として機能するものであり、ケイ素と炭化ケイ素との質量比は次式の関係であることが好ましい。
0.15≦Si/(Si+SiC)≦0.35
【0019】
例えば、シート状の発熱材料11を用いる場合には、発熱材料11を多層膜状に形成し、これをシート状のヒータ12に積層することができる。なお、発熱材料11及びヒータ12の構成については、シート状に限定されず、他の形状としてもよい。なお、ヒータ12に電力を供給する電力源は、本システムが車載される場合には車載電源を用いる。また、本システムが定置用である場合には、図1に示す構成にヒータ用電源を加える。
【0020】
発熱材料11は、水素吸蔵機能を有する発熱材料であり、ヒータ12の電気抵抗体の表面に配置される。この発熱材料は、水素吸蔵材料とも称する。なお、水素吸蔵材料とは、水素が供給された状態で加熱されることで、加熱に用いるエネルギに対して過剰な熱エネルギを継続的に発生する水素吸蔵合金または水素吸蔵合金を含む材料である。水素吸蔵材料を用いることにより、過剰な熱エネルギを継続的に発生させることができるため、水素吸蔵脱蔵反応を進めるために材料に供給した熱エネルギを効率よく回収することができる。以下では、水素吸蔵材料(発熱材料11)の構成例と製造方法の一例を示す。
【0021】
[水素吸蔵材料]
本実施形態の水素吸蔵材料は、少なくとも2種の金属を含むものである。ここでは、2種の金属のうち、融点が低い方を第1の金属と称し、融点が高い方を第2の金属と称する。第1の金属の融点は230℃以上であることが必須である。また、第1の金属及び第2の金属のうち、少なくとも一方は、第2の金属の融点未満の温度で銀よりも大きい水素溶解度を有する。なお、ある金属に対する水素溶解度の値は、実験的に求めた値であってもよいし、コンピュータシミュレーションを用いた計算により求めた値であってもよい。
【0022】
さらに、第1の金属または第2の金属の少なくとも一方の水素化物は、CaH2の標準生成エンタルピ(-186.2kJ/mol)以上の標準生成エンタルピを有するものである。これにより、水素吸蔵材料が大量の発熱を生じる際に起こる水素化合物合金の相転移の繰り返しのための水素の脱蔵が十分に行われる。なお、ある金属の水素化合物の標準生成エンタルピの値もまた、実験的に求めた値であってもよいし、コンピュータシミュレーションを用いた計算により求めた値であってもよい。
【0023】
これらの第1の金属及び第2の金属の規定を満足する金属が少なくとも含まれている場合には、本実施形態において水素吸蔵材料として使用できる。つまり、3つ以上の金属が含まれていても、そのうちの2つの金属が上記の規定を満足する場合には使用可能である。また、これらの金属の含有形態について、特に制限はない。ただし、第1の金属と第2の金属とが組成比の異なる複数の相を有する合金の状態で存在していることが好ましい。
【0024】
第1の金属及び第2の金属の具体的な種類について特に制限はなく、上記の規定を満足し得る組み合わせから任意に選択可能である。そして、ある金属が第1の金属に該当するか第2の金属に該当するかは、組み合わされる他の金属との関係で決定される相対的なものである。このため、これらの金属の組み合わせによっては、ある金属が第1の金属に該当する場合と、第2の金属に該当する場合の双方の可能性が存在する。一例としては、第1の金属として、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、鉛(Pb)が挙げられる。また、第2の金属として、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、バナジウム(V)、カルシウム(Ca)が挙げられる。これらの金属を用いると、発熱量の大きい水素吸蔵材料を構成することが可能であるため、好ましい。また加熱温度が比較的低い場合であっても機能し得るという観点からは、融点が比較的低いスズ(Sn)を第1の金属として用いることが好ましい。また、発熱量が大きいという観点からは、アルミニウム(Al)を第1の金属として用いることが好ましい。さらに、「第1の金属-第2の金属」の組み合わせとしては、ニッケル-ジルコニウム、アルミニウム-ニッケル、アルミニウム-チタン、アルミニウム-マンガン、アルミニウム-亜鉛、スズ-チタン、アルミニウム-カルシウム等が挙げられる。特に発熱量の大きい水素吸蔵材料を構成することが可能であるという観点からは、アルミニウム-ニッケル、アルミニウム-チタン、スズ-チタンの組み合わせが好ましく、アルミニウム-ニッケル、スズ-チタンの組み合わせがより好ましく、アルミニウム-ニッケルの組み合わせが特に好ましい。なお、これら以外の組み合わせが用いられてももちろんよい。
【0025】
[水素吸蔵材料の製造方法]
本実施形態に使用する水素吸蔵材料の製造方法については特に制限はなく、従来公知(例えばWO2020/080303)の技術常識を参照することにより製造することができる。その一例として、第1の金属としてアルミニウム、第2の金属としてニッケルを用いる場合について説明する。
【0026】
まず、アルミニウムの粉末と、ニッケルの粉末を準備する。金属の形状は必ずしも粉末である必要はないが、均一に混ぜる上では、粉末形状であることが望ましい。2種類の粉末を所望の比率で秤量し、乳鉢及び乳棒を用いて混合する。乳鉢及び乳棒の材質は、メノウ、アルミナ等、どのようなものであっても構わない。
【0027】
続いて、上記で得られた複合粒子に対し、熱処理を加えて合金化させる。なお、必ずしも事前に合金化させる必要はなく、ヒータの表面に塗布した後の焼成中に合金化させてもよい。合金化させる方法は熱処理だけに限らず、化学的な合金メッキでもよく、ボールミル装置を利用して機械的に混合するメカニカルアロイングでもよい。
【0028】
合金化後に合金の粒子径を調整する必要がある場合には、粉砕するなどして粒子径を小さくしてもよい。
【0029】
[発熱システムの構成例]
図1に戻り、温度センサ13は、収容部10に設置され、収容部10内の温度を検出するセンサである。圧力センサ14は、収容部10に設置され、収容部10内の圧力を検出するセンサである。なお、圧力センサ14及び温度センサ13は、それぞれ検出部が収容部10の内部に臨むよう配置される。
【0030】
収容部10の外周面には、冷媒を流通させる流通配管(図示省略)が設置される。この流通配管は、熱エネルギ発生部111の内部と外部とを連通する様に設置される。そして、発熱材料11及びヒータ12において発生した熱は、その流通配管を流れる冷媒と熱交換され、その冷媒により外部に熱エネルギが供給される。なお、収容部10の周囲については、流通配管に接触する部分以外を断熱材で覆い、熱エネルギの放射や周りの外気との熱対流がほとんど起こらない様にすることが好ましい。なお、ここでは、収容部10の周りに流通配管を設置する例を示すが、熱エネルギ発生部111の周りに流通配管を設置する様にしてもよい。この場合には、熱エネルギ発生部111の周囲については、流通配管に接触する部分以外を断熱材で覆い、熱エネルギの放射や周りの外気との熱対流がほとんど起こらない様にすることが好ましい。
【0031】
冷媒としては、水、エチレングリコール等の液体を用いることができる。なお、冷媒として液体以外に気体(例えば、空気)を用いる様にしてもよい。
【0032】
例えば発熱システム100を内燃機関の暖機及び保温のための熱源として用いる場合には、内燃機関の冷却液配管の一部を流通配管として収容部10の外周面と接する様に設ける。これにより、発熱材料11で発生した熱エネルギにより温度上昇した収容部10との熱交換により冷却液の温度が上昇し、内燃機関の暖機及び保温が可能となる。
【0033】
ヒータ制御部120は、熱エネルギ発生システム制御部150の制御に基づいて、熱エネルギ発生部111乃至113のそれぞれのヒータ12、22、32に供給する電力を調整して、ヒータ12、22、32を個別に制御するものである。
【0034】
水素供給源130は、熱エネルギ発生部111乃至113のそれぞれの発熱材料11、21、31に供給配管141乃至143を介して水素(H2)を供給する水素ガス供給装置である。また、水素供給源130は、水素ガスが充填される水素タンク、水素ガスを収容部10に供給するためのポンプおよび配管等を備える。水素(H2)は、発熱材料11、21、31が加熱された際に当該発熱材料に吸蔵されて発熱反応を生じさせるためのものである。水素(H2)は水素ガスの状態でタンクに保持されていてもよいし、例えばメタノールやバイオマスの改質によって随時生成するガスであってもよい。なお、水素タンクに代えて、エタノールやバイオマスを保持するタンクと、改質器とを備え、改質によって水素ガスを随時発生させてもよい。
【0035】
水素供給量制御部140は、熱エネルギ発生システム制御部150の制御に基づいて、発熱材料11、21、31に供給する水素の供給量を調整するものである。水素供給量制御部140として、例えば、水素供給源130から発熱材料11、21、31へ水素ガスを供給する供給配管141乃至143に介装された流量調整弁や収容部10、20、30内の余分なガスを回収する真空(吸引)ポンプなどを用いることができる。
【0036】
熱エネルギ発生システム制御部150は、熱エネルギ発生部111乃至113の稼働状態及び非稼働状態を個別に切替可能な制御部である。具体的には、熱エネルギ発生システム制御部150は、水素供給源130から収容部10に、水素供給量制御部140を制御して水素を供給すると共に、ヒータ制御部120を制御して電力をヒータ12に供給し発熱材料11を加熱し続け、収容部10の温度が上昇し発熱材料11が水素の吸蔵脱蔵反応を開始して、過剰な熱エネルギを発生する様に制御する。更に、熱エネルギ発生システム制御部150は、ヒータ制御部120を制御して電力をヒータ12に供給して発熱材料11を加熱し続け、パージバルブ161を制御し圧力を調整して、温度センサ13で収容部10内の温度の検出値、圧力センサ14で収容部10の内部の圧力の検出値を監視して、過剰な熱エネルギを安定的に発生する状態になったら、これらの温度、圧力条件を固定する様に、水素供給量制御部140、ヒータ制御部120、パージバルブ161を制御する。なお、過剰な熱エネルギを安定的に発生させる状態となったか否かについては、熱エネルギ供給先の必要に応じて定めれば良く、特に限定されない。例えば、発熱材料11の発熱量の変動幅が、熱エネルギ発生システム制御部150による制御目標値の所定範囲以内に収まることを基準とすることができる。制御目標値の所定範囲は、制御目標値の-9%から+9%の範囲とすることができる。また、好ましくは制御目標値の-7%から+7%の範囲であり、より好ましくは制御目標値の-5%から+5%の範囲である。
【0037】
この様に、熱エネルギ発生システム制御部150は、温度センサ13からの温度情報と、圧力センサ14からの圧力情報とに基づいて、ヒータ制御部120と水素供給量制御部140とパージバルブ161とを制御することにより、収容部10内の温度や圧力を調整して、発熱材料11の発熱量を制御する。即ち、発熱材料11の発熱量を制御することで、熱エネルギ発生システム制御部150は、熱エネルギ発生部111の稼働状態及び非稼働状態を切り替える。この様に、熱エネルギ発生システム制御部150は、熱エネルギ発生部111乃至113の稼働状態及び非稼働状態を個別に切り替えることにより、稼働状態を続ける発熱材料系の運転条件を維持する。なお、熱エネルギ発生システム制御部150は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えた1又は複数のマイクロコンピュータで構成される。また、熱エネルギ発生部111乃至113の稼働状態及び非稼働状態については、後述する発熱材料及び稼働条件の具体例で説明する。
【0038】
なお、本実施形態では、熱エネルギ発生システム制御部150を発熱システム100の内部に有する例を示すが、熱エネルギ発生システム制御部150を設ける代わりに発熱システム100の外部の制御部を用いてもよい。例えば、本システムが車載される場合、車両に備えられるコントローラを熱エネルギ発生システム制御部として機能させてもよい。
【0039】
[発熱材料及び稼働条件の具体例]
上述した様に、本実施形態の発熱材料(水素吸蔵材料)として、少なくとも2種の金属を含むものを用いることができる。ここでは、熱エネルギを時系列的に安定して振動する様に発生させることができる水素吸蔵機能を有する発熱材料の一例を、その発熱材料系を稼働(水素吸蔵反応)させる条件(圧力、温度等)の一例とともに示す。なお、ここで示す例は、本実施形態を実現するための一例であり、これに限定されるものではない。
【0040】
[発熱材料の構成例]
発熱材料は、水素吸蔵合金から形成される。この水素吸蔵合金は、水素ガス(H2)の存在下で加熱されることによって、非常に大きな発熱量を外部に放出する。このような水素吸蔵合金は、発熱材料として、熱エネルギ発生システムに好適に適用される。また、本実施形態に係る発熱材料は、水素ガスの存在下で加熱させて水素を吸蔵させて水素化物合金となり、この水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、過剰熱を発生する。
【0041】
なお、本実施形態に係る発熱材料が非常に大量の熱(過剰熱)を発生しうるメカニズムは完全には明らかとはなっていない。ただし、本発明者らは、上記メカニズムに関して、水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵および脱蔵が繰り返される結果、上述したような大量の発熱が生じるものと推測している。
【0042】
本実施形態に係る発熱材料は、水素ガスの存在下で過剰熱を発生しうる限りにおいて特に限定されないが、例えば、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系を例示できる。
【0043】
例えば、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金は、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系合金をメルトスピニング法(溶融急冷法)によって非晶質(アモルファス)リボンとした後、大気中で酸化処理を行い、さらに粉砕処理を行って作製される。メルトスピニング法は、高温で溶融した合金を高速回転する銅製ロール表面上に吹き付けることによって、結晶化時間よりも非常に短い時間の間に急冷し、非晶質リボンを得る方法である。非晶質リボンを酸化処理することによって、構成元素のジルコニウム(Zr)が酸化したZrO2が生成されるとともに、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)がナノ金属粒子として析出した微細構造が形成される。
【0044】
パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金の一例として、メルトスピニング法を用いて、パラジウム(Pd):ニッケル(Ni):ジルコニウム(Zr)=4:31:65の原子比で作成した合金を450℃、60時間空気中で焼成することにより、厚さが約35μm、長さが30~300μmの大きさの板形状を有する発熱材料を調製することができる。
【0045】
[稼働(反応)条件例]
次に、水素吸蔵合金を用いる熱エネルギ発生システム(発熱システム100に対応)を稼働させるための条件等について説明する。
【0046】
<第1ステップ>
まず、熱エネルギ発生システムにおいて、基準温度および基準圧力に対して水素吸蔵合金を加温および減圧して、水素吸蔵合金の表面の不純物を離脱させる。なお、基準温度および基準圧力は、いわゆる常温および常圧であり、例えば、基準温度を25℃とし、基準圧力を0.1MPa(約1atm)とすることができる。
【0047】
第1ステップをさらに具体的に説明すると、水素吸蔵合金に対して前処理(真空脱気および加熱離脱)を実施し、合金表面からの不純物を取り除く。この前処理は、基準温度および基準圧力に対し加温および減圧して行う。この加温する場合の温度は、特に限定されないが、例えば、約200℃である。また、減圧する場合の圧力は、特に限定されないが、例えば、真空(1.0×10-2Paオーダー)である。加温および減圧を保持する時間についても特に限定されないが、例えば、50~100分である。パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金の場合、200℃、真空(0.01Pa)である。
【0048】
<第2ステップ>
次に、水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系(収容部10、20、30に対応)の気相部を、基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力に加温および加圧して、水素吸蔵合金の合金相に水素を吸蔵させる水素吸蔵を行う。ここで、系の気相部は、収容部10、20、30の内部において水素ガスが存在する空間を意味する。
【0049】
ここで、第1温度および第1圧力は使用する水素吸蔵合金によって異なるため特に限定されないが、第1温度は、例えば、400~800℃であり、第1圧力は、例えば、0.1MPa(abs)(約1atm)よりも高く、1MPa(abs)(約10atm)以下の範囲の圧力である。第1温度および第1圧力を保持する時間は、使用する水素吸蔵合金の水素吸蔵速度特性によって異なるため特に限定されないが、例えば、1~60時間である。パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金の場合、500~800℃、0.1超~1MPaである。
【0050】
<第3ステップ>
次に、振動発熱現象を確実に生じさせるための処理を行う。具体的には、水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、基準温度よりも高く第1温度よりも低い第2温度かつ第1圧力よりも低い第2圧力に維持する処理を行う。
【0051】
ここで、第2温度および第2圧力は、使用する水素吸蔵合金によって異なるため特に限定されないが、第2温度は、例えば、200~800℃未満(ただし、第1温度よりも低いこと)であり、第2圧力は、例えば、0.01MPa(abs)(約0.1atm)~0.3MPa(abs)(約3atm)(ただし、第1圧力よりも低いこと)である。なお、第2温度および第2圧力を保持しても、振動発熱は、経過時間とともに振動幅が徐々に小さくなるものの、所定時間(例えば100時間程度)継続する。パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金の場合、450℃、0.01MPaである。なお、第2温度の範囲として、例えば、20℃~900℃を設定する様にしてもよく、100℃~700℃を設定する様にしてもよい。また、好ましくは、200℃~500℃を設定することができる。
【0052】
この様に、熱エネルギ発生システムにおいて、第1ステップから第3ステップの各処理を行うことにより、パルス的に発生する過剰熱を確実に発生させることが可能となる。
【0053】
また、熱エネルギ発生システムの制御装置(熱エネルギ発生システム制御部150に対応)は、第2ステップで示した条件の雰囲気下において系の気相部を所定時間以上維持した後、発熱材料の単位質量当たりの発熱量が振幅の閾値以上の振動を開始するまで、第3ステップで示した条件の雰囲気下に系の気相部を維持する制御を実行する。
【0054】
ここで、熱エネルギ発生部(熱エネルギ発生部111乃至113に対応)の稼働状態及び非稼働状態について説明する。
【0055】
上述した第1ステップから第3ステップの各処理については、例えば、工場出荷時(例えば、熱エネルギ発生システムが適切に稼働できるか検査する時)等において一度行う。
【0056】
そして、熱エネルギ発生システムを稼働させる場合には、室温から立ち上げて、上述した第1ステップ、第2ステップを省略して、上述した第3ステップの処理を行う。即ち、工場出荷時等において、第1ステップから第3ステップの各処理を一度行うことにより、発熱材料内には水素ガスが吸蔵され、残っているため、新たな吸蔵ステップは不要になる。そこで、熱エネルギ発生システムを稼働させる場合には、上述した第3ステップの処理のみを行うことで、熱エネルギ発生システムを速やかに立ち上げることができる。
【0057】
また、熱エネルギ発生システムにおいて、非稼働状態の熱エネルギ発生部を稼働状態とする場合には、水素ガスを供給するとともにヒータから熱を加え、非稼働状態の熱エネルギ発生部の温度と圧力を制御する。具体的には、非稼働状態の熱エネルギ発生部の温度と圧力が第3ステップで示した第2温度および第2圧力となる様に制御する。即ち、熱エネルギ発生部の気相部の温度を上昇させ、熱エネルギ発生部の気相を加圧または減圧することにより、非稼働状態の熱エネルギ発生部を稼働状態とすることができる。これにより、非稼働状態の熱エネルギ発生部を、安定して振動的な発熱を行う稼働状態の熱エネルギ発生部となる様に制御することが可能となる。
【0058】
また、熱エネルギ発生システムにおいて、稼働状態の熱エネルギ発生部を非稼働状態とする場合には、水素ガスの供給を停止するとともにヒータからの熱の供給を停止し、稼働状態の熱エネルギ発生部の温度と圧力を制御する。なお、この例では、水素ガスの供給と、ヒータからの熱の供給とを停止する例を示すが、これらのうちの一方を停止または調整して、稼働状態の熱エネルギ発生部を非稼働状態とする様にしてもよい。即ち、稼働状態の熱エネルギ発生部の気相部の温度を下げるか、熱エネルギ発生部の気相を減圧することにより、稼働状態の熱エネルギ発生部を非稼働状態とすることができる。
【0059】
この様に、本実施形態では、外部からの熱エネルギ要求量に応じて、毎回、複雑な水素ガスの供給制御、温度制御や圧力制御をして、熱エネルギ発生量を変えるのではなく、起動時で設定した最も効率のよい熱エネルギ発生のモード(温度や圧力を一定)で、熱エネルギを発生し続けることができる。
【0060】
[熱エネルギ発生部の構成例]
図2及び図3は、複数の熱エネルギ発生部の構成例を示す図である。図2は、20の熱エネルギ発生部251乃至270を積層構造型に配置した場合の構成例を示す。図3は、5の熱エネルギ発生部331乃至335を積層構造型に配置した場合の構成例を示す。
【0061】
図2は、20の空間211乃至230が形成されている筐体200を示す。筐体200は、熱エネルギ発生部251乃至270を設置することが可能な材料で構成される。この材料として、例えば、アルミニウム、鉄、スチールを用いることができる。また、筐体200を立方体や直方体の形状とし、空間211乃至230についても立方体や直方体の形状とすることができる。また、空間211乃至230は、閉空間としてもよく、一部が開いている空間としてもよい。なお、熱エネルギの放射や周りの外気との熱対流を低減させるため、空間211乃至230を構成する材料として断熱部材を用いることが好ましい。
【0062】
なお、熱エネルギ発生部251乃至270の構成については、図1に示す熱エネルギ発生部111乃至113と同様であるため、圧力センサ、温度センサ等の各部の図示を省略し、各部の詳細な説明を省略する。
【0063】
空間211乃至230のそれぞれには、熱エネルギ発生部251乃至270を設置するための収容部231乃至250が設けられる。また、収容部231乃至250のそれぞれの内部には、熱エネルギ発生部251乃至270において発生した熱を外部に供給するための流通配管(図示省略)が設置される。
【0064】
具体的には、収容部231の内部と外部とを連通し、冷媒を流通させる流通配管(図示省略)が熱エネルギ発生部251の周りに設置される。例えば、その流通配管は、熱エネルギ発生部251の端面(熱エネルギ発生部251の内部の発熱材料に近接する位置)に設置される。そして、熱エネルギ発生部251において発生した熱は、その流通配管を流れる冷媒と熱交換され、その冷媒により外部に熱エネルギが供給される。冷媒を流通させる流通配管については、熱エネルギ発生部251の内部に設ける様にしてもよい。また、他の熱エネルギ発生部252乃至270に設置される流通配管についても同様である。
【0065】
また、図2では、熱エネルギ発生部251乃至270を識別するため、熱エネルギ発生部251乃至270を示す矩形内に通し番号(No.1乃至20)を付して示す。
【0066】
図3には、5の空間311乃至315が形成されている筐体300を示す。筐体300は、熱エネルギ発生部331乃至335を設置することが可能な材料で構成される。また、空間311乃至315のそれぞれには、熱エネルギ発生部331乃至335を設置するための収容部321乃至325が設けられる。
【0067】
なお、図3に示す各構成は、空間311乃至315、収容部321乃至325、熱エネルギ発生部331乃至335の数が5となる点以外は、図2に示す構成と共通する。このため、図2に示す構成と共通する部分についての説明を省略する。
【0068】
また、収容部321乃至325のそれぞれの内部には、熱エネルギ発生部331乃至335において発生した熱を外部に供給するための流通配管(図示省略)が設置される。流通配管の構成については、図2に示す例と同様であるため、ここでの説明を省略する。
【0069】
図2図3に示す様に、複数の熱エネルギ発生部を積層構造型に配置した構造とすることにより、各熱エネルギ発生部を同じような規則構造に並べることができるため、レイアウトしやすくなる。また、規則性があるため、デバイスとして同じような構造とすることができ、製造コストを低減することができる。
【0070】
なお、図2図3では、複数の熱エネルギ発生部を積層構造型に配置する例を示すが、複数の熱エネルギ発生部を平面上に並べて配置する様にしてもよい。
【0071】
また、図2図3では、熱エネルギ発生部が立方体や直方体の形状である場合の例を示したが、円筒形状(筒状)等の他の形状である場合についても本実施形態を適用可能である。例えば、熱エネルギ発生部が円筒形状(筒状)等である場合、熱エネルギ発生部を円筒形状の筐体内に差し込み、これらの複数の円筒形状の筐体を積み重ねる形状とすることができる。または、これらの複数の円筒形状の筐体を平面上に並べて配置してもよい。
【0072】
[熱エネルギ発生部の制御例]
次に、熱エネルギ発生部の制御方法について図4図5を参照して説明する。ここでは、説明を容易にするため、図3に示す構成の発熱システムを例にして説明する。
【0073】
図4は、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量が、現状の単位時間当たりの熱エネルギ発生量よりも小さい場合の熱エネルギ発生部の制御方法の一例を示す図である。図4に示す構成例は、図3に示す構成に対応するため、一部の符号の図示を省略する。
【0074】
図4では、熱エネルギ発生部331乃至335のそれぞれの単位時間当たりの発熱量が100Wである場合の例を示す。なお、熱エネルギ発生部を示す矩形の内部には、単位時間当たりの発熱量を示す数値(100W)を付す。また、図4の左側では、熱エネルギ発生部331乃至335のうち、熱エネルギ発生部331乃至333が稼働状態である場合の例を示す。この場合に、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量が200Wとなると、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量(200W)と、現状の単位時間当たりの熱エネルギ発生量(300W)との差分値が-100Wとなる。この場合には、熱エネルギ発生システム制御部150は、差分値(-100W)だけ熱エネルギが減少する様に、熱エネルギ発生部331乃至335の稼働状態を制御する。
【0075】
具体的には、図4の右側に示す様に、稼働状態の熱エネルギ発生部333を非稼働状態とする様に制御する。これにより、熱エネルギ発生部331乃至335のうち、熱エネルギ発生部331、332が稼働状態となり、現状の単位時間当たりの熱エネルギ発生量が200Wとなる。このため、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量(200W)と、現状の単位時間当たりの熱エネルギ発生量(200W)との差分値が0となる。
【0076】
図5は、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量が、現状の単位時間当たりの熱エネルギ発生量よりも大きい場合の熱エネルギ発生部の制御方法の一例を示す図である。図5に示す構成例は、図3に示す構成に対応するため、一部の符号の図示を省略する。
【0077】
図5では、熱エネルギ発生部331乃至335のそれぞれの単位時間当たりの発熱量が100Wである場合の例を示す。なお、熱エネルギ発生部を示す矩形の内部には、単位時間当たりの発熱量を示す数値(100W)を付す。また、図5の左側では、熱エネルギ発生部331乃至335のうち、熱エネルギ発生部331乃至333が稼働状態である場合の例を示す。この場合に、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量が400Wとなると、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量(400W)と、現状の単位時間当たりの熱エネルギ発生量(300W)との差分値が+100Wとなる。この場合には、熱エネルギ発生システム制御部150は、差分値(+100W)だけ熱エネルギが増加する様に、熱エネルギ発生部331乃至335の稼働状態を制御する。
【0078】
具体的には、図5の右側に示す様に、稼働状態の熱エネルギ発生部334を稼働状態とする様に制御する。これにより、熱エネルギ発生部331乃至335のうち、熱エネルギ発生部331乃至334が稼働状態となり、現状の単位時間当たりの熱エネルギ発生量が400Wとなる。このため、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量(400W)と、現状の単位時間当たりの熱エネルギ発生量(400W)との差分値が0となる。
【0079】
[比較例]
ここで、図3に示す例において、熱エネルギ発生部331乃至335のそれぞれの単位時間当たりの発熱量が1kWである場合を想定する。また、熱エネルギ発生部331乃至335が車両に搭載され、冬場の初期の運転時に室内の暖房として発熱量5kWが必要であり、通常運転においては室内の暖房として1乃至2kWが必要である場合を想定する。即ち、冬場の初期の運転時に室内の暖房に備えて、最大能力として発熱量5kWを有する発熱システムを想定する。
【0080】
この例において、従来技術を活用した場合を想定すると、冬場の初期の運転時には、室内の暖房として発熱量5kWが有効に使用される。しかし、通常運転時には、必要量が1乃至2kWであるため、最大能力5kWのうち、少なくとも発熱量3kW(5kW-2kW)は余剰となる。このため、特別な蓄熱手段が無い限り、その余剰となる発熱量3kWが車外に捨てられることになる。この場合には、必要量2kWに基づく実質的な熱エネルギ発生効率は、0.8(=2kW/2.5kW)に留まってしまう。なお、発生効率COP(Coefficient Of Performance)は、次の式で求められる。なお、投入エネルギは2.5kW(=1kW×5/2)である。
COP=発熱量/投入エネルギ
【0081】
これに対して、本実施形態では、冬場の初期の運転時には、室内の暖房として発熱量5kWが有効に使用される。また、通常運転時においては、必要量1乃至2kWに応じて、熱エネルギ発生部331乃至335のうちの1乃至2を稼働状態とし、他を非稼働状態とすることができる。これにより、余って捨てる発熱量をなくすことができるため、熱エネルギ発生効率を高めることができる。例えば、必要量2kWに基づく実質的な熱エネルギ発生効率は、2(=2kW/1.0kW)となる。なお、投入エネルギは1.0kW(=1kW×2/2)である。即ち、通常運転時の実質的な熱エネルギ発生効率は、従来技術に比べて2倍程度(=2/0.8)よくなる。
【0082】
[熱エネルギ発生部の熱エネルギ発生量が異なる場合の制御例]
図4図5では、1つの熱エネルギ発生部からの発生する熱エネルギ発生量(100W)が同一である場合の例を示した。ただし、本実施形態は、複数の熱エネルギ発生部から発生する熱エネルギ発生量が異なる場合についても適用可能である。そこで、以下では、この制御方法について図6を参照して説明する。ここでは、説明を容易にするため、図3に示す構成の発熱システムを例にして説明する。
【0083】
図6は、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量が、現状の単位時間当たりの熱エネルギ発生量よりも大きい場合の熱エネルギ発生部の制御方法の一例を示す図である。
【0084】
図6に示す例では、熱エネルギ発生部331は、単位時間当たりの発熱量が100Wの発熱材料を10個備え、単位時間当たりの発熱量が1kWの熱エネルギ発生部として構成される。また、熱エネルギ発生部332は、単位時間当たりの発熱量が100Wの発熱材料を5個備え、単位時間当たりの発熱量が500Wの熱エネルギ発生部として構成される。また、熱エネルギ発生部333は、単位時間当たりの発熱量が100Wの発熱材料を2個備え、単位時間当たりの発熱量が200Wの熱エネルギ発生部として構成される。熱エネルギ発生部334、335は、単位時間当たりの発熱量が100Wの発熱材料を1個備え、単位時間当たりの発熱量が100Wの熱エネルギ発生部として構成される。図6に示す構成例は、図3に示す構成に対応するため、一部の符号の図示を省略する。また、熱エネルギ発生部を示す矩形の内部には、発熱量を示す数値を付す。この様に、図6では、発熱生システムが4種類の異なる発熱量の熱エネルギ発生部を5つ備える例を示す。
【0085】
図6の左側では、熱エネルギ発生部331乃至335のうち、熱エネルギ発生部331、333が稼働状態である場合の例を示す。この場合には、現状の単位時間当たりの熱エネルギ発生量は、1200W(1kW+200W)である。
【0086】
図6の左側に示す稼働状態において、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量が1800Wとなると、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量(1800W)と、現状の単位時間当たりの熱エネルギ発生量(1200W)との差分値が+600Wとなる。この場合には、熱エネルギ発生システム制御部150は、差分値(+600W)だけ熱エネルギが増加する様に、熱エネルギ発生部331乃至335の稼働状態を制御する。
【0087】
具体的には、図6の右側に示す様に、非稼働状態の熱エネルギ発生部332、334を稼働状態となる様に制御する。これにより、熱エネルギ発生部331乃至335のうち、熱エネルギ発生部331乃至334が稼働状態となり、現状の単位時間当たりの熱エネルギ発生量が1800Wとなる。このため、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量(1800W)と、現状の単位時間当たりの熱エネルギ発生量(1800W)との差分値が0となる。なお、図6では、非稼働状態の熱エネルギ発生部332、334を稼働状態とする例を示したが、非稼働状態の熱エネルギ発生部332、335を稼働状態とする様にしてもよい。
【0088】
この様に、熱エネルギ発生部331乃至335の単位時間当たりの熱エネルギ発生量の合計値が、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量の合計値に相当する様に、稼働状態とする熱エネルギ発生部の数を増減する。即ち、熱エネルギ発生部331乃至335の単位時間当たりの熱エネルギ発生量の合計値と、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量の合計値との差分値が最も小さくなる様に、稼働状態とする熱エネルギ発生部が決定される。
【0089】
[発熱システムの動作例]
図7は、発熱システム100における発熱制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、この処理手順は、記憶部(図示省略)に記憶されているプログラムに基づいて実行される。また、この処理手順は、所定の演算周期で繰り返し実行される。図7では、図1に示す構成を参照して説明する。
【0090】
ステップS401において、熱エネルギ発生システム制御部150は、発熱システム100の外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量と、熱エネルギ発生部が発する単位時間当たりの熱エネルギ量(熱エネルギ発生量)とを比較し、その比較結果に基づいて、それらの差を算出する。なお、熱エネルギ発生量は、熱エネルギ発生部が供給する単位時間当たりの熱エネルギ供給量と称することもできる。
【0091】
具体的には、発熱システム100の外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量は、熱エネルギの供給先となる機器や部品(以下、対象部品と称する)の質量と、対象部品の比熱と、対象部品の温度と、要求された熱エネルギを供給する時間(要求供給時間)とに基づいて算出される。例えば、以下の式1を用いて対象部品毎に求めることができる。
【0092】
発熱システム100の外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量[J/sec]=
対象部品の質量[g]×対象部品の比熱[J/g・K]×(対象部品の目標温度-対象部品の実温度)[K]/要求供給時間[sec] …式1
【0093】
熱エネルギ発生システム制御部150は、式1を用いて算出された対象部品毎の値を合計した値(合計値)を、発熱システム100の外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量とする。
【0094】
なお、対象部品の質量及び比熱は、記憶部に記憶されている。また、対象部品の目標温度及び要求供給時間は、外気温、用途等に応じて適宜設定される。また、対象部品の実温度は、対象部品に設けられている温度センサにより取得されたセンサ情報を用いることができる。この様に、対象部品の温度センサから実温度を取得し、予め設定されている部品データ(例えば、質量、比熱、目標温度)とその実温度とに基づいて熱エネルギ要求量を対象部品毎に算出することができる。なお、単位時間当たりの熱エネルギ要求量を算出可能な制御ユニットを対象部品やその周辺機器が備えている場合には、熱エネルギ発生システム制御部150は、その制御ユニットとの通信によりその制御ユニットにより算出された値を取得して用いる様にしてもよい。
【0095】
また、熱エネルギ発生部が発する単位時間当たりの熱エネルギ量(熱エネルギ発生量)は、熱エネルギを発生している熱エネルギ発生部の数(稼働状態の熱エネルギ発生部の数)と、その各々の熱エネルギ発生部の質量と、その各々の熱エネルギ発生部が最大値の熱エネルギを発生するときの気相部の温度と圧力において期待できる単位質量当たりの熱エネルギ供給量(単位質量当たりの最大熱エネルギ供給量)と、外部からの要求供給時間とに基づいて算出される。例えば、以下の式2を用いて求めることができる。熱エネルギ発生部の質量は、水素吸蔵材料を有する発熱材料11、21、31の質量を意味する。
単位時間当たりの熱エネルギ発生量[J/sec]=
熱エネルギ発生部の質量[g]×単位質量当たりの最大熱エネルギ供給量[J/g]/要求供給時間[sec] …式2
【0096】
熱エネルギ発生システム制御部150は、式2を用いて算出された熱エネルギ発生部毎の値を合計した値(合計値)を、熱エネルギ発生量(熱エネルギ供給量)とする。
【0097】
熱エネルギ発生部の質量、単位質量当たりの最大熱エネルギ供給量は、記憶部に記憶されている。また、外部からの要求供給時間は、外気温、用途等に応じて適宜設定される。
【0098】
なお、この例では、単位質量当たりの熱エネルギ発生量の算出には、予め設定されている値を用いる例を示すが、各熱エネルギ発生部の気相部の温度及び圧力を取得し、その温度及び圧力に基づいて単位質量当たりの熱エネルギ発生量を熱エネルギ発生部毎に算出する様にしてもよい。
【0099】
熱エネルギ発生システム制御部150は、発熱システム100の外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量と、熱エネルギ発生部が発する単位時間当たりの熱エネルギ発生量との差分値を算出する。例えば、以下の式3を用いて差分値を求めることができる。
差分値=発熱システム100の外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量-熱エネルギ発生部が発する単位時間当たりの熱エネルギ発生量 …式3
【0100】
この例では、熱エネルギ発生システム制御部150が、発熱システム100の外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量と、熱エネルギ発生部が発する単位時間当たりの熱エネルギ発生量と、その差分値とを算出する例を示す。ただし、これらのうちの一部または全部を、外部の制御ユニットに算出させ、その値を熱エネルギ発生システム制御部150が用いる様にしてもよい。例えば、本システムが車載される場合、車両に備えられるコントローラに、上述した各算出処理の一部または全部を実行させる様にしてもよい。
【0101】
ステップS402において、熱エネルギ発生システム制御部150は、ステップS401で算出された差分値が、所定範囲内の値となるか否かを判定する。即ち、所定範囲よりも要求過剰か否かを判定する。ここで、所定範囲は、熱エネルギ発生効率を良好に維持するために設定される許容範囲である。具体的には、所定範囲は、熱エネルギ発生部の稼働数とその運転条件を現状維持するか否かを判定するための範囲である。例えば、所定範囲として、単位時間当たりの熱エネルギ要求量の-5%から+5%までの範囲とすることができる。なお、他の範囲(例えば、-7~4%から+4~7%までの範囲、-9~3%から+3~9%までの範囲)を設定してもよい。
【0102】
ステップS401で算出された差分値が、所定範囲内でない場合には、ステップS403に進む。一方、ステップS401で算出された差分値が、所定範囲内である場合には、ステップS408に進む。
【0103】
ステップS403において、熱エネルギ発生システム制御部150は、ステップS401で算出された差分値が、正の値であるか負の値であるかを判定する。ステップS401で算出された差分値が正の値である場合(即ち外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量が、熱エネルギ発生部が発する単位時間当たりの熱エネルギ発生量よりも大きい場合)には、ステップS404に進む。一方、ステップS401で算出された差分値が負の値である場合(即ち外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量が、熱エネルギ発生部が発する単位時間当たりの熱エネルギ発生量よりも小さい場合)には、ステップS406に進む。
【0104】
ステップS404において、熱エネルギ発生システム制御部150は、非稼働状態の熱エネルギ発生部の中から、稼働状態とする熱エネルギ発生部を選択する。具体的には、ステップS401で算出された差分値だけ、熱エネルギ量が増加する様に、稼働状態とする熱エネルギ発生部を選択する。例えば、図5に示す例では、差分値が+100Wである。このため、+100Wだけ熱エネルギ量が増加する様に、非稼働状態の熱エネルギ発生部334、335の中から、稼働状態とする熱エネルギ発生部として、熱エネルギ発生部334が選択される。なお、熱エネルギ発生部334の代わりに、熱エネルギ発生部335を選択する様にしてもよい。また、図6に示す例では、差分値が+600Wである。このため、+600Wだけ熱エネルギ量が増加する様に、非稼働状態の熱エネルギ発生部332、334、335の中から、稼働状態とする熱エネルギ発生部として、熱エネルギ発生部332、334が選択される。なお、熱エネルギ発生部334の代わりに、熱エネルギ発生部335を選択する様にしてもよい。
【0105】
所定の選択条件を設定しておき、この選択条件に基づいて、稼働状態とする熱エネルギ発生部を選択してもよい。例えば、非稼働状態となった時刻が最も遅い熱エネルギ発生部を優先的に選択する選択条件や、非稼働状態となった時刻が最も早い熱エネルギ発生部を優先的に選択する選択条件、ランダムに選択する選択条件などを採用することができる。
【0106】
ステップS405において、熱エネルギ発生システム制御部150は、ステップS404で選択した非稼働状態の熱エネルギ発生部を稼働状態とする制御を実行する。
【0107】
この様に、ステップS404、S405において、熱エネルギ発生システム制御部150は、稼働状態とする熱エネルギ発生部の数を増加させる制御を実行する。
【0108】
ステップS408において、熱エネルギ発生システム制御部150は、外部からの要求供給時間に渡って、稼働状態の熱エネルギ発生部から熱エネルギを発生させる制御を実行する。即ち、発熱システム100の外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量と、熱エネルギ発生部が供給する単位時間当たりの熱エネルギ量との差分値を、所定範囲内とするための最適な数の熱エネルギ発生部を稼働状態とする制御が実行される。
【0109】
ステップS406において、熱エネルギ発生システム制御部150は、稼働状態の熱エネルギ発生部の中から、非稼働状態とする熱エネルギ発生部を選択する。具体的には、ステップS401で算出された差分値だけ、熱エネルギ量が減少する様に、非稼働状態とする熱エネルギ発生部を選択する。例えば、図4に示す例では、差分値が-100Wである。このため、100Wだけ熱エネルギ量が減少する様に、稼働状態の熱エネルギ発生部331乃至333の中から、非稼働状態とする熱エネルギ発生部として、熱エネルギ発生部333が選択される。なお、熱エネルギ発生部333の代わりに、熱エネルギ発生部331または332を選択する様にしてもよい。
【0110】
なお、所定の選択条件を設定しておき、この選択条件に基づいて、非稼働状態とする熱エネルギ発生部を選択する様にしてもよい。例えば、稼働状態となった時刻が最も遅い熱エネルギ発生部を優先的に選択する選択条件や、稼働状態となった時刻が最も早い熱エネルギ発生部を優先的に選択する選択条件、ランダムに選択する選択条件などを採用することができる。
【0111】
ステップS407において、熱エネルギ発生システム制御部150は、ステップS406で選択した稼働状態の熱エネルギ発生部を非稼働状態とする制御を実行する。
【0112】
この様に、ステップS406、S407において、熱エネルギ発生システム制御部150は、稼働状態とする熱エネルギ発生部の数を減少させる制御を実行する。
【0113】
なお、何らかの原因により、稼働状態となる様に制御した熱エネルギ発生部の発熱状態が悪くなることも想定される。このような場合には、温度センサに基づいて発熱状態が悪い熱エネルギ発生部を検出し、発熱状態が悪い熱エネルギ発生部を非稼働状態とし、その熱エネルギ発生部の代わりとなる他の熱エネルギ発生部を稼働状態となる様に制御させることが可能である。
【0114】
ここで、複数の熱エネルギ発生部の温度を測定し、正常に稼働している熱エネルギ発生部や正常に稼働していない熱エネルギ発生部を特定しながら、水素の供給制御、温度制御、圧力制御を実行して、熱エネルギ発生量を増大させることを想定する。この場合、熱エネルギ要求量の変化に対応して、迅速に対応することが困難であることが想定される。
【0115】
これに対して、本実施形態では、外部からの熱エネルギ要求量の変化に対応して、温度、圧力の単純な調整で熱エネルギを時系列的に安定して振動する様に発生させることが可能な水素吸蔵機能を有する熱エネルギ発生部(発熱材料系)を複数用いる。これにより、個々の熱エネルギ発生部の温度、圧力、水素供給を複雑に制御しなくても、個々の熱エネルギ発生部を安定した適正な条件に維持することができる。また、複数の熱エネルギ発生部について、熱エネルギ要求量の変化に応じて、稼働状態とする熱エネルギ発生部の数を増減させて追従することにより追随性を向上させることができる。具体的には、熱エネルギ要求量に対して熱エネルギ発生量が少ない場合には、その差分値だけ増加する様に、稼働状態とする熱エネルギ発生部を増加させる。一方、熱エネルギ要求量に対して熱エネルギ発生量が多い場合には、その差分値だけ減少する様に、稼働状態とする熱エネルギ発生部を減少させる。この場合に、それらの差分値が最も小さくなる様に、稼働状態とする熱エネルギ発生部が選択される。
【0116】
また、本実施形態では、最も効率の良い温度及び圧力の下でのみ発熱材料系を稼働させるため、熱エネルギの発生効率を向上させることができる。即ち、外部からの熱エネルギ要求量の増減に追従するに際し、熱エネルギ発生部の運転条件の調整により対応する必要がない。このため、外部からの熱エネルギ要求量の変化に対する追従性を高めることができるとともに、熱エネルギ発生部の熱エネルギ発生効率を高めることができる。
【0117】
例えば、図4乃至図6に示す様に、最も効率の良い条件で発熱材料系を稼働(運転)するため、温度や圧力の設定及び調整も単純で、すぐに稼働または停止できるため、追随性もよい。例えば、本システムが車載される場合には、熱エネルギ要求量がダイナミックに変化する機器からの要求にも迅速に対応することができる。なお、熱エネルギ要求量がダイナミックに変化する機器は、例えば、車両に備えられるエアコン等である。
【0118】
[本実施形態の構成及び効果]
本実施形態に係る発熱方法は、水素吸蔵材料を有し過剰熱を発生する複数の熱エネルギ発生部111乃至113(発熱材料系の一例)を用いる発熱方法である。この発熱方法では、複数の熱エネルギ発生部111乃至113のそれぞれの稼働を制御する制御ステップ(ステップS401乃至S407)を備える。この制御ステップでは、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量と、熱エネルギ発生部111乃至113が発する単位時間当たりの熱エネルギ発生量との差分値を算出する。そして、その差分値が所定範囲を超え、かつ、熱エネルギ要求量が熱エネルギ発生量よりも大きい場合には、その差分値が所定範囲内となる様に、熱エネルギ発生部111乃至113について稼働状態とする発熱材料系の数を増加させる。一方、その差分値が所定範囲を超え、かつ、熱エネルギ要求量が熱エネルギ発生量よりも小さい場合には、その差分値が所定範囲内となる様に、熱エネルギ発生部111乃至113について稼働状態とする発熱材料系の数を減少させる。なお、例えば、上述した式3を用いて差分値が算出される。
【0119】
このような発熱方法によれば、稼働状態とする熱エネルギ発生部の数を増減させることにより、外部からの熱エネルギ要求量の増減に追従することができるため、外部からの熱エネルギ要求量への追従性を高めることができる。即ち、外部からの熱エネルギ要求に応じて適切な熱エネルギを発生させることができる。また、稼働状態とする熱エネルギ発生部による熱エネルギ供給量を、外部からの要求に応えるための最小限に抑制するため、熱エネルギを無駄なく活用できる。即ち、外部からの要求に対する応答性を担保しつつ、熱エネルギ供給量の過不足を最小限に抑制することができる。また、外部からの熱エネルギ要求量の増減に対して、稼働状態とする熱エネルギ発生部の数を適切に決定して追従性を高めることができる。
【0120】
また、本実施形態に係る発熱方法において、制御ステップ(ステップS401、S402、S408)では、熱エネルギ要求量と熱エネルギ発生量との差分値が所定範囲内である場合には、稼働状態とする熱エネルギ発生部(発熱材料系の一例)の数を変更しない。
【0121】
このような発熱方法によれば、熱エネルギ要求量と熱エネルギ発生量との差分値が所定範囲(許容範囲)内である場合には、稼働状態とする熱エネルギ発生部の数とその運転条件を現状維持するため、熱エネルギ発生効率を良好に維持できる。即ち、追従性の低下が許容される範囲内で、熱エネルギ発生効率を良好に維持できる。
【0122】
また、本実施形態に係る発熱方法では、熱エネルギ要求量は、熱エネルギを供給する供給先となる外部の部品の質量と、その部品の比熱と、その部品の温度と、その部品へ熱エネルギを供給する時間とに基づいて算出される部品毎の熱エネルギ要求量の合計値により求められる。例えば、上述した式1を用いて部品毎の熱エネルギ要求量が算出される。なお、外部の部品の温度として、その部品の目標温度(設定温度)と、その部品の実温度とを用いることができる。
【0123】
このような発熱方法によれば、外部からの熱エネルギ要求量を構成部品毎に算出した合計値とすることで、簡便かつ精度良く見積もることができ、熱エネルギ供給量の制御(稼働状態とする数の制御)に迅速に反映できる。
【0124】
また、本実施形態に係る発熱方法では、熱エネルギ発生量は、稼働状態となっている熱エネルギ発生部(発熱材料系の一例)の質量と、当該熱エネルギ発生部により期待できる単位質量当たりの熱エネルギ量と、熱エネルギを供給する供給先となる外部の部品へ当該熱エネルギを供給する時間とに基づいて算出される熱エネルギ発生部毎の熱エネルギ発生量を、稼働状態となっている熱エネルギ発生部について合計した値により求められる。例えば、上述した式2を用いて熱エネルギ発生部毎の熱エネルギ発生量が算出される。
【0125】
このような発熱方法によれば、現状の熱エネルギ発生量(熱エネルギ供給量)を熱エネルギ発生部毎に算出した合計値とすることで、簡便かつ精度良く見積もることができ、熱エネルギ供給量の制御(稼働状態とする数の制御)に迅速に反映できる。
【0126】
また、本実施形態に係る発熱方法において、制御ステップ(ステップS405、S407)では、複数の熱エネルギ発生部(発熱材料系の一例)のうち、稼働状態とする熱エネルギ発生部については、当該熱エネルギ発生部の気相部の温度を基準温度とし、その気相部の圧力を基準圧力とする様に制御する。例えば、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金を用いる場合には、450℃を基準温度とし、0.01MPaを基準圧力とすることができる。
【0127】
このような発熱方法によれば、稼働する熱エネルギ発生部に対しては、効率の良い温度及び圧力で稼働させることにより、熱エネルギを時系列的に安定して振動する様に発生させることができる。即ち、熱エネルギ発生部毎に稼働条件(気相部圧力・温度)を設定し、時系列的に安定して熱エネルギを発生させる。これにより、単位時間当たりの熱エネルギの発生量が安定し、稼働数の増減制御の精度が改善する。
【0128】
本実施形態に係る発熱システム100は、水素吸蔵材料を有し過剰熱を発生する複数の熱エネルギ発生部111乃至113(発熱材料系の一例)と、複数の熱エネルギ発生部111乃至113のそれぞれの稼働を制御する熱エネルギ発生システム制御部150(制御部の一例)とを備える発熱システムである。熱エネルギ発生システム制御部150は、外部からの単位時間当たりの熱エネルギ要求量と、複数の熱エネルギ発生部111乃至113が発する単位時間当たりの熱エネルギ発生量との差分値を算出する。そして、熱エネルギ発生システム制御部150は、その差分値が所定範囲を超え、かつ、熱エネルギ要求量が熱エネルギ発生量よりも大きい場合には、その差分値が所定範囲内となる様に、複数の熱エネルギ発生部111乃至113について稼働状態とする発熱材料系の数を増加させる。一方、熱エネルギ発生システム制御部150は、その差分値が所定範囲を超え、かつ、熱エネルギ要求量が熱エネルギ発生量よりも小さい場合には、その差分値が所定範囲内となる様に、複数の熱エネルギ発生部111乃至113について稼働状態とする発熱材料系の数を減少させる。
【0129】
このような発熱システム100によれば、稼働状態とする熱エネルギ発生部の数を増減することにより、外部からの熱エネルギ要求量の増減に追従することができるため、外部からの熱エネルギ要求量への追従性を高めることができる。
【0130】
また、本実施形態に係る発熱システム100では、熱エネルギ発生部111(発熱材料系の一例)は、水素吸蔵機能を有する発熱材料11と、発熱材料11を加熱するヒータ12と、発熱材料11とヒータ12とを収容する収容部10と、を含む。
【0131】
このような発熱システム100によれば、収容部10において、水素ガスの存在下で発熱材料11をヒータ12で加熱することにより、過剰熱(加熱したエネルギ以上の熱エネルギ)を発生させることができる。これにより、効率よく熱エネルギを供給できる。
【0132】
また、本実施形態に係る発熱システム100では、収容部10に設置され、発熱材料11と水素ガスとを含む熱エネルギ発生部111(発熱材料系の一例)の気相部の温度を検知する温度センサ13と、収容部10に設置され、熱エネルギ発生部111の気相部の圧力を検知する圧力センサ14と、ヒータ12を制御するヒータ制御部120と、発熱材料11に対して水素を供給する水素供給源130と、水素供給源130からの水素の供給量を制御する水素供給量制御部140と、をさらに備える。熱エネルギ発生システム制御部150(制御部の一例)は、温度センサ13からの情報と圧力センサ14からの情報とに基づいて、ヒータ制御部120と水素供給量制御部140とを制御することにより熱エネルギ発生部111の気相部の温度および圧力を制御する。即ち、熱エネルギ発生システム制御部150は、熱エネルギ発生部111が最大値の熱エネルギを発生できる気相部の温度と圧力を維持する様に、ヒータ制御部120及び水素供給量制御部140へ指令を送る。そして、熱エネルギ発生システム制御部150は、複数の熱エネルギ発生部111乃至113のそれぞれの稼働状態を制御する。
【0133】
このような発熱システム100によれば、収容部10において、熱エネルギ発生部の気相部の圧力と温度を最大エネルギ発生条件等の効率の良い条件に制御しつつ、発熱材料が水素の存在下でヒータで加熱される。これにより、過剰熱(加熱したエネルギ以上の熱エネルギ)を効率良く安定的に発生できる。
【0134】
なお、本実施形態で示した各処理は、各処理手順をコンピュータに実行させるためのプログラムに基づいて実行されるものである。このため、本実施形態は、それらの各処理を実行する機能を実現するプログラム、そのプログラムを記憶する記録媒体の実施形態としても把握することができる。例えば、車両に新機能を追加するためのアップデート作業により、そのプログラムを車両の記憶装置に記憶させることができる。これにより、そのアップデートされた車両に本実施形態で示した各処理を実施させることが可能となる。なお、そのアップデートは、例えば、車両の定期点検時等に行うことができる。また、ワイヤレス通信によりそのプログラムをアップデートする様にしてもよい。
【0135】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0136】
10、20、30、231~250、321~325 収容部、11、21、31 発熱材料、12、22、32 ヒータ、13、23、33 温度センサ、14、24、34 圧力センサ、100 発熱システム、111~113、251~270、331~335 熱エネルギ発生部、120 ヒータ制御部、130 水素供給源、140 水素供給量制御部、141~143 供給配管、150 熱エネルギ発生システム制御部、161~163 パージバルブ、165~167 パージ配管、171~173 対象部品、200、300 筐体、211~230、311~315 空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7