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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】基板処理方法、および、基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20250327BHJP
【FI】
H01L21/304 648G
H01L21/304 647A
H01L21/304 643A
H01L21/304 643C
H01L21/304 651B
H01L21/304 651M
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021106952
(22)【出願日】2021-06-28
(65)【公開番号】P2023005188
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝佳
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 晃久
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-524408(JP,A)
【文献】特表2012-533649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面および前記第1主面とは反対側の第2主面を有する基板を処理する基板処理方法であって、
ゲル化剤を含有するゲル化剤含有液を前記第1主面に供給するゲル化剤含有液供給工程と、
前記基板を冷却して、前記第1主面上の前記ゲル化剤含有液をゲルに変化させるゲル化工程と、
前記ゲルが形成されている状態の前記第1主面に向けて、前記ゲル化剤の融点よりも低い温度を有する洗浄液を噴射して前記第1主面を洗浄する物理洗浄工程と、
前記物理洗浄工程の後、前記ゲル化剤の融点以上の温度を有するリンス液を前記第1主面に供給するリンス工程とを含む、基板処理方法。
【請求項2】
前記リンス工程が、前記ゲル化剤の融点以上の温度を有する前記リンス液をリンス液ノズルから前記第1主面に向けて吐出する工程を含む、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記リンス工程が、前記ゲル化剤の融点以上の温度にまで前記第2主面を加熱する第2主面加熱工程を含む、請求項1または2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記ゲル化工程が、前記第2主面を冷却する第2主面冷却工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記物理洗浄工程の実行中においても、前記第2主面に対する冷却が継続される、請求項4に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記物理洗浄工程が、前記洗浄液の複数の液滴をスプレーノズルから前記第1主面に向けて噴射する液滴噴射工程を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記ゲル化剤の融点が前記ゲル化剤の凝固点よりも高い、請求項1~のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記ゲル化剤の融点が20℃以上30℃以下であり、前記ゲル化剤の凝固点が15℃以上25℃以下である、請求項に記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記ゲル化剤が、ゼラチン、寒天、またはこれらの混合物である、請求項1~のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項10】
前記基板の前記第1主面は、研磨剤を用いた化学機械研磨によって形成された平坦面である、請求項1~のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項11】
前記ゲル化工程が、前記ゲルによって構成され、前記第1主面上の除去対象物を保持するゲル膜を形成するゲル膜形成工程を含み、
前記物理洗浄工程が、前記洗浄液によって前記ゲル膜を分裂させて、前記除去対象物を保持するゲル膜片を形成し、前記洗浄液とともに前記ゲル膜片を前記第1主面外へ排出するゲル膜片排出工程を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項12】
前記リンス工程が、前記物理洗浄工程の後に、前記第1主面に残存するゲル膜残渣を、加熱によってゾル化させるゾル化工程を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項13】
第1主面および前記第1主面とは反対側の第2主面を有する基板を処理する基板処理方法であって、
ゲル化剤を含有するゲル化剤含有液を前記第1主面に供給するゲル化剤含有液供給工程と、
前記ゲル化剤含有液供給工程の後、前記ゲル化剤の凝固点以下の温度を有する冷却流体を冷却流体ノズルから前記第2主面に向けて吐出する冷却流体吐出工程と、
前記冷却流体吐出工程の後、前記第1主面に向けて洗浄液を噴射する洗浄液噴射工程と、
前記洗浄液噴射工程の後、前記ゲル化剤の融点以上の温度を有するリンス液をリンス液ノズルから前記第1主面に向けて吐出するリンス液吐出工程とを含む、基板処理方法。
【請求項14】
第1主面および前記第1主面とは反対側の第2主面を有する基板を処理する基板処理装置であって、
ゲル化剤を含有するゲル化剤含有液を前記第1主面に向けて吐出するゲル化剤含有液ノズルと、
前記第2主面を前記ゲル化剤の凝固点以下の温度にまで冷却する冷却ユニットと、
前記ゲル化剤の融点よりも低い温度を有し前記第1主面を洗浄する洗浄液を前記第1主面に向けて噴射する洗浄液ノズルと、
前記第1主面に向けて、前記ゲル化剤の融点以上の温度を有するリンス液を吐出するリンス液ノズルとを含む、基板処理装置。
【請求項15】
前記冷却ユニットが、前記ゲル化剤含有液ノズルから前記第1主面上に供給された前記ゲル化剤含有液が前記第1主面上に存在する状態で、前記第2主面を冷却し、
前記洗浄液ノズルが、前記第1主面上の前記ゲル化剤含有液が前記冷却ユニットによって冷却されて前記第1主面上にゲルが形成されている状態で、前記第1主面に向けて前記洗浄液を噴射し、
前記リンス液ノズルが、前記第1主面上に向けて前記洗浄液ノズルから前記洗浄液が噴射された後に、前記リンス液を前記第1主面に向けて供給する、請求項14に記載の基板処理装置。
【請求項16】
前記ゲル化剤含有液ノズルが、融点が20℃以上30℃以下であり、かつ、凝固点が15℃以上25℃以下である前記ゲル化剤を含有する前記ゲル化剤含有液を前記第1主面に向けて吐出する、請求項14または15に記載の基板処理装置。
【請求項17】
前記ゲル化剤含有液ノズルが、ゼラチン、寒天、またはこれらの混合物である前記ゲル化剤を含有する前記ゲル化剤含有液を前記第1主面に向けて吐出する、請求項1416のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項18】
前記洗浄液ノズルが、洗浄液の複数の液滴を前記第1主面に向けて噴射するスプレーノズルを含む、請求項1417のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項19】
前記冷却ユニットが、前記ゲル化剤の凝固点以下の温度を有する冷却流体を前記第2主面に供給する冷却流体ノズルを含む、請求項1418のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板を処理する基板処理方法、および、基板を処理する基板処理装置に関する。
処理の対象となる基板には、たとえば、半導体ウェハ、液晶表示装置および有機EL(Electroluminescence)表示装置等のFPD(Flat Panel Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、太陽電池用基板等が含まれる。
【背景技術】
【0002】
基板の主面に付着するパーティクル等の除去対象物を除去する手法が提案されている(下記特許文献1および2を参照)。
特許文献1には、酸化セリウムを含むスラリー(研磨剤)を用いて化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)を施した基板の主面に、硫酸過酸化水素水混合液(SPM:Sulfuric-acid and hydrogen-Peroxide mixture)を供給して、基板の主面に付着したスラリーの残渣を除去する基板処理が開示されている。しかしながら、環境負荷を低減するために、硫酸の使用量の低減が望まれている。
【0003】
特許文献2には、硫酸を用いることなく、基板上の除去対象物を除去する手法が開示されている。具体的には、基板の主面に固体状態のポリマー膜を形成し、スプレーノズルから吐出された洗浄液の液滴を衝突させることで物理力をポリマー膜に付与し、基板の主面からポリマー膜を剥離する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-037650号公報
【文献】特開2020-161525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明の1つの目的は、環境負荷を低減しつつ、除去対象物を効率良く除去できる基板処理方法および基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一実施形態は、第1主面および前記第1主面とは反対側の第2主面を有する基板を処理する基板処理方法であって、ゲル化剤を含有するゲル化剤含有液を前記第1主面に供給するゲル化剤含有液供給工程と、前記基板を冷却して、前記第1主面上の前記ゲル化剤含有液をゲルに変化させるゲル化工程と、前記ゲルが形成されている状態の前記第1主面に向けて洗浄液を噴射して前記第1主面を洗浄する物理洗浄工程と、前記物理洗浄工程の後、前記ゲル化剤の融点以上の温度を有するリンス液を前記第1主面に供給するリンス工程とを含む、基板処理方法を提供する。
【0007】
この方法によれば、ゲル化剤を含有するゲル化剤含有液が基板の第1主面に供給される。その後、基板が冷却されることによって、ゲル化剤含有液が基板を介して冷却されてゲルに変化する。そのため、基板の第1主面上に存在する除去対象物にゲルを密着させて、当該ゲルに除去対象物を強固に保持させることができる。
基板の第1主面に向けて洗浄液を噴射することで、ゲルに物理力を付与することができる。そのため、第1主面上のゲルは、除去対象物を保持しながら分裂し、除去対象物とともに第1主面から引き離される。第1主面に供給された洗浄液は、第1主面上で液流を形成し、分裂したゲルを第1主面外へ押し出す。
【0008】
除去対象物を強固に保持している状態のゲルに物理力を付与してゲルを分裂させるため、分裂後のゲルにも除去対象物が保持されている。そのため、分裂後のゲルに保持されている除去対象物は、その見かけのサイズが拡大されている。そのため、ゲルに保持されている除去対象物は、ゲルが付着していない除去対象物と比較して、洗浄液の液流から物理力を受け易い。したがって、ゲルが形成された第1主面に向けて洗浄液を供給することで、除去対象物を第1主面から効率良く除去できる。
【0009】
以上のように、硫酸を用いることなく、すなわち、環境負荷を低減しつつ、基板から除去対象物を除去することができる。
その後、ゲル化剤の融点以上の温度を有するリンス液が第1主面に供給される。第1主面にゲルの残渣が存在している場合であっても、リンス液によって当該残渣を加熱してゾル化できる。これにより、ゲル化剤含有液に変化させることができる。そのため、ゾル化によって形成されたゲル化剤含有液をリンス液中に分散させながら、当該ゲル化剤含有液をリンス液とともに基板外へ排出できる。これにより、第1主面にゲルが残存することを抑制できる。
【0010】
この発明の一実施形態では、前記リンス工程が、前記ゲル化剤の融点以上の温度を有する前記リンス液をリンス液ノズルから前記第1主面に向けて吐出する工程を含む。そのため、基板を加熱するための部材を別途に設けることなく、リンス液によって、ゲルの残渣をゾル化し、ゾル化によって形成されたゲル化剤含有液を第1主面外へ排出させることができる。これにより、第1主面にゲルが残存することを抑制できる。
【0011】
この発明の一実施形態では、前記リンス工程が、前記ゲル化剤の融点以上の温度にまで前記第2主面を加熱する第2主面加熱工程を含む。そのため、第1主面上のゲルの残渣のゾル化を補助できる。さらに、第1主面に供給されるリンス液の温度がゲル化剤の融点よりも低い場合であっても、基板を介して第1主面上のリンス液をゲル化剤の融点以上の温度にまで加熱できる。これにより、第1主面上のゲルの残渣をゾル化させることができ、第1主面にゲルが残存することを抑制できる。
【0012】
この発明の一実施形態では、前記ゲル化工程が、前記第2主面を冷却する第2主面冷却工程を含む。そのため、基板以外の部材をゲル化剤含有液に接触させることなく、ゲル化剤含有液に接触する基板を介して第1主面上のゲル化剤含有液を冷却できる。したがって、ゲル化剤含有液への不純物の混入を抑制しつつ、ゲル化剤含有液を効率良く冷却できる。
【0013】
この発明の一実施形態では、前記物理洗浄工程の実行中においても、前記第2主面に対する冷却が継続される。そのため、物理洗浄工程の実行中に、第1主面上のゲルがゾル化することを抑制できる。したがって、物理洗浄工程によって分裂したゲルとともに除去対象物を基板の第1主面外へ排出する前に、除去対象物がゲルから脱落することを抑制できる。
【0014】
この発明の一実施形態では、前記物理洗浄工程において前記第1主面に向けて噴射される前記洗浄液の温度が、前記ゲル化剤の融点よりも低い温度である。そのため、洗浄液と第1主面上のゲルとの接触に起因するゲルの温度上昇を抑制できるので、第1主面上のゲルがゾル化することを抑制できる。
この発明の一実施形態では、前記物理洗浄工程が、前記洗浄液の複数の液滴をスプレーノズルから前記第1主面に向けて噴射する液滴噴射工程を含む。
【0015】
第1主面に向けて噴射された洗浄液は、第1主面上のゲルに衝突する際にゲルに物理力を付与する。そのため、洗浄液の複数の液滴を第1主面に向けて噴射する場合には、液滴が第1主面上のゲルに衝突する度に第1主面上のゲルに物理力が付与される。一方、洗浄液の連続流を第1主面に向けて噴射する場合には、洗浄液が最初に第1主面上のゲルに衝突する際に比較的大きな物理力がゲルに付与されるが、その後にゲルに付与される物理力は比較的小さい。
【0016】
したがって、洗浄液の複数の液滴を第1主面に向けて噴射すれば、洗浄液の連続流を第1主面に向けて噴射する場合と比較して、第1主面上のゲルに安定的に物理力を付与することができる。そのため、ゲルを短時間で分裂させ、ゲルを除去対象物とともに短時間で第1主面外へ排出できる。
この発明の一実施形態では、前記ゲル化剤の融点が前記ゲル化剤の凝固点よりも高い。そのため、ゲル化剤含有液を冷却してゲルを形成した後に、意図しない温度上昇によってゲルが直ぐにゲル化剤含有液に戻ることを抑制できる。すなわち、一旦形成されたゲルの意図しないゾル化を抑制できる。
【0017】
たとえば、前記ゲル化剤の融点は、20℃以上30℃以下であり、前記ゲル化剤の凝固点は、15℃以上25℃以下である。ゲル化剤の凝固点は、室温(たとえば、25℃)以下であることが特に好ましい。そうであれば、ゲル化工程においてゲル化剤含有液が冷却される前に、すなわち、第1主面に供給される前に、または、第1主面に供給された直後にゲル化剤含有液がゲル化することを抑制できる。したがって、基板を冷却する前に、ゲル化剤含有液を室温よりも高い温度に保つためにゲル化剤含有液を加熱する必要がないので、ゲル化剤含有液の扱いが容易となる。
【0018】
この発明の一実施形態では、ゲル化剤がゼラチン、寒天、またはこれらの混合物である。その場合、第1主面に形成されるゲルは親水性である。
そのため、第1主面が疎水面である場合には、第1主面が親水面である場合と比較して、第1主面に対するゲルの密着度が低い。そのため、第1主面への洗浄液の噴射によって、第1主面からゲルを容易に引き離すことができる。疎水面は、親水面よりも疎水性が高い(親水性が低い)面である。
【0019】
一方、第1主面が親水面である場合には、第1主面が疎水面である場合と比較して、第1主面に対するゲルの密着度が高い。そのため、第1主面への洗浄液の噴射によって、第1主面からゲルを充分に引き離すことができない場合もあり得る。その場合であっても、物理洗浄工程の後に、基板を加熱することによってゲルをゾル化して、ゾル化によって形成されたゲル化剤含有液をリンス液とともに第1主面外に排出できる。これにより、第1主面にゲルが残存することを抑制できる。したがって、第1主面が疎水面および親水面のいずれであるかにかかわらず、第1主面から除去対象物を効率良く除去できる。
【0020】
この発明の一実施形態では、前記基板の前記第1主面は、研磨剤を用いたCMPによって形成された平坦面である。そのため、第1主面には、研磨残渣が付着している。研磨残渣は、CMPに用いる研磨剤と、研磨によって基板から生じるパーティクルとを含む。
第1主面に付着している研磨残渣は、第1主面と化学結合しており、研磨剤および研磨残渣を第1主面から除去するためには比較的大きい物理力が必要である。さらに研磨残渣の粒径は、比較的小さく、たとえば、第1主面上を流れる洗浄液の境界層厚さよりも小さい。研磨残渣の粒径は、具体的には、20nm以下である。粒径は、対象物を完全な球体と仮定した場合に、その直径に相当する便宜的な値である。
【0021】
境界層厚さは、洗浄液の液流において粘性の影響を強く受ける厚さのことであり、境界層厚さよりも第1主面から離間した位置では、洗浄液から付与される物理力が大きく、境界層厚さよりも第1主面に近い位置では、洗浄液から付与される物理力が小さい。
そこで、研磨残渣を保持するゲルに物理力を付与してゲルを分裂させることで研磨残渣の見かけのサイズを拡大すれば、洗浄液の液流から付与される物理力を大きくすることができる。したがって、洗浄液の液流によって、研磨残渣を第1主面から効率良く除去できる。研磨残渣の粒径が洗浄液の境界層厚さよりも小さい場合には、研磨残渣の見かけのサイズを境界層厚さよりも大きくすることが特に好ましい。
【0022】
また、第1主面がCMPによって形成された平坦面であれば、凹凸パターンの倒壊を考慮することなく第1主面に大きな物理力を付与できる。そのため、物理洗浄工程において充分な物理力をゲルに付与することができる。したがって、除去対象物を一層効率良く除去することができる。
この発明の一実施形態では、前記ゲル化工程が、前記ゲルによって構成され、前記第1主面上の除去対象物を保持するゲル膜を形成するゲル膜形成工程を含む。前記物理洗浄工程が、前記洗浄液によって前記ゲル膜を分裂させて、前記除去対象物を保持するゲル膜片を形成し、前記洗浄液とともに前記ゲル膜片を前記第1主面外へ排出するゲル膜片排出工程を含む。
【0023】
この方法によれば、洗浄液の物理力によってゲル膜を分裂させることで、除去対象物を保持する膜片が形成される。膜片に除去対象物を保持させることで、第1主面上の除去対象物の見かけのサイズを拡大できる。そのため、膜片に保持されている除去対象物は、膜片に保持されていない除去対象物と比較して、洗浄液の液流から物理力を受け易い。したがって、ゲルが形成された第1主面に向けて洗浄液を供給することで、除去対象物を第1主面から効率良く洗浄液とともに基板の第1主面外へ排出できる。
【0024】
その後、基板を加熱し、かつ、第1主面にリンス液を供給することによって、洗浄液による洗浄の後に第1主面に残るゲル膜残渣がゾル化してゲル化剤含有液に変化する。ゲル膜残渣をゾル化することによって、ゾル化によって形成されたゲル化剤含有液をリンス液中に分散させながら、当該ゲル化剤含有液をリンス液とともに基板の第1主面外へ排出できる。これにより、リンス工程の後に第1主面にゲルが残存することを抑制できる。
【0025】
この発明の一実施形態では、前記リンス工程が、前記物理洗浄工程の後に前記第1主面に残存するゲル膜残渣を加熱によってゾル化させるゾル化工程を含む。
この発明の他の実施形態は、第1主面および前記第1主面とは反対側の第2主面を有する基板を処理する基板処理方法であって、ゲル化剤を含有するゲル化剤含有液を前記第1主面に供給するゲル化剤含有液供給工程と、前記ゲル化剤含有液供給工程の後、前記ゲル化剤の凝固点以下の温度を有する冷却流体を冷却流体ノズルから前記第2主面に向けて吐出する冷却流体吐出工程と、前記冷却流体吐出工程の後、前記第1主面に向けて洗浄液を噴射する洗浄液噴射工程と、前記洗浄液噴射工程の後、前記ゲル化剤の融点以上の温度を有するリンス液をリンス液ノズルから前記第1主面に向けて吐出するリンス液吐出工程とを含む、基板処理方法を提供する。
【0026】
この方法によれば、ゲル化剤を含有するゲル化剤含有液が基板の第1主面に供給される。ゲル化剤の凝固点以下の温度を有する冷却流体が冷却流体ノズルから基板の第2主面に向けて吐出されることによって、基板を介してゲル化剤含有液が冷却される。これにより、ゲル化剤含有液がゲルに変化する。そのため、ゲルを基板の第1主面上に存在する除去対象物に密着させて、当該ゲルに除去対象物を強固に保持させることができる。
【0027】
基板の第1主面に向けて洗浄液を噴射することで、ゲルに物理力を付与することができる。そのため、基板の第1主面上のゲルは、除去対象物を保持しながら分裂し、除去対象物とともに第1主面から引き離される。第1主面に供給された洗浄液は、第1主面上で液流を形成し、分裂したゲルを第1主面外へ押し出す。
除去対象物を強固に保持している状態のゲルに物理力を付与してゲルを分裂させるため、分裂後のゲルにも除去対象物が保持されている。そのため、分裂後のゲルに保持されている除去対象物は、その見かけのサイズが拡大されている。そのため、ゲルに保持されている除去対象物は、ゲルが付着していない除去対象物と比較して、洗浄液の液流から物理力を受け易い。したがって、ゲルが形成された第1主面に向けて洗浄液を供給することで、除去対象物を第1主面から効率良く除去できる。
【0028】
以上のように、硫酸を用いることなく、すなわち、環境負荷を低減しつつ、基板から除去対象物を除去することができる。
その後、ゲル化剤の融点以上の温度を有するリンス液をリンス液ノズルから第1主面に向けて吐出することで、第1主面に残るゲルの残渣がゲル化剤の融点以上の温度に加熱されゾル化する。これにより、ゲル化剤含有液に変化させることができる。そのため、ゾル化によって形成されたゲル化剤含有液をリンス液中に分散させながら、当該ゲル化剤含有液をリンス液とともに基板外へ排出できる。これにより、第1主面にゲルが残存することを抑制できる。
【0029】
この発明のさらに他の実施形態は、第1主面および前記第1主面とは反対側の第2主面を有する基板を処理する基板処理装置であって、ゲル化剤を含有するゲル化剤含有液を前記第1主面に向けて吐出するゲル化剤含有液ノズルと、前記第2主面を前記ゲル化剤の凝固点以下の温度にまで冷却する冷却ユニットと、前記第1主面を洗浄する洗浄液を前記第1主面に向けて噴射する洗浄液ノズルと、前記第1主面に向けて、前記ゲル化剤の融点以上の温度を有するリンス液を吐出するリンス液ノズルとを含む、基板処理装置を提供する。
【0030】
この装置によれば、ゲル化剤を含有するゲル化剤含有液を、ゲル化剤含有液ノズルから基板の第1主面に向けて吐出することで、第1主面にゲル化剤含有液を供給することができる。冷却ユニットによって基板を冷却することによって、基板を介してゲル化剤含有液が冷却され、ゲル化剤含有液がゲルに変化する。そのため、基板の第1主面上に存在する除去対象物にゲルを密着させて、当該ゲルに除去対象物を強固に保持させることができる。
【0031】
基板の第1主面に向けて洗浄液を噴射することで、当該ゲルに物理力を付与することができる。そのため、第1主面上のゲルは、除去対象物を保持しながら分裂し、分裂したゲルは、除去対象物とともに第1主面から引き離される。第1主面に供給された洗浄液は、第1主面上で液流を形成し、分裂したゲルを第1主面外へ押し出す。
除去対象物を強固に保持している状態のゲルに物理力を付与してゲルを分裂させるため、分裂後のゲルにも除去対象物が保持されている。そのため、分裂後のゲルに保持されている除去対象物は、その見かけのサイズが拡大されている。そのため、ゲルに保持されている除去対象物は、ゲルが付着していない除去対象物と比較して、洗浄液の液流から物理力を受け易い。したがって、ゲルが形成された第1主面に向けて洗浄液を供給することで、除去対象物を第1主面から効率良く除去できる。
【0032】
以上のように、硫酸を用いることなく、すなわち、環境負荷を低減しつつ、基板から除去対象物を除去することができる。
その後、ゲル化剤の融点以上の温度を有するリンス液をリンス液ノズルから第1主面に向けて吐出することで、第1主面にリンス液を供給しながら、洗浄液による洗浄の後に第1主面上に残るゲルの残渣をゾル化できる。そのため、ゾル化によって形成されたゲル化剤含有液をリンス液中に分散させながらリンス液とともに基板外へ排出できる。これにより、第1主面にゲルが残存することを抑制できる。
【0033】
この発明のさらに他の実施形態では、前記冷却ユニットが、前記ゲル化剤含有液ノズルから前記第1主面上に供給された前記ゲル化剤含有液が前記第1主面上に存在する状態で、前記第2主面を冷却する。前記洗浄液ノズルが、前記第1主面上の前記ゲル化剤含有液が前記冷却ユニットによって冷却されて前記第1主面上にゲルが形成されている状態で、前記第1主面に向けて前記洗浄液を噴射する。前記リンス液ノズルが、前記第1主面上に向けて前記洗浄液ノズルから前記洗浄液が噴射された後に、前記リンス液を前記第1主面に向けて供給する。
【0034】
この発明のさらに他の実施形態は、前記ゲル化剤含有液ノズルが、融点が20℃以上30℃以下であり、かつ、凝固点が15℃以上25℃以下である前記ゲル化剤を含有する前記ゲル化剤含有液を前記第1主面に向けて吐出する。
この発明の他の実施形態では、前記ゲル化剤含有液ノズルが、ゼラチン、寒天、またはこれらの混合物である前記ゲル化剤を含有する前記ゲル化剤含有液を前記第1主面に向けて吐出する。
【0035】
この発明の他の実施形態では、前記洗浄液ノズルが、洗浄液の複数の液滴を前記第1主面に向けて噴射するスプレーノズルを含む。
この発明の他の実施形態では、前記洗浄液ノズルが、前記ゲル化剤の凝固点以下の温度を有する洗浄液を前記第1主面に向けて噴射する。
この発明の他の実施形態では、前記冷却ユニットが、前記ゲル化剤の凝固点以下の温度を有する冷却流体を前記第2主面に供給する冷却流体ノズルを含む。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、この発明の第1実施形態に係る基板処理装置の構成例を説明するための平面図である。
図2図2は、前記基板処理装置に備えられる処理ユニットの構成を説明するための模式図である。
図3図3は、前記基板処理装置の電気的構成を説明するためのブロック図である。
図4図4は、前記基板処理装置の処理対象の一例である基板の断面図である。
図5図5は、前記基板処理装置の処理対象の別の例である基板の断面図である。
図6図6は、前記基板処理装置による基板処理の一例を説明するための流れ図である。
図7A図7Aは、前記基板処理が行われているときの基板の様子を説明するための模式図である。
図7B図7Bは、前記基板処理が行われているときの基板の様子を説明するための模式図である。
図7C図7Cは、前記基板処理が行われているときの基板の様子を説明するための模式図である。
図7D図7Dは、前記基板処理が行われているときの基板の様子を説明するための模式図である。
図8A図8Aは、前記基板処理中の基板の第1主面付近の様子を説明するための模式図である。
図8B図8Bは、前記基板処理中の基板の第1主面付近の様子を説明するための模式図である。
図8C図8Cは、前記基板処理中の基板の第1主面付近の様子を説明するための模式図である。
図8D図8Dは、前記基板処理中の基板の第1主面付近の様子を説明するための模式図である。
図8E図8Eは、前記基板処理中の基板の第1主面付近の様子を説明するための模式図である。
図8F図8Fは、前記基板処理中の基板の第1主面付近の様子を説明するための模式図である。
図8G図8Gは、前記基板処理中の基板の第1主面付近の様子を説明するための模式図である。
図9図9は、前記基板処理の第1変形例について説明するための模式図である。
図10図10は、前記基板処理の第2変形例について説明するための模式図である。
図11図11は、前記洗浄液ノズルの変形例について説明するための模式図である。
図12図12は、前記基板処理装置に備えられる冷却ユニットの変形例について説明するための断面図である。
図13図13は、前記基板処理装置に備えられる加熱ユニットの変形例について説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
<第1実施形態に係る基板処理装置1の構成>
図1は、この発明の第1実施形態に係る基板処理装置1の構成例を説明するための平面図である。
基板処理装置1は、基板Wを一枚ずつ処理する枚葉式の装置である。この実施形態では、基板Wは、円板状を有する。基板Wは、シリコンウエハ等の基板Wであり、一対の主面(第1主面W1および第2主面W2)を有する。第2主面W2は、第1主面W1とは反対側の主面である。
【0038】
基板処理装置1は、基板Wを処理する複数の処理ユニット2と、処理ユニット2で処理される複数枚の基板Wを収容するキャリアCが載置されるロードポートLPと、ロードポートLPと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する搬送ロボット(第1搬送ロボットIRおよび第2搬送ロボットCR)と、基板処理装置1に備えられる各部材を制御するコントローラ3とを備える。
【0039】
第1搬送ロボットIRは、キャリアCと搬送ロボットとの間で基板Wを搬送する。第2搬送ロボットCRは、第1搬送ロボットIRと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する。
各搬送ロボットは、たとえば、いずれも、一対の多関節アームARと、上下に互いに離間するように一対の多関節アームARの先端にそれぞれ設けられた一対のハンドHとを含む多関節アームロボットである。
【0040】
複数の処理ユニット2は、水平に離れた4つの位置にそれぞれ配置された4つの処理タワーTWを形成している。各処理タワーTWは、上下方向に積層された複数の処理ユニット2を含む。4つの処理タワーTWは、ロードポートLPから第2搬送ロボットCRに向かって延びる搬送経路TRの両側に2つずつ配置されている。
処理ユニット2は、チャンバ4と、チャンバ4内に配置された処理カップ7とを備えており、処理カップ7内で基板Wに対する処理を実行する。チャンバ4には、第2搬送ロボットCRによって、基板Wを搬入したり基板Wを搬出したりするための出入口(図示せず)が形成されている。チャンバ4には、この出入口を開閉するシャッタユニット(図示せず)が備えられている。
【0041】
図2は、処理ユニット2の構成を説明するための模式図である。
処理ユニット2は、基板Wを所定の処理姿勢に基板Wを保持しながら、回転軸線A1まわりに基板Wを回転させるスピンチャック5をさらに備える。回転軸線A1は、基板Wの中心部を通り、処理姿勢に保持されている基板Wの各主面に対して直交する。処理姿勢は、たとえば、図2に示す基板Wの姿勢であり、基板Wの主面が水平面となる水平姿勢である。処理姿勢が水平姿勢である場合、回転軸線A1は、鉛直に延びる。スピンチャック5は、基板Wを処理姿勢に保持しながら回転軸線A1まわりに基板Wを回転させる回転保持部材の一例である。
【0042】
スピンチャック5は、水平方向に沿う円板形状を有するスピンベース21と、スピンベース21の上方で基板Wを把持し保持位置に基板Wを保持する複数のチャックピン20と、スピンベース21に上端が連結され鉛直方向に延びる回転軸22と、回転軸22をその中心軸線(回転軸線A1)まわりに回転させる回転駆動機構23とを含む。
複数のチャックピン20は、スピンベース21の周方向に間隔を空けてスピンベース21の上面に配置されている。回転駆動機構23は、たとえば、電動モータ等のアクチュエータである。回転駆動機構23は、回転軸22を回転させることでスピンベース21および複数のチャックピン20が回転軸線A1まわりに回転する。これにより、基板Wは、スピンベース21および複数のチャックピン20とともに回転軸線A1まわりに回転される。
【0043】
複数のチャックピン20は、基板Wの周縁部に接触して基板Wを把持する閉位置と、基板Wの周縁部から退避した開位置との間で移動可能である。複数のチャックピン20は、開閉機構(図示せず)によって移動される。
複数のチャックピン20は、閉位置に位置するとき、基板Wの周縁部を把持して基板Wを水平に保持する。開閉機構は、たとえば、リンク機構と、リンク機構に駆動力を付与するアクチュエータとを含む。
【0044】
処理カップ7は、スピンチャック5に保持されている基板Wから飛散する液体を受ける。処理カップ7は、スピンチャック5に保持された基板Wから外方に飛散する液体を受け止める複数(図2の例では2つ)のガード30と、複数のガード30によって下方に案内された液体をそれぞれ受け止める複数(図2の例では2つ)のカップ31と、複数のガード30および複数のカップ31を取り囲む円筒状の外壁部材32とを含む。複数のガード30は、ガード30昇降駆動機構(図示せず)によって個別に昇降される。ガード30昇降駆動機構は、たとえば、各ガード30を昇降駆動する電動モータまたはエアシリンダ等のアクチュエータを含む。
【0045】
処理ユニット2は、スピンチャック5に保持されている基板Wの上面(上側の主面)に向けてゲル化剤含有液の連続流を吐出するゲル化剤含有液ノズル10と、スピンチャック5に保持されている基板Wの上面に向けて洗浄液を噴射する洗浄液ノズル11と、スピンチャック5に保持されている基板Wの上面に向けてリンス液の連続流を吐出するリンス液ノズル12とをさらに備える。
【0046】
ゲル化剤含有液ノズル10、洗浄液ノズル11、および、リンス液ノズル12は、いずれも、少なくとも水平方向に移動可能な移動ノズルである。ゲル化剤含有液ノズル10、洗浄液ノズル11、および、リンス液ノズル12は、複数のノズル移動機構(第1ノズル移動機構35、第2ノズル移動機構36、および、第3ノズル移動機構37)によってそれぞれ水平方向に移動される。
【0047】
各ノズル移動機構は、対応するノズルを、中央位置と退避位置との間で移動させることができる。中央位置は、ノズルが基板Wの上面の中央領域に対向する位置である。基板Wの上面の中央領域とは、基板Wの上面において回転中心(中央部)を含む領域のことである。退避位置は、ノズルが基板Wの上面に対向しない位置であり、処理カップ7の外側の位置である。
【0048】
各ノズル移動機構は、対応するノズルを支持するアーム(第1アーム35a、第2アーム36a、および、第3アーム37a)と、対応するアームを水平方向に移動させるアーム移動機構(第1アーム移動機構35b、第2アーム移動機構36b、および、第3アーム移動機構37c)とを含む。各アーム移動機構は、電動モータ、エアシリンダ等のアクチュエータを含む。
【0049】
この実施形態とは異なり、ゲル化剤含有液ノズル10、洗浄液ノズル11、および、リンス液ノズル12は、共通のノズル移動機構によって一体移動するように構成されていてもよい。各移動ノズルは、所定の回動軸線まわりに回動する回動式ノズルであってもよいし、対応するアームが延びる方向に直線的に移動する直動式ノズルであってもよい。
ゲル化剤含有液ノズル10、洗浄液ノズル11、および、リンス液ノズル12は、鉛直方向にも移動できるように構成されていてもよい。
【0050】
ゲル化剤含有液ノズル10は、ゲル化剤含有液を吐出する単一の吐出口10aを有する。ゲル化剤含有液ノズル10から吐出されるゲル化剤含有液は、ゲル化剤と、ゲル化剤を溶解させる溶媒とを含有している。ゲル化剤含有液に含有される溶媒は、たとえば、DIW(脱イオン水)等の水である。ただし、溶媒は、DIWに限られない。
溶媒は、DIWに限られず、DIW、炭酸水、電解イオン水、希釈濃度(たとえば、1ppm以上で、かつ、100ppm以下)の塩酸水、希釈濃度(たとえば、1ppm以上で、かつ、100ppm以下)のアンモニア水、還元水(水素水)のうちの少なくとも1つを含有する液体である。
【0051】
ゲル化剤は、たとえば、ゼラチン、寒天、またはこれらの混合物である。ゲル化剤含有液は、ゲル化剤の凝固点以下に冷却されることによってゲルに変化する。ゲル化剤含有液がゲルに変化することをゲル化という。ゲルは、ゲル化剤の融点以上に加熱されることによってゲル化剤含有液に変化する。ゲルがゲル化剤含有液に変化することをゾル化という。そのため、ゲル化剤含有液は、ゾルともいう。ゲル化剤含有液ノズル10から吐出されるゲル化剤含有液の温度は、ゲル化剤の凝固点よりも高い。
【0052】
ゲル化剤の融点および凝固点は、通常、互いに異なっており、ゲル化剤の融点は、ゲル化剤の凝固点よりも高い。そのため、ゲル化剤含有液を冷却してゲルを形成した後に、意図しない温度上昇によってゲルが直ぐにゲル化剤含有液に戻ることを抑制できる。すなわち、一旦形成されたゲルの意図しないゾル化を抑制できる。
ゲル化剤の融点は、たとえば、20℃以上30℃以下であり、ゲル化剤の凝固点は、たとえば、15℃以上25℃以下である。
【0053】
ゲル化剤の凝固点は、基板処理装置1が配置されるクリーンルーム内の室温(たとえば、25℃)以下であることが特に好ましい。そうであれば、ゲル化剤含有液ノズル10から吐出される前、または、第1主面W1に供給された直後にゲル化剤含有液がゲル化することを抑制できる。したがって、ゲル化剤含有液ノズル10に供給されるゲル化剤含有液を室温よりも高い温度に保つためにゲル化剤含有液を加熱する必要がないため、ゲル化剤含有液の扱いが容易となる。
【0054】
ゲル化剤の融点および凝固点は、エッチングゲル化剤含有液中のゲル化剤の配合率(濃度)、ゲル化剤の種類等によって変化する。たとえば、ゲル化剤含有液がゲル化剤としてゼラチンのみを含む場合、ゲル化剤の融点が20℃以上30℃以下で、かつ、ゲル化剤の凝固点が15℃以上25℃以下となり易い。たとえば、ゲル化剤がゼラチンであり、ゲル化剤含有液中のゼラチンの濃度が10%であれば、ゲル化剤の融点が23℃以上30℃以下となる。
【0055】
ゲル化剤の融点および凝固点は、上記の範囲に限られない。ゲル化剤が寒天のみを含む場合には、ゲル化剤の融点は85℃以上93℃以下となり、ゲル化剤の凝固点は33℃以上45℃以下となる場合がある。
以下では、ゲル化剤の融点が20℃以上30℃以下であり、ゲル化剤の凝固点が15℃以上25℃以下であるゲル化剤含有液を用いる例について説明する。この場合、ゲル化剤含有液は、室温でゾル状態を維持でき、15℃未満(たとえば、10℃程度)に冷却することでゲル化する。ゲルは、室温またはそれ以上の温度(たとえば、40℃程度)に加熱することでゾル化する。
【0056】
ゲル化剤含有液ノズル10は、ゲル化剤含有液ノズル10にゲル化剤含有液を案内するゲル化剤含有液配管40に接続されている。ゲル化剤含有液配管40には、ゲル化剤含有液配管40によって構成されるゲル化剤含有液流路を開閉するゲル化剤含有液バルブ50Aと、ゲル化剤含有液流路内のゲル化剤含有液の流量を調整するゲル化剤含有液流量調整バルブ50Bとが設けられている。
【0057】
ゲル化剤含有液バルブ50Aが開かれると、ゲル化剤含有液流量調整バルブ50Bの開度に応じた流量で、ゲル化剤含有液が、ゲル化剤含有液ノズル10の吐出口10aから下方に連続流で吐出される。
洗浄液ノズル11は、洗浄液の複数の液滴を噴射するスプレーノズルである。この実施形態の洗浄液ノズル11は、複数の噴射口11aを有し、電圧の印加によって各噴射口11aから洗浄液の複数の液滴(洗浄液滴)を噴射する。洗浄液ノズル11が基板Wの上面に向けて複数の洗浄液滴を噴射することで、基板Wの上面を物理洗浄できる。詳しくは、基板Wの上面にゲルが形成されている状態で、基板Wの上面に向けて複数の洗浄液滴を噴射すれば、基板Wの上面上のゲルに物理力を付与して、ゲルを分裂させることができる。物理力は、洗浄液が基板W上のゲルに与える衝撃(運動エネルギー)である。
【0058】
洗浄液ノズル11から噴射される洗浄液は、たとえば、DIW等の水である。洗浄液は、DIWに限られず、DIW、炭酸水、電解イオン水、希釈濃度(たとえば、1ppm以上で、かつ、100ppm以下)の塩酸水、希釈濃度(たとえば、1ppm以上で、かつ、100ppm以下)のアンモニア水、還元水(水素水)のうちの少なくとも1つを含有する。
【0059】
洗浄液ノズル11は、洗浄液ノズル11に洗浄液を案内する洗浄液供給配管41と、洗浄液ノズル11から洗浄液を排出する洗浄液排出配管42とに接続されている。洗浄液供給配管41には、洗浄液供給配管41によって構成される洗浄液供給流路を開閉する洗浄液供給バルブ51Aと、洗浄液供給流路内の洗浄液を洗浄液ノズル11に送り出す洗浄液ポンプ51Bと、洗浄液供給流路内の洗浄液をゲル化剤の融点よりも低い温度に冷却する洗浄液クーラ51Cとが設けられている。洗浄液排出配管42には、洗浄液排出配管42によって構成される洗浄液排出流路を開閉する洗浄液排出バルブ52Aが設けられている。
【0060】
洗浄液は、洗浄液クーラ51Cによって、たとえば、5℃以上20℃未満の温度にまで冷却される。洗浄液の温度は、5℃以上15℃以下であることが一層好ましい。
洗浄液供給流路に供給される洗浄液がゲル化剤の融点よりも低い温度に事前に冷却されている場合には、洗浄液クーラ51Cは不要である。
洗浄液ポンプ51Bは、常時、所定圧力(たとえば、10MPa以下)で洗浄液ノズル11に送り出す。洗浄液ポンプ51Bは、洗浄液ノズル11に供給される洗浄液の圧力を任意の圧力に変更することができる。
【0061】
洗浄液ノズル11には、圧電素子58(ピエゾ素子)が内蔵されている。圧電素子58は、配線を介して電圧印加ユニット59に接続されている。電圧印加ユニット59、たとえば、インバータを含む。電圧印加ユニット59は、交流電圧を圧電素子58に印加する。交流電圧が圧電素子58に印加されると、印加された交流電圧の周波数に対応する周波数で圧電素子58が振動する。電圧印加ユニット59は、圧電素子58に印加される交流電圧の周波数を任意の周波数(たとえば、数百KHz~数MHz)に変更することができる。
【0062】
洗浄液供給バルブ51Aが開かれている状態で洗浄液ポンプ51Bが駆動されるため、洗浄液ノズル11には、常時、高圧で除去液が供給されている。洗浄液排出バルブ52Aが閉じられている状態では、洗浄液ノズル11の内部に供給された洗浄液は、液圧によって各噴射口11aから噴射される。さらに、洗浄液排出バルブ52Aが閉じられている状態で、交流電圧が圧電素子58に印加されると、洗浄液ノズル11内の洗浄液に圧電素子58の振動が付与され、各噴射口11aから噴射される洗浄液が、この振動によって分断される。そのため、洗浄液排出バルブ52Aが閉じられている状態で、交流電圧が圧電素子58に印加されると、洗浄液の液滴(洗浄液滴103)が各噴射口11aから噴射される。これにより、粒径が均一な多数の洗浄液滴103が均一な速度で同時に噴射される。
【0063】
洗浄液ノズル11に供給される洗浄液は、洗浄液クーラ51Cによってゲル化剤の融点よりも低いの温度に冷却されているため、複数の噴射口11aから噴射される複数の洗浄液滴103は、ゲル化剤の融点よりも低い温度(たとえば、5℃以上20℃未満の温度)を有する。
一方、洗浄液排出バルブ52Aが開かれている状態では、洗浄液ノズル11内の洗浄液が、洗浄液排出配管42に排出される。すなわち、洗浄液排出バルブ52Aが開かれている状態では、洗浄液ノズル11内の液圧が十分に上昇していないため、洗浄液ノズル11内の洗浄液は、微細孔である噴射口11aから噴射されずに、洗浄液排出配管42に排出される。したがって、噴射口11aからの洗浄液の吐出は、洗浄液排出バルブ52Aの開閉により制御される。
【0064】
リンス液ノズル12は、リンス液を吐出する単一の吐出口12aを有する。リンス液ノズル12から吐出されるリンス液は、たとえば、DIW等の水である。リンス液は、DIWに限られず、DIW、炭酸水、電解イオン水、希釈濃度(たとえば、1ppm以上で、かつ、100ppm以下)の塩酸水、希釈濃度(たとえば、1ppm以上で、かつ、100ppm以下)のアンモニア水、還元水(水素水)のうちの少なくとも1つを含有する液体である。
【0065】
ゲル化剤含有液中の溶媒、洗浄液、および、リンス液は、いずれも、水系の液体である。ゲル化剤含有液中の溶媒、洗浄液、および、リンス液として、同じ成分からなる液体(たとえば、DIW)を用いれば、ゲル化剤含有液ノズル10、洗浄液ノズル11、および、リンス液ノズル12に供給するための液体を貯留するためのタンクの数を削減することができる。
【0066】
リンス液ノズル12は、リンス液ノズル12にリンス液を案内するリンス液配管43に接続されている。リンス液配管43には、リンス液配管43によって構成されるリンス液流路を開閉するリンス液バルブ53Aと、リンス液流路内のリンス液の流量を調整するリンス液流量調整バルブ53Bと、リンス液流路内のリンス液をゲル化剤の融点以上の温度にまで加熱するリンス液ヒータ53Cとが設けられている。
【0067】
リンス液は、リンス液ヒータ53Cによって、たとえば、30℃よりも高く50℃以下である温度にまで加熱される。リンス液の温度は、40℃以上50℃以下であることが一層好ましい。
リンス液流路に供給されるリンス液がゲル化剤の融点以上の温度に事前に加熱されている場合には、リンス液ヒータ53Cは不要である。
【0068】
リンス液バルブ53Aが開かれると、リンス液流量調整バルブ53Bの開度に応じた流量で、リンス液が、リンス液ノズル12の吐出口12aから下方に連続流で吐出される。
処理ユニット2は、スピンチャック5に保持された基板Wの下面(下側の主面)に流体を供給する下側流体ノズル13をさらに備える。
下側流体ノズル13は、回転軸22の内部空間と、スピンベース21の上面中央部で開口する貫通孔21aとに挿入されている。下側流体ノズル13の吐出口13aは、スピンベース21の上面から露出されている。下側流体ノズル13の吐出口13aは、基板Wの下面の中央領域に下方から対向する。基板Wの下面の中央領域とは、基板Wの下面において基板Wの回転中心(中央部)を含む領域のことである。
【0069】
下側流体ノズル13は、流体として、たとえば、ゲル化剤の凝固点以下の温度を有する冷却流体と、ゲル化剤の融点以上の温度を有する加熱流体とを、選択的に、基板Wの下面に供給する。冷却流体は、たとえば、5℃以上15℃未満の温度を有する。加熱流体は、たとえば、30℃よりも高く50℃以下である温度を有する。
冷却流体および加熱流体は、たとえば、DIW等の水である。言い換えると、冷却流体は、冷水であり、加熱流体は、温水であってもよい。冷却流体および加熱流体は、水以外の液体であってもよい。冷却流体および加熱流体は、液体である必要はなく、窒素ガス、希ガス等の不活性ガスであってもよい。不活性ガスは、基板Wの主面に対する反応性が無視できるほど低いガスである。
【0070】
基板Wの下面を冷却流体で冷却することによって、基板Wの下面をゲル化剤の凝固点以下の温度にまで冷却することができる。基板Wの下面への冷却を継続することで、基板Wの全体をゲル化剤の凝固点以下の温度にまで冷却することができる。基板Wを速やかに冷却するためには、冷却流体の温度は、凝固点よりもさらに低い温度(たとえば、5℃以上10℃以下)であることが一層好ましい。基板Wの下面を加熱流体で加熱することによって、基板Wの下面をゲル化剤の融点以上の温度にまで加熱することができる。基板Wの下面への加熱を継続することで、基板Wの全体をゲル化剤の融点以上の温度にまで加熱することができる。基板Wを速やかに加熱するためには、加熱流体の温度は、融点よりもさらに高い温度(たとえば、40℃以上50℃以下)であることが一層好ましい。
【0071】
下側流体ノズル13は、ゲル化剤の凝固点以下の温度を有する冷却流体を基板Wの下面(第2主面W2)に向けて吐出する冷却流体ノズルの一例であり、ゲル化剤の融点以上の温度を有する加熱流体を基板Wの下面(第2主面W2)に向けて吐出する加熱流体ノズルの一例である。
下側流体ノズル13は、基板Wの下面(第2主面W2)を冷却する冷却ユニットの一例であり、基板Wの下面(第2主面W2)を加熱する加熱ユニットの一例である。
【0072】
下側流体ノズル13は、下側流体ノズル13に流体を案内する流体配管44に接続されている。流体配管44には、流体配管44に冷却流体を供給する冷却流体配管45、および、流体配管44に加熱流体を供給する加熱流体配管46が接続されている。流体配管44は、ミキシングバルブ(図示せず)を介して冷却流体配管45および加熱流体配管46と接続されていてもよい。
【0073】
流体配管44には、流体配管44によって構成される流路を開閉する流体バルブ54が設けられている。冷却流体配管45には、冷却流体配管45によって構成される冷却流体流路を開閉する冷却流体バルブ55Aと、冷却流体流路内の冷却流体の流量を調整する冷却流体流量調整バルブ55Bとが設けられている。加熱流体配管46には、加熱流体配管46によって構成される加熱流体流路を開閉する加熱流体バルブ56Aと、加熱流体流路内の加熱流体の流量を調整する加熱流体流量調整バルブ56Bとが設けられている。
【0074】
冷却流体配管45には、ゲル化剤の凝固点以下の温度にまで流体を冷却する流体クーラ55Cが設けられている。上述したように、ゲル化剤の融点はゲル化剤の凝固点よりも高い。そのため、ゲル化剤の凝固点以下の温度であれば、当該温度は、ゲル化剤の融点よりも低い。加熱流体配管46には、ゲル化剤の融点以上の温度にまで流体を加熱する流体ヒータ56Cが設けられている。
【0075】
冷却流体流路に供給される流体がゲル化剤の凝固点以下の温度に事前に冷却されている場合には、流体クーラ55Cは不要である。加熱流体流路に供給される流体がゲル化剤の融点以上の温度に事前に加熱されている場合には、流体ヒータ56Cは不要である。
図3は、基板処理装置1の制御に関する構成例を説明するためのブロック図である。コントローラ3は、マイクロコンピュータを備え、所定の制御プログラムに従って基板処理装置1に備えられた制御対象を制御する。
【0076】
具体的には、コントローラ3は、プロセッサ3A(CPU)と、制御プログラムが格納されたメモリ3Bとを含む。コントローラ3は、プロセッサ3Aが制御プログラムを実行することによって、基板処理のための様々な制御を実行するように構成されている。とくに、コントローラ3は、第1搬送ロボットIR、第2搬送ロボットCR、回転駆動機構23、第1ノズル移動機構35、第2ノズル移動機構36、第3ノズル移動機構37、リンス液ヒータ53C、流体ヒータ56C、洗浄液クーラ51C、流体クーラ55C、洗浄液ポンプ51B、電圧印加ユニット59、ゲル化剤含有液バルブ50A、ゲル化剤含有液流量調整バルブ50B、洗浄液供給バルブ51A、洗浄液排出バルブ52A、リンス液バルブ53A、リンス液流量調整バルブ53B、流体バルブ54、冷却流体バルブ55A、冷却流体流量調整バルブ55B、加熱流体バルブ56A、加熱流体流量調整バルブ56B等を制御するようにプログラムされている。
【0077】
コントローラ3によってバルブが制御されることによって、対応するノズルからの流体の吐出の有無や、対応するノズルからの流体の吐出流量が制御される。後述する図6に示す各工程は、コントローラ3が基板処理装置1に備えられる各部材を制御することにより実行される。言い換えると、コントローラ3は、後述する図6に示す各工程を実行するようにプログラムされている。
【0078】
<処理対象となる基板の構成>
次に、基板処理装置1に用いられる基板Wの構成について説明する。
基板処理装置1に用いられる基板Wの第1主面W1は、たとえば、平坦面である。基板処理装置1に用いられる基板Wの第1主面W1は、たとえば、シリコン(Si)、窒化シリコン(SiN)、酸化シリコン(SiO)、シリコンゲルマニウム(SiGe)、ゲルマニウム(Ge)、窒素ドープドシリコンカーバイド(SiCN)、タングステン(W)、窒化チタン(TiN)、コバルト(Co)、銅(Cu)、ルテニウム(Ru)およびアモルファスカーボン(a-C)のうちの一種またはこれらのうちの複数種が露出する面である。
【0079】
第1主面W1は、疎水面であってもよいし、親水面であってもよい。疎水面は、親水面よりも疎水性が高い(親水性が低い)面である。疎水面に対するDIWの接触角は、親水面に対するDIWの接触角よりも大きい。
第1主面W1に対するDIWの接触角は、第1主面W1から露出する成分と、第1主面W1の形状とに依存する。第1主面W1から露出する成分の疎水性が高ければ、接触角は大きくなる。第1主面W1に微細な凹凸が形成されていれば、接触角は大きくなる。
【0080】
たとえば、第1主面W1から、SiCN、TiN、Si、a-C、Ru等が露出する場合には、第1主面W1に対するDIWの接触角が40°以上となることがある。第1主面W1からSiやTiNが露出する場合には、酸化剤を含有するAPM(ammonia-hydrogen peroxide mixture:アンモニア過酸化水素混合液)液等の薬液で処理することで、第1主面W1の接触角を40°未満に低下させることができる。
【0081】
基板処理装置1に用いられる基板Wの代表的なものとして、たとえば、研磨剤(スラリー)を用いたCMPが実行された基板が挙げられる。CMPが実行されることによって第1主面W1が平坦面にされてる。
図4は、基板処理装置1の処理対象の一例である基板Wの断面図である。図4に示す基板Wは、酸化セリウム(CeO)を研磨剤とするCMPを素子分離層に施した後の基板Wである。素子分離層は、基板Wの主面に形成されるデバイス同士を電気的に分離するための絶縁体層である。
【0082】
図4に示す基板Wは、半導体層70と、半導体層70上に形成された第1絶縁体層71と、半導体層70および第1絶縁体層71に亘って形成された複数のトレンチ72と、複数のトレンチ72にそれぞれ埋設される複数の第2絶縁体層73とを含む。トレンチ72は、第1絶縁体層71を貫通している。トレンチ72は、半導体層70によって区画される底部72aを有する。
【0083】
半導体層70は、たとえば、ポリシリコン層である。第1絶縁体層71は、たとえば、窒化シリコン層(SiN層)であり、第2絶縁体層73は、酸化シリコン層(SiO層)である。第2絶縁体層73は、素子分離層である。図4に示す基板Wの第1主面W1からは、第1絶縁体層71および第2絶縁体層73が露出している。そのため、基板Wの第1主面W1からは、窒化シリコンおよび酸化シリコンが露出している。
【0084】
図4に示す基板Wの第1主面W1には、除去対象物80として、研磨残渣が付着している。研磨残渣は、研磨剤である酸化セリウムと、第1絶縁体層71および第2絶縁体層73が研磨される際に生じたパーティクルとを含む。
図5は、基板処理装置1の処理対象の別の例である基板Wの断面図である。図5に示す基板Wは、酸化シリコンを研磨剤とするCMPを低誘電率層(Low-k層)に施した後の基板Wである。
【0085】
図5に示す基板Wは、絶縁体層75と、絶縁体層75に形成された複数のトレンチ76と、複数のトレンチ76にそれぞれ埋設される金属層77とを含む。トレンチ76は、絶縁体層によって区画される底部76aを有する。
絶縁体層75は、低誘電率層であり、たとえば、酸化シリコンよりも誘電率が低い窒素ドープドシリコンカーバイド層(SiCN層)である。金属層77は、たとえば、銅層(Cu層)である。図5に示す基板Wの第1主面W1からは、絶縁体層75および金属層77が露出している。そのため、基板Wの第1主面W1からはSiCN層およびCu層が露出している。
【0086】
図5に示す基板Wの第1主面W1には、除去対象物80として、研磨残渣が付着している。研磨残渣は、研磨剤である酸化シリコンと、絶縁体層および金属層77が研磨される際に生じたパーティクルとを含む。
図4に示す基板Wの第1主面W1および図5に示す基板Wの第1主面W1に付着している研磨残渣は、第1主面W1と化学結合しており、研磨剤および研磨残渣を第1主面W1から除去するためには比較的強力な物理力を付与する必要がある。さらに研磨残渣の大きさは、比較的小さく、たとえば、第1主面W1上を流れる洗浄液の境界層厚さよりも小さい。研磨残渣の粒径は、具体的には、20nm以下である。
【0087】
基板処理装置1の処理対象となる基板Wは、図4に示す基板Wおよび図5に示す基板Wには限られない。基板Wは、CMPが施された基板Wである必要はなく、必ずしも第1主面W1が平坦面でなくてもよい。また、第1主面W1は、CMP以外の手法によって形成された平坦面であってもよい。
なお、基板Wの第2主面W2は、第1主面W1と同様の構成を有していてもよいし、第1主面W1とは異なる構成を有していてもよい。
【0088】
<基板処理の一例>
図6は、基板処理装置1によって実行される基板処理の一例を説明するためのフローチャートである。図6には、主として、コントローラ3がプログラムを実行することによって実現される処理が示されている。
基板処理装置1による基板処理では、たとえば、図6に示すように、基板搬入工程(ステップS1)、ゲル化剤含有液供給工程(ステップS2)、ゲル化工程(ステップS3)、物理洗浄工程(ステップS4)、リンス工程(ステップS5)、スピンドライ工程(ステップS6)および基板搬出工程(ステップS7)がこの順番で実行される。
【0089】
図7A図7Dは、基板処理の各工程の様子を説明するための模式図である。以下では、図2および図6を主に参照し、基板処理の詳細について説明する。図7A図7Dについては適宜参照する。
まず、未処理の基板Wは、第2搬送ロボットCR(図1を参照)によってキャリアCから処理ユニット2に搬入され、スピンチャック5に渡される(基板搬入工程:ステップS1)。これにより、基板Wは、スピンチャック5によって水平に保持される(基板保持工程)。この基板処理では、基板Wは、第1主面W1が上面となるように保持される。基板Wは、スピンドライ工程(ステップS6)が終了するまで、スピンチャック5によって保持され続ける。スピンチャック5に基板Wが保持されている状態で、回転駆動機構23が基板Wの回転を開始する(基板回転工程)。
【0090】
搬送ロボットが処理ユニット2外に退避した後、基板Wの上面にゲル化剤含有液を供給するゲル化剤含有液供給工程(ステップS2)が実行される。
具体的には、第1ノズル移動機構35が、ゲル化剤含有液ノズル10を処理位置に移動させる。ゲル化剤含有液ノズル10が処理位置に位置する状態で、ゲル化剤含有液バルブ50Aが開かれる。これにより、図7Aに示すように、基板Wの上面に向けて、ゲル化剤含有液ノズル10からゲル化剤含有液の連続流が吐出(供給)される(ゲル化剤含有液吐出工程、ゲル化剤含有液供給工程)。ゲル化剤含有液ノズル10から吐出されたゲル化剤含有液は、基板Wの上面に着液する。基板Wの上面に着液したゲル化剤含有液は、着液点から基板Wの上面の周縁に向かって放射状に広がる。
【0091】
この基板処理では、ゲル化剤含有液ノズル10の処理位置は、中央位置である。そのため、ゲル化剤含有液は、基板Wの上面の中央領域に着液する。この実施形態とは異なり、ゲル化剤含有液ノズル10は、基板Wの上面に沿って水平移動しながらゲル化剤含有液を吐出してもよい。
ゲル化剤含有液供給工程(ステップS2)の後、基板Wを冷却して基板Wの上面上のゲル化剤含有液をゲル化させるゲル化工程(ステップS3)が実行される。
【0092】
具体的には、ゲル化剤含有液バルブ50Aを閉じてゲル化剤含有液の吐出を停止させ、その代わりに、流体バルブ54および冷却流体バルブ55Aが開かれる。これにより、図7Bに示すように、基板Wの下面に向けて下側流体ノズル13から冷水等の冷却流体が吐出(供給)される(冷却流体吐出工程、冷却流体供給工程)。ゲル化剤含有液バルブ50Aが閉じられた後、第1ノズル移動機構35が、ゲル化剤含有液ノズル10を退避位置に移動させる。
【0093】
下側流体ノズル13から吐出された冷却流体は、基板Wの下面の中央領域に着液(衝突)する。冷却流体は、遠心力の作用によって、基板Wの下面の全体に広がる。これにより、冷却流体によって下方(第2主面W2側)から基板Wが冷却され、基板Wを介してゲル化剤含有液が冷却される。すなわち、基板Wの下面(第2主面W2)が冷却流体によって冷却されることによって、基板Wの上面上のゲル化剤含有液が冷却される(第2主面冷却工程)。基板Wの上面上のゲル化剤含有液が冷却によってゲル化し、基板Wの上面のほぼ全体を覆うゲル膜81が基板Wの上面上に形成される(ゲル化工程、ゲル膜形成工程)。
【0094】
基板Wの下面を冷却すれば、基板W以外の部材をゲル化剤含有液に接触させることなく、基板Wを介して基板W上のゲル化剤含有液を冷却できる。したがって、ゲル化剤含有液への不純物の混入を抑制しつつ、ゲル化剤含有液を効率良く冷却できる。
冷却流体は、流体クーラ55Cによってゲル化剤の凝固点以下の温度にまで冷却されている。そのため、冷却流体を基板Wの下面に供給することによって、基板W上のゲル化剤含有液の温度がゲル化剤の凝固点以下の温度にまで低下する。これにより、ゲル化剤含有液のゲル化を促進できる。このように、下側流体ノズル13の冷却流体の供給という簡易な手法で、基板Wの第2主面W2を冷却できる。
【0095】
基板W上のゲル化剤含有液は、基板Wの回転に起因する遠心力の作用によって、基板Wの上面外へ排出される。そのため、基板Wの上面上のゲル化剤含有液の液膜が薄膜化される(薄膜化工程)。基板W上のゲル化剤含有液の量が低減されることによって、ゲル化剤含有液の液膜の全体の温度が低下し易くなる。つまり、ゲル化剤含有液のゲル化が促進される。
【0096】
ゲル化工程(ステップS3)の後、基板W上にゲル膜81が形成されている状態の基板Wを冷却しながら、ゲル膜81が形成されている状態の基板Wの上面に向けて洗浄液を噴射して基板Wの上面を洗浄する物理洗浄工程(ステップS4)が実行される。
具体的には、第2ノズル移動機構36が洗浄液ノズル11を処理位置に移動させる。洗浄液ノズル11が処理位置に位置する状態で、洗浄液排出バルブ52Aが閉じられ、かつ、圧電素子58に交流電圧が印加される。これにより、図7Cに示すように、基板Wの上面に向けて複数の洗浄液滴103が洗浄液ノズル11から噴射される(洗浄液噴射工程、液滴噴射工程)。そして、流体バルブ54および冷却流体バルブ55Aが閉じられて、基板Wの下面への冷却流体の供給が停止される。
【0097】
洗浄液ノズル11から噴射された複数の洗浄液滴103は、基板Wの上面上のゲル膜81に衝突する。複数の洗浄液滴103がゲル膜81に衝突することによって、ゲル膜81が分裂しながら基板Wの上面から引き離される。
基板Wの上面に衝突した洗浄液滴103は、基板Wの上面の周縁に向かう放射状の液流(洗浄液流104)を基板Wの上面上で形成する。そのため、基板Wの上面に着液した洗浄液は、着液点から基板Wの上面の周縁に向かって広がる。分裂し基板Wの上面から引き離されたゲル膜81は、洗浄液流104によって基板Wの上面から排除される。すなわち、洗浄液滴103の物理力が作用することによって、基板Wの上面が洗浄される(物理洗浄工程)。
【0098】
この基板処理では、洗浄液ノズル11の処理位置は、中央位置である。そのため、洗浄液は、基板Wの上面の中央領域に着液する。この実施形態とは異なり、洗浄液ノズル11は、基板Wの上面に沿って水平移動しながら洗浄液を吐出してもよい。
複数の洗浄液滴103を基板Wの上面に向けて噴射することによって、洗浄液滴103がゲル膜81に衝突する度にゲル膜81に物理力が作用する。この基板処理とは異なり、洗浄液の連続流を基板Wの上面に向けて噴射する場合には、洗浄液の連続流が最初にゲル膜81に衝突する際に比較的大きな物理力がゲル膜81に作用するが、その後にゲル膜81に作用する物理力は比較的小さい。
【0099】
したがって、複数の洗浄液滴103を基板Wの上面に向けて噴射すれば、洗浄液の連続流を基板Wの上面に向けて噴射する場合と比較して、ゲル膜81に安定的に物理力を付与することができる。その結果、ゲル膜81を短時間で分裂させ、ゲル膜81を除去対象物80とともに短時間で第1主面W1外へ排出できる。
洗浄液は、洗浄液クーラ51Cによって、ゲル化剤の融点よりも低い温度に維持されている。そのため、洗浄液とゲル膜81との接触に起因するゲル膜81の温度上昇を抑制できる。したがって、ゲル膜81がゾル化することを抑制できる。
【0100】
物理洗浄工程(ステップS4)の後、ゲル化剤の融点以上の温度にまで基板Wを加熱し、かつ、基板Wの上面に向けてリンス液を供給するリンス工程(ステップS5)が実行される。
具体的には、洗浄液排出バルブ52Aが開かれ、かつ、圧電素子58への電流の印加が停止される。これにより、洗浄液ノズル11からの洗浄液滴103噴射が停止される。洗浄液ノズル11からの洗浄液滴103の噴射が停止された後、第2ノズル移動機構36が、洗浄液ノズル11を退避位置に移動させる。
【0101】
一方、第3ノズル移動機構37が、リンス液ノズル12を処理位置に移動させる。リンス液ノズル12が処理位置に位置する状態で、リンス液バルブ53Aが開かれる。これにより、図7Dに示すように、リンス液ノズル12からリンス液の連続流が基板Wの上面へ向けて吐出(供給)される(リンス液吐出工程、リンス液供給工程)。リンス液ノズル12から吐出されたリンス液は、基板Wの上面に着液する。基板Wの上面に着液したリンス液は、着液点から基板Wの上面の周縁に向かって放射状に広がる。
【0102】
この基板処理では、リンス液ノズル12の処理位置は、中央位置である。そのため、リンス液は、基板Wの上面の中央領域に着液する。この実施形態とは異なり、リンス液ノズル12は、基板Wの上面に沿って水平移動しながらリンス液を吐出してもよい。
洗浄液による物理洗浄後においても、ゲルが基板Wの上面に付着してる場合がある。物理洗浄後においても基板Wの上面に付着してるゲルを、ゲル膜残渣という。ゲル膜残渣は、ゲル化剤の融点以上の温度を有するリンス液によって加熱されてゾル化され、ゲル化剤含有液に変化する(ゾル化工程)。リンス液は基板Wの上面上で放射状に広がる液流を形成するため、ゾル化によって形成されたゲル化剤含有液をリンス液中に分散させながらリンス液とともに基板Wの上面外へ排出できる。これにより、基板Wの上面にゲルが残存することを抑制できる。
【0103】
なお、リンス液によって基板W上のゲル膜残渣の全てがゾル化する必要はなく、ゲル膜残渣の一部はリンス液の液流によって基板Wの上面から押し出されてもよい。
次に、基板Wを高速回転させて基板Wの上面を乾燥させるスピンドライ工程(ステップS6)が実行される。具体的には、リンス液バルブ53Aが閉じられる。これにより、基板Wの上面へのリンス液の供給が停止される。
【0104】
そして、回転駆動機構23が基板Wの回転を加速し、基板Wを高速回転(たとえば、1500rpm)させる。それによって、大きな遠心力が基板Wに付着している流体(リンス液等)に作用し、これらの流体が基板Wの周囲に振り切られる。
スピンドライ工程(ステップS6)の後、回転駆動機構23が基板Wの回転を停止させる。その後、第2搬送ロボットCRが、処理ユニット2に進入して、スピンチャック5から処理済みの基板Wを受け取って、処理ユニット2外へと搬出する(基板搬出工程:ステップS7)。その基板Wは、第2搬送ロボットCRから第1搬送ロボットIRへと渡され、第1搬送ロボットIRによって、キャリアCに収納される。
【0105】
次に、基板処理中の第1主面W1付近の様子の変化の一例について説明する。図8A図8Gは、基板処理中の基板Wの第1主面W1付近の様子を説明するための模式図である。
第2搬送ロボットCRからスピンチャック5に渡される基板Wの第1主面W1には、図8Aに示すように、除去対象物80が付着している。図8Bに示すように、第1主面W1にゲル化剤含有液が供給されることによって、除去対象物80にゲル化剤含有液が接触する。
【0106】
第1主面W1上のゲル化剤含有液を冷却してゲル化することによって、図8Cに示すように、第1主面W1にゲル膜81が形成される。
この基板処理では、ゲル膜81を第1主面W1に載置するのではなく、除去対象物80にゲル化剤含有液が接触する状態で、第1主面W1上でゲル化剤含有液をゲル化してゲル膜81を形成する。そのため、ゲル膜81を除去対象物80に密着させて、除去対象物80をゲル膜81に強固に保持させることができる。
【0107】
ゲル膜81が形成された後、図8Dに示すように、ゲル膜81に向けて洗浄液の液滴103が噴射される。ゲル膜81に液滴103を衝突させることによって、図8Eに示すように、第1主面W1上のゲル膜81に物理力を付与することができる。
第1主面W1への複数の洗浄液滴103の噴射は、基板Wを冷却しながら行われる。そのため、ゲル膜81のゾル化を抑制しながら、ゲル膜81に物理力を付与することができる。
【0108】
ゲル膜81は、除去対象物80を保持しながら分裂してゲル膜片82を形成し、除去対象物80とともに第1主面W1から引き離される(剥離される)。第1主面W1に供給された洗浄液は、第1主面W1上で洗浄液流104を形成し、ゲル膜片82を第1主面W1外へ排出する(ゲル膜片排出工程)。図8Fに示すように、洗浄液流104は、第1主面W1から引き離されていないゲル膜片82を第1主面W1から引き離すこともできるし、第1主面W1から引き離されたゲル膜片82を押し流すこともできる。
【0109】
除去対象物80を保持するゲル膜81に洗浄液滴103から物理力を作用させてゲル膜片82を形成することで、第1主面W1上の除去対象物80の見かけのサイズを拡大できる。そのため、ゲル膜片82に保持されている除去対象物80は、ゲルに覆われていない除去対象物80と比較して、洗浄液流104から物理力を受け易い。したがって、ゲル膜81が形成された第1主面W1に向けて洗浄液を供給することで、除去対象物80を第1主面W1から効率良く除去できる。
【0110】
その後、基板Wを加熱し、かつ、第1主面W1にリンス液を供給することによって、洗浄液による洗浄の後に第1主面W1に残るゲル膜残渣83(図8Fを参照)がゾル化してゲル化剤含有液に変化する(ゾル化工程)。ゲル膜残渣83をゾル化することによって、ゾル化によって形成されたゲル化剤含有液をリンス液中に分散させながら、当該ゲル化剤含有液をリンス液とともに基板Wの第1主面W1外へ排出できる。これにより、図8Gに示すように、第1主面W1にゲルが残存することを抑制できる。
【0111】
ここで、近年、半導体装置の微細化に伴い、第1主面W1に付着する除去対象物80も小さくなっている。除去対象物80の粒径が第1主面W1上を流れる洗浄液の境界層厚さよりも小さい場合がある。除去対象物80の粒径は、たとえば、20nm以下である。
境界層厚さは、洗浄液の流れにおいて粘性の影響を強く受ける厚さのことであり、境界層厚さよりも第1主面W1から離間した位置では、洗浄液から作用する物理力が大きく、境界層厚さよりも第1主面W1に近い位置では、洗浄液から作用する物理力が小さい。
【0112】
そこで、ゲル膜片82によって除去対象物80の見かけのサイズを拡大すれば、除去対象物80の粒径を洗浄液の境界層厚さよりも大きくすることが可能である。ゲル膜片82によって除去対象物80の見かけのサイズを拡大することで、除去対象物80を洗浄液流104によって第1主面W1外へ排出し易くできる。
この基板処理に用いられるゲル化剤は、ゼラチン、寒天、またはこれらの混合物である。そのため、ゲル膜81は親水性である。第1主面W1が疎水面である場合には、第1主面W1が親水面である場合と比較して、第1主面W1に対するゲル膜81の密着度が低い。そのため、第1主面W1への洗浄液の噴射によって、第1主面W1からゲルを容易に引き離すことができる。
【0113】
一方、第1主面W1が親水面である場合には、第1主面W1が疎水面である場合と比較して、第1主面W1に対するゲルの密着度が高い。そのため、第1主面W1への洗浄液の噴射によって、第1主面W1からゲルを充分に剥離できない場合もあり得る。その場合であっても、物理洗浄工程の後に、基板Wを加熱しながら第1主面W1にリンス液を供給することによって、ゲルをゾル化して、リンス液とともに第1主面W1外に排出できる。これにより、第1主面W1にゲルが残存することを抑制できる。したがって、第1主面W1が疎水面および親水面のいずれであるかにかかわらず、第1主面W1から除去対象物80を効率良く除去できる。
【0114】
この基板処理では、冷却流体、リンス液、洗浄液、および、ゲル化剤含有液に含有される溶媒として、DIW等の水が用いられ、ゲル化剤含有液に含有されるゲル化剤として、ゼラチン等が用いられる。したがって、硫酸等の環境負荷が大きい薬液を用いることなく、基板Wから除去対象物80を除去することができる。硫酸よりも環境負荷が小さければ、冷却流体、リンス液、洗浄液、および、ゲル化剤含有液に含有される溶媒は、水以外の液体であってもよいし、有機溶剤および水の混合液であってもよい。
【0115】
また、基板Wの第1主面W1にCMPが施された基板Wである場合には、すなわち、基板Wが図4または図5に示す基板Wである場合には、第1主面W1が平坦面であり、かつ、除去対象物80としての研磨残渣の粒径が20nm以下であるため、上述の基板処理による除去対象物80の除去効果が顕著となる。
第1主面W1が平坦面であれば、凹凸パターンの倒壊を考慮することなく第1主面W1に大きな物理力を付与できる。そのため、物理洗浄工程において充分な物理力をゲルに付与することができる。したがって、除去対象物80を一層効率良く除去することができる。
【0116】
<基板処理の変形例>
図9は、基板処理の第1変形例について説明するための模式図である。図9に示す基板処理の第1変形例のように、冷却流体による基板Wの下面の冷却が、基板Wの上面への洗浄液の噴射を開始した後においても、継続されていてもよい(冷却継続工程)。
そのため、ゲル膜81は、洗浄液だけでなく、冷却流体によっても冷却される。そのため、洗浄液のみによってゲル膜81を冷却する場合と比較して、ゲル膜81のゾル化を抑制できる。
【0117】
冷却流体は、ゲル化剤の凝固点以下の温度を有するため、ゲル化剤の融点よりも低い温度を有する洗浄液よりも低温の場合がある。そのため、冷却流体は、洗浄液よりもゲル膜81のゾル化の抑制効果が高い場合がある。
物理洗浄工程の実行中においても、基板Wの下面に対する冷却を継続することで、物理洗浄工程の実行中に、ゲル膜81がゾル化することを抑制できる。したがって、物理洗浄工程によって分裂したゲル膜81とともに除去対象物80を基板W外へ排出する前に、除去対象物80がゲル膜片82から脱落することを抑制できる。
【0118】
冷却流体によってゲル膜81を充分に冷却できる場合には、基板処理の第1変形例とは異なり、洗浄液がゲル化剤の融点よりも高い温度を有していてもよい。この場合、洗浄液の冷却を省略してもよく、基板処理装置1から洗浄液クーラ51C(図2を参照)を省略することができる。
図10は、基板処理の第2変形例について説明するための模式図である。図10に示す基板処理の第2変形例のように、リンス工程においてリンス液ノズル12からリンス液が吐出されている間、基板Wの下面(第2主面W2)が加熱流体によって加熱されてもよい(第2主面加熱工程)。
【0119】
具体的には、物理洗浄工程の後、加熱流体バルブ56Aが開かれる。これにより、基板Wの下面に向けて下側流体ノズル13から加熱流体が吐出(供給)される(加熱流体吐出工程、加熱流体供給工程)。下側流体ノズル13から吐出された加熱流体は、基板Wの下面の中央領域に着液(衝突)する。加熱流体は、遠心力の作用によって、基板Wの下面の全体に広がる。これにより、下方(第2主面W2側)から基板Wが加熱され、基板Wを介してゲル膜残渣83が加熱される。加熱流体を用いてゲル膜残渣83のゾル化を補助できる。このように、下側流体ノズル13の加熱流体の供給という簡易な手法で、基板Wの第2主面W2を加熱できる。
【0120】
基板処理の第2変形例では、ゲル膜残渣83は、加熱流体およびリンス液の両方によって、加熱される。そのため、ゲル膜残渣83を効率良くゾル化させることができる。リンス液および加熱流体は、いずれも、ゲル化剤の融点以上の温度を有する。そのため、リンス液によって、ゲル膜残渣83の温度を上昇させてゲル膜残渣83のゾル化を一層効率的に促進できる。
【0121】
基板処理の第2変形例とは異なり、ゲル化剤の融点よりも低い温度を有するリンス液をリンス液ノズル12から基板Wの上面に向けて吐出してもよい。この場合であっても、基板Wの上面上にリンス液が存在する状態で、加熱流体によって基板Wを加熱することによって、基板Wの上面上のリンス液をゲル化剤の融点以上の温度にまで加熱できる。加熱流体によって基板Wの上面上のリンス液を加熱することによって、ゲル化剤の融点よりも高い温度を有するリンス液を基板Wの上面に供給することが可能である。
【0122】
このように、リンス液の温度がゲル化剤の融点よりも低い場合であっても、加熱流体で基板Wの下面を加熱することによって、ゲルの残渣のゾル化を補助できる。これにより、基板Wの上面にゲルが残存することを抑制できる。
なお、図6に示す基板処理では、加熱流体による加熱が実行されない。そのため、図6に示す基板処理を実行する場合、図2に示す基板処理装置1から加熱流体配管46、加熱流体バルブ56A、加熱流体流量調整バルブ56B、流体ヒータ56C等を省略してもよい。
【0123】
<基板処理装置1の変形例>
図11は、洗浄液ノズル11の変形例について説明するための模式図である。図11に示すように、洗浄液ノズル11は、洗浄液に気体を混合することによって、洗浄液滴103を形成するスプレーノズルであってもよい。
図11に示す洗浄液ノズル11は、洗浄液と気体とを空中(ノズル外部)で衝突させて洗浄液滴103を生成する外部混合型の二流体ノズルである。図11とは異なり、洗浄液ノズル11は、ノズル内で洗浄液と気体とを混合してもよい。
【0124】
洗浄液ノズル11は、洗浄液の連続流を吐出する洗浄液吐出口90と、気体を吐出する気体吐出口91とを有する。気体吐出口91から吐出される気体は、たとえば、窒素ガス等の不活性ガスである。不活性ガスは、窒素ガスである必要はなく、アルゴン等の希ガスであってもよい。気体吐出口91から吐出される気体は、不活性ガス以外のガスであってもよく、空気であってもよい。
【0125】
洗浄液吐出口90は、洗浄液を下方に向けて吐出する。気体吐出口91は、洗浄液吐出口90を取り囲む円環状であり、斜め内側へ向けて気体を吐出する。気体吐出口91からの気体の吐出軌跡は、洗浄液吐出口90からの洗浄液の吐出軌跡と交差している。そのため、洗浄液吐出口90からの洗浄液の液体流92は、気体吐出口91からの気体流93と衝突する。液体流92と気体流93とが衝突することによって複数の洗浄液滴103が形成される。このように形成された複数の洗浄液滴103が、基板Wの上面に向けて供給される。
【0126】
洗浄液ノズル11は、洗浄液配管94および気体配管96に接続されている。洗浄液配管94には、洗浄液配管94によって構成される洗浄液流路を開閉する洗浄液バルブ95Aと、洗浄液流路内の洗浄液の流量を調整する洗浄液流量調整バルブ95Bと、ゲル化剤の融点よりも低い温度に洗浄液を冷却する洗浄液クーラ95Cとが設けられている。気体配管96には、気体配管96によって構成される気体流路を開閉する気体バルブ97Aと、気体流路内の気体の流量を調整する気体流量調整バルブ97Bとが設けられている。
【0127】
また、洗浄液ノズル11は、図2および図11とは異なり、スプレーノズルでない場合もあり得る。具体的には、洗浄液ノズル11は、ポンプを用いて狭小な吐出口から洗浄液を押し出すことによって洗浄液の連続流を噴射する高圧ノズルであってもよい。高圧ノズルは、たとえば、インクジェットノズルまたはスリットノズルであってもよいが、これに限られるものではない。また、洗浄液ノズル11は、基板Wの上面に双方向(たとえば、水平方向)に沿って延びるバー状のノズルであってもよい。
【0128】
図12は、基板処理装置1に備えられる冷却ユニットの変形例について説明するための断面図である。図12に示すように、基板Wに下方から対向するクーリングプレート110によって基板Wの下面を冷却してもよい。
処理ユニット2は、クーリングプレート110と、クーリングプレート110の下面に連結されクーリングプレート110を昇降させる昇降軸115とを含む。クーリングプレート110は、平面視円形状の冷却面110aを有する。冷却面110aは、基板Wよりもわずかに小さい。冷却面110aは、たとえば、クーリングプレート110の上面によって構成されている。
【0129】
クーリングプレート110には、たとえば、クーリングプレート110内の冷却流体流路を構成する内蔵冷却流体管111が内蔵されている。内蔵冷却流体管111には、内蔵冷却流体管111に冷却流体を供給する冷却流体供給管112と、内蔵冷却流体管111から冷却流体を排出する冷却流体排出管113(冷却流体排出流路)とが接続されている。冷却流体供給管112には、冷却流体供給管112によって構成される冷却流体供給流路を開閉する冷却流体供給バルブ114が設けられている。
【0130】
昇降軸115には、モータ等のアクチュエータを含む昇降機構(図示せず)が接続されている。クーリングプレート110は、昇降機構によって、基板Wの下面に接する接触位置と、基板Wの下面から離間した離間位置との間で昇降される。昇降機構は、電動モータ等のアクチュエータを含む。
クーリングプレート110は、ゲル化剤の凝固点以下の温度を有しており、ゲル化剤の凝固点以下の温度に基板Wを冷却することができる。詳しくは、冷却流体がゲル化剤の凝固点以下の温度を有しており、クーリングプレート110を基板Wの下面に接触させることで基板Wをゲル化剤の凝固点以下の温度に冷却することができる。冷却流体の温度が充分に低ければ、クーリングプレート110を基板Wの下面に接触させなくても、基板Wをゲル化剤の凝固点以下の温度に冷却することも可能である。
【0131】
クーリングプレート110は、たとえば、5℃以上15℃未満の温度を有する。基板Wを速やかに冷却するためには、クーリングプレート110は、凝固点よりもさらに低い温度(たとえば、5℃以上10℃以下)であることが一層好ましい。
クーリングプレート110によって下方から基板Wを冷却することによって、基板Wの下面をその全域に亘って高い均一性で冷却することができる。
【0132】
図12に示す例では、加熱流体を吐出する下側流体ノズル13が、クーリングプレート110の冷却面110aから露出している。下側流体ノズル13には、加熱流体配管46が接続されている。
図13は、基板処理装置1に備えられる加熱ユニットの変形例について説明するための断面図である。図13に示すように、基板Wに下方から対向するホットプレート116によって基板Wの下面を加熱してもよい。
【0133】
処理ユニット2は、ホットプレート116と、ホットプレート116の下面に連結されホットプレート116を昇降させる昇降軸117とを含む。ホットプレート116は、平面視円形状の加熱面116aを有する。加熱面116aは、基板Wよりもわずかに小さい。加熱面116aは、たとえば、ホットプレート116の上面によって構成されている。
ホットプレート116には、たとえば、ヒータ118が内蔵されている。ヒータ118には、給電線119が接続されており、給電線119を介して、電源等の通電ユニット(図示せず)から電力が供給される。
【0134】
昇降軸117には、モータ等のアクチュエータを含む昇降機構(図示せず)が接続されている。ホットプレート116は、昇降機構によって、基板Wの下面に接する接触位置と、基板Wの下面から離間した離間位置との間で昇降される。ホットプレート116は、基板Wの下面に接する接触位置と、基板Wの下面から離間した離間位置との間で昇降可能である。昇降機構は、電動モータ等のアクチュエータを含む。
【0135】
ホットプレート116は、ゲル化剤の融点以上の温度を有しており、基板Wゲル化剤の融点以上の温度に加熱することができる。詳しくは、ヒータ118がゲル化剤の融点以上の温度に加熱され、ホットプレート116を基板Wの下面に接触させることで基板Wをゲル化剤の融点以上の温度に加熱することができる。ヒータ118の温度が充分に高ければ、ホットプレート116を基板Wの下面に接触させなくても、基板Wをゲル化剤の融点以上の温度に加熱することも可能である。
【0136】
ホットプレート116は、たとえば、30℃よりも高く50℃以下である温度を有する。基板Wを速やかに加熱するためには、ホットプレート116の温度は、融点よりもさらに高い温度(たとえば、40℃以上50℃以下)であることが一層好ましい。
ホットプレート116によって下方から基板Wを加熱することによって、基板Wの下面をその全域に亘って高い均一性で加熱することができる。図13に示す例では、冷却流体を吐出する下側流体ノズル13が、ホットプレート116の加熱面116aから露出している。
【0137】
図示しないが、温度を切り換えることができる構成であれば、単一のプレートをクーリングプレート110およびホットプレート116の両方として機能させることができる。
<その他の実施形態>
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、さらに他の形態で実施することができる。
【0138】
たとえば、上述の実施形態では、基板Wの上面に対して基板処理が実行される。しかしながら、基板Wの下面に対して基板処理が実行されてもよい。その場合、基板処理において、第1主面W1が下面となり第2主面W2が上面となるように、スピンチャック5によって基板Wが保持される。
また、基板Wはスピンチャック5によって必ずしも水平姿勢で保持される必要はなく、鉛直姿勢で保持されていてもよいし、基板Wの主面が水平方向に対して傾斜する姿勢で保持されていてもよい。
【0139】
また、上述の実施形態では、スピンチャック5は、基板Wの周縁を複数のチャックピン20で把持する把持式のスピンチャックであるが、スピンチャック5は把持式のスピンチャックに限られない。たとえば、スピンチャック5は、スピンベース21に基板Wを吸着させる真空吸着式のスピンチャックであってもよい。
また、上述の実施形態では、リンス工程におけるゲル残渣の加熱は、加熱流体およびホットプレート116の少なくとも一方によって行われる。しかしながら、リンス工程におけるゲル残渣の加熱は、チャンバ4の内部空間の温度を上昇させることによって行ってもよいし、基板Wの第1主面W1に対向するヒータを用いて行ってもよい。
【0140】
また、上述の実施形態では、ゲル化工程におけるゲル化剤含有液の冷却は、冷却流体およびクーリングプレート110の少なくとも一方によって行われる。しかしながら、ゲル化工程におけるゲル化剤含有液の冷却は、チャンバ4の内部空間の温度を低下させることによって行ってもよいし、基板Wの第1主面W1に対向するクーラを用いて行ってもよい。
【0141】
また、洗浄液ノズル11に供給される洗浄液は、洗浄液クーラ51Cによってゲル化剤の凝固点以下の温度に冷却されてもよい。その場合、複数の噴射口11aから噴射される複数の洗浄液滴103は、ゲル化剤の凝固点以下の温度(たとえば、5℃以上15℃未満の温度)を有する。
また、ゲル膜81が基板Wの第1主面W1から除去されるメカニズムは、図8A図8Gに示すメカニズムに限られない。洗浄液の噴射および洗浄液流104によって付与される物理力によって、ゲル膜81が基板Wの第1主面W1から除去されればよく、ゲル膜81の除去のメカニズムは、図8A図8Gに示すものと異なっている場合もあり得る。
【0142】
また、上述の実施形態において、配管、ポンプ、バルブ、アクチュエータ等についての図示を一部省略しているが、これらの部材が存在しないことを意味するものではなく、実際にはこれらの部材は適切な位置に設けられている。
なお、上述の実施形態では、「沿う」、「水平」、「鉛直」といった表現を用いたが、厳密に「沿う」、「水平」、「鉛直」であることを要しない。すなわち、これらの各表現は、製造精度、設置精度等のずれを許容するものである。
【0143】
また、各構成を模式的にブロックで示している場合があるが、各ブロックの形状、大きさおよび位置関係は、各構成の形状、大きさおよび位置関係を示すものではない。
その他、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0144】
1 :基板処理装置
10 :ゲル化剤含有液ノズル
11 :洗浄液ノズル(スプレーノズル)
12 :リンス液ノズル
13 :下側流体ノズル(冷却流体ノズル、冷却ユニット)
80 :除去対象物
81 :ゲル膜
82 :ゲル膜片
83 :ゲル膜残渣
110 :クーリングプレート(冷却ユニット)
W :基板
W1 :第1主面
W2 :第2主面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図9
図10
図11
図12
図13