(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】紡糸生産設備
(51)【国際特許分類】
D01D 11/00 20060101AFI20250327BHJP
D01D 7/00 20060101ALI20250327BHJP
【FI】
D01D11/00 Z
D01D7/00 Z
(21)【出願番号】P 2021148870
(22)【出願日】2021-09-13
【審査請求日】2024-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】川本 和弘
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/056074(WO,A1)
【文献】特開平06-212509(JP,A)
【文献】特開昭60-173112(JP,A)
【文献】実開昭51-048413(JP,U)
【文献】特開2004-323989(JP,A)
【文献】特開昭50-118013(JP,A)
【文献】実開昭55-054370(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 7/00
D01D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸室に設置され、複数の糸を下方に紡出する紡糸装置と、
前記紡糸室の下方に位置する巻取室の床面に設置され、前記紡糸装置から紡出された前記複数の糸をボビンホルダに装着された複数のボビンに巻き取る巻取装置と、
前記紡糸室と前記巻取室とを仕切る部材であって、前記紡糸室の床面及び前記巻取室の天井を構成する仕切板と、
前記紡糸室と前記巻取室とを連通し、前記複数の糸を囲うように前記巻取室において下方に延びるダクトと、
を備え、
前記ダクトの下端部よりも下側には、作業者が前記巻取装置に所定の作業を行うための作業領域が設けられており、
前記ダクトは、
上端部において前記複数の糸を内部に導入するための糸導入口と、下端部において前記複数の糸を導出するための糸導出口と、前記糸導入口と前記糸導出口との間において前記巻取室に開口するように設けられた排気口と、を有し、
前記排気口の下端が、前記巻取室の前記床面から5m以上離れた位置に配置されていることを特徴とする紡糸生産設備。
【請求項2】
前記排気口の下端と前記仕切板との間の距離が1m以内であることを特徴とする請求項1に記載の紡糸生産設備。
【請求項3】
前記排気口は、前記複数の糸の配列方向と直交する方向に向かって開口していることを特徴とする請求項1又は2に記載の紡糸生産設備。
【請求項4】
前記排気口は、前記配列方向と直交する方向から見たとき、前記配列方向に沿って前記複数の糸のすべてを包含する大きさに形成されていることを特徴とする請求項3に記載の紡糸生産設備。
【請求項5】
前記作業領域は、前記ボビンホルダの軸方向において、前記ダクトの一方側に設けられており、
前記排気口は、前記ボビンホルダの軸方向において、前記ダクトの他方側に向かって開口していることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の紡糸生産設備。
【請求項6】
前記紡糸室に設置され、前記紡糸装置の下方において前記紡糸装置から紡出された前記複数の糸に冷却空気を供給する冷却装置と、前記ダクトとの間において、前記複数の糸は、前記紡糸室に開放されていることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の紡糸生産設備。
【請求項7】
前記ダクトは、前記排気口の開口面積を調節可能な調節部材をさらに有することを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の紡糸生産設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行する糸を囲うダクトを有する紡糸生産設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紡糸口金から高温の溶融ポリマーを糸として下方に紡出する紡糸装置と、紡糸装置から紡出された糸に冷却空気を供給する冷却装置と、冷却装置の下方においてボビンホルダに装着されたボビンに糸を巻き取る巻取装置とを有する紡糸生産設備が知られている。紡糸装置及び冷却装置は紡糸室に設置され、巻取装置は紡糸室の下階にある巻取室の床面に設置される。
【0003】
紡糸室にある冷却装置と巻取室にある巻取装置との間を走行する糸は外部の空気にさらされることによって糸揺れが発生するおそれがある。そうすると、巻取装置への糸の糸掛け性の悪化や、走行する糸の品質低下を招く。そこで、紡糸室に設置された冷却装置と巻取室に設置された巻取装置との間には、糸揺れ抑制のために走行する糸を囲うダクトが設けられる。
【0004】
特許文献1には、冷却風を供給する管が接続された紡糸筒(冷却装置)の下方にダクトが設けられた紡糸生産設備が開示されている。このようなダクトは紡糸室と巻取室とを連通しており、紡糸装置から紡出された糸は、冷却装置によって冷却された後、ダクト上端の糸導入口からダクト内に導入され、ダクト内を走行して巻取装置の近くでダクト下端の糸導出口から導出される。また、ダクトには、上記の糸導入口及び糸導出口とは別に、ダクトの内部の空気の一部を排出するための排気口が設けられている。紡糸生産設備におけるダクトの内部には、走行する糸に随伴して糸導入口から空気が流れ込む。流れ込む空気の量が多いとダクトの内部で気流が乱れ、糸揺れを引き起こす可能性がある。このため、ダクトには、糸導入口及び糸導出口とは別に、ダクトの内部の空気の一部を排出するための排気口を設ける必要性は高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、紡糸装置には高温の溶融ポリマーを、温度を保ちつつ輸送し、複数の糸を紡出する紡糸ビームが設けられている。この紡糸ビームからの放熱によって紡糸室には高温空気が発生する。また、冷却装置から糸に供給される冷却空気と高温の溶融ポリマーとの熱交換によって高温空気が生じる。こうした紡糸室の高温空気は、ダクトの内部を走行する糸に随伴して下方に送られ、糸導出口及び排気口から巻取室へ排出される。
【0007】
特許文献1のような紡糸生産設備では、巻取室の床面に設置された巻取装置近傍には、作業者が巻取装置に糸掛け作業等の種々の作業を行うための作業領域が設けられている。ダクトの排気口が作業領域に近い位置に設けられていると、糸導出口に加えて排気口からも高温空気が作業領域に流入してしまう。そうすると、作業領域の温度が上昇し、作業者の作業環境の悪化を招く。
【0008】
本発明の目的は、紡糸室の高温空気がダクトの内部を通って巻取室に流入することにより、巻取室における作業者の作業環境が悪化することを抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の紡糸生産設備は、紡糸室に設置され、複数の糸を下方に紡出する紡糸装置と、前記紡糸室の下方に位置する巻取室の床面に設置され、前記紡糸装置から紡出された前記複数の糸をボビンホルダに装着された複数のボビンに巻き取る巻取装置と、前記紡糸室と前記巻取室とを仕切る部材であって、前記紡糸室の床面及び前記巻取室の天井を構成する仕切板と、前記紡糸室と前記巻取室とを連通し、前記複数の糸を囲うように前記巻取室において下方に延びるダクトと、を備え、前記ダクトの下端部よりも下側には、作業者が前記巻取装置に所定の作業を行うための作業領域が設けられており、前記ダクトは、上端部において前記複数の糸を内部に導入するための糸導入口と、下端部において前記複数の糸を導出するための糸導出口と、前記糸導入口と前記糸導出口との間において前記巻取室に開口するように設けられた排気口と、を有し、前記排気口の下端が、前記巻取室の前記床面から5m以上離れた位置に配置されていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明によれば、排気口の下端は、巻取室の床面から5m以上離れた位置に設けられている。このため、ダクトの内部の高温空気の一部を、巻取室の床面から十分離れた位置で排出することができる。これにより、ダクトの内部を通って、巻取室の床面に近い位置に設けられている作業領域に高温空気が流入することを抑制することができ、巻取室における作業者の作業環境の悪化を抑制することができる。
【0011】
本発明において、前記排気口の下端と前記仕切板との間の距離が1m以内であることが好ましい。
【0012】
本発明によれば、排気口の下端と巻取室の天井を構成する仕切板との間の距離が1m以内となっている。このため、ダクトの内部の高温空気の一部を、巻取室の天井に近い位置で排出することができる。これにより、ダクトの内部を通って、作業領域に高温空気が流入することをさらに抑制することができ、巻取室における作業者の作業環境の悪化を抑制することができる。
【0013】
本発明において、前記排気口は、前記複数の糸の配列方向と直交する方向に向かって開口していることが好ましい。
【0014】
排気口から空気が排出されるときに生じる空気の流れは、ダクトの内部を走行する糸の品質に影響を及ぼす。排気口が複数の糸の配列方向と平行する方向に向かって開口していると、排気口から排出される空気による糸への影響は、配列方向の一方側の糸と他方側の糸とで異なることとなる。そうすると、複数の糸の間で品質にばらつきが生じるおそれがある。本発明によれば、排気口は、複数の糸の配列方向と直交する方向に向かって開口している。このため、排気口から排出される空気による糸への影響が、配列方向の一方側の糸と他方側の糸とでほぼ均一になる。これにより、複数の糸の品質にばらつきが生じることを抑制することができる。
【0015】
本発明において、前記排気口は、前記配列方向と直交する方向から見たとき、前記配列方向に沿って前記複数の糸のすべてを包含する大きさに形成されていることが好ましい。
【0016】
本発明によれば、排気口が配列方向と直交する方向から見たときに配列方向に沿って複数の糸の一部のみを包含する大きさに形成されている場合と比べて、排気口から排出される空気による糸への影響を、複数の糸の間でさらに均一にすることができる。これにより、複数の糸の品質にばらつきが生じることをさらに抑制することができる。
【0017】
本発明において、前記作業領域は、前記ボビンホルダの軸方向において、前記ダクトの一方側に設けられており、前記排気口は、前記ボビンホルダの軸方向において、前記ダクトの他方側に向かって開口していることが好ましい。
【0018】
本発明によれば、排気口によって、ダクトの内部の高温空気の一部を、作業者が所定の作業を行う作業領域のダクトを挟んだ反対側に排出することができる。このため、作業領域と離れた位置に高温空気の一部を排出することができ、作業領域に高温空気が流入することをさらに抑制することができる。
【0019】
本発明において、前記紡糸室に設置され、前記紡糸装置の下方において前記紡糸装置から紡出された前記複数の糸に冷却空気を供給する冷却装置と、前記ダクトとの間において、前記複数の糸は、前記紡糸室に開放されていることが好ましい。
【0020】
冷却装置とダクトとの間において、複数の糸が紡糸室に開放されている構成では、当該開放された部分からより多くの高温空気が糸導入口を通ってダクトの内部に流入する。この点、本発明の構成では、排気口が巻取室の床面から離れた位置に設けられている。このため、巻取室の床面に近い位置に排気口が設けられている構成と比べて、ダクト下部における抵抗が大きくなり、ダクトの内部の静圧が上昇する。そうすると、糸導入口から、高温の空気がダクトの内部に流入することを抑制することができる。これにより、ダクトの内部を通って、作業領域に高温空気が流入することをさらに抑制することができる。
【0021】
本発明において、前記ダクトは、前記排気口の開口面積を調節可能な調節部材をさらに有することが好ましい。
【0022】
排気口の開口面積が大きいほど、排気口から排出可能な高温空気の量も増加する。一方で、排気口の開口面積が大きいと、排気口から空気が排出されることでダクトの内部の圧力が低下し、糸導入口からダクトの内部に流れ込む高温空気の量も増加する。そして、排気口が所定の開口面積であるときの、糸導入口からダクトの内部へ流入する高温空気の流入量と排気口から排出される高温空気の排出量とは、紡糸速度や糸の種類などによって決まる。本発明によれば、排気口の開口面積を調節することができる。このため、排気口の開口面積を、糸導入口からダクトの内部に流入する高温空気と排気口から巻取室に排出される高温空気とのバランスを考慮し、紡糸室や巻取室の広さなどに応じて、作業領域に流入する高温空気を最も効率良く抑制することができる値に適宜調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態に係る紡糸生産設備の概略側面図である。
【
図4】実施例及び比較例について、ダクトの内部への空気の流入量及びダクトの内部から巻取室への空気の排出量の測定値を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(紡糸生産設備1)
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る紡糸生産設備1の概略側面図である。以下では、
図1における前後及び上下方向を、紡糸生産設備1の前後及び上下方向と定義する。また、
図1における紙面垂直方向を紡糸生産設備1の左右方向と定義し、紙面表側が右方とする。
【0025】
紡糸生産設備1は、
図1に示すように、紡糸装置2と、冷却装置3と、紡糸延伸装置4と、巻取装置5と、ダクト6と、複数の油剤ノズル7と、複数の案内ガイド8と、ゴデットローラ9、10とを含む。紡糸装置2、冷却装置3、油剤ノズル7及び案内ガイド8は、紡糸室101に設置されている。紡糸延伸装置4、巻取装置5、ダクト6及びゴデットローラ9、10は、紡糸室101の下方に位置する巻取室102に設置されている。また、紡糸生産設備1は、紡糸室101と巻取室102とを仕切る部材である仕切板40を含む。仕切板40は、紡糸室101の床面及び巻取室102の天井102bの一部を構成する。本実施形態において、巻取室102の床面102aから天井102bまでの距離は、約6~7mである。
【0026】
紡糸装置2は、複数の糸Yを下方に紡出する装置である。紡糸装置2は、溶融ポリマーを輸送する紡糸ビーム21と、溶融ポリマーを糸Yとして下方に紡出する紡糸口金22とを有する。紡糸口金22は、左右方向に配列されている。このため、紡糸口金22から紡出される複数の糸Yは、左右方向に配列されている。
【0027】
冷却装置3は、紡糸装置2の下方に配置されている。冷却装置3は、紡糸装置2から紡出された複数の糸Yに冷却空気を供給して、糸Yを冷却する装置である。冷却装置3は、上下方向の両端が開口した略円筒形状の冷却筒31を有している。冷却筒31の内部は、複数の糸Yが上方から下方に向かって走行可能であり、冷却装置3は、冷却筒31の内部を走行する複数の糸Yに対して冷却空気を供給する。
【0028】
複数の油剤ノズル7は、冷却装置3の下方に配置され、冷却装置3によって冷却された複数の糸Yのそれぞれに油剤を付与する。複数の案内ガイド8は、複数の油剤ノズル7のそれぞれの下方において左右方向に等間隔に配置され、油剤が付与された複数の糸Yを個別に案内する。
【0029】
ダクト6は、紡糸室101と巻取室102とを連通し、複数の糸Yを囲うように巻取室102において下方に延びている。ダクト6の詳細については後述する。
【0030】
なお、本実施形態では、冷却装置3とダクト6との間において、複数の糸Yの前側は紡糸室101に開放されている。また、冷却装置3とダクト6との間を走行する複数の糸Yの後側には、複数の孔が設けられた板状部材41が配置されている。このため、冷却装置3とダクト6との間において、複数の糸Yの後側は、板状部材41に形成された複数の孔を介して部分的に紡糸室101に開放されている。さらに、図示していないが、冷却装置3とダクト6との間を走行する複数の糸Yの左側及び右側には側壁が形成されている。このため、冷却装置3とダクト6との間において、複数の糸Yの右側及び左側は紡糸室101に開放されていない構成となっている。
【0031】
また、冷却装置3とダクト6との間において、複数の油剤ノズル7及び複数の案内ガイド8の前側は、複数の糸Yと同様に、紡糸室101に開放されている。また、冷却装置3とダクト6との間において、複数の油剤ノズル7及び複数の案内ガイド8の後側は、板状部材41に形成された複数の孔を介して部分的に紡糸室101に開放されている。さらに、冷却装置3とダクト6との間において、複数の油剤ノズル7及び複数の案内ガイド8の右側及び左側は、紡糸室101に開放されていない。
【0032】
紡糸延伸装置4は、ダクト6の下方に配置されている。紡糸延伸装置4は、保温箱(不図示)の内部に収容された複数のゴデットローラ(不図示)によって、複数の糸Yを加熱延伸する装置である。
【0033】
紡糸延伸装置4によって延伸された複数の糸Yは、ゴデットローラ9、10を経て巻取装置5に送られる。巻取装置5は、複数の糸Yを巻き取る装置であり、巻取室102の床面102aに設置されている。
【0034】
巻取装置5は、ボビンホルダ11に保持されている複数のボビンBに複数の糸Yを巻き取って、複数のパッケージPを形成する。巻取装置5には、2本のボビンホルダ11が設けられている。ボビンホルダ11は、前後方向に延びる軸部材であり、その後端部が機台12に設けられたターレット13によって片持ち支持されている。ボビンホルダ11は、軸方向に複数のボビンBを並べて保持することができる。例えば、8本の糸Yが紡糸装置2から送られてくる場合、8本の糸Yを8個のボビンBに巻き取る。
【0035】
また、巻取装置5は、複数の支持ガイド14と、複数のトラバース装置15と、コンタクトローラ16とを有する。複数の支持ガイド14及び複数のトラバース装置15は、それぞれ、ボビンホルダ11に保持される複数のボビンBに対応して前後方向に並んで設けられている。各トラバース装置15は、対応する支持ガイド14を中心に糸Yを前後方向に綾振りする。コンタクトローラ16は、複数のパッケージPの表面に接触して所定の接圧を付与し、パッケージPの形状を整える。
【0036】
また、
図1に示すように、ダクト6の下端部よりも下側には、作業者Aが紡糸延伸装置4及び巻取装置5に所定の作業を行うための作業領域Wが設けられている。作業領域Wは、巻取室102の床面102aに設置された作業台51に乗った作業者Aが所定の作業を行うための領域である。所定の作業とは、例えば、紡糸延伸装置4の複数のゴデットローラ(不図示)や不図示の分繊ガイド等への糸掛作業が含まれる。
【0037】
作業領域Wは、ボビンホルダ11の軸方向、すなわち前後方向において、ダクト6の前側(本発明の「ダクトの一方側」に相当)に設けられている。本実施形態において、巻取装置5はダクト6の後側に位置している。したがって、作業領域Wは、ダクト6を挟んで巻取装置5と反対側の位置に設けられている。
【0038】
(ダクト6)
以下、ダクト6の構成について、詳しく説明する。ダクト6は、
図1及び
図2に示すように、上下方向に延びた略直方体形状の部材である。ダクト6の延在方向と直交する断面は長方形状であって、長辺は左右方向に延びており、短辺は前後方向に延びている。ダクト6は、仕切板40によってその上部が固定されている。ダクト6は、
図1及び
図2に示すように、糸導入口61と、糸導出口62と、排気口63とを有する。
【0039】
糸導入口61は、ダクト6の上端部において複数の糸Yをダクト6の内部に導入するための部分である。ダクト6の糸導入口61は仕切板40と接続されている。紡糸室101において冷却装置3の下方を走行する複数の糸Yは、糸導入口61を通ってダクト6の内部に導入される。
【0040】
糸導出口62は、ダクト6の下端部において複数の糸Yをダクト6の内部から巻取室102に導出するための部分である。糸導出口62は、紡糸延伸装置4の上方に位置している。ダクト6の内部を走行する複数の糸Yは、糸導出口62を通ってダクト6の外部に導出される。巻取室102の床面102aと糸導出口62との間の距離は約3mである。
【0041】
排気口63は、
図1に示すように、糸導入口61と糸導出口62との間において巻取室102に開口するように設けられている。排気口63は、その下端が巻取室102の床面102aから5m以上離れた位置に配置されている。また、排気口63の下端と仕切板40との間の距離は、1m以内となっている。本実施形態では、排気口63の下端と仕切板40との間の距離は550mmである。そして、排気口63は、ダクト6の内部を走行する複数の糸Yの配列方向と直交する方向、すなわち前後方向に向かって開口している。また、排気口63は、ボビンホルダ11の軸方向、すなわち前後方向において、ダクト6の後側(本発明の「ダクトの他方側」に相当)に向かって開口している。
【0042】
さらに、排気口63は、複数の糸Yの配列方向と直交する方向、すなわち前後方向から見たとき、左右方向に沿って複数の糸Yのすべてを包含する大きさに形成されている。本実施形態の排気口63の具体的な寸法は、上下方向の長さが250mm、左右方向の長さが1320mmである。
【0043】
また、
図2に示すように、排気口63は、複数の小孔63aを有している。小孔63aは、直径が55mmである。小孔63aは、
図2に示すように、左右方向に22個配列された列が上下方向に4段配置されており、合計で88個配置されている。それぞれの小孔63aから、ダクト6の内部の空気が巻取室102に排出される。なお、本実施形態においては、すべての小孔63aを含む排気口63の大きさが、前後方向から見たとき、左右方向に沿って複数の糸Yのすべてを包含する大きさとなっている。
【0044】
ダクト6は、さらに、
図2に示すように、排気口63の開口面積を調節可能な調節部材64を有する。調節部材64は、ダクト6の内側部分であって、排気口63の上側に配置されている。調節部材64は、スライド式のシャッタであり、上下方向に移動可能である。調節部材64の上下方向及び左右方向の寸法は、排気口63よりも若干大きい。調節部材64は、
図2の状態から下側に移動することで、排気口63の一部を覆う。これにより、調節部材64は、排気口63の開口面積を調節することができる。
【0045】
本実施形態において、ダクト6の下部には排気口が形成されていない。より詳細には、ダクト6は、糸導出口62及び排気口63以外に巻取室102に開口している部分を有していない。すなわち、ダクト6の内部の高温空気が、糸導出口62及び排気口63以外の箇所から巻取室102へ排出されることはない。このため、紡糸室101の高温空気がダクト6を通って巻取室102の作業領域Wに流れ込むことを抑制することができる。また、本実施形態では、排気口63は、ダクト6の内部の空気を排出するために、ダクト6の内部の空気を外部へ吸引しない構成である。すなわち、排気口63は、単に、巻取室102に開放されているのみの構成である。排気口63においてダクト6の内部の空気が外部に吸引されていないため、ダクト6の内部が負圧となることが抑制される。これにより、紡糸室101の高温空気が糸導入口61からダクト6の内部に流入することを抑制することができる。
【0046】
(実施例)
次に、実施例及び比較例の紡糸生産設備1において、ダクトの内部への空気の流入量(m
3/min)及びダクトの内部から巻取室102への空気の排出量(m
3/min)の比較を行った。ダクト内部への空気の流入量については、冷却装置3とダクトとの間において複数の糸Yの前側が紡糸室101に開放されている部分から糸導入口
を通ってダクトの内部に流入する空気量を測定した。また、ダクトの内部から巻取室102への空気の排出量については、糸導出口
から巻取室102への空気の排出量、及び、排気口から巻取室102への空気の排出量のそれぞれについて測定をした。測定結果は
図4に示す。
【0047】
実施例の紡糸生産設備1は、上述した実施形態の構成と同様である。実施例では、調節部材64は、排気口63を覆わない状態(
図2の状態)となっている。
【0048】
比較例の紡糸生産設備1は、ダクト以外は実施例と同様の構成である。比較例のダクト106は、
図3に示すように、糸導入口161と、糸導出口162と、排気口163とを有する。糸導入口161及び糸導出口162は、実施例のダクト6の糸導入口61及び糸導出口62と同様の構成である。すなわち、糸導入口161は仕切板40と接続されており、糸導出口162と床面102aとの間の距離は3.5mである。排気口163は、ダクト106の下部に形成されている。排気口163は、ダクト106の後側に向かって開口している。排気口163の上下方向及び左右方向の寸法は、ダクト6の排気口63と同様である。また、排気口163は、排気口63と同様、直径が55mmの小孔163aを88個有している。
【0049】
図4に示すように、比較例では、ダクト106の内部への空気の流入量は15.9(m
3/min)であったのに対し、実施例では、ダクト6の内部への空気の流入量は8.3(m
3/min)であった。すなわち、実施例では、比較例と比べて、紡糸室101からダクト6の内部への高温空気の流入が抑制されている。これは、実施例では、排気口63が巻取室102の床面102aから離れた位置に設けられているため、ダクト
6の内部の静圧が上昇し、複数の糸Yが開放された部分からダクト6の内部への空気の流入が抑制されたことによるものであると考えられる。
【0050】
また、
図4に示すように、実施例と比較例とで、糸導出口62
(162)から巻取室102への空気の排出量にほとんど差はなかった。一方で、実施例における排気口63から巻取室102への空気の排出量は、比較例における排気口163から巻取室102への空気の排出量と比べて低くなっていた。具体的には、実施例では排気口63から巻取室102への空気の排出量が6.2(m
3/min)であり、比較例では排気口163から巻取室102への空気の排出量が13.1(m
3/min)であった。これは、実施例では、上述したように、糸導入口61からダクト
6の内部への空気の流入量が抑制されたことに伴い、排気口63からの空気の排出量も減少したためであると考えられる。
【0051】
さらに、比較例では、排気口163がダクト106の下部に設けられているため、排気口163から巻取室102に排出される空気は作業領域Wに流入する。これに対し、実施例では、排気口63は床面102aから離れた位置に配置されているため、排気口63から巻取室102に排出される空気は作業領域Wに流入しにくい。したがって、実施例では、比較例と比べて、紡糸室101の高温空気が作業領域Wに流入することを抑制することができる。
【0052】
(効果)
本実施形態の紡糸生産設備1は、紡糸室101に設置された紡糸装置2及び冷却装置3と、巻取室102の床面102aに設置された巻取装置5と、仕切板40と、ダクト6とを含む。ダクト6は、紡糸室101と巻取室102とを連通し、複数の糸Yを囲うように巻取室102において下方に延びる。ダクト6の下端部よりも下側には、作業領域Wが設けられている。ダクト6は、上端部において複数の糸Yを内部に導入するための糸導入口61と、下端部において複数の糸Yを導出するための糸導出口62と、糸導入口61と糸導出口62との間において巻取室102に開口するように設けられた排気口63と、を有する。そして、排気口63の下端は、巻取室102の床面102aから5m以上離れた位置に配置されている。
【0053】
本実施形態によれば、排気口63の下端は、巻取室102の床面102aから5m以上離れた位置に設けられている。このため、ダクト6の内部の高温空気の一部を、巻取室102の床面102aから十分離れた位置で排出することができる。これにより、ダクト6の内部を通って、巻取室102の床面102aに近い位置に設けられている作業領域Wに高温空気が流入することを抑制することができ、巻取室102における作業者Aの作業環境の悪化を抑制することができる。
【0054】
また、本実施形態では、排気口63の下端と巻取室102の天井102bを構成する仕切板40との間の距離が1m以内となっている。このため、ダクト6の内部の高温空気の一部を、巻取室102の天井102bに近い位置で排出することができる。これにより、ダクト6の内部を通って、作業領域Wに高温空気が流入することをさらに抑制することができ、巻取室102における作業者Aの作業環境の悪化を抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態では、排気口63は、複数の糸Yの配列方向(左右方向)と直交する方向(前後方向)に向かって開口している。排気口63から空気が排出されるときに生じる空気の流れは、ダクト6の内部を走行する糸Yの品質に影響を及ぼす。排気口63が複数の糸Yの配列方向と平行する方向に向かって開口していると、排気口63から排出される空気による糸Yへの影響は、配列方向の一方側(右側)の糸Yと他方側(左側)の糸Yとで異なることとなる。そうすると、複数の糸Yの間で品質にばらつきが生じるおそれがある。本実施形態によれば、排気口63は、複数の糸Yの配列方向と直交する方向に向かって開口している。このため、排気口63から排出される空気による糸Yへの影響が、配列方向の一方側(右側)の糸Yと他方側(左側)の糸Yとでほぼ均一になる。これにより、複数の糸Yの品質にばらつきが生じることを抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態では、排気口63は、複数の糸Yの配列方向(左右方向)と直交する方向(前後方向)から見たとき、配列方向(左右方向)に沿って複数の糸Yのすべてを包含する大きさに形成されている。本実施形態によれば、排気口63が前後方向から見たときに左右方向に沿って複数の糸Yの一部のみを包含する大きさに形成されている場合と比べて、排気口63から排出される空気による糸Yへの影響を、複数の糸Yの間でさらに均一にすることができる。これにより、複数の糸Yの品質にばらつきが生じることをさらに抑制することができる。
【0057】
さらに、本実施形態では、作業領域Wは、ボビンホルダ11の軸方向(前後方向)において、ダクト6の前側に設けられており、排気口63は、ボビンホルダ11の軸方向(前後方向)において、ダクト6の後側に向かって開口している。本実施形態によれば、排気口63によって、ダクト6の内部の高温空気の一部を、作業者Aが所定の作業を行う作業領域Wのダクト6を挟んだ反対側に排出することができる。このため、作業領域Wと離れた位置に高温空気の一部を排出することができ、作業領域Wに高温空気が流入することをさらに抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態では、冷却装置3とダクト6との間において、複数の糸Yは、紡糸室101に開放されている。冷却装置3とダクト6との間において、複数の糸Yが紡糸室101に開放されている構成では、当該開放された部分からより多くの高温空気がダクト6の内部に流入する。この点、本実施形態の構成では、排気口63が巻取室102の床面102aから離れた位置に設けられていることによってダクト6の内部の静圧が上昇し、複数の糸Yが開放された部分から、高温の空気がダクト6の内部に流入することを抑制することができる。これにより、ダクト6の内部を通って、作業領域Wに高温空気が流入することをさらに抑制することができる。
【0059】
また、本実施形態では、ダクト6は、排気口63の開口面積を調節可能な調節部材64をさらに有する。排気口63の開口面積が大きいほど、排気口63から排出可能な高温空気の量も増加する。一方で、排気口63の開口面積が大きいと、排気口63から空気が排出されることでダクト6の内部の圧力が低下し、糸導入口61からダクト6の内部に流れ込む高温空気の量も増加する。そして、排気口63が所定の開口面積であるときの、糸導入口61からダクト6の内部へ流入する高温空気の流入量と排気口63から排出される高温空気の排出量とは、紡糸室101や巻取室102の広さなどによって決まる。本実施形態によれば、排気口63の開口面積を調節することができる。このため、排気口63の開口面積を、糸導入口61からダクト6の内部に流入する高温空気と排気口63から巻取室102に排出される高温空気とのバランスを考慮し、紡糸室101や巻取室102の広さなどに応じて、作業領域Wに流入する高温空気を最も効率良く抑制することができる値に適宜調節することができる。
【0060】
以下に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0061】
上記実施形態の紡糸生産設備1は、紡糸口金22の配列方向とボビンホルダ11の軸方向とが直交する構成となっている。そして、排気口63は、複数の糸Yの配列方向と直交する方向に向かって開口しており、同時に、ボビンホルダ11の軸方向に開口している。しかしながら、紡糸生産設備1は、紡糸口金22の配列方向とボビンホルダ11の軸方向とが平行する構成でもよい。この場合、排気口63は、複数の糸Yの配列方向と直交する方向に向かって開口しており、同時に、ボビンホルダ11の軸方向と直交する方向に開口していてもよい。または、排気口63は、複数の糸Yの配列方向と平行する方向に向かって開口しており、同時に、ボビンホルダ11の軸方向に開口していてもよい。
【0062】
上記実施形態では、排気口63は、複数の糸Yの配列方向と直交する方向の後側に向かって巻取室102に開口している。すなわち、排気口63は、ダクト6の後側の側面において開口しているものである。しかしながら、排気口63は、ダクト6の側面のいずれか1面において開口しているものでもよく、2面以上において開口しているものでもよい。
【0063】
上記実施形態では、排気口63の下端と仕切板40との間の距離は1m以内となっている。しかしながら、排気口63の下端と仕切板40との間の距離は1mより大きくてもよい。この場合において、排気口63は、その下端が巻取室102の床面102aから5m以上離れた位置に配置されている。
【0064】
また、上記実施形態において、排気口63は、複数の小孔63aを有していなくてもよい。この場合、例えば、排気口63は、1つの開口である。また、上記実施形態において、ダクト6の任意の位置には、排気口63からの空気の排出を妨げない程度の大きさの開口が別途設けられていてもよい。
【0065】
上記実施形態では、ダクト6の糸導入口61は仕切板40と接続されている。しかしながら、糸導入口61は、仕切板40よりも上側に位置していてもよい。
【0066】
上記実施形態において、ダクト6延在方向と直交する断面は円形状や楕円形状であってもよい。また、ダクト6は、途中で曲がっていてもよい。
【0067】
上記実施形態では、冷却装置3とダクト6との間において、複数の糸Yは紡糸室101に開放されている。しかしながら、冷却装置3とダクト6との間において、複数の糸Yは紡糸室101に開放されていなくてもよい。この場合、例えば、冷却装置3の下端とダクト6の上端とが直接接続されていてもよい。
【0068】
また、冷却装置3とダクト6との間において、複数の糸Yの右側及び左側が紡糸室101に開放されていてもよい。ただし、複数の糸Yの右側及び左側が紡糸室101に開放されている場合、開放された部分を通って紡糸室101から流入する空気の複数の糸Yへの影響が均一にならないおそれがある。このため、糸の配列方向と平行する方向である左右方向の右側及び左側が閉じられ、糸の配列方向と直交する方向である前後方向の前側若しくは後側又は両側が紡糸室101に開放されていることが好ましい。
【0069】
上記実施形態では、調節部材64は、上下方向に移動可能なスライド式のシャッタである。しかしながら、調節部材64は、左右方向に移動可能なスライド式のシャッタでもよい。また、調節部材64は、スライド式のシャッタに限定されず、例えば、排気口63に対して着脱可能な部材でもよい。また、上記実施形態において、調節部材64は配置されていなくてもよい。
【0070】
上記実施形態では、作業領域Wは、ダクト6の前側に設けられている。しかしながら、作業領域Wは、ダクト6の右側、左側、後側、斜め右前側、斜め左前側、斜め右後ろ側又は斜め左後側のいずれかでもよい。また、作業領域Wは、ダクト6の前側、後側、右側、左側、斜め右前側、斜め左前側、斜め右後ろ側又は斜め左後側の複数にわたって設けられていてもよい。さらに、上記実施形態において、作業台51は配置されていなくてもよい。この場合、作業領域Wは、床面102aの上にいる作業者Aが所定の作業を行うための領域として定義される。この場合、所定の作業には、ゴデットローラ9、10、巻取装置5の支持ガイド14への複数の糸Yの糸掛け作業、巻取装置5のボビンホルダ11に対するボビンBの交換等が含まれてもよい。上記をまとめると、作業領域Wは、作業台51の上に限られず、上下方向から見たときにおけるダクト6を中心とするダクト6周辺の床面102a又は作業台51の周辺領域でもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 紡糸生産設備
2 紡糸装置
3 冷却装置
5 巻取装置
6 ダクト
11 ボビンホルダ
40 仕切板
61 糸導入口
62 糸導出口
63 排気口
64 調節部材
101 紡糸室
102 巻取室
102a 床面
102b 天井
A 作業者
B ボビン
P パッケージ
W 作業領域
Y 糸