(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】ウェットシート用乳液及びウェットシート
(51)【国際特許分類】
A47K 7/00 20060101AFI20250327BHJP
【FI】
A47K7/00 G
A47K7/00 F
(21)【出願番号】P 2021159057
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2024-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】鬼澤 里奈
【審査官】野尻 悠平
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-142190(JP,A)
【文献】特開2005-330608(JP,A)
【文献】特開2004-339212(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0266055(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 7/00-7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油剤と乳化剤と増粘剤とが配合されているウェットシート用乳液であって、
前記油剤は、0.001質量%~0.100質量%配合され、
前記油剤と前記乳化剤の比率は1:5~1:19であり、
前記増粘剤は、少なくとも
前記油剤の3倍量配合されていることを特徴とするウェットシート用乳液。
【請求項2】
油剤と乳化剤と増粘剤とが配合されているウェットシート用乳液であって、
前記油剤は、0.001質量%~0.100質量%配合され、
前記油剤と前記乳化剤の比率は1:
11~1:19であり、
前記増粘剤は、
少なくとも前記油剤の2倍量配合されていることを特徴とするウェットシート用乳液。
【請求項3】
前記乳化剤は、少なくとも2種類以上が用いられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のウェットシート用乳液。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のウェットシート用乳液が基材シートに含浸されていることを特徴とするウェットシート。
【請求項5】
前記基材シートには、繊維密度が異なる領域によって所定の模様が形成されていることを特徴とする請求項4に記載のウェットシート。
【請求項6】
前記ウェットシート用乳液が、前記基材シートの乾燥質量に対して200質量%~500質量%含浸されていることを特徴とする請求項4又は5に記載のウェットシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェットシート用乳液及びウェットシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、赤ちゃんのおしりふき、大人用の身体またはおしりふきなどとして、不織布、紙などのシート材に薬液を含浸させたウェットシートが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のウェットシートに含浸されている薬液は、水を主成分としているので、油分を多く含む便や皮脂といったおしりの汚れの拭き取り性能があまり高くなく、多くの枚数のウェットシートを使用する必要があった。
そのため、肌に負担がかかってしまい、肌荒れの原因になってしまうことがあった。
【0005】
本発明の目的は、肌への負担を低減し、少ない枚数で汚れを拭き取ることができるウェットシート用乳液及びウェットシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
油剤と乳化剤と増粘剤とが配合されているウェットシート用乳液であって、
前記油剤は、0.001質量%~0.100質量%配合され、
前記油剤と前記乳化剤の比率は1:5~1:19であり、
前記増粘剤は、少なくとも前記油剤の3倍量配合されていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、
油剤と乳化剤と増粘剤とが配合されているウェットシート用乳液であって、
前記油剤は、0.001質量%~0.100質量%配合され、
前記油剤と前記乳化剤の比率は1:11~1:19であり、
前記増粘剤は、少なくとも前記油剤の2倍量配合されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のウェットシート用乳液において、
前記乳化剤は、少なくとも2種類以上が用いられていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、ウェットシートであって、
請求項1~3のいずれか一項に記載のウェットシート用乳液が基材シートに含浸されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のウェットシートにおいて、
前記基材シートには、繊維密度が異なる領域によって所定の模様が形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載のウェットシートにおいて、
前記ウェットシート用乳液が、前記基材シートの乾燥質量に対して200質量%~500質量%含浸されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、肌への負担を低減し、少ない枚数で汚れを拭き取ることができるウェットシート用乳液及びウェットシートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】杉綾模様のウェットシートを示す平面図である。
【
図2】縞模様のウェットシートを示す平面図である。
【
図3】格子模様のウェットシートを示す平面図である。
【
図4】メッシュ模様のウェットシートを示す平面図である。
【
図5】曲線模様のウェットシートを示す平面図である。
【
図6】ドット模様のウェットシートを示す平面図である。
【
図7】アラン模様(ケーブル模様)のウェットシートを示す平面図である。
【
図8】
図1~
図7のVIII-VIIIの部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係るウェットシート用乳液及びウェットシートの実施形態について詳細に説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0015】
[ウェットシート]
図1は、本実施の形態に係るウェットシートSを示す平面図である。
ウェットシートSは、所定の繊維からなる基材シート10に対して、精製水に各種成分を添加したウェットシート用乳液を含浸させたものであって、例えば、赤ちゃんのおしりふき、大人用の身体またはおしりふきなどに使用される清掃用シートである。
なお、このウェットシートSは、製品形態では、開閉蓋により密閉可能とされたシート取出口を有する密閉容器等の包装手段内に収容することができる。
使用に際しては、ウェットシートSを容器又は袋内に直に入れたもの、或いはウェットシートSを直に入れた袋を容器内に入れたものから、使用者が取出口を開けて内部のシートを引き出して使用する。
【0016】
[基材シート]
基材シート10は、所定の繊維を繊維素材として、例えば、スパンレース、エアスルー、エアレイド、ポイントボンド、スパンボンド、ニードルパンチ等の周知の技術により製造される不織布である。所定の繊維としては、例えば、レーヨン、リヨセル、テンセル、コットン等のセルロース系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール等のポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、ナイロン等のポリアミド系繊維が挙げられる。これらは単独で、或いは2種以上を組み合わせて使用することができるが、コットンが1質量%~10質量%配合されていることが好ましい。コットンが配合されることによって乳液の含浸されたウェットシートSをより肌への刺激が少ないものにすることができる。
【0017】
なお、ウェットシートSは、複数枚の基材シート10をプライ(積層)加工することにより形成しても、1枚の基材シート10から形成してもよい。ウェットシートSが多層構造である場合は、コットンが内層に6%~10%、外層に0~4%含まれていると薬液保持性を高めることができ、内層に0%~4%、外層に6%~10%含まれていると使用者がより水分感を感じられるようになる。なお、内層と外層におけるコットンの含有割合としては上記のものに限られず、各層に均一な割合で含有されていてもよい。
また、基材シート10は、紙で形成されていてもよい。
【0018】
この基材シート10は、例えば、
図1に示すように、高繊維密度領域11からなる凸部と、低繊維密度領域12からなる凹部とを有しており、この高繊維密度領域11と低繊維密度領域12とが交互に配置されることで、所定の模様が形成されている。
所定の模様としては、例えば、
図1に示すように、所定間隔ごとに逆方向に折り曲がる線により、連続したV字状部が形成される杉綾模様が挙げられる。
なお、杉綾模様のV字状部の角度(線の折り曲がる角度)は特に限定されないが、例えば5°~60°とすることで、乳液の拡散性及び液透過性を最も良好にすることができる。
【0019】
また、基材シート10に形成される模様としては、杉綾模様以外にも、例えば、縞模様、格子模様、メッシュ模様、曲線模様、ドット模様、アラン模様(ケーブル模様)などを用いることもできる。
図2~
図7は、それぞれ、縞模様(
図2)、格子模様(
図3)、メッシュ模様(
図4)、曲線模様(
図5)、ドット模様(
図6)、アラン模様(
図7)が形成された基材シート10を示している。
なお、各模様の縞や曲線の間隔、格子やメッシュやドットの大きさなどは、特に限定されない。
【0020】
なお、
図1~
図7では、説明の便宜のため、高繊維密度領域11の部分に網点を付している。
また、本明細書でいう「高繊維密度領域11」とは、低繊維密度領域12よりも繊維密度が大きい領域であることを意味し、密度は低繊維密度領域12よりも大きければ特に限定されない。
また、「低繊維密度領域12」とは、高繊維密度領域11よりも繊維密度が小さい領域であることを意味し、密度は高繊維密度領域11よりも小さければ特に限定されない。
【0021】
基材シート10が、高繊維密度領域11と低繊維密度領域12とを有することによって、肌への接触面積が少なくなり、肌への摩擦が低減できる。これにより、肌への刺激を少なくすることができるので、本発明のウェットシートSは、肌の敏感な人や乳幼児などであっても利用することができるものとなっている。
また、凹部(低繊維密度領域12)を有することにより、平坦な基材シートと比較して液拡散性及び液透過性が優れるため、基材シート10にはムラなく均一に乳液が塗布されることとなる。
【0022】
高繊維密度領域11(凸部)と低繊維密度領域12(凹部)とによって形成される各模様における凹凸交互数は、3~7個/cmであることが好ましい。
ここで、本明細書でいう凹凸交互数(個/cm,本/cm)とは、1cmあたりに線状(或いは点状)の高繊維密度領域11と線状(或いは点状)の低繊維密度領域12が幾つ存在するかを意味している。
例えば、平行に設けられた線状の高繊維密度領域11及び線状の低繊維密度領域12に対して垂直な方向(凹凸の数が最も多くなる方向)に、高繊維密度領域11と低繊維密度領域12が何本(何個)存在するかを意味している。
つまり、4個/cmのときは、1cmに高繊維密度領域11及び低繊維密度領域12が2個ずつ設けられていることを意味する。
凹凸交互数が3個/cm未満であると、基材シート10の表面が平坦に近づくため、一旦捕捉された汚れが転着し易くなる。また、凹凸交互数が7個/cmを超えると、高繊維密度領域11と低繊維密度領域12とで形成される空間の容積が小さくなり過ぎるため、低繊維密度領域12に所望の量の汚れを確保できないようになる。
【0023】
図8は、
図1~
図7におけるVIII-VIIIの部分の断面図である。
高繊維密度領域11の裏面からの高さ(厚さ)Hmは、例えば、200μm以上、600μm未満が好ましく、低繊維密度領域12の裏面からの高さ(厚さ)Hdは、例えば、150μm以上、200μm未満が好ましい。
このとき、高繊維密度領域11と低繊維密度領域12との高低差は、50μm~100μm程度が好ましい。
高低差が50μm未満であると、低繊維密度領域12による捕捉効果を多く期待することができず、所望の拭取り量が確保できないようになり、また、100μmを超えると、基材シート10の厚さが厚くなって、柔軟性や手触り感が損なわれるからである。
【0024】
また、高繊維密度領域11の繊維目付けは、例えば、40g/m2~80g/m2程度であるのが好ましく、低繊維密度領域12の繊維目付けは、例えば、10g/m2~30g/m2程度であるのが好ましい。
なお、基材シート10の繊維目付けは、例えば、45g/m2~70g/m2程度であることが好ましい。
繊維目付けが上記範囲を満たすことで、好適な厚みとなり、基材シート10に強度と柔軟性の両者を担保させることができる。
【0025】
なお、本実施形態では、凸部が高繊維密度領域11であり、凹部が低繊維密度領域12であるとしたが、これに限られず、凸部が低繊維密度領域12であり、凹部が高繊維密度領域11であるとしてもよい。
また、基材シート10は、高繊維密度領域11である凸部と、低繊維密度領域12である凹部を有していることが好ましいが、これに限られず、繊維密度の差を設けなくても構わない。
また、基材シート10における高繊維密度領域11と低繊維密度領域12の面積比は5:5でなくても構わないが、2:8~8:2の範囲内であるのが好ましい。一方が他方の4倍より多く設けられていると、凹凸感が感じられにくくなるので好ましくない。
【0026】
[ウェットシート用乳液]
ウェットシート用乳液は、主成分が水(精製水)であって、油剤と乳化剤が1:5~1:19の比率で配合され、乳化させたものである。
また、ウェットシート用乳液には、粘度を上げるために増粘剤が配合され、その増粘剤によって乳液にとろみをつけたものである。
かかる構成により、本実施形態のウェットシート用乳液は油分を含むこととなるため、油分を多く含む便や皮脂汚れの汚れ落ちが良い。また、乳液にとろみをつけたことで、拭き心地がなめらかになり、肌荒れの原因になり難い。
したがって、乳液を含浸させたウェットシートSは、少ない枚数で汚れをしっかりと拭き取ることができるものとなり、消費者はおしりふきの購入量を減らすことができる。また、乳液を含浸させたウェットシートSによる拭き心地がよく、肌への負担を低減することができる。
特に、かかる比率で油剤と乳化剤が配合されることにより、ウェットシート用乳液の乳化安定性が向上し、水と油剤が可溶化し、半透明または透明になるため、液中の不純物の有無の確認、pHの測定といった品質管理を行いやすくなり、操業性を高めることができる。
また特に、かかる比率で増粘剤が配合されることにより、とろみがついた乳液の粘度が上がって肌に密着し易くなるので、肌に密着した乳液が汚れに纏わり付き易くなって、汚れを落とし易くなる。
なお、このウェットシート用乳液は、pH3~5に調整されている。
【0027】
(油剤)
油剤としては、例えば、オレイン酸とステアリン酸を多量に含むことから低粘度でなめらかかつしっとりした感触を示し、浸透性に優れ、また長鎖脂肪酸やフィトステロールが含まれていることから高い保湿性を有するシア脂が用いられる。
なお、油剤としてはシア脂に限られず、エモリエント効果を有するものであれば良く、アボガド油、アーモンド油、オリーブ油、つばき油、ごま油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、コーン油、なたね油、キョウニン油、パーシック油、桃仁油、ひまし油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、綿実油、ココナッツ油、小麦胚芽油、米胚芽油、月見草油、ハイブリッドヒマワリ油、マカデミアナッツ油、メドウフォーム油、へーゼルナッツ油、パーム核油、パーム油、やし油、カカオ脂、木ろう、ミンク油、タートル油、卵黄油、牛脂、乳脂、豚脂、馬油、ホホバ油、カルナウバろう、キャンデラろう、米ぬかろう、オレンジラフィー油、みつろう、セラック、ラノリン、モンタンろう、スクワレン、スクワラン、流動パラフィン、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ワセリン、軟質流動イソパラフィン、水添ポリイソブチレン、オゾケライト、セレシン、α-オレインフィンオリゴマー、ポリブテン、ポリエチレン等を任意に用いることができる。
油剤は、ウェットシート用乳液の全成分に対して0.001質量%~0.100質量%の割合で配合される。0.001質量%より少ないと油剤の効果があまり発揮されなくなるため望ましくない。また、0.100質量%より多いと、粘性が大きくなり、ベトつきが生じ、使用感が悪化するため望ましくない。
【0028】
(乳化剤)
また、乳化剤には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルエステル類、ポリオキシアルキレンソルビタンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の非イオン界面活性剤等が用いられる。
なお、乳化剤は少なくとも2種類以上が配合されるのが望ましい。シア脂等の油脂は、複数種の脂肪酸からなるため、複数種の乳化剤を配合することにより、より乳化しやすくすることができる。
【0029】
(増粘剤)
また、増粘剤には、キサンタンガム、グアーガム、アラビアガム、タラガムなどの分岐構造を持つ多糖類が用いられる。
なお、増粘剤としては多糖類に限らず、カルボマーやシリコン等の化学合成品を用いることができる。
増粘剤は、ウェットシート用乳液の全成分に対して少なくとも0.01質量%の割合で配合される。
また、増粘剤によっては(例えば、キサンタンガムの場合)、ウェットシート用乳液の全成分に対して0.01質量%~0.1質量%の割合で配合されることが好ましい。0.01質量%より少ないと薬液の粘度が低くなり、汚れ落ちに寄与し難くなるため望ましくない。また、0.1質量%より多いと薬液の粘度が高くなり過ぎ、基材シート10(ウェットシートS)に薬液を均一に含浸するのが困難になるため望ましくない。
このように増粘剤の種類に応じて適正量配合するようにする。
【0030】
(保湿剤)
また、ウェットシート用乳液には保湿剤を配合しても良い。保湿剤としては、肌への刺激が少ないグリセリン等が用いられ、これを油剤と配合することにより、ウェットシートSの水分保持性を高めることができ、何回もこすらずとも汚れを拭き取れるようになり、肌への刺激を低減させることが可能となる。
保湿剤は、ウェットシート用乳液の全成分に対して1質量%~10質量%の割合で配合される。1質量%より少ないと保湿効果があまり向上せず、10質量%より多いと、ウェットシート用乳液の粘性が高くなりすぎるため、含浸性能が低くなる。また、ベトつきが生じ、使用感が悪化するため望ましくない。
【0031】
(防腐剤)
その他、ウェットシート用乳液には防腐剤として、ヘキシルグリセリン又はエチルヘキシルグリセリンを配合しても良く、市販品、化学合成法、動物や植物に由来する天然のもの、発酵法又は遺伝子組換法によって得られるもののいずれを使用してもよい。また、ヘキシルグリセリン又はエチルヘキシルグリセリンは幅広い抗菌スペクトルを持ち、高い抗菌効果を有する物質である。また、ヘキシルグリセリン又はエチルヘキシルグリセリンは保湿機能を有し、これを含有することにより、ウェットシートSの水分保持性を高めることができる。
【0032】
また、防腐剤には安息香酸ナトリウムが含まれる。安息香酸ナトリウムは、例えば、カビ、酵母、好気性菌等に対する抗菌効果を有する物質である。
安息香酸ナトリウムはpH5以下で防腐効果を発揮する。即ち、ウェットシート用乳液のpHが5より大きくなると安息香酸ナトリウムの防腐効果がほとんどなくなってしまう。また、一般に、pHが3より小さくなると強酸性となるため肌への刺激があり、肌荒れの原因となる可能性がある。このため、ウェットシート用乳液のpHは3~5の範囲に調整されることが望ましい。
【0033】
具体的には、ウェットシート用乳液の全成分に対して、エチルヘキシルグリセリンが0.05質量%~0.10質量%、安息香酸ナトリウムが0.075質量%~0.100質量%の割合で配合される。
或いは、ウェットシート用乳液の全成分に対して、ヘキシルグリセリンが0.1質量%~0.5質量%、安息香酸ナトリウムが0.05質量%~0.10質量%の割合で配合される。
かかる配合をすることで、より効果的に防腐効果を発揮させることができる。
【0034】
その他、防腐剤には、例えば、フェノキシエタノール、塩化ベンザルコニウム、セチルピリジニウムクロリドやキレート剤等を配合することが可能である。
【0035】
(含浸率)
また、このウェットシート用乳液の含浸率としては、基材シート10の乾燥質量に対して200質量%~500質量%とすることができる。
なお、基材シート10の乾燥質量の測定条件は、温度25℃、湿度40%である。また、含浸率200質量%とは、乾燥質量が100gの基材シート10に対してウェットシート用乳液が200g含浸されていることを意味し、含浸率500質量%とは、乾燥質量が100gの基材シート10に対してウェットシート用乳液が500g含浸されていることを意味している。
含浸率が200質量%より少ないと、液分が十分に浸透せずに含浸ムラができて、ウェットシート用乳液内の成分が偏在しやすくなり、含浸率が500質量%より多いと、使用時にウェットシート用乳液が垂れやすくなる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
[サンプル作成]
始めに、表Iに示す成分と配合比によって乳液のベース処方(乳液のベースとなる薬液、ベース処方液)を得た。
【0038】
【0039】
次いで、以下の各実施例・比較例の配合比で、ベース処方と、油剤(シア脂)と、非イオン界面活性剤である乳化剤I(トリイソステアリン酸PEG-20グリセリル)、乳化剤II(PEG―8(カプリル酸/カプリン酸)グリセリズ)と、増粘剤(キサンタンガム)を配合し、薬液をそれぞれ調合した(表II参照)。
【0040】
(実施例1)
ベース処方を99.77質量%、油剤を0.01質量%、乳化剤Iを0.02質量%、乳化剤IIを0.03質量%、増粘剤を0.03質量%、精製水を0.14質量%配合した。
(実施例2)
ベース処方を99.77質量%、油剤を0.01質量%、乳化剤Iを0.05質量%、乳化剤IIを0.06質量%、増粘剤を0.02質量%、精製水を0.09質量%配合した。
(実施例3)
ベース処方を99.77質量%、油剤を0.01質量%、乳化剤Iを0.05質量%、乳化剤IIを0.06質量%、増粘剤を0.03質量%、精製水を0.08質量%配合した。
(実施例4)
ベース処方を99.77質量%、油剤を0.01質量%、乳化剤Iを0.09質量%、乳化剤IIを0.10質量%、増粘剤を0.02質量%、精製水を0.01質量%配合した。
(実施例5)
ベース処方を99.77質量%、油剤を0.01質量%、乳化剤Iを0.09質量%、乳化剤IIを0.10質量%、増粘剤を0.03質量%配合した。
【0041】
(比較例1)
ベース処方を99.77質量%、油剤を0.01質量%、乳化剤Iを0.02質量%、乳化剤IIを0.03質量%、増粘剤なし、精製水を0.17質量%配合した。
(比較例2)
ベース処方を99.77質量%、油剤を0.01質量%、乳化剤Iを0.02質量%、乳化剤IIを0.03質量%、増粘剤を0.02質量%、精製水を0.15質量%配合した。
(比較例3)
ベース処方を99.77質量%、油剤を0.01質量%、乳化剤Iを0.05質量%、乳化剤IIを0.06質量%、増粘剤なし、精製水を0.11質量%配合した。
(比較例4)
ベース処方を99.77質量%、油剤なし、乳化剤Iなし、乳化剤IIなし、増粘剤を0.02質量%、精製水を0.21質量%配合した。
(比較例5)
ベース処方を99.77質量%、油剤なし、乳化剤Iなし、乳化剤IIなし、増粘剤なし、精製水を0.23質量%配合した。
【0042】
上記実施例1~5及び比較例1~5の薬液を用いて、以下の試験1、試験2を行った。
なお、実施例1~5の薬液と比較例1~3の薬液は乳化して、色が半透明または透明になった。
また、比較例4の薬液はベース処方液に増粘剤のみを添加したものであり、比較例5の薬液はベース処方液に精製水を添加したものである。
【0043】
[試験1.汚れ落ち試験]
まず、おしりふきシートとしてのサンプルを作成した。
このサンプルとする基材シートには、繊維の配合がレーヨン/PET=50/50であって、
図6に示したドット模様を有しており、目付量が60g/m
2の不織布を用いた。
この基材シートに、実施例1~5及び比較例1~5の薬液をそれぞれ340%含浸させて、おしりふきシートのサンプルを作成した。
【0044】
<試験方法>
長さ320mmのポリプロピレン板の中央部に軟便を模した疑似汚れをその板の幅方向に並べて2か所に付着させ、60℃で1時間乾燥させてなる付着汚れを調整した。
疑似汚れには、ヨーグルトとイオン交換水を2:3の比率で混ぜ合わせた液体を使い、その液体を0.5mlずつ2か所に滴下した。
そのポリプロピレン板の右端におしりふきシートのサンプルを置き、そのサンプルの上に275gの錘を載せる。
そして、錘を載せた状態のおしりふきシートのサンプルをポリプロピレン板の左端に約4秒かけて移動させた後、ポリプロピレン板の左端から右端に約4秒かけて移動させる。
この往復を複数回繰り返し、各回毎に汚れの状態を観察した。
この観察によって、10回以下で汚れが落ちたものは「◎」(汚れ落ち良好)、
11~15回で汚れが落ちたものは「〇」(汚れ落ち普通)、
16~20回で汚れが落ちたものは「△」(汚れ落ちやや悪い)、
21回以上で汚れが落ちたものは「×」(汚れ落ち悪い)、との4段階で評価した。
この評価結果を表IIに示す。
【0045】
【0046】
汚れ落ち試験の結果は、表IIに示したように、実施例1~5の評価が良く、比較例1~5の評価は悪いものであった。
このことから油剤と乳化剤と増粘剤とが配合されたウェットシート用乳液において、増粘剤が適正量配合されていることが好ましいことがわかる。
具体的には、配合される油剤と乳化剤の比率が1:5~1:19であって、増粘剤が0.01質量%~0.1質量%配合した乳液であれば、好適に汚れを落とすことができる。
例えば、油剤と乳化剤の比率が1:5~1:19である場合、増粘剤は油剤の3倍量程度配合されていることが好ましい。
また、油剤と乳化剤の比率が1:11~1:19である場合、増粘剤は油剤の2倍量程度配合されていることが好ましい。
つまり、増粘剤が適正量配合されて、とろみがついた乳液であれば汚れの付着箇所に密着し易くなっており、そこに密着した乳液が汚れに纏わり付き易くなって、汚れを落とし易くなっている。
【0047】
[試験2.品質試験(水分蒸散量;皮膚刺激)]
実施例5の薬液と比較例5の薬液をそれぞれ含浸させたシートで肌を拭き、その肌からの水分蒸散量を測定して、皮膚刺激について検証した。実施例5の薬液は、本実施形態のウェットシート用乳液の配合に準じたものであり、比較例5の薬液は、油剤・乳化剤・増粘剤が配合されていないベース処方液に準じたものである。
本実施形態では水分蒸散量の測定にMoisture Checker MY707S(スカラ株式会社製)を使用した。
【0048】
以下に測定手順を示す。
1)左腕の内側の手首から5cm、8cm、11cmの箇所に目印をつける。
2)目印をつけた箇所の水分蒸散量を測定する。ここでの測定値をブランクとし、以後の水分蒸散量の変化率を算出するのに用いる。
3)おしりふきシートのサンプルで、目印をつけた箇所を5回、やさしく拭き取る。
4)拭き取り直後に目印をつけた箇所の水分蒸散量を測定する。
5)以後、5,10,15,20,25,30,45,60分後に水分蒸散量を測定する。
6)拭き取り前との水分蒸散量の変化率を算出する。
この試験の測定結果を表IIIに示す。なお、この測定結果は3カ所の目印での平均値(n=3)である。
【0049】
【0050】
表IIIに示したように、水分蒸散量に関しては、実施例5と比較例5に顕著な差はない。
このことから、実施例5の薬液と比較例5の薬液の皮膚刺激は同等であると判定した。
【0051】
(実施形態の効果)
以上のように、薬液に適正量の油剤・乳化剤・増粘剤を配合することで、便ないし尿といった脂が含まれる汚れを落とし易いウェットシート用乳液を生成することができる。
特に、配合される油剤と乳化剤の比率が1:5~1:19であって、増粘剤が0.01質量%~0.1質量%配合した乳液であれば、好適に汚れを落とすことができる。
このような比率で増粘剤が適正量配合されて、とろみがついた乳液であれば肌に密着し易くなり、肌に密着した乳液が汚れに纏わり付き易くなるので、汚れを落とし易くなる。
また、このような比率で増粘剤が適正量配合された乳液に皮膚刺激性はないので、肌荒れの原因にはなり難い。
このようなウェットシート用乳液を基材シートに含浸させたウェットシートであれば、便ないし尿といった脂が含まれる汚れを好適に拭き取ることができる。
そして、このウェットシートであれば、少ない拭き取り回数、少ない枚数で汚れをしっかりと拭き取ることができ、肌への負担を低減することができる。
【0052】
[変形例]
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
例えば、ウェットシートSは赤ちゃんのおしりふき、大人用の身体またはおしりふきなどに使用されるものとしたが、これに限られない。また、ウェットシート用乳液に配合される薬液も、その用途に応じて変更可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 基材シート
S ウェットシート