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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】円筒形電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/107 20210101AFI20250327BHJP
   H01M 50/133 20210101ALI20250327BHJP
   H01M 50/152 20210101ALI20250327BHJP
   H01M 50/184 20210101ALI20250327BHJP
   H01M 50/186 20210101ALI20250327BHJP
【FI】
H01M50/107
H01M50/133
H01M50/152
H01M50/184 D
H01M50/186
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021522771
(86)(22)【出願日】2020-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2020020656
(87)【国際公開番号】W WO2020241610
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2019102022
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沖本 良太
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 仰
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-153580(JP,A)
【文献】国際公開第2018/225394(WO,A1)
【文献】特開2012-234716(JP,A)
【文献】特開2002-093382(JP,A)
【文献】特開2005-293922(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0148683(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0108878(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/107
H01M 50/133
H01M 50/152
H01M 50/184
H01M 50/186
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面部及び側面部を含む、有底円筒状の外装缶と、
前記外装缶の開口部を塞ぐ封口体と、
前記外装缶と前記封口体の間に配置されるガスケットと、
を備える円筒形電池であって、
前記外装缶は、前記側面部が外側から内側に張り出して形成され、
前記ガスケットを介して前記封口体を支持する溝入部と、前記封口体及び前記ガスケットを介して前記溝入部と対向するように形成され、前記溝入部と共に前記封口体を挟持する肩部とを有し、
前記肩部の少なくとも一部は、前記溝入部の内端よりも前記封口体の径方向内側に延出し、前記肩部には、前記外装缶の周方向に沿って前記肩部の他の部分より変形し易い部分である易変形部が形成されており、
前記易変形部は、
前記肩部に形成され、前記外装缶の周方向に沿った環状の溝、
前記肩部に形成され、前記外装缶の周方向に沿った環状の段差、及び、
前記肩部に形成され、前記溝入部の内端よりも前記封口体の径方向内側に突出した少なくとも1つの凸部の付け根部分のうちの少なくとも一つである、円筒形電池。
【請求項2】
前記易変形部は、前記外装缶の軸方向に前記溝入部の内端と重なる位置を中心として、前記外装缶の径方向に、前記溝入部の長さの50%に相当する長さの範囲内に形成される、請求項1に記載の円筒形電池。
【請求項3】
前記易変形部は、前記外装缶の軸方向に前記溝入部の内端と略重なる部分に形成される、請求項1に記載の円筒形電池。
【請求項4】
前記肩部は、外周側端部から前記易変形部に近づくほど前記溝入部との間隔が小さくなるように傾斜している、請求項1~3のいずれか1項に記載の円筒形電池。
【請求項5】
前記肩部の前記易変形部よりも先端側に位置する部分は、前記外装缶の径方向と略平行に形成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の円筒形電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、円筒形電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有底円筒状の外装缶と、外装缶の開口部を塞ぐ封口体と、外装缶と封口体の間に配置されるガスケットとを備えた円筒形電池が広く知られている(例えば、特許文献1,2参照)。外装缶には、一般的に、側面部が外側から内側に張り出し、ガスケットを介して封口体を支持する溝入部、及び溝入部と対向するように形成され、溝入部と共にガスケットを介して封口体を挟持する肩部が形成されている。電池内部の密閉性を確保するために、肩部は封口体の周縁部にかしめられている。
【0003】
なお、円筒形電池では、例えば封口体の内面に正極リードが接続されて封口体が正極外部端子となり、外装缶の内面に負極リードが接続されて外装缶が負極外部端子となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-152031号公報
【文献】特表2010-512638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、円筒形電池は、外部リードを介して複数個が直列に接続されてモジュール化される場合がある。このとき、外部リードが正極外部端子及び負極外部端子に接続される。電池モジュールの小型化を目的として、外部リードを負極外部端子としての外装缶のうち封口体に近接する肩部に接続する場合がある。この場合、肩部における外部リードの接続面積を大きくしてリード接続の作業性を向上させるために、肩部を長く延ばすことが考えられるが、肩部を単純に長くすると、肩部をかしめる際に溝入部が電極体側(外装缶の下部側)に変形し易くなる。かかる溝入部の変形が生じると、電極体の収容スペースが狭くなる、溝入部が電極体と接触して短絡する等の不具合が発生し得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様である円筒形電池は、底面部及び側面部を含む、有底円筒状の外装缶と、前記外装缶の開口部を塞ぐ封口体と、前記外装缶と前記封口体の間に配置されるガスケットとを備え、前記外装缶は、前記側面部が外側から内側に張り出して形成され、前記ガスケットを介して前記封口体を支持する溝入部と、前記封口体及び前記ガスケットを介して前記溝入部と対向するように形成され、前記溝入部と共に前記封口体を挟持する肩部とを有し、前記肩部の少なくとも一部は、前記溝入部の内端よりも前記封口体の径方向内側に延出し、前記肩部には、前記外装缶の周方向に沿って易変形部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様である円筒形電池によれば、溝入部の変形を抑制しつつ、溝入部の内端よりも封口体の径方向内側まで肩部を延出させることができる。これにより、肩部における外部リードの接続面積を十分に確保でき、円筒形電池をモジュール化する際にリード接続の作業性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態の一例である円筒形電池の断面図である。
図2図2は、図1中の外装缶の肩部及びその近傍の拡大図である。
図3図3は、実施形態の他の一例である円筒形電池の断面図である。
図4A図4Aは、実施形態の他の一例である円筒形電池の平面図である。
図4B図4Bは、図4A中のAA線断面の一部を示す図である。
図5図5は、円筒形電池で発生する溝入部の変形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本開示に係る円筒形電池の実施形態の一例について詳説する。本明細書において、「略~」との記載は、「略平行」を例に説明すると、完全に平行な状態及び実質的に平行と認められる状態を意味する。
【0010】
図1は、実施形態の一例である円筒形電池10の断面図である。図1に例示するように、円筒形電池10は、電極体14と、電解質と、電極体14及び電解質を収容する外装缶16とを備える。電極体14は、正極11と、負極12と、セパレータ13とを含み、正極11と負極12がセパレータ13を介して渦巻き状に巻回された構造を有する。外装缶16は、軸方向一方が開口した有底円筒形状を有し、外装缶16の開口部は封口体17によって塞がれている。また、外装缶16と封口体17の間にはガスケット18が介在している。以下では、説明の便宜上、円筒形電池10の封口体17側(外装缶16の開口部側)を上、外装缶16の底面部16a側を下とする。
【0011】
正極11は、正極芯体と、当該芯体の少なくとも一方の面に形成された正極合剤層とを有する。正極芯体には、アルミニウム、アルミニウム合金など、正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合剤層は、正極活物質、アセチレンブラック等の導電剤、及びポリフッ化ビニリデン等の結着剤を含み、正極芯体の両面に形成されることが好ましい。正極活物質には、例えばリチウム遷移金属複合酸化物が用いられる。正極11は、正極芯体上に正極活物質、導電剤、及び結着剤等を含む正極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、塗膜を圧縮して正極合剤層を芯体の両面に形成することにより製造できる。
【0012】
負極12は、負極芯体と、当該芯体の少なくとも一方の面に形成された負極合剤層とを有する。負極芯体には、銅、銅合金等の負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルムなどを用いることができる。負極合剤層は、負極活物質、及びスチレン-ブタジエンゴム(SBR)等の結着剤を含み、負極芯体の両面に形成されることが好ましい。負極活物質には、例えば黒鉛、シリコン含有化合物などが用いられる。負極12は、負極芯体上に負極活物質、結着剤等を含む負極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、塗膜を圧延して負極合剤層を芯体の両面に形成することにより製造できる。
【0013】
電解質には、例えば非水電解質が用いられる。非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、エステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。なお、非水電解質は液体電解質に限定されず、固体電解質であってもよい。電解質塩には、例えばLiPF等のリチウム塩が使用される。電解質の種類は特に限定されず、水系電解質であってもよい。
【0014】
円筒形電池10は、電極体14の上下にそれぞれ配置された絶縁板19,20を備える。図1に示す例では、正極11に接続された正極リード21が絶縁板19の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に接続された負極リード22が絶縁板20の外側を通って外装缶16の底面部16a側に延びている。正極リード21は封口体17の底板である内部端子板25の下面に溶接等で接続され、内部端子板25と電気的に接続された封口体17の外部端子板26が正極外部端子となる。負極リード22は外装缶16の底面部16aの内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極外部端子となる。
【0015】
円筒形電池10は、上述のように、外装缶16と、外装缶16の開口部を塞ぐ封口体17と、外装缶16と封口体17の間に配置されるガスケット18とを備える。外装缶16は、底面部16a及び側面部16bを含む、有底円筒状の金属製容器である。底面部16aは円板状を呈し、側面部16bは底面部16aの外周縁に沿って円筒状に形成される。また、外装缶16は円形状の開口部を有し、封口体17は当該開口部に対応する円板状に形成される。ガスケット18は、電池内部の密閉性を確保すると共に、外装缶16及び封口体17の電気的な絶縁を確保する。
【0016】
外装缶16は、側面部16bが外側から内側に張り出して形成され、ガスケット18を介して封口体17を支持する溝入部30と、封口体17及びガスケット18を介して溝入部30と対向するように形成され、溝入部30と共に封口体17を挟持する肩部31とを有する。溝入部30は、側面部16bの外側からのスピニング加工により、外装缶16(側面部16b)の周方向に沿って環状に形成される。
【0017】
肩部31は、溝入部30と同様に、外装缶16の周方向に沿って環状に形成される。肩部31は、外装缶16の開口縁部を内側に折り曲げて形成され、ガスケット18を介して封口体17の周縁部にかしめられている。詳しくは後述するが、肩部31の少なくとも一部は、溝入部30の内端30aよりも封口体17の径方向内側に延出し、肩部31には外装缶16の周方向に沿って易変形部34(図2参照)が形成される。
【0018】
封口体17は、電流遮断機構を備えた円盤状の部材である。封口体17は、電極体14側から順に、内部端子板25、絶縁板27、及び外部端子板26が積層された構造を有する。内部端子板25は、正極リード21が接続される環状部25a、及び電池の内圧が所定の閾値を超えたときに環状部25aから切り離される薄肉の中央部25bを含む金属板である。環状部25aには、通気孔25cが形成されている。
【0019】
外部端子板26は、絶縁板27を挟んで内部端子板25と対向配置される。絶縁板27には、径方向中央部に開口部27aが、内部端子板25の通気孔25cと重なる部分に通気孔27bがそれぞれ形成されている。外部端子板26は、電池の内圧が所定の閾値を超えたときに破断する弁部26aを有し、弁部26aが絶縁板27の開口部27aを介して内部端子板25の環状部25aと溶接等で接続されている。絶縁板27は、内部端子板25の環状部25aと外部端子板26の弁部26aとの接続部分以外の部分を絶縁している。
【0020】
弁部26aは、電池の内側に向かって突出した下凸部、及び下凸部の周囲に形成された薄肉部を含み、外部端子板26の径方向中央部に形成されている。円筒形電池10では、正極リード21が接続された内部端子板25と、外部端子板26とが電気的に接続されることで、電極体14から外部端子板26につながる電流経路が形成される。電池に異常が発生して内圧が上昇すると、内部端子板25が破断して中央部25bが環状部25aから切り離され、弁部26aが電池の外側に向かって凸となるように変形する。これにより、電流経路が遮断される。電池の内圧がさらに上昇すると、弁部26aが破断してガスの排出口が形成される。
【0021】
なお、封口体の構造は、図1に例示する構造に限定されない。封口体は、2枚の弁体を含む積層構造を有していてもよく、弁体を覆う凸状の封口体キャップを有していてもよい。また、負極リードが封口体の内面に接続され、正極リードが外装缶の内面に接続されてもよい。この場合、封口体が負極外部端子となり、外装缶が正極外部端子となる。
【0022】
円筒形電池10は、例えば、複数個が直列に接続されてモジュール化される。複数の円筒形電池10を含む電池モジュールでは、外部リードが封口体17及び外装缶16の肩部31に溶接等で接続される。外部リードを外装缶16の肩部31に接続する場合、外部リードを外装缶16の底面部16aに接続する場合と比べて、モジュールの小型化を図ることができる。円筒形電池10では、肩部31の少なくとも一部が、溝入部30の内端30aよりも封口体17の径方向内側に延出して長く形成されているので、肩部31における外部リード接続面積を十分に確保でき、リード接続の作業性が向上して歩留まりが改善される。
【0023】
以下、図2を参照しながら、外装缶16の肩部31、及びその近傍の構造について詳説する。図2は、図1中の肩部31及びその近傍の拡大図である。
【0024】
図2に例示するように、封口体17は、外装缶16の側面部16bに形成された溝入部30及び肩部31によって挟持されている。溝入部30は、外装缶16の上部において、側面部16bの一部が外側から内側に張り出し、側面部16bの周方向に沿って環状に形成されている。また、溝入部30は断面略U字形状を有する。封口体17は、ガスケット18を介して溝入部30の上面に配置される。
【0025】
溝入部30の長さLは、例えば1mm~3mmである。ここで、溝入部30の長さLとは、外装缶16の軸方向αに沿った内面から溝入部30の内端30aまでの外装缶16の径方向βに沿った長さを意味する。溝入部30の長さLが当該範囲内であれば、外装缶16の機械的強度を確保しながら、封口体17を安定に支持することができる。
【0026】
肩部31は、外装缶16の開口縁部(上端部)に沿って環状に形成される。肩部31は、外装缶16の開口縁部が封口体17及びガスケット18を介して溝入部30と対向するように、溝入部30の上面に配置された封口体17の方向に側面部16bを折り曲げて形成される。肩部31は、封口体17の周縁部にかしめられることで、ガスケット18を介して封口体17を押圧する。本実施形態では、円筒形電池10の平面視において、一定の幅を有する環状の肩部31が、封口体17の周縁部上に形成されている。なお、肩部31の外周側端部は、電池の外側に向かって湾曲している。
【0027】
肩部31の少なくとも一部は、上述のように、溝入部30の内端30aよりも封口体17の径方向内側に延出している。すなわち、肩部31には、封口体17及びガスケット18を介して溝入部30に対向する対向部32、及び溝入部30の内端30aよりも封口体17の径方向内側に延出して溝入部30と対向しない延出部33が存在する。外装缶16の径方向βに沿った延出部33の長さは、溝入部30の長さL以上であってもよいが、好ましくは長さLよりも短い。延出部33の長さは、例えば溝入部30の長さLの10%~60%であり、一例としては0.2mm~2mmである。
【0028】
本実施形態では、環状に形成された肩部31が、その周方向全長にわたって、溝入部30の内端30aよりも封口体17の径方向内側に延出している。つまり、肩部31の延出部33は環状に形成されている。
【0029】
肩部31には、外装缶16の周方向に沿って易変形部34が形成されている。易変形部34は、肩部31を封口体17にかしめたときに、肩部31の他の部分よりも変形し易い部分であって、かしめの応力が集中し易く他の部分よりも容易に折れ曲がる。換言すると、易変形部34は、外装缶16の径方向βに沿った肩部31の断面において、最も降伏応力が小さく、最も変形し易い部分である。
【0030】
後述の比較例で示すように、溝入部の内端を超える長さで肩部を形成すると、かしめ時の応力に対して溝入部からの反力が下回り、溝入部が電極体側に下反りして電極体の収容スペースが狭くなる、溝入部が電極体と接触して短絡する等の不具合が発生し得る。この場合、かしめ時の応力と溝入部からの反力とのバランスが損なわれている。円筒形電池10では、肩部31に易変形部34を形成してかしめ時に肩部31を変形させることで、溝入部30に作用する応力を低減できる。このため、肩部31に延出部33を形成しても、溝入部30の変形を抑制することが可能である。
【0031】
肩部31は、外周側端部から易変形部34に近づくほど溝入部30との間隔が小さくなるように傾斜していることが好ましい。本実施形態では、肩部31の外周側端部に形成された湾曲部の内端から易変形部34にわたって、溝入部30との間隔が小さくなるように、換言すると、封口体17の上面との間隔が小さくなるように、肩部31の対向部32が下方に向かって傾斜している。この場合、肩部31によってガスケット18が強く押圧され、電池内部の良好な密閉性が確保される。
【0032】
他方、易変形部34よりも肩部31の先端側に位置する部分は、外装缶16の径方向βと略平行に形成されることが好ましい。肩部31をかしめた際に、肩部31が易変形部34で折れ曲がり、易変形部34よりも肩部31の先端側に位置する部分が径方向βに沿った状態となる。すなわち、肩部31には屈曲部が存在し、屈曲部よりも先端側に位置する部分、例えば延出部33の一部又は全部が径方向βと略平行に形成される。延出部33の少なくとも一部が径方向βと略平行に形成されることで、溝入部30に作用する応力が低減され、また肩部31に対する外部リードの接続が容易になる。さらに、対向部32の傾斜角度を小さくすることで肩部31に対する外部リードの接続が容易になる。例えば、対向部32の傾斜角度を外装缶16の径方向βと略平行としてもよい。
【0033】
図2に例示する形態では、外装缶16の周方向に沿った環状の溝35が肩部31に形成されている。溝35は、肩部31の外面に形成されてもよいが、ガスケット18に当接する肩部31の内面に形成されることが好ましい。溝35は、例えば肩部31の厚みの10~90%の深さで、断面略V字状に形成される。肩部31の溝35が形成された部分は、他の部分よりも厚みが薄くなり、肩部31を封口体17にかしめたときに応力が集中して他の部分よりも変形し易い。すなわち、溝35が形成された部分が易変形部34となり、肩部31(外装缶16)の周方向の全長にわたって環状の易変形部34が形成される。
【0034】
易変形部34(溝35)は、溝入部30の内端30aと外装缶16の軸方向αに重なる位置を中心Xとして、外装缶16の径方向βに、溝入部30の長さLの50%に相当する長さの範囲内に形成されることが好ましい。例えば、溝入部30の長さLが2mmである場合、易変形部34は、中心Xから径方向βに、±1mmの範囲内に形成される。易変形部34が当該範囲内に形成されることで、かしめ時に溝入部30に作用する応力が十分に低減され、溝入部30の変形を高度に抑制できる。
【0035】
易変形部34は、肩部31の上記中心Xから径方向βに、溝入部30の長さLの30%に相当する長さ範囲内に形成されることがより好ましく、長さLの15%に相当する長さ範囲内に形成されることが特に好ましい。本実施形態では、溝入部30の内端30aと易変形部34が軸方向αに略並んでいる。すなわち、易変形部34は、肩部31において、溝入部30の内端30aと軸方向αに略重なる部分に形成されている。易変形部34は、対向部32と延出部33の境界位置に形成され、延出部33の全体が外装缶16の径方向βと略平行に形成されている。
【0036】
図3に例示するように、肩部31には、外装缶16の周方向に沿って環状に段差36が形成されていてもよい。段差36は、溝35と同様に、溝入部30の内端30aと外装缶16の軸方向αに重なる位置を中心Xとして、外装缶16の径方向βに、溝入部30の長さLの50%に相当する長さの範囲内に形成されることが好ましい。図3に示す例では、肩部31において、溝入部30の内端30aと軸方向αに略重なる部分に段差36が形成されている。この場合、肩部31の段差36が形成された部分が易変形部34となる。
【0037】
図3に例示する形態では、段差36(易変形部34)が対向部32と延出部33の境界位置に形成され、肩部31が当該境界位置で屈曲して、延出部33の全体が外装缶16の径方向βと略平行に形成されている。また、延出部33の厚みは、対向部32の厚みより薄く、例えば対向部32の厚みの70%以下である。なお、肩部31に段差36を形成して、延出部33の少なくとも一部を薄肉化すると共に、段差36と重なる位置に溝35を形成してもよい。
【0038】
図4Aは実施形態の他の一例を示す平面図(ガスケット18の図示省略)、図4B図4A中のAA線断面の一部を示す図である。図4A及び図4Bに例示するように、肩部31は、溝入部30の内端30aよりも封口体17の径方向内側に突出した少なくとも1つの凸部37を有していてもよい。図4A及び図4Bに示す例では、環状に形成された肩部31の周方向に等間隔で複数(4つ)の凸部37が形成されている。この場合、凸部37の付け根部分が易変形部34となる。
【0039】
凸部37の付け根部分に形成される易変形部34は、図2及び図3に示す易変形部34と同様の位置に形成されることが好ましい。図4A及び図4Bに示す例では、溝入部30の内端30aと軸方向αに略重なる部分から、封口体17の径方向内側に凸部37が突出しており、凸部37の全体が延出部33となっている。また、凸部37の付け根部分が屈曲し、凸部37の全体が外装缶16の径方向βと略平行に形成されている。肩部31の周方向に沿った凸部37の長さ(幅)は、外部リードの接続に支障がない範囲で短いことが好ましく、例えば溝入部30の長さLの2倍以下である。
【実施例
【0040】
以下、実施例により開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質として、一般式LiNi0.8Co0.15Al0.05で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用いた。正極活物質と、ポリフッ化ビニリデンと、アセチレンブラックを、100:1.7:2.5の固形分質量比で混合し、分散媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いて、正極合剤スラリーを調製した。次に、この正極合剤スラリーをアルミニウム箔からなる正極芯体の両面に、正極リードの接続部分を残して塗布し、塗膜を乾燥、圧縮した後、所定の電極サイズに切断して正極を作製した。なお、正極芯体の露出部にアルミニウム製の正極リードを超音波溶接した。
【0042】
[負極の作製]
負極活物質として、易黒鉛化炭素を用いた。負極活物質と、ポリフッ化ビニリデンと、カルボキシメチルセルロースを、100:0.6:1の固形分質量比で混合し、分散媒として水を用いて、負極合剤スラリーを調製した。次に、この負極合剤スラリーを銅箔からなる負極芯体の両面に、負極リードの接続部分を残して塗布し、塗膜を乾燥、圧縮した後、所定の電極サイズに切断して負極を作製した。なお、負極芯体の露出部にNi-Cu-Niクラッド材からなる負極リードを超音波溶接した。
【0043】
[非水電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、及びエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒に、LiPFを1.0mol/Lの濃度となるように溶解させて非水電解液を調製した。
【0044】
[円筒形電池の作製]
上記正極と上記負極を、ポリオレフィン製のセパレータを介して渦巻状に巻回し、巻回型の電極体を作製した。この電極体を、鋼板の絞り加工により作製した有底筒状の外装缶に円板上の缶底絶縁板を介して挿入し、底面部の内面に溶接した。次に、電極体の上に絶縁板を挿入し、絶縁板よりも外装缶の上端側に断面略U字状の溝入部を形成した。溝入部は、外装缶の側面部が外側から内側に張り出し、外装缶の周方向に沿って環状に形成される。次に、上記非水電解液を外装缶内に注入し、正極リードを封口体の内部端子板に溶接した。その後、正極リードを折り畳みながら、ガスケットを介して封口体を溝入部の上に配置した。ガスケットを介して外装缶の開口縁部を封口体の周縁部にかしめることで肩部を形成し、溝入部の内端よりも封口体の径方向内側に肩部が延出した円筒形電池を作製した。
【0045】
肩部(厚み0.25mm)には、外装缶の軸方向に溝入部の内端と重なる部分に、外装缶の周方向に沿った環状の溝(深さ0.1mm)が形成されている。また、溝よりも肩部の先端側に位置する延出部は、外装缶の径方向と略平行に、かつ環状に形成され、その長さは0.5mmである。なお、封口体及びガスケットを介して溝入部と対向する部分(対向部)は、外周側端部に形成された湾曲部の内端から溝にかけて、溝に近づくほど溝入部との間隔が小さくなるように傾斜している。
【0046】
<実施例2>
肩部において、環状の溝の代わりに、環状の段差を形成したこと以外は、実施例1と同様にして円筒形電池を作製した。対向部の厚みは0.25mm、延出部の厚みは0.15mmとした。
【0047】
<実施例3>
肩部において、環状の延出部の代わりに、溝入部の内端よりも封口体の径方向内側に突出した凸部(長さ0.5mm、幅2mm)を形成したこと以外は、実施例1と同様にして円筒形電池を作製した。凸部は、肩部の周方向に等間隔で4つ形成した。
【0048】
<比較例1>
易変形部となる環状の溝を肩部に形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして円筒形電池を作製した。
【0049】
[溝入部の断面観察]
実施例及び比較例の各電池について、電池の上部にエポキシ樹脂を注入して硬化させた後、電池の上部を外装缶の軸方向に沿って切断した。各電池について、溝入部の断面形状を観察し、図5に示すように、溝入部の上面の下反り角度θを計測した。角度θは、外装缶の軸方向に沿った側面部の内面に垂直な方向に対する傾斜角度であって、角度θが大きいほど、溝入部の変形の程度が大きいことを意味する。
【0050】
角度θの計測結果は、下記の通りである。
実施例1:0~0.5°
実施例2:0~1°
実施例3:1~2°
比較例1:4~6°
【0051】
上記評価結果から、実施例の電池はいずれも、比較例の電池と比べて、溝入部の下反り角度θが小さく、溝入部の変形の程度が小さいことが分かる。実施例の電池によれば、溝入部の変形を抑制しつつ、溝入部の内端よりも封口体の径方向内側まで肩部を延出させることができる。このため、溝入部が電極体と接触して短絡が発生する等の不具合を招くことなく、肩部における外部リードの接続面積を十分に確保できる。他方、比較例の電池のように、肩部の長さを単純に延ばすと、溝入部が大きく変形して短絡リスクが高くなる。
【符号の説明】
【0052】
10 円筒形電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、16 外装缶、16a 底面部、16b 側面部、17 封口体、18 ガスケット、19,20 絶縁板、21 正極リード、22 負極リード、25 内部端子板、25a 環状部、25b 中央部、25c 通気孔、26 外部端子板、26a 弁部、27 絶縁板、27a 開口部、27b 通気孔、30 溝入部、30a 内端、31 肩部、32 対向部、33 延出部、34 易変形部、35 溝、36 段差、37 凸部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5