IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井金属鉱業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電解銅箔 図1
  • 特許-電解銅箔 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】電解銅箔
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/04 20060101AFI20250327BHJP
   C25D 1/00 20060101ALI20250327BHJP
【FI】
C25D1/04 311
C25D1/00 311
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021574617
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2021001102
(87)【国際公開番号】W WO2021153256
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2020013719
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】中島 大輔
(72)【発明者】
【氏名】松田 光由
(72)【発明者】
【氏名】原 保次
(72)【発明者】
【氏名】和田 充弘
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/104233(WO,A1)
【文献】特開2016-160503(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119355(WO,A1)
【文献】特表2016-537514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/04
C25D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の表面の十点平均粗さRzが0.1μm以上2.0μm以下である、電解銅箔であって、
電子線後方散乱回折法(EBSD)により断面解析した場合に、銅結晶粒で占められる観察視野の面積のうち、以下の条件:
i)(101)に配向している、
ii)アスペクト比が0.500以下、
iii)前記電解銅箔の電極面の法線と銅結晶粒の長軸がなす角度をθ(°)としたとき、|sinθ|が0.001以上0.707以下、及び
iv)結晶を楕円近似した際の短軸長さが0.38μm以下
の全てを満たす銅結晶粒の占める面積の割合が、63%以上である、電解銅箔。
【請求項2】
前記電解銅箔の両面の十点平均粗さRzが0.1μm以上2.0μm以下である、請求項1に記載の電解銅箔。
【請求項3】
180℃で1時間アニールされた後における、IPC-TM-650に準拠して測定される抗張力が、15kgf/mm以上25kgf/mm未満である、請求項1又は2に記載の電解銅箔。
【請求項4】
アニールを経ていない常態において、IPC-TM-650に準拠して測定される抗張力が56kgf/mm以上65kgf/mm未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の電解銅箔。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の電解銅箔を含む、フレキシブル基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解銅箔、特にフレキシブル基板に用いられる電解銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板用電解銅箔として、塩素を極力含まない銅箔(以下、塩素フリー銅箔という)が知られている。例えば、特許文献1(特開2006-52441号公報)には、未処理銅箔中のCl含有量が30ppm未満であること銅箔が開示されている。また、特許文献2(特開平7-268678号公報)には、電解終了面側から測定した銅箔の(111)面及び(220)面のX線回析強度の各ピーク値が所定の条件を満たす電解銅箔が開示されており、この電解銅箔を、鉛イオン濃度を3ppm以下、スズイオン濃度を6ppm以下、塩素イオン濃度を2ppm以下、ケイ素イオン濃度を15ppm以下、カルシウムイオン濃度を30ppm以下及びヒ素イオン濃度を7ppm以下に制御した銅電解液を用いて製造することが開示されている。
【0003】
製箔時の銅めっき溶液に塩化物イオンを微量添加することで従来の塩素フリー銅箔に対する特性の改善を試みた技術も知られている。例えば、特許文献3(特開2018-178261号公報)には、(a)L*a*b表色系に基づいて、粗化処理されていない側の明度L*値が75~90であり、かつ、(b)引張強さが40kgf/mm以上55kgf/mm以下である電解銅箔が開示されており、電子後方散乱回折(EBSD)により測定される低角粒界(LAGB)の百分率が7.0%未満であるのが好ましいとされている。この文献には、初期の銅めっき工程において、10ppm、15ppm又は20ppmの塩化物イオン濃度を有するめっき溶液及び60A/dm、70A/dm又は80A/dmの電流密度を用いて電解銅箔を製造したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-52441号公報
【文献】特開平7-268678号公報
【文献】特開2018-178261号公報
【発明の概要】
【0005】
フレキシブル基板に用いられる銅箔には、リジッド基板に用いられる銅箔とは異なり、外力により自在に屈曲可能な柔軟性が求められる。ある程度の平滑性及び柔軟性を備えた塩素フリー銅箔は存在するものの、平滑性及び柔軟性の更なる改善が求められている。銅箔はアニールを施すことにより抗張力が低下して柔軟性が高くなる特性を一般的に有するが、電解銅箔では、圧延銅箔と比べて、アニール(例えば180℃で1時間)後の抗張力が比較的高い、すなわち柔軟性に劣る傾向がある。したがって、アニール後の抗張力が有意に低い(すなわち柔軟性が高い)電解銅箔が望まれる。しかしながら、十点平均粗さRzが0.1μm以上2.0μm以下という低粗度表面を有する電解銅箔ではアニール後の抗張力の制御が難しく、平滑性と柔軟性の両立は容易ではないのが現状である。
【0006】
本発明者らは、今般、電子線後方散乱回折法(EBSD)による断面解析によって特定される、箔厚方向に細長く延在する縦長の柱状結晶(以下、縦長結晶という)の占める割合を高くすることで、十点平均粗さRzが0.1μm以上2.0μm以下という高度な平滑性を有しながらも、フレキシブル基板に適した高い柔軟性(とりわけ180℃で1時間アニールされた後の高い柔軟性)を呈する電解銅箔を提供できるとの知見を得た。
【0007】
したがって、本発明の目的は、高度な平滑性を有しながらも、フレキシブル基板に適した高い柔軟性(とりわけ180℃で1時間アニールされた後の高い柔軟性)を呈する電解銅箔を提供することにある。
【0008】
本発明の一態様によれば、少なくとも一方の表面の十点平均粗さRzが0.1μm以上2.0μm以下である、電解銅箔であって、
電子線後方散乱回折法(EBSD)により断面解析した場合に、銅結晶粒で占められる観察視野の面積のうち、以下の条件:
i)(101)に配向している、
ii)アスペクト比が0.500以下、
iii)前記電解銅箔の電極面の法線と銅結晶粒の長軸がなす角度をθ(°)としたとき、|sinθ|が0.001以上0.707以下、及び
iv)結晶を楕円近似した際の短軸長さが0.38μm以下
の全てを満たす銅結晶粒の占める面積の割合が、63%以上である、電解銅箔が提供される。
【0009】
本発明の別の一態様によれば、前記電解銅箔を含む、電解銅箔を含む、フレキシブル基板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】例1~11で得られた電解銅箔の縦長結晶比率と熱後抗張力との関係を示す図である。
図2】例1~11で得られた電解銅箔の断面EBSD像(IQ+IPFマップ(ND方向)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
本明細書において、電解銅箔の「電極面」とは、電解銅箔製造時に陰極と接していた側の面を指す。また、本明細書において、電解銅箔の「析出面」とは、電解銅箔製造時に電解銅が析出されていく側の面、すなわち陰極と接していない側の面を指す。
【0012】
電解銅箔
本発明による銅箔は電解銅箔である。この電解銅箔は、少なくとも一方の表面の十点平均粗さRzが0.1μm以上2.0μm以下である。そして、電解銅箔は、電子線後方散乱回折法(EBSD)により断面解析した場合に、銅結晶粒で占められる観察視野の面積のうち、i)(101)に配向している、ii)アスペクト比が0.500以下、iii)電解銅箔の電極面の法線と銅結晶粒の長軸がなす角度をθ(°)としたとき、|sinθ|が0.001以上0.707以下、及びiv)結晶を楕円近似した際の短軸長さが0.38μm以下、の全てを満たす銅結晶粒の占める面積の割合が、63%以上であるものである。このように、EBSDによる断面解析によって特定される、箔厚方向に細長く延在する縦長の柱状結晶(以下、縦長結晶という)の占める割合を高くすることで、十点平均粗さRzが0.1μm以上2.0μm以下という高度な平滑性を有しながらも、フレキシブル基板に適した高い柔軟性(とりわけ180℃で1時間アニールされた後の高い柔軟性)を呈する電解銅箔を提供することができる。
【0013】
前述したとおり、銅箔はアニールを施すことにより抗張力が低下して柔軟性が高くなる特性を一般的に有するが、電解銅箔では、圧延銅箔と比べて、アニール(例えば180℃で1時間)後の抗張力が比較的高い、すなわち柔軟性に劣る傾向がある。したがって、アニール後の抗張力が有意に低い(すなわち柔軟性が高い)電解銅箔が望まれる。しかしながら、十点平均粗さRzが0.1μm以上2.0μm以下という低粗度表面を有する電解銅箔ではアニール後の抗張力の制御が難しく、平滑性と柔軟性の両立は容易ではないのが現状である。この点、本発明の電解銅箔によれば平滑性と柔軟性の両立を好都合に実現することができる。
【0014】
電解銅箔は、少なくとも一方の表面の十点平均粗さRzが0.1μm以上2.0μm以下であるのが好ましく、より好ましく0.3μm以上2.0μm以下、さらに好ましくは0.3μm以上1.8μm以下、特に好ましくは0.6μm以上1.5μm以下、最も好ましくは0.6μm以上1.2μm以下である。このように低粗度表面を有する電解銅箔は破断の起点が少ない点で有利である。なお、本明細書において「十点平均粗さRz」は、JIS-B0601:1982に準拠して測定されるものであり、JIS-B0601:2001におけるRzjisに相当する。
【0015】
電解銅箔の両面が上記範囲内の十点平均粗さRzを有するのも好ましい。すなわち、電解銅箔の両面の十点平均粗さRzが0.1μm以上2.0μm以下であるのが好ましく、より好ましく0.3μm以上2.0μm以下、さらに好ましくは0.3μm以上1.8μm以下、特に好ましくは0.6μm以上1.5μm以下、最も好ましくは0.6μm以上1.2μm以下である。このように両面に低粗度表面を有する電解銅箔は破断の起点が少なくなる点で有利である。
【0016】
アニールを経ていない常態における電解銅箔の抗張力は56kgf/mm以上65kgf/mm未満であるのが好ましく、より好ましくは57kgf/mm以上64kgf/mm以下、さらに好ましくは59kgf/mm以上64kgf/mm以下、最も好ましくは60kgf/mm以上64kgf/mm以下である。また、180℃で1時間アニールされた後の電解銅箔の抗張力は、15kgf/mm以上25kgf/mm未満であるのが好ましく、より好ましくは15kgf/mm以上24.5kgf/mm以下、さらに好ましくは16kgf/mm以上24.5kgf/mm以下、特に好ましくは16kgf/mm以上24kgf/mm以下である。上記範囲内であると、電解銅箔にアニール(例えば180℃で1時間)による熱履歴を加えた場合にフレキシブル基板に適した高い柔軟性を発揮させることができる。アニールを経ていない常態の抗張力及びアニール後の抗張力はいずれもIPC-TM-650に準拠して室温(例えば25℃)で測定されるものである。
【0017】
本発明の電解銅箔は、その断面を評価した場合に、箔厚方向に細長く延在する縦長の柱状結晶(以下、縦長結晶という)の占める割合が高いものである。この縦長結晶に富んだ微細構造は、十点平均粗さRzが0.1μm以上2.0μm以下という高度な平滑性と、フレキシブル基板に適した高い柔軟性(とりわけ180℃で1時間アニールされた後の高い柔軟性)との両方に寄与する。そして、この縦長結晶は、電解銅箔の断面を電子線後方散乱回折法(EBSD)により解析した場合に、以下の条件:
i)(101)に配向している、
ii)アスペクト比が0.500以下、
iii)電解銅箔の電極面の法線と銅結晶粒の長軸がなす角度をθ(°)としたとき、|sinθ|が0.001以上0.707以下、及び
iv)結晶を楕円近似した際の短軸長さが0.38μm以下
を満たすものとして特定される。
【0018】
具体的には、本発明の電解銅箔は、EBSDにより断面解析した場合に、銅結晶粒で占められる観察視野(例えば幅10μm×高さ28μm)の面積のうち上記i)からiv)までの条件の全てを満たす銅結晶粒の占める面積の割合(すなわち縦長結晶比率)が、63%以上であり、より好ましくは63%以上90%以下、さらに好ましくは63%以上85%以下、特に好ましくは63%以上80%以下、最も好ましくは63%以上75%以下である。このような範囲内であると、十点平均粗さRzが0.1μm以上2.0μm以下という高度な平滑性と、フレキシブル基板に適した高い柔軟性(とりわけ180℃で1時間アニールされた後の高い柔軟性)の両方を実現することができる。このとき、EBSDにおける観察視野として、表1に示される条件を満たす幅×高さの矩形領域を特定するものとする。
【表1】
【0019】
なお、EBSD観察視野における幅の特定にあたり、銅箔の電極面から厚さ方向に3μm離れた位置を基準位置Pとしている(すなわち銅箔の電極面から厚さ方向に3μmまでの領域を視野から除外している)のは、電解銅箔製造時に用いた陰極(特にその組織)の影響によって銅結晶粒が相対的又は過度に微細となっている側の表層領域を除外することで、銅箔の厚さ方向の主要部分をより代表的に反映するEBSD観察視野を確保するためである。
【0020】
EBSD解析は、電解銅箔にクロスセクションポリッシャ(CP)加工を施して研磨断面を形成し、EBSD装置(SUPRA55VP、Carl Zeiss社製)を用いて、Vacc.=20kV、Apt.=60μm、H.C.モード、Tilt=70°、及びScan Phase=CuのSEM条件で研磨断面のEBSD解析を表1に示される幅×高さの観察視野に対して実施することにより行うことができる。
【0021】
EBSD像に基づく縦長結晶比率の決定は次の手順を経て行うことができる。
・条件i)に基づく一次抽出:
観察視野のEBSD像において、EBSD解析ソフトウエア(OIM Analysis 7、株式会社TSLソリューションズ製)を用いて解析を行い、(h,k,l)=(1,0,1)に配向している結晶を抽出する(詳細な設定条件は後述する実施例を参照)。こうして上位i)の条件を満たす結晶粒領域を抽出する。
・条件ii)、iii)及びiv)に基づく二次抽出:
一次抽出で得られたデータから、アスペクト比が0.500以下、長軸傾き|sinθ|が0.001以上0.707以下、及び結晶粒を楕円近似した際の短軸長さが0.38μm以下の全てを満たす結晶をさらに抽出し(詳細な設定条件は後述する実施例を参照)、それらの面積を合算した値(μm)を縦長結晶粒の面積として得る。こうして上記ii)、iii)及びiv)の条件を満たす結晶粒領域を抽出する。
・縦長結晶比率の算出:
二次抽出で得られた縦長結晶粒の面積SVC(μm)と、観察視野の面積SOA(μm)とを用いて、銅結晶粒の占める面積のうち縦長結晶粒の占める割合を100×SVC/SOAの式により算出して、縦長結晶比率(%)とする(設定条件は後述する実施例を参照)。
【0022】
電解銅箔の厚さは、特に限定されないが、好ましくは5μm以上35μm以下、より好ましくは7μm以上35μm以下、さらに好ましくは9μm以上18μm以下、特に好ましくは12μm以上18μm以下である。
【0023】
電解銅箔の片面又は両面には表面処理が施されているのが好ましい。この表面処理は電解銅箔に一般的に行われているような表面処理であることができる。好ましい表面処理の例としては、粗化処理、防錆処理(例えば亜鉛めっき処理、及び亜鉛-ニッケル合金処理等の亜鉛合金めっき処理)、シランカップリング剤処理等が挙げられる。また、電解銅箔はキャリア付銅箔の形態で提供されてもよい。
【0024】
製造方法
本発明の電解銅箔は、表2に示される銅(Cu)濃度、硫酸(HSО)濃度及び塩素(Cl)濃度の銅電解液(水溶液)を用いて、表2に示される浴温(水溶液の温度)に保持し、表2に示される電流密度で電解析出を行うことにより製造することができる。すなわち、これらの銅電解液組成、浴温及び電流密度の条件を満たすことで、縦長結晶比率が63%以上の断面組織を実現でき、その結果、析出面(又は析出面及び電極面の両方)に十点平均粗さRzが0.1μm以上2.0μm以下という高度な平滑性を有しながらも、フレキシブル基板に適した高い柔軟性(とりわけ180℃で1時間アニールされた後の高い柔軟性)を呈する電解銅箔を製造することができる。表2に示されるように、この製造方法に用いる銅電解液は塩素を極力含まない塩素フリーの電解液であるのが望ましい。
【0025】
【表2】
【実施例
【0026】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0027】
例1~11
(1)電解銅箔の製造
銅電解液として表4に示される組成の硫酸酸性硫酸銅溶液(塩素無添加)を用い、陰極にチタン製の板状電極(表面粗さRa=0.19μm、JIS-B0601:1982に準拠)を用い、陽極にはDSA(寸法安定性陽極)を用いて、表4に示される浴温及び電流密度で電解し、厚さ18μmの電解銅箔を得た。
【0028】
(2)電解銅箔の評価
得られた電解銅箔に対して、十点平均粗さRzの測定、EBSDによる断面解析、及び抗張力の測定を以下のようにして行った。
【0029】
<十点平均粗さRzの測定>
表面粗さ測定機(サーフコーダSE-30H、株式会社小坂研究所製)を用いてJIS-B0601:1982に準拠して、λc:0.8μm、基準長さ:0.8mm、送り速さ:0.1mm/sの条件で、電解銅箔の析出面の十点平均粗さRz(JIS-B0601:2001におけるRzjisに相当)を測定した。結果は表4に示されるとおりであった。
【0030】
<縦長結晶比率/EBSD断面解析>
4つの電解銅箔サンプルを重ね合わせて接着剤(ロックタイト(登録商標)、ヘンケルジャパン株式会社製)で貼り合わせた後、保護層として紫外線硬化樹脂をサンプル表面に塗布した。サンプル全体をカーボンでコートした後、ブロードアルゴンイオンビーム断面加工(クロスセクションポリッシャ(CP)(登録商標)、日本電子株式会社製)(加速電圧:5kV)を3時間実施してEBSD測定用の研磨断面を得た。EBSD観察に際して、カーボンコート(1フラッシュ)を実施した。EBSD装置(FE-SEM装置(SUPRA55VP、Carl Zeiss社製)にEBSD測定器(Pegasus、アメテック株式会社製)を搭載した装置)を用いて、Vacc.=20kV、Apt.=60μm、H.C.モード、Tilt=70°、及びScan Phase=CuのSEM条件で研磨断面のEBSD解析を行った。EBSDにおける観察視野は(前述した表1に示される条件に従い)幅10μm×高さ28μmとした。観察視野のEBSD像において、以下の条件:
i)(101)に配向している、
ii)アスペクト比が0.500以下、
iii)電解銅箔の電極面の法線と銅結晶粒の長軸がなす角度をθ(°)としたとき、|sinθ|が0.001以上0.707以下、及び
iv)結晶を楕円近似した際の短軸長さが0.38μm以下
の全てを満たす銅結晶粒の占める面積(以下、縦長結晶粒の面積という)を以下の一次抽出及び二次抽出を経て決定した。
【0031】
・条件i)に基づく一次抽出
観察視野のEBSD像に対してEBSD解析ソフトウエア(OIM Analysis 7、株式会社TSLソリューションズ製)を用いて解析を行い、(hkl)=(101)に配向している結晶を抽出した。具体的には、OIM Analysis 7の画面において、[All data]の[プロパティ]から[Crystal Orientation]で[(h,k,l)=(1,0,1)]を選択し、[Deviation]の数値を60未満とし、[Crystal Deviation]で(h,k,l)=(1,0,1)を選択し、[Deviation]の数値を12未満として[Grain data]、すなわち粒子データを抽出した。このとき、OIM Analysis 7の設定条件は、以下のとおりとした。
PCO[Copper,0.000,45.000,90.000]<60
AND PCD[Copper,1,0,1,0,0,1]<12
【0032】
・条件ii)、iii)及びiv)に基づく二次抽出
上記のようにして抽出したデータから、アスペクト比が0.500以下、長軸傾き|sinθ|が0.001以上0.707以下、及び結晶粒を楕円近似した際の短軸長さが0.38μm以下の全てを満たす結晶をさらに抽出し、それらの面積を合算した値(μm)を縦長結晶粒の面積として得た。すなわち、OIM Analysis 7の設定条件は表3のとおりとした。
【表3】
【0033】
・縦長結晶比率の算出:
一次抽出及び二次抽出を経て得られた縦長結晶粒の面積SVC(μm)と、観察視野の面積SOA(μm)とを用いて、銅結晶粒の占める面積のうち縦長結晶粒の占める割合を100×SVC/SOAの式により算出して、縦長結晶比率(%)とした。結果は表4に示されるとおりであった。
【0034】
<常態抗張力の測定>
アニールを施していない電解銅箔サンプルを10mm×100mmのサイズに切断して試験片を得た。この試験片を、測定装置(AGI-1KNM1、株式会社島津製作所製)にセットし、引張速度:50mm/min、フルスケール試験力:50Nの条件で、IPC-TM-650に準拠して常態の抗張力(引張強さ)を室温(約25℃)で測定した。結果は表4に示されるとおりであった。
【0035】
<熱後抗張力の測定>
180℃で1時間アニールされた後の電解銅箔サンプルを10mm×100mmのサイズに切断して試験片を得た。この試験片を用いて上記常態抗張力の測定と同一の条件で抗張力を測定し、熱後抗張力を測定した。結果は表4に示されるとおりであった。
【0036】
【表4】
図1
図2