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特許7656612ビニル及びエチル官能化クロロシランの選択的調製
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】ビニル及びエチル官能化クロロシランの選択的調製
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/14 20060101AFI20250327BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20250327BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250327BHJP
【FI】
C07F7/14
B01J31/24 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022536876
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(86)【国際出願番号】 US2020065615
(87)【国際公開番号】W WO2021127182
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-12-04
(31)【優先権主張番号】62/949,883
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/059,909
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ シリコーンズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウィトカー、デイヴィッド ローレンス
(72)【発明者】
【氏名】ベネガス、ファン マウリシオ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァインガルテン、ローネン
(72)【発明者】
【氏名】カツォリス、ディミトリス イー.
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-164688(JP,A)
【文献】特開平03-005489(JP,A)
【文献】国際公開第2018/190999(WO,A1)
【文献】Dalton Transactions,2010年,Vol.39,pp.8492-8500
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ケイ素化合物を調製する方法であって、
(A)ヒドリドクロロシラン化合物及び(B)エチレンを、(C)Ru(0)錯体を含む触媒の存在下で、シリル化を介して反応させることであって、前記Ru(0)錯体がトリルテニウム錯体及びリン配位子を含み、それにより前記有機ケイ素化合物を調製すること、を含む、方法。
【請求項2】
記触媒(C)を調製することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
i)前記リン配位子が、一般式R PRを有し、式中、各Rが、独立して選択された置換若しくは非置換のアリール基、アラルキル基、若しくはシクロアルキル基であり、Rが、R若しくはアルカリール基であるか、(ii)前記リン配位子が、2,060~2,090cm-1のトールマン電子パラメータを含むか、(iii)前記リン配位子が、115~185°のトールマンコーンアングルを含むか、又は(iv)(i)~(iii)の任意の組み合わせの請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記シリル化が、前記有機ケイ素化合物がビニルクロロシラン化合物として調製されるように、前記ヒドリドクロロシラン化合物(A)と前記エチレン(B)との脱水素カップリングとして更に定義され、前記脱水素カップリングが、ヒドリドクロロシラン化合物(A)対エチレン(B)の化学量論比が、少なくとも1:2の(A):(B)で実施される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒(C)の前記Ru(0)錯体が、有機ホスファイト配位子を含み、前記有機ホスファイト配位子が、置換又は非置換トリアリールホスファイトを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
成分(A)及び(B)の脱水素カップリングが、(D)不飽和脂肪族基を有するオレフィン化合物の存在下で実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記シリル化が、前記有機ケイ素化合物がエチルクロロシラン化合物として調製されるように、前記ヒドリドクロロシラン化合物(A)と前記エチレン(B)とのヒドロシリル化として更に定義され、前記ヒドロシリル化が、ヒドリドクロロシラン化合物(A)対エチレン(B)の化学量論比が1:2未満の(A):(B)で実施される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記有機ケイ素化合物が、反応生成物中で調製され、前記方法が、
(I)前記触媒(C)を前記反応生成物から単離することと、
(II)前記単離された触媒(C)を使用して、更なるシリル化反応を触媒することと、を更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
シリル化が、(i)60~200℃の高温で、(ii)大気圧~110バールの圧力で、(iii)溶媒の存在下で、(iv)利用される成分(A)の総量に基づいて、0.0001~5重量%の量の前記触媒(C)の濃度とともに、又は(v)(i)~(iv)の任意の組み合わせで、実施される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
(i)少なくとも85%のヒドリドクロロシラン化合物(A)の変換、(ii)少なくとも75%の前記有機ケイ素化合物の収率、又は(iii)(i)及び(ii)の両方、を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2019年12月18日に出願された米国仮特許出願第62/949,883号、及び2020年7月31日に出願された米国仮特許出願第63/059,909号の優先権及びすべての利益を主張し、それらの内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、概して、有機ケイ素化合物を調製する方法、より具体的には、調整可能なシリル化を介してビニルクロロシラン及びエチルクロロシランを選択的に調製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒドロシリル化反応は、一般に、当技術分野で知られており、ケイ素結合水素と脂肪族不飽和との間の付加反応を伴う。ヒドロシリル化反応は、硬化性組成物の架橋成分などの様々な用途で利用される。ヒドロシリル化反応を利用して、個別の成分又は化合物、例えば、そのような硬化性組成物に含めるための成分を調製することもできる。典型的には、ヒドロシリル化反応は、その優れた触媒活性及び安定性に起因して、白金金属系触媒の存在下で実施される。白金金属は、一般に、より低い触媒活性を有する他の金属よりもはるかに高価であるが、非白金触媒は、周囲条件に曝露されると不安定性を有する。特に、非白金触媒は、周囲酸素及び水と望ましくない副反応を起こしやすく、それによってその使用及び潜在的な最終用途を制限する可能性がある。
【0004】
ヒドロシリル化と同様に、脱水素シリル化反応も当技術分野で知られており、同様に、ケイ素結合水素と脂肪族不飽和との間の反応を伴う。しかし、脱水素シリル化では、付加反応はなく、代わりに、脂肪族不飽和が、ケイ素にビニル的に(vinylically)結合し、水素ガス(H)が副生成物として生成される。したがって、脱水素シリル化反応を利用して、不飽和化合物(例えば、オレフィン官能性化合物)を調製することができ、これは更に追加の官能化及び/又はカップリング反応(例えば、ヒドロシリル化を介して)を受けることができる。
【0005】
残念ながら、脱水素シリル化反応のための触媒は、酸素、水、更には光に対する感受性などのヒドロシリル化触媒に関連する同じ欠点の多くを抱えている。更に、そのような欠点は、ヒドロシリル化触媒の最近の進歩によって克服されているが、ヒドロシリル化反応に好適な多くの触媒系は、脱水素シリル化反応における使用には機能的又は実用的ではない。例えば、多くのそのような触媒は、特に最小置換オレフィンに対して、付加反応に有利な選択性を示し、したがって、望ましくない生成物混合物との非選択的反応及び低収率をもたらす。更に、多くの従来の脱水素シリル化条件は、官能基許容性がなく、したがって、用途が限定される。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、有機ケイ素化合物を調製する方法を提供する。この方法は、(A)ヒドリドクロロシラン化合物及び(B)エチレンを、(C)Ru(0)錯体を含む触媒の存在下で、シリル化を介して反応させ、それにより有機ケイ素化合物を調製することを含む。ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、一般式HSiCl3-xを有することができ、式中、下付き文字xは1、2、又は3であり、各Rは、1~18個の炭素原子を有する独立して選択された非置換ヒドロカルビル基である。シリル化は、脱水素カップリング又はヒドロシリル化反応として選択的に使用され、式(HCCH)SiCl3-xを有するビニルクロロシラン化合物として又は(CHCH)SiCl3-xを有するエチルクロロシラン化合物として、有機ケイ素化合物を調製するために使用することができる(式中、下付き文字x及びRは上記で定義されたとおりである)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
有機ケイ素化合物の調製方法(「本調製方法」)が本明細書に提供される。本明細書の説明から理解されるように、調製方法は、1つ以上のエチレン由来のビニル又はエチル基を有する有機ケイ素化合物を選択的に調製するための制御可能なエチレンシリル化を含む。シリル化は、調整可能な条件下での保存された触媒の使用によって達成され、これは脱水素カップリング又はヒドロシリル化反応を選択的に促進して、所望のエチレン由来の官能価を有する有機ケイ素化合物を与える。用いられる特定の材料及び条件はまた、触媒を回収し、活性又は選択性を損なうことなくその後のシリル化反応で使用するために再循環させることも可能にする。したがって、調製方法は、官能化有機ケイ素化合物の効率的な調製のための独自のプラットフォームを提供する。
【0008】
当業者には理解されるように、シリル化から提供されるビニル官能基又はエチル官能性、並びに調製方法の条件と適合性のある他の任意の官能基は、硬化性組成物(例えば、1つ以上のシリコーンに基づくものなど)及びその様々な成分を調製することを含む、無数の組成物及び方法における多くの用途を有する有機ケイ素化合物を提供する。例えば、ビニル官能性の場合、有機ケイ素化合物は、例えば、出発物質、試薬、構成要素、官能基化化合物などとして、硬化性組成物を調製及び/又は架橋するために利用され得る。有機ケイ素化合物は、エンドブロッキング剤又はキャッピング剤などのエチル官能性の場合、同様の組成物及び材料において異なる目的のために又は低減されたメチル含有量を有する低分子量シリコーンの調製などの独自の目的のために、利用され得る。
【0009】
調製方法は、(A)ヒドリドクロロシラン化合物及び(B)エチレンを、(C)Ru(0)錯体を含む触媒の存在下で反応させることを含む。ヒドリドクロロシラン化合物(A)、エチレン(B)、及びRu(0)錯体含有触媒(C)は、調製方法において利用され得る追加の成分とともに、以下に順番に記載され、それらは調製方法の「成分」(すなわち、それぞれ、「成分(A)」、「成分(B)」、「成分(C)」など)として、又は同様に「出発物質」、「化合物」、及び/又は「試薬」(A)、(B)、及び/又は(C)などとして集合的に称され得る。
【0010】
本明細書の説明から当業者に理解されるように、調製方法は、触媒(C)によって触媒されるように、すなわち、ヒドリドクロロシラン化合物(A)のケイ素結合水素原子の代わりにケイ素結合ビニル又はエチル基を形成することによって、成分(A)及び(B)のシリル化を介して、有機ケイ素化合物を調製する(「反応」)。これに関連して、本明細書で使用される場合、「シリル化」という用語は、任意の特定の反応機構に関係なく、脱水素及びヒドロシリル化カップリング反応の両方を包含すると理解されるべきである。典型的な実施形態では、以下に記載されるように、調製方法で用いられるシリル化反応の成分及び条件は、反応、成分、条件などの一般的な言及が調製方法全体に適用可能であると理解されるように、両方の反応タイプにわたって保存される。しかしながら、調製方法が、上記で紹介した2つのシリル化機構のいずれかを選択することを提供するため、「脱水素カップリング」という用語は、本明細書では、ヒドリドクロロシラン化合物(A)によるエチレン(B)の脱水素シリル化を介してビニル官能性有機ケイ素化合物を調製することに関して使用される。同様に、「ヒドロシリル化」という用語は、ヒドリドクロロシラン化合物(A)によりエチレン(B)をヒドロシリル化することによって、エチル官能性有機ケイ素化合物を調製することに関して本明細書で使用される。
【0011】
上で紹介したように、成分(A)は、ヒドリドクロロシラン化合物、すなわち、少なくとも1つのケイ素結合水素原子(すなわち、Si-H基)、及び少なくとも1つのケイ素結合塩素原子(すなわち、Si-Cl基)を有する有機ケイ素化合物である。ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、他の点では特に限定されない。
【0012】
典型的には、成分(A)は、一般式HSiCl3-xを有し、式中、下付き文字xは1、2、又は3であり、各Rは、独立して選択されたヒドロカルビル基である。いくつかの実施形態では、ヒドリドクロロシラン化合物(A)はオルガノヒドリドクロロシランとして更に定義され、それにより上記一般式において下付き文字xが1又は2である。例えば、いくつかのそのような実施形態では、下付き文字xは1であり、それにより、ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、式HSiClRを有するジオルガノヒドリドクロロシランとして更に定義される。他のそのような実施形態では、下付き文字xは2であり、それにより、ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、式HSiClRを有するオルガノヒドリドジクロロシランとして更に定義される。代替的な実施形態では、ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、トリクロロシランである(すなわち、式HSiClを有する)。
【0013】
成分(A)として使用するための上記の式のオルガノヒドリドクロロシランに関して、各Rは独立して選択されたヒドロカルビル基である。好適なヒドロカルビル基は、置換であっても非置換であってもよい。このようなヒドロカルビル基に関して、「置換」という用語は、1個以上の水素原子が水素以外の原子(例えば、塩素、フッ素、臭素などのハロゲン原子)で置き換えられている、炭化水素の鎖内の炭素原子が炭素以外の原子で置き換えられている(すなわち、Rが炭素鎖内に1個以上のヘテロ原子(酸素、硫黄、窒素など)を含み得る)、又はその両方である炭化水素部分を表す。したがって、Rがエーテル、エステルなどを含んでもよく、又はエーテル、エステルなどであってもよいように、Rは、その炭素鎖/その主鎖内及び/又は上に(すなわち、その炭素鎖/その主鎖に付加される及び/又は一体である)1つ以上の置換基を有する炭化水素部分を含み得るか、又はそれであり得ることが理解されるであろう。
【0014】
概して、Rに好適なヒドロカルビル基は、独立して、線状、分岐状、環状、又はこれらの組み合わせであり得る。環状ヒドロカルビル基は、アリール基、及び飽和又は非共役環状基を包含する。環状ヒドロカルビル基は、独立して、単環式又は多環式であってもよい。直鎖状及び分岐状ヒドロカルビル基は独立して、飽和であっても不飽和であってもよい。直鎖状及び環状ヒドロカルビル基の組み合わせの一例は、アラルキル基である。ヒドロカルビル基の全般的な例としては、アルキル基、アリール基、アルケニル基、ハロカーボン基等、並びに誘導体、変形体、及びそれらの組み合わせが挙げられる。好適なアルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル(例えば、イソプロピル及び/又はn-プロピル)、ブチル(例えば、イソブチル、n-ブチル、tert-ブチル及び/又はsec-ブチル)、ペンチル(例えば、イソペンチル、ネオペンチル及び/又はtert-ペンチル)、ヘキシル、並びに例えば6~18個の炭素原子を有する分岐状飽和炭化水素基が挙げられる。好適なアリール基の例としては、フェニル、トリル、キシリル、ナフチル、ベンジル、及びジメチルフェニルが挙げられる。好適なアルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、ヘキセニル基、及びシクロヘキセニル基が挙げられる。しかしながら、ある特定の実施形態では、そのようなアルケニル基は、シリル化反応の化学的性質に関与し得ることが理解されよう。したがって、特定の実施形態では、Rは、アルケン含有官能基を含まないか、あるいは実質的に含まない。好適な一価ハロゲン化炭化水素基(すなわち、ハロ炭素基)の例としては、ハロゲン化アルキル基、アリール基、及びこれらの組み合わせが挙げられる。ハロゲン化アルキル基の例としては、1つ以上の水素原子が、F又はClなどのハロゲン原子で置換された、上述のアルキル基が挙げられる。ハロゲン化アルキル基の具体例としては、フルオロメチル、2-フルオロプロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、4,4,4-トリフルオロブチル、4,4,4,3,3-ペンタフルオロブチル、5,5,5,4,4,3,3-ヘプタフルオロペンチル、6,6,6,5,5,4,4,3,3-ノナフルオロヘキシル、及び8,8,8,7,7-ペンタフルオロオクチル、2,2-ジフルオロシクロプロピル、2,3-ジフルオロシクロブチル、3,4-ジフルオロシクロヘキシル、及び3,4-ジフルオロ-5-メチルシクロヘプチル、クロロメチル、クロロプロピル、2-ジクロロシクロプロピル、及び2,3-ジクロロシクロペンチル基、並びにそれらの誘導体が挙げられる。ハロゲン化アリール基の例としては、1つ以上の水素原子が、F又はClなどのハロゲン原子で置換された、上述のアリール基が挙げられる。ハロゲン化アリール基の具体例としては、クロロベンジル基及びフルオロベンジル基が挙げられる。典型的には、各Rは、独立して選択された置換又は非置換ヒドロカルビル基である。例えば、いくつかの実施形態では、各Rは、独立して、直鎖又は非分岐非置換ヒドロカルビル基などの非置換ヒドロカルビル基から選択される。ある特定の実施形態では、各Rは、独立して、1~18個の炭素原子を有する非置換ヒドロカルビル基から選択される。
【0015】
下付き文字xが1であり、それによりヒドリドクロロシラン化合物(A)がジオルガノヒドリドクロロシランとして更に定義される場合、各Rは、ヒドリドクロロシラン化合物(A)中の他のRと同じであっても異なっていてもよい。特定の実施形態では、各Rは、ヒドリドクロロシラン化合物(A)中の他のRと同じである。他の実施形態では、1つのRは、ヒドリドクロロシラン化合物(A)中の他のRとは異なる。いくつかの実施形態では、各Rは、1~18個、あるいは1~12個、あるいは1~6個の炭素原子を有する独立して選択されたヒドロカルビル基である。特定の実施形態では、各Rは、独立して、アルキル基、例えば、メチル基、エチル基などから選択される。特定の実施形態では、各Rは、メチルである。例えば、いくつかのそのような実施形態では、ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、式HSiCl(CH3-xを有し、式中、下付き文字xは、上記で定義されたとおりである。特定のそのような実施形態では、成分(A)は、ジメチルクロロシラン(すなわち、式HSiCl(CHのもの)、メチルジクロロシラン(すなわち、式HSiCl(CH)のもの)、又はそれらの組み合わせを含む。
【0016】
成分(B)は、エチレンを含むか、あるいはエチレンである。エチレンは特に限定されず、そのままの(neat)形態(すなわち、他の成分/化合物を含まないか、あるいは実質的に含まない)で使用され得る。言い換えれば、成分(B)は、エチレンからなり得るか、あるいはエチレンから本質的になり得るか、又は他の成分と組み合わせてエチレンを含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、本方法は、少なくとも成分(A)及び(C)を含む容器又は反応器に、エチレンを含むか、あるいはそれから本質的になるか、あるいはそれからなる反応器流体を導入することを含む。そのような実施形態では、反応器流体は、当業者によって理解されるように、典型的には、調製方法で利用される反応条件下で不活性である(すなわち、成分(A)、(B)、又は(C)とは反応しない)物質であるか、又はそれを含む、担体ビヒクル(carrier vehicle)などのエチレン以外の成分を含み得る。そのような担体ビヒクルの例としては、窒素(g)(N)、ヘリウム(g)(He)、アルゴン(g)(Ar)などの不活性ガス、並びにそれらの組み合わせが挙げられる。)。しかしながら、特定の実施形態では、成分(B)は、そのままの形態で利用され、エチレンから本質的になる(すなわち、担体ビヒクルを実質的に含まない、あるいは含まない)。
【0017】
エチレンは、成分(B)で又は成分(B)としてガス状形態で、利用され得る。したがって、特定の実施形態では、調製方法は、以下で更に詳細に説明するように、エチレン雰囲気を含む容器内で実施されることが理解されよう。
【0018】
調製方法は、任意の量の成分(A)及び(B)を利用することができ、より具体的には、反応の所望の特性、調製される特定の有機ケイ素化合物、及び/又は用いられる出発物質の特性に応じて様々な量又は比率でヒドリドクロロシラン化合物(A)及びエチレン(B)を含み得る。当業者には理解されるように、成分(A)及び(B)は各々、シリル化反応に関してそれぞれ単官能性であり、それによりモル比(A):(B)及び化学量論比(A):(B)は同じになる。したがって、成分(A)と(B)の理論上の最大反応は、1:1の(A):(B)のモル比で達成される(すなわち、成分(A)対成分(B)の1:1の化学量論比)。したがって、エチレンは、典型的には、利用される成分(A)のモル量と少なくとも同等のモル量で利用される。例えば、成分(A)及び(B)は、1:1の(A):(B)のモル比で利用され得る。以下の説明から理解されるように、エチレンの過剰(例えば、わずかな過剰、中程度の過剰、又は大規模過剰)も利用することができる。一般に、成分(A)及び(B)は、1:≧1の(A):(B)、例えば1:1~1:100の(A):(B)のモル比で利用される。
【0019】
上記のように、調製方法のシリル化反応は、脱水素カップリング又はヒドロシリル化を選択するように調整可能であり、それによって、それぞれエチレン由来のビニル官能基又はエチル官能基を有する有機ケイ素化合物を調製する(すなわち、「反応選択性」)。より具体的には、反応選択性は、反応中の反応可能なエチレン対ヒドリドクロロシラン化合物(A)の比、すなわち溶液中のエチレンの量(すなわち、可溶化エチレン)対溶液中のヒドリドクロロシラン化合物(A)の量(例えば濃度)の比を介して制御可能である。当業者には理解されるように、反応の液相/反応性相中のエチレンの濃度は、直接測定(例えば、ラマン分光法、ガスクロマトグラフィー(GC)などの分析技術による)又は理論的推定(例えば、気液平衡計算に基づく)、又は当該技術分野で既知の任意の他の技術を介して決定することができる。
【0020】
一般に、調製方法は、成分(A)及び(B)を少なくとも1:2の(A):(B)の化学量論比で反応させて、脱水素カップリングを介してビニル官能性有機ケイ素化合物を調製するか、又は成分(A)及び(B)を1:2未満の(A):(B)の化学量論比で反応させて、ヒドロシリル化を介してエチル官能性有機ケイ素化合物を調製することを含む。言い換えれば、すべての成分及び他の反応パラメータは同じであり、シリル化は、ヒドリドクロロシラン化合物(A)と反応するために利用可能なエチレンの相対量を変更することによって調整可能であり、脱水素カップリングは、2以上の相対比(B):(A)(すなわち、≧2:1の(B):(A))で好都合であり、及びヒドロシリル化は、2未満の相対比(B):(A)(すなわち、<2:1の(B):(A))で好都合である。
【0021】
例えば、いくつかの実施形態では、シリル化は、有機ケイ素化合物がビニルクロロシラン化合物として調製されるように、ヒドリドクロロシラン化合物(A)及びエチレン(B)の脱水素カップリングとして更に定義される。これらの実施形態では、脱水素カップリングは、ヒドリドクロロシラン化合物(A)対エチレン(B)の化学量論比が少なくとも1:2、あるいは少なくとも1:3の(A):(B)で実施される。例えば、特定の実施形態では、エチレンは、エチレン(B)対ヒドリドクロロシラン化合物(A)のモル比が、2:1~100:1、例えば2:1~50:1、あるいは2:1~25:1、あるいは2:1~20:1、あるいは2:1~15:1、あるいは2:1~10:1、あるいは2:1~6:1、あるいは3:1~6:1の(B):(A)を提供するのに十分な量で利用される。これらの範囲外の比も利用され得ることが理解されよう。
【0022】
典型的には、脱水素カップリングを介して反応する成分(A)及び(B)の特定の量は、調製される所望の有機ケイ素化合物、及び任意選択でその所望の最終用途に基づいて選択される。例えば、特定の実施形態では、成分(A)及び(B)の比は、少なくとも75%のヒドリドクロロシラン化合物(A)のビニルクロロシラン化合物への変換、例えば少なくとも80%、あるいは少なくとも85%、あるいは少なくとも90%、あるいは少なくとも95%、あるいは少なくとも98%の変換を伴う脱水素カップリング反応を提供するように選択される。いくつかのそのような実施形態では、脱水素カップリング反応はまた、少なくとも75%の有機ケイ素化合物(例えば、ビニルクロロシラン化合物)の収率、例えば少なくとも80、あるいは少なくとも85、あるいは少なくとも90、あるいは少なくとも95%の収率も含む。
【0023】
特定の実施形態では、シリル化は、有機ケイ素化合物がエチルクロロシラン化合物として調製されるように、ヒドリドクロロシラン化合物(A)及びエチレン(B)のヒドロシリル化として更に定義される。これらの実施形態では、ヒドロシリル化は、ヒドリドクロロシラン化合物(A)対エチレン(B)の化学量論比が1:2未満の(A):(B)で実施される。例えば、特定の実施形態では、エチレンは、エチレン(B)対ヒドリドクロロシラン化合物(A)のモル比が、1:1~2:1未満の(B):(A)、例えば1:1超~2:1未満、あるいは1:1超~1.9:1の(B):(A)を提供するのに十分な量で利用される。例えば、選択された反応成分及びパラメータ、反応の所望の選択性/収率などに応じて、より高い又はより低い比も利用され得る。
【0024】
典型的には、ヒドロシリル化を介して反応する特定の量の成分(A)及び(B)は、調製される所望の有機ケイ素化合物、及び任意選択でその所望の最終用途に基づいて選択される。ある特定の実施形態では、成分(A)及び(B)の比は、少なくとも75%のヒドリドクロロシラン化合物(A)のエチルクロロシラン化合物への変換、例えば少なくとも80%、あるいは少なくとも85%、あるいは少なくとも90%、あるいは少なくとも95%、あるいは少なくとも98%の変換を伴うヒドロシリル化反応を提供するように選択される。いくつかのそのような実施形態では、ヒドロシリル化反応はまた、少なくとも75%の有機ケイ素化合物(例えば、エチルクロロシラン化合物)の収率、例えば少なくとも80、あるいは少なくとも85、あるいは少なくとも90、あるいは少なくとも95%の収率も含む。
【0025】
典型的には、特定の量の成分(A)及び(B)は、調製される所望の有機ケイ素化合物、任意選択でその所望の最終用途に基づいて選択される。例えば、特定の実施形態では、成分(A)及び(B)の比は、少なくとも75%のヒドリドクロロシラン化合物(A)のビニルクロロシラン化合物への変換、例えば少なくとも80%、あるいは少なくとも85%、あるいは少なくとも90%、あるいは少なくとも95%、あるいは少なくとも98%の変換を伴う脱水素カップリング反応を提供するように選択される。いくつかのそのような実施形態では、脱水素カップリング反応はまた、少なくとも50%の有機ケイ素化合物(例えば、ビニルクロロシラン化合物)の収率、例えば少なくとも60、あるいは少なくとも65、あるいは少なくとも70、あるいは少なくとも75%の収率も含む。
【0026】
上記で紹介したように、成分(C)は、触媒であり、より具体的には、Ru(0)錯体を含む触媒、すなわち、中性酸化状態でルテニウム(Ru)を含む錯体である。Ru(0)錯体は特に限定されず、ヒドリドクロロシラン化合物(A)によるエチレンのシリル化を触媒することができる任意のRu(0)錯体であり得る。
【0027】
好適なRu(0)錯体の例としては、{Ru(η-1,5-COD)(η-1,3,5-COT)}、{Ru(PPh(CO)}、{Ru(η-1,5-COD)(η-トリフェニレン)}、{[Ru(η-1,5-COD)](η12-トリフェニレン)}、{Ru(η-1,5-COD)(η-1,3-COT)PR’}、{Ru(η-1,3,5-COT)PR’}、{Ru(η-1,5-COD)(PR’}、{Ru(η-1,5-COD)(tBuNC)}、{[Ru(η-1,5-COD)](η18-トリフェニレン)}、[Ru(CO)10(MeCN)]、Ru(CO)12など、並びにこれらの誘導体、改質物、及び組み合わせが挙げられる。当業者は、COD及びCOTによって表される配位子が、それぞれシクロオクタジエン及びシクロオクタトリエンであることを理解するであろう。一般式PR’で表される配位子は、第三級リン化合物(例えば、ホスフィン、ホスファイトなど)であり、各R’は、本明細書に記載されるものによって例示されるように、独立して選択された置換若しくは非置換アリール基、アラルキル基、若しくはシクロアルキル基、又はこれらの対応するアルコキシ若しくはアリールオキシ基である。
【0028】
特定の実施形態では、Ru(0)錯体は、トリルテニウム錯体又はその誘導体を含む。トリルテニウム錯体の例としては、{[Ru(bda)-(pic)(μ-O)]Ru(pic)(HO)2+、{[Ru(μ-H)(μ-η-dpa-C,N,N)(CO)}、{(Ru(acac)(ジキノキサリン[2,3-a:2’,3’-c]フェナジン)}、{[CpRu(μ-H)](μ-η-(II)-PhCCH)(μ-BH)}、[Ru(dmbpy)(μ-HAT)]6+、{[Ru(η-1,5-COD)](η18-トリフェニレン)}、[Ru(CO)10(MeCN)]、Ru(CO)12など、並びにこれらの誘導体、改質物、及び組み合わせが挙げられる。当業者は、bda、pic、dpa、acac、dmbpy、及びHATによって表される配位子が、それぞれ、2,2-ビピリジン-6,6-ジカルボキシレート、2-ピコリルアミン、ジピコリルアミン、アセチルアセトネート、4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジン、及び1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン、又はそれらの脱プロトン化形態、又はそれらの脱プロトン化形態であることを理解するであろう。
【0029】
上記の例示的な錯体及び以下の更なる説明及び実施例から理解されるように、Ru(0)錯体は、リン配位子を含み得る。リン配位子の例としては、ホスフィン、ホスファイト、ホスフェート、ホスフィンオキシド、ホスホルアミダイト、ホスホニウム塩、ホスフィノアミン、クロロホスフィン、ホスフィノイミン、ホスホロジアミダイト、ホスフィナイト、ホスホネート、ホスホナイト、トリアミノホスフィン、トリシリルホスフィンなど、並びにこれらの誘導体、改質物、及び組み合わせが挙げられる。当業者は、そのような配位子がイオン形態(例えば、プロトン化/脱プロトン化から)で利用され得、これは上記の例に包含され、本明細書の様々な実施形態に示されることを理解するであろう。リン配位子の具体例としては、ホスフィン、トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフルオロホスフィン、トリメチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリシクロヘキシルホスフィン、ジメチルホスフィノメタン(dmpm)、ジメチルホスフィノエタン(dmpe)、ジフェニルホスフィノメタン(dppm)、ジフェニルホスフィノエタン(dppe)、S,S-キラホス、エタン-1,2-ジイルビス[(2-メトキシフェニル)フェニルホスファン](DIPAMP)、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(dppf)、トリ(オルトトリル)ホスフィン、(2,4,6-トリイソプロピルフェニル)ジシクロペンチルホスフィンなど、並びにこれらの誘導体、改質物、及び組み合わせが挙げられる。当業者は、そのようなリン配位子が、上記のホスフィンのホスファイトバージョン、並びに本明細書に例示されるリン結合基のうちのいずれか1つ以上を有するホモ置換及びヘテロ置換ホスフィン及びホスファイトを含むことを理解するであろう。
【0030】
特定の実施形態では、触媒(C)のRu(0)錯体は、一般式R Pを有するリン配位子を含み、式中、各Rは、独立して選択された炭化水素基である。好適な炭化水素基の例としては、上記のRに関して記載されるヒドロカルビル基が挙げられる。当業者によって理解されるように、各Rは、立体障害、電子性(electronics)(例えば、電子供与性、電子誘導性、又は電子求引性効果)など、又はそれらの組み合わせなどの因子に基づいて独立して選択され得る。各Rは、キラリティーを付与するか、又は触媒に対称性を付与するために選択され得る。これら又は他の実施形態では、Rは独立して、逆マルコフニコフ選択性などの反応性位置選択性を実施するために選択され得る(例えば、エチレンが置換されている場合など)。ある特定の実施形態では、各Rは、独立して、分岐鎖又は環状基である。例えば、各Rは、イソプロピル、イソブチル、t-ブチル、他の分岐アルキル、アリール、アルカリール、アラルキル、置換アリール(例えばペンタフルオロフェニルなど)などから独立して選択され得る。特定の実施形態では、触媒中の各Rは、同じである。いくつかの実施形態において、リン配位子は、式R PRを有し、式中、Rは、上記で定義されたとおりであり、Rは、Rであるか又はリン含有(すなわち、置換された)ヒドロカルビル基であり、その結果、リン配位子は2つ以上のリン原子を有する多座配位子になる。そのようなリン配位子の具体例としては、1,3-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパン及び1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンが挙げられる。特定の実施形態では、リン配位子は、有機ホスフィン配位子として更に定義される。いくつかのそのような実施形態では、各Rは、独立して選択された置換又は非置換アリール基、アラルキル基、又はシクロアルキル基であり、Rは、R又はアルカリール基である。そのような有機ホスフィン配位子の例としては、置換及び非置換トリアリールホスフィン、トリシクロアルキルホスフィン、ビス(ジアリールホスフィノ)アルカン、ビス(ジシクロアルキルホスフィノ)アルカン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0031】
特定の実施形態において、触媒(C)のRu(0)錯体は、式(RO)P(OR)を有するものなどの有機ホスファイト配位子を含み、式中、R及びRは、上記で定義されたとおりである。いくつかのそのような実施形態では、各R及びRは、置換又は非置換アリール基を含み、その結果有機ホスファイト配位子が、トリアリールホスファイト配位子として更に定義される。
【0032】
好適なリン配位子の追加の例としては、中間トールマン電子パラメータ(TEP)及び/又は中間トールマンコーンアングル(TCA)を有するものが挙げられる。例えば、いくつかの実施形態では、触媒(C)のRu(0)錯体は、2,050~2,100cm-1のTEP、例えば、2,060~2,090、あるいは2,065~2,085cm-1のTEPを有するリン配位子を含む。これら又は他の実施形態では、Ru(0)錯体は、100~200°、例えば115~185°、あるいは130~170°のTCAを有するリン配位子を含む。当業者には理解されるように、リン配位子のTEPは、配位子を含む標準的なニッケルトリカルボニル錯体(すなわち、式(R’P)Ni(CO)の場合、配位子PR’はリン配位子であり、上記で定義されているとおりである)のA対称CO伸縮振動数(ω)に基づいており、次の関係に従って錯体の振動スペクトル(すなわち、赤外線(IR)又はラマン)を測定することで決定できる:TEP=ω(CO,Ni;A)=2056.1+pL(式中、pLは、CO伸縮振動数(ω)に対する配位子特異的増分である)。典型的には、P(tBu)を基準として利用し、ω(CO,A1)=2056.1cm-1となるように、pL(P(tBu))が0に設定される。当業者によって理解されるように、遷移金属錯体中のリン配位子のTCAは、配位子原子のファンデルワールス球の周りに最小限にサイズ決めされた円錐の頂点の金属及び最外縁/周囲部で形成された立体角であり、計算空間充填モデル及び/又は経験的結合特性評価を使用して決定され得る。TEP及び/又はTCAのそのような決定のための方法及び材料は、Tolman,Chemical Reviews,1977,vol 77(3)pp313-348により詳細に記載されており、その特徴付け方法及びリン配位子は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0033】
触媒(C)のRu(0)錯体で利用される特定のリン配位子は、利用される特定のヒドリドクロロシラン化合物(A)及び/又は調製される特定の有機ケイ素化合物に基づいて選択され得る。例えば、特定の実施形態では、反応の成分/パラメータは、(例えば、成分(A)及び(B)の脱水素カップリングを介して、ビニル官能性有機ケイ素化合物を調製するように選択され、ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、オルガノヒドリドクロロシランであり、触媒(C)のRu(0)錯体は、リン配位子を含む。いくつかのそのような実施形態では、ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、式HSiClRを有するジオルガノヒドリドクロロシランであり、触媒(C)のRu(0)錯体は、有機ホスフィン配位子を含む。他のそのような実施形態では、ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、式HSiClRを有するオルガノヒドリドジクロロシランであり、触媒(C)のRu(0)錯体は、有機ホスファイト配位子を含む。
【0034】
特定の実施形態において、Ru(0)錯体は、トリルテニウムドデカカルボニル(すなわち、式Ru(CO)12のもの)又はその誘導体を含むか、あるいはトリルテニウムドデカカルボニル又はその誘導体である。いくつかのそのような実施形態では、トリルテニウムドデカカルボニル誘導体は、1つ以上のリン配位子を有するトリルテニウムドデカカルボニルの配位子交換誘導体として更に定義される。特定の実施形態では、1つ以上のリン配位子は、本明細書に記載されるもののいずれかなどのホスフィン及びホスファイトから選択される。そのような配位子交換誘導体はまた、トリルテニウムドデカカルボニル以外のルテニウム化合物/錯体から調製され得、トリルテニウムドデカカルボニル又は別のルテニウム化合物/錯体から調製されたか、又は他の方法で得られたかどうかに関係なく、本明細書におけるRu(0)錯体の範囲に包含されることを理解されたい。
【0035】
Ru(0)錯体は、アミン、ケトン、ジオン、オレフィン、ニトリル、カルベンなどを含む及び/又はそれらから誘導されるもの、並びにそれらの組み合わせなど、上記のもの以外の他の配位子を含み得る。追加の配位子は、触媒残渣及びその単離/リサイクル/再利用に関する以下の更なる説明から理解されるように、溶媒交換及び/又は成分(A)及び(B)の存在下でのRu(0)錯体の通常の触媒操作などを介して、インサイチュで(すなわち、調製方法の間)調製することができる。
【0036】
触媒(C)のRu(0)錯体は、そのままで(すなわち、溶媒、担体ビヒクル、希釈剤などがない)、又は溶媒若しくは分散剤(例えば、本明細書に列挙及び/又は記載されるもののうちのいずれかなど)などの担体ビヒクル中で処理されるなどの任意の形態で利用され得、これらは当業者によって、独立して選択される(例えば、選択された特定の成分(A)、Ru(0)錯体の溶解度などを考慮して)。したがって、触媒(C)は、Ru(0)錯体からなり得るか、あるいはそれから本質的になり得るか、あるいは、担体ビヒクル、希釈剤などの追加の成分を含み得る。
【0037】
触媒(C)は、当業者によって選択される任意の量で利用されてもよく、これは、例えば、選択される特定の触媒(C)(例えば、その活性Ru種の濃度/量)、選択される成分(A)の性質/タイプ、採用される反応パラメータ、反応の規模(例えば、利用される成分(A)の総量など)などに基づく。反応に利用される成分(A)及び/又は(B)に対する触媒(C)のモル比は、有機ケイ素化合物を調製するためのシリル化の速度及び/又は量に影響を及ぼし得る。したがって、成分(A)及び/又は(B)と比較した触媒(C)の量、並びにそれらの間のモル比は、変動してもよい。典型的には、これらの相対量及びモル比は、(例えば、反応の経済的効率の向上、形成される反応生成物の精製の容易さの向上などのために)触媒(C)の担持量を最小化しつつ、成分(A)及び(B)の濃度を最大化するように選択される。
【0038】
特定の実施形態では、触媒(C)は、利用される成分(A)の総量に基づいて、0.000001~50重量%の量(すなわち、重量/重量)で反応に利用される。例えば、触媒(C)は、利用される成分(A)の総量に基づいて、0.000001~25、あるいは0.00001~10、あるいは0.0001~5重量%の量で使用され得る。いくつかの実施形態では、触媒(C)は、Ru(0)錯体対ヒドリドクロロシラン化合物(A)との比が、1:10~1:1,000,000、あるいは1:50~1:1,000、あるいは1:100~1:500の(C):(A)を提供するのに十分な量で利用される。そのような比は、重量比(すなわち、重量/重量での(C):(A)、あるいはその活性成分)、又はモル比での(C):(A)、あるいはその活性成分であり得る。上記の範囲外の量及び比も同様に利用され得ることが理解されよう。例えば、触媒(C)は、例えば、調製方法で利用される成分(B)(すなわちそのエチレン)の総量に基づいて、化学量論量(すなわち、上記触媒量)で利用され得る。
【0039】
触媒(C)は、触媒(C)のいずれか他のRu(0)錯体と同じ又は異なっていてよい(例えば、配位子の同一性、形状、ルテニウム含有量などの観点から)2、3、4、5個又はそれ以上のRu(0)錯体などの様々なRu(0)錯体の組み合わせを含み得ることが理解されるであろう。
【0040】
触媒(C)及び/又はそのRu(0)錯体は、調製され得るか又は他の方法で得られ得る(すなわち、調製された化合物として)。上記の例示的なRu(0)錯体の多くを調製する方法は、様々な供給元から市販されている化合物を使用して、当該技術分野において既知である。したがって触媒(C)は、成分(A)と(B)との反応の前に、又はインサイチュで(すなわち、成分(A)と(B)との反応中に、例えば、触媒(C)の成分を成分(A)及び/又は(B)と組み合わせることによって)調製することができる。
【0041】
特定の実施形態では、触媒(C)は、調製方法の一部として調製され、すなわち、調製方法は、触媒(C)を調製することを含む。触媒(C)の調製は、Ru(0)錯体を調製すること、又は成分(A)及び(B)のシリル化を触媒するのに使用するのに適した形態でRu(0)錯体を提供することを含み得る。
【0042】
特定の実施形態では、調製方法は、Ru(0)錯体を調製して、触媒(C)を得ることを含む。そのような実施形態では、Ru(0)錯体を調製することは、典型的には、触媒前駆体化合物と配位子前駆体化合物とを、任意選択で担体ビヒクルの存在下で組み合わせて、Ru(0)錯体を得ることを含み(例えば、配位子交換を介して)、それは成分(A)と(B)との反応に直接使用することができる(例えば、触媒(C)として直接使用される)か、あるいは、精製、処理、担体ビヒクルと組み合わせて、若しくは他の方法で改変して、触媒(C)を調製することができる。しかしながら、Ru(0)錯体を調製することは、Ru(0)錯体を得るために、異なる酸化状態を有するルテニウム錯体/化合物を酸化又は還元するなど、以下に更に詳細に記載されない任意の数の追加のステップ/プロセス/手順を含み得ることが理解されよう。
【0043】
触媒前駆体化合物の例としては、一般に、上記のものを含むRu(0)錯体及びトリルテニウム錯体、並びにそれらの誘導体、改質物、及び組み合わせが挙げられる。例えば、特定の実施形態では、触媒前駆体化合物は、トリルテニウムドデカカルボニルである。配位子前駆体化合物の例としては、プロトン化及び/又はその塩形態を含む上記のリン配位子が挙げられる。例えば、特定の実施形態では、配位子前駆体化合物は、三級リン化合物である。いくつかのそのような実施形態では、三級リン化合物は、式R PRを有するオルガノホスフィン化合物であり、式中、R及びRは、上記で定義されたとおりである。他のそのような実施形態では、三級リン化合物は、式(RO)P(OR)を有するオルガノホスファイト化合物であり、式中、R及びRは、上記で定義されたとおりである。
【0044】
触媒及び配位子前駆体化合物は、提供され、調製され、又は他の方法で(例えば、商業的供給源から)得られ得る。特定の実施形態では、触媒(C)を調製することは、触媒前駆体化合物のルテニウムを配位子前駆体化合物と錯体化してRu(0)錯体を得る前に及び/又はそれと組み合わせて、触媒及び/又は配位子前駆体化合物を調製することを更に含む。当技術分野で理解されるように、触媒及び配位子前駆体化合物は、多数の経路又は技法を介して調製又は合成され得る。
【0045】
上記で紹介したように、Ru(0)錯体は、本明細書に記載されるもののいずれかなどの担体ビヒクル中で調製され得る。例えば、Ru(0)錯体は、その使用中に触媒(C)が配置されるビヒクルで調製され得る。特定の実施形態では、Ru(0)錯体は、ベンゼン、トルエン、キシレン(例えば、o-、m-、及び/又はp-キシレン)、メシチレン(すなわち、1,3,5-トリメチルベンゼン)など、又はそれらの組み合わせなどの芳香族溶媒(例えば、芳香族有機溶媒)の存在下で調製される。様々な選択に応じて、触媒(C)がビヒクル又は溶媒に配置される場合、ビヒクル若しくは溶媒、又はその一部は、Ru(0)と錯体化し、例えばRu(0)錯体の配位子又は他の成分になり得る。
【0046】
特定の実施形態では、触媒(C)を調製することは、芳香族溶媒の存在下で触媒及び配位子前駆体化合物を組み合わせることを含み、それによって芳香族溶媒中でRu(0)錯体を調製することを含む。典型的には、触媒及び配位子前駆体化合物と芳香族溶媒を容器又は反応器内で組み合わせて、Ru(0)錯体及び/又は触媒(C)を調製する。容器又は反応器は、任意の好適な様式で、例えば、ジャケット、マントル、交換器、浴、コイルなどを介して加熱又は冷却され得る。例えば、いくつかの実施形態では、触媒及び配位子前駆体化合物は、高温で芳香族溶媒中で組み合わされて、Ru(0)錯体を得ることができ、したがって触媒(C)を調製する。触媒(C)を調製するための高温は、選択される特定の触媒及び/又は配位子前駆体化合物、利用される特定の芳香族溶媒及び/又は他の担体ビヒクル、選択される反応容器(例えば、周囲圧力に開放されているか、密閉されているか、減圧下にあるかなど)などに応じて選択及び制御される。したがって、触媒(C)を調製するための高温は、選択された反応条件及びパラメータ、並びに本明細書の説明を考慮して、当業者によって選択されるであろう。触媒(C)を調製するための高温は、典型的には、周囲温度より高い温度~300℃、例えば50~250℃、あるいは60~200℃、あるいは70~175℃、あるいは75~150℃、あるいは80~125℃である。これらの範囲外の高温も利用できる。
【0047】
特定の実施形態では、調製方法は、(D)オレフィン化合物の存在下で成分(A)及び(B)を反応させることを含む。当業者によって理解されるように、オレフィン化合物(D)は、典型的には、反応の成分/パラメータが、(例えば、成分(A)及び(B)の脱水素カップリングを介して)ビニル官能性有機ケイ素化合物を調製するために選択される実施形態で使用される。オレフィン化合物(D)は、不飽和脂肪族炭化水素基を含み、これは、不飽和を有する炭化水素基(例えば、C-C二重結合及び/又は三重結合)の特定の形態に応じて、脂肪族不飽和、エチレン性不飽和などと称され得るが、他の点では特に限定されない。
【0048】
一般に、オレフィン化合物(D)は、1分子当たり少なくとも1つの脂肪族不飽和基を含む。しかしながら、ある特定の実施形態では、オレフィン化合物(D)は、1分子当たり平均して少なくとも2つの脂肪族不飽和基を含む。当然のことながら、オレフィン化合物(D)は、任意の数の追加の脂肪族不飽和基も含み得る。オレフィン化合物(D)の各脂肪族不飽和基は、例えば、その構造に応じて、オレフィン化合物(D)中の末端、ペンダント、又はその両方の位置にあり得る。
【0049】
特定の実施形態では、オレフィン化合物(D)は、有機化合物を含むか、あるいは有機化合物である。他の実施形態では、オレフィン化合物(D)は、シロキサンを含むか、あるいはシロキサンである。更に他の実施形態では、オレフィン化合物(D)は、シリコーン-有機ハイブリッド、又は有機ケイ素化合物を含む。オレフィン化合物(D)の様々な実施形態及び例を以下に更に開示する。
【0050】
オレフィン化合物(D)の脂肪族不飽和基は、アルケニル基及び/又はアルキニル基であってもよい。当業者には理解されるように、「アルケニル基」という用語は、1つ以上の炭素-炭素二重結合(例えば、アルケン)を有する基を指し、「アルキニル基」という用語は、1つ以上の炭素-炭素三重結合(例えば、アルキン)を有する基を指す。そのような基のいずれかは、環式若しくは非環式、分岐状若しくは非分岐状、置換若しくは非置換、及びそれらの組み合わせであり得る。そのような基は、オレフィン部分以外のサイズ及び/又は全体的な構造に関して一般に限定されず、2~30個の炭素原子例えば、2~24個の炭素原子、あるいは2~20個、あるいは2~12個、あるいは2~10個、あるいは2~6個の炭素原子などを含み得る。アルケニル基は、ビニル、ビニリジン、アリル、プロペニル、及びヘキセニル基によって例示される。好適なアルケニル基としては、内部、外部、末端(例えば、アルファ-オレフィン)、多置換(例えば、シス及びトランス二置換、三置換、及び四級置換アルケン)、及びそれらの組み合わせが挙げられる。特定のアルキニル基の例としては、エチニル、プロピニル、及びブチニル基が挙げられる。
【0051】
オレフィン化合物(D)としての使用に好適な化合物の例としては、アルケニル化合物(例えば、少なくとも1つのアルケニル基を有する化合物)、例えば、ブテン(例えば、イソブテン、シクロブテンなど)、ペンテン(例えば、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、シクロペンテン、2-メチルシクロペンテン、4-メチルシクロペンテンなど)、ヘキセン(例えば、シクロヘキセン、3,5,5-トリメチル-1-ヘキセン、ビニルシクロヘキセンなど)、線状アルファオレフィン(例えば、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、1-ヘネイコセン、1-ドコセン、1-トリコセン、1-テトラコセン、1-ペンタコセン、1-ヘキサコセン、1-ヘプタコセン、1-オクタコセン、1-ノナコセン、1-トリアコンテンなど)、環状オレフィン(例えば、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデセン、ノルボルネン、4-メチルノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、ビニルノルボルネンなど)、ポリオレフィン(例えば、1,2-ジビニルシクロヘキサン、1,3-ジビニルシクロヘキサン、1,4-ジビニルシクロヘキサン、1,5-ジビニルシクロオクタン、1-アリル-4-ビニルシクロヘキサン、1,4-ジアリルシクロヘキサン、1-アリル-5-ビニルシクロオクタン、1,5-ジアリルシクロオクタン、1,3-ジビニルシクロペンタン、ジシクロペンタジエン、ノルボルナジエンなど)、分岐非環式オレフィン(例えば、5-メチル-1-ノネン)、オレフィン置換環状化合物(例えば、ビニルシクロヘキサンなど)、線状及び環状アルキン化合物、ジエン化合物(例えば、1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,6-ヘプタジエン、1,7-オクタジエン、1,8-ノナジエン、1,9-デカジエン、1,11-ドデカジエン、1,13-テトラデカジエン、1,19-エイコサジエンなど)、ジイン及びエン-イン化合物(例えば、1,3-ブタジイン、1,5-ヘキサジイン、1-ヘキセン-5-インなど)など、並びにそれらの誘導体、改質物、及び組み合わせが挙げられる。オレフィン化合物(D)で又はオレフィン化合物(D)として利用される特定の脂肪族不飽和基及び/又は化合物は、典型的には、水素化及び/又はシリル化速度に基づいて選択される。例えば、特定の実施形態では、オレフィン化合物(D)は、水素化を容易に受けるが、ゆっくりとヒドロシリル化を受けるように選択される。ある特定の実施形態では、オレフィン化合物(D)は、ノルボルネン又はその誘導体若しくは類似体を含むか、あるいはそれらから本質的になるか、あるいはそれらである。
【0052】
調製方法は、任意の量の成分(D)を利用することができ、より具体的には、反応の所望の特性(例えば、変換速度など)及び/又は用いられる出発物質の特性に対して任意の量及び/又は比率でそのオレフィン化合物を含み得る。典型的には、成分(D)は、ビニル化される成分(A)のケイ素結合水素基の数(すなわち、脱水素カップリング反応を受けることができるSi-H基の数)に基づいて、少なくとも1:1の化学量論比でオレフィン化合物を提供するのに十分な量で利用される。したがって、当業者によって理解されるように、成分(D)の量は、典型的には、ヒドリドクロロシラン(A)の量及びタイプに基づいて選択される。成分(D)の過剰又は大規模過剰が利用され得る。例えば、成分(A)及び(D)は、化学量論比が1:≧1の(A):(D)で、例えば1:1~1:100の(A):(D)の比で利用され得る。特定の実施形態では、成分(D)は、オレフィン化合物対ヒドリドクロロシラン化合物(A)のモル比が1:1~100:1の(D):(A)、例えば1:1~10:1、あるいは2:1~10:1、あるいは3:1~5:1の(D):(A)を提供するのに十分な量で利用される。より高い又はより低い比も利用され得る。
【0053】
調製方法で利用される成分(すなわち、ヒドリドクロロシラン化合物(A)、エチレン(B)、触媒(C)、及び/又はオレフィン化合物(D))は、「そのまま」、すなわち、有機ケイ素化合物を調製するための反応の準備ができている状態で提供され得る。あるいは、成分(A)、(B)、(C)、及び又は(D)のうちのいずれか1つ以上、又はすべては、反応前又は反応中に形成され得る(例えば、上記のように、方法が触媒(C)を調製することが含まれる場合など)。特定の実施形態では、調製方法は、ヒドリドクロロシラン化合物(A)を調製することを更に含む。これら又は他の実施形態では、調製方法は、エチレン(B)を調製することを更に含む。これら又は他の実施形態では、調製方法は、触媒(C)を調製することを更に含む。これら又は他の実施形態では、調製方法は、オレフィン化合物(D)を調製することを更に含む。
【0054】
典型的には、成分(A)、(B)、(C)、及び任意選択で(D)は、容器又は反応器内で反応させて、有機ケイ素化合物を調製する。以下に記載されるように、反応が高温又は低温で実施されるとき、容器又は反応器は、例えば被覆物、覆い、交換器、槽、コイルなどを介して、任意の好適な方法で加熱又は冷却されてもよい。
【0055】
成分(A)、(B)、(C)、及び任意選択で(D)は、容器に一緒に若しくは別々に供給されてもよく、又は任意の添加の順序で、及び任意の組み合わせで容器内に配置されてもよい。例えば、特定の実施形態では、成分(A)、(B)、及び(D)は、例えば、予め作製された触媒として又はその場で触媒(C)を形成する個々の成分として、成分(C)を含有する容器に添加される。特定の実施形態では、触媒(C)は、容器内で調製され、次いで、成分(A)、及び任意選択で(D)が装填されて、容器内の溶液を調製し、次いで成分(B)で加圧される。いくつかの実施形態では、成分(A)及び(D)は、容器に添加する前に最初に組み合わされてもよく、又は容器に順次添加されてもよい(例えば、(A)の後に(D))。概して、本明細書における「反応混合物」への言及は、全般的に、(例えば、上述のような成分を組み合わせることによって得られるような)成分(A)、(B)、(C)、並びに任意選択的に利用される場合は(D)を含む混合物を指す。
【0056】
本方法は、反応混合物を撹拌することを更に含むことができる。撹拌は、例えば、その反応混合物において組み合わされたときに、成分(A)、(B)、(C)、及び任意選択で(D)の混合及び接触を増進することができる。このような接触は独立して、撹拌を伴って(例えば、並行して又は順次)、又は撹拌を伴わずに(すなわち、独立して、あるいはその代わりに)、他の条件を使用することもできる。他の条件は、ヒドリドクロロシラン化合物(A)とエチレン(B)との接触、したがって反応(すなわち、シリル化)を増進して、有機ケイ素化合物を形成するよう適応され得る。他の条件は、反応収率を高めるため、又は有機ケイ素化合物とともに反応生成物内に含まれる特定の反応副生成物の量を最小化するための結果に有効な条件であり得る。
【0057】
成分(A)及び(B)は、反応が溶液、エマルジョン、懸濁液、スラリー、二相混合物中で、又はそれらの組み合わせ中で行われるように、担体ビヒクル(例えば、溶媒、希釈剤、流体、又はそれらの組み合わせ)の存在下で反応され得る。利用される特定の溶媒、担体、及び/又は希釈剤、及び用いられるそれぞれの量は、例えば、特定のヒドリドクロロシラン化合物(A)、触媒(C)、及び/又はオレフィン化合物(D)(利用される場合)、調製される特定の有機ケイ素化合物などに基づいて、当業者によって独立して選択される。典型的には、反応は、均質条件下(例えば、溶液状態)で実行される。しかしながら、反応は、1つ以上の成分が、担体ビヒクルに懸濁されているが、溶解されていない状態で不均一に行われ得る。典型的には、エチレン(B)は、気体状態で、例えば所望のモル比(A):(B)で反応混合物を調製し、したがって所望の反応化学を与えるために、選択された圧力で利用される。しかしながら、他の成分は、均質混合物/溶液として使用され得る(すなわち、それと反応混合物を形成する前に担体ビヒクル中に溶解及び/又は配置される)。
【0058】
ある実施形態では、反応は、担体ビヒクルの存在下で実施される。担体ビヒクルは、特に限定されず、典型的には、選択された特定のヒドリドクロロシラン化合物(A)、触媒(C)、及び/又はオレフィン化合物(D)(利用される場合)、並びに調製される特定の有機ケイ素化合物に基づいて選択される。例えば、そのような実施形態では、担体ビヒクルは、典型的には、油(例えば、有機油及び/又はシリコーン油)、流体、溶媒など、若しくはそれらの組み合わせを含むか、又はこれらのものである。
【0059】
いくつかの実施形態では、担体ビヒクルは、有機溶媒を含む、又は有機溶媒である。有機溶媒の例としては、ベンゼン、トルエン、及びキシレンなどの芳香族炭化水素;ヘプタン、ヘキサン、及びオクタンなどの脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、1,1,1-トリクロロエタン及び塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素;クロロホルム;ジメチルスルホキシド;ジメチルホルムアミド、アセトニトリル;テトラヒドロフラン、ホワイトスピリット;ミネラルスピリット;ナフサ;n-メチルピロリドンなど、並びに誘導体、改質物、及びこれらの組み合わせを含むものが挙げられる。
【0060】
いくつかの実施形態では、担体ビヒクルは、シリコーン流体を含む、又はシリコーン流体である。シリコーン流体は、典型的には、低粘度及び/又は揮発性シロキサンである。いくつかの実施形態では、シリコーン流体は、低粘度オルガノポリシロキサン、揮発性メチルシロキサン、揮発性エチルシロキサン、揮発性メチルエチルシロキサンなど、又はこれらの組み合わせである。典型的には、シリコーン流体は、25℃で1~1,000mm/sの範囲の粘度を有する。好適なシリコーン流体の具体例としては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ドデカメチルペンタシロキサン、テトラデカメチルヘキサシロキサン、ヘキサデメチルヘプタシロキサン、ヘプタメチル-3-{(トリメチルシリル)オキシ)}トリシロキサン、ヘキサメチル-3,3、ビス{(トリメチルシリル)オキシ}トリシロキサンペンタメチル{(トリメチルシリル)オキシ}シクロトリシロキサン、並びにポリジメチルシロキサン、ポリエチルシロキサン、ポリメチルエチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、カプリリルメチコン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘプタメチルオクチルトリシロキサン、ヘキシルトリメチコンなど、並びにそれらの誘導体、改変物、及びそれらの組み合わせが挙げられる。好適なシリコーン流体の更なる例としては、5x10-7~1.5x10-6/秒などの好適な蒸気圧を有するポリオルガノシロキサンが挙げられる。
【0061】
特定の実施形態では、担体ビヒクルは、揮発性及び/又は半揮発性炭化水素、エステル、及び/又はエーテルを含む有機油を典型的に含む有機流体を含む、又はそのような有機流体である。このような有機流体の一般的な例としては、C~C16アルカン、C~C16イソアルカン(例えば、イソデカン、イソドデカン、イソヘキサデカンなど)、C~C16分枝状エステル(例えば、イソヘキシルネオペンタノエート、イソデシルネオペンタノエートなど)、並びにこれらの誘導体、改質物、及び組み合わせが挙げられる。好適な有機流体の追加の例としては、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、ハロゲン化アルキル、芳香族ハロゲン化物、及びそれらの組み合わせが挙げられる。炭化水素としては、イソドデカン、イソヘキサデカン、Isopar L(C11-C13)、Isopar H(C11-C12)、水素化ポリデセンが挙げられる。
【0062】
他の担体ビヒクルもまた、組成物に使用されてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、担体ビヒクルは、イオン液体を含む、又はイオン液体である。イオン液体の例としては、アニオン及びカチオンの組み合わせが挙げられる。一般に、アニオンは、アルキルスルファート系アニオン、トシラートアニオン、スルホン酸系アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、テトラフルオロボレートアニオンなどから選択され、カチオンは、イミダゾリウム系カチオン、ピロリジニウム系カチオン、ピリジニウム系カチオン、リチウムカチオンなどから選択される。しかしながら、複数のカチオン及びアニオンの組み合わせも使用されてもよい。イオン性液体の具体例としては、典型的には、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムビス-(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、3-メチル-1-プロピルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N-ブチル-3-メチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-メチル-1-プロピルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ジアリルジメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、メチルトリオクチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-ビニルイミダゾリウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-アリルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなど、並びにそれらの誘導体、改変物、及び組み合わせが挙げられる。
【0063】
利用される場合、担体ビヒクル又は溶媒の一部は、ヒドリドクロロシラン化合物(A)、触媒(C)、及び/又はオレフィン化合物(D)(利用される場合)に個々に添加されてもよく、成分(A)、(C)、及び/又は(D)の混合物にまとめて添加されてもよく、又は反応混合物に一体として添加されてもよく、あるいは別の方法で組み合わされてもよい。反応混合物中に存在する担体ビヒクル/溶媒の総量は、例えば、選択される特定の成分(A)、(C)、及び/又は(D)、採用される反応パラメータなどに基づいて、当業者によって選択される。
【0064】
いくつかの実施形態では、反応は、高温で実施される。高温は、選択された特定のヒドリドクロロシラン化合物(A)、触媒(C)、及び/又はオレフィン化合物(D)、利用される反応容器(例えば周囲圧力に開放されているか、密閉されているか、正圧下にあるかどうか(例えばエチレンの正圧(B))、担体ビヒクルの存在及び沸点などに応じて選択及び制御される。同様に反応の温度は、容器内の圧力に影響を及ぼし、したがってその中の可溶化エチレン濃度に影響を及ぼし得るので、温度は、所望のシリル化反応のタイプに基づいて(すなわち、調製される特定の有機ケイ素化合物に基づいて)選択され得る。したがって、高温は、選択される反応条件及びパラメータ、並びに本明細書の説明を考慮して、当業者によって容易に選択されるであろう。
【0065】
典型的には、高温は、周囲温度より高い温度~300℃、例えば30~250℃、あるいは40~200℃である。高温は、典型的には、周囲温度より高い温度~200℃、例えば30~150℃、あるいは40~150℃、あるいは40~125℃、あるいは40~100℃、あるいは50~100℃である。いくつかのそのような実施形態では、シリル化反応は、脱水素カップリング反応として構成される。他の実施形態では、高温は、周囲温度より高い温度~200℃、例えば60~200℃、あるいは70~200℃、あるいは70~150℃、あるいは80~150℃、あるいは90~150℃、あるいは100~150℃である。特定のそのような実施形態では、シリル化反応は、ヒドロシリル化反応として構成される。
【0066】
上記のように、反応は、ほぼ周囲圧力で、又はあるいは高圧(例えば、超大気圧(super-atmospheric pressure))で行われ得る。例えば、いくつかの実施形態では、反応が大気圧よりも高い圧力で実施されるように、容器は、(例えば、ガスマニホールドを介して)エチレンで加圧される。典型的には、エチレンは、100~20,000kPaなど、200,000kPa未満の圧力で用いられる。しかしながら、全体的な圧力は、反応条件の個々のパラメータとして特に制限されないが、むしろ上記のように、反応中の可溶化エチレンの相対量に基づいて選択/制御/達成される。
【0067】
ある特定の実施形態では、反応は、大気圧で実施される。他の実施形態では、反応は、ほぼ大気圧~20,000kPa、例えば100~15,000、あるいは100~12,000、あるいは100~11,000、あるいは100~10,500kPaの圧力で実施される。特定の実施形態では、エチレンは、大気圧よりも高い圧力~200,000kPa、例えば、105~25,000、あるいは150~20,000、あるいは200~20,000、あるいは500~20,000、あるいは1,000~20,000、あるいは2,000~20,000、あるいは5,000~20,000kPaで使用される。
【0068】
高温及び/又は高圧はまた、特に高温及び高圧の両方が利用される場合、上記の範囲とは異なり得ることを理解されたい。特に、上記のように、反応の圧力は反応選択性に影響を与え、上記のように使用される反応温度によって影響を受け得る。特定の実施形態では、高温及び高圧は、成分(A)及び(B)の一方又は両方に関して超臨界条件を提供するように集合的に選択される。同様に、成分(A)及び(B)の反応中に、反応パラメータを修正してもよいことも理解されたい。例えば、温度、圧力、及び他のパラメータは、反応中に独立して選択又は修正されてもよい。これらのパラメータはいずれも、独立して、周囲パラメータ(例えば、室温及び/又は大気圧)及び/又は非周囲パラメータ(例えば、低温若しくは高温及び/又は減圧若しくは高圧)であってもよい。任意のパラメータはまた、動的に修正されてもよく、リアルタイムで、すなわち、方法中に変更されてもよく、又は静的(例えば、反応の持続時間中又はその任意の部分にわたって)であってもよい。
【0069】
特定の実施形態では、反応は、周囲圧力よりも高い圧力~200,000kPa、例えば、101.3より高い圧力~20,000、あるいは110~10,000、あるいは150~5,000、あるいは200~2,000、あるいは200~1,000、あるいは250~1,000、あるいは250~750kPaで実施される。いくつかのそのような実施形態では、シリル化反応は、脱水素カップリング反応として構成される。
【0070】
有機ケイ素化合物を調製するための成分(A)及び(B)の反応が実施される時間は、スケール、反応パラメータ及び条件、特定の成分の選択などの関数である。比較的大きなスケール(例えば、1kg超、あるいは5kg、あるいは10kg、あるいは50kg、あるいは100kg)では、当業者によって容易に決定されるように(例えば、ヒドリドクロロシラン化合物(A)の変換、有機ケイ素化合物の生成などを、例えば、クロマトグラフィー及び/又は分光法により監視することによって)、反応は数時間、例えば、2~48時間、あるいは3~36時間、あるいは4~24時間、あるいは6、12、18、24、36、又は48時間実施することができる。ある特定の実施形態では、反応が実施される時間は、成分(A)及び(B)が触媒(C)の存在下で組み合わされた後、任意選択で高温及び/又は高圧に達した後、0超~48時間、例えば1~36時間、あるいは1~24時間、あるいは1~12時間、あるいは2~12時間、あるいは2~10時間である。
【0071】
一般に、成分(A)と(B)との反応は、有機ケイ素化合物を含む反応生成物を調製する。特に、反応の過程で、成分(A)及び(B)を含む反応混合物は、増加する有機ケイ素化合物の量及び減少する成分(A)及び(B)の量を含む。いったん反応が完了すると(例えば、成分(A)及び(B)のうちの1つが消費される、追加の有機ケイ素化合物が調製されない、など)、反応混合物は、有機ケイ素化合物を含む反応生成物と称され得る。このように、反応生成物は、典型的には、任意の残りの量の成分(A)、(B)、(C)、及び任意選択で(D)、並びにその分解及び/又は他の反応生成物(例えば、副生成物及び/又は他の材料)、利用される任意の担体ビヒクル又は溶媒などを含む。
【0072】
特定の実施形態では、本方法は、有機ケイ素化合物を反応生成物から単離及び/又は精製することを更に含む。本明細書で使用される場合、有機ケイ素化合物を単離することは、典型的には、有機ケイ素化合物の相対濃度を、(例えば、反応生成物又はその精製されたバージョンにおいて)それと組み合わせた他の化合物と比較して高めることと定義される。したがって、当技術分野で理解されるように、単離すること/精製することは、他の化合物をそのような組み合わせから除去すること(すなわち、例えば、反応生成物中の有機ケイ素化合物と組み合わされた不純物/他の成分の量を減少させること)、及び/又は有機ケイ素化合物自体を、組み合わせから取り出すことを含み得る。単離のための任意の好適な技術及び/又はプロトコルを利用してもよい。好適な単離技術の例としては、蒸留、ストリッピング/蒸発、抽出、濾過、洗浄、分配、相分離、クロマトグラフィーなどが挙げられる。当業者によって理解されるように、これらの技術のいずれかは、任意の別の技術と組み合わせて(すなわち、順次に)使用されて、有機ケイ素化合物を単離し得る。単離することは、有機ケイ素化合物を精製することを含み得、したがって、有機ケイ素化合物を精製することと称され得ることを理解されたい。しかしながら、有機ケイ素化合物を精製することは、有機ケイ素化合物の単離するのに利用されるものと比較して、代替及び/又は追加の技術を含み得る。選択される特定の技術に関係なく、有機ケイ素化合物の単離及び/又は精製は、反応自体と順番に(すなわち、インラインで)実施され得、したがって自動化され得る。他の事例では、精製は、有機ケイ素化合物を含む反応生成物が供される独立した手順であり得る。ある特定の実施形態では、有機ケイ素化合物は、反応容器及び反応生成物をベントする及び/又はパージすることによって精製され、例えば、反応中に調製された任意の残留エチレン(B)、水素(H)などを除去する。いくつかのそのような実施形態では、反応生成物は、ベント及び/又はパージ中に冷却される。
【0073】
特定の実施形態では、調製方法は、蒸留を介して反応生成物から有機ケイ素化合物を単離することを含み、有機ケイ素化合物は、反応生成物(例えば、触媒(C))の1つ以上の成分から留出物として取り出される。蒸留は、典型的には、大気中よりも低い(sub-atmospheric)圧力及び温度(すなわち、低温及び減圧)で実施される。減圧及び低温は、選択された反応条件及びパラメータ、利用される成分、調製された有機ケイ素化合物などを考慮して当業者によって選択される。減圧は、典型的には真空として操作されるが、真空と大気圧(すなわち、101.325kPa)との間の減圧を、利用することができる。例えば、減圧は、0超~50kPa、あるいは0超~40kPa、あるいは0超~30kPa、あるいは0超~20kPa、あるいは0超~10kPa、あるいは0超~5kPa、あるいは0超~4kPa、あるいは0超~3kPa、あるいは0超~2kPa(例えば、mmHgによって測定される)であり得る。
【0074】
典型的には、成分(A)及び(B)の反応によって調製される反応生成物は、ルテニウム錯体を含む触媒残渣を含む。触媒残渣のルテニウム錯体は、反応において、又は成分(C)で利用されるRu(0)錯体と同じであり得るか、あるいは実質的に同じであり得る。あるいは、触媒残渣のルテニウム錯体は、例えば、反応中にRu(0)錯体から形成される、反応の成分(C)に利用される又は成分(C)として利用されるRu(0)錯体の誘導体であり得る。
【0075】
特定の実施形態では、調製方法は、例えば上記の技法のうちの1つ以上を使用して、触媒残渣を反応混合物から単離することを含む。いくつかの実施形態では、蒸留を介して、反応生成物から有機ケイ素化合物を単離することは、反応生成物の他の成分をそこから留出物として除去することによって触媒残渣を分離する。
【0076】
単離された触媒残渣は、例えば、上記のように、任意選択で成分(D)の存在下で、成分(A)及び(B)の別のシリル化反応を触媒するために利用され得る。したがって、特定の実施形態では、調製方法は、触媒残渣を使用して(すなわち、触媒(C)を再利用して)、更なるシリル化反応を触媒することを含み、これは触媒残渣を調製するために使用される最初の反応と同じであっても異なっていてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、この方法は、それぞれ触媒(C)及び触媒残渣を使用する2つの連続した脱水素カップリング反応を含む。他の実施形態では、この方法は、触媒(C)及び触媒残渣をそれぞれ使用する2つの連続したヒドロシリル化反応を含む。しかしながら、調製方法は、反応選択性の迅速な変化を可能にすることにより(例えば、反応容器内のエチレン分圧の変更を介して)、プロセス出力の変更を可能にすることによって(例えば、調製される有機ケイ素化合物に関して)、プロセス有用性の増加を提供する。したがって、特定の実施形態では、本方法は、上記のシリル化反応を実施し、触媒(C)(又はその誘導体、例えば、触媒残渣を収集することを介して)を単離し、次いで、単離された触媒(C)又はその誘導体を使用して、最初とは異なる更なるシリル化反応を触媒することを含む。例えば、いくつかのそのような実施形態では、シリル化反応は、脱水素カップリングとして更に定義され、更なるシリル化反応は、ヒドロシリル化として更に定義される。他のそのような実施形態では、シリル化反応は、ヒドロシリル化として更に定義され、更なるシリル化反応は、脱水素カップリングとして更に定義される。
【0077】
この様式での触媒(C)の再利用は、任意の数の連続的な、独立して選択されたシリル化反応について、任意の回数行うことができ、これらはそれぞれ任意の他のシリル化反応と同じであっても異なっていてもよいことが理解されよう。特定の実施形態では、触媒(C)は、少なくとも1回、あるいは少なくとも2回、あるいは少なくとも3、4、5、6、7、8、9、又は10回再利用される。
【0078】
上記に紹介したように、調製方法は、有機ケイ素化合物を調製する。当業者には理解されるように、調製された特定の有機ケイ素化合物は、調製方法で利用される特定のヒドリドクロロシラン化合物(A)及び選択されるシリル化反応のタイプの関数である。より具体的には、成分(A)及び(B)の構造及びそれらの反応のパラメータの上記の説明を考慮して理解されるように、本方法は、ヒドリドクロロシラン化合物(A)及びエチレン(B)の脱水素カップリング生成物として、又はヒドロシリル化生成物としてのいずれかで有機ケイ素化合物を調製する。いずれの場合も、ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、有機ケイ素化合物のオルガノクロロシラン骨格を形成し、エチレン(B)は、オルガノクロロシラン骨格のケイ素原子に結合したビニル基又はエチル基を形成する。
【0079】
一般に、有機ケイ素化合物は、一般式Y-SiCl3-x,を有するものであり、式中、Yはビニル基又はエチル基であり、下付き文字x及び各Rは上記で定義されたとおりである。より具体的には、下付き文字xは、典型的には1、2、又は3であり、各Rは、1~18個の炭素原子を有する独立して選択された非置換ヒドロカルビル基(例えば、メチル、エチルなど)である。
【0080】
いくつかの実施形態では、Yは、ビニル基であり、xは、1又は2であり、それにより、有機ケイ素化合物は、オルガノビニルクロロシラン化合物として更に定義され得る。例えば、ヒドリドクロロシラン化合物(A)がジオルガノヒドリドクロロシラン(例えば、下付き文字xが1である場合、それにより化合物(A)はHSiClRを有する)として更に定義されるいくつかの実施形態では、調製方法は、式(HCCH)SiClRを有するジオルガノビニルクロロシラン化合物として有機ケイ素化合物を調製する(式中、各Rは、上記で定義されたとおりである)。ヒドリドクロロシラン化合物(A)がオルガノヒドリドジクロロシラン(例えば、下付き文字xが2である場合、それにより化合物(A)は式HSiClRを有する)として更に定義される他の実施形態では、調製方法は、式(HCCH)SiClRを有するオルガノビニルジクロロシラン化合物として有機ケイ素化合物を調製する(式中、Rは、上記で定義されたとおりである)。いくつかの実施形態では、各Rが、アルキル基であり、それにより、有機ケイ素化合物が、ジアルキルビニルクロロシラン又はアルキルビニルジクロロシランとして更に定義される。ある特定の実施形態では、各Rが、メチル(すなわち、-CH)であり、それにより有機ケイ素化合物が、ジメチルビニルクロロシラン又はメチルビニルジクロロシランとして更に定義される。
【0081】
ある特定の実施形態では、Yが、エチル基であり、xが、1又は2であり、それにより有機ケイ素化合物は、オルガノエチルクロロシラン化合物として更に定義され得る。例えば、ヒドリドクロロシラン化合物(A)が、ジオルガノヒドリドクロロシラン(例えば、下付き文字xが1である場合、それにより化合物(A)は式HSiClRを有する)として更に定義されるいくつかの実施形態では、調製方法は、式(HCCH)SiClRを有するジオルガノエチルクロロシラン化合物として有機ケイ素化合物を調製する(式中、各Rは、上記で定義されたとおりである)。ヒドリドクロロシラン化合物(A)がオルガノヒドリドジクロロシラン(例えば、下付き文字xが2である場合、それにより化合物(A)は式HSiClRを有する)として更に定義される他の実施形態では、調製方法は、式(HCCH)SiClRを有するオルガノエチルジクロロシラン化合物として有機エチルジクロロシラン化合物として有機ケイ素化合物を調製する(式中、Rは上記で定義されたとおりである)。いくつかの実施形態では、各Rが、アルキル基であり、それにより有機ケイ素化合物が、ジアルキルエチルクロロシラン又はアルキルエチルジクロロシランとして更に定義される。特定の実施形態では、各Rが、メチル(すなわち、-CH)であり、それにより有機ケイ素化合物が、ジメチルエチルクロロシラン又はメチルエチルジクロロシランとして更に定義される。有機ケイ素化合物は、そのような化合物の組み合わせ、すなわち、ヒドリドクロロシラン化合物(A)のうちの2つ以上が調製方法で利用される場合に、そのような化合物の組み合わせが含まれ得ることが理解されよう。
【0082】
調製方法に従って調製された有機ケイ素化合物は、例えば、硬化性組成物、パーソナルケア又は化粧品組成物などを含む組成物中の別個の成分として、多様な最終使用用途で利用され得る。例えば、調製された有機ケイ素化合物が1分子当たり少なくとも1つの脂肪族不飽和基(例えば、エチレン(B)から調製されたケイ素結合ビニル基)を含む場合、有機ケイ素化合物は、更なるアルケン系反応、例えばヒドロシリル化反応において利用され得る。例えば、有機ケイ素化合物は、ヒドロシリル化硬化性組成物の成分であり得る。調製された有機ケイ素化合物が、1分子当たり少なくとも1つのエチル基(例えば、エチレン(B)から調製されたケイ素結合エチル基)を含む場合、有機ケイ素化合物は、シリコーン組成物の末端メチル含有量を低減するためのエンドキャッピング剤又はビルディングブロックとして利用され得る。
【0083】
以下の実施例は、本明細書に記載される実施形態を説明することを意図しており、本発明の範囲を限定するものと決してみなされるべきではない。
特性評価手順
【0084】
ガスクロマトグラフィー(GC)
【0085】
ガスクロマトグラフィー(GC)データは、Thermo Scientific TG-5HTカラムを取り付けたAgilent7890Aガスクロマトグラフを使用して得られる。溶出種の検出は、水素炎イオン化検出器(FID)を使用して行われる。試料(1μL)をカラムに注入し、カラムを注入時間から8分間40℃で保持し、その後温度を15℃/分の速度で300℃に上昇させた。溶出時間は、標準の注入によって決定され、生成物の定量化は、溶出シグナル領域の積分によって決定された。例示的な標準(その溶出時間)には、ジメチルクロロシラン(1.90分)、メチルジクロロシラン(1.93分)、ビニルジメチルクロロシラン(2.44分)、ビニルメチルジクロロシラン(2.79分)、エチルジメチルクロロシラン(2.62分)、及びエチルメチルジクロロシラン(3.05分)が含まれる。
成分及び材料
【0086】
実施例で利用される特定の成分を以下の表1に示す。
【表1】
実施例1~2:ビニルジメチルクロロシラン(ClSi(CH(CHCH))の調製
【0087】
触媒(C)(1.9mg、9.0μmol Ru)を周囲条件下でシュレンクチューブに添加する。次いで、チューブを排気し、窒素で数回再充填(backfill)する。次いで、溶媒(S-1)(12mL)をカニューレを介してチューブに移し、得られた混合物を穏やかに加熱しながら20分間撹拌して溶液を形成する。次いで、溶液を室温まで冷却し、ヒドリドシラン(A)(100μL、900μmol)を装填し、得られた溶液を、カニューレを介して、撹拌棒及びエチレンを導入するためのマニホールドを備えたフィッシャーポーターチューブ(Fischer-Porter tube)に移す。次に、チューブをエチレンで5バールに加圧し、次いでベントする。チューブをエチレンで加圧した後、更に4回ベントして、チューブから窒素を実質的に排除する。次いで、チューブをエチレンで5バールに加圧し、溶液を100℃に加温し、2時間撹拌しながら保持する。次いで、溶液を、-78℃まで冷却し、チューブをベントする。次に、溶液をカニューレを介してシュレンクチューブに移し、次いで、-78℃に冷却された収集容器を備えた蒸留装置に移す。次いで、溶液を、大気圧未満の圧力及び25℃未満の温度で蒸留して、触媒残渣からの留出物として有機ケイ素化合物を含む揮発性生成物混合物を取り出す。次いで、留出物を室温に温め、ガスクロマトグラフィーによって分析して、ヒドリドシラン(A)の変換及び有機ケイ素化合物の収率を評価し、その結果を以下の表2に示す。
比較例1
【0088】
上記実施例1~2に記載の手順を、触媒(C)を添加せずに繰り返し、その結果を以下の表2に示す。
【表2】
【0089】
実施例1~2では、調製された有機ケイ素化合物は、ビニルジメチルクロロシランである。表2に示すように、例示的な方法は、脱水素カップリング生成物の良好な収率で、ヒドリドシラン出発物質のほぼ完全な変換を提供する。実施例1~2の各々において、エチルジメチルクロロシランは、主要な副産物として特定されており、利用される条件下で競合反応としてのヒドロシリル化を証明している。上記の表2にも示されるように、触媒(C)の非存在下で、ヒドリドシラン(A-1)の有意な変換は観察されない(比較例1を参照されたい)。
実施例3~11:ビニルジメチルクロロシラン(ClSi(CH(CHCH))の調製
【0090】
触媒(C-1)(1.9mg、9.0μmol Ru)及び配位子(L)を、周囲条件下でシュレンクチューブに添加する。次いで、チューブを排気し、窒素で数回再充填する。次いで、溶媒(S)(12mL)をカニューレを介してチューブに移し、得られた混合物を穏やかに加熱しながら20分間撹拌して溶液を形成する。次いで、溶液を室温まで冷却し、ヒドリドシラン(A-1)(100μL、900μmol)を装填し、得られた混合物を、カニューレを介して、撹拌棒及びエチレンを導入するためのマニホールドを備えたフィッシャーポーターチューブに移す。次に、チューブをエチレンで5バールに加圧し、次いでベントする。チューブをエチレンで加圧した後、更に4回ベントして、チューブから窒素を実質的に排除する。次いで、チューブをエチレンで5バールに加圧し、溶液を100℃に加温し、2時間撹拌しながら保持する。次いで、溶液を、-78℃まで冷却し、チューブをベントする。次に、溶液をカニューレを介してシュレンクチューブに移し、次いで、-78℃に冷却された収集容器を備えた蒸留装置に移す。次いで、溶液を、大気圧未満の圧力及び25℃未満の温度で蒸留して、触媒残渣からの留出物として有機ケイ素化合物を含む揮発性生成物混合物を取り出す。次いで、留出物を室温に温め、ガスクロマトグラフィーによって分析して、ヒドリドシラン(A-1)の変換と有機ケイ素化合物の収率を評価する。実施例3~11の特定のパラメータ及び評価結果を以下の表3に示す。
【表3】
【0091】
実施例3~11では、調製される有機ケイ素化合物は、ビニルジメチルクロロシランである。上記の表3に示されるように、例示的な方法は、脱水素カップリング生成物の良好な収率で、ヒドリドシラン出発物質のほぼ完全な変換を提供する。実施例3~11の各々において、エチルジメチルクロロシランは、主要な副産物として特定され、利用される条件下で競合反応としてのヒドロシリル化を証明している。
実施例12~14:ビニルジメチルクロロシラン(ClSi(CH(CHCH))の調製
【0092】
触媒(C-1)(1.9mg、9.0μmol)及び配位子(L)を、周囲条件下でシュレンクチューブに添加する。次いで、チューブを排気し、窒素で数回再充填する。次いで、溶媒(S-1)(12mL)をカニューレを介してチューブに移し、得られた混合物を穏やかに加熱しながら20分間撹拌して溶液を形成する。次いで、溶液を室温まで冷却し、ヒドリドシラン(A-1)(100μL、900μmol)及び犠牲オレフィン(D-1)を装填し、得られた混合物を、カニューレを介して、撹拌棒及びエチレンを導入するためのマニホールドを備えたフィッシャーポーターチューブに移した。次に、チューブをエチレンで5バールに加圧し、次いでベントする。チューブをエチレンで加圧した後、更に4回ベントして、チューブから窒素を実質的に排除する。次いで、チューブをエチレンで5バールに加圧し、溶液を100℃に加温し、2時間撹拌しながら保持する。次いで、溶液を、-78℃まで冷却し、チューブをベントする。次に、溶液をカニューレを介してシュレンクチューブに移し、次いで、-78℃に冷却された収集容器を備えた蒸留装置に移す。次いで、溶液を、大気圧未満の圧力及び25℃未満の温度で蒸留して、触媒残渣からの留出物として有機ケイ素化合物を含む揮発性生成物混合物を取り出す。次いで、留出物を室温に温め、ガスクロマトグラフィーによって分析して、ヒドリドシラン(A-1)の変換と有機ケイ素化合物の収率を評価する。実施例12~14のパラメータ及び評価結果を以下の表4に示す。
【表4】
【0093】
実施例12~14では、調製される有機ケイ素化合物は、ビニルジメチルクロロシランである。上記の表4に示されるように、例示的な方法は、脱水素カップリング生成物の良好な収率で、ヒドリドシラン出発物質のほぼ完全な変換を提供する。実施例12~14の各々において、エチルジメチルクロロシランは、主要な副産物として特定され、利用される条件下で競合反応としてヒドロシリル化を証明している。
実施例15~20:ビニルメチルジクロロシラン(ClMeSiCHCH)の調製
【0094】
触媒(C-1)(2.1mg、9.6μmol)及び配位子(L)を、周囲条件下でシュレンクチューブに添加する。次いで、チューブを排気し、窒素で数回再充填する。次いで、溶媒(S)(12mL)をカニューレを介してチューブに移し、得られた混合物を穏やかに加熱しながら20分間撹拌して溶液を形成する。次いで、溶液を室温まで冷却し、ヒドリドシラン(A-2)(100μL、900μmol)を装填し、得られた混合物を、カニューレを介して、撹拌棒及びエチレンを導入するためのマニホールドを備えたフィッシャーポーターチューブに移す。次に、チューブをエチレンで5バールに加圧し、次いでベントする。チューブをエチレンで加圧した後、更に4回ベントして、チューブから窒素を実質的に排除する。次いで、チューブをエチレンで5バールに加圧し、溶液を、100℃に加温し、時間(T)の間撹拌しながら保持する。次いで、溶液を、-78℃まで冷却し、チューブをベントする。次に、溶液をカニューレを介してシュレンクチューブに移し、次いで、-78℃に冷却された収集容器を備えた蒸留装置に移す。次いで、溶液を、大気圧未満の圧力及び25℃未満の温度で蒸留して、触媒残渣からの留出物として有機ケイ素化合物を含む揮発性生成物混合物を取り出す。次いで、留出物を室温に温め、ガスクロマトグラフィーによって分析して、ヒドリドシラン(A-2)の変換と有機ケイ素化合物の収率を評価する。実施例15~20の特定のパラメータ及び評価結果を以下の表5に示す。
比較例2
【0095】
上記の実施例15~20に記載の手順を、触媒(C)を添加せずに繰り返し、その結果を以下の表5に示す。
【表5】
【0096】
実施例15~20では、調製される有機ケイ素化合物は、ジクロロメチルビニルシランである。上記の表5に示されるように、例示的な方法は、ヒドリドシラン出発物質の脱水素カップリング生成物への変換を、適切な収率で提供する。触媒(C)の非存在下で、ヒドリドシラン(A-2)の有意な変換は観察されない(比較例2を参照)。実施例15~20の各々において、エチルメチルジクロロシランは主要な副産物として特定され、利用される条件下で競合反応としてヒドロシリル化を証明している。
実施例21~22:ビニルジメチルクロロシラン(ClSi(CH(CHCH))の連続調製
【0097】
実施例21:第1の調製
【0098】
第1の調製において、ヒドリドシランを、触媒を用いてエチレンに脱水素的に結合させて有機ケイ素化合物を得る(実施例21)。具体的には、触媒(C-1)(1.9mg、9.0μmol)を周囲条件下でシュレンクチューブに添加する。次いで、チューブを排気し、窒素で数回再充填する。次いで、溶媒(S-1)(12mL)をカニューレを介してチューブに移し、得られた混合物を穏やかに加熱しながら20分間撹拌して溶液を形成する。次いで、溶液を室温まで冷却し、ヒドリドシラン(A-1)(100μL、900μmol)を装填し、得られた溶液を、カニューレを介して、撹拌棒及びエチレンを導入するためのマニホールドを備えたフィッシャーポーターチューブに移す。次に、チューブをエチレンで5バールに加圧し、次いでベントする。チューブをエチレンで加圧した後、更に4回ベントして、チューブから窒素を実質的に排除する。次いで、チューブをエチレンで5バールに加圧し、溶液を100℃に加温し、2時間撹拌しながら保持する。次いで、溶液を、-78℃まで冷却し、チューブをベントする。次に、溶液をカニューレを介してシュレンクチューブに移し、次いで、-78℃に冷却された収集容器を備えた蒸留装置に移す。次いで、溶液を、大気圧未満の圧力及び25℃未満の温度で約2mLの体積まで蒸留し、有機ケイ素化合物を含む第1の生成物混合物を留出物として除去し、濃縮触媒残渣を残し、それは取っておかれる。次いで、留出物を室温まで温め、ガスクロマトグラフィーによって分析すると、次の結果が得られる:ジメチルクロロシランの変換>99%、ビニルジメチルクロロシランの収率=75%、主要な副産物としてエチルジメチルクロロシラン。
【0099】
実施例22:第2の調製
【0100】
第2の調製において、ヒドリドシランを、リサイクルされた触媒を用いてエチレンに脱水素的に結合させて有機ケイ素化合物を得る(実施例22)。具体的には、上記の実施例21で取り置かれた濃縮触媒残渣をシュレンクチューブに移し、溶媒(S-1)で12mLに希釈する。次に、得られた混合物を、上記実施例21の手順で利用して、有機ケイ素化合物を含む第2の生成物混合物を得、これをガスクロマトグラフィーで分析して、ヒドリドシラン(A-1)の変換と第2の調製物からの有機ケイ素化合物の収率を評価し、次の結果が得られる:ジメチルクロロシランの変換>99%、ビニルジメチルクロロシランの収率=76%、主要な副産物としてエチルジメチルクロロシラン。
実施例23~32:ビニルジメチルクロロシラン(ClSi(CH(CHCH))の連続調製
【0101】
実施例23:第1の調製
【0102】
第1の調製において、ヒドリドシランを、触媒を用いてエチレンに脱水素的に結合させて有機ケイ素化合物を得る(実施例23)。具体的には、触媒(C-1)(1.9mg、9.0μmol)及び配位子(L-2)(6.3mg、18μmol)を周囲条件下でシュレンクチューブに添加する。次いで、チューブを排気し、窒素で数回再充填する。次いで、溶媒(S-1)(12mL)をカニューレを介してチューブに移し、得られた混合物を穏やかに加熱しながら20分間撹拌して溶液を形成する。次いで、溶液を室温まで冷却し、ヒドリドシラン(A-1)(100μL、900μmol)を装填し、得られた溶液を、カニューレを介して、撹拌棒及びエチレンを導入するためのマニホールドを備えたフィッシャーポーターチューブに移す。次に、チューブをエチレンで5バールに加圧し、次いでベントする。チューブをエチレンで加圧した後、更に4回ベントして、チューブから窒素を実質的に排除する。次いで、チューブをエチレンで5バールに加圧し、溶液を100℃に加温し、2時間撹拌しながら保持する。次いで、溶液を、-78℃まで冷却し、チューブをベントする。次に、溶液をカニューレを介してシュレンクチューブに移し、次いで、-78℃に冷却された収集容器を備えた蒸留装置に移す。次いで、溶液を、大気圧未満の圧力及び25℃未満の温度で約2mLの体積まで蒸留し、有機ケイ素化合物を含む第1の生成物混合物を留出物として除去し、濃縮触媒残渣を残し、それは取っておかれる。次いで、留出物を室温に温め、ガスクロマトグラフィーによって分析し、その結果を以下の表6に示す。
【0103】
実施例24:第2の調製
【0104】
上記の実施例23で取り置かれた濃縮触媒残渣をシュレンクチューブに移し、溶媒(S-1)で12mLに希釈する。次に、得られた混合物を、第2の調製に実施例23の手順で利用して、有機ケイ素化合物及び第2の濃縮触媒残渣を含む第2の生成物混合物を得る(実施例24)。次いで、第2の生成物混合物を室温に温め、ガスクロマトグラフィーによって分析し、その結果を以下の表6に示す。
【0105】
実施例25~32:第3~第10の調製
【0106】
上記の実施例25の手順が、前の調製で調製された濃縮触媒残渣を使用して(すなわち、実施例24で調製された第2の濃縮触媒残渣から開始する)、一連の8つの調製にわたって連続的に繰り返され、有機ケイ素化合物を含む8つの生成物混合物を得る(実施例25~32)。実施例25~32の生成物混合物をそれぞれガスクロマトグラフィーによって分析し、その結果を以下の表6に示す。
【表6】
【0107】
実施例23~32では、調製される有機ケイ素化合物は、ビニルジメチルクロロシランであり、各調製において主要な副産物として特定されたエチルジメチルクロロシランを有する。上記の表6に示されるように、例示的な方法及び材料は、脱水素カップリング生成物の良好な収率で、ヒドリドシラン出発物質のほぼ完全な変換を提供する。更に、反応生成物は、触媒残渣から容易に除去され、この触媒残渣は、追加の加工ステップ又は変換若しくは収率の損失なしに、連続調製で都合よくリサイクルされ得る。
実施例33~34:ビニル及びエチル官能化シランの選択的調製
【0108】
実施例33:ビニルジメチルクロロシラン(ClSi(CH(CHCH))の選択的調製
【0109】
不活性化グローブボックス内で、溶媒(S-1)(30.15g)をガラススクリュートップ容器に入れて測定する。次いで、容器に触媒(C-1)(26mg)及び磁気撹拌棒を装填し、密閉し、グローブボックスから磁気撹拌プレート上に配置する。混合物を撹拌し、50℃に加熱して触媒金属錯体を溶解し、次いでグローブボックスに戻し、周囲温度まで冷却させる。次いで、ヒドリドシラン(A-1)(13.54g)を溶液に添加して反応混合物を得、次いで、ガスクロマトグラフ分析のための内部参照標準としてノナン(1.13g)を装填する。反応混合物の参照試料(1gアリコート)をガラスバイアルに入れ、溶媒(S-1)(4g)で希釈し、分析して、反応混合物中のヒドリドシラン(A-1)の開始濃度を決定する。
【0110】
反応混合物をステンレス鋼試料シリンダーに移し、次いで、それを密封し、グローブボックスから取り出し、ステンレス鋼の移送ラインを介して、不活性反応器システム(100mL撹拌反応器、Parr Inst.Co.)に接続し、次に、10分間窒素パージする。反応混合物を窒素加圧(10psig、約68.9kPa)を介して反応器に移し、反応器をエチレンでパージする(3×100psig、約689kPa;1分間撹拌)。次いで、反応器をエチレン(610psig、約4,206kPa)で加圧し、飽和する(安定圧力)まで撹拌し(350rpm)、密封し、撹拌しながら40℃に加熱し、保持する。10分間の安定化期間の後、反応器を次に100℃(温度オーバーシュートを防止するために2℃/分の勾配)まで加熱し、その温度で90分間保持する。次いで、反応器を室温に冷却し(外部ファン)、減圧し、次に窒素(100psig、約689kPa)で3回パージする。次いで、反応器を窒素流(10psig、約68.9kPa)に接続し、これを使用して、反応混合物をステンレス鋼試料シリンダーに移す。シリンダーを密閉し、不活性化されたグローブボックスに輸送し、内容物をガラスバイアルに移す。反応混合物の参照試料(1gアリコート)をガラスバイアルに入れ、溶媒(S-1)(4g)で希釈し、ガスクロマトグラフィーによって分析して、ヒドリドシラン(A-1)の変換及び有機ケイ素化合物の収率を評価し、次の結果が得られる:ビニルジメチルクロロシランの収率=84%、主要な副産物としてエチルジメチルクロロシラン(13.5%)。
【0111】
実施例33:エチルジメチルクロロシラン(ClSi(CH(CHCH))の選択的調製
【0112】
不活性化グローブボックス内で、溶媒(S-1)(30.15g)をガラススクリュートップ容器に入れて測定する。次いで、容器を触媒(C-1)(25mg)及び磁気撹拌棒で装填し、密閉し、グローブボックスから磁気撹拌プレート上に配置する。混合物を撹拌し、50℃に加熱して触媒金属錯体を溶解し、次いでグローブボックスに戻し、周囲温度まで冷却させる。次いで、ヒドリドシラン(A-1)(13.50g)を溶液に添加して反応混合物を得、次いで、ガスクロマトグラフ分析のための内部参照標準としてノナン(1.18g)を装填する。
【0113】
反応混合物の参照試料(1gアリコート)をガラスバイアルに入れ、溶媒(S-1)(4g)で希釈し、分析して、ヒドリドシラン(A-1)の開始濃度を決定する。反応混合物をステンレス鋼試料シリンダーに移し、次いで、それを密封し、グローブボックスから取り出し、ステンレス鋼の移送ラインを介して、不活性反応器システム(100mL撹拌反応器、Parr Inst.Co.)に接続し、次に、10分間窒素パージする。反応混合物を窒素加圧(10psig、約68.9kPa)を介して反応器に移し、反応器をエチレンでパージする(3×100psig、約689kPa;1分間撹拌)。次いで、反応器をエチレン(200psig、約1,379kPa)で加圧し、飽和する(安定圧力)まで撹拌し(450rpm)、密封し、撹拌(350rpm)しながら40℃に加熱し、保持する。10分間の安定化期間の後、反応器を100℃(温度オーバーシュートを防止するために2℃/分の勾配)まで加熱し、その温度で140分間保持する。次いで、反応器を室温に冷却し(外部ファン)、減圧し、次に窒素(100psig、約689kPa)で3回パージする。次いで、反応器を窒素流(10psig、約68.9kPa)に接続し、これを使用して、反応混合物をステンレス鋼試料シリンダーに移す。シリンダーを密閉し、不活性化されたグローブボックスに輸送し、内容物をガラスバイアルに移す。反応混合物の参照試料(1gアリコート)をガラスバイアルに入れ、溶媒(S-1)(4g)で希釈し、ガスクロマトグラフィーによって分析して、ヒドリドシラン(A-1)の変換及び有機ケイ素化合物の収率を評価し、次の結果が得られる:ジメチルクロロシラン=73%(出発ジメチルクロロシランの23%が未反応のままである)、エチルジメチルクロロシランの収率=64%、主要な副産物としてビニルジメチルクロロシラン(13%)。
【0114】
上記の説明は、本開示の一般的及び特定の実施形態に関する。しかしながら、添付の特許請求の範囲で定義される本開示の趣旨及びより広い態様から逸脱することなく、様々な変化及び変更を行うことができ、これらは均等論を含む特許法の原則に従って解釈される。したがって、本開示は、例示目的のために提示され、本開示のすべての実施形態の網羅的な説明として、又はこれらの実施形態に関連して例示又は説明される特定の要素に特許請求の範囲を限定するために解釈されるべきではない。例えば、冠詞「a」、「an」、「the」、又は「当該」を使用した、単数形の要素への任意の言及は、要素を単数形に限定するものとして解釈されるべきではない。更に、「直角」、「直交」、「垂直」、及び「平行」という用語は、本明細書では、絶対的な意味ではなく、相対的な意味で一般的に用いられることを理解されたい。更に、「実質的に」、「約」、「本質的に」などの用語は、変更される特性のわずかな逸脱を示すことが理解されよう。そのような逸脱は、特定の特性の0~10%、あるいは0~5%、あるいは0~3%であり得る。