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特許7656613脱水素シリル化のための触媒粒子及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】脱水素シリル化のための触媒粒子及び方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/14 20060101AFI20250327BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20250327BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250327BHJP
【FI】
C07F7/14
B01J31/24 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022536884
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(86)【国際出願番号】 US2020065612
(87)【国際公開番号】W WO2021127179
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-12-04
(31)【優先権主張番号】62/949,881
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ シリコーンズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウィトカー、デイヴィッド ローレンス
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-164688(JP,A)
【文献】特開平03-005489(JP,A)
【文献】特開2005-075807(JP,A)
【文献】Journal of Catalysis,2005年,Vol.232,pp.395-401
【文献】Dalton Transactions,2010年,Vol.39,pp.8492-8500
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
B01J
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ケイ素化合物を調製する方法であって、前記方法が、
Ru(0)錯体と担体流体とを合わせて、混合物を形成することと、
前記混合物を高温で加熱して、前記Ru(0)錯体を核形成させ、前記担体流体中で触媒粒子を得ることと、
任意選択的に、前記触媒粒子を前記担体流体から単離することと、
(C)触媒の存在下で、脱水素カップリングを介して(A)有機ヒドリドクロロシラン化合物と(B)アルケン化合物とを反応させ、それによって前記有機ケイ素化合物を調製することと、を含み、
前記触媒(C)が、前記触媒粒子を含み、
前記Ru(0)錯体が、リン配位子及び/又は、アミン配位子を含む、方法。
【請求項2】
(i)前記Ru(0)錯体が、トリルテニウム錯体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Ru(0)錯体が、前記リン配位子を含み、(i)前記リン配位子が、一般式PR’’を有し、式中、各R’’が、独立して、式-R’若しくは-OR’のものであり、各R’が、独立して選択される置換若しくは非置換のアリール基、アラルキル基、若しくはシクロアルキル基であるか、(ii)前記リン配位子が、2,060~2,090cm-1のTolman電子パラメータを含むか、(iii)前記リン配位子が、115~185°のTolman円錐角を含むか、又は(iv)(i)~(iii)の任意の組み合わせである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、前記Ru(0)錯体を調製することを更に含み、前記Ru(0)錯体を調製することが、トリルテニウム錯体と、配位子前駆体化合物とを合わせて、前記Ru(0)錯体を得ることを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(i)前記トリルテニウム錯体が、Ru(CO) 12 あるか、(ii)前記トリルテニウム錯体と、前記配位子前駆体化合物とを前記担体流体の存在下で合わせて、前記担体流体と合わせた前記Ru(0)錯体を得、それによって前記混合物を調製するか、又は(iii)(i)及び(ii)の両方を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記配位子前駆体化合物が、(i)リン化合物、(ii)アミン化合物、又は(iii)(i)及び(ii)の両方を含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記配位子前駆体化合物が、前記リン化合物を含み、(i)前記リン化合物が、有機ホスフィン若しくは有機ホスファイトを含むか、(ii)前記リン化合物が、置換若しくは非置換のトリアリールホスフィン、トリシクロアルキルホスフィンビス(ジアリールホスフィノ)アルカン、ビス(ジシクロアルキルホスフィノ)アルカン、トリアリールホスファイト、及びそれらの組み合わせから選択されるか、又は(iii)(i)及び(ii)の両方を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アルケン化合物(B)が、エチレンであり、(i)前記有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)が、クロロジメチルシランを含み、前記有機ケイ素化合物が、クロロジメチルビニルシランを含むか、(ii)前記有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)が、ジクロロメチルシランを含み、前記有機ケイ素化合物が、ジクロロメチルビニルシランを含むか、又は(iii)(i)及び(ii)の両方である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
脱水素カップリングが、(i)60℃超の高温で、(ii)大気圧超~10バールの高圧で、(iii)1~10のアルケン化合物(B)対有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)(B):(A)のモル比で、(iv)溶媒の存在下で、又は(v)(i)~(iv)の任意の組み合わせである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
(i)少なくとも95%の前記有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)の転化率、(ii)少なくとも75%の前記有機ケイ素化合物の収率、(iii)少なくとも70:30の脱水素シリル化(DHS)対ヒドロシリル化(DS)(DHS:DS)の選択性、又は(iv)(i)~(iii)の任意の組み合わせを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2019年12月18日出願の米国特許仮出願第62/949,881号に対する優先権及び全ての利点を主張するものであり、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、概して、有機ケイ素化合物を調製するための触媒及び方法、より具体的には、脱水素シリル化反応のための触媒粒子を調製する方法、並びに脱水素シリル化を介してビニルシランを調製するための触媒粒子の調製及び使用に関する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒドロシリル化反応は、一般に、当技術分野で知られており、ケイ素結合水素と脂肪族不飽和との間の付加反応を伴う。ヒドロシリル化反応は、硬化性組成物の架橋性成分などの様々な用途で利用される。また、ヒドロシリル化反応を利用して、個々の成分又は化合物、例えば、このような硬化性組成物に含めるための成分を調製することができる。典型的には、ヒドロシリル化反応は、その優れた触媒活性及び安定性に起因して、白金金属系触媒の存在下で実施される。白金金属は、一般に、より低い触媒活性を有する他の金属よりもはるかに高価であるが、非白金触媒は、周囲条件に曝露された場合、不安定性を抱えている。特に、非白金触媒は、周囲の酸素及び水と望ましくない副反応を起こしやすく、それによってその使用及び潜在的な最終用途が限定される場合がある。
【0004】
ヒドロシリル化反応のように、脱水素シリル化反応もまた、当技術分野で既知であり、同様に、ケイ素結合水素と脂肪族不飽和との間の反応を伴う。しかしながら、脱水素シリル化では、付加反応はなく、代わりに脂肪族不飽和がビニル型でケイ素に結合する。したがって、脱水素シリル化反応を利用して、(例えば、ヒドロシリル化を介した)追加の官能化及び/又はカップリング反応を更に受けることができる不飽和化合物(例えば、オレフィン官能性化合物)を調製することができる。
【0005】
残念なことに、脱水素シリル化反応のための触媒は、酸素、水、更には光に対する感受性などのヒドロシリル化触媒に関連する多くの同じ欠点を抱えている。更に、ヒドロシリル化触媒の最近の進歩では、このような欠点が克服されているが、ヒドロシリル化反応に好適な多くの触媒系は、脱水素シリル化反応での使用に実用的ではない。例えば、多くのこのような触媒は、特に最小限で置換されたオレフィンでの付加反応に好ましい選択性を呈し、したがって、望ましくない生成物混合物及び低収率と共に非選択的反応をもたらす。加えて、多くの従来の脱水素シリル化条件は、官能基耐性ではなく、したがって、用途が限定される。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、触媒粒子を調製する方法(「調製方法」)を提供する。調製方法は、Ru(0)錯体と担体流体とを合わせて混合物を形成することと、混合物を高温で加熱してRu(0)錯体を核形成させ、担体流体中で触媒粒子を得ることと、を含む。Ru(0)錯体は、トリルテニウム錯体若しくはその誘導体、リン配位子、又はそれらの組み合わせを含み得る調製方法は、任意選択的に、触媒粒子を担体流体から単離することを含む。
【0007】
本開示はまた、触媒粒子を用いて有機ケイ素化合物を調製する方法(「合成方法」)を提供する。合成方法は、触媒粒子を含む(C)触媒の存在下で、脱水素カップリングを介して(A)有機ヒドリドクロロシラン化合物と(B)アルケン化合物とを反応させ、それによって有機ケイ素化合物を調製することを含む。有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、一般式HSiCl3-xを有し得、式中、下付き文字xが、1又は2であり、各Rが、独立して選択される1~18個の原子を有する非置換ヒドロカルビル基であり、アルケン化合物(B)が、式RCHCHを有し得、式中、Rが、H又はヒドロカルビル基であり、有機ケイ素化合物が、式(RCHCH)SiCl3-xを有し得、式中、下付き文字x、R、及びRが、上で定義されたとおりである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
触媒粒子を調製する方法(「調製方法」)が提供される。触媒粒子は、少なくとも脱水素シリル化/カップリング反応において利用され得、高い転化速度、選択性、及び収率を呈する。触媒粒子は、優れた物理的特性を有し、様々な不均質及び/又は均質な条件で使用することができ、広い適用性を提供する。触媒粒子の多様な最終使用用途、並びにその触媒活性を考慮すると、触媒粒子を用いて(即ち、脱水素シリル化反応を介して)有機ケイ素化合物を調製する方法もまた提供され、以下で更に詳細に記載される。
【0009】
調製方法は、Ru(0)錯体と担体流体とを合わせて混合物を形成することと、混合物を高温で加熱して、Ru(0)錯体を含む粒子(即ち、「触媒粒子」)を得ることと、を含む。以下の記載から理解されるであろうように、調製方法は、触媒粒子及び担体流体を含む不均質な組成物中で触媒粒子を調製する。したがって、調製方法は、以下に記載されるように、触媒粒子を担体流体から単離すること、触媒粒子を精製することなどの追加のステップを更に含み得る。
【0010】
上で紹介されたように、調製方法は、Ru(0)錯体、即ち、中性酸化状態でルテニウム(Ru)を含む錯体を利用する。Ru(0)錯体は、特に限定されず、本明細書に記載の方法に従って、粒子を形成し、脱水素シリル化反応を触媒することができる任意のRu(0)錯体であり得る。
【0011】
好適なRu(0)錯体の例としては、{Ru(η-1,5-COD)(η-1,3,5-COT)}、{Ru(PPh(CO)}、{Ru(η-1,5-COD)(η-トリフェニレン)}、{[Ru(η-1,5-COD)](η12-トリフェニレン)}、{Ru(η-1,5-COD)(η-1,3-COT)PR’}、{Ru(η-1,3,5-COT)PR’}、{Ru(η-1,5-COD)(PR’}、{Ru(η-1,5-COD)(tBuNC)}、{[Ru(η-1,5-COD)](η18-トリフェニレン)}、[Ru(CO)10(MeCN)]、Ru(CO)12など、並びにそれらの誘導体、修飾物、及び組み合わせが挙げられる。当業者は、それぞれシクロオクタジエン及びシクロオクタトリエンがCOD及びCOTによって表される配位子であることを理解するであろう。一般式PR’によって表される配位子は、三級リン化合物(例えば、ホスフィン、ホスファイトなど)であり、各R’が、可変置換基Rに関して以下に記載のものによって例示されるように、独立して選択されるヒドロカルビル基である。しかし、限定的な例として、各R’は、本明細書に記載のものによって例示されるように、置換又は非置換のアルキル基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基、及びそれらの組み合わせから独立して選択され得る。
【0012】
ある特定の実施形態では、Ru(0)錯体は、トリルテニウム錯体又はその誘導体を含む。トリルテニウム錯体の例としては、{[Ru(bda)-(pic)(μ-O)]Ru(pic)(HO)2+、{[Ru(μ-H)(μ-η-dpa-C,N,N)(CO)}、{(Ru(acac)(ジキノキサリン[2,3-a:2’,3’-c]フェナジン)}、{[CpRu(μ-H)](μ-η-(II)-PhCCH)(μ-BH)}、[Ru(dmbpy)(μ-HAT)]6+、[Ru(η-1,5-COD)](η18-トリフェニレン)}、[Ru(CO)10(MeCN)]、Ru(CO)12など、並びにそれらの誘導体、修飾物、及び組み合わせが挙げられる。当業者は、bda、pic、dpa、acac、Cp、dmbpy、及びHATによって表される配位子が、それぞれ、2,2-ビピリジン-6,6-ジカルボキシレート、2-ピコリルアミン、ジピコリルアミン、アセチルアセトネート、1,2,3,4,5-ペンタメチルシクロペンタジエニル、4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジン、及び1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン、又はそれらの脱プロトン化形態であることを理解するであろう。
【0013】
Ru(0)錯体の誘導体/修飾物の例は、一般に、上の錯体の配位子が交換されたバージョンを含む。例えば、Ru(CO)12の誘導体は、リン配位子、アミン配位子などを用いるCOの配位子交換を介して調製され得る。したがって、特定の実施形態では、Ru(0)錯体は、トリルテニウムドデカカルボニル(即ち、式Ru(CO)12のもの)、又はその誘導体を含むか、あるいはそれらである。いくつかのこのような実施形態では、トリルテニウムドデカカルボニル誘導体は、以下に記載のものなどの1つ以上のリン配位子及び/又は1つ以上のアミン配位子を有するトリルテニウムドデカカルボニルの配位子交換誘導体として更に定義される。このような配位子交換誘導体はまた、トリルテニウムドデカカルボニル以外のルテニウム化合物/錯体から調製され得、トリルテニウムドデカカルボニル又は別のルテニウム化合物/錯体から調製されたか、又は別様に得られたかに関係なく、本明細書におけるRu(0)錯体の範囲に包含されることを理解されたい。
【0014】
したがって、上の例示的な錯体、並びに以下の更なる記載及び実施例から理解されるであろうように、Ru(0)錯体は、リン配位子を含み得る。リン配位子の例としては、ホスフィン、ホスファイト、ホスフェート、ホスフィンオキシド、ホスホロアミダイト、ホスフィニウム(phosphinium)塩、ホスフィノアミン、クロロホスフィン、ホスフィノイミン、ホスホロジアミダイト、ホスフィナイト、ホスホネート、ホスホナイト、トリアミノホスフィン、トリシリルホスフィンなど、並びにそれらの誘導体、修飾物、及び組み合わせが挙げられる。当業者は、このような配位子が、本明細書の実施例によって包含され、様々な実施形態に示される(例えば、プロトン化/脱プロトン化からの)イオン形態で利用され得ることを理解するであろう。リン配位子の具体例としては、ホスフィン、トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフルオロホスフィン、トリメチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリシクロヘキシルホスフィン、ジメチルホスフィノメタン(dimethylphosphinomethane、dmpm)、ジメチルホスフィノエタン(dimethylphosphinoethane、dmpe)、ジフェニルホスフィノメタン(diphenylphosphinomethane、dppm)、ジフェニルホスフィノエタン(diphenylphosphinoethane、dppe)、S,S-キラホス、エタン-1,2-ジイルビス[(2-メトキシフェニル)フェニルホスファン](ethane-1,2-diylbis[(2-methoxyphenyl)phenylphosphane]、DIPAMP)、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(1,1’-bis(diphenylphosphino)ferrocene、dppf)、トリ(オルトトルイル)ホスフィン、(2,4,6-トリイソプロピルフェニル)ジシクロペンチルホスフィンなど、並びにそれらの誘導体、修飾物、及び組み合わせが挙げられる。当業者は、このようなリン配位子が、上のホスフィンのホスファイトバージョン、並びにホモ置換及びヘテロ置換ホスフィン、及び本明細書に例示されるリン結合基のうちのいずれか1つ以上を有するホスファイトを含むことを理解するであろう。
【0015】
例えば、ある特定の実施形態では、Ru(0)錯体は、一般式PR’’を有するリン配位子を含み、式中、各R’’が、独立して、式-R’又は-OR’のものであり、各R’が、上で定義されたとおりである(即ち、可変置換基Rに関して以下に記載のものによって例示されるように、独立して選択されるヒドロカルビル基)。しかし、この特定の文脈における限定された例として、各R’は、本明細書に記載のものによって例示されるように、置換又は非置換のアルキル基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基、及びそれらの組み合わせから独立して選択され得る。ある特定の実施形態では、各Rは、独立して、分岐状又は環状ヒドロカルビル基である。例えば、各R’は、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、他の分岐状アルキル基、アリール基、アルカリル基、アラルキル基、置換アリール基(例えば、ペンタフルオロフェニルなど)などから独立して選択され得る。当業者によって理解されるであろうように、各R’’(その特定のR’を含む)は、立体障害、電子的な要因(例えば、電子供与性、誘導性、又はR’’が式-OR’のものである場合などの引き抜き効果)など、又はそれらの組み合わせに基づいて独立して選択され得る。例えば、各R’は、触媒に、キラリティを付与するか又は対称性を付与するように選択され得る。これらの又は他の実施形態では、R’は、独立して、反マルコフニコフ選択性などの、調製される触媒粒子の反応性位置選択性を強化するように選択され得る。したがって、リン配位子における各R’’(その特定のR’を含む)は、リン配位子における任意の他のR’’と同じであっても異なっていてもよい。
【0016】
ある特定の実施形態では、各R’’は、式-R’を有するので、リン配位子は、有機ホスフィン配位子として更に定義することができる。いくつかのこのような実施形態では、各R’は、独立して選択される置換又は非置換のアリール基、アラルキル基、又はシクロアルキル基である。このような有機ホスフィン配位子の例としては、置換及び非置換のトリアリールホスフィン、トリシクロアルキルホスフィン、ビス(ジアリールホスフィノ)アルカン、ビス(ジシクロアルキルホスフィノ)アルカン、並びにそれらの組み合わせが挙げられる。他のこのような実施形態では、少なくとも1つのR’は、リン含有(即ち、置換)ヒドロカルビル基であるので、リン配位子は、2つ以上のリン原子を有する多座配位子である。このようなリン配位子の具体例としては、1,3-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパン及び1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンが挙げられる。
【0017】
特定の実施形態では、各R’’は、式-OR’を有するので、リン配位子は、有機ホスファイト配位子として更に定義することができる。このような実施形態では、各R’は、一般に、上記のとおりであり、有機ホスフィン配位子のR’に関して記載される特定の基のうちのいずれかを独立して含み得るか、又はそれであり得る。有機リン酸配位子の特定の例としては、各R’がアリール基であるもの、即ち、有機ホスファイト配位子が、トリアリールホスファイト配位子(例えば、トリフェニルホスファイト)として更に定義することができるものが挙げられる。
【0018】
好適なリン配位子の追加の例としては、中程度のTolman電子パラメータ(Tolman Electronic Parameter、TEP)及び/又は中程度のTolman円錐角(Tolman Cone Angle、TCA)を有するものが挙げられる。例えば、いくつかの実施形態では、触媒(C)のRu(0)錯体は、2,060~2,090、あるいは2,065~2,085cm-1などの2,050~2,100cm-1のTEPを有するリン配位子を含む。これらの又は他の実施形態では、Ru(0)錯体は、115~185°、あるいは130~170°などの100~200°のTCAを有するリン配位子を含む。当業者によって理解されるであろうように、リン配位子のTEPは、配位子(即ち、配位子PR’が、リン配位子であり、上に定義されたとおりである、式(R’P)Ni(CO)のもの)を含む標準的なニッケルトリカルボニル錯体の対称性のあるCO伸縮振動数(ω)であるAに基づき、関係:TEP=ω(CO,Ni;A)=2056.1+pL(式中、pLが、CO伸縮振動数(ω)に対する配位子特異的増分である)に従って錯体の振動スペクトル(即ち、赤外線(infrared、IR)又はラマン)の測定から決定することができる。典型的には、P(tBu)を参照物質として利用し、pL(P(tBu))が0に設定されるので、ω(CO,A1)=2056.1cm-1である。また、当業者によって理解されるであろうように、遷移金属錯体中のリン配位子のTCAは、配位子原子のファンデルワールス球の周りに最小限に寸法を取った円錐の頂点及び最外縁部/外周の金属で形成された立体角であり、演算空間充填モデル及び/又は経験的結合特徴評価を使用して決定することができる。TEP及び/又はTCAのこのような決定のための方法及び材料は、Tolman,Chemical Reviews,1977,vol77(3)pp313-348にかなり詳細に記載されており、その特徴評価方法及びリン配位子は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0019】
上に紹介されたように、ある特定の実施形態では、Ru(0)錯体は、窒素配位子を含む。好適な窒素配位子の例としては、一般に、三級アミン、二級イミンなど(例えば、窒素原子上に遊離孤立対を有する中性三置換/結合窒素化合物)、並びにそれらの組み合わせ(例えば、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene、DBU)などの置換アミドイミン(即ち、アミジン)が挙げられる。このような窒素配位子は、トリオルガノアミン、ピリジン、ビピリジン、キノリン、フェナントロリンなど、並びにそれらの組み合わせによって例示される。トリオルガノアミンの例としては、式NR’のものが挙げられ、式中、R’が、上記のとおりである(即ち、可変置換基Rに関して以下に記載のものによって例示されるように、独立して選択されるヒドロカルビル基)。しかし、この特定の文脈における限定された例として、各R’は、本明細書に記載のものによって例示されるように、置換又は非置換のアルキル基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基、及びそれらの組み合わせから独立して選択され得る。
【0020】
Ru(0)錯体は、ケトン、ジオン、オレフィン、ニトリル、カルベンなどを含むもの及び/又はそれらから誘導されるものなどの上に記載のもの、並びにそれらの組み合わせとは別に他の配位子を含み得る。追加の配位子は、溶媒交換などを介して、その場で(即ち、調製方法中に)Ru(0)錯体のものと調製及び/又は交換され得る。
【0021】
調製方法で利用されるRu(0)錯体は、調製しても別様に(即ち、調製された化合物/複合体として)得てもよい。上記のRu(0)錯体のうちの多くを調製する方法は、当技術分野で既知であり、既知の化合物と共に利用して、例えば、様々な供給元から市販されている化合物を使用して、上記の配位子交換誘導体もまた調製することができる。
【0022】
ある特定の実施形態では、Ru(0)錯体は、調製方法の一部として調製され、即ち、調製方法は、Ru(0)錯体を調製することを含む。このような実施形態では、Ru(0)錯体は、担体流体と合わせる前に調製され得るか、又はその場で、即ち、担体流体中に配置された成分の反応/錯体化などを介して担体流体中で調製され得る。典型的には、Ru(0)錯体を調製することは、触媒前駆体化合物と配位子前駆体化合物とを、任意選択的に担体ビヒクルの存在下で合わせて、(例えば、配位子交換を介して)Ru(0)錯体を得ることを含み、これは、担体流体と直接合わせられ得るか、あるいは、担体流体と合わせる前に、又は別様に触媒粒子を調製するために利用する前に、精製、加工、別の担体ビヒクルと合わせられ得るか、又は別様に別の担体ビヒクルで修飾され得る。Ru(0)錯体を調製することは、Ru(0)錯体を得るために、異なる酸化状態を有するルテニウム錯体/化合物を酸化又は還元するなどの、以下に更に詳細に記載されていない任意の数の追加のステップ/プロセス/手順を含み得ることが理解されるであろう。
【0023】
触媒前駆体化合物の例としては、一般に、上記のものを含むRu(0)錯体及びトリルテニウム錯体、並びにそれらの誘導体、修飾物、及び組み合わせが挙げられる。例えば、ある特定の実施形態では、触媒前駆体化合物は、トリルテニウムドデカカルボニルである。配位子前駆体化合物の例としては、プロトン化及び/又はその塩形態を含む、上記のリン及び窒素配位子を調製するのに好適なものが挙げられる。例えば、ある特定の実施形態では、配位子前駆体化合物は、三級リン化合物である。いくつかのこのような実施形態では、三級リン化合物は、式P(R’)を有する有機ホスフィン化合物であり、式中、R’が、上で定義されたとおりである。このような有機ホスフィン化合物の例としては、トリアリールホスフィン、トリシクロアルキルホスフィンビス(ジアリールホスフィノ)アルカン、及びビス(ジシクロアルキルホスフィノ)アルカンが挙げられる。他のこのような実施形態では、三級リン化合物は、式P(OR’)を有する有機ホスファイト化合物であり、式中、R’が、上で定義されたとおりである。このような有機ホスファイト化合物の例としては、トリアリールホスファイトが挙げられる。他の実施形態では、配位子前駆体化合物は、式N(R’)を有する有機アミン化合物などの三級アミン化合物であり、式中、R’が、上で定義されたとおりである。
【0024】
触媒及び配位子前駆体化合物は、提供、調製、又は別様に(例えば、商業的供給源から)得られ得る。ある特定の実施形態では、Ru(0)錯体を調製することは、触媒前駆体化合物のルテニウムと配位子前駆体化合物とを錯体化する前に及び/又は錯体化する際に、触媒及び/又は配位子前駆体化合物を調製して、Ru(0)錯体を得ることを更に含む。当技術分野で理解されるように、触媒及び配位子前駆体化合物は、多数の経路又は技術を介して調製又は合成され得る。
【0025】
Ru(0)錯体を調製するために利用される触媒及び配位子前駆体化合物の量は、変動し得、例えば、触媒前駆体化合物中に存在するルテニウム金属、その配位子、利用される溶媒/担体ビヒクル(存在する場合)の量、触媒前駆体化合物のルテニウム金属との結合/配位に利用可能な電子及び/又は孤立対の数などに基づいて、当業者によって選択されるであろう。例えば、配位子前駆体化合物は、1:10~100:1の配位子(L)対触媒前駆体化合物中のルテニウム金属(Ru)のモル比(L:Ru)(即ち、1:1~10:1(即ち、1~10当量)、あるいは2:1~4:1(即ち、2~4当量)などの0.1~100当量(当量))を提供する量で利用され得る。これらの範囲外の量もまた、利用され得る。
【0026】
上に紹介されたように、Ru(0)錯体は、本明細書に記載のもののうちのいずれかなどの担体ビヒクル中で調製され得る。例えば、Ru(0)錯体は、調製方法で利用される担体流体中、又は担体流体と混和性のビヒクル/溶媒中で調製され得る。ある特定の実施形態では、Ru(0)錯体は、ベンゼン、トルエン、キシレン(例えば、o-、m-、及び/又はp-キシレン)、メシチレン(即ち、1,3,5-トリメチルベンゼン)など、又はそれらの組み合わせなどの芳香族溶媒(例えば、芳香族有機溶媒)の存在下で調製される。様々な選択に応じて、Ru(0)錯体が、担体ビヒクル又は溶媒中で調製及び/又は配置される場合、ビヒクル若しくは溶媒、又はそれらの部分は、Ru(0)と錯体化して、例えばRu(0)錯体の配位子又は他の成分になり得る。
【0027】
典型的には、触媒及び配位子前駆体化合物は、Ru(0)錯体を調製するために利用される任意の担体/溶媒と共に容器又は反応器内で合わせられる。容器又は反応器は、任意の好適な様式で、例えば、ジャケット、マントル、交換器、浴、コイルなどを介して加熱又は冷却され得る。例えば、いくつかの実施形態では、触媒及び配位子前駆体化合物を、高温で芳香族溶媒中で合わせて、Ru(0)錯体が得られる。Ru(0)錯体を調製するための高温は、選択される特定の触媒及び/又は配位子前駆体化合物、利用される特定の芳香族溶媒及び/又は他の担体ビヒクル、選択される反応容器(例えば、周囲圧力で開放されるか、減圧下で封止されるかなど)などに応じて選択及び制御される。したがって、Ru(0)錯体を調製するための高温は、選択される反応条件及びパラメータ、並びに本明細書の記載を考慮して、当業者によって選択されるであろう。Ru(0)錯体を調製するための高温は、典型的には、50~250、あるいは60~200、あるいは70~175、あるいは75~150、あるいは80~125℃などの、周囲温度超~300℃である。これらの範囲外の高温もまた、利用され得る。
【0028】
上で紹介されたように、調製方法は、担体流体を利用し、これをRu(0)錯体と組み合わせて、混合物を調製する。担体流体は、特に限定されず、溶媒、希釈剤など、又はそれらの組み合わせであり得るか、又はそれらを含み得る。
【0029】
特定の担体流体及び担体流体中での使用に好適な成分の例を、以下に記載する。しかしながら、担体流体中で利用されるか又は担体流体として利用される、特定の溶媒、担体、希釈剤など、並びに用いられるそれらのそれぞれの量は、例えば、Ru(0)錯体、触媒及び/又は配位子前駆体化合物(利用される場合)、並びに調製される触媒粒子の溶解度に基づいて、当業者によって独立して選択されるであろうことを理解されたい。ある特定の実施形態では、Ru(0)錯体は、触媒前駆体化合物と配位子前駆体化合物との配位子交換を介して、担体流体中で調製される。このような実施形態では、配位子交換は、典型的には、均質条件下(例えば、溶液状態)で実施され、したがって、担体流体は、前駆体化合物及び/又は前駆体化合物から調製されるRu(0)錯体の一方又は両方を溶解させるように選択される。しかしながら、配位子交換は、例えば、担体流体中に懸濁されるが溶解されない1つ以上の成分では、不均質に行われ得る。同様に、触媒粒子の調製は、均質な条件下又は不均質な条件下で実施され得る。例えば、ある特定の実施形態では、担体流体は、Ru(0)錯体及び/又はその成分を溶解するが、担体流体中に調製される触媒粒子を沈殿させるように選択される。ある特定の実施形態では、担体流体は、触媒粒子を部分的に溶解させるように選択され、例えば、ある特定のサイズを得る触媒粒子のみを沈殿させる。しかしながら、担体流体は、溶液、エマルション、懸濁液、スラリー、二相混合物、又はそれらの組み合わせ中で1つ以上の反応/調製を実施するように、並びに任意の他とは異なる状態で反応/調製を実施するように選択され得ることが理解されるであろう。
【0030】
調製方法での使用に好適な担体流体の例としては、溶媒(例えば、有機溶媒など)、油(例えば、有機油、シリコーン油など)、流体(例えば、有機流体、シリコーン流体など)など、及びそれらの組み合わせが挙げられる。有機溶媒の例としては、ベンゼン、トルエン、及びキシレンなどの芳香族炭化水素溶媒(例えば、o-、m-、及び/又はp-キシレン)、メシチレン(即ち、1,3,5-トリメチルベンゼン)など、又はそれらの組み合わせが挙げられる。有機溶媒の追加の例としては、脂肪族炭化水素(例えば、ヘプタン、ヘキサン、オクタンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、1,1,1-トリクロロエタン、クロロホルムなど)、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ホワイトスピリット、ミネラルスピリット、ナフサ、n-メチルピロリドンなど、並びにそれらの誘導体、修飾物、及び組み合わせが挙げられる。有機流体の例としては、典型的には、揮発性及び/又は半揮発性の炭化水素、エステル、及び/又はエーテルを含む有機油が挙げられる。このような有機流体の一般的な例としては、C~C16アルカン、C~C16イソアルカン(例えば、イソデカン、イソドデカン、イソヘキサデカンなど)、C~C16分岐状エステル(例えば、イソヘキシルネオペンタノエート、イソデシルネオペンタノエートなど)などの揮発性炭化水素油、並びに誘導体、改質物、及びそれらの組み合わせが挙げられる。有機流体の追加の例としては、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素(例えば、イソドデカン、イソヘキサデカン、Isopar L(C11~C13)、Isopar H(C11~C12)、水添ポリデセン)、ハロゲン化アルキル、芳香族ハロゲン化物、及びそれらの組み合わせが挙げられる。シリコーン流体の例としては、典型的には、低粘度有機ポリシロキサン、揮発性シロキサン(例えば、揮発性メチル、エチル、及び/又はメチルエチルシロキサンなど)などの低粘度及び/又は揮発性シロキサンなど、並びにそれらの組み合わせが挙げられる。例示的なシリコーン流体は、典型的には、25℃で1~1,000mm/秒の範囲の粘度を有する。シリコーン流体の具体例としては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ドデカメチルペンタシロキサン、テトラデカメチルヘキサシロキサン、ヘキサデアメチルヘプタシロキサン(hexadeamethylheptasiloxane)、ヘプタメチル-3-{(トリメチルシリル)オキシ)}トリシロキサン、ヘキサメチル-3,3、ビス{(トリメチルシリル)オキシ}トリシロキサンペンタメチル{(トリメチルシリル)オキシ}シクロトリシロキサン、並びにポリジメチルシロキサン、ポリエチルシロキサン、ポリメチルエチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、カプリリルメチコン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘプタメチルオクチルトリシロキサン、ヘキシルトリメチコンなど、並びにそれらの誘導体、修飾物、及びそれらの組み合わせが挙げられる。好適なシリコーン流体の追加の例としては、好適な蒸気圧(例えば、5×10-7~1.5×10-6/秒の蒸気圧)を有するポリオルガノシロキサンが挙げられる。
【0031】
他の担体もまた、上のものとは別の担体流体中で、又は担体流体として利用され得る。例えば、担体流体は、イオン液体を含み得るか、あるいはイオン液体であり得る。イオン液体の例としては、アニオンが、一般に、アルキルスルファート系アニオン、トシラートアニオン、スルホン酸系アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、テトラフルオロボレートアニオンなどから選択され、カチオンが、一般に、イミダゾリウム系カチオン、ピロリジニウム系カチオン、ピリジニウム系カチオン、リチウムカチオンなどから選択される、アニオンーカチオンの組み合わせが挙げられる。しかしながら、複数のカチオンとアニオンとの組み合わせもまた利用され得る。イオン液体の具体例としては、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムビス-(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、3-メチル-1-プロピルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N-ブチル-3-メチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-メチル-1-プロピルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ジアリルジメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、メチルトリオクチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-ビニルイミダゾリウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-アリルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなど、並びにそれらの誘導体、修飾物、及び組み合わせが挙げられる。
【0032】
ある特定の実施形態では、担体流体は、芳香族溶媒を含むか、あるいは芳香族溶媒である。いくつかのこのような実施形態では、担体流体は、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなど、又はそれらの組み合わせなどの芳香族有機溶媒を含むか、あるいは芳香族有機溶媒である。
【0033】
調製方法は、任意の量のRu(0)錯体及び担体流体を利用し得る。より具体的には、混合物は、粒子形成の所望の特性(例えば、核形成温度、形成速度など)、並びに/又は用いられるRu(0)錯体及び/若しくは担体流体の特徴に依存して変動する量又は比で、Ru(0)錯体及び担体流体を含み得る。
【0034】
典型的には、Ru(0)錯体は、担体流体中に少なくとも0.01重量%の充填量(重量/重量)を提供するのに十分な量で利用される。同様に、Ru(0)錯体は、混合物が溶液として(例えば、室温又は穏やかな加熱で)形成され得るように、Ru(0)錯体の溶解限度未満の充填量を提供するのに十分な量で利用される。ある特定の実施形態では、Ru(0)錯体は、利用される担体流体の重量に基づいて、0.01~25、あるいは0.01~20、あるいは0.01~15、あるいは0.01~10、あるいは0.01~5、あるいは0.01~2.5、あるいは0.01~1、あるいは0.01~0.5重量%の量で利用される。より高いか又はより低い比もまた、利用され得る。特に、当業者は、担体流体中のより高い濃度(即ち、増加した充填量)のRu(0)錯体が、触媒粒子の成長速度を増加させ得ることを理解するであろう。同様に、混合物を調製するために利用される担体流体の量は、利用される規模及び特定の成分に相関することもまた、理解されるであろう。例えば、担体流体中でより高い溶解度を呈するRu(0)錯体を含む混合物を調製することと比較して、選択される担体流体中でのRu(0)錯体の溶解度が低い場合、より多量の担体流体を利用して混合物が調製されるであろう。
【0035】
典型的には、Ru(0)錯体及び担体流体を容器又は反応器内で合わせて、混合物を調製する。容器又は反応器は、任意の好適な様式で、例えば、ジャケット、マントル、交換器、浴、コイルなどを介して加熱又は冷却され得る。当業者によって理解されるであろうように、容器又は反応器は、典型的には、混合物が、実質的に過熱されることなく高温まで加熱され得るように、制御可能な様式で加熱される。
【0036】
Ru(0)錯体及び担体流体は、容器に一緒に若しくは別個に供給され得るか、又は用いられる調製方法の特定のパラメータに応じて任意の添加順序で、任意の組み合わせで容器内に配置され得る。例えば、ある特定の実施形態では、Ru(0)錯体は、例えば、予め作製された錯体として、又はその場でRu(0)錯体を形成するための個々の成分(即ち、前駆体化合物)として、担体流体を含有する容器に添加される。いくつかのこのような実施形態では、担体流体を容器内に添加し、次いで、触媒及び配位子前駆体化合物を充填して、Ru(0)錯体を形成する。触媒及び配位子前駆体化合物は、添加前に最初に合わせられ得るか、又は順次容器に添加され得る。他の実施形態では、担体流体は、任意選択的に溶媒/担体ビヒクル中で、Ru(0)錯体、又はその成分を含有する容器に添加される。一般に、本明細書における「混合物」に対する言及は、一般に、(例えば、上記のこのような成分を合わせることによって得られるような)Ru(0)錯体及び担体流体を含む混合物を指す。
【0037】
方法は、混合物を撹拌することを更に含み得る。撹拌は、担体流体中のRu(0)錯体及び/又はその粒子の混合及び接触を向上し得る。このような撹拌はまた、触媒及び配位子前駆体化合物の混合及び接触を向上して、例えば、Ru(0)錯体がその場で、又は別様に調製方法の一部として形成される場合に、Ru(0)錯体を形成することができる。このような接触は独立して、撹拌を伴って(例えば、並行して又は順次)、又は撹拌を伴わずに(即ち、独立して、あるいはその代わりに)、他の条件を使用することもできる。
【0038】
上に紹介されたように、調製方法は、混合物を高温で加熱して、触媒粒子を得ることを含む。高温は特に限定されず、Ru(0)錯体の充填量、利用されるRu(0)錯体の種類(例えば、Ru(0)錯体が、調製方法の一部として調製される場合、利用される特定の触媒及び配位子前駆体化合物)などに基づいて選択されるであろう。一般に、高温は、Ru(0)錯体を核形成させるように選択される。しかしながら、粒子形成は、当業者によって理解されるであろうように、核形成、凝集など、並びにその様々な相(例えば、一次核形成、二次核形成など)を含み得ることが理解されるであろう。したがって、触媒粒子の調製の観点では、高温は、典型的には、Ru(0)錯体の一次核形成(即ち、粒子が形成され得る第1の核の形成)及び/又は二次核形成(即ち、Ru(0)錯体を含む第1の核からの粒子の形成)を促進するように選択されることを理解されたい。典型的には、高温は、70~250℃である。例えば、ある特定の実施形態では、高温は、90~200、あるいは90~190、あるいは100~190、あるいは100~180、あるいは110~180、あるいは120~180、あるいは120~170、あるいは130~170、あるいは130~160、あるいは140~160などの80~200℃である。これらの範囲外の高温もまた、利用され得る。
【0039】
ある特定の実施形態では、高温で混合物を加熱することは、例えば、複数の異なる高温での、複数の加熱ステップを含む。例えば、混合物は、事前に選択され得るか、又は(例えば、粒子の形成、不透明性などの混合物の観察された特性などに基づく)調製方法中にリアルタイムで選択され得る、1つ以上の目標温度まで段階的に加熱され得る。ある特定の実施形態では、段階的加熱を利用して、担体流体中の触媒前駆体化合物と配位子前駆体化合物との組み合わせを(即ち、混合物を得るための)第1の高温まで加熱して、担体流体中のRu(0)錯体を調製し、次いで混合物を第2の高温まで加熱して、触媒粒子を得る。
【0040】
混合物を加熱して触媒粒子を調製する間の時間は、規模、反応パラメータ及び条件、特定の成分の選択などに相関する。比較的大きい規模(例えば、1超、あるいは5、あるいは10、あるいは50、あるいは100kg)では、当業者によって(例えば、クロマトグラフィ及び/又は分光方法を介して触媒粒子の形成を監視することによって)容易に決定されるであろうように、反応は1~48、あるいは1~36、あるいは1~24、あるいは1~12、あるいは、1~6時間などの数時間実施され得る。ある特定の実施形態では、粒子が形成される間の時間は、高温に達した後、5分~2時間、あるいは10分~1時間、あるいは10~45分、あるいは10~30分などの、0超~2時間である。
【0041】
粒子成長速度、サイズ、及び分散性は、選択される特定のRu(0)錯体の選択を通じて制御され得る。より具体的には、Ru(0)錯体の配位子は、選択される担体流体中のRu(0)錯体の溶解度、核形成、凝集などに影響を及ぼすであろう。したがって、調製方法は、例えば、Ru(0)錯体、担体流体、高温、及び/又は加熱期間(即ち、混合物が高温で保持される間の時間)の選択を介して、触媒粒子の平均粒径を選択的に制御することを含み得る。
【0042】
例えば、混合物は、Ru(0)錯体が核形成することができる支持材料を含み得る。このような材料は、以下に記載の固体担体によって例示される。典型的には、しかしながら、混合物は、Ru(0)錯体が核形成するいずれの支持材料も含まない。したがって、ある特定の実施形態では、触媒粒子は、支持材料などを含まない。
【0043】
一般に、混合物を高温で加熱することによって、触媒粒子、担体流体、並びにそれらと合わせた化合物(例えば、利用される場合、残りのRu(0)錯体、触媒及び/又は配位子前駆体化合物など)を含む生成物混合物が調製される。
【0044】
ある特定の実施形態では、調製方法は、触媒粒子を生成物混合物から単離することを含む。本明細書で使用される場合、触媒粒子を単離することは、典型的には、担体流体及び担体流体と合わせた化合物(例えば、利用される場合、残りのRu(0)錯体、触媒及び/又は配位子前駆体化合物など)と比較して、触媒粒子の相対濃度を増加させることとして定義される。したがって、単離は、触媒粒子を担体流体から除去すること、及び/又は触媒粒子から担体流体を(即ち、部分的に又は完全に)除去することを含み得る。単離のための任意の好適な技術及び/又はプロトコルが利用され得る。好適な単離技術の例としては、蒸留、ストリッピング/蒸発、抽出、濾過、洗浄、分配、相分離、クロマトグラフィなどが挙げられる。当業者によって理解されるであろうように、これらの技術のうちのいずれかを任意の別の技術と組み合わせて(即ち、順次)使用して、触媒粒子を単離することができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、調製方法は、触媒粒子を精製することを更に含む。触媒粒子を精製することは、触媒粒子を担体流体から単離するために利用される同じ技術、並びに触媒粒子の単離に利用されるものと比較して代替的な及び/又は追加の技術のうちの1つ以上を含み得る。選択される特定の技術に関係なく、触媒粒子の単離及び/又は精製は、触媒粒子の形成と連続して(即ち、インラインで)実施され得、したがって自動化され得る。他の事例では、精製は、担体流体中の触媒粒子の混合物に施される、独立した手順であり得る。ある特定の実施形態では、触媒粒子を精製することは、ある特定の粒子をサイズ選択すること、即ち、(即ち、精製中に小さい粒子を除去することによって)触媒粒子の粒子側分布(particle-side distribution)を減少/低減/狭めることを含む。
【0046】
ある特定の実施形態では、触媒粒子を担体流体から沈殿させ、触媒粒子を生成物混合物から単離することは、担体流体から触媒粒子を濾過することを含む。いくつかの実施形態では、触媒粒子を担体流体中に(例えば、コロイドとして)懸濁させ、触媒粒子を生成物混合物から単離することは、生成物混合物を遠心分離して、触媒粒子を含む沈殿物、及び担体流体を含む上清を得ることと、次いで、沈殿物を上清から分離し、それによって触媒粒子を単離することと、を含む。いくつかのこのような実施形態では、単離された触媒粒子は、洗浄及び示差遠心分離を介して精製され、及び/又はサイズ選択される。より具体的には、方法は、洗浄溶媒(例えば、担体流体中で利用される/担体流体として利用されるもの、又は同様のこのような溶媒など)中で触媒粒子を懸濁させることによって、単離された触媒粒子を洗浄することと、生じた懸濁液を遠心分離して、洗浄された触媒粒子を洗浄溶媒から沈殿させ、洗浄溶媒を上清として除去することと、を含み得る。特定の洗浄溶媒は、(例えば、洗浄溶媒中のある特定のサイズの触媒粒子の溶解度/不溶性を介して)触媒粒子をサイズ選択するように選択され得る。同様に、方法は、洗浄/示差遠心分離プロセスを任意の回数繰り返して、触媒粒子を更に精製及び/又はサイズ選択することを含み得る。
【0047】
調製方法によって、触媒粒子が調製される。より具体的には、混合物の記載及び調製方法のパラメータを考慮して理解されるであろうように、方法によって、Ru(0)錯体から触媒粒子(即ち、Ru(0)触媒粒子)を調製する。したがって、調製される特定の粒子は、利用されるRu(0)錯体に相関し、Ru(0)錯体自体に関する(例えば、ルテニウム含有量、配位子の種類及び/又は構造などに関する)上記の特色のうちのいずれかを含み得る。
【0048】
ある特定の実施形態では、触媒粒子は、10nm~100μm、あるいは100nm~100μm、あるいは100nm~100μm、あるいは250nm~100μm、あるいは500nm~100μm、あるいは750nm~100μm、あるいは1~100μmなどの、1nm~100μmの平均粒径を含み得る。いくつかの実施形態では、触媒粒子は、100nm~25μm、あるいは250nm~20μm、あるいは500nm~15μm、あるいは750nm~10μm、あるいは1~10μmなどの、100nm~50μmの平均粒径を含み得る。
【0049】
上に紹介されたように、触媒粒子は、担体流体を含む生成物混合物中で調製されるが、単離及び/又は精製され得る。したがって、触媒粒子は、調製方法で利用される担体流体などの流体若しくは担体(即ち、本明細書に記載のものなどの担体ビヒクル、溶媒など)中に配置され得るか、又はあるいは任意の担体ビヒクル若しくは溶媒を含まないか、あるいは実質的に含まない場合がある。同様に、触媒粒子は、固体担体中に、又は固体担体上に配置され得る。このような固体担体の例としては、活性炭、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、ゼオライト、及び他の無機粉末/粒子(例えば硫酸ナトリウム)などが挙げられる。ある特定の実施形態では、しかしながら、触媒粒子は、固体担体又は他のこのような支持材料を含まないか、あるいは実質的に含まない。
【0050】
上に紹介されたように、調製方法に従って調製された触媒粒子は、カップリング反応、特に脱水素シリル化反応を触媒するために利用され得る。したがって、触媒粒子を用いて有機ケイ素化合物を調製する方法(「合成方法」)が本明細書で提供される。本明細書の合成方法の記載を考慮して理解されるであろうように、調製される有機ケイ素化合物は、アルケニル又はビニル官能性であり、したがって、硬化性組成物、並びに例えば、出発材料、試薬、構築ブロック、官能化化合物などとして1つ以上のシリコーンに基づくものなどの硬化性組成物の様々な成分を調製及び/又は架橋するための組成物及び方法に有用である。
【0051】
合成方法は、(A)有機ヒドリドクロロシラン化合物と(B)アルケン化合物とを上記の触媒粒子を含む(C)触媒の存在下で反応させ、それによって有機ケイ素化合物を調製することを含む。以下の記載から理解されるであろうように、合成方法によって、触媒(C)によって触媒される、(A)と(B)との脱水素カップリング反応(即ち、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)を用いたアルケン化合物(B)の脱水素シリル化)(「反応」)を介して、有機ケイ素化合物及び分子水素(H)が調製される。
【0052】
有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)、アルケン化合物(B)、及び触媒(C)は、ひいては、本明細書において合成方法の「成分」(即ち、それぞれ、「成分(A)」、「成分(B)」、「成分(C)」など)、又は加えて、「出発材料」、「化合物」、及び/若しくは「試薬」(A)、(B)、及び/若しくは(C)などとして、又は同様に、当業者によって容易に理解されるであろうように、「ヒドリドシラン(A)」、「アルケン(B)」、及び/若しくは「触媒(C)」としての機能及び/若しくは官能価によって総称され得る、合成方法で利用され得る追加の成分と共に以下に記載される。
【0053】
上に紹介されたように、成分(A)は、有機ヒドリドクロロシラン化合物、即ち、少なくとも1つのケイ素結合水素原子(即ち、Si-H基)、及び少なくとも1つのケイ素結合塩素原子(即ち、Si-Cl基)を有する有機ケイ素化合物である。有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、別様に特に限定されない。
【0054】
ある特定の実施形態では、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、一般式HSiCl3-xを有し、式中、下付き文字xが、1又は2であり、各Rが、独立して選択されるヒドロカルビル基である。例えば、いくつかのこのような実施形態では、下付き文字xは、1であるので、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、式HSiClRを有するジオルガノヒドリドクロロシランとして更に定義される。他のこのような実施形態では、下付き文字xは2であるので、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、式HSiClRを有する有機ヒドリドジクロロシランとして更に定義される。当然のことながら、例えば、下付き文字xが、1~2の平均値であるこのような有機ヒドリドジクロロシランの混合物もまた利用され得ることが理解されるであろう。
【0055】
上の成分(A)の式に関して、各Rは、独立して選択されるヒドロカルビル基である。好適なヒドロカルビル基は、置換又は非置換であり得る。このようなヒドロカルビル基に関して、「置換」という用語は、1つ以上の水素原子が水素以外の原子(例えば、塩素、フッ素、臭素などのハロゲン原子)で置き換えられているか、炭化水素の鎖内の炭素原子が炭素以外の原子で置き換えられている(即ち、Rが炭素鎖内に1つ以上のヘテロ原子(酸素、硫黄、窒素など)を含み得る)か、又はその両方であるのいずれかの、炭化水素部分についての記載である。したがって、Rは、その炭素鎖/主鎖内に及び/又は上に(即ち、その炭素鎖/その主鎖に付加される及び/又は一体である)1つ以上の置換基を有する炭化水素部分を含み得るか、又は炭化水素部分であり得るので、Rが、エーテル、エステルなどを含み得るか、又はエーテル、エステルなどであり得ることが理解されるであろう。
【0056】
一般に、Rに好適なヒドロカルビル基は、独立して、線状、分岐状、環状、又はそれらの組み合わせであり得る。環状ヒドロカルビル基は、アリール基、及び飽和又は非共役環状基を包含する。環状ヒドロカルビル基は、独立して、単環式又は多環式であってもよい。線状及び分岐状ヒドロカルビル基は独立して、飽和又は不飽和であってもよい。線状及び環状ヒドロカルビル基の組み合わせの一例は、アラルキル基である。ヒドロカルビル基の全般的な例としては、アルキル基、アリール基、アルケニル基、ハロカーボン基等、並びに誘導体、変形体、及びそれらの組み合わせが挙げられる。好適なアルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル(例えば、イソプロピル及び/又はn-プロピル)、ブチル(例えば、イソブチル、n-ブチル、tert-ブチル、及び/又はsec-ブチル)、ペンチル(例えば、イソペンチル、ネオペンチル、及び/又はtert-ペンチル)、ヘキシル、並びに例えば6~18個の炭素原子を有する分岐状飽和炭化水素基が挙げられる。好適なアリール基の例としては、フェニル、トリル、キシリル、ナフチル、ベンジル、及びジメチルフェニルが挙げられる。好適なアルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、ヘキセニル基、及びシクロヘキセニル基が挙げられる。好適な一価ハロゲン化炭化水素基(即ち、ハロ炭素基)の例としては、ハロゲン化アルキル基、アリール基、及びそれらの組み合わせが挙げられる。ハロゲン化アルキル基の例としては、1つ以上の水素原子が、F又はClなどのハロゲン原子で置換された、上述のアルキル基が挙げられる。ハロゲン化アルキル基の具体例としては、フルオロメチル、2-フルオロプロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、4,4,4-トリフルオロブチル、4,4,4,3,3-ペンタフルオロブチル、5,5,5,4,4,3,3-ヘプタフルオロペンチル、6,6,6,5,5,4,4,3,3-ノナフルオロヘキシル、及び8,8,8,7,7-ペンタフルオロオクチル、2,2-ジフルオロシクロプロピル、2,3-ジフルオロシクロブチル、3,4-ジフルオロシクロヘキシル、及び3,4-ジフルオロ-5-メチルシクロヘプチル、クロロメチル、クロロプロピル、2-ジクロロシクロプロピル、及び2,3-ジクロロシクロペンチル基、並びにそれらの誘導体が挙げられる。ハロゲン化アリール基の例としては、1つ以上の水素原子が、F又はClなどのハロゲン原子で置換された、上述のアリール基が挙げられる。ハロゲン化アリール基の具体例としては、クロロベンジル基及びフルオロベンジル基が挙げられる。典型的には、各Rは、独立して選択される置換又は非置換ヒドロカルビル基である。例えば、いくつかの実施形態では、各Rは、独立して、線状又は非分岐状の非置換ヒドロカルビル基などの非置換ヒドロカルビル基から選択される。このような線状又は非分岐状の非置換ヒドロカルビル基としては、1~18個、あるいは1~16個、あるいは1~14個、あるいは1~12個、あるいは1~10個、あるいは1~8個、あるいは1~6個の炭素原子などの1~20個の炭素原子を有するものが挙げられる。
【0057】
下付き文字xが1であり、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)がジオルガノヒドリドクロロシランとして更に定義される場合、各Rは、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)における他のRと同じか又は異なり得る。ある特定の実施形態では、各Rは、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)における各他のRと同じである。他の実施形態では、1つのRは、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)の他のRとは異なる。いくつかの実施形態では、各Rは、1~18個、あるいは1~12個、あるいは1~6個の炭素原子を有する独立して選択されるヒドロカルビル基である。いくつかのこのような実施形態では、各ヒドロカルビル基は、非置換である。ある特定の実施形態では、各Rは、独立して、メチル基、エチル基などの非置換アルキル基から選択される。特定の実施形態では、各Rは、メチルである。例えば、いくつかのこのような実施形態では、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、式HSiCl(CH3-xを有し、式中、下付き文字xが、上で定義されたとおりである。ある特定のこのような実施形態では、成分(A)は、クロロジメチルシラン(即ち、式HSiCl(CH)のもの)、ジクロロメチルシラン(即ち、式HSiClCHのもの)、又はそれらの組み合わせを含む。
【0058】
上に紹介されたように、成分(B)は、アルケン化合物である。より具体的には、アルケン化合物(B)は、分子当たり少なくとも1つの不飽和脂肪族炭化水素基を含む。アルケン化合物(B)は、少なくとも1つの脂肪族不飽和基を有する任意の不飽和化合物を含み得るか、あるいはそれであり得、特に限定されない。当業者によって理解されるであろうように、不飽和脂肪族炭化水素基は、炭素-炭素(C=C)二重結合を含み、あるいは、不飽和を有する炭化水素基の特定の形態に応じて、アルケニル基(又はアルケン)、オレフィン、脂肪族不飽和、エチレン不飽和などと称され得る。
【0059】
ある特定の実施形態では、アルケン化合物(B)は、有機化合物を含む。他の実施形態では、アルケン化合物(B)は、シロキサン化合物を含む。更に他の実施形態では、アルケン化合物(B)は、シリコン-有機ハイブリッド及び/又は有機ケイ素化合物を含む(即ち、アルケン化合物(B)が、不飽和脂肪族炭化水素基を含む少なくとも1つの有機セグメント、並びにシラン及び/又はシロキサンを含む少なくとも1つのケイ素セグメントを含む場合)。アルケン化合物(B)の例は、以下に記載の実施形態及び化合物によって例示される。
【0060】
いくつかの実施形態では、アルケン化合物(B)は、アルケニル基を含む。「アルケニル基」は、1つ以上の炭素-炭素(C=C)二重結合を有する非環状、分岐状、又は非分岐状のヒドロカルビル基(即ち、アルケン化合物(B)の別の基/部分に結合している場合、一価の炭化水素基)を意味する。例えば、アルケニル基は、2~30個の炭素原子、あるいは2~24個の炭素原子、あるいは2~20個の炭素原子、あるいは2~12個の炭素原子、あるいは2~10個の炭素原子、あるいは2~6つの炭素原子を有し得る。アルケニル基は、限定されないが、ビニル、アリル、プロペニル、及びヘキセニルによって例示される。ある特定の実施形態では、アルケン化合物(B)は、各々独立して選択される、分子当たり平均少なくとも2つの不飽和脂肪族炭化水素基を含む。アルケン化合物(B)の不飽和脂肪族炭化水素は、各々末端にあり得るか、又はアルケン化合物(B)は、末端不飽和、内部不飽和、ペンダント不飽和、若しくはこのような位置の任意の組み合わせにおける不飽和を含み得るようなものである。
【0061】
ある特定の実施形態では、アルケン化合物(B)は、式Z-Aを有し、式中、Zが、一価の有機部分、シラン及び/又はシロキサン基を含むケイ素部分、並びにそれらの組み合わせから選択され、Aが、アルケニル基である。他の実施形態では、アルケン化合物(B)は、式A-Z’-Aを有し、式中、各Aが、独立して選択されるアルケニル基であり、Z‘が、二価の連結基である。このような実施形態では、二価の連結基Z’は、典型的には、有機部分、シラン及び/又はシロキサン基を含むケイ素部分、並びにそれらの組み合わせから選択される。
【0062】
特定の実施形態では、アルケン化合物(B)は、式RCHCHを有し、式中、Rが、ヒドロカルビル基又はHである。好適なヒドロカルビル基としては、可変置換基Rに関する上記のものが挙げられる。例えば、Rは、置換又は非置換、線状、分岐状又は環状、飽和又は不飽和であり得、不飽和の場合、非共役、共役、又は芳香族、及びそれらの組み合わせであり得る。例えば、いくつかの実施形態では、Rは、線状又は非分岐状の非置換ヒドロカルビル基などの非置換ヒドロカルビル基から選択される。このような線状又は非分岐状の非置換ヒドロカルビル基としては、1~14個、あるいは1~12個、あるいは1~10個、あるいは1~8個、あるいは1~6個、あるいは1~4個、あるいは1、2、又は3個の炭素原子などの、1~16個の炭素原子を有するものが挙げられる。このような化合物の例としては、プロペン、1-ブテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセンなどの線状アルファ-オレフィンが挙げられる。他の実施形態では、Rは、環状及び/又は芳香族ヒドロカルビル基から選択される。例えば、ある特定の実施形態では、Rは、フェニル(C)であるので、アルケン化合物(B)はスチレンである。したがって、(例えば、アリール基の一部である場合)Rは、内部、共役など、又はそれらの組み合わせであり得る1つ以上の不飽和脂肪族基を含み得ることも理解されるであろう。
【0063】
ある特定の実施形態では、Rは、Hであるので、アルケン化合物(B)は、エチレンである。このような実施形態では、エチレンは限定されず、純粋な(即ち、他の成分/化合物を含まないか、あるいは実質的に含まない)形態で使用され得る。言い換えれば、成分(B)は、エチレンからなり得るか、あるいは本質的にエチレンからなり得るか、又は他の成分と組み合わせたエチレンを含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、合成方法は、少なくとも成分(A)及び(C)を含む容器又は反応器に、エチレンを含むか、あるいは本質的にエチレンからなるか、あるいはエチレンからなる反応器流体を導入することを含む。このような実施形態では、反応器流体は、当業者によって理解されるであろうように、典型的には、合成方法で利用される反応条件下で不活性である(即ち、成分(A)、(B)、又は(C)と反応しないであろう)物質であるか、又はそれを含むであろう、担体ビヒクルなどのエチレン以外の成分を含み得る。このような担体ビヒクルの例としては、窒素(g)(N)、ヘリウム(g)(He)、アルゴン(g)(Ar)など、並びにそれらの組み合わせなどの不活性気体が挙げられる。)。ある特定の実施形態では、しかしながら、成分(B)は、純粋な形態で利用され、本質的にエチレンからなる(即ち、担体ビヒクルを実質的に含まないか、あるいは含まない)。
【0064】
エチレンは、気体状形態で、成分(B)中で利用され得るか又は成分(B)として利用され得る。したがって、ある特定の実施形態では、合成方法は、任意選択的に(例えば、ガスマニホールドを介して)エチレンで加圧され得る容器内で実施されることが理解されるであろう。例えば、容器は、大気圧よりも高い圧力のエチレンで加圧され得、これによって、反応は更に推進され得る。いくつかの実施形態では、エチレンは、100~20,000、あるいは100~10,000、あるいは100~5,000、あるいは100~2,000、あるいは100~1,000、あるいは250~1,000、あるいは250~750kPaなどの100~200,000kPaの圧力で用いられる。以下に記載されるように、容器内の温度も同様に上昇され得る。
【0065】
合成方法は、任意の量の成分(A)及び(B)を利用し得、より具体的には、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)及びアルケン化合物(B)を、反応の所望の特性(例えば、転化速度など)及び/又は用いられる出発材料の特徴に依存して変動する量又は比で含み得る。典型的には、成分(B)は、ビニル化される成分(A)のケイ素結合水素基の数(即ち、脱水素カップリング反応を受けることができるSi-H基の数)に基づいて、少なくとも1:1の化学量論比で利用される。したがって、当業者によって理解されるであろうように、アルケン化合物(B)の量は、典型的には、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)の量、種類、溶解度などに基づいて選択される。有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)の有機ケイ素化合物への転化の程度を最大化するために、過剰な又は全体的に過剰なアルケン化合物(B)が利用され得る。例えば、成分(A)及び(B)は、1:≧1の化学量論比(A):(B)で利用され得る。ある特定の実施形態では、エチレンは、1:1~50:1、あるいは1:1~25:1、あるいは1:1~20:1、あるいは1:1~15:1、あるいは1:1~10:1、あるいは2:1~10:1、あるいは2:1~6:1などの1:1~100:1のアルケン化合物(B)対有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)(B):(A)のモル比を提供するのに十分な量で利用される。より高いか又はより低い比もまた、利用され得る。例えば、反応において担体ビヒクルとして利用される場合などの、アルケン化合物(B)が気体状形態(例えば、エチレン、プロペンなど)である場合など、全体的に過剰な(例えば、>100:1の(B):(A)のモル比で)アルケン化合物(B)が利用され得る。
【0066】
上に紹介されたように、成分(C)は、上記のRu(0)錯体含有触媒粒子を含む。触媒(C)は、別様に特に限定されない。
【0067】
特定の触媒粒子は、合成方法の反応において利用される他の成分に基づいて選択され得る。特に、触媒(C)の触媒粒子を形成するためにRu(0)錯体中で利用される特定のリン配位子は、利用される特定の有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)に基づいて選択され得る。例えば、ある特定の実施形態では、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、式HSiClRを有するジオルガノヒドリドクロロシランであり、触媒(C)の触媒粒子は、有機ホスフィン配位子を有するRu(0)錯体を含む。他の実施形態では、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、式HSiClRを有する有機ヒドリドジクロロシランであり、触媒(C)のRu(0)錯体は、有機ホスファイト配位子を含む。
【0068】
触媒粒子は、純粋な(即ち、溶媒、担体ビヒクル、希釈剤などが不在である)形態などの任意の形態で利用され得るか、又は(例えば、選択される特定の成分(A)及び(B)、触媒粒子の溶解度などを考慮して)当業者によって独立して選択されるであろう溶媒若しくは分散剤などの担体ビヒクル(例えば、触媒粒子を調製するために利用される担体流体を含む、本明細書に列挙及び/又は記載のもののうちのいずれかなど)中に配置され得る。したがって、ある特定の実施形態では、成分(C)は、本質的に触媒粒子からなるか、あるいは触媒粒子からなる。他の実施形態では、成分(C)は、上記のように、触媒粒子が単離及び/又は精製されない場合など、1つ以上の追加の成分を含み得る。いくつかの実施形態では、成分(C)は、触媒粒子を調製するために利用される担体流体などの担体ビヒクル、希釈剤、溶媒、又は他の担体を含み得る。)。
【0069】
触媒(C)は、例えば、選択される特定の触媒粒子(例えば、その活性Ru種の濃度/量)、選択される成分(A)及び/又は(B)の性質/種類、用いられる反応パラメータ、反応の規模など(例えば、利用される成分(A)の総量、利用される成分(A):(B)の比など)に基づいて、当業者によって選択されるであろう任意の量で利用され得る。反応において利用される触媒(C)対成分(A)及び/又は(B)のモル比は、有機ケイ素化合物を調製するための脱水素カップリング/シリル化の速度及び/又は量に影響を及ぼし得る。したがって、成分(A)及び/又は(B)と比較した触媒(C)の量、並びにそれらの間のモル比は、変動し得る。典型的には、これらの相対量及びモル比は、(例えば、反応の経済的効率の増加、形成される反応生成物の精製の簡易性の増加などのために)触媒(C)の充填量を最小現に抑えながら、成分(A)及び成分(B)の反応を最大化するように選択される。
【0070】
ある特定の実施形態では、触媒(C)は、利用される成分(A)の総量(即ち、重量/重量)に基づいて、0.000001~50重量%の量で触媒粒子を提供するのに十分な量で利用される。例えば、触媒(C)は、利用される成分(A)の総量に基づいて、0.000001~25、あるいは0.00001~10、あるいは0.0001~5重量%の量で触媒粒子を提供するのに十分な量で使用され得る。いくつかの実施形態では、触媒(C)は、1:10~1:1,000,000、あるいは1:50~1:1,000、あるいは1:100~1:500の(C):(A)の触媒粒子中のRu(0)錯体対有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)の比を提供するのに十分な量で利用される。このような比は、重量比(即ち、重量/重量の(C):(A)あるいはその活性成分)、又はモル比(C):(A)あるいはその活性成分であり得る。上に列挙された範囲外の量及び比も同様に利用され得ることが理解されるであろう。例えば、触媒(C)は、例えば、合成方法で利用される成分(B)(即ち、そのアルケニル基)の総量に基づいて、化学量論量(即ち、上の触媒量)で利用され得る。
【0071】
ある特定の実施形態では、合成方法は、(D)オレフィン化合物の存在下で、(例えば、脱水素カップリング/シリル化を介して)成分(A)と(B)とを反応させることを含む。一般に、オレフィン化合物(D)は、不飽和を有する炭化水素基の特定の形態(例えば、C-C二重及び/又は三重結合)に応じて、脂肪族不飽和、エチレン不飽和などとも称され得る、不飽和脂肪族炭化水素基を含む。利用される場合、オレフィン化合物(D)は、アルケン化合物(B)とは異なる。オレフィン化合物(D)中で利用されるか、又はオレフィン化合物として利用される特定の脂肪族不飽和基及び/又は化合物は、典型的には、水素化及び/又はシリル化速度に基づいて選択される。例えば、ある特定の実施形態では、オレフィン化合物(D)は、水素化を容易に受けるが、ゆっくりとヒドロシリル化を受けるように選択される。
【0072】
オレフィン化合物(D)の脂肪族不飽和基は、アルケニル基及び/又はアルキニル基であり得る。当業者によって理解されるであろうように、「アルケニル基」という用語は、1つ以上の炭素-炭素二重結合(例えば、アルケン)を有する基を指し、「アルキニル基」という用語は、1つ以上の炭素-炭素三重結合(例えば、アルキン)を有する基を指す。このような基のいずれかは、環状又は非環状、分岐状又は非分岐状、置換又は非置換、及びそれらの組み合わせであり得る。このような基は、オレフィン部分とは別に、サイズ及び/又は全体的な構造に関して一般に限定されず、例えば、2~24個の炭素原子、あるいは2~20個、あるいは2~12個、あるいは2~10個、あるいは2~6個の炭素原子などの2~30個の炭素原子を含み得る。特定のアルケニル基は、ビニル、ビニリデン、アリル、プロペニル、及びヘキセニル基によって例示される。好適なアルケニル基としては、内部、外部、末端(例えば、アルファ-オレフィン)、多置換(例えば、シス及びトランス二置換、三置換、及び四級置換アルケン)、及びそれらの組み合わせが挙げられる。特定のアルキニル基の例としては、エチニル、プロピニル、及びブチニル基が挙げられる。本明細書の記載から理解されるであろうように、オレフィン化合物(D)は、分子当たり少なくとも1つの脂肪族不飽和基を含む。しかしながら、ある特定の実施形態では、オレフィン化合物(D)は、分子当たり少なくとも平均2つの脂肪族不飽和基を含む。当然のことながら、オレフィン化合物(D)は、任意の数の追加の脂肪族不飽和基も同様に含み得る。オレフィン化合物(D)の各脂肪族不飽和基は、例えば、その構造に応じて、オレフィン化合物(D)における末端、ペンダント、又は両方のこのような位置にあり得る。
【0073】
ある特定の実施形態では、オレフィン化合物(D)は、有機化合物を含むか、あるいは有機化合物である。他の実施形態では、オレフィン化合物(D)は、シロキサンを含むか、あるいはシロキサンである。更に他の実施形態では、オレフィン化合物(D)は、シリコーン-有機ハイブリッド、又は有機ケイ素化合物を含むか、あるいはそれらである。
【0074】
オレフィン化合物(D)としての使用に好適な化合物の例としては、ブテン(例えば、イソブテン、シクロブテンなど)、ペンテン(例えば、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、シクロペンテン、2-メチルシクロペンテン、4-メチルシクロペンテンなど)、ヘキセン(例えば、シクロヘキセン、3,5,5-トリメチル-1-ヘキセン、ビニルシクロヘキセンなど)、線状アルファ-オレフィン(例えば、1-へプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、1-ヘンエイコセン、1-ドコセン、1-トリコセン、1-テトラコセン、1-ペンタコセン、1-ヘキサコセン、1-ヘプタコセン、1-オクタコセン、1-ノナコセン、1-トリアコンテンなど)、環状オレフィン(例えば、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデセン、ノルボルネン、4-メチルノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、ビニルノルボルネンなど)、ポリオレフィン(例えば、1,2-ジビニルシクロヘキサン、1,3-ジビニルシクロヘキサン、1,4-ジビニルシクロヘキサン、1,5-ジビニルシクロオクタン、1-アリル-4-ビニルシクロヘキサン、1,4-ジアリルシクロヘキサン、1-アリル-5-ビニルシクロオクタン、1,5-ジアリルシクロオクタン、1,3-ジビニルシクロペンタン、ジシクロペンタジエン、ノルボルナジエンなど)、分岐状非環状オレフィン(例えば、5-メチル-1-ノネン)、オレフィン置換環状化合物(例えば、ビニルシクロヘキサンなど)、線状及び環状アルキン化合物、ジエン化合物(例えば、1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,6-ヘプタジエン、1,7-オクタジエン、1,8-ノナジエン、1,9-デカジエン、1,11-ドデカジエン、1,13-テトラデカジエン、1,19-エイコサジエンなど)、ジイン及びエンーイン化合物(例えば、1,3-ブタジイン、1,5-ヘキサジイン、1-ヘキセン-5-インなど)などのアルケニル化合物(例えば、少なくとも1つのアルケニル基を有する化合物)のもの、並びにそれらの誘導体、修飾物、及び組み合わせが挙げられる。ある特定の実施形態では、オレフィン化合物(D)は、ノルボルネン又はそれらの誘導体若しくは類似体を含むか、あるいはそれらから本質的になるか、あるいはそれらである。
【0075】
合成方法は、任意の量の成分(D)を利用し得、より具体的には、反応の所望の特性(例えば、転化速度など)及び/又は用いられる出発材料の特徴に依存する任意の量及び/又は比でそのオレフィン化合物を含み得る。典型的には、成分(D)は、ビニル化される成分(A)のケイ素結合水素基の数(即ち、脱水素カップリング反応を受けることができるSi-H基の数)に基づいて、少なくとも1:1の化学量論比でオレフィン化合物を提供するのに十分な量で利用される。したがって、当業者によって理解されるであろうように、成分(D)の量は、典型的には、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)の量及び種類に基づいて選択される。過剰な又は全体的に過剰な成分(D)が利用され得る。例えば、成分(A)及び(D)は、1:≧1の化学量論比(A):(D)で利用され得る。ある特定の実施形態では、成分(D)は、1:1~10:1、あるいは2:1~10:1、あるいは3:1~5:1などの1:1~100:1のオレフィン化合物(B)対有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)(D):(A)のモル比を提供するのに十分な量で利用される。より高いか又はより低い比もまた、利用され得る。
【0076】
合成方法で利用される成分(即ち、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)、アルケン化合物(B)、触媒(C)、及び/又はオレフィン化合物(D)(利用される場合))は、「そのままで」、即ち、有機ケイ素化合物を調製するための反応の準備ができている状態で提供され得る。あるいは、成分(A)、(B)、(C)、及び又は(D)のうちのいずれか1つ以上又は全ては、反応前又は反応中に形成され得る(例えば、上記のように、方法が触媒粒子(C)を調製することを含む場合など)。いくつかの実施形態では、合成方法は、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)を調製することを更に含む。これらの又は他の実施形態では、合成方法は、アルケン化合物(B)を調製することを更に含む。これらの又は他の実施形態では、合成方法は、触媒粒子及び又は触媒粒子から成分(C)を調製することを更に含む。これらの又は他の実施形態では、合成方法は、オレフィン化合物(D)を調製することを更に含む。
【0077】
典型的には、成分(A)、(B)(C)、及び任意選択的に(D)を、容器又は反応器内で反応させて、有機シロキサン化合物を調製する。以下に記載されるように、反応が高温又は低温で実施されるとき、容器又は反応器は、例えばジャケット、マントル、交換器、浴、コイルなどを介して、任意の好適な様式で加熱又は冷却されてもよい。
【0078】
成分(A)、(B)、(C)、及び任意選択的に(D)は、容器に一緒に若しくは別個に供給され得るか、又は任意の添加の順序で、かつ任意の組み合わせで容器内に配置され得る。例えば、ある特定の実施形態では、成分(A)、(B)、及び(D)は、例えば、触媒粒子を含む予め作製された触媒組成物として、又はその場で触媒粒子(C)を形成するための個々の成分として、成分(C)を含有する容器に添加される。例えば、ある特定の実施形態では、触媒(C)は、上の調製方法に従って容器内で調製され、次いで成分(A)、(B)、及び任意選択的に(D)が充填される。いくつかの実施形態では、成分(A)及び成分(D)は、添加前に最初に合わせられ得るか、又は容器に順次(例えば、(A)次いで(D))添加され得る。他の実施形態では、成分(D)は、成分(A)及び(C)を含有する容器に添加される。一般に、本明細書における「反応混合物」への言及は、一般に、(例えば、上記のようにこのような成分を合わせることによって得られるような)成分(A)、(B)、(C)、及び利用される場合任意選択的に(D)を含む混合物を指す。
【0079】
方法は、反応混合物を撹拌することを更に含み得る。撹拌は、成分(A)、(B)、(C)、及び任意選択的に(D)を合わせる場合、例えば、それらの反応混合物中での混合及び接触を向上することができる。このような接触は独立して、撹拌を伴って(例えば、並行して又は順次)、又は撹拌を伴わずに(即ち、独立して、あるいはその代わりに)、他の条件を使用することもできる。他の条件は、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)とアルケン化合物(B)との接触、したがって反応(即ち、脱水素カップリング)を向上して、有機ケイ素化合物を調製するように調整され得る。他の条件は、反応収率を向上するための、又は有機ケイ素化合物と共に反応生成物内に含まれる特定の反応副生成物の量を最小限に抑えるための、結果を得るのに有効な条件であり得る。
【0080】
成分(A)及び(B)は、担体ビヒクル(例えば、溶媒、希釈剤、流体、又はそれらの組み合わせ)の存在下で反応させることができるので、反応は、溶液、エマルション、懸濁液、スラリー、コロイド、二相混合物、又はそれらの組み合わせ中で実施することができる。利用される特定の溶媒、担体、及び/又は希釈剤、並びに用いられるそれぞれのそれらの量は、独立して、例えば、特定の有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)、アルケン化合物(B)、触媒(C)、及び/又はオレフィン化合物(D)(利用される場合)、調製される特定の有機ケイ素化合物などに基づいて、当業者によって選択されるであろう。例えば、反応は、均質な条件下(例えば、溶液状態)で実施され得る。しかしながら、反応は、例えば、担体ビヒクル中に懸濁されるが溶解されない1つ以上の成分では、不均質に行われ得る。例えば、反応は、担体ビヒクル中に懸濁された成分(C)の触媒粒子では、不均質に実施され得る。成分(B)がエチレンである場合、エチレンは、典型的には気体状態で利用される。他の成分は、しかしながら、不均質な混合物(即ち、懸濁液、コロイドなど)、又は均質な混合物/溶液(即ち、他の成分との反応混合物を形成する前に担体ビヒクル中に溶解及び/又は配置される)として用いられ得る。
【0081】
利用される場合、担体ビヒクルは、典型的には、選択される特定の有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)、アルケン化合物(B)、触媒粒子(C)、及び/又はオレフィン化合物(D)(利用される場合)、並びに調製される特定の有機ケイ素化合物に基づいて選択される。例えば、いくつかの実施形態では、担体ビヒクルは、油(例えば、有機油及び/又はシリコーン油)、流体、溶媒など、又はそれらの組み合わせを含むか、あるいはそれらである。好適な担体ビヒクルの例としては、調製方法の担体流体に関する上記のものなどの、本明細書に記載のものが挙げられる。したがって、ある特定の実施形態では、担体ビヒクルは、調製方法で利用される担体流体と同じである。したがって、これらの又は他の実施形態では、担体ビヒクルは、芳香族溶媒を含むか、あるいは芳香族溶媒である。いくつかのこのような実施形態では、担体ビヒクルは、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなど、又はそれらの組み合わせなどの芳香族有機溶媒を含むか、あるいは芳香族有機溶媒である。
【0082】
利用される場合、担体ビヒクル又は溶媒の部分は、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)、アルケン化合物(B)、触媒(C)、及び/又はオレフィン化合物(D)(利用される場合)に別個に添加され得るか、又は別様に、成分(A)、(B)、(C)、及び/若しくは(D)の総合的な混合物と、若しくは一体として(as a whole)反応混合物と合わせられ得る。反応混合物中に存在する担体ビヒクル/溶媒の総量は、例えば、選択される特定の成分(A)、(B)、(C)、及び/又は(D)、用いられる反応パラメータなど)に基づいて、当業者によって選択されるであろう。
【0083】
いくつかの実施形態では、反応は、高温で実施される。高温は、選択される特定の有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)、アルケン化合物(B)、触媒(C)、及び/又はオレフィン化合物(D)、利用される反応容器(例えば、周囲圧力で開放されるか、正圧(例えば、アルケン化合物(B)として利用される場合、エチレンの正圧)下で封止されるか)、担体ビヒクルの存在及び沸点などに応じて選択及び制御されるであろう。したがって、高温は、選択される反応条件及びパラメータ、並びに本明細書の記載を考慮して、当業者によって容易に選択されるであろう。有機ケイ素化合物を調製するための高温は、典型的には、40~250、あるいは50~200、あるいは60~175、あるいは60~150、あるいは60~125℃などの、周囲温度超~300℃である。
【0084】
脱水素カップリング反応は、高圧(例えば、超大気圧)で行われ得る。例えば、反応は、101.3超~20,000、あるいは110~10,000、あるいは150~5,000、あるいは200~2,000、あるいは200~1,000、あるいは250~1,000、あるいは250~750kPaなどの周囲圧力超~200,000kPaの圧力で行われ得る。
【0085】
高温及び/又は高圧はまた、特に高温及び高圧の両方が利用される場合、上に記載の範囲とは異なり得ることを理解されたい。特定の実施形態では、高温及び高圧は、成分(A)及び(B)の一方又は両方に関する超臨界条件を提供するように総合的に選択される。同様に、成分(A)及び(B)の反応中に、反応パラメータを修正してもよいことも理解されたい。例えば、温度、圧力、及び他のパラメータは、反応中に独立して選択又は修正され得る。これらのパラメータはいずれも、独立して、周囲パラメータ(例えば、室温及び/又は大気圧)及び/又は非周囲パラメータ(例えば、低温若しくは高温及び/又は減圧若しくは高圧)であってもよい。任意のパラメータはまた、動的に修正されてもよく、リアルタイムで、即ち、方法中に変更されてもよく、又は静的(例えば、反応の持続時間中又はその任意の部分にわたって)であってもよい。
【0086】
有機ケイ素化合物を調製するための成分(A)と(B)との反応が実施される間の時間は、規模、反応パラメータ及び条件、特定の成分の選択などに相関する。比較的大きい規模(例えば、1超、あるいは5、あるいは10、あるいは50、あるいは100kg)では、(例えば、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)の転化、有機ケイ素化合物の生成などを、クロマトグラフィ及び/又は分光方法を介して監視することによって)当業者によって容易に決定されるであろうように、反応は、2~48、あるいは3~36、あるいは4~24、あるいは6、12、18、24、36、又は48時間などの数時間の間実施され得る。ある特定の実施形態では、反応が実施される間の時間は、触媒(C)の存在下で、成分(A)と(B)とを合わせた後、任意選択的に、高温及び/又は高圧に達した後、1~36、あるいは1~24、あるいは1~12、あるいは2~12、あるいは2~10時間などの、0超~48時間である。
【0087】
一般に、成分(A)と(B)との反応によって、有機ケイ素化合物を含む反応生成物が調製される。特に、反応の過程にわたって、成分(A)及び(B)を含む反応混合物は、増加した量の有機ケイ素化合物及び減少した量の成分(A)及び(B)を含む。反応が完了すると(例えば、成分(A)又は成分(B)のうちの1つが消費され、追加の有機ケイ素化合物が調製されないなど)、反応混合物は、有機ケイ素化合物を含む反応生成物と称され得る。この様式では、反応生成物は、典型的には、任意の残りの量の成分(A)、(B)、(C)、及び任意選択的に(D)、並びにその分解生成物及び/又は反応生成物(例えば、副生成物及び/又は他の材料)、並びに利用される任意の担体ビヒクル又は溶媒を含む。
【0088】
ある特定の実施形態では、合成方法は、有機ケイ素化合物を反応生成物から単離及び/又は精製することを更に含む。本明細書で使用される場合、合成方法の文脈では、有機ケイ素化合物を単離することは、有機ケイ素化合物と合わせた他の化合物と比較して、(例えば、反応生成物又はその精製バージョン中の)有機ケイ素化合物の相対濃度を増加させることを指す。したがって、当技術分野で理解されるように、単離/精製は、他の化合物をこのような組み合わせから除去すること(即ち、例えば、反応生成物中の有機ケイ素化合物と合わせた不純物/他の成分の量を減少させること)、及び/又は有機ケイ素化合物自体を、組み合わせから取り出すことを含み得る。調製方法(例えば、蒸留、ストリッピング/蒸発、抽出、濾過、洗浄、分配、相分離、クロマトグラフィなど)、並びにそれらの組み合わせ(例えば、連続して、単一の手順の一部としてなど)に関する上記のものを含む、単離のための任意の好適な技術及び/又はプロトコルが利用され得る。単離は、有機ケイ素化合物の精製を含み得、したがって、有機ケイ素化合物の精製と称され得ることを理解されたい。しかしながら、有機ケイ素化合物の精製は、有機ケイ素化合物の単離に利用されるものと比較して、代替的かつ/又は追加の技術を含み得る。選択される特定の技術に関係なく、有機ケイ素化合物の単離及び/又は精製は、反応自体と連続して(即ち、インラインで)実施され得、したがって自動化され得る。他の事例では、精製は、有機ケイ素化合物を含む反応生成物に施される独立した手順であり得る。アルケン化合物(B)が気体状である、ある特定の実施形態では(例えば、エチレンが、アルケン化合物(B)として利用される場合)、有機ケイ素化合物は、反応容器及び反応生成物を通気及び/又はパージすること、したがって、反応生成物からの反応中に調製された任意の残りのアルケン化合物(B)及び水素(H)を除去することによって精製される。いくつかのこのような実施形態では、反応生成物は、通気及び又はパージの前に及び/又はその間に冷却される。
【0089】
特定の実施形態では、合成方法は、蒸留を介して有機ケイ素化合物を反応生成物から単離することを含み、有機ケイ素化合物が、反応生成物の1つ以上の成分(例えば、触媒(C))から、留出物として取り出される。蒸留は、典型的には、準大気圧及び準周囲温度(即ち、低温及び減圧)で実施される。減圧及び低温は、選択される反応条件及びパラメータ、利用される成分、調製される有機ケイ素化合物などを考慮して、当業者によって選択されるであろう。減圧は、典型的には真空として操作されるが、真空と大気圧(即ち、101.325kPa)との間の任意の減圧が利用され得る。例えば、減圧は、(例えば、mmHgによって測定して)0超~50、あるいは0超~40、あるいは0超~30、あるいは0超~20、あるいは0超~10、あるいは0超~5、あるいは0超~4、あるいは0超~3、あるいは0超~2kPaであり得る。
【0090】
典型的には、成分(A)と(B)との反応によって調製される反応生成物は、ルテニウム錯体を含む触媒残留物を含む。触媒残留物のルテニウム錯体は、反応における成分(C)の触媒粒子中で利用されるか、又は触媒粒子として利用されるRu(0)錯体と同じ、あるいは実質的に同じであり得る。あるいは、触媒残留物のルテニウム錯体は、反応(即ち、反応自体の間)において、成分(C)中で利用されるか、又は成分(C)として利用される触媒粒子から(即ち、触媒粒子のRu(0)錯体から)形成され得る。
【0091】
ある特定の実施形態では、合成方法は、例えば上記の技術のうちの1つ以上を使用して、触媒残留物を反応混合物から単離することを含む。いくつかの実施形態では、蒸留を介して、有機ケイ素化合物を反応生成物から単離することは、反応生成物の他の成分を反応生成物からの留出物として除去することによって触媒残留物を分離する。反応が不均質な条件下で実施される場合などの他の実施形態では、合成方法は、反応混合物を濾過すること、したがって、触媒残留物を濾物として反応混合物から単離することを含み、反応混合物の残りの成分は、濾液として反応混合物から分離される。
【0092】
単離された触媒残留物は、上記のように、任意選択的に成分(D)の存在下で、例えば、成分(A)及び(B)の別の脱水素カップリング反応を触媒するために利用され得る。したがって、ある特定の実施形態では、合成方法は、触媒残留物を使用して(即ち、触媒(C)を再使用して)、触媒残留物を調製するための初期反応使用と同じか又は異なり得る、更なる脱水素カップリング反応を触媒することを含む。この様式での触媒(C)の再使用は、任意の回数の独立して選択される連続的な脱水素カップリング反応で、任意の回数行われ得、これは各々、(例えば、選択される成分(A)、B)、及び/又は(D)の特定の種類及び/又は量、用いられるパラメータなどに関して)脱水素カップリング反応のうちのいずれか他と同じであっても異なっていてもよいことが理解されるであろう。ある特定の実施形態では、触媒(C)は、少なくとも1回、あるいは少なくとも2回、あるいは少なくとも3、4、5、6、7、8、9、又は10回再使用される。
【0093】
触媒粒子を利用する合成方法は、非常に高い転化速度及び優れた選択性と共に高収率で、有機ケイ素化合物を調製することができる。例えば、ある特定の実施形態では、上のパラメータに従った合成方法は、利用される有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)の量に基づいて、(例えば、以下に記載の手順に従って、ガスクロマトグラフィ(gas chromatography、GC)を介して測定して)少なくとも95、あるいは少なくとも98、あるいは少なくとも99%の会話速度を提供する。これらの又は他の実施形態では、合成方法は、利用される有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)の量に基づいて、(例えば、以下に記載の手順に従って、ガスクロマトグラフィ(GC)を介して測定して)少なくとも65、あるいは少なくとも70、あるいは少なくとも75、あるいは少なくとも80、あるいは少なくとも85%の有機ケイ素化合物の収率を提供する。これらの又は他の実施形態では、合成方法は、少なくとも70:30、あるいは少なくとも75:25、あるいは少なくとも80:20、あるいは少なくとも85:15の脱水素シリル化(dehydrogenative silylation、DHS)対ヒドロシリル化(hydrosilylation、DS)(DHS:DS)の選択性を提供する。
【0094】
上に紹介されたように、合成方法によって、有機ケイ素化合物が調製される。より具体的には、成分(A)及び(B)の構造、並びにそれらの反応のパラメータの記載を考慮して理解されるであろうように、方法によって、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)とアルケン化合物(B)との脱水素カップリング生成物として有機ケイ素化合物が調製される。当業者によって理解されるであろうように、調製される特定の有機ケイ素化合物は、合成方法で利用される特定の有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)に相関する。より具体的には、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)は、有機ケイ素化合物の有機クロロシラン主鎖を形成し、アルケン化合物(B)は、有機クロロシラン主鎖のケイ素原子に結合したアルケニル基を形成する。したがって、有機ケイ素化合物は、有機アルケニルクロロシラン化合物として更に定義することができる。
【0095】
特定の実施形態では、有機ケイ素化合物は、一般式(RCHCH)SiCl3-xを有し、式中、各R、R、及び下付き文字xが、上で定義されたとおりである。例えば、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)が、ジオルガノヒドリドクロロシランとして更に定義されるいくつかの実施形態では、(例えば、下付き文字xが1であるので、化合物(A)が、式HSiClRを有する場合)、合成方法によって、式(RCHCH)SiClR(式中、各R及びRが、上で定義されたとおりである)を有するジオルガノクロロアルケニルシラン化合物として有機ケイ素化合物が調製される。有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)が、有機ヒドリドジクロロシランとして更に定義される他の実施形態では(例えば、下付き文字xが2であるので、化合物(A)が、式HSiClRを有する場合)、合成方法によって、式(RCHCCH)SiClR(式中、各R及びRが、上で定義されたとおりである)を有する有機ジクロロアルケニルシラン化合物として有機ケイ素化合物が調製される。
【0096】
上で紹介されたように、ある特定の実施形態では、アルケン化合物(B)は、エチレンである。このような実施形態では、Rは、Hであるので、有機ケイ素化合物は、一般式(HCCH)SiCl3-x(式中、各R下付き文字xが、上で定義されたとおりである)を有する有機クロロビニルシラン化合物として更に定義することができる。いくつかの実施形態では、各Rは、アルキル基であるので、有機ケイ素化合物は、ジアルキルクロロビニルシラン又はアルキルジクロロビニルシランとして更に定義される。ある特定の実施形態では、各Rは、メチル(即ち、-CH)であるので、有機ケイ素化合物は、ジメチルクロロビニルシラン又はメチルジクロロビニルシランとして更に定義される。同様に、即ち、有機ヒドリドクロロシラン化合物(A)のうちの2つ以上が、合成方法で利用される場合、有機ケイ素化合物は、このような化合物の組み合わせを含み得ることが理解されるであろう。
【0097】
合成方法に従って調製される有機ケイ素化合物は、多様な最終使用用途において、例えば、硬化性組成物、パーソナルケア又は化粧品組成物などを含む組成物中の別個の成分として利用され得る。有機ケイ素化合物は、分子当たり少なくとも1つの脂肪族不飽和基(例えば、アルケン化合物(B)から調製されるケイ素結合アルケニル基)を含むので、有機ケイ素化合物は、更なる反応、例えば、ヒドロシリル化反応において利用され得る。例えば、有機ケイ素化合物は、ヒドロシリル化硬化性組成物における成分であり得る。
【0098】
以下の実施例は、本明細書に記載の実施形態を例示することを意図しており、決して発明の範囲を限定するものとみなされるものではない。
特徴評価手順
【0099】
ガスクロマトグラフィ(GC)
【0100】
ガスクロマトグラフィ(GC)データは、Thermo Scientific TG-5HTカラムを装着したAgilent 7890Aガスクロマトグラフを使用して得る。溶出種の検出は、水素炎イオン化型検出器(flame ionization detector、FID)を使用して達成する。試料(1μL)をカラムに注入し、40℃で注射時間から8分間保持し、その後温度を15℃/分の速度で300℃まで上昇させた。溶出時間は、標準物質の注入によって決定し、生成物の定量化は、溶出シグナル領域の積分によって決定した。(溶出時間と共に)例示的な標準物質としては、クロロジメチルシラン(1.90分)、ジクロロメチルシラン(1.93分)、クロロジメチルビニルシラン(2.44分)、ジクロロメチルビニルシラン(2.79分)、クロロジメチル(エチル)シラン(2.62分)、及びジクロロメチル(エチル)シラン(3.05分)が挙げられる。
【0101】
紫外線可視分光法(Ultraviolet-Visible、UV-Vis)
【0102】
紫外線可視(UV-Vis)吸光度スペクトルは、重水素及びタングステン-ハロゲンランプ、並びにケイ素フォトダイオード検出器を備えるShimadzu UV-1800ダブルビーム分光光度計を使用して記録する。試料及びブランク(純粋な溶媒)を、一致する石英キュベットに充填し、吸光度を1nmの増分で320~1000nmまで記録する。
【0103】
実施例で利用したある特定の成分を、以下の表1に記載する。
【0104】
【表1】
【0105】
実施例1~4:Ru(0)触媒粒子の調製
【0106】
様々なRu(0)触媒粒子を調製して、実施例1~4を得る。特に、Ru(0)錯体(R)、配位子前駆体(L)、及び担体流体(F)を丸底フラスコ内で合わせて混合物を形成し、次いで室温で20分間撹拌する。次いで、混合物を撹拌しながら40℃まで温め、20時間保持する。次いで、混合物を徐々に上昇させながら目標温度(加熱増分:20℃、保持時間:20分、目標温度:60、80、100、120、140、及び160℃)まで撹拌しながら温め、保持して、各目標温度で各保持時間の終わりに混合物から試料を収集しながら、Ru(0)触媒粒子を含む反応生成物を得る。試料を不透明度(視覚的)及び吸光度(UV-Vis)について評価して、粒子形成/核形成を確認し、核生成開始温度は、可視粒子又は混合物の吸光度スペクトルの有意な変化が観察される最低温度として報告する。次いで、反応生成物を遠心分離(4,000rpm、10分)して、可溶性成分(上清)からの、反応生成物のRu(0)触媒粒子(ペレット)の単離/濃度を評価する。実施例1~4のある特定のパラメータ、特性、及び評価結果を、以下の表2に記載する。
【0107】
【表2】
【0108】
実施例1~4の各々では、Ru(0)触媒粒子は、不透明な懸濁液として現れる、不均質な反応生成物中で調製される。粒子核形成は、100℃ほどの低い温度での可視粒子の形成を伴う、加熱時の混合物の吸光度スペクトルにおける有意な変化によって証明する(例えば、実施例1を参照されたい)。用いる特定のパラメータに応じて、例示的な方法によって、容易に単離するのに十分なサイズのRu(0)触媒粒子が調製される(例えば、実施例3~4を参照されたい)。
【0109】
実施例5~7:Ru(0)触媒粒子組成物の調製
【0110】
Ru(0)触媒粒子を含む様々な組成物を調製する。特に、Ru(0)錯体(R)、配位子前駆体(L)、及び担体流体(F)を丸底フラスコ内で合わせて混合物を形成する。混合物を撹拌しながら160℃まで加熱し、20分間保持し、次いで室温まで冷却して、不透明な懸濁液としてRu(0)触媒粒子を含む反応生成物(触媒組成物(C1)~(C3))を得る。実施例5~7の特定のパラメータを、以下の表3に記載する。
【0111】
実施例8:単離されるRu(0)触媒粒子組成物の調製
【0112】
単離されるRu(0)触媒粒子を含む組成物を調製する。特に、Ru(0)錯体(R)、配位子前駆体(L)、及び担体流体(F)を丸底フラスコ内で合わせて混合物を形成する。混合物を撹拌しながら160℃まで加熱し、20分間保持して、不透明な懸濁液としてRu(0)触媒粒子を含む反応生成物を得、次いでこれを室温まで冷却する。次いで、懸濁液を遠心分離(4,000rpm、10分)して、Ru(0)触媒粒子をペレット化し、生じた上清を除去する。次いでペレットを溶媒(S-1)(12mL)中に懸濁させることによって、Ru(0)触媒粒子を洗浄し、生じた混合物を遠心分離(4,000rpm、10分)して、Ru(0)触媒粒子を再ペレット化し、生じたRu(0)触媒粒子のペレットから上清を除去し、UV-Visを介して上清を評価する。上清が本質的に無色になるまで洗浄プロセスを繰り返して(合計洗浄:4)、Ru(0)触媒粒子を単離し、次いで、これを溶媒(S-1)(12mL)中に懸濁させて、不透明な懸濁液(触媒組成物(C4))を得る。実施例8の特定のパラメータを、上の実施例5~7のものと同様に、以下の表3に記載する。
【0113】
【表3】
【0114】
実施例9~12:クロロジメチルビニルシラン(ClSi(CH(CHCH))の調製
【0115】
Ru(0)触媒粒子を利用して、脱水素シリル化反応を触媒してビニルシランを(即ち、有機ケイ素化合物として)調製する。特に、上の実施例5~8のうちの1つで調製した触媒組成物を、カニューレを介してシュレンクチューブに移し、ヒドリドシラン(A)を充填する。次いで、撹拌棒及びエチレン(即ち、アルケン化合物(B-1))を導入するためのマニホールドを備えたFischer-Porterチューブにカニューレを介して生じた混合物を移す。次いで、チューブをエチレンで5バールまで加圧し、次いで通気する。チューブをエチレンで加圧し、続いて更に4回通気して、チューブから窒素を実質的に排除する。次いで、チューブをエチレンで5バールまで加圧し、生じた反応混合物を、撹拌しながら100℃まで温め、2時間保持して、反応生成物を得る。次いで、反応生成物を-78℃まで冷却し、チューブを通気してエチレンを除去する。次いで、反応生成物を、カニューレを介してシュレンクチューブに移し、次いで、収集容器を備えた-78℃まで冷却した蒸留装置に移す。次いで、反応生成物を、準大気圧及び25℃未満の温度で蒸留して、触媒残留物からの留出物として、有機ケイ素化合物を含む揮発性生成物混合物を取り出す。次いで、留出物を室温まで温め、ガスクロマトグラフィによって分析して、ヒドリドシラン(A)の転化及び有機ケイ素化合物の収率を評価する。実施例9~12の特定のパラメータ及び評価結果を、以下の表4に記載する。
【0116】
【表4】
【0117】
上の表4に示されるように、実施例5~8で調製された触媒組成物は、脱水素カップリング反応を首尾よく触媒する(例えば、実施例9~12を参照されたい)。更に、例示的な方法は、脱水素カップリング生成物の良好な収率と共に、ヒドリドシラン出発材料のほぼ完全な転化を提供する。実施例9~12の各々では、クロロジメチルエチルシランが、主要な副生成物として同定され、利用される条件下での競合反応としてヒドロシリル化が証明される。
【0118】
上の記載は、開示の一般かつ特定の実施形態に関する。しかしながら、同等の教義を含む特許法の原理に従って解釈されるものである、添付の特許請求の範囲に定義される本開示の趣旨及びより広い態様から逸脱することなく、様々な改変及び変更が行われ得る。したがって、本開示は、例示目的のために提示され、開示の全ての実施形態の網羅的な記載として、又はこれらの実施形態に関連して例示又は記載される特定の要素に対して特許請求の範囲の範囲を限定するように解釈されるべきではない。例えば、冠詞「a」、「an」、「the」、又は「当該」を使用する単数形の要素への任意の言及は、要素を単数形に限定するものとして解釈されるものではない。更に、「直角」、「直交」、「垂直」、及び「平行」という用語は、絶対的な意味ではなく、相対的に本明細書で一般に用いられることを理解されたい。更に、「実質的に」、「約」、「本質的に」などの用語は、修飾されている特性のわずかな偏差を示すことが理解されるであろう。このような偏差は、特定の特性の0~10%、あるいは0~5%、あるいは0~3%であり得る。