(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】ディフューザおよび遠心ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 29/44 20060101AFI20250327BHJP
F04D 29/66 20060101ALI20250327BHJP
【FI】
F04D29/44 A
F04D29/44 E
F04D29/66 A
(21)【出願番号】P 2024225135
(22)【出願日】2024-12-20
【審査請求日】2024-12-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】江尻 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮部 正洋
(72)【発明者】
【氏名】高橋 樹央
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-173296(JP,A)
【文献】特開2004-132227(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0106270(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/44
F04D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心ポンプの回転軸の軸方向において、インペラと隣り合うように配置されるディフューザであって、
前記軸方向において、前記ディフューザに対して前記インペラが配置される方向が前方向であり、前記インペラに対して前記ディフューザが配置される方向が後方向であり、
円筒状の外周面を有する流路形成部と、
前記外周面に配置されて、前記外周面と共に、前記インペラから吐出された取扱液が流れる複数のディフューザ流路を区画する複数のベーンと、
を有してなり、
複数の前記ベーンそれぞれは、
正圧面と、
前記正圧面の反対側の面である負圧面と、
前記正圧面と前記負圧面とに連続するように配置される前端部と、
を備えて、
複数の前記ベーンは、
複数の長ベーンと、
前記長ベーンよりも短い、少なくとも1つの短ベーンと、
を備えて、
複数の前記長ベーンは、
前記長ベーンに対応する前記短ベーンの前記正圧面側に、前記長ベーンに対応する前記短ベーンに隣り合うように配置される、少なくとも1つの特定長ベーン、
を備えて、
前記軸方向において、前記短ベーンの前記前端部は、前記長ベーンの前記前端部よりも後方向に配置されて、
前記特定長ベーンは、
前記特定長ベーンの前記正圧面と、前記特定長ベーンの前記負圧面と、に開口する連通流路、
を備える、
ディフューザ。
【請求項2】
前記短ベーンの数は、前記ベーンの総数の半数以下である、
請求項1に記載のディフューザ。
【請求項3】
複数の前記ベーンは、
複数の前記短ベーン、
を備えて、
前記外周面の周方向において、複数の前記短ベーンのうち、2つの前記短ベーン同士の間には、1つの前記長ベーンが配置される、
請求項2に記載のディフューザ。
【請求項4】
複数の前記ベーンは、
複数の前記短ベーン、
を備えて、
前記外周面の周方向において、複数の前記短ベーンのうち、2つの前記短ベーンは、隣り合うように配置される、
請求項2に記載のディフューザ。
【請求項5】
前記連通流路は、
前記負圧面に配置される出口、
を備えて、
前記出口は、上流側限界位置から下流側限界位置までの範囲内に配置されて、
前記上流側限界位置は、前記出口から流出した前記取扱液の流れが、前記特定長ベーンの前記負圧面側に配置される前記ディフューザ流路に流入する前記取扱液の流れに合流可能な位置であり、
前記下流側限界位置は、前記特定長ベーンの前記負圧面側に配置される前記ディフューザ流路において、前記取扱液の逆流により形成される渦よりも前記ディフューザ流路内の前記取扱液の流れにおける上流側の位置である、
請求項1に記載のディフューザ。
【請求項6】
前記上流側限界位置は、前記出口が、特定仮想線よりも前方向に、前記特定仮想線に隣接して配置される位置であり、
前記特定仮想線は、前記特定長ベーンに対応する前記短ベーンの前記前端部を通り、前記外周面の周方向に沿う、
請求項5に記載のディフューザ。
【請求項7】
前記短ベーンは、
前記短ベーンに対する第1ディフューザ流路内の前記取扱液の流れにおける最も上流側に位置する端面、
を備えて、
前記出口は、前記特定長ベーンに対応する前記短ベーンのうち、前記端面に最も近い位置に配置される、
請求項6に記載のディフューザ。
【請求項8】
前記短ベーンの前記前端部は、前記短ベーンの前記負圧面側に配置される前記ディフューザ流路の入口の長さに対する、前記短ベーンの前記正圧面側に配置される前記ディフューザ流路の入口の長さの比が最大になる位置から、前方向に配置される、
請求項1に記載のディフューザ。
【請求項9】
前記長ベーンそれぞれは、
前記連通流路、
を備える、
請求項1に記載のディフューザ。
【請求項10】
前記連通流路それぞれの形状は、前記連通流路を境として、前記特定長ベーンを2分割するスリット状である、
請求項1に記載のディフューザ。
【請求項11】
前記特定長ベーンは、
前記連通流路よりも前方向に配置される第1部と、
前記連通流路よりも後方向に配置される第2部と、
を備えて、
前記特定長ベーンに対応する前記短ベーンの形状は、前記第2部の形状と同じである、
請求項10に記載のディフューザ。
【請求項12】
モータと、
前記モータにより回転する回転軸と、
前記回転軸に取り付けられるインペラと、
前記回転軸の軸方向において、前記インペラと隣り合うように配置される請求項1に記載のディフューザと、
を有してなる、
遠心ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディフューザおよび遠心ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
遠心ポンプのインペラの吐出側には、インペラにより取扱液に与えられた速度エネルギーを圧力エネルギーに変換するディフューザが、取り付けられる。ディフューザは、複数のベーンを備える。ベーンは、インペラから吐出された取扱液を減速させて、増圧するための複数のディフューザ流路を形成する。ベーンの形状(すなわち、ディフューザ流路の形状)は、遠心ポンプの設計点に基づいて、設計されている。そのため、遠心ポンプが設計点よりも小流量で運転されると、ディフューザ流路内の取扱液の流れが、ベーン表面から剥離する。剥離が発生している領域が増大することにより、ディフューザ流路の流れが滞る失速が、発生する。失速は、ディフューザが備える全てのディフューザ流路に発生するのではなく、主に1つのディフューザ流路に発生する。その結果、遠心ポンプの中心軸線に対する取扱液の流れの対称性が崩れて、遠心ポンプに対して回転軸の径方向に作用する力が発生する。失速は、時間経過と共に回転軸の周方向に旋回するように、隣接するディフューザ流路へ伝播する。そのため、遠心ポンプに作用する力の向きが変化して、遠心ポンプに振動が発生する。このような現象は、旋回失速と称呼されている。
【0003】
この旋回失速を防止するため、ベーンにスリットを形成して、ベーンの長手方向において、ベーンを2つに分割する技術が、知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された技術では、遠心ポンプが小流量で運転されるとき、ベーンの強制整流力がスリットにより減少して、旋回失速の発生が抑制される。しかしながら、ベーンにスリットが形成されると、ベーンの一部が欠けることになり、ベーンによる増圧の機能が低下して、遠心ポンプの効率が僅かに低下する。近年、環境問題が取り沙汰されている中、遠心ポンプの効率の低下を抑制しつつ、旋回失速の発生を抑制する手法が望まれている。
【0006】
本発明は、遠心ポンプの効率の低下を抑制しつつ、旋回失速の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施態様におけるディフューザは、遠心ポンプの回転軸の軸方向において、インペラと隣り合うように配置されるディフューザであって、前記軸方向において、前記ディフューザに対して前記インペラが配置される方向が前方向であり、前記インペラに対して前記ディフューザが配置される方向が後方向であり、円筒状の外周面を有する流路形成部と、前記外周面に配置されて、前記外周面と共に、前記インペラから吐出された取扱液が流れる複数のディフューザ流路を区画する複数のベーンと、を有してなり、複数の前記ベーンそれぞれは、正圧面と、前記正圧面の反対側の面である負圧面と、前記正圧面と前記負圧面とに連続するように配置される前端部と、を備えて、複数の前記ベーンは、複数の長ベーンと、前記長ベーンよりも短い、少なくとも1つの短ベーンと、を備えて、 複数の前記長ベーンは、前記長ベーンに対応する前記短ベーンの前記正圧面側に、前記長ベーンに対応する前記短ベーンに隣り合うように配置される、少なくとも1つの特定長ベーン、を備えて、記軸方向において、前記短ベーンの前記前端部は、前記長ベーンの前記前端部よりも後方向に配置されて、前記特定長ベーンは、前記特定長ベーンの前記正圧面と、前記特定長ベーンの前記負圧面と、に開口する連通流路、を備える。
【0008】
本発明の一実施態様における遠心ポンプは、モータと、前記モータにより回転する回転軸と、前記回転軸に取り付けられるインペラと、前記回転軸の軸方向において、前記インペラと隣り合うように配置される上記実施態様に記載のディフューザと、を有してなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、遠心ポンプの効率の低下を抑制しつつ、旋回失速の発生を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る遠心ポンプの実施の形態を示す、遠心ポンプの模式断面図である。
【
図2】上記遠心ポンプの部分模式拡大断面図である。
【
図3】本発明に係るディフューザの実施の形態を示す、ディフューザの斜視図である。
【
図7】上記ディフューザの長ベーンおよび短ベーンの近傍を示す、上記ディフューザの部分拡大模式図である。
【
図8】上記ディフューザの短ベーンの長さの設計方法の一例を示す模式図である。
【
図9】上記ディフューザにより形成されるディフューザ流路における取扱液の流れを示す模式図である。
【
図10】本発明の実施例、参考例、および比較例の旋回失速発生流量の実測結果を示すグラフである。
【
図11】本発明の実施例、参考例、および比較例の設計点におけるポンプ効率の実測結果を示すグラフである。
【
図12】本発明の参考例の設計点における上記ディフューザ流路の流量のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
【
図13】本発明の実施例の設計点における上記ディフューザ流路の流量のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
【
図14】本発明の別の参考例の設計点における上記ディフューザ流路の流量のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
【
図15】本発明の別の実施例の設計点における上記ディフューザ流路の流量のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
【
図16】本発明のさらに別の実施例の設計点における上記ディフューザ流路の流量のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
【
図17】本発明のさらに別の参考例の設計点における上記ディフューザ流路の流量のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
【
図18】本発明の実施例の30%の流量における上記ディフューザ流路の流量のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
【
図19】本発明の別の実施例の30%の流量における上記ディフューザ流路の流量のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るディフューザおよび遠心ポンプの実施の形態が、以下に説明される。以下の説明において、各図面は、適宜参照される。各図面において、同一の部材および要素については同一の符号が付されて、重複する説明は省略される。また、各要素の寸法比率は、説明の便宜上、誇張されている場合が有り、各図面に示されている比率に限定されない。
【0012】
以下の説明において、本発明に係る遠心ポンプの一例として、サブマージドポンプが説明される。サブマージドポンプは、液化ガスが貯蔵されている貯蔵タンクに取り付けられていて、液化ガスを貯蔵タンクから外部へ送液する。すなわち、サブマージドポンプは本発明に係る遠心ポンプの一例であり、液化ガスは本発明における取扱液の一例である。
【0013】
以下の説明において、「下方向」は、重力方向であり、本発明における前方向の一例である。「上方向」は、下方向の反対方向であり、本発明における後方向の一例である。
【0014】
●遠心ポンプ●
●遠心ポンプの構成
図1は、本発明に係る遠心ポンプの実施の形態を示す、遠心ポンプの模式断面図である。同図は、遠心ポンプ1の一部の断面の図示を省略している。
【0015】
遠心ポンプ1は、貯蔵タンク(不図示。以下同じ。)内に貯蔵されている取扱液をポンプコラムC内へ吐出する。遠心ポンプ1は、貯蔵タンクの天井から貯蔵タンク内に延設されているポンプコラムCの下部に収容されていて、取扱液に浸漬されている。遠心ポンプ1の構成は、ディフューザ7(後述)の構成を除き、公知のサブマージドポンプの構成と共通している。遠心ポンプ1は、外部筐体2、モータ3、回転軸4、2つの内部筐体5(1つは不図示。以下同じ。)、2つのインペラ6(1つは不図示。以下同じ。)、および2つのディフューザ7(1つは不図示。以下同じ。)を備える。すなわち、遠心ポンプ1は、2つのインペラ6を備える2段遠心ポンプである。つまり、内部筐体5、インペラ6、およびディフューザ7は1段目のポンプ部M1を構成していて、不図示の内部筐体、インペラ、およびディフューザは2段目のポンプ部(不図示。以下同じ。)を構成している。2段目のポンプ部は、1段目のポンプ部M1の上方向に配置されている。
【0016】
外部筐体2は、モータ3、回転軸4、内部筐体5、インペラ6、およびディフューザ7を収容する。外部筐体2の形状は、上下方向に沿う略円筒状である。外部筐体2は、吸込口21および吐出口(不図示。以下同じ。)を備える。外部筐体2の下端部は、縮径されていて、吸込口21を形成している。
【0017】
以下の説明において、「上流側」は外部筐体2内を流れる取扱液の流れにおける上流側であり、「下流側」は外部筐体2内を流れる取扱液の流れにおける下流側である。
【0018】
モータ3は、所定の駆動電圧・駆動周波数で駆動して、インペラ6を回転させる。モータ3は、ロータ31およびステータ32を備える。モータ3は、回転軸4に取り付けられているロータ31、およびロータ31を回転させるステータ32を備える公知のモータである。
【0019】
回転軸4は、モータ3の回転により回転して、回転動力をインペラ6に伝達する。回転軸4の形状は、上下方向に沿う円柱状である。回転軸4の下部4aは、モータ3から下方向の内部筐体5内に向けて延出されている。
【0020】
以下の説明において、「軸方向」は、回転軸4の軸方向(上下方向)である。
【0021】
図2は、遠心ポンプ1の部分模式拡大断面図である。
同図は、取扱液の流れを矢印で示している。以下の説明において、
図1は、
図2と共に適宜参照される。
【0022】
内部筐体5は、ディフューザ7を保持していて、ディフューザ7と共にインペラ6から吐出された取扱液が流れる流路を区画している。内部筐体5の形状は、上下方向に沿う円筒の上端が内側に折り返された略二重筒状である。すなわち、内部筐体5は、円筒状の外筒部51、外筒部51の内側に配置されている円筒状の内筒部52、および外筒部51の上端と内筒部52の上端とに連結されているリング状の連結部53を備える。内部筐体5は、外部筐体2に収容されていて、外部筐体2に取り付けられている。
【0023】
インペラ6は、下方向から吸い込んだ取扱液に速度エネルギーを与えて、取扱液を径方向の外方へ吐出する。インペラ6は、外部筐体2に収容されていて、回転軸4の下部4aに取り付けられている。インペラ6は、軸方向において、吸込口21の上方向に配置されている。
【0024】
ディフューザ7は、インペラ6から吐出された取扱液を減速させて、増圧することにより、インペラ6により取扱液に与えられた速度エネルギーを圧力エネルギーに変換する。ディフューザ7は、内部筐体5に取り付けられていて、軸方向において、インペラ6の上方向に、インペラ6と隣り合うように配置されている。すなわち、ディフューザ7は、いわゆるアキシャル型のディフューザである。ディフューザ7の具体的な構成は、後述される。
【0025】
●ディフューザ●
●ディフューザの構成
図3は、本発明に係るディフューザ(ディフューザ7)の実施の形態を示す、ディフューザ7の斜視図である。
図4は、ディフューザ7の底面図である。
図5は、ディフューザ7の側面図である。
以下の説明において、
図1および
図2は、
図3~
図5と共に適宜参照される。
【0026】
ディフューザ7は、例えば、アルミニウム合金などの金属製である。ディフューザ7は、本体部8および複数(例えば、8つ)のベーン9を備える。
【0027】
本体部8の形状は、有底円筒状である。本体部8は、底部81、挿通孔82、複数(例えば、4つ)の整流板83(
図2参照。以下同じ。)、および円筒部84を備える。
【0028】
以下の説明において、「径方向」は本体部8の直径(半径)に沿う方向であり、「周方向」は本体部8の円周に沿う方向である。
【0029】
底部81の形状は、略円板状である。底部81の中央部は上方向に向けて円錐台状に突出していて、その中央には挿通孔82が配置されている。底部81の一部は上方向に向けて板状に突出していて、整流板83を形成している。
【0030】
底部81の外縁部は、上方に向けて円筒状に突出していて、円筒部84を形成している。円筒部84は、円筒状の外周面84aを備える。外周面84aの一部は、径方向に向けて突出していて、ベーン9を形成している。円筒部84は、本発明における流路形成部の一例である。
【0031】
図6は、ディフューザ7の模式展開図である。
同図は、ディフューザ7を周方向に沿って展開した状態を模式的に示している。以下の説明において、
図1~
図5は、
図6と共に適宜参照される。
【0032】
ベーン9は、外筒部51(
図2参照。以下同じ。)および円筒部84と共に、ディフューザ流路Chを区画する。ベーン9は、複数(例えば、4つ)の長ベーン91,92,93,94、および、複数(例えば、4つ)の短ベーン95,96,97,98を備える。
【0033】
下方向視において、長ベーン91~94および短ベーン95~98は、符号順に、時計回りに交互に並んで配置されている。すなわち、周方向において、長ベーン91~94および短ベーン95~98は、交互に、等間隔で円筒部84の外周面84aに配置されている。換言すれば、周方向において最も近くに配置されている短ベーン95~98同士の間には、1つの長ベーン91~94が配置されている。
【0034】
図7は、長ベーン91および短ベーン98の近傍を示す、ディフューザ7の部分拡大模式図である。同図は、ディフューザ7を周方向に沿って展開した状態の一部を模式的に示している。同図は、取扱液の流れを矢印で示している。以下の説明において、
図3~
図6は、
図7と共に適宜参照される。
【0035】
長ベーン91の形状は、円筒部84の下端部から上端部まで延びている略円弧状の板状である。長ベーン91は、正圧面91a、負圧面91b、端面91c、連通流路91d、第1部91e、および第2部91fを備える。
【0036】
下方向視において、正圧面91aは、反時計回り方向に向けられている面である。負圧面91bは、正圧面91aの反対側の面である。径方向視において、正圧面91aの形状は、凹面状である。径方向視において、負圧面91bの形状は、正圧面91aに略沿うような凸面状である。端面91cは、長ベーン91のうち、最も上流側に位置する面である。端面91cの形状は、径方向に平行で、径方向視において曲面状である。端面91cは、正圧面91aと負圧面91bとの間に、正圧面91aおよび負圧面91bに連続するように配置されている。端面91cは、本発明における「長ベーンの前端部」の一例である。
【0037】
連通流路91dは、長ベーン91の正圧面91a側に配置されている空間(第1空間)と、長ベーン91の負圧面91b側に配置されている空間(第2空間)と、に連通する、取扱液の流路である。連通流路91dの形状は、周方向に沿う(平行な)スリット状である。すなわち、連通流路91dは、正圧面91aおよび負圧面91bに開口している。連通流路91dは、長ベーン91の前部に配置されている。径方向において、連通流路91dは、内方向側の端部から外方向側の端部まで長ベーン91を横断するように、配置されている。すなわち、連通流路91dは、連通流路91dを境として、長ベーン91を2分割するように、配置されている。つまり、長ベーン91は、連通流路91dよりも下方向側(上流側)に配置されている第1部91eと、連通流路91dよりも上方向側(下流側)に配置されている第2部91fと、に分割されている。連通流路91dは、正圧面91aに配置されている(開口している)入口91g、および負圧面91bに配置されている(開口している)出口91hを備える。
【0038】
長ベーン91における連通流路91d(少なくとも、出口91h)は、上流側限界位置P1から下流側限界位置P2までの範囲内に配置されている。本実施の形態では、連通流路91dの出口91hは、長ベーン91に対応する短ベーン98の最下端(下面98d:後述)を通り、周方向に沿う仮想線C1よりも下方向に、仮想線C1に隣接して配置されている。換言すれば、出口91hは、軸方向において連通流路91dが配置されている位置と隣接する位置と、周方向において隣り合うような位置に配置されている。仮想線C1は、本発明における特定仮想線の一例である。
【0039】
「上流側限界位置P1」は、連通流路91dを通過した取扱液の流れF2がディフューザ流路Ch1に流入する取扱液の流れF1に合流可能な位置のうち、最も上流側の位置である。ここで、「流れF2が流れF1に合流可能な位置」は、流れF2の大半(例えば、80%以上)が流れF1と共にディフューザ流路Ch1に流入可能な位置、を意味する。
【0040】
「下流側限界位置P2」は、渦V(後述。以下同じ。)よりも上流側の位置のうち、最も下流側の位置である。ここで、「渦Vよりも上流側の位置」は、渦Vに基づく取扱液の流れF3が連通流路91dに直接流入しない位置、を意味する。
【0041】
なお、本発明において、長ベーン91における連通流路91d(特に、出口91h)は、好ましくは、対応する短ベーン98の端面98cに最も近い位置P3の近傍に配置されていればよく、より好ましくは、位置P3に配置されるとよい。ここで、「位置P3に配置」は、出口91hが位置P3を含むように配置されていること、を意味する。
【0042】
長ベーン92~94の構成は、長ベーン91の構成と共通する。そのため、以下の説明では、長ベーン92~94それぞれの具体的な説明は、省略される。長ベーン92は、正圧面92a、負圧面92b、端面92c、連通流路92d、第1部92e、および第2部92fを備える。長ベーン93は、正圧面93a、負圧面93b、端面93c、連通流路93d、第1部93e、および第2部93fを備える。長ベーン94は、正圧面94a、負圧面94b、端面94c、連通流路94d、第1部94e、および第2部94fを備える。
【0043】
短ベーン95の形状は、円筒部84の下端部から上端部まで延びている略円弧状の板状である。短ベーン95は、長ベーン91が長ベーン91の端面91cから上方向に向けて所定の長さ位置(仮想線C1の位置)においてカットされたような形状を有している。ここで、「所定の長さ位置」は、連通流路91dが配置されている位置である。したがって、短ベーン95の形状は、長ベーン91の第2部91fの形状と同じである。短ベーン95は、正圧面95a、負圧面95b、端面95c、および下面95dを備える。
【0044】
下方向視において、正圧面95aは、反時計回り方向に向けられている面である。負圧面95bは、正圧面95aの反対側の面である。径方向視において、正圧面95aの形状は、凹面状である。径方向視において、負圧面95bの形状は正圧面95aに略沿うような凸面状である。端面95cは、短ベーン95のうち、最も上流側に位置する面である。端面95cは、正圧面95aと下面95dとの間に、正圧面95aと下面95dとに連続するように配置されている。端面95cの形状は、径方向に平行な曲面状である。下面95dは、下方向に向けられる面である。下面95dの形状は、周方向および径方向に平行な平面状である。下面95dは、負圧面95bと端面95cとの間に、負圧面95bと端面95cとに連続するように配置されている。軸方向において、端面95cおよび下面95dは、端面91c~94cよりも上方向に配置されている。端面95cおよび下面95dは、本発明における「短ベーンの前端部」の一例である。
【0045】
図8は、端面95cおよび下面95dの位置(すなわち、短ベーン95の長さ)の設計方法の一例を示す、ディフューザ7の模式図である。
同図の破線は、短ベーン95の端面95cおよび下面95dの位置を示している。以下の説明において、
図3~
図7は、
図8と共に適宜参照される。
【0046】
端面95cおよび下面95dの位置(すなわち、短ベーン95の長さ)は、第1長さL1に対する第2長さL2の比(L2/L1:以下「スロート比」という。)に基づいて、設計されている。
【0047】
「第1長さL1」は、短ベーン95の負圧面95b側に配置されているディフューザ流路Ch(ディフューザ流路Ch2)の入口Chiの径方向視における長さである。「入口Chi」は、ディフューザ流路Chのうち、最も狭くなる部分である。ディフューザ流路Ch内の取扱液の流れる方向に垂直な横断面積は、入口Chiにおいて最も小さくて、横断面積の位置が下流側に向かうにつれて大きくなる。下面95dが端面91cよりも上流側に位置しているとき、第1長さL1は、端面91cと負圧面95bとを最短距離で結ぶ仮想線分の長さである。下面95dが端面91cよりも下流側に位置しているとき、第1長さL1は、正圧面91aと、負圧面95bと下面95dとの境界部と、を最短距離で結ぶ仮想線分の長さである。第1長さL1は、端面95cの位置に応じて変化する。
【0048】
「第2長さL2」は、短ベーン95の正圧面95a側に配置されているディフューザ流路Ch(ディフューザ流路Ch3)の入口Chiの長さである。第2長さL2は、端面95cと負圧面92bとを最短距離で結ぶ仮想線分の長さである。第2長さL2は、端面95cの位置に応じて変化する。
【0049】
スロート比は、短ベーン95における端面95cおよび下面95dの位置が下流側に向かうにつれて増加して(「1」より大きくなり)、同位置が所定の位置に位置(以下「最大位置」という。)しているときに最大となり、同位置が最大位置よりも下流側に向かうにつれて減少する。端面95cおよび下面95dの位置は、スロート比が「1」以上であり、かつ、ディフューザ7に必要な静圧能力が維持可能な位置であればよい。同位置は、好ましくは、短ベーン95に対応する長ベーン92の端面92cの位置よりも上方向であり、かつ、最大位置までの範囲内に位置していればよく、より好ましくは、最大位置であるとよい。
【0050】
短ベーン96~98の構成は、短ベーン95の構成と共通する。そのため、以下の説明では、短ベーン96~98それぞれの具体的な説明は、省略される。短ベーン96は、正圧面96a、負圧面96b、端面96c、および下面96dを備える。短ベーン97は、正圧面97a、負圧面97b、端面97c、および下面97dを備える。短ベーン98は、正圧面98a、負圧面98b、端面98c、および下面98dを備える。
【0051】
各ベーン9のうち、長ベーン91~94は、それぞれの負圧面91b~94b側に、隣り合うように配置されている短ベーン95~98に対応している。したがって、長ベーン91~94は、対応する短ベーン95~98の正圧面95a~98a側に、対応する短ベーン95~98に隣り合うように配置されている。すなわち、長ベーン91は短ベーン98に対応していて、長ベーン92は短ベーン95に対応していて、長ベーン93は短ベーン96に対応していて、長ベーン94は短ベーン97に対応している。すなわち、長ベーン91~94は、本発明における特定長ベーンの一例である。
【0052】
本体部8は、挿通孔82に回転軸4の下部4aが挿通された状態で、内部筐体5に取り付けられている。このとき、内部筐体5の外筒部51は、円筒部84の外周面84aに対向するように、円筒部84に対して径方向の外方に配置されている。すなわち、周方向において、隣り合う長ベーン91~94と短ベーン95~98との間の空間は、外筒部51により覆われている。その結果、対向する正圧面91a~98aおよび負圧面91b~98b、外周面84a、および外筒部51は、インペラ6から吐出された取扱液を減速して、増圧するディフューザ流路Chを形成している。換言すれば、ベーン9は、内部筐体5および円筒部84の外周面84aと共に、ディフューザ流路Chを区画している。以下の説明において、ディフューザ流路Chそれぞれが特に区別されるとき、これらの末尾には符号「1」~「8」が付記される。
【0053】
ディフューザ流路Ch1は、長ベーン91と短ベーン98との間に配置されている。ディフューザ流路Ch2は、長ベーン91と短ベーン95との間に配置されている。ディフューザ流路Ch3は、長ベーン92と短ベーン95との間に配置されている。ディフューザ流路Ch4は、長ベーン92と短ベーン96との間に配置されている。ディフューザ流路Ch5は、長ベーン93と短ベーン96との間に配置されている。ディフューザ流路Ch6は、長ベーン93と短ベーン97との間に配置されている。ディフューザ流路Ch7は、長ベーン94と短ベーン97との間に配置されている。ディフューザ流路Ch8は、長ベーン94と短ベーン98との間に配置されている。
【0054】
長ベーン91~94および短ベーン95~98それぞれに対して正圧面91a~98a側に配置されるディフューザ流路Chは、正圧面側ディフューザ流路として機能している。長ベーン91~94および短ベーン95~98それぞれに対して負圧面91b~98b側に配置されるディフューザ流路Chは、負圧面側ディフューザ流路として機能している。すなわち、例えば、ディフューザ流路Ch2は、長ベーン91に対する正圧面側ディフューザ流路として機能していて、短ベーン95に対する負圧面側ディフューザ流路として機能している。換言すれば、ディフューザ流路Chは、正圧面側ディフューザ流路および負圧面側ディフューザ流路を含む。
【0055】
また、内部筐体5の連結部53はベーン9および円筒部84の上方向に配置されていて、径方向において、内部筐体5の内筒部52は円筒部84の内方向に配置されている。その結果、内筒部52、連結部53、および円筒部84は、ディフューザ流路Chから流出した取扱液を円筒部84の内側に導く流路を形成している。また、底部81、整流板83、および内筒部52は、円筒部84の内側に導かれた取扱液を2段目のポンプ部に導く流路を形成している。
【0056】
2段目のポンプ部の構成は、1段目のポンプ部M1の構成と共通している。そのため、2段目のポンプ部を構成している不図示の内部筐体、インペラ、およびディフューザの説明は、省略される。
【0057】
●遠心ポンプの動作
次に、遠心ポンプ1の動作が、ディフューザ7(特に、長ベーン92および短ベーン95近傍)における取扱液の流れを中心に、以下に説明される。以下の説明において、
図1~
図8は、適宜参照される。
【0058】
図9は、ディフューザ流路Chにおける取扱液の流れを説明する模式図である。
同図は、取扱液の流れを矢印で示している。同図は、ディフューザ7を周方向に沿って展開した状態の一部を模式的に示している。
【0059】
インペラ6に吸い込まれた取扱液は、インペラ6から径方向の外方に向けて吐出される。インペラ6から吐出された取扱液は、外部筐体2により上方向へと流れの向きを変えられて、周方向に旋回しながら各ディフューザ流路Chに流入する。
【0060】
遠心ポンプ1が設計点で動作しているとき、ディフューザ流路Chに流入する取扱液の流入角度「α」は、長ベーン91~94の入口角度「β1」に対して、設計上の適切な角度(例えば、α≒β1:迎え角が数度となる範囲)に近くなるように調整されている。前述のとおり、短ベーン95の形状は、長ベーン92の第2部92fの形状と同じである。そのため、短ベーン95~98の入口角度「β2」は、長ベーン91~94の入口角度「β1」よりも僅かに(例えば、1°~10°程度)大きい。
【0061】
取扱液は、ディフューザ流路Ch2,Ch3に流入する。前述のとおり、短ベーン95の負圧面95b側には長ベーン91が配置されていて、正圧面95a側には長ベーン92が配置されている。そのため、短ベーン95の正圧面95a側のディフューザ流路Ch3の入口Chiは、同負圧面95b側のディフューザ流路Ch2の入口Chiよりも大きい。その結果、ディフューザ流路Ch3に流入する取扱液の流量は、ディフューザ流路Ch2に流入する取扱液の流量よりも多い。換言すれば、ディフューザ7において、ディフューザ流路Ch3に流入する取扱液の流量は、ディフューザ流路Ch2に流入する取扱液の流量よりも多くなるように(大流量に)設計されている。
【0062】
取扱液の一部は、連通流路92dにも流入する。出口92hからディフューザ流路Ch3の入口Chiよりも上流側に流出した取扱液の流れF2は、同上流側でディフューザ流路Ch3に流入する取扱液の流れF1に合流する。そのため、ディフューザ流路Ch3に流入する取扱液の流量は、その合流分、増加する。ディフューザ流路Ch2,Ch3に流入した取扱液は、ディフューザ流路Ch2,Ch3を通過することにより減速されて、増圧される。
図2に示されるとおり、ディフューザ流路Ch2,Ch3を通過した取扱液は、内筒部52、連結部53、底部81、および円筒部84により構成されている各流路に導かれて、2段目のポンプ部に導入される。2段目のポンプ部から吐出された取扱液は、吐出口からポンプコラムC内に吐出されて、ポンプコラムC内を上方向へ向けて流れる。
【0063】
連通流路92dの入口92gは、正圧面92aに開口している。そのため、ディフューザ流路Ch4に流入する取扱液の一部は、連通流路92dに流入する。その結果、ディフューザ流路Ch4における取扱液の増圧の効果は、僅かに減少し得る。また、ディフューザ流路Ch3に流入する取扱液の流れは、僅かに乱され得る。しかし、ディフューザ流路Ch3は、大流量となるように設計されている。そのため、ディフューザ流路Ch3に流入する取扱液の流れF1に対する連通流路92dからの取扱液の流れF2の影響は、軽減される。その結果、遠心ポンプ1のポンプ効率は、連通流路が形成されていない従来のベーンのみを備える従来の遠心ポンプ(以下「従来ポンプA」という。)のポンプ効率、および、連通流路が形成されているベーン(長ベーン)のみを備える従来の遠心ポンプ(以下「従来ポンプB」という。)のポンプ効率よりも向上する。
【0064】
次に、遠心ポンプ1が設計点よりも小流量で動作しているとき、ディフューザ流路Chへ流入する取扱液の流入角度「α」は小さくなり、流入角度「α」と入口角度「β1」「β2」との間の差異が大きくなる(迎え角が大きくなる)。その結果、負圧面92b,95bに接している領域では、負圧面92b,95bにおける上流側の端部を起点として、取扱液の剥離が発生する。
【0065】
一般的に、迎え角が大きくなり、剥離が発生すると、剥離が発生している領域(以下「剥離領域」という。)は時間経過と共に増大する。このとき、剥離が発生しているディフューザ流路Chにおける下流側では、剥離が発生しているディフューザ流路Chに対して負圧面91b~98b側に配置されている隣のディフューザ流路Chから流出した取扱液の一部が逆流したかのような現象も発生している。このとき、ディフューザ流路Chの下流側には、逆流により渦Vが形成される。最終的には、ディフューザ流路Chは剥離領域で塞がれて、ディフューザ流路Chの流れが滞る失速が発生し得る。
【0066】
本実施の形態では、ディフューザ流路Ch3に流入する取扱液の流量は、短ベーン95および連通流路92dにより増加している。すなわち、ディフューザ流路Ch3では、取扱液の流れは、強い。そのため、ディフューザ流路Ch3で剥離が発生しても、剥離領域は増大せず、ディフューザ流路Ch3は剥離領域で塞がれない。また、ディフューザ流路Ch3から流出した取扱液のディフューザ流路Ch3の下流側への流れは、強くなる。そのため、ディフューザ流路Ch3から流出した取扱液のディフューザ流路Ch2の下流側への流入(逆流)も、抑制される。その結果、ディフューザ流路Ch2では、剥離領域はディフューザ流路Ch2を塞ぐほどまでに増大せず、ディフューザ流路Ch2は剥離領域で塞がれない。
【0067】
また、ディフューザ流路Ch3では、逆流による渦Vが、形成される。この渦Vの位置は、遠心ポンプ1の流量の増減による影響をあまり受けず、同流量に依らず略同じである。前述のとおり、連通流路92dは、渦Vよりも上流側に配置されている。そのため、渦Vに基づく取扱液の流れF3は、連通流路91dに直接流入しない。したがって、連通流路91dは流れF3により塞がれず、流れF2は流れF3に阻害されない。
【0068】
さらに、連通流路92dから流出した取扱液は、剥離領域の一部を整流して、剥離領域の増大を抑制する。その結果、剥離領域の大きさは、失速を発生させない程度の大きさに抑え込まれる。したがって、旋回失速の発生は、抑制される。ここで、取扱液の一部は、短ベーン95の端面95cに衝突する。このとき、端面95cの周囲の液圧は、低下する。そのため、出口92hの位置が端面95cに近いほど、取扱液は、連通流路92dから流出し易くなり、連通流路92dに流入し易くなる。
【0069】
●実施例●
次に、本発明の実施例が、参考例および比較例と共に、以下に説明される。以下の各実施例では、ポンプ装置の一部の構成が、遠心ポンプ1の構成と異なる。そのため、各構成に付される符号は、ディフューザ流路Chを除き、省略される。
●実施例1~3(旋回失速発生流量およびポンプ効率の比較)
図10は、本発明の実施例、参考例、および比較例の旋回失速発生流量の実測結果を示すグラフである。
図11は、本発明の実施例、参考例、および比較例の設計点におけるポンプ効率の実測結果を示すグラフである。
図10において、「旋回失速発生流量」は、設計点の流量を100%としたとき、旋回失速が発生する流量の設計点の流量に対する割合である。
【0070】
これらの図において、実施例1~3では、短ベーンの数は、1つ、2つ、および3つの3種に設定されている。軸方向において、短ベーンの下面の位置は、長ベーンの最下端(長ベーンにおける最も上流側の端:ディフューザの円筒部の下端)から11mm(スロート比:2.61)の位置と同じ位置に設定されている。ここで、連通流路の幅は2mmに設定されていて、軸方向における円筒部の長さは76mmに設定されている。軸方向において、連通流路の上端部の位置は、短ベーンの下面の位置と同じ位置に設定されている。参考例1~4,8では、短ベーンの数は、1つ、2つ、3つ、4つ、および8つの5種に設定されている。連通流路は、配置されていない。比較例1では、短ベーンおよび連通流路は、配置されていない。すなわち、比較例1のポンプ装置は、従来ポンプAと同じである。比較例2では、短ベーンは配置されていない。連通流路の幅は、2mmに設定されている。すなわち、比較例2のポンプ装置は、従来ポンプBと同じである。
【0071】
図10に示されるとおり、実施例1~2では、旋回失速は、流量が0%(ポンプ装置の吐出側が締め切られた状態)でも発生しなかった。すなわち、旋回失速は、生じなかった。実施例3では、旋回失速発生流量が、2%まで低減された。一方、比較例1では、旋回失速は、流量が50%以下で発生した。比較例2では、旋回失速発生流量は比較例1よりも低減されたが、旋回失速は、流量が44%以下で発生した。
【0072】
なお、参考例1~4,8は、短ベーンの数がディフューザ流路Chの流れに与える影響を検証したものである。参考例1~4に示されるとおり、短ベーンの数が1つ~3つでは、旋回失速発生流量が、8%まで低減された。短ベーンの数が4つでも、旋回失速発生流量が、14%まで低減された。一方、参考例8に示されるとおり、短ベーンの数が8つ、すなわち、全てのベーンが短ベーンであるとき、旋回失速は、設計点近傍の流量(90%)で発生した。これらの現象は、短ベーンの数が増えるにつれて設計点となる流量が増加して、短ベーンの数がベーンの総数の半数を超えると、設計点が短ベーンに応じた大流量に変化する(取扱液の流れに対する短ベーンの影響が長ベーンの影響よりも支配的になる)ことにより、生じているものと推測される。したがって、旋回失速を抑制するためには、短ベーンの数は、好ましくは、ベーンの総数の半数以下であるとよい。
【0073】
図11に示されるとおり、実施例1~3では、ポンプ効率は、短ベーンの数が増加するにつれて増加して、比較例1~2のポンプ効率よりも増加した。参考例1~4,8では、ポンプ効率は、短ベーンの数が3つまでは短ベーンの数が増加するにつれて増加して、その後、短ベーンの数が増加するにつれて減少した。ポンプ効率は、短ベーンの数が4つまでは、比較例1~2のポンプ効率よりも増加した。ベーンが連通流路を備えることにより、ポンプ効率は、僅かに低下した。
【0074】
これらの結果から、本発明は、短ベーンと連通流路とを組み合わせることにより、従来ポンプA,Bよりも、遠心ポンプの効率の低下を抑制しつつ、旋回失速の発生を抑制できた。
【0075】
●参考例1~8(ディフューザ流路の流量の比較:設計点)
図12は、本発明の参考例(参考例1~8)の設計点における各ディフューザ流路の流量のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
同図は、説明の便宜上、各ディフューザ流路に「Ch1~Ch8」の符号を付している(
図13~
図19も同じ。)。同図は、短ベーンの位置を太い破線で示している(
図13~
図19も同じ。)。同図は、比較対象として、比較例1の結果も示している。同図において、縦軸は、各ディフューザ流路Ch1~Ch8の下流端において、各ディフューザ流路Ch1~Ch8の周方向に沿う断面を、軸方向に通過する取扱液の流量である(
図13~
図19も同じ)。参考例5~7では、短ベーンの数は、5つ、6つ、および7つの3種に設定されている。連通流路は、配置されていない。
【0076】
図12に示されるとおり、短ベーンの数が4つ以下のとき(短ベーンの数がベーンの総数の半数以下のとき)、短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch1,Ch3,Ch5,Ch7の流量が増加して、短ベーンの負圧面側に配置されているディフューザ流路Ch2,Ch4,Ch6,Ch8の流量が減少する、という傾向が、確認された。一方、短ベーンの数が5つ以上のとき(短ベーンの数がベーンの総数より多いとき)、前述の傾向にばらつきが確認された。この結果は、ディフューザ流路Ch1~Ch8の流量の制御には、短ベーンの数はベーンの総数の半数以下である方が好ましいこと、を示している。
【0077】
●実施例1~3(ディフューザ流路の流量の比較:設計点)
図13は、本発明の実施例1~3の設計点における各ディフューザ流路の流量のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
同図は、比較対象として、参考例1~3の結果も示している。
【0078】
図13に示されるとおり、実施例1~3のディフューザ流路Ch3,Ch5,Ch7の流量は、比較例1~3のディフューザ流路Ch3,Ch5,Ch7の流量よりも、増加した。すなわち、この結果は、短ベーンに対応する長ベーンに連通流路が配置されることにより、短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch3,Ch5,Ch7の流量が増加すること、を示している。
【0079】
●参考例9(ディフューザ流路の流量の比較:設計点)
図14は、本発明の別の参考例(参考例9)の設計点における各ディフューザ流路の流量のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
同図は、比較対象として、参考例2の結果も示している。参考例9では、短ベーンの数は2つであり、それぞれが隣り合うように配置されている。
【0080】
図14に示されるとおり、短ベーンと長ベーンとの間に配置されているディフューザ流路Ch5の流量は参考例2の同流量よりも増加したが、短ベーンと短ベーンとの間に配置されているディフューザ流路Ch4の流量は参考例2の同流量よりも減少した。この結果は、2つの短ベーンが隣り合うように配置されても特定のディフューザ流路Ch5の流量は増加すること、および、2つの短ベーンの間に1つの長ベーンが配置される方が好ましいこと、を示している。
【0081】
●実施例4(ディフューザ流路の流量の比較:設計点)
図15は、本発明の別の実施例(実施例4)の設計点における各ディフューザ流路の流量のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
同図は、比較対象として、実施例3の結果も示している。実施例4では、3つの短ベーンが、長ベーンと交互に配置されている。連通流路の出口は、実施例3の位置よりも下流側(位置P3)に配置されている。
【0082】
図15に示されるとおり、連通流路の出口が対応する短ベーンの下端部に最も近い位置に位置することにより、短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch3,Ch5,Ch7の流量は、僅かに増加した。この結果は、連通流路の出口が位置P3に近づくことにより、短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch3,Ch5,Ch7の流量が増加すること、を示している。
【0083】
●実施例5~10(ディフューザ流路の流量の比較:設計点)
図16は、本発明のさらに別の実施例(実施例5~10)の設計点における各ディフューザ流路の流量のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
同図は、比較対象として、実施例1,3の結果も示している。実施例5~7では、短ベーンの数は、1つである。実施例8~10では、短ベーンの数は、3つである。実施例5~10では、軸方向において、短ベーンの下面の位置は、長ベーンの最下端から5,5mm(スロート比:1.83)、22mm(スロート比:2.38)、および33mm(スロート比:2.22)の位置と同じ位置に配置されている。
【0084】
図16に示されるとおり、実施例1,5~7では、短ベーンの下面の位置が5,5mm~33mmまでの範囲内において、短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch3の流量は、他のディフューザ流路Chの流量よりも増加した。同様に、実施例3,8~10では、短ベーンの下面の位置が5,5mm~33mmの範囲内において、短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch3,Ch5,C7の流量は、他のディフューザ流路Chの流量よりも増加した。また、実施例1,5~7では、短ベーンの下面の位置が5,5mmから11mmに移動すると(短ベーンが短くなると)、ディフューザ流路Ch3の流量は、増加した。短ベーンの下面の位置が11mmおよび22mmでは、ディフューザ流路Ch3の流量は、略同じであった。短ベーンの下面の位置が22mmから33mmに移動すると(短ベーンが短くなると)、ディフューザ流路Ch3の流量は、減少した。一方、実施例3,8~10では、短ベーンの下面の位置が5,5mmから11mmに移動すると、短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch3,Ch5,Ch7の流量は、僅かに増加した。短ベーンの下面の位置が11mm~33mmの範囲内において、短ベーンの下面の位置が上方向に移動するにつれて、ディフューザ流路Ch3,Ch5,Ch7の流量は、減少した。短ベーンの下面の位置が22mmから33mmに移動したときの短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch3(Ch3,Ch5,Ch7)の流量の減少率は、短ベーンの数が増加するにつれて、減少した。ここで、スロート比は、短ベーンの下面の位置が長ベーンの最下端から11mm以上16.5mm以下の範囲内において、最大値となる。これらの結果は、短ベーンの下面の位置は、スロート比が最大となる最大位置、または、最大位置よりも下方向(上流側)であれば、短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch3,Ch5,Ch7の流量が増加すること、を示している。また、これらの結果は、短ベーンの下面の位置が最大位置よりも上方向(下流側)に位置していても、スロート比が2以上であれば、短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch3,Ch5,Ch7の流量が増加すること、を示している。
【0085】
●参考例10~15(ディフューザ流路の流量の比較:設計点)
図17は、本発明のさらに別の参考例(参考例10~15)の設計点における各ディフューザ流路の流量のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
同図は、比較対象として、参考例1,3の結果も示している。参考例10~12では、短ベーンの数は、1つである。参考例13~15では、短ベーンの数は、3つである。参考例10~15では、軸方向において、短ベーンの下面の位置は、長ベーンの最下端から5,5mm(スロート比:1.83)、22mm(スロート比:2.38)、および33mm(スロート比:2.22)の位置と同じ位置に配置されている。
【0086】
図17に示されるとおり、参考例1,10,11では、短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch3の流量は、略同じであった。一方、参考例12では、同流量は、参考例1,10,11の同流量よりも大きく減少した。参考例3,13~15では、短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch3,Ch5,Ch7の流量は、短ベーンの下面の位置が上方向に移動するにつれて、減少した。特に、同流量は、短ベーンの下面の位置が長ベーンの最下端から22mm以上において、大きく減少した。短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch3(Ch3,Ch5,Ch7)の流量は、実施例5~10の同流量と比較して、減少した。この結果は、短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch3(Ch3,Ch5,Ch7)の流量が、連通流路により増加すること、を示している。
【0087】
●実施例1~3(ディフューザ流路の流量の比較:30%の流量)
図18は、本発明の実施例1~3の30%の流量における各ディフューザ流路の流量のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
同図は、比較対象として、参考例1~3および比較例1の結果も示している。
【0088】
図18に示されるとおり、実施例1~3では、短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch3,Ch5,Ch7の流量は、短ベーンの負圧面側に配置されているディフューザ流路Ch2,Ch4,Ch6の流量よりも増加した。一方、参考例1~3では、参考例3以外では、同流量の増加は、得られなかった。この結果は、短ベーンに対応する長ベーンに連通流路が配置されることにより、小流量でも、短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch3,Ch5,Ch7の流量が増加すること、を示している。
【0089】
●実施例4(ディフューザ流路の流量の比較:30%の流量)
図19は、本発明の別の実施例(実施例4)の30%の流量における各ディフューザ流路の流量のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
同図は、比較対象として、実施例3の結果も示している。
【0090】
図19に示されるとおり、連通流路の出口が対応する短ベーンの下端部に最も近い位置に位置することにより、短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch3,Ch5,Ch7の流量は、30%の流量でも、僅かに増加した。この結果は、連通流路の出口が位置P3に近づくことにより、小流量でも、短ベーンの正圧面側に配置されているディフューザ流路Ch3,Ch5,Ch7の流量が増加すること、を示している。
【0091】
●まとめ
以上説明された実施の形態によれば、ディフューザ7のベーン9は、長ベーン91~94および短ベーン95~98を備える。長ベーン91~94それぞれは、対応する短ベーン95~98の正圧面95a~98a側に、対応する短ベーン95~98に隣り合うように配置されている。軸方向において、短ベーン95~98の端面95c~98cおよび下面95d~98dは、長ベーン91~94の端面91c~94cよりも上方向に配置されている。長ベーン91~94は、正圧面91a~94aおよび負圧面91b~94bに開口する連通流路91d~94dを備える。
【0092】
この構成によれば、短ベーン95~98の正圧面95a~98a側に配置されているディフューザ流路Ch1,Ch3,Ch5,Ch7に流入する取扱液の流量は、増加する。そのため、ディフューザ流路Ch1,Ch3,Ch5,Ch7で剥離が発生しても、剥離領域は増大せず、ディフューザ流路Ch1,Ch3,Ch5,Ch7は剥離領域で塞がれない。ディフューザ流路Ch1,Ch3,Ch5,Ch7から流出した取扱液のディフューザ流路Ch2,Ch4,Ch6,Ch8の下流側への流入(逆流)も、抑制される。その結果、ディフューザ流路Ch2,Ch4,Ch6,Ch8では、剥離領域はディフューザ流路Ch2,Ch4,Ch6,Ch8を塞ぐほどまでに増大せず、ディフューザ流路Ch2,Ch4,Ch6,Ch8は剥離領域で塞がれない。
【0093】
また、ディフューザ流路Ch1,Ch3,Ch5,Ch7は、大流量となるように設計されている。そのため、ディフューザ流路Ch1,Ch3,Ch5,Ch7に流入する取扱液の流れF1に対する連通流路91d~94dからの取扱液の流れF2の影響は、軽減される。その結果、遠心ポンプ1のポンプ効率は、従来ポンプA,Bよりも向上する。
【0094】
このように、遠心ポンプ1では、効率の低下が抑制されつつ、旋回失速の発生が抑制される。
【0095】
また、以上説明された実施の形態によれば、短ベーン95~98の数は、ベーン9の総数の半数(以下)である。この構成によれば、取扱液の流れに対する長ベーン91~94の影響は、短ベーン95~98の影響よりも支配的になる。そのため、設計点は、長ベーンに応じた流量に設定できる。また、設計点におけるディフューザ流路Chの流量の制御は、容易になる。
【0096】
さらに、以上説明された実施の形態によれば、周方向において、各短ベーン95~98同士の間には、1つの長ベーン91~94が配置されている。この構成によれば、短ベーン95~98の正圧面95a~98a側のディフューザ流路Ch1,Ch3,Ch5,Ch7の流量は、確実に増加する。
【0097】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、連通流路91d~94dの出口91h~94hは、上流側限界位置P1から下流側限界位置P2までの範囲内に配置されている。この構成によれば、流れF2は、流れF1に確実に合流する。そのため、短ベーン95~98の正圧面95a~98a側のディフューザ流路Ch1,Ch3,Ch5,Ch7の流量は、流れF2により、確実に増加する。また、連通流路91d~94dは、渦Vに基づく流れにより塞がれない。
【0098】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、連通流路91d~94dの出口91h~94hは、仮想線C1よりも下方向に、仮想線C1に隣接して配置されている。この構成によれば、流れF2は、流れF1に確実に合流する。そのため、短ベーン95~98の正圧面95a~98a側のディフューザ流路Ch1,Ch3,Ch5,Ch7の流量は、流れF2により、確実に増加する。
【0099】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、短ベーン95~98の端面95c~98cおよび下面95d~98dは、スロート比が最大になる位置よりも前方向に配置されている。この構成によれば、ディフューザ7に必要な静圧能力は、確実に維持される。また、流れF2は、流れF1に確実に合流する。そのため、短ベーン95~98の正圧面95a~98a側のディフューザ流路Ch1,Ch3,Ch5,Ch7の流量は、確実に増加する。
【0100】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、長ベーン91~94それぞれは、連通流路91d~94dを備える。この構成によれば、流れF2は、全ての長ベーン91~94の負圧面91b~94b側のディフューザ流路Ch1,Ch3,Ch5,Ch7に流入する流れF1に合流する。そのため、ディフューザ流路Ch1,Ch3,Ch5,Ch7の流量は、確実に増加する。
【0101】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、連通流路91d~94dそれぞれの形状は、連通流路91d~94dを境として、長ベーン91~94を2分割するスリット状である。この構成によれば、既存のディフューザのベーンに対してスリットが形成されるだけで、連通流路91d~94dは、容易に形成可能である。
【0102】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、長ベーン91~94は、連通流路91d~94dよりも下方向に配置されている第1部91e~94e、および連通流路91d~94dよりも上方向に配置されている第2部91f~94fを備える。短ベーン95~98の形状は、第2部91f~94fの形状と同じである。この構成によれば、既存のディフューザのベーンの一部(第1部91e~94eおよび連通流路91d~94dに相当する部分)が除去されるだけで、短ベーン95~98は、容易に形成可能である。
【0103】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、遠心ポンプ1は、ディフューザ7を備える。この構成によれば、遠心ポンプ1では、効率の低下が抑制されつつ、旋回失速の発生が抑制される。
【0104】
●その他の実施形態●
なお、本発明において、遠心ポンプ1は、2段目のポンプ部を備えていなくてもよく、または、3段目以上のポンプ部を備えていてもよい。
【0105】
また、本発明において、ベーン9の数は、「8」に限定されない。
【0106】
さらに、本発明において、複数の長ベーン91~94のうち、短ベーン95~98のいずれかに対応する少なくとも1つの長ベーン91~94が連通流路91d~94dを備えていればよく、一部の長ベーン91~94は連通流路91d~94dを備えていなくてもよい。
【0107】
さらにまた、本発明において、連通流路91d~94dの形状は、スリット状に限定されない。すなわち、例えば、連通流路91d~94dの形状は、長ベーン91~94を貫通する1つ以上の管状(貫通孔)でもよい。
【0108】
さらにまた、本発明において、連通流路91d~94dは、周方向に平行に配置されていなくてもよい。
【0109】
さらにまた、本発明において、軸方向における連通流路91d~94dそれぞれの位置は、異なっていてもよい。
【0110】
さらにまた、本発明において、短ベーン95~98の数は、ベーン9の総数の半数以下であればよく、「4」に限定されない。すなわち、例えば、短ベーン95~98の数は、「1」~「3」でもよい。
【0111】
さらにまた、本発明において、短ベーン95~98の端面95c~98cおよび下面95d~98dの位置(短ベーン95~98の長さ)は、本実施の形態の位置に限定されない。
【0112】
さらにまた、本発明において、短ベーン95~98の下面95d~98dの形状は、周方向および径方向に平行な平面状に限定されない。すなわち、例えば、下面95d~98dの形状は、下方向に凸の曲面状でもよい。
【0113】
さらにまた、本発明において、短ベーン95~98のうち、2つ以上の短ベーン95~98は、隣り合うように配置されていてもよい。
【0114】
さらにまた、本発明において、短ベーン95~98それぞれの長さは、異なっていてもよい。
【0115】
さらにまた、本発明において、ディフューザ流路Chは、ディフューザ流路Ch内の下流側において、周方向に2つに分割されていてもよい。
【0116】
さらにまた、本発明において、ディフューザ流路Chは、ディフューザ流路Chの下流側において、隣り合うディフューザ流路Chと合流していてもよい。
【0117】
●本発明の実施態様●
次に、以上説明された各実施形態から把握される本発明の実施態様が、各実施形態において記載された用語と符号とを援用しつつ、以下に記載される。
【0118】
本発明の第1の実施態様は、遠心ポンプ(例えば、遠心ポンプ1)の回転軸(例えば、回転軸4)の軸方向において、インペラ(例えば、インペラ6)と隣り合うように配置されるディフューザ(例えば、ディフューザ7)であって、前記軸方向において、前記ディフューザに対して前記インペラが配置される方向が前方向(例えば、下方向)であり、前記インペラに対して前記ディフューザが配置される方向が後方向(例えば、上方向)であり、円筒状の外周面(例えば、外周面84a)を有する流路形成部(例えば、円筒部84)と、前記外周面に配置されて、前記外周面と共に、前記インペラから吐出された取扱液が流れる複数のディフューザ流路(例えば、ディフューザ流路Ch)を区画する複数のベーン(例えば、ベーン9)と、を有してなり、複数の前記ベーンそれぞれは、正圧面(例えば、正圧面91a~98a)と、前記正圧面の反対側の面である負圧面(例えば、負圧面91b~98b)と、前記正圧面と前記負圧面とに連続するように配置される前端部(例えば、端面91c~98c、下面95d~98d)と、を備えて、複数の前記ベーンは、複数の長ベーン(例えば、長ベーン91~94)と、前記長ベーンよりも短い、少なくとも1つの短ベーン(例えば、短ベーン95~98)と、を備えて、複数の前記長ベーンは、前記長ベーンに対応する前記短ベーンの前記正圧面側に、前記長ベーンに対応する前記短ベーンに隣り合うように配置される、少なくとも1つの特定長ベーン(例えば、長ベーン91~94)、を備えて、前記軸方向において、前記短ベーンの前記前端部は、前記長ベーンの前記前端部よりも後方向に配置されて、前記特定長ベーンは、前記特定長ベーンの前記正圧面と、前記特定長ベーンの前記負圧面と、に開口する連通流路(例えば、連通流路91d~94d)、を備える、ディフューザである。
この構成によれば、遠心ポンプにおいて、効率の低下が抑制されつつ、旋回失速の発生が抑制される。
【0119】
本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様において、前記短ベーンの数は、前記ベーンの総数の半数以下である、ディフューザである。
この構成によれば、設計点におけるディフューザ流路の流量の制御は、容易になる。
【0120】
本発明の第3の実施態様は、第2の実施態様において、複数の前記ベーンは、複数の前記短ベーン、を備えて、前記外周面の周方向において、複数の前記短ベーンのうち、2つの前記短ベーン同士の間には、1つの前記長ベーンが配置される、ディフューザである。
この構成によれば、短ベーンの正圧面側のディフューザ流路の流量は、確実に増加する。
【0121】
本発明の第4の実施態様は、第2の実施態様において、複数の前記ベーンは、複数の前記短ベーン、を備えて、前記外周面の周方向において、複数の前記短ベーンのうち、2つの前記短ベーンは、隣り合うように配置される、ディフューザである。
この構成によれば、短ベーンの正圧面側のディフューザ流路の流量は、連通流路から流出する流れにより、確実に増加する。
【0122】
本発明の第5の実施態様は、第1の実施態様において、前記連通流路は、前記負圧面に配置される出口(例えば、出口91h~94h)、を備えて、前記出口は、上流側限界位置(例えば、上流側限界位置P1)から下流側限界位置(例えば、下流側限界位置P2)までの範囲内に配置されて、前記上流側限界位置は、前記出口から流出した前記取扱液の流れ(例えば、流れF2)が、前記特定長ベーンの前記負圧面側に配置される前記ディフューザ流路(例えば、ディフューザ流路Ch1,Ch3,Ch5,Ch7)に流入する前記取扱液の流れ(例えば、流れF1)に合流可能な位置であり、前記下流側限界位置は、前記特定長ベーンの前記負圧面側に配置される前記ディフューザ流路において、前記取扱液の逆流により形成される渦(例えば、渦V)よりも前記ディフューザ流路内の前記取扱液の流れにおける上流側の位置である、ディフューザである。
この構成によれば、連通流路から流出する流れは、ディフューザ流路に流入する流れに確実に合流する。
【0123】
本発明の第6の実施態様は、第5の実施態様において、前記上流側限界位置は、前記出口が、特定仮想線(例えば、仮想線C1)よりも前方向に、前記特定仮想線に隣接して配置される位置であり、前記特定仮想線は、前記特定長ベーンに対応する前記短ベーンの前記前端部を通り、前記外周面の周方向に沿う、ディフューザである。
この構成によれば、連通流路から流出する流れは、ディフューザ流路に流入する流れに確実に合流する。
【0124】
本発明の第7の実施態様は、第6の実施態様において、前記短ベーンは、前記短ベーンに対する第1ディフューザ流路内の前記取扱液の流れにおける最も上流側に位置する端面(例えば、端面95c~98c)、を備えて、前記出口は、前記特定長ベーンに対応する前記短ベーンのうち、前記端面に最も近い位置(例えば、位置P3)に配置される、ディフューザである。
この構成によれば、取扱液は、連通流路から流出し易くなり、連通流路に流入し易くなる。
【0125】
本発明の第8の実施態様は、第1の実施態様において、前記短ベーンの前記前端部は、前記短ベーンの前記負圧面側に配置される前記ディフューザ流路の入口(例えば、入口Chi)の長さ(例えば、第1長さL1)に対する、前記短ベーンの前記正圧面側に配置される前記ディフューザ流路の入口(例えば、入口Chi)の長さ(例えば、第2長さL2)の比(例えば、スロート比)が最大になる位置(例えば、最大位置)から、前方向に配置される、ディフューザである。
この構成によれば、ディフューザに必要な静圧能力は、確実に維持される。
【0126】
本発明の第9の実施態様は、第1の実施態様において、前記長ベーンそれぞれは、前記連通流路、を備える、ディフューザである。
この構成によれば、全ての長ベーンの負圧面側のディフューザ流路の流量は、確実に増加する。
【0127】
本発明の第10の実施態様は、第1の実施態様において、前記連通流路それぞれの形状は、前記連通流路を境として、前記特定長ベーンを2分割するスリット状である、ディフューザである。
この構成によれば、既存のディフューザにおいて、連通流路は、容易に形成可能である。
【0128】
本発明の第11の実施態様は、第10の実施態様において、前記特定長ベーンは、前記連通流路よりも前方向に配置される第1部(例えば、第1部91e~94e)と、前記連通流路よりも後方向に配置される第2部(例えば、第2部91f~94f)と、を備えて、前記特定長ベーンに対応する前記短ベーンの形状は、前記第2部の形状と同じである、ディフューザである。
この構成によれば、既存のディフューザにおいて、短ベーンは、容易に形成可能である。
【0129】
本発明の第12の実施態様は、モータ(例えば、モータ3)と、前記モータにより回転する回転軸(例えば、回転軸4)と、前記回転軸に取り付けられるインペラ(例えば、インペラ6)と、前記回転軸の軸方向において、前記インペラと隣り合うように配置される第1の実施態様に記載のディフューザ(例えば、ディフューザ7)と、を有してなる、遠心ポンプ(例えば、遠心ポンプ1)である。
この構成によれば、遠心ポンプにおいて、効率の低下が抑制されつつ、旋回失速の発生が抑制される。
【符号の説明】
【0130】
1 遠心ポンプ
3 モータ
4 回転軸
6 インペラ
7 ディフューザ
84 円筒部
84a 外周面
9 ベーン
91~94 長ベーン
91a~94a 正圧面
91b~94b 負圧面
91c~94c 端面(前端部)
91d~94d 連通流路
91e~94e 第1部
91f~94f 第2部
91h~94h 出口
95~98 短ベーン
95a~98a 正圧面
95b~98b 負圧面
95c~98c 端面(前端部)
95d~98d 下面(前端部)
Ch ディフューザ流路
Chi 入口
C1 仮想線
F1 流れ
F2 流れ
P1 上流側限界位置
P2 下流側限界位置
P3 位置
L1 第1長さ
L2 第2長さ
V 渦
【要約】 (修正有)
【課題】遠心ポンプの効率の低下を抑制しつつ、旋回失速の発生を抑制する。
【解決手段】ディフューザ7は、遠心ポンプの回転軸の軸方向において、インペラと隣り合うように配置されるディフューザである。ディフューザは、流路形成部84と、複数のディフューザ流路を区画する複数のベーン9と、を有してなる。ベーンそれぞれは、正圧面91a~98aと負圧面91b~98bと前端部91c~98c,95c~98dとを備える。ベーンは、複数の長ベーン91~94と、長ベーンよりも短い少なくとも1つの短ベーン95~98と、を備える。長ベーンは、長ベーンに対応する短ベーンの正圧面側に隣り合うように配置される少なくとも1つの特定長ベーンを備える。軸方向において、短ベーンの前端部は、長ベーンの前端部よりも後方向に配置される。特定長ベーンは、特定長ベーンの正圧面と負圧面とに開口する連通流路91dを備える。
【選択図】
図3