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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】通信制御装置、および通信制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 47/125 20220101AFI20250327BHJP
   H04L 43/04 20220101ALI20250327BHJP
【FI】
H04L47/125
H04L43/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2025017358
(22)【出願日】2025-02-05
【審査請求日】2025-02-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】397036309
【氏名又は名称】株式会社インターネットイニシアティブ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100195408
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 陽子
(72)【発明者】
【氏名】柿島 純
【審査官】速水 雄太
(56)【参考文献】
【文献】特許第7427135(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0145985(US,A1)
【文献】特開2017-092728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 12/00-12/66
41/00-101/695
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の通信端末の通信履歴に基づいて算出された前記複数の通信端末の各々の通信発生確率から、前記複数の通信端末の各々による通信が発生した際に得られる情報量の期待値であるエントロピーを求めるように構成された第1算出部と、
前記複数の通信端末の各々の前記通信発生確率に応じた符号の符号長を決定するように構成された決定部であって、前記複数の通信端末の前記通信発生確率に応じた前記符号長の平均符号長は前記エントロピーを下限とする、決定部と、
決定された前記符号長を用いて、前記エントロピーの最大値を通信路容量とする通信路上での前記複数の通信端末の各々の通信速度を求めるように構成された第2算出部と
を備える通信制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された通信制御装置において、
さらに、前記第2算出部によって求められた前記通信速度を、前記複数の通信端末の各々に対して設定する指示をコアネットワークに対して行うように構成された指示部を備える
ことを特徴とする通信制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載された通信制御装置において、
前記決定部は、ハフマン符号化を用いて前記符号長を決定する
ことを特徴とする通信制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の通信制御装置において、
さらに、前記複数の通信端末の通信を制御するコアネットワークで収集された前記通信履歴を取得するように構成された取得部を備える
ことを特徴とする通信制御装置。
【請求項5】
複数の通信端末の通信履歴に基づいて算出された前記複数の通信端末の各々の通信発生確率から、前記複数の通信端末の各々による通信が発生した際に得られる情報量の期待値であるエントロピーを求める第1算出ステップと、
前記複数の通信端末の各々の前記通信発生確率に応じた符号の符号長を決定する決定ステップであって、前記複数の通信端末の前記通信発生確率に応じた前記符号長の平均符号長は前記エントロピーを下限とする、決定ステップと、
決定された前記符号長を用いて、前記エントロピーの最大値を通信路容量とする通信路上での前記複数の通信端末の各々の通信速度を求める第2算出ステップと
を備える通信制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載された通信制御方法において、
さらに、前記第2算出ステップで求められた前記通信速度を、前記複数の通信端末の各々に対して設定する指示をコアネットワークに対して行う指示ステップを備える
ことを特徴とする通信制御方法。
【請求項7】
請求項5に記載された通信制御方法において、
前記決定ステップは、ハフマン符号化を用いて前記符号長を決定する
ことを特徴とする通信制御方法。
【請求項8】
請求項5に記載の通信制御方法において、
さらに、前記複数の通信端末の通信を制御するコアネットワークで収集された前記通信履歴を取得する取得ステップを備える
ことを特徴とする通信制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信制御装置、および通信制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoT端末を含む通信端末の数の増加に伴い、最適な伝送方式の設計やチャネル状態や干渉状況に応じて適応的に通信速度の制御を行う技術が用いられている。ある通信路の条件下で、伝送速度がその通信路容量を下回る限り、十分長い符号化を行えば誤り率を任意に低くできるという理論的な上限を示すシャノンの第2基本定理(通信路符号化定理)により、通信路容量はその通信路で理論上正確な通信が可能な最大の伝送速度として定義される。この理論に基づき、各通信端末のチャネル状態に応じた通信路容量を評価し、その容量を超えないように伝送速度を制御し、最適な通信速度を割り当てることで、誤り率を低く抑えた最適な通信速度が設定される。
【0003】
例えば、特許文献1は、配信情報の冗長化に誤り訂正符号を用い、その際に用いる符号化を、その時々の周辺ノードの状態を考慮して推定した通信路容量を用いて、通信路符号化定理を満たすように設定することで、通信品質を確保する技術を開示している。このように、従来の技術では、図5に示すように、複数の通信端末200の各々の通信イベントの発生確率を個別に詳細に評価するのではなく、全ての通信端末200での通信イベントが発生する確率が同一であると仮定し、単一の通信端末200のエントロピーに基づいて通信システム設計を行っていた。実際の通信端末200ごとの通信エントロピー、すなわち、その通信端末200で発生する通信イベントの情報量の期待値であるエントロピーは、均一仮定では正確に反映できず、結果として、システム設計が実際の通信パターンに比べて冗長になっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-033078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術では、複数の通信端末の通信イベントの発生確率が考慮されていないため、実際の通信エントロピーに沿った形でネットワーク全体のトラヒックを最適化することが困難であった。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、ネットワーク全体のトラヒックを最適化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明に係る通信制御装置は、複数の通信端末の通信履歴に基づいて算出された前記複数の通信端末の各々の通信発生確率から、前記複数の通信端末の各々による通信が発生した際に得られる情報量の期待値であるエントロピーを求めるように構成された第1算出部と、前記複数の通信端末の各々の前記通信発生確率に応じた符号の符号長を決定するように構成された決定部であって、前記複数の通信端末の前記通信発生確率に応じた前記符号長の平均符号長は前記エントロピーを下限とする、決定部と、決定された前記符号長を用いて、前記エントロピーの最大値を通信路容量とする通信路上での前記複数の通信端末の各々の通信速度を求めるように構成された第2算出部とを備える。
【0008】
また、本発明に係る通信制御装置において、さらに、前記第2算出部によって求められた前記通信速度を、前記複数の通信端末の各々に対して設定する指示をコアネットワークに対して行うように構成された指示部を備えていてもよい。
【0009】
また、本発明に係る通信制御装置において、前記決定部は、ハフマン符号化を用いて前記符号長を決定してもよい。
【0010】
また、本発明に係る通信制御装置において、さらに、前記複数の通信端末の通信を制御するコアネットワークで収集された前記通信履歴を取得するように構成された取得部を備えていてもよい。
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明に係る通信制御方法は、複数の通信端末の通信履歴に基づいて算出された前記複数の通信端末の各々の通信発生確率から、前記複数の通信端末の各々による通信が発生した際に得られる情報量の期待値であるエントロピーを求める第1算出ステップと、前記複数の通信端末の各々の前記通信発生確率に応じた符号の符号長を決定する決定ステップであって、前記複数の通信端末の前記通信発生確率に応じた前記符号長の平均符号長は前記エントロピーを下限とする、決定ステップと、決定された前記符号長を用いて、前記エントロピーの最大値を通信路容量とする通信路上での前記複数の通信端末の各々の通信速度を求める第2算出ステップとを備える。
【0012】
また、本発明に係る通信制御方法において、さらに、前記第2算出ステップで求められた前記通信速度を、前記複数の通信端末の各々に対して設定する指示をコアネットワークに対して行う指示ステップを備えていてもよい。
【0013】
また、本発明に係る通信制御方法において、前記決定ステップは、ハフマン符号化を用いて前記符号長を決定してもよい。
【0014】
また、本発明に係る通信制御方法において、さらに、前記複数の通信端末の通信を制御するコアネットワークで収集された前記通信履歴を取得する取得ステップを備えていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数の通信端末の各々の通信発生確率に応じた符号長を決定し、決定された符号長を用いて、エントロピーの最大値が通信路容量である通信路上での複数の通信端末の各々の通信速度を求める。そのため、ネットワーク全体のトラヒックを最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る通信制御装置を含む通信制御システムの構成を示すブロック図である。
図2図2は、本実施の形態に係る通信制御装置を含む通信制御システムの概要を説明するための図である。
図3図3は、本実施の形態に係る通信制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4図4は、本実施の形態に係る通信制御システムの動作の概要を示すシーケンス図である。
図5図5は、従来例に係る通信制御システムを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図1から図5を参照して詳細に説明する。
【0018】
[通信制御システムの構成]
まず、本発明の実施の形態に係る通信制御装置1を備える通信制御システムの概要について図1を参照して説明する。
【0019】
本実施の形態に係る通信制御システムは、通信制御装置1、通信端末2、基地局3、コアネットワーク4、およびデータネットワーク(DN)5を備える。通信制御システムは、一例として、5Gモバイル通信ネットワークに設けられるが、固定回線を利用するネットワークであってもよい。図1に示すように、通信制御装置1は、コアネットワーク4と、LAN、WAN、インターネットなどのネットワークNWを介して接続されている。
【0020】
通信端末2は、スマートフォンなどの携帯通信端末、タブレット型コンピュータ、ラップトップ型コンピュータ、ウェアラブルデバイス、産業用ロボットなどとして実現される。通信端末2は、SIMを備え、SIMの契約プロファイルには、加入者識別番号(IMSI:International Mobile Subscriber Identity)などの識別子情報が含まれる。通信端末2は、IMSIによって一意に識別される。
【0021】
通信端末2には、また、端末を一意に識別する端末IPアドレスが割り当てられるIoTデバイスとして構成される。IPアドレスは、セッション確立後にSMF42を通じて通信端末2に割り当てられる。本実施の形態では、通信端末2は、N台(Nは2以上の正の整数)存在する。通信端末2は、それぞれが在圏する基地局3を介して、UPF44から、データネットワーク5に接続する。
【0022】
基地局3は、5G方式に対応した無線基地局で構成され、通信エリアに在圏する通信端末2とコアネットワーク4との間の通信を中継する。基地局3は、バックホールリンクなどのネットワークを介してコアネットワーク4と接続する。基地局3は、通信制御装置1によって指示された通信速度の範囲内で、スケジューリングを用いて通信端末2からのデータを中継する。
【0023】
コアネットワーク4は、C-plane内のノードであるAMF(Access and Mobility Management Function)40、UDM(Unified Data Management)/UDR(Unified Data Repository)41、SMF(Session Management Function)42、およびPCF(Policy Control Function)43を備える。また、コアネットワーク4は、U-plane内のUPF(User Plane Function)44を備える。コアネットワーク4が備える、上記以外のU-planeやC-plane内の機能ノードについては図示を省略している。
【0024】
AMF40は、アクセスおよび移動管理装置であり、各通信エリアに移動した通信端末2の登録や無線接続を管理する。AMF40は、通信制御装置1から指示された通信速度を通信端末2に適用する。
【0025】
UDM/UDR41は、加入者プロファイルの管理、認証、モビリティ管理を行う。UDM/UDR41は、通信制御装置1との通信を行うための通信インターフェース41aを備える。UDM/UDR41は、通信制御装置1からの、制御対象の複数のIMSIの通信速度の設定の指示をPCF43に転送する。なお、本実施の形態では、UDM/UDR41は、UDMとUDRとが一つの装置として構成される場合を例示するが、UDM/UDR41は、UDMとUDRとが分離して配置された装置であってもよい。
【0026】
SMF42は、セッション管理機能であり、通信端末2からインターネット等のデータネットワーク間のPDU(Packet Data Unit)セッションの確立、変更、リリース等を行う。SMF42は、PCF43からのPCC(Policy and Charging Control)ポリシーに基づいて、通信端末2とUPF44との間のデータ通信に対して適切な通信パスを設定し、該当するPDUセッションにおけるトラフィック処理および通信速度を含むQoSの設定を指示する。
【0027】
PCF43は、通信速度を含むQoSやポリシーを決定しSMF42に提供する。PCF43は、3GPP(登録商標)の仕様によるPCCルールを適用し、通信制御装置1からの指示に応じて、通信端末2が通信するUPF44の通信パスの設定、および通信制御装置1からの指示による通信速度の設定を含むPCCポリシーを作成する。PCF43は、作成したPCCポリシーをSMF42に提供する。
【0028】
UPF44は、ユーザプレーン機能であり、基地局3と、インターネットなどのデータネットワーク5との間のパケットを処理する。UPF44は、コアネットワーク4と外部のデータネットワーク5との間のゲートウェイとして機能する。UPF44は、送信されるパケットに対して、PCCルールに基づいたトラフィックの優先度付け、帯域制限、シェーピング等のQoS処理を行う。これにより、各通信端末2のPDUセッションにおける通信速度は、通信制御装置1による指示に基づいてPCF43で定めたPCCルールにより制御される。UPF44は、通信制御装置1との通信を行うための通信インターフェース44aを備える。
【0029】
データネットワーク5は、インターネットなどの外部ネットワークで構成される。
【0030】
[通信制御装置の機能ブロック]
図1に示すように、通信制御装置1は、取得部10、第1算出部11、決定部12、第2算出部13、指示部14、および記憶部15を備える。
【0031】
取得部10は、複数の通信端末2の通信を制御するコアネットワーク4で収集された通信履歴を取得する。取得部10は、UPF44上でトラヒック処理がなされている全ての通信端末2の通信履歴を取得する。取得部10は、1か月など、任意に設定された期間の通信履歴を取得することができる。通信履歴は、IMSIごとのパケットの送受信などの通信イベントを記録した通信ログであり、特に、パケットの送受信の有無を記録した通信ログであるものとする。
【0032】
第1算出部11は、複数の通信端末2の通信履歴に基づいて算出された、複数の通信端末2の各々の通信発生確率から、複数の通信端末2の各々による通信が発生した際に得られる情報量の期待値であるエントロピーを求める。第1算出部11は、取得部10によって取得された1か月分のIMSIごとの通信履歴から、各IMSIにおいて通信が発生した確率を計算する。例えば、N=100台の通信端末2の1か月分の通信を行った回数を示す通信履歴が収集された場合において、IMSI_1の通信端末2は、10回/1か月の通信を行ったものとする。この場合、IMSI_1の通信発生確率は、10/100=0.1と算出される。第1算出部11は、他の通信端末2についても同様に、通信発生確率を求める。
【0033】
第1算出部11は、100台それぞれの通信発生確率の合計を計算し、合計値が1となるように正規化する。例えば、100台の通信端末2における通信発生確率の合計が2.5である場合、各通信端末2の通信発生確率の値を2.5で割る。この場合、IMSI_1の通信発生確率0.1/2.5=0.04とする。
【0034】
第1算出部11は、シャノンの情報源符号化定理に基づいて、各事象が起こる確率からすべての事象に対して、その情報量の期待値の平均情報量であるエントロピーH(S)を、次式(1)を用いて算出する。
【数1】
【0035】
上式(1)において、ρは、各通信端末2での通信の発生である通信発生確率を示し、Mは、通信端末2の総数を示す。また、事象(通信イベント)は、各通信端末2による通信の発生の有無であり、第1算出部11は、その通信発生確率ρに基づいて各事象の自己情報量lnρを求める。そして、これらの自己情報量lnρの確率加重平均を取ることで、エントロピーH(S)を算出する。
【0036】
決定部12は、複数の通信端末2の各々の通信発生確率に応じた符号長を決定するように構成される。決定部12は、複数の通信端末2の通信発生確率に応じた符号長の平均符号長がエントロピーを下限とするように符号長を決定する。ここで、各事象に対して割り当てられた符号長の確率重み付き平均である平均符号長Lバーは、次式(2)で表される。
【数2】
【0037】
上式(2)において、lρは、各通信端末2の通信発生確率に対する符号長を示す。また、上式(2)の平均符号長Lバーは、シャノンの情報源符号化定理により、上式(1)のエントロピーH(S)と次式(3)で表される関係を有する。
【数3】
【0038】
上式(3)において、eは、任意のe>0である。上式(3)は、エントロピーH(S)に非常に近い平均符号長Lバーで、情報源の記号である事象を符号化できることを示している。決定部12は、上式(2)、(3)に基づいて、ハフマン符号などの瞬時符号を用いて決定木を構築することで求められ、各事象を示す各通信端末2にはその通信発生確率に応じた整数の符号長を割り当てる。瞬時符号とは、情報源からの記号の系列を符号化したものが、時系列で送信された場合に情報源からの記号の区切りが瞬時に判別できる符号をいう。
【0039】
図2は、決定部12が各通信端末2の通信発生確率に応じて事象の符号および符号長を決定する処理を示す図である。図2では、IMSI_1~IMSI_4の4台の通信端末2の通信発生確率ρの場合を示している。まず、決定部12は、i)通信発生確率ρの値を大きい順に並べる。次に、ii)通信発生確率が小さい1対の事象に、0と1とを対応させる。図2では、IMSI_3、IMSI_4に0と1とを対応させている。その後、決定部12は、iii)IMSI_3およびIMSI_4の1対の事象に対する確率の和(0.1+0.2=0.3)を求め、再度、通信発生確率ρの値の大きい順にIMSI_1~IMSI_4を並び替える。決定部12は、i)~iii)を繰り返し、対応させた0および1の順序を逆にたどって0および1の並びを求め、各事象の符号として決定する。
【0040】
図2に示すように、IMSI_1~IMSI_4各々による通信の発生の有無という事象に対して、IMSI_1には101、IMSI_2には11、IMSI_3には100、IMSI_4には0の符号cが決定されている。また、各事象の符号cが決定されることにより、符号長lρは、それぞれ3ビット、2ビット、3ビット、1ビットと決定される。このように、決定木の深いところにある事象ほど符号長が長くなる。
【0041】
第2算出部13は、決定された符号長を用いて、エントロピーの最大値が通信路容量である通信路上での複数の通信端末2の各々の通信速度を求める。通信路容量は、ある通信路を介して送信できる情報の最大量を示し、定義上は入力と出力間の最大相互情報量として表される。雑音のない通信路の場合、出力は入力と同じとなるため、相互情報量は入力のエントロピーに一致する。雑音のないデジタル通信における通信路容量C(bit/符号)は、次式(4)で表される。
【数4】

上式(4)において、符号は、デジタル通信であるため二値(0または1)である。
【0042】
一般に通信速度R(bit/s(秒))は、次式(5)で表される。
【数5】

上式(5)において、1/τ(s/符号)は、1秒間に送信できる符号数を示す。また、C(bit/符号)は、上式(4)の通信路容量Cであり、1符号あたりに含まれる情報量を示す。
【0043】
ここで、決定部12によって決定された各通信端末2の事象に対する符号長lρ(bit/符号)および上式(5)のτ(s/符号)に基づいて、第2算出部13は、各通信端末2に対して設定する通信速度r(bit/s)を次式(6)により算出する。
【数6】
【0044】
指示部14は、第2算出部13によって求められた通信速度を、複数の通信端末2の各々に対して設定する指示をコアネットワーク4に対して行う。具体的には、指示部14は、UDM/UDR41を介してPFC43に、IMSI単位で通信速度を設定するPCCルールの作成を指示する。
【0045】
記憶部15は、第2算出部13によって算出された各通信端末2に設定する通信速度を記憶する。
【0046】
[通信制御装置のハードウェア構成]
次に、上述した機能を有する通信制御装置1を実現するハードウェア構成の一例について、図3を用いて説明する。
【0047】
図3に示すように、通信制御装置1は、例えば、バス101を介して接続されるプロセッサ102、主記憶装置103、通信インターフェース104、補助記憶装置105、入出力I/O106を備えるコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。また、通信制御装置1は、バス101を介して接続される表示装置107を備えることができる。
【0048】
プロセッサ102は、CPU、GPU、FPGA、ASICなどによって実現される。
【0049】
主記憶装置103には、プロセッサ102が各種制御や演算を行うためのプログラムが予め格納されている。プロセッサ102と主記憶装置103とによって、図1に示した取得部10、第1算出部11、決定部12、第2算出部13、指示部14など通信制御装置1の各機能が実現される。
【0050】
通信インターフェース104は、通信制御装置1と各種外部電子機器との間をネットワーク接続するためのインターフェース回路である。
【0051】
補助記憶装置105は、読み書き可能な記憶媒体と、その記憶媒体に対してプログラムやデータなどの各種情報を読み書きするための駆動装置とで構成されている。補助記憶装置105には、記憶媒体としてハードディスクやフラッシュメモリなどの半導体メモリを使用することができる。
【0052】
補助記憶装置105は、通信制御装置1が実行する通信制御プログラムを格納するプログラム格納領域を有する。補助記憶装置105によって、図1で説明した記憶部15が実現される。また、補助記憶装置105は、制御対象の通信端末2のIMSIを記憶する領域を有する。さらには、例えば、上述したデータやプログラムなどをバックアップするためのバックアップ領域などを有していてもよい。
【0053】
入出力I/O106は、外部機器からの信号を入力したり、外部機器へ信号を出力したりする入出力装置である。
【0054】
表示装置107は、有機ELディスプレイや液晶ディスプレイなどによって構成される。
【0055】
[通信制御装置の動作]
次に、上述した構成を有する通信制御装置1の動作を、図4のシーケンス図を参照して説明する。
【0056】
図4は、通信制御装置1を備える通信制御システムの動作の概要を示す動作シーケンスである。まず、UPF44は、制御対象の複数の通信端末2の通信履歴を収集する(ステップS100)。次に、通信制御装置1の取得部10は、ステップS100で収集された通信履歴を、ネットワークNWを介してUPF44から取得する(ステップS101)。取得部10は、予め設定された期間として、例えば、1か月間の各通信端末2の通信履歴をUPF44から取得することができる。
【0057】
次に、第1算出部11は、上式(1)を用いて、各通信端末2による通信の発生の有無に係る事象の発生確率である通信発生確率から、複数の通信端末2のすべての事象に対して、その情報量の期待値の平均情報量であるエントロピーH(S)を求める(ステップS102)。
【0058】
次に、決定部12は、複数の通信端末2の各々の通信発生確率に応じた符号長を決定する(ステップS103)。決定部12は、上式(2)、(3)に基づいて、ハフマン符号などの瞬時符号を用いて決定木を構築して、各事象に対する符号および符号長を決定する。続いて、第2算出部13は、ステップS103で決定された各事象の符号長を用いて、エントロピーの最大値が通信路容量である通信路上での複数の通信端末2の各々の通信速度を求める(ステップS104)。
【0059】
第2算出部13は、ステップS103で、上式(4)の通信路容量Cおよび通信速度Rに基づいて上式(5)よりτを求め、さらに決定部12によって決定された各通信端末2の事象に対する符号長、およびτを上式(6)に代入し、各通信端末2に対して設定する通信速度rを算出する。算出された各通信端末2であるIMSIごとの通信速度は、記憶部15に記憶される。
【0060】
その後、通信端末2は、セッション確立要求を、AMF40に送信し、AMF40はさらにSMF42に要求を送信する(ステップS105)。ステップS105において、セッション確立要求は、UDM/UDR41を介して、通信制御装置1に通知される。次に、指示部14は、ステップS104で求められた通信速度を、各事象に対応する各通信端末2に対して設定する指示をコアネットワーク4に対して行う(ステップS106)。より詳細には、指示部14は、IMSI、通信制御装置1のIPアドレスを指定して、PCF43に対して、ステップS104で求められた通信速度を設定するPCCポリシーの作成を要求する。
【0061】
続いて、PCF43は、指定された要件に基づいてPCCポリシーを作成する(ステップS107)。PCCポリシーは、各通信端末2に設定する最大通信速度を指定する。PCF43は、各通信端末2に適用すべきPCCポリシーとして、例えば、最大通信速度や保証ビットレート、QoSフローに関するパラメータなどを指定することができる。
【0062】
続いて、PCF43は、作成したPCCポリシーをSMF42に送信する(ステップS108)。その後、SMF42は、受信したPCCポリシーに基づく通信速度の要件をAMF40に通知し、AMF40は基地局3に通信端末2に指定された通信速度を設定させる(ステップS109)。一方、SMF42は、ステップS108で受信したPCCポリシーに基づいて、UPF44に対して、該当するPDUセッションのトラフィック処理および通信速度を含むQoSの設定を指示する(ステップS110)。
【0063】
ステップS110では、PCCポリシーで規定される通信速度の設定情報、および通信パスの設定などのユーザプレーン機能に関連するデータ通信パスの設定情報が送信される。次に、UPF44は、受信した通信速度を含む設定情報をメモリに登録する(ステップS111)。続いて、UPF44は、SMF42にACKを送信し、UPF44のIPアドレスおよび指定される通信速度を通知する(ステップS112)。
【0064】
さらに、SMF42は、通信制御装置1にACKを送信して、UPF44のIPアドレスおよび通信速度を通知する(ステップS113)。その後、通信制御装置1は、UDM/UDR41にUPF44のIPアドレスおよび通信速度を通知し、通信端末2に対してACKを送信する(ステップS114)。さらにその後、通信端末2とUPF44とデータネットワーク5との間のデータ通信の通信パスが確立され、通信端末2は、設定された通信速度によりデータ通信を行う(ステップS115)。他の通信端末2に対してもステップS105からステップS115までの処理が行われる。
【0065】
以上説明したように、本実施の形態に係る通信制御装置1によれば、複数の通信端末2の各々の通信発生確率に応じた符号長を決定し、決定された符号長を用いて、エントロピーの最大値が通信路容量である通信路上での複数の通信端末の各々の通信速度を求める。そのため、複数の通信端末2の通信イベントの発生確率を考慮したうえで、効率的な符号化を実現し、ネットワーク全体のトラヒックを最適化することができる。
【0066】
なお、説明した実施の形態では、通信制御システムは、5G規格に準拠するシステムとして説明したが、通信規格は、3G、4G/LTE、6Gなどであってもよい。
【0067】
また、説明した実施の形態では、決定部12は、ハフマン符号を用いて符号長を決定する場合について説明した。しかし、符号長を決定する方法として、シャノン・ファノ符号や、算術符号などの符号化を用いることができる。
【0068】
以上、本発明の通信制御装置および通信制御方法における実施の形態について説明したが、本発明は説明した実施の形態に限定されるものではなく、請求項に記載した発明の範囲において当業者が想定し得る各種の変形を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1…通信制御装置、10…取得部、11…第1算出部、12…決定部、13…第2算出部、14…指示部、15…記憶部、2…通信端末、3…基地局、4…コアネットワーク、5…データネットワーク、101…バス、102…プロセッサ、103…主記憶装置、104…通信インターフェース、105…補助記憶装置、106…入出力I/O、107…表示装置、NW…ネットワーク。
【要約】
【課題】ネットワーク全体のトラヒックを最適化することを目的とする。
【解決手段】
通信制御装置1は、複数の通信端末2の通信履歴に基づいて算出された複数の通信端末2の各々の通信発生確率から、複数の通信端末2の各々による通信が発生した際に得られる情報量の期待値であるエントロピーを求めるように構成された第1算出部11と、複数の通信端末2の各々の通信発生確率に応じた符号の符号長を決定するように構成された決定部12であって、複数の通信端末2の通信発生確率に応じた符号長の平均符号長はエントロピーを下限とする、決定部12と、決定された符号長を用いて、エントロピーの最大値を通信路容量とする通信路上での複数の通信端末2の各々の通信速度を求めるように構成された第2算出部13とを備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5