(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-27
(45)【発行日】2025-04-04
(54)【発明の名称】新規化合物及び抗コロナウイルス剤
(51)【国際特許分類】
C07J 71/00 20060101AFI20250328BHJP
A61K 31/58 20060101ALI20250328BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20250328BHJP
【FI】
C07J71/00 CSP
A61K31/58
A61P31/14
(21)【出願番号】P 2020195723
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】597128004
【氏名又は名称】国立医薬品食品衛生研究所長
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】出水 庸介
(72)【発明者】
【氏名】辻 厳一郎
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 宏
(72)【発明者】
【氏名】上間 匡
(72)【発明者】
【氏名】米満 研三
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴雄
(72)【発明者】
【氏名】大岡 伸通
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴仁
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-509493(JP,A)
【文献】特表2008-546694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07J
A61K 31/
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式からなる新規化合物。
【化1】
【請求項2】
下記化合物を有効成分とし、コロナウイルスに対する抗ウイルス作用を有することを特徴とする、抗コロナウイルス剤。
【化2】
【請求項3】
下記化合物を有効成分とし、コロナウイルスに対する抗ウイルス作用を有することを特徴とする、抗コロナウイルス剤。
【化3】
【請求項4】
下記化合物を有効成分とし、コロナウイルスに対する抗ウイルス作用を有することを特徴とする、抗コロナウイルス剤。
【化4】
【請求項5】
下記化合物を有効成分とし、コロナウイルスに対する抗ウイルス作用を有することを特徴とする、抗コロナウイルス剤。
【化5】
【請求項6】
前記コロナウイルスは、野生型コロナウイルスの変種であることを特徴とする、請求項2乃至5の何れか1項に記載の抗コロナウイルス剤。
【請求項7】
前記コロナウイルスは、野生型コロナウイルスであることを特徴とする、請求項2乃至5の何れか1項に記載の抗コロナウイルス剤。
【請求項8】
前記野生型コロナウイルスは、コロナウイルス亜科に属するコロナウイルスからなることを特徴とする請求項7に記載の抗コロナウイルス剤。
【請求項9】
前記コロナウイルス亜科に属するコロナウイルスは、SARS-CoV-2であることを特徴とする請求項8に記載の抗コロナウイルス剤。
【請求項10】
前記コロナウイルス亜科に属するコロナウイルスは、SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、ヒトコロナウイルス229E、ヒトコロナウイルスOC43、ヒトコロナウイルスHKU1、ヒトコロナウイルスNL63、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス、イヌコロナウイルス、鶏伝染性気管支炎ウイルス、ウシコロナウイルス、及び、伝染性胃腸炎ウイルス、ブタデルタコロナウイルス、ブタ流行性下痢ウイルス、ブタ呼吸器型コロナウイルス、ブタ血球凝集性脳脊髄炎コロナウイルスを含むブタコロナウイルスからなる群から選択されることを特徴とする請求項8に記載の抗コロナウイルス剤。
【請求項11】
前記抗コロナウイルス剤の有効成分濃度が1μM~80μMであることを特徴とする請求項2乃至10の何れか1項に記載の抗コロナウイルス剤。
【請求項12】
前記抗コロナウイルス剤の有効成分濃度が7μM~40μMであることを特徴とする請求項2に記載の抗コロナウイルス剤。
【請求項13】
前記抗コロナウイルス剤の有効成分濃度が6μM~20μMであることを特徴とする請求項2に記載の抗コロナウイルス剤。
【請求項14】
前記抗コロナウイルス剤の有効成分濃度が5μM~40μMであることを特徴とする請求項3に記載の抗コロナウイルス剤。
【請求項15】
前記抗コロナウイルス剤の有効成分濃度が6μM~20μMであることを特徴とする請求項3に記載の抗コロナウイルス剤。
【請求項16】
前記抗コロナウイルス剤は、前記コロナウイルスの感染を予防及び/又は前記コロナウイルスによる疾患を治療するための医薬用の抗コロナウイルス剤であることを特徴とする請求項2乃至15の何れか1項に記載の抗コロナウイルス剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物、及び、抗コロナウイルス剤に関し、特にSARS-CoV-2に対する抗ウイルス作用を有する抗コロナウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
SARS-CoV-2は、2019年12月に中国湖北省武漢市で発生した肺炎患者から検出された新型コロナウイルスであり(非特許文献1)、その後全世界に拡散し、2020年3月には世界保健機関よりパンデミック宣言がなされた。2020年10月現在,感染者は3740万人,死者は108万人を超えている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は人類にとって蔓延を抑制すべき疾患である。
【0003】
SARS-CoV-2は一本鎖プラス鎖RNAウイルスであり、ウイルス粒子表面のエンベロープ(脂質二重膜)に、花弁状のスパイク蛋白(S)の突起が存在する。SARS-CoV-2は更にエンベロープ蛋白(E)、マトリックス蛋白(M)、核蛋白(N)によって構成されている。
【0004】
世界中の研究者により治療薬やワクチンの開発が行われており、いくつかの市販薬(レムデシビル,シクレソニドCicle,ファビピラビル等)がCOVID-19の治療に有効であることが示唆されている。一般的な抗ウイルス薬は、ウイルスのポリメラーゼあるいはヌクレアーゼを阻害することで薬効し、2020年5月にCOVID-19治療薬として国内承認されたレムデシビルは、ポリメラーゼを阻害することでウイルスの複製を抑制する。一方で現在のところ、COVID-19のヌクレアーゼ阻害薬は承認されていないが、最近、シクレソニド活性代謝物Cic2がSARS-CoV-2のエンドヌクレアーゼ(Nsp15)に結合してゲノムRNAの複製を抑制することが報告された(非特許文献2,3)。Nsp15は宿主の免疫システムからウイルス自身を守る酵素として働くこと、また複数のコロナウイルスにおいて構造的類似性があること(2003年に流行したSARS-CoVのNsp15とは95.7%の相同性)が知られている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】N Engl J Med. 2020;382:727-733
【文献】S. Matsuyama, M. Kawase, N. Nao, K. Shirato, M. Ujike, W. Kamitani, M. Shimojima, S. Fukushi, bioRxiv, https://doi.org/10.1101/2020.03.11.987016.
【文献】S. Matsuyama, M. Kawase, N. Nao, K. Shirato, M. Ujike, W. Kamitani, M. Shimojima, S. Fukushi, J. Allergy Clin. Immunol., in press. https://doi.org/10.1016/j.jaci.2020.05.029
【文献】Y. Kim, R. Jedrzejczak, N. I. Maltseva, M. Wilamowski, M. Endres, A. Godzik, K. Michalska, A. Joachimiak, Protein Sci, 2020, 29, 1596-1605.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながらシクレソニドCicle及びシクレソニド活性代謝物Cic2の抗ウイルス作用はいずれも十分ではない。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、十分な抗ウイルス作用を有する抗コロナウイルス剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる新規化合物は下記構造式からなる。
【0009】
【0010】
本発明にかかる抗コロナウイルス剤は、下記化合物を有効成分とし、コロナウイルスに対する抗ウイルス作用を有することを特徴とする。
【0011】
【0012】
本発明にかかる抗コロナウイルス剤は、下記化合物を有効成分とし、コロナウイルスに対する抗ウイルス作用を有することを特徴とする。
【0013】
【0014】
本発明にかかる抗コロナウイルス剤は、下記化合物を有効成分とし、コロナウイルスに対する抗ウイルス作用を有することを特徴とする。
【0015】
【0016】
本発明にかかる抗コロナウイルス剤は、下記化合物を有効成分とし、コロナウイルスに対する抗ウイルス作用を有することを特徴とする。
【0017】
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、十分な抗ウイルス作用を有する抗コロナウイルス剤が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ドッキングシミュレーションによるシクレソニド誘導体Cic2の結合解析を検討する図である。
【
図2】各化合物の細胞毒性試験の結果を示す図である。
【
図3】各化合物のウイルス増殖阻害効果を示す図である。
【
図4】化合物Cic4及びCic6投与によるウイルス増殖阻害効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0021】
(1)新規化合物
本発明にかかる新規化合物は、下記構造式からなる。
【0022】
【0023】
上記シクレソニド類縁体Cic4は下記ルートにて合成することが可能である。
【0024】
Cic2,トリエチルアミンのジクロロメタン溶液に、塩化メタンスルホニルのジクロロメタン溶液を加える。室温にて撹拌した後、反応液をジクロロメタンで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄する。無水硫酸ナトリウム上で乾燥後、ろ過して溶媒を減圧留去した。得られた残渣を精製し、Cic3を得る。
【0025】
次にCic3のアセトニトリル溶液にアジ化ナトリウムを加え、攪拌した。反応液を酢酸エチルで希釈し、水、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウム上で乾燥後、ろ過して溶媒を減圧留去する。得られた残渣を精製し、Cic4を得る。
【0026】
【0027】
(2)抗コロナウイルス剤
SARS-CoVには非構造タンパク質15(nsp15)として知られる特定の遺伝子配列があり、その配列はSARS-CoV-2の遺伝子配列と95.7%の類似性があることが分かっている。nsp15の配列及び構造を検証したところ、nsp15は病気の発症に欠かせないエンドヌクレアーゼ酵素で、複数のコロナウイルスにおいて構造的類似性があることが判明している。このエンドヌクレアーゼは、高い確率で宿主の免疫システムからコロナウイルス自身を守るという共通の機能を果たす。nsp15阻害薬はSARS-CoVやSARS-CoV-2だけではなく、あらゆる新種のコロナウイルスに対して有効であると考えられる。
【0028】
新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム複製に関与するウイルスタンパク質とシクレソニドとの相互作用を先端バイオインフォマティクス技術ならびに高性能コンピューターを駆使したドッキングシミュレーションを用い、シクレソニド誘導体Cic2の結合解析を検討した。リガンドの結合解析からタンパク質の結合に重要であると考えられるSer294及びPro344に対応する一級水酸基を各官能基に置換したシクレソニド類縁体Cic3~Cic11を設計した(
図1)。なおシクレソニドは、新型コロナウイルスゲノム複製酵素(RNA依存性RNAポリメラーゼ)には作用しなかったが、nsp15の活性中心と結合し、ウイルスゲノムの正確な複製を阻害することが判明している。
【0029】
本発明にかかる抗コロナウイルス剤は、下記化合物を有効成分とし、コロナウイルスに対する抗ウイルス作用を有する。
【0030】
【0031】
本発明にかかる抗コロナウイルス剤は、下記化合物を有効成分とし、コロナウイルスに対する抗ウイルス作用を有する。
【0032】
【0033】
本発明にかかる抗コロナウイルス剤は、下記化合物を有効成分とし、コロナウイルスに対する抗ウイルス作用を有する。
【0034】
【0035】
本発明にかかる抗コロナウイルス剤は、下記化合物を有効成分とし、コロナウイルスに対する抗ウイルス作用を有する。
【0036】
【0037】
本発明にかかる抗コロナウイルス剤が対象とするコロナウイルスは、特に限定されるわけではないが、例えば野生型コロナウイルスの変種である。
【0038】
本発明にかかる抗コロナウイルス剤が対象とするコロナウイルスは、特に限定されるわけではないが、例えば野生型コロナウイルスである。
【0039】
野生型コロナウイルスは、コロナウイルス亜科に属するコロナウイルスからなる。コロナウイルスはニドウイルス目に分類され、その中にコロナウイルス科、そして、コロナウイルス亜科とトロウイルス亜科に分類される。なおコロナウイルス亜科はさらに、アルファコロナウイルス属、ベータコロナウイルス属、ガンマコロナウイルス属の3つの属に分類される。
【0040】
コロナウイルス亜科に属するコロナウイルスは、特に限定されるわけではないが、例えばSARS-CoV-2である。
【0041】
コロナウイルス亜科に属するコロナウイルスは、特に限定されるわけではないが、例えばSARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、ヒトコロナウイルス229E、ヒトコロナウイルスOC43、ヒトコロナウイルスHKU1、ヒトコロナウイルスNL63、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス、イヌコロナウイルス、鶏伝染性気管支炎ウイルス、ウシコロナウイルス、及び、伝染性胃腸炎ウイルス、ブタデルタコロナウイルス、ブタ流行性下痢ウイルス、ブタ呼吸器型コロナウイルス、ブタ血球凝集性脳脊髄炎コロナウイルスを含むブタコロナウイルスからなる群から選択される。
【0042】
本発明にかかる抗コロナウイルス剤は、抗コロナウイルス活性を有しており、抗コロナウイルス活性とは、コロナウイルスを死滅させる場合、又は、コロナウイルスは残存していてもその表面タンパク質に作用して感染能力(増殖能力)を喪失させる場合の少なくとも何れか一方を含むものとする。
【0043】
本発明にかかる抗コロナウイルス剤と、アルコール、界面活性剤、抗菌剤、保湿剤及び化粧品用油脂類からなる群より選ばれた少なくとも1つの成分と、を含有することで抗コロナウイルス用組成物と規定することも可能である。
【0044】
その態様は特に限定されるものではないが、代表的には以下のようなものが挙げられる。
・抗コロナウイルス剤とアルコールとを含有するアルコール製剤
・抗コロナウイルス剤と界面活性剤とを含有する洗浄用組成物
・抗コロナウイルス剤と抗菌剤とを含有する消毒用組成物
・抗コロナウイルス剤と保湿剤及び/又は化粧品用油脂類とを含有するローション、乳液又はクリーム
洗浄用組成物は、食品、食器、調理器具、作業者の手指や着衣等の汚れを落とすとともにコロナウイルスを消毒することができる態様の組成物であり、例えば液状又は固形状の洗剤として提供される。アルコール製剤及び消毒用組成物は、食品、食器、調理器具、作業者の手指、あるいはコロナウイルス患者の汚物を取り扱った器具等に付着した、コロナウイルス及び細菌類を不活性化するために使用される態様の組成物であり、例えば従来のエタノール製剤と同様の噴霧剤として提供される。ローション、クリーム及び乳液は、水仕事等で荒れやすい作業者の手指に塗ってスキンケアをするとともにコロナウイルスを消毒することができる態様の組成物(基礎化粧品)である。
【0045】
なお、上述の抗コロナウイルス用組成物において、アルコール、界面活性剤、殺菌剤、保湿剤、及び化粧品用油脂類は2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えばアルコール製剤については、抗菌性をより高めるために脂肪酸エステル等の界面活性剤を更に配合することも好ましい。また、上記洗浄用組成物は、界面活性剤に加えて殺菌剤やアルコールを配合したハンドソープ等の態様をとることができ、上記クリームは、手肌を保護する成分と共に手肌を清浄に保つための抗菌剤やアルコールを配合した態様をとることができる。
【0046】
上述の抗コロナウイルス用組成物には、所望の性能を賦与し各組成物の品質を高めるための各種成分、例えば増粘剤(キサンタンガム、ローカストビーンガム、ポリアクリル酸ナトリウム等)、酸化防止剤、香料、色素等、またローション等の化粧品にあっては肌荒れ防止剤、消炎剤等を、適宜配合することができる。
【0047】
上述の抗コロナウイルス用組成物における抗コロナウイルス剤の含有量は、抗コロナウイルス活性が発現される範囲において、組成物の成分構成や使用方法等の態様に応じて適宜調整することができる。
【0048】
本発明の抗コロナウイルス剤の有効成分濃度は、抗ノロウイルス活性が発現される範囲において適宜調整することができ、例えば1μM~80μMである。
【0049】
化合物Cic4を有効成分とする抗コロナウイルス剤では、例えば5μM~80μMであり、好ましくは7μM~40μMであり、より好ましくは6μM~20μMである。
【0050】
化合物Cic6を有効成分とする抗コロナウイルス剤では、例えば1μM~80μMであり、好ましくは5μM~40μMであり、より好ましくは6μM~20μMである。
【0051】
【0052】
本発明の抗コロナウイルス剤は、コロナウイルスの感染を予防及び/又は前記コロナウイルスによる疾患を治療するための医薬用の抗コロナウイルス剤として規定することも可能である。
【0053】
医薬用の抗コロナウイルス剤は、投与部位として、経口投与、口腔内投与、気道内投与、皮下投与、筋肉内投与、血管内(静脈内)投与等を挙げることができる。本発明の抗コロナウイルス剤を医薬として使用する場合、公知の方法により種々の態様に製剤化され、例えば、注射剤、カプセル剤、錠剤、シロップ剤、顆粒剤、貼布剤、点滴、軟膏等を挙げることができる。本発明の抗コロナウイルス剤は、単独で投与しても良いし、薬理学的に許容される単体と共に投与されてもよい。
【0054】
これらの製剤は、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビットのような糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α-デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプンのようなデンプン誘導体;結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムのような珪酸塩誘導体;リン酸カルシウムのようなリン酸塩誘導体;炭酸カルシウムのような炭酸塩誘導体;硫酸カルシウムのような硫酸塩誘導体等)、結合剤(例えば、前記の賦形剤;ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マクロゴール等)、崩壊剤(例えば、前記の賦形剤;クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾された、デンプン、セルロース誘導体等)、滑沢剤(例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ビーガム;ビ-ズワックス、ゲイロウのようなワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸;アジピン酸のようなカルボン酸類:安息香酸ナトリウムのようなカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウムのような硫酸類塩;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物のような珪酸類;前記の賦形剤におけるデンプン誘導体等)、安定剤(例えば、メチルパラペン、プロピルパラペンのようなパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール;クレゾールのようなフェノール類;チメロサール;無水酢酸;ソルビン酸等)、矯味矯臭剤(例えば、通常使用される、甘味料、酸味料、香料等)、懸濁化剤(例えば、ポリソルベート80、カルボキシメチルセルロースナトリウム等)、希釈剤、製剤用溶剤(例えば、水、エタノール、グリセリン等)等の添加物を用いて周知の方法で製造される。また、本発明の抗コロナウイルス剤を注射剤として使用する場合、保存容器としては、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、ペン型注射器用カートリッジ、及び、点滴用バッグ等を挙げることができる。
【0055】
本発明の抗コロナウイルス剤の医薬としての投与量は、所望の治療効果又は予防効果が得られる投与量であれば特に限定は無く、症状、性別、年齢等により適宜決定することができる。投与量として、好ましくは、1ng/kg~10mg/kgであり、より好ましくは、10ng/kg~1mg/kgであり、更に好ましくは、5~500μg/kgであり、より更に好ましくは、10~100μg/kgであり、最も好ましくは、10~30μg/kgである。
【実施例】
【0056】
(1)シクレソニド類縁体の分子設計
X線結晶構造が明らかとなっているNsp15(PDB:6VWW)に対し、 MOE(Molecular Operating Environment;CCG社)を用いてシクレソニド代謝物Cic2のドッキングスタディを行った。
【0057】
【0058】
始めに、結晶水の消去、タンパク質への水素原子の付加、アミノ酸側鎖構造の補正を行い、Site Finderを用いてリガンド結合領域を検出した。次いで、Nsp15とCic2とのドッキングシミュレーション(力場;AMBER10:EHT)により、リガンドの結合様式解析を行った(
図1)。リガンドの結合様式からタンパク質の結合に重要であると考えられるSer294及びPro344に対応する一級水酸基を各官能基に置換したシクレソニド類縁体Cic3-Cic11を設計した。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
(2)シクレソニド類縁体の合成
次にシクレソニド類縁体Cic3~Cic11を下記に示すスキームにてCic2を出発原料として合成した。
【0069】
【0070】
(Cic3の合成 )
Cic2 (250 mg, 0.5 mmol),トリエチルアミン (154 μL, 1.1 mmol)のジクロロメタン溶液 (2 mL)に、0℃にて塩化メタンスルホニル (43 μL, 0.55 mmol)のジクロロメタン溶液 (0.5 mL)を加えた。室温にて30分間撹拌した後、反応液をジクロロメタンで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウム上で乾燥後、ろ過して溶媒を減圧留去した。得られた残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 4 : 1 to 1 : 1)にて精製し、Cic3を無色泡状固体として得た (270 mg, 99%)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3) : δ 7.25 (d, J = 10.2 Hz, 1H), 6.29 (dd, J = 10.2, 1.2 Hz, 1H), 6.03 (s, 1H), 5.00 (d, J = 1.8 Hz, 2H), 4.86 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 4.51 (t, J = 3.0 Hz, 1H), 4.31 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 3.25 (s, 3H), 2.57 (ddd, J = 13.2, 13.2, 4.8 Hz, 1H), 2.35 (dd, J = 13.2, 3.0 Hz, 1H), 2.20-2.14 (m, 1H), 2.08-2.04 (m, 1H), 1.79-1.70 (m, 3H), 1.66-1.56 (m, 9H), 1.45 (s, 3H), 1.26-1.04 (m, 7H), 0.96 (s, 3H).
13C NMR (151 MHz, CDCl3) : δ 202.8, 186.5, 169.5, 155.8, 128.0, 122.6, 107.7, 97.2, 81.9, 71.6, 69.9, 55.0, 49.7, 46.1, 43.9, 40.9, 40.6, 39.5, 33.9, 33.3, 31.8, 30.3, 27.1, 26.2, 25.5, 21.1, 17.1.
【0071】
(Cic4の合成 )
Cic3 (265 mg, 0.48 mmol)のアセトニトリル溶液 (2.4 mL)にアジ化ナトリウム (156 mg, 2.4 mmol)を加え、60℃にて48時間攪拌した。反応液を室温に戻した後、酢酸エチルで希釈し、水、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウム上で乾燥後、ろ過して溶媒を減圧留去した。得られた残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 4 : 1 to 1 : 1)にて精製し、Cic4を白色泡状固体として得た (115 mg, 48%)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3) : δ 7.25 (d, J = 10.8 Hz, 1H), 6.29 (dd, J = 10.8, 1.8 Hz, 1H), 6.04 (s, 1H), 4.89 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 4.52 (t, J = 3.0 Hz, 1H), 4.29 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 4.17 (d, J = 18.6 Hz, 1H), 3.92 (d, J = 18.6 Hz, 1H), 2.57 (ddd, J = 12.6, 12.6, 4.8 Hz, 1H), 2.35 (dd, J = 13.2, 3.0 Hz, 1H), 2.18-2.12 (m, 1H), 2.11-2.06 (m, 1H), 1.79-1.54 (m, 12H), 1.46 (s, 3H), 1.26-1.04 (m, 7H), 0.94 (s, 3H).
13C NMR (151 MHz, CDCl3) : δ 204.6, 186.5, 169.6, 155.8, 128.0, 122.6, 107.5, 97.3, 81.7, 70.0, 55.9, 55.1, 49.8, 45.8, 43.9, 41.2, 40.6, 33.9, 33.2, 31.8, 30.3, 27.1, 26.2, 25.5, 21.1, 17.5.
HRMS (ESI) m/z calculated for C28H38N3O5+ 496.2806 [M + H]+ found 496.2802.
【0072】
(Cic5の合成 )
Cic4 (12 mg, 0.02 mmol)のテトラヒドロフラン溶液 (267 μL)に1M塩酸 (133 μL)を加えた後、トリフェニルホスフィン (9 mg, 0.03 mmol)を加え、室温にて12時間攪拌した。反応液を減圧乾固した後、残渣をアセトニトリルにて2回共沸した。得られた残渣をジクロロメタン (460 μL)に溶解させ、0℃にてイソ酪酸無水物 (8 μL, 0.046 mol)、次いでトリエチルアミン (13 μL, 0.092 mmol)を加えた。室温で2時間撹拌した後、反応液を減圧濃縮し、得られた残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 4 : 1 to 1 : 2)にて精製し、Cic5を白色泡状固体として得た (9.5 mg, 77%)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3) : δ 7.27 (d, J = 9.6 Hz, 1H), 6.28 (dd, J = 9.6, 1.8 Hz, 1H), 6.17 (br.t, J = 4.2 Hz, 1H), 6.03 (br.s, 1H), 4.87 (d, J = 6.0 Hz, 1H), 4.50 (d, J = 3.0 Hz, 1H), 4.30 (dd, J = 14.4, 4.2 Hz, 1H), 4.27 (t, J = 4.2 Hz, 1H), 4.12 (dd, J = 14.4, 4.2 Hz, 1H), 2.56 (ddd, J = 13.2, 13.2, 4.8 Hz, 1H), 2.46 (quint., J =7.2 Hz, 1H), 2.34 (dd, J = 13.8, 3.0 Hz, 1H), 2.15 (ddd, J = 10.8, 10.8, 2.4 Hz, 1H), 2.09 (dd, J = 13.8, 2.4 Hz, 1H), 1.93 (dd, J = 13.8, 3.0 Hz, 1H), 1.85 (dd, J = 14.4, 2.4 Hz, 2H), 1.80-1.70 (m, 5H), 1.67-1.53 (m, 4H), 1.45 (s, 3H), 1.26-1.01 (m, 7H), 1.20 (d, J = 7.2 Hz, 3H), 1.18 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 0.91 (s, 3H).
13C NMR (151 MHz, CDCl3) : δ 206.2, 186.5, 177.4, 169.6, 155.9, 128.0, 122.6, 107.4, 97.4, 81.6, 69.9, 55.1, 49.8, 47.7, 45.9, 44.0, 40.8, 40.6, 35.4, 34.0, 33.3, 31.9, 30.4, 27.1, 26.2, 25.5, 21.1, 19.5, 19.5, 17.1.
【0073】
(Cic6の合成 )
Cic3 (25.0 mg, 0.046 mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液 (1 mL)に塩化リチウム (9.7 mg, 0.23 mmol)を加え、60℃にて3時間撹拌した。反応液を室温に戻した後、酢酸エチルで希釈し、水、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウム上で乾燥後、ろ過して溶媒を減圧留去した。得られた残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 3 : 1)にて精製し、Cic6を白色固体として得た (19.2 mg, 86 %)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3) : δ 7.26 (d, J = 4.2 Hz, 1H), 6.28 (dd, J = 9.6, 1.8 Hz, 1H), 6.02 (br.s, 1H), 4.89 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 4.51 (br.s, 1H), 4.40 (d, J = 16.2 Hz, 1H), 4.28 (d, J = 4.2 Hz, 1H), 4.22 (d, J = 17.4 Hz, 1H), 2.56 (td, J = 8.4, 6.0 Hz, 1H), 2.34 (dd, J =13.8, 3.0 Hz, 1H), 2.16-2.07 (m, 3H), 1.77-1.59 (m, 10H), 1.45 (s, 3H), 1.21-1.08 (m, 8H), 0.92 (s, 3H).
13C NMR (151 MHz, CDCl3) : δ 201.4, 186.5, 169.8, 155.9, 128.0, 122.5, 107.5, 97.8, 81.9, 69.9, 55.1, 49.7, 47.6, 45.6, 44.0, 41.1, 40.6, 33.9, 33.2, 31.8, 30.3, (27.1, 27.1), 26.2, 25.5 (1C overlapped), 21.1, 17.6.
【0074】
(Cic7の合成 )
Cic3 (37.0 mg, 0.067 mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液 (1 mL)に臭化リチウム (23.4 mg, 0.27 mmol)を加え、60℃にて1時間撹拌した。反応液を室温に戻した後、酢酸エチルで希釈し、水、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウム上で乾燥後、ろ過して溶媒を減圧留去した。得られた残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 3 : 1)にて精製し、Cic7を白色固体として得た (30 mg, 85 %)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3) : δ 7.24 (d, J = 10.2 Hz, 1H), 6.30 (d, J = 1.8 Hz, 1H), 6.03 (br.s, 1H), 4.90 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 4.52 (br.s, 1H), 4.32 (d, J = 4.2 Hz, 1H), 4.22 (d, J = 14.4 Hz, 1H), 4.06 (d, J = 14.4 Hz, 1H), 2.56 (td, J = 9.6, 8.4 Hz, 1H), 2.35 (dd, J =10.8, 3.0 Hz, 1H), 2.14-2.04 (m, 3H), 1.77-1.58 (m, 10H), 1.45 (s, 3H), 1.34 (br.s, 1H), 1.20-1.09 (m, 7H), 0.93 (s, 3H).
13C NMR (151 MHz, CDCl3) : δ 201.4, 186.5, 169.6, 155.8, 128.0, 122.6, 107.5, 98.0, 81.9, 70.0, 55.1, 49.6, 45.7, 43.9, 41.3, 40.6, 33.9, 33.3, 33.2, 31.8, 30.3, 27.2, 27.1, 26.2, 25.5 (1C overlapped), 21.1, 17.7.
【0075】
(Cic8の合成 )
Cic3 (27.4 mg, 0.05 mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液 (0.3 mL)にヨウ化ナトリウム (15 mg, 0.10 mmol)を加え、60℃にて1時間撹拌した。反応液を室温に戻した後、酢酸エチルで希釈し、水、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウム上で乾燥後、ろ過して溶媒を減圧留去した。得られた残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 4 : 1 to 1 : 1)にて精製し、Cic8を白色泡状固体として得た (14 mg, 48%)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3) : δ 7.26 (d, J = 10.2 Hz, 1H), 6.29 (dd, J = 10.2, 1.8 Hz, 1H), 6.04 (s, 1H), 4.89 (d, J = 5.4 Hz, 1H), 4.53 (br. s, 1H), 4.41 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 4.09 (d, J = 11.4 Hz, 1H), 3.92 (d, J = 11.4 Hz, 1H), 2.57 (ddd, J = 13.8, 13.8, 5.4 Hz, 1H), 2.35 (dd, J = 13.2, 3.0 Hz, 1H), 2.18-2.05 (m, 3H), 1.77-1.56 (m, 10H), 1.46 (s, 3H), 1.23-1.05 (m, 7H), 0.93 (s, 3H).
13C NMR (151 MHz, CDCl3) : δ 203.2, 186.5, 169.7, 155.9, 128.0, 122.6, 107.3, 98.1, 81.7, 70.0, 55.1, 49.4, 45.9, 45.6, 43.9, 41.3, 40.7, 33.9, 33.3, 31.8, 30.4, 27.2, 26.2, 25.5, 21.1, 17.9.
【0076】
(Cic9の合成 )
Cic7 (27.4 mg, 0.05 mmol)をジメチルアミン溶液 (2Mテトラヒドロフラン)(400 μL)に溶解させ、60℃にて12時間撹拌した。反応液を減圧留去した後、得られた残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ジクロロメタン/メタノール = 100 : 0 to 90 : 10)にて精製し、Cic9を淡黄色油状物質として得た (4.5 mg, 18%)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3) : δ 7.23 (d, J = 9.6 Hz, 1H), 6.28 (dd, J = 9.6, 1.8 Hz, 1H), 6.01 (dd, J = 6.0, 1.8 Hz, 1H), 4.86 (d, J = 6.3 Hz, 1H), 4.49 (d, J = 3.0 Hz, 1H), 4.23 (d, J = 4.2 Hz, 1H), 3.67 (t, J = 6.3 Hz, 1H), 3.51 (d, J = 19.2 Hz, 1H), 3.17 (d, J = 19.2 Hz, 1H), 2.54 (ddd, J = 13.8, 13.8, 5.4 Hz, 1H), 2.30 (s, 6H), 2.15-2.04 (m, 2H), 1.75-1.51 (m, 12H), 1.44 (s, 3H), 1.27-1.02 (m, 7H), 0.90 (s, 3H).
13C NMR (151 MHz, CDCl3) : δ 207.2, 186.6, 169.7, 155.8, 128.1, 122.7, 107.2, 97.6, 81.5, 70.3, 63.0, 55.3, 50.0, 45.9, 45.6, 44.1, 41.6, 40.8, 34.1, 33.4, 32.0, 30.5, 27.3, 26.4, 25.7(1C overlapped), 21.3, 17.7.
【0077】
(Cic10の合成 )
Cic4 (24.8 mg, 0.05 mmol)のテトラヒドロフラン溶液 (580 μL)に1M塩酸 (290 μL)を加えた後、トリフェニルホスフィン (20 mg, 0.075 mmol)を加え、室温にて12時間撹拌した。反応液を減圧乾固した後、残渣を水 (2 mL)に懸濁させ、ジクロロメタン (1 mL x 2)で洗浄した。水層を真空下にて濃縮し、白色固体を得た (22 mg, 85%)。
1H NMR (600 MHz, MeOH-d4) : δ 7.44 (d, J = 10.2 Hz, 1H), 6.25 (dd, J = 10.2, 1.8 Hz, 1H), 6.01 (s, 1H), 4.44 (dd, J = 6.6, 3.0 Hz, 1H), 4.38 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 4.17 (d, J = 18.6 Hz, 1H), 3.85 (d, J = 18.6 Hz, 1H), 2.64 (ddd, J = 13.2, 13.2, 1.5 Hz, 1H), 2.37 (dd, J = 13.2, 3.0 Hz, 1H), 2.26-2.19 (m, 1H), 2.15-2.11 (m, 1H), 1.98 (dd, J = 13.2, 3.6 Hz, 1H), 1.80-1.72 (m, 6H), 1.68-1.56 (m, 4H), 1.48 (s, 3H), 1.27-0.99 (m, 8H), 0.97 (s, 3H).
13C NMR (151 MHz, MeOH-d4) : δ 204.5, 188.8, 174.1, 159.5, 128.0, 122.7, 108.6, 98.6, 83.2, 70.3, 57.2, 51.4, 47.5, 47.5, 45.9, 42.1, 41.4, 35.5, 34.3, 33.0, 31.7, 28.3, 27.4, 26.7, 21.5, 17.6.
【0078】
(Cic11-1,11-2の合成 )
Cic3 (89.9 mg, 0.164 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(1 mL)に溶解させ、室温にて24時間撹拌した。酢酸エチルで希釈し、水、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウム上で乾燥後、ろ過して溶媒を減圧留去した。得られた残渣をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 3 : 1 to 1 : 1)にて精製し、Cic11-1,Cic11-2を白色固体として得た (Cic11-1, 19.9 mg, 25%)(Cic11-2, 8.4 mg, 11%)。
Cic11-1
1H NMR (600 MHz, CDCl3) : δ 7.29 (d, J = 10.2 Hz, 1H), 6.30 (dd, J = 10.2, 1.8 Hz, 1H), 6.04 (s, 1H), 4.68 (d, J = 4.2 Hz, 1H), 4.51 (br.s, 1H), 4.17 (d, J = 5.4 Hz, 1H), 3.21 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 3.16 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 2.57 (td, J = 8.4, 6.0 Hz, 1H), 2.34 (dd, J = 12.9, 2.4 Hz, 1H), 2.18-2.15 (m, 2H), 2.04-2.00 (m, 1H), 1.75-1.61 (m, 9H), 1.52-1.47 (s, 5H), 1.27-1.01 (m, 10H).
13C NMR (151 MHz, CDCl3) : δ 186.6, 169.6, 156.0, 128.0, 122.6, 108.4, 91.0, 79.3, 70.0, 55.1, 49.2, 49.0, 46.9, 46.5, 44.0, 41.4, 40.9, 33.9, 33.2, 31.8, 31.5, 30.1, 27.3, 27.1, 26.2, 25.6 (1C overlapped), 21.1, 16.6.
Cic11-2
1H NMR (600 MHz, CDCl3) : δ 7.27 (d, J = 10.2 Hz, 1H), 6.29 (dd, J = 9.9, 1.8 Hz, 1H), 6.03 (s, 1H), 4.70 (d, J = 3.6 Hz, 1H), 4.48 (d, J = 3.0 Hz, 1H), 4.25 (d, J = 6.0 Hz, 1H), 3.27 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 3.01 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 2.56 (td, J = 13.2, 8.4 Hz, 1H), 2.34 (dd, J = 16.2, 3.0 Hz, 1H), 2.15-2.00 (m, 3H), 1.81-1.41 (m, 14H), 1.27-1.05 (m, 10H).
13C NMR (151 MHz, CDCl3) : δ 186.5, 169.5, 155.8, 128.0, 122.6, 107.9, 91.4, 79.8, 70.0, 55.1, 50.2, 50.0, 48.9, 46.7, 44.0, 41.0, 40.8, 33.9, 33.4, 31.8, 30.1, 27.2, 27.0, 26.2, 25.6 (1C overlapped), 21.1, 17.3.
【0079】
(3)毒性試験
Vero E6/TMPRSS2(JCRB 1819)細胞を、異なる終濃度(2.5μM、5μM、10μM、20μM、40μM)の被験化合物を含む培地(2%FCS、ペニシリン(100 units/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)加DMEM)を用いて18時間培養した。Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST(同仁化学研究所)を用いて各被験化合物存在下における細胞傷害性を評価した。数値化にあたっては、Nivoマルチモードマイクロプレートリーダー(PerkinElmer)を用いて480nmの吸光度を測定した。各被験化合物、各濃度につき、N=3とした。対照群にはDMSOを用いた。
【0080】
異なる濃度の被験化合物をVero E6/TMPRSS2 細胞に18時間共在させた際の細胞毒性について、LDHを指標とした細胞毒性試験により評価した。結果として、シクレソニド(Cicle)を含む計10化合物のうち、シクレソニド 代謝物であるCic2、Cic3、Cic7、Cic8、Cic9、Cic10、Cic11-2の7化合物は40μM濃度で細胞毒性を示した一方で、4化合物(Cicle、Cic4、Cic6、Cic11-1)は40μM濃度においてもLDH放出は10%未満となり、Cic4、Cic6、Cic11-1はCicleと同等の細胞毒性に留まることが示された(
図2)。
【0081】
(4)ウイルス感染実験
SARS-CoV-2 JPN/TY/WK-521株の培養には、上述のVero E6/TMPRSS2細胞を用いた。同細胞株は、5%熱不活化ウシ胎児血清(FBS;SAFC Biosciences, Lenexa, KS, USA)、ペニシリン(100 units/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)を含むDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM, low glucose;富士フィルム和光純薬工業)を用い、37℃、5%CO2下で培養した。
【0082】
ウイルス感染実験に際しては、Vero E6/TMPRSS2細胞を96ウェル平底組織培養用プレート(TPP)に1ウェルあたり1.5 x 104細胞となるように接種し、20時間培養後、上清を吸引除去し、速やかに被験化合物を含む培地(2%FBS、ペニシリン(100units/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)加DMEM)を1ウェルにつき100μL添加した(各被験化合物、各濃度につき、3ウェルずつ用いた)。その後、2%FBS、ペニシリン(100units/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)加DMEM を用いて、MOI(Multiplicity of Infection)が0.1となるよう濃度調整した、SARS-CoV-2懸濁液100μLを各ウェルに添加した(被験物質の終濃度は、0.625μM、1.25μM、2.5μM、5μM、10μM、20μM、40μM、80μM)。37℃、5%CO2下で18時間培養後、培養上清全量を回収し、遠心分離後、以下のウイルス力価試験に用いた。同時に上清除去後の細胞からもRNA抽出を行った。対照群にはDMSOを用いた。
【0083】
細胞培養上清100μLより、Maxwell RSC Viral Total Nucleic Acid Purification Kit(Promega)を用いてRNA抽出を行った。上清除去後の細胞からのRNA抽出には、CellAmpTM Direct RNA Prep Kit for RT-PCR (Real Time)(タカラバイオ)を用いた。
【0084】
RNA抽出液2.5μLを鋳型として、マスターミックスにはTaqMan(登録商標) Fast Virus 1-Step Master Mix(Thermo Fisher Scientific)を、サーマルサイクラーにはABI7500(Thermo Fisher Scientific)を用いてリアルタイムPCRを行った。プライマー・プローブ、反応液組成及び反応条件は「国立感染症研究所病原体検出マニュアル2019-nCoV Ver.2.6」のN2セットに従った。ウイルスRNA定量にあたっては、2019-nCoV_N_Positive Control(IDT)を用いて予め検量線を作成し、これを用いた絶対定量により各RNA試料中のウイルスRNAコピー数を求めた。反応時の陽性対照には上述の2019-nCoV_N_Positive Controlを、陰性対照にはDMSO投与群より抽出したRNAを用いた。
【0085】
12ウェル組織培養用プレート(TPP)に2%FBS、ペニシリン(100 units/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)加DMEM を用いてVeroE6/TMPRSS2細胞を播種し、37℃、5%CO2下で18時間培養した。感染細胞上清検体を2%FBS、ペニシリン(100 units/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)加DMEMで10倍階段希釈した後、1ウェルあたり50μLの各希釈液を加え、37℃、5%CO2下で1時間保温した。その後、上清を吸引除去し、1%メチルセルロース、2%FBS、ペニシリン(100 units/mL)、ストレプトマイシン(100μg/mL)を含むDMEMを加え、37℃、5%CO2下で72~96時間培養した。培養後は10%中性緩衝ホルマリン液で固定を行い、0.05%メチレンブルー溶液0.5mlを加え、1時間染色後、1ウェルあたりのプラーク数を計数し、試料溶液1mLあたりのプラーク数を求めた。各被験物質・濃度につき、N=3を供試し、得られた数値を基に、XLfitプログラム(IDBS)を用いてシグモイド曲線を作成し、初発ウイルス力価を1/100、1/1000に低減する上で必要となる濃度を算出した。
【0086】
10μM濃度の被験化合物を含む培地中でSARS-CoV-2 JPN/TY/WK-521株を18時間感染させた際の、上清中のウイルスRNA量をリアルタイムPCRにより評価した。結果として、対照群(No treatment;化合物非存在下)のウイルスRNA量は、4.8x10
10copy/wellであったのに対し、Cicle投与群は5.2x10
8copy/wellと有意な低減を示した。Cicleと同等の細胞毒性を示した化合物のうち、Cic4投与群におけるウイルスRNA量は2.1x10
5copy/well、Cic6投与群では4.6x10
5copy/wellと共に、Cicle投与群に比べて顕著なウイルス量の低減を示した(
図3)。一方、Cic11-1投与群のウイルスRNA量は1.3x10
9copy/wellとなり、Cic投与群に比べ、有意な低減は認められなかった(
図3)。このほか、Cicle投与群との間で有意なウイルスRNA量の低減を認めた化合物としては、Cic2、Cic3、Cic7が挙げられたが、
図3の細胞毒性がCicle投与群よりも有意に高い結果を得たため、以降の評価対象からは除外した。
【0087】
Cic4、Cic6投与によるウイルス増殖阻害効果を更に評価するため、異なる濃度の被験化合物を含む培地中でSARS-CoV-2 JPN/TY/WK-521株を18時間感染後、細胞上清中におけるウイルス力価をプラークアッセイにより評価した。
図4の通り、Cicle、Cic2、Cic4、Cic6は何れも濃度依存的にウイルス増殖阻害効果を示し、対照群(DMSO)において認められたウイルス力価(約4.6x10
5PFU/mL)を1/100または1/1000に低減するために必要となる濃度は、Cicleが5.86μM、>80.00μM、Cic2が24.55μM、60.95μMであったのに対し、Cic4では6.51μM、7.36μM、Cic6では5.95μM、6.50μMとなる等、Cic4及びCic6はCicle及びCic2に比べ、より高いウイルス増殖阻害効果を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
新型コロナウイルスの予防及び/又は治療に利用できる。