(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-27
(45)【発行日】2025-04-04
(54)【発明の名称】がんの検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20250328BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20250328BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20250328BHJP
【FI】
G01N33/574 A
G01N33/531 A
G01N33/543 521
(21)【出願番号】P 2021551720
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2020038300
(87)【国際公開番号】W WO2021070934
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2019187197
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、橋渡し研究戦略的推進プログラム補助事業、オープンイノベーションの推進により世界のつくばから医療の未来を加速開拓する事業委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】舘野 浩章
(72)【発明者】
【氏名】小田 竜也
(72)【発明者】
【氏名】下村 治
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/190357(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/061449(WO,A1)
【文献】木明琢磨, 外,血清糖タンパク質結合糖鎖を利用した新たな臨床マーカーの開発,臨床病理,2014年,Vol.62補冊,p.140,ISSN: 0047-1860
【文献】KOTHS, K. et al.,Cloning and characterization of a human Mac-2-binding protein, a new member of the superfamily defined by the Macrophage Scavenger Receptor Cysteine-rich Domain,J. Biol. Chem.,1993年,Vol.268, No.19,p.14245-14249,ISSN: 0021-9258
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/574
G01N 33/531
G01N 33/543
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象から得られた生体サンプルを分析する方法であって、
SerpinA3に結合する分子、およびGal3BPに結合する分子からなる群から選択される第1の分子と、BC2LCNである第2の分子とを用いて実施されるアッセイによって、生体サンプル中に含まれる成分を分析することを含む、方法。
【請求項2】
対象が、がんを有する、またはその可能性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象が、膵がんを有する、またはその可能性を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
対象が、ステージ1または2の膵がんを有する、またはその可能性を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
対象から得られた生体サンプルを分析する方法であって、
BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子、SerpinA3に結合する分子、およびGal3BPに結合する分子からなる群から選択される第1の分子と、BC2LCNである第2の分子とを用いて実施されるアッセイによって、生体サンプル中に含まれる成分を分析することを含み、
対象が、ステージ1または2の膵がんを有する、またはその可能性を有する、
方法。
【請求項6】
SerpinA3に結合する分子、およびGal3BPに結合する分子からなる群から選択される第1の分子と、
BC2LCNである第2の分子とを含み、第1の分子と第2の分子とを用いて対象の生体サンプル中の糖タンパク質の量を測定することができる、サンドイッチアッセイ用のキット、イムノクロマトアッセイ用のキット、レクチン電気泳動用のキット、質量分析用のキット、レクチンアフィニティークロマトグラフィー用のキットまたはμTAS用のキット。
【請求項7】
がんを検出することに用いられる、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
がんが、膵がんである、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
がんが、ステージ1または2の膵がんである、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
BC2LCN、SerpinA3に結合する分子、およびGal3BPに結合する分子からなる群から選択される第1の分子と、BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子である第2の分子とを含み、第1の分子と第2の分子とを用いて対象の生体サンプル中の糖タンパク質の量を測定することができる、サンドイッチアッセイ用のキット、イムノクロマトアッセイ用のキット、レクチン電気泳動用のキット、質量分析用のキット、レクチンアフィニティークロマトグラフィー用のキットまたはμTAS用のキットであって、ステージ1または2の膵がんを検出することに用いられる、キット。
【請求項11】
対象から得られた生体サンプル中において特定成分を検出する方法であって、
特定成分は、2つのBC2LCNを同時に結合することができる成分、BC2LCN結合性のSerpinA3、およびBC2LCN結合性のGal3BPからなる群から選択される成分であり、
対象から得られた生体サンプルから2つのBC2LCNに同時に結合できる成分、SerpinA3およびGal3BPからなる群から選択される1以上の成分を分離することを含み、
対象が、ステージIまたはIIの膵がんまたはステージIまたはIIの膵がんを有する可能性を有する対象である、
方法。
【請求項12】
分離された成分の量を測定することをさらに含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
カットオフ値と前記測定された成分の量とを比較することをさらに含む、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
カットオフ値が、健常者の前記測定された成分に対応する成分の量の平均値以上の値であり、膵がん患者の前記測定された成分に対応する成分の量の平均値以下の値である、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
対象から得られた生体サンプル中において特定成分を検出する方法であって、
特定成分は、2つのBC2LCNを同時に結合することができる成分、BC2LCN結合性のSerpinA3、およびBC2LCN結合性のGal3BPからなる群から選択される成分であり、
対象から得られた生体サンプルから2つのBC2LCNに同時に結合できる成分、SerpinA3およびGal3BPからなる群から選択される1以上の成分を分離することを含み、
前記成分が、BC2LCN結合性のSerpinA3、およびBC2LCN結合性のGal3BPからなる群から選択される成分である、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの検査方法およびそのための検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
BC2LCNは、糖結合タンパク質、すなわちレクチンの一種であり、以前の報告によれば、糖タンパク質糖鎖であるH-type1(Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc)およびH-type3(Fucα1-2Galβ1-3GalNAc)に親和性を有し、H-type3糖鎖を有するポドカリキシンを発現するヒトES細胞やiPS細胞の未分化マーカー検出用プローブとして用いることができることが明らかにされている(特許文献1)。また、以前の報告によれば、BC2LCNは、がんの組織に強く結合し、がんマーカー検出プローブとして用いることができることが明らかにされている(特許文献2)。特許文献2によれば、BC2LCNとケラタン硫酸に結合する抗体とのサンドイッチアッセイによって、一部のがん患者の血液成分において、BC2LCNとケラタン硫酸により認識されるタンパク質の存在が確認されている。
【0003】
SerpinA3は、α1-アンチキモトリプシンともよばれ、いくつかの腫瘍などの疾患に関連していることが知られる。SerpinA3は、血液検査マーカーとして開発されている(非特許文献1)。
【0004】
Gal3BPは、LGAL3SBPもしくはMAC-2-BPともよばれ、乳がん、肺がん、直腸結腸がん、卵巣がん、および子宮内膜がんの患者の血清において高濃度で見出される(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2014/126146
【文献】WO2017/061449
【非特許文献】
【0006】
【文献】Nie, S. et al., J. Proteome Res. 13:1873-1884, 2014
【文献】Koths, K. et al., J. Biol. Chem. 268:14245-14249, 1993
【発明の概要】
【0007】
本発明は、がんの検査方法およびそのための検査キットに関する。
【0008】
本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)対象から得られた血液サンプル中を分析する方法であって、
BC2LCN、SerpinA3に結合する抗体、およびGal3BPに結合する抗体からなる群から選択される第1の分子と、BC2LCNである第2の分子とを用いて実施されるサンドイッチアッセイまたはイムノクロマトアッセイによって、血液サンプル中に含まれる血液成分を分析することを含む、方法。
(2)第1の分子がSerpinA3に結合する抗体である、上記(1)に記載の方法。
(3)第1の分子がGal3BPに結合する抗体である、上記(1)に記載の方法。
(4)第1の分子がBC2LCNである、上記(1)に記載の方法。
(5)対象が、がんを有する、またはその可能性を有する、上記(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)対象が、膵がんを有する、またはその可能性を有する、上記(5)に記載の方法。
(7)対象が、ステージ1または2の膵がんを有する、またはその可能性を有する、上記(6)に記載の方法。
(8)BC2LCN、SerpinA3に結合する抗体、およびGal3BPに結合する抗体からなる群から選択される第1の分子と、BC2LCNである第2の分子とを含み、第1の分子と第2の分子とを用いて対象の血液サンプル中の糖タンパク質の量を測定することができる、サンドイッチアッセイ用またはイムノクロマトアッセイ用のキット。
(9)第1の分子がSerpinA3に結合する抗体であり、糖タンパク質におけるタンパク質部分がSerpinA3である、上記(8)に記載のキット。
(10)第1の分子がGal3BPに結合する抗体であり、糖タンパク質におけるタンパク質部分がGal3BPである、上記(8)に記載のキット。
(11)固相化されたBC2LCNである第2の分子と、標識されたBC2LCN、標識されたSerpinA3に結合する抗体、および標識されたGal3BPに結合する抗体からなる群から選択される標識された第1の分子とを含む、上記(8)に記載のキット。
(12)がんを検出することに用いられる、上記(8)~(11)のいずれかに記載のキット。
(13)がんが、膵がんおよび大腸がんからなる群から選択されるがんである、上記(12)に記載のキット。
(14)がんが、ステージ1または2の膵がんである、上記(13)に記載のキット。
(15)対象ががんであるか否かを予測する方法であって、上記(1)~(7)のいずれかに記載の方法を実施することを含む、方法。
(16)対象から得られた血液サンプル中を分析する方法であって、
血液サンプル中の血液成分の有無または濃度を分析することを含み、血液成分は、2つのBC2LCNを同時に結合することができる成分、BC2LCN結合性のSerpinA3、およびBC2LCN結合性のGal3BPからなる群から選択される成分である、方法。
本発明によればまた、以下の発明が提供され得る。
(1A)対象から得られた生体サンプルを分析する方法であって、
BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子、SerpinA3に結合する分子、およびGal3BPに結合する分子からなる群から選択される第1の分子と、BC2LCNである第2の分子とを用いて実施されるアッセイによって、生体サンプル中に含まれる成分を分析することを含む、方法。
(2A)第1の分子がSerpinA3に結合する抗体である、上記(1A)に記載の方法。
(3A)第1の分子がGal3BPに結合する抗体である、上記(1A)に記載の方法。
(4A)第1の分子がBC2LCNである、上記(1A)に記載の方法。
(5A)対象が、がんを有する、またはその可能性を有する、上記(1A)~(4A)のいずれかに記載の方法。
(6A)対象が、膵がんを有する、またはその可能性を有する、上記(5A)に記載の方法。
(7A)対象が、ステージ1または2の膵がんを有する、またはその可能性を有する、上記(6A)に記載の方法。
(8A)BC2LCN、SerpinA3に結合する分子、およびGal3BPに結合する分子からなる群から選択される第1の分子と、BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子である第2の分子とを含み、第1の分子と第2の分子とを用いて対象の生体サンプル中の糖タンパク質の量を測定することができる、サンドイッチアッセイ用のキット、イムノクロマトアッセイ用のキット、レクチン電気泳動用のキット、質量分析用のキット、レクチンアフィニティークロマトグラフィー用のキットまたはμTAS用のキット。
(9A)第1の分子がSerpinA3に結合する抗体であり、糖タンパク質におけるタンパク質部分がSerpinA3である、上記(8A)に記載のキット。
(10A)第1の分子がGal3BPに結合する抗体であり、糖タンパク質におけるタンパク質部分がGal3BPである、上記(8A)に記載のキット。
(11A)固相化されたBC2LCNである第2の分子と、標識されたBC2LCN、標識されたSerpinA3に結合する抗体、および標識されたGal3BPに結合する抗体からなる群から選択される標識された第1の分子とを含む、上記(8A)に記載のキット。
(12A)がんを検出することに用いられる、上記(8A)~(11A)のいずれか一項に記載のキット。
(13A)がんが、膵がんである、上記(12A)に記載のキット。
(14A)がんが、ステージ1または2の膵がんである、上記(13A)に記載のキット。
(15A)対象ががんであるか否かを予測する方法であって、上記(1A)~(7A)のいずれかに記載の方法を実施することを含む、方法。
(16A)対象から得られた生体サンプル中において特定成分を検出する方法であって、
特定成分は、2つのBC2LCNを同時に結合することができる成分、BC2LCN結合性のSerpinA3、およびBC2LCN結合性のGal3BPからなる群から選択される成分である、方法。
(17A)対象から得られた生体サンプルから2つのBC2LCNに同時に結合できる成分、SerpinA3およびGal3BPからなる群から選択される1以上の成分を分離することを含む、方法。
(18A)対象が、膵がんまたは膵がんを有する可能性を有する対象である、上記(17A)に記載の方法。
(19A)膵がんが、ステージIまたはIIの膵がんである、上記(17A)に記載の方法。
(20A)分離された成分の量を測定することをさらに含む、上記(17A)~(19A)のいずれかに記載の方法。
(21A)カットオフ値と前記測定された成分の量とを比較することをさらに含む、上記(20A)に記載の方法。
(22A)カットオフ値が、健常者の前記測定された成分に対応する成分の量の平均値以上の値であり、膵がん患者の前記測定された成分に対応する成分の量の平均値以下の値である、上記(21A)に記載の方法。
(23A)分離された成分を検出することをさらに含む、上記(17A)~(19A)のいずれかに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、各種がんを有する患者と健常者の血液サンプル中で、2分子のBC2LCNにより同時に認識できる血液因子の濃度を測定したサンドイッチアッセイの結果である。
【
図2】
図2は、血液サンプルからBC2LCNを用いてBC2LCNに結合する血液成分を沈降させ、その後、ゲル電気泳動を行ってBC2LCNを用いてウェスタンブロットした結果(左)および銀染色した結果(右)を示す。
【
図3】
図3は、血液サンプルからBC2LCNを用いてBC2LCNに結合する血液成分を沈降させ、その後、ゲル電気泳動を行って、それぞれSeprinA3に対する抗体(左)およびGal3BPに対する抗体(右)でウェスタンブロットした結果を示す。
【
図4】
図4は、各種がんを有する患者と健常者の血液サンプル中で、BC2LCNとSerpinA3に結合する抗体を用いてサンドイッチアッセイを行った結果を示す。
【
図5】
図5は、各種がんを有する患者と健常者の血液サンプル中で、BC2LCNとGal3BPに結合する抗体を用いてサンドイッチアッセイを行った結果を示す。
【
図6】
図6は、膵がん患者と健常者の血液サンプル中で、2分子のBC2LCNにより同時に認識できる血液因子の濃度、BC2LCN結合性のSerpinA3の濃度、BC2LCN結合性のGal3BPの濃度、および2種類の異なる抗SerpinA3抗体を用いて測定したSerpinA3の濃度の結果を示す。
【
図7】
図7は、膵がん患者と健常者の血液サンプル中の、2分子のBC2LCNにより同時に認識できる血液因子の濃度、BC2LCN結合性のSerpinA3の濃度、BC2LCN結合性のGal3BPの濃度、および2種類の異なる抗SerpinA3抗体を用いて測定したSerpinA3の濃度を指標として膵がんを検出する評価系における感度(Sensitivity)および特異度(Specificity)との関係を示すROC曲線である。
【
図8A】
図8Aは、2分子のBC2LCNにより同時に認識できる血液因子の膵がん患者の血液サンプル中における濃度をUICC TMN分類におけるステージ別に測定した結果を示す。
【
図8B】
図8Bは、BC2LCN結合性のSerpinA3の膵がん患者の血液サンプル中における濃度をUICC TMN分類におけるステージ別に測定した結果を示す。
【
図8C】
図8Cは、BC2LCN結合性のGal3BPの膵がん患者の血液サンプル中における濃度をUICC TMN分類におけるステージ別に測定した結果を示す。
【
図8D】
図8Dは、2種類の異なる抗SerpinA3抗体を用いて測定したSerpinA3の膵がん患者の血液サンプル中における濃度をUICC TMN分類におけるステージ別に測定した結果を示す。
【
図9】
図9は、正常(normal)および膵がんを含む膵臓の組織切片のrBC2LCN(図中では、単に「rBC2」と記載することがある)を用いた組織学染色、並びにSerpinA3およびGal3BPに対する免疫組織学染色の結果を示す。
【
図10】
図10は、2分子のBC2LCNを用いたサンドイッチアッセイ、BC2LCNと抗SerpinA3抗体を用いたサンドイッチアッセイ、BC2LCNと抗Gal3BP抗体を用いたサンドイッチアッセイ、抗SerpinA3抗体を用いたELISA、抗Gal3BP抗体を用いたELISAの系における、健常者、慢性膵炎患者、および膵がん患者の血液サンプルの分析結果を示す。
【
図11】
図11は、2分子のBC2LCNを用いたサンドイッチアッセイ、BC2LCNと抗SerpinA3抗体を用いたサンドイッチアッセイ、BC2LCNと抗Gal3BP抗体を用いたサンドイッチアッセイ、抗SerpinA3抗体を用いたELISA、抗Gal3BP抗体を用いたELISAの系における、健常者および慢性膵炎患者に対して膵がん患者を検出するROC曲線を示す。分析は、血液サンプルを用いて行った。
【
図12】
図12は、2分子のBC2LCNを用いたサンドイッチアッセイ、BC2LCNと抗SerpinA3抗体を用いたサンドイッチアッセイ、BC2LCNと抗Gal3BP抗体を用いたサンドイッチアッセイ、抗SerpinA3抗体を用いたELISA、抗Gal3BP抗体を用いたELISAの系における、健常者に対してステージIの膵がん患者を検出するROC曲線を示す。分析は、血液サンプルを用いて行った。
【
図13】
図13は、2分子のBC2LCNを用いたサンドイッチアッセイ、BC2LCNと抗SerpinA3抗体を用いたサンドイッチアッセイ、BC2LCNと抗Gal3BP抗体を用いたサンドイッチアッセイ、抗SerpinA3抗体を用いたELISA、抗Gal3BP抗体を用いたELISAの系における、健常者に対してステージIIの膵がん患者を検出するROC曲線を示す。分析は、血液サンプルを用いて行った。
【
図14】
図14は、2分子のBC2LCNを用いたサンドイッチアッセイ、BC2LCNと抗SerpinA3抗体を用いたサンドイッチアッセイ、BC2LCNと抗Gal3BP抗体を用いたサンドイッチアッセイの系における、健常者に対してステージIIIの膵がん患者を検出するROC曲線を示す。分析は、血液サンプルを用いて行った。
【
図15】
図15は、2分子のBC2LCNを用いたサンドイッチアッセイ、BC2LCNと抗SerpinA3抗体を用いたサンドイッチアッセイ、BC2LCNと抗Gal3BP抗体を用いたサンドイッチアッセイの系における、健常者に対してステージIVの膵がん患者を検出するROC曲線を示す。分析は、血液サンプルを用いて行った。
【
図16】
図16は、膵がん摘出手術の前、当該手術の30日後(30POD)、および当該手術の3ヶ月後(3m)の患者の血液サンプルを、BC2LCNと抗SerpinA3抗体を用いたサンドイッチアッセイにより分析した結果を示す。
【
図17】
図17は、膵がん摘出手術の前、当該手術の30日後(30POD)、および当該手術の3ヶ月後(3m)の患者の血液サンプルを、BC2LCNと抗Gal3BP抗体を用いたサンドイッチアッセイにより分析した結果を示す。
【
図18】
図18は、膵がん摘出手術の前、当該手術の30日後(30POD)、および当該手術の3ヶ月後(3m)の患者の血液サンプルを、CA19-9を用いたELISAAにより分析した結果を示す。
【
図19】
図19は、膵がん摘出術の前、当該手術の1日後(1POD)、当該手術の7日後(7POD)、および当該手術の30日後(30POD)、および再発後の患者(患者A)の血液サンプルを、BC2LCNと抗SerpinA3抗体を用いたサンドイッチアッセイで分析した結果を示す。
【発明の具体的な説明】
【0010】
本明細書では、「対象」とは、哺乳動物、特に、ヒトを含むほ乳類を意味する。本明細書では、「対象」は、健常者であり得、または、がんを有する患者であり得、若しくはがんを有する可能性を有する患者であり得る。
【0011】
本明細書では、「腫瘍」とは、自立性増殖を示す細胞集団を意味する。自立性増殖とは、体内の正常な細胞増殖制御を逃れて、自律的に増殖を続ける細胞の性質を意味する。腫瘍は、良性腫瘍と悪性腫瘍(がん)に大別される。良性腫瘍は、自立性増殖をするが、転移および浸潤、並びに悪液質を起こすことがない腫瘍である。悪性腫瘍は、自律増殖に加えて、正常組織への浸潤、転移、および悪液質のいずれか1以上を起こす。
【0012】
本明細書では、「生体サンプル」とは、対象から得られるサンプル(例えば、組織、細胞、細胞外液、および体液)を意味する。体液としては、血液、尿、腹水、胸水、および分泌液(例えば、内分泌液および外分泌液、例えば、膵液などの消化液)が挙げられる。本明細書では、「血液サンプル」とは、対象から得られる血液(例えば、末梢血)または血液に由来するサンプル(例えば、血清および血漿)である。本明細書では、「血液成分」とは、血液に含まれる成分であり、特に血液に含まれる液体成分である。本明細書では、後述するように、生体サンプルが血液サンプルである場合、成分は血液成分である。
【0013】
本明細書では、「抗体」は、免疫グロブリンを意味する。抗体は、抗原に対して結合する特性を有する生体分子である。抗体は、抗原に対して特異性を有し得る。抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。抗体は、二重特異性抗体を含み得る。抗体は、全長の抗体と、抗原に対する結合性を有するその断片であり得る。
【0014】
本明細書では、「BC2LCN」とは、Burkholderia cenocepacia由来のレクチンであるBC2L-CのN末端ドメインである(Sulak,O.,et al.,Structure,18(1):59-72,2010)。以前の報告によれば、BC2LCNは、糖タンパク質糖鎖であるH-type1(Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc)およびH-type3(Fucα1-2Galβ1-3GalNAc)に親和性を有することが明らかにされ、かつ、BC2LCNは、H-type3糖鎖を有するポドカリキシンを発現するヒトES細胞やiPS細胞の未分化マーカーとして用いることができることが明らかにされている(WO2014/1236146)。また、以前の報告によれば、BC2LCNは、がんの組織に特異的に発現し、がんを検出するものとして用いることができることが明らかにされている(WO2017/061449)。WO2017/061449によれば、BC2LCNとケラタン硫酸に結合する抗体とのサンドイッチアッセイによって、一部のがん患者の血液成分において、BC2LCNとケラタン硫酸により認識されるタンパク質の存在が確認されている。本明細書では、大腸菌等のB. cenocepacia以外の宿主を用いて産生されたBC2LCNを、組換えBC2LCNまたはrBC2LCNということがある。本明細書では、BC2LCNが結合する糖鎖またはタンパク質を、BC2LCN結合性の糖鎖またはタンパク質という。BC2LCN結合性のタンパク質は、BC2LCN結合性の糖鎖により修飾されている。BC2LCN結合性の糖鎖は、H-type1の糖鎖および/またはH-type3の糖鎖であり得る。BC2LCNとしては、例えば、米国国立生物工学情報センター(NCBI)においてYP_002232818として登録されたレクチンが挙げられる。BC2LCNとしては糖鎖に対する結合能を有する限り用いることができるが、BC2LCNとしては、JP2020-146027に開示されるような糖鎖に対する結合能を改変(例えば、向上)したものを用いることもできる。BC2LCNの改変体を用いてもよい。BC2LCNとしては、YP_002232818として登録されたレクチンのアミノ酸配列と90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質(BC2LCN)が挙げられる。BC2LCNは、少なくともH-type3糖鎖およびH-type1糖鎖からなる群から選択される1以上に結合する。
【0015】
本明細書では、「SerpinA3」とは、α1アンチキモトリプシン(AACT)としても知られるセリンプロテアーゼ阻害剤(セルピン)である。ヒトでは、例えば、GenBank登録番号K01500.1として登録された塩基配列を有するmRNAから翻訳されて得られるタンパク質であり得る。ヒトでは、SerpinA3のタンパク質は、423アミノ酸長の前駆体(例えば、NCBI参照番号:NP_001076.2)から1~23番目のアミノ酸配列からなるシグナルペプチドが切断されて生じ得る。
【0016】
本明細書では、「Gal3BP」とは、ガレクチン-3-結合タンパク質である。Gal3BPは、米国国立生物工学情報センター(NCBI)参照番号NM_005567.4として登録された塩基配列を有するmRNAから翻訳されて得られるタンパク質であり得る。ヒトでは、Gal3BPのタンパク質は、例えば、585アミノ酸長の前駆体(例えば、NCBI参照番号:NP_005558.1として登録されたアミノ酸配列を有する)から1~18番目のアミノ酸配列からなるシグナルペプチドが切断されて生じ得る。Gal3BPは、血清中では90kDaの分子量を有し、乳がん、肺がん、直腸結腸がん、卵巣がん、および子宮内膜がんの患者の血清で高濃度で見出される(Koths,K.etal.,J.Biol.Chem.268:14245-14249,1993)。
【0017】
本明細書では、「サンドイッチアッセイ」とは、サンプルに含まれる目的成分を検出することに用いられるアッセイである。サンドイッチアッセイは、当業者であれば常法により実施することができる。サンドイッチアッセイは、通常は、支持体(例えば、基板およびビーズ)に固相化された目的成分に結合する捕捉分子Aに当該目的成分を接触させて、支持体上に目的成分を捕捉し、その後、未結合の当該目的成分を除去した(または分離した)後に、標識された当該目的成分に結合する捕捉分子Bを接触させて、支持体上に補足された目的成分を標識を指標として検出するアッセイである。本発明で用いられ得る支持体としては、通常の免疫学的測定法で用いられる支持体(特に、不溶性の支持体)であれば何れも使用可能であるが、例えば、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリルアミド、ポリグリシジルメタクリレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリ塩化ビニール、ポリエチレン、ポリクロロカーボネート、シリコーン樹脂、シリコーンラバー、アガロース、デキストラン、エチレン-無水マレイン酸共重合物等の有機物;ガラス、酸化ケイ素、ケイソウ、多孔性ガラス、スリガラス、アルミナ、シリカゲル、金属酸化物等の無機物質;鉄、コバルト、ニッケル、マグネタイト、クロマイト等の磁性体等;及びこれらの磁性体の合金を材料として調製されたものが挙げられる。固相化は、固相(例えば、ビーズ、磁気ビーズ、メンブレン、プレートなどのあらゆる表面)に対してなされ得る。磁気ビーズは、市販の様々なものを用いることができる。磁気ビーズとしては、例えば、WO2012/173002Aに開示されるビーズを用いてもよい。サンドイッチアッセイでは、通常、固相化される上記捕捉分子Aと標識された上記捕捉分子Bとは、目的成分との結合に関して互いに競合せず、同時に目的成分に結合する必要がある。捕捉分子Aは、以下に説明する第1の分子であり得、捕捉分子Bは、第2の分子であり得る。捕捉分子Aは、以下に説明する第2の分子であり得、捕捉分子Bは、第1の分子であり得る。
【0018】
サンドイッチアッセイは、マイクロ流体チップ(micro-total analysis systems;μTAS)によって行うこともできる。マイクロ流体チップは、流路を備え、流路はサンプル導入口を有し、例えば、サンプル導入口において、ポリカチオンまたはポリアニオン(例えば、DNA)を結合した捕捉分子Xとサンプルとを接触させて捕捉分子Xと目的成分との複合体を形成させ、電場をかけて複合体を移動させ、流路の途中に存在する標識された捕捉分子Yと複合体が接触すると、目的成分と捕捉分子Xと捕捉分子Yの複合体が形成され、更に電場により複合体は、流路を移動し、流路上の検出部に到達し、そこで捕捉分子Yに結合した標識によって検出され得る。検出は、例えば、レーザー等により光学的に実施され得る。捕捉分子Xは、以下に説明する第1の分子であり得、捕捉分子Yは、第2の分子であり得る。捕捉分子Xは、以下に説明する第2の分子であり得、捕捉分子Yは、第1の分子であり得る。μTASを用いて複数のバイオマーカーの存在を並列的に検出することもできる。
その他サンドイッチアッセイとしては、補足分子Nと補足分子Mとがそれぞれ別のビーズAおよびBに固相化され、目的分子が存在するときには、目的分子、補足分子NおよびビーズA並びに補足分子MおよびビーズBとが複合体を形成し、励起によって一重項酸素を放出するフォトセンシタイザーを含むビーズAに励起光を照射することによって、複合体が形成されているとき(ビーズAとBとが近接しているとき)のみビーズBに一重項酸素が到達し、それによりビーズBが化学発光するようにして、ビーズBからの光を検出することによって目的分子の存在を検出するアッセイ(例えば、AlphaLISA)が挙げられる。従って、本発明では、BC2LCNが固相化されたビーズと、SerpinA3またはGal3BPに結合する抗体が固相化されたビーズとを含む、AlphaLISAアッセイキットが提供されうる。本発明では、第1の蛍光分子で標識されたBC2LCNと第2の蛍光分子で標識されたSerpinA3またはGal3BPに結合する抗体との間の蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)および生体発光共鳴エネルギー転移(BRET)等を用いて目的分子の存在を検出するアッセイキットも用い得る。この場合には、固相化のためのビーズや支持体は必要ではない。本発明では、そのようなアッセイ用のキットが提供されうる。
【0019】
本明細書では、「イムノクロマトアッセイ」とは、サンプルに含まれる目的成分を検出することに用いられるアッセイであり、通常は、金コロイド等の標識で標識された捕捉分子Cと液体試料に含まれる目的成分とを接触させ、標識捕捉分子Cと目的成分との複合体を形成させ、その後クロマトメンブレン上を複合体に移動させ、テストライン上に固相化されている補足分子Dに接触させて、テストライン上に標識捕捉分子Cと目的成分との複合体を捕捉させ、テストライン上の標識を指標として検出するアッセイである。イムノクロマトアッセイでは、通常、標識された捕捉分子Cとテストライン上に固相化されている捕捉分子Dとは、目的成分との結合に関して互いに競合せず、同時に目的成分に結合する必要がある。イムノクロマトアッセイでは、テストラインの他に対照ラインが設けられ、対照ラインには、捕捉分子Cに結合する分子(抗体等であり、捕捉分子CがIgG抗体の場合は抗IgG抗体であり得る)が固相化され、目的成分と結合しなかった標識捕捉成分Cを捕捉することができる。イムノクロマトアッセイでは、サンプルを含ませるサンプルパッドと、標識捕捉分子Cが存在するコンジュゲートパッドと、サンプル中の目的成分と捕捉分子Cとの複合体が移動する移動層であるメンブレンと、サンプル中の水分を吸収する吸収パッドとをこの順番で含むストリップが提供され、メンブレン上には、捕捉分子Dが固相化されたテストラインと捕捉分子Cに対する抗体が固相化された対照ラインが存在する。サンプルパッドにサンプルを含ませると、サンプルが目的成分を含む場合は、ストリップ上を吸収パッドに向けて移動する。コンジュゲートパッドに移動したところで、標識捕捉分子Cと目的成分とが複合体を形成し、複合体はテストラインに固相化された捕捉分子Dに捕捉され、かつ、対照ラインにも捕捉される。サンプルが目的成分を含まない場合は、サンプルは吸収パッドに向けて移動し、標識捕捉分子Cは、複合体を形成せず、テストラインに捕捉されることはなく、対照ラインにのみ捕捉されることとなる。結果、対照ラインが発色し、テストラインが発色した場合には、サンプルに目的成分が含まれていることが示され、対照ラインが発色し、テストラインが発色しない場合には、サンプルに目的成分が含まれていないことが示される。対照ラインが発色しない場合は、イムノクロマトによる評価系が正しく作動していないと判断することができる。捕捉分子Cは、以下に説明する第1の分子であり得、捕捉分子Dは、第2の分子であり得る。捕捉分子Cは、以下に説明する第2の分子であり得、捕捉分子Dは、第1の分子であり得る。
【0020】
本明細書では、「レクチン電気泳動」は、レクチンを含むゲルを用いた電気泳動であり、電気泳動中にレクチンと相互作用する分子は、移動速度が、相互作用しない分子よりも遅くなることを利用した、レクチン結合分子の分離方法である。レクチンは、ゲル中に遊離しているか、または、ゲル上に固相化されている。レクチンは、電気泳動によってほとんど移動しないため、単にゲルの材料と混合してゲルを作製することによって、糖タンパク質の泳動速度を低下させることができる。あるいは、レクチンは、ゲルに対して非共有結合または共有結合で連結されている。BC2LCN結合性の分子を、BC2LCNに対して非結合性の分子と分離する場合には、レクチンとしてBC2LCNを用いたレクチン電気泳動により、生体サンプルを分離することができる。BC2LCN結合性の糖鎖を有する分子は、泳動中にゲル上に固相化されたレクチンと相互作用を繰り返すために、泳動が遅延する。他方で、BC2LCN非結合性の分子は、ゲル上に固相化されたレクチンとの相互作用がなく、泳動が早い。この原理を用いると、電気泳動によって、BC2LCN結合性の糖鎖を有する分子と、BC2LCN非結合性との分子を分離することができる。レクチン電気泳動は、当業者であれば適宜実施することができる。
【0021】
本明細書では、「レクチンアフィニティークロマトグラフィー」は、レクチンが糖鎖と特異的に結合する性質を有することを利用したクロマトグラフィーである。レクチンアフィニティークロマトグラフィーでは、例えば、レクチンを固相化した不溶性の支持体を含むカラムを用いて、試料に対してアフィニティークロマトグラフィーを行う。試料中の成分がレクチンに親和性を有する場合には、当該成分は、他の成分から分離されることとなる。本発明では、レクチンとしては、例えば、BC2LCNを用いることができる。
【0022】
本発明によれば、様々ながんを有する患者の血清を分析したところ、固相化したBC2LCNと標識したBC2LCNとを用いたサンドイッチアッセイにおいて、2つのBC2LCNを同時に結合することができる血液成分が存在すること、およびがんを有する患者における当該血液成分の血清中の量が、健常者よりも高い傾向があることを見出した。
本発明によればまた、様々ながんを有する患者の血清を分析したところ、BC2LCNとSerpinA3に結合する抗体とを用いたサンドイッチアッセイにおいて、BC2LCN結合性のSerpinA3が血液成分として存在すること、およびがんを有する患者におけるBC2LCN結合性のSerpinA3の血清中の量が、健常者よりも高い傾向があることを見出した。
本発明によればさらに、様々ながんを有する患者の血清を分析したところ、BC2LCNとGal3BPに結合する抗体とを用いたサンドイッチアッセイにおいて、BC2LCN結合性のGal3BPが血液成分として存在すること、およびがんを有する患者におけるBC2LCN結合性のGal3BPの血清中の量が、健常者よりも高い傾向があることを見出した。
【0023】
本発明によれば、
対象から得られた生体サンプルを分析する方法であって、
対象から得られた生体サンプル中のSerpinA3(例えば、BC2LCN結合性のSerpinA3)およびGal3BP(例えば、BC2LCN結合性のGal3BP)からなる群から選択される1以上の成分(「目的成分」ということがある)を検出することを含む、
方法
が提供される。本発明の方法では、生体サンプルを用意することを含んでもよい。本発明の方法では、上記の成分の量を測定することをさらに含んでもよい。
【0024】
本発明によれば、SerpinA3(例えば、BC2LCN結合性のSerpinA3)およびGal3BP(例えば、BC2LCN結合性のGal3BP)からなる群から選択される1以上の成分は、当該成分に結合する分子を用いて検出することができる。
ある態様では、上記1以上の成分をそれ以外の成分から分離してから、前記1以上の成分を検出することができる。
例えば、SerpinA3は、SerpinA3に結合する分子を用いて検出することができる。SerpinA3に同時に結合することができる2つの異なる分子を用いることもできる。SerpinA3に同時に結合することができる2つの異なる分子を用いると、イムノクロマトアッセイやサンドイッチアッセイによってSerpinA3を検出することができる。SerpinA3はまた、質量分析によっても検出することができる。いずれの場合もSerpinA3の標準物質を用いて検量線を得ることができる。また、得られた検証線に対して、SerpinA3に関する測定値をあてはめて、SerpinA3を定量することができる。
また、BC2LCN結合性のSerpinA3は、BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子とSerpinA3に結合する分子を用いて検出することができる。BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子が、BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子を用いて、BC2LCN結合性の分子をそれ以外と分離することを含んでいてもよいし、BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子が、BC2LCNである場合、レクチンアフィニティークロマトグラフィーやレクチン電気泳動を用いて、BC2LCN結合性の分子をそれ以外と分離することを含んでいてもよい。また、SerpinA3をそれ以外の成分と分離することを含んでいてもよい。SerpinA3の分離と、BC2LCN結合性の成分の分離は、どちらを先に実施してもよい。
例えば、Gal3BPは、Gal3BPに結合する分子を用いて検出することができる。Gal3BPに同時に結合することができる2つの異なる分子を用いることもできる。Gal3BPに同時に結合することができる2つの異なる分子を用いると、イムノクロマトアッセイやサンドイッチアッセイによってGal3BPを検出することができる。Gal3BPはまた、質量分析によっても検出することができる。いずれの場合もGal3BPの標準物質を用いて検量線を得ることができる。また、得られた検証線に対して、Gal3BPに関する測定値をあてはめて、Gal3BPを定量することができる。
また、BC2LCN結合性のGal3BPは、BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子とGal3BPに結合する分子を用いて検出することができる。BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子が、BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子を用いて、BC2LCN結合性の分子をそれ以外と分離することを含んでいてもよいし、BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子が、BC2LCNである場合、レクチン電気泳動を用いて、BC2LCN結合性の分子をそれ以外と分離することを含んでいてもよい。また、Gal3BPをそれ以外の成分と分離することを含んでいてもよい。Gal3BPの分離と、BC2LCN結合性の成分の分離は、どちらを先に実施してもよい。
【0025】
本発明によれば、
対象から得られた生体サンプルを分析する方法であって、
BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子、SerpinA3に結合する分子、およびGal3BPに結合する分子からなる群から選択される第1の分子と、BC2LCNである第2の分子とを用いて実施されるアッセイによって、生体サンプル中に含まれる成分(「目的成分」ということがある)を分析することを含む、方法
が提供される。
【0026】
生体サンプルは、上記対象から得られた生体サンプルである。対象は、がんを有する、またはがんを有する可能性を有する対象であり得る。がんは、例えば、膵がんであり得る。膵がんは、例えば、ステージI、II、III、およびIVからなる群から選択されるステージの膵がんであり得、例えば、ステージIの膵がんであり得、例えば、ステージIIの膵がんであり得る。生体サンプルとしては、例えば、組織、細胞、および体液が上げられる。体液としては、血液(例えば、血漿および血清)、汗、唾液、尿、腹水、胸水、および分泌液(例えば、内分泌液および外分泌液、例えば、膵液などの消化液)が挙げられる。組織および細胞はそれぞれ、例えば、がんであるか、またはがんであると疑われる組織および細胞とすることができる。組織および細胞はそれぞれ、例えば、がんであるか、またはがんであると疑われる部分を含む。
【0027】
BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子としては、BC2LCN結合性の糖鎖に結合する抗体またはその抗原結合性断片が挙げられる。BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子としてはまた、BC2LCN結合性の糖鎖に結合するアプタマー(例えば、DNAおよびRNAからなる群から選択される核酸アプタマー)が挙げられる。BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子としてはさらに、環状ペプチドなどの中分子が挙げられる。これらのBC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子は、当業者に周知の方法によって取得することができる。例えば、BC2LCN結合性の糖鎖に結合する抗体は、BC2LCN結合性の糖鎖を免疫した非ヒト哺乳動物から得ることができる。BC2LCN結合性の糖鎖に結合するアプタマーは、核酸プールからBC2LCN結合性の糖鎖に対する親和性を利用して取得することができる。BC2LCN結合性の糖鎖に結合する環状ペプチドは、環状ペプチドプールからBC2LCN結合性の糖鎖に対する親和性を利用して取得することができる。BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子は、例えば、BC2LCNであり得る。
【0028】
SerpinA3に結合する分子としては、SerpinA3に結合する抗体またはその抗原結合性断片が挙げられる。SerpinA3に結合する分子としてはまた、SerpinA3に結合するアプタマー(例えば、DNAおよびRNAからなる群から選択される核酸アプタマー)が挙げられる。SerpinA3に結合する分子としてはさらに、環状ペプチドなどの中分子が挙げられる。これらのSerpinA3に結合する分子は、当業者に周知の方法によって取得することができる。例えば、SerpinA3に結合する抗体は、SerpinA3を免疫した非ヒト哺乳動物から得ることができる。SerpinA3に結合するアプタマーは、核酸プールからSerpinA3に対する親和性を利用して取得することができる。SerpinA3に結合する環状ペプチドは、環状ペプチドプールからSerpinA3に対する親和性を利用して取得することができる。SerpinA3は、生体試料中で他の成分と複合体を形成している場合がある。本発明では、そのような複合体を検出してもよい。例えば、SerpinA3と複合体を形成する他の成分としてはPSAがあげられる。したがって、PSAに結合する分子とSerpinA3に結合する分子を用いてSerpinA3を検出することもできる。または、標識した組換えPSAを用いて、SerpinA3がPSAに結合する性質を利用してSerpinA3を検出することもできる。
【0029】
Gal3BPに結合する分子としては、Gal3BPに結合する抗体またはその抗原結合性断片が挙げられる。Gal3BPに結合する分子としてはまた、Gal3BPに結合するアプタマー(例えば、DNAおよびRNAからなる群から選択される核酸アプタマー)が挙げられる。Gal3BPに結合する分子としてはさらに、環状ペプチドなどの中分子が挙げられる。これらのGal3BPに結合する分子は、当業者に周知の方法によって取得することができる。例えば、Gal3BPに結合する抗体は、Gal3BPを免疫した非ヒト哺乳動物から得ることができる。Gal3BPに結合するアプタマーは、核酸プールからGal3BPに対する親和性を利用して取得することができる。Gal3BPに結合する環状ペプチドは、環状ペプチドプールからGal3BPに対する親和性を利用して取得することができる。Gal3BPは、生体試料中で他の成分と複合体を形成している場合がある。本発明では、そのような複合体を検出してもよい。例えば、Gal3BPと複合体を形成する他の成分としてはガレクチン(特に、ガレクチン3)があげられる。したがって、ガレクチン(特に、ガレクチン3)に結合する分子とGal3BPに結合する分子を用いてGal3BPを検出することもできる。または、標識した組換えガレクチン(特に、ガレクチン3)を用いて、Gal3BPがガレクチン(特に、ガレクチン3)に結合する性質を利用してGal3BPを検出することもできる。
【0030】
本発明によれば、対象から得られた生体サンプル(例えば、血液サンプル)を分析する方法であって、
生体サンプル(例えば、血液サンプル)中の成分(特定成分、例えば、血液成分)の有無または濃度を分析することを含み、成分(例えば、血液成分)は、2つのBC2LCNを同時に結合することができる成分、SerpinA3(例えば、BC2LCN結合性のSerpinA3)、およびGal3BP(例えば、BC2LCN結合性のGal3BP)からなる群から選択される成分(目的成分(例えば、目的血液成分)ということがある)である、方法が提供される。本発明の分析方法においては、上記成分の1、2またはすべてが検出された場合には、対象ががんである可能性が示される。本発明の分析方法においては、上記成分の1つの濃度が、カットオフ値よりも大きい場合には、対象ががんである可能性が示される。
【0031】
本発明の分析方法では、対象は、ヒトであり得、例えば、健常者、がんを有する患者、およびがんを有する可能性を有する患者であり得る。
【0032】
ある態様では、がんは、膵がん、大腸がん、直腸腺がん、膀胱がん、乳がん、非小細胞肺がん、胃がん、子宮頸部がん、子宮体がん、肝細胞がん、甲状腺がん、前立腺がん、メラノーマ、食道がん、卵巣がん、胆管がん、非ホジキンリンパ腫、および慢性骨髄性白血病からなる群から選択される1以上のがんであり得る。ある態様では、がんは、膵がんであり得る。ある態様では、膵がんは、ステージIおよびIIからなる群から選択されるステージの膵がんであり得る。ある態様では、膵がんは、ステージIであり得る。ある態様では、膵がんは、ステージIIであり得る。
【0033】
ある態様では、目的成分または目的血液成分は、2つのBC2LCNを同時に結合することができる成分である。ある態様では、目的成分または目的血液成分は、BC2LCN結合性のSerpinA3である。ある態様では、目的成分または目的血液成分は、BC2LCN結合性のGal3BPである。これらの態様において、がんは、上記の通りであり得るが、例えば、膵がん、大腸がん、直腸腺がん、膀胱がん、乳がん、子宮体がん、肝細胞がん、甲状腺がん、メラノーマ、食道がん、胆管がん、卵巣がん、非ホジキンリンパ腫、および慢性骨髄性白血病からなる群から選択される1以上のがんであり得る。ある態様では、がんは、膵がんであり得る。ある態様では、膵がんは、ステージIおよびIIからなる群から選択されるステージの膵がんであり得る。ある態様では、膵がんは、ステージIであり得る。ある態様では、膵がんは、ステージIIであり得る。
【0034】
ある態様において、カットオフ値は、例えば、0、健常者群の目的成分(例えば、目的血液成分)濃度の第1四分位値、平均値、第3四分位値、若しくは最大値、またはこれらのいずれか2つの間の値(例えば、第3四分位値若しくは最大値またはその間の値)とすることができる。ある態様において、カットオフ値は、例えば、0、がん患者群の目的成分(例えば、目的血液成分)濃度の第1四分位値、平均値、第3四分位値、若しくは最大値、またはこれらのいずれか2つの間の値とすることができる。
ある態様において、カットオフ値は、ROC曲線上の感度1および特異度1の点からの距離が最も近い点におけるカットオフ値、当該カットオフ値より大きな値、または当該カットオフ値よりも小さな値であり得る。ある態様において、カットオフ値はまた、Youden Indexが最大値となる点におけるカットオフ値、当該カットオフ値より大きな値、または当該カットオフ値よりも小さな値であり得る。
【0035】
カットオフ値は、感度と偽陽性率との兼ね合いによって決めることができる。カットオフ値は、擬陽性が多くてもがん患者をできるだけ多く検出したい場合(感度を高めたい場合)には、低く設定することができ、擬陽性を減らしたい(その代わり、感度が低下してもよい場合)には、高く設定することができ、当業者であれば、検査の目的に応じて適宜設定することができる。
【0036】
本発明の分析方法において、対象から得られた生体サンプル(例えば、血液サンプル)中の目的成分(例えば、目的血液成分)の濃度がカットオフ値よりも大きい場合には、当該対象は、がんを有する可能性があるとの情報を得ることができる。従って、本発明の分析方法は、対象から得られた生体サンプル(例えば、血液サンプル)中の目的成分(例えば、目的血液成分)の濃度がカットオフ値よりも大きい場合に、当該対象が、がんを有する可能性があることを示す情報を提供することを含みうる。
【0037】
本発明の分析方法において、対象から得られた生体サンプル(例えば、血液サンプル)中の目的成分(例えば、目的血液成分)の濃度がカットオフ値よりも大きい場合には、当該対象は、膵がんを有する可能性があるとの情報を得ることができる。従って、本発明の分析方法は、対象から得られた生体サンプル(例えば、血液サンプル)中の目的成分(例えば、目的血液成分)の濃度がカットオフ値よりも大きい場合に、当該対象が、膵がんを有する可能性があることを示す情報を提供することを含みうる。
【0038】
本発明の分析方法においては、早期がん(ステージIおよびII)を有する患者の生体サンプル(例えば、血液サンプル)中においても目的成分(例えば、目的血液成分)が検出されうる。従って、本発明の分析方法は、対象から得られた生体サンプル(例えば、血液サンプル)中の目的成分(例えば、目的血液成分)の濃度がカットオフ値よりも大きい場合に、当該対象が、早期がんを有する可能性があることを示す情報を提供することを含みうる。早期がんは、早期膵がんであり得る。膵がんのステージ分類は、UICC TNM分類(UICC: TNM Classification of Malignant Tumours, 8th Edn. Wiley-Blackwell; 2017.94-95)に基づいて医師が決定することができる。ステージIは、ステージ1Aおよび1Bを含み、ステージIIは、ステージ2Aと2Bを含む。ステージIIIおよびIVは、ステージ3および4とそれぞれ同義である。
【0039】
【0040】
情報の提供は、情報の送信または出力により行うことができる。情報の出力は、ディスプレイまたは印刷物上になされ得る。
【0041】
本発明の分析方法は、さらに対象ががんを有する可能性を有すると決定することを含んでいてもよい。
【0042】
本発明によれば、本発明の分析方法においてがんを有する可能性があると決定された対象の少なくとも一部をがん療法に供することを含む、がんを処置する方法が提供される。がん療法としては、放射線療法、化学療法、および外科的療法からなる群から選択される1以上が挙げられる。がん療法は、標準療法であり得る。放射線療法は、がんに対して放射線を照射することを含み得る。化学療法は、対象に抗がん剤を投与することを含み得る。外科的療法は、がんを切除することを含み得る。がん(例えば、膵臓がん)に対する化学療法としては、例えば、フォルフィリノックス療法、ゲムシタビン・ナブパクリタキセル療法(GnP療法)、ゲムシタビン・S1療法(GS療法)、リポソーマルイリノテカン・5FU/LV療法(Nal-IRI/FL療法)、ゲムシタビン療法、およびS1療法などが挙げられ、これらの療法のいずれか1以上により対象を処置することができる。抗がん剤としては、例えば、オキサリプラチンなどの白金製剤、イリノテカン、リポソーム型イリノテカン、レボホリナート、ゲムシタビン、ナブパクリタキセル、5-フルオロウラシル(5-FU)、およびS-1からなる群から選択される1以上が挙げられる。
本発明によれば、上記の抗がん剤からなる群から選択される1以上の治療上有効量を含む医薬組成物であって、本発明の分析方法においてがんを有する可能性があると決定された対象においてがんを処置することに用いるための医薬組成物が提供され得る。医薬組成物は、医薬有効成分に加えて、薬学上許容可能な賦形剤をさらに含んでいてもよい。薬学上許容可能な賦形剤は、当業者であれば適宜選択することができる。
【0043】
本発明の分析方法のある態様では、
対象から得られた生体サンプル(例えば、血液サンプル)中を分析する方法であって、
BC2LCN、SerpinA3に結合する抗体、およびGal3BPに結合する抗体からなる群から選択される第1の分子と、BC2LCNである第2の分子とを用いて実施されるサンドイッチアッセイまたはイムノクロマトアッセイによって、生体サンプル(例えば、血液サンプル)中に含まれる成分(例えば、血液成分)を分析することを含む、方法が提供される。
【0044】
ある態様では、第1の分子は、支持体(例えば、基板)に固相化され、第2の分子は、標識され得る。ある態様では、第1の分子は、標識され、第2の分子は、支持体に固相化され得る。
【0045】
固相化は、例えば、直接法、ポリスチレンタグ法(WO2018/190357)、ビオチン-ストレプトアビジン法、HaloTag法、アミンカップリング法などの化学結合を用いた方法、およびV5タグ法などの公知の固相化法を用いることができる。直接法では、固相化される捕捉分子は、そのまま支持体と接触され、これにより、支持体上に固相化される。ポリスチレンタグ法では捕捉分子に融合させたポリスチレンタグを介して、ポリスチレンプレートに固相化される。ビオチン-ストレプトアビジン法では、ストレプトアビジンで被覆した支持体に対して、ビオチンで修飾した捕捉分子が結合することにより、捕捉分子が支持体上に固相化される。HaloTag法では、捕捉分子に融合させたHaloTagタンパク質を介して、HaloTagで被覆した支持体上に捕捉分子が固相化される。アミンカップリング法では、固相表面に形成したカルボキシル基を活性エステル化し、アミノ基を介してタンパク質などを化学結合により固定化することができる。V5タグ法では、抗V5タグ抗体で被覆した支持体に対して、V5タグを連結させた捕捉分子を結合することにより、捕捉分子が支持体上に固相化される。
【0046】
標識としては、サンドイッチアッセイにおいては、基質(発色基質、蛍光基質、および発光基質)、酵素抗体法で用いられる酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、およびアルカリフォスファターゼ)を用いることができる。標識は、当業者であれば常法を用いて行うことができる。標識は、例えば、共有結合性に行うことができる。標識は、例えば、ビオチン連結抗体とアビジン連結標識とを反応させて行ってもよい。基質としては、例えば、蛍光基質が挙げられる。ペルオキシダーゼとしては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼが用いられ得る。西洋ワサビペルオキシダーゼは、発色基質、蛍光基質または発光基質を加えることにより発色、蛍光または化学発光を生じる。従って、発色、蛍光または化学発光を指標として標識した捕捉分子の存在を検出することができる。西洋ワサビペルオキシダーゼの発色基質としては、例えば、テトラメチルベンジダイン(TMB)、o-フェニレンジアミン(OPD)、2,2-アジノビス[3-エチルベンゾ-チアゾリン-6-スルホン酸(ABTS)、およびAmplex(商標)Redが挙げられ、過酸化水素存在下において、標識分子の検出に用いることができる。アルカリフォスファターゼの発光基質としては、p-ニトロフェニルホスフェート(pNPP)、4-メチルウンベリフェリルホスフェート(4-MUP)、およびAttoPhos(商標)が挙げられ、捕捉分子の検出に用いることができる。グルコースオキシダーゼは、グルコースを酸化し、グルコン酸と過酸化水素を発生する。過酸化水素は、例えば、過酸化水素検出用の比色プローブ(例えば、ペルオキシダーゼ)を用いて容易に検出できる。過酸化水素は、例えば、ペルオキシダーゼとその発色基質存在下において、発色させることができる。
【0047】
標識としては、イムノクロマトアッセイにおいては、色素(例えば、着色料、例えば、金コロイド)を用いることができる。
【0048】
ある態様では、第1の分子は、BC2LCNである。この態様では、BC2LCNとしては、組換えBC2LCNを用いることができる。BC2LCNは、直接固相化しても、例えば、ビオチン標識した上でストレプトアビジン(またはニュートラビジン)被覆された支持体に対して固相化してもよい。その他、BC2LCNをHaloTagタンパク質と融合させた上でHaloTagリガンドで被覆された支持体に固相化してもよい。また、BC2LCNにポリスチレンタグを融合させた上でポリスチレンプレートに直接固相化しても良い。サンドイッチアッセイにおいてもイムノクロマトアッセイにおいても、第1の分子がBC2LCNである場合、目的成分は、第1の分子であるBC2LCNと第2の分子であるBC2LCNの両方と同時に結合するものである。従って、第1の分子がBC2LCNであるサンドイッチアッセイおよびイムノクロマトアッセイにより検出される目的成分は、複数のBC2LCNと同時に結合することができる成分である。イムノクロマトアッセイにおいては、対照ラインには、BC2LCNに対する抗体や、H-type1糖鎖抗原やH-type3糖鎖抗原等のBC2LCNと結合する糖鎖抗原が固相化され得る。
【0049】
ある態様では、第1の分子は、SerpinA3に結合する抗体である。この態様では、BC2LCN結合性の糖鎖を有するSerpinA3が検出されていると考えられる。SerpinA3に結合する抗体は、SerpinA3に対する結合性を指標として常法により調製することができる。
【0050】
SerpinA3に結合する抗体は、BC2LCN結合性の糖鎖を有するSerpinA3に対する結合性を有することでさらに確認してもよい。BC2LCN結合性の糖鎖を有するSerpinA3は、実施例で用いたように、固相化したBC2LCNとSerpinA3に結合する抗体に反応する成分として精製することができる。SerpinA3に結合する抗体は、当該精製された成分に結合するか否かを指標として、選択してもよい。
【0051】
第1の分子がSerpinA3に結合する抗体である態様において、第1の分子は、支持体(例えば、基板またはビーズ)に固相化され、第2の分子は、標識され得る;または、第1の分子は、標識され、第2の分子は、支持体に固相化され得る。
【0052】
ある態様では、第1の分子は、Gal3BPに結合する抗体である。この態様では、BC2LCN結合性の糖鎖を有するGal3BPが検出されていると考えられる。Gal3BPに結合する抗体は、Gal3BPに対する結合性を指標として常法により調製することができる。
【0053】
Gal3BPに結合する抗体は、BC2LCN結合性の糖鎖を有するGal3BPに対する結合性を有することでさらに確認してもよい。BC2LCN結合性の糖鎖を有するGal3BPは、実施例で用いたように、固相化したBC2LCNとGal3BPに結合する抗体に反応する成分として精製することができる。Gal3BPに結合する抗体は、当該精製された成分に結合するか否かを指標として、選択してもよい。
【0054】
第1の分子がGal3BPに結合する抗体である態様において、第1の分子は、支持体(例えば、基板またはビーズ)に固相化され、第2の分子は、標識され得;または、第1の分子は、標識され、第2の分子は、支持体に固相化され得る。
【0055】
本発明によれば、対象ががんであるか否かを予測する方法、対象ががんであるか否かの予備的情報を得る方法、対象ががんであるか否かを判定する方法、対象ががんであるか否かを予測するための方法若しくは予備的方法、対象においてがんを検出する方法、対象においてがん細胞を検出する方法、対象においてがんのバイオマーカーを検出する方法(バイオマーカーは、2つのBC2LCNを同時に結合することができる成分、BC2LCN結合性のSerpinA3、およびBC2LCN結合性のGal3BPからなる群から選択される成分である)、または対象ががんであるか否かを分析する方法であって、
当該方法は、
生体サンプル(例えば、血液サンプル)中の成分(例えば、血液成分)の有無または濃度を分析することを含み、成分(例えば、血液成分)は、2つのBC2LCNを同時に結合することができる成分、BC2LCN結合性のSerpinA3、およびBC2LCN結合性のGal3BPからなる群から選択される成分であるか;または
BC2LCN、SerpinA3に結合する抗体、およびGal3BPに結合する抗体からなる群から選択される第1の分子と、BC2LCNである第2の分子とを用いて実施されるサンドイッチアッセイまたはイムノクロマトアッセイによって、生体サンプル(例えば、血液サンプル)中に含まれる成分(例えば、血液成分)を分析することを含む、
方法が提供される。
【0056】
本発明によれば、対象の生体サンプル(例えば、血液サンプル)において成分(例えば、血液成分)を検出する方法であって、成分(例えば、血液成分)が、2つのBC2LCNを同時に結合することができる成分、BC2LCN結合性のSerpinA3、およびBC2LCN結合性のGal3BPからなる群から選択される成分である方法が提供される。この方法は、BC2LCN、SerpinA3に結合する抗体、およびGal3BPに結合する抗体からなる群から選択される第1の分子と、BC2LCNである第2の分子とを生体サンプル(例えば、血液サンプル)と接触させることと、その結果、形成された成分(例えば、血液成分)と第1の分子と第2の分子との複合体を検出することを含み得る。この方法は、BC2LCN、SerpinA3に結合する抗体、およびGal3BPに結合する抗体からなる群から選択される第1の分子と、BC2LCNである第2の分子とを用いて実施されるサンドイッチアッセイまたはイムノクロマトアッセイによって、前記成分(例えば、血液成分)を検出することを含み得る。
【0057】
本発明によれば、BC2LCN、SerpinA3に結合する抗体、およびGal3BPに結合する抗体からなる群から選択される第1の分子と、BC2LCNである第2の分子とを含み、第1の分子と第2の分子とを用いて対象の生体サンプル(例えば、血液サンプル)中の糖タンパク質の量を測定することができる、サンドイッチアッセイ用またはイムノクロマトアッセイ用のキットが提供される。本発明のキットにおいて、ある態様では、第1の分子は、基板またはストリップ上に固相化され、第2の分子は標識されている。本発明のキットにおいて、ある態様では、第1の分子は標識され、第2の分子は基板またはストリップ上に固相化されている。ある態様では、第1の分子は標識され、第2の分子はゲル中に含まれる、またはゲル上に固相化されている。本発明のキットは、標識が酵素抗体法で用いられる酵素である場合には、発色基質をさらに含んでいてもよい。生体サンプルが血液サンプルである場合、成分は血液成分である。
【0058】
本発明のキットのある態様では、第1の分子は、BC2LCNである。本発明のある態様では、第1の分子は、SerpinA3に結合する抗体である。本発明のある態様では、第1の分子は、Gal3BPに結合する抗体である。
【0059】
本発明のキットは、目的分子の検出、またはがんの検出、判定、予測、若しくは診断の用途において用いることができる。
【0060】
本発明によれば、BC2LCN、SerpinA3に結合する抗体、およびGal3BPに結合する抗体からなる群から選択される第1の分子と、BC2LCNである第2の分子との組合せが提供される。本発明の組合せは、2つのBC2LCNを同時に結合することができる成分、BC2LCN結合性のSerpinA3、およびBC2LCN結合性のGal3BPからなる群から選択される成分をサンプル中(例えば、生体サンプルまたは生体サンプル(例えば、血液サンプル))において検出することに用いることができる。上記組合せにおいては、第1の分子および第2の分子の一方は支持体に固相化されていてもよく、かつ、他方は検出のために標識されていてもよい。上記組合せは、生体サンプル(例えば、血液サンプル)を用いてがんを診断することに用いることができる。本発明によれば、上記組合せを含む、生体サンプル(例えば、血液サンプル)を用いてがんを診断することに用いるキットが提供される。上記組合せは、サンドイッチアッセイ用のキット、イムノクロマトアッセイ用のキット、レクチン電気泳動用のキット、質量分析用のキット、レクチンアフィニティークロマトグラフィー用のキットまたはμTAS用のキットであり得る。レクチン電気泳動用のキットは、レクチンを含むゲルを含んでいることができる。レクチンアフィニティークロマトグラフィー用のキットは、レクチンが固相化された支持体を含むカラムを含んでいることができる。これらのキットには、標準物質として、精製されたSerpinA3、精製されたBC2LCN結合性のSerpinA3、精製されたGal3BP、または精製されたBC2LCN結合性のGal3BPなどがさらに含まれていてもよい。μTAS用のキットは、マイクロ流体チップを含んでいてもよい。マイクロ流体チップは、検出部を有し、検出部には、SerpinA3、BC2LCN結合性のSerpinA3、Gal3BP、およびBC2LCN結合性のGal3BP、並びにこれらを含むタンパク質複合体からなる群から選択される1以上を結合する分子が固相化されていることができる。
【0061】
本発明における
対象から得られた生体サンプルを分析する方法であって、
BC2LCN結合性の糖鎖に結合する分子、SerpinA3に結合する分子、およびGal3BPに結合する分子からなる群から選択される第1の分子と、BC2LCNである第2の分子とを用いて実施されるアッセイによって、生体サンプル中に含まれる成分(「目的成分」ということがある)を分析することを含む、方法
では、アッセイによって得られるシグナルが、体内のがんが減少すること(例えば、がんが摘出されること)によって減少し得る。したがって、本発明の方法では、アッセイシグナルは、体内のがんの量を示し得る。また、上記方法では、アッセイによって得られるシグナルが、再発することによって増大し得る。したがって、本発明の方法では、シグナルが増大したことは、がんの再発を示し得る。
【0062】
本発明によれば、対象から得られた生体サンプルから、2つのBC2LCNに同時に結合できる成分、SerpinA3およびGal3BPからなる群から選択される1以上の成分を分離することを含む、方法が提供される。本発明によればまた、対象から得られた生体サンプルから、2つのBC2LCNに同時に結合できる成分、SerpinA3およびGal3BPからなる群から選択される1以上の成分を検出することを含む、方法が提供される。本発明によればまた、
対象から得られた生体サンプルを分析する方法であって、
対象から得られた生体サンプル中の、2つのBC2LCNに同時に結合できる成分、SerpinA3およびGal3BPからなる群から選択される1以上の成分を分離することを含む、
方法
が提供される。分離とは、それ以外の成分の少なくとも1以上から目的の成分を分離することを意味する。分離は、目的の成分の濃縮、富化、および精製を含み得る。濃縮は、濃度を高めることを意味する。富化および精製は、他の成分に対して目的の成分の存在比率を選択的に高めることを意味する。富化および精製は、目的の成分の濃縮を伴っていてもよい。分離はまた、固相化された分子に結合させることを含み得る。この場合、固相化された分子に結合することによって、結合しない他の成分から分離されている。分離は、目的の成分の固相化表面への吸着に加えて、吸着しなかった成分を除去することを含んでいてもよい。吸着しなかった成分の除去は、前記表面の洗浄によって行うことができる。吸着しなかった成分の除去はまた、液相の除去によって行うことができる。吸着しなかった成分の除去はまた、固相がビーズ表面上に存在する場合には、ビーズを回収することによって行ってもよい。この態様において、本発明は、分離された成分の量を測定することをさらに含んでいてもよい。測定は、種々の当業者に周知のアッセイによって行うことができ、これによりアッセイシグナルを得ることができる。測定された量は、指標となる他の量(例えば、カットオフ値)と比較することができる。カットオフ値は、上記で説明した通りであり得る。
【0063】
本発明の方法では、測定された量が、指標となる他の量と比較した多い場合には、生体サンプルが由来する対象ががんである可能性が示され得る。したがって、本発明の方法は、がんを検出する方法、がん細胞を検出する方法、がんであると診断する方法、がんであると診断するための非診断的な方法、がんであると診断するための予備的情報を得る方法、がんであると予測する方法、またはがんであると予測するための非診断的方法であり得る。本発明の方法では、アッセイによって得られるシグナルが、体内のがんが減少すること(例えば、がんが摘出されること)によって減少し得る。したがって、本発明の方法では、アッセイシグナルは、体内のがんの量を示し得る。また、上記方法では、アッセイによって得られるシグナルが、再発することによって増大し得る。したがって、本発明の方法では、シグナルが増大したことは、がんの再発を示し得る。本発明の方法は、異なる時点で回収された2以上の生体サンプルに対して実施することができる。したがって、ある態様では、生体サンプルは、異なる時点で回収された2以上の生体サンプルであり得る。ある態様では、本発明の方法は、アッセイによって得られるシグナル(測定された量に対応する)は、当該異なる時点で回収され得た別のサンプルにおいて得られたシグナルと比較することをさらに含んでいてもよい。このようにすることで、本発明は、患者のがんの治療過程および/または再発過程のモニタリングに用いることができる。
【0064】
本発明の方法は、既存の方法と組み合わせて実施されてもよい。例えば、既存の方法として、体液サンプル中のCA19-9の量を測定することを含む方法が知られている。CA19-9は、がんを有する体液サンプル中で濃度を高めている。また、がんの量が増えるとその濃度が高まり、がんの量が減少するとその濃度が低下する。このように、CA19-9と本発明の方法とを組み合わせることで、体液サンプルの分析によるがんの検出の精度および/または特異度を高め得る。CA19-9は、膵がん、特に、ステージIIIおよびIVなどの膵がんの指標となり得る。したがって、本発明は、生体サンプル中のCA19-9の濃度を測定することをさらに含んでいてもよい。
【0065】
測定されるSerpinA3およびGal3BPからなる群から選択される1以上の成分は、BC2LCN結合性の糖鎖修飾を有することを指標としてさらに分析されてもよい。SerpinA3およびGal3BPからなる群から選択される1以上の成分が、BC2LCN結合性の糖鎖修飾を有するか否かは、上述のように、当該糖修飾(糖鎖)に結合する因子を用いて決定することができる。あるいは、SerpinA3およびGal3BPからなる群から選択される1以上の成分は、当該糖修飾(糖鎖)に結合する因子を用いて分離した後に検出されてもよい。SerpinA3およびGal3BPからなる群から選択される1以上の成分は、SerpinA3に結合する分子およびGal3BPに結合する分子を用いて分離した後に検出されてもよい。
【実施例】
【0066】
実施例1:がん患者の血清中の糖タンパク質のrBC2LCNを用いた検出
各種がんを有する患者の血清中の糖タンパク質をrBC2LCNによるサンドイッチアッセイによって検出した。
【0067】
まず、ビオチン化rBC2LCNをPBSで0.3μg/mLに希釈し、50μL/wellでアビジンプレート(ブロッキングレスタイプ)(住友ベークライト社、BS-X7603)に添加し、室温で1時間インキュベートした。得られたrBC2LCN固相化プレートをPBS/0.1% Tween20で5回洗浄後、PBSで100倍希釈した各種がん患者の希釈血清50μL/well(n=3)と反応させた。室温1時間反応後、プレートをPBS/0.1% Tween20で5回洗浄して、HRP標識rBC2LCN(1μg/mL)を50μL/wellアプライし、室温1時間反応させた。PBS/0.1% Tween20で5回洗浄後、TMB solution(富士フィルム和光純薬)を50μL/wellアプライし、室温30分発色させて、1N HClを50μL/well反応させて発色反応を停止させ、OD450/620を測定した。得られた数値の平均を示した。本rBC2LCNによるサンドイッチアッセイにおいては、OD450/620の値が高いほど、rBC2LCNに結合する糖タンパク質が大量に存在していることを意味する。
【0068】
結果は、
図1に示される通りであった。
図1に示されるように、rBC2LCNによるサンドイッチアッセイにより検出される糖タンパク質は、膵がん患者、結腸がん患者、膀胱がん患者、乳がん患者、非ホジキンリンパ腫患者、子宮体がん患者、卵巣がん患者、および慢性骨髄性白血病患者において、健常者群において認められた最大値よりも高い濃度を有することが明らかとなった。
【0069】
検出された糖タンパク質は、固相化されたrBC2LCNと検出用のrBC2LCNの2分子と同時に結合することができなければならない。本実施例の結果から、2分子のrBC2LCNと同時に結合することができる成分(例えば、血液成分)が、がん患者において広く、健常者よりも高い濃度を有し、従って、成分(例えば、血液成分)の分析に有用であることが明らかとなった。
【0070】
実施例2:rBC2LCNにより認識される糖タンパク質の同定
本実施例では、rBC2LCN結合ビーズで膵がん患者および健常者の血清中の糖タンパク質をそれぞれ沈降させ、沈降した糖タンパク質をrBC2LCNで溶出して、得られた溶出液を電気泳動し、膵がんに固有の糖タンパク質を質量分析により同定した。
【0071】
DynabeadsM280 Streptavidin (Invitrogen)にビオチン化rBC2LCNを結合させた。そして、膵がん及び健常者血清と4℃一晩インキュベートして、洗浄後、0.2Mフコースを添加して、室温1時間インキュベートすることで、rBC2LCNに結合した糖タンパク質を溶出した。得られた溶出液を電気泳動して、PVDF膜に転写後、HRP標識rBC2LCNでブロットした。その結果、健常者血清ではrBC2LCNブロットで反応性が見られなかったものの、膵がん血清では75-150kDa付近に反応性が認められた。そこで、電気泳動して銀染色したゲルから、100-150 kDaの赤で囲った部分を切り出した。切り出した各ゲル片からトリプシン加水分解を経てペプチド混合物を得た。ペプチド混合物をLC-MS/MSに供し、MS/MSデータを取得した。MS/MSデータのアミノ酸配列データベース検索の結果をペプチド同定一覧として出力した。その結果、SerpinA3とGal3BPがrBC2LCNによりがん患者において検出される候補タンパク質として取得された。
【0072】
そこで、膵がん及び健常者血清からrBC2LCN固定化ビーズに結合性を示した糖タンパク質を電気泳動して、SerpinA3に対する抗体およびGal3BPに対する抗体とHRP標識2次抗体を用いてウエスタンブロットした。その結果、
図3に示されるように、SerpinA3、およびGal3BPは、健常者と比べて膵がん患者血清で有意に強く検出された。SerpinA3とGal3BPは、rBC2LCNでビーズに吸着するタンパク質として得られたものであり、そのため、これら糖タンパク質はrBC2LCNに反応性であることがわかった。
【0073】
正常な膵臓の組織と膵がんの組織とを患者から得て、免疫組織化学染色に供した。免疫組織化学染色は常法に基づいて行った。一次抗体としては、SerpinA3の染色に対しては、抗SerpinA3抗体(R&D Systems社製,製品番号:MAB12945、希釈倍率:200倍)を用い、Gal3BPの染色に対しては、抗Gal3BP抗体(R&D Systems社製,製品番号:AF2226、1 μg/mL)を用いた。また、二次抗体としては、それぞれビオチン化抗マウスIgG(ニチレイバイオサイエンス社製、製品番号:424021、希釈倍率:原液)、及びビオチン化抗ヤギIgG(ニチレイバイオサイエンス社製、製品番号:414011、希釈倍率:原液)を用いた。結果は、
図9に示される通りであった。
図9に示される通り、正常膵臓組織では、染色像がほとんど認められなかったのに対して、膵がん組織では、膵管においてSerpinA3とGal3BPが強く発現していることが明らかになった。
【0074】
血液中で検出されるSerpinA3およびGal3BPは、膵がん組織の膵管に由来することが示唆される。
【0075】
実施例3:rBC2LCNとSerpinA3抗体またはGal3BP抗体を用いたサンドイッチアッセイにおけるがん患者の血清の分析
そこで、rBC2LCNとSerpinA3抗体のサンドイッチアッセイを構築して、健常者、及び膵がんを含む各種がん患者の血清の解析を行った。ビオチン化rBC2LCNをPBSで0.3μg/mLに希釈し、50μL/wellでアビジンプレート(ブロッキングレスタイプ)(住友ベークライト社、BS-X7603)に添加し、室温で1時間インキュベートした。得られたrBC2LCN固相化プレートをPBS/0.1% Tween20で5回洗浄後、PBSで100倍希釈した各種がん患者の希釈血清50μL/well(n=3)と反応させた。室温1時間反応後、プレートをPBS/0.1% Tween20で5回洗浄して、HRP標識SerpinA3抗体(1μg/mL;R&D Systems,Cat#:AF1295)を50μL/wellアプライし、室温1時間反応させた。PBS/0.1% Tween20で5回洗浄後、TMB solution(富士フィルム和光純薬)を50μL/wellアプライし、室温30分発色させて、1N HCLを50μL/well反応させて発色反応を停止させ、OD450/620を測定した。得られた数値の平均を示した。
【0076】
結果は、
図4に示される通りであった。
図4に示されるように、rBC2LCNとSerpinA3抗体のサンドイッチアッセイにより検出される糖タンパク質(すなわち、BC2LCNレクチンと結合する特定の糖鎖を有するSerpinA3)は、健常者においてはほとんど検出することができなかった一方で、結腸がん、膵がん、膀胱がん、胃がん、小細胞肺がん、乳がん、非ホジキンリンパ腫、子宮頸部がん、直腸腺がん、幹細胞がん、甲状腺がん、前立腺がん、子宮体がん、メラノーマ、食道がん、卵巣がん、胆管がん、および慢性骨髄性白血病のすべて(調べたがんのすべて)において、強く検出された。
【0077】
次にrBC2LCNとGal3BP抗体のサンドイッチアッセイを構築して、健常者、膵がんを含む各種がん患者の血清の解析を行った。ビオチン化rBC2LCNをPBSで0.3μg/mLに希釈し、50μL/wellでアビジンプレート(ブロッキングレスタイプ)(住友ベークライト社、BS-X7603)に添加し、室温で1時間インキュベートした。得られたrBC2LCN固相化プレートをPBS/0.1% Tween20で5回洗浄後、PBSで100倍希釈した各種がん患者の希釈血清50μL/well(n=3)と反応させた。室温1時間反応後、PBS/0.1% Tween20で5回洗浄して、HRP標識Gal3BP抗体(1μg/mL;R&D Systems,Cat#:AF2226)を50μL/wellアプライし、室温1時間反応させた。PBS/0.1% Tween20で5回洗浄後、TMB solution(富士フィルム和光純薬)を50μL/wellアプライし、室温30分発色させて、1N HCLを50μL/well反応させて発色反応を停止させ、OD450/620を測定した。得られた数値の平均でグラフを作成した。得られた数値の平均を示した。
【0078】
結果は、
図5に示される通りであった。
図5に示されるように、rBC2LCNとGal3BP抗体のサンドイッチアッセイにより検出される糖タンパク質(すなわち、BC2LCNレクチンと結合する特定の糖鎖を有するGal3BP)は、健常者においてはほとんど検出することができなかった一方で、結腸がん、膵がん、膀胱がん、胃がん、小細胞肺がん、乳がん、非ホジキンリンパ腫、子宮頸部がん、直腸腺がん、幹細胞がん、甲状腺がん、前立腺がん、子宮体がん、メラノーマ、食道がん、卵巣がん、胆管がん、および慢性骨髄性白血病のすべて(調べたがんのすべて)において、強く検出された。
【0079】
また、
図10では、健常者、膵炎患者、および膵臓がん患者とで分けて、比較を行った。その結果、rBC2LCNとrBC2LCNのサンドイッチアッセイ、rBC2LCNと抗SerpinA3抗体とのサンドイッチアッセイ、rBC2LCNおよび抗Gal3BP抗体とのサンドイッチアッセイ、抗SerpinA3抗体と抗SerpinA3抗体とのサンドイッチアッセイにおいて、膵がん患者で、健常者や膵炎患者と比較して強いシグナルを検出した。このことから、これらのアッセイにより、膵臓がん患者を、健常者や膵炎患者とから区別できることが示唆された。
【0080】
このことから、がん患者の血清において広く、BC2LCNレクチンと結合する特定の糖鎖を有するSerpinA3及びBC2LCNレクチンと結合する特定の糖鎖を有するGal3BPが存在することが明らかとなった。
【0081】
さらに、他の健常者の血清検体および膵がん患者の血清検体を用いて、上記に記載された通りの方法で、rBC2LCNとrBC2LCNによるサンドイッチアッセイ、rBC2LCNと抗SerpinA3抗体によるサンドイッチアッセイ、rBC2LCNと抗Gal3BP抗体によるサンドイッチアッセイ、および抗SerpinA3抗体(R&D Systems,Cat#:AF1295)と抗SerpinA3抗体(R&D Systems,Cat#:AF1295)によるサンドイッチアッセイを実施した。
【0082】
結果は、
図6に示される通りであった。
図6に示されるように、rBC2LCNとrBC2LCNによるサンドイッチアッセイ、rBC2LCNと抗SerpinA3抗体によるサンドイッチアッセイ、およびrBC2LCNと抗Gal3BP抗体によるサンドイッチアッセイにおいては、健常者の血清よりも、膵がん患者の血清においてサンドイッチアッセイで高い測定強度が得られた。これに対して、抗SerpinA3抗体と抗SerpinA3抗体によるサンドイッチアッセイでは、健常者と膵がん患者の血清とで測定強度が同等であった。このことは、健常者血清においても、膵がん患者の血清においても、SerpinA3は存在するが、膵がん患者において特異的にSerpinA3がrBC2LCNによって認識可能な糖による修飾を受けていることを示唆する結果である。
【0083】
上記で得られた結果を解析し、特異度(Specificity)を横軸とし、感度(Sensitivity)を縦軸として、ROC曲線を描いた。結果は、
図7に示される通りであった。
図7の左上パネルに示されるように、rBC2LCNとrBC2LCNによるサンドイッチアッセイ(rBC2-rBC2)では、ROC曲線下面積(AUC)が0.679であり、当該ROC曲線におけるカットオフ(感度1、特異度1からの最短距離にあるROC曲線状の点から求められる)は0.329であり、そのときの特異度は0.820であり、感度は0.575であった。
図7の右上パネルに示されるように、rBC2LCNと抗SerpinA3抗体によるサンドイッチアッセイ(rBC2-SerpinA3)では、ROC曲線下面積(AUC)が0.892であり、当該ROC曲線におけるカットオフ(感度1、特異度1からの最短距離にあるROC曲線状の点から求められる)は0.014であり、そのときの特異度は0.840であり、感度は0.825であった。
図7の左下パネルに示されるように、rBC2LCNと抗Gal3BP抗体によるサンドイッチアッセイ(rBC2-Gal3BP)では、ROC曲線下面積(AUC)が0.743であり、当該ROC曲線におけるカットオフ(感度1、特異度1からの最短距離にあるROC曲線状の点から求められる)は0.01であり、そのときの特異度は0.900であり、感度は0.575であった。
さらに、
図7の右下パネルに示されるように、抗SerpinA3抗体と抗SerpinA3抗体によるサンドイッチアッセイ(SerpinA3-SerpinA3)では、ROC曲線下面積(AUC)が0.718であり、当該ROC曲線におけるカットオフ(感度1、特異度1からの最短距離にあるROC曲線状の点から求められる)は1.056であり、そのときの特異度は0.8であり、感度は0.65であった。
【0084】
上記結果からは、rBC2LCNと抗SerpinA3抗体によるサンドイッチアッセイ(rBC2-SerpinA3)が、最も優れた精度を有し、rBC2LCNと抗Gal3BP抗体によるサンドイッチアッセイ(rBC2-Gal3BP)が、最も優れた特異度を示すことが明らかとなった。また、rBC2LCNとrBC2LCNによるサンドイッチアッセイ(rBC2-rBC2)や、抗SerpinA3抗体と抗SerpinA3抗体によるサンドイッチアッセイ(SerpinA3-SerpinA3)でも、一定の有用性を有する精度を示すことが明らかとなった。
【0085】
さらに、健常者(n=49)および膵炎患者(n=9)と膵がん患者(n=85)とを区別できる否かをROC曲線を作成して検討した。すると、
図11に示されるように、rBC2LCNと抗SerpinA3抗体によるサンドイッチアッセイ(rBC2-SerpinA3)とrBC2LCNと抗Gal3BP抗体によるサンドイッチアッセイ(rBC2-Gal3BP)が、最も優れたAUCを示すことが明らかとなった。また、rBC2LCNとrBC2LCNによるサンドイッチアッセイ(rBC2-rBC2)や、抗SerpinA3抗体と抗SerpinA3抗体によるサンドイッチアッセイ(SerpinA3-SerpinA3)でも、一定の有用性を有することが明らかとなった。
【0086】
実施例5:ステージ別膵がん患者の血清の分析
本実施例では、ステージ1Aからステージ4までの様々な膵がんを有する患者の血清検体を、サンドイッチアッセイによって評価した。
【0087】
がんのステージは、UICC TNM分類(UICC: TNM Classification of Malignant Tumours, 8th Edn. Wiley-Blackwell; 2017.94-95)に基づいて医師が決定した。がん患者の血清を実施例1および3の記載の通りに、rBC2LCNとrBC2LCNによるサンドイッチアッセイ、rBC2LCNと抗SerpinA3抗体によるサンドイッチアッセイ、rBC2LCNと抗Gal3BP抗体によるサンドイッチアッセイ、および抗SerpinA3抗体と抗SerpinA3抗体によるサンドイッチアッセイにそれぞれ供した。結果は、
図8A~8Dに示される通りであった。
【0088】
図8A~8Cに示されるように、rBC2LCNとrBC2LCNによるサンドイッチアッセイ、rBC2LCNと抗SerpinA3抗体によるサンドイッチアッセイ、およびrBC2LCNと抗Gal3BP抗体によるサンドイッチアッセイでは、ステージ1から4までのすべてのステージにおいて、高い測定強度を示すサンプルが認められた。
図8Dに示されるように、抗SerpinA3抗体と抗SerpinA3抗体によるサンドイッチアッセイでは、
図6で示されたのと同様に、すべてのサンプルにおいて高い測定強度が示された。
【0089】
ステージIの膵がん患者(n=9)と健常者(n=49)との間でROC曲線を作成した。結果は、
図12に示される通りであった。
図12に示されるように、いずれのサンドイッチアッセイにおいても、ステージIの膵がん患者を良好に検出することができた。ステージIIの膵がん患者(n=51)と健常者(n=49)との間でROC曲線を作成した。結果は、
図13に示される通りであった。
図13に示されるように、いずれのサンドイッチアッセイにおいても、ステージIIの膵がん患者を良好に検出することができた。ステージIIIの膵がん患者(n=8)と健常者との間(n=49)のROC曲線を作成した。結果は、
図14に示される通りであった。
図14に示されるように、示されるいずれのサンドイッチアッセイにおいても、ステージIIIの膵がん患者を良好に検出することができた。ステージIVの膵がん患者(n=17)と健常者(n=49)との間のROC曲線を作成した。結果は、
図15に示される通りであった。
図15に示されるように、示されるいずれのサンドイッチアッセイにおいても、ステージIVの膵がん患者を良好に検出することができた。
【0090】
膵がん患者に対して膵がんの摘出手術を実施した。術前と術後の血液サンプル(n=38)についてサンドイッチアッセイで分析した。rBC2LCNと抗SerpinA3抗体とのサンドイッチアッセイの結果は
図16に示され、rBC2LCNと抗Gal3BP抗体とのサンドイッチアッセイの結果は
図17に示され、CA19-9アッセイの結果は
図18に示された。それぞれの図において、30PODは術後30日を意味し、3mは術後3ヶ月を意味する。
図16~18に示されるように、各サンドイッチアッセイのシグナルは、がんの摘出術によって低下した。したがって、これらのアッセイでは、がんの摘出の結果が、血液中の成分含量に影響することが理解できる。
【0091】
さらに、再発した患者の血液サンプルを経時的にアッセイした。アッセイは、BC2LCNと抗SerpinA3抗体を用いたサンドイッチアッセイとした。結果は
図19に示される通りであった。
図19に示されるように、患者Aにおいては、手術後、時間経過と共にアッセイのシグナルが低下した。しかしながら、再発した患者Aの血液を分析すると、シグナルが顕著に増大していた。このことから、本発明のアッセイ系は、再発の検出に用いることができることが示唆された。
【0092】
このことから、rBC2LCNとrBC2LCNによるサンドイッチアッセイ、rBC2LCNと抗SerpinA3抗体によるサンドイッチアッセイ、およびrBC2LCNと抗Gal3BP抗体によるサンドイッチアッセイでは、適切にカットオフ値を設定することによってステージ1および2などの早期膵がんからステージ4の膵がんまでを幅広く検出することができる。