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  • 特許-隅角プロテクター及びその製造方法 図1
  • 特許-隅角プロテクター及びその製造方法 図2
  • 特許-隅角プロテクター及びその製造方法 図3
  • 特許-隅角プロテクター及びその製造方法 図4
  • 特許-隅角プロテクター及びその製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-27
(45)【発行日】2025-04-04
(54)【発明の名称】隅角プロテクター及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61D 1/00 20060101AFI20250328BHJP
   A61F 9/007 20060101ALI20250328BHJP
【FI】
A61D1/00 Z
A61F9/007
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024129588
(22)【出願日】2024-08-06
【審査請求日】2024-12-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524294046
【氏名又は名称】株式会社ベックス
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100202913
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 敦史
(74)【代理人】
【識別番号】100222922
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】久保 明
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1887245(CN,A)
【文献】特表2013-516215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61D 1/00
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼球の切開部位を通して隅角に設置され、前記隅角に設置された状態で前記隅角の形状に合わせて変形可能なC字部材と、
前記C字部材の対向する端部の一方に接続され、前記隅角に設置された前記C字部材を前記切開部位から引き抜くようにユーザが牽引可能な牽引部材と、
を備える隅角プロテクター。
【請求項2】
前記牽引部材が接続された前記C字部材の前記端部は、頂点に丸みを付けた円錐形に形成されている、
請求項1に記載の隅角プロテクター。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の隅角プロテクターの製造方法であって、
前記C字部材と前記牽引部材とを準備する工程と、
前記C字部材の前記端部に前記牽引部材を接続する工程と、
を含む製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隅角プロテクター及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間と同じようにペットにおいても透明な水晶体が混濁する病気である白内障を発症することがある。とりわけペットの中でもイヌは白内障を発症しやすいと言われている。白内障の症状がある程度進行すると、イヌは柱や壁によくぶつかったり物音に敏感になったりすることがあり、さらに症状が進行すると、飼い主も水晶体が白濁していることに気づくようになる。特許文献1に開示されているように点眼薬による治療で効果が見込めない場合には、飼い主の意向により手術が選択されることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-73993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イヌの眼内手術、特に、白内障手術では、術後の合併症として緑内障の発生が問題となっている。術後の緑内障の明らかな病態は判明していないが、術中に生じた組織断片や細胞成分、手術で用いた眼粘弾剤といった異物が房水の排水路(隅角)で詰まりを引き起こし、眼圧が上昇することが要因であると考えられている。このような問題は、イヌの白内障手術を実施する場合に限られず、イヌ以外の動物やヒトに対して眼内手術を実施する場合においても存在している。
【0005】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、眼内手術時に隅角への異物の流入を防ぐことが可能な隅角プロテクター及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る隅角プロテクターは、
眼球の切開部位を通して隅角に設置され、前記隅角に設置された状態で前記隅角の形状に合わせて変形可能なC字部材と、
前記C字部材の対向する端部の一方に接続され、前記隅角に設置された前記C字部材を前記切開部位から引き抜くようにユーザが牽引可能な牽引部材と、
を備える。
【0007】
前記牽引部材が接続された前記C字部材の前記端部は、頂点に丸みを付けた円錐形に形成されてもよい。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第2の観点に係る隅角プロテクターの製造方法は、
前記C字部材と前記牽引部材とを準備する工程と、
前記C字部材の前記端部に前記牽引部材を接続する工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、眼内手術時に隅角への異物の流入を防ぐことが可能な隅角プロテクター及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る隅角プロテクターの構成を示す図である。
図2図1の隅角プロテクターを眼内の隅角に一時的に設置した様子を示す断面図である。
図3図1の隅角プロテクターを眼内の隅角に一時的に設置した様子を示す正面図である。
図4】(a)、(b)は、いずれも本発明の変形例に係る隅角プロテクターの構成の一部を拡大した図である。
図5】実施例において作成した隅角プロテクターの外観を撮影した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係る隅角プロテクター及びその製造方法を、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面では、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。実施の形態では、手術対象としてイヌを対象とする場合を例に説明する。
【0012】
実施の形態に係る隅角プロテクターは、イヌの眼内にある角膜と虹彩との間にある隅角を塞ぐように一時的に設置され、隅角への異物の流入を防止する手術器具である。実施の形態に係る隅角プロテクターは、術前又は術中に眼球に設けた切開部位から隅角に設置され、術後に当該切開部位から抜き取られる。これにより隅角が術中に発生した異物により塞がれ、房水の流れが妨げられ、眼圧が上昇することを防止できる。
【0013】
実施の形態に係る隅角プロテクターは、任意の眼内手術に適用できるが、白内障手術に適用するのが好適である。白内障は、何らかの原因、例えば、加齢や遺伝、糖尿病により水晶体が混濁し、視覚が低下する病気である。白内障手術では、超音波プローブにより水晶体の濁った組織を乳化しながら吸引し、その後、人工の眼内レンズに置き換える処置が行われる。
【0014】
このような眼内手術では、手術器具の操作や眼内レンズの設置により多数の組織断片や細胞成分が房水中に浮遊する。また、眼内組織を押し広げて前房の空間を広く維持したり、手術器具から眼内組織を保護したりするのに眼粘弾剤が用いられる。実施の形態に係る隅角プロテクターは、術中にこれらの異物が房水の流れによって移動し、隅角で詰まりを引き起こすことがないように隅角を保護する。その結果として術後の合併症である緑内障の発生率を低下させることができる。
【0015】
次に、図1を参照して、実施の形態に係る隅角プロテクター1の構成を説明する。隅角プロテクター1は、眼球の切開部位を通して隅角に設置され、隅角に設置された状態で隅角の形状に合わせて変形可能なC字部材2と、C字部材2の端部に接続され、隅角に設置されたC字部材2を切開部位から引き抜くようにユーザが牽引可能な糸3と、を備える。
【0016】
C字部材2は、隅角の形状に合わせて変形可能でC字状に湾曲した弾性部材であり、例えば、横断面が円形である中実なゴムリングに切れ目が入った部材である。C字部材2には、外力が加わっていない状態で両端部の間に隙間2aが存在している。C字部材2は、高圧蒸気による滅菌と弾性変形とが可能な生体適合性材料、例えば、シリコンゴム、ニトリルゴムで形成されている。
【0017】
C字部材2は、対象とするイヌの眼内の隅角に設置された状態で外に向かって広がるように形成されるとよい。これによりC字部材2が角膜と虹彩とで形成された領域の外周側に入り込み、C字部材2が隅角から抜け落ちることを防止できる。一例としてイヌを対象とする場合、C字部材2のリング径(外径)は、例えば、15mm~18mmの範囲内であり、その横断面の直径は、例えば、1.0mm~1.5mmの範囲内であることが好ましい。
【0018】
糸3は、ユーザが牽引可能な牽引部材の一例であり、例えば、C字部材2の対向する一対の端面の一方に接続されている。糸3は、縫合糸、とりわけ非吸収性縫合糸であることが好ましく、例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレンで形成されている。糸3は、眼内に異物の残留を防ぐためにモノフィラメントであることが好ましいが、牽引力が加えられることを考慮してマルチフィラメントとしてもよい。糸3には、視認性を向上させるために色が付けられてもよい。
以上が、隅角プロテクター1の構成である。
【0019】
次に、実施の形態に係る隅角プロテクター1の製造方法の流れを説明する。隅角プロテクター1は、必ずしも術前に製造するとは限らず、クリニックや病院で術中に眼球の大きさや形状を把握した上で製造してもよい。
【0020】
まず、C字部材2及び糸3を準備する。C字部材2を得るには、例えば、対象となるイヌの眼球のサイズに合わせてゴムリングを選択し、高温蒸気で滅菌し、1箇所だけ切れ目を入れるとよい。又はリング径や断面径が異なる複数種類のC字部材2を予め準備しておいてもよい。糸3については、対象となるイヌの眼球のサイズや術者の使い勝手を考慮して、滅菌されたものを適宜の長さに切断すればよい。
【0021】
次に、C字部材2の対向する端部の一方に糸3を取り付ける。糸3の取り付け方は任意であるが、例えば、針付き糸の針を用いて糸3をC字部材2に貫通させ、結び付けるとよい。別の手法として接着剤によりC字部材2の端部に糸3を接着するか、C字部材2の端部に設けた貫通孔に糸3を挿入して結び付けてもよい。
以上が、隅角プロテクター1の製造方法の流れである。
【0022】
次に、図2及び図3を参照して、実施の形態に係る隅角プロテクター1と隅角との位置関係を説明する。図2に示すように、眼球の最前部には角膜が存在し、眼内の瞳孔の奥には水晶体が存在する。角膜と水晶体で囲まれた部分は、虹彩を境にして前房と後房とに分けられ、いずれも房水で満たされている。
【0023】
房水は、角膜や水晶体に栄養を与えるため、毛様体で生成され、瞳孔を通って前房に流れる。次に、角膜と虹彩の間にある隅角の線維柱帯で濾過され、イヌの場合では、強膜静脈叢から静脈に向けて排出される。隅角プロテクター1のC字部材2は、隅角で角膜と虹彩の間に挟まれるように設置され、房水の流れに乗った異物が隅角に流入することを防止する。また、図3に示すように、C字部材2に接続された糸3の一部は、角膜の切開部位から外部に出しておく。外部に出ている糸3はC字部材2を眼内から抜き取る際に用いることができる。
【0024】
次に、実施の形態に係る隅角プロテクター1を用いて対象のイヌに対して術者が実施する白内障手術の一連の流れを説明する。対象のイヌは、術前検査により手術に適している状態かどうか確認され、手術直前に全身麻酔が施されるものとする。
【0025】
まず、眼内に隅角プロテクター1を設置する。具体的には、角膜輪部に沿って2mm~3mm程度の切開部位を作成し、この切開部位からC字部材2を挿入し、隅角の線維柱帯の近くに設置する。このとき、糸3は切開部位から外部に引き出された状態にセットする。なお、眼球の切開部位は、角膜輪部に限られず、角膜の他の部位や強膜に作成してもよい。
【0026】
次に、眼粘弾剤を切開箇所から前房に注入した後、超音波乳化吸引術を実施する。具体的には、超音波プローブを切開部位に挿入して動作させることにより、水晶体嚢内にある濁った組織を取り除く。次に、濁った組織が除かれた水晶体嚢内にはインジェクターを用いて眼内レンズを展開させる。このとき、C字部材2により隅角が塞がれているため、組織断片、浮遊細胞及び眼粘弾剤といった異物が隅角に流入することがない。
【0027】
超音波乳化吸引術が終了すると、隅角から隅角プロテクター1を除去する。具体的には、切開部位から外部に出ている糸3を牽引すると、C字部材2を切開部位から引き抜くことができる。
以上が、白内障手術の一連の流れである。
【0028】
以上に説明したように、本実施形態に係る隅角プロテクター1は、眼球の切開部位を通して隅角に設置され、隅角に設置された状態で隅角の形状に合わせて変形可能なC字部材2と、C字部材2の対向する端部の一方に接続され、隅角に設置されたC字部材2を切開部位から引き抜くようにユーザが牽引可能な糸3と、を備える。このため、眼内手術時に隅角への異物の流入を防ぐことができる。
【0029】
本発明は上記実施の形態に限られず、以下に述べる変形も可能である。
【0030】
(変形例)
上記実施の形態では、C字部材2が、横断面が円形である中実なゴムリングを切断した部材であったが、本発明はこれに限られない。隅角を塞ぐことができれば、C字部材2はいかなる形状であってもよく、例えば、その横断面は楕円形であってもよい。また、その断面は中空であってもよい。
【0031】
上記実施の形態では、外力が加わっていない状態でC字部材2の両端部の間に隙間が存在していたが、本発明はこれに限られない。外力が加わっていない状態でC字部材2の両端部が接触していてもよい。
【0032】
上記実施の形態では、C字部材2に対向する一対の端面が設けられていたが、本発明はこれに限られない。例えば、眼球の切開部位に対するC字部材2の挿入や引き抜きを容易にするため、糸3が接続された側のC字部材2の端部は、頂点に丸みを付けた円錐形に形成されてもよい。図4(a)に示すように円錐形の頂点から延びるように糸3を接続してもよく、図4(b)に示すように円錐形の部分に貫通孔2bを設け、貫通孔2bに糸3を挿入し、結び付けてもよい。また、糸3が接続されていない側のC字部材2の端部も、頂点に丸みを付けた円錐形に形成されてもよい。
【0033】
上記実施の形態では、牽引部材として糸3を用いていたが、本発明はこれに限られない。例えば、牽引部材としてゴム製のバンド又は紐を用いてもよい。糸3とC字部材2とが同一の材料又は異なる材料を用いて一体成形されてもよい。
【0034】
上記実施の形態では、いずれも滅菌されたC字部材2と糸3とを接続していたが本発明はこれに限られない。C字部材2と糸3とを接続した後、高温蒸気で滅菌してもよい。
【0035】
上記実施の形態では、隅角プロテクター1をイヌの眼球に適用していたが、本発明はこれに限られない。ヒトを除く動物、例えば、ネコの眼球に適用してもよく、ヒトの眼球に適用してもよい。
【0036】
上記実施の形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例)
実施例では、隅角プロテクターを用いて隅角を保護しながらイヌの白内障手術を実施した。隅角プロテクターは、図5に示すとおりである。隅角プロテクターは、シリコンゴム製のOリングを径方向に切断し、高温蒸気で滅菌した後、Oリングの切断された端部に針付き縫合糸を貫通させた状態で針を取り除いて縫合糸を結び付けることで作成した。Oリングの外径は15mm~18mmの範囲内であり、その横断面の直径は、1.0mm~1.5mmの範囲内であった。縫合糸は、USP8-0ナイロン縫合糸である。12頭17眼に対して同一の手術機械を用いて手術を実施した結果、術後の緑内障の発生率は0%であった。既報の学術論文によると、術後の緑内障の発生率は16.8%又は18.8%であるため、隅角プロテクターにより緑内障の発生を大幅に抑制できることが理解できる。
【符号の説明】
【0039】
1 隅角プロテクター
2 C字部材
2a 隙間
2b 貫通孔
3 糸

【要約】
【課題】眼内手術時に隅角への異物の流入を防ぐことが可能な隅角プロテクター及びその製造方法を提供する。
【解決手段】隅角プロテクター1は、眼球の切開部位を通して隅角に設置され、隅角に設置された状態で隅角の形状に合わせて変形可能なC字部材2と、C字部材2の対向する端部の一方に接続され、隅角に設置されたC字部材2を切開部位から引き抜くようにユーザが牽引可能な糸3と、を備える。糸3が接続されたC字部材2の端部は、頂点に丸みを付けた円錐形に形成されている。
【選択図】図1

図1
図2
図3
図4
図5