(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-27
(45)【発行日】2025-04-04
(54)【発明の名称】フルオロポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 214/26 20060101AFI20250328BHJP
C08F 2/22 20060101ALI20250328BHJP
C08F 214/22 20060101ALI20250328BHJP
C08F 216/14 20060101ALI20250328BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20250328BHJP
【FI】
C08F214/26
C08F2/22
C08F214/22
C08F216/14
C08J5/18 CEW
(21)【出願番号】P 2019555214
(86)(22)【出願日】2018-04-09
(86)【国際出願番号】 EP2018058999
(87)【国際公開番号】W WO2018189090
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-03-09
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-20
(32)【優先日】2017-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】バッシ, マッティア
(72)【発明者】
【氏名】マラーニ, アレッシオ
(72)【発明者】
【氏名】ロンキャティ, フルヴィア
(72)【発明者】
【氏名】イエヴァ, エリアナ
(72)【発明者】
【氏名】カペリュシュコ, ヴァレーリー
【合議体】
【審判長】細井 龍史
【審判官】北澤 健一
【審判官】松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-525239(JP,A)
【文献】特表2012-520920(JP,A)
【文献】国際公開第2010/110129(WO,A1)
【文献】特表2004-528451(JP,A)
【文献】国際公開第2016/028582(WO,A1)
【文献】特表2007-510036(JP,A)
【文献】米国特許第2468664(US,A)
【文献】英国特許出願公開第583482(GB,A)
【文献】特開昭60-186512(JP,A)
【文献】特開昭63-81104(JP,A)
【文献】特表2010-540749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/00-299/08
C08J3/00-7/18
CA(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半結晶性フルオロポリマー[ポリマー(F)]を製造する方法であって、ポリマー(F)が:
-
55モル%~65モル
%のテトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位と、
-
40モル%~
30モル%のフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と
、
- 場合により0.1モル%~5モル%、好ましくは1モル%~5モル%、より好ましくは1.5モル%~3.5モル%の、式(I)
CF
2
=CF-O-R
f
(I)
(式中、R
f
は、C
1
~C
6
アルキル基又はC
1
~C
6
(パー)フルオロアルキル基である)
の少なくとも1種のパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)に由来する繰り返し単位と
からなり、
前記繰り返し単位のモル量が、前記ポリマー(F)の繰り返し単位の総モルに対してであり、
前記方法が、1種又は複数種の界面活性剤の添加を伴うことなく、水性重合媒体中で乳化重合により実施される方法。
【請求項2】
前記方法が、10バール~35バール、好ましくは11バール~25バールに含まれる圧力で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式(I)の前記パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)が、式CF
2=CF-O-CF
3のパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、式CF
2=CF-O-CF
2-CF
3のパーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、式CF
2=CF-O-CF
2-CF
2-CF
3のパーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)からなる群から選択される請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマー(F)が、5Kgの負荷下で300℃においてASTM D1238に従って測定した、5g/10分未満、好ましくは2g/10分未満、より好ましくは1g/10分未満のメルトフローインデックスを有する請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
水性ラテックスを製造する方法であって、前記水性ラテックスが半結晶性フルオロポリマー[ポリマー(F)]を含み、前記ポリマー(F)が:
-
55モル%~65モル
%のテトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位と、
-
40モル%~
30モル%のフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と
- 場合により0.1モル%~5モル%、好ましくは1モル%~5モル%、より好ましくは1.5モル%~3.5モル%の、式(I)
CF
2
=CF-O-R
f
(I)
(式中、R
f
は、C
1
~C
6
アルキル基又はC
1
~C
6
(パー)フルオロアルキル基である)
の少なくとも1種のパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)に由来する繰り返し単位と
からなり、
前記繰り返し単位のモル量は、前記ポリマー(F)の繰り返し単位の総モルに対してであり、水性ラテックス中のポリマー(F)は、ISO 13321に従って測定して、1μm未満、好ましくは600nm未満の平均一次粒径を有する一次粒子の形態であり、
前記方法が、1種又は複数種の界面活性剤の添加を伴うことなく、水性重合媒体中で乳化重合により実施される方法。
【請求項6】
水性分散液を製造する方法であって、前記方法が、請求項
5に記載の方法により得られた水性ラテックスの濃縮を備える方法。
【請求項7】
フィルムを製造する方法であって、前記方法が、請求項
5に記載の方法により得られた水性ラテックス又は請求項
6に記載の方法により得られた水性分散液を通常、キャスティング、吹付け又は浸漬により加工することを備える方法。
【請求項8】
フィルムを製造する方法であって、前記方法が:
- 請求項
5に記載の方法により得られた水性ラテックス又は請求項
6に記載の方法により得られた水性分散液を凝固させた後、乾燥させて、それによりポリマー(F)の固体粉末を提供する工程と
- そのようにして得られたポリマー(F)の固体粉末を、場合により少なくとも1種の潤滑剤の存在下で加工して、それによりフィルムを提供する工程と
を備える方法。
【請求項9】
前記方法が、
- 前記フィルムを通常、一方向又は複数の方向に拡張し、それにより拡張フィルムを提供する工程と、
- 場合により、そのようにして得られた拡張フィルムを熱処理する工程と
をさらに備える請求項
8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年04月11日に出願された欧州特許出願公開第17165867.7号に対する優先権を主張し、この出願の全内容は、全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、フルオロポリマーの製造方法と、前記方法により取得できるフルオロポリマーと、前記フルオロポリマーの様々な用途での使用とに関する。
【背景技術】
【0003】
フルオロポリマーは、当技術分野で公知であり、高い機械的耐性と高い耐薬品性の両方を有するので様々な用途で好適に使用される。
【0004】
コーティング用途などの様々な用途での使用に好適なフルオロポリマー組成物を得るために、様々な試みが当技術分野で行われている。
【0005】
特開2017-057379号公報(ダイキン工業株式会社)(2017年3月23日)は、フッ素化界面活性剤及び非フッ素化界面活性剤から選択される少なくとも1種の界面活性剤の存在下、水性媒体中でテトラフルオロエチレン及びフッ化ビニリデンを重合する方法に関する。全ての例において、特開2017-057379号公報は、反応性フッ素含有のアリルエーテルアニオン性界面活性剤、即ち、式CH2=CFCF2-O-(CF(CF3)CF2O)-CF(CF3)-COONH4の化合物及び式F(CF2)-COONH4の短鎖のフッ素含有アニオン性界面活性剤の存在下でのテトラフルオロエチレン及びフッ化ビニリデンの重合を開示する。反応性イオン界面活性剤の存在下での重合は、複数のイオン性ペンダント基を含むポリマーとなる。それらのイオン性基がポリマーの主鎖に結合するということの深刻な欠点は、得られるポリマーの熱安定性の低下である。
【0006】
しかし、効率的で且つコスト効果の高い方法で得られ得る、低い融点及び高い熱安定性を有する溶融加工性フルオロポリマー及びそれらの組成物に対する必要性が当技術分野に依然として存在している。
【発明の概要】
【0007】
本発明の方法が、通常、溶融相において加工し易いフルオロポリマーを提供するのを有利にも可能にすることが、驚くべきことに今や見出されている。
【0008】
本発明のフルオロポリマーは、有利にも高分子量を有し、特に高温で卓越した機械物性を必要とする様々な用途で好適に使用できる。
【0009】
特に、本発明の方法は、様々な用途、殊にコーティング用途での使用に好適な水性分散液に有利にも濃縮できる水性ラテックスを提供しながら、界面活性剤を使用しないで、有利にも行われることが見出されている。環境面での利点の他に、界面活性剤、具体的には反応性フッ素化界面活性剤を重合プロセスで使用しないことにより、イオン性ペンダント基を有する反応性界面活性剤の存在下での重合プロセスにより所得されるポリマーと比較すると、改善した熱安定性を有するポリマーを得られることとなる。
【0010】
また、本発明の水性ラテックスが、テトラフルオロエチレンホモポリマー及びパーフルオロアルキルビニルエーテルとのコポリマーなどの完全フッ素化フルオロポリマーを含む水性ラテックスと比較すると、高い耐薬品性及び高耐熱性を有することと併せて、比較的低い皮膜形成温度で高硬度を有するコーティングを有利にも提供することを見出している。
【0011】
第1の例では、本発明は、半結晶性フルオロポリマー[ポリマー(F)]の製造方法であって、そのポリマーが:
- 50モル%超、好ましくは51モル%~70モル%、より好ましくは55モル%~65モル%、さらにより好ましくは60モル%~65モル%のテトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位と、
- 50モル%未満、好ましくは49モル%~30モル%、より好ましくは45モル%~35モル%、さらにより好ましくは40モル%~35モル%のフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と
を含み、
前記繰り返し単位のモル量が、前記ポリマー(F)中の繰り返し単位の総モルに対してであり、前記方法が、1種又は複数種の界面活性剤の添加を伴うことなく、水性重合媒体中で乳化重合により実施される方法に関する。
【0012】
本発明の方法は、通常、
- 少なくとも1種のラジカル開始剤と、
- 場合により、少なくとも1種の連鎖移動剤と
の存在下で実施される。
【0013】
本発明の方法は、通常、1種又は複数種の界面活性剤の添加を伴うことなく、少なくとも1種のラジカル開始剤により、開始される。
【0014】
また、本発明のプロセス中に界面活性剤を全く添加しない。
【0015】
本発明の方法は、通常、10バール~35バール、好ましくは11バール~25バールに含まれる圧力で行われる。
【0016】
当業者は、とりわけ使用されるラジカル開始剤を考慮して重合温度を選ぶこととなる。本発明の方法は、通常、50℃~135℃、好ましくは55℃~130℃に含まれる温度で行われる。
【0017】
ラジカル開始剤の選択は、特に限定されないが、水性乳化重合に好適な水溶性ラジカル開始剤は、重合プロセスを開始させる及び/又は加速させることができる化合物から選択されると理解される。
【0018】
無機ラジカル開始剤が、使用でき、これらに限定されるものではないが、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、及び過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸塩が挙げられる。
【0019】
また、有機ラジカル開始剤が使用でき、これらに限定されるものではないが、以下の:アセチルシクロヘキサンスルホニルパーオキシド;ジアセチルパーオキシジカーボネート;ジエチルパーオキシジカーボネート、ジシクロヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネートなどのジアルキルパーオキシジカーボネート;tert-ブチルパーネオデカノエート;2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル;tert-ブチルパーピバレート;ジオクタノイルパーオキシド;ジラウロイル-パーオキシド;2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル);tert-ブチルアゾ-2-シアノブタン;ジベンゾイルパーオキシド;tert-ブチル-パー-2エチルヘキサノエート;tert-ブチルパーマレエート;2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル);ビス(tert-ブチル-パーオキシ)シクロヘキサン;tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート;tert-ブチルパーアセテート;2,2’-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ブタン;ジクミルパーオキシド;ジ-tert-アミルパーオキシド;ジ-tert-ブチルパーオキシド(DTBP);p-メタンヒドロパーオキシド;ピナンヒドロパーオキシド;クメンヒドロパーオキシド;及びtert-ブチルヒドロパーオキシドが挙げられる。
【0020】
他の好適なラジカル開始剤としては、特に、ハロゲン化フリーラジカル開始剤、例えば、トリクロロアセチルパーオキシド、ビス(パーフルオロ-2-プロポキシプロピオニル)パーオキシド、[CF
3CF
2CF
2OCF(CF
3)COO]
2、パーフルオロプロピオニルパーオキシド、(CF
3CF
2CF
2COO)
2、(CF
3CF
2COO)
2、{(CF
3CF
2CF
2)-[CF(CF
3)CF
2O]
m-CF(CF
3)-COO}
2(式中、m=0~8である)、[ClCF
2(CF
2)
nCOO]
2、及び[HCF
2(CF
2)
nCOO]
2(式中、n=0~8である)などの、クロロカーボン系及びフルオロカーボン系の過酸化アシル;パーフルオロアゾイソプロパン、[(CF
3)
2CFN=]
2、
(式中、
は、1~8個の炭素を有する鎖状若しくは分岐パーフルオロカーボン基である)などのパーフルオロアルキルアゾ化合物;ヘキサフルオロプロピレントリマーラジカル、[(CF
3)
2CF]
2(CF
2CF
2)C
●ラジカル及びパーフルオロアルカンなどの安定した又はヒンダードパーフルオロアルカンラジカルなどが挙げられる。
【0021】
ジメチルアニリン-ベンゾイルパーオキシド、ジエチルアニリン-ベンゾイルパーオキシド及びジフェニルアミン-ベンゾイルパーオキシドなどの酸化還元対を形成する少なくとも2種の成分を含む、レドックス系もまた、ラジカル開始剤として使用して重合プロセスを開始してもよい。
【0022】
無機ラジカル開始剤の中では、過硫酸アンモニウムが特に好ましい。
【0023】
有機ラジカル開始剤の中では、例えばジ-tert-ブチルパーオキシド(DTBP)、ジターブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ターブチル(2-エチル-ヘキシル)パーオキシカーボネート、ターブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエートなどの、50℃よりも高い自己加速分解温度(SADT)を有するパーオキシドが特に好ましい。
【0024】
上で定義されたような1種又は複数種のラジカル開始剤は、水性重合媒体の重量を基準として有利には0.001重量%~20重量%の範囲の量で、本発明のプロセスの水性乳化重合プロセスの水性重合媒体に添加されてもよい。
【0025】
本発明の重合プロセスは、通常は連鎖移動剤の存在下で行われる。
【0026】
連鎖移動剤は、エタン、3~10個の炭素原子を有するケトン、エステル、エーテル、又は脂肪族アルコール、例えば、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、メチル-ter-ブチルエーテル、イソプロピルアルコール;1~6の炭素原子を有し、場合により水素を含有する、クロロ(フルオロ)カーボン、例えば、クロロホルム、トリクロロフロオロメタン;アルキルが1~5の炭素原子を有するビス(アルキル)カーボネート、例えば、ビス(エチル)カーボネート、ビス(イソブチル)カーボネート、などのフッ素化モノマーの重合において公知のものから一般的に選択される。連鎖移動剤は、開始時に、重合中に連続的に又は個別的な量で(段階的に)水性媒体に供給することができ、連続的又は段階的供給が好ましい。
【0027】
上に詳述した水性乳化重合プロセスは、当技術分野に記載されている(例えば1991年2月5日に出願の米国特許第4990283号明細書(AUSIMONT S.P.A.)、1996年3月12日に出願の米国特許第5498680号明細書(AUSIMONT S.P.A.)、及び2000年8月15日に出願の米国特許第6103843号明細書(AUSIMONT S.P.A.)を参照されたい)。
【0028】
第2の例では、本発明は、本発明の方法によって得られる半結晶性フルオロポリマー[ポリマー(F)]に関する。
【0029】
本発明のポリマー(F)は、有利には溶融加工性である。用語「溶融加工性」は、本明細書では、従来の溶融加工技術によって加工できるフルオロポリマーを意味するものとする。
【0030】
本発明のポリマー(F)は、通常、170℃~300℃、好ましくは190℃~280℃に含まれる融点(Tm)を有する。
【0031】
半結晶性ポリマー(F)は、通常、本発明の方法により取得できる水性ラテックスから回収される。
【0032】
本発明の半結晶性ポリマー(F)は、テトラフルオロエチレン(TFE)やフッ化ビニリデン(VDF)とは異なる少なくとも1種のフッ素化モノマーに由来する繰り返し単位をさらに含むことがある。
【0033】
本発明の目的上、用語「フッ素化モノマー」は、少なくとも1個のフッ素原子を含むエチレン系不飽和モノマーを意味するものとする。
【0034】
フッ素化モノマーが少なくとも1個の水素原子を含む場合、それは、水素含有フッ素化モノマーと称される。
【0035】
フッ素化モノマーが水素原子を含まない場合、それは、パー(ハロ)フッ素化モノマーと称される。
【0036】
フッ素化モノマーは、1個又は複数個の他のハロゲン原子(Cl、Br、I)をさらに含んでもよい。
【0037】
好適なフッ素化モノマーの非限定的な例としては、とりわけ、以下の:
- C3~C8パーフルオロオレフィン、例えば、ヘキサフルオロプロペン(HFP);
- フッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンなどのC2~C8水素化フルオロオレフィン;
- 式CH2=CH-Rf0(式中、Rf0は、C1~C6パーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレン;
- クロロトリフルオロエチレンなどのクロロ-及び/又はブロモ-及び/又はヨード-C2~C6フルオロオレフィン;
- 式CF2=CFORf1(式中、Rf1は、C1~C6フルオロ-又はパーフルオロアルキル基、例えば、CF3、C2F5、C3F7である)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
- CF2=CFOX0(パー)フルオロ-オキシアルキルビニルエーテル(式中、X0は、C1~C12アルキル基、C1~C12オキシアルキル基又は、パーフルオロ-2-プロポキシ-プロピル基などの、1個若しくは複数個のエーテル基を有するC1~C12(パー)フルオロオキシアルキル基である);
- 式CF2=CFOCF2ORf2(式中、Rf2は、C1~C6フルオロ-若しくはパーフルオロアルキル基、例えばCF3、C2F5、C3F7、又は-C2F5-O-CF3などの、1個若しくは複数個のエーテル基を有するC1~C6(パー)フルオロオキシアルキル基である)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
- 式CF2=CFOY0(式中、Y0は、C1~C12アルキル基若しくは(パー)フルオロアルキル基、C1~C12オキシアルキル基、又は1個若しくは複数個のエーテル基を有するC1~C12(パー)フルオロオキシアルキル基であり、そしてY0は、その酸、酸ハライド又は塩の形態での、カルボン酸又はスルホン酸基を含む)の官能性(パー)フルオロ-オキシアルキルビニルエーテル;
- 式RARB=CRC-T-CRD=RERF(式中、RA、RB、RC、RD、RE及びRFは、互いに等しいか又は異なり、H、F、Cl、C1~C5アルキル基及びC1~C5(パー)フルオロアルキル基からなる群から選択され、Tは、場合により、好ましくは少なくとも部分的にフッ素化された1個若しくは複数個のエーテル性酸素原子を含む、鎖状若しくは分岐のC1~C18アルキレン若しくはシクロアルキレン基、又は(パー)フルオロポリオキシアルキレン基である)
のビスオレフィン、例えばCH2=CH-(CF2)6-CH=CH2;
- (パー)フルオロ-ビス-ビニルエーテル;並びに
- フルオロジオキソール、好ましくはパーフルオロジオキソール
が挙げられる。
【0038】
本発明の半結晶性ポリマー(F)は、通常、式(I):
CF2=CF-O-Rf(I)
(式中、Rfは、C1~C6アルキル基又はC1~C6(パー)フルオロアルキル基である)
の少なくとも1種のパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)に由来する繰り返し単位をさらに含む。
【0039】
本発明の半結晶性ポリマー(F)は、0.1モル%~5モル%、好ましくは1モル%~5モル%、より好ましくは1.5モル%~3.5モル%の、式(I):
CF2=CF-O-Rf(I)
(式中、Rfは、C1~C6アルキル基又はC1~C6(パー)フルオロアルキル基である)
の少なくとも1種のパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)に由来する繰り返し単位をさらに含むのが好ましく、前記繰り返し単位のモル量は、前記ポリマー(F)の繰り返し単位の総モルに対してである。
【0040】
本発明の半結晶性ポリマー(F)は:
- 50モル%超、好ましくは55モル%~65モル%のテトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位、
- 50モル%未満、好ましくは40モル%~30モル%のフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位、及び
- 場合により0.1モル%~5モル%、好ましくは1モル%~5モル%、より好ましくは1.5モル%~3.5モル%の、式(I)
CF2=CF-O-Rf(I)
(式中、Rfは、C1~C6アルキル基又はC1~C6(パー)フルオロアルキル基である)
の少なくとも1種のパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)に由来する繰り返し単位を含むのが好ましく、からなるのがより好ましく、前記繰り返し単位のモル量は、前記ポリマー(F)の繰り返し単位の総モルに対してである。
【0041】
式(I)のパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)は、通常、式CF2=CF-O-CF3のパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、式CF2=CF-O-CF2-CF3のパーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、及び式CF2=CF-O-CF2-CF2-CF3のパーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)からなる群から選択される。
【0042】
第3の例においては、本発明は、上で定義した少なくとも1種の半結晶性ポリマー(F)を含む水性ラテックスに関し、前記ポリマー(F)は:
- 50モル%超、好ましくは51モル%~70モル%、より好ましくは55モル%~65モル%、さらにより好ましくは60モル%~65モル%のテトラフルオロエチレン(TFE)に由来する繰り返し単位と、
- 50モル%未満、好ましくは49モル%~30モル%、より好ましくは45モル%~35モル%、さらにより好ましくは40モル%~35モル%のフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と
を含み、前記繰り返し単位のモル量は、前記ポリマー(F)の繰り返し単位の総モルに対してであり、水性ラテックス中のポリマー(F)は、ISO 13321に従って測定して、1μm未満、好ましくは600nm未満の平均一次粒径を有する一次粒子の形態である。
【0043】
本発明の水性ラテックスは、前記水性ラテックスの総重量に対して1重量%~25重量%、好ましくは5重量%~20重量%の少なくとも1種の半結晶性ポリマー(F)を含むのが好ましい。
【0044】
本発明の水性ラテックスは有利には、ISO 13321に従って測定して50nm~450nm、好ましくは200nm~300nmに含まれる平均一次粒径を有する好ましくは一次粒子の形態下での少なくとも1種の半結晶性ポリマー(F)を含む。
【0045】
本発明の目的上、「平均一次粒径」とは、水性乳化重合によって得られるポリマー(F)の一次粒子の平均サイズを意味するものとする。
【0046】
本発明の目的上、ポリマー(F)の「一次粒子」は、一次粒子の凝集塊と区別できることを意図する。
【0047】
ポリマー(F)の一次粒子を含む水性ラテックスは、有利には、水性乳化重合によって得られる。ポリマー(F)の一次粒子の凝集塊は、通常、水性ポリマー(F)ラテックスの濃縮及び/又は凝固並びにその後の乾燥及び均質化などの、それによってポリマー(F)の固体粉末を提供するポリマー(F)製造の回収及びコンディショニング工程によって得られる。
【0048】
したがって、本発明の方法により取得できる水性ラテックスは、ポリマー(F)粉末を水性媒体中に分散させることによって調製される水性スラリーと区別できることを意図する。水性スラリーに分散されたポリマー(F)粉末の平均粒径は通常、ISO 13321に従って測定して、1μm超である。
【0049】
本発明の方法により取得できる水性ラテックスは、有利にはその中に均一に分散された、ISO 13321に従って測定して、50nm~450nm、好ましくは200nm~300nmに含まれる平均一次粒径を有する、少なくとも1種のポリマー(F)の一次粒子を有する。
【0050】
本発明の水性ラテックスは、濃縮されて、それにより水性分散液を提供できる。
【0051】
本発明は、水性分散液を製造する方法に関し、前記方法は、本発明の水性ラテックスの濃縮を含む。
【0052】
本発明の水性ラテックスは、通常、当技術分野で公知の技術のいずれか、例えば、通常KNO3などの塩の存在下での白濁化を介してなどにより濃縮される。
【0053】
本発明の水性分散液を製造する方法は、通常:
- 本発明の水性ラテックスと少なくとも1種の水素化界面活性剤[界面活性剤(H)]とを含む混合物の提供、及び
- そうして得られた混合物を濃縮して、それにより水性分散液を提供すること
を含む。
【0054】
本発明の水性分散液は、通常:
- 前記水性分散液の総重量に対して、35重量%まで、好ましくは1重量%~35重量%の少なくとも1種の半結晶性ポリマー(F)と、
- 場合により、少なくとも1種の水素化界面活性剤[界面活性剤(H)]と
を含む。
【0055】
本発明の水性分散液は、通常、前記水性分散液の総重量に対して、1重量%~5重量%の少なくとも1種の水素化界面活性剤[H]を含む。
【0056】
本発明の目的上、「水酸化界面活性剤[H]」とは、疎水性基と親水性基の両方を含有する両性有機化合物を意味するものとする。
【0057】
界面活性剤(H)は、イオン性水素化界面活性剤[界面活性剤(IS)]であっても非イオン性水素化界面活性剤[界面活性剤(NS)]であってもよい。
【0058】
好適な界面活性剤(IS)の非限定的な例としては、とりわけ、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸塩、ポリビニルホスホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリビニルスルホン酸塩及びアルキルホスホネートが挙げられる。
【0059】
界面活性剤(H)は、好ましくは界面活性剤(NS)である。
【0060】
好適な界面活性剤(NS)の非限定的な例としては、とりわけ、エチレンオキシド及び/又はプロピレオキシドに由来する繰り返し単位を含むオクチルフェノールエトキシレート及び脂肪アルコールポリエーテルが挙げられる。
【0061】
界面活性剤(NS)は、一般に、EN1890標準(方法A:1重量%水溶液)に従って測定して、有利には50℃以上、好ましくは55℃以上の曇り点を有する。
【0062】
界面活性剤(NS)は、好ましくは、商標名TERGITOL(登録商標)、TRIXON(登録商標)X及びPLURONIC(登録商標)で市販されている非イオン性水素化界面活性剤からなる群から選択される。
【0063】
さらなる例においては、本発明は、本発明の水性ラテックス又は水性分散液の様々な用途における使用に関する。
【0064】
具体的には、本発明の水性ラテックス又は水性分散液は、フィルムを製造するプロセスでの使用に特に好適である。
【0065】
本発明のフィルムは、通常、少なくとも1種の上に定義した半結晶性ポリマー(F)を含む。
【0066】
本発明の第一実施形態によると、本発明は、本発明のフィルムを製造する方法に関し、前記方法は、本発明の水性ラテックス又は水性分散液を通常キャスティング、吹付け又は浸漬により加工することを含む。そのように得られたフィルムは、次に通常、乾燥される。
【0067】
本発明の第二実施形態によると、本発明は、本発明のフィルムを製造する方法に関し、前記方法は:
- 本発明の水性ラテックス又は水性分散液を凝固させた後、乾燥させて、それによりポリマー(F)の固体粉末を提供する工程と、
- そのようにして得られたポリマー(F)の固体粉末を、場合により少なくとも1種の潤滑剤の存在下で加工して、それによりフィルムを提供する工程と
を備える。
【0068】
ポリマー(F)の固体粉末の加工は、通常、ラム押出により、好ましくはペースト押出により、又はカレンダー加工により、行われる。
【0069】
ポリマー(F)の固体粉末の加工は、溶融相で行うことができる。
【0070】
通常ラム押出又はカレンダー加工によるポリマー(F)の固体粉末の加工は、有利には本発明のポリマー(F)の融点より低い温度で行われる。
【0071】
本発明のこの第二実施形態による方法は、
- 本発明のフィルムを通常一方向又は複数の方向に拡張し、それにより拡張フィルムを提供する工程と、
- 場合により、そのようにして得られた拡張フィルムを熱処理する工程と
をさらに備えることがある。
【0072】
本発明のフィルムの拡張は、本発明のポリマー(F)の融点よりも低い温度で有利にも行われる。
【0073】
本発明のフィルムの熱処理は、本発明のポリマー(F)の融点よりも高い温度で行うことができる。
【0074】
本発明の拡張フィルムは、通常は多孔質である。
【0075】
本発明の拡張フィルムは、有利にも卓越した機械物性を有することが見出されている。
【0076】
本発明のフィルムは、オイル及びガス産業での用途、自動車産業での用途、並びにコーティング用途などの様々な用途での使用に好適である。
【0077】
本発明の拡張フィルムは、水のろ過、透析、電池用セパレーター、ベント、脱塩及びガス分離などの様々な用途での使用に好適である。本発明の拡張フィルムはまた、織布での使用に好適である。
【0078】
参照により本明細書に組み込まれる任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【0079】
本発明は、以下の実施例を参照してこれからより詳細に説明されるが、実施例の目的は、例示的なものであるにすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0080】
原材料
ポリマー(F-1):TFE(60モル%)-VDF(40モル%)コポリマー。
【0081】
第二融点の測定
融点は、ASTM D 3418標準方法に従って示差走査熱量測定法(DSC)によって測定した。第一加熱中に観測した吸熱ピークを積分してポリマーの融解エンタルピーDHを得た。第二加熱期間中に観測した吸熱ピークの最大値と定義される、第二溶融温度を記録し、明細書においてそれをポリマーの融点(Tm)と称する。
【0082】
ポリマー(F-1)を製造するための一般的な手順
バッフル及び170rpmで作動する撹拌機を備えた、90リットルのAISI316スチール製垂直オートクレーブ中に、66リットルの脱塩水を導入した。次に、温度を80℃の反応温度にし、この温度に達した際に、2バールのフッ化ビニリデンを導入した。
【0083】
次に、60:40の名目モル比でのTFE-VDFのガス状混合物を、12バールの圧力に到達するまで圧縮機を介して加えた。その後、6重量%の過硫酸ナトリウム(NaPS)水溶液500mlを開始剤として供給した。上述のTFE-VDF混合物を供給して、重合圧力を一定に維持した。混合物を8000g供給したときに、反応器を室温で冷却させ、ラテックスを排出した。次に、ラテックスを48時間凍結させ、解凍したら、凝固したポリマーを脱塩水で洗浄し、160℃で16時間乾燥させた。取得した半結晶性ポリマーの溶融温度Tm及び融解エンタルピーDHは、それぞれTm=225、DH=35J/gであった。
【0084】
実施例1
TERGITOL(登録商標)TMN-100X分岐の2級アルコールエトキシレート界面活性剤を添加後に、KNO3の存在下での白濁化を介して濃縮することにより、上に詳述したポリマー(F-1)の製造方法により得られる水性ラテックスを処理し、それにより水性分散液が提供され、その分散液は、前記水性分散液の総重量に対して46.9重量%のポリマー(F-1)及び2.8重量%のTERGITOL(登録商標)TMN-100X分岐の2級アルコールエトキシレート界面活性剤を含む。水性分散液は、フッ素化界面活性剤を1種でも複数種でも含有しない。
【0085】
そのようにして取得した水性分散液を基材上でキャスティングし、室温で乾燥させた後に、260℃で10分間熱処理することにより、フィルムを取得している。
【0086】
比較例1
HYFLON(登録商標)D5510 TFE/PMVEコポリマーを含む水性分散液を基材上でキャスティングし、室温で乾燥させた後に、320℃で10分間熱処理することにより、フィルムを取得している。
【0087】
硬度の測定
ASTM D4366標準手順(試験方法A-Koenig Pendulum Hardness)に従って振子式減衰試験(pendulum damping test)を使用し、フィルムのコーティング硬度の差異を検出した。その変形抵抗として硬度を定義する。表面に接触する振子の振動の振幅は、フィルムの表面が柔らかいほど急速に低減する。
【0088】
皮膜形成温度の測定
水性ラテックスを基材上にキャストし、室温で乾燥させた後、高温で10分間、焼成した。様々な試験を実施し、200℃から開始して昇温させながら、良好な皮膜形成、つまり、亀裂や粒子の合体を全く検知しなくなるまで、焼成工程を行った。
【0089】
HClに対する耐薬品性の測定
37%塩酸を水道水に溶かした10体積%溶液を10滴塗布し、それを時計皿で覆った。15分さらした後、流れ出る水道水で洗浄し、ブリスタリングも他の視覚による変化も起こしていないことを確かめた。
【0090】
HNO3に対する耐薬品性の測定
フルボトルの半分まで70%硝酸を入れた瓶の開口部を完全に覆って試験パネルを30分間置いた。試料を水道水で濯ぎ、1時間の回復期間後に、いかなる視覚的な変化も調べた。
【0091】
結果を本明細書の下の表1に示す。
【0092】
【0093】
上述の観点から、本発明の水性ラテックスは、有利には界面活性剤を1種でも複数種でも含有せず、HYFLON(登録商標)D5510 TFE/PMVEコポリマーなどの完全フッ素化フルオロポリマーを含む水性ラテックスと比較すると、酸に対して高い耐薬品性を有することと併せて、比較的低い皮膜形成温度で高硬度を有するコーティングを有利にも提供することを見出している。