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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-27
(45)【発行日】2025-04-04
(54)【発明の名称】制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   F22B 35/00 20060101AFI20250328BHJP
   F01D 17/00 20060101ALI20250328BHJP
   F01D 17/04 20060101ALI20250328BHJP
   F01D 17/24 20060101ALI20250328BHJP
【FI】
F22B35/00 Z
F01D17/00 J
F01D17/04
F01D17/24 L
F01D17/24 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020219036
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022104052
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】堂本 和宏
(72)【発明者】
【氏名】當房 誠
(72)【発明者】
【氏名】三田 尚
(72)【発明者】
【氏名】竹友 孝裕
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-285205(JP,A)
【文献】特開昭63-090605(JP,A)
【文献】特開平04-278499(JP,A)
【文献】特開平05-321609(JP,A)
【文献】特開平06-081606(JP,A)
【文献】特開2011-158148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 35/00
F01D 17/00 - 17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラと、前記ボイラからの蒸気によって駆動される蒸気タービンと、前記蒸気タービンをバイパスする蒸気量を調節するためのタービンバイパス弁と、を備える火力プラントの制御装置であって、
前記火力プラントのAFC対応モードにおいて、AFC信号に基づいて前記タービンバイパス弁のタービンバイパス弁開度指令値を生成するためのタービンバイパス弁開度指令値生成部と、
前記タービンバイパス弁開度指令値に基づいて前記タービンバイパス弁を制御するためのタービンバイパス弁制御部と、
前記AFC対応モードにおいて、前記火力プラントに対する負荷指令値に基づくベース入力値に対して、前記AFC信号を加算することなく、正符号のバイアス値を加算することによりボイラ入力指令値を生成するためのボイラ入力指令値生成部と、
前記ボイラ入力指令値に基づいて前記ボイラを制御するためのボイラ制御部と、
を備える、制御装置。
【請求項2】
前記バイアス値は、前記負荷指令値が所定値以下の範囲において、前記負荷指令値に関わらず一定である、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記バイアス値は、前記AFC信号の基準値に対する最大減少値に対応して設定される、請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記タービンバイパス弁開度指令値生成部は、前記AFC対応モードへの移行時における前記タービンバイス弁のベース開度に、前記AFC信号に基づくバイアス開度を加算することにより、前記タービンバイパス弁開度指令値を生成するように構成された、請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記ベース開度は、全開状態と全閉状態との間の中間開度である、請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記火力プラントは、前記ボイラから前記蒸気タービンに供給される主蒸気量を調整するための主蒸気弁を更に備え、
前記制御装置は、
前記AFC信号に基づいて主蒸気弁開度指令値を生成するための主蒸気弁開度指令値生成部と、
前記主蒸気弁開度指令値に基づいて前記主蒸気弁を制御するための主蒸気弁制御部と、
を更に備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記蒸気タービンの負荷に基づいて前記バイアス開度を補正するためのバイアス開度補正部を更に備える、請求項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記バイアス開度補正部は、前記負荷が小さくなるに従って補正量が大きくなるように前記バイアス開度を補正する、請求項7に記載の制御装置。
【請求項9】
前記バイアス開度補正部は、前記蒸気タービンの供給蒸気圧と排気蒸気圧との差圧に基づいて前記負荷を求める、請求項7または8に記載の制御装置。
【請求項10】
前記タービンバイパス弁は、前記蒸気タービンの上流側と下流側とを連通するバイパスラインに設けられる、請求項1から9のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項11】
前記タービンバイパス弁は、前記蒸気タービンの上流側と前記蒸気タービンの下流側に設けられた復水器とを連通するバイパスラインに設けられる、請求項1から9のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項12】
ボイラと、前記ボイラからの蒸気によって駆動される蒸気タービンと、前記蒸気タービンをバイパスする蒸気量を調節するためのタービンバイパス弁と、を備える火力プラントの制御方法であって、
前記火力プラントのAFC対応モードにおいて、前記火力プラントに対する負荷指令値に基づくベース入力値に対して、AFC信号を加算することなく、正符号のバイアス値を加算することによりボイラ入力指令値を生成する工程と、
前記ボイラ入力指令値に基づいて前記ボイラを制御する工程と、
前記AFC対応モードにおいて、前記AFC信号に基づいて前記タービンバイパス弁のタービンバイパス弁開度指令値を生成する工程と、
前記タービンバイパス弁開度指令値に基づいて前記タービンバイパス弁を制御する工程と、
を備える、制御方法。
【請求項13】
前記ボイラが前記ボイラ入力指令値によって制御されることで前記ボイラの負荷が前記負荷指令値より増加した後に、前記タービンバイパス弁が前記タービンバイパス弁開度指令値に基づいて制御される、請求項12に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラ(蒸気発生器)で発生した蒸気を利用して蒸気タービンを駆動する火力プラントが知られている。この種の火力プラントでは、ボイラから蒸気タービンに蒸気を供給するためのラインに対して、蒸気タービンをバイパスするように構成されたバイパスライン上にタービンバイパス弁を有することがある。タービンバイパス弁は、典型的には、蒸気タービンの起動前に開度制御されることで起動時間短縮に貢献したり、蒸気タービンにおける蒸気圧が過度に上昇したときに開動作することで蒸気圧の上昇を抑制するために用いられる。
【0003】
ところで、このような火力プラントとして、蒸気タービンの出力を用いて発電を行うための火力発電プラントを運用する電気事業者は、電気事業法に基づいて、発電した電力の電圧および周波数を、電力供給先である電力系統に対して予め規定された値にそれぞれ維持するように努める義務がある。電力事業者は、電力系統における需給状態に応じて中央給電指令所から提供される負荷指令値や、比較的速い周波数変動に対応するAFC(Automatic Frequency Control)信号に基づいてボイラ出力を制御することにより対応していた。
【0004】
しかしながら例えば石炭ボイラ等の応答性が低いボイラを用いる火力プラントでは、AFC信号のように比較的速い周波数変動に対応する成分に対して良好な追従性を得ることが難しかった。このような従来課題に対して、例えば特許文献1では、前述のタービンバイパス弁を通常運転時では全閉状態に保持しつつ、AFC信号を受信した際には、負荷指令値に対してAFC信号を加算して得られるボイラ入力指令値を生成するとともに、AFC信号に比例したタービンバイパス弁の開度制御を行うことで、AFC信号に対する追従性を改善することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭59-145309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、AFC信号を受けた際に、負荷指令値に対してAFC信号を加算してボイラ入力指令値を生成しているため、AFC信号が正である間は負荷指令値より大きなボイラ入力指令が得られる。それに対して、AFC信号が負である場合には負荷指令値より小さなボイラ入力信号となり、AFC信号に対応したタービンバイパス弁の開度制御のための調節代が少ないため、AFC信号の大きな変化に対応することが困難になってしまう。また特許文献1では、負荷指令値にAFC信号を加算することでボイラ入力信号を得ているが、上述のように、ボイラ入力信号が実際のボイラからの蒸気量に反映されるまでには少なからずタイムラグがあり、AFC信号に比例して開度制御されるタービンバイパス弁との協調が良好にできないおそれがある。
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、AFC信号に対して良好な追従性を有することにより、電力系統の周波数維持への貢献が可能な制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態に係る制御装置は、上記課題を解決するために、
ボイラと、前記ボイラからの蒸気によって駆動される蒸気タービンと、前記蒸気タービンをバイパスする蒸気量を調節するためのタービンバイパス弁と、を備える火力プラントの制御装置であって、
前記火力プラントのAFC対応モードにおいて、AFC信号に基づいて前記タービンバイパス弁のタービンバイパス弁開度指令値を生成するためのタービンバイパス弁開度指令値生成部と、
前記タービンバイパス弁開度指令値に基づいて前記タービンバイパス弁を制御するためのタービンバイパス弁制御部と、
前記AFC対応モードにおいて、前記火力プラントに対する負荷指令値に基づくベース入力値に対して正符号のバイアス値を加算することによりボイラ入力指令値を生成するためのボイラ入力指令値生成部と、
前記ボイラ入力指令値に基づいて前記ボイラを制御するためのボイラ制御部と、
を備える。
【0009】
本発明の少なくとも一実施形態に係る制御方法は、上記課題を解決するために、
ボイラと、前記ボイラからの蒸気によって駆動される蒸気タービンと、前記蒸気タービンをバイパスする蒸気量を調節するためのタービンバイパス弁と、を備える火力プラントの制御方法であって、
前記火力プラントのAFC対応モードにおいて、前記火力プラントに対する負荷指令値に基づくベース入力値に対して正符号のバイアス値を加算することによりボイラ入力指令値を生成する工程と、
前記ボイラ入力指令値に基づいて前記ボイラを制御する工程と、
前記AFC対応モードにおいて、AFC信号に基づいて前記タービンバイパス弁のタービンバイパス弁開度指令値を生成する工程と、
前記タービンバイパス弁開度指令値に基づいて前記タービンバイパス弁を制御する工程と、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、AFC信号に対して良好な追従性を有することにより、電力系統の周波数維持への貢献が可能な制御装置および制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る火力発電プラントの概略構成図である。
図2図1の制御装置の内部構成を示すブロック図である。
図3図2のタービンバイパス弁開度指令値生成部の制御ロジック図である。
図4図3の関数演算器が有する関数の一例である。
図5図2のボイラ入力指令値生成部の制御ロジック図である。
図6図5の関数演算器によって求められるバイアス値の一例である。
図7図2の主蒸気弁開度指令値生成部の制御ロジック図である。
図8図2の制御装置における各種信号の時間変化を示すタイミングチャートである。
図9】負荷指令値におけるプラントの調整代を示すグラフである。
図10】他の実施形態に係る火力発電プラントの全体構成図である。
図11図10の制御装置が備えるタービンバイパス弁開度指令値生成部の制御ロジック図の一部である。
図12図11の関数演算器における差圧とゲインとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0013】
以下の実施形態では、本発明の少なくとも一実施形態に係る制御装置の制御対象である火力プラントとして、火力発電プラント1を例に説明する。図1は一実施形態に係る火力発電プラント1の概略構成図である。
【0014】
火力発電プラント1は、ボイラ2と、蒸気タービン4と、復水器12とを備える。本実施形態では、火力発電プラント1は、蒸気タービン4として、高圧側タービン4Aと低圧側タービン4Bを備える場合について例示しているが、火力発電プラント1は単独の蒸気タービン4を有してもよいし、3つ以上の蒸気タービン4を有してもよい。
【0015】
ボイラ2は、微粉燃料を燃焼することで発生した熱を給水や蒸気と熱交換して過熱蒸気を生成可能な蒸気発生器である。ボイラ2は、例えば、石炭(炭素含有固体燃料)を粉砕した微粉炭を微粉燃料として用い、この微粉燃料をバーナにより燃焼させる石炭焚き(微粉炭焚き)ボイラである。
【0016】
尚、本実施形態ではボイラ2として石炭焚きボイラを例示するが、ボイラ2は、燃料として、バイオマス燃料や石油精製時に発生するPC(石油コークス:Petroleum Coke)燃料、石油残渣などの固体燃料を使用してもよい。また、ボイラ2は、燃料として固体燃料に限らず、重油、軽油、重質油などの石油類や工場廃液などの液体燃料も使用することができ、更には、燃料として気体燃料(天然ガス、副生ガスなど)も使用することができる。更に、ボイラ2は、これら燃料を組み合わせて使用する混焼焚きボイラであってもよい。
【0017】
ボイラ2で生成された蒸気(過熱蒸気)は、主蒸気ライン6を介して蒸気タービン4に供給される。本実施形態では、ボイラ2からの蒸気は、まず上流側に設けられた高圧側タービン4Aに供給されることにより、高圧側タービン4Aを駆動する。主蒸気ライン6は、ボイラ2と高圧側タービン4Aとの間を接続する。主蒸気ライン6には主蒸気弁8が設けられる。主蒸気弁8は制御装置100によって開度を制御されることにより、ボイラ2から蒸気タービン4への蒸気供給量が可変になっている。
【0018】
高圧側タービン4Aで仕事を終えた蒸気は、蒸気ライン10を介して、下流側に設けられた低圧側タービン4Bに供給されることにより、低圧側タービン4Bを駆動する。蒸気ライン10は、高圧側タービン4Aと低圧側タービン4Bとの間を接続する。低圧側タービン4Bで仕事を終えた蒸気は復水器12に排出されることで、復水が生成される。
【0019】
また主蒸気ライン6のうち主蒸気弁8より上流側と復水器12とを接続するバイパスライン14が設けられる。バイパスライン14にはタービンバイパス弁16が設けられており、タービンバイパス弁16の開度を調整することにより、主蒸気ライン6を流れる蒸気の一部を、蒸気タービン4をバイパスして復水器12に排出可能になっている。
【0020】
高圧側タービン4Aおよび低圧側タービン4Bの出力軸は、それぞれ不図示の発電機の回転軸に接続される。発電機は、これら蒸気タービン4からの動力によって駆動することにより発電を行う。発電機で発電された電力は、不図示の送電ラインを介して電力系統(例えば商用系統)に供給される。
【0021】
尚、高圧側タービン4Aおよび低圧側タービン4Bは、互いに共通の出力軸を有し、当該出力軸が共通の発電機に接続されていてもよいし、発電機として、高圧側タービン4Aの出力軸が接続される第1発電機と低圧側タービン4Bの出力軸が接続される第2発電機とを備えてもよい。
【0022】
制御装置100は、火力発電プラント1のコントロールユニットであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。尚、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0023】
図2図1の制御装置100の内部構成を示すブロック図である。制御装置100は、タービンバイパス弁開度指令値生成部110と、タービンバイパス弁制御部140と、ボイラ入力指令値生成部142と、ボイラ制御部160と、主蒸気弁開度指令値生成部162と、主蒸気弁制御部174とを備える。タービンバイパス弁開度指令値生成部110はタービンバイパス弁16の開度指令値Stbを作成し、タービンバイパス弁制御部140は当該開度指令値Stbに基づいてタービンバイパス弁16の開度を制御する。ボイラ入力指令値生成部142はボイラ入力指令値BIDを生成し、ボイラ制御部160は当該ボイラ入力指令値BIDに基づいてボイラ2を制御する。主蒸気弁開度指令値生成部162は主蒸気弁8の開度を制御するための主蒸気弁開度指令値Jdを生成し、主蒸気弁制御部174は当該主蒸気弁開度指令値Jdに基づいて主蒸気弁8を制御する。
【0024】
続いて図2に示す制御装置100の各構成について詳しく説明する。図3図2のタービンバイパス弁開度指令値生成部110の制御ロジック図である。タービンバイパス弁開度指令値生成部110は、タービンバイパス弁16のタービンバイパス弁開度指令値Stbを生成するための構成であり、第1開度指令値算出部112、第2開度指令値算出部120および第3開度指令値算出部130を含んで構成される。
【0025】
第1開度指令値算出部112では、減算器114において、主蒸気ライン6における主蒸気圧力の検出値Psと目標主蒸気圧力Pstとの差圧ΔPsを算出し、PI制御器116によって当該差圧ΔPsに対応する第1開度指令値Stb1が求められる。目標主蒸気圧力Pstは、加算器118において基準値である主蒸気圧力設定値Pssに対して、所定のバイアス値Psbを加算することで算出される。バイアス値Psbは、主蒸気圧力Psの異常上昇を判定するための閾値とするために主蒸気圧力設定値Pssに対して加算されるパラメータであり、本実施形態では、スイッチSW1によって「0MPa」または「1.0MPa」が選択的に切り替え可能になっている。このように算出される第1開度指令値Stb1は、主蒸気ライン6における主蒸気圧力Psが異常上昇した際に、タービンバイパス弁16の開度制御を行うための開度指令値として機能する。
【0026】
第2開度指令値算出部120は、起動時におけるタービンバイパス弁16の開度制御を行うための開度指令値Stbである、第2開度指令値Stb2を算出するための構成である。第2開度指令値算出部120では、主蒸気ライン6における蒸気圧力(主蒸気圧力)の検出値Psが関数演算器122に入力されることで、起動時に適したタービンバイパス弁16の開度制御が実施されるように算出される。
【0027】
上述の第1開度指令値算出部112および第2開度指令値算出部120はスイッチSW2を介して接続される。スイッチSW2は、動作モードが起動モードであるか否かに基づいて切替可能である。具体的には、動作モードが起動モードにある場合には、スイッチSW2は第2開度指令値算出部120を選択し、動作モードが起動モードでない場合には第1開度指令値算出部112を選択する。
【0028】
第3開度指令値算出部130は、第3開度指令値Stb3を算出するための構成であり、ベース開度算出部132と、バイアス開度算出部134とを含んで構成される。第3開度指令値Stb3は、加算器136において、ベース開度算出部132で算出されたベース開度Stb3baseに対して、バイアス開度算出部134で算出されたバイアス開度Stb3biasを加算することで求められる。
【0029】
ベース開度算出部132は、負荷指令値Lに基づいてタービンバイパス弁16のベース開度Stb3baseを算出する。負荷指令値Lは、例えば中央給電指令所から提供され、ベース開度算出部132では関数演算器138において、蒸気流量Qsに変換される。減算器140は、関数演算器138で算出された蒸気流量Qsと、第1バイパスラインの出口部における蒸気流量の検出値Qsjとの差分ΔQsを算出する。差分ΔQsは、PI制御器142に入力されることで、対応するベース開度Stb3baseが求められる。尚、PI制御器142の出力側にはホールド回路144が設けられており、AFC対応モード(AFC信号を受信している間)において一定のベース開度Stb1が保持されるように構成されている。
【0030】
バイアス開度算出部134は、AFC信号に基づくバイアス開度Stb3biasを算出する。バイアス開度算出部134では、AFC信号は関数演算器146に入力されることにより、バイアス開度Stb3biasに変換される。図4は、図3の関数演算器146が有する関数の一例である。図4では、関数は、AFC信号が増加するに従って、バイアス開度Stb3biasが単調減少するように規定されている(尚、予め設定されたAFC信号の上限値以上および下限値以下の範囲については、バイアス開度Stb3biasは一定に規定されている)。
【0031】
関数演算器146の出力側にはスイッチSW3が設けられる。スイッチSW3は、AFC信号が入力されるAFC対応モードにあるか否かに基づいて、バイアス開度Stb3biasとして関数演算器146の演算結果か、予め設定されたデフォルト値「0%」のいずれかを切替可能である。すなわち、AFC対応モードではバイアス開度Stb3biasとして関数演算器146の演算結果が用いられ、他の動作モードではバイアス開度Stb3biasはゼロとなる。
【0032】
このように算出されたベース開度Stb3baseおよびバイアス開度Stb3biasは、加算器136において互いに加算される。加算器136の出力側にはスイッチSW4が設けられており、AFC信号が入力されるAFC対応モードにあるか否かに基づいて、第3開度指令値Stb3として加算器136の演算結果か、予め設定されたデフォルト値「0%」のいずれかを切替可能である。すなわち、AFC対応モードでは第3開度指令値Stb3として加算器136の演算結果が用いられ、他の動作モードでは第3開度指令値Stb3はゼロとなる。
【0033】
そしてタービンバイパス弁開度指令値生成部110では、高値選択器HSによって、スイッチSW2およびSW4からの出力のうち大きな方を開度指令値Stbとして選択されるように構成される。開度指令値Stbは、タービンバイパス弁制御部140(図2を参照)に入力され、タービンバイパス弁16の開度制御に用いられる。
【0034】
タービンバイパス弁制御部140は、このように算出されたタービンバイパス弁開度指令値Stbに基づいてタービンバイパス弁16を制御することにより、一連の火力発電プラント1の動作時において、起動時間短縮や主蒸気圧力の異常上昇を的確に回避しつつ、AFC対応モードにおいてはAFC信号に対する良好な応答性を得ることができる。すなわち、起動時には第2開度指令値Stb2がタービンバイパス弁開度指令値Stbとして出力されることで、起動時に適したタービンバイパス弁16の制御が行われる。またAFC信号を受信しない通常時には、AFC信号に基づくバイアス開度Stb3biasがゼロであることによりベース開度Stb3baseである第3開度指令値Stb3に基づいてタービンバイパス弁16の制御が行われつつ、主蒸気圧力Psが主蒸気圧力設定値Pst以上となることで異常上昇した際には、第1開度指令値Stb1に基づいてタービンバイパス弁16を制御することで主蒸気圧力Psの異常上昇を抑制することができる。そしてAFC信号を受信するAFC対応モードでは、ベース開度Stb3baseに対してAFC信号に基づくバイアス開度Stb3biasが加算された第3開度指令値Stb3に基づいてタービンバイパス弁16を制御する。これによりボイラ2として石炭焚きボイラのようにボイラ入力信号が蒸気量に反映されるまでタイムラグがある場合においても、AFC信号に基づいてタービンバイパス弁16の開度を制御することで、AFC信号に対して良好な追従性を得ることができる。尚、AFC対応モード時には、後述のようにボイラ入力指令値BIDが生成されることで負荷指令値Lの大きさに関わらず、タービンバイパス弁16の調整代が得られる。
【0035】
続いて図5図2のボイラ入力指令値生成部142の制御ロジック図である。ボイラ入力指令値生成部142では、まず負荷指令値Lが変化率制限器144に入力される。変化率制限器144では、時々刻々変化する負荷指令値Lの変化率が所定値以下になるように制限され、第1指令値D1として出力される。第1指令値D1には、加算器146によって周波数制御信号Dfが加算されることにより第2指令値D2(MWD)が求められる。周波数制御信号Dfは、系統周波数の変動分に対応する負荷分を第1指令値D1(発電機出力指令)に加えることにより電力系統の安定化に寄与する。図5では、系統周波数を関数演算器147に入力し、系統周波数に対応する負荷分を算出し、その出力を変化率制限器149に入力することによって変化率を制限した結果が、周波数制御信号Dfとして第1指令値D1に加算される。
【0036】
図5の回路では、第1指令値D1に対して周波数制御信号Dfを加算する一方で、AFC信号が加算されないように構成される。これは後述するバイアス値Dbiasを加算することでボイラ入力指令値BIDを増加させることにより、タービン呑み込み流量の増減に対応できるようにタービンバイパス弁16を適正な開度に保っているため、AFC信号を加算することによってボイラ入力指令値BIDを増減させる必要がないからである。
【0037】
続いて加算器146から出力される第2指令値D2には、更に、加算器148において主蒸気圧力制御信号Dsが加算されることにより第3指令値D3となる。主蒸気圧力制御信号Dsは、減算器150において、第2指令値D2が関数演算器152に入力されて算出される目標主蒸気圧力Pstと、主蒸気ライン6における主蒸気圧力の検出値Psとの圧力差ΔPsが算出され、当該圧力差ΔPsがPI制御器154に入力されることで求められる。
【0038】
更に加算器156では、火力発電プラント1に対する負荷指令値Lに基づくベース値である第3指令値D3に対して、バイアス値Dbiasが加算されることにより、ボイラ入力指令値BIDが生成される。バイアス値Dbiasは、スイッチSW6によって切替可能であり、AFC対応モードでは関数演算器158によって求められる正符号の値が選択され、他の動作モードでは「0%」が選択される。
【0039】
ここで図6図5の関数演算器158によって求められるバイアス値Dbiasの一例である。図6の例では、バイアス値Dbiasはボイラ入力指令値生成部142に入力される負荷指令値L(第2指令値D2)が所定値以下の範囲において、負荷指令値Lに依存することなく略一定に設定される。当該値は例えば、AFC信号の基準値に対する最大減少値に対応して設定される。これにより、AFC対応モードでは、負荷指令値Lが変化した場合においても一定のバイパス値が変化しないため、広い負荷範囲においてタービンバイパス弁16の調整代を確保できる。すなわちAFC対応モードにおいてAFC信号が負である場合においても、正符号を有する一定値であるバイアス値Dbiasを加算してボイラ入力指令値BIDを生成することで、AFC信号の正負に関わらず負荷指令値Lより大きなボイラ出力を確保し、AFC信号に対応したタービンバイパス弁16の開度制御により追従性を向上できる。
【0040】
尚、バイアス値Dbiasは、負荷指令値Lが所定値より大きい範囲においては、負荷指令値Lの上限値(100%)に近づくに従って減少するように設定される。図6に示す例では、負荷指令値Lが95%~上限値(100%)の範囲において、負荷指令値Lが増加するに従ってバイアス値Diasは単調減少するように設定される。
【0041】
このように算出されたボイラ入力指令値BIDは、ボイラ制御部160(図2を参照)に入力される。ボイラ制御部160は、当該ボイラ入力指令値BIDに基づいてボイラ2の制御が行われる。
【0042】
続いて図7図2の主蒸気弁開度指令値生成部162の制御ロジック図である。主蒸気弁開度指令値生成部162では、AFC信号が関数演算器164で第4指令値D4に変換される。スイッチSW7は、AFC対応モードにおいて第4指令値D4を選択することで変化率制限器166に入力し、その結果を加算器168において前述の第1指令値D1(図5を参照)に加算することにより第5指令値D5を求める。このように第1指令値D1に変化率制限器166からの出力信号を加算することで、タービンバイパス弁16の動作時の主蒸気圧力の変動幅を軽減でき、且つ、AFC信号に対する発電機出力の応答性の改善が見込める。第5指令値D5は、減算器170において蒸気タービン4に連結された発電機(不図示)の出力検出値Pとの偏差ΔPが算出され、PI制御器172において偏差ΔPに対応する主蒸気弁開度指令値Jdが生成される。
尚、他の動作モードではスイッチSW7はデフォルト値である「0%」を選択し、第5指令値D5は、第1指令値D1自体となる。
【0043】
このように主蒸気弁開度指令値生成部162で生成された主蒸気弁開度指令値Jdは、主蒸気弁制御部174に与えられる。主蒸気弁制御部174は、主蒸気弁開度指令値Jdに基づいて主蒸気弁8の開度制御を実施する。これにより主蒸気弁8の開度は、AFC信号を考慮した主蒸気弁開度指令値Jdに基づいて、同じくAFC信号を考慮したタービンバイパス弁16の開度とともに協調制御され、AFC信号に対する追従性を向上することができる。
【0044】
続いて上記構成を有する制御装置100による火力発電プラント1の制御内容について説明する。図8図2の制御装置100における各種信号の時間変化を示すタイミングチャートである。図8では、制御装置100が通常モードで火力発電プラント1を制御している初期状態において、時刻t0以降、AFC信号を受信することにより、AFC対応モードに移行した場合について、(a)AFC信号、(b)負荷指令値L、(c)第5指令値D5、(d)第2指令値D2、(e)第3指令値D3、(f)ボイラ入力指令値BID、(g)主蒸気弁開度指令値Jd、(h)タービンバイパス弁開度指令値Stb、(i)発電機出力P、(j)主蒸気圧力偏差ΔPs(=主蒸気圧力の検出値Ps-目標主蒸気圧力Pst)の時間変化がそれぞれ示されている。
【0045】
(a)AFC信号は一般的には基準値(0%)を中心とする複雑な波形を有するが、本実施形態では説明をわかりやすくするために、時間の経過に従って段階的に変動するAFC信号が例示されている(具体的には、(a)AFC信号は時刻t0~t1において「+3%」、時刻t1~t2において「+5%」、時刻t2~t3において「+1%」とステップ的に変動する)。また(a)AFC信号に対する応答性をわかりやすく説明するために、制御装置100が中央給電指令等所から受信する(b)負荷指令値Lは、一定(50%)であるとした。
【0046】
(c)第5指令値D5は、AFC対応モードではスイッチSW7において関数演算器164側が選択されることにより、AFC信号に基づく第4指令値D4が変化率制限器166に入力されることによる算出値に対して、加算器168において第1指令値D1が加算されることによって求められる。これにより第5指令値D5は、一定(50%)である(b)負荷指令値Lに対して、時間とともに変化する(a)AFC信号が加算された波形を有する。
【0047】
(d)第2指令値D2は、変化率制限器144によって変化率が制限された(b)負荷指令値Lに対して、加算器146において周波数制御信号Dfが加算されたものである。本実施形態では、周波数制御信号Dfはゼロとして、(b)負荷指令値Lと同様に一定値(50%)を有する第2指令値D2が示されている。
【0048】
(e)第3指令値D3は、(d)第2指令値D2に対して、加算器148において主蒸気圧力制御信号Dsが加算されたものであり、一定値(50%)を有する(d)第2指令値D2に対して、時間的に変動する主蒸気圧力制御信号Dsが加算されることにより、第2指令値D2を中心として変動する振る舞いを示している。
【0049】
(f)ボイラ入力指令値BIDは、(e)第3指令値D3に対して、加算器156においてバイアス値Dbiasが加算されたものである。AFC対応モードではバイアス値Dbiasとして、関数演算器158で設定された一定値(5%)が加算される。尚、AFCモードが設定されたタイミング(AFC信号が入力される時刻t0より前)でボイラ入力指令値BIDに一定値が加算される。ボイラ負荷が一定値まで増加完了した後に、AFC信号が入力される。これにより、(f)ボイラ入力指令値BIDは、第2指令値D2(50%)に対してバイアス値Dbias(5%)が加算された値を中心として変動する振る舞いを示している。ここで、AFCモードの設定は、オペレータが判断して設定する他に、予め時刻を定めて自動で設定してもよい。
【0050】
(g)主蒸気弁開度指令値Jdは、PI制御器172において(c)第5指令値D5と(i)発電機出力Pとの偏差ΔPに基づいて算出され、ボイラ入力指令値BIDに対応する波形について第1指令値D1の傾向が反映された時間的変化が示されている。
【0051】
(h)タービンバイパス弁開度指令値Stbは、AFC信号が入力される時刻t0以降において、(a)AFC信号に基づくバイアス開度Stb3biasが、一定のベース開度Stb3baseに加算されて求められることから、(a)AFC信号に対応する段階的な時間変化を示している。
【0052】
(i)発電機出力Pは、時間的に変動しながらも、(a)AFC信号に対応する増減傾向を示している。これは、AFC信号に対応するように火力発電プラント1の発電制御が行われており、AFC信号に対する良好な追従性が得られていることを示している。
【0053】
(j)主蒸気圧力偏差ΔPsは、前述したように主蒸気ライン6における蒸気圧力Psと目標主蒸気圧力Pstとの差圧であり、高圧側タービン4Aの負荷に対応して時間的に変動している。主蒸気圧力偏差ΔPsは時間的に変動しながら、AFC信号に対応して増減する。
【0054】
図9は負荷指令値Lにおける、プラントの負荷調整代示すグラフである。図9ではバイアス値Dbiasの効果をわかりやすく比較するために、比較例として、バイアス値Dbiasを0%に固定した場合におけるボイラ入力指令値BIDの負荷調整代が破線で示されている。この比較例によれば、バイアス値Dbiasを0%にしたボイラ入力指令値BIDは、図5を参照して前述したように負荷指令値Lに応じた調整代しか持たないため、負荷指令値Lが低くなるに従って負荷調整代が減少している。それに対して、本実施形態では、バイアス値Dbiasとして正符号を有する一定値が加算されてボイラ入力指令値BIDが求められるため、図9に実線で示すように、タービンバイパス弁16を併用することにより負荷指令値Lの大きさに関わらず、低負荷側に至るまで一定の負荷調整代が得られる。
【0055】
上記の比較例ではタービンバイパス弁16の開閉を行わず、ボイラ入力指令値BIDの増減で負荷調整を行っている。図9に破線で示すように、低負荷帯における負荷調整代が高負荷帯に比べて狭くなってしまう。それに対して本実施形態では、ボイラ入力指令値BIDにバイアス値Dbiasを加算して固定した上で、タービンバイパス弁16の開閉を行うことにより、低負荷帯に至るまで負荷調整代を高負荷帯と同等に維持することができる。すなわち比較例に比べると、低負荷帯における負荷調整代を拡大することができる。これは、ボイラ入力指令値BIDはバイアス値Dbiasを加算する分だけ大きくなり、予め蒸発量を増加しその蒸発量を負荷調整代のバッファとして使用することで成立する。つまり「負荷調整代優先」の運転制御といえる。このような制御により、ボイラ2が100%負荷よりも低い負荷帯での運転となる場合であっても、再生可能エネルギーの増大等に伴う負荷調整力の確保という課題に対応することができる。
【0056】
続いて他の実施形態に係る火力発電プラント1´を制御対象とする制御装置100´について説明する。図10は他の実施形態に係る火力発電プラント1´の全体構成図である。本実施形態では、図1に示す実施形態のバイパスライン14に相当する第1バイパスライン14に加えて、第2バイパスライン15を備える。第1バイパスライン14は主蒸気ライン6の上流側と下流側とを連通しており、第1バイパスライン14には第1タービンバイパス弁16が設けられている。第1タービンバイパス弁16の開度は制御装置100´によって制御可能であり、その開度に応じて、主蒸気ライン6を流れる蒸気の一部を、第1バイパスライン14を介して高圧側タービン4Aをバイパスして蒸気ライン10に供給できる。
【0057】
また蒸気ライン10のうち低圧側タービン4Bの上流側と復水器12との間には、第2バイパスライン15が設けられる。第2バイパスライン15には第2タービンバイパス弁17が設けられている。第2タービンバイパス弁17の開度は制御装置100によって制御可能であり、その開度に応じて、蒸気ライン10を流れる蒸気の一部を、第2バイパスライン15を介して低圧側タービン4Bをバイパスして復水器12に供給できる。
【0058】
制御装置100´は、前述の実施形態に係る制御装置100と共通の構成(図2を参照)を有する。制御装置100´のうちタービンバイパス弁開度指令値生成部110は、第1タービンバイパス弁16に対応するタービンバイパス弁開度指令値Stbを作成する。
第2タービンバイパス弁17の開度は、火力発電プラント1´の起動時や通常運転時において、再熱蒸気圧力(低圧側タービン4Bの入口圧力)を規定値に調整するために適宜制御される。尚、第2タービンバイパス弁17の開度目標値は、典型的には、火力発電プラント1´の起動時と通常運転時とにおいて異なり、それぞれ適宜設定される。
【0059】
図11図10の制御装置100´が備えるタービンバイパス弁開度指令値生成部110´の制御ロジック図の一部である。タービンバイパス弁開度指令値生成部110´は、図3と基本的に共通の制御ロジックを有しているが、図11では、タービンバイパス弁開度指令値生成部110´のうちバイアス開度算出部134´とバイアス開度補正部200のみが示されている(尚、タービンバイパス弁開度指令値生成部110´の他の構成は、図3に示すタービンバイパス弁開度指令値生成部110と同様であるため図11では省略している)。
【0060】
バイアス開度補正部200は、高圧側タービン4Aの負荷に基づいてバイアス開度Stb3biasを補正する。本実施形態では、バイアス開度補正部200は、高圧側タービン4Aの負荷を評価するためのパラメータとして、主蒸気ライン6における主蒸気圧力Psと、蒸気ライン10の蒸気圧力Pseとの差圧ΔP´を減算器202で求め、当該差圧ΔP´を関数演算器204に入力することで、バイアス開度Stb3biasを補正するためのゲインGを算出する。
【0061】
図12図11の関数演算器204における差圧ΔP´とゲインGとの関係を示すグラフである。この例では、高圧側タービン4Aの負荷を評価するための差圧ΔP´が増加するに従って、ゲインGが単調減少するように規定されている。このように算出されたゲインGは、補正部206において、AFC信号に基づく関数演算器146の出力に乗算されることでバイアス開度Stb3biasの補正に用いられる。
【0062】
第3開度指令値Stb3に対するバイアス値Stb3biasの影響は低負荷側ほど小さくなるが、本実施形態では、このように第3開度指令値Stb3に含まれるバイアス開度Stb3biasに対して、高圧側タービン4Aの負荷が小さくなるに従って大きくなるゲインGを設定する。これにより、低負荷側においても第3開度指令値Stb3におけるバイアス値Stb3biasの効果を有効に得ることができ、広い負荷範囲において良好なAFC信号に対する追従性を得ることができる。
【0063】
以上説明したように上記実施形態によれば、AFC信号に対して良好な追従性で発電周波数を維持可能な制御装置および制御方法を提供できる。
【0064】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0065】
(1)一態様に係る制御装置は、
ボイラ(例えば上記実施形態のボイラ2)と、前記ボイラからの蒸気によって駆動される蒸気タービン(例えば上記実施形態の蒸気タービン4)と、前記蒸気タービンをバイパスする蒸気量を調節するためのタービンバイパス弁(例えば上記実施形態のタービンバイパス弁16)と、を備える火力プラント(例えば上記実施形態の火力発電プラント1、1´)の制御装置(例えば上記実施形態の制御装置100、100´)であって、
前記火力プラントのAFC対応モードにおいて、AFC信号に基づいて前記タービンバイパス弁のタービンバイパス弁開度指令値(例えば上記実施形態のタービンバイパス弁開度指令値Stb)を生成するためのタービンバイパス弁開度指令値生成部(例えば上記実施形態のタービンバイパス弁開度指令値生成部110)と、
前記タービンバイパス弁開度指令値に基づいて前記タービンバイパス弁を制御するためのタービンバイパス弁制御部(例えば上記実施形態のタービンバイパス弁制御部140)と、
前記AFC対応モードにおいて、前記火力プラントに対する負荷指令値(例えば上記実施形態の負荷指令値L)に基づくベース入力値(例えば上記実施形態の第2指令値D2)に対して正符号のバイアス値(例えば上記実施形態のバイアス値Dbias)を加算することによりボイラ入力指令値(例えば上記実施形態のボイラ入力指令値BID)を生成するためのボイラ入力指令値生成部(例えば上記実施形態のボイラ入力指令値生成部142)と、
前記ボイラ入力指令値に基づいて前記ボイラを制御するためのボイラ制御部(例えば上記実施形態のボイラ制御部160)と、
を備える。
【0066】
上記(1)の態様によれば、AFC対応モードにおいて、タービンバイパス弁の開度がAFC信号に基づいて生成された開度指令値に基づいて制御されることで、AFC信号に対して良好な追従性が得られる。一方で、ボイラ入力指令値は、負荷指令値に基づくベース入力値に対して正符号のバイアス値を加算して生成される。これにより、タービンバイパス弁がAFC信号に基づく開度指令値によって制御された場合に、AFC信号の正負符号に関わらず、タービンバイパス弁の開度調整代を確保することができる。
【0067】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記バイアス値は、前記負荷指令値が所定値以下の範囲において、前記負荷指令値に関わらず一定である。
【0068】
上記(2)の態様によれば、ボイラ入力指令値を生成する際にベース入力値に対して加算されるバイアス値が、負荷指令値に関わらず一定に設定される。これにより、負荷指令値が変化した場合においてもバイパス値が変化しないため、広い負荷範囲においてタービンバイパス弁の調整代を確保できる。
【0069】
(3)他の態様では、上記(2)の態様において、
前記バイアス値は、前記AFC信号の基準値に対する最大減少値に対応して設定される。
【0070】
上記(3)の態様によれば、負荷指令値に関わらず一定なバイアス値が、AFC信号の基準値に対する最大減少値に対応して設定される。これにより、時々刻々変化するAFC信号に対して、常にタービンバイパス弁の調整代を確保することができ、AFC信号に対する良好な追従性が得られる。
【0071】
(4)他の態様では、上記(1)から(3)のいずれか一態様において、
前記開度指令値生成部は、前記AFC対応モードへの移行時における前記タービンバイアス弁のベース開度(例えば上記実施形態のベース開度Stb3base)に、前記AFC信号に基づくバイアス開度(例えば上記実施形態のバイアス開度Stb3bias)を加算することにより、前記開度指令値を生成するように構成される。
【0072】
上記(4)の態様によれば、タービンバイアス弁の開度制御値は、ベース開度に対してバイアス開度が加算されることで生成される。ベース開度は、火力プラントが通常モードからAFC信号対応モードに移行した際のタービンバイアス弁の開度が保持されたものであり、これに時々刻々変化するAFC信号に基づくバイアス値が加算されて生成される。このような開度制御値に基づいてタービンバイパス弁の開度制御を行うことで、AFC信号に対する良好な追従性が得られる。
【0073】
(5)他の態様では、上記(4)の態様において、
前記ベース開度は、全開状態と全閉状態との間の中間開度である。
【0074】
上記(5)の態様によれば、AFC対応モードでは、タービンバイパス弁の開度制御の基準となるベース開度が、中間開度に設定される。これにより、AFC信号に基づいてタービンバイパス弁の開度を変化させた際に、AFC信号の符号に関わらずタービンバイパス弁の調整代が確保され、AFC信号に対する良好な追従性を得ることができる。
【0075】
(6)他の態様では、上記(1)から(5)のいずれか一態様において、
前記火力プラントは、前記ボイラから前記蒸気タービンに供給される主蒸気量を調整するための主蒸気弁(例えば上記実施形態の主蒸気弁8)を更に備え、
前記制御装置は、
前記AFC信号に基づいて蒸気弁開度指令値(例えば上記実施形態の主蒸気弁開度指令値Jd)を生成するための蒸気弁開度指令値生成部(例えば上記実施形態の主蒸気弁開度指令値生成部162)と、
前記蒸気弁開度指令値に基づいて前記主蒸気弁を制御するための主蒸気弁制御部(例えば上記実施形態の主蒸気弁制御部174)と、
を更に備える。
【0076】
上記(6)の態様によれば、主蒸気弁の開度は、AFC信号に基づいて生成される主蒸気弁開度指令値に基づいて制御される。これにより、主蒸気弁は、同様にAFC信号に基づいて開度制御されるタービンバイパス弁とともに協調して動作することで、AFC信号に対する追従性を向上することができる。
【0077】
(7)他の態様では、上記(1)から(6)のいずれか一態様において、
前記蒸気タービンの負荷に基づいて前記バイアス開度を補正するためのバイアス開度補正部(例えば上記実施形態のバイアス開度補正部200)を更に備える。
【0078】
上記(7)の態様によれば、バイアス開度を蒸気タービンの負荷に基づいて補正することで、蒸気タービンの広い負荷範囲においてバイアス開度によるAFC信号に対する追従性の改善を行うことができる。
【0079】
(8)他の態様では、上記(7)の態様において、
前記バイアス開度補正部は、前記負荷が小さくなるに従って補正量が大きくなるように前記バイアス開度を補正する。
【0080】
上記(8)の態様によれば、バイアス開度の補正量は蒸気タービンの負荷が小さくなるに従って大きくなるように設定される。これにより、バイアス開度による効果が相対的に小さくなりやすい低負荷側においても、バイアス開度によるAFC信号に対する追従性の改善を効果的に行うことができる。
【0081】
(9)他の態様では、上記(7)または(8)の態様において、
前記バイアス開度補正部は、前記蒸気タービンの供給蒸気圧(例えば上記実施形態の主蒸気圧力Ps)と排気蒸気圧(例えば上記実施形態のタービン排気圧力Pse)との差圧(例えば上記実施形態の差圧ΔP´)に基づいて前記負荷を求める。
【0082】
上記(9)の態様によれば、蒸気タービンに供給される蒸気圧と、蒸気タービンから排出される蒸気圧との差圧によって、新たなセンサ等を追加することなく、蒸気タービンの負荷を適切に評価できる。
【0083】
(10)他の態様では、上記(1)から(9)のいずれか一態様において、
前記タービンバイパス弁は、前記蒸気タービンの上流側と下流側とを連通するバイパスラインに設けられる。
【0084】
上記(10)の態様によれば、蒸気タービンの上流側と下流側とを連通するバイパスラインにタービンバイパス弁を設けることで、例えば、火力プラントの起動時に開度調整することで、蒸気タービンの下流側に蒸気を供給し、蒸気タービンの下流側にある各種構成(再熱器など)を好適に保護できる。
【0085】
(11)他の態様では、上記(1)から(9)のいずれか一態様において、
前記タービンバイパス弁は、前記蒸気タービンの上流側と前記蒸気タービンの下流側に設けられた復水器とを連通するバイパスラインに設けられる。
【0086】
上記(11)の態様によれば、よりシンプルな制御によって、タービンバイパス弁がAFC信号に基づく開度指令値によって制御された場合に、AFC信号の正負符号に関わらず、タービンバイパス弁の開度調整代を確保することができる(例えば上記(9)におけるバイアス開度補正部を不要とすることができる)。
【0087】
(12)一態様に係る制御方法は、
ボイラ(例えば上記実施形態のボイラ2)と、前記ボイラからの蒸気によって駆動される蒸気タービン(例えば上記実施形態の蒸気タービン4)と、前記蒸気タービンをバイパスする蒸気量を調節するためのタービンバイパス弁(例えば上記実施形態のタービンバイパス弁16)と、を備える火力プラント(例えば上記実施形態の火力発電プラント1、1´)の制御方法であって、
前記火力プラントのAFC対応モードにおいて、前記火力プラントに対する負荷指令値(例えば上記実施形態の負荷指令値L)に基づくベース入力値(例えば上記実施形態の第2指令値D2)に対して正符号のバイアス値(例えば上記実施形態のバイアス値Dbias)を加算することによりボイラ入力指令値(例えば上記実施形態のボイラ入力指令値BID)を生成する工程と、
前記ボイラ入力指令値に基づいて前記ボイラを制御する工程と、
前記AFC対応モードにおいて、AFC信号に基づいて前記タービンバイパス弁のタービンバイパス弁開度指令値(例えば上記実施形態のタービンバイパス弁開度指令値Stb)を生成する工程と、
前記タービンバイパス弁開度指令値に基づいて前記タービンバイパス弁を制御する工程と、
を備える。
【0088】
上記(12)の態様によれば、AFC対応モードにおいて、タービンバイパス弁の開度がAFC信号に基づいて生成された開度指令値に基づいて制御されることで、AFC信号に対して良好な追従性が得られる。一方で、ボイラ入力指令値は、負荷指令値に基づくベース入力値に対して正符号のバイアス値を加算して生成される。これにより、タービンバイパス弁がAFC信号に基づく開度指令値によって制御された場合に、AFC信号の正負符号に関わらず、タービンバイパス弁の開度調整代を確保することができる。
【0089】
(13)他の態様では、上記(12)の態様において、
前記ボイラが前記ボイラ入力指令値によって制御されることで前記ボイラの負荷が前記負荷指令値より増加した後に、前記タービンバイパス弁が前記開度指令値に基づいて制御される。
【0090】
上記(13)の態様によれば、ボイラの負荷が前記負荷指令値より増加することにより、タービンバイパス弁の開度調整代が確保された後に、タービンバイパス弁の開度制御が実施される。これにより、AFC信号に基づいてタービンバイパス弁の開度制御を行った際に、AFC信号の正負に関わらずAFC信号に対応した開度調整を行うことができ、AFC信号に対する良好な追従性が得られる。
【符号の説明】
【0091】
1 火力発電プラント
2 ボイラ
4 蒸気タービン
4A 高圧側タービン
4B 低圧側タービン
6 主蒸気ライン
8 主蒸気弁
10 蒸気ライン
12 復水器
14 バイパスライン(第1バイパスライン)
15 第2バイパスライン
16 タービンバイパス弁(第1タービンバイパス弁)
17 第2タービンバイパス弁
100 制御装置
110 タービンバイパス弁開度指令値生成部
112 第1開度指令値算出部
120 第2開度指令値算出部
130 第3開度指令値算出部
132 ベース開度算出部
134 バイアス開度算出部
140 タービンバイパス弁制御部
142 ボイラ入力指令値生成部
144 ホールド回路
160 ボイラ制御部
162 主蒸気弁開度指令値生成部
174 主蒸気弁制御部
200 バイアス開度補正部
206 補正部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12