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特許7657066精製ガスの製造システム及び精製ガスの製造方法
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  • 特許-精製ガスの製造システム及び精製ガスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-27
(45)【発行日】2025-04-04
(54)【発明の名称】精製ガスの製造システム及び精製ガスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 3/10 20060101AFI20250328BHJP
   B01D 53/02 20060101ALI20250328BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20250328BHJP
【FI】
C10L3/10
B01D53/02
B01D53/22
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021025514
(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公開番号】P2022127390
(43)【公開日】2022-08-31
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】川口 昇
(72)【発明者】
【氏名】藤沼 正訓
(72)【発明者】
【氏名】山崎 亘
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0198227(US,A1)
【文献】特開2015-181964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 3/00
B01D 53/02
B01D 53/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオガス中のメタンを濃縮して精製ガスを得る精製ガスの製造システム(1)であって、
バイオガスを分離して、メタン濃度が増加した精製ガスと二酸化炭素濃度が増加した除去ガスを得る分離装置(40)と、
前記分離装置(40)に供給する前のバイオガスを冷却する冷却器と、
前記分離装置から排出された除去ガスを圧縮する除去ガス圧縮機(62)と、
圧縮した除去ガスを膨張させる膨張弁(65)を備え、
前記膨張弁(65)から噴き出した前記除去ガスを、前記冷却器に吹き付けることにより、前記除去ガスの膨張に伴う潜熱を、前記冷却器におけるバイオガスの冷却に利用することを特徴とする、精製ガスの製造システム(1)。
【請求項2】
前記冷却器が、除湿のためにバイオガスを冷却する除湿用冷却器(12)である、請求項1に記載の精製ガスの製造システム(1)。
【請求項3】
前記冷却器が、圧縮後のバイオガスを冷却するための冷却器(23、26)である、請求項1又は2に記載の精製ガスの製造システム(1)。
【請求項4】
前記分離装置(40)が、分離膜を有する膜分離装置である、請求項1~のいずれか一項に記載の精製ガスの製造システム(1)。
【請求項5】
さらに、少なくとも前記除去ガスが前記膨張弁(65)により膨張して噴出する出口と前記冷却器とを収容するハウジング(70)を備える、請求項1~のいずれか一項に記載の精製ガスの製造システム(1)。
【請求項6】
さらに、前記ハウジング(70)内のメタン濃度を測定する濃度計(71)を備え、前記濃度計(71)で測定したメタン濃度が所定の値を超えた場合に、前記膨張弁(65)から前記ハウジング(70)の外に前記除去ガスを排出する、請求項に記載の精製ガスの製造システム(1)。
【請求項7】
バイオガス中のメタンを濃縮して精製ガスを得る精製ガスの製造方法であって、
バイオガスを冷却することにより除湿し、
除湿後のバイオガスを分離して、メタン濃度が増加した精製ガスと二酸化炭素濃度が増加した除去ガスを得ると共に、
前記除去ガスを圧縮後に膨張させ、
前記バイオガスの除湿に前記除去ガスの膨張に伴う潜熱を利用することを特徴とする、精製ガスの製造方法。
【請求項8】
バイオガス中のメタンを濃縮して精製ガスを得る精製ガスの製造方法であって、
バイオガスを圧縮後に冷却し、
冷却後のバイオガスを分離して、メタン濃度が増加した精製ガスと二酸化炭素濃度が増加した除去ガスを得ると共に、
前記除去ガスを圧縮後に膨張させ、
前記バイオガスの圧縮後の冷却に、前記除去ガスの膨張に伴う潜熱を利用することを特徴とする、精製ガスの製造方法。
【請求項9】
前記バイオガスの分離を、分離膜を用いる膜分離方法で行う、請求項7又は8に記載の精製ガスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製ガスの製造システム及び精製ガスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃物処理及びその資源の有効利用の観点から、家庭や食堂、あるいはレストランやホテルなどからの生ごみ、牧場や豚舎などからの家畜の糞尿、あるいは食品工場からの食品残渣などの廃物から、メタン発酵を利用してメタンを含むバイオガスを発生させることが行われている。
【0003】
バイオガス中のメタンを、エンジンやボイラーの燃料等として有効利用するためには、バイオガス中の二酸化炭素等を除去する精製処理を行って、メタン濃度を高めることが必要である。
精製処理には、膜分離法や圧力スイング吸着法(以下「PSA法」という。)等による分離装置が使用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-23211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
精製処理に利用される膜分離方法では分離膜を有する膜分離装置が使用される。また、PSA法では、吸着剤が充填された吸着塔が使用される。
バイオガスは、通常これらの分離装置に圧縮してから供給されるが、分離膜や吸着剤等は熱に弱い。そのため圧縮により高温とされたバイオガスは、冷却器により冷却されてから分離装置に供給される。
また、分離膜や吸着剤等は水分に対する耐性も低い。そのため、水分量の多いバイオガスは、予め除湿が必要であり、この除湿のためにも冷却器が使用されている。
【0006】
しかし、冷却には冷却設備が必要であり、エネルギーも消費する。そのため、冷却設備のスペースが必要になると共に、冷却設備のイニシャルコストやランニングコストに加えて、エネルギー消費のコストもかかっていた。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、バイオガスからメタン濃度を高めた精製ガスを製造するにあたり、コンパクトな設備で、冷却のためのエネルギー消費量を削減できる精製ガスの製造システム及び精製ガスの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した精製ガスの製造システム(1)は、バイオガス中のメタンを濃縮して精製ガスを得る精製ガスの製造システム(1)であって、バイオガスを分離して、メタン濃度が増加した精製ガスと二酸化炭素濃度が増加した除去ガスを得る分離装置(40)と、前記分離装置(40)に供給する前のバイオガスを冷却する冷却器と、前記分離装置から排出された除去ガスを圧縮する除去ガス圧縮機(62)と、圧縮した除去ガスを膨張させる膨張弁(65)を備え、前記除去ガスの膨張に伴う潜熱を、前記冷却器におけるバイオガスの冷却に利用することを特徴とする。
この構成によれば、従来そのまま放出していた除去ガスを、単に圧縮後に膨張させるだけで冷却に利用できるので、コンパクトな設備で、冷却のためのエネルギー消費量を削減できる。
【0008】
請求項2に記載した精製ガスの製造システム(1)は、前記膨張弁(65)から噴き出した前記除去ガスを、前記冷却器に吹き付けることにより、前記除去ガスの膨張に伴う潜熱を、前記冷却器におけるバイオガスの冷却に利用する。
この構成によれば、簡易な設備で、潜熱を冷却に利用できる。
【0009】
請求項3に記載した精製ガスの製造システム(1)は、前記冷却器が、除湿のためにバイオガスを冷却する除湿用冷却器(12)である。
この構成によれば、除去ガスの潜熱を、除湿のための冷却に利用できる。
【0010】
請求項4に記載した精製ガスの製造システム(1)は、前記冷却器が、圧縮後のバイオガスを冷却するための冷却器(23、26)である。
この構成によれば、除去ガスの潜熱を、圧縮後のバイオガスの冷却に利用できる。
【0011】
請求項5に記載した精製ガスの製造システム(1)は、前記分離装置(40)が、分離膜を有する膜分離装置である。
この構成によれば、メタン濃度が充分に増加した精製ガスを得やすい。
【0012】
請求項6に記載した精製ガスの製造システム(1)は、さらに、少なくとも前記除去ガスが前記膨張弁(65)により膨張して噴出する出口と前記冷却器とを収容するハウジング(70)を備える。
この構成によれば、ハウジング(70)内に二酸化炭素を高濃度で含む除去ガスを放出することになるので、ハウジング内の防爆性が向上する。
【0013】
請求項7に記載した精製ガスの製造システム(1)は、前記ハウジング(70)内のメタン濃度を測定する濃度計(71)を備え、前記濃度計(71)で測定したメタン濃度が所定の値を超えた場合に、前記膨張弁(65)から前記ハウジング(70)の外に前記除去ガスを排出する。
この構成によれば、除去ガスのメタン濃度が充分に低下しなかった場合に、ハウジング(70)内に除去ガスを放出し続けることによって、ハウジング(70)の内部が可燃性雰囲気になることを防止できる。
【0014】
請求項8に記載した精製ガスの製造方法は、バイオガス中のメタンを濃縮して精製ガスを得る精製ガスの製造方法であって、予め冷却したバイオガスを分離して、メタン濃度が増加した精製ガスと二酸化炭素濃度が増加した除去ガスを得ると共に、前記除去ガスを圧縮後に膨張させ、前記除去ガスの膨張に伴う潜熱を、前記圧縮後のバイオガスの冷却に利用する。
この構成によれば、従来そのまま放出していた除去ガスを、単に圧縮後に膨張させるだけで冷却に利用できるので、コンパクトな設備で、冷却のためのエネルギー消費量を削減できる。
【0015】
請求項9に記載した精製ガスの製造方法は、バイオガス中のメタンを濃縮して精製ガスを得る精製ガスの製造方法であって、バイオガスを冷却することにより除湿し、除湿後のバイオガスを分離して、メタン濃度が増加した精製ガスと二酸化炭素濃度が増加した除去ガスを得ると共に、前記除去ガスを圧縮後に膨張させ、前記バイオガスの除湿に前記除去ガスの膨張に伴う潜熱を利用する。
この構成によれば、除去ガスの潜熱を、除湿のための冷却に利用できる。
【0016】
請求項10に記載した精製ガスの製造方法は、バイオガス中のメタンを濃縮して精製ガスを得る精製ガスの製造方法であって、バイオガスを圧縮後に冷却し、冷却後のバイオガスを分離して、メタン濃度が増加した精製ガスと二酸化炭素濃度が増加した除去ガスを得ると共に、前記除去ガスを圧縮後に膨張させ、前記バイオガスの圧縮後の冷却に、前記除去ガスの膨張に伴う潜熱を利用する。
この構成によれば、除去ガスの潜熱を、圧縮後のバイオガスの冷却に利用できる。
【0017】
請求項11に記載した精製ガスの製造方法は、前記バイオガスの分離を、分離膜を用いる膜分離方法で行う。
この構成によれば、メタン濃度が充分に増加した精製ガスを得やすい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の精製ガスの製造システム及び精製ガスの製造方法によれば、バイオガスからメタン濃度を高めた精製ガスを製造するにあたり、コンパクトな設備で、冷却のためのエネルギー消費量を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る精製ガスの製造システム1の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に本発明の一実施形態に係る製造システム1の概略構成を示す。
製造システム1は、バイオガス中のメタンを濃縮して精製ガスを得る精製ガスの製造システムである。
製造システム1は、前処理部10と圧縮部20と分離装置40と精製ガス排出部50と除去ガス排出部60とハウジング70及び濃度計71とで概略構成されている。
【0021】
製造システム1の原料となるバイオガスは、家庭や食堂、あるいはレストランやホテルなどからの生ごみ、牧場や豚舎などからの家畜の糞尿、あるいは食品工場からの食品残渣などの廃物がメタン発酵することにより得られるガスである。
バイオガスは、廃物中の有機物が嫌気性微生物によって分解されることで発生するもので、その成分の大半がメタンと二酸化炭素からなり、またその発酵雰囲気に起因して水分が含まれている。
【0022】
メタンと二酸化炭素の比率は、廃物の種類や発酵条件等の如何によって左右されるが、その一例として、メタンの割合が60体積%程度であり、残余の40体積%程度が二酸化炭素である。このため、純度の高いメタンとするには二酸化炭素を除去して精製する必要がある。
【0023】
前処理部10はバイオガスを分離に先立ち前処理する部分である。前処理部10は、製造システム1の外部からバイオガスを引き入れる前処理ライン11に、上流側から順に除湿用冷却器12、脱硫器13及び逆止弁14が設けられている。
除湿用冷却器12の種類に特に限定はないが、一般的なコルゲートフィンタイプやフィン・チューブタイプの気液熱交換器等を使用できる。
除湿用冷却器12には、ドレン排出ライン15が接続され、除湿用冷却器12により除湿され、除去された水分がドレンとして製造システム1外に排出できるようになっている。ドレン排出ライン15には開閉弁16が設けられている。
【0024】
圧縮部20は、第1圧縮ライン21に、上流側から順に第1バイオガス圧縮機22、第1冷却器23、開閉弁24、第2バイオガス圧縮機25及び第2冷却器26が設けられている。第1圧縮ライン21は、上流端が前処理ライン11の下流端に接続され、下流端が分離装置40に接続されている。
また、第1圧縮ライン21の第1冷却器23と開閉弁24との間から、第2バイオガス圧縮機25及び第2冷却器26を経由せず直接分離装置40に接続する第2圧縮ライン27が分岐している。第2圧縮ライン27には開閉弁28が設けられている。
【0025】
第1バイオガス圧縮機22と第2バイオガス圧縮機25は、前処理後のバイオガス(除湿後のバイオガス)を圧縮して分離装置40での処理に必要な圧力とするために設けられている。
分離装置40が膜分離装置(膜分離方法による装置)の場合、バイオガスを圧縮状態で供給することにより、バイオガスの一部が分離膜を透過できる。
分離装置40がPSA法(圧力スイング吸着法:Pressure Swing Adsorption Method)の装置の場合、バイオガスが、吸着剤が充填された吸着塔を通過できる。
【0026】
分離装置40が膜分離装置の場合、分離装置40に供給されるバイオガスの圧力は、要求される精製ガスのメタン濃度等に応じて適宜設定される。
メタンを高濃度で含む精製ガスを得るためには、分離装置40に供給されるバイオガスの圧力を高めに設定する。精製ガスの収率を上げるためには、分離装置40に供給されるバイオガスの圧力を低めに設定する。
【0027】
第1冷却器23及び第2冷却器26は、圧縮により温度が上昇したバイオガスを冷却し、分離装置40で処理が可能な温度まで冷却した後のバイオガスを分離装置40に供給するために設けられている。
第1冷却器23は、第1バイオガス圧縮機22により圧縮されることにより温度が上昇したバイオガスを冷却する。
第2冷却器26は、第2バイオガス圧縮機25により圧縮されることにより温度が上昇したバイオガスを冷却する。
第1冷却器23及び第2冷却器26の種類に特に限定はないが、一般的なコルゲートフィンタイプやフィン・チューブタイプの気液熱交換器等を使用できる。
【0028】
第1冷却器23には、冷媒入口ライン31から冷媒が供給され、第1冷却器23を通過するバイオガスを冷却するようになっている。また、第1冷却器23から流出した冷媒は、冷媒移送ライン32により第2冷却器26に供給され、第2冷却器26を通過するバイオガスを冷却するようになっている。第2冷却器26から流出した冷媒は、冷媒出口ライン33から排出される。
【0029】
冷媒の種類に特に限定はなく、例えばロングライフクーラント(LLC)、ボイラー用のプロピレングリコールを使用した冷却水、単なる水、フロン等のフッ素系冷媒等、公知の冷媒を適宜使用できる。メタン発酵時に発生する消化液を冷媒として使用してもよい。
【0030】
分離装置40が膜分離装置の場合、分離装置40に供給されるバイオガスの温度は、分離膜の材質にもよるが、40~60℃が好ましく、45~55℃がより好ましい。
分離装置40が膜分離装置の場合、分離装置40に供給されるバイオガスの温度が好ましい上限値以下であれば、分離膜の劣化を抑制しやすい。分離装置40に供給されるバイオガスの温度が好ましい下限値以上であれば、バイオガス中に水分が含まれる場合に、水蒸気として分離膜を透過させやすい。また、結露による分離膜の有効面積減少も防止しやすい。
【0031】
分離装置40がPSA法の装置の場合、分離装置40に供給されるバイオガスの温度は、30~60℃が好ましく、40~50℃がより好ましい。
分離装置40がPSA法の装置の場合、分離装置40に供給されるバイオガスの温度が好ましい上限値以下であれば、吸着剤の劣化を防止しやすい。分離装置40に供給されるバイオガスの温度が好ましい下限値以上であれば、結露を防止しやすい。
【0032】
開閉弁24を開とし開閉弁28を開とした際、第1圧縮ライン21に沿って、バイオガスの圧縮と冷却を2回繰り返すようになっている。
開閉弁24を閉とし開閉弁28を開とした際、バイオガスは、第1圧縮ライン21の途中から第2圧縮ライン27を通って直接分離装置40に至るので、バイオガスの圧縮と冷却を1回のみ行うようになっている。
【0033】
いずれの開閉弁を開とするかは、バイオガスの流量と組成、及び要求される精製ガスのメタン濃度等に応じて適宜選択される。
分離装置40が膜分離装置の場合、バイオガスの流量が大きい程、バイオガスのメタン濃度が低い程、また、精製ガスに求められるメタン濃度が高い程、分離装置40に供給するバイオガスの圧力を高くすることが必要となる。
【0034】
バイオガスの圧力を高くする場合、一つの圧縮機で高い圧力まで圧縮しようとすると、バイオガスの温度が極めて高くなる。そのため、圧縮機自体が破損する恐れがあるので、高温高圧にも対応できる高価な圧縮機が必要となる。また、圧縮機に続く冷却器も大がかりなものが必要となる。
【0035】
そのような場合、バイオガスの圧縮と冷却を2回以上繰り返すようにすれば、圧縮機1台の負担及び冷却器1台の負担が軽減されるので、通常の圧縮機及び通常の冷却器で対応が可能となる。
したがって、バイオガスの圧力を高くする必要がある場合は、圧縮と冷却を2回繰り返すように開閉弁24を開とし、バイオガスの圧力をそれほど高くする必要がない場合は、圧縮と冷却を1回のみ行うように開閉弁28を開とすればよい。
【0036】
分離装置40としては、膜分離装置、PSA法の装置が挙げられる。
中でも、メタン濃度が充分に増加した精製ガスを得やすくコンパクトな装置としやすいことから、膜分離装置が好ましい。
【0037】
膜分離装置は、ケーシング内に分離膜が収容されてなり、分離膜を透過する速度が、成分によって異なることを利用する分離装置である。
分離膜の材質としては、ポリスルホン、酢酸セルローズまたはポリアミドが挙げられ、ポリスルホンが特に好ましい。
【0038】
これらの材質の膜に対しては、二酸化炭素の膜透過速度が大きく、メタンの膜透過速度は小さい。そのため、分離膜を透過しなかったガスを、メタン濃度が増加した精製ガスとして回収できる。また、分離膜を透過したガスを、二酸化炭素濃度が増加した除去ガスとすることができる。
【0039】
なお、これらの材質の膜は、二酸化炭素だけでなく水蒸気も膜透過速度が大きい。そのため、精製ガス中の水分濃度も、バイオガス中の水分濃度より低くすることができる。
ただし、水分は分離膜に負荷を与える。そのため、本実施形態では、除湿用冷却器12によって、水分濃度が高いままのバイオガスが分離膜に至らないようにしている。
【0040】
分離膜は、中空チューブ状でもよいし、平膜状でもよい。中でも分離効率が高いことから、中空チューブ状の分離膜であることが好ましく、複数の中空チューブ状の分離膜が束状とされたものがより好ましい。
中空チューブの寸法については特に限定はないが、チューブ外径は0.4~0.9mmチューブ内径は0.2~0.6mm、膜厚は0.2~0.3mmとすることが好ましい。
【0041】
PSA法の装置は、吸着塔に充填された吸着剤へのメタンの吸着速度と二酸化炭素の吸着速度の差によりメタンと二酸化炭素が分離される。
吸着剤としては、メタンよりも二酸化炭素を吸着しやすいものを使用してもよいし、二酸化炭素よりもメタンを吸着しやすいものを使用してもよい。
【0042】
メタンよりも二酸化炭素を吸着しやすい吸着剤を使用した場合、吸着剤に吸着せずに流出したガスが精製ガスとなり、吸着剤に吸着し、その後吸着剤から脱着されたガスが除去ガスとなる。
二酸化炭素よりもメタンを吸着しやすい吸着剤を使用した場合、吸着剤に吸着せずに流出したガスが除去ガスとなり、吸着剤に吸着し、その後吸着剤から脱着されたガスが精製ガスとなる。
なお、吸着剤からの脱着は、圧力を下げることにより行うことができる。
【0043】
精製ガス排出部50は、分離装置40でメタン濃度が増加した精製ガスを製造システム1外に排出する部分である。
精製ガス排出部50は、上流端が分離装置40に接続され、下流端が製造システム1の外に設けられた精製ガスタンク80に接続された精製ガス排出ライン51と、精製ガス排出ライン51に設けられた開閉弁52で構成されている。
【0044】
精製ガスタンク80には、精製ガス取出しライン81が接続され、精製ガス取出しライン81には開閉弁82が設けられている。精製ガスタンク80に貯留された精製ガスは、精製ガス取出しライン81に設けられた開閉弁82を開とすることにより、取り出すことができる。
【0045】
除去ガス排出部60は、分離装置40で二酸化炭素濃度が増加した除去ガスを排出する部分である。
除去ガス排出部60は、除去ガス噴出ライン61に、上流側から順に、除去ガス圧縮機62、除去ガスタンク63、膨張弁65、開閉弁66が設けられている。除去ガス噴出ライン61は、上流端が分離装置40に接続され、下流端が除湿用冷却器12の表面近傍に開口している。
また、除去ガス噴出ライン61の膨張弁65と開閉弁66の間から、第2放出ライン67が分岐して設けられ、第2放出ライン67の下流端は、製造システム1の外に配置されている。第2放出ライン67には開閉弁68が設けられている。
【0046】
除去ガス圧縮機62は、二酸化炭素濃度が増加した除去ガスを圧縮する。圧縮された除去ガスは、除去ガスタンク63に貯留される。除去ガスタンク63に貯留された高圧の除去ガスは、膨張弁65と開閉弁66を開、開閉弁68を閉とすることにより、除去ガス噴出ライン61の下流端(出口)から膨張しながら噴出し、除湿用冷却器12に吹き付けられる。
具体的な吹きつけ場所に特に限定はないが、除湿用冷却器12の構造等に応じて、除湿用冷却器12のケース表面や、ケース内にあるフィンやチューブ等に吹き付けることができる。
【0047】
その結果、除湿用冷却器12内を通過するバイオガスが、除去ガスの膨張に伴う潜熱によって冷却される。
なお、開閉弁66として、開度を調整できる物を使用すれば、除湿用冷却器12への除去ガスの吹き付け量を調整して、除去ガスによる冷却の程度を適切にコントロールすることができる。
【0048】
製造システム1は、その全体がハウジング70内に収容されている。ただし、前処理ライン11と冷媒入口ライン31は、上流端がハウジング70の外に露出するように配置されている。また、ドレン排出ライン15、冷媒出口ライン33、精製ガス排出ライン51及び第2放出ライン67は、下流端がハウジング70の外に露出するように配置されている。
【0049】
除去ガスは、二酸化炭素を高い濃度で含む。そのため、ハウジング70に収容された除去ガス排出部60がハウジング70内で除去ガスを放出することにより、ハウジング70内の二酸化炭素濃度が高まる。これにより、ハウジング70内の防爆性が向上する。
ハウジング70内に放出された除去ガスは、ハウジング70の隙間を通して、大気に放出される。
【0050】
なお、加圧された除去ガスがハウジング70内に排出されることで、ハウジング70内の圧力が、ハウジング70の外よりも若干高くなる。これにより、ハウジング70の外部からのごみの侵入を防ぐ効果もある。
また、加圧後のガスを排出する場合は、少なからず音が発生するが、ハウジング70内に排出する場合は、ハウジング70により遮音されるので、外部への騒音を抑制できる。
加圧された除去ガスの吹きつけ場所を、除湿用冷却器12等の冷却器のケース内とした場合は、さらに、騒音抑制効果が高まる。
【0051】
本実施形態では、ハウジング70内にメタン濃度を測定する濃度計71を設けている。
除去ガスに含まれるメタンは、通常僅かである。しかし、仮に分離装置40の不具合等により、除去ガスのメタン濃度が充分に低下しない状況が生じてしまうと、除去ガスの放出により、意図せずに、ハウジング70内のメタン濃度が高まり可燃性雰囲気となるので好ましくない。そのため、濃度計71により、ハウジング70内のメタン濃度を監視することが好ましい。
【0052】
もし、濃度計71により、ハウジング70内のメタン濃度が、所定の値を超えたことが検出された場合には、膨張弁65と開閉弁68を開、開閉弁66を閉とする。これにより、除去ガスタンク63に貯留された高圧の除去ガスは、第2放出ライン67の下流端からハウジング70外に直接放出される。所定の値は、必要とされる防爆性能に応じて決定される。
なお、ハウジング70内のメタン濃度が所定の値を超え、開閉弁68を開、開閉弁66を閉とした場合は、警報を出力するようにしてもよい。
【0053】
第2放出ライン67の下流端は大気開放としてもよいし、タンクに接続して、除去ガスをタンクに貯留するようにしてもよい。貯留した除去ガスは、二酸化炭素を多く含むため、化学加工品の原料として使用できる。二酸化炭素は、例えば水素と共に、燃料合成のために使用できる。
【0054】
なお、上記実施形態では、除湿用冷却器12におけるバイオガスを、除去ガスの膨張による潜熱のみで冷却する態様としたが、除湿用冷却器12におけるバイオガスの冷却には、冷媒を併用してもよい。
また、除去ガスの膨張による潜熱は、除湿用冷却器12におけるバイオガスの冷却に代えて、第1冷却器23や第2冷却器26におけるバイオガス(圧縮後のバイオガス)の冷却に利用してもよい。
また、除去ガスの膨張による潜熱は、2以上の冷却器におけるバイオガスの冷却に利用してもよい。
【0055】
ハウジング70を設ける場合、ハウジング70は、少なくとも除去ガスが膨張弁65により膨張して噴出する除去ガス噴出ライン61の出口と、冷却対象となる冷却器(上記実施形態では除湿用冷却器12)を収容することが好ましい。
ハウジング70は、上記実施形態のように製造システム1のほぼ全体を収容することが、除去ガスを利用して、全体の防爆性を確保する観点で特に好ましい。
【0056】
除去ガス噴出ライン61の出口と、冷却対象となる冷却器以外の構成の一部又は全部は、ハウジング70の外に配置することも可能である。
例えば濃度計71は、全体がハウジング70に収容されていなくてもよい。具体的には、センサ部のみがハウジング70に収容され、濃度計本体はハウジング70の外に配置されていてもよい。全体がハウジング70の外に配置され、サンプリングチューブの上流端のみハウジング70内に挿入されていてもよい。
【0057】
また、前処理部10の具体的な構成は、特に限定されない。例えば、バイオガスの組成に応じて、脱硫器13を省略してもよい。
また、圧縮部20の具体的な構成は、特に限定されない。例えば圧縮部20の第2バイオガス圧縮機25と第2冷却器26を省略し、バイオガスの圧縮と冷却を、各々常に1回のみとする構成としてもよい。また、圧縮機と冷却器をさらに追加し、バイオガスの圧縮と冷却を、3回以上繰り返すようにしてもよい。
また、圧縮部による圧縮の程度が小さく圧縮後のバイオガスの温度が充分に低い場合は、冷却器を省略してもよい。
【0058】
また、精製ガス排出ライン51に真空ポンプを配置してもよい。精製ガス排出ライン51に真空ポンプを配置する場合は、圧縮部20全体を省略してもよい。
また、精製ガス排出ライン51に真空ポンプを配置し、圧縮部20全体を省略する場合は、バイオガスを分離装置40での処理に適した温度まで加温するヒーターを設けてもよい。
【0059】
また、分離装置40は、複数設けてもよい。例えば、分離装置40から流出する精製ガスをさらに別の分離装置40で処理することにより、精製ガスのメタン濃度を高めてもよい。
また、分離装置40から流出する除去ガスを、再度分離装置40に戻して処理することにより、除去ガスに残るメタンを回収するようにしてもよい。
本発明の精製ガスの製造システム及び精製ガスの製造方法は、本発明の効果を損なわない範囲で種々変更が可能である。
【0060】
また、除去ガス排出部60の除去ガス噴出ライン61には、除去ガス圧縮機62の上流側において、ハウジング70内又はハウジング70外に除去ガスを排出する排出ラインを設けてもよい。その場合、除去ガスタンク63の圧力が一定以上となった場合に、余剰の除去ガスを圧縮せずに排出することができる。
これにより、冷却に使用するために必要な量だけの除去ガスを圧縮できるので、圧縮のためのエネルギーを最小限に抑えることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 製造システム
10 前処理部
12 除湿用冷却器
13 脱硫器
20 圧縮部
22 第1バイオガス圧縮機
23 第1冷却器
25 第2バイオガス圧縮機
26 第2冷却器
40 分離装置
50 精製ガス排出部
60 除去ガス排出部
62 除去ガス圧縮機
63 除去ガスタンク
65 膨張弁
70 ハウジング
71 濃度計
80 精製ガスタンク
図1