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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-27
(45)【発行日】2025-04-04
(54)【発明の名称】エチレン重合体、及び繊維
(51)【国際特許分類】
   C08F 10/02 20060101AFI20250328BHJP
   D01F 6/04 20060101ALI20250328BHJP
【FI】
C08F10/02
D01F6/04 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021121277
(22)【出願日】2021-07-26
(65)【公開番号】P2023017195
(43)【公開日】2023-02-07
【審査請求日】2024-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】樽谷 淳禎
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-091896(JP,A)
【文献】特開2019-099614(JP,A)
【文献】特開2012-025817(JP,A)
【文献】特開平06-261662(JP,A)
【文献】特開平11-001734(JP,A)
【文献】特開2019-090136(JP,A)
【文献】国際公開第2019/022058(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 10/02
D01F 6/00- 6/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量分析における融解吸熱量ΔHが190J/g以上230J/g以下のエチレン重合体であり、
ステップスキャン式DSCの1stスキャン測定で得られるエチレン重合体の非可逆吸熱量(ΔH1)と、
エチレン重合体をステップスキャン装置内で155℃×30分アニール溶融した後、50℃に冷却し、再度、ステップスキャン式DSCの測定によって得られる非可逆吸熱量(ΔH2)との比が、
(ΔH2)/(ΔH1)=0.1以上0.6未満であり
下記<条件(1)>、<条件(2)>による成形品の、SEM-EDX分析によるSi、Al元素の合計含有量が、1.0質量%以上6.0質量%以下である、
加熱成形用のエチレン重合体。
<条件(1)>
3gのエチレン重合体を、プレス成形機により最高温度130℃、15MPaで10分間プレスする。
<条件(2)>
平均圧力11MPaを維持しながら10分間25℃で冷却する。
【請求項2】
粘度平均分子量が100万以上850万以下である、
請求項1に記載の加熱成形用のエチレン重合体。
【請求項3】
分子量分布(Mw/Mn)が3.0以上7.0以下である、
請求項1又は2に記載の加熱成形用のエチレン重合体。
【請求項4】
繊維用である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の加熱成形用のエチレン重合体。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の加熱成形用のエチレン重合体を含む繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン重合体、及び繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エチレン重合体は、フィルム、シート、微多孔膜、繊維、発泡体、パイプ等の多種多様な成形体の原料として用いられている。
特に、高分子量エチレン重合体は、鉛蓄電池及びリチウムイオン電池に代表される二次電池向けのセパレータ用微多孔膜、及び高強度繊維の原料として好適に用いられている。
高分子量エチレン重合体がこれらの用途に用いられている理由としては、延伸加工性に優れること、引張強度が高いこと、化学的安定性が高いこと等が挙げられる。
【0003】
特に、船舶係留用のロープに代表される、海洋の環境下のような厳しい環境下で、長期間高い負荷がかかる用途においては、超高分子量エチレン重合体を原料とする高強度繊維が有用である。
従来から、強度、耐クリープ性、耐摩耗性、耐候性等に関して改良した船舶係留用ロープが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、近年、高強度繊維に対し、特に耐クリープ性への要求が一層高まっているため、かかる耐クリープ性を高める方法として、従来から種々の方法が提案されている(例えば、特許文献2、3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2015-531330号公報
【文献】特表2016-524658号公報
【文献】特開2020-16007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来から、海洋上や海水中等、過酷な環境下での使用に鑑み、エチレン重合体の繊維には、強度と耐久性、具体的には、耐クリープ性、耐摩耗性、耐候性等の、各種の物性低下を抑制するための技術開発が行われている。
【0006】
しかしながら、近年、地球環境について多くの問題を抱えているとともに、様々な環境破壊による被害に直面しており、あらゆる製品について長期使用に耐えうる耐久性、機械的特性だけでなく、環境汚染、環境破壊を防止及び抑制することが要求されている。
例えば、海洋環境破壊という観点では、世界貿易に伴う船舶輸送において、ある海域で取り込んだバラスト水を生態系の全く異なる地域で排出することによりバラスト水内に存在する海洋植物の胞子やプランクトンが流れ出し、海洋の生態系を脅かすといった問題が発生している。
バラスト水の問題と同様に、物性を向上させたロープ等の成形品は、海洋上での使用期間が長寿命化し様々な地域で利用されているが、使用期間が長くなればなるほど成形品への海洋生物の付着も増加していき、海中の生態系破壊や、水産物を通した漁業への悪影響が懸念されている。
このような環境問題に鑑み、成形品への海生生物の付着(有機物(タンパク質)、バクテリア、藻類、貝類等)を抑制することができる防除性の高いエチレン重合体及びその成形加工品が望まれている。
【0007】
そこで、本発明においては、優れた強度を有するとともに、海水中の有機物(タンパク質)の付着や、海生生物の付着及び繁殖を抑制できる高い防汚性を有するエチレン重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述の従来技術の課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、アニール前後でのステップスキャンDSC非可逆吸熱量の変化率、及びプレス加工シートのSEM-EDX分析によるSi、Al元素の合計含有量を所定の数値範囲に特定したエチレン重合体が、上記の課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
〔1〕
示差走査熱量分析における融解吸熱量ΔHが190J/g以上230J/g以下のエチレン重合体であり、
ステップスキャン式DSCの1stスキャン測定で得られるエチレン重合体の非可逆吸熱量(ΔH1)と、
エチレン重合体をステップスキャン装置内で155℃×30分アニール溶融した後、50℃に冷却し、再度、ステップスキャン式DSCの測定によって得られる非可逆吸熱量(ΔH2)との比が、
(ΔH2)/(ΔH1)=0.1以上0.6未満であり
下記<条件(1)>、<条件(2)>による成形品の、SEM-EDX分析によるSi、Al元素の合計含有量が、1.0質量%以上6.0質量%以下である、
加熱成形用のエチレン重合体。
<条件(1)>
3gのエチレン重合体を、プレス成形機により最高温度130℃、15MPaで10分間プレスする。
<条件(2)>
平均圧力11MPaを維持しながら10分間25℃で冷却する。
〔2〕
粘度平均分子量が100万以上850万以下である、前記〔1〕に記載の加熱成形用のエチレン重合体。
〔3〕
分子量分布(Mw/Mn)が3.0以上7.0以下である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の加熱成形用のエチレン重合体。
〔4〕
繊維用である、前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の加熱成形用のエチレン重合体。
〔5〕
前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の加熱成形用のエチレン重合体を含む繊維。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた強度を有し、かつ、海水中の有機物(タンパク質)の付着や、海生生物の付着及び繁殖を抑制し得る優れた防汚性を有する、エチレン重合体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施することができる。
【0012】
〔エチレン重合体〕
本実施形態のエチレン重合体は、
ステップスキャン式DSCの1stスキャン測定で得られるエチレン重合体の非可逆吸熱量(ΔH1)と、
エチレン重合体をステップスキャン装置内で155℃×30minアニール溶融した後、50℃に冷却し、再度の、ステップスキャン式DSCの測定によって得られる非可逆吸熱量(ΔH2)との比が、(ΔH2)/(ΔH1)=0.1以上0.6未満であり
下記<条件(1)>、<条件(2)>による成形体の、SEM-EDX分析によるSi、Al元素の合計含有量が1.0質量%以上6.0質量%以下である。
<条件(1)>
3gのエチレン重合体を、プレス成形機により最高温度130℃、15MPaで10分間プレスする。
<条件(2)>
平均圧力11MPaを維持しながら10分間25℃で冷却する。
【0013】
本実施形態のエチレン重合体が、上記構成を有することにより、優れた強度を有するとともに、海水中の有機物(タンパク質)の付着や、海生生物の付着及び繁殖を抑制できる高い防汚性を有するものとなる。
【0014】
本実施形態のエチレン重合体としては、例えば、エチレン単独重合体、エチレンと他のコモノマーとの共重合体が挙げられる。
エチレン単独重合体とは、繰返し単位の99.5mol%以上がエチレンからなる重合体を意味する。エチレン重合体がエチレン単独重合体であることにより、高配向に延伸することができ、引張強度に優れた繊維を得ることができる傾向にある。
また、エチレン重合体が他のコモノマーとの共重合体であることにより、重合時の副反応を抑制し、重合速度を向上させ、得られる繊維のクリープ特性を改善することができる傾向にある。
【0015】
他のコモノマーとしては、以下のものに限定されないが、例えば、α-オレフィン、ビニル化合物が挙げられる。
α-オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、炭素数3~20のα-オレフィンが挙げられ、具体的には、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセンが挙げられる。
これらの中でも、膜及び繊維に代表される成形体の耐熱性、強度の観点から、プロピレン及び1-ブテンが好ましい。
コモノマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
本実施形態のエチレン重合体が、上記のようにエチレンと他のコモノマーとの共重合体である場合、当該共重合体中のエチレンのモル比率は、繊維の引張強度の観点から、50%以上99.5%未満が好ましく、80%以上99.2%未満がより好ましく、90%以上99%未満がさらに好ましい。
エチレン重合体が共重合体である場合の共重合体中の他のコモノマー量は、例えば、NMRで測定することができる。
【0017】
本実施形態のエチレン重合体は、酸化防止剤及び耐光安定剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0018】
酸化防止剤としては、以下のものに限定されないが、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ペンタエリスチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系化合物が挙げられる。
本実施形態のエチレン重合体中の酸化防止剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは5000質量ppm以下であり、より好ましくは4000質量ppm以下であり、さらに好ましくは3000質量ppm以下である。
【0019】
耐光安定剤としては、以下のものに限定されないが、例えば、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系耐光安定剤;ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジン)セバケート、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]等のヒンダードアミン系化合物が挙げられる。
本実施形態のエチレン重合体中の耐光安定剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは5000質量ppm以下であり、より好ましくは4000質量ppm以下、さらに好ましくは3000質量ppm以下である。
【0020】
エチレン重合体中の添加剤の含有量は、例えば、テトラヒドロフラン(THF)を用いたソックスレー抽出により6時間抽出し、抽出液を液体クロマトグラフィーにより分離、定量することにより求めることができる。
【0021】
(非可逆吸熱量)
本実施形態のエチレン重合体は、ステップスキャン式DSCの1stスキャン測定で得られるエチレン重合体の非可逆吸熱量ΔH1と、エチレン重合体をステップスキャン装置内で155℃×30minアニール溶融した後、50℃に冷却し、再度、ステップスキャン式DSCの測定によって得られる非可逆吸熱量ΔH2との比(ΔH2/ΔH1)が0.1以上0.6未満であり、好ましくは0.15以上0.5未満であり、より好ましく0.18以上0.4未満である。
【0022】
本実施形態のエチレン重合体の非可逆吸熱量は、温度変調型示差走査熱量計(温度変調型DSC)のステップスキャン変調方式により求められる吸熱量であり、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
DSC昇温測定中には結晶化と結晶融解は競争して起こるため、従来のDSC測定方法では微結晶の形成・成長と融解に由来する熱流が相殺されてしまい、微結晶の熱挙動を検討することは困難であった。一方、温度変調型DSCを利用した場合、結晶化等の非可逆成分と結晶融解やガラス転移等の可逆成分の熱流に分離することができ、微結晶の熱挙動を評価することができる。
【0023】
ステップスキャンで測定される非可逆吸熱量は、測定用のサンプル昇温中に結晶部の融解を経て、非晶部、結晶融解部の再配列、再結晶化する結晶量を定量する指標である。
また、この吸熱ピークはコンベンショナルのDSCで測定される融解熱ピーク温度より高温になり、高度に配向がかかった、結晶の厚みが成長する結晶成分である特徴がある。
ステップスキャン式DSCの1stスキャン測定で得られるエチレン重合体の非可逆吸熱量(ΔH1)と、一度融点以上に溶解してアモルファス状態を経由したのち冷却された2回目の非可逆吸熱量(ΔH2)との比(ΔH2/ΔH1)が、0.1以上0.6未満であることにより、本実施形態のエチレン重合体を用いた成形品表面の物理的な平滑性を向上させ、かつ、表面無機化合物の存在量を増加させ、これらにより海洋生物に対する防汚性を高める効果が得られる。
前記比(ΔH2/ΔH1)が1に近い高い値を示せば、アモルファス状態を経ても分子鎖の配置が劇的に変化しない一種の配置メモリー効果が強い構造体であると推測される。これはエチレン重合体の融解前の固体高次構造において他分子鎖との干渉が少なく、絡み合いが少ないことを意味している。
一方、前記比(ΔH2/ΔH1)が、0.1以上0.6未満である場合には、溶融前の分子鎖のスタッキング状態が、溶融によって一旦解除された場合、同じ配置を取り難い適度な絡み合いを有すること意味している。
【0024】
本実施形態のエチレン重合体が加熱成形された場合、徐冷工程における、成形体の固化、結晶化は、外層から内部中心に進行する。
このとき、エチレン重合体を構成する分子鎖の絡み合いが少なすぎると、単結晶に近い状態で単独分子鎖が独立して固化が進むと考えらえる。したがって結晶部が外側から形成されると同時に固化時に非晶部になる部分が寄せ集められて中心に濃縮される傾向にある。このため、上記非可逆吸熱量比(ΔH2/ΔH1)が0.6より大きいとエチレン重合体以外の含有物の表層存在率が低下する。
一方、エチレン重合体を構成する分子鎖の適度な絡み合いが存在すると、徐冷工程で同様に外部から固化が進行するが、内部との他分子鎖絡み合いの高次構造により外部固化のための分子運動が全体に連動し外部から中心への固化速度が遅延し、中心部への含有物濃縮も緩和される傾向にある。この結果、成形体表面に十分な無機化合物の存在量を維持することができ、成形体表面での海洋有機物との疎水性相互作用を抑制し、付着防除性を向上させることができる傾向にある。
【0025】
本実施形態のエチレン重合体の非可逆吸熱量(ΔH1、ΔH2)を、上記範囲内に制御する方法としては、例えば、エチレン重合体を重合する際に用いられる触媒の合成条件を調整する方法が挙げられる。
具体的には、ポリマー残渣として疎水性相互作用の強い、ケイ素含有成分の含有量を抑制した担体を用い、触媒組成調整のための触媒洗浄処理を実施すること、触媒活性点からのポリマー成長において隣接他分子ポリマー鎖が適度に相互作用して3次元ネットワークを形成するような均一な担持配置と触媒活性能を促進するような担持反応サイトを準備すること、等の方法が挙げられる。
【0026】
(成形体のSEM-EDX測定によるSi、Al元素の合計含有量)
本実施形態のエチレン重合体の、下記<条件(1)>、<条件(2)>の成形体の、SEM-EDX分析によるSi,Alの合計含有量は1.0質量%以上6.0質量%以下であり、好ましくは1.5質量%以上5.0質量%以下であり、より好ましくは、2.0質量%以上4.5質量%以下である。
<条件(1)>
3gのエチレン重合体を、プレス成形機により最高温度130℃、15MPaで10分間プレスする。
<条件(2)>
平均圧力11MPaを維持しながら10分間25℃で冷却する。
【0027】
本実施形態のエチレン重合体の成形体のSi、Al元素の合計含有量は、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0028】
本実施形態のエチレン重合体の成形体のSi、Al合計含有量が上記のように1.0質量%以上6.0質量%以下の範囲であることにより、疎水性相互作用を有する成形体の表層に、極性を有し疎水性相互作用を弱める無機化学物質を適度に分散させて存在させることができ、これにより、海生生物付着のきっかけとなる、海水中での疎水性相互作用による成形体表面と有機プランクトンや有機物の付着が抑制される。
一方、成形体のSi、Al元素の合計含有量が6.0質量%よりも多いと、成形体表層に無機物が均一分散ではなく、無機化合物の集積物として、異物として析出する可能性が高くなる。
これは成形体の欠陥となり、機械強度を脆弱化するとともに、成形体表面に物理的な凹凸や表面ムラを形成され、平滑性を損い、これにより、海洋中の有機物等が堆積、付着する起点になるため適切ではない。
【0029】
本実施形態のエチレン重合体において、成形体のSi、Alの合計含有量を、上記数値範囲に制御する方法としては、例えば、エチレン重合体を重合する際に用いられる触媒の合成条件を調整することが挙げられる。
具体的には、後述する触媒活性を高活性化しつつ、触媒に均一に分散するMAO(メチルアルモキサン)を液体助触媒ではなく担体に反応固定させること、または遠心分離法工程によって工程内を70℃以上に維持すること、等の方法が挙げられる。
【0030】
(粘度平均分子量(Mv))
本実施形態のエチレン重合体は、粘度平均分子量(Mv)が、好ましくは100万以上850万以下であり、より好ましくは200万以上700万以下であり、さらに好ましくは300万以上500万以下である。
本実施形態のエチレン重合体の粘度平均分子量(Mv)は、後述の実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0031】
本実施形態のエチレン重合体は、粘度平均分子量(Mv)が100万以上であることにより、引張強度等の機械強度に優れる成形体が得られる。
一方、粘度平均分子量(Mv)が850万より高分子であると、ポリマー鎖が長大になり、ポリマー鎖同士の絡み合いが多くなるため、成形加工性が損なわれる。例えば、固相延伸加工におけるエチレン重合体同士の界面圧着が不安定となり、圧縮加工時にエチレン重合体同士の界面が残存し、その後の成形工程の欠陥、あるいは表面荒れ等の原因となる傾向にある。表層形状の悪化は成形体表面への有機物、有機プランクトンの付着を促進すると考えられる。
よって、粘度平均分子量(Mv)が850万以下であることにより、優れた成形加工性が得られるとともに、表面の平滑性が良好なものとなり、表面への有機物、有機プランクトン等の付着を抑制でき、防汚性に優れたものとなる。
【0032】
エチレン重合体の粘度平均分子量(Mv)を上記範囲内に制御する方法としては、例えば、エチレンを重合する際の温度を調整する方法が挙げられる。
重合温度を高温にするほど粘度平均分子量は低くなる傾向にあり、重合温度を低温にするほど粘度平均分子量は高くなる傾向にある。
また、粘度平均分子量(Mv)を850万以下とするための他の方法としては、エチレンを重合する際に水素等の連鎖移動剤を添加する方法も挙げられる。連鎖移動剤を添加することにより、同一の重合温度でも、生成するエチレン重合体の粘度平均分子量が低くなる傾向にある。
また、米国特許第6258903号明細書に記載されているように、重合系に存在する水素を消費する金属錯体を添加すること等によって、粘度平均分子量を制御することができる。
上記の方法を組み合わせて、本実施形態のエチレン重合体の粘度平均分子量(Mv)を制御することが好ましい。
【0033】
(示差走査熱量分析における融解吸熱量ΔH)
本実施形態のエチレン重合体は、示差走査熱量分析における融解吸熱量(ΔH)が、好ましくは190J/g以上230J/g以下であり、より好ましくは195J/g以上225J/g以下であり、さらに好ましくは、200J/g以上220J/g以下である。
上記の融解吸熱量は、Perkin Elmer Pyris1 DSCで測定見積もられた値である。
【0034】
本実施形態のエチレン重合体は、後述するように固相延伸成形に適している。
固相延伸成形では、エチレン重合体を融点以下の温度で成形するため、エチレン重合体がもつ高次構造が成形性を支配する。すなわち、分子同士の絡み合いが低いことが成形性を支配する大きな因子であり、上記の分子鎖の絡み合いが低いエチレン重合体は、絡み合い構造が存在する非晶部が少なく結晶部位が多い、すなわち高融解熱量である。これにより高延伸倍率において絡み合い構造が少なく延伸が容易になる。また欠陥が少なくなるため、延伸のムラが抑制され、機械強度の均一性が向上し、良好な成形性と高い強度が実現するため当業者の常識では究極的には単結晶構造で得られるエチレン重合体が理想とされる。
しかし、エチレン重合体において、示差走査熱量分析における融解吸熱量ΔHが230J/gよりも大きくなることは、分子鎖の絡み合いが少なすぎ、非晶部位が少なすぎることを意味し、ポリマー触媒残渣物質の重合プロセス中での流出及びポリマー中での濃縮分離による偏在を発生させやすくなってしまう。これは防汚性を発現するために適切ではない。
よって、固相延伸成形における優れた成形性と防汚性の両立を実現する観点から、本実施形態のエチレン重合体は、示差走査熱量分析における融解吸熱量ΔHは、190J/g以上230J/g以下であることが好ましい。
【0035】
本実施形態において、融解吸熱量(ΔH)を上記範囲内に制御する方法としては、例えば、後述する触媒を調製する工程において、担体の表面積を増大させるような表面処理を実施して触媒活性点をある程度の間隔で担持する触媒を調製すること、重合温度や重合エチレン圧力により分子鎖成長速度と結晶化速度をコントロールすること、等の方法が挙げられる。
【0036】
(分子量分布Mw/Mn)
本実施形態のエチレン重合体は、分子量分布(Mw/Mn)が、好ましくは3.0以上7.0以下であり、より好ましくは3.5以上6.5以下であり、さらに好ましくは4.0以上6.0以下である。
分子量分布(Mw/Mn)が3.0以上であると、加熱プレス、圧延成形時に溶融流動性が良好なものとなり、成形加工性に優れ、外観性が良好なものとなる傾向にある。。
一方、分子量分布(Mw/Mn)が7.0以下であると、低分子量成分の割合が抑制され、実用上十分な強度が得られる傾向にある。
エチレン重合体の分子量分布(Mw/Mn)を上記数値範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、後述する担持型メタロセン触媒を使用し、単段重合を行うこと等が挙げられる。また、重合温度や連鎖移動剤の量を調整することによっても、エチレン重合体の分子量分布を上記数値範囲に制御することができる。
【0037】
本実施形態のエチレン重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」ともいう。)から求められる重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)に基づき算出され、具体的には、エチレン重合体のパウダーを溶解したオルトジクロロベンゼン溶液をGPCで測定し、市販の単分散ポリスチレンを用いて作成した検量線に基づいて求めることができる。
具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0038】
〔エチレン重合体の製造方法〕
本実施形態のエチレン重合体は、エチレン、又はエチレンとその他のモノマーを用い、これらを重合することにより製造できる。
重合方法としては、例えば、懸濁重合法又は気相重合法により、エチレン又はエチレンを含む単量体を(共)重合させる方法が挙げられる。
これらの中でも、重合熱を効率的に除熱できる観点から、懸濁重合法が好ましい。懸濁重合法は、媒体として不活性炭化水素媒体を用いることができ、また、単量体となるα-オレフィン自身を溶媒として用いてもよい。
【0039】
(触媒成分)
本実施形態のエチレン重合体の製造方法においては、触媒成分を用いることが好ましい。
触媒成分としては、例えば、メタロセン触媒、チーグラー・ナッタ触媒等を使用することができる。特に、低分子量成分を少なくし、分子量分布を適切に制御しやすいシングルサイト触媒としてメタロセン触媒が好適に使用される。
【0040】
メタロセン触媒は、例えば、一般的な遷移金属化合物が用いられる。
このようなメタロセン触媒は、担体成分(ア)に、有機アルミニウム化合物(イ)、環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物(ウ)、及び該環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物と反応して触媒活性を発現する錯体を形成可能な活性化剤(エ)を担持させることにより得ることができる。
【0041】
前記「環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物(ウ)」は、例えば、下記(式1)で表すことができる。
1 jk32 p3 q ・・・(式1)
前記(式1)において、L1は、各々独立して、シクロペンタジエニル基、インデニル基、テトラヒドロインデニル基、フルオレニル基、テトラヒドロフルオレニル基、及びオクタヒドロフルオレニル基からなる群より選ばれるη結合性環状アニオン配位子を表し、当該配位子は場合によっては1~8個の置換基を有し、当該置換基は各々独立して炭素数1~20の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素数1~12のハロゲン置換炭化水素基、炭素数1~12のアミノヒドロカルビル基、炭素数1~12のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1~12のジヒドロカルビルアミノ基、炭素数1~12のヒドロカルビルフォスフィノ基、シリル基、アミノシリル基、炭素数1~12のヒドロカルビルオキシシリル基、及びハロシリル基からなる群より選ばれる、20個までの非水素原子を有する置換基である。
前記(式1)において、M3は、形式酸化数が+2、+3、又は+4の周期表第4族に属する遷移金属群から選ばれる遷移金属であって、少なくとも1つの配位子L1にη5結合している遷移金属を表す。
前記(式1)において、Wは、50個までの非水素原子を有する2価の置換基であって、L1とM3とに各々1価ずつの価数で結合し、これによりL1及びM3と共働してメタロサイクルを形成する2価の置換基を表す。
2は、各々独立して、1価のアニオン性σ結合型配位子、M3と2価で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子、及びL1とM3とに各々1価ずつの価数で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子からなる群より選ばれる、60個までの非水素原子を有するアニオン性σ結合型配位子を表す。
前記(式1)において、X3は、各々独立して、40個までの非水素原子を有する中性ルイス塩基配位性化合物を表す。
3は、中性ルイス塩基配位性化合物を表す。
jは1又は2である。但し、jが2であるとき、場合によっては2つの配位子L1が、20個までの非水素原子を有する2価の基を介して互いに結合し、当該2価の基は、炭素数1~20のヒドロカルバジイル基、炭素数1~12のハロヒドロカルバジイル基、炭素数1~12のヒドロカルビレンオキシ基、炭素数1~12のヒドロカルビレンアミノ基、シランジイル基、ハロシランジイル基、及びシリレンアミノ基からなる群より選ばれる基である。
kは0又は1であり、pは0、1又は2である。但し、X2が1価のアニオン性σ結合型配位子、又はL1とM3とに結合している2価のアニオン性σ結合型配位子である場合、pはM3の形式酸化数より1以上小さい整数であり、またX2がM3にのみ結合している2価のアニオン性σ結合型配位子である場合、pはM3の形式酸化数より(j+1)以上小さい整数であり、qは0、1又は2である。
前記(式1)の化合物中の配位子X2としては、例えば、ハライド、炭素数1~60の炭化水素基、炭素数1~60のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1~60のヒドロカルビルアミド基、炭素数1~60のヒドロカルビルフォスフィド基、炭素数1~60のヒドロカルビルスルフィド基、シリル基、これらの複合基等が挙げられる。
前記(式1)の化合物中の中性ルイス塩基配位性化合物X3としては、例えば、フォスフィン、エーテル、アミン、炭素数2~40のオレフィン、炭素数1~40のジエン、これらの化合物から誘導される2価の基等が挙げられる。
前記「環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物(ウ)」としては、前記(式1)(ただし、j=1)で表される遷移金属化合物が好ましい。
【0042】
前記(式1)(ただし、j=1)で表される化合物の好ましい例としては、下記の(式2)で表される化合物が挙げられる。
【0043】
【化1】
【0044】
前記(式2)において、Mは、チタン、ジルコニウム、及びハフニウムからなる群より選ばれる遷移金属であって、形式酸化数が+2、+3又は+4である遷移金属を表す。
3は、各々独立して、水素原子、炭素数1~8の炭化水素基、シリル基、ゲルミル基、シアノ基、ハロゲン原子、及びこれらの複合基からなる群より選ばれる、20個までの非水素原子を有する置換基を表す。但し、当該置換基R3が炭素数1~8の炭化水素基、シリル基又はゲルミル基であるとき、場合によっては2つの隣接する置換基R3が互いに結合して2価の基を形成し、これにより該2つの隣接する当該置換基R3にそれぞれ結合するシクロペンタジエニル環の2つの炭素原子間の結合と共働して環を形成することができる。
前記(式2)において、X’’は、各々独立して、ハライド、炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~18のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1~18のヒドロカルビルアミノ基、シリル基、炭素数1~18のヒドロカルビルアミド基、炭素数1~18のヒドロカルビルフォスフィド基、炭素数1~18のヒドロカルビルスルフィド基及びこれらの複合基からなる群より選ばれる、20個までの非水素原子を有する置換基を表す。但し、場合によっては2つの置換基X’’が共働して炭素数4~30の中性共役ジエン又は2価の基を形成することができる。
【0045】
前記(式2)において、Yは、-O-、-S-、-NR*-又は-PR*-を表す。但し、R*は、水素原子、炭素数1~12の炭化水素基、炭素数1~8のヒドロカルビルオキシ基、シリル基、炭素数1~8のハロゲン化アルキル基、炭素数6~20のハロゲン化アリール基、又はこれらの複合基を表す。
前記(式2)において、Zは、SiR* 2、CR* 2、SiR* 2SiR* 2、CR* 2CR* 2、CR*=CR*、CR* 2SiR* 2又はGeR* 2を表す。但し、R*は上で定義した通りであり、nは1、2又は3である。
【0046】
本実施形態のエチレン重合体の製造方法において用いられる、メタロセン触媒を構成する「環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物(ウ)」としては、以下に示すような化合物が挙げられる。
ジルコニウム系化合物としては、特に限定されないが、例えば、ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ビス(n-ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ビス(インデニル)ジルコニウムジメチル、ビス(1,3-ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、(ペンタメチルシクロペンタジエニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ビス(フルオレニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(4,5,6,7-テトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(4-メチル-1-インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(5-メチル-1-インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(6-メチル-1-インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(7-メチル-1-インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(5-メトキシ-1-インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(2,3-ジメチル-1-インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(4,7-ジメチル-1-インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス-(4,7-ジメトキシ-1-インデニル)ジルコニウムジメチル、メチレンビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル-フルオレニル)ジルコニウムジメチル、シリレンビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル等が挙げられる。
【0047】
チタニウム系化合物としては、特に限定されないが、例えば、[(N-t-ブチルアミド)(テトラメチル-η5-シクロペンタジエニル)-1,2-エタンジイル]チタニウムジメチル、[(N-t-ブチルアミド)(テトラメチル-η5-シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N-メチルアミド)(テトラメチル-η5-シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N-フェニルアミド)(テトラメチル-η5-シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N-ベンジルアミド)(テトラメチル-η5-シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N-t-ブチルアミド)(η5-シクロペンタジエニル)-1,2-エタンジイル]チタニウムジメチル、[(N-t-ブチルアミド)(η5-シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N-メチルアミド)(η5-シクロペンタジエニル)-1,2-エタンジイル]チタニウムジメチル、[(N-メチルアミド)(η5-シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N-t-ブチルアミド)(η5-インデニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N-ベンジルアミド)(η5-インデニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル等が挙げられる。
【0048】
ニッケル系化合物としては、特に限定されないが、例えば、ジブロモビストリフェニルホスフィンニッケル、ジクロロビストリフェニルホスフィンニッケル、ジブロモジアセトニトリルニッケル、ジブロモジベンゾニトリルニッケル、ジブロモ(1,2-ビスジフェニルホスフィノエタン)ニッケル、ジブロモ(1,3-ビスジフェニルホスフィノプロパン)ニッケル、ジブロモ(1,1’-ジフェニルビスホスフィノフェロセン)ニッケル、ジメチルビスジフェニルホスフィンニッケル、ジメチル(1,2-ビスジフェニルホスフィノエタン)ニッケル、メチル(1,2-ビスジフェニルホスフィノエタン)ニッケルテトラフルオロボレート、(2-ジフェニルホスフィノ-1-フェニルエチレンオキシ)フェニルピリジンニッケル、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム、ジクロロジベンゾニトリルパラジウム、ジクロロジアセトニトリルパラジウム、ジクロロ(1,2-ビスジフェニルホスフィノエタン)パラジウム、ビストリフェニルホスフィンパラジウムビステトラフルオロボレート、ビス(2,2’-ビピリジン)メチル鉄テトラフルオロボレートエーテラート等が挙げられる。
【0049】
本実施形態のエチレン重合体の製造方法において用いられる、「環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物(ウ)」としては、さらに、上述した各ジルコニウム系化合物及びチタン系化合物の名称の「ジメチル」の部分(これは、各化合物の名称末尾の部分、すなわち「ジルコニウム」又は「チタニウム」という部分の直後に現れているものであり、前記(式2)中のX’’の部分に対応する名称である)を、「ジクロル」、「ジブロム」、「ジヨード」、「ジエチル」、「ジブチル」、「ジフェニル」、「ジベンジル」、「2-(N,N-ジメチルアミノ)ベンジル」、「2-ブテン-1,4-ジイル」、「s-トランス-η4-1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン」、「s-トランス-η4-3-メチル-1,3-ペンタジエン」、「s-トランス-η4-1,4-ジベンジル-1,3-ブタジエン」、「s-トランス-η4-2,4-ヘキサジエン」、「s-トランス-η4-1,3-ペンタジエン」、「s-トランス-η4-1,4-ジトリル-1,3-ブタジエン」、「s-トランス-η4-1,4-ビス(トリメチルシリル)-1,3-ブタジエン」、「s-シス-η4-1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン」、「s-シス-η4-3-メチル-1,3-ペンタジエン」、「s-シス-η4-1,4-ジベンジル-1,3-ブタジエン」、「s-シス-η4-2,4-ヘキサジエン」、「s-シス-η4-1,3-ペンタジエン」、「s-シス-η4-1,4-ジトリル-1,3-ブタジエン」、「s-シス-η4-1,4-ビス(トリメチルシリル)-1,3-ブタジエン」等の任意のものに替えてできる名称を持つ化合物も挙げられる。
【0050】
本実施形態のエチレン重合体の製造方法において用いられる、「環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物(ウ)」は、一般に公知の方法で合成できる。
本実施形態のエチレン重合体の製造方法において、これら遷移金属化合物(ウ)は1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
次に、本実施形態のエチレン重合体の製造方法において用いられる、「遷移金属化合物と反応して触媒活性を発現する錯体を形成可能な活性化剤(エ)」(以下、単に「活性化剤(エ)」ともいう。)について説明する。
【0052】
活性化剤(エ)としては、例えば、下記(式3)で定義される化合物が挙げられる。
[L2-H]d+[M5 mpd- ・・・(式3)
((式3)中、[L2-H]d+は、プロトン供与性のブレンステッド酸を表す。但し、L2は中性のルイス塩基を表し、dは1~7の整数であり;[M5 mpd-は両立性の非配位性アニオンを表す。M5は、周期表第5族~第15族のいずれかに属する金属又はメタロイドを表し、Qは、各々独立して、ヒドリド、ハライド、炭素数2~20のジヒドロカルビルアミド基、炭素数1~30のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1~30の炭化水素基、及び炭素数1~40の置換された炭化水素基からなる群より選ばれる。ハライドであるQの数は1以下であり、mは1~7の整数であり、pは2~14の整数であり、dは上で定義した通りであり、p-m=dである。)
【0053】
非配位性アニオンとしては、特に限定されないが、例えば、テトラキスフェニルボレート、トリ(p-トリル)(フェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(フェニル)ボレート、トリス(2,4-ジメチルフェニル)(ヒドフェニル)ボレート、トリス(3,5-ジメチルフェニル)(フェニル)ボレート、トリス(3,5-ジ-トリフルオリメチルフェニル)(フェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(シクロヘキシル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(ナフチル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニル(ヒドロキシフェニル)ボレート、ジフェニル-ジ(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリフェニル(2,4-ジヒドロキシフェニル)ボレート、トリ(p-トリル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(2,4-ジメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(3,5-ジメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(3,5-ジ-トリフルオリメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(2-ヒドロキシエチル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4-ヒドロキシブチル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4-ヒドロキシ-シクロヘキシル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4-(4’-ヒドロキシフェニル)フェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)ボレート等が挙げられる。
【0054】
他の好ましい非配位性アニオンとしては、上記例示のボレートのヒドロキシ基がNHR基で置き換えられたボレートが挙げられる。ここで、Rは、好ましくは、メチル基、エチル基又はtert-ブチル基である。
【0055】
また、プロトン付与性のブレンステッド酸としては、以下に限定されないが、例えば、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリ(n-ブチル)アンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム及びトリ(n-オクチル)アンモニウム等のトリアルキル基置換型アンモニウムカチオン;N,N-ジメチルアニリニウム、N,N-ジエチルアニリニウム、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウム、N,N-ジメチルベンジルアニリニウム等のN,N-ジアルキルアニリニウムカチオン;ジ-(i-プロピル)アンモニウム、ジシクロヘキシルアンモニウム等のジアルキルアンモニウムカチオン;トリフェニルフォスフォニウム、トリ(メチルフェニル)フォスフォニウム、トリ(ジメチルフェニル)フォスフォニウム等のトリアリールフォスフォニウムカチオン;又はジメチルスルフォニウム、ジエチルフルフォニウム、ジフェニルスルフォニウム等が挙げられる。
【0056】
本実施形態のエチレン重合体の製造方法においては、活性化剤(エ)を、1種単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0057】
本実施形態のエチレン重合体の製造方法において、触媒成分は、担体成分(ア)に担持して担持型触媒として用いることが好ましい。
このような担体成分としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン又はスチレンジビニルベンゼンのコポリマー等の多孔質高分子材料;シリカ、ジルコニア、チタニア、酸化硼素、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化バリウム、五酸化バナジウム、酸化クロム及び酸化トリウム等の周期律表第2、3、4、12、13及び14族元素の無機固体材料、及びそれらの混合物;並びにそれらの複酸化物から選ばれる少なくとも1種の無機固体材料が挙げられる。
より好ましい担体成分は、MgCl2を主成分とするマグネシウム化合物[A]よりなる無機固体材料である。
【0058】
具体的なマグネシウム化合物[A]としては、(式4)で表される不活性炭化水素溶媒に可溶である有機マグネシウム化合物(A-1)と、(式5)で表される塩素化剤(A-2)と、の反応により調製されたマグネシウム化合物(A-3)であることが好ましい。
【0059】
(A-1):(M2)γ(Mg)δ(R8e(R9f(OR10g・・・(式4)
((式4)中、M2は周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子であり、R8、R9及びR10はそれぞれ炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、γ、δ、e、f、及びgは次の関係を満たす実数である。
0≦γ、0<δ、0≦e、0≦f、0≦g、0<e+f、0≦g/(γ+δ)≦2、kγ+2δ=e+f+g(ここで、kはM2の原子価を表す。))
【0060】
(A-2):HhSiCli11 (4-(h+i)) ・・・(式5)
((式5)中、R11は炭素数1以上12以下の炭化水素基であり、hとiは次の関係を満たす実数である。0<h、0<i、0<h+i≦4)
【0061】
まず、(式4)で表される有機マグネシウム化合物(A-1)について説明する。
有機マグネシウム化合物(A-1)は、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウムの錯化合物の形として示されているが、ジヒドロカルビルマグネシウム化合物及びこの化合物と他の金属化合物との錯体のすべてを包含するものである。
(式4)の記号γ、δ、e、f、及びgの関係式:kγ+2δ=e+f+gは、金属原子の原子価と置換基との化学量論性を示している。
【0062】
前記(式4)中、R8、R9で表される炭化水素基は、特に限定されないが、例えば、それぞれアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基であり、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、プロピル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられる。
このなかでも、好ましくはR8及びR9は、それぞれアルキル基である。
【0063】
γ>0の場合、金属原子M2としては、周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子が使用でき、例えば、亜鉛、ホウ素、アルミニウム等が挙げられる。このなかでも、アルミニウム、亜鉛が好ましい。
【0064】
前記(式4)中、金属原子M2に対するマグネシウムの比δ/γは、特に限定されないが、0.1以上30以下であることが好ましく、0.5以上10以下であることがより好ましい。
また、γ=0である所定の有機マグネシウム化合物を用いる場合、例えば、R8が1-メチルプロピル等の場合には、不活性炭化水素溶媒に可溶であり、このような化合物も本実施形態のエチレン重合体の製造方法において好ましい。
【0065】
前記(式4)において、γ=0の場合のR8、R9は、下記に示す三つの群(1)、群(2)、群(3)のいずれか一つであることが好ましい。
【0066】
群(1):R8、R9の少なくとも一方が炭素数4以上6以下である2級又は3級のアルキル基であることが好ましく、より好ましくはR8、R9がともに炭素数4以上6以下であり、少なくとも一方が2級又は3級のアルキル基であること。
群(2):R8とR9とが炭素数の互いに相異なるアルキル基であることが好ましく、より好ましくはR8が炭素数2又は3のアルキル基であり、R9が炭素数4以上のアルキル基であること。
群(3):R8、R9の少なくとも一方が炭素数6以上の炭化水素基であることが好ましく、より好ましくはR8、R9に含まれる炭素数の和が12以上になるアルキル基であること。
【0067】
以下、これらの基を具体的に示す。
前記群(1)において、炭素数4以上6以下である2級又は3級のアルキル基としては、例えば、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、2-メチルブチル、2-エチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル、2-メチルペンチル、2-エチルブチル、2,2-ジメチルブチル、2-メチル-2-エチルプロピル基等が挙げられる。特に、1-メチルプロピル基が好ましい。
【0068】
また、前記群(2)において、炭素数2又は3のアルキル基としては、例えば、エチル、1-メチルエチル、プロピル基等が挙げられる。特に、エチル基が好ましい。
また、炭素数4以上のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等が挙げられる。特に、ブチル、ヘキシル基が好ましい。
【0069】
さらに、前記群(3)において、炭素数6以上の炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、2-ナフチル基等が挙げられる。炭化水素基の中ではアルキル基が好ましく、アルキル基の中でもヘキシル、オクチル基が好ましい。
【0070】
一般に、アルキル基に含まれる炭素原子数が増えると不活性炭化水素溶媒に溶けやすくなる傾向にあり、溶液の粘度が高くなる傾向にある。そのため、適度な長鎖のアルキル基を用いることが取り扱い上の観点から好ましい。なお、上記(式4)で表される(A-1)有機マグネシウム化合物は、不活性炭化水素溶液として使用されるが、当該溶液中に微量のエーテル、エステル、アミン等のルイス塩基性化合物が含有されていたり、又は残存していても、実用上、差し支えなく使用できる。
【0071】
次に、前記(式4)中、アルコキシ基(OR10)について説明する。
10で表される炭化水素基としては、炭素原子数1以上12以下のアルキル基又はアリール基が好ましく、3以上10以下のアルキル基又はアリール基がより好ましい。
10としては、特に限定されないが、例えば、メチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル、ブチル、1-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、2-メチルペンチル、2-エチルブチル、2-エチルペンチル、2-エチルヘキシル、2-エチル-4-メチルペンチル、2-プロピルヘプチル、2-エチル-5-メチルオクチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、ナフチル基等が挙げられる。特に、ブチル、1-メチルプロピル、2-メチルペンチル、及び2-エチルヘキシル基が好ましい。
【0072】
前記(式4)で表される有機マグネシウム化合物(A-1)の合成方法は特に限定されないが、例えば、式:R8MgX1及び式R8 2Mg(R8は、上述したとおりであり、X1はハロゲン原子である。)からなる群に属する有機マグネシウム化合物と、式:M29 k及び式:M29 (k-1)H(M2、R9及びkは上述したとおりである。)からなる群に属する有機金属化合物を、不活性炭化水素溶媒中で、25℃以上150℃以下の温度で反応させ、必要に応じ、続いてR9(R9は上述した通りである。)で表される炭化水素基を有するアルコール又は不活性炭化水素溶媒に可溶なR9で表される炭化水素基を有するアルコキシマグネシウム化合物、及び/又はアルコキシアルミニウム化合物と反応させる方法が好ましい。
【0073】
このうち、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物とアルコールとを反応させる場合、反応の順序については特に制限はなく、有機マグネシウム化合物中にアルコールを加えていく方法、アルコール中に有機マグネシウム化合物を加えていく方法、又は両者を同時に加えていく方法の、いずれの方法も用いることができる。
前記不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物とアルコールとの反応比率については特に限定されないが、反応の結果、得られるアルコキシ基含有有機マグネシウム化合物における、全金属原子に対するアルコキシ基のモル組成比=g/(γ+δ)は、0≦g/(γ+δ)≦2であり、0≦g/(γ+δ)<1であることが好ましい。
【0074】
次に、前記(式5)で表される塩素化剤(A-2)について説明する。
塩素化剤(A-2)は、前記(式5)で表される、少なくとも一つはSi-H結合を有する塩化珪素化合物である。
(A-2):HhSiCli11 (4-(h+i))・・・(式5)
((式5)中、R11は、炭素数1以上12以下の炭化水素基であり、hとiは次の関係を満たす実数である。0<h、0<i、0<h+i≦4)
【0075】
前記(式5)において、R11で表される炭化水素基は、特に限定されないが、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基であり、具体的には、メチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられる。
特に、炭素数1以上10以下のアルキル基が好ましく、メチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル基等の炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。また、h及びiはh+i≦4の関係を満たす0より大きな数であり、iが2以上3以下であることが好ましい。
【0076】
前記(式5)で表される塩化珪素化合物としては、特に限定されないが、例えば、HSiCl3、HSiCl2CH3、HSiCl225、HSiCl2(C37)、HSiCl2(2-C37)、HSiCl2(C49)、HSiCl2(C65)、HSiCl2(4-Cl-C64)、HSiCl2(CH=CH2)、HSiCl2(CH265)、HSiCl2(1-C107)、HSiCl2(CH2CH=CH2)、H2SiCl(CH3)、H2SiCl(C25)、HSiCl(CH32、HSiCl(C252、HSiCl(CH3)(2-C37)、HSiCl(CH3)(C65)、HSiCl(C652等が挙げられる。
これらの化合物は、1種のみを使用してもよく、2種類以上の混合物を使用してもよい。
特に、HSiCl3、HSiCl2CH3、HSiCl(CH32、HSiCl2(C37)が好ましく、HSiCl3、HSiCl2CH3がより好ましい。
【0077】
次に前記(式4)で表される有機マグネシウム化合物(A-1)と、前記(式5)で表される塩化珪素化合物(A-2)との反応について説明する。
反応に際しては、塩化珪素化合物(A-2)を、予め、不活性炭化水素溶媒、1,2-ジクロルエタン、o-ジクロルベンゼン、ジクロルメタン等の塩素化炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系媒体;又はこれらの混合媒体、を用いて希釈した後に利用することが好ましい。特に、触媒の性能上、不活性炭化水素溶媒がより好ましい。
有機マグネシウム化合物(A-1)と、塩化珪素化合物(A-2)との反応比率には特に限定されないが、有機マグネシウム化合物(A-1)に含まれるマグネシウム原子1molに対する、塩化珪素化合物(A-2)に含まれる珪素原子が0.01mol以上100mol以下であることが好ましく、0.1mol以上10mol以下であることがより好ましい。
【0078】
有機マグネシウム化合物(A-1)と、塩化珪素化合物(A-2)との反応方法については特に制限はなく、有機マグネシウム化合物(A-1)と塩化珪素化合物(A-2)とを同時に反応器に導入しつつ反応させる同時添加の方法、(A-2)を事前に反応器に仕込んだ後に(A-1)を反応器に導入させる方法、又は(A-1)を事前に反応器に仕込んだ後に(A-2)を反応器に導入させる方法のいずれの方法も使用することができる。
特に、(A-2)を事前に反応器に仕込んだ後に(A-1)を反応器に導入させる方法が好ましい。
上記反応により得られる担体(A-3)は、ろ過又はデカンテーション法により分離した後、不活性炭化水素溶媒を用いて充分に洗浄し、未反応物又は副生成物等を除去することが好ましい。
【0079】
有機マグネシウム化合物(A-1)と塩化珪素化合物(A-2)との反応温度については特に限定されないが、25℃以上150℃以下であることが好ましく、30℃以上120℃以下であることがより好ましく、40℃以上100℃以下であることがさらに好ましい。
有機マグネシウム化合物(A-1)と塩化珪素化合物(A-2)とを同時に反応器に導入しつつ反応させる同時添加の方法においては、あらかじめ反応器の温度を所定温度に調整し、同時添加を行いながら反応器内の温度を所定温度に調整することにより、反応温度を所望の温度に調整することが好ましい。
塩化珪素化合物(A-2)を事前に反応器に仕込んだ後に、有機マグネシウム化合物(A-1)を反応器に導入させる方法においては、当該塩化珪素化合物(A-2)を仕込んだ反応器の温度を所定温度に調整し、有機マグネシウム化合物(A-1)を反応器に導入しながら反応器内の温度を所定温度に調整することにより、反応温度を所望の温度に調整することが好ましい。
有機マグネシウム化合物(A-1)を事前に反応器に仕込んだ後に、塩化珪素化合物(A-2)を反応器に導入させる方法においては、有機マグネシウム化合物(A-1)を仕込んだ反応器の温度を所定温度に調整し、塩化珪素化合物(A-2)を反応器に導入しながら反応器内の温度を所定温度に調整することにより、反応温度を所望の温度に調整することが好ましい。
【0080】
本実施形態のエチレン重合体の製造方法で用いる触媒は、担体成分(ア)に、有機アルミニウム化合物(イ)、環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物(ウ)、及び該環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物と反応して触媒活性を発現する錯体を形成可能な活性化剤(エ)を担持させることにより得ることができる。
成分(イ)~成分(エ)を担持させる方法は、特に限定されないが、一般的には成分(イ)、成分(ウ)及び成分(エ)をそれぞれが溶解可能な不活性溶媒中に溶解させ、成分(ア)と混合した後、溶媒を留去する方法;成分(イ)、成分(ウ)及び成分(エ)を不活性溶媒に溶解後、固体が析出しない範囲でこれを濃縮して、次に濃縮液の全量を粒子内に保持できる量の成分(ア)を加える方法;成分(ア)に成分(イ)、及び成分(エ)をまず担持させ、ついで成分(ウ)を担持させる方法;成分(ア)に成分(イ)及び成分(エ)、及び成分(ウ)を逐次に担持する方法等が例示される。
特に、担体成分(ア)に成分(イ)を添加させ添加後にデカントする、これを数回繰り返して担体成分(ア)の表面を成分(イ)で洗浄表面処理したのち、成分(エ)、及び成分(ウ)を添加する方法が好ましい。
成分(イ)で担体成分(ア)を洗浄することにより、担体の比表面積を増加させさらに担体表面で静電斥力を与え担体粒子同士が凝集することを抑制することができる。疎水性相互作用を原因となるSi系成分を除去し防除性を向上するとともに、担体外表面積を増加させることで活性点間距離を適度に分散させ重合成長における適度な絡み合いを生成すると考えられる。
【0081】
成分(ウ)、及び成分(エ)は、一般的には液体又は固体である。成分(イ)、成分(ウ)、成分(エ)は、担持の際、不活性溶媒に希釈して使用してもよい。
この目的に使用する不活性溶媒としては、特に限定されないが、例えば、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。かかる不活性溶媒は、乾燥剤、吸着剤等を用いて、水、酸素、硫黄分等の不純物を除去して用いることが好ましい。
【0082】
本実施形態のエチレン重合体の製造方法で用いる触媒の製造工程において、成分(ア)1gに対し、成分(イ)はAl原子換算で1×10-5~1×10-1モルが好ましく、より好ましくは1×10-4~5×10-2モル、成分(ウ)は1×10-7~1×10-3モルが好ましく、より好ましくは5×10-7~5×10-4モル、成分(エ)は1×10-7~1×10-3モルが好ましく、より好ましくは5×10-7~5×10-4モルの範囲である。
各成分の使用量及び担持方法は、活性、経済性、パウダー特性、及び反応器内のスケール等により決定される。得られた担持型幾何拘束型メタロセン触媒は、担体に担持されていない有機アルミニウム化合物、ボレート化合物、チタン化合物を除去することを目的に、不活性溶媒を用いでデカンテーションあるいは濾過等の方法により洗浄することもできる。
上記一連の溶解、接触、洗浄等の操作は、その単位操作毎に選択される-30℃以上150℃以下範囲の温度で行うことが推奨される。そのような温度のより好ましい範囲は、0℃以上100℃以下である。担持型幾何拘束型メタロセン触媒を得る一連の操作は、乾燥した不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0083】
また、前記有機アルミニウム化合物(イ)としては、特に限定されないが、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム等、或いはこれらの有機アルミニウムとメチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール等のアルコール類との反応生成物、例えばジメチルメトキシアルミニウム、ジエチルエトキシアルミニウム、ジブチルブトキシアルミニウム等が挙げられる。
また、アルモキサン(alumoxanes)、アルキルアルミニウム、ハロゲン化アルキルアルミニウム、及びそれらの混合物からなる化合物も好ましく用いられる。
【0084】
アルモキサンは、全体式:(R52AlO(R5AlO)pAl(R52[式中、それぞれのR5は独立に、C1~20ヒドロカルビル基からなる群から選択され、pは0~50であり、好ましくは、R5はC1~4の基であり、pは5~30である]で表される。
メチルアルモキサン(又は「MAO」)(混合物の化合物中のR基のほとんどがメチルである)が、好ましいアルモキサンである。
アルモキサンは、容易に入手できる商品(一般には炭化水素溶媒に溶かした溶液)でもある。
【0085】
本実施形態のエチレン重合体の重合方法としては、例えば、懸濁重合法又は気相重合法が挙げられる。
これらの中でも、重合熱を効率的に除熱できる観点から、懸濁重合法が好ましい。
懸濁重合法は、媒体として不活性炭化水素媒体を用いることができ、また、単量体となるα-オレフィン自身を溶媒として用いてもよい。
【0086】
不活性炭化水素媒体としては、特に限定されないが、例えば、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エチレンクロライド、クロルベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;これらの混合物が挙げられる。
【0087】
重合温度は、特に限定されないが、例えば、20℃以上70℃以下であることが好ましく、より好ましくは25℃以上60℃以下であり、さらに好ましくは30℃以上50℃以下である。重合温度が20℃以上であることにより、工業的に効率的な製造が可能となる傾向にある。また、重合温度が70℃以下であることにより、連続的かつ成長速度を抑えた低絡み合いを抑えられた安定運転が可能となる傾向にある。
【0088】
重合圧力は、特に限定されないが、エチレン重合体の平均粒子径の観点から、0.1MPa以上2.0MPa以下であることが好ましく、より好ましくは0.1MPa以上1.5MPa以下であり、さらに好ましくは0.1MPa以上1.0MPa以下である。
【0089】
重合反応は、回分式、半連続式、及び連続式のいずれの方法においても重合することができるが、連続式で重合することが好ましい。
連続式で重合することにより、エチレンガス、溶媒、触媒等を連続的に重合系内に供給し、生成したエチレン(共)重合体と共に連続的に排出することで、急激なエチレンの反応による部分的な高温状態を抑制することが可能となり、重合系内がより安定化する傾向にある。
【0090】
重合系内に、連鎖移動剤としての水素を、適切な濃度で添加することにより、分子量を適切な範囲で制御できる傾向にある。
重合系内に水素を添加することにより、分子量制御の他に、触媒の連鎖移動を促進させ重合成長を抑制することができる傾向にある。これにより、急激なポリマー鎖の成長を抑え、いびつな粒子の生成を妨げることが可能となる傾向にある。
重合系内ガス相の水素モル分率は、系全体に対して、0mol%以上3.0mol%以下であることが好ましく、0.5mol%以上2.5mol%以下であることがより好ましく、1.0mol%以上2.0mol%以下であることがさらに好ましい。
【0091】
また、水素を予め触媒と接触させた後、触媒導入ラインから重合系内に添加することがより好ましい。
触媒を重合系内に導入した直後は、導入ライン出口付近の触媒濃度が高く、エチレンが急激に反応することによって、部分的な高温状態になる可能性が高まる。ここで、水素と触媒を重合系内に導入する前に接触させることで、触媒の初期活性を抑制することが可能となり、急激な重合によって高温状態となったエチレン重合体の生成を抑え分子鎖成長においても安定した反応成長が可能となり絡み合いも均一化する傾向にある。
【0092】
溶媒分離方法は、デカンテーション法、遠心分離法、フィルター濾過法等によって行えるが、エチレン重合体と溶媒との分離効率が良い遠心分離法がより好ましい。遠心分離機内不活性ガスの他、触媒失活として水蒸気を供給することもできる。遠心分離のプロセス内部温度は特に限定されないが、好ましくは65℃以上90℃以下、より好ましくは68℃以上85℃以下、さらに好ましくは70℃以上80℃以下である。エチレン重合体を合成するために使用した触媒の失活工程において、エチレン重合体に含まれる金属、無機成分は溶媒脱離と共にポリマー外部へ一緒に分離される。遠心分離工程において触媒を失活させつつ、残存物を外部へ流出を防ぐためには、溶媒をガス化させ分離することが有効である。残存溶媒に対して沸点以上の高温化で遠心分離することにより溶媒中に残存する低分子量成分を低減し、極性化合物はポリマー中に残存させる分離が効率的に達成できる傾向がある。
【0093】
触媒系の失活剤としては、特に限定されないが、例えば、酸素、水、アルコール類、グリコール類、フェノール類、一酸化炭素、二酸化炭素、エーテル類、カルボニル化合物、アルキン類が挙げられる。
【0094】
溶媒を分離した後の乾燥温度は、特に限定されないが、エチレン重合体の表面積を制御すること等の観点から、60℃以上150℃以下であることが好ましく、より好ましくは70℃以上140℃以下であり、さらに好ましくは80℃以上130℃以下である。乾燥温度が60℃以上であることにより、効率的な乾燥が可能となる傾向にある。また、乾燥温度が150℃以下であることにより、エチレン重合体の分解及び架橋を抑制した状態で乾燥することが可能となる傾向にあり、エチレン重合体の融点以上の周囲環境にさらされず、粒子が部分的に融解することが抑制される傾向にある。
【0095】
〔成形体〕
本実施形態のエチレン重合体を成形することにより成形体を得ることができる。成形体は、例えば、射出成形、押出成形、あるいはプレス成形等の方法により得ることができる、またポリエチレンのみでの溶融成形が困難になる分子量である場合も、溶剤等でゲル化させることで、一般的な各種の成形法により得ることができる。
【0096】
〔用途〕
本実施形態のエチレン重合体は、固相延伸加工で良好な加工性を有する。
本実施形態のエチレン重合体は、繊維の用途として好適である。例えば、ロープ、ネット、釣り糸、手袋、布地、防弾チョッキ、装甲車の防弾カバー、積層体、スポーツ用品、縫合糸等が挙げられる。
特に、海洋での使用が好ましく、環境汚染を抑制する機能性をもつことにより船舶係留ロープ、ヨットロープ、釣り糸、漁網として好適に利用できる。
【実施例
【0097】
以下、具体的な実施例及び比較例によって本実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明態は、以下の実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。
後述する実施例及び比較例における、各種の物性及び評価は、下記に示す方法により測定及び評価した。
【0098】
〔ステップスキャン測定による非可逆吸熱量〕
測定サンプルは、重合後23℃湿度60%の恒温恒湿に保った条件で保管したエチレン重合体粉末を使用した。
パーキンエルマー社製のDSC(DSC8500)を使用し、ステップスキャン測定モード(サンプル質量:8mg、サンプルパン材質:アルミ製、測定温度:50~200℃、昇温速度:10℃/min、昇温ステップ幅:1℃、等温時間:2min)により測定した。
空のアルミ製サンプルパンについても前記条件にて測定し、データ解析アプリケーションpyrisを用いて、温度-熱流曲線の補正を行った。補正後の温度-熱流曲線の、非可逆吸熱量を算出した。
ステップスキャン式DSCの1stスキャン測定で得られるエチレン重合体の非可逆吸熱量(ΔH1)と、エチレン重合体をステップスキャン装置内で155℃×30minアニール溶融した後、50℃に冷却し、再度、ステップスキャン式DSCの測定によって得られる非可逆吸熱量(ΔH2)を、それぞれ測定し、それらの比:(ΔH2)/(ΔH1)を算出した。
【0099】
〔プレス成形により得た成形体のSEM-EDX測定によるSi、Al元素の合計含有量〕
エチレン重合体をプレス成形した試験片を試料として、株式会社日立ハイテクノロジー製卓上電子顕微鏡TM3030、及びOXFORD INSTRUMENTS製エネルギー分散型X線分析装置(EDX)SwiftED3000を用いて、試験片のSi、Alの元素量を測定した。
3グラムのエチレン重合体を、厚み1.5mmの直径52mmの円形金型に充填し、プレス成形機により最高温度130℃、平均圧力15MPaで10分間プレスし、その後11MPaを維持しながら10分間25℃で冷却し、円形の成形体を得、これを試験片とした。
TM3030通常モード、加速電圧15kV、拡大率300倍で観察し、観察画面上が全面試験片になるよう位置を調整した。
前記観察条件で、Swift3000を用いて画像を取り込み、ポイント&ID観測モード(プロセスタイム高感度、収集時間30秒)の点モードで任意の点30点を観測し、Si,Al元素の合計含有量を算出した。
【0100】
〔粘度平均分子量(Mv)〕
エチレン重合体を試料として、エチレン重合体の粘度平均分子量(Mv)を、ISO1628-3(2010)に従って、以下に示す方法によって求めた。
まず、溶融管にエチレン重合体20mgを秤量し、溶融管を窒素置換した後、20mLのデカヒドロナフタレン(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールを1g/L加えたもの)を加え、150℃で2時間攪拌してエチレンパウダーを溶解させた。その溶液を135℃の恒温槽で、キャノン-フェンスケ型粘度計(柴田科学器械工業(株)製:製品番号-100)を用いて、標線間の落下時間(ts)を測定した。同様に、エチレン重合体量を10mg、5mg、2mgに変えたサンプルについても、上記同様に標線間の落下時間(ts)を測定した。また、ブランクとしてエチレン重合体を入れていない、デカヒドロナフタレンのみの落下時間(tb)を測定した。
下記式に従って求めた、エチレン重合体の還元粘度(ηsp/C)を、それぞれプロットして濃度(C)(単位:g/dL)とエチレン重合体の還元粘度(ηsp/C)との直線式を導き、濃度0に外挿した極限粘度([η])を求めた。
ηsp/C=(ts/tb-1)/0.1:(単位:dL/g)
次に、下記式に上記極限粘度[η]の値を用い、粘度平均分子量(Mv)を算出した。
Mv=(5.34×104)×[η]1.49
【0101】
〔Mw/Mn〕
エチレン重合体20mgに、o-ジクロロベンゼン15mLを導入して、150℃で1時間撹拌することで試料溶液を調製し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の測定を行った。
別途、市販の標準ポリスチレンのMwに係数0.43を乗じてポリエチレン換算分子量とし、溶出時間とポリエチレン換算分子量のプロットから1次校正直線を作成した。
GPCの測定結果及び上記検量線に基づいて、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
なお、測定に用いた装置及び条件は以下のとおりとした。
装置:Waters社製150-C ALC/GPC
検出器:RI検出器
移動相:o-ジクロロベンゼン(高速液体クロマトグラフ用)
流量:1.0mL/分
カラム:昭和電工(株)製AT-807Sを1本と東ソー(株)製TSK-gelGMH-H6を2本連結したものを用いた。
カラム温度:140℃
【0102】
〔示差走査熱量分析(DSC)による融解吸熱量(ΔH)〕
示差走査熱量計(DSC)としてPerkin Elmer Pyris1 DSCを用いて、エチレン重合体の融解吸熱量ΔHを測定した。
測定サンプルを電子天秤で8.3~8.5g秤量し、アルミニウム試料パン中に入れた。このパンにアルミニウムカバーを取り付け、示差走査熱量計中に設置した。流量20mL/分で窒素パージしながら、試料及び基準試料を、50℃で1分間保持した後、加熱速度10℃/分で50℃から180℃に加熱し、180℃で5分間保持した後、冷却速度10℃/分で50℃まで冷却した。
その際に得られる昇温DSC曲線のベースラインを補正し、解析ソフトPyris software(version7)でピーク面積を算出し、サンプル質量で割り返して測定融解熱量(ΔH)を導出した。
【0103】
〔評価方法〕
(固相延伸成形物の引張強度)
3グラムのエチレン重合体を、プレス成形機により最高温度126℃、平均圧力11MPaで10分間プレスした。その後、平均圧力11MPaを維持しながら10分間25℃で冷却し、プレスシートを得た。
得られたプレスシートを140℃で前加熱し、130℃、ロール送り出し速度1m/minのロール圧延機で延伸倍率6倍になるように圧延し、シートを得た。
圧延工程により得られたシートを切り出して、チャック間15mmとなるように引張試験機(インストロン・コーポレーション、INSTRON5564)にセットし、130℃、延伸速度30mm/minでロール圧延と同じ方向に2回の連続的な延伸工程を付し、プレスシートからの延伸倍率200倍の固相延伸成形物を得た。
全延伸倍率は、延伸前及び延伸後のフィルムの単位長さあたりの質量によって決定した。
引張強度(破断強さ)(単位:GPa)は、上記引張試験機を使用し、試験温度20℃、引張速度50mm/minの条件で延伸した際の破断点における応力と伸びから算出した。
【0104】
〔固相延伸成形物の厚みムラ〕
3グラムのエチレン重合体を、プレス成形機により最高温度126℃、平均圧力11MPaで10分間プレスした。その後、平均圧力11MPaを維持しながら10分間25℃で冷却し、プレスシートを得た。
得られたプレスシートを140℃で前加熱し、130℃、ロール送り出し速度1m/minのロール圧延機で延伸倍率6倍になるように圧延し、シートを得た。
圧延工程により得られたシートを切り出して、チャック間15mmとなるように引張試験機(インストロン・コーポレーション、INSTRON5564)にセットし、130℃、延伸速度50mm/minでロール圧延を実施し、プレスシートから延伸倍率36倍の固体延伸成形物を得た。
この成形体の試験片の中心20点の延伸方向の厚みを測定し、その厚みムラを下記の評価基準で評価した。
<評価基準>
厚み変動係数2%未満・・・◎
厚み変動係数2%以上5%以下・・・○
厚み変動係数5%超・・・×
【0105】
〔実海域浸漬による静置防汚性評価〕
エチレン重合体を、東洋精機製プレス成形機により、厚み4.0mmの金型で、加熱プレス条件を温度200℃、平均圧力5MPaで5分間、続けて15MPaで10分間プレスした。その後、平均圧力11MPaを維持しながら、10分間25℃で冷却プレスした。
100mm×40mmに打ち抜いた打ち抜きサンプルの表面を、ヘキサンで洗浄後、エタノールで滅菌処理した。
滅菌処理後のサンプルをステンレス製試料架台に結束ロックを用いて、波浪で動揺しないように固定して取り付けた。
サンプルを水面下1.5m、かつ南面になるように、旭化成株式会社水島製造所C地区水島港内(岡山県倉敷市)に設置した筏にナイロン製の網を用いて下垂した。
2019年2月から4ヶ月間、静置浸漬した。その後回収し、80℃で24時間乾燥させた。
乾燥後付着したスライム(ケイ藻被膜)の付着面積[%]を測定し、下記の基準で評価した。
<スライム付着面積の評価基準>
スライムの付着面積が0%以上3%未満・・・◎
スライムの付着面積が3%以上~8%未満・・・〇
スライムの付着面積が8%以上・・・×
【0106】
〔製造例1〕
(固体触媒成分[A])
(1)原料(a―1)の合成
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに1mol/LのMg6(C4912Al(C253のヘキサン溶液2,000mL(マグネシウムとアルミニウムで2000mmol相当)を仕込み、50℃で攪拌しながら、5.47mol/Lのn-ブタノールヘキサン溶液146mLを3時間かけて滴下し、終了後ラインを300mLのヘキサンで洗浄した。さらに、50℃で2時間かけて攪拌を継続した。反応終了後、常温まで冷却したものを原料(a-1)とした。原料(a-1)はマグネシウムの濃度で0.704mol/Lであった。
【0107】
(2)マグネシウム含有担体(A-1)の合成
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに1mol/Lのヒドロキシトリクロロシランのヘキサン溶液1,000mLを仕込み、65℃で原料(a-1)の有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液1340mL(マグネシウム943mmol相当)を5時間かけて滴下し、さらに60℃で1時間攪拌しながら反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を除去し、1,800mLのヘキサンで4回洗浄し、(A-1)担体を得た。この担体を分析した結果、固体1g当たりに含まれるマグネシウムは8.1ミリモルであった。
【0108】
(3)アルミ化合物による担体表面処理(A-3)
(A-1)担体の1.04g/Lヘキサンスラリー13mLと東ソー・ファインケム株式会社製MMAO-3A/hex(修飾メチルアルモキサン、含Al濃度5.7質量%ヘキサン溶液MMAO1.2mLを25℃において450rpmで1時間撹拌した。得られたスラリーを上澄みがきれいになるまでヘキサンで徹底的に洗浄して(A-3)担体を得た。
【0109】
(4)原料(a-2)の合成
[(N-t-ブチルアミド)(テトラメチル-η5-シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウム-1,3-ペンタジエン(以下、「チタニウム錯体」と記載する。)200mmolをアイソパーE[エクソンケミカル社(米国)製の炭化水素混合物の商品名]1250mLに溶解し、予め市販のブチルエチルマグネシウムの1mol/Lヘキサン溶液を40mL加え、さらにヘキサンを加えてチタニウム錯体濃度を80mmol/Lに調整し、原料(a-2)を得た。
【0110】
(5)原料(a-3)の合成
ビス(水素化タロウアルキル)メチルアンモニウム-トリス(ペンタフルオロフェニル)(4-ヒドロキシフェニル)ボレート(以下、「ボレート」と記載する。)5.7gをトルエン50mLに添加して溶解し、ボレートの100mmol/Lトルエン溶液を得た。このボレートのトルエン溶液にエトキシジエチルアルミニウムの1mol/Lヘキサン溶液5mLを室温で加え、さらにヘキサンを加えて溶液中のボレート濃度が88mmol/Lとなるようにした。その後、室温で1時間攪拌し、ボレートを含む反応混合物である原料(a-3)を得た。
【0111】
(6)固体触媒成分[A]の調製
(A-3)担体(Mg含有濃度8.0mmol/g)の1.04g/Lヘキサンスラリーを、25℃で攪拌しながら、上記(4)で得られたチタニウム錯体である原料(a-2)と、上記(5)で得られたボレートを含むこの反応混合物である原料(a-3)を、(a―2)のチタン元素と、(a―3)のホウ素元素が、担体含有Mg物質量に対してそれぞれ0.03倍になる分量を、同時に1時間で添加し、さらに同温度で1時間攪拌し、チタニウム錯体とボレートとを反応させた。反応終了後、上澄み液を除去し、ヘキサンで未反応の触媒原料を除去することにより、触媒活性種が担体上に形成されている固体触媒成分[A]を得た。
【0112】
〔製造例2〕
(固体触媒成分[B])
製造例1の(2)で合成した(A―2)担体20gを含有するヘキサンスラリー383mlに60℃で攪拌しながら1.18mol/Lのジエチルアルミニウムクロリドヘキサン溶液84mLを1時間かけて添加した。添加後、65℃で1時間反応を継続した。反応終了後、上澄み液200mLを除去し、ヘキサン200mLで4回洗浄した。その後製造例1の(3)~(6)と同様の条件により固体触媒成分[B]を得た。
【0113】
〔製造例3〕
(固体触媒成分[C])
平均粒子径が10μm、表面積が800m2/g、粒子内細孔容積が1.9mL/gの球状シリカを、窒素雰囲気下、600℃で10時間焼成し、炭化物気化及び脱水した。脱水シリカの表面水酸基の量は、SiO21gあたり1.4mmol/gであった。窒素雰囲気下、容量1.8Lのオートクレーブ内で、この脱水シリカ40gをヘキサン800mL中に分散させ、スラリーを得た。得られたスラリーを攪拌下50℃に保ちながらトリエチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1mol/L)を80mL加え、その後2時間攪拌し、トリエチルアルミニウムとシリカの表面水酸基とを反応させ、トリエチルアルミニウム処理されたシリカと上澄み液とを含み、該トリエチルアルミニウム処理されたシリカの表面水酸基がトリエチルアルミニウムによりキャッピングされている成分[c-1]を得た。その後、得られた反応混合物中の上澄み液をデカンテーションによって除去することにより、上澄み液中の未反応のトリエチルアルミニウムを除去した。その後、ヘキサンを適量加え、トリエチルアルミニウム処理されたシリカのヘキサンスラリー880mLを得た。
【0114】
一方、[(N-t-ブチルアミド)(テトラメチル-η5-シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウム-1,3-ペンタジエン(以下、「チタニウム錯体」と記載する。)200mmolをアイソパーE[エクソンケミカル社(米国)製の炭化水素混合物の商品名]1000mLに溶解し、予めトリエチルアルミニウムとジブチルマグネシウムより合成した組成式AlMg6(C253(n-C4914の1mol/Lヘキサン溶液を20mL加え、さらにヘキサンを加えてチタニウム錯体濃度を0.1mol/Lに調製し、成分[c-2]を得た。
【0115】
また、ビス(水素化タロウアルキル)メチルアンモニウム-トリス(ペンタフルオロフェニル)(4-ヒドロキシフェニル)ボレート(以下、「ボレート」と記載する。)5.7gをトルエン50mLに添加して溶解し、ボレートの100mmol/Lトルエン溶液を得た。このボレートのトルエン溶液にエトキシジエチルアルミニウムの1mol/Lヘキサン溶液5mLを室温で加え、さらにヘキサンを加えて溶液中のボレート濃度が70mmol/Lとなるようにした。その後、室温で1時間攪拌し、ボレートを含む反応混合物[c-3]を得た。
【0116】
ボレートを含むこの反応混合物[c-3]46mLを、上記で得られた成分[c-1]のスラリー880mLに15~20℃で攪拌しながら加え、ボレートをシリカに担持した。その後、得られた反応混合物中の上澄み液をトルエンで1回、ヘキサンで3回デカンテーションによって除去することにより、過剰なボレートを除去した。
【0117】
得られたボレートを担持したシリカのスラリーに上記で得られた成分[c-2]のうち32mLを加え、3時間攪拌し、チタニウム錯体とボレートとを反応させた。その後、得られた反応混合物中の上澄み液をデカンテーションによって除去することにより、触媒活性種が該シリカ上に形成されている担持型メタロセン触媒[C]を得た。
【0118】
〔製造例4〕
(固体触媒成分[D])
窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブにヘキサン1,600mLを添加した。10℃で攪拌しながら1mol/Lの四塩化チタンヘキサン溶液800mLと1mol/Lの組成式AlMg6(C4912(OSiBu2Et)5で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液800mLとを4時間かけて同時に添加した。添加後、ゆっくりと昇温し、10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を1,600mL除去し、ヘキサン1,600mLで10回洗浄することにより、固体触媒成分[D]を調製した。この固体触媒成分1g中に含まれるチタン量は3.11mmolであった。
【0119】
〔実施例1〕
ヘキサン、エチレン、触媒を、攪拌装置が付いたベッセル型300L重合反応器に連続的に供給した。
重合温度はジャケット冷却により30℃に保った。
ヘキサンは80L/Hrで重合器の底部より供給した。
固体触媒成分[A]と、助触媒としてトリイソブチルアルミニウムとを使用した。固体触媒成分[A]は重合器の液面と底部の中間から2つの導入ライン、ライン1、ライン2を用いて添加した。円形である反応器断面に対して導入ラインの位置はそれぞれ断面半径に対して、ライン1は中心から断面半径の0.3倍、ライン2は中心から断面半径の0.8倍の同心円上に位置し、ライン1からは0.1g/Hrの速度で、ライン2からは0.2g/Hrの速度で添加し、トリイソブチルアルミニウムは10mmol/Hrの速度で重合器の液面と底部から固体触媒成分[A]とは別の導入ラインにより添加した。
エチレンは重合器の底部より供給して重合圧力を0.5MPaに保った。エチレン重合体の製造速度は10kg/Hrであった。
重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に圧力0.05MPa、温度65℃のフラッシュドラムに抜き、未反応のエチレンを分離した。
重合スラリーは、フラッシュドラムのレベルが一定に保たれるように連続的に遠心分離機に送り、ポリマーとそれ以外の溶媒等を分離した。遠心分離機内は温度75℃の運転条件を保った。分離されたエチレン重合体は、85℃、4時間で窒素ブローしながら乾燥してエチレン重合体PE1を得た。
【0120】
実施例1で得られたエチレン重合体PE1については、上述した測定方法に従い、
(物性1)ステップスキャン測定による、非可逆吸熱量の比
(物性2)プレス成形により得た成形体のSEM-EDX分析によるSi,Al元素の合計含有量
(物性3)粘度平均分子量(Mv)
(物性4)Mw/Mn
(物性5)示差走査熱量分析(DSC)による融解吸熱量(ΔH)
の各種物性の測定を行った。
また、(評価1)固相延伸成形物の引張強度、(評価2)固相延伸成形物の厚みムラ、(評価3)実海域浸漬による静置防汚性評価の各種評価を行った。
その結果を表1に示す。
【0121】
〔実施例2〕
触媒として、固体触媒成分[B]を用いこと以外は、実施例1と同様の操作により、エチレン重合体PE2を得た。
PE2の各物性及び評価の結果を表1に示す。
【0122】
〔実施例3〕
触媒として、固体触媒成分[A]を用いて、重合温度を55℃に設定したこと以外は、実施例1と同様の操作により、エチレン重合体PE3を得た。
PE3の各物性及び評価の結果を表1に示す。
【0123】
〔実施例4〕
触媒として、固体触媒成分[A]を用いて、遠心分離温度を88℃にしたこと以外は、実施例1と同様の操作により、エチレン重合体PE4を得た。
PE4の各物性及び評価の結果を表1に示す。
【0124】
〔比較例1〕
触媒として、固体触媒成分[A]を用いて、重合工程において固体触媒成分[A]を0.22g/時間の速度で重合器の液面と底部の中間からライン1の1箇所から添加して重合したこと以外は、実施例1と同様の操作により、エチレン重合体PE5を得た。
PE5の各物性及び評価の結果を表1に示す。
【0125】
〔比較例2〕
重合温度を75℃、遠心分離温度を55℃とした以外は、実施例1と同様の操作により、エチレン重合体PE6を得た。
PE6の各物性及び評価の結果を表1に示す。
【0126】
〔比較例3〕
触媒として、固体触媒成分[D]を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作により、エチレン重合体PE7を得た。
PE7の各物性及び評価の結果を表1に示す。
【0127】
〔比較例4〕
重合工程において助触媒トリイソブチルアルミニウムの代替として東ソー・ファインケム株式会社製MMAO-3A/hex(修飾メチルアルモキサン、含Al濃度5.7質量%ヘキサン溶液MMAOを固体触媒成分[C]の200当量になるように添加したこと以外は、実施例1と同様の操作により、エチレン重合体PE8を得た。
PE8の各物性及び評価の結果を表1に示す。
【0128】
〔比較例5〕
触媒として、固体触媒成分[C]を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作により、比較例5のエチレン重合体PE9を得た。
エチレン重合体PE9の各物性及び評価の結果を表1に示す。
【0129】
〔比較例6〕
触媒として、固体触媒成分[C]を用いて、重合工程において固体触媒成分[C]を0.22g/時間の速度で重合器の液面と底部の中間からライン1の1箇所から添加し、重合温度を75℃、遠心分離温度を50℃で実施したこと以外は、実施例1と同様の操作により、エチレン重合体PE10を得た。
PE10の各物性及び評価の結果を表1に示す。
【0130】
【表1】
【0131】
上記結果から、実施例1~4のエチレン重合体は、優れた強度を有し、かつ実海域浸漬による静置防汚性において高い評価が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明のエチレン重合体は、高強度が必要とされる繊維の原料や、均一な肉薄の微多孔膜構造が要求される電池セパレータの原料として好適に用いることができる。本発明のエチレン重合体から得られる繊維は、各種スポーツ衣料、防弾・防護衣料・防護手袋、各種安全用品等の高性能テキスタイル;タグロープ・係留ロープ、ヨットロープ、建築用ロープ等の各種ロープ製品;釣り糸、ブラインドケーブル等の各種組み紐製品;漁網・防球ネット等の網製品;化学フィルター、電池セパレータ等の補強材;各種不織布、テント等の幕材;ヘルメット、スキー板等のスポーツ用、スピーカーコーン用、プリプレグ等、産業上広範囲に応用可能であり、それら成形加工品に対して高い防汚性に由来する従来以上の長期外観の保持、樹脂劣化を抑制した長期物性安定性を提供できる。