(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-27
(45)【発行日】2025-04-04
(54)【発明の名称】衛星通信システム、中継器制御局、衛星中継器および送信電力決定方法
(51)【国際特許分類】
H04B 7/0426 20170101AFI20250328BHJP
H04B 7/185 20060101ALI20250328BHJP
H04B 1/04 20060101ALI20250328BHJP
【FI】
H04B7/0426 100
H04B7/185
H04B1/04 Z
H04B7/0426 200
(21)【出願番号】P 2022012104
(22)【出願日】2022-01-28
【審査請求日】2024-04-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、総務省「多様なユースケースに対応するためのKa帯衛星の制御に関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】草野 正明
(72)【発明者】
【氏名】田中 泰
(72)【発明者】
【氏名】内田 繁
(72)【発明者】
【氏名】角田 聡泰
(72)【発明者】
【氏名】堀江 延佳
【審査官】阿部 弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/158040(WO,A1)
【文献】特開2012-120063(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035828(WO,A1)
【文献】特開平08-037482(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03920428(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/0426
H04B 7/185
H04B 1/04
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4,6
CT WG1,4
IEEE 802.11
15
16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送信素子と、複数の前記送信素子の各々へ供給される送信電力を増幅する電力増幅器と、を有し、複数の前記送信素子の各々から送信信号を出力することによって複数の送信ビームを形成する衛星中継器と、
前記衛星中継器を制御する中継器制御局と、を備え、
前記中継器制御局は、前記電力増幅器への入力電力に対する前記電力増幅器の出力電力の線形性が保たれる場合における前記出力電力であるターゲット電力に対する、複数の前記送信素子の各々へ割り当てられる前記送信電力の割合である送信電力割当率を求め、前記複数の送信素子の各々について求めた前記送信電力割当率の最大値に基づいて送信電力調整係数を算出する電力調整係数算出部を有し、
前記衛星中継器は、複数の前記送信素子の各々の前記送信電力を前記送信電力調整係数に基づいて調整する送信電力調整部を有することを特徴とする衛星通信システム。
【請求項2】
前記衛星中継器は、デジタルビームフォーミング処理が施された前記送信信号を複数の前記送信素子の各々から出力することによって複数の前記送信ビームを形成し、
前記電力調整係数算出部は、前記デジタルビームフォーミング処理に用いられる励振係数と前記複数の送信ビームの各々に割り当てられる周波数帯域幅とに基づいて、前記送信電力割当率を求めることを特徴とする請求項1に記載の衛星通信システム。
【請求項3】
前記電力調整係数算出部は、共通の前記送信素子を用いて形成される前記送信ビーム同士について、共通の前記送信ビームの形成に寄与する送信素子同士をグループ化することによって、複数の前記送信素子を2以上の送信素子群に分け、前記送信素子群ごとにおける前記送信電力割当率の前記最大値に基づいて前記送信素子群ごとの前記送信電力調整係数を算出し、
前記送信電力調整部は、前記送信素子群ごとに算出された前記送信電力調整係数に基づいて前記送信電力を調整することを特徴とする請求項1または2に記載の衛星通信システム。
【請求項4】
複数の送信素子と、複数の前記送信素子の各々へ供給される送信電力を増幅する電力増幅器と、を有し、複数の前記送信素子の各々から送信信号を出力することによって複数の送信ビームを形成する衛星中継器を備え、
前記衛星中継器は、
前記電力増幅器への入力電力に対する前記電力増幅器の出力電力の線形性が保たれる場合における前記出力電力であるターゲット電力に対する、複数の前記送信素子の各々が使用した電力の割合である電力利用率を求め、前記複数の送信素子の各々について求めた前記電力利用率の最大値に基づいて送信電力調整係数を算出する電力調整係数算出部と、
複数の前記送信素子の各々の前記送信電力を前記送信電力調整係数に基づいて調整する送信電力調整部と、を有することを特徴とする衛星通信システム。
【請求項5】
前記電力調整係数算出部は、共通の前記送信素子を用いて形成される前記送信ビーム同士について、共通の前記送信ビームの形成に寄与する送信素子同士をグループ化することによって、複数の前記送信素子を2以上の送信素子群に分け、前記送信素子群ごとにおける前記電力利用率の前記最大値に基づいて前記送信素子群ごとの前記送信電力調整係数を算出し、
前記送信電力調整部は、前記送信素子群ごとに算出された前記送信電力調整係数に基づいて前記送信電力を調整することを特徴とする請求項4に記載の衛星通信システム。
【請求項6】
前記送信電力調整部は、前記送信電力調整係数に基づいて前記送信ビームごとに前記送信電力を調整することによって複数の前記送信素子の各々の前記送信電力を調整し、かつ、複数の前記送信ビームの一部については前記送信電力を調整する対象から除外し、
前記電力調整係数算出部は、調整の対象から除外される前記送信ビームの形成に寄与する電力分を計算から除外して前記送信電力調整係数を算出することを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の衛星通信システム。
【請求項7】
前記衛星中継器は、複数の前記送信ビームのパターンであるビームパターンを、複数の前記ビームパターンから時分割で切り替えて複数の前記送信ビームを形成し、
前記電力調整係数算出部は、複数の前記ビームパターンの各々に対応する前記送信電力調整係数を算出し、
前記送信電力調整部は、前記ビームパターンの切り替えに合わせて前記送信電力調整係数を切り替えて前記送信電力を調整することを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の衛星通信システム。
【請求項8】
複数の送信素子と、複数の前記送信素子の各々へ供給される送信電力を増幅する電力増幅器と、を有する衛星中継器に、複数の前記送信素子の各々から送信信号を出力することによって複数の送信ビームを形成させるための制御を行う中継器制御局であって、
複数の前記送信素子の各々の前記送信電力を前記衛星中継器において調整するための送信電力調整係数を算出する電力調整係数算出部を有し、
前記電力調整係数算出部は、前記電力増幅器への入力電力に対する前記電力増幅器の出力電力の線形性が保たれる場合における前記出力電力であるターゲット電力に対する、複数の前記送信素子の各々へ割り当てられる前記送信電力の割合である送信電力割当率を求め、複数の前記送信素子の各々について求めた前記送信電力割当率の最大値に基づいて前記送信電力調整係数を算出することを特徴とする中継器制御局。
【請求項9】
複数の送信ビームを形成するための送信信号を各々が出力する複数の送信素子と、
複数の前記送信素子の各々へ供給される送信電力を増幅する電力増幅器と、
前記電力増幅器への入力電力に対する前記電力増幅器の出力電力の線形性が保たれる場合における前記出力電力であるターゲット電力に対する、複数の前記送信素子の各々が使用した電力の割合である電力利用率を求め、複数の前記送信素子の各々について求めた前記電力利用率の最大値に基づいて送信電力調整係数を算出する電力調整係数算出部と、
複数の前記送信素子の各々の前記送信電力を前記送信電力調整係数に基づいて調整する送信電力調整部と、を備えることを特徴とする衛星中継器。
【請求項10】
複数の送信素子と、複数の前記送信素子の各々へ供給される送信電力を増幅する電力増幅器と、を有し、複数の前記送信素子の各々から送信信号を出力することによって複数の送信ビームを形成する衛星中継器と、前記衛星中継器を制御する中継器制御局とを備える衛星通信システムにおいて、複数の前記送信素子の各々の前記送信電力を決定する送信電力決定方法であって、
前記電力増幅器への入力電力に対する前記電力増幅器の出力電力の線形性が保たれる場合における前記出力電力であるターゲット電力に対する、複数の前記送信素子の各々へ割り当てられる前記送信電力の割合である送信電力割当率を求めるステップと、
複数の前記送信素子の各々について求めた前記送信電力割当率の最大値に基づいて送信電力調整係数を算出するステップと、
複数の前記送信素子の各々の前記送信電力を前記送信電力調整係数に基づいて調整するステップと、を含むことを特徴とする送信電力決定方法。
【請求項11】
複数の送信素子と、複数の前記送信素子の各々へ供給される送信電力を増幅する電力増幅器と、を有し、複数の前記送信素子の各々から送信信号を出力することによって複数の送信ビームを形成する衛星中継器を備える衛星通信システムにおいて、複数の前記送信素子の各々の前記送信電力を決定する送信電力決定方法であって、
前記電力増幅器への入力電力に対する前記電力増幅器の出力電力の線形性が保たれる場合における前記出力電力であるターゲット電力に対する、複数の前記送信素子の各々が使用した電力の割合である電力利用率を求めるステップと、
複数の前記送信素子の各々について求めた前記電力利用率の最大値に基づいて送信電力調整係数を算出するステップと、
複数の前記送信素子の各々の前記送信電力を前記送信電力調整係数に基づいて調整するステップと、を含むことを特徴とする送信電力決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、衛星中継器を介した通信を行う衛星通信システム、中継器制御局、衛星中継器および送信電力決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星通信システムは、衛星中継器を介した地上局間の通信トラフィックの変動に柔軟に適応可能であることが求められている。従来の衛星通信システムでは、特許文献1に開示されるように、通信トラフィックの増加に伴う送信電力の増加に耐え得る高出力電力増幅器を衛星中継器に配置して、衛星中継器によって形成される複数の送信ビームの各々に対する電力配分が行われている。以下、高出力電力増幅器を、電力増幅器と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の衛星通信システムでは、近年のハイスループット衛星に要求される周波数フレキシビリティまたはエリアフレキシビリティといった機能、すなわち、ビームの周波数帯域幅を変更する機能、または、デジタルビームフォーミング(DBF:Digital Beam Forming)のようにビームの照射方向、ビームのカバーエリア、あるいはビームの利得を動的に変更する機能を使って、運用要求ごとに変わる衛星中継器の送信電力の配分を最適化することは困難であった。例えば、衛星中継器では、複数の受信ビームで受信した信号を1つの送信ビームで送信するケース等のように、想定される最大の受信電力の信号を中継して電力増幅器で電力を増幅する場合でも電力増幅器が飽和しないように中継器の利得が決定される。かかる衛星中継器が使用されると、運用要求として利用されるビームの数が少ない場合、または、実際の通信トラフィックが少ない場合等には、電力増幅器の性能が十分に活用されないこととなる。従来の技術によると、電力増幅器の性能が十分に活用されず、衛星中継器における電力リソースの利用効率が低くなるという問題があった。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、衛星中継器における電力リソースの利用効率を向上可能とする衛星通信システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示にかかる衛星通信システムは、複数の送信素子と、複数の送信素子の各々へ供給される送信電力を増幅する電力増幅器と、を有し、複数の送信素子の各々から送信信号を出力することによって複数の送信ビームを形成する衛星中継器と、衛星中継器を制御する中継器制御局と、を備える。中継器制御局は、電力増幅器への入力電力に対する電力増幅器の出力電力の線形性が保たれる場合における出力電力であるターゲット電力に対する、複数の送信素子の各々へ割り当てられる送信電力の割合である送信電力割当率を求め、複数の送信素子の各々について求めた送信電力割当率の最大値に基づいて送信電力調整係数を算出する電力調整係数算出部を有する。衛星中継器は、複数の送信素子の各々の送信電力を送信電力調整係数に基づいて調整する送信電力調整部を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示にかかる衛星通信システムは、衛星中継器における電力リソースの利用効率を向上できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1にかかる衛星通信システムによるビーム照射についての説明図
【
図2】実施の形態1にかかる衛星通信システムの構成例を示す図
【
図3】実施の形態1にかかる衛星通信システムが有する衛星中継器の構成例を示す図
【
図4】
図3に示す衛星中継器が有するDCH/DBFの構成例を示す図
【
図5】
図4に示すDCH/DBFが有する送信DBF部の構成例を示す図
【
図6】実施の形態1における送信電力調整係数の決定に関わる、励振係数による電力寄与率についての説明図
【
図7】実施の形態1における送信電力調整係数の決定に関わる、送信ビームの帯域割当率についての説明図
【
図8】実施の形態1における送信電力調整係数の決定に関わる送信電力割当率についての説明図
【
図9】実施の形態1における、送信ビームおよび送信素子の対応関係と各送信素子の送信電力割当率との例を示す図
【
図10】実施の形態1にかかる衛星通信システムが有する中継器制御局の構成例を示す図
【
図11】実施の形態1にかかる衛星通信システムの処理手順を示すフローチャート
【
図12】実施の形態1における制御回路の構成例を示す図
【
図13】実施の形態1における処理回路の構成例を示す図
【
図14】実施の形態2にかかる衛星通信システムが有する衛星中継器の構成例を示す図
【
図15】
図14に示す衛星中継器が有するDCH/DBFの構成例を示す図
【
図16】実施の形態3における、送信ビームおよび送信素子の対応関係と各送信素子の送信電力割当率との例を示す図
【
図17】実施の形態3にかかる衛星通信システムの衛星中継器が有する送信DBF部の構成例を示す図
【
図18】実施の形態4における、送信ビームおよび送信素子の対応関係と各送信素子の電力利用率との例を示す図
【
図19】実施の形態4にかかる衛星通信システムが有する衛星中継器の構成例を示す図
【
図20】実施の形態4にかかる衛星通信システムの処理手順を示すフローチャート
【
図21】実施の形態5にかかる衛星通信システムが有する衛星中継器の構成例を示す図
【
図22】実施の形態6にかかる衛星通信システムの衛星中継器が有する送信DBF部の構成例を示す図
【
図23】実施の形態7における、送信ビームおよび送信素子の対応関係と各送信素子の送信電力割当率との例を示す図
【
図24】実施の形態7にかかる衛星通信システムの衛星中継器が有する送信DBF部の構成例を示す図
【
図25】実施の形態8にかかる衛星通信システムが有する衛星中継器の動作についての説明図
【
図26】実施の形態8にかかる衛星通信システムの衛星中継器が有するDCH/DBFの構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、実施の形態にかかる衛星通信システム、中継器制御局、衛星中継器および送信電力決定方法を図面に基づいて詳細に説明する。本開示の衛星通信システムでは、ビームの照射方向またはビーム形状を変更可能なDBF機能により衛星中継器が受信ビームおよび送信ビームを形成し、地上局である移動局および固定局が衛星中継器を介して通信を行う。本開示では、衛星中継器の周波数フレキシビリティ機能およびエリアフレキシビリティ機能の利用によって、状況に応じてビームの周波数、照射方向または形状を変えて運用される衛星通信システムにおいて、利用するビーム数が一時的に少なくなる、または実際の通信トラフィックが少なくなるといった状況において衛星中継器の電力増幅器の性能が十分に活用されないという問題を解決する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる衛星通信システムによるビーム照射についての説明図である。ここでは、衛星通信システムによる送信ビームの照射について主に説明する。送信ビーム照射の場合、
図1において破線の円で示す素子配置1は、衛星中継器に搭載した各送信アンテナ素子の照射方向を示す。以下、送信アンテナ素子を、送信素子と称する。なお、受信ビームの照射の場合、素子配置1は、衛星中継器に搭載した各受信アンテナ素子の照射方向を示す。以下、受信アンテナ素子を、受信素子と称する。
図1では、便宜的に、互いに接する円形のエリアによって各素子配置1を表しているが、DBFに用いる各素子、すなわち各送信素子および各受信素子の実際の照射範囲は、互いに重なり合う円形のエリアとなる。すなわち、各素子の実際の照射範囲は、各素子配置1よりも広いエリアとなる。
【0011】
複数のビームであるビーム2-a,2-b,2-c,2-dの各々は、送信素子を用いてDBFにより形成した送信ビームの例である。一般的に、双方向通信を行う場合は、送信ビームと受信ビームとは互いに同じエリアに形成されることが多い。実施の形態1では送信ビームの形成に関して説明するが、受信ビームについても送信ビームと同じエリアに形成されることを前提とする。ビーム2-a~2-dの各々は、受信素子を用いてDBFにより形成した受信ビームの例ともいえる。
【0012】
複数の素子配置1のうちの1つである素子配置1-kは、各ビーム2-a~2-dの形成に共通して使用される送信素子の照射方向を示す。すなわち、
図1に示す例では、素子配置1-kに対応する送信素子には、各ビーム2-a~2-dへの互いに異なる送信信号に対して、異なる励振係数である振幅および位相を与える。素子配置1-kに対応する送信素子からは、各ビーム2-a~2-dに対応した送信信号を重畳した信号が送信される。複数の送信ビームの各々の形成に寄与するその他の送信素子についても、送信ビームに対応する送信信号に適切な励振係数を与えることで、複数の送信ビームの各々が形成される。
図1に示す例では、1つの素子配置1-kに対応する送信素子に対し、4個の送信ビームの送信電力を賄い得る高出力の電力増幅器が用いられることとなる。以下、送信電力を最適化するための構成および方法について説明する。
【0013】
図2は、実施の形態1にかかる衛星通信システム3の構成例を示す図である。
図2には、衛星通信システム3を構成する衛星中継器4、中継器制御局5、および衛星通信システム制御局6を示す。衛星中継器4は、衛星に搭載される。
図2に示す例において、中継器制御局5と衛星通信システム制御局6とは、互いに別の地上局とする。なお、中継器制御局5の機能と衛星通信システム制御局6の機能とは、1つの地上局に配置されても良い。すなわち、1つの地上局が、中継器制御局5と衛星通信システム制御局6とを兼ねることとしても良い。
【0014】
衛星通信システム制御局6は、地上において衛星通信システム3を制御する。衛星通信システム制御局6は、衛星通信システム3をどのように運用するかを決定する。衛星通信システム制御局6は、衛星通信システム3におけるビームの照射方向、ビームの照射範囲、およびビームの周波数帯域幅等を決定する。衛星通信システム制御局6は、決定されたビームの形成の要求であるビーム形成要求を中継器制御局5へ送信する。ビーム形成要求は、例えば、任意に指定された地上の地点におけるビームの利得を示す情報を含む。地点は、座標により表される。ビーム形成要求に示される利得により、ビームの照射方向および照射範囲が表現される。
【0015】
中継器制御局5は、地上において衛星中継器4の制御と衛星中継器4の監視とを行う。中継器制御局5は、ビーム形成要求に従ってビームを形成するための、衛星中継器4からの送信信号に与えられる励振係数を決定する。中継器制御局5は、衛星中継器4を制御するための指令であるテレコマンドを衛星中継器4へ送信する。以下、テレコマンドを、制御コマンドと称する。中継器制御局5は、制御用の無線回線を用いて衛星中継器4へ制御コマンドを送信することによって、衛星中継器4の動作に必要な各種パラメータを衛星中継器4に設定し、衛星中継器4を制御する。決定した励振係数は、制御コマンドにより衛星中継器4に設定される。また、中継器制御局5は、衛星中継器4の状態を示す情報および各種パラメータの値をテレメトリにより受信することによって、衛星中継器4を監視する。
【0016】
衛星中継器4は、複数の送信素子の各々から送信信号を出力することによって複数の送信ビームを形成する。衛星中継器4は、設定された励振係数を用いて、複数の送信ビームである送信ビーム7-1,7-2,…,7-mを形成し、送信ビーム7-1~7-mにより信号を送信する。
図2にはm個の送信ビーム7-1~7-mを示しており、mは送信ビームの個数を表す。なお、受信ビームの形成も衛星中継器4において実施される。衛星中継器4は、受信ビームにより受信した信号を送信ビームにより送信することによって、衛星通信システム3における通信を中継する。なお、
図2には、衛星通信システム3を利用するユーザの通信信号を送受信するユーザ地球局およびフィーダリンク地球局は示していない。
【0017】
次に、衛星中継器4の構成について説明する。
図3は、実施の形態1にかかる衛星通信システム3が有する衛星中継器4の構成例を示す図である。衛星中継器4は、受信素子10-1,10-2,…,10-nr、低雑音増幅器(LNA:Low Noise Amplifier)11-1,11-2,…,11-nr、ダウンコンバータ(DCON:Down CONverter)12-1,12-2,…,12-nr、デジタルチャネライザ/デジタルビームフォーミング処理部(以下、DCH/DBFと称する)13、アップコンバータ(UCON:Up CONverter)14-1,14-2,…,14-ns、進行波管増幅器(TWTA:Traveling Wave Tube Amplifier)15-1,15-2,…,15-ns、および送信素子16-1,16-2,…,16-nsを備える。また、衛星中継器4は、テレコマ制御部17、制御用アンテナ18、RF(Radio Frequency)送受信部19、およびモデム20を備える。
【0018】
図3には、nr個の受信素子10-1~10-nrを示しており、nrは受信素子の個数を表す。また、
図3には、nr個のLNA11-1~11-nrおよびnr個のDCON12-1~12-nrを示している。すなわち、衛星中継器4は、受信素子10-1~10-nrに対応した個数の処理回路であるLNA11-1~11-nrおよびDCON12-1~12-nrを備える。
【0019】
図3には、ns個の送信素子16-1~16-nsを示しており、nsは送信素子の個数を表す。また、
図3には、ns個のUCON14-1~14-nsおよびns個のTWTA15-1~15-nsを示している。すなわち、衛星中継器4は、送信素子16-1~16-nsに対応した個数の処理回路であるUCON14-1~14-nsおよびTWTA15-1~15-nsを備える。なお、nrとnsとは、互いに異なる数であっても、互いに同じ数であっても良い。
【0020】
受信素子10-1~10-nrは、地球局からの信号を受信する。LNA11-1~11-nrは、受信信号を増幅する。DCON12-1~12-nrは、受信信号を、当該受信信号よりも低い周波数の信号へ変換することによって、当該受信信号の周波数を、後段のデジタル信号処理で扱い易い周波数に変更する。DCH/DBF13では、送信電力を決定するためのパラメータが設定される。DCH/DBF13の詳細については後述する。
【0021】
UCON14-1~14-nsは、DCH/DBF13から出力された信号を、当該信号よりも高い周波数の信号へ変換することによって、当該信号を、実際の送信周波数の信号に変換する。TWTA15-1~15-nsの各々は、電力増幅器である。TWTA15-1~15-nsは、UCON14-1~14-nsからの信号を増幅することによって、複数の送信素子16-1~16-nsの各々へ供給される送信電力を増幅する。送信素子16-1~16-nsは、地球局へ信号を送信する。
【0022】
送信信号の出力によっては、信号を増幅するための手段として、TWTA15-1~15-nsとともに固体電力増幅器(SSPA:Solid State Power Amplifier)が用いられても良い。受信素子10-1~10-nrおよび送信素子16-1~16-nsは、送受信信号の利得を稼ぐために、反射鏡を用いることによって開口径が大きくされても良い。
【0023】
図3に示す構成ではDCON12-1~12-nrおよびUCON14-1~14-nsが用いられているが、衛星中継器4は、これらを用いず、電波の周波数帯域を直接サンプリングするダイレクトサンプリング技術を適用した構成とされても良い。衛星中継器4には、地球局と送受信する信号から不要な周波数帯域の信号をカットするフィルタ等が必要となる。
図3では、当該フィルタ等の図示は省略する。
【0024】
テレコマ制御部17は、
図2に示した中継器制御局5からの制御コマンドに従い、衛星中継器4内の各機器の制御またはパラメータ設定を行う。また、テレコマ制御部17は、衛星中継器4内の各機器の状態および各種パラメータの値といった監視情報を、テレメトリにより中継器制御局5へ伝える機能も有する。
【0025】
制御用アンテナ18は、制御コマンドの受信とテレメトリによる信号の送信とを行う。RF送受信部19は、信号の増幅、および信号の周波数変換を行う。モデム20は、信号の変調および復調、符号化、ならびに復号化を行う。テレコマ制御部17および中継器制御局5の間における信号の伝送は、制御用アンテナ18、RF送受信部19およびモデム20を介して行われる。
【0026】
次に、DCH/DBF13の構成について説明する。
図4は、
図3に示す衛星中継器4が有するDCH/DBF13の構成例を示す図である。DCH/DBF13は、AD(Analog-to-Digital)変換器30-1,30-2,…,30-nr、受信DBF部40、スイッチ回路50、送信DBF部60、およびDA(Digital-to-Analog)変換器31-1,31-2,…,31-nsを備える。受信信号21-1,21-2,…,21-nrは、
図3に示す各受信素子10-1~10-nrにより受信された信号とする。送信信号22-1,22-2,…,22-nsは、
図3に示す各送信素子16-1~16-nsから送信される信号とする。
【0027】
AD変換器30-1~30-nrには、LNA11-1~11-nrおよびDCON12-1~12-nrによる処理を経た受信信号21-1,21-2,…,21-nrが入力される。AD変換器30-1~30-nrは、アナログ信号である受信信号21-1,21-2,…,21-nrをデジタル信号へ変換する。受信DBF部40は、AD変換器30-1~30-nrからの各デジタル信号を、互いに異なる周波数帯域の複数の信号に分割、すなわち分波する。受信DBF部40は、分波により得られた各信号に受信DBFの励振係数を乗算する。受信DBF部40は、DCH/DBF13における励振係数の乗算までの処理を経た、複数の受信素子からの信号同士を合成することで、受信ビームの分波単位の信号を得る。
【0028】
スイッチ回路50は、受信ビームの分波単位の信号を、任意の送信ビームへスイッチングする。送信DBF部60は、送信素子ごとに信号を分配して、分配された各信号に送信DBFの励振係数を乗算する。また、送信DBF部60は、周波数帯域ごとに分割されている信号を、送信ビームの周波数帯域に合わせて結合、すなわち合波し、各送信ビームの信号を送信素子ごとに加算する。DA変換器31-1~31-nsは、送信DBF部60からの信号をアナログ信号へ変換する。DCH/DBF13は、アナログ信号である送信信号22-1,22-2,…,22-nsを出力する。
【0029】
スイッチ回路50において各受信信号21-1~21-nrの周波数帯域を細かい帯域でスイッチングすることにより、入出力ビーム間で任意の帯域幅の信号を中継することができるため、周波数フレキシビリティが実現される。また、励振係数を乗算して各受信素子10-1~10-nrから入力した信号を合成、または各送信素子16-1~16-nsへ出力する信号に分配して励振係数を乗算することで、受信ビームと送信ビームとのエリアフレキシビリティが実現される。なお、受信DBF部40、スイッチ回路50、および送信DBF部60における信号の伝送は、並列する複数の受信ビームの信号と並列する複数の送信ビームの信号とを時分割でシリアル変換して行われる。
【0030】
次に、送信DBF部60の詳細について説明する。
図5は、
図4に示すDCH/DBF13が有する送信DBF部60の構成例を示す図である。送信DBF部60は、シリアルおよびデシリアル変換を行うSerDes(Serializer/Deserializer)61と、送信ビーム単位のDBF処理を行うDBF部62-1,62-2,…と、送信電力調整部66とを有する。
【0031】
送信DBF部60には、
図4に示すAD変換器30-1~30-nrによるAD変換を経た受信信号21-1~21-nrがシリアル入力される。シリアル入力された受信信号21-1~21-nrは、SerDes61によって送信ビームごとの信号に並列変換され、DBF部62-1,62-2,…へ入力される。送信DBF部60は、DBF部62-1,62-2,…において、送信ビームごとの信号の並列処理を行う。ここでは、DBF部62-1について説明するが、他のDBF部62-2,…においてもDBF部62-1と同様の処理が行われる。
【0032】
DBF部62-1の分配機能を担う分配部63-1は、送信ビームの信号をコピーすることによって、送信ビームの信号を送信素子16-1~16-nsごとの信号に分配する。DBF部62-1は、各送信素子16-1~16-nsに分配された信号の各々に励振係数64-1-1,64-1-2,…,64-1-nsを乗算する。励振係数は、信号の位相調節と信号の振幅調節とを行うための重み付け係数である。周波数特性を考慮して、一定の周波数帯域幅ごとに異なる励振係数を乗算することが可能であるが、ここでは送信ビームの周波数特性は無視し、各送信ビームの信号には全帯域にわたって同じ励振係数を乗算するものとして説明する。つまり、励振係数64-1-1,64-1-2,…,64-1-nsには周波数特性を与えないこととするが、励振係数64-1-1,64-1-2,…,64-1-nsには互いに異なる値が与えられるものとする。
【0033】
DBF部62-1から出力された各送信素子16-1~16-nsの信号には、他のDBF部62-2,…から出力された各送信素子16-1~16-nsの信号が加算される。送信電力調整部66は、各送信素子16-1~16-nsの加算後の信号である各送信素子系統の信号に送信電力調整係数65を乗算する。これにより、送信電力調整部66は、複数の送信素子16-1~16-nsの各々の送信電力を送信電力調整係数65に基づいて調整する。送信電力調整係数65の決定方法については後述する。
【0034】
励振係数のうち振幅に関わる係数と送信電力調整係数65とは、送信信号の振幅に重み付けを施すことによって送信電力を調整する意味において、互いに同じ働きを持つ。このため、励振係数に送信電力調整係数65を含めることによって1つにまとめることも考えられる。ただし、送信電力調整係数65には励振係数とは異なる役割を持たせることから、本開示では、送信電力調整係数65を励振係数とは別の係数としている。
【0035】
励振係数が持つ第1の役割は、1つのビームの形成に寄与する送信素子系統間において振幅から決まる電力比を一定に保つことで、ビームの形状を決めるという役割である。励振係数が持つ第2の役割は、送信ビームへ入力する受信信号電力が最大となった場合に、送信素子系統の電力増幅器、すなわち
図3に示すTWTA15-1~15-nsを飽和させないため、形成されるビームの態様に関わらず1つのビームの形成に寄与する送信素子系統の総電力を一定に保つという役割である。これに対し、送信電力調整係数65の役割は、さまざまなビーム形成の組み合わせに応じて電力増幅器の電力を有効利用することである。このように、送信電力調整係数65の役割は励振係数の役割とは異なるため、衛星中継器4では、送信電力調整係数65は、励振係数とは別の係数として設定される。
【0036】
実施の形態1において、送信DBF部60は、全送信素子系統に同じ値の送信電力調整係数65を乗算する構成である。すなわち、全送信ビームに対して設定される送信電力調整係数65の数は1つである。これに対し、設定される励振係数の数は、送信ビーム数と送信素子数との積であるため、設定される励振係数の数よりも、設定される送信電力調整係数65の数の方が少ないことは明らかである。このため、衛星通信システム3は、ビーム形成の組み合わせが変更されるが一部のビームについては励振係数を変更しないような場合でも、変更が必要となる係数の数を少なくすることができ、係数の計算と係数の設定のための制御とに要する時間を削減することができる。なお、励振係数の値および送信電力調整係数65の値は、
図3に示すDCH/DBF13内のメモリに記憶されるパラメータ値である。メモリに記憶されている励振係数の値および送信電力調整係数65の値は、
図3に示すテレコマ制御部17から自由に書き換えることができる。
【0037】
次に、送信電力調整係数65の決定方法について説明する。実施の形態1において、送信電力調整係数65は、送信ビームの励振係数による電力寄与率と、送信ビームの帯域割当率とに基づいて決定される。
【0038】
図6は、実施の形態1における送信電力調整係数65の決定に関わる、励振係数による電力寄与率についての説明図である。ここでは、4個の送信ビームSBa,SBb,SBc,SBdを形成する場合を例として、送信ビームSBa,SBb,SBc,SBdの全ての形成に寄与する送信素子の1つに着目するものとする。
図1に示す素子配置1-kの送信素子は、当該着目する1つの送信素子に該当する。
図6には、各送信ビームSBa,SBb,SBc,SBdについての励振係数による電力寄与率(αs)の例を棒グラフで表す。
【0039】
上述するように、DBFによる送信ビーム形成において、励振係数は、1つのビームに寄与する送信素子系統間において振幅から決まる電力比を一定に保つことで、ビームの形状を決める役割を持つ。このため、1つの送信素子に着目した場合でも、各送信ビームの励振係数による電力寄与率が決まる。
図6では、ターゲット電力を1とした場合における、励振係数による電力寄与率を示す。ターゲット電力は、電力増幅器への入力電力に対する電力増幅器の出力電力の線形性が保たれる場合における出力電力であって、飽和電力よりもある程度低い電力とする。励振係数による電力寄与率は、1つの送信素子の送信電力から、当該送信素子が形成に寄与する各ビームに振り分けられる電力の大きさを、ターゲット電力に対する割合により表したものである。
【0040】
図6に示す例では、送信ビームSBa,SBb,SBc,SBdについての励振係数による電力寄与率は、それぞれ、0.2,0.3,0.3,0.5である。なお、ここでは、上述するように、送信ビームの周波数特性は無視し、各送信ビームには全帯域にわたって同じ励振係数を適用するものとする。また、経年劣化等による電力増幅器の性能のばらつきは考慮せず、複数の電力増幅器で同じターゲット電力が得られるものとする。ターゲット電力の値には、複数の電力増幅器で得られる同じ出力値である基準値を用いて、励振係数による電力寄与率を計算するものとする。
【0041】
図7は、実施の形態1における送信電力調整係数65の決定に関わる、送信ビームの帯域割当率についての説明図である。帯域割当率は、送信ビームに割り当て可能な最大の帯域幅である帯域上限を1として、各ビームに割り当てる帯域幅の割合を表したものである。
図7には、各送信ビームSBa,SBb,SBc,SBdの帯域割当率(βs)の例を棒グラフで表す。
図7に示す例では、送信ビームSBa,SBb,SBc,SBdの帯域割当率は、それぞれ、0.7,0.4,0.5,1.0である。
【0042】
図8は、実施の形態1における送信電力調整係数65の決定に関わる送信電力割当率についての説明図である。送信電力割当率は、ターゲット電力に対する、複数の送信素子の各々へ割り当てられる送信電力の割合である。励振係数による電力寄与率(αs)と帯域割当率(βs)との積を送信ビームごとに算出し、算出された積を全ての送信ビームについて積算することによって、送信電力割当率が求まる。
【0043】
図8には、
図6に示す励振係数による電力寄与率と
図7に示す帯域割当率とに基づいて、1つの送信素子についての送信電力割当率を求めた例を示す。
図8に示す例では、送信電力割当率は、Σ(αs×βs)=0.91と求まる。ここでは送信ビームの周波数特性は無視し、励振係数による電力寄与率と帯域割当率とを単に掛け合わせた結果を用いて送信電力割当率を計算している。周波数特性を考慮する場合は、励振係数による電力寄与率を、帯域割当率の区間で積分した結果を用いて送信電力割当率を計算しても良い。
【0044】
ここまで、1つの送信素子に着目して、励振係数による電力寄与率、帯域割当率、および送信電力割当率の計算について説明したが、上記と同様の計算が全ての送信素子について実施される。
【0045】
図9は、実施の形態1における、送信ビームおよび送信素子の対応関係と各送信素子の送信電力割当率との例を示す図である。送信ビームと送信素子との対応関係とは、送信素子が送信ビームの形成に寄与する関係とする。
図9では、各送信ビームSBa,SBb,SBc,SBdと送信素子16-1~16-nsとの対応関係の例を示す。
図9において、丸印は、送信素子が送信ビームの形成に寄与することを表す。なお、
図9において、送信素子「1」、送信素子「2」、…、送信素子「ns」は、それぞれ、送信素子16-1~16-nsを表すものとする。PA1,PA2,…,PAnsは、それぞれ、送信素子16-1~16-nsの送信電力割当率PAを表す。
【0046】
各送信素子「1」~「ns」の送信電力割当率PA1~PAnsは、丸印を付した送信ビームの情報を使用して計算される。例えば、送信素子「1」は、送信ビームSBaの形成のみに寄与することから、送信ビームSBaのみの情報により送信電力割当率PA1が決まる。ここで、送信ビームSBaの帯域割当率(βs)は、ビーム形成に寄与する送信素子「1」~「4」の全てにおいて同じ値である一方、励振係数による電力寄与率(αs)は、送信素子「1」~「4」ごとに異なる点に注意する。
【0047】
本開示では、以上のようにして求められた送信電力割当率PA1~PAnsの中から、最大値である送信電力割当率が選択される。送信電力割当率が最大である送信素子は、全ての送信素子のうち最も高い送信電力が要求される送信素子に該当する。
図9に示す例において、4個の送信ビームSBa~SBdの形成に寄与する送信素子「3」の送信電力割当率PA3が最大であって、送信電力割当率PA3の値である最大値は0.91とする。
【0048】
送信素子「3」の送信電力割当率PA3の値である0.91は、ターゲット電力である1よりも小さい。このため、送信素子「3」の送信電力には、ターゲット電力に対して余力があるということになる。本開示にかかる衛星通信システム3は、かかる余力分を使い切るように送信素子の送信電力を調整するために、送信電力割当率の最大値の逆数を送信電力調整係数65として求める。このように、送信電力調整係数65は、複数の送信素子の各々について求めた送信電力割当率の最大値に基づいて算出される。ここで説明する例では、送信電力調整係数65は、1/PA3=1/0.91と決定される。
【0049】
図5を参照して説明したように、同じ値である送信電力調整係数65が、全ての送信素子系統に乗算される。上記例の場合、送信電力調整係数65の値は1よりも大きい値であるが、送信ビームの組み合わせによっては、送信電力調整係数65の値は1以下の値となる場合があることは言うまでもない。各送信素子の送信電力割当率PAの値には、経年劣化等による電力増幅器の性能のばらつきに応じて補正された値が使用されても良い。この場合、上記のように算出された送信電力割当率PAの値に対し、
図6を参照して説明したターゲット電力である基準値と、実際のターゲット電力である実力値との比を用いて補正を行うことが可能である。
【0050】
実施の形態1では、
図2に示す中継器制御局5が、
図6から
図9を参照して説明した送信電力調整係数65の計算を行う。次に、中継器制御局5の構成について説明する。
【0051】
図10は、実施の形態1にかかる衛星通信システム3が有する中継器制御局5の構成例を示す図である。中継器制御局5は、衛星中継器4との通信のための構成である送受信アンテナ70、RF送受信部71、モデム72およびテレコマ制御部73と、衛星通信システム制御局6との通信のための構成であるデータ送受信部75とを備える。また、中継器制御局5は、コマンド生成部74と、励振係数決定部76と、電力調整係数算出部77とを備える。
【0052】
データ送受信部75は、地上ネットワークを構成する衛星通信システム制御局6が送信したビーム形成要求を受信する。コマンド生成部74は、ビーム形成要求の情報を基に、衛星中継器4へ送信する制御コマンドを生成する。励振係数決定部76は、ビーム形成要求に合う励振係数を決定する。電力調整係数算出部77は、
図6から
図9を参照して説明した送信電力調整係数65の計算を行う。すなわち、電力調整係数算出部77は、DBF処理に用いられる励振係数と複数の送信ビームの各々に割り当てられる周波数帯域幅とに基づいて、ターゲット電力に対する、複数の送信素子の各々へ割り当てられる送信電力の割合である送信電力割当率を求める。電力調整係数算出部77は、複数の送信素子の各々について求めた送信電力割当率の最大値に基づいて送信電力調整係数65を算出する。コマンド生成部74は、励振係数の値と送信電力調整係数65の値とを制御コマンドに反映させる。
【0053】
テレコマ制御部73は、衛星中継器4へ制御コマンドを送信するための送信処理を行う。送受信アンテナ70は、モデム72およびRF送受信部71での処理を経た制御コマンドを衛星中継器4へ送信する。また、送受信アンテナ70は、テレメトリにより送信される衛星中継器4の監視情報を受信する。テレコマ制御部73は、モデム72およびRF送受信部71での処理を経た監視情報を処理する。
【0054】
図11は、実施の形態1にかかる衛星通信システム3の処理手順を示すフローチャートである。ステップS1において、衛星通信システム3の中継器制御局5は、各送信ビームについて励振係数による電力寄与率を求める。ステップS2において、中継器制御局5は、各送信ビームの帯域割当率を求める。ステップS3において、中継器制御局5は、励振係数による電力寄与率と帯域割当率とに基づいて、各送信素子の送信電力割当率を求める。
【0055】
ステップS4において、中継器制御局5は、各送信素子の送信電力割当率の最大値に基づいて送信電力調整係数65を算出する。中継器制御局5は、算出された送信電力調整係数65の値が反映された制御コマンドを衛星中継器4へ送信する。衛星中継器4は、制御コマンドを受信する。ステップS5において、衛星中継器4は、送信電力調整係数65に基づいて各送信素子の各々の送信電力を算出する。以上により、衛星通信システム3は、
図11に示す手順による処理を終了する。
【0056】
次に、中継器制御局5のハードウェア構成について説明する。コマンド生成部74、励振係数決定部76および電力調整係数算出部77は、処理回路により実現される。処理回路は、プロセッサがソフトウェアを実行する回路であっても良いし、専用の回路であっても良い。処理回路がソフトウェアにより実現される場合、処理回路は、例えば、
図12に示す制御回路である。
図12は、実施の形態1における制御回路80の構成例を示す図である。
【0057】
制御回路80は、プロセッサ81およびメモリ82を備える。コマンド生成部74、励振係数決定部76および電力調整係数算出部77の各機能は、メモリ82に記憶されたプログラムをプロセッサ81が読み出して実行することにより実現される。また、プロセッサ81は、演算結果等のデータをメモリ82の揮発性メモリに出力する。メモリ82は、プロセッサ81が実施する各処理における一時メモリとしても使用される。
【0058】
プロセッサ81は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、またはDSP(Digital Signal Processor)ともいう)である。メモリ82は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスクまたはDVD(Digital Versatile Disc)等が該当する。
【0059】
コマンド生成部74、励振係数決定部76および電力調整係数算出部77の各機能は、専用のハードウェアである、
図13に示す処理回路により実現しても良い。
図13は、実施の形態1における処理回路90の構成例を示す図である。処理回路90は、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせた回路である。
【0060】
図10に示す構成のうち、コマンド生成部74、励振係数決定部76および電力調整係数算出部77以外の処理機能も、専用のハードウェアにより構成することができる。専用のハードウェアで実現される各構成要素は、
図13に示す処理回路90により実現される。中継器制御局5の処理機能は、制御回路80と処理回路90とが組み合わされて実現されても良い。
図3に示す衛星中継器4の処理機能も、専用のハードウェアにより構成することができる。専用のハードウェアで実現される各構成要素は、
図13に示す処理回路90により実現される。衛星中継器4の処理機能は、制御回路80と処理回路90とが組み合わされて実現されても良い。
【0061】
実施の形態1によると、衛星通信システム3は、衛星通信システム3に要求されるビームの組合せに応じて、衛星中継器4の全送信素子に共通して適用する送信電力調整係数65を算出して、衛星中継器4に送信電力調整係数65を設定する。衛星中継器4は、送信電力調整係数65に基づいて各送信素子の送信電力を調整する。衛星通信システム3は、衛星中継器4が備える電力増幅器のターゲット電力を考慮しながら送信電力を有効利用することができるため、要求されたビームの組み合わせに応じて送信電力を最適化でき、かつ、衛星通信システム3の周波数利用効率を向上させることができる。これにより、衛星通信システム3は、衛星中継器4における電力リソースの利用効率を向上でき、通信の品質向上が可能となるという効果を奏する。また、衛星通信システム3は、送信電力を調整するために必要な計算量を少なくすることができ、設定の変更が必要なパラメータの数も少なくすることができる。
【0062】
実施の形態2.
実施の形態2では、
図3に示す衛星中継器4とは異なる構成の衛星中継器について説明する。
図14は、実施の形態2にかかる衛星通信システム3が有する衛星中継器4Aの構成例を示す図である。実施の形態2では、上記の実施の形態1と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1とは異なる構成について主に説明する。
【0063】
衛星中継器4Aは、
図3に示すDCH/DBF13とは異なるDCH/DBF13Aを備える。また、DCH/DBF13Aとテレコマ制御部17との間にはモデム20Aが設けられている。
図3に示す制御用アンテナ18、RF送受信部19、およびモデム20は、衛星中継器4Aには備えられていない。衛星中継器4Aは、中継器制御局5から送信される制御コマンドの受信と、テレメトリによる中継器制御局5への監視情報の送信とにおいて、DBFによるビーム形成を行う。
【0064】
衛星中継器4Aは、受信素子10-1~10-nrの使用によって、受信ビームを介して制御コマンド信号を受信する。制御コマンド信号は、モデム20Aにおける復調および復号化を経て、テレコマ制御部17へ渡される。テレコマ制御部17からの監視情報の信号であるテレメトリ信号は、モデム20Aにおいて変調および符号化が施され、送信素子16-1~16-nsの使用によって、送信ビームを介して中継器制御局5へ送信される。
【0065】
次に、DCH/DBF13Aの構成について説明する。
図15は、
図14に示す衛星中継器4Aが有するDCH/DBF13Aの構成例を示す図である。DCH/DBF13Aは、
図4に示すスイッチ回路50とは異なるスイッチ回路50Aを備える。受信DBF部40は、受信ビームの分波単位の信号を合成する。スイッチ回路50Aは、受信ビームの分波単位の信号から、制御コマンド信号が含まれる受信ビームの一部の周波数帯域の信号を抽出する。スイッチ回路50Aは、抽出した信号をモデム20Aへ出力する。
【0066】
テレコマ制御部17からスイッチ回路50Aへテレメトリ信号が入力されると、テレメトリ信号を送信ビームの一部の周波数帯域の信号として送信DBF部60へ出力する。DCH/DBF13Aから出力される制御コマンド信号およびDCH/DBF13Aへ入力されるテレメトリ信号であるテレコマ信号は、デジタル信号である。このため、
図14に示すモデム20Aには、DA変換のための回路とAD変換のための回路とが不要である。
【0067】
衛星中継器4Aは、ユーザ通信の場合と同様に、DBFによる送信ビームを介してテレメトリ信号を送信でき、かつDBFによる受信ビームを介して制御コマンド信号を受信できる。通信衛星がユーザ通信に用いる送信ビームおよび受信ビームの周波数帯域は、一般に、通信衛星がテレコマ制御に用いる周波数帯域よりも高い。実施の形態2によると、衛星通信システム3は、テレコマ信号の送受信において、高い周波数帯域を用いて広帯域による信号伝送が可能であることによって、励振係数および送信電力調整係数65を衛星中継器4Aに高速に送信することができる。これにより、衛星通信システム3は、衛星中継器4Aの制御に要する時間を短縮できる。
【0068】
実施の形態3.
実施の形態1では、衛星通信システム3は、
図9に示すように、送信電力割当率PAの最大値を用いて送信電力調整係数65を決定した。実施の形態3では、衛星通信システム3の周波数利用効率をさらに向上させるために、形成する送信ビームの組み合わせから、送信ビームと送信素子との対応関係を精査して送信電力調整係数を決定する例について説明する。実施の形態3では、上記の実施の形態1または2と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1または2とは異なる構成について主に説明する。
【0069】
実施の形態3において、
図10に示す中継器制御局5の電力調整係数算出部77は、共通の送信素子を用いて形成される送信ビーム同士について、共通の送信ビームの形成に寄与する送信素子同士をグループ化することによって、複数の送信素子を2以上の送信素子群に分け、送信素子群ごとにおける送信電力割当率の最大値に基づいて送信素子群ごとの送信電力調整係数を算出する。
【0070】
図16は、実施の形態3における、送信ビームおよび送信素子の対応関係と各送信素子の送信電力割当率との例を示す図である。
図16では、5個の送信ビームSBa,SBb,SBc,SBd,SBeと送信素子16-1~16-nsとの対応関係の例を示す。
図16における丸印は、
図9と同様に、送信素子が送信ビームの形成に寄与することを表す。
【0071】
実施の形態3では、まず、全ての送信素子16-1~16-nsの中から、送信電力割当率PAが最大である送信素子が決定される。
図16に示す例では、送信素子「2」の送信電力割当率PA2が最大であるものとする。次に、送信電力割当率PAが最大である送信素子を除いた送信素子の中から、送信電力割当率PAが最大である送信素子との関連性を有する送信素子が抽出される。
【0072】
図16に示す例において、送信素子「2」は、2個の送信ビームSBa,SBeの形成に寄与する。当該送信ビームSBaの形成には、送信素子「1」も寄与する。送信素子「2」が形成に寄与する送信ビームSBaと共通の送信ビームSBaの形成に寄与する送信素子「1」は、送信素子「2」と関連性を有する。また、送信素子「2」が形成に寄与する送信ビームSBeと共通の送信ビームSBeの形成に寄与する送信素子「3」も、送信素子「2」と関連性を有する。送信素子「3」は、送信ビームSBeのほかに、送信ビームSBcの形成にも寄与する。送信素子「3」が形成に寄与する送信ビームSBcと共通の送信ビームSBcの形成に寄与する送信素子「4」も、送信素子「2」と関連性を有する。
【0073】
これにより、送信素子「2」と関連性を有する送信素子として、3個の送信素子「1」、「3」、「4」が抽出される。なお、
図16に示す両矢印は、共通の送信素子を用いて形成される送信ビーム同士について、共通の送信ビームの形成に寄与する送信素子同士をたどることによって、関連性を有する送信素子が連鎖的に抽出されることを表す。
【0074】
送信素子「2」と、抽出された送信素子「1」、「3」、「4」とは、互いに関連性を有する送信素子群の1つである第一の送信素子群とされる。第一の送信素子群に含まれる各送信素子の送信電力割当率PAの最大値の逆数が、第一の送信素子群に含まれる各送信素子の送信電力調整係数と決定される。
図16に示す例の場合、第一の送信素子群における送信電力割当率PAの最大値は送信素子「2」の送信電力割当率PA2であることから、電力調整係数算出部77は、送信電力割当率PA2の逆数を、第一の送信素子群に含まれる各送信素子の送信電力調整係数として求める。
【0075】
次に、全ての送信素子のうち第一の送信素子群以外の送信素子である送信素子「5」~「ns」の中から、送信電力割当率PAが最大である送信素子が決定される。
図16に示す例では、送信素子「6」の送信電力割当率PA6が最大であるものとする。次に、第一の送信素子群の場合と同様に、送信素子「6」との関連性を有する送信素子が抽出されて、送信素子「6」と抽出された送信素子とが、第一の送信素子群とは別の送信素子群の1つである第二の送信素子群とされる。
図16に示す例では、送信素子「5」~「ns」が、第二の送信素子群であるものとする。
【0076】
また、第一の送信素子群の場合と同様に、第二の送信素子群に含まれる各送信素子の送信電力割当率PAの最大値の逆数が、第二の送信素子群に含まれる各送信素子の送信電力調整係数と決定される。
図16に示す例の場合、第二の送信素子群における送信電力割当率PAの最大値は送信素子「6」の送信電力割当率PA6であることから、電力調整係数算出部77は、送信電力割当率PA6の逆数を、第二の送信素子群に含まれる各送信素子の送信電力調整係数として求める。
【0077】
図16に示す例では、第一の送信素子群と第二の送信素子群とにより全ての送信素子が抽出されたとする。第一の送信素子群と第二の送信素子群とが抽出された時点で残りの送信素子が存在する場合は、電力調整係数算出部77は、第一の送信素子群および第二の送信素子群の場合と同様に、送信素子群の抽出と送信電力調整係数の決定とを繰り返す。電力調整係数算出部77は、全ての送信素子が送信素子群として抽出されるまで、送信素子群の抽出と送信電力調整係数の決定とを繰り返す。このようにして、電力調整係数算出部77は、全ての送信素子を2以上の送信素子群に分け、送信素子群ごとにおける送信電力割当率の最大値に基づいて送信素子群ごとの送信電力調整係数を算出する。
【0078】
次に、送信素子群ごとに決定された送信電力調整係数を衛星中継器4において利用するための送信DBF部の構成について説明する。
図17は、実施の形態3にかかる衛星通信システム3の衛星中継器4が有する送信DBF部60Bの構成例を示す図である。実施の形態3において、送信DBF部60Bの送信電力調整部66Bは、送信素子群ごとに算出された送信電力調整係数65-1,65-2,…,65-nsに基づいて送信電力を調整する。すなわち、送信電力調整部66Bは、送信素子群ごとに異なる送信電力調整係数65-1,65-2,…,65-nsを各送信素子系統の信号に乗算可能に構成されている。
【0079】
実施の形態3によると、衛星通信システム3は、送信素子同士の関連性を基に送信素子を2以上の送信素子群に分けて、送信素子群ごとに決定された送信電力調整係数を使用して送信電力を調整する。例えば、第二の送信素子群の送信素子は第一の送信素子群の送信素子よりも送信電力割当率PAが小さいことから、第二の送信素子群についての送信電力調整係数は、第一の送信素子群についての送信電力調整係数よりも大きくなる。このように、送信素子群が増えるごとに、送信素子群についての送信電力を大きくすることができる。これにより、衛星通信システム3は、周波数利用効率の向上が可能となる。
【0080】
実施の形態4.
実施の形態1から3では、衛星通信システム3は、
図2に示す衛星通信システム制御局6からのビーム形成要求を基に送信電力調整係数を決定していた。実施の形態4では、ビーム形成要求のみならず、衛星通信システム3を運用する中で実際に利用されている衛星中継器4の送信電力を基に送信電力調整係数を決定することによって、より実態に即した送信電力調整係数を決定可能とする。実施の形態4では、上記の実施の形態1から3と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1から3とは異なる構成について主に説明する。
【0081】
図18は、実施の形態4における、送信ビームおよび送信素子の対応関係と各送信素子の電力利用率との例を示す図である。実施の形態4において、衛星通信システム3は、ターゲット電力に対する、複数の送信素子の各々が使用した電力の割合である電力利用率を求め、複数の送信素子の各々について求めた電力利用率の最大値に基づいて送信電力調整係数を算出する。電力利用率とは、複数の送信素子の各々によって実際に使用されている電力をモニタした結果を示す。
【0082】
図18に示す送信ビームと送信素子との対応関係は、
図9に示す場合と同様に、ビーム形成要求に応じて決まる。
図18において、送信素子の電力利用率PUは、各送信素子で利用される電力をモニタした結果である電力値を、送信素子のターゲット電力TPに対する割合により示したものである。ターゲット電力TPとは、
図9を参照して説明した、実際のターゲット電力である実力値と同じである。ここでは、説明を簡易なものとするため、全ての送信素子が同じターゲット電力である基準値を持つものとする。電力利用率PUは、ターゲット電力TPに対する電力モニタ値MPの割合である。すなわち、PU=MP/TPの関係が成り立つ。各送信素子の電力利用率PUから最大値が抽出される。
【0083】
図18に示す例において、送信素子「4」のPU4の値が最大値であるものとする。実施の形態4において、衛星通信システム3は、電力利用率の最大値の逆数を送信電力調整係数として求める。ここで説明する例では、送信電力調整係数は、1/PA4と決定される。ここで、PU4の値が小さすぎることによって送信電力調整係数が大きくなりすぎること、または、送信電力調整係数の計算ができなくなることを避けるために、送信電力調整係数の計算に用いる電力利用率PUの下限値が設けられる。衛星通信システム3は、最大値であるPU4の値が下限値よりも小さい場合は、下限値を利用して送信電力調整係数を決定する。下限値は、あらかじめ決定された値である。
【0084】
次に、実施の形態4における衛星中継器の構成について説明する。
図19は、実施の形態4にかかる衛星通信システム3が有する衛星中継器4Cの構成例を示す図である。衛星中継器4Cは、
図3に示す衛星中継器4と同様の構成に加えて、電力調整係数算出部23を備える。電力調整係数算出部23は、上述するように電力利用率を求め、複数の送信素子の各々について求めた電力利用率の最大値に基づいて送信電力調整係数を算出する。
【0085】
テレコマ制御部17は、TWTA15-1~15-nsの出力電力の測定値を、衛星中継器4Cの監視項目の1つとして周期的に取得する。電力調整係数算出部23は、テレコマ制御部17で収集された当該出力電力の測定値をモニタする。電力調整係数算出部23は、ターゲット電力TPと、モニタした測定値である電力モニタ値MPとに基づいて電力利用率PUを計算し、電力利用率PUを基に送信電力調整係数を算出する。
【0086】
電力調整係数算出部23は、上述する方法によって送信電力調整係数を決定する。電力調整係数算出部23は、送信電力調整係数の値が頻繁にかつ大きく変動することを防ぐために、モニタした値を平均化して、または、値の変動量に閾値を持たせた制御すなわちヒステリシスを持たせた制御により、送信電力調整係数を算出しても良い。電力調整係数算出部23で算出された送信電力調整係数は、テレコマ制御部17を介してDCH/DBF13に設定される。このようにして、衛星通信システム3を運用する中で実際に利用されている衛星中継器4の送信電力を基に決定された送信電力調整係数65が、
図5に示す送信DBF部60に設定される。
【0087】
図20は、実施の形態4にかかる衛星通信システム3の処理手順を示すフローチャートである。ステップS11において、衛星通信システム3の衛星中継器4Cは、電力調整係数算出部23によって各送信素子の電力利用率を求める。ステップS12において、衛星中継器4Cは、電力調整係数算出部23によって、各送信素子の電力利用率の最大値または電力利用率の下限値に基づいて送信電力調整係数65を算出する。ステップS13において、衛星中継器4Cは、送信電力調整係数65に基づいて各送信素子の各々の送信電力を算出する。以上により、衛星通信システム3は、
図20に示す手順による処理を終了する。
【0088】
電力調整係数算出部23の機能は、
図12に示す制御回路80、または
図13に示す処理回路90で実現される。電力調整係数算出部23の機能は、制御回路80と処理回路90とが組み合わされて実現されても良い。
【0089】
実施の形態4では、衛星中継器4Cにおいて送信電力調整係数65を算出できるため、
図10に示す中継器制御局5からは電力調整係数算出部77を削除しても良い。ただし、実施の形態4においても、中継器制御局5に電力調整係数算出部77を設けても良い。この場合、衛星通信システム3は、中継器制御局5の電力調整係数算出部77によって算出される送信電力調整係数65の値を初期値として扱うこととし、その後、送信電力調整係数65の値を、衛星中継器4Cの電力調整係数算出部23によって算出される値に置き換えて送信電力を調整することとしても良い。
【0090】
なお、電力調整係数算出部23がモニタした電力値から、実施の形態3で説明した送信素子ごとの送信電力調整係数を計算して、得られた送信電力調整係数を、
図17に示す送信DBF部60Bに適用しても良いことは言うまでもない。
【0091】
実施の形態4では、衛星通信システム3は、実施の形態3と同様に、送信素子同士の関連性を基に送信素子を2以上の送信素子群に分けて、送信素子群ごとに決定された送信電力調整係数を使用して送信電力を調整しても良い。この場合、衛星通信システム3は、周波数利用効率の向上が可能となる。
【0092】
実施の形態4によると、衛星通信システム3は、実際に利用されている送信電力を用いて送信電力調整係数65を決定することができる。衛星通信システム3は、ユーザ通信の利用率が低い場合、すなわち実際に利用される周波数帯域が少ない場合等においては、送信電力に余力ができるため、その余力に見合った送信電力の調節が可能となる。これにより、衛星通信システム3は、周波数利用効率をさらに向上させることができる。また、衛星通信システム3は、想定されている送信電力を超過する送信電力が実際に利用された場合には、送信電力をターゲット電力にまで抑え込む制御を行い得る。これにより、衛星通信システム3は、通信信号の歪みを回避して信号品質の劣化を防ぐことができる。
【0093】
実施の形態5.
実施の形態5では、実施の形態4に実施の形態2を組み合わせる例を説明する。
図21は、実施の形態5にかかる衛星通信システム3が有する衛星中継器4Dの構成例を示す図である。実施の形態5では、上記の実施の形態1から4と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1から4とは異なる構成について主に説明する。
【0094】
衛星中継器4Dは、
図14に示すDCH/DBF13Aと同様のDCH/DBF13Dと、
図14に示すモデム20Aと同様のモデム20Dとを備える。また、衛星中継器4Dは、実施の形態4と同様の電力調整係数算出部23を備える。すなわち、衛星中継器4Dは、
図14に示す衛星中継器4Aと同様の構成に電力調整係数算出部23が追加されたものである。
【0095】
衛星中継器4Dは、実施の形態2の衛星中継器4Aと同様に、DBFによる送信ビームを介してテレメトリ信号を送信でき、かつDBFによる受信ビームを介して制御コマンド信号を受信できる。これにより、衛星通信システム3は、衛星中継器4Dの制御に要する時間を短縮できる。また、衛星中継器4Dは、実施の形態4の場合と同様に、電力調整係数算出部23によって送信電力調整係数を算出する。衛星通信システム3は、周波数利用効率を向上させることができ、かつ、信号品質の劣化を防ぐことができる。
【0096】
実施の形態6.
図22は、実施の形態6にかかる衛星通信システム3の衛星中継器4が有する送信DBF部60Eの構成例を示す図である。実施の形態6では、送信DBF部60Eの内部に電力調整係数算出部67が設けられている。実施の形態6では、上記の実施の形態1から5と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1から5とは異なる構成について主に説明する。
【0097】
送信DBF部60Eは、
図5に示す送信DBF部60と同様の構成に電力調整係数算出部67が追加されたものである。電力調整係数算出部67は、ターゲット電力に対する、複数の送信素子の各々が使用した電力の割合である電力利用率を求め、複数の送信素子の各々について求めた電力利用率の最大値に基づいて送信電力調整係数65を算出する。
【0098】
電力調整係数算出部67は、送信DBF部60Eから出力される送信信号22-1,22-2,…,22-ns、すなわち送信素子系統ごとの信号をモニタする。電力調整係数算出部67は、モニタした信号の信号から、実際に利用されている送信電力を計算することができる。よって、電力調整係数算出部67は、実施の形態4で説明した電力調整係数算出部23と同様な計算によって、送信電力調整係数65を算出することができる。これにより、衛星通信システム3は、実施の形態4の場合と同様に、衛星中継器4の制御に要する時間を短縮することができる。また、衛星通信システム3は、実施の形態4の場合と同様に、周波数利用効率を向上させることができ、かつ、信号品質の劣化を防ぐことができる。
【0099】
電力調整係数算出部67の機能は、
図12に示す制御回路80、または
図13に示す処理回路90で実現される。電力調整係数算出部67の機能は、制御回路80と処理回路90とが組み合わされて実現されても良い。
【0100】
なお、電力調整係数算出部67がモニタした電力値から、実施の形態3で説明した送信素子ごとの送信電力調整係数を計算して、得られた送信電力調整係数を、
図22に示す送信DBF部60Eに適用しても良いことは言うまでもない。この場合、送信DBF部60Eには、
図17に示す送信電力調整係数65-1,65-2,…,65-nsのように各送信素子系統に送信電力調整係数を持たせるようにする。
【0101】
実施の形態7.
実施の形態1から6では、衛星中継器4,4A,4C,4Dの送信電力に余力があれば送信電力を上げて送信ビームを形成する動作について説明した。ただし、衛星通信システム3以外のシステム等との電波干渉を極力避けるため、または、通信信号の傍受を極力避けるために、形成するビームの信号強度を上げることを望まないケースも考えられる。実施の形態7では、このようなケースに対応するための方法および構成について説明する。実施の形態7では、上記の実施の形態1から6と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1から6とは異なる構成について主に説明する。
【0102】
図23は、実施の形態7における、送信ビームおよび送信素子の対応関係と各送信素子の送信電力割当率との例を示す図である。実施の形態7では、衛星通信システム3は、送信電力調整係数に基づいて送信ビームごとに送信電力を調整することによって、複数の送信素子の各々の送信電力を調整する。また、衛星通信システム3は、複数の送信ビームの一部については送信電力を調整する対象から除外する。
【0103】
図23では、4個の送信ビームSBa,SBb,SBc,SBdと送信素子16-1~16-nsとの対応関係の例を示す。
図23における丸印は、
図9と同様に、送信素子が送信ビームの形成に寄与することを表す。また、
図23に示す例では、送信ビームSBa,SBb,SBc,SBdのうちの1つである送信ビームSBbが、送信電力を調整する対象から除外される送信ビームであるものとする。
【0104】
実施の形態7では、
図10に示す中継器制御局5の電力調整係数算出部77は、実施の形態1において説明したターゲット電力である1から、送信ビームSBbについての送信電力割当率を差し引いた電力である除外ターゲット電力TPexを求める。また、電力調整係数算出部77は、送信ビームSBbについての各送信素子「1」~「ns」との対応関係を除外して、各送信素子「1」~「ns」の送信電力割当率PA1~PAnsを計算する。電力調整係数算出部77は、算出された送信電力割当率PA1~PAnsの中から、送信電力割当率の最大値である除外送信電力割当率PAexを抽出する。送信電力調整係数は、TPex/PAexと求まる。
図23に示す例では、PAex=PA3とする。このようにして、電力調整係数算出部77は、調整の対象から除外される送信ビームの形成に寄与する電力分を計算から除外して送信電力調整係数を算出する。
【0105】
衛星通信システム3は、送信ビームSBa,SBc,SBdの各々については、送信電力調整係数に基づいて送信電力を調整する一方、送信ビームSBbについては送信電力の調整を行わない。
【0106】
次に、送信電力を調整する対象から一部の送信ビームを除外するとともに、送信電力調整係数に基づいて送信ビームごとに送信電力を調整するための送信DBF部の構成について説明する。
図24は、実施の形態7にかかる衛星通信システム3の衛星中継器4が有する送信DBF部60Fの構成例を示す図である。
【0107】
送信DBF部60FのDBF部62-1は、送信電力調整係数65Fに基づいて送信電力を調整する送信電力調整部66F-1を備える。ここでは、DBF部62-1について説明するが、他のDBF部62-2,…も、DBF部62-1と同様の構成を備える。送信DBF部60Fは、送信ビーム単位のDBF処理を行うDBF部62-1,62-2,…に送信電力調整部66F-1,…が設けられることによって、送信ビームごとの信号に送信電力調整係数65Fを乗算する。DBF部62-1,62-2,…のうち、送信電力を調整する対象から除外された送信ビームについてのDBF部では、送信電力調整係数65Fの代わりに、重み付けしないための係数である1を信号に乗算する。このようにして、送信電力調整部66F-1,…は、送信電力調整係数65Fに基づいて送信ビームごとに送信電力を調整することによって複数の送信素子の各々の送信電力を調整し、かつ、複数の送信ビームの一部については送信電力を調整する対象から除外する。
【0108】
実施の形態1から6では、送信電力調整係数に基づいた送信電力の調整を、送信素子を単位として行っていたが、実施の形態7では、衛星通信システム3は、送信電力調整係数65Fに基づいた送信電力の調整を、送信ビームを単位として行う。
【0109】
実施の形態7によると、衛星通信システム3は、複数のビームのうちの一部については、送信電力調整係数65Fに基づく送信電力の調整の影響を受けないようにすることができる。これにより、衛星通信システム3は、一部のビームについては信号強度を上げないようにすることができるため、衛星通信システム3以外のシステム等との電波干渉を回避することができる。また、衛星通信システム3は、通信信号の傍受を回避することができる。
【0110】
なお、衛星通信システム3は、実施の形態7のように送信ビームごとに送信電力を調整するとともに一部のビームについては送信電力を調整する対象から除外する処理を、実施の形態1から6の各々の処理のいずれに組み合わせても良い。この場合も、衛星通信システム3は、電波干渉を回避することができ、かつ通信信号の傍受を回避することができる。
【0111】
実施の形態8.
実施の形態1から7では、衛星通信システム3の1回の運用要求ごとに、各ビームの方向、形状、および周波数帯域が決められ、ビームの組合せに応じて送信ビームの送信電力の最適化を行う例について説明した。これに対し、近年検討が進められている衛星中継器4におけるビームホッピングでは、短時間の周期で各ビームの方向、形状、および周波数帯域を変更することが求められる。これを実現するには、複数ビームの照射パターンであるビームパターンを衛星中継器4において複数設定しておき、ビームパターンを順次切り替える必要がある。実施の形態8では、このようなビームホッピングに対応するための方法および構成について説明する。実施の形態8では、上記の実施の形態1から7と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1から7とは異なる構成について主に説明する。
【0112】
図25は、実施の形態8にかかる衛星通信システム3が有する衛星中継器4の動作についての説明図である。ここでは、衛星中継器4は、ユーザ地球局に対するサービスリンクにおいてビームホッピングを行うものとする。
図25には、衛星中継器4が形成する受信ビームのビームパターンである受信ビームパターンの時系列と、衛星中継器4が形成する送信ビームのビームパターンである送信ビームパターンの時系列との例を示す。
【0113】
図25に示す例において、衛星中継器4は、受信ビームのビームパターンを、ビームパターン100-1,101-1,100-2,101-2,…というように推移させる。ビームパターン100-1とビームパターン100-2とは、互いに同じビームパターンである。かかるビームパターンを、第1の受信ビームパターンと称する。ビームパターン101-1とビームパターン101-2とは、互いに同じビームパターンであって、かつ第1の受信ビームパターンとは異なるビームパターンである。かかるビームパターンを、第2の受信ビームパターンと称する。衛星中継器4は、第1の受信ビームパターンと第2の受信ビームパターンとを交互に切り替えて受信ビームを形成する。
【0114】
図25に示す例において、衛星中継器4は、送信ビームのビームパターンを、ビームパターン102-1,103-1,102-2,103-2,…というように推移させる。ビームパターン102-1とビームパターン102-2とは、互いに同じビームパターンである。かかるビームパターンを、第1の送信ビームパターンと称する。ビームパターン103-1とビームパターン103-2とは、互いに同じビームパターンであって、かつ第1の送信ビームパターンとは異なるビームパターンである。かかるビームパターンを、第2の送信ビームパターンと称する。
【0115】
第1の受信ビームパターンの時間長さと第2の受信ビームパターンの時間長さとは、互いに異なっていても良い。第1の受信ビームパターンの時間長さと第1の送信ビームパターンの時間長さとは、互いに同じとする。第2の受信ビームパターンの時間長さと第2の送信ビームパターンの時間長さとは、互いに同じとする。また、衛星中継器4がビームパターンを切り替えるタイミングに合わせて、ユーザ地球局が通信信号の送受信を行う。衛星中継器4は、受信ビームにより受信した信号を、受信ビームと同じ時間長さの送信ビームにより送信する。これにより、受信ビームパターンと送信ビームパターンとには、衛星中継器4の内部における中継処理遅延に相当するタイミング差が生じる。なお、
図25には示されていないが、各受信ビームパターンの間および各送信ビームパターンの間には、複数の地球局との送受信タイミングの誤差を吸収するため、または、衛星中継器4の内部にてビームパターンを切り替える処理を行うためのガードタイムが含まれる。
【0116】
衛星中継器4は、2種類の受信ビームパターンを交互に切り替えるものに限られない。衛星中継器4は、受信ビームパターンを複数のビームパターンから時分割で切り替えて複数の受信ビームを形成するものであれば良い。また、衛星中継器4は、2種類の送信ビームパターンを交互に切り替えるものに限られない。衛星中継器4は、送信ビームパターンを複数のビームパターンから時分割で切り替えて複数の送信ビームを形成するものであれば良い。
【0117】
実施の形態8では、
図10に示す中継器制御局5の電力調整係数算出部77は、複数のビームパターンの各々に対応する送信電力調整係数を算出する。衛星通信システム3は、ビームパターンの切り替えに合わせて送信電力調整係数を切り替えて送信電力を調整する。
【0118】
次に、ビームパターンの切り替えに合わせて送信電力調整係数を切り替えて送信電力を調整するためのDCH/DBFの構成について説明する。
図26は、実施の形態8にかかる衛星通信システム3の衛星中継器4が有するDCH/DBF13Gの構成例を示す図である。DCH/DBF13Gは、AD変換器30-1~30-nr、DA変換器31-1~31-ns、受信DBF部40G、スイッチ回路50G、送信DBF部60G、およびスケジューラ120を備える。
【0119】
受信DBF部40Gは、複数の受信ビームパターンの各々に対応するパラメータ設定領域111-1,111-2,…を備える。また、受信DBF部40Gは、
図4に示す受信DBF部40と同様の機能を備える。パラメータ設定領域111-1,111-2,…には、受信ビームパターンに応じた励振係数等が設定される。なお、受信DBF部40Gでは、受信ビームパターンの種類の数と同じ数のパラメータ設定領域111-1,111-2,…が使用される。2種類の受信ビームパターンを切り替える場合は、2個のパラメータ設定領域111-1,111-2が使用される。
【0120】
スイッチ回路50Gは、受信ビームパターンおよび送信ビームパターンの複数の組み合わせの各々に対応するパラメータ設定領域112-1,112-2,…を備える。また、スイッチ回路50Gは、
図4に示すスイッチ回路50と同様の機能を備える。パラメータ設定領域112-1,112-2,…には、受信ビームパターンおよび送信ビームパターンの組み合わせに応じた、受信ビームおよび送信ビームの間の接続関係を示す情報等が設定される。なお、スイッチ回路50Gでは、受信ビームパターンおよび送信ビームパターンの組み合わせの数と同じ数のパラメータ設定領域112-1,112-2,…が使用される。2種類の受信ビームパターンを切り替え、かつ2種類の送信ビームパターンを切り替える場合は、2個のパラメータ設定領域112-1,112-2が使用される。
【0121】
送信DBF部60Gは、複数の送信ビームパターンの各々に対応するパラメータ設定領域113-1,113-2,…を備える。また、送信DBF部60Gは、
図4に示す送信DBF部60と同様の機能を備える。パラメータ設定領域113-1,113-2,…には、送信ビームパターンに応じた励振係数等と、送信ビームパターンに応じた送信電力調整係数とが設定される。なお、送信DBF部60Gでは、送信ビームパターンの種類の数と同じ数のパラメータ設定領域113-1,113-2,…が使用される。2種類の送信ビームパターンを切り替える場合は、2個のパラメータ設定領域113-1,113-2が使用される。
【0122】
スケジューラ120は、受信DBF部40Gのパラメータ設定領域111-1,111-2,…と、スイッチ回路50Gのパラメータ設定領域112-1,112-2,…と、送信DBF部60Gのパラメータ設定領域113-1,113-2,…との各々を切り替える。スケジューラ120は、ビームパターンの切替タイミングの情報を保持している。切替タイミングの情報は、ビームパターンの情報等と共に地上の中継器制御局5によって衛星中継器4に設定される。スケジューラ120は、切替タイミングにおいて、受信DBF部40Gが参照するパラメータ設定領域111-1,111-2,…と、スイッチ回路50Gが参照するパラメータ設定領域112-1,112-2,…と、送信DBF部60Gが参照するパラメータ設定領域113-1,113-2,…との各々を切り替える。
【0123】
パラメータ設定領域111-1,111-2,…の切り替えは、受信DBF部40Gが励振係数等を参照するための参照アドレスを変更することによって容易に行い得る。パラメータ設定領域112-1,112-2,…の切り替えは、受信ビームおよび送信ビームの間の接続関係を示す情報等をスイッチ回路50Gが参照するための参照アドレスを変更することによって容易に行い得る。パラメータ設定領域113-1,113-2,…の切り替えは、励振係数等と送信電力調整係数とを送信DBF部60Gが参照するための参照アドレスを変更することによって容易に行い得る。
【0124】
スケジューラ120は、パラメータ設定領域111-1,111-2,…の切り替えと、パラメータ設定領域112-1,112-2,…の切り替えと、パラメータ設定領域113-1,113-2,…の切り替えとを同時に行う。スケジューラ120は、衛星中継器4の内部にてビームパターンを切り替える処理を行うためのガードタイムの中で、これらの切り替えを行う。なお、スケジューラ120は、ガードタイムを短縮するために、各切替処理に要する処理時間を考慮して、各切替タイミングを少しずつずらすこととしても良い。なお、送信ビームパターンごとについての送信電力調整係数を決定する方法としては、実施の形態1、実施の形態3または実施の形態7にて説明した方法を用いることができる。
【0125】
実施の形態8によると、衛星通信システム3は、複数のビームパターンの各々について送信電力調整係数を算出し、ビームパターンの切り替えと合わせて送信電力調整係数を切り替えて送信電力を調整する。これにより、衛星通信システム3は、ビームホッピングを行う場合においても、衛星中継器4における電力リソースの利用効率を向上できる。衛星通信システム3は、実施の形態8のように、ビームパターンの切り替えに合わせて送信電力調整係数を切り替える処理を、実施の形態1から7の各々の処理のいずれに組み合わせても良い。この場合も、衛星通信システム3は、ビームホッピングを行うとともに、衛星中継器4における電力リソースの利用効率を向上できる。
【0126】
なお、本開示は、DBFでビーム形成を行う非地上系ネットワーク(NTN:Non Terrestrial Network)に適用可能である。本開示は、静止軌道(GEO:Geostationary Earth Orbit)衛星、中軌道(MEO:Middle Earth Orbit)衛星、または低軌道(LEO:Low Earth Orbit)衛星による衛星通信システムのみならず、高高度プラットフォーム(HAPS:High Altitude Platform Station)にも適用可能である。
【0127】
以上の各実施の形態に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものである。各実施の形態の構成は、別の公知の技術と組み合わせることが可能である。各実施の形態の構成同士が適宜組み合わせられても良い。本開示の要旨を逸脱しない範囲で、各実施の形態の構成の一部を省略または変更することが可能である。
【符号の説明】
【0128】
1,1-k 素子配置、2-a,2-b,2-c,2-d ビーム、3 衛星通信システム、4,4A,4C,4D 衛星中継器、5 中継器制御局、6 衛星通信システム制御局、7-1,7-2,7-m 送信ビーム、10-1,10-2,10-nr 受信素子、11-1,11-2,11-nr LNA、12-1,12-2,12-nr DCON、13,13A,13D,13G DCH/DBF、14-1,14-2,14-ns UCON、15-1,15-2,15-ns TWTA、16-1,16-2,16-ns 送信素子、17,73 テレコマ制御部、18 制御用アンテナ、19,71 RF送受信部、20,20A,20D,72 モデム、21-1,21-2,21-nr 受信信号、22-1,22-2,22-ns 送信信号、23,67,77 電力調整係数算出部、30-1,30-2,30-nr AD変換器、31-1,31-2,31-ns DA変換器、40,40G 受信DBF部、50,50A,50G スイッチ回路、60,60B,60E,60F,60G 送信DBF部、61 SerDes、62-1,62-2 DBF部、63-1 分配部、64-1-1,64-1-2,64-1-ns 励振係数、65,65-1,65-2,65-ns,65F 送信電力調整係数、66,66B,66F-1 送信電力調整部、70 送受信アンテナ、74 コマンド生成部、75 データ送受信部、76 励振係数決定部、80 制御回路、81 プロセッサ、82 メモリ、90 処理回路、100-1,100-2,101-1,101-2,102-1,102-2,103-1,103-2 ビームパターン、111-1,111-2,112-1,112-2,113-1,113-2 パラメータ設定領域、120 スケジューラ。