(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-27
(45)【発行日】2025-04-04
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/49 20060101AFI20250328BHJP
A61K 8/24 20060101ALI20250328BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20250328BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20250328BHJP
A61K 8/365 20060101ALI20250328BHJP
A61K 8/362 20060101ALI20250328BHJP
【FI】
A61K8/49
A61K8/24
A61K8/55
A61Q11/00
A61K8/365
A61K8/362
(21)【出願番号】P 2022524484
(86)(22)【出願日】2021-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2021018741
(87)【国際公開番号】W WO2021235424
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2020086519
(32)【優先日】2020-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 康平
(72)【発明者】
【氏名】二階堂 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】平泉 将登
(72)【発明者】
【氏名】天川 純一
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-182752(JP,A)
【文献】特開2006-182705(JP,A)
【文献】国際公開第2007/145287(WO,A1)
【文献】特表2007-527388(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221621(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:縮合リン酸、フィチン酸、及びそれらの塩から選ばれる1種以上
、
(B)成分:(N-(2-(2-ピリジニル)エチル)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボキサミド)
、並びに
(C)成分:炭素原子数3~6の有機酸及びその塩から選ばれる1種以上
を含有
しており、
(C)成分が、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、フマル酸、及びそれらの塩から選ばれる1種以上であり、
(C)成分の量に対する(A)成分の量の比(A/C)が、0.25~20である、口腔用組成物。
【請求項2】
(A)成分が、ピロリン酸、トリポリリン酸、ヘキサメタリン酸、ウルトラリン酸、フィチン酸、及びそれらの塩から選ばれる1種以上である請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
(A)成分の量が0.05~2質量%である請求項1又は2に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
(B)成分の量が0.00001~0.01質量%である請求項1~3のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項5】
(C)成分の量が0.05~3質量%である請求項
1に記載の口腔用組成物。
【請求項6】
液体口腔用組成物である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項7】
(C)成分の量に対する(A)成分の量の比(A/C)が、0.25~1である、請求項1に記載の口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
縮合リン酸塩は、歯牙へのステイン付着抑制効果があることが知られているが、口腔粘膜に対する刺激感が強いという課題があり、特に洗口剤等の液体製剤ではその課題が顕著であった。特許文献1には、ピロリン酸及びポリリン酸塩の刺激緩和のために特定の香料成分を使用することが開示されている。特許文献2には、ヒドロキシアルキルセルロースを配合し粘度により刺激感を抑える製剤や香料成分による刺激感のマスキングなどが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-98917号公報
【文献】特許第6217628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術では、口腔用組成物、中でも液体製剤では十分な効果を得ることができず、特に洗口剤やマウススプレー等、水での濯ぎをしない製剤では刺激が強く残り、刺激緩和の持続性の点でも課題があった。また、特許文献2の技術では、嗜好性の低下や長時間マスキングしきれない等の課題がある。
【0005】
本発明は、歯牙へのステイン付着抑制成分等の刺激成分における刺激感を低減でき、かつ、刺激成分本来の効果を発揮できる口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の〔1〕~〔11〕を提供する。
〔1〕(A)成分:縮合リン酸、フィチン酸、及びそれらの塩から選ばれる1種以上、並びに(B)成分:(N-(2-(2-ピリジニル)エチル)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボキサミド)を含有する口腔用組成物。
〔2〕(A)成分が、ピロリン酸、トリポリリン酸、ヘキサメタリン酸、ウルトラリン酸、フィチン酸、及びそれらの塩から選ばれる1種以上である〔1〕に記載の口腔用組成物。
〔3〕(A)成分の量が0.05~2質量%である〔1〕又は〔2〕に記載の口腔用組成物。
〔4〕(B)成分の量が0.00001~0.01質量%である〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
〔5〕(C)成分:炭素原子数3~6の有機酸及びその塩から選ばれる1種以上をさらに含有する〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
〔6〕(C)成分が、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、フマル酸、及びそれらの塩から選ばれる1種以上である〔5〕記載の口腔用組成物。
〔7〕(C)成分の量が0.05~3質量%である〔5〕又は〔6〕に記載の口腔用組成物。
〔8〕液体口腔用組成物である〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
〔9〕(N-(2-(2-ピリジニル)エチル)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボキサミド)を含有する、口腔用組成物の刺激成分の刺激緩和剤。
〔10〕刺激成分が、縮合リン酸、フィチン酸、及びそれらの塩から選ばれる1種以上である〔9〕に記載の刺激緩和剤。
〔11〕刺激成分及び(N-(2-(2-ピリジニル)エチル)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボキサミド)を含有する口腔用組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、歯牙のステイン付着を抑制でき、また、刺激感を抑制できかつ抑制効果を持続させることでき、香味の良好な発現、製剤の外観安定性の向上から、それらの効果を実感できる口腔用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、本明細書中、各成分の含有量は、組成物を調製する際の各成分の仕込み量を基準とする値である。
【0009】
[1.口腔用組成物]
本発明の口腔用組成物は、(A)及び(B)成分を含有し、(C)成分をさらに含んでもよい。以下、(A)~(C)成分について説明する。
【0010】
<(A)成分>
(A)成分は、縮合リン酸、フィチン酸、及びそれらの塩から選ばれる1種以上である。(A)成分により、口腔用組成物は、ステイン付着抑制効果を発揮し得る。
【0011】
縮合リン酸としては、例えば、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸等の直鎖状ポリリン酸;トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸等の環状ポリリン酸;及び、ウルトラリン酸等の網目状のポリリン酸が挙げられ、直鎖状ポリリン酸としてはピロリン酸、トリポリリン酸が好ましく、環状ポリリン酸としてはヘキサメタリン酸が好ましい。縮合リン酸としては、直鎖状のポリリン酸が好ましい。縮合リン酸、フィチン酸は塩の形態でもよく、塩としては例えば、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩)、銅塩、亜鉛塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩;トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩等の有機塩基塩が挙げられ、好ましくはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩であり、より好ましくはナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩であり、さらに好ましくは、ナトリウム塩又はカリウム塩である。(A)成分は、直鎖状のポリリン酸、及びフィチン酸から選ばれる1種以上を含むことが好ましく、ピロリン酸、トリポリリン酸のナトリウム塩、及びフィチン酸から選ばれる1種以上を含むことがより好ましい。
【0012】
(A)成分は、縮合リン酸、フィチン酸、及びそれらの塩から選ばれる1種単独でもよく、また2種類以上の組み合わせでもよい。2種以上の組み合わせとしては、ポリリン酸及びその塩から選ばれる2種以上が好ましく、組み合わせの中に、直鎖状ポリリン酸及びその塩を1種以上含むことが好ましい。このような組み合わせとしては、直鎖状ポリリン酸及びその塩から選ばれる1種以上と、環状ポリリン酸、網目状ポリリン酸及びそれらの塩から選ばれる1種以上との組み合わせ;並びに、直鎖状ポリリン酸及びその塩から選ばれる2種以上の組み合わせが挙げられる。なお、(A)成分としての縮合リン酸、フィチン酸、及びそれらの塩は、これら以外のリン酸又はリン酸塩との混合物として口腔用組成物に配合されてもよい。
【0013】
(A)成分の量は、口腔用組成物全量に対し通常0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上である。これにより、より良好なステイン付着抑制効果を発現することができる。上限は、通常2質量%以下、好ましくは1質量%以下である。これにより、口腔用組成物の、口腔粘膜に対する刺激感の発現を抑制でき、香味発現性及び外観安定性の低下を抑制できる。従って、(A)成分の量は、通常0.05~2質量%、好ましくは0.1~1質量%である。
【0014】
<(B)成分>
(B)成分は、(N-(2-(2-ピリジニル)エチル)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボキサミド)である。(B)成分を含めることによって、口腔用組成物の刺激感の発生を抑制でき、さらに刺激感の抑制を持続できる。
【0015】
(B)成分の量は特に制限されないが、口腔用組成物全量に対し通常0.00001質量%以上、好ましくは0.0001質量%以上である。これにより、口腔用組成物の、刺激感を抑制でき、かつ抑制効果を持続的に得ることができる。上限は、通常0.01質量%以下、好ましくは0.005質量%以下である。これにより、強い刺激感の発現を抑制でき、香味発現性の低下を抑制できる。従って、(B)成分の量は、通常0.00001~0.01質量%、好ましくは0.0001~0.005質量%である。
【0016】
(B)成分の量に対する(A)成分の量の比(A/B)は、通常20以上、好ましくは50以上、より好ましくは80以上である。上限は通常30,000以下、好ましくは20,000以下、より好ましくは10,000以下である。
【0017】
<(C)成分>
(C)成分は、炭素原子数3~6の有機酸及びその塩から選ばれる1種以上である。(C)成分を含有することにより、口腔用組成物は、より良好なステイン付着抑制効果を発揮し得る。
【0018】
炭素原子数3~6の有機酸としては、例えば、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、オキシカルボン酸が挙げられ、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、フマル酸が好ましい。塩としては例えば、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩)、アンモニウム塩等の無機塩基塩;トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩等の有機塩基塩が挙げられ、好ましくはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩であり、より好ましくはナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩であり、さらに好ましくは、ナトリウム塩又はカリウム塩である。
【0019】
(C)成分の量は、口腔用組成物全量に対し通常0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上である。これにより、ステイン付着抑制効果をさらに向上できる。上限は、通常3.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下である。3.0質量%を超えると、外観安定性及び香味発現性が低下する可能性がある。従って、(C)成分の量は、通常0.05~3質量%、好ましくは0.1~1.5質量%である。
【0020】
<剤形>
口腔用組成物の剤形としては、特に限定されないが、例えば、固体、ペースト、液体が挙げられ、これらのうち液体が好ましい。本明細書において、剤型が液体の口腔用組成物を液体口腔用組成物と言う。液体口腔用組成物は、洗口剤(例、含嗽剤、洗口液)、液体歯磨き、口中清涼剤等の液剤として調製でき、必要に応じて濃縮タイプでもよい。口腔用組成物は、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品のいずれでもよい。
【0021】
<任意成分>
本発明の口腔用組成物には、上記成分に加え、必要に応じて、上記成分以外の任意成分を含んでもよい。任意成分は、口腔用組成物の用途、剤型によって適宜選択可能である。例えば、口腔用組成物が液体である場合、任意成分としては、界面活性剤、湿潤剤、pH調整剤、防腐剤、甘味剤、香料、有効成分、溶剤が挙げられる。また、口腔用組成物が液体以外の剤形である場合、先に例示した任意成分以外の成分として、例えば粘結剤、研磨剤が挙げられる。任意成分の含有量は特に限定されず、本発明の効果を損なわない範囲で、通常の口腔用組成物に使用される量に設定することができる。
【0022】
(界面活性剤)
界面活性剤としては例えば、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられ、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤の少なくともいずれかを含むことが好ましい。口腔用組成物がアニオン界面活性剤を含むことにより、ステイン付着抑制効果がより向上し得る。口腔用組成物がノニオン界面活性剤を含むことにより、油溶成分の可溶化効果を得ることができる。
【0023】
アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩、N-アシルアミノ酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、N-アシルスルホン酸塩、N-アシルタウリン塩、グリセリン脂肪酸エステルの硫酸塩が挙げられ、アルキル硫酸塩、N-アシルタウリン塩が好ましい。アルキル硫酸塩としては、例えば、炭素原子数12~14のアルキル硫酸塩(例、ラウリル硫酸のアルカリ金属塩、ミリスチル硫酸)が挙げられる。N-アシルアミノ酸塩としては例えば、飽和または不飽和炭化水素基(例えば、炭素原子数が8~18、好ましくは12~16;直鎖及び分岐鎖のいずれでもよい)を有する、アシルグルタミン酸塩、アシルサルコシン塩等のアシルアミノ酸塩が挙げられる。アシルタウリン塩としては、飽和または不飽和炭化水素基(例えば、炭素原子数が8~18、好ましくは12~16;直鎖及び分岐鎖のいずれでもよい)を有する、N-アシルメチルタウリン塩が挙げられる。α-オレフィンスルホン酸塩としては例えば、テトラデセンスルホン酸塩等の炭素原子数10~16のα-オレフィンスルホン酸塩が挙げられる。これらの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましい。
【0024】
アニオン界面活性剤の量は、口腔用組成物全量に対し通常0.01質量%以上である。これにより、より良好なステイン付着抑制効果を発現することができる。上限は、通常3質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下である。これにより、強い刺激感の発現を抑制できる。従って、アニオン界面活性剤の量は、通常0.01~3質量%、好ましくは0.01~0.5質量%、好ましくは0.01~0.3質量%である。
【0025】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、等のポリオキシエチレン高級アルコールエーテル;糖アルコール脂肪酸エステル;ソルビタン脂肪酸エステル;ポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが挙げられる。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド平均付加モル数は、通常20~150モル、好ましくは20~130モル、より好ましくは40~110モルである。
【0026】
ノニオン界面活性剤の量は、口腔用組成物全量に対し通常0.1質量%以上、好ましくは0.3質量%以上である。上限は、通常1質量%以下、好ましくは0.8質量%以下である。これらの範囲内であることにより、油溶成分のより良好な可溶化効果を得ることができる。従って、ノニオン界面活性剤の量は、好ましくは0.1~1質量%、好ましくは0.3~0.8質量%である。
【0027】
カチオン界面活性剤としては例えば、アルキルアンモニウム化合物、アルキルベンジルアンモニウム化合物等の4級アンモニウム化合物が挙げられる。両性界面活性剤としては例えば、アルキルアミドベタイン型両性界面活性剤;アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型両性界面活性剤;N-脂肪酸アシル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルエチレンジアミン塩等のイミダゾリン型両性界面活性剤が挙げられる。
【0028】
(湿潤剤)
口腔用組成物が湿潤剤を含むことにより、使用感をより向上させることができる。湿潤剤としては、例えば、ソルビトール、エリスリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール等の糖アルコール;及び、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコールが挙げられる。多価アルコールはグリセリン、プロピレングリコールが好ましく、糖アルコールはソルビトール、キシリトールが好ましい。
【0029】
湿潤剤の量は、口腔用組成物全量に対し通常3質量%以上、好ましくは5質量%以上である。上限は、通常40質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。これらの範囲内であることにより、使用感のより良好な向上効果を得ることができる。従って、湿潤剤の量は、通常3~40質量%、好ましくは3~30質量%、より好ましくは5~15質量%である。
【0030】
(pH調整剤)
口腔用組成物がpH調整剤を含むことにより、製剤のpH安定性を確保できる。本発明の前記(A)及び(C)成分は、組成物中、pH調整剤としても作用するが、必要に応じて他の任意のpH調整剤をさらに使用することができる。前記任意のpH調整剤としては、例えば、フタル酸、オルトリン酸、酢酸、炭酸、リボ核酸、これらの塩(好ましい例は(A)成分と同様、好ましくはカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩)、水酸化ナトリウム、塩酸等が挙げられ、好ましくはオルトリン酸又はその塩、より好ましくはリン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カリウムである。任意のpH調整剤を使用する場合、その量は、25℃におけるpHを5.5~8.5、好ましくは6~8に調整できる量とすることができる。pH調整は、クエン酸又はその塩を使用することが好ましく、更にオルトリン酸塩を併用することが好ましい。pHは、口腔用組成物を調製した直後に東亜ディーケーケー社製のpHメーター(型番HM-25R)を用い、25℃、3分後に測定することができる。本発明の口腔用組成物のpHを前記範囲とすることにより、歯のエナメル質の脱灰を抑制でき、有効性及び安定性を保持することができる。
【0031】
(防腐剤)
口腔用組成物が防腐剤を含むことにより、製剤の防腐力を確保できる。防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチルやパラオキシ安息香酸エチル等のパラオキシ安息香酸エステル;安息香酸ナトリウム;塩酸アルキルジアミノエチルグリシン;ソルビン酸カリウムが挙げられる。
【0032】
(甘味剤)
口腔用組成物が甘味剤を含むことにより、使用感をより向上させることができる。甘味剤としては、例えば、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、ソルビトール等の糖アルコール;及び、サッカリン、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア、ネオヘスペリジンヒドロカルコン、グリチルリチン、ペリラルチン、p-メトキシシンナミックアルデヒド、ソーマチン等の高甘味度甘味料が挙げられる。
【0033】
(香料)
口腔用組成物が香料を含むことにより、使用感を向上させることができ、使用後初期の刺激を抑制させることができる。香料としては例えば、メントール及びカルボンを含有する香料が挙げられるが、口腔用組成物に用いられる香料であればいずれでもよく、特に限定されない。メントール及びカルボンを含有する香料におけるメントール及びカルボンの含有量は、10~80質量%が好ましい。これらを含有するペパーミント油、和種ハッカ油、スペアミント油等の精油を使用することもできる。香料の量は、口腔用組成物全量に対し通常0.00001質量%以上であり、上限は通常3質量%以下であるが、特に限定されない。
【0034】
(有効成分)
有効成分としては、例えば、トラネキサム酸、イプシロン-アミノカプロン酸等の抗炎症剤;デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、リテックエンザイム等の酵素;フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一錫等のフッ素含有化合物;アルミニウムクロルヒドロキシアラントイン、アラントイン等のアラントイン又はその誘導体;アスコルビン酸等のビタミンC類;タイム、オウゴン、チョウジ、ハマメリス等の植物抽出物;塩化ストロンチウム、硝酸カリウム、乳酸アルミニウム等の知覚過敏抑制剤;アズレン、塩化リゾチーム、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン塩類、グリチルレチン酸類、ヒドロコレステロール、クロロフィル、銅クロロフィリンナトリウム、グルコン酸銅、カロペプタイド、水溶性無機リン酸化合物、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ラウロイルサルコシンナトリウム、歯石防止剤、歯垢防止剤が挙げられるが、口腔用組成物に用いられる有効成分であればいずれでもよく、特に限定されない。上記有効成分の含有量は、常法に従って有効量を適宜設定できる。
【0035】
(溶剤)
口腔用組成物が液状の剤形の場合、通常は溶剤を含む。溶剤としては、例えば、水(例、精製水)、アルコール(例、エタノール等の低級一価アルコール)が挙げられ、通常は水であり、必要に応じてアルコールが配合され得るが、剤型が液体の口腔用組成物に用いられる溶剤であればいずれでもよく、特に限定されない。溶剤としてエタノールを添加する場合、その量は口腔用組成物全量に対し通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下であるが、添加しなくともよい。この範囲であることにより、使用中の口臭抑制実感を向上させることができる。
【0036】
(粘結剤)
粘結剤としては、従来公知の任意好適な有機粘結剤、例えば、多糖類、セルロース系粘結剤(例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カチオン化セルロース等)、その他の多糖系増粘剤(例、キサンタンガム、グアガム、ジェランガム、トラガントガム、カラヤガム、アラビヤガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム)、合成水溶性高分子(例、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、アルギン酸プロピレングリコール)が挙げられる。さらには増粘性シリカ、ケイ酸アルミニウム等の無機粘結剤を含有させることもできる。粘結剤を配合する場合の含有量は、口腔用組成物の全量に対して、通常、0.01~10質量%である。
【0037】
(研磨剤)
研磨剤は、無機研磨剤及び有機研磨剤のいずれでもよい。無機研磨剤としては、例えば、沈降性シリカ、アルミノシリケート、ジルコノシリケート、結晶性ジルコニウムシリケート、チタン結合性シリカ等の研磨性シリカ;第2リン酸カルシウム・2水和塩又は無水和物、第1リン酸カルシウム、第3リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム等のリン酸カルシウム系化合物;炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム系研磨剤;水酸化カルシウム、硫酸カルシウム等の、炭酸/リン酸以外のカルシウム系研磨剤;酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミナ等のアルミニウム系材料;無水ケイ酸、ゼオライト、ケイ酸ジルコニウム等のケイ酸系材料;炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム等のマグネシウム系材料;ハイドロキシアパタイト、フルオロアパタイト、カルシウム欠損アパタイト等のアパタイト系材料;二酸化チタン、雲母チタン、酸化チタン等のチタン系材料;ベントナイト等の鉱物が挙げられる。有機研磨剤としては、例えば、ポリメチルメタアクリレート、合成樹脂系研磨剤が挙げられる。これらのうち、シリカ系研磨剤が好ましい。研磨剤を配合する場合の含有量は、口腔用組成物の全量に対して、通常、70質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは8~50質量%である。
【0038】
本発明の口腔用組成物の使用方法は特に規定されない。液体口腔用組成物の場合、例えば、口に適量を含んで数十秒間口をすすぐ方法が挙げられる。また洗口後に歯をブラッシングすることもできる。
【0039】
<用途>
口腔用組成物は、口腔用組成物を歯に適用することにより、ステイン付着を抑制できることから、ステイン付着改善剤の用途において有用である。適用対象者は、特に限定されない。例えば、紅茶や緑茶、コーヒーなどの飲食物によるステインの付着を改善したいと考えている対象者、これらの症状は発症していないが予防したいと考えている対象者などが挙げられる。
【0040】
<口腔用組成物の製造法>
本発明の口腔用組成物は、上述した成分を混合することにより製造することができる。成分を混合する順序は特に制限されないが均一となるように混合することが好ましい。
【0041】
[2.刺激緩和剤]
上記の(B)成分である(N-(2-(2-ピリジニル)エチル)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボキサミド)は、口腔用組成物に含まれる刺激成分の刺激緩和剤として有用である。刺激成分としては、例えば、上記の(A)成分である縮合リン酸、フィチン酸、及びそれらの塩から選ばれる1種以上のほか、これらと構造が類似している刺激成分が挙げられるが、口腔用組成物に含まれ得る成分で使用時に刺激を発する成分であれば特に限定されない。刺激緩和剤の使用量は、口腔用組成物における刺激成分による刺激が抑制される量であればよく、上記(B)成分の量として例示した量であればよい。また、口腔用組成物は、刺激成分を含む口腔用組成物であればよく、刺激成分が(A)成分の場合には、上述の(A)成分の量として例示した量を含有する口腔用組成物が好ましい。口腔用組成物の剤形、必要に応じて含有してもよい任意成分は、特に限定されない。
【0042】
[3.刺激成分を含む口腔用組成物]
上記の(B)成分である(N-(2-(2-ピリジニル)エチル)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボキサミド)は、刺激緩和剤として有用であることから、刺激緩和成分として、刺激成分と共に口腔用組成物の必須成分とすることができる。刺激成分は、刺激緩和剤の説明で例示した量であればよい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。なお、「%」は別途明示のない限り、「質量%」を意味する。以下の表に示す各成分の配合量は、純分換算した値(AI)である。また、水の量(バランス)には、各成分の持込水分量が含まれている。
【0044】
以下、用いた主な原料の情報は以下のとおりである。
・ピロリン酸ナトリウム(太平化学産業(株)製)
・Evercool(登録商標)190(N-(2-(2-ピリジニル)エチル)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンカルボキサミド、ジボダンジャパン社製)
・Evercool(登録商標)180((1R,2S,5R)‐N-(4-(シアノメチル)フェニル)-2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサン-カルボキサミド、ジボダンジャパン社製)
・WS-3(N-エチル-p-メンタン-3-カルボキシアミド、シムライズジャパン社製)
・ラウロイルサルコシンナトリウム(川研ファインケミカル(株)製)
・グリセリン(坂本薬品工業(株)製)
・ソルビット液(三菱商事ライフサイエンス(株)製)
・エタノール(日本アルコール産業(株)製)
・サッカリンナトリウム(愛三化学工業(株)製)
・ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油100E.O.(日本エマルジョン(株)製)
・ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60E.O.(日本エマルジョン(株)製)
・ラウリル硫酸ナトリウム(PT BASF Indonesia製)
・クエン酸(小松屋(株)製)
・クエン酸ナトリウム(小松屋(株)製)
【0045】
・香料
表1に記載の組成の香料を用いた。
【0046】
【0047】
・精製水(小堺製薬(株)製)
その他の成分については医薬部外品原料規格2006に適合したものを用いた。
【0048】
[実施例1~20及び比較例1~4]
<洗口液の調製方法>
表2~5に示す組成(表中の各成分の含有量の単位:質量%)に従い、各成分を均一に混合することにより洗口液を調製した。具体的には、エタノールにPOE硬化ヒマシ油を加えて攪拌させたのちに香料を溶かし込んだ油層を用意し、他の成分を精製水に溶かし込んだ水層に油層を加え、スリーワンモーター(BL1200、HEIDON社製)を用い均一に溶解して洗口液を調製した。調製された洗口液のpH(25℃)は6.5~8.0であった。
【0049】
<評価方法>
(1.ステイン付着抑制効果)
未処置のハイドロキシアパタイトペレット(HAP)表面(HOYA株式会社製、直径7mm×厚さ3.5mm)を研磨紙にて処理、超音波洗浄機で洗浄した後、初期色差を測色色差計(UV-1800、島津製作所製)にて測定した。次に、このHAPを37℃にて唾液上清に30分間浸漬した後、(1)ムチン1%人工唾液水溶液(50℃10分間)、(2)アルブミン1%人工唾液溶液(50℃10分間)、(3)サンプル(室温30秒間)、(4)ステイン溶液(紅茶粉末1%水溶液)(50℃10分間)の条件で(1)~(4)を10回繰り返した。その後、水洗いし乾燥させたHAPの着色後色差を測定した。L*a*b*表色系のΔbから、下記式によりステイン付着抑制率を算出した。なお、式中のコントロールはサンプルの代わりに精製水を用いて上記と同様の一連の操作を行ったものであり、このHAPの色差を測定して同様にΔbを求めた。
【0050】
一連の実験操作は各実施例及び比較例につき、N=3で行い、各HAPのステイン付着抑制率を下記式にて算出してその平均値を算出し、下記の評価基準にてステイン付着抑制効果を評価した。
【0051】
(式)
ステイン付着抑制率(%)={1-(サンプルの色差変化量Δb/コントロールの色差変化量Δb)}×100
【0052】
・ステイン付着抑制効果の判定基準
+++:ステイン付着抑制率が90%以上100%以下
++:ステイン付着抑制率が70%以上90%未満
+:ステイン付着抑制率が50%以上70%未満
±:ステイン付着抑制率が30%以上50%未満
-:ステイン付着抑制率が30%未満
【0053】
(2.刺激感のなさ)
洗口剤20mLを口に含み、20秒間すすいだ後の刺激感の強さについて下記の4段階で評価し、10名の平均点を次の基準に従い、++、+、±、-で示した。
【0054】
・刺激感のなさの評価基準
4点:刺激感を感じなかった
3点:刺激感をほとんど感じなかった
2点:刺激感を感じた
1点:刺激感を非常に強く感じた
・刺激感のなさの判定基準
++:平均点3.5点以上4.0点以下
+:平均点3.0点以上3.5点未満
±:平均点2.0点以上3.0点未満
-:平均点2.0点未満
【0055】
(3.刺激感のなさの持続性)
洗口剤20mLを口に含み、20秒間すすいだ後、「刺激感」を感じなかった時間について下記の4段階で評価し、10名の平均点を次の基準に従い、++、+、±、-で示した。
【0056】
・刺激感のなさの持続性の評価基準
4点:25分以上(刺激は感じなかった)
3点:15分以上25分未満
2点:5分以上15分未満
1点:5分未満
【0057】
・刺激感のなさの持続性の判定基準
++:平均点3.5点以上4.0点以下
+:平均点3.0点以上3.5点未満
±:平均点2.0点以上3.0点未満
-:平均点2.0点未満
【0058】
(4.香味発現のよさ)
洗口液20mLを口に含み、20秒間すすいだ後、洗口中の香味発現のよさについて、下記4段階で評価し、10名の平均点を次の基準に従い、++、+、±、-で示した。
・香味発現のよさの評価基準
4点:香味発現が非常に良い
3点:香味発現が良い
2点:香味発現があまり良くない
1点:香味発現が良くない
【0059】
・香味発現のよさの判定基準
++:平均点が3.5点以上4.0点以下
+:平均点が3.0点以上3.5点未満
±:平均点が2.0点以上3.0点未満
-:平均点が1.0点以上2.0点未満
【0060】
(5.製剤の外観安定性の評価)
調製した製剤を容量80mLの容器に充填し、-5℃の温度条件下に1ヶ月間静置し、外観、性状を目視評価にて判定した。
【0061】
・製剤の外観安定性の判定基準
++:析出物やニゴリが認められない
+:析出物やニゴリがほとんど認められない
±:析出物やニゴリが認められる
-:顕著に析出物やニゴリが認められる
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
A及びB成分のいずれかを含まない比較例1~4においては、ステイン付着抑制効果がない、刺激感がある、又は、刺激感のなさが多少あっても持続しないといった問題があったのに対し、A及びB成分を含む実施例1~20では、ステイン付着抑制効果、刺激感のなさ、刺激感のなさの持続性のいずれの評価においても良好な結果が得られ、さらに香味発現、製剤の外観安定性の面でも良好な結果であった。このことは、本発明の口腔用組成物が、歯牙のステイン付着を抑制でき、また、刺激感を抑制できかつ抑制効果を持続させることできることを示している。
【0067】
処方例として練歯磨剤の処方例を表6に示す。
【0068】