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特許7657234相間移動触媒作用の利用によって硫黄含有シランを製造するための方法
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  • 特許-相間移動触媒作用の利用によって硫黄含有シランを製造するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-27
(45)【発行日】2025-04-04
(54)【発明の名称】相間移動触媒作用の利用によって硫黄含有シランを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20250328BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250328BHJP
【FI】
C07F7/18 W
C07B61/00 300
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022547974
(86)(22)【出願日】2021-01-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-29
(86)【国際出願番号】 EP2021051582
(87)【国際公開番号】W WO2021156085
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2024-01-11
(31)【優先権主張番号】20155923.4
(32)【優先日】2020-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヘルムート ドレーゲ
(72)【発明者】
【氏名】ユリア ヘアメーケ
(72)【発明者】
【氏名】エリザベート バウアー
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-521946(JP,A)
【文献】米国特許第06448426(US,B1)
【文献】特表2012-520830(JP,A)
【文献】特開平10-001488(JP,A)
【文献】特開平10-130283(JP,A)
【文献】特開平02-304061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ:
(a) 硫化水素ナトリウムもしくは硫化ナトリウム、硫黄、NaCO、および/またはNaOHと、ステップ(f)のブラインおよび任意選択的にステップ(h)の水性懸濁液とを混合することによって水相調製物を調製するステップ、
(b) 相間移動触媒の総量の20~100重量%を添加するステップ、
(c) ハロゲンアルキルシランを連続的または回分式に添加し、
同時に、相間移動触媒の総量の残りを、回分式または連続的に添加するステップ、
(d) 任意選択的にステップ(f)からのブラインを添加し、
任意選択的にステップ(h)からの水性懸濁液を添加し、
任意選択的にステップ(k)からの固体残留物を添加し、
相を下部の水性懸濁液および上部の有機相に分離し、前記有機相を抜き取るステップ、
(e) ステップ(d)からの水性懸濁液を供給し、
任意選択的にステップ(h)からの水性懸濁液を添加し、
塩ケーキおよびブラインに分離するステップ、
(f) ステップ(e)の前記ブラインの全てまたは一部をステップ(a)に再循環させ、任意選択的にステップ(d)に再循環させるステップ、
(g) 任意選択的に、ステップ(e)からの前記ブラインの残りを蒸留して、水性蒸留物および水性懸濁液を生成するステップ、
(h) 任意選択的に、ステップ(g)の前記水性懸濁液をステップ(a)および/または(d)および/または(e)に再循環させるステップ、
(i) ステップ(d)の前記有機相を蒸発ステップに送って、有機残留物および低沸点蒸留物を生成するステップ、
(j) 前記蒸発ステップ(i)からの前記有機残留物を硫黄含有シランおよび固体残留物に分離するステップ、
(k) 任意選択的に、ステップ(j)の前記固体残留物をステップ(d)に再循環させるステップ
による、硫黄含有シランを製造するための方法であって、
前記硫黄含有シランが、式I’:
(R Si-R -S -R -Si(R I’
[式中、R は、同一であるかまたは異なり、C1~C10アルコキシ基であり、
は、同一であるかまたは異なり、分岐状または非分岐状の、飽和または不飽和の、脂肪族、芳香族または混合脂肪族/芳香族の2価C1~C30炭化水素基であり、
xは、2~10である]
のポリスルファンシランである、前記方法
【請求項2】
前記相間移動触媒が、一般式:
[(Alk)N]Hal
[式中、Alkは、類似したまたは異なるC~C10炭化水素であり得て、Halは、塩化物、ヨウ化物、または臭化物であり得る]
のハロゲン化テトラアルキルアンモニウムであることを特徴とする、請求項1記載の硫黄含有シランを製造するための方法。
【請求項3】
前記相間移動触媒が臭化テトラブチルアンモニウムであることを特徴とする、請求項1記載の硫黄含有シランを製造するための方法。
【請求項4】
ステップ(d)で、相分離の前または最中に、ステップ(f)のブラインの追加量を相分離機に添加できることを特徴とする、請求項1記載の硫黄含有シランを製造するための方法。
【請求項5】
ステップ(d)で、相分離の前または最中に、ステップ(h)からの水性懸濁液を添加できることを特徴とする、請求項1記載の硫黄含有シランを製造するための方法。
【請求項6】
ステップ(d)で、相分離の前または最中または後に、ステップ(k)の固体残留物を添加できることを特徴とする、請求項1記載の硫黄含有シランを製造するための方法。
【請求項7】
ステップ(f)で、前記ブラインの5~100重量%をステップ(a)に再循環させ、前記ブラインの0~95重量%をステップ(d)に再循環させることを特徴とする、請求項1記載の硫黄含有シランを製造するための方法。
【請求項8】
ステップ(h)で、前記水性懸濁液の0~100重量%をステップ(a)に再循環させ、前記水性懸濁液の0~100重量%をステップ(d)に再循環させ、前記水性懸濁液の0~100重量%をステップ(e)に再循環させることを特徴とする、請求項1記載の硫黄含有シランを製造するための方法。
【請求項9】
前記方法がバッチ式であることを特徴とする、請求項1記載の硫黄含有シランを製造するための方法。
【請求項10】
ステップ(a)および/またはステップ(d)で添加されるステップ(f)の前記ブラインが、任意の前のバッチのものであることを特徴とする、請求項1記載の硫黄含有シランを製造するための方法。
【請求項11】
ステップ(a)および/またはステップ(d)および/またはステップ(e)で添加されるステップ(h)の前記水性懸濁液が、任意の前のバッチのものであることを特徴とする、請求項1記載の硫黄含有シランを製造するための方法。
【請求項12】
ステップ(d)で添加されるステップ(k)の前記固体残留物が、任意の前のバッチのものであることを特徴とする、請求項1記載の硫黄含有シランを製造するための方法。
【請求項13】
再循環ステップで、ステップ(f)のブライン、および/またはステップ(h)の水性懸濁液、および/またはステップ(k)の固体残留物を任意の連続的なバッチに供給することを特徴とする、請求項1記載の硫黄含有シランを製造するための方法。
【請求項14】
ステップ(e)で、前記分離の前または最中に、ステップ(h)からの水性懸濁液を添加できることを特徴とする、請求項1記載の硫黄含有シランを製造するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相間移動触媒作用の利用によって硫黄含有シランを生成する方法を説明するものである。
【0002】
硫黄シランを生成するための方法の変形例の1つの分野では、相間移動触媒を利用して、水相と有機相との間でアニオンを交換する。反応における塩の存在が、米国特許第5468893号明細書に記載されており、その一方で、米国特許第5663396号明細書には、反応における飽和NaCl溶液の使用が言及されている。
【0003】
中国特許第103772427号明細書、中国特許出願公開第103788121号明細書、および中国特許出願公開第1038704410号明細書では、水相の形成中にNaClが使用され、またかなりの量の水も使用されるため、クロロプロピルトリエトキシシランの添加前に非飽和溶液が生じ、おそらくは、反応後に浮遊物質含有量がまったくまたはほとんどない飽和またはほぼ飽和の溶液が生じる。反応後に、反応混合物は、水相と有機相との間で相分離を起こす。
【0004】
中国特許第103787373号明細書には、酸化、熱処理、濾過、および多重効用蒸発による水相の処理が記載されている。
【0005】
相間移動触媒を使用して硫黄シランを生成する既知の方法では、副生成物NaClは、飽和またはほぼ飽和の水溶液として存在する。世界の多くの地域では、環境規制によって、公共の廃水処理施設または水域への大量のNaClの排出が禁止されている。このことから、完全な水相を蒸留によってそれらの成分に分離することが必要とされ、そのため、多額の投資およびエネルギの大量消費がもたらされる。
【0006】
相間移動触媒は、クロロプロピルトリエトキシシランを添加する前に1回のステップで添加されると記載されている。保持時間が長いため、これによって、反応中に触媒の一部の分解がもたらされ、したがって、その後の触媒消費量がより多くなる。
【0007】
妥当な時間内に反応を完了に向けて促進するためには、一部の原材料を他の原材料にモル過剰で添加する必要がある。これによって、特定量の1つ以上の未反応の原材料が、水相中に存在することになり、反応後に破壊されるため、同等以上の原材料の使用量が生じる。
【0008】
既知の方法では、それらの反応に純水が使用される。この水は、供給、蒸発、凝縮、および処理する必要があり、プロセスにコストが追加される。さらに、反応器に水を添加すると、生成物の単位あたりの反応体積が必要以上に大きくなる。
【0009】
反応の水相は後続のバッチに再循環されないため、反応から残った硫化物を無害化する必要があり、そのため、廃塩において、かなりの量の処理薬品およびかなりの量の硫酸塩が消費される。
【0010】
本発明の対象は、水相の調製中に純水を使用しない方法を提供することである。これによって、水の消費量がかなり減り、蒸留によって水を脱塩するための、かつ生物学的処理施設での蒸留物を処理するための機器およびエネルギのコストがわずかになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の例示的な方法の図である。
【0012】
本発明の対象は、以下のステップ:
(a) 硫化水素ナトリウムもしくは硫化ナトリウム、硫黄、NaCO、および/またはNaOHと、ステップ(f)のブラインおよび任意選択的にステップ(h)の水性懸濁液とを混合することによって水相調製物を調製するステップ、
(b) 相間移動触媒の総量の20~100重量%を添加するステップ、
(c) ハロゲンアルキルシランを連続的または回分式に添加し、同時に、相間移動触媒の総量の残りを、回分式または連続的に、好ましくは連続的に添加するステップ、
(d) 任意選択的にステップ(f)からのブラインを添加し、
任意選択的にステップ(h)からの水性懸濁液を添加し、
任意選択的にステップ(k)からの固体残留物を添加し、
相を下部の水性懸濁液および上部の有機相に分離し、有機相を抜き取るステップ、
(e) ステップ(d)からの水性懸濁液を供給し、
任意選択的にステップ(h)からの水性懸濁液を添加し、
塩ケーキ(salt cake)およびブラインに分離するステップ、
(f) ステップ(e)のブラインの全てまたは一部をステップ(a)に再循環させ、任意選択的にステップ(d)に再循環させるステップ、
(g) 任意選択的に、ステップ(e)からのブラインの残りを蒸留して、水性蒸留物および水性懸濁液を生成するステップ、
(h) 任意選択的に、ステップ(g)の水性懸濁液をステップ(a)および/または(d)および/または(e)に再循環させるステップ、
(i) ステップ(d)の有機相を蒸発ステップに送って、有機残留物および低沸点蒸留物を生成するステップ、
(j) 蒸発ステップ(i)からの有機残留物を硫黄含有シランおよび固体残留物に分離するステップ、
(k) 任意選択的に、ステップ(j)の固体残留物をステップ(d)に再循環させるステップ
による、硫黄含有シランを製造するための方法である。
【0013】
ステップ(g)および/または(i)の蒸留物は無害化することができる。プロセスステップ(g)および(i)からの蒸留物中に存在するいずれの硫化物も、適切な量の過酸化水素および水酸化ナトリウムを添加することによって無害化することができる。
【0014】
硫黄含有シランは、式I:
(R3-m Si-R-S-R-SiR (R3-m
[式中、Rは、同一であるかまたは異なり、C1~C10アルコキシ基、好ましくは、エトキシ、フェノキシ基、またはアルキルポリエーテル基-O-(R‘-O)R‘‘であり、ここで、R‘は、同一であるかまたは異なり、分岐状または非分岐状の、飽和または不飽和の、脂肪族、芳香族または混合脂肪族/芳香族の2価C1~C30炭化水素基、好ましくはCHCHであり、rは、1~30の整数であり、R‘‘は、非置換または置換の、分岐状または非分岐状の1価アルキル基、好ましくは、非置換C8~C15アルキル基、アルケニル基、アリール基、またはアラルキル基であり、
は、同一であるかまたは異なり、C6~C20アリール基、C1~C10アルキル基、C2~C20アルケニル基、C7~C20アラルキル基、またはハロゲンであり、
は、同一であるかまたは異なり、分岐状または非分岐状の、飽和または不飽和の、脂肪族、芳香族または混合脂肪族/芳香族の2価C1~C30炭化水素基であり、
mは、同一であるかまたは異なり、0、1、2または3、好ましくは0であり、xは、2~10、好ましくは2~4である]
のポリスルファンシランであり得る。
【0015】
ステップ(a)
このプロセスステップの目的は、必要な水性試薬の調製である。
【0016】
ステップ(a)における硫化水素ナトリウムは、水溶液または水和物形態であり得る。
【0017】
ステップ(a)における硫化ナトリウムは、水溶液または水和物形態であり得る。
【0018】
硫化水素ナトリウム、硫黄、ならびに塩基NaCOおよび/またはNaOHは、以下の式:
【化1】
によって反応して、多硫化ナトリウムを形成することができる。
【0019】
硫化水素ナトリウム水溶液は、水中で硫化水素ナトリウムが30~50重量%、好ましくは39~43重量%の溶液であり得る。
【0020】
ステップ(a)に添加すべきステップ(f)からのブラインは、プロセス塩(process salts)と相間移動触媒との飽和水溶液を含有し得る。
【0021】
任意選択的にステップ(a)に添加すべきステップ(h)の水性懸濁液は、プロセス塩と、相間移動触媒と、固体のプロセス塩と、固体相間移動触媒との飽和水溶液を含有し得る。
【0022】
混合ステップ(a)は、23~90℃の温度で、好ましくは70~85℃で行うことができるであろう。
【0023】
ステップ(b)
相間移動触媒は、固体であり得るか、または20~80重量%、好ましくは40~60重量%、より好ましくは50重量%の水溶液であり得る。
【0024】
相間移動触媒は、一般式:
[(Alk)N]Hal
[式中、Alkは、類似したまたは異なるC~C10炭化水素、好ましくはC~C炭化水素であり得て、Halは、塩化物、ヨウ化物、または臭化物、好ましくは臭化物であり得る]
のハロゲン化テトラアルキルアンモニウムであり得る。
【0025】
相間移動触媒は、好ましくは臭化テトラブチルアンモニウムであり得る。
【0026】
ステップ(b)では、相間移動触媒の総量の20~100重量%、好ましくは30~80重量%、最も好ましくは40~60重量%を添加することができるであろう。
【0027】
ステップ(c)
ステップ(c)は、40~100℃の温度で、好ましくは70~85℃で行うことができるであろう。
【0028】
ステップ(c)では、ハロゲンアルキルシランは、Nan+1と反応することができるであろう。
【0029】
ハロゲンアルキルシランは、(R3-m Si-R-Halであり得て、ここで、R、R、R、およびmは、先に述べた通りであり、Halは、ハロゲン、好ましくは塩素である。
【0030】
ハロゲンアルキルシランは、
3-クロロブチル(トリエトキシシラン)、3-クロロブチル(トリメトキシシラン)、3-クロロブチル(ジエトキシメトキシシラン)、3-クロロプロピル(トリエトキシシラン)、3-クロロプロピル(トリメトキシシラン)、3-クロロプロピル(ジエトキシメトキシシラン)、2-クロロエチル(トリエトキシシラン)、2-クロロエチル(トリメトキシシラン)、2-クロロエチル(ジエトキシメトキシシラン)、1-クロロメチル(トリエトキシシラン)、1-クロロメチル(トリメトキシシラン)、1-クロロメチル(ジエトキシメトキシシラン)、3-クロロプロピル(ジエトキシメチルシラン)、3-クロロプロピル(ジメトキシメチルシラン)、2-クロロエチル(ジエトキシメチルシラン)、2-クロロエチル(ジメトキシメチルシラン)、1-クロロメチル(ジエトキシメチルシラン)、1-クロロメチル(ジメトキシメチルシラン)、3-クロロプロピル(エトキシジメチルシラン)、3-クロロプロピル(メトキシジメチルシラン)、2-クロロエチル(エトキシジメチルシラン)、2-クロロエチル(メトキシジメチルシラン)、1-クロロメチル(エトキシジメチルシラン)、1-クロロメチル(メトキシジメチルシラン)、
【化2-1】
【0031】
【化2-2】
【0032】
【化2-3】
【0033】
【化2-4】
であり得る。
【0034】
ステップ(c)では、相間移動触媒の総量の0~80重量%、好ましくは40~60%を添加することができるであろう。
【0035】
ステップ(d)
相分離の時間は、60秒~24時間、好ましくは20分~120分であり得る。
【0036】
相分離の前または最中に、ステップ(f)のブラインの追加量を相分離機に添加することができる。任意選択的にステップ(d)に添加されるステップ(f)からのブラインは、プロセス塩と相間移動触媒との飽和水溶液を含有し得る。
【0037】
相分離の前または最中に、ステップ(h)からの水性懸濁液を添加することができる。任意選択的にステップ(d)に添加されるステップ(h)の水性懸濁液は、プロセス塩と、相間移動触媒と、固体のプロセス塩と、固体相間移動触媒との飽和水溶液を含有し得る。
【0038】
相分離の前、または最中、または後に、ステップ(k)の固体残留物を添加することができる。任意選択的にステップ(d)に添加されるステップ(k)の固体残留物は、固体のプロセス塩および固体相間移動触媒を含有し得る。
【0039】
相分離は、遠心力または重力を使用して行うことができる。相分離は、容器内で行うことができる。相分離は、遠心分離機内で行うことができる。
【0040】
相分離に重力を使用する場合、有機相を側部排出口から抜き取ることができるであろう、かつ/または下部の水性懸濁液相を底部から抜き取ることができる。相分離は、ヌッチェフィルタ内で行うことができる。
【0041】
ステップ(e)
ステップ(d)からの水性懸濁液の、塩ケーキおよびブラインへの分離は、沈降または濾過によって行うことができるであろう。デカンタ型遠心分離機を沈降に使用することができる。濾過は、真空フィルタ内で行うことができる。濾過は、圧力フィルタ内で行うことができる。濾過は、ヌッチェフィルタ内で行うことができる。ステップ(d)で使用されるヌッチェフィルタは、ステップ(e)で使用されるヌッチェフィルタと同じであってもよい。
【0042】
任意選択的にステップ(e)に添加されるステップ(h)の水性懸濁液は、プロセス塩と、相間移動触媒と、固体のプロセス塩と、固体相間移動触媒との飽和水溶液を含有し得る。
【0043】
ステップ(f)
ブラインの5~100重量%、好ましくは10~50重量%をステップ(a)に再循環させることができるであろう。
【0044】
ブラインの0~95重量%、好ましくは10~50重量%をステップ(d)に再循環させることができるであろう。
【0045】
ステップ(g)
ステップ(e)のブラインをブライン蒸留において濃縮して、水性蒸留物と、プロセス塩を含有する水性懸濁液とを得ることができるであろう。ブライン蒸留は、頂部に付けた撹拌容器内で行うことができる。ブライン蒸留は、多重効用蒸発器内で行うことができる。蒸留の加熱は、間接燃焼、蒸気、または無機もしくは有機の伝熱流体を使用して行うことができる。凝縮は、直接的または間接的に、好ましくは冷却水を用いて間接的に行うことができる。系の加熱および凝縮は、蒸気圧縮を使用して達成することができる。蒸留中の圧力は、絶対圧8mbar~絶対圧3000mbar、好ましくは絶対圧30~1050mbar、最も好ましくは絶対圧200~500mbarであり得る。プロセス塩とブラインとを含有する水性懸濁液は、40~73重量%、好ましくは50~68重量%の含水量を有し得る。
【0046】
ステップ(h)
水性懸濁液の0~100重量%、好ましくは0重量%をステップ(a)に再循環させることができるであろう。
【0047】
水性懸濁液の0~100重量%をステップ(d)に再循環させることができるであろう。
【0048】
水性懸濁液の0~100重量%をステップ(e)に再循環させることができるであろう。
【0049】
ステップ(i)
蒸発ステップは、容器内で行うことができる。蒸発ステップは、薄膜蒸発器内で行うことができる。蒸発ステップは、ショートパスエバポレーター内で行うことができる。蒸発中の圧力は、絶対圧5~500mbar、好ましくは絶対圧10~50mbarであり得る。
【0050】
ステップ(j)
蒸留ステップ(i)中に有機相に沈殿した塩は、生成物研磨ステップにおいて除去することができる。固体沈殿物は、固体として除去することも、またはスラリー中に懸濁させることもできる。清澄化された液体(生成物)は、最終的な清澄化のために、任意選択的な活性炭床および研磨フィルタを通過することができる。生成物研磨のための装置は、フィルタまたは遠心分離機の1つまたは組み合わせであり得る。
【0051】
ステップ(k)
ステップ(j)で分離されてステップ(d)に戻される固体残留物の固体含有量は、0~99重量%、好ましくは10~90重量%であり得る。
【0052】
この方法は、連続的に行うことも、またはバッチ式で行うこともできる。異なるプロセスステップを機器の異なる部分で実行する場合、これらは、連続的なバッチについて同時に行うことができる。
【0053】
ステップ(a)および/またはステップ(d)で添加されるステップ(f)のブラインは、任意の前のバッチのものであり得る。
【0054】
ステップ(a)および/またはステップ(d)および/またはステップ(e)で添加されるステップ(h)の水性懸濁液は、任意の前のバッチのものであり得る。
【0055】
ステップ(d)で添加されるステップ(k)の固体残留物は、任意の前のバッチのものであり得る。
【0056】
ステップ(a)および/もしくはステップ(d)で添加されるステップ(f)のブライン、ならびに/またはステップ(a)および/もしくはステップ(d)および/もしくはステップ(e)で添加されるステップ(h)の水性懸濁液、ならびに/またはステップ(d)で添加されるステップ(k)の固体残留物は、任意の前のバッチのものであり得る。
【0057】
再循環ステップでは、ステップ(f)のブラインを任意の連続的なバッチに供給することができる。
【0058】
再循環ステップでは、ステップ(h)の水性懸濁液を任意の連続的なバッチに供給することができる。
【0059】
再循環ステップでは、ステップ(k)の固体残留物を任意の連続的なバッチに供給することができる。
【0060】
再循環ステップでは、ステップ(f)のブライン、および/またはステップ(h)の水性懸濁液、および/またはステップ(k)の固体残留物を任意の連続的なバッチに供給することができる。
【0061】
例示的な方法を図1に示す。
【0062】
反応中に相間移動触媒を段階的または連続的に添加すると、触媒の保持時間が全体的により短くなり、したがって、分解によって失われる触媒の量がより少なくなり、触媒の総量を減少させることができる。
【0063】
反応の配合表は生成された副生成物の大部分が沈殿するように設定されているため、これらを溶液に保つために反応中に水は必要ない/少量必要である。したがって、反応装置および下流の機器は、既知の技術について予測されるよりもかなり小さくすることができ、したがって、投資のコストを削減することができる。
【0064】
先に述べたように、水相中の未反応の出発物質は、溶液中に留まる傾向がある。これによって、硫化物を含まない塩ケーキが生じる。したがって、副生成物として生成された塩は、硫化物を酸化するために処理される必要がなく、そのため、無害化のための機器および薬品のコストがわずかになる。
【0065】
本発明の方法では、水相の調製中にいかなる量の純水も使用されない/またはより少ない量の純水が使用される。その代わりに、前のバッチからのブラインの一部を使用して、反応混合物の固体成分を懸濁で保つための流体としても利用する。原材料によってプロセスに導入された水と反応で生成された水とだけを除去する必要がある。これによって、水の消費量がかなり減り、蒸留によって水を脱塩するための、かつ生物学的処理施設での蒸留物を処理するための機器およびエネルギのコストがわずかになる。
【0066】
水溶液中の出発物質および相間移動触媒の溶解度は、一般に、副生成物の溶解度よりも優れている。したがって、過剰に添加された残りの出発物質および相間移動触媒は、溶液中に留まる傾向があり、その一方で、副生成物は、フィルタケーキを構成する傾向がある。これらの価値ある原材料を含有するこのブラインは、連続的なバッチに再循環される。したがって、これらの原材料の所望の過剰性を維持しながら、バッチあたりの原材料および相間移動触媒の添加を低減させることができる。
【0067】
実施例
最終的な生成物の平均硫黄鎖長およびS2~S10の含有量を、以下のパラメーターで、Aglient Technologiesシリーズ1260 Infinity II HPLC装置を使用して、ASTM D6844-02によって決定した:
カラム:Bakerbond C18(RP)、5μm、4.6×250mm、流速1.50ml/分、λ=254nm、カラム温度30℃、移動相:200mlの臭化テトラブチルアンモニウム溶液(1lの脱イオン水中に入った400mgの臭化テトラブチルアンモニウムから作製)と、450mlのエタノールと、1350mlのメタノールとの混合物。
【0068】
例1(4,4,13,13-テトラエトキシ-3,14-ジオキサ-8,9-ジチア-4,13-ジシラヘキサデカン)再循環ステップなし(比較例)
炭酸ナトリウム(94.5g、0.89mol、1.153当量)、硫化水素ナトリウム水和物(112.9g、0.81mol、1.044当量、43%)、および水(286.0g、15.9mol、20.6当量)を72℃に加熱した。反応混合物を72℃で5~10分間撹拌する。続いて、70~75℃の温度を維持しながら硫黄(27.5g、0.86mol、1.112当量)を添加する。反応混合物を72℃で45分間撹拌した後に、臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAB、9.4g、15.5mmol、0.020当量、脱イオン水中で50%)および(3-クロロプロピル)トリエトキシシラン(CPTEO、372g、1.54mol、2.00当量)を、72~78℃の温度を維持しながら、反応混合物に添加した。懸濁液を75℃で3時間撹拌した。有機相中の(3-クロロプロピル)トリエトキシシランの変換率はGCによって決定し、98.6%であると見出された。次いで、水(412.5g)を添加して、全ての塩を溶解させ、これらの相を75℃で分離した。水相(0.94kg)は廃棄した。有機相を室温に冷却した後に、これを薄膜蒸発によって低沸点物質(light boilers)の除去にかけた。濾過後に、生成物は、2.17の平均硫黄鎖長および93.32%のS2~S10濃度を有する透明な黄色がかった液体として得られた。
【0069】
例2(4,4,13,13-テトラエトキシ-3,14-ジオキサ-8,9-ジチア-4,13-ジシラヘキサデカン)再循環ステップあり(本発明の例)
(a) 硫化水素ナトリウム溶液(102g、0.785mol、1.00当量、43%)、NaCO(83.2g、0.785mol、1.00当量)、およびブライン(f)(残りの試薬、相間移動触媒、および/または同じ配合表を使用した1つ以上の前の反応バッチからの生成物の飽和水溶液を含有する、291g)を混合し、72℃で10分間撹拌した。続いて、70℃~75℃の温度を維持しながら硫黄(28.0g、0.873mol、1.112当量)を添加した。反応混合物を72℃で45分間撹拌した後に、
(b) 臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAB、5.06g、7.9mmol、0.010当量、脱イオン水中で50%)を添加した。
【0070】
(c) 次いで、(3-クロロプロピル)トリエトキシシラン(CPTEO、378g、1.57mol、2.00当量)を、72~78℃の温度に維持しながら、6.3g/分の速度で反応混合物に添加する。懸濁液を75℃で3時間撹拌した。有機相中の(3-クロロプロピル)トリエトキシシランの変換率はGCによって決定し、98.2%であると見出された。
【0071】
(d) このステップの後に、424gのブライン(残りの試薬、相間移動触媒、および/または同じ配合表を使用した1つ以上の前の反応バッチからの生成物の水溶液を含有する)を添加し、これらの相を75℃で分離した。
【0072】
(e) その後、前のバッチのブライン蒸留からの水性懸濁液(h)を相分離ステップの水相に添加し、混合物を濾過して、塩ケーキ(176g)およびブライン(次のブライン再循環反応のための水溶液)をもたらした。
【0073】
(f) 残りのブライン(839g)を次のバッチで使用した。
【0074】
(g) このブライン130gを蒸留のためにロータリーエバポレーターに導入した。水を絶対圧300mbarで部分的に抜き取ると、水性懸濁液(85g)が残った。
【0075】
(h) 次のバッチで使用すべき。
【0076】
(i) 有機相を室温に冷却した後に、これを薄膜蒸発によって精製した。
【0077】
(j) 濾過後に、350gの生成物、93%の収率が、2.15の平均硫黄鎖長および95.16%のS2~S10濃度を有する透明な黄色がかった液体として得られた。
【0078】
例3(4,4,15,15-テトラエトキシ-3,16-ジオキサ-8,9,10,11-テトラチア-4,15-ジシラオクタデカン)再循環ステップなし(比較例)
水酸化ナトリウム(40.3g、1.01mol、0.97当量)、硫化水素ナトリウム水和物(142.1g、1.017mol、0.98当量、43%)、および水(79.2g、4.40mol、4,24当量)を72℃に加熱した。反応混合物を72℃で10分間撹拌した。続いて、硫黄(91.8g、2.87mol、2.76当量)を、70~75℃の温度を維持しながら2回に分けて添加した。反応混合物を72℃で15分間撹拌した後に、臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAB、8.7g、13.5mmol、0.013当量、脱イオン水中で50%)および(3-クロロプロピル)トリエトキシシラン(CPTEO499.7g、2.07mol、2.00当量)を、72~78℃の温度を維持しながら、反応混合物に添加する。
【0079】
懸濁液を75℃で2時間撹拌した。次いで、水(321g)を添加して、全ての塩を溶解させ、これらの相を75℃で分離した。水相(464g)は廃棄した。有機相を室温に冷却した後に、これを薄膜蒸発によって低沸点物質の除去にかけた。濾過後に、生成物は、3.72の平均硫黄鎖長および93.33%のS2~S10濃度を有する透明な黄色がかった液体として得られた。
【0080】
例4(4,4,15,15-テトラエトキシ-3,16-ジオキサ-8,9,10,11-テトラチア-4,15-ジシラオクタデカン)再循環ステップあり(本発明の例)
(a) 水酸化ナトリウム(40.2g、1.01mol、0.97当量)、硫化水素ナトリウム水和物(133g、1,017mol、0.98当量、43%)、およびブライン(残りの試薬、相間移動触媒、および/または同じ配合表を使用した1つ以上の前の反応バッチからの生成物の水溶液を含有する、79.3g)を72℃に加熱した。反応混合物を72℃で10分間撹拌した。続いて、硫黄(91.8g、2.86mol、2.76当量)を、70~75℃の温度を維持しながら2回に分けて添加した。反応混合物を72℃で15分間撹拌した後に、
(b) 臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAB、6.7g、10.4mmol、0.010当量、脱イオン水中で50%、4等分で添加)、
(c) および(3-クロロプロピル)トリエトキシシラン(CPTEO、500g、2.08mol、2.00当量、8.5g/分の速度での添加)を、72~78℃の温度を維持しながら、反応混合物に添加した。懸濁液を75℃で2時間撹拌した。
【0081】
(d) その後、ブライン(残りの試薬、相間移動触媒、および/または同じ配合表を使用した1つ以上の前の反応バッチからの生成物の水溶液を含有する、324.6g)を添加し、混合物を沈ませて相にして、これらを分離した。
【0082】
(e) 水性懸濁液を濾過し、塩ケーキおよびブライン(次のブライン再循環反応のための水溶液)をもたらした。
【0083】
(f) ブラインを次のバッチで使用した。
【0084】
(g) -
(h) -
(i) 有機相を室温に冷却した後に、これを薄膜蒸発によって低沸点物質の除去にかけた。
【0085】
(j) 濾過後に、生成物は、3.71の平均硫黄鎖長および94.11%のS2~S10濃度を有する透明な黄色がかった液体として得られた。
図1