(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-27
(45)【発行日】2025-04-04
(54)【発明の名称】ポリマー部材-無機基材複合体、その製造方法、及びそのためのポリマー部材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20250328BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20250328BHJP
【FI】
B32B27/00 A
B32B9/00 A
(21)【出願番号】P 2023012003
(22)【出願日】2023-01-30
(62)【分割の表示】P 2021505047の分割
【原出願日】2020-03-06
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2019043196
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019219698
(32)【優先日】2019-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【氏名又は名称】津田 英直
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】添田 淳史
(72)【発明者】
【氏名】池田 吉紀
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-116759(JP,A)
【文献】国際公開第2019/008898(WO,A1)
【文献】特開2018-141158(JP,A)
【文献】特開2016-212193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
G02B1/10-1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー部材であって、
1又は複数の熱変性ポリマー層を介して無機基材に接合されることによってポリマー部材-無機基材複合体を製造するために用いるものであり、前記1又は複数の熱変性ポリマー層は、50質量%以上のシクロオレフィン由来のモノマー部分を有するポリマーから形成されたポリマー層を酸素含有雰囲気中で加熱することにより熱変性されるものであり、
前記ポリマー部材は、
無機粒子、
50質量%以上のシクロオレフィン由来のモノマー部分を有するポリマー、及びカップリング剤
から形成され、
厚さが1μm以上1cm以下であり、
前記ポリマーと前記無機粒子の体積比が、5:95~95:5であり、
光学用である、ポリマー部材。
【請求項2】
膜状又はフィルム状である、請求項
1に記載のポリマー部材。
【請求項3】
前記無機粒子の平均一次粒径が1~500nmである、請求項1
又は2に記載のポリマー部材。
【請求項4】
複合ポリマー部材であって、ポリマー部材及び追加のポリマー部材を有し、
1又は複数の熱変性ポリマー層を介して無機基材に接合されることによって複合ポリマー部材-無機基材複合体を製造するために用いるものであり、前記複合ポリマー部材のうち前記ポリマー部材は、前記1の熱変性ポリマー層、又は前記複数の熱変性ポリマー層のうち前記無機基材から最も離れた1つに直接に接し、前記1又は複数の熱変性ポリマー層は、50質量%以上のシクロオレフィン由来のモノマー部分を有するポリマーから形成されたポリマー層を酸素含有雰囲気中で加熱することにより熱変性されるものであり、
前記ポリマー部材は、無機粒子、及び
50質量%以上のシクロオレフィン由来のモノマー部分を有するポリマー
から形成され、厚さが1μm以上1cm以下であり、かつ前記ポリマーと前記無機粒子の体積比が5:95~95:5であ
り、
前記追加のポリマー部材は、50質量%以上のシクロオレフィン由来のモノマー部分を有するポリマー
から形成され、
光学用である、複合ポリマー部材。
【請求項5】
膜状又はフィルム状である、請求項
4に記載の複合ポリマー部材。
【請求項6】
前記無機粒子の平均一次粒径が1~500nmである、請求項
4又は5に記載の複合ポリマー部材。
【請求項7】
前記ポリマー部材及び前記追加のポリマー部材のうちの少なくともいずれかが、カップリング剤をさらに含む、請求項
4~6のいずれか一項に記載の複合ポリマー部材。
【請求項8】
前記ポリマー部材が、フィルム状であり、かつカップリング剤をさらに含み、
前記追加のポリマー部材が、フィルム状であり、無機粒子をさらに含み、かつカップリング剤を含んでおらず、かつ
フィルム状である、
請求項
7に記載の複合ポリマー部材。
【請求項9】
無機基材、前記無機基材に密着している1又は複数の熱変性ポリマー層、前記1又は複数の熱変性ポリマー層を介して前記無機基材に密着しているポリマー部材を有し、かつ
前記ポリマー部材が、無機粒子、及び
50質量%以上のシクロオレフィン由来のモノマー部分を有するポリマー
から形成される、
ポリマー部材-無機基材複合体であり、
前記1又は複数の熱変性ポリマー層が、第1の熱変性ポリマー層を含み、
前記第1の熱変性ポリマー層は、
50質量%以上のシクロオレフィン由来のモノマー部分を有するポリマーから形成されたポリマー層を酸素含有雰囲気中で加熱することにより熱変性された熱変性ポリマー層であり、
前記第1の熱変性ポリマー層に含まれる酸素の原子数の割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数)×100(%))が、0.3%以上30%以下である、
ポリマー部材-無機基材複合体。
【請求項10】
無機基材、前記無機基材に密着している複数の熱変性ポリマー層、前記複数の熱変性ポリマー層を介して前記無機基材に密着しているポリマー部材を有し、かつ
前記ポリマー部材が、無機粒子、及び
50質量%以上のシクロオレフィン由来のモノマー部分を有するポリマー
から形成される、
ポリマー部材-無機基材複合体であり、
前記複数の熱変性ポリマー層が、前記無機基材に密着した第1の熱変性ポリマー層、及び、前記第1の熱変性ポリマー層に密着した第2の熱変性ポリマー層を含み、
前記第1の熱変性ポリマー層及び前記第2の熱変性ポリマー層は、いずれも、
50質量%以上のシクロオレフィン由来のモノマー部分を有するポリマーから形成されたポリマー層を酸素含有雰囲気中で加熱することにより熱変性された熱変性ポリマー層であり、
前記第1の熱変性ポリマー層に含まれる酸素の原子数の割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数)×100(%))と、前記第2の熱変性ポリマー層に含まれる酸素の原子数の割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数)×100(%))との差が、0.3%以上10%以下である、
ポリマー部材-無機基材複合体。
【請求項11】
前記ポリマー部材が、カップリング剤をさらに含む、請求項
9又は10に記載の複合体。
【請求項12】
前記ポリマー部材が、膜状又はフィルム状である、請求項
9~11のいずれか一項に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー部材-無機基材複合体、その製造方法、及びそのためのポリマー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー部材、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、シクロオレフィンポリマーなどのポリオレフィン系ポリマー部材は、軽さ、機械的強度、耐薬品性などに優れていることから、樹脂フィルム、不織布、自動車用部品、電気機器用部品、カメラレンズなどの成形品に幅広く用いられている。これに対して、金属、半導体、又はそれらの酸化物等の無機材料は、ポリマー部材とは異なる機械的、熱的、光学的、及び化学的性質を有する。
【0003】
したがって、ポリマー部材を無機基材に接合して、それらの異なる性質を好ましく利用することが検討されている。
【0004】
これに関して、例えば特許文献1では、接着剤を使用しないで無機材料とポリオレフィン系樹脂材料とを一体化して、マイクロチップ、テレビの液晶保護膜等に有用な複合材料を提供している。具体的には、この特許文献1では、無機材料及びポリオレフィン系樹脂材料を有する複合材料の製造方法であって、無機材料の表面上に親水性基を有する有機材料からなる厚さが1~50nmである薄膜を形成させ、当該薄膜が形成された無機材料及びポリオレフィン系樹脂材料に、それぞれ波長が100~200nmである紫外線を照射した後、当該無機材料の薄膜上に前記ポリオレフィン系樹脂材料を積層し、前記無機材料と前記ポリオレフィン系樹脂材料とを一体化させる方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、接着剤を使用しないでポリマー部材を無機基材に接合することが好ましい場合がある。したがって、本発明では、接着剤を使用しないでポリマー部材を無機基材に接合するために有益な方法、及びそのために用いられるポリマー部材等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様としては、下記の態様を挙げることができる。
【0008】
〈態様1〉
無機基材上に1又は複数の熱変性ポリマー層が密着している熱変性ポリマー層-無機基材複合体を提供すること、及び
前記1又は複数の熱変性ポリマー層を介して、ポリマー部材を前記無機基材に接合させること、
を含み、
前記ポリマー部材が、無機粒子、及びポリマーを少なくとも含む、
ポリマー部材-無機基材複合体の製造方法。
〈態様2〉
前記ポリマー部材が、カップリング剤をさらに含む、態様1に記載の方法。
〈態様3〉
前記ポリマー部材が、膜状又はフィルム状である、態様1又は2に記載の方法。
〈態様4〉
前記ポリマー部材の接合を熱圧着によって行う、態様1~3のいずれか一項に記載の方法。
〈態様5〉
前記1又は複数の熱変性ポリマー層が、オレフィンポリマーで形成されており、かつ前記ポリマー部材の前記ポリマーが、オレフィンポリマーである、態様1~4のいずれか一項に記載の方法。
〈態様6〉
前記オレフィンポリマーが、シクロオレフィンポリマーである、態様5に記載の方法。
〈態様7〉
前記無機基材が、金属及び半金属、金属及び半金属の酸化物、金属及び半金属の窒化物、金属及び半金属の炭化物、炭素材料、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される、態様1~6のいずれか一項に記載の方法。
〈態様8〉
無機基材、前記無機基材に密着している1又は複数の熱変性ポリマー層、前記1又は複数の熱変性ポリマー層を介して前記無機基材に密着しているポリマー部材を有し、かつ
前記ポリマー部材が、無機粒子、及びポリマーを少なくとも含む、
ポリマー部材-無機基材複合体。
〈態様9〉
前記ポリマー部材が、カップリング剤をさらに含む、態様8に記載の複合体。
〈態様10〉
前記ポリマー部材が、膜状又はフィルム状である、態様8又は9に記載の複合体。
〈態様11〉
前記1又は複数の熱変性ポリマー層が、オレフィンポリマーで形成されており、かつ前記ポリマー部材の前記ポリマーが、オレフィンポリマーである、態様8~10のいずれか一項に記載の複合体。
〈態様12〉
前記オレフィンポリマーが、シクロオレフィンポリマーである、態様11に記載の複合体。
〈態様13〉
無機粒子、ポリマー、及びカップリング剤を少なくとも含む、ポリマー部材。
〈態様14〉
膜状又はフィルム状である、態様13に記載のポリマー部材。
〈態様15〉
前記無機粒子の平均一次粒径が1~500nmである、態様13又は14に記載のポリマー部材。
〈態様16〉
無機粒子、及びポリマーを少なくとも含む、ポリマー部材、並びに
ポリマーを少なくとも含む、追加のポリマー部材
を有する、複合ポリマー部材。
〈態様17〉
膜状又はフィルム状である、請求項16に記載の複合ポリマー部材。
〈態様18〉
前記無機粒子の平均一次粒径が1~500nmである、態様16又は17に記載の複合ポリマー部材。
〈態様19〉
前記ポリマー部材及び前記追加のポリマー部材のうちの少なくともいずれかが、カップリング剤をさらに含む、態様16~18のいずれか一項に記載の複合ポリマー部材。
〈態様20〉
前記ポリマー部材が、フィルム状であり、かつカップリング剤をさらに含み、
前記追加のポリマー部材が、フィルム状であり、無機粒子をさらに含み、かつカップリング剤を含んでおらず、かつ
フィルム状である、
態様19に記載の複合ポリマー部材。
〈態様21〉
光学用である、態様13~15のいずれか一項に記載のポリマー部材、及び態様16~20のいずれか一項に記載の複合ポリマー部材。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、接着剤を使用しないでポリマー部材を無機基材に接合するために有益な方法、及びそのために用いられるポリマー部材等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明のポリマー部材-無機基材複合体の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
《ポリマー部材-無機基材複合体の製造方法》
ポリマー部材-無機基材複合体を製造する本発明の方法は、
無機基材上に1又は複数の熱変性ポリマー層が密着している熱変性ポリマー層-無機基材複合体を提供すること、及び
この1又は複数の熱変性ポリマー層を介して、ポリマー部材を無機基材に接合させること、
を含む。
【0012】
理論に限定されるものではないが、ポリマー部材-無機基材複合体を製造する本発明の方法によれば、1又は複数の熱変性ポリマー層を介して、ポリマー部材を無機基材に接合させることによって、無機基材に対するポリマー部材の密着性を改良することができると考えられる。ここで、1又は複数の熱変性ポリマー層を介するポリマー部材と無機基材との接合に関して、ポリマー部材は、1若しくは複数の熱変性ポリマー層に直接に、又は1若しくは複数の熱変性ポリマー層上の熱変性されていないポリマー層に、接合させることができる。
【0013】
無機基材上に1又は複数の熱変性ポリマー層が密着している熱変性ポリマー層-無機基材複合体を製造するための方法は、無機基材上に第1のポリマー層を形成し、そして第1のポリマー層を加熱して第1の熱変性ポリマー層にし、それによって無機基材上に第1の熱変性ポリマー層を密着させることを含むことができる。
【0014】
なお、本発明のポリマー部材-無機基材複合体では、ポリマー部材は、無機粒子、及びポリマーを少なくとも含み、特に無機粒子、及びシクロオレフィンポリマーを少なくとも含む。
【0015】
このようにポリマー部材が無機粒子を含有していることによって、ポリマー部材の屈折率等の物性を調節することが可能になる。
【0016】
本開示に係るポリマー部材-無機基材複合体の1つの好ましい実施態様では、ポリマー部材が、無機粒子、ポリマー、及びカップリング剤を少なくとも含み、特に無機粒子、シクロオレフィンポリマー、及びシランカップリング剤を少なくとも含む。
【0017】
ポリマー部材がさらにカップリング剤を含有していることによって、熱変性ポリマー層に対するポリマー部材の密着性をさらに向上させることができる。特に、無機粒子を含有していることによって熱変性ポリマー層に対するポリマー部材の密着性が低下している場合に、熱変性ポリマー層に対するポリマー部材の密着性をさらに向上させることができる。
【0018】
理論に限定されるものではないが、これは、カップリング剤、特に無機粒子の表面に付着しているカップリング剤が、ポリマー部材中における無機粒子の分散性を改良すると共に、残部のカップリング剤が、熱変性ポリマー層に対するポリマー部材の密着性を改良することによると考えられる。
【0019】
〈無機基材〉
本発明の方法において用いられる無機基材は、任意の無機基材であってよく、例えば金属及び半金属、金属及び半金属の酸化物、金属及び半金属の窒化物、金属及び半金属の炭化物、炭素材料、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択することができる。具体的には、金属としては、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、鉄、銅、金、銀、タングステン、ジルコニウム、イットリウム、インジウム、イリジウム等を挙げることができ、半金属としては、シリコン、ゲルマニウム、GaAs、InGaAs、InAlAs、LiTaOx、NbTaOx、ZnTe、GaSe、GaP、CdTe、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン等を挙げることができる。したがって、金属酸化物としては、これらの金属の酸化物等を挙げることができ、また半金属酸化物としては、これらの半金属の酸化物等を挙げることができる。シリコンの酸化物としては、石英ガラス、ソーダガラスなどのガラスを挙げることができ、アルミニウムの酸化物としてはサファイア等を挙げることができる。窒化物としては、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等を挙げることができる。炭化物としては、炭化ケイ素を挙げることができる。また、炭素材料としては、ダイヤモンド等を挙げることができる。
【0020】
無機基材、特に金属又は半金属は、第1の熱変性ポリマー層との結合に利用できる官能基、例えば水酸基を増加させるために、オゾン処理、紫外線処理等の処理をその表面に行うことができる。
【0021】
無機基材上に安定に熱変性オレフィンポリマー層を形成する観点から、熱変性ポリマー層の熱変性温度よりも高い融点を有する無機材料を好ましく用いることができる。
【0022】
無機基材は任意の形態であってよく、例えば、フィルム状、シート状、プレート状(板状)、管状、棒状、円盤状等であってよい。また、無機基材は任意の大きさであってよい。
【0023】
〈熱変性ポリマー層〉
無機基材上に第1のポリマー層を形成し、そして第1のポリマー層を加熱して第1の熱変性ポリマー層にし、それによって無機基材上に第1の熱変性ポリマー層を密着させることができる。
【0024】
また、第1の熱変性ポリマー層を形成した後で、第1の熱変性ポリマー層上に第2のポリマー層を形成し、そして第2のポリマー層を加熱して第2の熱変性ポリマー層にし、それによって第1の熱変性ポリマー層上に第2の熱変性ポリマー層を密着させることができる。
【0025】
第2の熱変性ポリマー層を用いる場合、第1の熱変性ポリマー層が無機基材との良好な結合を提供し、かつ第2の熱変性ポリマー層が、第1の熱変性ポリマー層及びポリマー部材との良好な結合を提供するために、第2の熱変性ポリマー層の熱変性の程度が、第1の熱変性ポリマー層の熱変性の程度よりも小さくてもよい。
【0026】
また、本発明の方法では、第2の熱変性ポリマー層を形成した後で、第2の熱変性ポリマー層上に第3のポリマー層を形成し、そして第3のポリマー層を加熱して第3の熱変性ポリマー層にし、それによって第2の熱変性ポリマー層上に第3の熱変性ポリマー層を密着させることができる。
【0027】
第3の熱変性ポリマー層を用いる場合、第2の熱変性ポリマー層が第1の熱変性ポリマー層との良好な結合を提供し、かつ第3の熱変性ポリマー層が、第2の熱変性ポリマー層及びポリマー部材との良好な結合を提供するために、第3の熱変性ポリマー層の熱変性の程度が、第2の熱変性ポリマー層の熱変性の程度よりも小さくてもよい。
【0028】
また、同様にして、第4、第5等のさらなる熱変性ポリマー層を用いることができる。
【0029】
これらの熱変性ポリマー層の熱変性の程度は、熱変性のための加熱の温度、時間、周囲雰囲気等によって調整することができる。
【0030】
具体的には例えば、第1の熱変性ポリマー層の熱変性の程度は、無機基材上に第1の熱変性ポリマー層が密着する程度、すなわち熱変性前の第1のポリマー層の無機基材に対する密着性と比較して、第1の熱変性ポリマー層の無機基材に対する密着性が大きくなる程度であってよい。
【0031】
同様に、第2の熱変性ポリマー層の熱変性の程度は、第1の熱変性ポリマー層上に第2の熱変性ポリマー層が密着する程度、すなわち熱変性前の第2のポリマー層の第1の熱変性ポリマー層に対する密着性と比較して、第2の熱変性ポリマー層の第1の熱変性ポリマー層に対する密着性が大きくなる程度であってよい。
【0032】
また同様に、第3の熱変性ポリマー層の熱変性の程度は、第2の熱変性ポリマー層上に第3の熱変性ポリマー層が密着する程度、すなわち熱変性前の第3のポリマー層の第2の熱変性ポリマー層に対する密着性と比較して、第3の熱変性ポリマー層の第2の熱変性ポリマー層に対する密着性が大きくなる程度であってよい。
【0033】
これらの熱変性ポリマー層の熱変性の程度は、例えば、熱変性ポリマー層の熱変性のための加熱の温度、加熱を行う雰囲気中の酸素濃度等によって調節することができる。すなわち、熱変性の程度を大きくするためには、加熱の温度を高くすること、及び/又は加熱を行う雰囲気中の酸素濃度を高くすることができ、反対に、熱変性の程度を小さくするためには、加熱の温度を低くすること、及び/又は加熱を行う雰囲気中の酸素濃度を低くすることができる。
【0034】
熱変性ポリマー層の熱変性のための加熱の温度は、50℃以上、100℃以上、140℃以上、160℃以上、180℃以上、又は200℃以上であってよく、500℃以下、400℃以下、360℃以下、320℃以下、又は280℃以下であってよい。また、この加熱は、酸素含有雰囲気、特に空気中において行うことができる。
【0035】
これらの熱変性ポリマー層の熱変性の程度は、例えば、熱変性ポリマー層を構成する熱変性ポリマーの酸素含有量、具体的には、熱変性ポリマー層に含まれる酸素原子と炭素原子の原子数の合計に対する、熱変性ポリマー層に含まれる酸素の原子数の割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数)×100(%))を用いて評価することができる。この場合には、この割合が大きいほど、熱変性の程度が大きいものとして考えることができる。ここで、熱変性ポリマー層の酸素及び炭素原子の含有量を評価する手法としては、例えばX線光電子分光(XPS)を挙げることができ、そのためのXPS装置としては、K-Alpha(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いることができる。
【0036】
このような割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数)×100(%))が、0.3%以上、0.5%以上、1.0%以上、2.0%以上、又は5.0%以上であって、50%以下、30%以下、20%以下、10%以下、又は8%以下のときに、特に熱変性ポリマー層の熱変性の程度を表す指標として用いることが適切である。
【0037】
上記の割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数)×100(%))を用いて熱変性の程度を評価する場合、第1の熱変性ポリマー層のこの割合と第2の熱変性ポリマー層のこの割合との差等の、隣接する熱変性ポリマー層間のこの割合の差は、0.1%以上、0.2%以上、0.3%以上、0.4%以上、0.5%以上、0.8%以上、1.0%以上、2.0%以上、又は3.0%以上であってよく、また10.0%以下、7.0%以下、5.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.5%以下、0.3%以下、又は0.1以下であってよい。
【0038】
すなわち、例えば、第2の熱変性ポリマー層に含まれる酸素原子と炭素原子の原子数の合計に対する、第2の熱変性ポリマー層に含まれる酸素の原子数の割合(すなわち、第2の熱変性ポリマー層についての酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数)×100(%)の割合)は、第1の熱変性ポリマー層に含まれる酸素原子と炭素原子の原子数の合計に対する、第1の熱変性ポリマー層に含まれる酸素の原子数の割合(すなわち、第1の熱変性ポリマー層についての酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数)×100(%)の割合)よりも、0.1%以上10.0%以下小さくてよい。
【0039】
また、これらの熱変性ポリマー層の熱変性の程度は、例えば、熱変性ポリマー層を構成する熱変性ポリマーのIR吸収スペクトルによって評価することができ、そのためのIR吸収分析装置としては、Nicolet6700(Thermo Fisher SCIENTIFIC社)を用いることができる。具体的には、熱変性ポリマー層の熱変性の程度は、C―H伸縮振動の吸収ピークの強度に対する、C=O伸縮振動の吸収ピークの強度の割合(C=O伸縮振動の吸収ピークの強度の割合/C―H伸縮振動の吸収ピークの強度(-))で評価することができる。この場合には、この割合が大きいほど、熱変性の程度が大きいものとして考えることができる。吸収ピークの強度は、吸収ピークの吸光度の値の最大値を読み取ることによって求めることができる。
【0040】
このような割合(C=O伸縮振動の吸収ピークの強度の割合/C―H伸縮振動の吸収ピークの強度(-))が、0.01以上、0.02以上、0.05以上、0.1以上、0.15以上、又は0.20以上であって、20以下、10以下、又は5以下のときに、特に熱変性ポリマー層の熱変性の程度を表す指標として用いることが適切である。
【0041】
上記の割合(C=O伸縮振動の吸収ピークの強度の割合/C―H伸縮振動の吸収ピークの強度(-))を用いて熱変性の程度を評価する場合、第1の熱変性ポリマー層のこの割合と第2の熱変性ポリマー層のこの割合との差等の、隣接する熱変性ポリマー層間のこの割合の差は、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.8以上、1.0以上、2.0以上、又は3.0以上であってよく、また10.0以下、7.0以下、5.0以下、3.0以下、2.0以下、1.0以下、0.5以下、0.3以下、又は0.1以下であってよい。
【0042】
すなわち、例えば、第2の熱変性ポリマー層のC―H伸縮振動の吸収ピークの強度に対する、第2の熱変性ポリマー層のC=O伸縮振動の吸収ピークの強度の割合(すなわち、第2の熱変性ポリマー層についてのC=O伸縮振動の吸収ピークの強度の割合/C―H伸縮振動の吸収ピークの強度(-) )は、第1の熱変性ポリマー層のC―H伸縮振動の吸収ピークの強度に対する、第1の熱変性ポリマー層のC=O伸縮振動の吸収ピークの強度の割合(すなわち、第1の熱変性ポリマー層についてのC=O伸縮振動の吸収ピークの強度の割合/C―H伸縮振動の吸収ピークの強度(-) )よりも、0.1以上20.0以下小さくていよい。
【0043】
加熱の方法としては、特に限定されないが、オーブン、ホットプレート、赤外線、火炎、レーザー、又はフラッシュランプ等の加熱源を用いた方法を用いることができる。
【0044】
なお、第1のポリマー層等のポリマー層の形成は、コーティング及び/又は熱圧着によって行うことができる。
【0045】
このポリマー層の形成をコーティングによって行う場合には、これらのポリマー層を構成するポリマーを溶媒に溶解させて溶液とし、この溶液をコーティングし、そして乾燥してポリマー層を形成することができる。この場合のコーティング方法としては、スピンコート法、ロールコーター法、スプレーコーティング法、ダイコーター法、アプリケータ法、浸漬コーティング法、刷毛塗り、ヘラ塗り、ローラー塗り、カーテンフローコーター法等の溶液を用いる手法等を挙げることができる。
【0046】
第1のポリマー層等のポリマー層を、溶液を用いる手法で形成した場合、塗液の塗布後に加熱することによって溶剤を除去する工程を含むことができる。この場合、加熱条件は、塗膜から溶剤を除去するのに十分な温度及び加熱時間、雰囲気圧力条件を選択することができる。
【0047】
また、コーティング層の形成を熱圧着によって行う場合には、随意に圧力を加えてプレスしつつ、バルク固体、粉体、フィルム等を溶融又は溶着させる手法、例えば熱プレス法、溶着法、粉体塗装法等の手法によって行うことができる。
【0048】
なお、第1のポリマー層等のポリマー層の厚さは、得られる熱変性ポリマー層が、無機基材とポリマー部材との間の良好な接合を提供できる任意の厚さであってよく、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってよく、また100μm以下、30μm以下、又は10μm以下、さらには1000nm以下、500nm以下、又は100nm以下であってよい。
【0049】
上記のとおり、熱変性ポリマー層は、それを介して、ポリマー部材を、無機基材に接合するためのものである。したがって、この熱変性ポリマー層は、ポリマー部材を構成するポリマーと同種のポリマーで構成されていることが、熱変性ポリマー層とポリマー部材との接合を促進するために好ましい。
【0050】
したがって、例えば第1のポリマー層等のポリマー層は、オレフィンポリマー、例えばシクロオレフィンポリマーで形成されていてよい。
【0051】
なお、オレフィンポリマーは、オレフィンを主成分として含有するモノマーを重合させることによって得られるポリマー、すなわちオレフィン由来のモノマー部分を50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上含有するモノマーを重合させることによって得られるポリマーを意味する。オレフィンポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、プロピレン-エチレン共重合体やプロピレン-ブテン共重合体などのα-オレフィンとエチレンもしくはプロピレンとの共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ヘキサジエン-スチレン共重合体、スチレン-ペンタジエン-スチレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(RPDM)、シクロオレフィンポリマー等が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのオレフィンポリマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0052】
これらのオレフィンポリマーのなかでは、特にシクロオレフィンポリマーを挙げることができる。
【0053】
シクロオレフィンポリマーは、ポリマー主鎖にシクロオレフィン部分を有するポリマーである。このようなシクロオレフィンポリマーとしては、例えば、シクロオレフィンモノマーの開環重合体、シクロオレフィンモノマーの付加重合体、シクロオレフィンモノマーと鎖状オレフィンとの共重合体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0054】
シクロオレフィンモノマーは、炭素原子で形成される環構造を有し、当該環構造中に炭素-炭素二重結合を有する化合物である。シクロオレフィンモノマーとしては、例えば、2-ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、フニルテトラシクロドデセンなどの四環体、トリシクロペンタジエンなどの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの七環体などのノルボルネン環を含むモノマーであるノルボルネン系モノマー;シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5-シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。シクロオレフィンモノマーは、本発明の目的が阻害されない範囲で置換基を有していてもよい。
【0055】
シクロオレフィンポリマーは、例えば、日本ゼオン(株)製、商品名:ゼオネックス・シリーズ、ゼオノア・シリーズなど、住友ベークライト(株)製、商品名:スミライト・シリーズ、JSR(株)製、商品名:アートン・シリーズ、三井化学(株)製、商品名:アペル・シリーズ、Ticona社製、商品名:Topas、日立化成(株)製、商品名:オプトレッツ・シリーズなどとして商業的に容易に入手することができる。
【0056】
なお、ポリマー部材を、1又は複数の熱変性ポリマー層上の熱変性されていないポリマー層に接合させる場合、この熱変性されていないポリマー層としては、第1の熱変性ポリマー層等の熱変性ポリマー層及びポリマー部材と同種のポリマーであることが好ましく、例えば第1の熱変性ポリマー層等の熱変性ポリマー層、熱変性されていないポリマー層、及びポリマー部材は、いずれもオレフィンポリマー、例えばシクロオレフィンポリマーで形成されていてよい。具体的なポリマー部材の材料及び形成方法に関しては、第1の熱変性ポリマー層等の熱変性ポリマー層に関する上記の記載を参照することができる。
【0057】
〈ポリマー部材〉
本発明の方法では、ポリマー部材は、任意の形状の部材であってよく、例えば膜状又はフィルム状であってよい。この場合、ポリマー部材の接合を、コーティング又は熱圧着、特に熱圧着によって行うことができる。ここで、このポリマー部材は、無機粒子、及びポリマーを少なくとも含み、特に好ましくは無機粒子、及びシクロオレフィンポリマーを少なくとも含む。
ポリマー部材が膜状又はフィルム状である場合、その好ましい厚さは、1cm以下、5mm以下、2mm以下、1mm以下、500μm以下、200μm以下、100μm以下、又は50μm以下であり、1μm以上、2μm以上、5μm以上、10μm以上、又は15μm以上である。
【0058】
ポリマー部材は、好ましくはカップリング剤をさらに含んでおり、特にはシランカップリング剤をさらに含んでいる。
【0059】
このようなポリマー部材は、光学用部材、特に反射防止フィルムであってよい。ポリマー部材は、複数の部分からなっていてよく、特に、ポリマー部材は、複数の層の積層体である複合フィルムであってよい。
ポリマー部材が複数の層の積層体である複合フィルムである場合、積層体の層数は2層以上であることが好ましく、500層以下、100層以下、80層以下、60層以下、40層以下、30層以下、20層以下、10層以下、又は5層以下であることが好ましい。
【0060】
第1の熱変性ポリマー層等の熱変性ポリマー層、及びポリマー部材は同種のポリマーであることが好ましく、例えば第1の熱変性ポリマー層等の熱変性ポリマー層、及びポリマー部材は、いずれもオレフィンポリマー、例えばシクロオレフィンポリマーで形成されていてよい。具体的なポリマー部材のポリマー及び形成方法に関しては、第1の熱変性ポリマー層等の熱変性ポリマー層に関する上記の記載を参照することができる。
【0061】
(無機粒子)
本発明における無機粒子としては、ポリマー部材中に分散させることができる任意の無機粒子を挙げることができ、このような無機粒子としては、例えば金属又は半金属の粒子、金属又は半金属の酸化物又はフッ化物の粒子、金属又は半金属を含む化合物の粒子を挙げることができる。
【0062】
このような金属又は半金属としては、Si、Ge、Al、Mg,Ti、Ni、Cr,Fe、Cu、Au、Ag、W、Zr、Y、In及びIrからなる群から選ばれる少なくとも一種を好適に用いることができ、Si、Geを特に好適に用いることができる。また、このような金属又は半金属の酸化物及びフッ化物としては、MgO、Al2O3、Bi2O3、CaF2、In2O3、In2O3・SnO2、HfO2、La2O3、MgF2、Sb2O5、Sb2O5・SnO2、SiO2、SnO2、TiO2、Y2O3、ZnO及びZrO2、からなる群から選ばれる少なくとも一種を好適に用いることができ、MgO、Al2O3、SiO2、TiO2を特に好適に用いることができる。また、このような金属又は半金属を含む化合物としては、GaAs、InGaAs、InAlAs、LiTaOx、NbTaOx、ZnTe、GaSe、GaP、CdTe、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、SiCなどが挙げられる。
【0063】
無機粒子がシリコン粒子である場合、シリコン粒子としては、レーザー熱分解法、特にCO2レーザーを用いたレーザー熱分解法によって得られたシリコン粒子を挙げることができる。
【0064】
上記の無機粒子、特にシリコン粒子は、良好な光学的な性質を与えるために、個々の不純物元素の濃度が1,000ppm以下、500ppm以下、300ppm以下、100ppm以下、50ppm以下、10ppm以下、又は1ppm以下であってよい。上記の無機粒子がシリコン粒子である場合、このような不純物としては、13族及び15族元素を挙げることができる。
【0065】
無機粒子の平均一次粒子径は、1nm以上、又は3nm以上であって、10000nm以下、5000nm以下、2000nm以下、1000nm以下、500nm以下、200nm以下、100nm以下、50nm以下、30nm以下、20nm以下、又は10nm以下であることが好ましい。
【0066】
ここで、本発明においては、粒子の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)、透過型電子顕微鏡(TEM)等による観察によって、撮影した画像を元に直接粒子径を計測し、集合数100以上からなる粒子群を解析することで、数平均一次粒子径として求めることができる。
【0067】
なお、粒径が大きすぎる場合は、散乱を生じやすくなるため好ましくないことがあり、また。粒子の粒径が小さすぎる場合は、粒子の比表面積が増大することにより粒子表面の活性化を促し、粒子同士の凝集性が著しく高くなり、それによって取り扱い性が低下するため好ましくないことがある。
【0068】
無機粒子の含有割合は、例えば、ポリマーと無機粒子の体積比が、1:99~99:1、5:95~95:5、10:90~85:15、20:80~80:20、30:70~75:25、又は40:60~70:30になるようにすることができる。無機粒子が少なすぎる場合には、ポリマー部材の屈折率等の調節の程度が小さくなることがあり、また無機粒子が多すぎる場合には、ポリマー部材としての強度等が維持できない場合がある。上記のようにポリマー部材は、複数の部分からなっていている場合、ポリマー部材のうちの熱変性ポリマー層-無機基材複合体に接合される部分が、このポリマーと無機粒子の体積比を満たすことが好ましい。したがって例えば、ポリマー部材が、複数の層の積層体である複合フィルムである場合、この複合フィルムのうちの熱変性ポリマー層-無機基材複合体に接合される層が、このポリマーと無機粒子の体積比を満たすことが好ましい。
【0069】
本発明におけるカップリング剤としては、無機粒子と組み合わせることができる任意のカップリング剤を用いることができる。具体的にはカップリング剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤を用いることができ、特にシランカップリング剤を用いることができる。ポリマー部材のポリマーとして、オレフィンポリマー、例えばシクロオレフィンポリマーを用いる場合、カップリング剤としては、これらのポリマーに対する混和性が良好な官能基、例えばアルキル鎖、シクロヘキシル基、ベンゼン環を有するカップリング剤、より具体的には炭素原子数が1~30、1~25、又は1~20のアルキル鎖、シクロヘキシル基、ベンゼン環を有するカップリング剤を用いることができる。カップリング剤及び/又はカップリング剤の加水分解縮合物は、単独もしくは2種以上を併用してもよい。
【0070】
具体的には、カップリング剤としては、オクタデシルトリエトキシシラン(OTS)、オクチルトリエトキシシラン、トリエトキシフェニルシラン、3-フェニルプロピルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、3-アミノプロピルトリメトシシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン・塩酸塩、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、オクタデシルジメチル〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル〔3-(トリエトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0071】
カップリング剤の含有割合は、例えば、無機粒子とカップリング剤との質量比が、1:99~99:1、5:95~95:5、10:90~90:10、20:80~80:20、30:70~70:30、又は40:60~60:40になるようにすることができる。カップリング剤が少なすぎる場合には、ポリマー部材と熱変性ポリマー層との密着性が不十分になることがあり、またカップリング剤が多すぎる場合には、ポリマー部材としての強度等が維持できない場合がある。
【0072】
《ポリマー部材-無機基材複合体》
本発明のポリマー部材-無機基材複合体の製造のために用いることができる熱変性ポリマー層-無機基材複合体では、1又は複数の熱変性ポリマー層が無機基材に密着している。また、本発明のポリマー部材-無機基材複合体では、ポリマー部材が、本発明の熱変性ポリマー層-無機基材複合体の1又は複数の熱変性ポリマー層を介して、無機基材に密着している。
【0073】
具体的には、
図1(a)及び(b)に示すように、本発明のポリマー部材-無機基材複合体210、220では、ポリマー部材30、31、32が、熱変性ポリマー層-無機基材複合体110、120の1又は複数の熱変性ポリマー層20、21、22を介して、無機基材10に接合されている。
【0074】
このような本発明のポリマー部材-無機基材複合体によれば、無機基材に対するポリマー部材の密着性を改良することができる。
【0075】
本発明の熱変性ポリマー層-無機基材複合体、及び本発明のポリマー部材-無機基材複合体の各構成の詳細については、本発明の方法に関する記載を参照することができる。
≪複合ポリマー部材≫
【0076】
本開示に係るポリマー部材は、ポリマーを少なくとも含む追加のポリマー部材とともに、複合ポリマー部材を形成してよい。
【0077】
追加のポリマー部材に関しては、無機粒子を含まない場合があるということ以外は、ポリマー部材に関する記載を参照することができる。
【実施例】
【0078】
《実施例1~9及び比較例1》
実施例1~9では、
図1(b)に示すように、シリコン基板10上に、第1及び第2の熱変性ポリマー層21、22、並びにポリマー部材としての第1及び第2の反射防止層31、32をこの順に有する積層体を形成し、そしてこの積層体について、第1及び第2の反射防止層からなる複合反射防止フィルムの、シリコン基板に対する密着性を評価した。
【0079】
また、比較例1では、シリコン基板上に、ポリマー部材としての第1及び第2の反射防止層をこの順に有する積層体を形成し、そしてこの積層体について、第1及び第2の反射防止層からなる複合反射防止フィルムの、シリコン基板に対する密着性を評価した。
【0080】
なお、実施例1~9及び比較例1では、熱変性ポリマー層及びポリマー部材の両方の材料として、シクロオレフィンポリマー(COP)(日本ゼオン株式会社、Zeonex(商標)480R、ガラス転移点温度138℃)を用いた。
【0081】
〈実施例1〉
(1)COP溶液Aの調製
7質量%のCOP及び93質量%のトルエンを、室温において混合及び撹拌することによって、COP溶液Aを得た。
【0082】
(2)第1及び第2の反射防止フィルムを有する複合反射防止フィルムの調整
(a)COP溶液B1(シリコン粒子非含有)の調製
35質量%のCOP及び65質量%のトルエンを、室温において混合及び撹拌することによって、COP溶液B1を得た。
【0083】
(b)COP溶液B2(OTS処理シリコン粒子含有)の調製
(b-1)シリコン粒子の作製
シリコン粒子は、モノシランガスを原料として、二酸化炭素レーザーを用いたレーザー熱分解(LP:Laser pyrolysis)法により作製した。また、得られたシリコン粒子の金属不純物含有量を、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を用いて測定したところ、Feの含有量は15ppb、Cuの含有量は18ppb、Niの含有量は10ppb、Crの含有量は21ppb、Coの含有量は13ppb、Naの含有量は20ppb、及びCaの含有量は10ppbであった。無機粒子の平均一次粒径は100nmであった。
【0084】
(b-2)シリコン粒子の表面処理
シリコン粒子とオクタデシルトリエトキシシラン(OTS)を、シリコン粒子とOTSの割合重量比が1:1(質量比)となるような分量で、密閉容器の中に入れ混合し、ついで120℃に加熱し、3時間保持することにより、OTS処理シリコン粒子を得た。
【0085】
(b-3)COP溶液B2の調製
10質量%のCOP及び90質量%のトルエンを室温において混合及び撹拌することによって、COP溶液を得た。このCOP溶液に、COPとシリコン粒子との体積比が65:35となるようにして、OTS処理シリコン粒子を加えて混合した。さらにこの混合液をホモジナイザーで15分間分散させることによって、OTS処理シリコン粒子を含有しているCOP溶液B2を調製した。
【0086】
(c)複合反射防止フィルムの調製
(c-1)第2の反射防止層の形成
上記のようにして得たCOP溶液B1を、ドクターブレードを用いて、ガラス板上に塗布することにより塗膜を得、110℃において加熱して塗膜中の溶剤を除去することにより、厚み25μmの第2の反射防止層をガラス板上に得た。
【0087】
(c-2)第1の反射防止層の形成
上記のようにして得たCOP溶液B2を、ドクターブレードを用いて、第2の反射防止層上に塗布することにより塗膜を得、110℃において加熱して塗膜中の溶剤を除去することにより、厚み20μmの第1の反射防止層を、厚み25μmの第2の反射防止層上に形成した。
【0088】
(c-3)複合反射防止フィルムの剥離
上記のようにして得た第1及び第2の反射防止層をガラス板から剥離して、第1及び第2の反射防止層を有する複合反射防止フィルム(複合ポリマー部材)を得た。
【0089】
(3)第1の熱変性ポリマー層の形成
無機基材としてのシリコン基板上に、COP溶液Aをスピンコートした。スピンコートは、2000rpmの回転速度を20秒間にわたって保持して行った。
【0090】
その後、このようにCOP溶液Aをコーティングしたシリコン基板を、120℃に加熱したホットプレート上に保持して乾燥させて、第1のポリマー層付きシリコン基板を得た。その後、この基板を、280℃に加熱したホットプレート上に1分間にわたって保持することによって第1のポリマー層を熱変性させて、膜厚23nmの第1の熱変性ポリマー層を、シリコン基板に密着させた。
【0091】
(4)第2の熱変性ポリマー層の形成
上記のようにして得たシリコン基板の第1の熱変性ポリマー層上に、COP溶液Aをスピンコートした。スピンコートは、2000rpmの回転速度を20秒間にわたって保持して行った。
【0092】
その後、このようにCOP溶液Aをコーティングしたシリコン基板を、120℃に加熱したホットプレート上に保持して乾燥させて、第1の熱変性ポリマー層上に第2のポリマー層を形成した。その後、この基板を、200℃に加熱したホットプレート上に2分間にわたって保持することによって第2のポリマー層を熱変性させて、膜厚23nmの第2の熱変性ポリマー層を、第1の熱変性ポリマー層上に密着させた。
【0093】
(5)複合反射防止フィルムの接合
上記のようにして得たシリコン基材の第2の熱変性ポリマー層上に、第1の反射防止層が第2の熱変性ポリマー層に接触するようにして、上記のようにして得た複合反射防止フィルムを密着させ、115℃の温度及び0.2MPaの圧力で60分間にわたって熱圧着して、第2の熱変性ポリマー層上に、複合反射防止フィルムを密着させた。得られた評価用積層体は、シリコン基板上に、第1の熱変性ポリマー層、第2の熱変性ポリマー層、第1の反射防止層、及び第2の反射防止層にこの順に有していた。
【0094】
(クロスカット試験)
上記のようにして得た評価用積層体について、クロスカット試験を行った。
【0095】
具体的には、カッターナイフを用いて、シリコン基板上に形成した複合反射防止フィルムに、1mm間隔でシリコン基板に到達する切れ目を入れた。6本の切れ目を入れた後で、さらにこの切れ目に直交するようにさらに6本の切れ目を入れ、碁盤の目状の切れ目を形成した。
【0096】
その後、スコッチ・メンディングテープ(3M社、810、幅24mm)を、ポリマー部材の表面に貼り付け、そしてテープの上から指でこすって密着させた後で、テープを引き剥がした。このようにしてテープの貼り付け及び剥離を行った領域を、実体顕微鏡で観察した。
【0097】
評価結果は下記のように分類した。
A:カットの縁が完全に滑らかで,どの格子の目にもはがれが認められなかった。
B:ポリマー部材が部分的なはがれを生じたが、クロスカット部で影響を受けたのは、35%未満であった。
C:ポリマー部材が全面的に大はがれを生じ、クロスカット部で影響を受けたのは、35%以上であった。
D:基材へのポリマー部材の付着性が不良だったため、クロスカット試験を行わなかった。
【0098】
実施例1の複合反射防止フィルムでは、カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にも剥がれは認められなかった(評価A)。シリコン基板上に第1及び第2の熱変性ポリマー層、並びに第1及び第2の反射防止層を有する実施例1の評価用積層体の作成条件及び評価結果を、下記の表1に示している。
【0099】
〈実施例2~8〉
第2の反射防止層の形成方法をスプレー法としたこと(実施例2)、及びCOP溶液B2の調製のためのCOP溶液中においてCOPとシリコン粒子との体積比を変更したこと(実施例3~8)を除いて、実施例1と同様にして、シリコン基板上に第1及び第2の熱変性ポリマー層、並びに第1及び第2の反射防止層を有する実施例2~8の評価用積層体を得た。この実施例2~8の評価用積層体について、実施例1と同様にして評価した。実施例2~8の評価用積層体についての作成条件及び評価結果を、下記の表1に示している。
【0100】
〈実施例9〉
COP溶液B2の製造工程においてOTSを用いたシリコン粒子の表面処理を実施せずにCOP溶液B2’(非OTS処理シリコン粒子含有)を得、このCOP溶液B2’をCOP溶液B2の代わりに用いたこと以外は、実施例1と同様にして、シリコン基板上に第1及び第2の熱変性ポリマー層、並びに第1及び第2の反射防止層を有する評価用積層体を得た。この実施例9の評価用積層体について、実施例1と同様にして評価した。実施例9の評価用積層体についての作成条件及び評価結果を、下記の表1に示している。
【0101】
〈比較例1〉
第1及び第2の熱変性ポリマー層を形成しなかったこと以外は、実施例9と同様にして、シリコン基板上に、第1及び第2の反射防止層を有する評価用積層体を得た。この比較例1の評価用積層体について、実施例1と同様にして評価した。比較例1の評価用積層体についての作成条件及び評価結果を、下記の表1に示している。
【0102】
《実施例10》
下記の点を除いて、実施例1と同様にして、シリコン基板上に第1及び第2の熱変性ポリマー層、並びに第1~第4の反射防止層を有する評価用積層体を得た:
(i)COP溶液B1を、ドクターブレードを用いて、ガラス板上に塗布することにより塗膜を得、110℃において加熱して塗膜中の溶剤を除去することにより、厚み25μmの第4の反射防止層を、ガラス板上に得たこと、
(ii)上記(i)の後で、ドクターブレードを用いて、第4の反射防止層上に、COP溶液B2を塗布することにより塗膜を得、110℃において加熱して塗膜中の溶剤を除去することにより、厚み20μmの第3の反射防止層を、第4の反射防止層に得たこと、
(iii)上記(ii)の後で更に、ドクターブレードを用いて、第3の反射防止層上に、COP溶液B1を塗布することにより塗膜を得、110℃において加熱して塗膜中の溶剤を除去することにより、厚み25μmの第2の反射防止層を、第3の反射防止層に得たこと、
(iv)上記(iii)の後で更に、ドクターブレードを用いて、第2の反射防止層上に、COP溶液B2を塗布することにより塗膜を得、110℃において加熱して塗膜中の溶剤を除去することにより、厚み20μmの第1の反射防止層を、第2の反射防止層上に得たこと。
【0103】
この実施例10の評価用積層体について、実施例1と同様にして評価した。実施例10の評価用積層体についての作成条件及び評価結果を、下記の表2に示している。
【0104】
《実施例11》
下記の点を除いて、実施例1と同様にして、シリコン基板上に第1及び第2の熱変性ポリマー層、並びに第1~第3の反射防止層を有する評価用積層体を得た:
(i)COP溶液B1を、ドクターブレードを用いて、ガラス板上に塗布することにより塗膜を得、110℃において加熱して塗膜中の溶剤を除去することにより、厚み25μmの第3の反射防止層を、ガラス板上に得たこと、
(ii)上記(i)の後で、ドクターブレードを用いて、第3の反射防止層上に、実施例9で用いたCOP溶液B2’、すなわちOTSによる表面処理をしていないシリコン粒子を含有しているCOP溶液を塗布することにより塗膜を得、110℃において加熱して塗膜中の溶剤を除去することにより、厚み15μmの第2の反射防止層を、第3の反射防止層上に得たこと。
(iii)上記(ii)の後で更に、ドクターブレードを用いて、第2の反射防止層上に、COP溶液B2を塗布することにより塗膜を得、110℃において加熱して塗膜中の溶剤を除去することにより、厚み5μmの第1の反射防止層を、第2の反射防止層上に得たこと。
【0105】
この実施例11の評価用積層体について、実施例1と同様にして評価した。実施例11の評価用積層体についての作成条件及び評価結果を、下記の表2に示している。
【0106】
【0107】
【0108】
実施例1~11と比較例1との比較からは、熱変性ポリマー層を介して反射防止フィルム(ポリマー部材)を無機基材に接合させることによって、無機基材に対する反射防止フィルムの密着性が改良されることが理解される。
【0109】
また、表1及び表2で見られるように、反射防止フィルム(ポリマー部材)がカップリング剤を含有している場合には、反射防止層が無機粒子を含有している場合であっても、熱変性ポリマー層と反射防止フィルムとの密着性がさらに改良されることが理解される。
【0110】
《参考実施例1~14及び参考比較例1~2》
以下の参考例及び参考比較例では、熱変性ポリマー層の形成、熱変性ポリマー層に対するポリマー部材の密着性について評価している。
【0111】
以下の参考例で熱変性ポリマー層及びポリマー部材の形成のために用いたポリマーは下記のとおりである:
COP1: シクロオレフィンポリマー(アートン(商標)(JSR株式会社))
COP2: シクロオレフィンポリマー(日本ゼオン株式会社、Zeonex(商標)480R、ガラス転移点温度138℃)
【0112】
《参考例1~14及び参考比較例1~2》
以下のとおり、参考例1~14では、熱変性ポリマー層及びポリマー部材の両方の材料として、COP1を用いた。また、参考比較例1~2では、熱変性ポリマー層を用いずに、ポリマー部材の材料として、COP1を用いた。
【0113】
〈参考例1〉
(熱変性ポリマー層用溶液の調製)
7質量%のCOP1及び93質量%のクロロホルムを、室温において混合及び撹拌することによって、熱変性ポリマー層用溶液を得た。
【0114】
(第1の熱変性ポリマー層の形成)
無機基材としてのシリコン基板上に、熱変性ポリマー層用溶液をスピンコートした。スピンコートは、2000rpmの回転速度を20秒間にわたって保持して行った。
【0115】
その後、このように熱変性ポリマー層用溶液をコーティングしたシリコン基板を、120℃に加熱したホットプレート上に保持し、熱変性ポリマー層用溶液を乾燥させて、第1のポリマー層付きシリコン基板を得、そして、この基板を、280℃に加熱したホットプレート上に1分間にわたって保持することによって第1のポリマー層を熱変性させて、膜厚が23nmの第1の熱変性ポリマー層付きシリコン基板を得た。
【0116】
(第2の熱変性ポリマー層の形成)
上記のようにして得たシリコン基板の第1の熱変性ポリマー層上に、熱変性ポリマー層用溶液をスピンコートした。スピンコートは、2000rpmの回転速度を20秒間にわたって保持して行った。
【0117】
その後、このように熱変性ポリマー層用溶液をコーティングしたシリコン基板を、120℃に加熱したホットプレート上に保持し、熱変性ポリマー層用溶液を乾燥させて、第1の熱変性ポリマー層上に第2のポリマー層を形成した。そして、この基板を、200℃に加熱したホットプレート上に2分間にわたって保持することによって第2のポリマー層を熱変性させて、第1の熱変性ポリマー層上に膜厚が23nmの第2の熱変性ポリマー層を密着させた。このようにして得られた熱変性ポリマー層-無機基材複合体を、参考例1の熱変性ポリマー層-無機基材複合体とした。
【0118】
(ポリマー部材用溶液の調製)
7質量%のCOP1及び93質量%のクロロホルムを、室温において混合及び撹拌することによって、ポリマー部材用溶液を得た。
【0119】
(ポリマー部材の接合)
上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層上に、ポリマー部材用溶液をスピンコートした。スピンコートは、2000rpmの回転速度を20秒間にわたって保持して行った。
【0120】
その後、このようにポリマー部材用溶液をコーティングしたシリコン基板を、140℃に加熱したホットプレート上に10分間にわたって保持し、ポリマー部材用溶液を乾燥させて、第2の熱変性ポリマー層上に膜厚が23nmのポリマー部材を接合した。このようにして得られたポリマー部材-無機基材複合体を、参考例1のポリマー部材-無機基材複合体とした。
【0121】
(クロスカット試験)
カッターナイフを用いて、シリコン基板上に形成した第1及び第2の熱変性ポリマー層、並びにポリマー部材の積層体に、1mm間隔でシリコン基板に到達する切れ目を入れた。6本の切れ目を入れた後で、さらにこの切れ目に直交するようにさらに6本の切れ目を入れ、碁盤の目状の切れ目を形成した。
【0122】
その後、スコッチ・メンディングテープ(3M社、810、幅24mm)を、ポリマー部材の表面に貼り付け、そしてテープの上から指でこすって密着させた後で、テープを引き剥がした。このようにしてテープの貼り付け及び剥離を行った領域を、実体顕微鏡で観察した。
【0123】
評価結果は下記のように分類した。
A:カットの縁が完全に滑らかで,どの格子の目にもはがれが認められなかった。
B:ポリマー部材が部分的なはがれを生じたが、クロスカット部で影響を受けたのは、35%未満であった。
C:ポリマー部材が全面的に大はがれを生じ、クロスカット部で影響を受けたのは、35%以上であった。
【0124】
参考例1のポリマー部材-無機基材複合体では、カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にも剥がれは認められなかった(評価A)。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R1に示している。
【0125】
〈参考例2~8〉
熱変性ポリマー層を形成するための溶液中のポリマーの濃度(参考例2及び3)、熱変性ポリマー層を形成するための溶液中のスピンコーティング条件(参考例4)、第1の熱変性ポリマーの熱変性の温度(参考例5~8)を表R1及び2のように変更したことを除いて、参考例1と同様にして、参考例2~8のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R1及び2に示している。
【0126】
〈参考例3A〉
(第1及び第2の熱変性ポリマー層の形成)
第1の熱変性ポリマーの熱変性の温度を300℃にしたこと、及び、第2の熱変性ポリマーの熱変性の温度を280℃とし処理時間を1分間としたことを除いて、参考例1と同様にして、シリコン基板上に第1の熱変性ポリマー層及び第2の熱変性ポリマーを形成した。
【0127】
(第3の熱変性ポリマー層の形成)
上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層の上に、熱変性ポリマー層用溶液をスピンコートした。スピンコートは、2000rpmの回転速度を20秒間にわたって保持して行った。
【0128】
その後、このように熱変性ポリマー層用溶液をコーティングしたシリコン基板を、120℃に加熱したホットプレート上に保持し、熱変性ポリマー層用溶液を乾燥させて、第2の熱変性ポリマー層上に第3のポリマー層を形成した。そして、この基板を、200℃に加熱したホットプレート上に2分間にわたって保持することによって第3のポリマー層を熱変性させて、第2の熱変性ポリマー層上に膜厚が23nmの第3の熱変性ポリマー層を密着させた。このようにして得られた熱変性ポリマー層-無機基材複合体を、参考例3Aの熱変性ポリマー層-無機基材複合体とした。
【0129】
(ポリマー部材の接合)
その後、参考例1と同様にしてポリマー部材の接合を行うことにより参考例3Aのポリマー部材-無機基材複合体を作成した。
【0130】
(クロスカット試験)
参考例3Aのポリマー部材-無機基材複合体を、参考例1と同様にして評価した。
【0131】
この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R1に示している。
【0132】
〈参考比較例1〉
無機基材としてのシリコン基材上に第1及び第2の熱変性ポリマー層を形成せずに、シリコン基材上に直接に、COP1をスピンコーティングしたことを除いて、参考例1と同様にして、参考比較例1のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R1及び2に示している。
【0133】
〈参考例9〉
ポリマー部材の接合の際に、シクロオレフィンポリマーをスピンコーティングする代わりに、COP1のフィルム(厚さ100μm)を、第2の熱変性ポリマー層上に配置し、50MPaの圧力及び140℃の温度で2時間にわたって保持して、このフィルムと第2の熱変性ポリマー層とを熱圧着したことを除いて、参考例1と同様にして、参考例9のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R3に示している。
【0134】
〈参考比較例2〉
無機基材としてのシリコン基材上に第1及び第2の熱変性ポリマー層を形成せずに、シリコン基材上に直接に、COP1のフィルム(厚さ100μm)を熱圧着したことを除いて、参考例9と同様にして、参考比較例2のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R3に示している。
【0135】
〈参考例10~14〉
無機基材としてのシリコン基材上に第1の熱変性ポリマー層を形成した後、第2の熱変性ポリマー層を形成せずに、第1の熱変性ポリマー層上に直接に、ポリマー部材用溶液をスピンコートしたことを除いて、それぞれ参考例5,6、1、7、及び8と同様にして、参考例10~14のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R4に示している。
【0136】
《参考例15~20及び参考比較例3》
以下のとおり、参考例15~20では、熱変性ポリマー層及びポリマー部材の膜の両方の材料として、COP2を用いた。また、参考比較例3では、熱変性ポリマー層を用いずに、ポリマー部材の膜の材料として、COP2を用いた。
【0137】
〈参考例15〉
熱変性ポリマー層用溶液及びポリマー部材用溶液の両方の調製において、10質量%のCOP2及び90質量%のトルエンを室温において混合及び撹拌することにより熱変性ポリマー層用溶液を得たことを除いて、参考例1と同様にして、参考例15のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R5に示している。
【0138】
〈参考例16〉
熱変性ポリマー層を形成するための溶液中のポリマーの濃度を10質量%から1質量%のように変更したことを除いて、参考例15と同様にして、参考例16のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R5に示している。
【0139】
〈参考比較例3〉
無機基材としてのシリコン基材上に第1及び第2の熱変性ポリマー層を形成せずに、シリコン基材上に直接に、COP2をスピンコーティングしたことを除いて、参考例15と同様にして、参考比較例3のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R5に示している。
【0140】
〈参考例17~20〉
第1の熱変性ポリマーの熱変性の温度を表R6のように変更したことを除いて、参考例15と同様にして、参考例17~20のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R6に示している。
【0141】
《参考例21及び参考比較例4》
以下のとおり、参考例21では、熱変性ポリマー層及びポリマー部材の両方の材料として、ポリエチレン(PE)フィルム(厚さ30μm)を用いた。また、参考比較例4では、熱変性ポリマー層を用いずに、ポリマー部材の材料として、ポリエチレンフィルム(厚さ30μm)を用いた。
【0142】
〈参考例21〉
(第1の熱変性ポリマー層の形成)
無機基材としてのシリコン基板上にポリエチレンフィルム(厚さ30μm)を配置した状態で、120℃に基材を加熱し1分間保持することにより、ポリエチレンフィルム付きシリコン基板を得、そして、この基板を、280℃に加熱したホットプレート上に1分間にわたって保持することによってポリエチレンフィルムを熱変性させて、第1の熱変性ポリマー層付きシリコン基板を得た。
【0143】
(第2の熱変性ポリマー層の形成)
上記のようにして得たシリコン基板の第1の熱変性ポリマー層上に、ポリエチレンフィルム(厚さ30μm)を配置した状態で、120℃に基材を加熱し1分間保持することにより、第1の熱変性ポリマー層上にポリエチレンフィルムを貼り付けた。そして、この基板を、200℃に加熱したホットプレート上に2分間にわたって保持することによってポリエチレンフィルムを熱変性させて、第1の熱変性ポリマー層上に第2の熱変性ポリマー層を密着させた。このようにして得られた熱変性ポリマー層-無機基材複合体を、参考例21の熱変性ポリマー層-無機基材複合体とした。
【0144】
(ポリマー部材の接合)
上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層上に、ポリエチレンフィルム(厚さ30μm)を配置した状態で、120℃に基材を加熱し1分間保持し、その後さらに140℃に基材を加熱し10分間保持することにより、第1の熱変性ポリマー層上に、ポリマー部材としてのポリエチレンフィルムを接合した。このようにして得られたポリマー部材-無機基材複合体を、参考例21のポリマー部材-無機基材複合体とし、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R7に示している。
【0145】
〈参考比較例4〉
無機基材としてのシリコン基材上に第1及び第2の熱変性ポリマー層を形成せずに、シリコン基材上に直接に、ポリマー部材としてのポリエチレンフィルムを接合したことを除いて、参考例21と同様にして、参考比較例4のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R7に示している。
【0146】
《参考例22~27》
以下のとおり、参考例22~27では、熱変性ポリマー層の材料とポリマー部材の材料とで異なるポリマーを用いた。
【0147】
〈参考例22及び23〉
(第1及び第2の熱変性ポリマー層の形成)
参考例1でのようにして、COP1を用いて、無機基材としてのシリコン基材上に第1及び第2の熱変性ポリマー層を形成した。
【0148】
(ポリマー部材の接合)
参考例22では、上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層上に、参考例15でのようにして得たCOP2のポリマー部材用溶液をスピンコートし、乾燥して、参考例22のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R8に示している。
【0149】
参考例23では、上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層上に、参考例21でのようにしてポリエチレンフィルム(厚さ30μm)を接合して、参考例23のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R8に示している。
【0150】
〈参考例24及び25〉
(第1及び第2の熱変性ポリマー層の形成)
参考例15でのようにして、COP2を用いて、無機基材としてのシリコン基材上に第1及び第2の熱変性ポリマー層を形成した。
【0151】
(ポリマー部材の接合)
参考例24では、上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層上に、参考例1でのようにして得たCOP1のポリマー部材用溶液をスピンコートし、乾燥して、参考例24のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R8に示している。
【0152】
参考例25では、上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層上に、参考例21でのようにしてポリエチレンフィルム(厚さ30μm)を接合して、参考例25のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R8に示している。
【0153】
〈参考例26及び27〉
(第1及び第2の熱変性ポリマー層の形成)
参考例21でのようにして、ポリエチレンフィルム(厚さ30μm)を用いて、無機基材としてのシリコン基材上に第1及び第2の熱変性ポリマー層を形成した。
【0154】
(ポリマー部材の接合)
参考例26では、上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層上に、参考例1でのようにして得たCOP1のポリマー部材用溶液をスピンコートし、乾燥して、参考例26のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R8に示している。
【0155】
参考例27では、上記のようにして得た第2の熱変性ポリマー層上に、参考例15でのようにして得たCOP2のポリマー部材用溶液をスピンコートし、乾燥して、参考例26のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R8に示している。
【0156】
《参考例28~30及び参考比較例5~7》
〈参考例28~30〉
無機基材として、シリコン基材に代えて、それぞれSiN層を表面に形成したシリコン基材(参考例28)、銅板(参考例29)、及びアルミニウム板(参考例30)を用いたことを除いて、参考例15と同様にして、参考例28~30のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R9に示している。
【0157】
〈参考比較例5~7〉
熱変性ポリマー層を用いなかったことを除いてそれぞれ参考例28~30と同様にして、参考比較例5~7のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表に示している。
【0158】
《参考比較例8~13》
以下のとおり、参考比較例8~13では、無機基材としてのシリコン基材をシランカップリング剤で処理し、この処理した表面に、ポリマー部材を接合した。
【0159】
〈参考比較例8~9〉
無機基材としてのシリコン基材を、紫外線及びオゾン処理(UV/O3処理)した後で、シランカップリング剤としてのオクタデシルトリエトキシシラン(OTS)の150℃の飽和蒸気圧雰囲気下において3時間保持することにより、OTS処理シリコン基材を得た。
【0160】
参考比較例8では、このようにして得たOTS処理シリコン基材の表面に熱変性ポリマー層を形成せずに、参考例15と同様にして、スピンコーティングによってポリマー部材を接合して、参考比較例8のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R10に示している。
【0161】
参考比較例9では、このようにして得たOTS処理シリコン基材の表面に熱変性ポリマー層を形成せずに、参考例21と同様にして、熱圧着によってポリマー部材を接合して、参考比較例9のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R10に示している。
【0162】
〈参考比較例10~11〉
シランカップリング剤として、オクタデシルトリエトキシシラン(OTS)の代わりに、3-フェニルプロピルトリエトキシシラン(PTS)を用いたことを除いて、それぞれ参考比較例8及び9と同様にして、参考比較例10~11のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R10に示している。
【0163】
〈参考比較例12~13〉
シランカップリング剤として、オクタデシルトリエトキシシラン(OTS)の代わりに、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(ATS)を用いたことを除いて、それぞれ参考比較例8及び9と同様にして、参考比較例12~13のポリマー部材-無機基材複合体を作成し、参考例1と同様にして評価した。この複合材料の作成条件及び評価結果を下記の表R10に示している。
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
〈評価結果〉
上記の表R1からは、熱変性ポリマー層を形成するためのポリマー溶液におけるポリマー濃度を1質量%~7質量%にし、また熱変性ポリマー層を形成する際のスピンコート回転数を2000rpm~4000rpmにした場合(参考例1~4)に、熱変性ポリマー層を用いない場合(参考比較例1)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0175】
また、上記の表R1からは、熱変性ポリマー層を2層とした場合(参考例1~4)だけでなく、熱変性ポリマー層を3層とした場合(参考例3A)にも、熱変性ポリマー層を用いない場合(参考比較例1)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0176】
上記の表R2からは、熱変性ポリマー層を形成するための熱変性温度を200℃~360℃の温度にした場合(参考例1及び5~8)に、熱変性ポリマー層を用いない場合(参考比較例1)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0177】
上記の表R3からは、熱変性ポリマー層にポリマー部材フィルムを熱圧着して接合する場合(参考例9)に、熱変性ポリマー層を用いずにシリコン基材に直接にポリマー部材を熱圧着して接合する場合(参考比較例2)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0178】
上記の表R4からは、熱変性ポリマー層を2層にせずに1層のみ用いた場合(参考例10~14)にも、熱変性ポリマー層を用いない場合(参考比較例1)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0179】
上記の表R5からは、熱変性ポリマー層を形成するためのポリマー溶液におけるポリマー濃度を1質量%~10質量%にした場合(参考例15~16)に、熱変性ポリマー層を用いない場合(参考比較例3)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0180】
上記の表R6からは、熱変性ポリマー層を形成するための熱変性温度を200℃~360℃の温度にした場合(参考例10及び17~20)に、熱変性ポリマー層を用いない場合(参考比較例3)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0181】
上記の表R7からは、熱変性ポリマー層にポリマー部材フィルムを熱圧着して接合する場合(参考例21)に、熱変性ポリマー層を用いずにシリコン基材に直接にポリマー部材フィルムを熱圧着して接合する場合(参考比較例4)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0182】
上記の表R8からは、熱変性ポリマー層を形成するためのポリマーとポリマー部材を形成するためのポリマーとが異なっている条件においても、熱変性ポリマー層を用いる場合(参考例22~27)に、熱変性ポリマー層を用いない場合(参考比較例1、3及び4)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0183】
上記の表R9からは、基材がシリコン基材ではなく、SiNを表面に形成したシリコン基材、銅板、及びアルミニウム板である条件においても、熱変性ポリマー層を用いる場合(参考例28~30)に、熱変性ポリマー層を用いない場合(参考比較例5~7)と比較して、ポリマー部材の剥離が抑制されていることが理解される。
【0184】
上記の表R10からは、基材がシランカップリング剤で処理されたシリコン基材である条件においても、熱変性ポリマー層を用いる場合(参考例)と比較すると、ポリマー部材の剥離が抑制されていないことが理解される。
【0185】
《参考例31~36》
20質量%のCOP1及び80質量%のクロロホルムを、室温において混合及び撹拌することによって、熱変性ポリマー層用溶液を得たこと、並びに熱変性のためのホットプレートの温度を、400℃(参考例31)、320℃(参考例32)、280℃(参考例33)、240℃(参考例34)、200℃(参考例35)、及び160℃(参考例36)にしたことを除いて、参考例1と同様にして、無機基材としてのシリコン基板上に、熱変性ポリマー層付きシリコン基板を得た。
【0186】
(XPSによる元素分析)
参考例31~36の熱変性ポリマー層について、XPS装置(K-Alpha(サーモフィッシャーサイエンティフィック社))を用いて、熱変性ポリマー層に含まれる酸素原子と炭素原子の原子数の合計に対する熱変性ポリマー層含まれる酸素の原子数の割合(O原子数/(O原子数+C原子数)(%))を求めた。
【0187】
X線源は単色化したAlKα線を用いて、光電子取り出し角度0度として測定を行った。O1sピーク面積は、527~537eVの範囲でShirleyの方法に従ってベースラインを引くことにより求め、C1sピーク面積は、280~290eVの範囲でShirleyの方法に従ってベースラインを引くことにより求めた。フィルム表面の酸素濃度と酸素濃度は、上記O1sピーク面積及びC1sピーク面積をそれぞれの装置に固有の感度係数で補正して求めた。
【0188】
この熱変性ポリマー層の作成条件及び評価結果を、下記の表R11に示している。この表R11からは、熱変性のための温度が下がるに従って、すなわち熱変性の程度が下がるに従って、この割合(O原子数/(O原子数+C原子数)(%))が小さくなっており、したがって熱変性ポリマー層の熱変性の程度の指標として、この割合を利用可能であることが理解される。
【0189】
(赤外吸収スペクトル測定)
参考例31~36の熱変性ポリマー層について、IR吸収分析装置(Nicolet6700(Thermo Fisher SCIENTIFIC社))を用いて、4000~500cm-1の範囲の赤外透過吸収スペクトルを測定することにより、2947cm-1をピークとするC-H伸縮振動の吸収の吸収ピークの強度に対する、1732cm-1をピークとするC=O伸縮振動の吸収ピークの強度の割合(C=O伸縮振動の吸収ピークの強度の割合/C―H伸縮振動の吸収ピークの強度(-))を求めた。吸収ピークの強度は、吸収ピークの吸光度の値の最大値を読み取ることによって求めた。
【0190】
この熱変性ポリマー層の作成条件及び評価結果を、下記の表R11に示している。この表R11からは、熱変性のための温度が下がるに従って、すなわち熱変性の程度が下がるに従って、この割合(C=O伸縮振動の吸収ピークの強度の割合/C―H伸縮振動の吸収ピークの強度(-))が小さくなっており、したがって熱変性ポリマー層の熱変性の程度の指標として、この割合を利用可能であることが理解される。
【0191】
【符号の説明】
【0192】
10 無機基材
20、21、22 熱変性ポリマー層
30、31、32 ポリマー部材
110、120 熱変性ポリマー層-無機基材複合体
210、220 本発明のポリマー部材-無機基材複合体