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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-27
(45)【発行日】2025-04-04
(54)【発明の名称】剥離装置および剥離方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 13/00 20130101AFI20250328BHJP
   B65H 41/00 20060101ALI20250328BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20250328BHJP
【FI】
H01G13/00 351Z
B65H41/00 B
H01L21/68 N
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023138675
(22)【出願日】2023-08-29
(65)【公開番号】P2025033152
(43)【公開日】2025-03-13
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】植野 琴美
(72)【発明者】
【氏名】森永 高広
(72)【発明者】
【氏名】牧野 由
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-121855(JP,A)
【文献】国際公開第2009/066435(WO,A1)
【文献】特開平07-201787(JP,A)
【文献】特開昭64-061208(JP,A)
【文献】特開2002-184315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 13/00
B65H 41/00
H01L 21/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、前記基材フィルムの一面に形成された微粘着層と、を有する微粘着フィルムの前記微粘着層にシートが積層された積層シートのうち、前記微粘着フィルムを前記シートから剥離する剥離装置であって、
前記微粘着フィルムの前記基材フィルムが上方に向けて露出するように、前記積層シートを吸着保持する保持面を有するシートテーブルと、
前記シートテーブルに吸着保持された前記積層シートの前記基材フィルムに向けられる刃先部を有するブレードと、
前記刃先部を所定温度に加熱するヒータと、
前記シートテーブルに対する前記ブレードの位置を相対移動させる移動機構と、
前記積層シートに形成される剥離起点を把持して、前記微粘着フィルムを前記シートから剥離するクランプ機構と、
を有してなり、
前記移動機構は、
前記刃先部の長手方向が前記相対移動の方向に対して直交するように、前記ブレードのうち、前記所定温度に加熱された前記刃先部を、開始位置となる前記基材フィルムの外縁部上に当接させて、
前記刃先部が前記基材フィルムに当接した状態で、前記開始位置から前記開始位置よりも前記基材フィルムの内側に位置する終了位置まで前記刃先部を前記保持面に平行な方向に摺動させることにより、前記開始位置から前記終了位置までの間で前記微粘着フィルムが反り上がるように剥離した前記剥離起点を形成させて、
前記開始位置から前記終了位置までの長さは、前記刃先部が当接している部分の前記積層シートの長さが前記刃先部の長さを超えないように設定される、
剥離装置。
【請求項2】
前記基材フィルムは、ポリエステルまたはポリエチレンテレフタレート製であり、
前記微粘着層は、アクリル系粘着剤であり、
前記保持面は、低熱伝導材料製であり、
前記所定温度は、170℃以上250℃以下である、
請求項1に記載の剥離装置。
【請求項3】
前記シートは、LCPシートまたはLTCCシートであり、
前記シートが前記LCPシートであるとき、前記所定温度は、170℃以上220℃以下であり、
前記シートが前記LTCCシートであるとき、前記所定温度は、220℃以上250℃以下である、
請求項2に記載の剥離装置。
【請求項4】
前記保持面は、ガラスまたはゴム製である、
請求項2に記載の剥離装置。
【請求項5】
前記刃先部が前記基材フィルムに当接しているとき、前記刃先部は、所定荷重が前記刃先部から前記基材フィルムに加えられるように、前記基材フィルムに押し当てられて、
前記所定荷重は、前記積層シートが弾性変形可能な範囲内に設定される、
請求項1に記載の剥離装置。
【請求項6】
前記所定荷重は、前記保持面がゴム製であるとき、前記積層シートと前記保持面とが弾性変形可能な範囲内に設定される、
請求項5に記載の剥離装置。
【請求項7】
前記ブレードは、前記基材フィルムに対して傾斜している、
請求項5に記載の剥離装置。
【請求項8】
平面視において、前記積層シートの形状は、矩形状であり、
前記開始位置は、前記積層シートの角部であり、
前記終了位置は、前記積層シートの4つの端辺のうち、前記角部を形成する2つの端辺それぞれから、前記積層シートの内側に離れた位置である、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の剥離装置。
【請求項9】
基材フィルムと、前記基材フィルムの一面に形成された微粘着層と、を有する微粘着フィルムの前記微粘着層にシートが積層された積層シートのうち、前記微粘着フィルムを前記シートから剥離する剥離装置により実行される剥離方法であって、
前記剥離装置は、
前記微粘着フィルムの前記基材フィルムが上方に向けて露出するように、前記積層シートを吸着保持する保持面を有するシートテーブルと、
前記シートテーブルに吸着保持された前記積層シートの前記基材フィルムに向けられる刃先部を有するブレードと、
前記刃先部を所定温度に加熱するヒータと、
前記シートテーブルに対する前記ブレードの位置を相対移動させる移動機構と、
前記積層シートに形成される剥離起点を把持して、前記微粘着フィルムを前記シートから剥離するクランプ機構と、
を有してなり、
前記剥離方法は、
前記剥離装置が、前記刃先部の長手方向が前記相対移動の方向に対して直交するように、前記ブレードのうち、前記所定温度に加熱された前記刃先部を、開始位置となる前記基材フィルムの外縁部上に当接させる当接ステップと、
前記剥離装置が、前記刃先部が前記基材フィルムに当接した状態で、前記開始位置よりも前記基材フィルムの内側に位置する終了位置まで前記刃先部を前記保持面に平行な方向に摺動させて、前記開始位置から前記終了位置までの間で前記微粘着フィルムを反り上がるように剥離させて、前記剥離起点を形成する起点形成ステップと、
を含み、
前記起点形成ステップにおいて、前記開始位置から前記終了位置までの長さは、前記刃先部が当接している部分の前記積層シートの長さが前記刃先部の長さを超えないように設定される、
剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離装置および剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多層構造を有する積層セラミック電子部品(例えば、積層セラミックコンデンサ(MLCC:Multilayer Ceramic Capacitors)、チップインダクタ、低温同時焼成セラミック(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics)など)の製造工程では、例えば、基材フィルム(キャリアフィルム)上に、スラリーが塗布されることにより、フィルム基材上にセラミックグリーンシートが積層された積層シートが形成される。次いで、セラミックグリーンシート上に内部電極が適宜印刷される。次いで、セラミックグリーンシートが基材フィルムから剥離されて、複数のセラミックグリーンシート同士が積層・加熱・圧着されることによりセラミックグリーンシートの積層体が形成される。
【0003】
これらの工程のうち、基材フィルムからのセラミックグリーンシートの剥離には、剥離装置が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に開示された剥離装置では、積層シートを吸着保持するシートテーブルの保持板に、積層シートの端部が配置される切欠き部が形成されている。切欠き部には、積層シートの端部から隔離されて、同端部との間に空隙を生じさせる傾斜面が形成されている。この空隙上に配置される積層シートの端部にブレードが押し当てられることにより、同端部に折れ線が形成されて、基材フィルムのうち、折れ線から外側の部分がセラミックグリーンシートに対して折り上げられる。この折り上げられた部分は、クランプ機構による掴み代であり、セラミックグリーンシートから基材フィルムを剥離するための剥離起点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-121855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、特許文献1に開示された剥離装置は、物理的に基材フィルムのみに折れ線を形成して、基材フィルムの端部のみを折り上げている。そのため、同剥離装置では、微粘着性を有する基材フィルム(例えば、表面に微粘着層が配置される基材フィルム)に対しては、剥離起点は、その粘着性により、安定して形成できない。
【0007】
本発明は、微粘着層を有する基材フィルムに対して、剥離起点を安定して形成可能な剥離装置および剥離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様における剥離装置は、基材フィルムと、前記基材フィルムの一面に形成された微粘着層と、を有する微粘着フィルムの前記微粘着層にシートが積層された積層シートのうち、前記微粘着フィルムを前記シートから剥離する剥離装置であって、前記微粘着フィルムの前記基材フィルムが上方に向けて露出するように、前記積層シートを吸着保持する保持面を有するシートテーブルと、前記シートテーブルに吸着保持された前記積層シートの前記基材フィルムに向けられる刃先部を有するブレードと、前記刃先部を所定温度に加熱するヒータと、前記シートテーブルに対する前記ブレードの位置を相対移動させる移動機構と、前記積層シートに形成される剥離起点を把持して、前記微粘着フィルムを前記シートから剥離するクランプ機構と、を有してなり、前記移動機構は、前記刃先部の長手方向が前記相対移動の方向に対して直交するように、前記ブレードのうち、前記所定温度に加熱された前記刃先部を、開始位置となる前記基材フィルムの外縁部上に当接させて、前記刃先部が前記基材フィルムに当接した状態で、前記開始位置から前記開始位置よりも前記基材フィルムの内側に位置する終了位置まで前記刃先部を前記保持面に平行な方向に摺動させることにより、前記開始位置から前記終了位置までの間で前記微粘着フィルムが反り上がるように剥離した前記剥離起点を形成させて、前記開始位置から前記終了位置までの長さは、前記刃先部が当接している部分の前記積層シートの長さが前記刃先部の長さを超えないように設定される、剥離装置である。
【0009】
本発明の一実施態様における剥離方法は、基材フィルムと、前記基材フィルムの一面に形成された微粘着層と、を有する微粘着フィルムの前記微粘着層にシートが積層された積層シートのうち、前記微粘着フィルムを前記シートから剥離する剥離装置により実行される剥離方法であって、前記剥離装置は、前記微粘着フィルムの前記基材フィルムが上方に向けて露出するように、前記積層シートを吸着保持する保持面を有するシートテーブルと、前記シートテーブルに吸着保持された前記積層シートの前記基材フィルムに向けられる刃先部を有するブレードと、前記刃先部を所定温度に加熱するヒータと、前記シートテーブルに対する前記ブレードの位置を相対移動させる移動機構と、前記積層シートに形成される剥離起点を把持して、前記微粘着フィルムを前記シートから剥離するクランプ機構と、を有してなり、前記剥離方法は、前記剥離装置が、前記刃先部の長手方向が前記相対移動の方向に対して直交するように、前記ブレードのうち、前記所定温度に加熱された前記刃先部を、開始位置となる前記基材フィルムの外縁部上に当接させる当接ステップと、前記剥離装置が、前記刃先部が前記基材フィルムに当接した状態で、前記開始位置よりも前記基材フィルムの内側に位置する終了位置まで前記刃先部を前記保持面に平行な方向に摺動させて、前記開始位置から前記終了位置までの間で前記微粘着フィルムを反り上がるように剥離させて、前記剥離起点を形成する起点形成ステップと、を含み、前記起点形成ステップにおいて、前記開始位置から前記終了位置までの長さは、前記刃先部が当接している部分の前記積層シートの長さが前記刃先部の長さを超えないように設定される、剥離方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粘着層を有する基材フィルムに対して、剥離起点を安定して形成可能な剥離装置および剥離方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)本発明に係る剥離装置により取り扱われる積層シートの一例を示す部分拡大模式平面図であり、(b)は(a)の積層シートのAA線における部分拡大模式断面図である。
図2】本発明に係る剥離装置の実施の形態を示す模式斜視図である。
図3】(a)は図2の剥離装置が備えるブレードユニットの模式側面図であり、(b)は(a)のブレードユニットのB部の部分拡大模式側面図であり、(c)は(a)のブレードユニットのC矢視における部分拡大模式正面図である。
図4図1の積層シートと図3のブレードの先端部との関係を示す模式平面図である。
図5図2の剥離装置が備えるクランプ機構の模式側面図である。
図6】本発明に係る剥離方法の一例を示すフローチャートである。
図7図3のブレードユニットの先端部が開始位置に当接した状態の部分拡大模式断面図である。
図8図7の先端部が終了位置に向けて移動している状態の部分拡大模式断面図である。
図9図8の先端部が終了位置に移動した状態の部分拡大模式断面図である。
図10図9の剥離起点の形成原理を説明する模式図であり、(a)は図3のブレードユニットの先端部が開始位置から所定距離移動した状態における積層シートの部分拡大模式断面図であり、(b)は先端部が(a)よりも終了位置側に移動した状態における積層シートの部分拡大模式断面図である。
図11図5のクランプ機構が剥離起点に近づけられた状態を示す模式図である。
図12図11のクランプ機構により剥離起点が把持された状態を示す模式図である。
図13】(a)は本実施例において使用されたブレードの模式側面図であり、(b)は積層シートに対してブレードが摺動した領域を示す模式平面図である。
図14】各形成条件における剥離起点の評価結果を示す模式図である。
図15】実施例1,24により形成された剥離起点の実例を示す画像である。
図16】(a)は図3のブレードの形状の第1変形例を示す模式側面図であり、(b)は同第2変形例を示す模式側面図であり、(c)は同第3変形例を示す模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る剥離装置(以下「本装置」という。)、および、本発明に係る剥離方法(以下「本方法」という。)の実施の形態が、以下に説明される。以下の説明において、各図面は、適宜参照される。各図面において、同一の部材および要素については同一の符号が付されて、重複する説明は省略される。また、各要素の寸法比率は、説明の便宜上、誇張されている場合が有り、各図面に示されている比率に限定されない。
【0013】
以下の説明および図面において、特に断りがない限り、空間において相互に直交する3軸をそれぞれX軸、Y軸およびZ軸としたとき、「X軸方向」は、X軸に沿う方向であり、例えば、左右方向である。「Y軸方向」は、Y軸に沿う方向であり、例えば、前後方向である。「Z軸方向」は、Z軸に沿う方向であり、例えば、上下方向である。
【0014】
●剥離装置●
●積層シート
先ず、本装置により取り扱われる積層シートが説明される。
【0015】
図1(a)は本装置により取り扱われる積層シートの一例を示す部分拡大模式平面図であり、(b)は(a)の積層シートのAA線における部分拡大模式断面図である。
同図は、積層シートSの端部(角部)を拡大して示している。
【0016】
「積層シートS」は、シートS1が微粘着フィルムS2の一面に積層されたシート状の積層体である。平面視において、積層シートSの形状は、矩形状である。
【0017】
「シートS1」は、例えば、微粘着フィルムS2(後述される微粘着層S4)上に積層されるシート状の被積層体である。平面視において、シートS1の形状は、矩形状である。シートS1は、例えば、多層構造を有する積層セラミック電子部品(例えば、積層セラミックコンデンサ(MLCC:Multilayer Ceramic Capacitors)、チップインダクタ、低温同時焼成セラミック(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics)など)の製造に用いられるセラミックグリーンシートや、LCP(Liquid Crystal Polymer)シートである。
【0018】
シートS1は、例えば、誘電体セラミックの粉体、バインダー樹脂、および溶剤が湿式混合されたスラリーが微粘着フィルムS2の微粘着面側(後述される微粘着層S4側)に塗布(積層)されて乾燥されることにより形成されている。シートS1上には、導体(例えば、銅)製の複数の電極パターンS1aが、例えば、スクリーン印刷により適宜形成されている。電極パターンS1aは、シートS1の外縁部よりも内側の矩形状の領域(以下「パターン領域S1b」という。)に形成されている。シートS1のうち、パターン領域S1bよりも外側(外縁側)には、電極パターンS1aが形成されていない矩形枠状の非パターン領域S1cが配置されている。図1において、パターン領域S1bと非パターン領域S1cとの境界が破線で例示されている。本実施の形態では、1枚のシートS1が微粘着フィルムS2上に積層されている。
【0019】
なお、本発明において、微粘着フィルムS2上には、複数枚のシートS1が積層されていてもよい。また、シートS1上に電極パターンS1aが印刷されていなくてもよい。
【0020】
「微粘着フィルムS2」は、シートS1の保護や搬送に用いられるフィルム状の基材である。微粘着フィルムS2は、例えば、ポリエステル系、ポリプロピレン系、ポリエチレン系の公知のキャリアフィルムである基材フィルムS3と、基材フィルムS3の一面S3aに形成されている微粘着層S4と、を備える。例えば、再剥離性を有する微粘着タイプの公知のアクリル系微粘着剤が基材フィルムS3の一面S3aに塗布されることにより、同アクリル系微粘着剤で構成されている微粘着層S4が同一面S3aに形成されている。すなわち、基材フィルムS3の一面S3aには、微粘着層S4が形成(積層)されている。本実施の形態では、基材フィルムS3は、例えば、ポリエステル系のキャリアフィルムであり、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)製のキャリアフィルムである。すなわち、基材フィルムS3は、ポリエステル製またはポリエチレンテレフタレート製である。
【0021】
●剥離装置の構成
図2は、本装置の実施の形態を示す模式斜視図である。
以下の本装置1の構成の説明において、図1図2は、適宜参照される。
【0022】
本装置1は、積層シートSのうち、微粘着フィルムS2をシートS1から剥離する。本装置1は、シート搬送機構2、ユニット搬送機構3、剥離ユニット4、および制御装置5を備える。ユニット搬送機構3は、本発明における移動機構の一例である。
【0023】
シート搬送機構2は、積層シートS、または、微粘着フィルムS2が剥離されたシートS1を搬送する。シート搬送機構2は、シートテーブル21および搬送レール24を備える。シートテーブル21は、積層シートSを搬送する。シートテーブル21は、ベース22および保持板23を備える。ベース22は、保持板23を支持する。ベース22は、搬送レール24に取り付けられていて、搬送レール24に沿って往復移動するように構成されている。搬送レール24は、X軸に沿って直線状に配置されていて、ベース22のX軸方向への移動(往復移動)をガイドする。シート搬送機構2の動作は、制御装置5により制御されている。
【0024】
保持板23は、積層シートSを吸着保持する。保持板23は、X軸およびY軸に平行な板状である。保持板23は、例えば、シリコン系のゴム製である。保持板23は、積層シートSを吸着保持する保持面23a(表面)、および、保持板23をZ軸方向に貫通している複数の吸着孔23bを備える。吸着孔23bには、真空ポンプおよび配管などから構成されている公知の真空系統が接続されていて、吸着孔23b内が減圧されることにより、保持板23は積層シートSを吸着保持できる。
【0025】
ここで、保持板23の材質としては、積層シートS(特に、微粘着層S4)から保持板23への後述される熱の伝導が抑制されるような低熱伝導率を有する材質が適している。すなわち、例えば、保持板23の熱伝導率は、好ましくは、1.5W/(m・K)以下であればよく、より好ましくは、1.0W/(m・K)以下であるとよい。また、後述される剥離起点S5(図5参照。以下同じ。)の高さを確保するため、保持板23の材質は、低弾性率も有する材質がより適している。具体的には、保持板23は、ガラス(例えば、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス)製、または後述される所定温度に対する耐熱性を有するゴム(例えば、シリコン系ゴム)製であり、より好ましくは、ゴム製である。
【0026】
なお、本発明において、保持板23の保持面23aが低熱伝導率を有する材質(より好ましくは、低弾性率も有する材質)で構成されていればよく、保持板23の他の部位の材質は保持面23aの材質と異なっていてもよい。
【0027】
ユニット搬送機構3は、剥離ユニット4を三軸(X軸、Y軸、Z軸)方向に移動させる。ユニット搬送機構3は、第1搬送レール31、第2搬送レール32、第3搬送レール33、第1ベース34、第2ベース35、および第3ベース36を備える。第1搬送レール31は、Y軸に沿って直線状に配置されていて、第1ベース34のY軸方向への移動(往復移動)をガイドする。第2搬送レール32は、X軸に沿って直線状に配置されていて、第2ベース35のX軸方向への移動(往復移動)をガイドする。第2搬送レール32は、第1ベース34に取り付けられていて、第1ベース34と共に移動可能である。第3搬送レール33は、Z軸に沿って直線状に配置されていて、第3ベース36のZ軸方向への移動(往復移動)をガイドする。第3搬送レール33は、第2ベース35に取り付けられていて、第2ベース35と共に移動可能である。第1ベース34は、第1搬送レール31に取り付けられていて、第1搬送レール31に沿って往復移動するように構成されている。第2ベース35は、第2搬送レール32に取り付けられていて、第2搬送レール32に沿って往復移動するように構成されている。第3ベース36は、第3搬送レール33に取り付けられていて、第3搬送レール33に沿って往復移動するように構成されている。第1ベース34、第2ベース35、および第3ベース36は、例えば、サーボモータを動力源として往復移動する。ユニット搬送機構3の動作は、制御装置5により制御されている。
【0028】
なお、本発明において、第1ベース34、第2ベース35、および第3ベース36の動力源は、サーボモータに限定されない。
【0029】
剥離ユニット4は、後述される剥離起点S5を形成すると共に、積層シートSのうち、微粘着フィルムS2をシートS1から剥離する。剥離ユニット4は、ブレードユニット41およびクランプ機構42を備える。
【0030】
「剥離起点S5」は、微粘着フィルムS2をシートS1から剥離するとき、クランプ機構42により把持されて、剥離の起点となる微粘着フィルムS2の端部である。剥離起点S5の位置および形状の詳細は、後述される。
【0031】
図3(a)はブレードユニット41の模式側面図であり、(b)は(a)のブレードユニット41のB部の部分拡大模式側面図であり、(c)は(a)のブレードユニット41のC矢視における部分拡大模式正面図である。
【0032】
ブレードユニット41は、剥離起点S5を形成する。ブレードユニット41は、例えば、公知の半田コテと同様の構造を有している。すなわち、例えば、ブレードユニット41は、ケース41a、ヒータ41b、およびブレード41cを備える。ケース41aは、ヒータ41bを収容して、保護する。ケース41aの形状は、例えば、円筒状である。ヒータ41bは、ブレード41cを加熱する。ヒータ41bは、例えば、公知のセラミックヒータである。ヒータ41bの動作は、制御装置5により制御されている。ブレード41cは、微粘着フィルムS2の端部上を摺動して、微粘着フィルムS2の端部に剥離起点S5を形成する。ブレード41cの形状は、例えば、ブレード状(いわゆる、平たがねに近似した形状)である。具体的には、ブレード41cの形状は、ブレード41cの幅方向「W」視において、扁平かつ先細の五角形状であり、ブレード41cの厚み方向「D」視において、矩形状である。ブレード41cの先端部(下端部)41dの形状は、ブレード41cの幅方向「W」に沿って長細い半円筒状である。すなわち、下方視において、先端部41dの形状は、直線状である。厚み方向「D」は、Z軸に対して、幅方向「W」を軸にθ°(本実施の形態では30°)傾斜した方向に直交している。すなわち、ブレード41cの中心軸線(厚み方向「D」および幅方向「W」の中心を通る軸線)C1は、Z軸に対して、θ°傾斜している。先端部41dは、本発明における刃先部の一例である。
【0033】
図4は、積層シートSとブレード41cの先端部41dとの関係を示す模式平面図である。同図は、説明の便宜上、先端部41dを太い二点鎖線で示していて、後述される開始位置Psおよび終了位置Pfを黒丸で示していて、非パターン領域S1cをグレーで着色して示している。
【0034】
上方視において、幅方向「W」は、Y軸がZ軸を中心に時計回り方向に45°回転した方向に沿っている。幅方向「W」において、先端部41dの長さ(幅)「Lb」は、開始位置Psにおける積層シートSの長さ「Ls」および終了位置Pfにおける積層シートSの長さ「Lf」以上になるように設定されている。幅方向「W」における先端部41dの長さ「Lb」は、本発明における刃先部の長さの一例である。幅方向「W」は、本発明における刃先部の長手方向の一例である。
【0035】
図5は、クランプ機構42の模式側面図である。
同図は、説明の便宜上、保持板23、積層シートS、および剥離起点S5の断面も示している。
【0036】
クランプ機構42は、剥離起点S5を把持した状態で、シートテーブル21に対して相対移動することにより、微粘着フィルムS2をシートS1から剥離する。クランプ機構42は、起こし部材42a、クランプ部材42b、およびスライダ42cを備える。起こし部材42aは、把持直前の剥離起点S5を上方に起こす爪状の部材である。クランプ部材42bは、起こし部材42aと共に剥離起点S5を把持する爪状の部材である。起こし部材42aおよびクランプ部材42bは、X軸およびY軸に対して、Z軸を中心に45°回転した方向(幅方向「W」に直交する方向)において、互いに対向するように配置されている。スライダ42cは、クランプ部材42bが起こし部材42aに対して近接および離間する方向にクランプ部材42bを往復移動させる、公知のエアシリンダである。スライダ42cの動作は、制御装置5により制御されている。クランプ機構42の構成は公知のクランプ機構の構成と共通しているため、その詳細な説明は省略される。
【0037】
制御装置5は、本装置1全体の動作を制御する。制御装置5は、例えば、パーソナルコンピュータである。制御装置5は、例えば、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ、CPUの作業領域として機能するRAM(Random Access Memory)などの揮発性メモリ、および、動作プログラムなどを記憶するROM(Read Only Memory)などの不揮発性メモリ、を備える。
【0038】
なお、本発明において、制御装置5は、シート搬送機構2、ユニット搬送機構3、および剥離ユニット4の動作を制御できればよく、パーソナルコンピュータに限定されない。
【0039】
●剥離装置の動作
次に、本装置1の動作、すなわち、本方法が、以下に説明される。
【0040】
図6は、本方法の一例を示すフローチャートである。
以下の本方法の説明において、図1図6は、適宜参照される。
【0041】
先ず、制御装置5は、シート搬送機構2の動作を制御して、積層シートSが吸着保持されているシートテーブル21を所定の剥離位置に移動させる(ST1)。積層シートSは、各辺がX軸またはY軸に沿うように、吸着板23に載置されている。また、積層シートSは、シートS1が下方に向けられて、微粘着フィルムS2(基材フィルムS3)が上方に向けられた状態で、シートテーブル21の保持板23に吸着保持されている。すなわち、積層シートSの搬送時、シートS1の表面は保持板23に吸着されている被保持面であり、微粘着フィルムS2(基材フィルムS3)の裏面は上方に向けて露出する露出面である。このとき、積層シートS(基材フィルムS3)の表面は、水平面に平行である。
【0042】
次いで、制御装置5は、ヒータ41bの動作を制御して、所定温度までブレード41cの先端部41dを加熱する(ST2)。
【0043】
「所定温度」は、基材フィルムS3の収縮、および/または、微粘着層S4の粘着性に影響を与え得る(粘着性を低減させ得る)温度に設定されている。所定温度は、主に、基材フィルムS3の融点、シートS1の物性(熱伝導率)、および、微粘着層S4の熱的性質、により定まる。すなわち、例えば、基材フィルムS3がポリエチレンテレフタレート製であるとき、その融点は約264℃であり、所定温度の最大温度は260℃未満に設定される。また、シートS1の熱伝導率が高くなるほど先端部41dからの熱はシートS1を介して保持板23側へと伝達されて微粘着層S4に留まらないため、所定温度は高くなる。一方、同熱伝導率が低くなるほど先端部41dからの熱は微粘着層S4に留まり易くなるため、所定温度は低くなる。一例として、例えば、シートS1がLTCCシート(熱伝導率:2.6W/(m・K))であるとき、所定温度の温度は約220℃以上250℃以下であり、シートS1がLPCシート(熱伝導率:0.38W/(m・K))であるとき、所定温度の温度は約170℃以上約220℃以下である。
【0044】
次いで、制御装置5は、ユニット搬送機構3の動作を制御して、ブレード41cの先端部41dが開始位置Psの真上に位置するようにブレード41cを移動させる(ST3)。換言すれば、ユニット搬送機構3は、シートテーブル21に対するブレード41cの位置を相対移動させる。このとき、先端部41dは、積層シートS(基材フィルムS3)に向けられている。
【0045】
「開始位置Ps」は、本方法により剥離起点S5が形成される際に、先端部41dが最初に積層シートS(基材フィルムS3)に当接する位置(部分)である。開始位置Psは、積層シートSの外縁部上に設定されている。図4に示されるように、本実施の形態では、開始位置Psは、積層シートS(基材フィルムS3)の角部上に設定されている。
【0046】
次いで、制御装置5は、ユニット搬送機構3の動作を制御して、ブレード41cの先端部41dを積層シートS(基材フィルムS3)の開始位置Psに移動させて、開始位置Psに当接させる(ST4:当接ステップ)。このとき、先端部41dは、所定荷重が先端部41dから積層シートSに加えられるように、積層シートS(基材フィルムS3)に対して傾斜した状態で積層シートSに押し付けられる。また、図4に示されるように、先端部41dの幅方向「W」は、開始位置Psである角部を形成する2辺それぞれから、積層シートSの内側にθ°およびθ°(本実施の形態では共に45°)傾斜した位置を通る仮想線C2に直交するように配置されている。すなわち、例えば、積層シートSが正方形状であるとき、幅方向「W」は、開始位置Psである角部を形成する2辺間の対角線に直交するように配置されている。さらに、先端部41dの幅方向「W」において、先端部41dの中央部が開始位置Psに当接している。さらにまた、先端部41dは所定温度に加熱されているため、先端部41dからの熱は、先端部41dに当接している部分から積層シートS(主に基材フィルムS3および微粘着層S4)に伝達される。その結果、後述のとおり、先端部41dの真下に位置している微粘着層S4の粘着性は、低下するものと推測される。
【0047】
図7は、先端部41dが開始位置Psに当接した状態の部分拡大模式断面図である。
同図は、積層シートSおよび保持板23の図4のEE線における断面を示している。同図は、ブレード41cを非断面で示している。
【0048】
「所定荷重」は、先端部41dからの押圧力により、後述される剪断応力「Pss」および摩擦力が生じる程度に設定される。所定荷重の下限値は、例えば、先端部41dの真下に位置している積層シートS(シートS1および微粘着フィルムS2)が弾性変形可能な値に設定されていて、好ましくは、先端部41dの真下に位置している保持板23の表面部分までが弾性変形する範囲内に設定されている。一方、所定荷重の上限値は、例えば、積層シートSが塑性変形しない(弾性変形可能な)範囲内に設定されている。具体的には、所定荷重は、約0.29N(30gf)~約1.96N(200gf)に設定されているとよく、好ましくは、約0.39N(40gf)~約1.57N(160gf)に設定されているとよく、より好ましくは、約0.49N(50gf)~約1.47N(150gf)に設定されているとよい。
【0049】
次いで、制御装置5は、ユニット搬送機構3の動作を制御して、先端部41dが積層シートS(基材フィルムS3)に当接した状態で、先端部41dを終了位置Pfまで摺動させる(ST5:起点形成ステップ)。換言すれば、ユニット搬送機構3は、積層シートSに対する先端部41dの位置を相対移動させる。このときの先端部41dの相対移動方向は、先端部41dの幅方向「W」および上下方向に対して直交する方向(仮想線C2に平行な方向)である。すなわち、幅方向「W」は、先端部41dの相対移動方向に直交している。先端部41dが開始位置Psから終了位置Pfまで移動している間、先端部41dの幅方向「W」における先端部41dの両端部41e,41fは、積層シートS(基材フィルムS3)上に配置されていない(上方視において、両端部41e,41fは、積層シートSよりも外側に配置されている)。すなわち、先端部41dが開始位置Psから終了位置Pfまで移動している間、先端部41dは、積層シートS(基材フィルムS3)をライン上に横断するように積層シートS(基材フィルムS3)に当接している(両端部41e,41fは、積層シートSに当接していない)。
【0050】
「終了位置Pf」は、本方法により剥離起点S5が形成される際に、先端部41dが最後に積層シートS(基材フィルムS3)に当接する位置(部分)である。終了位置Pfは、開始位置Psよりも積層シートSの内側(平面視における積層シートSの中央側)であって、開始位置Psである角部を形成する2辺それぞれから離れた位置に設定されている。本実施の形態では、終了位置Pfは、開始位置Psである角部を形成する2辺それぞれにおいて、角部から等距離となる点同士を結んだ仮想線C3上に設定されている。ここで、開始位置Psから終了位置Pfまでの長さ「Lsf」は、先端部41dの幅方向「W」において、先端部41dが当接している部分の積層シートSの長さが先端部41dの長さ「Lb」を超えないように設定されている。また、同長さ「Lsf」は、クランプ機構42が把持可能な長さ(高さ)の剥離起点S5が形成可能な長さに設定されている。
【0051】
図8は、図7の状態の先端部41dが終了位置Pfに向けて移動している状態の部分拡大模式断面図である。同図は、積層シートSおよび保持板23の図4のEE線における断面を示している。同図は、ブレード41cを非断面で示している。
図9は、図8の状態の先端部41dが終了位置Pfに移動した状態の部分拡大模式断面図である。同図は、積層シートSおよび保持板23の図4のEE線における断面を示している。同図は、ブレード41cを非断面で示している。
【0052】
先端部41dが開始位置Psから終了位置Pfまで摺動する間、先端部41dは積層シートS(基材フィルムS3)に当接していて、積層シートSには先端部41dから所定荷重が加えられている。このとき、先端部41dが通過した領域の微粘着フィルムS2は、先端部41dの移動に応じて、開始位置Ps側から上方に反り上がるようにシートS1から剥離する。そして、先端部41dが終了位置Pfまで移動したとき、先端部41dが通過した領域の微粘着フィルムS2は、シートS1から反り上がるように剥離した剥離起点S5を形成している。
【0053】
図10は剥離起点S5の形成原理を説明する模式図であり、(a)は先端部41dが開始位置Psから僅かに移動した状態における積層シートSの部分拡大模式断面図であり、(b)は先端部41dが(a)よりも終了位置Pf側に移動した状態における積層シートSの部分拡大模式断面図である。同図は、後述される収縮量の大小を黒塗り矢印の大きさで示していて、後述される各応力「Pz1,Pss,Pxy,Pz2」を矢印で示している。
【0054】
先端部41dが積層シートSに接触すると、先端部41dからの熱は、基材フィルムS3内を同心円状に伝導される。このとき、基材フィルムS3は、先端部41dからの熱により僅かに収縮する。ここで、微視的には、基材フィルムS3内の温度は、先端部41dに近づくほど高くなる。そのため、微視的には、基材フィルムS3の熱による収縮量は、先端部41d側から微粘着層S4側に向かうにつれて、小さくなる。すなわち、基材フィルムS3の厚み方向(Z軸方向)において、基材フィルムS3の表面側と裏面側との間で基材フィルムS3の収縮量に差異が生じている。その結果、微視的には、基材フィルムS3のうち、先端部41dよりも開始位置Ps側では、上方へ向けて反り上がるような応力「Pz1」が生じているものと推測される。
【0055】
また、先端部41dの進行方向において、基材フィルムS3の長さは、シートS1の長さと同じである。そのため、積層シートSが先端部41dにより上方から押圧されると、積層シートSは下方に凸となるように弾性変形する。このとき、積層シートSのうち、先端部41dよりも開始位置Ps側では、シートS1には基材フィルムS3に対して先端部41d側に向かうような応力が生じていて、基材フィルムS3にはシートS1に対して開始位置Ps側に向かうような応力が生じている。その結果、シートS1と基材フィルムS3との間(シートS1と微粘着層S4との界面)には、剪断応力「Pss」が生じている。
【0056】
さらに、先端部41dは所定荷重で積層シートS(基材フィルムS3)に押し付けられながら終了位置Pfに向けて摺動するため、先端部41dと基材フィルムS3の表面との間には摩擦力が生じて、同摩擦力により、基材フィルムS3の表面には、終了位置Pf側に向かう応力「Pxy」が生じる。このとき、微視的には、基材フィルムS3のうち、先端部41dよりも後方の微粘着層S4側では、同応力「Pxy」に引かれるようにして、上向きの応力「Pz2」が生じているものと推測される。
【0057】
一方、先端部41dからの熱は、微粘着層S4にも伝導される。前述のとおり、シートS1の熱伝導率が低いほど、微粘着層S4に伝導された熱は、微粘着層S4内に留まる。このとき、微粘着層S4を構成している分子の一部が熱により切断されて、微粘着層S4の粘着性は低下するものと推測される。その結果、先端部41dよりも開始位置Ps側において、微粘着層S4が前述の各応力「Pz1,Pss,Pz2」によりシートS1から剥離して、微粘着フィルムS2がシートS1から剥離する。この剥離した部分は、先端部41dが終了位置Pfに向かうにつれて、開始位置Ps側から順に冷却されて、上方に向けて反り上がった状態で固まる。このようにして、シートS1から上方に向けて反り上がる形状の剥離起点S5が形成される。
【0058】
次いで、制御装置5は、ユニット搬送機構3の動作を制御して、ブレードユニット41を積層シートSの上方から退去させると共に、クランプ機構42をクランプ位置に移動させる(ST6)。このとき、起こし部材42aの下端部は、シートS1と剥離起点S5との間の隙間に配置される。
【0059】
図11は、クランプ機構42が剥離起点S5に近づけられた状態を示す部分拡大模式図である。同図は、積層シートSおよび保持板23の図4のEE線における断面を示している。同図は、クランプ機構42を非断面で示している。
【0060】
次いで、制御装置5は、ユニット搬送機構3およびクランプ機構42の動作を制御して、剥離起点S5をクランプ機構42に把持させる(ST7)。具体的には、制御装置5は、ユニット搬送機構3の動作を制御して、起こし部材42aの先端部を剥離起点S5の裏面に引っかけて、剥離起点S5を引き起こす。次いで、制御装置5は、スライダ42cの動作を制御して、クランプ部材42bを起こし部材42a側に移動させて、起こし部材42aおよびクランプ部材42bに剥離起点S5を把持させる。
【0061】
なお、本発明において、制御装置5は、剥離起点S5の把持前に、クランプ部材42bを剥離起点S5の裏面に複数回接触させて、剥離起点S5を引き起こすと共に、剥離起点S5を拡大させていてもよい。
【0062】
また、本発明において、剥離起点S5は、熱による基材フィルムS3の収縮により上方に反り上がっている。すなわち、剥離起点S5の先端部は引き起こされなくても上方に向けられている。そのため、剥離起点S5の引き起こし動作は、実行されなくてもよい。
【0063】
図12は、クランプ機構42により剥離起点S5が把持された状態を示す部分拡大模式図である。同図は、積層シートSおよび保持板23の図4のEE線における断面を示している。同図は、クランプ機構42を非断面で示している。
【0064】
次いで、制御装置5は、ユニット搬送機構3の動作を制御して、微粘着フィルムS2をシートS1から剥離する(ST8)。このとき、制御装置5は、例えば、クランプ機構42をブレード41cの進行方向と同じ方向に水平に移動させる。
【0065】
このように、本装置1では、熱により微粘着層S4の粘着性が低下すると共に、ブレード41cにより積層シートS内に各応力「Sz1,Sss,Sz2」が生じることにより、微粘着層S4を備える微粘着フィルムS2を剥離するとき、剥離起点S5が形成される。
【0066】
なお、本方法において、先端部41dの加熱は、積層シートSの搬送前に実行されていてもよく、本装置1の動作中、常に実行されていてもよい。
【0067】
●実施例●
次に、剥離起点S5の形成条件を変更したときの評価結果が、本発明の実施例として以下に説明される。以下の説明において、図1図4は、適宜参照される。また、以下の説明において、先に説明された実施の形態と共通する機能を有する要素については、説明の便宜上、同一の名称および符号が付されている。
【0068】
図13(a)は本実施例において使用されたブレード41cの模式側面図であり、(b)は積層シートSに対してブレード41cが摺動した領域を示す模式平面図である。
図14は、各形成条件における剥離起点S5の評価結果を示す模式図である。
図14において、「実施例1」の形成条件が基準とされていて、各実施例において実施例1から変更されている形成条件が太字で示されている。
【0069】
(積層シート)
各実施例において、微粘着フィルムS2として、「株式会社寺岡製作所製:フィルムマスキングテープNo.605:#50:膜厚55μm」が用いられている。同微粘着フィルムS2は、ポリエステル製の基材フィルムS3、および、基材フィルムS3の一面S3aに形成されているアクリル系微粘着層S4(粘着力:0.17(N/25mm))を備える。また、積層シートSとして、微粘着フィルムS2の一面にLCPシート(膜厚62μm)が積層されているLCPシート、および、微粘着フィルムS2の一面にLTCCシート(膜厚145μm)が積層されているLTCCシートが用いられている。
【0070】
(ブレード)
各実施例において、ブレード41cおよびヒータ41bとして、市販の半田コテユニットが用いられている。図13(a)に示されるように、ブレード41cの形状は、ブレード41cの厚み方向「D」において不均等な2つの傾斜面を有するV字状である。ブレード41cの厚みは「2mm」であり、幅は「10.2mm」である。ブレード41cの先端部41dの形状は、半径「0.5mm」の半円筒状である。
【0071】
(評価環境)
保持板23として、ゴム板(シリコン系ゴム、硬度:80°、熱伝導率:0.2W/(m・K))、ガラス板(ソーダガラス)、および金属板(SUS304)の3種の板材が代用されている。評価時には、板材の上に積層シートSが載置されていて、同板材が市販の電子天秤の天板上に載置されていて、剥離起点S5の形成は電子天秤上で行われている。
【0072】
(形成条件)
各実施例において、変数となる形成条件は、温度(℃)、移動方向、荷重(N)、ブレード41cの中心軸線C1の水平面(積層シートS)に対する角度(°)、ブレード41cの移動速度(mm/sec)、保持板23の材質、および、シートS1の種類である。先端部41dの温度は、同半田コテユニットに表示されている温度である。図13(b)に示されるように、積層シートSの角部が開始位置Psとして設定されていて、同角部を挟み込む2辺において、同角部から各「5mm」離れた点同士を結んだ仮想線C3上が終了位置Pfとして設定されている。ブレード41cの移動方向は、開始位置Psから終了位置Pf(正方向)、および、終了位置Pfから開始位置Ps(逆方向)の2方向であり、開始位置Psとなる角部を挟む2辺それぞれから45°の方向に沿っている。荷重は、電子天秤により計量されている。荷重は平均値として0.49N(50gf)または1.47N(150gf)となるように調整されている。
【0073】
(実施例1~6)
実施例1~実施例6では、先端部41dの温度が160℃、170℃、180℃、200℃、220℃、および230℃の6種に設定されている。温度以外の条件は、移動方向:正方向、荷重:0.49N(50gf)、ブレード41cの角度:45°、移動速度:3.5mm/sec、保持板23の材質:ゴム、および、シートS1:LCPシートである。温度が160℃では、剥離起点S5の形成確率は50%であった。また、温度が230℃では、基材フィルムS3に若干の融解(皺)が見られた。温度が170℃~220℃の範囲内では、剥離起点S5の形成確率は100%であった。したがって、LCPシートに対する他の実施例では、温度は、その略中間値である200℃に設定されている。
【0074】
(実施例1,7~9)
実施例1,7~9では、先端部41dの移動速度が7.1mm/sec、3.5mm/sec。1.8mm/sec、および1.2mm/secの4種に設定されている。いずれの実施例でも、剥離起点S5の形成確率は100%であり、移動速度による差異は見いだせなかった。開始位置Psは積層シートSの角部上に設定されている(すなわち、開始位置Psの面積は極小である)ため、先端部41dが開始位置Psに位置した時点で、開始位置Psにおいて十分な熱が微粘着層S4に伝導されたものと推測される。
【0075】
(実施例1,10~13)
実施例1,10~13では。ブレード41cの中心軸線C1の水平面(積層シートS)に対する角度が30°、45°、90°、120°、および135°の5種に設定されている。ここで、ブレード41cの角度が鋭角のときブレード41cは終了位置Pf側に傾けられていて、同角度が鈍角のときブレード41cは開始位置Ps側に傾けられている。いずれの実施例でも、剥離起点S5の形成確率は100%であり、角度による差異は見いだせなかった。ただし、角度が90°のとき、剥離起点S5の高さが高くなる傾向にある反面、剥離起点S5形成後のシートS1に若干の撓みが生じていた。そのため、ブレード41cの中心軸線C1は、水平面(積層シートS)に対して傾斜している方が好ましい。
【0076】
(実施例1,14~16)
実施例1,14~16では、先端部41dの移動速度、および、ブレード41cの中心軸線C1の水平面に対する角度が前述の範囲内で設定されている。いずれの実施例でも、剥離起点S5の形成確率は100%であった。
【0077】
(実施例9,17)
実施例9,17では、荷重が0.49N(50gf)および1.47N(150gf)の2種に設定されている。いずれの実施例でも、剥離起点S5の形成確率は100%であった。なお、荷重が1.47Nのとき、剥離起点S5と共にシートS1にも若干の反りが見られた。そのため、本実施例では、この2つの荷重であれば、0.49Nがよい。ただし、本来の保持板23であれば、シートS1は吸着孔23bにより吸着されているため、この程度の反りは生じないと推測される。すなわち、シートS1が吸着孔23bによる吸着力を超えて変形をしなければ、荷重が1.47N(150gf)を超えても、シートS1の反りを生じることなく剥離起点S5は形成可能であると推測される。また、前述のとおり、手作業で半田コテを操作していることから、荷重は多少変動しており、前述の各応力「Sz1,Sss,Sz2」が生じていれば、0.49N未満の荷重でも剥離起点S5は形成可能であると推測される。
【0078】
(実施例1,18,19)
実施例1,18,19では、保持板23の材質が、ゴム、ガラス、および金属(SUS304)の3種に設定されている。材質がガラスの場合、剥離起点S5の形成確率は100%であったが、剥離起点S5の高さは材質がゴムの場合よりも低くなった。これは、保持面23aの弾性変形の有無に起因するものと推測される。すなわち、材質がゴムの場合と比較して、荷重による保持面23aの変形が生じておらず、前述の応力「Sz2」が小さくなったものと推測される。ただし、剥離起点S5は形成できており、材質がガラスでも剥離起点S5の形成は可能である。この結果より、材質がゴムの場合、荷重が0.49N(50gf)でも保持面23aは弾性変形しているものと推測できる。一方、材質が金属の場合、剥離起点S5は形成されなかった。金属の熱伝導率(SuS304:約16W/(m・K))がゴムおよびガラスよりも十分に大きいため、微粘着層S4の粘着性の低下に必要な熱が微粘着層S4に留まらなかったものと推測される。なお、基材フィルムS3の融点近くの温度であれば、剥離起点S5は形成され得ると推測される。
【0079】
(実施例1,20~22)
実施例1,20~22では、先端部41dの進行方向が、正方向および逆方向の2種に設定されている。進行方向が逆方向の場合、剥離起点S5は形成されなかった。これは、前述の応力「Sz1,Sss,Sz2」が生じていても、開始位置Ps側の微粘着層S4の粘着性が低下していないため、微粘着フィルムS2がシートS1から剥離されなかったものと推測される。
【0080】
(実施例23~26)
実施例23~26では、シートS1にLTCCシートが用いられていて、温度が200℃、220℃、230℃、および250℃の4種に設定されている。シートS1がLTCCシート、かつ、温度が200℃では、剥離起点S5は形成されなかった。これは、LTCCシートの熱伝導率(約2.6W/(m・K))がLCPシートの熱伝導率(約0.38W/(m・K))よりも高いため、微粘着層S4の粘着性の低下に必要な熱が微粘着層S4に留まらなかったことが要因であると推測される。すなわち、LTCCシートへの熱の伝導が速く、剥離起点S5が生じ得る程度まで粘着性が低下しなかったものと推測される。一方、LTCCシートでは、温度が250℃の高温でも、基材フィルムS3が溶解することなく、良好な剥離起点S5が形成された。これは、LTCCシートの熱伝導率がLCPシートの熱伝導率よりも高いため、過剰な熱が基材フィルムS3に留まらなかった(過剰な熱がLTCCシートへ伝導された)ものと推測される。
【0081】
(実施例27)
実施例27では、幅方向「W」における長さが短い(5.2mm)先端部41dが用いられている。幅方向「W」において、先端部41dの長さは、終了位置Pfにおける積層シートSの長さ(約7mm)よりも短い。そのため、先端部41dが終了位置Pfに位置しているとき、先端部41dは、開始位置Psである角部を形成している2辺から外側にはみ出していない。そのため、実施例27では、小さな剥離起点S5は形成されたものの、実用的な大きさ(すなわち、クランプ機構42が把持可能な大きさ)の剥離起点S5は形成されなかった。これは、開始位置Psから終了位置Pfまでのうち、終了位置Pf側の領域において、先端部41dが当接していない領域があるため、微粘着層S4の粘着性を低下させるために必要な熱が得られていないものと推測される。このように、実施例27では、形成された剥離起点S5の大きさが実用的ではないため、剥離起点S5の形成確率は0%と表記されている。
【0082】
図15は実施例1,24により形成された剥離起点S5の実例を示す画像である。
同図の左側は実施例1により形成された剥離起点S5の実例を示していて、右側は実施例24により形成された剥離起点S5の実例を示している。LCPシートおよびLTCCシートのいずれに対しても、剥離起点S5(丸で囲まれた部分)が形成されている。
【0083】
●まとめ
以上説明された実施の形態によれば、本装置1は、シートテーブル21、ブレード41c、ヒータ41b、シート搬送機構2、ユニット搬送機構3、およびクランプ機構42を備える。シートテーブル21は、微粘着フィルムS2(基材フィルムS3)が上方に向けて露出するように、積層シートSを吸着保持する保持面23aを備える。ブレード41cは、シートテーブル21に吸着保持された積層シートSの基材フィルムS3に向けられる先端部41dを備える。ヒータ41bは、先端部41dを所定温度に加熱する。ユニット搬送機構3は、シートテーブル21に対するブレード41c(先端部41d)の位置を相対移動させる。クランプ機構42は、積層シートSに形成される剥離起点S5を把持して、微粘着フィルムS2をシートS1から剥離する。ユニット搬送機構3は、先端部41dの幅方向「W」が先端部41dの相対移動の方向に対して直交するように、所定温度に加熱された先端部41dを、開始位置Psに当接させる。次いで、ユニット搬送機構3は、先端部41dが積層シートS(基材フィルムS3)に当接した状態で、開始位置Psから終了位置Pfまで先端部41dを摺動させることにより、開始位置Psから終了位置Pfまでの間で剥離起点S5を形成させる。開始位置Psから終了位置Pfまでの長さ「Lsf」は、先端部41dが当接している部分の積層シートSの長さが先端部41dの長さを超えないように設定されている。この構成によれば、本装置1は、加熱された先端部41dを開始位置Psから終了位置Pfまで基材フィルムS3上を摺動させるという簡易な動作で、剥離起点S5を安定して、かつ、容易に形成できる。
【0084】
また、以上説明された実施の形態によれば、基材フィルムS3は、ポリエステルまたはポリエチレンテレフタレート製である。微粘着層S4は、アクリル系粘着剤である。保持面23aは、低熱伝導材料製である。所定温度は、170℃以上250℃以下である。この構成によれば、本装置1は、基材フィルムS3を溶融させることなく、微粘着層S4の粘着性を低減させて、剥離起点S5を安定して形成できる。
【0085】
さらに、以上説明された実施の形態によれば、シートS1がLCPシートであるとき、所定温度は170℃以上220℃以下である。また、シートS1がLTCCシートであるとき、所定温度は220℃以上250℃以下である。この構成によれば、LCPシートまたはLTCCシートが積層されている積層シートSにおいて、本装置1は、剥離起点S5を安定して形成できる。
【0086】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、保持面23aは、ガラスまたはゴム製である。この構成によれば、微粘着層S4の粘着性の低下に必要な熱が微粘着層S4に留まり易い。また、保持面23aがゴム製であるとき、先端部41dからの荷重により積層シートSおよび保持面23aが弾性変形するため、シートS1と微粘着フィルムS2(基材フィルムS3)との間には、剪断応力「Pss」が生じ易い。その結果、本装置1は、剥離起点S5を安定して形成できる。
【0087】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、先端部41dが積層シートS(基材フィルムS3)に当接しているとき、先端部41dは、所定荷重が先端部41dから積層シートSに加えられるように、積層シートSに押し当てられている。所定荷重は、積層シートSが弾性変形可能な範囲内に設定されている。この構成によれば、シートS1と微粘着フィルムS2(基材フィルムS3)との間には、確実に剪断応力「Pss」が生じる。また、基材フィルムS3の表面には応力「Pxy」が生じて、基材フィルムS3の内部には応力「Pz2」が生じる。その結果、本装置1は、剥離起点S5を安定して形成できる。
【0088】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、所定荷重は、保持面23aがゴム製であるとき、積層シートSと保持面23aとが弾性変形可能な範囲内に設定されている。この項背によれば、シートS1と微粘着フィルムS2(基材フィルムS3)との間には、さらに大きな剪断応力「Pss」が生じる。その結果、剥離起点S5の高さは、高くなる。
【0089】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、ブレード41cの中心軸線は、積層シートSに対して傾斜している。この構成によれば、剥離起点S5が形成されている部分のシートS1には、皺が生じない。
【0090】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、平面視において、積層シートSの形状は、矩形状である。開始位置Psは積層シートSの角部であり、終了位置Pfは積層シートSの4つの端辺のうち、同角部を形成する2つの端辺それぞれから、積層シートSの内側に離れた位置である。この構成によれば、先端部41dは、逆方向では無く正方向に移動する。その結果、本装置1は、剥離起点S5を安定して、かつ、容易に形成できる。
【0091】
●その他の実施形態
なお、本発明において、積層シートSの形状は、平面視において、矩形状に限定されない。すなわち、例えば、積層シートSの形状は、平面視において、円形状、多角形状、または帯状でもよい。
【0092】
また、本発明において、微粘着層S4の材質は、再剥離性を有する微粘着タイプであり、かつ、170℃~250℃の熱により粘着性が低下する材質であればよく、アクリル系粘着剤に限定されない。
【0093】
さらに、本発明において、微粘着フィルムS2がシートS1から剥離されるとき、シート搬送機構2は、シートテーブル21に対するブレード41cの位置を相対移動させるようにシートテーブル21を移動させてもよい。この場合、シート搬送機構2は、本発明における移動機構として機能する。
【0094】
さらにまた、本発明において、側方視における先端部41dの形状は、半円筒状に限定されない。すなわち、例えば、先端部41dの形状は、微粘着フィルムS2が切断されなければ、鋭利な形状でもよい。
【0095】
さらにまた、本発明において、先端部41dの幅方向「W」は、仮想線C2に直交するように配置されていなくてもよい。すなわち、例えば、平面視において、幅方向「W」は、仮想線C2に対してやや傾斜して交わるように配置されていてもよい。この場合、先端部41dの進行方向は、幅方向「W」および上下方向に対して直交する方向である。また、上方視において、先端部41dが開始位置Psから終了位置Pfまで移動する間、両端部41e,41fは、積層シートSよりも外側に配置されている。
【0096】
さらにまた、本方法は、微粘着層S4を有していない従来の基材フィルムに対して実行されても剥離起点S5を形成可能である。
【0097】
さらにまた、本発明において、ブレード41cの形状は、先に説明された実施の形態に限定されない。
【0098】
図16(a)はブレード41cの形状の第1変形例を示す模式側面図であり、(b)は同第2変形例を示す模式側面図であり、(c)は同第3変形例を示す模式側面図である。
【0099】
ブレード41cの幅方向「W」視において、ブレード41cの形状は、(a)頂角が下方に向けられた二等辺三角形状でもよく、(b)斜辺がブレード41cの進行方向の逆側に向けられる直角三角形状でもよく、または、(c)斜辺がブレード41cの進行方向側に向けられる直角三角形状でもよい。
【0100】
●本発明の実施態様●
次に、以上説明した各実施形態から把握される本発明の実施態様について、各実施形態において記載された用語と符号とを援用しつつ、以下に記載する。
【0101】
本発明の第1の実施態様は、基材フィルム(例えば、基材フィルムS3)と、前記基材フィルムの一面(例えば、一面S3a)に形成された微粘着層(例えば、微粘着層S4)と、を有する微粘着フィルム(例えば、微粘着フィルムS2)の前記微粘着層にシート(例えば、シートS1)が積層された積層シート(例えば、積層シートS)のうち、前記微粘着フィルムを前記シートから剥離する剥離装置(例えば、剥離装置1)であって、前記微粘着フィルムの前記基材フィルムが上方に向けて露出するように、前記積層シートを吸着保持する保持面(例えば、保持面23a)を有するシートテーブル(例えば、シートテーブル21)と、前記シートテーブルに吸着保持された前記積層シートの前記基材フィルムに向けられる刃先部(例えば、先端部41d)を有するブレード(例えば、ブレード41c)と、前記刃先部を所定温度に加熱するヒータ(例えば、ヒータ41b)と、前記シートテーブルに対する前記ブレードの位置を相対移動させる移動機構(例えば、ユニット搬送機構3)と、前記積層シートに形成される剥離起点(例えば、剥離起点S5)を把持して、前記微粘着フィルムを前記シートから剥離するクランプ機構(例えば、クランプ機構42)と、を有してなり、前記移動機構は、前記刃先部の長手方向(例えば、幅方向「W」)が前記相対移動の方向に対して直交するように、前記ブレードのうち、前記所定温度に加熱された前記刃先部を、開始位置(例えば、開始位置Ps)となる前記基材フィルムの外縁部上に当接させて、前記刃先部が前記基材フィルムに当接した状態で、前記開始位置から前記開始位置よりも前記基材フィルムの内側に位置する終了位置(例えば、終了位置Pf)まで前記刃先部を摺動させることにより、前記開始位置から前記終了位置までの間で前記微粘着フィルムが反り上がるように剥離した前記剥離起点を形成させて、前記開始位置から前記終了位置までの長さ(例えば、長さ「Lsf」)は、前記刃先部が当接している部分の前記積層シートの長さが前記刃先部の長さを超えないように設定される、剥離装置である。
この構成によれば、本装置は、加熱された先端部を開始位置から終了位置まで基材フィルム上を摺動させるという簡易な動作で、剥離起点を安定して、かつ、容易に形成できる。
【0102】
本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様において、前記基材フィルムは、ポリエステルまたはポリエチレンテレフタレート製であり、前記微粘着層は、アクリル系粘着剤であり、前記保持面は、低熱伝導材料製であり、前記所定温度は、170℃以上250℃以下である、剥離装置である。
この構成によれば、本装置は、基材フィルムを溶融させることなく、微粘着層の粘着性を低減させて、剥離起点を安定して形成できる。
【0103】
本発明の第3の実施態様は、第2の実施態様において、前記シートは、LCPシートまたはLTCCシートであり、前記シートが前記LCPシートであるとき、前記所定温度は、170℃以上220℃以下であり、前記シートが前記LTCCシートであるとき、前記所定温度は、220℃以上250℃以下である、剥離装置である。
この構成によれば、LCPシートまたはLTCCシートが積層されている積層シートにおいて、本装置は、剥離起点を安定して形成できる。
【0104】
本発明の第4の実施態様は、第2の実施態様において、前記保持面は、ガラスまたはゴム製である、剥離装置である。
この構成によれば、本装置は、剥離起点を安定して形成できる。
【0105】
本発明の第5の実施態様は、第1の実施態様において、前記刃先部が前記基材フィルムに当接しているとき、前記刃先部は、所定荷重が前記刃先部から前記基材フィルムに加えられるように、前記基材フィルムに押し当てられて、前記所定荷重は、前記積層シートが弾性変形可能な範囲内に設定される、剥離装置である。
この構成によれば、本装置は、剥離起点を安定して形成できる。
【0106】
本発明の第6の実施態様は、第5の実施態様において、前記所定荷重は、前記保持面がゴム製であるとき、前記積層シートと前記保持面とが弾性変形可能な範囲内に設定される、剥離装置である。
この構成によれば、で剥離起点の高さは、高くなる。
【0107】
本発明の第7の実施態様は、第5の実施態様において、前記ブレードは、前記基材フィルムに対して傾斜している、剥離装置である。
この構成によれば、剥離起点が形成されている部分のシートには、皺が生じない。
【0108】
本発明の第8の実施態様は、第1乃至第7の実施態様のいずれか1つの実施態様において、平面視において、前記積層シートの形状は、矩形状であり、前記開始位置は、前記積層シートの角部であり、前記終了位置は、前記積層シートの4つの端辺のうち、前記角部を形成する2つの端辺それぞれから、前記積層シートの内側に離れた位置である、剥離装置である。
この構成によれば、本装置は、剥離起点を安定して、かつ、容易に形成できる。
【0109】
本発明の第9の実施態様は、基材フィルムと、前記基材フィルムの一面に形成された微粘着層と、を有する微粘着フィルムの前記微粘着層にシートが積層された積層シートのうち、前記微粘着フィルムを前記シートから剥離する剥離装置により実行される剥離方法であって、前記剥離装置は、前記微粘着フィルムの前記基材フィルムが上方に向けて露出するように、前記積層シートを吸着保持する保持面を有するシートテーブルと、前記シートテーブルに吸着保持された前記積層シートの前記基材フィルムに向けられる刃先部を有するブレードと、前記刃先部を所定温度に加熱するヒータと、前記シートテーブルに対する前記ブレードの位置を相対移動させる移動機構と、前記積層シートに形成される剥離起点を把持して、前記微粘着フィルムを前記シートから剥離するクランプ機構と、を有してなり、前記剥離方法は、前記剥離装置が、前記刃先部の長手方向が前記相対移動の方向に対して直交するように、前記ブレードのうち、前記所定温度に加熱された前記刃先部を、開始位置となる前記基材フィルムの外縁部上に当接させる当接ステップ(例えば、当接ステップST4)と、前記剥離装置が、前記刃先部が前記基材フィルムに当接した状態で、前記開始位置よりも前記基材フィルムの内側に位置する終了位置まで前記刃先部を摺動させて、前記開始位置から前記終了位置までの間で前記微粘着フィルムを反り上がるように剥離させて、前記剥離起点を形成する起点形成ステップ(例えば、起点形成ステップST5)と、を含み、前記起点形成ステップにおいて、前記開始位置から前記終了位置までの長さは、前記刃先部が当接している部分の前記積層シートの長さが前記刃先部の長さを超えないように設定される、剥離方法である。
この構成によれば、本方法は、加熱された先端部を開始位置から終了位置まで基材フィルム上を摺動させるという簡易な動作で、剥離起点を安定して、かつ、容易に形成できる。
【符号の説明】
【0110】
1 剥離装置
2 シート搬送機構
21 シートテーブル
23a 保持面
3 ユニット搬送機構(移動機構)
41b ヒータ
41c ブレード
41d 先端部(刃先部)
42 クランプ機構
Pf 終了位置
Ps 開始位置
S 積層シート
S1 シート
S2 微粘着フィルム
S3 基材フィルム
S3a 一面
S4 微粘着層
S5 剥離起点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図15
図16