IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-27
(45)【発行日】2025-04-04
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/10 20060101AFI20250328BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20250328BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20250328BHJP
【FI】
C08L25/10
C08K3/26
C08L25/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023516363
(86)(22)【出願日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2022013769
(87)【国際公開番号】W WO2022224686
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2021070832
(32)【優先日】2021-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】神巻 恵理
(72)【発明者】
【氏名】元井 大介
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕卓
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特許第6924537(JP,B1)
【文献】特開2017-075307(JP,A)
【文献】特開2008-189744(JP,A)
【文献】特開平09-136998(JP,A)
【文献】特開2003-041089(JP,A)
【文献】特開昭50-092342(JP,A)
【文献】特開昭59-199702(JP,A)
【文献】特許第6933408(JP,B1)
【文献】特許第6892184(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムを含む無機充填剤と、ジエン成分を含むスチレン系樹脂とを含む、樹脂組成物であって、
前記無機充填剤が、卵殻粉末を含み、
前記無機充填剤の含有量が、前記樹脂組成物の総質量に対して50質量%以上であり、
ASTM-D638に従って測定される、引張弾性率が1,000~3,000MPaであり、引張破断伸びが5%以上である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記卵殻粉末の平均粒子径が、3~50μmである、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記スチレン系樹脂が、ポリスチレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーとを含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリスチレン樹脂が、汎用ポリスチレン及び耐衝撃性ポリスチレンから選択される少なくとも1つの樹脂を含む、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーが、スチレン-ブタジエン共重合体を含む、請求項またはに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂組成物の総質量に対する前記ジエン成分の含有量が、3~15質量%である、請求項1からのいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂組成物のMFR(200℃、5kg荷重)が、1.5g/10min以上である、請求項1からのいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
射出成形用である、請求項1からのいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1からのいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びその成形品に関する。より具体的には、スチレン系樹脂の含有量が少なく、環境への負荷が少ない樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、家電機器、自動車の内装材、玩具等に使用される樹脂製品は、射出成形等により成形される。ポリスチレン樹脂は代表的な熱可塑性樹脂であり、透明性、成形性に優れかつ安価であることから、射出成形用熱可塑性樹脂として、上記の各用途に広く応用されている。これら各種用途のうち、耐熱性や剛性等の物性が要求される分野においては、ポリスチレン樹脂中に炭酸カルシウム、タルク、ゼオライト等の無機充填材を配合することが知られている(例えば、特許文献1等)。しかしながら、ポリスチレン樹脂は脆性が高いため、無機充填材を多量に含む樹脂組成物から得られる成形品は、引張弾性率や引張破断伸びが十分ではないという問題がある。またこのような樹脂組成物は、射出成形に必要な流動性も低下する。
【0003】
ところで、近年、地球温暖化等の環境問題が重視されるようになり、石油等の化石資源に由来する樹脂材料の使用量を低減することが望まれている。射出成形品の分野においても、化石資源由来の熱可塑性樹脂比率の少ない樹脂製品が望まれており、化石資源に由来しない無機充填剤等の添加剤の配合量を増やす方法(特許文献2)や、バイオマス由来の材料を配合した樹脂組成物(特許文献3)等について検討がなされている。しかしながら前述の通り、ポリスチレン樹脂を含む樹脂組成物では、無機充填材の配合量を増やすと樹脂が脆くなって成形品の引張弾性率や引張破断伸びが低下し、成形性も悪化する。バイオマス材料を配合する場合も同様であり、バイオマス材料の配合率を高くすると、射出成形品に要求される諸物性を満たすことができない。そのため、従来の技術では、スチレン系樹脂の割合を50質量%以下にまで低減した、環境負荷の少ない樹脂組成物を得ることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-267350号公報
【文献】特開2019-077148号公報
【文献】特開2018-119048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、スチレン系樹脂の含有量が少なく、環境への負荷が少ない樹脂組成物であって、成形性が良好であり、かつ引張弾性率及び引張破断伸びに優れる成形品が得られる樹脂組成物、及びその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に対して、本願発明者らは鋭意検討した結果、ジエン成分を含むスチレン系樹脂と、炭酸カルシウムを含む無機充填剤とを組み合わせることによって、上記の全ての課題を解決できる樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
[1]炭酸カルシウムを含む無機充填剤と、ジエン成分を含むスチレン系樹脂とを含む、樹脂組成物であって、前記無機充填剤の含有量が、前記樹脂組成物の総質量に対して50質量%以上であり、ASTM-D638に従って測定される、引張弾性率が1,000~3,000MPaであり、引張破断伸びが5%以上である、樹脂組成物。
[2]前記無機充填剤が、卵殻粉末を含む、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記卵殻粉末の平均粒子径が、3~50μmである、[2]に記載の樹脂組成物。
[4]前記スチレン系樹脂が、ポリスチレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーとを含む、[1]から[3]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[5]前記ポリスチレン樹脂が、汎用ポリスチレン及び耐衝撃性ポリスチレンから選択される少なくとも1つの樹脂を含む、[4]に記載の樹脂組成物。
[6]前記スチレン系熱可塑性エラストマーが、スチレン-ブタジエン共重合体を含む、[4]または[5]に記載の樹脂組成物。
[7]前記樹脂組成物の総質量に対する前記ジエン成分の含有量が、3~15質量%である、[1]から[6]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[8]前記樹脂組成物のMFR(200℃、5kg荷重)が、1.5g/10min以上である、[1]から[7]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[9]射出成形用である、[1]から[8]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[10][1]から[9]のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スチレン系樹脂の含有量が少なく、環境への負荷が少ない樹脂組成物であって、成形性が良好であり、かつ引張弾性率及び引張破断伸びに優れる成形品が得られる樹脂組成物、及びその成形品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。なお本明細書において、「~」の記号は「以上以下」を意味する。すなわち、「3~50」とは、「3以上50以下」を意味する。
[樹脂組成物]
本発明に係る樹脂組成物は、炭酸カルシウムを含む無機充填剤と、ジエン成分を含むスチレン系樹脂とを含む、樹脂組成物であって、前記無機充填剤の含有量が、前記樹脂組成物の総質量に対して50質量%以上であり、ASTM-D638に従って測定される、引張弾性率が1,000~3,000MPaであり、引張破断伸びが5%以上であることを特徴とする。本発明に係る樹脂組成物によれば、射出成形に適した成形性を達成しつつ、スチレン系樹脂の含有量を低くすることができる。さらに、引張弾性率及び引張破断伸びに優れる成形品を提供できる。
【0009】
本発明に係る樹脂組成物は、ASTM-D638に従って測定される引張弾性率が、1,000~3,000MPaである。本明細書において、「樹脂組成物の引張弾性率」及び「樹脂組成物の引張破断伸び」とは、ASTM-D638に従って樹脂組成物の試験片を作成し、前記試験片を用いて測定した引張弾性率及び引張破断伸びを意味する。前記試験片の引張弾性率が1,000~3,000MPaであれば、樹脂組成物から得られる成形品の引張弾性率も良好となり、強度と柔軟性とのバランスに優れた成形品を得ることができる。
前記引張弾性率は、1,000~2,600MPaであってもよく、1,000~1,900MPaであってもよく、1,200~1,800MPaであってもよい。なお、前記引張弾性率はASTM-D638に従って測定した値であり、具体的には以下の条件で測定した値のことを意味する。
(引張弾性率の測定方法)
樹脂組成物を厚み0.40mmの板状に成形したのち、ダンベル1号の形状で切り抜いて測定サンプルを10枚調製する。その後、ASTM-D638に従って、オートグラフを用いて、測定温度23℃、湿度50%の条件下、引張速度5mm/minで測定サンプルの引張弾性率を測定する。全ての測定サンプルの引張弾性率を測定し、その平均値を樹脂組成物の引張弾性率とする。
【0010】
また、本発明に係る樹脂組成物は、ASTM-D638に従って測定される引張破断伸びが5%以上である。樹脂組成物の引張破断伸びが5%以上であれば、得られる成形品の引張破断伸びも良好となり、強度と柔軟性とのバランスに優れた成形品を得ることができる。前記引張破断伸びは、10%以上であってもよく、15%以上であってもよい。成形性の観点からは、引張破断伸びは、5~100%であってもよい。なお、前記引張破断伸びはASTM-D638に従って測定した値であり、具体的には以下の条件で測定した値のことを意味する。
(引張破断伸びの測定方法)
樹脂組成物を厚み0.40mmの板状に成形したのち、ダンベル1号の形状で切り抜いて測定サンプルを10枚調製する。その後、ASTM-D638に従って、オートグラフを用いて、測定温度23℃、湿度50%の条件下、引張速度5mm/minで測定サンプルの引張破断伸びを測定する。全ての測定サンプルの引張破断伸びを測定し、その平均値を樹脂組成物の引張破断伸びとする。
【0011】
本発明に係る樹脂組成物の、JIS K 7260の規格に沿って評価した、200℃、5kg荷重でのMelt Flow Rate(MFR)は、1.5g/10min以上が好ましく、2.0g/10min以上がより好ましい。樹脂組成物のMFR(200℃、5kg荷重)が1.5g/10min以上であれば、流動性が良好となりやすく、成形性がより良好となりやすい。
【0012】
<炭酸カルシウムを含む無機充填材>
本発明に係る樹脂組成物は、炭酸カルシウムを含む無機充填剤を、樹脂組成物の総質量に対して50質量%以上含有する。本発明に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂成分として、ジエン成分を含むスチレン系樹脂を含んでいるため、無機充填剤を50質量%以上含有させても成形性が悪化しない。また、引張弾性率及び引張破断伸びに優れる成形品を提供できる。無機充填材の割合は、樹脂組成物の総質量に対して、50質量%以上であり、50~70質量%が好ましく、50~60質量%がより好ましい。
【0013】
無機充填材は炭酸カルシウムを含む。無機充填材中の炭酸カルシウムの割合は、無機充填材の総質量に対して、90質量%以上が好ましく、93~100質量%がより好ましく、95~100質量%がさらに好ましい。無機充填材中の炭酸カルシウムの割合が前記範囲内であれば、引張弾性率及び引張破断伸びに優れる成形品が得られやすい。
【0014】
無機充填材には炭酸カルシウム以外の充填材(その他の充填材)が含まれていてもよい。その他の充填材としては、例えば、タルク等が挙げられる。その他の充填材は1種単独で含まれていてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その他の充填材は、無機充填材の総質量に対して、10質量%未満の範囲で含有することができる。
【0015】
1つの態様において、本発明に係る炭酸カルシウムを含む無機充填材は、バイオミネラルであってもよい。「バイオミネラル」とは生物が作り出す鉱物を指し、真珠、貝殻、卵殻、骨、甲殻類の外骨格等が挙げられる。本発明に係る無機充填材として「バイオミネラル」を用いる場合、卵殻粉末、貝殻粉末を用いることが好ましい。これら卵殻粉末及び貝殻粉末は、炭酸カルシウムを主成分とする無機充填材である。また、卵殻粉末及び貝殻粉末は、より環境への負荷を低減させる観点から、食料廃棄物由来の粉末であることが好ましい。このうち、卵殻粉末を含むことがより好ましい。なお、「食料廃棄物由来」とは、食品の製造や調理過程で生じる加工残渣の他、食品の流通過程や消費段階で生じる売れ残りや食べ残し等の食品廃棄物に由来する材料であってもよい。
【0016】
卵殻粉末としては、鶏の卵の殻を原料とするものが好ましい。鶏の卵殻は、年間20万トン以上が廃棄処理されており、その有効活用が望まれている。また、鶏の卵殻には、一般に炭酸カルシウムが95質量%以上含まれている。本発明に係る樹脂組成物は、炭酸カルシウムを含む無機充填材として、鶏の卵殻粉末を含むことが好ましい。1つの態様において、無機充填材としては、卵殻粉末のみを用いてもよく、卵殻粉末と、市販の炭酸カルシウムとの混合物であってもよい。ここで、「市販の炭酸カルシウム」とは、バイオミネラル由来でない原料、例えば、石灰石等を原料として、化学的に製造されたものを意味する。無機充填材として、卵殻粉末と市販の炭酸カルシウムとの混合物を用いる場合、天然廃棄材の利活用の観点から、前記混合物中の卵殻粉末の割合は、60~100質量%が好ましく、70~100質量%がより好ましい。また、前記混合物中には、炭酸カルシウム以外の前述のその他の充填材が含まれていてもよい。
【0017】
卵殻粉末を無機充填材として配合する場合、より微細な粉末を用いると樹脂組成物の粘度が上昇しやすくなり、成形時の流動性が低下する恐れがある。また、樹脂組成物中での卵殻粉末の分散性も低下しやすい。一方、平均粒子径が大きすぎると、所望の強度や柔軟性を備える成形品が得られにくくなる。よって、これらの観点から、卵殻粉末の平均粒子径は3~50μmが好ましく、3~40μmがより好ましく、4~30μmがさらに好ましい。特に、卵殻粉末の平均粒子径の上限は、50μm以下とすることが好ましい。50μmよりも大きな平均粒子径を有する卵殻粉末を配合した場合、樹脂が破断しやすくなり、所望の伸びが得られにくくなる。なお、卵殻粉末の平均粒子径は、「ふるい分け法」に沿って、粒子径分布測定装置で測定した値のことを意味する。
卵殻粉末の比重は2.0~3.0であることが好ましく、2.0~2.8であることがより好ましく、2.3~2.7であることが特に好ましい。
【0018】
上記のような卵殻粉末は、従来公知の製造方法を用いて調製することができる。すなわち、卵殻を公知の方法で粉砕したのち、分級して所望の平均粒子径を有する卵殻粉末を得ることができる。具体的には、卵殻から卵殻膜を除去した後、卵殻を乾燥処理する。その後、粉砕機等で粉砕して卵殻の粉末を得る。その後、適当なメッシュ径を有する篩を用いて分級することで、卵殻粉末とできる。
また、卵殻粉末は市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、(株)グリーンテクノ21製、商品名:GT-26、キューピータマゴ(株)製、商品名:カルホープ(登録商標)等が挙げられる。
【0019】
本発明に係る無機充填材が卵殻粉末である場合、樹脂組成物中の卵殻粉末の含有量は、樹脂組成物の総質量に対して、50質量%以上であり、50~70質量%が好ましく、50~65質量%がより好ましい。
【0020】
<ジエン成分を含むスチレン系樹脂>
本発明に係る樹脂組成物は、ジエン成分を含むスチレン系樹脂を含む。ジエン成分を含むスチレン系樹脂を含むことにより、前述の無機充填材を50質量%以上配合しても、樹脂組成物が脆くならず、成形性も良好となる。また、引張弾性率及び引張破断伸びに優れる成形性を得ることができる。ここで、「ジエン成分を含む」とは、共役ジエンに由来する単量体単位を含むスチレン系樹脂を含むこと、共役ジエンのモノマーを含むこと、または共役ジエンゴムや共役ジエンを含む共重合体のゴム質重合体を含むこと、あるいはこれらを1つ以上含むことを意味する。また、「スチレン系樹脂」とは、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位を含むポリマーを、1つ以上含んでいることを意味する。本発明に係る「ジエン成分を含むスチレン系樹脂」は、1種類の、共役ジエンに由来する単量体単位と、芳香族ビニル化合物に由来する単量体単位とを含むポリマーから構成されていてもよく、後述する通り、複数のポリマーの混合物であってもよい。以下、ジエン成分を含むスチレン系樹脂を、単に「スチレン系樹脂」と記載することもある。
【0021】
樹脂組成物中のジエン成分の割合は、樹脂組成物の総質量に対して、3~15質量%であることが好ましく、3~14質量%がより好ましく、4~12質量%が特に好ましい。樹脂組成物中のジエン成分の割合が前記範囲内であれば、無機充填材を50質量%以上配合しても、成形性が良好となりやすい。また、成形品の引張弾性率及び引張破断伸びが低下しにくい。なお、樹脂組成物中のジエン成分の割合は、スチレン系樹脂の配合量から算出された値であってもよく、以下の方法で測定された値であってもよい。
スチレン系樹脂の配合量から算出する方法としては、例えば、あらかじめジエン成分量が判明しているスチレン系樹脂を用いる場合、[(スチレン系樹脂中のジエン成分量(質量%))×(スチレン系樹脂の配合量(質量%))]/樹脂組成物の総質量(100質量%)から算出することができる。
樹脂組成物中のジエン成分を測定する方法としては、例えば、一塩化ヨウ素、ヨウ化カリウムおよびチオ硫酸ナトリウム標準液を用いた電位差滴定で、樹脂組成物中のジエン含有量を測定し、このジエン含有量を樹脂組成物中のジエン成分の割合とする方法が挙げられる。具体的な測定方法としては、例えば、日本分析化学会高分子分析研究懇談会編、「新版高分子分析ハンドブック」、紀伊國屋書店(1995年度版)、P.659(3)ゴム含量に記載されている方法を採用することができる。
【0022】
本発明に係るスチレン系樹脂中のジエン成分の割合は、スチレン系樹脂の総質量に対して、5~40質量%が好ましく、6~30質量%がより好ましく、8~28質量%が特に好ましい。ジエン成分の割合が前記範囲内のスチレン系樹脂であれば、樹脂組成物中のジエン成分の割合を、上記の好ましい範囲に調整しやすくなる。また、樹脂組成物中のスチレン系樹脂の含有量を減らしても、成形性が悪化しにくい。また、得られる成形品の引張弾性率や引張破断伸びが低下しにくい。なお、スチレン系樹脂中のジエン成分の割合は、上記の樹脂組成物中のジエン成分の算出方法及び測定方法と同じ方法にて求めることができる。
【0023】
樹脂組成物中の、ジエン成分を含むスチレン系樹脂の割合は、樹脂組成物の総質量に対して、50質量%以下であることが好ましい。また、成形品の剛性の観点からは、スチレン系樹脂を30質量%以上含むことが好ましい。すなわち、樹脂組成物中のスチレン系樹脂の割合は、35~50質量%がより好ましく、40~50質量%がさらに好ましい。
【0024】
本発明に係るスチレン系樹脂は、複数の樹脂の混合物であってもよい。スチレン系樹脂が複数の樹脂の混合物である場合、ポリスチレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーとを含んでいてもよい。
【0025】
(ポリスチレン樹脂)
本発明に係るポリスチレン樹脂は、芳香族ビニル化合物の重合体、芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体、または、これらをゴム質重合体の存在下で重合した重合体を意味する。
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、エチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等が挙げられる。これら芳香族ビニル化合物は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、スチレンを含むことが好ましい。
【0026】
芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル化合物類;無水マレイン酸等の酸無水物;等が挙げられる。
前記共重合可能な化合物の質量割合としては、前記芳香族ビニル化合物と前記共重合可能な化合物との合計量(100質量%)に対して、20質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以下である。
【0027】
ゴム質重合体としては、例えば、共役ジエンゴム、共役ジエンと芳香族ビニル化合物との共重合体、エチレン-プロピレン共重合体系ゴム等が挙げられる。より具体的には、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエンランダム共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、これらの一部または全部を水添した重合体等が挙げられる。
【0028】
ポリスチレン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10,000~500,000であることが好ましく、100,000~300,000であることがより好ましい。ポリスチレン樹脂のMwが前記範囲内であれば、流動性が良好となりやすい。なお、ポリスチレン樹脂のMwはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により、ポリスチレン換算によって算出した値を指す。
【0029】
ポリスチレン樹脂は、耐衝撃性ポリスチレン(以下、「HIPS」と記載することもある)、汎用ポリスチレン(ホモポリスチレン、以下、「GPPS」と記載することもある)であってもよい。1つの態様において、ポリスチレン樹脂は、HIPS、及びGPPSから選択される少なくとも1つの樹脂を含むことが好ましい。なお、ポリスチレン樹脂には、後述するスチレン系熱可塑性エラストマーは含まれないものとする。
【0030】
スチレン系樹脂がポリスチレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーとを含む場合、ポリスチレン樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーとの合計量(100質量%)に対するポリスチレン樹脂の割合は、20~95質量%が好ましく、40~80質量%がより好ましい。前記合計量に対するポリスチレン樹脂の割合が前記範囲内であれば、スチレン系樹脂のジエン成分の割合を調整しやすい。また、樹脂組成物中のポリスチレン樹脂の割合は、樹脂組成物の総質量に対して、10~40質量%が好ましく、20~32質量%がより好ましい。
【0031】
(スチレン系熱可塑性エラストマー)
本発明に係るスチレン系熱可塑性エラストマーは、芳香族ビニル化合物と、共役ジエンとのブロック共重合体、及びその水添物である。芳香族ビニル化合物としては、前述のポリスチレン樹脂と同じものが挙げられ、スチレンがより好ましい。
本発明に係るスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン(SB)、スチレン-イソプレン(SI)、スチレン-ブタジエン-ブチレン(SBB)、スチレン-ブタジエン-イソプレン(SBI)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレン(SBBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、及びスチレン-ブタジエン-イソプレン-スチレン(SBIS)等のブロック共重合体、ならびにこれらを水添したブロック共重合体が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン共重合体を含むことが好ましい。
【0032】
スチレン系熱可塑性エラストマーの重量平均分子量(Mw)は、100,000~200,000であることが好ましく、120,000~180,000であることがより好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマーのMwが前記範囲内であれば、ポリスチレン樹脂との相溶性が良好となりやすい。なお、スチレン系熱可塑性エラストマーのMwは、前述のポリスチレン樹脂と同様の条件でGPCにより測定される。
【0033】
スチレン系熱可塑性エラストマー中のジエン成分の割合は、成形可能な引張弾性率の範囲に調整しやすくなる観点から、スチレン系熱可塑性エラストマーの総質量に対して、10~80質量%が好ましく、13~70質量%がより好ましく、15~60質量%がさらに好ましい。なお、スチレン系熱可塑性エラストマー中のジエン成分は、共役ジエンの仕込み量から算出した値であってもよく、前述の方法で測定した値であってもよい。スチレン系熱可塑性エラストマーのジエン成分を測定する方法としては、前述の樹脂組成物中のジエン含有量の測定方法と同じ方法が挙げられる。
【0034】
スチレン系樹脂がポリスチレン樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーとを含む場合、ポリスチレン樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーとの合計量(100質量%)に対する、スチレン系熱可塑性エラストマーの割合は、10~70質量%が好ましく、20~60質量%がより好ましい。前記合計量に対するスチレン系熱可塑性エラストマーの割合が前記範囲内であれば、スチレン系樹脂中のジエン成分の割合を調整しやすい。また、樹脂組成物中のスチレン系熱可塑性エラストマーの割合は、樹脂組成物の総質量に対して、5~40質量%が好ましく、8~30質量%がより好ましい。
1つの態様において、スチレン系樹脂は、スチレン系熱可塑性エラストマーのみから構成されていてもよい。スチレン系樹脂がスチレン系熱可塑性エラストマーのみから構成されている場合、樹脂組成物中のジエン成分量が3~15質量%の範囲となるように、スチレン系熱可塑性エラストマーのジエン成分を調整することが好ましい。
【0035】
上記の通り、本発明に係る樹脂組成物は、無機充填材を樹脂組成物の総質量に対して50質量%以上含んでいるにもかかわらず、5%以上の引張破断伸びを有し、1,000~3,000MPaの引張弾性率を有している。一般に、無機充填材の割合を高くし、さらに樹脂成分の割合を低くした場合、樹脂が容易に破断して十分な伸びを得ることができない。すなわち、硬くて脆い成形品となる。本願発明者らは、一定量のジエン成分を含むスチレン系樹脂を配合することで、少ない樹脂量であっても十分な伸びが得られ、さらに弾性率が高くなりすぎるのを抑制できることを見出した。さらに、GPPSやHIPSのようなポリスチレン樹脂と、スチレン系熱可塑性エラストマーとを組み合わせることで、樹脂組成物中の樹脂成分の割合を50質量%以下としても、弾性率と伸びとのバランスがより良くなり、柔軟性と強度のバランスにより優れる成形品が得られやすくなることも見出した。
【0036】
本発明に係る樹脂組成物は、スチレン系樹脂以外の熱可塑性樹脂(その他の熱可塑性樹脂)を含むことができるが、樹脂含有量の少ない樹脂組成物を得る観点からは、樹脂組成物中にはその他の熱可塑性樹脂は含まれていないことが好ましい。
【0037】
本発明に係る樹脂組成物は、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、鉱油等のその他添加剤、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等の補強繊維等を含んでいてもよい。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
紫外線吸収剤としては、例えば、2-(5’-メチル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(5’-t-ブチル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α、α-ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾ-ル、2-(3’,5’-ジ-t-ブチル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(3’-t-ブチル-5’-メチル-2’-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(3’,5’-ジ-t-ブチル-2’-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(3’,5’-ジ-t-アミル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-[3’-(3”,4”,5”,6”-テトラヒドロ・フタルイミドメチル)-5’-メチル-2’-ヒドロキシフェニル]ベンゾトリアゾ-ル、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾ-ル-2-イル)フェノ-ル]等のベンゾトリアゾ-ル系紫外線吸収剤;2-エトキシ-2’-エチル蓚酸ビスアニリド、2-エトキシ-5-t-ブチル-2’-エチル蓚酸ビスアニリド、2-エトキシ-4’-イソデシルフェニル蓚酸ビスアニリド等の蓚酸アニリド系紫外線吸収剤;2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;フェニルサリシレ-ト、p-t-ブチルフェニルサリシレ-ト、p-オクチルフェニルサリシレ-ト等のサリチル酸系紫外線吸収剤;2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレ-ト、エチル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレ-ト等のシアノアクリレ-ト系紫外線吸収剤;ルチル型酸化チタン、アナタ-ゼ型酸化チタン、アルミナ、シリカ、シランカップリング剤、チタン系カップリング剤等の表面処理剤で処理された酸化チタン等の酸化チタン系紫外線安定剤等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
光安定剤としては、例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケ-ト、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケ-ト、コハク酸ジメチル・1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[[6,(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]-ヘキサメチレン-[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ〕]、1-[2-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]-4-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
酸化防止剤としては、例えば、トリエチレングリコ-ル-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネ-ト]、2,4-ビス(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、ペンタエリスリチルテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネ-ト]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネ-ト、2,2-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノ-ル)及び1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノ-ル系酸化防止剤;ジトリデシル-3,3’-チオジプロピオネ-ト、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネ-ト、ジテトラデシル-3,3’-チオジプロピオネ-ト、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネ-ト、ジオクチル-3,3’-チオジプロピオネ-ト等の硫黄系酸化防止剤;トリスノニルフェニルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシル)ホスファイト、(トリデシル)ペンタエリスリト-ルジホスファイト、ビス(オクタデシル)ペンタエリスリト-ルジホスファイト、ビス(ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリト-ルジホスファイト、ビス(ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリト-ルジホスファイト、ジノニルフェニルオクチルホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)1,4-フェニレン-ジ-ホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレン-ジ-ホスホナイト、10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン等の燐系酸化防止剤等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明に係る樹脂組成物は、炭酸カルシウムを含む無機充填材と、ジエン成分を含むスチレン系樹脂と、必要に応じてその他の成分とを溶融混錬することによって製造することができる。具体的には、ジエン成分を含むスチレン系樹脂(より好ましくは、ポリスチレン樹脂及びスチレン系熱可塑性エラストマー)と、炭酸カルシウムを含む無機充填材(より好ましくは卵殻粉末)とを、それぞれ二軸押出機に投入して、200~250℃の温度で溶融混錬した後、ストランド状に押出することでペレット状の樹脂組成物を調製することができる。なお、本発明に係る樹脂組成物は、炭酸カルシウムを含む無機充填材を、樹脂組成物の総質量に対して50質量%以上含むため、樹脂材料の含有量が少ない。
【0042】
[用途]
上記の通り、本発明に係る樹脂組成物は、無機充填材を50質量%含んでいるものの、成形性が良好である。よって、射出成形用樹脂組成物として好適である。なお、当然ながら、本発明に係る樹脂組成物は、その用途が射出成形用途に限定されるわけではない。
【0043】
[成形品]
本発明に係る成形品は、前述の樹脂組成物を含む。好ましくは、本発明に係る樹脂組成物を射出成形して得られるものである。本発明に係る成形品は、引張弾性率及び引張破断伸びに優れている。また、本発明に係る成形品は、樹脂材料の割合が50質量%以下であるため、環境への負荷が少ない。本発明に係る成形品は、文房具、家具、建材、食器、容器、園芸資材、玩具等の用途に応用できる。
【0044】
本発明に係る樹脂組成物の、より好ましい態様は以下のとおりである。
<1>炭酸カルシウムを含む無機充填材と、ポリスチレン樹脂及びスチレン系熱可塑性エラストマーからなる、ジエン成分を含むスチレン系樹脂と、を含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物の総質量に対する、前記無機充填材の割合が50~60質量%であり、前記スチレン系樹脂の割合が40~50質量%であり、かつ前記ジエン成分の割合が3~15質量%であって、ASTM-D638に従って測定される、引張弾性率が1,000~3,000MPaであり、引張破断伸びが5%以上である、樹脂組成物。
<2>前記無機充填材は、卵殻粉末及び貝殻粉末から選択される少なくとも1つのバイオミネラル由来の粉末を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記バイオミネラル由来の粉末の平均粒子径が3~50μmである、<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記ポリスチレン樹脂が、HIPS及びGPPSから選択される少なくとも1つの樹脂を含む、<1>から<3>のいずれかに記載の樹脂組成物。
<5><1>から<4>のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、射出成形品。
【実施例
【0045】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0046】
[炭酸カルシウムを含む無機充填材1の調製]
炭酸カルシウムを含む無機充填材1として、卵殻粉末を調製した。
まず、鶏の卵殻を水洗浄した後、熱風乾燥機に投入して、乾燥処理を行った。乾燥処理後の卵殻を撹拌分離槽に投入し、高圧水を当てながら撹拌して卵殻の内側の卵膜を分離除去した。その後、卵膜を分離除去した卵殻を熱風乾燥機に再度投入して、90~120℃で6時間乾燥処理した。乾燥処理後の卵殻を、粉砕機を用いて粉砕し、卵殻粉末を得た。得られた卵殻粉末の比重を、比重計((株)島津製作所製、製品名「乾式自動密度計アキュピックII 1340」)を用いて測定したところ2.6g/cmであった。さらに得られた粉末を分級し、平均粒子径10μmの無機充填材1(卵殻粉末)を得た。
【0047】
[炭酸カルシウムを含む無機充填材2~4の調製]
無機充填材1と同様の方法で、平均粒子径の異なる卵殻粉末を3種類調製し、これを無機充填材2~4とした。表1に各無機充填材の平均粒子径及び比重を示す。
【0048】
【表1】
【0049】
[ポリスチレン樹脂1の調製]
内容積200Lの重合缶に、純水70.4kg、第三リン酸カルシウム300gを加えて攪拌した。その後、スチレン80.0kg、ベンゾイルパーオキサイド267.2gを加えて密封し、100℃で6時間反応させた。反応終了後、反応物を冷却、中和、脱水、及び乾燥して、ポリスチレンのホモポリマー(GPPS)を得た。得られたGPPSのMwを、GPCを用いて以下の条件で測定したところ、167,000であった。
<GPCの測定条件>
装置:Shodex(株)製、製品名「Shodex SYSTEM-21」
カラム:PLgel MIXED-B
測定温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
流量:1.0mL/分
検出方法:RI
サンプル濃度:0.2質量%
注入量:100μL
検量線:標準ポリスチレン(Polymer Laboratories製)
【0050】
[ポリスチレン樹脂2の調製]
ゴム質重合体としてローシスポリブタジエンゴム(旭化成(株)製、商品名「ジエン55AS」)を使用し、このゴム質重合体(重合原料の総質量に対して5.3質量%)と、スチレンとを、溶剤としてエチルベンゼン(重合原料の総質量に対して5質量%)に溶解して重合原料とした。また、ゴム質重合体の酸化防止剤(日本チバガイギー(株)製、商品名「イルガノックス(登録商標)1076」)0.1質量部を添加した。この重合原料を、翼径0.285mの錨型撹拌翼を備えた14Lのジャケット付き反応器(R-01)に12.5kg/hrで供給した。反応温度140℃、回転数2.17sec-1で撹拌して重合させ、ポリマー液を得た。得られたポリマー液のポリマー率は25%であった。このポリマー液を、直列に配置した2基の内容積21Lのジャケット付きプラグフロー型反応器に導入した。1基目のプラグフロー型反応器(R-02)では、反応温度がポリマー液の流れ方向に向かって120~140℃となるようにジャケット温度を調整した。2基目のプラグフロー型反応器(R-03)では、反応温度がポリマー液の流れ方向に向かって130~160℃の勾配を持つようにジャケット温度を調整した。R-02出口でのポリマー率は50%、R-03出口でのポリマー率は70%であった。ここで、ポリマー率とは、下記式(1)によって算出される値である。
ポリマー率(%)=[(生成したポリマー量)/{(仕込んだモノマー量)+(溶剤量)}]×100 ・・・(1)
得られたポリマー液を230℃に加熱後、真空度5torrの脱揮槽に送り、未反応の単量体、溶剤を分離、回収した。その後、反応物を脱揮槽からギヤポンプで抜き出し、ダイプレートを通してストランドとした後、水槽を通してペレット化し、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)を得た。得られたHIPSのゴム成分含有量は4.8質量%であった。また、GPPSと同様の条件で測定したHIPSのMwは210,000であった。
【0051】
[スチレン系熱可塑性エラストマー1の調製]
反応容器中にシクロヘキサン500.0kg、テトラヒドロフラン(THF)75.0gを入れ、この中に重合開始剤溶液として、n-ブチルリチウムの10質量%シクロヘキサン溶液1,000mLを加え、30℃に保った。スチレン20.0kgを加えて、スチレンをアニオン重合させた。その際、内温は35℃まで上昇した。スチレンが完全に消費された後、1,3-ブタジエン33.4kgとスチレン86.6kgを同時に添加し、スチレンと1,3-ブタジエンが完全に消費された後、反応系の内温を75℃に下げ、さらにスチレン60.0kgを一括添加し、重合を完結させた。最後にすべての重合活性末端を水により失活させて、ポリスチレンブロック、スチレンとブタジエンのテーパードブロックを持つスチレン-ブタジエン共重合体を含む重合液を得た。この重合液を脱気して、押出機を用いてペレット状のブロック共重合体を得た。得られたスチレン-ブタジエン共重合体の、モノマーの仕込み量から計算したジエン量は16.7質量%であった。
【0052】
[スチレン系熱可塑性エラストマー2~3の調製]
スチレン及びブタジエンの仕込み量を変更した以外は、前記スチレン系熱可塑性エラストマー1と同様の方法で、スチレン-ブタジエン共重合体を得た。表2に、各スチレン系熱可塑性エラストマーの組成とジエン量とを示す。
【0053】
【表2】
【0054】
[実施例1]
ポリスチレン樹脂1(GPPS)(樹脂組成物の総質量に対して20質量%)と、スチレン系熱可塑性エラストマー1(スチレン-ブタジエン共重合体、ジエン量16.7質量%)(樹脂組成物の総質量に対して30質量%)と、無機充填材1(卵殻粉末、平均粒径10μm)(樹脂組成物の総質量に対して50質量%)とを、二軸押出機(東芝機械(株)製、製品名「TEM35-B」)を用いて、200℃、200rpm、吐出20kg/hで溶融混錬し、ストランド状に押出しペレット化した。得られたペレットのMFRを以下の条件で測定したところ、4.8g/10minであった。また、得られたペレットを、熱プレス(テスター産業(株)製、製品名「SA-303」)を用いて厚み0.40mmの板状に成形し、引張弾性率及び引張破断伸びを以下の方法で評価した。結果を表3に示す。なお、表3中のプレス板厚みの値は、マイクロメータを用いて板状成形品の厚みを測定した値である。
【0055】
<MFR>
200℃、5kg荷重の条件で、JIS K 7260の規格に従って測定した。
【0056】
<引張弾性率の測定方法>
樹脂組成物の板状成形品を、ダンベル1号の形状で切り抜いて測定サンプルを10枚調製した。その後、ASTM-D638に従って、オートグラフ((株)島津製作所製、製品名「AGS-X」)を用いて、測定温度23℃、湿度50%の条件下、引張速度5mm/minで測定サンプルの引張弾性率を測定した。全ての測定サンプルの引張弾性率を測定し、その平均値を以下の評価基準に沿って評価した。なお、B評価以上を合格とした。
(評価基準)
A:引張弾性率が1,200MPa以上1,800MPa未満のもの。
B:引張弾性率が1,000MPa以上1,200MPa未満、又は1,800MPa以上3,000MPa未満のもの。
C:引張弾性率が1,000MPa未満、又は3,000MPa以上のもの。
【0057】
<引張破断伸びの測定方法>
樹脂組成物の板状成形品を、ダンベル1号の形状で切り抜いて測定サンプルを10枚調製した。その後、ASTM-D638に従って、オートグラフ((株)島津製作所製、製品名「AGS-X」)を用いて、測定温度23℃、湿度50%の条件下、引張速度5mm/minで測定サンプルの引張破断伸びを測定した。全ての測定サンプルの引張破断伸びを測定し、その平均値を以下の評価基準に沿って評価した。なお、B評価以上を合格とした。
(評価基準)
A:引張破断伸びが10%以上のもの。
B:引張破断伸びが5%以上10%未満のもの。
C:引張破断伸びが5%未満のもの。
【0058】
<成形性の評価基準>
樹脂組成物を(株)日本製鋼製の射出成形機を用い、温度200℃、金型温度70℃の条件でISOダンベル形状に成形し、以下の評価基準に沿って成形性を評価した。
A:問題なく成形できるもの。
B:スプールやランナー部で折れるもの、又は、成形体が軟らかくて、しなるもの。
【0059】
[実施例2~7、及び比較例1~4]
樹脂組成物の組成を表3に示す通りとした以外は、実施例1と同様の方法で樹脂組成物を調製した。また、実施例1と同様の方法でペレットを作成してMFRを測定した。さらに実施例1と同様の方法で板状に成形し、板厚み、引張弾性率、及び引張破断伸びを測定した。結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
表3に示す通り、本発明の構成を満たす実施例1~7の樹脂組成物は、無機充填材を50質量%以上含んでいても、引張弾性率及び引張破断伸びの値が良好であった。また、成形性も良好であった。一方、本発明の構成を満たさない比較例1~4の樹脂組成物は、引張弾性率、又は引張破断伸びのいずれかが劣っており、成形性も悪かった。以上の結果から、本発明に係る樹脂組成物は、スチレン系樹脂の含有量が少なくとも、成形性が良好であり、かつ引張弾性率及び引張破断伸びに優れる成形品を提供できることが分かった。