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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-27
(45)【発行日】2025-04-04
(54)【発明の名称】電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/032 20210101AFI20250328BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20250328BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20250328BHJP
   C25B 9/60 20210101ALI20250328BHJP
   H01M 8/1226 20160101ALI20250328BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20250328BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20250328BHJP
【FI】
C25B11/032
C25B1/042
C25B3/26
C25B9/60
H01M8/1226
H01M4/86 U
H01M8/12 101
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2024513290
(86)(22)【出願日】2023-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2023013529
(87)【国際公開番号】W WO2024201999
(87)【国際公開日】2024-10-03
【審査請求日】2024-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 玄太
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊之
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 敬司
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-3622(JP,A)
【文献】特開2015-53161(JP,A)
【文献】特開2015-64948(JP,A)
【文献】特開2005-158355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/032
C25B 1/042
C25B 3/26
C25B 9/60
H01M 8/1226
H01M 4/86
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面に形成された複数の連通孔を有する金属支持体と、
前記主面上に配置されるセル本体部と、
を備え、
前記セル本体部は、
前記主面上に配置される導電性のガス拡散層と、
前記ガス拡散層上に配置される第1電極層と、
第2電極層と、
前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置される電解質層と、
を有し、
前記第1電極層は、前記ガス拡散層の近傍に位置する近傍気孔と、前記近傍気孔内に独立して存在する微粒子とを有する、
電気化学セル。
【請求項2】
前記微粒子は、金属粒子である、
請求項1に記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属支持体上に配置されたセル本体部を備える電気化学セル(電解セル、燃料電池など)が知られている。金属支持体は、主面に形成された複数の連通孔を有する。セル本体部は、金属支持体の主面上に形成される第1電極層と、第2電極層と、第1電極層及び第2電極層の間に配置される電解質層とを有する。
【0003】
ここで、特許文献1には、セル本体部と金属支持体の間に、ガス透過性及び導電性を有する接着剤(以下、「ガス拡散層」と称する。)を介挿させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2021/221052号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の電気化学セルでは、金属支持体とセル本体部の熱膨張係数差に起因してガス拡散層と第1電極層の間に生じるせん断応力によって第1電極層が変形すると、第1電極層にクラックが生じるおそれがある。
【0006】
本発明の課題は、第1電極層のクラックを抑制可能な電気化学セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面に係る電気化学セルは、主面に形成された複数の連通孔を有する金属支持体と、前記主面上に配置されるセル本体部とを備える。前記セル本体部は、前記主面上に配置される導電性のガス拡散層と、前記ガス拡散層上に配置される第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置される電解質層と有する。前記第1電極層は、前記ガス拡散層の近傍に位置する近傍気孔と、前記近傍気孔内に独立して存在する微粒子とを有する。
【0008】
本発明の第2の側面に係る電気化学セルは、上記第1の側面に係り、微粒子は金属粒子である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第1電極層のクラックを抑制可能な電気化学セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係る電解セルの平面図である。
図2図2は、図1のA-A断面図である。
図3図3は、図2の部分拡大図である。
図4図4は、微粒子の機能を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(電解セル1)
図1は、実施形態に係る電解セル1の平面図である。図2は、図1のA-A断面図である。
【0012】
電解セル1は、本発明に係る「電気化学セル」の一例である。電解セル1は、いわゆるメタルサポート型の電解セルである。
【0013】
電解セル1は、X軸方向及びY軸方向に広がる板状に形成される。本実施形態において、電解セル1は、X軸方向及びY軸方向に垂直なZ軸方向から平面視した場合、Y軸方向に延びる長方形に形成される。ただし、電解セル1の平面形状は特に限られず、長方形以外の多角形、楕円形、円形などであってもよい。
【0014】
図2に示すように、電解セル1は、金属支持体10、セル本体部20、及び流路部材30を備える。
【0015】
[金属支持体10]
金属支持体10は、セル本体部20を支持する。金属支持体10は、板状に形成される。金属支持体10は、平板状であってもよいし、曲板状であってもよい。
【0016】
金属支持体10はセル本体部20を支持できればよく、その厚みは特に制限されないが、例えば0.1mm以上2.0mm以下とすることができる。
【0017】
図2に示すように、金属支持体10は、複数の連通孔11、第1主面12及び第2主面13を有する。
【0018】
各連通孔11は、第1主面12から第2主面13まで金属支持体10を貫通する。各連通孔11は、第1主面12及び第2主面13それぞれに開口する。本実施形態において、各連通孔11の第1主面12側の開口は、後述するガス拡散層5によって覆われている。各連通孔11の第2主面13側の開口は、後述する流路30aに繋がっている。
【0019】
各連通孔11は、機械加工(例えば、パンチング加工)、レーザ加工、或いは、化学加工(例えば、エッチング加工)などによって形成することができる。
【0020】
本実施形態において、各連通孔11は、Z軸方向に沿って直線状に形成される。ただし、各連通孔11は、Z軸方向に対して傾斜していてもよいし、直線状でなくてもよい。また、連通孔11どうしが互いに連なっていてもよい。
【0021】
第1主面12は、本発明に係る「主面」の一例である。第1主面12は、第2主面13の反対側に設けられる。第1主面12には、セル本体部20が配置される。第2主面13には、流路部材30が接合される。
【0022】
金属支持体10は、金属材料によって構成される。例えば、金属支持体10は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成される。このような金属材料としては、Fe-Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi-Cr系合金鋼などが挙げられる。金属支持体10におけるCrの含有率は特に制限されないが、4質量%以上30質量%以下とすることができる。
【0023】
金属支持体10は、Ti(チタン)やZr(ジルコニウム)を含有していてもよい。金属支持体10におけるTiの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上1.0mol%以下とすることができる。金属支持体10におけるAlの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上0.4mol%以下とすることができる。金属支持体10は、TiをTiO(チタニア)として含有していてもよいし、ZrをZrO(ジルコニア)として含有していてもよい。
【0024】
金属支持体10は、金属支持体10の構成元素が酸化することによって形成される酸化皮膜を表面に有していてよい。酸化膜としては、例えば酸化クロム膜が代表的である。酸化クロム膜は、金属支持体10の表面の少なくとも一部を覆う。また、酸化クロム膜は、各連通孔11の内壁面の少なくとも一部を覆っていてもよい。
【0025】
[セル本体部20]
セル本体部20は、金属支持体10上に配置される。セル本体部20は、金属支持体10によって支持される。セル本体部20は、ガス拡散層5、水素極層6(カソード)、電解質層7、反応防止層8、及び酸素極層9(アノード)を有する。
【0026】
ガス拡散層5、水素極層6、電解質層7、反応防止層8、及び酸素極層9は、Z軸方向において、この順で金属支持体10側から積層されている。ガス拡散層5、水素極層6、電解質層7、及び酸素極層9は必須の構成であり、反応防止層8は任意の構成である。
【0027】
[ガス拡散層5]
ガス拡散層5は、金属支持体10の第1主面12上に形成される。本実施形態においてガス拡散層5は、金属支持体10の各連通孔11を覆っている。ガス拡散層5の一部は、金属支持体10の各連通孔11の内側に入り込んでいてもよい。
【0028】
ガス拡散層5は、ガス拡散性及び導電性を有する多孔体である。ガス拡散層5は、各連通孔11から供給される原料ガスを水素極層6に供給するとともに、水素極層6において生成される生成ガスを各連通孔11に排出する。
【0029】
ガス拡散層5は、導電性材料を含む。導電性材料としては、Ni(ニッケル)、Fe(鉄)などの金属材料や、導電性セラミック材料を用いることができる。
【0030】
ガス拡散層5は、導電性材料を支持する基材を含んでいてもよい。基材は、絶縁性であってもよい。基材としては、YSZ、CSZ、ScSZ、GDC、SDC、(La,Sr)(Cr,Mn)O、(La,Sr)TiO、Sr(Fe,Mo)、(La,Sr)VO、(La,Sr)FeO、LDC(ランタンドープセリア)、LSGM(ランタンガレート)及びこれらのうち2つ以上を組み合わせた混合材料などを用いることができる。
【0031】
ガス拡散層5は、金属支持体10に含まれている金属元素を含んでいてもよい。これによって、ガス拡散層5と金属支持体10の密着性が向上するため好ましい。なお、上述した導電性材料は、金属支持体10に含まれる金属元素とは異なる。よって、ガス拡散層5に含まれる導電性材料は、金属支持体10には含まれていなくてよい。
【0032】
ガス拡散層5の気孔率は特に制限されないが、例えば20%以上40%以下とすることができる。
【0033】
ガス拡散層5の気孔率は、次の手法により算出される。まず、電解セル1を750℃まで昇温した状態でガス拡散層5及び水素極層6に水素を供給することによって、ガス拡散層5及び水素極層6それぞれが含有する導電性材料を還元する。次に、還元雰囲気のまま電解セル1を降温させ、電解セル1を厚み方向(Z軸方向)に沿って切断することによって、ガス拡散層5の断面を露出させる。次に、SEM装置(日本電子株式会社製、FE-SEM JSM-7900F)を用いて、ガス拡散層5の断面の反射電子像を10000倍で取得する。次に、MEDIACYBERNETICS社製の画像解析ソフトImage-Proを用いて、反射電子像において黒色で表示された部分(気孔に相当)を特定する。そして、ガス拡散層5の反射電子像の全面積で気孔の合計面積を割ることによって、ガス拡散層5の気孔率が算出される。
【0034】
ガス拡散層5の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上50μm以下とすることができる。本明細書において、厚みとは、セル本体部20の厚み方向における厚みを意味する。厚み方向とは、金属支持体10の第1主面12に平行な面方向に対して垂直な方向である。厚み方向を特定する場合、Z軸方向に沿った金属支持体10の断面において、最小二乗法により求められる第1主面12の近似直線を用いることとする。
【0035】
ガス拡散層5の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法(溶射法、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法など)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを用いることができる。
【0036】
[水素極層6]
水素極層6は、本発明に係る「第1電極層」の一例である。水素極層6は、ガス拡散層5上に形成される。水素極層6は、ガス拡散層5及び電解質層7の間に配置される。
【0037】
水素極層6には、ガス拡散層5を介して各連通孔11から原料ガスが供給される。原料ガスは、少なくともHOを含む。
【0038】
原料ガスがHOのみを含む場合、水素極層6は、下記(1)式に示す水電解の電気化学反応に従って、原料ガスからHを生成する。
【0039】
・水素極層6:HO+2e→H+O2-・・・(1)
【0040】
原料ガスがHOに加えてCOを含む場合、水素極層6は、下記(2)、(3)、(4)式に示す共電解の電気化学反応に従って、原料ガスからH、CO及びO2-を生成する。
【0041】
・水素極層6:CO+HO+4e→CO+H+2O2-・・・(2)
・HOの電気化学反応:HO+2e→H+O2-・・・(3)
・COの電気化学反応:CO+2e→CO+O2-・・・(4)
【0042】
水素極層6は、ガス拡散性及び導電性を有する多孔体である。水素極層6には、ガス拡散層5から原料ガスが供給される。水素極層6において生成された生成ガスは、ガス拡散層5側に排出される。
【0043】
水素極層6は、導電性材料を含む。導電性材料としては、Ni(ニッケル)、Fe(鉄)などの金属材料や、導電性セラミックス材料などを用いることができる。共電解の場合、Niは、生成されるHと原料ガスに含まれるCOとの熱的反応を促進してメタネーションや逆水性ガスシフト反応などに適切なガス組成を維持する熱触媒としても機能する。
【0044】
導電性材料は、酸化雰囲気において酸化物の状態(例えば、NiO)で存在し、還元雰囲気において金属の状態(例えば、Ni)で存在する。本実施形態では、電解セル1が還元雰囲気に曝されている場合が想定されている。
【0045】
水素極層6は、酸化物イオン伝導性材料を含む。酸化物イオン伝導性材料としては、YSZ、CSZ、ScSZ、GDC、SDC、(La,Sr)(Cr,Mn)O、(La,Sr)TiO、Sr(Fe,Mo)、(La,Sr)VO、(La,Sr)FeO、LDC、LSGM及びこれらのうち2つ以上を組み合わせた混合材料などを用いることができる。
【0046】
本実施形態において、水素極層6は、単一組成によって構成される単層構造であるが、異種組成によって構成される多層構造であってもよい。
【0047】
水素極層6の気孔率は特に制限されないが、例えば20%以上40%以下とすることができる。水素極層6の気孔率は、上述したガス拡散層5の気孔率と同様、水素極層6の反射電子像の全面積で気孔の合計面積を割ることによって算出される。
【0048】
水素極層6の厚みは特に制限されないが、例えば5μm以上500μm以下とすることができる。
【0049】
ここで、図3は、図2の部分拡大図である。図3に示すように、水素極層6は、複数の気孔61と、複数の微粒子62を含んでいる。
【0050】
水素極層6の断面において、複数の気孔61は、水素極層6内に分散するように配置されている。各気孔61の形状及びサイズは特に限られず、気孔61ごとに異なっていてもよい。
【0051】
複数の気孔61の平均円相当径は特に限られないが、例えば、20μm以上40μm以下とすることができる。複数の気孔61の平均円相当径は、水素極層6の断面の反射電子像から無作為に選択した30個の気孔61の円相当径を算術平均することによって得られる。気孔61の円相当径とは、気孔61と同じ面積を有する円の面積である。
【0052】
複数の気孔61は、図3に示すように、ガス拡散層5の近傍に位置する近傍気孔61aを含む。ガス拡散層5の近傍に位置するとは、近傍気孔61aの少なくとも一部が、ガス拡散層5と水素極層6の界面6Sから5μm以内(図3のライン6T参照)に位置することを意味する。従って、近傍気孔61aは、ガス拡散層5に接触していてもよいし、ガス拡散層5から離れていてもよい。
【0053】
微粒子62は、近傍気孔61a内に配置される。微粒子62は、近傍気孔61a内に独立して存在する。独立して存在するとは、微粒子62が気孔61の内面に固定されていないことを意味する。ただし、微粒子62は、気孔61の内面に接触していてもよい。微粒子62が気孔61の内面に接触している場合、微粒子62が気孔61の内面に固定されていないことは、気孔61の内面と微粒子62の外面との間にネック(例えば、焼結によって形成されるネック)が観察されないことをもって確認することができる。
【0054】
このように、近傍気孔61a内に微粒子62が独立して存在していることによって、以下に説明するように水素極層6にクラックが生じることを抑制できる。
【0055】
金属支持体10とセル本体部20の熱膨張係数差に起因してガス拡散層5と水素極層6の間に生じるせん断応力は、水素極層6の近傍気孔61aが変形することで吸収される。このとき、仮に微粒子62が存在していないとすると、せん断応力が大きければ近傍気孔61aに過大な変形が生じて、近傍気孔61a周辺にクラックが生じてしまう。
【0056】
一方、本実施形態では、近傍気孔61a内に微粒子62が独立して存在している。微粒子62は、図4に示すように、近傍気孔61aの内側に挟まれることによって、近傍気孔61aが過大に変形しないよう近傍気孔61aを内側から支持する。そのため、近傍気孔61a周辺にクラックが生じることを抑制できる。特に、微粒子62が近傍気孔61aの内面に固定されていないため、近傍気孔61aの変形に応じて微粒子62は近傍気孔61a内を自由に移動することができる。よって、いかなる方向に近傍気孔61aが変形しようとも、微粒子62は近傍気孔61aを内側から支持することができる。
【0057】
微粒子62の構成材料は特に限られないが、例えば、セラミック粒子、金属粒子などを用いることができる。セラミック粒子としては、例えば、NiO粒子、F粒子などが挙げられる。金属粒子としては、例えば、Ni粒子、Fe粒子などが挙げられる。特に、微粒子62が延性を有する金属粒子である場合には、微粒子62が変形することによってもせん断応力を吸収できるため好ましい。延性を有する金属粒子としては、例えば、Ni粒子、Fe粒子、Co粒子などが挙げられる。
【0058】
微粒子62の粒径は特に限られないが、例えば、0.1μm以上5μm以下とすることができる。近傍気孔61a内に配置される微粒子62の数は特に限られず、1以上であればよい。ただし、近傍気孔61a全体に微粒子62が充填されていると、近傍気孔61aの変形によってせん断応力を吸収しにくくなるため、微粒子62は近傍気孔61aの一部にのみ存在することが好ましい。
【0059】
水素極層6の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。例えば、焼成法で水素極層6を形成する場合、水素極層6の成形体は、微粒子62が埋設された造孔材と水素極層6の構成材料を含むスラリーをガス拡散層5の成形体上に塗布した後、造孔材と水素極層6の構成材料を含むスラリーを更に塗布することによって形成することができる。水素極層6の成形体を焼成する工程において、微粒子62が埋設された造孔材は微粒子62を残して消失するため、微粒子62を内包する近傍気孔61aが形成される。
【0060】
[電解質層7]
電解質層7は、水素極層6及び酸素極層9の間に配置される。本実施形態では、電解質層7及び酸素極層9の間に反応防止層8が配置されているので、電解質層7は、水素極層6及び反応防止層8の間に挟まれている。
【0061】
電解質層7は、水素極層6を覆うとともに、金属支持体10の第1主面12のうちガス拡散層5から露出する領域を覆う。
【0062】
電解質層7は、水素極層6において生成されたO2-を酸素極層9側に伝達させる。電解質層7は、酸化物イオン伝導性を有する緻密質材料によって構成される。電解質層7は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア、例えば8YSZ)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウム固溶セリア)、LSGM(ランタンガレート)などによって構成することができる。
【0063】
電解質層7の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上7%以下とすることができる。電解質層7の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0064】
電解質層7の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0065】
[反応防止層8]
反応防止層8は、電解質層7及び酸素極層9の間に配置される。反応防止層8は、電解質層7を基準として水素極層6の反対側に配置される。反応防止層8は、電解質層7の構成元素が酸素極層9の構成元素と反応して電気抵抗の大きい層が形成されることを抑制する。
【0066】
反応防止層8は、酸化物イオン伝導性材料によって構成される。反応防止層8は、GDC、SDCなどによって構成することができる。
【0067】
反応防止層8の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上50%以下とすることができる。反応防止層8の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上50μm以下とすることができる。
【0068】
反応防止層8の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0069】
[酸素極層9]
酸素極層9は、本発明に係る「第2電極層」の一例である。酸素極層9は、電解質層7を基準として水素極層6の反対側に配置される。本実施形態では、電解質層7及び酸素極層9の間に反応防止層8が配置されているので、酸素極層9は反応防止層8に接続される。電解質層7及び酸素極層9の間に反応防止層8が配置されない場合、酸素極層9は電解質層7に接続される。
【0070】
酸素極層9は、下記(5)式の化学反応に従って、水素極層6から電解質層7を介して伝達されるO2-からOを生成する。
【0071】
・酸素極層9:2O2-→O+4e・・・(5)
酸素極層9は、酸化物イオン伝導性及び導電性を有する多孔体である。酸素極層9は、例えば(La,Sr)(Co,Fe)O、(La,Sr)FeO、La(Ni,Fe)O、(La,Sr)CoO、及び(Sm,Sr)CoOのうち1つ以上と酸化物イオン伝導性材料(GDCなど)との複合材料によって構成することができる。
【0072】
酸素極層9の気孔率は特に制限されないが、例えば20%以上60%以下とすることができる。酸素極層9の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0073】
酸素極層9の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0074】
[流路部材30]
流路部材30は、金属支持体10の第2主面13に接合される。流路部材30は、金属支持体10との間に流路30aを形成する。流路30aには、原料ガスが供給される。流路30aに供給された原料ガスは、金属支持体10の各連通孔11を介して、セル本体部20の水素極層6に供給される。
【0075】
流路部材30は、例えば、合金材料によって構成することができる。流路部材30は、金属支持体10と同様の材料によって形成されていてもよい。この場合、流路部材30は、金属支持体10と実質的に一体であってもよい。
【0076】
流路部材30は、枠体31及びインターコネクタ32を有する。枠体31は、流路30aの側方を取り囲む環状部材である。枠体31は、金属支持体10の第2主面13に接合される。インターコネクタ32は、外部電源又は他の電解セルを電解セル1と電気的に直列に接続するための板状部材である。インターコネクタ32は、枠体31に接合される。
【0077】
本実施形態では、枠体31とインターコネクタ32が別部材となっているが、枠体31とインターコネクタ32は一体の部材であってもよい。
【0078】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0079】
[変形例1]
上記実施形態では、水素極層6が有する複数の気孔61のうち近傍気孔61aの内部に微粒子62が配置されることとしたが、複数の気孔61のうち近傍気孔61a以外の気孔61の内部にも微粒子62が配置されていてもよい。
【0080】
[変形例2]
上記実施形態において、金属支持体10の各連通孔11の第1主面12側の開口は、ガス拡散層5によって覆われることとしたが、これに限られない。ガス拡散層5は、各連通孔11の第1主面12側の開口を覆っていなくてもよい。この場合、ガス拡散層5には、各連通孔11に連なる貫通孔が形成されるので、当該貫通孔を介してより効率的なガスの給排を行うことができる。
【0081】
[変形例3]
上記実施形態では、電気化学セルの一例として電解セル1について説明したが、電気化学セルは電解セルに限られない。電気化学セルとは、電気エネルギーを化学エネルギーに変えるため、全体的な酸化還元反応から起電力が生じるように一対の電極が配置された素子と、化学エネルギーを電気エネルギーに変えるための素子との総称である。従って、電気化学セルには、例えば、酸化物イオン或いはプロトンをキャリアとする燃料電池が含まれる。
【符号の説明】
【0082】
1 電解セル
10 金属支持体
11 連通孔
12 第1主面
13 第2主面
20 セル本体部
5 ガス拡散層
6 水素極層
61 気孔
61a 近傍気孔
62 微粒子
7 電解質層
8 反応防止層
9 酸素極層
30 流路部材
30a 流路
図1
図2
図3
図4