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特許7657377クロム合金容器及びメタルサポート形電気化学セル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-27
(45)【発行日】2025-04-04
(54)【発明の名称】クロム合金容器及びメタルサポート形電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20250328BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20250328BHJP
   C25B 9/63 20210101ALI20250328BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20250328BHJP
   H01M 8/1226 20160101ALI20250328BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B1/042
C25B9/63
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/1226
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2024545045
(86)(22)【出願日】2023-10-05
(86)【国際出願番号】 JP2023036372
【審査請求日】2024-07-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 敬司
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊之
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 玄太
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/201098(WO,A1)
【文献】特開2019-116397(JP,A)
【文献】特開2016-207630(JP,A)
【文献】特開2004-39573(JP,A)
【文献】特表2023-504981(JP,A)
【文献】特開2021-103635(JP,A)
【文献】特開平10-106596(JP,A)
【文献】特開平8-130022(JP,A)
【文献】特開平9-217039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B1/00-15/08
H01M8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有するクロム合金容器であって、
クロムを含有する合金によって構成される第1合金部材と、
クロムを含有する合金によって構成される第2合金部材と、
前記第1合金部材と前記第2合金部材を接着する接着部と、
を備え、
前記接着部は、クロムを主成分とする酸化物によって構成され、
前記接着部は、内部に空隙を有
前記接着部の厚み方向において、前記空隙の厚みは、前記接着部の厚みの3/4以下である、
クロム合金容器。
【請求項2】
前記空隙は、前記第1合金部材及び前記第2合金部材それぞれから離れている、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項3】
前記空隙は、前記接着部の厚み方向に沿って延びる、
請求項1又は2に記載のクロム合金容器。
【請求項4】
前記空隙は、前記接着部の厚み方向に垂直な面方向に沿って延びる、
請求項1又は2に記載のクロム合金容器。
【請求項5】
前記空隙は、前記接着部の厚み方向及び前記厚み方向に垂直な面方向それぞれに対して傾斜する方向に沿って延びる、
請求項1又は2に記載のクロム合金容器。
【請求項6】
前記空隙は、前記接着部の厚み方向中央部に位置する、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項7】
前記接着部の厚み方向において、前記空隙の厚みに対する前記第1合金部材及び前記第2合金部材のうち少なくとも一方の厚みの比は、20以上500以下である、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項8】
前記接着部の断面において、前記接着部の面積に対する前記空隙の面積の比は、5%以上30%以下である、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項9】
前記接着部は、少なくとも一部が前記酸化物に埋設された金属粒子を有する、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項10】
前記酸化物中の金属元素に占めるクロム含有率は、50mol%以上である、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項11】
前記酸化物は、クロム酸化物及びクロムマンガン酸化物のうち少なくとも一方によって構成される、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項12】
前記酸化物は、結晶質である、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項13】
前記酸化物は、スピネル型又はコランダム型の結晶構造を有する、
請求項12に記載のクロム合金容器。
【請求項14】
前記接着部は、前記内部空間を封止するためのシールである、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項15】
前記第2合金部材は、前記第1合金部材に当接するエンボス部を有し、
前記接着部は、前記第1合金部材に前記エンボス部を接着する、
請求項1に記載のクロム合金容器。
【請求項16】
請求項1に記載のクロム合金容器と、
前記クロム合金容器上に配置されるセル本体部と、
を備え、
前記第1合金部材は、前記内部空間に繋がる複数の連通孔を有し、
前記セル本体部は、前記複数の連通孔を覆うように前記第1合金部材上に配置される、
メタルサポート形電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム合金容器及びメタルサポート形電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、燃料電池を収容するクロム合金容器が開示されている。クロム合金容器は、第1インターコネクタ、第2インターコネクタ、セパレータ、燃料極フレーム及びガラスシールを備える。
【0003】
第1インターコネクタは、燃料電池の空気極に接続される。第2インターコネクタは、燃料電池の燃料極集電層に接続される。セパレータは、燃料電池の固体電解質に接続され、燃料ガスと酸化剤ガスの流路を分離する。燃料極フレームは、セパレータと第2インターコネクタの間に配置される。ガラスシールは、第1インターコネクタとセパレータを接着する。
【0004】
第1インターコネクタ、第2インターコネクタ、セパレータ及び燃料極フレームそれぞれは、クロム合金(例えば、SUS430、SUS444など)によって構成される。ガラスシールは、ガラス材料によって構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-156352号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のクロム合金容器では、第1インターコネクタ及びセパレータそれぞれが含有しているクロムがガラスシールに拡散することによって、ガラスシールの組成が変化して強度が低下しやすい。その結果、ガラスシールに変形や割れが生じてしまうため、長期間に渡って合金部材どうしの接着性を維持することはできない。このことは、燃料電池を収容する容器に限らず、クロム合金容器全般に共通する課題である。
【0007】
本発明の課題は、長期間に渡って合金部材どうしの接着性を維持可能なクロム合金容器及びメタルサポート形電気化学セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面に係るクロム合金容器は、内部空間を有する。当該クロム合金容器は、クロムを含有する合金によって構成される第1合金部材と、クロムを含有する合金によって構成される第2合金部材と、前記第1合金部材と前記第2合金部材を接着する接着部とを備える。前記接着部は、クロムを主成分とする酸化物によって構成される。前記接着部は、内部に空隙を有する。
【0009】
本発明の第2の側面に係るクロム合金容器は、上記第1の側面に係り、前記空隙は、前記第1合金部材及び前記第2合金部材それぞれから離れている。
【0010】
本発明の第3の側面に係るクロム合金容器は、上記第1又は第2の側面に係り、前記空隙は、前記接着部の厚み方向に沿って延びる。
【0011】
本発明の第4の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第3いずれかの側面に係り、前記空隙は、前記接着部の厚み方向に垂直な面方向に沿って延びる。
【0012】
本発明の第5の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第3いずれかの側面に係り、前記空隙は、前記接着部の厚み方向及び前記厚み方向に垂直な面方向それぞれに対して傾斜する方向に沿って延びる。
【0013】
本発明の第6の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第3いずれかの側面に係り、前記空隙は、前記接着部の厚み方向中央部に位置する。
【0014】
本発明の第7の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第6いずれかの側面に係り、前記接着部の厚み方向において、前記空隙の厚みは、前記接着部の厚みの3/4以下である。
【0015】
本発明の第8の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第7いずれかの側面に係り、前記接着部の厚み方向において、前記空隙の厚みに対する前記第1合金部材及び前記第2合金部材のうち少なくとも一方の厚みの比は、20以上500以下である。
【0016】
本発明の第9の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第8いずれかの側面に係り、前記接着部の断面において、前記接着部の面積に対する前記空隙の面積の比は、5%以上30%以下である。
【0017】
本発明の第10の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第9いずれかの側面に係り、前記接着部は、少なくとも一部が前記酸化物に埋設された金属粒子を有する。
【0018】
本発明の第11の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第10いずれかの側面に係り、前記酸化物中の金属元素に占めるクロム含有率は、50mol%以上である。
【0019】
本発明の第12の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第11いずれかの側面に係り、前記酸化物は、クロム酸化物及びクロムマンガン酸化物のうち少なくとも一方によって構成される。
【0020】
本発明の第13の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第12いずれかの側面に係り、前記酸化物は、結晶質である。
【0021】
本発明の第14の側面に係るクロム合金容器は、上記第13の側面に係り、前記酸化物は、スピネル型又はコランダム型の結晶構造を有する。
【0022】
本発明の第15の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第14いずれかの側面に係り、前記接着部は、前記内部空間を封止するためのシールである。
【0023】
本発明の第16の側面に係るクロム合金容器は、上記第1乃至第14いずれかの側面に係り、前記第2合金部材は、前記第1合金部材に当接するエンボス部を有する。前記接着部は、前記第1合金部材に前記エンボス部を接着する。
【0024】
本発明の第17の側面に係るメタルサポート形電気化学セルは、上記第1乃至第16いずれかの側面に係るクロム合金容器と、前記クロム合金容器上に配置されるセル本体部とを備える。前記第1合金部材は、前記内部空間に繋がる複数の連通孔を有する。前記セル本体部は、前記複数の連通孔を覆うように前記第1合金部材上に配置される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、長期間に渡って合金部材どうしの接着性を維持可能なクロム合金容器及びメタルサポート形電気化学セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、第1実施形態に係る電解セルの平面図である。
図2図2は、図1のA-A断面図である。
図3図3は、図2の部分拡大図である。
図4図4は、第2実施形態に係る電解セルの断面図である。
図5図5は、図4の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.第1実施形態
【0028】
(電解セル1)
図1は、第1実施形態に係る電解セル1の平面図である。図2は、図1のA-A断面図である。
【0029】
電解セル1は、本発明に係る「メタルサポート形電気化学セル」の一例である。
【0030】
電解セル1は、X軸方向及びY軸方向に広がる板状に形成される。本実施形態において、電解セル1は、X軸方向及びY軸方向に垂直なZ軸方向から平面視した場合、Y軸方向に延びる長方形に形成される。ただし、電解セル1の平面形状は特に限られず、長方形以外の多角形、楕円形、円形などであってもよい。
【0031】
図1及び図2に示すように、電解セル1は、セル本体部2及びクロム合金容器3を備える。
【0032】
(セル本体部2)
セル本体部2は、クロム合金容器3上に配置される。セル本体部2は、クロム合金容器3のうち後述する金属支持体10によって支持される。セル本体部2は、水素極6(カソード)、電解質7、反応防止層8及び酸素極9(アノード)を有する。
【0033】
水素極6、電解質7、反応防止層8及び酸素極9は、Z軸方向において、この順でクロム合金容器3側から積層されている。水素極6、電解質7、及び酸素極9は必須の構成であり、反応防止層8は任意の構成である。
【0034】
[水素極6]
水素極6は、金属支持体10の第1主面12上に配置される。
【0035】
水素極6には、金属支持体10の各供給孔11から原料ガスが供給される。原料ガスは、少なくとも水蒸気(HO)を含む。
【0036】
原料ガスがHOのみを含む場合、水素極6は、下記(1)式に示す水電解の電気化学反応に従って、原料ガスからHを生成する。
【0037】
・水素極6:HO+2e→H+O2-・・・(1)
【0038】
原料ガスがHOに加えてCOを含む場合、水素極6は、下記(2)、(3)、(4)式に示す共電解の電気化学反応に従って、原料ガスからH、CO及びO2-を生成する。
【0039】
・水素極6:CO+HO+4e→CO+H+2O2-・・・(2)
・HOの電気化学反応:HO+2e→H+O2-・・・(3)
・COの電気化学反応:CO+2e→CO+O2-・・・(4)
【0040】
水素極6において生成されるHは、金属支持体10の各供給孔11から後述する内部空間3aに流出する。
【0041】
水素極6は、電子伝導性を有する多孔質体である。水素極6は、ニッケル(Ni)を含有する。共電解の場合、Niは、電子伝導物質として機能するとともに、生成されるHと原料ガスに含まれるCOとの熱的反応を促進してメタネーションやFT(Fischer-Tropsch)合成などに適切なガス組成を維持する熱触媒としても機能する。水素極6が含有するNiは、電解セル1の作動中、基本的には金属Niの状態で存在しているが、一部は酸化ニッケル(NiO)の状態で存在していてもよい。
【0042】
水素極6は、イオン伝導性材料を含有していてもよい。イオン伝導性材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、ガドリニウムドープセリア(GDC)、サマリウムドープセリア(SDC)、(La,Sr)(Cr,Mn)O、(La,Sr)TiO、Sr(Fe,Mo)、(La,Sr)VO、(La,Sr)FeO、及びこれらのうち2つ以上を組み合わせた混合材料などを用いることができる。
【0043】
水素極6の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。水素極6の熱膨張係数の値は特に限られないが、例えば12×10―6/℃以上20×10-6/℃以下とすることができる。
【0044】
水素極6の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法(溶射法、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法など)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを用いることができる。
【0045】
[電解質7]
電解質7は、水素極6上に形成される。電解質7は、水素極6及び酸素極9の間に配置される。本実施形態では、電解質7は、水素極6及び反応防止層8に挟まれており、両者に接続されている。
【0046】
電解質7は、水素極6を覆うとともに、金属支持体10の第1主面12のうち水素極6から露出する領域を覆う。
【0047】
電解質7は、酸化物イオン伝導性を有する緻密体である。電解質7は、水素極6において生成されたO2-を酸素極9側に伝達させる。電解質7は、酸化物イオン伝導性材料によって構成される。電解質7は、例えば、YSZ、GDC、ScSZ、SDC、LSGM(ランタンガレート)などによって構成することができ、特にYSZが好適である。
【0048】
電解質7の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。電解質7の熱膨張係数の値は特に限られないが、例えば10×10―6/℃以上12×10―6/℃以下とすることができる。
【0049】
電解質7の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0050】
[反応防止層8]
反応防止層8は、電解質7及び酸素極9の間に配置される。反応防止層8は、電解質7を基準として水素極6の反対側に配置される。反応防止層8は、電解質7の構成元素が酸素極9の構成元素と反応して電気抵抗の大きい層が形成されることを抑制する。
【0051】
反応防止層8は、酸化物イオン伝導性材料によって構成される。反応防止層8は、GDC、SDCなどによって構成することができる。
【0052】
反応防止層8の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上50%以下とすることができる。反応防止層8の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上50μm以下とすることができる。
【0053】
反応防止層8の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0054】
[酸素極9]
酸素極9は、電解質7を基準として水素極6の反対側に配置される。本実施形態では、電解質7及び酸素極9の間に反応防止層8が配置されているので、酸素極9は反応防止層8に接続される。電解質7及び酸素極9の間に反応防止層8が配置されない場合、酸素極9は電解質7に接続される。
【0055】
酸素極9は、下記(5)式の化学反応に従って、水素極6から電解質7を介して伝達されるO2-からOを生成する。
【0056】
・酸素極9:2O2-→O+4e・・・(5)
【0057】
酸素極9は、酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する多孔体である。酸素極9は、例えば(La,Sr)(Co,Fe)O、(La,Sr)FeO、La(Ni,Fe)O、(La,Sr)CoO、及び(Sm,Sr)CoOのうち1つ以上と酸化物イオン伝導性材料(GDCなど)との複合材料によって構成することができる。
【0058】
酸素極9の気孔率は特に制限されないが、例えば20%以上60%以下とすることができる。酸素極9の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0059】
酸素極9の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0060】
(クロム合金容器3)
クロム合金容器3は、水素極6に供給される原料ガスと水素極6において生成される還元ガス(本実施形態では、H)とが流れる内部空間3aを有する。
【0061】
本実施形態において、クロム合金容器3は、金属支持体10、枠体20、インターコネクタ30、第1シール部40及び第2シール部50を備える。内部空間3aは、金属支持体10、枠体20、インターコネクタ30、第1シール部40及び第2シール部50によって囲まれた空間である。
【0062】
本実施形態において、金属支持体10及び枠体20の一方が本発明に係る「第1合金部材」の一例であり、他方が本発明に係る「第2合金部材」の一例である。また、本実施形態において、枠体20及びインターコネクタ30の一方が本発明に係る「第1合金部材」の一例であり、他方が本発明に係る「第2合金部材」の一例である。
【0063】
[金属支持体10]
金属支持体10は、セル本体部2を支持する。本実施形態において、金属支持体10は、板状に形成される。金属支持体10は、平板状であってもよいし、曲板状であってもよい。
【0064】
金属支持体10はセル本体部2を支持できればよく、その厚みは特に制限されないが、例えば0.1mm以上2.0mm以下とすることができる。
【0065】
図2に示すように、金属支持体10は、複数の供給孔11、第1主面12及び第2主面13を有する。
【0066】
各供給孔11は、第1主面12から第2主面13まで金属支持体10を貫通する。各供給孔11は、第1主面12及び第2主面13それぞれに開口する。各供給孔11は、セル本体部2によって覆われる。具体的には、各供給孔11の第1主面12側の開口は、水素極6によって覆われている。各供給孔11の第2主面13側の開口は、内部空間3aに繋がっている。
【0067】
各供給孔11は、機械加工(例えば、パンチング加工)、レーザ加工、或いは、化学加工(例えば、エッチング加工)などによって形成することができる。
【0068】
本実施形態において、各供給孔11は、Z軸方向に沿って直線状に形成される。ただし、各供給孔11は、Z軸方向に対して傾斜していてもよいし、直線状でなくてもよい。また、供給孔11どうしは互いに連なっていてもよい。
【0069】
第1主面12は、第2主面13の反対側に設けられる。第1主面12には、セル本体部2が配置される。第2主面13には、第1シール部40を介して枠体20が接合される。
【0070】
金属支持体10は、Cr(クロム)を含有する合金によって構成される。このような合金としては、Fe-Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi-Cr系合金鋼などが挙げられる。金属支持体10におけるCr含有率は特に制限されないが、4質量%以上30質量%以下とすることができる。
【0071】
金属支持体10は、Ti(チタン)やZr(ジルコニウム)を含有していてもよい。金属支持体10におけるTi含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上1.0mol%以下とすることができる。金属支持体10におけるZr含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上0.4mol%以下とすることができる。金属支持体10は、TiをTiO(チタニア)として含有していてもよいし、ZrをZrO(ジルコニア)として含有していてもよい。
【0072】
[枠体20]
枠体20は、内部空間3aを形成するためのスペーサである。本実施形態において、枠体20は、環状に形成される。
【0073】
枠体20は、第1シール部40を介して金属支持体10に接合されるとともに、第2シール部50を介してインターコネクタ30に接合される。
【0074】
枠体20の厚みは特に制限されないが、例えば0.1mm以上2.0mm以下とすることができる。
【0075】
枠体20は、Crを含有する合金によって構成される。このような合金としては、Fe-Cr系合金鋼やNi-Cr系合金鋼などが挙げられる。枠体20におけるCr含有率は特に制限されないが、4質量%以上30質量%以下とすることができる。枠体20の組成は、金属支持体10と同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0076】
[インターコネクタ30]
インターコネクタ30は、枠体20を基準として金属支持体10の反対側に配置される。インターコネクタ30は、外部電源又は他の電解セルに電解セル1を電気的に接続するための部材である。
【0077】
本実施形態において、インターコネクタ30は、板状に形成される。インターコネクタ30は、平板状であってもよいし、曲板状であってもよい。
【0078】
インターコネクタ30は、第2シール部50を介して枠体20に接合される。
【0079】
インターコネクタ30の厚みは特に制限されないが、例えば0.1mm以上2.0mm以下とすることができる。
【0080】
インターコネクタ30は、Crを含有する合金によって構成される。このような合金としては、Fe-Cr系合金鋼やNi-Cr系合金鋼などが挙げられる。インターコネクタ30におけるCr含有率は特に制限されないが、4質量%以上30質量%以下とすることができる。インターコネクタ30の組成は、金属支持体10と同じであってもよいし異なっていてもよい。インターコネクタ30の組成は、枠体20と同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0081】
[第1シール部40]
第1シール部40は、金属支持体10と枠体20の間に配置される。第1シール部40は、金属支持体10及び枠体20それぞれに接合される。
【0082】
第1シール部40は、金属支持体10と枠体20の隙間を封止する。これによって、水素極6に供給される原料ガスと水素極6において生成される還元ガスが、金属支持体10と枠体20の隙間から外部にリークすることが防止される。第1シール部40の詳細構成については後述する。
【0083】
[第2シール部50]
第2シール部50は、枠体20とインターコネクタ30の間に配置される。第2シール部50は、枠体20及びインターコネクタ30それぞれに接合される。
【0084】
第2シール部50は、枠体20とインターコネクタ30の隙間を封止する。これによって、水素極6に供給される原料ガスと水素極6において生成される還元ガスが、枠体20とインターコネクタ30の隙間から外部にリークすることが防止される。
【0085】
第2シール部50の構成は、次に説明する第1シール部40の構成と同じであるため、本実施形態では第2シール部50の構成についての説明を割愛する。
【0086】
(第1シール部40の詳細構成)
図3は、図2の部分拡大図である。図3では、第1シール部40の断面が図示されている。図3に図示された断面は、金属支持体10の第1主面12に垂直である。
【0087】
第1シール部40は、第1接着部41及び第2接着部42を有する。第1接着部41及び第2接着部42それぞれは、本発明に係る「接着部」の一例である。
【0088】
[第1接着部41]
第1接着部41は、金属支持体10と枠体20の間に配置される。第1接着部41は、金属支持体10及び枠体20に挟まれている。第1接着部41は、内部空間3aを取り囲むように環状に形成される。第1接着部41は、内部空間3aを封止するためのシールとして機能する。
【0089】
本実施形態において、第1接着部41は、金属支持体10と枠体20の間に形成された有底凹部60に埋設されている。有底凹部60の断面は、楔形である。有底凹部60は、最深部60a及び開口60bを有する。開口60bは、内部空間3aに向かって開口する。第1接着部41は、内部空間3aに露出している。
【0090】
第1接着部41は、Crを主成分とする酸化物(以下、「Cr酸化物」と略称する。)によって構成される。これによって、電解セル1の製造中又は作動中において、金属支持体10及び枠体20から第1接着部41にCrが拡散することを抑制することができる。また、金属支持体10及び枠体20から第1接着部41にCrが拡散してきたとしても、第1接着部41の組成に与える影響が小さいため、第1接着部41の強度が低下することも抑制できる。さらに、金属支持体10、枠体20及び第1接着部41がCrを共通して含有していることによって互いの接着性を向上させることができる。よって、長期間に渡って金属支持体10と枠体20の接着性を維持することができる。
【0091】
なお、本実施形態において、Crを主成分とするとは、第1接着部41を構成するCr酸化物の組成をエネルギー分散型分光(EDS)装置で解析した場合に、Cr酸化物中の金属元素に占めるCrの含有率が最も高いことを意味する。当該Cr含有率は特に制限されないが、例えば、20mol%以上100mol%以下とすることができる。
【0092】
第1接着部41を構成するCr酸化物中の金属元素に占めるCr含有率は、50mol%以上であることが好ましい。これによって、金属支持体10及び枠体20が含有しているCrが第1接着部41に拡散することを顕著に抑制することができる。
【0093】
第1接着部41を構成するCr酸化物は、クロム酸化物及びクロムマンガン酸化物のうち少なくとも一方によって構成されることが好ましい。これらの酸化物は、Crが特に拡散しにくい性質を有しているため、第1接着部41の耐久性を向上させることができる。
【0094】
クロム酸化物としては、Crなどが挙げられる。クロムマンガン酸化物としては、MnCr(スピネル)、Mn1,5Cr1,5(スピネル)などが挙げられる。
【0095】
第1接着部41を構成するCr酸化物は、結晶質であることが好ましい。これによって、電解セル1を長時間作動させたとしても、Cr酸化物が非晶質から結晶質へ相転移することで第1接着部41が破損してしまうことを回避できる。
【0096】
第1接着部41を構成するCr酸化物は、スピネル型又はコランダム型の結晶構造を有していることが好ましい。これらの結晶構造は対称性が高いため、第1接着部41の耐熱応力性を向上させることができる。また、これらの結晶構造を有するCr酸化物は、Crを含有する合金によって構成される金属支持体10及び枠体20それぞれとの界面における接合性が良好であるため、第1接着部41と金属支持体10及び枠体20それぞれとの接合強度を向上させることができる。
【0097】
ここで、第1接着部41は、図3に示すように、内部に空隙41aを有する。これによって、第1接着部41内に生じたクラックを空隙41aにおいて止めることができる。よって、第1接着部41が脆性破壊することを抑制できるため、長期間に渡って金属支持体10と枠体20の接着性をより維持することができる。
【0098】
本実施形態において、第1接着部41は、2つの空隙41aを有しているが、一断面における空隙41aの数は特に限られず、1つであってもよいし3つ以上であってもよい。
【0099】
図3に示すように、空隙41aは、金属支持体10及び枠体20それぞれから離れていることが好ましい。これによって、第1接着部41と金属支持体10及び枠体20それぞれとの接着面積を増大できるため、第1接着部41と金属支持体10及び枠体20それぞれとの接着性を向上させることができる。
【0100】
空隙41aは、Z軸方向に平行な厚み方向に沿って延びていてもよい。これによって、厚み方向に垂直な面方向に沿って延びるクラックを空隙41aによって広い範囲で止めることができる。なお、厚み方向とは、金属支持体10の第1主面12に垂直な方向である。厚み方向に沿って延びるとは、厚み方向における空隙41aの厚みが面方向における空隙41aの幅より大きいことを意味する。
【0101】
空隙41aは、Z軸方向に垂直な面方向に沿って延びていてもよい。これによって、厚み方向に沿って延びるクラックを空隙41aによって広い範囲で止めることができる。なお、面方向に沿って延びるとは、厚み方向における空隙41aの厚みが面方向における空隙41aの幅より小さいことを意味する。
【0102】
空隙41aは、厚み方向及び面方向それぞれに対して傾斜する方向に沿って延びていてもよい。これによって、厚み方向に沿って延びるクラックと面方向に沿って延びるクラックの両方を空隙41aによってバランスよく止めることができる。この場合、厚み方向における空隙41aの厚みは、面方向における空隙41aの幅と略同じであってもよい。
【0103】
空隙41aは、第1接着部41の厚み方向中央部に位置することが好ましい。これによって、空隙41aの金属支持体10側及び枠体20側それぞれにおける第1接着部41の強度差を小さくできるため、第1接着部41の機械的信頼性が低下することを抑制できる。空隙41aは、第1接着部41の厚み方向中央部にその全体が収まっていることがより好ましい。なお、厚み方向中央部とは、厚み方向に平行かつ空隙41aを通過する仮想線上において、第1接着部41を3等分したとき中央に位置する部位である。
【0104】
空隙41aの厚みは、第1接着部41の厚みの3/4以下であることが好ましい。これによって、空隙41aの金属支持体10側及び枠体20側それぞれにおける第1接着部41の強度が低下することを抑制できるため、第1接着部41が金属支持体10及び枠体20それぞれから剥離することを抑制できる。なお、第1接着部41の厚みとは、厚み方向における空隙41aと金属支持体10の最短距離と、厚み方向における空隙41aの最短距離と、厚み方向における空隙41aの厚みとの合計である。
【0105】
空隙41aの厚みに対する金属支持体10及び枠体20のうち少なくとも一方の厚みの比は、20以上500以下であることが好ましい。厚み比が20以上であることによって、空隙41aにおいてクラックを止める効果を十分に発揮することができる。また、厚み比が500以下であることによって、空隙41aが存在することによる第1接着部41の機械的信頼性(強度)の低下を抑制することができる。
【0106】
第1接着部41の断面において、第1接着部41の面積に対する空隙41aの面積の比は、5%以上30%以下であることが好ましい。面積比が5%以上であることによって、空隙41aにおいてクラックを止める効果を十分に発揮することができる。また、面積比が30%以下であることによって、空隙41aが存在することによる第1接着部41の機械的信頼性(強度)の低下を抑制することができる。
【0107】
なお、上記面積比は、次の手法により算出される。まず、Z軸方向に沿った第1接着部41の断面を露出させる。次に、SEM装置(日本電子株式会社製、FE-SEM JSM-7900F)を用いて、第1接着部41の断面の反射電子像を10000倍で取得する。次に、MEDIACYBERNETICS社製の画像解析ソフトImage-Proを用いて、反射電子像において黒色で表示された部分(空隙41aに相当)を特定する。そして、第1接着部41の反射電子像の全面積で空隙41aの合計面積を割ることによって、上記面積比が算出される。
【0108】
第1接着部41のうち内部空間3aに露出する面方向端部における上記面積比は、面方向中央部における上記面積比より小さいことが好ましい。これによって、内部空間3aを流れる還元ガス(本実施形態では、H)が空隙41aに入り込むことを抑制できるため、第1接着部41のシール性をより向上させることができる。なお、第1接着部41の面方向中央部とは、面方向に平行かつ空隙41aを通過する仮想線上において、第1接着部41を3等分したとき中央に位置する部位である。第1接着部41の面方向端部とは、当該仮想線上において、面方向中央部の内部空間3a側に位置する部位である。
【0109】
第1接着部41は、図3に示すように、少なくとも一部がCr酸化物に埋設された金属粒子41bを有することが好ましい。これによって、Cr酸化物と金属粒子41bが複合化されて第1接着部41の靭性を向上させることができる。
【0110】
金属粒子41bは、全体がCr酸化物に埋設されていてもよいし、一部分が空隙41aの内部に表出していてもよい。金属粒子41bは、金属支持体10及び枠体20のうち少なくとも一方の主成分と同じ元素を主成分とすることが好ましい。これによって、金属支持体10及び枠体20からの元素拡散によって第1接着部41が組成変化することを抑制できる。例えば、金属粒子41bは、Cr又はFeを主成分として含むことができる。なお、主成分として含むとは、金属粒子41bを元素分析した場合に最大含有率を示すことを意味する。
【0111】
第1接着部41は、Cr酸化物と造孔材を含むペーストを金属支持体10及び枠体20の少なくとも一方の表面上に塗布した後、金属支持体10と枠体20を密着させた状態で熱処理を施すことによって形成することができる。熱処理の条件は適宜設定することができるが、例えば、600℃以上1100℃以下、0.5時間以上24時間以下とすることができる。なお、第1接着部41に金属粒子41bを含ませる場合には、ペーストに金属粒子を適宜含ませればよい。
【0112】
[第2接着部42]
第2接着部42は、金属支持体10と枠体20の間に配置される。第2接着部42は、金属支持体10及び枠体20に挟まれている。第2接着部42は、第1接着部41を基準として内部空間3aの反対側に配置される。第2接着部42は、第1接着部41を取り囲むように環状に形成される。第2接着部42は、内部空間3aを封止するためのシールとして機能する。
【0113】
第2接着部42は、面方向において第1接着部41から離れている。第1接着部41と第2接着部42の間において、金属支持体10と枠体20は互いに密着又は一体化されている。金属支持体10と枠体20の電気的接続性を向上させるには、溶接又はロウ付けによって両者が一体化されていることが好ましい。
【0114】
本実施形態において、第2接着部42は、金属支持体10と枠体20の間に形成された有底凹部70に埋設されている。有底凹部70の断面は、楔形である。有底凹部70は、最深部70a及び開口70bを有する。開口70bは、外部空間3bに向かって開口する。第2接着部42は、外部空間3bに露出している。
【0115】
第2接着部42は、Cr酸化物によって構成される。これによって、電解セル1の製造中又は作動中において、金属支持体10及び枠体20から第2接着部42にCrが拡散することを抑制することができる。また、金属支持体10及び枠体20から第2接着部42にCrが拡散してきたとしても、第2接着部42の組成に与える影響が小さいため、第2接着部42の強度が低下することも抑制できる。さらに、金属支持体10、枠体20及び第2接着部42がCrを共通して含有していることによって互いの接着性を向上させることができる。よって、長期間に渡って金属支持体10と枠体20の接着性を維持することができる。
【0116】
第2接着部42を構成するCr酸化物中の金属元素に占めるCr含有率は、例えば、20mol%以上100mol%以下とすることができる。当該Cr含有率は、50mol%以上であることが好ましい。これによって、金属支持体10及び枠体20が含有しているCrが第2接着部42に拡散することを顕著に抑制することができる。
【0117】
第2接着部42を構成するCr酸化物は、クロム酸化物及びクロムマンガン酸化物のうち少なくとも一方によって構成されることが好ましい。これらの酸化物は、Crが特に拡散しにくい性質を有しているため、第2接着部42の耐久性を向上させることができる。
【0118】
第2接着部42を構成するCr酸化物は、結晶質であることが好ましい。これによって、電解セル1を長時間作動させたとしても、Cr酸化物が非晶質から結晶質へ相転移することで第2接着部42が破損してしまうことを回避できる。
【0119】
第2接着部42を構成するCr酸化物は、スピネル型又はコランダム型の結晶構造を有していることが好ましい。これによって、第2接着部42の耐熱応力性を向上させることができるとともに、第2接着部42と金属支持体10及び枠体20それぞれとの接合強度を向上させることができる。
【0120】
ここで、第2接着部42は、図3に示すように、内部に空隙42aを有する。これによって、第2接着部42内に生じたクラックを空隙42aにおいて止めることができる。よって、第2接着部42が脆性破壊することを抑制できるため、長期間に渡って金属支持体10と枠体20の接着性をより維持することができる。
【0121】
本実施形態において、第2接着部42は、1つの空隙42aを有しているが、一断面における空隙42aの数は特に限られず、2つ以上であってもよい。
【0122】
図3に示すように、空隙42aは、金属支持体10及び枠体20それぞれから離れていることが好ましい。これによって、第2接着部42と金属支持体10及び枠体20それぞれとの接着性を向上させることができる。
【0123】
空隙42aは、Z軸方向に平行な厚み方向に沿って延びていてもよい。これによって、面方向に沿って延びるクラックを空隙42aによって広い範囲で止めることができる。
【0124】
空隙42aは、Z軸方向に垂直な面方向に沿って延びていてもよい。これによって、厚み方向に沿って延びるクラックを空隙42aによって広い範囲で止めることができる。
【0125】
空隙42aは、厚み方向及び面方向それぞれに対して傾斜する方向に沿って延びていてもよい。これによって、厚み方向に沿って延びるクラックと面方向に沿って延びるクラックの両方を空隙42aによってバランスよく止めることができる。
【0126】
空隙42aは、第2接着部42の厚み方向中央部に位置することが好ましい。これによって、空隙42aの金属支持体10側及び枠体20側それぞれにおける第2接着部42の強度差を小さくできるため、第2接着部42の機械的信頼性が低下することを抑制できる。空隙42aは、第2接着部42の厚み方向中央部にその全体が収まっていることがより好ましい。
【0127】
空隙42aの厚みは、第2接着部42の厚みの3/4以下であることが好ましい。これによって、第2接着部42が金属支持体10及び枠体20それぞれから剥離することを抑制できる。
【0128】
金属支持体10及び枠体20のうち少なくとも一方の厚みに対する空隙42aの厚みの比は、20以上500以下であることが好ましい。これによって、空隙42aによるクラックを止める効果を十分に発揮するとともに、第2接着部42の機械的信頼性の低下を抑制することができる。
【0129】
第2接着部42の断面において、第2接着部42の面積に対する空隙42aの面積の比は、5%以上30%以下であることが好ましい。これによって、空隙42aによるクラックを止める効果を十分に発揮するとともに、第2接着部42の機械的信頼性の低下を抑制することができる。
【0130】
第2接着部42のうち外部空間3bに露出する面方向端部における上記面積比は、面方向中央部における上記面積比より小さいことが好ましい。これによって、外部空間3bを流れる酸化剤ガス(本実施形態では、O)が空隙42aに入り込むことを抑制できるため、第2接着部42のシール性をより向上させることができる。なお、第2接着部42の面方向中央部とは、面方向に平行かつ空隙42aを通過する仮想線上において、第2接着部42を3等分したとき中央に位置する部位である。第2接着部42の面方向端部とは、当該仮想線上において、面方向中央部の外部空間3b側に位置する部位である。
【0131】
第2接着部42は、図3に示すように、少なくとも一部がCr酸化物に埋設された金属粒子42bを有することが好ましい。これによって、第2接着部42の靭性を向上させることができる。
【0132】
金属粒子42bは、全体がCr酸化物に埋設されていてもよいし、一部分が空隙42aに表出していてもよい。金属粒子42bは、金属支持体10及び枠体20のうち少なくとも一方に含まれる金属元素を主成分とすることが好ましい。これによって、金属支持体10及び枠体20からの元素拡散によって第2接着部42が組成変化することを抑制できる。金属粒子42bは、例えば、Fe、Crなどを主成分として含むことができる。
【0133】
第2接着部42は、Cr酸化物と造孔材を含むペーストを金属支持体10及び枠体20の少なくとも一方の表面上に塗布した後、金属支持体10と枠体20を密着させた状態で熱処理を施すことによって形成することができる。熱処理の条件は適宜設定することができるが、例えば、600℃以上1100℃以下、0.5時間以上24時間以下とすることができる。なお、第2接着部42に金属粒子42bを含ませる場合には、ペーストに金属粒子を適宜含ませればよい。また、第2接着部42は第1接着部41と同時に形成してもよい。
【0134】
2.第2実施形態
【0135】
(電解セル1)
図4は、第2実施形態に係る電解セル1aの断面図である。電解セル1aは、本発明に係る「メタルサポート形電気化学セル」の一例である。
【0136】
第2実施形態に係る電解セル1aは、インターコネクタ30がエンボス部31及びデボス部32を有している点と、クロム合金容器3が第3接着部43を備えている点において第1実施形態に係る電解セル1と異なる。以下、当該相違点について主に説明する。
【0137】
本実施形態において、金属支持体10及びインターコネクタ30の一方が本発明に係る「第1合金部材」の一例であり、他方が本発明に係る「第2合金部材」の一例である。また、第3接着部43は、本発明に係る「接着部」の一例である。
【0138】
図4に示すように、インターコネクタ30は、複数のエンボス部31と複数のデボス部32を有する。図4では、2つのエンボス部31と3つのデボス部32が図示されているが、エンボス部31及びデボス部32それぞれの個数は適宜変更可能である。
【0139】
エンボス部31は、金属支持体10の第2主面13に当接する。これによって、金属支持体10がインターコネクタ30によって支持されるため、金属支持体10の撓みが抑制される。なお、エンボス部31は、金属支持体10に当接していればよく、金属支持体10に固定されていなくてもよい。
【0140】
デボス部32は、金属支持体10と反対側に向かって突出している。デボス部32は、外部電源又は他の電解セルに当接する。
【0141】
第3接着部43は、金属支持体10にエンボス部31を接着する。第3接着部43は、エンボス部31の先端部分周辺に配置される。エンボス部31の先端部分とは、エンボス部31のうち金属支持体10に当接している部分のことである。第3接着部43は、エンボス部31の先端部分を取り囲むように環状に形成されることが好ましい。これによって、エンボス部31と金属支持体10の接着性を向上させることができる。
【0142】
ここで、図5は、図4の部分拡大図である。図5では、第3接着部43の断面が図示されている。図5に図示された断面は、金属支持体10の第2主面13に垂直である。
【0143】
第3接着部43は、金属支持体10とエンボス部31の間に配置される。第3接着部43は、金属支持体10及びエンボス部31に挟まれている。第3接着部43は、金属支持体10上に配置され、かつ、エンボス部31の先端部分を取り囲むように環状に形成される。
【0144】
本実施形態において、第3接着部43は、金属支持体10とエンボス部31の間に形成された有底凹部80に埋設されている。有底凹部80の断面は、楔形である。有底凹部80は、最深部80a及び開口80bを有する。開口80bは、内部空間3aに向かって開口する。第3接着部43は、内部空間3aに露出している。
【0145】
第3接着部43は、Cr酸化物によって構成される。これによって、電解セル1aの製造中又は作動中において、金属支持体10及びエンボス部31から第3接着部43にCrが拡散することを抑制することができる。また、金属支持体10及びエンボス部31から第3接着部43にCrが拡散してきたとしても、第3接着部43の組成に与える影響が小さいため、第3接着部43の強度が低下することも抑制できる。さらに、金属支持体10、エンボス部31及び第3接着部43がCrを共通して含有していることによって互いの接着性を向上させることができる。よって、長期間に渡って金属支持体10とエンボス部31の接着性を維持することができる。
【0146】
第3接着部43を構成するCr酸化物中の金属元素に占めるCr含有率は、例えば、20mol%以上100mol%以下とすることができる。当該Cr含有率は、50mol%以上であることが好ましい。これによって、金属支持体10及びエンボス部31が含有しているCrが第3接着部43に拡散することを顕著に抑制することができる。
【0147】
第3接着部43を構成するCr酸化物は、クロム酸化物及びクロムマンガン酸化物のうち少なくとも一方によって構成されることが好ましい。これらの酸化物は、Crが特に拡散しにくい性質を有しているため、第3接着部43の耐久性を向上させることができる。
【0148】
第3接着部43を構成するCr酸化物は、結晶質であることが好ましい。これによって、電解セル1aを長時間作動させたとしても、Cr酸化物が非晶質から結晶質へ相転移することで第3接着部43が破損してしまうことを回避できる。
【0149】
第3接着部43を構成するCr酸化物は、スピネル型又はコランダム型の結晶構造を有していることが好ましい。これによって、第3接着部43の耐熱応力性を向上させることができるとともに、第3接着部43と金属支持体10及びインターコネクタ30それぞれとの接合強度を向上させることができる。
【0150】
ここで、第3接着部43は、図5に示すように、内部に空隙43aを有する。これによって、第3接着部43内に生じたクラックを空隙43aにおいて止めることができる。よって、第3接着部43が脆性破壊することを抑制できるため、長期間に渡って金属支持体10とインターコネクタ30の接着性をより維持することができる。
【0151】
本実施形態において、第3接着部43は、1つの空隙43aを有しているが、一断面における空隙43aの数は特に限られず、2つ以上であってもよい。
【0152】
図5に示すように、空隙43aは、金属支持体10及びインターコネクタ30それぞれから離れていることが好ましい。これによって、第3接着部43と金属支持体10及びインターコネクタ30それぞれとの接着性を向上させることができる。
【0153】
空隙43aは、Z軸方向に平行な厚み方向に沿って延びていてもよい。これによって、面方向に沿って延びるクラックを空隙43aによって広い範囲で止めることができる。
【0154】
空隙43aは、Z軸方向に垂直な面方向に沿って延びていてもよい。これによって、厚み方向に沿って延びるクラックを空隙43aによって広い範囲で止めることができる。
【0155】
空隙43aは、厚み方向及び面方向それぞれに対して傾斜する方向に沿って延びていてもよい。これによって、厚み方向に沿って延びるクラックと面方向に沿って延びるクラックの両方を空隙43aによってバランスよく止めることができる。
【0156】
空隙43aは、第3接着部43の厚み方向中央部に位置することが好ましい。これによって、空隙43aの金属支持体10側及びインターコネクタ30側それぞれにおける第3接着部43の強度差を小さくできるため、第3接着部43の機械的信頼性が低下することを抑制できる。空隙43aは、第3接着部43の厚み方向中央部にその全体が収まっていることがより好ましい。
【0157】
空隙43aの厚みは、第3接着部43の厚みの3/4以下であることが好ましい。これによって、第3接着部43が金属支持体10及びインターコネクタ30それぞれから剥離することを抑制できる。
【0158】
金属支持体10及びインターコネクタ30のうち少なくとも一方の厚みに対する空隙43aの厚みの比は、20以上500以下であることが好ましい。これによって、空隙43aによるクラックを止める効果を十分に発揮するとともに、第3接着部43の機械的信頼性の低下を抑制することができる。
【0159】
第3接着部43の断面において、第3接着部43の面積に対する空隙43aの面積の比は、5%以上30%以下であることが好ましい。これによって、空隙43aによるクラックを止める効果を十分に発揮するとともに、第3接着部43の機械的信頼性の低下を抑制することができる。
【0160】
第3接着部43のうち内部空間3aに露出する面方向端部における上記面積比は、面方向中央部における上記面積比より小さいことが好ましい。これによって、内部空間3aを流れる酸化剤ガス(本実施形態では、O)が空隙43aに入り込むことを抑制できるため、第3接着部43のシール性をより向上させることができる。
【0161】
第3接着部43は、図5に示すように、少なくとも一部がCr酸化物に埋設された金属粒子43bを有することが好ましい。これによって、第3接着部43の靭性を向上させることができる。
【0162】
金属粒子43bは、全体がCr酸化物に埋設されていてもよいし、一部分が空隙43aに表出していてもよい。金属粒子43bは、金属支持体10及びインターコネクタ30のうち少なくとも一方に含まれる金属元素を主成分とすることが好ましい。これによって、金属支持体10及びインターコネクタ30からの元素拡散によって第3接着部43が組成変化することを抑制できる。金属粒子43bは、例えば、Fe、Crなどを主成分として含むことができる。
【0163】
第3接着部43は、Cr酸化物と造孔材を含むペーストを金属支持体10及びエンボス部31の少なくとも一方の表面上に塗布した後、金属支持体10とエンボス部31を密着させた状態で熱処理を施すことによって形成することができる。熱処理の条件は適宜設定することができるが、例えば、800℃以上1100℃以下、0.5時間以上24時間以下とすることができる。なお、第3接着部43に金属粒子43bを含ませる場合には、ペーストに金属粒子を適宜含ませればよい。また、第3接着部43は、第1及び第2接着部41,42と同時に形成してもよい。
【0164】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0165】
[変形例1]
上記第1及び第2実施形態では、枠体20とインターコネクタ30は別部材であることとしたが、枠体20とインターコネクタ30は一体の部材であってもよい。この場合、クロム合金容器3は、第2シール部50を備えない。
【0166】
[変形例2]
上記第1及び第2実施形態では、金属支持体10と枠体20は別部材であることとしたが、金属支持体10と枠体20は一体の部材であってもよい。この場合、クロム合金容器3は、第1シール部40を備えない。
【0167】
[変形例3]
上記第1及び第2実施形態において、第1接着部41は、単層構造であることとしたが、これに限られない。第1接着部41は、組成の異なるCr酸化物によってそれぞれ構成される2層以上の複層構造であってもよい。
【0168】
[変形例4]
上記第1及び第2実施形態において、第2接着部42は、単層構造であることとしたが、これに限られない。第2接着部42は、組成の異なるCr酸化物によってそれぞれ構成される2層以上の複層構造であってもよい。
【0169】
[変形例5]
上記第2実施形態において、第3接着部43は、単層構造であることとしたが、これに限られない。第3接着部43は、組成の異なるCr酸化物によってそれぞれ構成される2層以上の複層構造であってもよい。
【0170】
[変形例6]
上記第1及び第2実施形態において、第1シール部40は、第1接着部41及び第2接着部42を有することとしたが、第1接着部41及び第2接着部42のうち一方のみを有していてもよい。
【0171】
また、第2シール部50は、第1シール部40と同じ構成であることとしたが、第1シール部40と異なる構成であってもよい。第2シール部50は、第1接着部41及び第2接着部42のうち一方のみを有していてもよい。
【0172】
[変形例7]
上記第1及び第2実施形態において、金属支持体10と枠体20は、第1接着部41と第2接着部42の間において互いに密着又は一体化されていることとしたが、これに限られない。金属支持体10と枠体20は、密着又は一体化されていなくてもよい。
【0173】
[変形例8]
上記実施形態では、電気化学セルの一例として電解セルを挙げて説明したが、電気化学セルは電解セルに限られない。電気化学セルとは、電気エネルギーを化学エネルギーに変えるため、全体的な酸化還元反応から起電力が生じるように一対の電極が配置された素子と、化学エネルギーを電気エネルギーに変えるための素子との総称である。従って、電気化学セルには、例えば、酸化物イオン或いはプロトンをキャリアとする燃料電池が含まれる。
【0174】
[変形例9]
上記実施形態では、本発明に係るクロム合金容器を電気化学セルに適用した形態について説明したが、クロム合金容器は、種々の用途に利用可能である。クロム合金容器は、例えば、水素と二酸化炭素からメタンを合成するメタネーション用のリアクタに適用することができる。
【実施例
【0175】
以下において本発明に係るクロム合金容器の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0176】
(サンプルNo.1~7)
サンプルNo.1~7に係るクロム合金容器3(図3参照)を次の通り作製した。
【0177】
まず、金属支持体10の第2主面13のうち外周部に、Crと造孔材(具体的には、PMMA粒子)を含むペーストを塗布した後、ペースト上に枠体20を配置することによって積層体を作製した。この際、ペーストの塗布量と造孔材の粒径を変えることによって、表1に示すように、第1接着部41の厚みに対する空隙41aの厚みの比を変更した。
【0178】
次に、金属支持体10と枠体20を重ね溶接することによって、第1接着部41と第2接着部42の間において金属支持体10と枠体20を一体化させた。
【0179】
次に、積層体に熱処理(1000℃、1時間)を施すことによって、空隙41aを内部に有する第1接着部41と空隙42aを内部に有する第2接着部42とをペーストから形成した。これによって、第1及び第2接着部41,42を備えるクロム合金容器3が完成した。
【0180】
次に、クロム合金容器3に熱処理(800℃、1000時間)を施すことによって熱耐久試験を実施した。
【0181】
次に、クロム合金容器3を厚み方向に沿って切断することによって、第1接着部41の厚み方向に沿った断面を露出させた。
【0182】
次に、上記実施形態において説明した通り、第1接着部41の断面において第1接着部41の厚みに対する空隙41aの厚みの比を測定した。測定された厚み比を表1に示す。
【0183】
次に、第1接着部41の断面をSEM(5000倍)で観察することによって、第1接着部41のうち空隙41a近傍において第1接着部41が金属支持体10及び枠体20から剥離していないか確認した。剥離の確認結果を表1に示す。
【0184】
【表1】
【0185】
表1に示すように、第1接着部41の厚みに対する空隙41aの厚みの比を3/4以下としたサンプルNo.1~5では、熱耐久試験後において第1接着部41が金属支持体10及び枠体20から剥離することを抑制できた。このことから、第1接着部41の厚みに対する空隙41aの厚みの比を3/4以下とすることによって、空隙41aの金属支持体10側及び枠体20側それぞれにおける第1接着部41の強度低下を抑制できることが分かった。
【0186】
なお、表1には示していないが、第2接着部42においても第1接着部41と同じ結果が得られた。
【0187】
(サンプルNo.8~18)
サンプルNo.8~18に係るクロム合金容器3(図3参照)を次の通り作製した。
【0188】
まず、金属支持体10の第2主面13のうち外周部に、Crと造孔材(具体的には、PMMA粒子)を含むペーストを塗布した後、ペースト上に枠体20を配置することによって積層体を作製した。この際、造孔材の粒径を変えることによって、表2に示すように、空隙41aの厚みに対する金属支持体10の厚みの比を変更した。
【0189】
次に、金属支持体10と枠体20を重ね溶接することによって、第1接着部41と第2接着部42の間において金属支持体10と枠体20を一体化させた。
【0190】
次に、積層体に熱処理(1000℃、1時間)を施すことによって、空隙41aを内部に有する第1接着部41と空隙42aを内部に有する第2接着部42とをペーストから形成した。これによって、第1及び第2接着部41,42を備えるクロム合金容器3が完成した。
【0191】
次に、クロム合金容器3に熱処理(800℃、1000時間)を施すことによって熱耐久試験を実施した。
【0192】
次に、クロム合金容器3を厚み方向に沿って切断することによって、第1接着部41の厚み方向に沿った断面を露出させた。
【0193】
次に、上記実施形態において説明した通り、空隙41aの厚みに対する金属支持体10の厚みの比を測定した。測定された厚み比を表2に示す。
【0194】
次に、第1接着部41の断面をSEM(5000倍)で観察することによって、第1接着部41の内部に生じた最大クラックの長さを測定した。最大クラックとは、5視野で観察された全てのクラックのうち両端の直線距離が最も大きいクラックである。最大クラックの長さ(両端の直線距離)を表2に示す。
【0195】
【表2】
【0196】
表2に示すように、空隙41aの厚みに対する金属支持体10の厚みの比を20以上500以下としたサンプルNo.8~14では、最大クラックの長さを顕著に短くすることができた。このことから、空隙41aの厚みに対する金属支持体10の厚みの比を20以上500以下とすることによって、第1接着部41の強度低下を抑制しながら、空隙41aにおいてクラックを止める効果を十分に発揮できることが分かった。
【0197】
なお、表2には示していないが、第2接着部42においても第1接着部41と同じ結果が得られた。
【0198】
(サンプルNo.19~27)
サンプルNo.19~27に係るクロム合金容器3(図3参照)を次の通り作製した。
【0199】
まず、金属支持体10の第2主面13のうち外周部に、Crと造孔材(具体的には、PMMA粒子)を含むペーストを塗布した後、ペースト上に枠体20を配置することによって積層体を作製した。この際、造孔材の添加量及び粒径を変えることによって、表3に示すように、第1接着部41の面積に対する空隙41aの面積の比を変更した。
【0200】
次に、金属支持体10と枠体20を重ね溶接することによって、第1接着部41と第2接着部42の間において金属支持体10と枠体20を一体化させた。
【0201】
次に、積層体に熱処理(1000℃、1時間)を施すことによって、空隙41aを内部に有する第1接着部41と空隙42aを内部に有する第2接着部42とをペーストから形成した。これによって、第1及び第2接着部41,42を備えるクロム合金容器3が完成した。
【0202】
次に、クロム合金容器3に熱処理(800℃、1000時間)を施すことによって熱耐久試験を実施した。
【0203】
次に、クロム合金容器3を厚み方向に沿って切断することによって、第1接着部41の厚み方向に沿った断面を露出させた。
【0204】
次に、上記実施形態において説明した通り、第1接着部41の面積に対する空隙41aの面積の比を算出した。算出した面積比を表3に示す。
【0205】
次に、第1接着部41の断面をSEM(5000倍)で観察することによって、第1接着部41の内部に生じた最大クラックの長さを測定した。最大クラックとは、5視野で観察された全てのクラックのうち両端の直線距離が最も大きいクラックである。クラック全体が観察視野に収まらない場合には、適宜視野をスライドさせながら取得した複数の像をつなぎ合わせることでクラック長さを測定した。最大クラックの長さ(両端の直線距離)を表3に示す。
【0206】
【表3】
【0207】
表3に示すように、第1接着部41の面積に対する空隙41aの面積の比を5%以上30%以下としたサンプルNo.19~23では、最大クラックの長さを顕著に短くすることができた。このことから、第1接着部41の面積に対する空隙41aの面積の比を5%以上30%以下とすることによって、第1接着部41の強度低下を抑制しながら、空隙41aにおいてクラックを止める効果を十分に発揮できることが分かった。
【0208】
なお、表2には示していないが、第2接着部42においても第1接着部41と同じ結果が得られた。
【0209】
(サンプルNo.28~34)
サンプルNo.28~34に係るクロム合金容器を次の通り作製した。
【0210】
まず、金属支持体10の第2主面13のうち外周部にCr及びMnのうち少なくとも一方と造孔材(具体的には、PMMA粒子)とを含むペーストを塗布した後、ペースト上に枠体20を配置することによって積層体を作製した。この際、Cr及びMnそれぞれの仕込み量を変えることによって、表1に示すように、接着部を構成するCr酸化物中の金属元素に占めるCr含有率を変更した。ただし、造孔材の量及び粒径はいずれのサンプルにおいても同じとした。
【0211】
次に、積層体に熱処理(1000℃、1時間)を施すことによって、空隙41aを内部に有する第1接着部41と空隙42aを内部に有する第2接着部42とをペーストから形成した。これによって、第1及び第2接着部41,42を備えるクロム合金容器が完成した。なお、本実施例では、金属支持体10と枠体20を溶接又はロウ付けしなかった。
【0212】
次に、接着部を構成するCr酸化物の組成をEDS装置で解析することによって、Cr酸化物中の金属元素に占めるCrの含有率を測定した。このときのCr含有率を「熱耐久試験前Cr含有率」として表4に示す。
【0213】
次に、クロム合金容器に熱処理(800℃、1000時間)を施すことによって熱耐久試験を実施した。
【0214】
次に、接着部を構成するCr酸化物の組成をEDS装置で解析することによって、Cr酸化物中の金属元素に占めるCrの含有率を再び測定した。このときのCr含有率を「熱耐久試験後Cr含有率」として表4に示す。
【0215】
【表4】
【0216】
表4に示すように、接着部を構成するCr酸化物中の金属元素に占めるCr含有率を50mol%以上としたサンプルNo.30~33では、熱耐久試験前後におけるCr含有率の変化量を顕著に小さくすることができた。このことから、接着部を構成するCr酸化物中の金属元素に占めるCr含有率を50mol%以上とすることによって、金属支持体10及び枠体20が含有しているCrが接着部に拡散することを顕著に抑制できることが分かった。
【符号の説明】
【0217】
1,1a 電解セル
2 セル本体部
3 クロム合金容器
3a 内部空間
6 水素極
7 電解質
8 反応防止層
9 酸素極
10 金属支持体
11 供給孔
12 第1主面
13 第2主面
20 枠体
30 インターコネクタ
31 エンボス部
40 第1シール部
41 第1接着部
42 第2接着部
43 第3接着部
41a,42a,43a 空隙
41b,42b,43b 金属粒子
【要約】
クロム合金容器(3)は、クロムを含有する合金によって構成される金属支持体(10)と、クロムを含有する合金によって構成される枠体(20)と、金属支持体(10)と枠体(20)を接着する第1接着部(41)とを備える。第1接着部(41)は、クロムを主成分とする酸化物によって構成される。第1接着部(41)は、内部に空隙(41a)を有する。
図1
図2
図3
図4
図5