(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-28
(45)【発行日】2025-04-07
(54)【発明の名称】金属有機構造体を備える成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/22 20060101AFI20250331BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20250331BHJP
D21H 13/26 20060101ALI20250331BHJP
D21H 17/07 20060101ALI20250331BHJP
C07D 213/22 20060101ALI20250331BHJP
A61K 31/555 20060101ALI20250331BHJP
A61P 39/02 20060101ALI20250331BHJP
D21H 17/66 20060101ALI20250331BHJP
【FI】
B01J20/22 Z
B01J20/30
D21H13/26
D21H17/07
C07D213/22
A61K31/555
A61P39/02
D21H17/66
(21)【出願番号】P 2024101798
(22)【出願日】2024-06-25
【審査請求日】2024-06-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(73)【特許権者】
【識別番号】519451197
【氏名又は名称】SyncMOF株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】八木 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】戸上 良也
(72)【発明者】
【氏名】畠岡 潤一
(72)【発明者】
【氏名】堀 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】大橋 翔太
(72)【発明者】
【氏名】小山 真衣
(72)【発明者】
【氏名】山本 遼
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2024/004659(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 17/66
B01J 20/30
B01J 20/22
D21H 13/26
D21H 17/07
C07D 213/22
A61K 31/555
A61P 39/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維材料を含む基材と、金属イオンと有機配位子とを含み、前記基材に担持された金属有機構造体と、を備える成形体の製造方法であって、
前記金属有機構造体を形成する前記金属イオンを含んだ金属イオン源と、前
記金属イオンと架橋可能な部位を含んだ繊維材料とを、溶媒中で混合して、
前記繊維材料の前記架橋可能な部位に前記金属イオンが結合した複合体を含む第1スラリーを得る第1調製工程と、
前記第1スラリーと
、前記金属有機構造体を形成する前記有機配位子を含んだ有機配位子源と
、を混合
することで、前記繊維材料に結合している前記金属イオンに前記有機配位子を結合させ、前記金属イオン
と前記有機配位子とを含む
前記金属有機構造体が前記繊維材料の周囲に配置された第2スラリーを得る第2調製工程と、
前記第2スラリーを成形して、前記繊維材料
を含む前記基材に
前記金属有機構造体
が担持された成形体を得る成形工程と、
を含む、成形体の製造方法。
【請求項2】
前記成形工程では、シート状の成形体を成形する、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1調製工程から前記成形工程までをインラインで行う、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第2調製工程では、前記第1スラリーに前記有機配位子源を添加し混合する、
請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記成形工程では、前記第2スラリーを湿式抄紙法によりシート化する、
請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1調製工程では、前記金属イオンと架橋可能な部位として、水酸基および窒素原子のうちの少なくとも一方を含む官能基を有する繊維材料を用いる、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第1調製工程では、前記繊維材料として、アラミド繊維およびセルロース繊維のうちの少なくとも一方を用いる、
請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第1調製工程では、前記金属イオンとして、K、Mg、Ca、Sr、Sc、Y、Ti、Zr、V、Cr、W、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Snのうちの少なくとも1つを含む金属イオン源を用いる、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項9】
前記第1調製工程では、前記金属イオンとして価数が2~4の遷移金属のイオンを含む金属イオン源を用いる、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第1調製工程では、Cuイオンを含む金属イオン源を用いる、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項11】
前記第2調製工程では、前記有機配位子として塩基性の化合物を含む有機配位子源を用いる、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項12】
前記第2調製工程では、前記有機配位子として4,4'-ビピリジンを含む有機配位子源を用いる、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第2調製工程では、前記第2スラリーに有機バインダを含まない、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項14】
前記成形工程では、前記シート状の成形体を、さらにコルゲート状、ハニカム状、スリット状、プリーツ状、またはロール状に成形する、
請求項2に記載の製造方法。
【請求項15】
前記第1調製工程では、有機繊維で構成された繊維材料を用いる、
請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属有機構造体を備える成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガスの貯蔵や分離、脱臭、空気や水の浄化等に用いられる材料として、金属有機構造体(MOF:Metal Organic Frameworks)の研究が活発に行われている。金属有機構造体は、金属イオンおよび有機配位子からなる格子構造を有し、比表面積と細孔容積が極めて大きい。また、金属有機構造体は、金属イオンや有機配位子の種類、およびその合成条件等を変化させることにより、多様な構造設計が可能である。このため、幅広い分野での利用が期待されている。
【0003】
例えば特許文献1には、繊維材料を含む基材と、基材に担持された金属有機構造体(多孔性金属錯体)と、を備えるシート状の成形体が開示されている。特許文献1には、次の工程:金属有機構造体と繊維材料と有機バインダとを溶媒中で混合して、スラリーを調製する工程;スラリーを抄紙機で抄紙し、湿紙を成形する工程;湿紙を脱水、乾燥する工程;を含む湿式抄紙法でシート状の成形体を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によれば、金属有機構造体は、基材にしっかり担持(固定)されていないと基材から脱落しやすくなる課題がある。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、繊維材料を含む基材に金属有機構造体が強固に担持された成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により、繊維材料を含む基材と、金属イオンと有機配位子とを含み、上記基材に担持された金属有機構造体と、を備える成形体の製造方法が提供される。この製造方法は、金属イオン源と、上記金属イオン源に含まれる金属イオンと架橋可能な部位を含んだ繊維材料とを、溶媒中で混合して、第1スラリーを得る第1調製工程と、上記第1スラリーと有機配位子源とを混合して、上記金属イオンと、上記有機配位子源に含まれる上記有機配位子と、を含む金属有機構造体が、上記繊維材料の周囲に配置された第2スラリーを得る第2調製工程と、上記第2スラリーを成形して、上記繊維材料からなる基材に金属有機構造体の担持された成形体を得る成形工程と、を含む。
【0008】
本発明によれば、例えば特許文献1のように金属有機構造体と繊維材料とを別々に用意して成形体を製造する方法に比べて、相対的に金属有機構造体を繊維材料に対してより強固に担持できる。よって、基材(繊維材料)と金属有機構造体との一体性を高めることができ、金属有機構造体が基材から脱落することを抑制できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属有機構造体が基材に強固に担持され、基材から脱落しにくい成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る成形体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2(A)は、第1調製工程後の第1スラリーの模式図であり、
図2(B)は、第2調製工程後の第2スラリーの模式図である。
【
図3】
図3(A)は、一実施形態に係る吸着フィルタの斜視図であり、
図3(B)は、一実施形態に係る吸着フィルタの正面図である。
【
図4】
図4は、比較例と実施例に係る評価結果の写真である。
【
図5】
図5は、比較例と実施例に係る評価結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る成形体について説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。また、本明細書において範囲を示す「X~Y」(X,Yは任意の数値)の表記は、X以上Y以下の意と共に、「Xより大きい」および「Yより小さい」の意を包含する。
【0012】
<成形体の製造方法>
ここに開示される製造方法は、繊維材料を含む基材(以下、単に「基材」ということがある。)と、基材に担持された金属有機構造体と、を備える成形体の製造方法である。金属有機構造体は、金属イオンと有機配位子とを必須として含んでいる。金属有機構造体は、典型的には、金属イオンと有機配位子とで構成された規則性の高い格子構造(多孔性の三次元構造)を有し、特定の分子を収容可能な複数の細孔を備える、多孔質な金属錯体である。金属有機構造体は、金属イオンと有機配位子とで構成されていてもよいし、さらに他の構造部分、例えば無機構造部分(inorganic chain)を含んでいてもよい。金属有機構造体は、フッ素元素を含むフッ素化金属有機構造体であることが好ましい。なお、本明細書において、「金属有機構造体」は、多孔性配位高分子(PCP:Porous Coordination Polymer)や、多孔性金属錯体と同義である。
【0013】
図1は、本実施形態に係る製造方法を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態の製造方法は、第1調製工程(工程S10)と、第2調製工程(工程S20)と、成形工程(工程S30)と、をこの順に含んでいる。ここに開示される製造方法は、任意の段階でさらに他の工程を含んでもよい。
図1に示すように、第1調製工程(工程S10)から成形工程(工程S30)までは、インライン(インサイト)で連続的に行うことが好ましい。これにより、生産性や作業効率を向上できる。
【0014】
第1調製工程(S10)は、金属イオン源と繊維材料とを溶媒中で混合して、第1スラリーを得る工程である。金属イオン源が、粉末状ないしゾル状、ゲル状等である場合は、予め溶媒に溶解させることが好ましい。繊維材料は、予め溶媒に分散させることが好ましい。そのため、本実施形態では、本工程が、金属イオン源と溶媒とを混合して、初期液を調製する初期液調製工程(工程S11)と、繊維材料と溶媒とを混合して、第1原料溶液を調製する第1原料溶液調製工程(工程S12)と、金属イオン源を含む初期液と、繊維材料を含む第1原料溶液とを混合して、第1スラリーを得る第1スラリー調製工程(工程S13)と、を含んでいる。なお、初期液調製工程(工程S11)と、第1原料溶液調製工程(工程S12)と、の順序は特に限定されない。また、本工程は任意の段階でさらに他の工程を含んでもよい。
【0015】
初期液調製工程(工程S11)では、金属イオン源と溶媒とを混合して、初期液を調製する。添加の順序は特に限定されないが、本実施形態では、
図1に示すように、まず反応槽内に金属イオン源を添加し、次いで反応槽内に溶媒を添加し、混合する。混合には、マグネティックスターラー、プラネタリーミキサー、ディスパー等の従来公知の撹拌混合装置を適宜用いることができる。混合は、初期液が均質になるまで行うことが好ましい。本工程の温度環境は、金属イオン源の溶解性を高める観点等から、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。一方、溶媒の揮発を抑制する観点等から、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。
【0016】
金属イオン源は、金属有機構造体を構成する金属イオンを少なくとも含んだ化合物である。金属イオン源としては、従来この種の用途に使用しうることが知られているものを1種または2種以上、適宜使用することができる。金属イオン源は、典型的には金属塩である。金属イオン源は、金属イオンと、成形体の無機構造部分を構成するアニオン(好ましくは、フッ素を含むアニオン)と、を含んでいてもよい。
【0017】
金属イオンは、後述する第2調製工程(工程S20)において有機配位子と結合することにより金属有機構造体の格子構造を形成するものである。金属イオンとしては特に限定されず、例えば使用する有機配位子の種類や成形体で捕捉したい分子等に応じて、従来この種の用途に使用しうることが知られているものを1種または2種以上、適宜使用することができる。特に限定されるものではないが、金属イオンは、周期表の1族~14族に属する金属、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、貴金属、希土類金属等のイオンであることが好ましい。金属イオンは、周期表の第4周期ないし第5周期に属する金属のイオンであることが好ましい。
【0018】
金属イオンを構成する金属(および、典型的なイオンの形態)の好適例としては、カリウム(K+)、マグネシウム(Mg2+)、カルシウム(Ca2+)、ストロンチウム(Sr2+)、スカンジウム(Sc3+)、イットリウム(Y3+)、チタン(Ti4+)、ジルコニウム(Zr4+)、バナジウム(V2+, V3+, V4+, V5+)、クロム(Cr3+, Cr6+)、タングステン(W6+)、モリブデン(Mo3+, Mo6+)、マンガン(Mn2+)、鉄(Fe2+, Fe3+)、コバルト(Co2+, Co3+)、ニッケル(Ni2+, Ni3+)、銅(Cu2+)、銀(Ag+)、亜鉛(Zn2+)、カドミウム(Cd2+)、アルミニウム(Al3+)、ガリウム(Ga3+)、インジウム(In3+)、スズ(Sn2+ Sn4+)等が挙げられる。なかでも金属イオンとして、価数が2~4の遷移金属のイオンを含むことが好ましく、Cuイオンを含むことがより好ましい。これらの金属は、第1スラリー中で繊維材料に強く結合しやすい。また、錯形成速度が高いため、後述する第2調製工程(工程S20)において、金属有機構造体の格子構造を繊維材料の周囲で好適に成長させることができる。
【0019】
溶媒は、典型的には水であるが、水を主体とする混合溶媒であってもよい。混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶剤、例えばメタノールやエタノール、プロパノール等の低級アルコールや、低級ケトン等を用いうる。水としては、不純物の混入を防止する観点から、イオン交換水、蒸留水、限外濾過水、逆浸透水等の精製水を好適に用いることができる。
【0020】
初期液は、少なくとも金属イオン源の金属イオンが溶媒に溶解した溶液である。一例として、金属イオン源が、Cu(BF4)2であり、溶媒が水である場合、初期液は、金属イオンとしてのCu2+と、無機構造部分のアニオンとしてのテトラフルオロホウ酸([BF4]-)とが、溶媒としての水に溶解した水溶液である。特に限定されるものではないが、初期液における金属イオンの濃度は、0.1~1mol/Lが好ましく、0.1~0.5mol/Lがより好ましく、0.1~0.12mol/Lがさらに好ましい。
【0021】
第1原料溶液調製工程(工程S12)では、繊維材料を溶媒と混合して、第1原料溶液を調製する。第1原料溶液は、典型的には繊維材料が溶媒に分散した分散液である。混合には、上記したような従来公知の撹拌混合装置を適宜用いることができる。混合は、第1原料溶液が均質になるまで行うことが好ましい。本工程の温度環境は、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。一方、溶媒の揮発を抑制する観点等から、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。溶媒としては、初期液に使用しうるとして例示したような媒体を、1種または2種以上、適宜使用することができる。溶媒は、初期液と同じであってもよく、異なっていてもよい。溶媒は、典型的には水である。
【0022】
繊維材料は、成形体の基材部分を構成するものである。ここに開示される技術では、繊維材料の少なくとも一部が、金属イオンと架橋(結合)可能な部位を有する。これにより、金属有機構造体を繊維材料(基材)に対して強固に担持できる。金属イオンと架橋可能な部位(以下、単に「架橋可能部位」ということがある。)は、典型的には、官能基である。架橋可能部位の好適例として、水酸基および窒素原子のうちの少なくとも一方を含む官能基、好ましくは求核性を有する官能基、例えばヒドロキシ基(-OH)、カルボキシ基(-C(=O)OH)、アミド基(-C(=O)NH)、アミノ基(-NH-、-NH2)、アミド結合(例えば、-C(=O)-NH-)、等が挙げられる。なかでも、窒素原子を含む官能基であるアミノ基やアミド結合が好ましい。これにより、第1スラリー中において上記したような金属イオンと強く結びつきやすくなる。
【0023】
繊維材料は、架橋可能部位を有する繊維材料(第1繊維材料)のみで構成されていてもよいし、第1繊維材料に加えて、架橋可能部位を有しない繊維材料(第2繊維材料)をさらに含んでいてもよい。ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮する観点から、繊維材料は、第1繊維材料を主体(質量基準で50%以上を占める成分。以下同じ。)として構成されていることが好ましい。なかでも、第1繊維材料と第2繊維材料との合計を100質量%としたときに、第1繊維材料の割合は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、実質全てが第1繊維材料である(95質量%以上が第1繊維材料である)ことが特に好ましい。
【0024】
第1繊維材料としては、架橋可能部位を有するものであれば特に限定されず、従来この種の用途に使用しうることが知られているものを1種または2種以上、適宜使用することができる。第1繊維材料は、架橋可能部位を多く有することから、有機繊維を含むことが好ましい。第1繊維材料は、有機繊維を主体として構成されていることが好ましい。第1繊維材料は、有機繊維で構成されていてもよい。第1有機繊維は、天然繊維であってもよいし、化学的に合成された化学繊維(人造繊維)であってもよい。天然繊維としては、パルプ繊維等の植物繊維や、動物繊維、鉱物繊維が挙げられる。化学繊維は、再生繊維であってもよいし、半合成繊維であってもよいし、合成繊維であってもよい。化学繊維としては、例えば、アラミド繊維、セルロース繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、レーヨン繊維、ポリアミド繊維、ポリイミド繊維、ポリ乳酸繊維等が挙げられる。なかでも、耐久性や汎用性、入手容易性等の観点から、アラミド繊維およびセルロース繊維のうちの少なくとも一方が好ましく、ここに開示される技術の効果をより高いレベルで発揮する観点から、窒素原子を有するアラミド繊維がより好ましい。
【0025】
ただし、第1繊維材料は、架橋可能部位を有する限りにおいて、無機繊維であってもよい。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維、炭素繊維等が挙げられる。
【0026】
特に限定されるものではないが、繊維材料の平均長さは、典型的には0.01μm~30mmが好ましい。繊維材料の平均直径は、典型的には1nm~0.1mmが好ましい。繊維材料のアスペクト比(平均直径に対する平均長さの比(平均長さ/平均直径))は、概ね10以上、例えば100以上、1000以上が好ましい。なお、平均長さおよび平均直径としては、電子顕微鏡観察に基づく測定で得られた複数の繊維材料の数平均値を採用することができる。
【0027】
第1スラリー調製工程(工程S13)では、初期液調製工程(工程S11)で調製した初期液と、第1原料溶液調製工程(工程S12)で調製した第1原料溶液とを混合して、第1スラリーを得る。本実施形態では、初期液の入っている反応槽内に、第1原料溶液を添加し、混合する。本工程では、金属イオンを繊維材料に充分定着させる観点から、反応槽内の混合液を所定の時間、攪拌することが好ましい。撹拌混合には、上記したような従来公知の撹拌混合装置を適宜用いることができる。本工程の温度環境は、初期液調製工程(工程S11)と同じかそれ以上であることが好ましく、例えば10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。一方、溶媒の揮発を抑制する観点等から、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。撹拌混合は、第1スラリーが均質になるまで行うことが好ましい。撹拌混合時間は、例えば第1スラリー中の金属イオンの濃度等によっても異なりうるため特に限定されないが、金属イオンを繊維材料に充分定着させる観点から、10分以上が好ましく、30分がより好ましい。一方、生産性や作業効率等の観点からは、120分以下が好ましく、60分以下がより好ましい。
【0028】
図2(A)は、第1スラリーの模式図である。
図2(A)に示すように、第1スラリーは、少なくとも金属イオンと繊維材料とを含んでいる。繊維材料は、金属イオンと架橋可能な部位(架橋可能部位)を含んでいる。そのため、第1スラリーでは、繊維材料の架橋可能部位によって金属イオンが捕捉され、架橋可能部位に少なくとも一部の金属イオンが定着(結合)している。
【0029】
第2調製工程(工程S20)は、第1調製工程(工程S10)で調製した第1スラリーと、有機配位子源と、を混合して、第2スラリーを得る工程である。有機配位子源が、粉末状ないしゾル状、ゲル状等である場合は、予め溶媒に溶解させることが好ましい。そのため、本実施形態では、本工程が、有機配位子源と溶媒とを混合して、第2原料溶液を調製する第2原料溶液調製工程(工程S21)と、金属イオンと繊維材料とを含む第1スラリーと、有機配位子源を含む第2原料溶液とを混合して、第2スラリーを得る第2スラリー調製工程(工程S22)と、を含んでいる。なお、本工程は任意の段階でさらに他の工程を含んでもよい。
【0030】
第2原料溶液調製工程(工程S21)では、有機配位子源と溶媒とを混合して、第2原料溶液を調製する。混合には、上記したような従来公知の撹拌混合装置を適宜用いることができる。混合は、第2原料溶液が均質になるまで行うことが好ましい。本工程の温度環境は、有機配位子源の溶解性を高める観点等から、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。一方、溶媒の揮発を抑制する観点等から、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。溶媒としては、初期液に使用しうるとして例示したような媒体を、1種または2種以上、適宜使用することができる。溶媒は、有機配位子源を溶解可能なものが好ましい。溶媒は、典型的には有機溶剤(例えば低級アルコール)である。溶媒は、第1スラリーの初期液ないし第1原料溶液と同じであってもよく、異なっていてもよい。溶媒は、混合する第1スラリーと相溶性があることが好ましい。
【0031】
有機配位子源は、金属有機構造体を構成する有機配位子を少なくとも含んでいる。有機配位子源としては、従来この種の用途に使用しうることが知られているものを1種または2種以上、適宜使用することができる。
【0032】
有機配位子は、金属イオンと配位結合可能な部位を分子内に2つ以上有し、かつ、後述する第2スラリー調製工程(工程S22)において金属イオンと結合することにより、金属有機構造体の格子構造を形成する有機化合物である。有機配位子としては特に限定されず、例えば金属イオンの種類や捕捉したい分子等に応じて、従来この種の用途に使用しうることが知られている化合物、例えば芳香族化合物、脂肪族化合物、脂環式化合物、複素環式化合物等を、1種または2種以上、適宜使用することができる。有機配位子の具体例としては、ピリジン類、ピラジン類、ピリミジン類、トリアジン類、ピラゾール類、イミダゾール類、トリアゾール類、テトラゾール類、ジカルボン酸、トリカルボン酸、およびこれらの誘導体が挙げられる。なかでも、塩基性の化合物が好ましい。金属イオンは、典型的には電子受容体であるため、電子供与体である塩基性の化合物を用いることで、第2スラリー調製工程で金属有機構造体の格子構造を好適に成長させることができる。
【0033】
有機配位子は、芳香族化合物が好ましく、C,H,Nの元素で構成された芳香族化合物がより好ましく、芳香環内に1つないし2つの窒素原子を含む複素環式芳香族化合物が特に好ましい。例えば、ピリジン骨格を有するピリジン類(ピリジンやビピリジン)、ピラジン骨格を有するピラジン類(例えばピラジン)が好ましい。具体例として、4,4'-ビピリジンが挙げられる。これらの化合物は、窒素原子が金属イオンに供与可能な孤立電子対を有するため、良好な相溶性と金属有機構造体の好適な成長に寄与する。したがって、これらの有機配位子を用いて合成される金属有機構造体は良好な吸着特性を発現する。
【0034】
第2原料溶液は、有機配位子源の有機配位子が溶媒に溶解した溶液である。一例として、有機配位子が、ピリジン類(例えば4,4'-ビピリジン)であり、溶媒がアルコール(例えばエタノール)である場合、有機配位子としてのピリジン類が、溶媒としてのアルコールに溶解した溶液である。第2原料溶液における有機配位子の濃度は、例えば第1スラリー中の金属イオンの濃度等によっても異なりうるため特に限定されないが、0.1~2mol/Lが好ましく、0.5~1.5mol/Lがより好ましく、0.9~1mol/Lがさらに好ましい。
【0035】
第2スラリー調製工程(工程S22)では、第1スラリー調製工程(工程S13)で調製した第1スラリーと、第2原料溶液調製工程(工程S21)で調製した第2原料溶液とを混合して、第2スラリーを得る。本実施形態では、第1スラリーの入っている反応槽内に、有機配位子源を含んだ第2原料溶液を添加し、混合する。本工程では、反応槽内の混合液を所定の時間、攪拌することが好ましい。撹拌混合には、上記したような従来公知の撹拌混合装置を適宜用いることができる。本工程の温度環境は、第1スラリー調製工程(工程S13)と同じかそれ以上であることが好ましく、例えば10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。一方、溶媒の揮発を抑制する観点等から、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。撹拌混合は、第2スラリーが均質になるまで行うことが好ましい。撹拌混合時間は、例えば生成する金属有機構造体の種類等によっても異なりうるため特に限定されないが、1時間以上が好ましく、10時間以上がより好ましい。一方、生産性や作業効率等の観点からは、48時間以下が好ましく、24時間以下がより好ましい。
【0036】
なお、第2スラリーには、ここに開示される技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、さらに従来この種の用途に使用しうることが知られている各種添加剤を適宜添加してもよい。各種添加剤としては、成形体の諸特性の向上、例えば、機械的強度や耐久性等の向上を目的として、従来この種の用途に使用しうることが知られているものを1種または2種以上、適宜使用することができる。添加剤の具体例として、無機フィラー、無機バインダ等の無機添加剤や、酸化防止剤、分散剤、凝集剤、防腐剤、安定剤、着色剤(顔料、染料等)等の有機添加剤が挙げられる。これら添加剤の割合は、第2スラリーの全体を100質量%としたときに、10質量%以下が好ましく、5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下がより好ましい。
【0037】
第2スラリーは、例えば特許文献1に記載されているような有機バインダを含まないことが好ましい。これにより、構造柔軟性を持つ金属有機構造体の構造変化が阻害されにくくなり、構造柔軟性を好適に維持することができるため、成形体の性能(例えば吸着材として使用する場合の吸着性能)を最大限に発揮できる。なお、本明細書において「含まない」とは、第2スラリー中の割合が概ね1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下であることをいう。
【0038】
図2(B)は、第2スラリーの模式図である。上述の通り、第1スラリーは、繊維材料の架橋可能部位に金属イオンが定着(結合)した複合体を含んでいる。第2原料溶液は有機配位子を含んでいる。
図2(B)に示すように、有機配位子は、金属イオンと結合して、金属有機構造体の格子構造を形成する。これにより、金属イオンと有機配位子とを含む金属有機構造体が、第2スラリーから生成され、繊維材料の周囲に配置される。本実施形態では、金属有機構造体は、金属イオンとしての銅イオン(Cu
2+)と、有機配位子としての4,4'-ビピリジンと、さらに無機構造部分としてのテトラフルオロホウ酸([BF
4]
-)とを含み、次の式:Cu(bpy)(BF
4)
2(H
2O)
2bpy;ただし、bpyは、4,4'-ビピリジンである:で表される化合物でありうる。
【0039】
成形工程(工程S30)は、第2調製工程(工程S20)で調製した第2スラリーを成形して、繊維材料からなる基材に金属有機構造体の担持された成形体を得る工程である。本実施形態では、第2スラリーを湿式抄紙法によりシート化する工程である。これにより、シート状の成形体を成形する。湿式抄紙法によれば、より均質なシート状の成形体を実現できる。本工程は、例えば従来公知の抄紙機を用いて行うことができる。本実施形態では、本工程が、抄紙工程(工程S31)と、乾燥工程(工程S32)と、を含んでいる。なお、本工程は任意の段階でさらに他の工程を含んでもよい。例えば脱水工程(工程S31)の前、途中あるいは後に、洗浄工程を含んでもよい。
【0040】
脱水工程(工程S31)では、第2スラリーに含まれる溶媒を大まかに除去し、第2スラリー中の固形分をシート状に抄紙(成形)する。一例では、抄紙機を用いて、まず濾過による抄紙と一次脱水を行う。なお、抄紙や濾過の条件は、従来と同様でよい。乾燥工程(S32)では、脱水工程(工程S31)で得られた湿紙からさらに溶媒を除去する。溶媒除去は多段階で行うことが好ましい。例えば、プレスによる脱水を行った後、乾燥させてもよい。なお、プレスや乾燥の方法、条件は特に限定されず、従来と同様でよい。乾燥温度は、第2スラリーに含まれていた溶媒の沸点を考慮して決定することが好ましく、例えば溶媒に水とアルコールとが含まれている場合は、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましい。
【0041】
本工程で溶媒を除去することにより、繊維材料を含む基材に金属有機構造体が担持された成形体を得ることができる。本実施形態で製造された成形体では、繊維材料の架橋可能部位を介して金属有機構造体が基材に強固に固定されている。本実施形態の成形体は、金属有機構造体を備えることで、例えば流体組成物ないし環境中から所望の成分を選択的に捕捉する機能を有しており、吸着材、吸蔵材、分離材等として好適に使用できる。本実施形態の成形体は、例えば、混合ガス中から特定のガス成分を吸着して分離するガス吸着装置やガス分離装置に好適に使用できる。
【0042】
なお、上記で得られたシート状の成形体は、さらにコルゲート状、ハニカム状、スリット状、プリーツ状、ロール状等の種々の形状に成形して、各種用途に用いることができる。シート状の成形体を上記形状に加工することで、分離の対象(例えばガス)との単位体積当たりの接触面積を増やすことができ、成形体の性能をより良く発揮できる。
【0043】
図3(A)は、吸着フィルタ100の斜視図であり、
図3(B)は、吸着フィルタ100の正面図である。吸着フィルタ100は、上記で得られたシート状の成形体を含んで構成されている。
図3(A)に示すように、吸着フィルタ100は、本実施形態では外形が円筒状である。ただし、吸着フィルタ100の外形は円筒状に限定されず、他の実施形態において種々の形状とすることができる。
図3(B)に示すように、吸着フィルタ100は、上述したシート状の成形体がコルゲート状(波形)ないしプリーツ状に成形された成形体10を備えている。吸着フィルタ100は、例えば、自動二輪車や発電機等のエンジンから排出される排気ガスを浄化するために用いることができる。
【0044】
ここに開示される製造方法では、まず第1調製工程において、金属イオンと、架橋可能部位を含む繊維材料と、を含んだ第1スラリーを調製する。これにより、例えば
図2(A)に示すように、架橋可能部位に金属イオンが定着(結合)する。次いで第2調製工程において、有機配位子を添加することで、例えば
図2(B)に示すように、金属有機構造体の格子構造が繊維材料の周囲で成長する。これにより、金属有機構造体を繊維材料(基材)に対してより強固に担持できる。よって、繊維材料と金属有機構造体との一体性を高めることができ、金属有機構造体が繊維材料(基材)から脱落することを抑制できる。また、金属有機構造体を基材に対してより強固に担持できることで、有機バインダを不使用ないし、有機バインダの使用量を削減することができる。
【0045】
本実施形態において、成形工程では、シート状の成形体を成形する。これにより、例えばペレット状の成形体や押出成形体に比べて、薄くて軽量な成形体を実現でき、さらには表面積も広く確保できる。また、シート化後も種々形状に成形しやすいため、用途や形状の幅を広げることができる。
【0046】
本実施形態において、上記第1調製工程から上記成形工程までをインラインで行う。例えば、上記第2調製工程では、上記第1スラリーに上記有機配位子源を添加し混合する。これにより、例えばラインアウトさせたり、別設備に運搬したりする場合に比べて、手間を削減でき、生産性や作業効率を向上できる。
【0047】
本実施形態において、上記成形工程では、上記第2スラリーを湿式抄紙法によりシート化する。これにより、生産性や作業効率を向上できることに加え、より均質なシート状の成形体を実現できる。
【0048】
本実施形態において、上記第1調製工程では、上記金属イオンと架橋可能な部位として、水酸基および窒素原子のうちの少なくとも一方を含む官能基を有する繊維材料を用いる。例えば、上記繊維材料として、アラミド繊維およびセルロース繊維のうちの少なくとも一方を用いる。これにより、金属有機構造体の金属イオンが繊維材料(基材)に強く結合しやすくなり、金属有機構造体を基材に対してより強固に担持できる。
【0049】
本実施形態において、上記第1調製工程では、上記金属イオンとして、K、Mg、Ca、Sr、Sc、Y、Ti、Zr、V、Cr、W、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Snのうちの少なくとも1つを含む金属イオン源を用いる。例えば、上記金属イオンとして価数が2~4の遷移金属のイオンを含む金属イオン源を用いる。例えば、Cuイオンを含む金属イオン源を用いる。これらの金属は、第1スラリー中で繊維材料に強く結合しやすい。また、錯形成速度が高いため、第2調製工程で金属有機構造体の格子構造を好適に成長させることができる。
【0050】
本実施形態において、上記第2調製工程では、上記有機配位子として塩基性の化合物を含む有機配位子源を用いる。金属イオンは、典型的には電子受容体であるため、電子供与体である塩基性の化合物を用いることで、第2スラリー調製工程で金属有機構造体の格子構造を好適に成長させることができる。
【0051】
本実施形態において、上記第2調製工程では、上記有機配位子として4,4'-ビピリジンを含む有機配位子源を用いる。4,4'-ビピリジンのように窒素原子を含む化合物は、金属イオンに供与可能な孤立電子対を有するため、良好な相溶性と金属有機構造体の好適な成長に寄与する。したがって、これらの有機配位子を用いて合成される金属有機構造体は、良好な吸着特性を発現する。
【0052】
本実施形態において、上記第2調製工程では、上記第2スラリーに有機バインダを含まない。これにより、構造柔軟性を持つ金属有機構造体の構造変化が阻害されにくくなり、構造柔軟性を好適に維持することができるため、成形体の性能(例えば吸着材として使用する場合の吸着性能)を最大限に発揮することができる。また、金属有機構造体の表面が有機バインダによって覆われることがないので、分離の対象(例えばガス)と金属有機構造体との接触面積を増やすことができ、成形体の性能(例えば吸着材として使用する場合の吸着性能)をより良く発揮できる。
【0053】
本実施形態において、上記成形工程では、上記シート状の成形体を、さらにコルゲート状、ハニカム状、スリット状、プリーツ状、またはロール状に成形する。これにより、分離の対象(例えばガス)との単位体積当たりの接触面積を増やすことができ、成形体の性能をより良く発揮できる。
【0054】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0055】
<比較例> 比較例では、先に金属有機構造体を合成し、次いで繊維材料と混合して、成形体を製造した。すなわちまず、反応槽に、金属イオン源としてのCu(BF4)2の水溶液を5.04g添加し、そこに精製水73.82gを添加して、10分間攪拌混合した。次に、別の容器に、有機配位子源としての4,4'-ビピリジンを2.99g添加し、そこに溶媒としてのエタノール19.15gを添加して、10分間攪拌混合した。次に、金属イオン源の入った反応槽に、別の容器で用意した有機配位子源を添加し、60分間攪拌混合して、混合液を得た。これにより、事前に混合液から金属有機構造体を析出、生成させた。
【0056】
次に、別の容器に、繊維材料としてのアラミド繊維1.4gと水500gとを添加し、5分間攪拌混合してスラリーを調製し、このスラリーを金属有機構造体の入った反応槽に添加して、24時間攪拌混合した。そして、得られたスラリーを湿式抄紙法でシート化した。具体的には、まず24時間攪拌混合した後のスラリーを吸引濾過してシート状に抄紙(成形)した後、プレス機で脱水し、さらにホットプレートの上で80℃、30分間、乾燥させた。これにより、シート状の成形体を得た。
【0057】
<実施例> 実施例では、
図1のように、先に金属イオン源と繊維材料とを混合し、次いで有機配位子源を添加して、成形体を製造した。すなわちまず、反応槽に、金属イオン源としてのCu(BF
4)
2の水溶液を5.04g添加し、そこに精製水73.82gを添加して、10分間攪拌混合した。これにより、初期液を調製した。次に、別の容器に、繊維材料としてのアラミド繊維1.4gと水500gとを添加し、5分間攪拌混合して第1原料溶液を調製した。次に、金属イオン源の入った反応槽に、別の容器で用意した第1原料溶液を添加し、60分間攪拌混合して、第1スラリーを得た(第1調製工程)。これにより、繊維材料の架橋可能部位に金属イオンを定着(結合)させた。
【0058】
次に、別の容器に、有機配位子源としての4,4'-ビピリジンを2.99g添加し、そこに溶媒としてのエタノール19.15gを添加し、10分間攪拌混合して、第2原料溶液を調製した。次に、第1スラリーの入った反応槽に、別の容器で用意した第2原料溶液を添加し、24時間攪拌混合して、第2スラリーを得た(第2調製工程)。これにより、繊維材料の周囲で金属有機構造体を析出、生成させた。そして、得られたスラリーを比較例と同様に湿式抄紙法でシート化し、シート状の成形体を得た(成形工程)。
【0059】
<耐久性の評価> 比較例および実施例の成形体について、下記の手順で金属有機構造体の基材への定着性(脱落しにくさ)を評価した。すなわちまず、成形体の重量を電子天秤で測定し、試験前の重量を得た。次に、比較例および実施例の成形体を別々に、エタノール50mlが入ったビーカーに入れ、このビーカーを超音波洗浄器の浴槽内に配置した。なお、超音波洗浄器としては、ブランソン卓上超音波洗浄器(型式:Bransonic(商標) CPX5800-J、超音波出力:160W、発振周波数:40kHz)を用いた。そして、10分間超音波処理した後、ビーカーを取り出した。
【0060】
図4は、比較例と実施例に係る評価結果の写真である。
図4に示すように比較例のビーカーは、超音波処理後にエタノール溶液の濁りが大きく、金属有機構造体が基材から脱落したことが看取された。一方、実施例のビーカーは、超音波処理後も相対的に濁りが小さく、金属有機構造体が基材にしっかり定着していることが看取された。
【0061】
次に、ビーカーから成形体を取り出し、ホットプレート上のろ紙の上に置き、約20分間乾燥させた。そして、乾燥後の成形体の重量を電子天秤で測定し、試験後の重量を得た。結果を表1および
図5に示す。
【0062】
【0063】
表1および
図5において、試験前後の重量変化は、成形体から脱落した金属有機構造体の量を表していると考えられる。表1および
図5に示すように、実施例では、比較例に比べて相対的に重量変化が少なく、脱落した金属有機構造体が少なかった。このことは、金属有機構造体が、基材に対して相対的に強固に担持(固定)されていると考えられた。かかる結果は、ここに開示される技術の意義を示すものである。
【0064】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0065】
10 成形体
100 吸着フィルタ
S10 第1調製工程
S20 第2調製工程
S30 成形工程
【要約】
【課題】金属有機構造体が強固に担持された成形体を提供すること。
【解決手段】ここに開示される製造方法は、金属イオン源と、上記金属イオン源に含まれる金属イオンと架橋可能な部位を含んだ繊維材料とを、溶媒中で混合して、第1スラリーを得る第1調製工程(S10)と、上記第1スラリーと有機配位子源とを混合して、上記金属イオンと、上記有機配位子源に含まれる上記有機配位子と、を含む金属有機構造体が、上記繊維材料の周囲に配置された第2スラリーを得る第2調製工程(S20)と、上記第2スラリーを成形して、上記繊維材料からなる基材に金属有機構造体の担持された成形体を得る成形工程(S30)と、を含む。
【選択図】
図1