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特許7657500Klotho発現を促進するための組成物、及び、それに関連する発明
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-28
(45)【発行日】2025-04-07
(54)【発明の名称】Klotho発現を促進するための組成物、及び、それに関連する発明
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/19 20060101AFI20250331BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20250331BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20250331BHJP
   A61K 31/593 20060101ALI20250331BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250331BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20250331BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250331BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20250331BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20250331BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20250331BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20250331BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20250331BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20250331BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20250331BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20250331BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20250331BHJP
   C07K 14/525 20060101ALI20250331BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20250331BHJP
【FI】
A61K38/19
A61K31/7088
A61K35/28
A61K31/593
A61P43/00 107
A61P25/28
A61P35/00
A61P7/00
A61P13/12
A61P19/10
A61P9/10 101
A61P9/12
A61P9/00
A61P9/10
A61P11/00
A61P3/10
A61K48/00
C07K14/525 ZNA
C12N15/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024052142
(22)【出願日】2024-03-27
【審査請求日】2024-03-27
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501048930
【氏名又は名称】株式会社 バイオミメティクスシンパシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】漆畑 直樹
(72)【発明者】
【氏名】綿引 一
(72)【発明者】
【氏名】田辺 敦弘
(72)【発明者】
【氏名】大西 啓介
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第114984049(CN,A)
【文献】特開2023-138960(JP,A)
【文献】Front. Aging,2023年,Vol. 3,Article 931331
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトKlotho/KL遺伝子の発現を亢進するための組成物であって、前記組成物は、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質の少なくとも一部、又は、当該タンパク質の少なくとも一部をコードする核酸を含む、組成物であって、
前記組成物が、以下の(1)~()のうちいずれか1以上を含む、組成物。
(1)遺伝子TNFSF12(Tumor Necrosis Factor ligand superfamily member 12)/TWEAK(TNF-related weak inducer of apoptosis)から生成されるタンパク質のうち、細胞外領域を含むアミノ酸配列97番~249番を含むタンパク質であって、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
)上記(1)のタンパク質をコードする配列を含む核酸。
)遺伝子TNFSF2(Tumor Necrosis Factor ligand superfamily member 2)/ TNF( Tumor Necrosis Factor )/TNFαから生成されるタンパク質のうち、細胞外領域を含むアミノ酸配列77番~233番を含むタンパク質であって、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
)上記(3)のタンパク質をコードする配列を含む核酸。
)遺伝子TNFSF1(Tumor Necrosis Factor ligand superfamily member 1)/TNFβ( Tumor Necrosis Factorβ)/Lymphotoxinα から生成されるタンパク質のうち、アミノ酸配列35番~205番を含むタンパク質であって、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
)上記(5)のタンパク質をコードする配列を含む核酸。
)遺伝子TNF14(Tumor Necrosis Factor ligand superfamily member 14)/LIGHTから生成されるタンパク質のうち、細胞外領域を含むアミノ酸配列64番~240番を含むタンパク質であって、配列番号4で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
)上記(7)のタンパク質をコードする配列を含む核酸。
)Lymphotoxinα1つとLymphotoxinβ2つからなるヘテロ3量体タンパク質。
【請求項2】
請求項1の組成物であって、前記組成物は、間葉系幹細胞を培養することによって得られる培養上清、及び/又は、10kDa~30kDaの範囲の画分に該当する前記間葉系幹細胞の分泌物を含む、組成物。
【請求項3】
請求項の組成物であって、前記組成物は、間葉系幹細胞を無血清培養することによって得られる培養上清、及び/又は、10kDa~30kDaの範囲の画分に該当する前記間葉系幹細胞の分泌物を含む、組成物。
【請求項4】
請求項1の組成物であって、前記組成物は、ビタミンD3を更に含む、組成物。
【請求項5】
請求項1の組成物であって、アンチエイジングのために投与される、組成物。
【請求項6】
請求項1の組成物であって、以下の症状のうちいずれか1以上を治療するために投与される、組成物。
(1)神経変性疾患及び/又は認知症
(2)がん増大
(3)高リン血症
(4)慢性腎疾患
(5)腎線維症
(6)骨粗鬆症
(7)動脈石灰化
(8)高血圧
(9)心肥大及び/又は線維化
(10)虚血性心筋梗塞
(11)肺線維症
(12)慢性閉塞性肺疾患
(13)Β細胞減少
(14)インスリン減少
(15)糖尿病病変部増加
【請求項7】
請求項1の組成物を製造するための、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質の少なくとも一部、又は、当該タンパク質の少なくとも一部をコードする核酸の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Klothoタンパク質の発現を促進するための組成物、及び、それに関連する発明に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に生物の寿命は、自身の遺伝的要因と周囲の環境要因の2種類の影響によって大きく変化すると考えられている。生物は生まれてから年月を経るごとに成長し、ある一定の期間を経て今度は老化してゆき、そして死を迎える。一般的に老化は生存と生殖に必要な器官の経年的な機能の衰退として定義される。一例として、認知機能の低下などが挙げられる。
【0003】
実験動物を用いて数多くの研究が行われ、その中でも非常に興味深い発見の一つに、Klothoという遺伝子の発見が挙げられる(非特許文献1)。このKlotho遺伝子に変異が入り発現量が激減したkl/klマウス(一対の染色体の両方のKlotho遺伝子に変異が入ったマウス)は、体が小さく、約2~5ヶ月で寿命を迎えてしまうという報告がなされた。多くの研究から、死亡原因は発育不全ではなく、早く老化を迎えてしまうことが原因と結論づけられた。
【0004】
さらに非特許文献2では、Klotho遺伝子を導入し過剰発現させたマウスの寿命が20%も延伸する結果を示している。また別の非特許文献3においては、実際のヒトの血清中に含まれるKlothoタンパク質が、加齢とともに減少していくということを示している。これら結果から、Klotho遺伝子は老化を抑制するアンチエイジング遺伝子として重要な機能を持つことが示唆され、世界中でその機能の研究が進んでいる。
【0005】
数多くの研究から、Klotho遺伝子は、リン酸塩の腎臓での蓄積、慢性腎疾患、腎臓線維化、骨粗鬆症、動脈石灰化、高血圧、心肥大・線維化、虚血性心筋梗塞、慢性閉塞性肺疾患、インスリン産生減少、β細胞減少、神経変性疾患、認知症、そして癌、など様々な疾患と関わりがある、すなわちKlothoの発現が減少するとこれらの疾患が誘導されることが示唆されている(非特許文献4)。つまり、Klothoはこれらの疾患の発症を普段から抑制している可能性が示されている。
【0006】
従って、加齢とともに減少するKlothoタンパク質を補えば、寿命を延伸し、且つこれらの疾患を発症するリスクが減る可能性が高いということで、Klothoタンパク質を投与するというアイディアは当然生まれて然るべきである。しかし、Klothoタンパク質の半減期は7時間と非常に短く(非特許文献5)、実現には大量のリコンビナントタンパク質を必要とすることが予想される。しかし、Klothoタンパク質は多数の糖鎖修飾を受けることが知られており、大腸菌などを用いた大規模製造は困難となっている。
【0007】
従って、特許文献1や2にあるような、内在性のKlotho遺伝子の発現を促進することで、タンパク質が分解されても作り続けるようなアプローチが非常に有効であると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】https://www.nature.com/articles/36285
【文献】https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2536606/
【文献】https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4130489/
【文献】https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fragi.2022.931331/full
【文献】https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4696570/
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第7412546号公報
【文献】特開2023-175790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
Klotho/KL遺伝子の発現を上昇させることは、癌を含む様々な疾患の発症を抑制できる可能性を秘めており、さらに本来の発見の経緯でもある寿命の延伸効果も期待できる。一方で、Klothoタンパク質の著しい不安定さと大量製造の難しさから、タンパク質自体の投与は困難である。さらにいくつかの先行技術においてKlotho遺伝子の発現を上昇させる化合物の発見・開発が進められてはいるが、今まで実際の人でKlothoの発現を上昇させる物質は未知である。
【0011】
従って、Klotho遺伝子の発現を上昇させる手段に関するニーズは非常に高い。そこで本開示は、Klotho遺伝子の発現を上昇させるための新たな組成物及びその使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者が鋭意検討したところ、間葉系幹細胞から得られる培養上清に着目した。ボランティアとして健常者10名から採決後、間葉系幹細胞から得られる培養上清を点滴投与し、2週間後に再度採血して、投与前後の血中Klothoタンパク質をELISA法を用いて比較したところ、間葉系幹細胞から得られる培養上清の点滴投与によって統計学的に有意にKlothoタンパク質量が上昇した。
【0013】
さらに鋭意検討した結果、間葉系幹細胞から得られる培養上清中のTWEAK(TNF-like weak inducer of apoptosis)タンパク質がKlothoの発現上昇に必要十分であることを発見した。
【0014】
上記知見に基づいて発明が完成され、本開示は、一側面において、以下の発明を包含する。
(発明1)
ヒトKlotho/KL遺伝子の発現を亢進するための組成物であって、前記組成物は、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質の少なくとも一部、又は、当該タンパク質の少なくとも一部をコードする核酸を含む、組成物。
(発明2)
発明1の組成物であって、前記組成物が、以下の(1)~(3)のうちいずれか1以上を含む、組成物。
(1)遺伝子TNFSF12(Tumor Necrosis Factor ligand superfamily member 12)/TWEAK(TNF-related weak inducer of apoptosis)から生成されるタンパク質のうち、細胞外領域を含むアミノ酸配列97番~249番を含むタンパク質、
(2)上記(1)のタンパク質のアミノ酸配列に対して、80%以上の配列類似性を有する配列を含むタンパク質、
(3)上記(1)及び(2)のいずれか1つのタンパク質をコードする配列を含む核酸。
(発明3)
発明1又は2の組成物であって、前記組成物が、以下の(4)~(6)のうちいずれか1以上を含む、組成物。
(4)遺伝子TNFSF2(Tumor Necrosis Factor ligand superfamily member 2)/ TNF( Tumor Necrosis Factor )/TNFαから生成されるタンパク質のうち、細胞外領域を含むアミノ酸配列77番~233番を含むタンパク質、
(5)上記(4)のタンパク質のアミノ酸配列に対して、80%以上の配列類似性を有する配列を含むタンパク質、
(6)上記(4)及び(5)のいずれか1つのタンパク質をコードする配列を含む核酸。
(発明4)
発明1~3いずれか1つに記載の組成物であって、前記組成物が、以下の(7)~(9)のうちいずれか1以上を含む、組成物。
(7)遺伝子TNFSF1(Tumor Necrosis Factor ligand superfamily member 1)/TNFβ( Tumor Necrosis Factorβ)/Lymphotoxinα から生成されるタンパク質のうち、アミノ酸配列35番~205番を含むタンパク質、
(8)上記(7)のタンパク質のアミノ酸配列に対して、80%以上の配列類似性を有する配列を含むタンパク質、
(9)上記(7)及び(8)のいずれか1つのタンパク質をコードする配列を含む核酸。
(発明5)
発明1~4いずれか1つに記載の組成物であって、前記組成物が、以下の(10)~(12)のうちいずれか1以上を含む、組成物。
(10)遺伝子TNF14(Tumor Necrosis Factor ligand superfamily member 14)/LIGHTから生成されるタンパク質のうち、細胞外領域を含むアミノ酸配列64番~240番を含むタンパク質、
(11)上記(10)のタンパク質のアミノ酸配列に対して、80%以上の配列類似性を有する配列を含むタンパク質、
(12)上記(10)及び(11)のいずれか1つのタンパク質をコードする配列を含む核酸。
(発明6)
発明1~5いずれか1つに記載の組成物であって、LymphotoxinαとLymphotoxinβのヘテロ3量体タンパク質を含む、組成物。
(発明7)
発明6の組成物であって、ヘテロ3量体タンパク質が、Lymphotoxinα1つとLymphotoxinβ2つからなる、組成物。
(発明8)
発明1~5いずれか1つに記載の組成物であって、前記組成物は、間葉系幹細胞を培養することによって得られる培養上清、及び/又は、前記間葉系幹細胞の分泌物を含む、組成物。
(発明9)
発明8の組成物であって、前記組成物は、間葉系幹細胞を無血清培養することによって得られる培養上清、及び/又は、前記間葉系幹細胞の分泌物を含む、組成物。
(発明10)
発明1~9いずれか1つに記載の組成物であって、前記組成物は、ビタミンD3を更に含む、組成物。
(発明11)
発明1~10いずれか1つに記載の組成物であって、アンチエイジングのために投与される、組成物。
(発明12)
発明1~11いずれか1つに記載の組成物であって、以下のうちいずれか1以上の症状を治療するために投与される、組成物。
(1)神経変性疾患及び/又は認知症
(2)がん増大
(3)高リン血症
(4)慢性腎疾患
(5)腎線維症
(6)骨粗鬆症
(7)動脈石灰化
(8)高血圧
(9)心肥大及び/又は線維化
(10)虚血性心筋梗塞
(11)肺線維症
(12)慢性閉塞性肺疾患
(13)Β細胞減少
(14)インスリン減少
(15)糖尿病病変部増加
(発明13)
発明1~12いずれか1つに記載の組成物を製造するための、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質の少なくとも一部、又は、当該タンパク質の少なくとも一部をコードする核酸の使用。
(発明14)
必要とする対象において、発明12に記載したいずれか1つの症状の治療を行うための方法であって、発明1~12いずれか1つに記載の組成物を、治療上有効な量で投与する工程を含む、方法。
(発明15)
必要とする対象において、発明12に記載したいずれか1つの症状の治療を行うためのTNFスーパーファミリーに属するタンパク質の少なくとも一部、又は、当該タンパク質の少なくとも一部をコードする核酸。
【発明の効果】
【0015】
上記発明は、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質(例えば、TWEAK/TNFSF12、TNFα/TNFSF2、TNFβ/TNFSF1、LIGHT/TNFSF14、のうち、少なくともいずれか一つ以上)を含む組成物である。または、間葉系幹細胞を培養することによって得られる培養上清、及び/又は細胞分泌物を含む、組成物である。これらの組成物を投与することでKlothoの発現を上昇させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】間葉系幹細胞を培養することによって得られる培養上清を点滴投与した健常者の点滴前後の血清中のKlothoタンパク質の量をELISA法により定量・比較したグラフを示す。投与後2週間で、血清中のKlothoタンパク質の量が統計学的に有意な差をもって上昇した(検定方法:対応のあるT検定)。被験者A~Jについて、POSTの欄に記載のプロットは、上から以下の順序で示してある:F、H、G、B、J、A、I、E、D、C。
図2】ヒト腎臓近位尿細管細胞株HK-2におけるKlotho遺伝子の発現を示す。AD-CMはヒト脂肪由来間葉系幹細胞を培養することによって得られる培養上清を、UC-CMはヒト臍帯由来間葉系幹細胞を培養することによって得られる培養上清を表している。培地1はsf-DOT培地、培地2はMIFI培地、培地3はRM培地(全て株式会社バイオミメティクスシンパシーズ)である。コントロールは、間葉系幹細胞を培養する際に用いる培地(sf-DOT培地、MIFI培地、RM培地)を添加したサンプルとなっている。遺伝子量(mRNA量)は定量PCR(qPCR)にて定量している。コントロールと比較して、AD-CM、又はUC-CMを添加したHK-2において、Klotho遺伝子の発現量が有意に増加した(検定方法:one-way ANOVA with bonferroni post hoc test)。
図3】ヒト腎臓近位尿細管細胞株HK-2におけるKlotho遺伝子の発現を示す。コントロールはPBS(-)を等量添加したサンプルとなっている。それぞれのリコンビナントタンパク質をグラフに記載の濃度(単位は、ng/mL)通りに添加したところ、Klotho遺伝子の発現を濃度依存的に上昇させた。
図4】ヒト腎臓近位尿細管細胞株HK-2におけるKlotho遺伝子の発現を示す。HK-2をあらかじめ10% FBS(Fetal Bovine Serum)を含む培養液にて培養したのちに、10ng/ml TWEAKを添加した。SIGMA-ALDRICH社(カタログ番号F7524-500ML)から購入したFBS(FBS#1)を用いたところ、これまで通りTWEAK添加によりKlotho遺伝子の発現が上昇したが、ThermoFisher Scientific社(カタログ番号10437-028)から購入したFBS(FBS#2)及びBIOWEST社製社(カタログ番号S1560)から購入したFBS(FBS#3)を用いたところ、TWEAK添加によりKlotho遺伝子の発現が減少した。この結果から、使用する血清の種類・ロットなどがTWEAKによるKlotho遺伝子発現へ強く影響を与えることが示唆された。
図5】ヒト腎臓近位尿細管細胞株HK-2におけるKlotho遺伝子の発現を示す。コントロールはPBS(-)を等量添加したサンプルとなっている。TWEAK及びTNFβリコンビナントタンパク質を単独あるいは共に添加したところ、共に添加することでKlotho遺伝子の発現を有意に上昇させた(検定方法:one-way ANOVA with bonferroni post hoc test)。各タンパク質のところに記載した数値は、添加後の最終濃度(ng/mL)を示す。例えば、「LIGHT 1」という記載は、LIGHTタンパク質を、最終濃度1ng/mLになるよう添加したことを意味する。なお、「LTN」は、Lymphotoxinα1つとLymphotoxinβ2つの3量体を意味する。そして、「L+LTN」は、TWEAKに加えて、LIGHTとLTNとを更に組み合わせたことを意味する。また、「L+Tβ」は、TWEAKに加えて、LIGHTとTNFβとを更に組み合わせたことを意味する。また、「L+LTN+Tβ」は、TWEAKに加えて、LIGHTとLTNとTNFβとを更に組み合わせたことを意味する。なお、「L+LTN」、「L+Tβ」、及び、「L+LTN+Tβ」においては、それぞれのタンパク質を最終濃度1ng/mLになるよう添加した。
図6】ヒト腎臓近位尿細管細胞株HK-2におけるKlotho遺伝子の発現を示す。コントロールは、間葉系幹細胞を培養する際に用いる培地を添加したもの、CM(Conditioned Medium)はヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(AD-CM)又はヒト臍帯由来間葉系幹細胞(UD-CM)を培養することによって得られる培養上清を示している。コントロールIgG存在下においては、確かにCMの添加によってKlotho遺伝子の発現が上昇するのに対し、TWEAK中和抗体存在下においては、CMの添加によって上昇するKlotho遺伝子の上昇率が抑制された。この結果からCM中のTWEAKを介してKlotho遺伝子の発現が上昇していることが強く示唆された。
図7】ヒト腎臓近位尿細管細胞株HK-2におけるKlotho遺伝子の発現を示す。コントロールは、間葉系幹細胞を培養する際に用いる培地を添加したもの、CMはヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(AD-CM)又はヒト臍帯由来間葉系幹細胞(UD-CM)を培養することによって得られる培養上清を示している。更に、活性型ビタミンD3(Calcitriol)を添加し、培養上清との組み合わせによる効果を検証した。培養上清単独でも、Klotho遺伝子の発現を促進していた。しかし、活性型ビタミンD3を組み合わせることで、更に、Klotho遺伝子の発現を促進していた。活性型ビタミンD3を組み合わせるによる増加量は、培養上清を用いず活性型ビタミンD3を添加した場合の増加量と比べると、増加の度合いが著しかった。
図8】TNFSF12のアミノ酸配列を示す。
図9】TNFSF2のアミノ酸配列を示す。
図10】TNFSF1のアミノ酸配列を示す。
図11】LIGHTのアミノ酸配列を示す。
図12】Lymphotoxinαのアミノ酸配列を示す。
図13】Lymphotoxinβのアミノ酸配列を示す。
図14】Lymphotoxinα1つとLymphotoxinβ2つからなる3量体のアミノ酸配列を示す。下線部は、リンカー配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0018】
1.定義
本明細書で使用される用語「Klotho遺伝子の発現を上昇させる」、「Klotho遺伝子の発現を増強させる」、「Klotho遺伝子の発現を亢進させる」、「Klotho遺伝子の発現を増加させる」などは、相互に置換可能に使用される。そして、これらの用語は、Klotho遺伝子に関する特定の疾患を改善するという目的を包含する。更には、当該用語は、治療目的に限定されない。例えば、当該用語は、特定の疾患を有さないとしても、その疾患を発症することを予防する目的を包含する。更には、老化といった、現在の医療では疾患に定義されないが、特に高齢者の生活の質に影響を与える症状の改善、又は予防といった目的を包含する。
【0019】
本明細書で使用される用語「核酸」は、DNA、及び、RNAのうちいずれか1以上を包含する。そして、本明細書で使用される用語「核酸」は、天然の核酸に限定されない。例えば、本明細書で使用される用語「核酸」は、修飾基が付加されたDNA、及び、修飾基が付加されたRNAのうちいずれか1以上を包含する。
【0020】
本明細書で使用される用語「アンチエイジング」は、老化の進行を遅らせることを意味する。老化は、身体面での様々な症状を包含する。例えば、老化は以下のいずれか1以上の症状を包含してもよい:皮膚のシミの発生、皮膚のシワの発生、腫瘍の発生、ポリープの発生、骨密度低下、筋力低下、視力低下、食欲低下、認知機能の低下、線維化などによる肺機能の低下、腎機能の低下、心機能の低下、肝機能の低下、膵臓機能(例えばインスリン産生能)の低下、その他複数の臓器における線維化亢進による機能低下、など。
【0021】
本明細書で使用される用語「配列類似性を有する」とは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は、99%以上の度合いで2つの配列が相互に類似することを意味する(例えば、blastpなどを利用して判定された類似性を有してもよい)。
【0022】
更に好ましい実施形態において、上述した用語「配列類似性を有する」は、以下のうちいずれか1以上の置換のみによって相違してもよい。
・グループ1:セリン、スレオニン
・グループ2:アスパラギン、グルタミン
・グループ3:アスパラギン酸、グルタミン酸
・グループ4:アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン(好ましくは、バリン、ロイシン、イソロイシン)
・グループ5:システイン、メチオニン
【0023】
いずれのグループにおいても、化学構造的には、側鎖の部分において、炭素1~3程度の相違しかない。したがって、各グループ内のアミノ酸の変更が行ったとしても、タンパク質の機能を維持できる蓋然性が高い。
【0024】
本明細書において用語「治療上有効量」とは、症状の改善を引き起こすのに十分な量を示す。一実施形態において、症状の改善とは、2つの群に分けて比較した時に、統計学上有意な差を伴って、症状の違いがもたらせることを意味する。
【0025】
本明細書において用語「予防上有効量」とは、症状の悪化を防止するのに十分な量を示す。一実施形態において、症状の悪化の防止とは、2つの群に分けて比較した時に、統計学上有意な差を伴って、症状の違いがもたらせることを意味する。
【0026】
本明細書において用語「間葉系幹細胞」(MSC)とは、成体内に存在する幹細胞(ステムセル)の一つであり、そして、中胚葉由来の組織である骨、軟骨、血管、心筋細胞等に分化できる能力をもつ細胞である。間葉系幹細胞は、以下の組織のいずれか1以上に由来するものであってもよい:脂肪組織、骨髄、臍帯、臍帯血、羊膜、胎盤、歯髄(永久歯由来)、歯髄(乳歯由来)等。
【0027】
本明細書において用語「培養上清」とは、液体培地を用いて、上述した間葉系幹細胞を培養することによって直接的に又は間接的に得られる物質を指す。直接的に得られる物質の例は、培養を終了直後、培養容器に残っている液体を含む。間接的に得られる物質の例は、当該液体を更に処理することによって得られる物質を指す。
【0028】
更に処理することの例は、以下のうちいずれか1以上を含んでもよい:
ろ過処理を行うこ
結乾燥して粉末状に変化させること
粉末変化にした後で、特定の形状に加工すること(例えば、タブレット、ピルなど)
半固体(ゲル状)に変化させること
任意の成分を更に追加すること
【0029】
したがって、本明細書において用語「培養上清」の形状は、液体だけでなく、固体、及び、半固体も含む。
【0030】
液体培地は、培養上清を得るために使用される、及び/又は、間葉系幹細胞を培養するために使用される。液体培地は、特に限定されず、当分野で公知の培地(例えば、DMEM、F12、RPMI等)を使用することができる。液体培地の例は、以下のうちいずれか1以上を含んでもよい:インビトロジェン社製の間葉系幹細胞基礎培地、三光純薬株式会社製の間葉系幹細胞基礎培地、TOYOBO社製のMF培地、株式会社バイオミメティクスシンパシーズのsf-DOT(登録商標)、Nipro社/株式会社細胞科学研究所の培地(例えば、製品番号A2G00P05C+A2G20P1CC)、コージンバイオ株式会社の培地(例えば、製品番号 KBM ADSC-4)等。
【0031】
液体培地及び培養上清は、血清を含んでもよく、及び/又は、血清を含まなくてもよい。好ましい実施形態において、液体培地及び培養上清は、血清を含まない。これにより、血清内の成分による影響を回避することができる。
【0032】
2.組成物
一実施形態において、本開示の組成物は、ヒトKlotho/KL遺伝子の発現を亢進するための組成物に関する。前記組成物は、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質(及び/又は、当該タンパク質と配列類似性を有するタンパク質)の少なくとも一部、又は、当該タンパク質の少なくとも一部をコードする核酸を含む。より具体的には、前記組成物は、ヒトTNFスーパーファミリーに属するタンパク質(及び/又は、当該タンパク質と配列類似性を有するタンパク質)の少なくとも一部、又は、当該タンパク質の少なくとも一部をコードする核酸を含んでもよい。
【0033】
タンパク質の少なくとも一部は、当該タンパク質の機能が発揮されるのに十分な長さの領域を有することを意味する。例えば、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質の少なくとも一部は、リガンドとして、受容体に結合するのに十分な機能を有することを意味する。更に好ましい例において、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質の少なくとも一部は、ヒトKlotho/KL遺伝子の発現を亢進する機能を有してもよい。
【0034】
タンパク質の少なくとも一部をコードする核酸は、DNAの形態であってもよく、RNAの形態で組成物に含まれてもよい。タンパク質の少なくとも一部をコードする核酸は、ベクター(例えば、発現ベクター)などの形式で含まれてもよい。タンパク質の少なくとも一部をコードする核酸は、脂質ナノ粒子(LNP、 lipid nanoparticle)に包含される形態で提供されてもよい。
【0035】
2-1.TNFスーパーファミリー
一実施形態において、本開示の組成物は、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質の少なくとも一部、又は、当該タンパク質の少なくとも一部をコードする核酸を含む。TNFスーパーファミリーに属するタンパク質は、特に限定されないが、例えば、以下のうちいずれか1以上を包含する:
・TNFSF12(Tumor Necrosis Factor ligand superfamily member 12)/TWEAK(TNF-related weak inducer of apoptosis)
・TNFSF2(Tumor Necrosis Factor ligand superfamily member 2)/ TNF( Tumor Necrosis Factor )/TNFα
・TNFSF1(Tumor Necrosis Factor ligand superfamily member 1)/TNFβ( Tumor Necrosis Factorβ)/Lymphotoxinα
・TNF14(Tumor Necrosis Factor ligand superfamily member 14)/LIGHT
・LymphotoxinαとLymphotoxinβのヘテロ3量体タンパク質
【0036】
好ましい実施形態において、本開示の組成物は、TNFSF12(Tumor Necrosis Factor ligand superfamily member 12)/TWEAK(TNF-related weak inducer of apoptosis)から生成されるタンパク質の少なくとも1部、又は、当該タンパク質の少なくとも一部をコードする核酸を含む。
【0037】
2-1-1.TNFスーパーファミリーTNFSF12
TNFSF12(Tumor Necrosis Factor ligand superfamily member 12)/TWEAK(TNF-related weak inducer of apoptosis)は(以下、「TNFSF12」又は「TWEAK」と称する)、FN14/TWEAKR受容体のリガンドとして知られている。
【0038】
好ましい実施形態において、本開示の組成物は、(1)当該タンパク質のアミノ酸配列97番~249番(配列番号1)を含むタンパク質含み、当該配列は、細胞外領域の少なくとも1部に対応する。更に好ましくは、当該タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1に示す配列からなる。
【0039】
別の好ましい実施形態において、本開示の組成物は、(2)当該タンパク質のアミノ酸配列97番~249番(配列番号1、図8参照)と、配列類似性を有するタンパク質を含む。
【0040】
別の好ましい実施形態において、本開示の組成物は、(3)上記(1)及び(2)のいずれか1つのタンパク質をコードする配列を含む核酸を含む。
【0041】
TNFスーパーファミリーに属ずるタンパク質のなかでも、とりわけ、TNFSF12は、ヒトKlotho/KL遺伝子の発現を亢進する効果が高い。
【0042】
また、組成物は、TNFSF12(又はTNFSF12と配列類似性を有するタンパク質)と、他のタンパク質(例えば、TNFスーパーファミリーに属する他のタンパク質)との組み合わせを、含んでもよい。核酸についても同様である。
【0043】
2-1-2.TNFスーパーファミリーTNFSF2
TNFSF2(Tumor Necrosis Factor ligand superfamily member 2)/ TNF(Tumor Necrosis Factor)/TNFα(以下「TNFSF2」又は「TNFα」又は「TNFalpha」と称する)は、TNFR1とTNFR2のリガンドとしてしられており、一般的には、膜貫通状態のmTNFαの形式、可溶状態のsTNFαの形式が知られている。
【0044】
好ましい実施形態において、本開示の組成物は、(4)当該タンパク質のアミノ酸配列77~233(配列番号2)を含むタンパク質を含み、当該配列は、細胞外領域の少なくとも1部に対応する。更に好ましくは、当該タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号2に示す配列からなる。
【0045】
別の好ましい実施形態において、本開示の組成物は、(5)当該タンパク質のアミノ酸配列77~233(配列番号2、図9参照)と、配列類似性を有するタンパク質を含む。
【0046】
別の好ましい実施形態において、本開示の組成物は、(6)上記(4)及び(5)のいずれか1つのタンパク質をコードする配列を含む核酸を含む。
【0047】
2-1-3.TNFスーパーファミリーTNFSF1
TNFSF1(Tumor Necrosis Factor ligand superfamily member 1)/TNFβ(Tumor Necrosis Factorβ)/Lymphotoxinα(以下「TNFSF1」又は「TNFβ」又は「TNFbeta」と称する)は、TNF-αと類似した生物活性を有し、TNFR1とTNFR2のリガンドとして知られている。
【0048】
好ましい実施形態において、本開示の組成物は、(7)当該タンパク質のアミノ酸配列35番~205番(配列番号3、図10参照)を含むタンパク質を含む。更に好ましくは、当該タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号3に示す配列からなる。
【0049】
別の好ましい実施形態において、本開示の組成物は、(8)当該タンパク質のアミノ酸配列35番~205番(配列番号3)と、配列類似性を有するタンパク質を含む。
【0050】
別の好ましい実施形態において、本開示の組成物は、(9)上記(7)及び(8)のいずれか1つのタンパク質をコードする配列を含む核酸を含む。
【0051】
2-1-4.TNFスーパーファミリーTNF14
TNF14(Tumor Necrosis Factor ligand superfamily member 14)/LIGHT(以下、「TNF14」又は「LIGHT」と称する)はヘルペスウイルス侵入メディエーターおよびデコイ受容体3によって認識さる。
【0052】
好ましい実施形態において、本開示の組成物は、(10)当該タンパク質のアミノ酸配列64番~240番(配列番号4、図11参照)を含むタンパク質を含む。更に好ましくは、当該タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号4に示す配列からなる。
【0053】
別の好ましい実施形態において、本開示の組成物は、(11)当該タンパク質のアミノ酸配列64番~240番(配列番号4)と、配列類似性を有するタンパク質を含む。
【0054】
別の好ましい実施形態において、本開示の組成物は、(12)上記(10)及び(11)のいずれか1つのタンパク質をコードする配列を含む核酸を含む。
【0055】
2-1-5.LymphotoxinαとLymphotoxinβのヘテロ3量体タンパク質
好ましい実施形態において、本開示の組成物は、LymphotoxinαとLymphotoxinβのヘテロ3量体タンパク質を含む。更に好ましい実施形態において、前記ヘテロ3量体タンパク質は、Lymphotoxinα1つとLymphotoxinβ2つからなる。Lymphotoxinα及びLymphotoxinβのアミノ酸配列は、例えば、配列番号5(図12参照)及び配列番号6(図13参照)によって表される配列を含む配列であってもよい。より好ましくは、ヘテロ3量体タンパク質は、リンカー配列「GGGGS」を介して、Lymphotoxinα及びLymphotoxinβを含む3量体のタンパク質であってもよい(図14参照、配列番号7)。
【0056】
2-1-6.組み合わせ
好ましい実施形態において、本開示の組成物は、複数のTNFスーパーファミリーのタンパク質との組み合わせを含んでもよい。とりわけ、TWEAKと、特定のTNFスーパーファミリーのタンパク質との組み合わせは、ヒトKlotho/KL遺伝子の発現を亢進の観点から特に好ましい。例えば、以下のいずれかの組み合わせが好ましい。
・TWEAK+TNFβ
・TWEAK+TNFβ+LIGHT
・TWEAK+TNFβ+LIGHT+Lymphotoxinα1つとLymphotoxinβ2つの3量体
【0057】
2-2.その他
別の実施形態において、組成物は、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質等に加えて、更に、ビタミンD3を更に含んでもよい。例えば、ビタミンD3は、培養上清と混合してもよい(換言すれば、培養上清を得るための液体培地に、ビタミンD3を配合しないで、培養を終えた後で、培養上清を回収し、当該培養上清に更にビタミンD3を添加してもよい)。ビタミンD3とTNFスーパーファミリーに属するタンパク質を組み合わせることにより、Klothoの発現を増強することができる。
【0058】
ビタミンD3は、活性型でもよく、非活性型でもよい。非活性型のビタミンD3は、典型的には、代謝により活性型に変化することができる。いくつかの投与形態では、代謝プロセスを経ずに所望の組織(例えば、腎臓等)に到達する可能性がある。この場合には、活性型のビタミンD3を使用することが好ましい。
【0059】
同様に、組成物におけるビタミンD3の量は特に限定されない。例えば、組成物におけるビタミンD3の量は、4.16ng/g(10ピコモル/g)以上であってもよい(即ち、組成物全体の重量を1gとしたときに、4.16ng以上(10ピコモル以上)のビタミンD3が組成物に含まれる)。好ましくは、組成物におけるビタミンD3の量は、41.6ng/g以上(100ピコモル/g以上)であってもよく、更に好ましくは、416ng/g以上(1ナノモル/g以上)であってもよい。
【0060】
組成物は、エアロゾルであってもよく、液体であってもよく、固体であってもよく、半固体であってもよい。
【0061】
液体の場合には、シロップ剤、乳剤、懸濁液等の形態であってもよい。また、液体の場合には、バイアル瓶、点滴用のバッグ、充填済みのシリンジなどに保存してもよい。固体の場合には、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、坐剤等の形態であってもよい。
【0062】
好ましい実施形態において、固体の場合、有効成分が、カプセル、又は、コーティング等に覆われていなくてもよい。
【0063】
組成物は、他の成分を含んでもよい。他の成分の例は、以下のうちいずれか1以上を含んでもよい:
pH調整剤(例えば、リン酸バッファ、トリスバッファ等)
無機塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等)
糖類(例えば、ラクトース、スクロース等)
賦形剤(例えば、水、精製水、アルコール、グリセリン、乳糖、デンプン、デキストリン、白糖、沈降シリカ等)
【0064】
3.培養上清の有無
3-1.培養上清を含む場合
一実施形態において、本開示の組成物は、間葉系幹細胞の培養上清、及び/又は、前記間葉系幹細胞の分泌物を含む。間葉系幹細胞は、上述したTNFスーパーファミリーに属するタンパク質を分泌する性質がある。そして、間葉系幹細胞の分泌物は、例えば、限外濾過による分画によって、10kDa~30kDaの範囲の画分から得られたものであってもよい。TNFスーパーファミリーに属する多くのタンパク質のサイズは、これらの範囲内である。
【0065】
上述したように、培養上清自体は、血清を含まなくてもよい。例えば、培養上清は、間葉系幹細胞を無血清培養することによって得られてもよい。この場合、培養上清を含む組成物自体も、血清を含まなくてもよい。
【0066】
3-2.培養上清を含まない場合
別の一実施形態において、本開示の組成物は、間葉系幹細胞の培養上清を含まない。好ましくは、本開示の組成物は、間葉系幹細胞の培養上清を含まず、尚且つ、前記間葉系幹細胞の分泌物を含まない。この場合、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質を、間葉系幹細胞の培養上清以外から得る必要がある。例えば、間葉系幹細胞の培養上清以外のソース(例えば、遺伝子工学的に大量に発現させた後、タンパク質を精製してもよい)から単離したTNFスーパーファミリーに属するタンパク質を組成物に添加してもよい。
【0067】
4.製造方法
4-1.製造方法その1
一実施形態において、本開示は、ヒトKlotho/KL遺伝子の発現を亢進するための組成物を製造するための方法に関する。前記方法は以下の工程を含む:
間葉系幹細胞を培地で培養して培養上清を得る工程
前記培養上清を配合して、投与に適した組成物を得る工程
【0068】
培養条件は、特に限定されず、当分野で公知の条件であればよい。例えば、温度は、35℃~40℃、典型的には37℃であってもよい。適宜、CO2が5%になるようインキュベータを制御してもよい。培養期間は、特に限定されないが、少なくとも24h、好ましくは48h以上培養することが好ましい。上限は特に限定されないが、168h以下である。
【0069】
培地の種類も特に限定されず、上述した培地を適宜使用することができる。
【0070】
間葉系幹細胞を培養することにより、当該細胞から、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質が分泌される。
【0071】
培養終了後は、培養容器中の上澄み液を吸引して回収してもよい。或いは、培養容器中の中身を別の容器に移して遠心分離し、上澄み液を吸引して回収してもよい。そして、この上澄み液を培養上清とみなしてもよい。
【0072】
次に、培養上清を配合して、投与に適した組成物を得る。このために必要な処置は特に限定されず、最終的な組成物の形態に応じて適宜実施すればよい。
【0073】
例えば、上述した用語「培養上清」の説明のところで述べた処理を実施してもよい。
【0074】
また、上記で述べた処理以外に、例えば、特定の形状に成形する処理を実施してもよい。
【0075】
好ましい実施形態において、前記方法は、ビタミンD3を更に配合して、投与に適した組成物を得る工程を含んでもよい。
【0076】
例えば、培養上清が液体の場合には、粉末形態又は液体形態のビタミンD3を、培養上清の液体と混合してもよい。例えば、培養上清が固体の場合には、液体に溶解し、その後、粉末形態又は液体形態のビタミンD3を、培養上清の液体と混合してもよい。あるいは、培養上清が固体の場合には、粉末形態に加工し、粉末形態のビタミンD3と、培養上清の粉末と混合してもよい。
【0077】
同様の手順で、他の成分を配合してもよい。或いは、間葉系幹細胞から分泌されるTNFスーパーファミリーに属するタンパク質に加えて、上述したTNFスーパーファミリーに属する1又は複数種類のタンパク質を外部から培養上清に添加してもよい。
【0078】
別の一実施形態において、本開示は、ヒトKlotho/KL遺伝子の発現を亢進するための組成物を製造するための、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質の使用に関する。製造方法については、上述した製造方法であってもよい。
【0079】
また、培養上清は、ビタミンD3と組み合わせて使用してもよい。
【0080】
4-2.製造方法その2
別の一実施形態において、本開示は、ヒトKlotho/KL遺伝子の発現を亢進するための組成物を製造するための方法に関する。当該方法は、「製造方法その1」と述べた方法と同様の方法であるが、「培養上清を得る工程」に代えて、TNFスーパーファミリーに属する1又は複数種類のタンパク質を準備する工程を含む。
【0081】
当該工程は、例えば、市販のTNFスーパーファミリーに属するタンパク質を購入することにより準備することを含んでもよい。或いは、遺伝子工学的にTNFスーパーファミリーに属するタンパク質を発現させ(例えば、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質をコードする発現ベクターを用いることにより発現させ)、そして、当該タンパク質を精製する工程を含んでもよい。
【0082】
また、当該方法は、「製造方法その1」と述べた方法と同様、ビタミンD3を更に配合して、投与に適した組成物を得る工程を含んでもよい。
【0083】
5.組成物等の使用方法
一実施形態において、本開示は、ヒトKlotho/KL遺伝子の発現を亢進するための組成物の使用に関する。更に好ましい実施形態において、当該使用は、ビタミンD3との組み合わせの使用である。
【0084】
組み合わせの使用の例は、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質を含む組成物(例えば、間葉系幹細胞の培養上清を含む組成物)を、ビタミンD3のうち少なくとも1つと別々に投与することを含む。投与するタイミングは、同時であってもよく、異なる時間であってもよい。ただし、時間差が大きすぎると、組成物と、ビタミンとの組み合わせ効果が減少する。したがって、好ましくは、時間差は、1時間以内、30分以内、又は、15分以内であってもよい。
【0085】
別の一実施形態において、ヒトKlotho/KL遺伝子の発現を亢進するための方法である。前記方法は、Klotho/KL遺伝子の発現の亢進を必要とする対象(Subject)に、有効量の組成物を、投与する工程を含む。ここで、組成物は、間葉系幹細胞の培養上清を含んでもよく、及び/又は、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質を含んでもよい。また、「有効量」とは、投与した対象の血中のKlothoの量について、投与前と、投与後とで、それぞれ測定し、統計上有意な差が生じるような量を意味する。例えば、間葉系幹細胞の培養上清を含む組成物を点滴で投与する場合には、0.1mL/kg~10mL/kgであってもよく、好ましくは、2mL/kg~10mL/kgであってもよく、好ましくは、0.5mL/kg~5mL/kgであってもよい。
【0086】
好ましい実施形態において、投与する工程は、ビタミンD3を投与することを含む。この場合において、上述した間葉系幹細胞の培養上清と、ビタミンD3は、同一の組成物に含まれてもよい。あるいは、両者は、別々の組成物に含まれてもよい。
【0087】
投与する対象は、特に限定されず、ヒトであってもよく、動物(例えば、ヒト以外の哺乳類)であってもよい。典型的には、投与する対象はヒトである。投与する対象は、健康であってもよく、病気を患ってもよい。
【0088】
ビタミンD3の投与量は1日あたり100μg以下である必要がある。
【0089】
また、上述した投与量は、1日のトータルの投与量を意味する。したがって、1日の投与回数は1回であってもよく、複数回に分割してもよい。例えば、1日の投与回数は、2回、3回、4回、又は、それ以上であってもよい。
【0090】
投与期間は特に限定されない。投与期間は、1日、3日、7日、30日、90日、120日、180日、200日、365日から選択される2つによって規定される範囲であってもよい(例えば、1日~90日、90日~180日等)。
【0091】
投与形態は特に限定されず、全身投与であってもよく、局所投与であってもよい。投与経路は特に限定されず、例えば、以下のうちいずれか1以上の経路での投与が可能である:経口投与、吸入投与、肛門投与、皮下注射、静脈注射、筋肉注射、点滴、皮膚への塗布、皮膚への噴霧等。好ましい実施形態において、投与経路は、非経口投与が好ましい。理由は、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質が有効成分であり、当該タンパク質は、経口投与だと、胃の消化液によって分解される可能性があるからである。
【0092】
6.組成物等の他の使用方法
更なる実施形態において、本開示の組成物は、さらなる目的で使用することが可能である。例えば、本開示の組成物は、以下の症状を治療する目的で使用することができる。
(1)神経変性疾患及び/又は認知症
(2)がん増大
(3)高リン血症
(4)慢性腎疾患
(5)腎線維症
(6)骨粗鬆症
(7)動脈石灰化
(8)高血圧
(9)心肥大及び/又は線維化
(10)虚血性心筋梗塞
(11)肺線維症
(12)慢性閉塞性肺疾患
(13)Β細胞減少
(14)インスリン減少
(15)糖尿病病変部増加
【0093】
したがって、一実施形態においては、本開示は、上述した(1)~(15)のいずれか1以上の症状を治療するための方法に関する。そして、当該方法は、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質を含む組成物を治療上有効量投与する工程を含む。そして、投与する対象は、上述した(1)~(15)のいずれか1以上の症状を有しており、当該症状を治療することを必要としている対象であってもよい。
【0094】
上述した(1)~(15)の症状は、いずれもKlothoの発現の増減と関係があることが知られている。したがって、一実施形態における本開示の組成物を投与することで、Klothoの発現を増加させ、これにより、上述した(1)~(15)の症状を改善することができる可能性がある。
【0095】
別の実施形態においては、本開示は、アンチエイジングのための方法に関する。そして、当該方法は、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質を含む組成物を老化の予防上有効量投与する工程を含む。老化モデルマウスなどの実験により、Klothoの発現の増減と、老化の表現型との関係があることが知られている。したがって、一実施形態における本開示の組成物を投与することで、Klothoの発現を増加させ、これにより、老化を予防することができる可能性がある。
【0096】
別の実施形態においては、本開示は、組成物を製造するための、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質の少なくとも一部、又は、当該タンパク質の少なくとも一部をコードする核酸の使用に関する。そして、当該組成物は、(1)~(15)のいずれか1以上の症状を治療するために使用され、又は、アンチエイジングのために使用される。
【0097】
別の実施形態においては、本開示は、(1)~(15)のいずれか1以上の症状を治療するために使用される、又は、アンチエイジングのために使用される、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質の少なくとも一部、又は、当該タンパク質の少なくとも一部をコードする核酸の使用に関する。
【実施例
【0098】
1.培養上清などの準備
最初に間葉系幹細胞を調製した。具体的には、脂肪組織由来の間葉系幹細胞(AD-CM)と、臍帯組織由来の間葉系幹細胞(UC-CM)を使用した。
【0099】
1-1.脂肪組織由来の間葉系幹細胞の調製
脂肪組織由来間葉系幹細胞を用いた再生医療を受ける予定の患者より、皮下脂肪組織を分取した。当該皮下脂肪組織は、投与用細胞の調製に必要な原料となる。当該皮下脂肪組織を分取した後の剰余を、初代培養に供した。なお、予め、患者から研究利用に関する同意を取得しておいた。
【0100】
皮下脂肪組織を遠心分離(400×gで5分間)に供し、3層に分離した。具体的には、上層から順に脂質画分、脂肪組織画分、及び水性画分の3層に分離した。中層の脂肪組織画分を残して、上層と下層を破棄した。残した脂肪組織画分に対して、組織重量当たり4倍量の0.15%コラゲナーゼ酵素溶液を添加した。37℃で1時間浸透させ、酵素処理を行った。脂肪組織が酵素処理によって分散された後、当該脂肪組織を、遠心分離(400×gで5分間)に供した。間葉系幹細胞を含む間質血管細胞画分として、沈殿画分を30mLのPBS(-)溶液で懸濁した。その後、セルストレーナー(メッシュサイズ70μm径)に懸濁液を通液し、セルストレーナーに捕捉された組織残渣等は破棄した。そして、通液画分を再度遠心分離(400×gで5分間)に供し、沈殿画分を6mLの無血清培養液sf-DOT(株式会社バイオミメティクスシンパシーズ)で懸濁した。細胞懸濁液全量を、T25フラスコ(CellBIND;Corning,3289)に播種し、インキュベータ内(37℃,5%CO2)に静置して初代培養を開始した。
【0101】
3日に1回の頻度で培地全交換を実施した。上澄みは破棄して、フラスコ底面上で増殖する細胞を選択的に増殖させた。セミコンフルエントまで増殖したT-25フラスコ内の細胞に対して、2mLの酵素溶液(TrypLE Express;Thermo Fisher Scientific,12604021)を添加し、細胞をフラスコの底面から剥離した(37℃、5分間静置)。細胞をPBS(-)で希釈し、遠心分離(400×gで5分間)に供した。沈殿した細胞を培養液sf-DOTで懸濁し、一部を分取してトリパンブルー染色法による細胞数計測を行った。新たなT75フラスコ(CellBIND;Corning,3290)にsf-DOTで懸濁した細胞を播種し、インキュベータ内(37℃,5%CO2)に静置して継代培養を行った(P0→P1)。その後も同様の手順で継代培養を行い、必要な細胞数を得た(P1→P2)。
【0102】
1-2.臍帯組織由来の間葉系幹細胞の調製
まず、予め、出産予定者から臍帯の研究利用に関する同意を取得しておいた。出産後、臍帯をPBS(-)で洗浄し、メスで3mm程度に裁断した。組織重量当たり4倍量の0.15%コラゲナーゼ酵素溶液を添加した。37℃で2時間浸透させ、酵素処理を行った。臍帯組織が酵素処理によって分散された後、当該組織を、遠心分離(400×gで5分間)に供した。間葉系幹細胞を含む間質血管細胞画分として、沈殿画分を30mLのPBS(-)溶液で懸濁した。その後、セルストレーナー(メッシュサイズ70μm径)に懸濁液を通液し、セルストレーナーに捕捉された組織残渣等は破棄した。そして、通液画分を再度遠心分離(400×gで5分間)に供し、沈殿画分を12mLの無血清培養液sf-DOT(株式会社バイオミメティクスシンパシーズ)で懸濁した。細胞懸濁液全量を、T75フラスコ(CellBIND;Corning,3290)に播種し、インキュベータ内(37℃,5%CO2)に静置して初代培養を開始した。
【0103】
3日に1回の頻度で培地全交換を実施した。上澄みは破棄して、フラスコ底面上で増殖する細胞を選択的に増殖させた。セミコンフルエントまで増殖したT-25フラスコ内の細胞に対して、2mLの酵素溶液(TrypLE Express;Thermo Fisher Scientific,12604021)を添加し、細胞をフラスコの底面から剥離した(37℃、5分間静置)。細胞をPBS(-)で希釈し、遠心分離(400×gで5分間)に供した。沈殿した細胞を培養液sf-DOTで懸濁し、一部を分取してトリパンブルー染色法による細胞数計測を行った。新たなT75フラスコ(CellBIND;Corning,3290)にsf-DOTで懸濁した細胞を播種し、インキュベータ内(37℃,5%CO2)に静置して継代培養を行った(P0→P1)。その後も同様の手順で継代培養を行い、必要な細胞数を得た(P1→P2)。
【0104】
1-3.培養上清の調製
まず脂肪組織あるいは臍帯組織由来間葉系幹細胞を上述の通りsf-DOTで培養した。同培地で脂肪組織あるいは臍帯組織由来間葉系幹細胞をT75フラスコ1枚当たり6000cells/cm2で播種した。4日目に培養上清(sf-DOT由来培養上清)を回収後、PBS(-)で細胞を一回洗浄し、その後RM培地を12mL/T75フラスコ1枚となるよう添加し、2日間インキュベータ内(37℃,5%CO2)でさらに培養した。その後、培養上清を回収した(RM培地由来培養上清)。P1の脂肪組織あるいは臍帯組織由来間葉系幹細胞を同様にMIFI培地で培養し、MIFI培地由来の培養上清も得た。
【0105】
回収した培養上清は0.2μmのPESシリンジフィルター(25mm GD/Xシリンジフィルター(PES 0.2μm滅菌済);6896-2502;GEヘルスケア・ジャパン)でろ過した。ろ過後の培養上清は、解析に使用するまで-20℃以下で冷凍保管した。
【0106】
1-4.発現解析手法
ReliaPrep RNA Miniprep system(Promega,Z6012)を用いて細胞からTotal RNAを抽出した。
【0107】
RNA抽出後、500ngのRNAを用いてcDNA合成(PrimeScript RT Master Mix;Takara,RR036A)を行い、更に、定量的PCR(Thunderbird Sybr qPCR Mix;TOYOBO,QPS-201X5)を行った。
【0108】
cDNA合成のためのミクスチャは以下の組成に従って調製した。
5xPrimeScript RT Master Mix 2μl(最終濃度 1x)
Total RNA 500ng
RNase free H2O 合計10μlに調整
【0109】
上記ミクスチャを、Applied Biosystems社のVeriti 96 well Thermal Cyclerを用いて、以下の条件で処理した。
37℃ 15分

85℃ 5秒

4℃ ∞
【0110】
合成したcDNA(10μl)は90μlのTE(10mM Tris-HCl pH8.0+1mM EDTA pH8.0)を用いて10倍に希釈した。当該希釈物を、定量PCRに供した。
【0111】
より具体的には、当該希釈物を、以下の条件で混合した。
2×THUNDERBIRD Probe qPCR Mix 10μl
5mM Forward Primer 0.4μl
5mM Reverse Primer 0.4μl
2O 8.2μl
cDNA(10倍希釈) 1μl
【0112】
PCRサイクルの条件は以下の通りであった。
1.95℃ 1分 (初期変性)
2.95℃ 15秒 (変性)
3.60℃ 30秒 (伸長)
(2~3のステップを40回繰り返し、ステップ3が終わるたびに蛍光シグナルを検出)
4.65℃~95℃まで0.5℃刻みで温度を上昇させ、5秒ずつ温度を保持してから蛍光シグナルを検出。
【0113】
上記サイクルにて、PCR産物の検出を行い、併せて、Melting curveによるPCR産物の単一性の確認を行った。
【0114】
内部標準(すべての細胞・条件において同じ発現をしているハウスキーピング遺伝子)として、GAPDH(lycerldehyde 3-hosphate ydrogenase)を用いた。
GAPDH Forward primer: 5’ - AGCCACATCGCTCAGACAC - 3’(配列番号8)
GAPDH Reverse primer: 5’ - GCCTAATACGACCAAATCC - 3’(配列番号9)
【0115】
目的の各遺伝子を検出するための各種プライマーを使用した。
Klotho Forward primer: 5’ - AGCTCTCAAAGCCCACATAC - 3’(配列番号10)
Klotho Reverse primer: 5’ - CTGATCTGCAGCATAACGATAGA - 3’(配列番号11)
【0116】
全てのプライマーは株式会社ファスマックから購入した(逆相カラム精製グレード)。各遺伝子の発現量は、定量PCRで得られた各遺伝子の発現量を、さらにGAPDHの発現量で割って標準化したものを示している。さらに、上清を処理していないコントロール条件での発現量を「1」になるように標準化している。以上のプライマーを用いて増幅したPCR産物は全て単一のものであること(つまり、同一のプライマーで、複数種類の配列が増幅されていないこと)をMelting curveによって確認した。
【0117】
2.実施例1(培養上清投与による血清Klothoの変化)
成人10名に対して、予め採血を行い、血清中のKlothoタンパク質の量をELISA法により定量した(R&D Systems社製、カタログ番号DY5334-05)。次に、臍帯組織由来の間葉系幹細胞のRM培地由来の培養上清を上述した手順により調整した。そして、培養上清を点滴投与した(投与量は、1mL/kg)。投与してから2週間後再度採決を行い、血清中のKlothoタンパク質の量をELISA法により定量した。結果を図1に示す。培養上清投与前のKlothoの血清中の濃度は、平均で、320.0pg/mLであった。一方で、培養上清投与後のKlothoの血清中の濃度は、平均で、427.7pg/mLであった。そして、両方の値について、Paired T testを実施して、有意な差があることを確認した。
【0118】
したがって、間葉系幹細胞の培養上清を投与することによって、血清中のKlothoの量が上昇することが示された。
【0119】
3.実施例2(培養上清投与によるKlotho発現の変化)
次に、腎臓由来の細胞株HK-2を使用して、培養上清投与によるKlotho発現の変化を検証した。なお、Klothoは、他臓器と比較して、腎臓組織で最も多く発現していることが知られている。
【0120】
細胞株HK-2を準備した。HK-2を、24 well plate(Corning,3337)の各ウェルに25,000cells/cm2で播種し、当該細胞はKeratinocyte-SFM(ThermoFisher社製、カタログ番号17005042)の無血清培地で24時間培養した(37℃、5%CO2)。
【0121】
その後、培地を、上述した培養上清に交換した。具体的には、培地を、脂肪組織由来の間葉系幹細胞の培養上清 AD-CM、又は、臍帯組織由来の間葉系幹細胞の培養上清 UC-CMに交換した。Controlとして、間葉系幹細胞を培養するための培地に交換した。こうすることで脂肪組織、あるいは臍帯組織由来の間葉系幹細胞から分泌された因子のみに着目が可能となる。培地交換後、24時間培養を継続した。その後、HK-2を回収し、上述した方法で、RT-PCRを実施し、Klothoの発現量を調べた。結果を図2に示す。培養上清で処理をしていないControlと比べると、脂肪組織由来の間葉系幹細胞の培養上清、及び、臍帯組織由来の間葉系幹細胞の培養上清のいずれにおいても、KlothoのmRNA発現量を増大することが示された。また、この効果は培地の種類によって変わることはなく(培地1:sf-DOT培地、培地2:MIFI培地、培地3:RM培地(全て株式会社バイオミメティクスシンパシーズ))、また脂肪組織及び臍帯組織由来のどちらの間葉系幹細胞の分泌物にも存在する効果なことから、間葉系幹細胞に普遍的な機能である可能性が示唆された。
【0122】
4.実施例3(TNFスーパーファミリー投与によるKlotho発現の変化)
つぎに、発明者が更に培養上清に含まれる成分について検討を行った結果、TNFスーパーファミリーのタンパク質が、KlothoのmRNA発現量の増大に寄与するという仮説を得た。そこで、培養上清で処理を行う代わりに、各種TNFスーパーファミリーのタンパク質で処理を行ってみた。
【0123】
細胞株HK-2を準備した。HK-2を、24 well plate(Corning,3337)の各ウェルに25,000cells/cm2で播種し、当該細胞はKeratinocyte-SFM(ThermoFisher社製、カタログ番号17005042)の無血清培地で24時間培養した(37℃、5%CO2)。
【0124】
その後、培地に、TNFスーパーファミリーのタンパク質の濃度を変えながら配合した。
【0125】
以下のTNFスーパーファミリーのリコンビナントタンパク質を使用した。
・TWEAK(Peprotech社製、カタログ番号AF-310-06)
・TNFα(Peprotech社製、カタログ番号AF-300-01A)
・TNFβ(Peprotech社製、カタログ番号300-01B)
・LIGHT(Peprotech社製、カタログ番号310-09B)
・Lymphotoxinα1つとLymphotoxinβ2つの3量体(R&D Systems社製、カタログ番号8884-LY-025/CF)
【0126】
Controlとして、TNFスーパーファミリーのタンパク質を配合してないPBS(-)を等容量となるよう添加した。その後、24時間培養を継続した。その後、HK-2を回収し、上述した方法で、RT-PCRを実施し、Klothoの発現量を調べた。結果を図3に示す。PBS(-)を添加しただけのControlと比べると、TNFスーパーファミリーのタンパク質により、KlothoのmRNA発現量を増大することが示された。
【0127】
5.実施例4(血清によるKlotho発現の変化)
つぎに、TNFスーパーファミリーのタンパク質が、KlothoのmRNA発現量の増大に寄与する際に、血清の存在の影響を検討した。なぜならば、一般的にFBSなどの血清は、製品・ロットなどによって細胞へ異なる影響を与えることが知られている(https://cell.brc.riken.jp/ja/manual/fbs_test)からである。
【0128】
細胞株HK-2を準備した。HK-2を、24 well plate(Corning,3337)の各ウェルに25,000cells/cm2で播種し、当該細胞はKeratinocyte-SFM(ThermoFisher社製、カタログ番号17005042)での無血清培地で培養していたものを、24 well plateへ播種する際にDMEM(SIGMA,D8900)+10%FBS(3社別々の物を使用;FBS#1:SIGMA-ALDRICH社製・カタログ番号F7524-500ML、FBS#2:ThermoFisher Scientific社製・カタログ番号10437-028、FBS#3:BIOWEST社製・カタログ番号S1560)の血清培地で24時間培養した(37℃、5%CO2)。その後、最終濃度10ng/mlになるようにTWEAK及びTNFαを添加し、さらに24時間培養を継続した。その後、HK-2を回収し、上述した方法で、RT-PCRを実施し、Klothoの発現量を調べた。結果を図4に示す。血清の種類により、Klotho遺伝子発現が変化した。この結果から、使用する血清の種類などがTWEAK、TNFα等によるKlotho遺伝子発現へ強く影響を与えることが示唆された。
【0129】
6.実施例5(TNFスーパーファミリーの組み合わせ投与によるKlotho発現の変化)
つぎに、TNFスーパーファミリーの組み合わせ投与によるKlotho発現の変化について検討した。
【0130】
細胞株HK-2を準備した。HK-2を、24 well plate(Corning,3337)の各ウェルに25,000cells/cm2で播種し、当該細胞はKeratinocyte-SFM(ThermoFisher社製、カタログ番号17005042)の無血清培地で24時間培養した(37℃、5%CO2)。
【0131】
その後、TNFスーパーファミリーのタンパク質の濃度を変えながら配合した。
【0132】
以下のTNFスーパーファミリーのリコンビナントタンパク質を単独で、又は、組み合わせて使用した。
・TWEAK(Peprotech社製、カタログ番号AF-310-06)
・TNFα(Peprotech社製、カタログ番号AF-300-01A)
・TNFβ(Peprotech社製、カタログ番号300-01B)
・LIGHT(Peprotech社製、カタログ番号310-09B)
・Lymphotoxinα1つとLymphotoxinβ2つの3量体(R&D Systems社製、カタログ番号8884-LY-025/CF)
【0133】
Controlとして、TNFスーパーファミリーのタンパク質を配合してないPBS(-)を等容量になるよう添加した。添加後、24時間培養を継続した。その後、HK-2を回収し、上述した方法で、RT-PCRを実施し、Klothoの発現量を調べた。結果を図5に示す。TWEAKと、TNFβとを組み合わせることにより、更にKlothoの発現量が増加することが示された。
【0134】
7.実施例6(培養上清投与によるKlotho発現の変化と、TNFスーパーファミリーの抗体の影響)
上記の実施例2の結果から、培養上清により、Klotho発現量が増加することが示された。また、実施例3~5の結果から、TNFスーパーファミリーのタンパク質により、Klotho発現量が増加することが示された。そこで、培養上清のどの成分が、Klothoの発現量増加に寄与しているかついて検討した。具体的には、培養上清中に、TNFスーパーファミリーのタンパク質が含まれており、当該タンパク質により、少なくとも部分的に、Klotho発現量増加に寄与しているという仮説を検証した。
【0135】
細胞株HK-2を準備した。HK-2を、24 well plate(Corning,3337)の各ウェルに25,000cells/cm2で播種し、当該細胞はKeratinocyte-SFM(ThermoFisher社製、カタログ番号17005042)の無血清培地で24時間培養した(37℃、5%CO2)。
【0136】
その後、培地を、上述した培養上清に交換した。具体的には、培地を、脂肪組織由来の間葉系幹細胞の培養上清 AD-CM(パターン2)、又は、臍帯組織由来の間葉系幹細胞の培養上清 UC-CM(パターン3)に交換した。Control(パターン1)として、間葉系幹細胞を培養するための培地に交換した。こうすることで脂肪組織、あるいは臍帯組織由来の間葉系幹細胞から分泌された因子のみに着目が可能となる。さらに、パターン1~3について、それぞれ、更に2つのサブパターンに分けた。具体的には、一方には、ControlとしてのIgG抗体(BioLegend社製、カタログ番号401302)を添加し(サブパターン1)、もう一方には、抗Tweak抗体(BioLegend社製、カタログ番号308302)を添加した(サブパターン2)。抗体は、最終濃度が20μg/mLになるように添加した。
【0137】
24時間培養を継続した。その後、HK-2を回収し、上述した方法で、RT-PCRを実施し、Klothoの発現量を調べた。結果を図6に示す。培養上清で処理し、尚且つ、ControlとしてのIgG抗体を添加した場合には、上述の実施例2と同様、Klothoの発現量が増加することが示された。しかし、培養上清で処理し、尚且つ、抗Tweak抗体を添加した場合には、Klothoの発現量の増加の度合いが、サブパターン1と比べると、抑制されていることが示された。このことは、培養上清中のTweakが、少なくとも部分的に、Klothoの発現量増加に寄与していることを示す。
【0138】
8.実施例7(ビタミンD3との組み合わせによる増強効果)
次に、活性型ビタミンD3との組み合わせによる増強効果について検討した。
【0139】
細胞株HK-2を準備した。HK-2を、24 well plate(Corning,3336)の各ウェルに25,000cells/cm2で播種し、当該細胞はKeratinocyte-SFM(ThermoFisher社製、カタログ番号17005042)の無血清培地で24時間培養した(37℃、5%CO2)。
【0140】
その後、培地を、上述した培養上清に交換した。具体的には、培地を、脂肪組織由来の間葉系幹細胞の培養上清 AD-CM、又は、臍帯組織由来の間葉系幹細胞の培養上清 UC-CMに交換した。Controlとして、間葉系幹細胞を培養するための培地に交換した。こうすることで脂肪組織、あるいは臍帯組織由来の間葉系幹細胞から分泌された因子のみに着目が可能となる。更に同時に、所定量の活性型ビタミンD3を、最終濃度が0μM、0.1μM、1.0μMになるように、添加した。その後24時間培養を継続した後に、HK-2を回収し、上述した方法で、RT-PCRを実施し、Klothoの発現量を調べた。結果を図7に示す。培養上清で処理した場合には、上述の実施例2と同様、Klothoの発現量が増加することが示された。しかし、培養上清で処理し、尚且つ、ビタミンD3(Calcitriol)を添加した場合には、Klothoの発現量の増加の度合いが更に著しい結果となった。このことは、ビタミンD3との組み合わせが、Klothoの発現量増加に寄与していることを示す。
【0141】
以上、発明の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に適用することができる。また、特記しない限り、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。
【0142】
例えば、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質に関して説明した実施形態は、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質とアミノ酸の配列に関して配列類似性を有するタンパク質に置換することによって改変してもよい。或いは、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質に関して説明した実施形態は、所望の核酸に置換することによって改変してもよい。そして、所望の核酸は、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質をコードする核酸であってもよく、或いは、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質とアミノ酸の配列に関して配列類似性を有するタンパク質をコードする核酸であってもよい。
【0143】
また、ある特定の目的のための組成物の使用は、ある特定の目的のためのTNFスーパーファミリーに属するタンパク質の使用に置換することによって改変してもよい。
【0144】
本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。
【要約】
【課題】本開示は、Klotho遺伝子の発現を上昇させるための新たな組成物及びその使用を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示は、一側面において、以下の発明を提供する。
ヒトKlotho/KL遺伝子の発現を亢進するための組成物であって、前記組成物は、TNFスーパーファミリーに属するタンパク質の少なくとも一部、又は、当該タンパク質の少なくとも一部をコードする核酸を含む、組成物。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
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