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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-28
(45)【発行日】2025-04-07
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 9/02 20060101AFI20250331BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20250331BHJP
   B60W 20/17 20160101ALI20250331BHJP
【FI】
F02D9/02 305A
B60W10/06 900
B60W20/17
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021132432
(22)【出願日】2021-08-16
(65)【公開番号】P2023026959
(43)【公開日】2023-03-01
【審査請求日】2024-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】林 賢治
(72)【発明者】
【氏名】平位 卓也
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-047115(JP,A)
【文献】特開2007-224848(JP,A)
【文献】特開2015-085808(JP,A)
【文献】特開2022-157003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/06
B60W 20/17
F02D 9/02
F02D 29/06
F02D 41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された内燃機関を制御するものであって、
内燃機関のファイアリングとともにスロットルバルブの開度を拡大する操作を行う際、そのときの車速及び内燃機関に対する要求出力に応じて単位時間あたりのスロットルバルブの開度の拡大量を増減調整することとし、
車速が所定以下かつ要求出力が所定以下である場合、そうでない場合と比較して単位時間あたりのスロットルバルブの開度の拡大量をより小さくする内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源として車両に搭載される内燃機関の制御、特に内燃機関の始動時の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、内燃機関及び電動機の二種の動力源を備えるハイブリッド車両が一定の普及を見ている。シリーズ方式のハイブリッド車両(例えば、下記特許文献を参照)は、内燃機関により発電用モータジェネレータを駆動して発電を行い、発電した電力を蓄電装置、即ちリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等のバッテリ及び/またはキャパシタに蓄えるとともに、走行用モータジェネレータに供給する。そして、走行用モータジェネレータによって車両の駆動輪を回転させて走行する。
【0003】
発電用モータジェネレータのみならず、走行用モータジェネレータもまた、回生制動により発電を行い、発電した電力を蓄電装置に蓄えることができる。蓄電装置の容量一杯まで既に電荷が蓄えられている場合には、回生制動により得られる電力を敢えて発電用モータジェネレータに供給し、これを電動機として作動させて内燃機関を回転駆動するモータリングを行うことで、余剰の電力を消費する。
【0004】
ハイブリッド車両では、気筒において燃料を燃焼させて内燃機関を運転するファイアリングを行なわずとも、走行用モータジェネレータが蓄電装置に蓄えた電荷を消費して回転駆動力を出力し、車両を走行させることが可能である。よって、車両の運用中であっても、内燃機関の回転を停止している状態が継続することがある。
【0005】
蓄電装置に蓄えている電荷の量が減少したときや、走行用モータジェネレータに対する要求出力が大きいときには、内燃機関を始動しその気筒に燃料を供給してこれを燃焼させ、内燃機関の出力する回転駆動力により発電用モータジェネレータを駆動し、発電を実行して蓄電装置を充電、または走行用モータジェネレータに供給する電力を増強する。
【0006】
シリーズ方式のハイブリッド車両にあって、発電用モータジェネレータは、停止した内燃機関を始動する準備として内燃機関をモータリング(クランキング)する役割を兼ねる。そのときには、蓄電装置から必要な電力の供給を受ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-156134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
車両が停車しまたは停車に近い低車速の状況から、運転者がアクセルペダルを踏んで車両を発進させようとするときには、その加速に必要な駆動力を出力するべく、それまで停止していた内燃機関を始動することになる。
【0009】
一般に、停止した内燃機関を始動するには、当初スロットルバルブの開度を縮小した状態で内燃機関をモータリングし、エンジン回転数がある程度以上上昇してから、ファイアリングを開始してスロットルバルブの開度を拡大させ、気筒への吸入空気量及び燃料噴射量を増加させてエンジン回転の加速を促進する。
【0010】
このような始動の過程で、運転者を含む車両の搭乗者の耳に届き得る異音が生じることがある。その原因は、ファイアリングの開始の前後で、気筒に連なる吸気通路内の吸気圧が急激に変動することにある。
【0011】
内燃機関の停止中及び始動のためのモータリング中は、スロットルバルブの開度が全閉または全閉に近いオープナ開度をとる。従って、モータリング中は、スロットルバルブの下流の吸気圧が低下(吸気負圧としては増大)してゆく。しかる後、ファイアリング開始とともにスロットルバルブを拡開する操作を行うことで、スロットルバルブの下流の吸気圧が急峻に増大(吸気負圧としては急減)する。これにより、こもり音の如き吸気騒音が発生する。
【0012】
ハイブリッド車両にあっては、現在の車速如何によらず内燃機関を停止させ、また停止していた内燃機関を再始動する。既に車両がある程度以上の車速で走行している最中に内燃機関を始動する場合には、内燃機関から発生する異音が走行騒音や電動機の電磁騒音等によってマスキングされる。ところが、停車または低車速状態から内燃機関を始動する場合には、内燃機関から発生する異音がマスキングされず、その異音が車両の搭乗者に違和感や不快感を与える可能性が生じる。
【0013】
車両のNV(Noise and Vibration)性能を担保するべく、スロットルバルブの開度を拡大する際に常にゆっくりと開くようにすることも考えられる。しかしながら、車速がある程度以上高いときには、そのような配慮は無用である。逆に、運転者がアクセルペダルを強く踏み込んで車両を加速させようとしているときや、蓄電装置に蓄えている電荷が欠乏しておりこれを遅滞なく充電しなければならないとき等に、スロットルバルブをゆっくり開くと、内燃機関の出力が速やかに要求量まで増大せず、車両の動力性能に悪影響を及ぼす懸念がある。
【0014】
本発明は、車両の動力性能を必要十分に確保しつつ、内燃機関のスロットルバルブの開度を拡大させる操作に起因するNV性能の悪化を抑制することを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では、車両に搭載された内燃機関を制御するものであって、内燃機関のファイアリングとともにスロットルバルブの開度を拡大する操作を行う際、そのときの車速及び内燃機関に対する要求出力に応じて単位時間あたりのスロットルバルブの開度の拡大量を増減調整することとし、車速が所定以下かつ要求出力が所定以下である場合、そうでない場合と比較して単位時間あたりのスロットルバルブの開度の拡大量をより小さくする内燃機関の制御装置を構成した。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、車両の動力性能を必要十分に確保しつつ、内燃機関のスロットルバルブの開度を拡大させる操作に起因するNV性能の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態におけるシリーズ方式のハイブリッド車両及び制御装置の概略構成を示す図。
図2】同実施形態の内燃機関の始動制御の模様を説明するタイミング図。
図3】同実施形態の内燃機関の始動制御の適用範囲を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態におけるハイブリッド車両の主要システムの概略構成を示している。このハイブリッド車両は、内燃機関1と、内燃機関1により駆動されて発電を行う発電用モータジェネレータ2と、発電用モータジェネレータ2が発電した電力を蓄える蓄電装置3と、発電用モータジェネレータ2及び/または蓄電装置3から電力の供給を受けて車両の駆動輪62を駆動する走行用モータジェネレータ4とを備えている。
【0019】
本実施形態のハイブリッド車両は、内燃機関1を発電にのみ使用するシリーズハイブリッド方式の電気自動車であり、車両の駆動輪62には専ら走行用モータジェネレータ4から走行のための駆動力を供給する。内燃機関1と駆動輪62との間は機械的に切り離されており、元来両者の間で回転駆動力の伝達がなされない。内燃機関1は、走行用モータジェネレータ4及び駆動輪62から完全に独立して回転し、また完全に独立して停止することが可能である。従って、イグニッションスイッチ(パワースイッチ、またはイグニッションキー)がONに操作されている車両の運用中、運転者がアクセルペダルを踏むことで車両が走行可能であっても、蓄電装置3が十分な電荷を蓄え、かつブレーキブースタ15が十分な負圧を蓄えている状況下では、燃料の燃焼を伴う内燃機関1の運転を実施しないことがある。
【0020】
内燃機関1の回転軸であるクランクシャフトは、発電用モータジェネレータ2の回転軸と、歯車機構を介してまたは軸を直結して機械的に接続している。そして、内燃機関1が出力する回転駆動力を発電用モータジェネレータ2に入力することで、発電用モータジェネレータ2が発電する。発電した電力は、蓄電装置3に充電し、及び/または、走行用モータジェネレータ4に供給する。また、発電用モータジェネレータ2は、自らが回転駆動力を発生させて内燃機関1のクランクシャフトを回転駆動するモータリング用の電動機としても機能する。例えば、発電用モータジェネレータ2は、停止している内燃機関1を始動する準備としてのモータリング(クランキング)を実行する。
【0021】
走行用モータジェネレータ4は、車両の走行のための駆動力を発生させ、その駆動力を減速機61を介して駆動輪62に入力する。また、走行用モータジェネレータ4は、駆動輪62に連れ回されて回転することで発電し、車両の運動エネルギを電気エネルギとして回収する。この回生制動により発電した電力は、蓄電装置3に充電する。
【0022】
尤も、既に蓄電装置3の容量一杯まで電荷が蓄えられており、それ以上の充電が困難であるならば、走行用モータジェネレータ4が回生発電した電力を敢えて発電用モータジェネレータ2に供給し、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させて内燃機関1を回転駆動する。これにより、車両の制動性能を維持しながら、余剰の電力を消尽する。また、このとき、内燃機関1の回転が保たれることから、内燃機関1の気筒への燃料供給を一時的に停止する燃料カットを実行することができる。
【0023】
発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2が発電する交流電力を直流電力に変換する。そして、その直流電力を蓄電装置3または駆動機インバータ41に入力する。並びに、発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させる際に、蓄電装置3及び/または駆動機インバータ41から供給される直流電力を交流電力に変換した上で発電用モータジェネレータ2に入力する。
【0024】
駆動機インバータ41は、蓄電装置3及び/または発電機インバータ21から供給される直流電力を交流電力に変換した上で走行用モータジェネレータ4に入力する。並びに、駆動機インバータ41は、車両の回生制動を行うときに走行用モータジェネレータ4が発電する交流電力を直流電力に変換した上で蓄電装置3または発電機インバータ21に入力する。発電機インバータ21及び駆動機インバータ41は、PCU(Power Control Unit)02の一部をなす。
【0025】
蓄電装置3は、バッテリ及び/またはキャパシタ等である。バッテリは、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等の、エネルギ密度の大きい高電圧の二次電池である。蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々が発電する電力を充電して蓄える。並びに、蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々を電動機として作動させるための電力を放電し、それらモータジェネレータ2、4に必要な電力を供給する。
【0026】
内燃機関1、発電用モータジェネレータ2、蓄電装置3、インバータ21、41及び走行用モータジェネレータ4の制御を司る制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。ECU0は、内燃機関1を制御するEFI(Electronic Fuel Injection)ECU01、モータジェネレータ2、4及びインバータ21、41を制御するMG(Motor Generator)ECU02、蓄電装置3を制御するBMS(Battery Management System)ECU03等、並びに、それらの制御を統括する上位のコントローラであるHV(Hybrid Vehicle)ECU00といった複数基のECUが、CAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものである。
【0027】
ECU0に対しては、車両の実車速を検出する車速センサまたは車輪の回転速度を検出する車輪速センサから出力される信号a、内燃機関1のクランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号b、運転者によるアクセルペダルの踏込量をアクセル開度(いわば、運転者が車両(の走行用モータジェネレータ4)に対して要求している駆動力)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、内燃機関1の気筒11に連なる吸気通路13(特に、サージタンク133または吸気マニホルド134)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号d、内燃機関1の冷却水の温度を検出する水温センサから出力される冷却水温信号e、大気圧を検出する大気圧センサから出力される大気圧信号f、蓄電装置3に蓄えている電荷量を検出するセンサ(特に、バッテリ電流及び/またはバッテリ電圧センサ)から出力されるバッテリSOC(State Of Charge)信号g、ブレーキブースタ15の定圧室に蓄えている負圧を検出する負圧センサから出力される負圧信号h等が入力される。
【0028】
そして、ECU0は、各種センサを介してセンシングしている、運転者が操作するアクセルペダルの踏込量や、現在の車両の車速、蓄電装置3が蓄えている電荷の量、発電用モータジェネレータ2の発電電力等に応じて、走行用モータジェネレータ4が出力する回転駆動力、内燃機関1が出力する回転駆動力、及び発電用モータジェネレータ2が発電する電力の大きさを増減制御する。
【0029】
ファイアリング運転中の内燃機関1に対して要求される出力も、基本的には、走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が大きいほど大きくなる。但し、現在蓄電装置3が蓄えている電荷量にもよる。蓄電装置3の電荷量が欠乏したときには、可及的速やかにこれを充電する必要があり、たとえ走行用モータジェネレータ4に対する要求出力が小さくとも、発電のために内燃機関1に対する要求出力が大きくなることがある。
【0030】
内燃機関1の気筒11に燃料を供給して内燃機関1を運転しておらず、走行用モータジェネレータ4により駆動輪62を駆動して車両を走行させている最中に、内燃機関1を始動して発電用モータジェネレータ2による発電を実行しようとするためには、まず、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させ、これにより内燃機関1の始動のためのモータリングを行う。そして、内燃機関1のクランクシャフトが所定回数以上または所定角度以上回転し、内燃機関1の各気筒11の現在の行程またはピストンの位置を知得する気筒判別が完了したならば、内燃機関1の各気筒11の行程に合わせて適切なタイミングで燃料を噴射し、かつ適切なタイミングで燃料を着火燃焼させるファイアリングを開始する。内燃機関1のクランクシャフトの回転角度及び回転速度即ちエンジン回転数は、発電用モータジェネレータ2に付帯するレゾルバを介して(MG ECU02において)検出することができ、内燃機関1に付帯するクランク角センサを介して(EFI ECU01において)検出することもできる。
【0031】
内燃機関1が自立的に回転し発電のために必要な回転駆動力を出力可能となり、発電用モータジェネレータ2の出力を低減させてもなおエンジン回転数が上昇傾向を維持できるようになったならば、電動機として作動させている発電用モータジェネレータ2の出力を0まで低減させてモータリングを終了し、今度は内燃機関1により発電用モータジェネレータ2を回転駆動する。さらに、発電用モータジェネレータ2を発電機として作動させ、その発電電力を0から増大させる。
【0032】
しかる後、エンジン回転数を段階的に引き上げられる目標回転数に追従させるように、内燃機関1の気筒1に供給する吸気量及び燃料噴射量、並びに発電用モータジェネレータ2の発電電力を増減調整する。最終的な目標回転数は、内燃機関1を最適または最適に近い効率で運転でき燃料消費率にとって最も有利な回転数、あるいは、内燃機関1が最大トルク若しくは最大出力またはこれに近いトルク若しくは出力を達成できるような回転数に設定する。
【0033】
ECU0の一部をなすEFI ECU01は、内燃機関1の運転制御に必要な各種情報b、d、e、fを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒11に吸入される空気量を推算する。そして、吸入空気量に見合った(目標空燃比を具現するために必要な)要求燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング(一度の燃焼に対する点火の回数を含む)、要求EGR率(または、EGRガス量)等といった内燃機関1の運転パラメータを決定する。EFI ECU01は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、lを、出力インタフェースを介して点火プラグ112のイグナイタ、インジェクタ111、スロットルバルブ132、EGRバルブ123等に対して出力する。
【0034】
車両が停車しまたは停車に近い低車速の状況から、運転者がアクセルペダルを踏み込み車両を発進させようとするときには、走行用モータジェネレータ4に対する要求出力が比較的低い(低出力)領域から比較的高い(中高出力)領域に遷移することから、それまで停止していた内燃機関1を始動する。または、蓄電装置3に蓄えている電荷量(SOC)が所定値以下に減少したり、ブレーキブースタ15の定圧室に蓄えている負圧が所定値以下に減少したりしたときにも、内燃機関1を始動することになる。
【0035】
内燃機関1を始動するには、当初、スロットルバルブ132を必要最低限の吸入空気量を確保できる最小開度、例えばいわゆるオープナ開度に縮小した状態で、内燃機関1を発電用モータジェネレータ2によりモータリングする。周知の通り、電子スロットルバルブ132は、吸気通路13を開閉するバタフライバルブの弁体を電動機即ちスロットルモータにより回動させることで、気筒11に流れ込む吸気の流量を増減調整する。オープナ開度は、スロットルモータに通電せず(電力を供給せず)スロットルモータから弁体に力を付与していないときの開度であり、全閉ではなく僅かながら開いている。スロットルバルブ132の弁体には、オープナスプリングが付設されており、そのスプリングが弁体を弾性付勢してオープナ開度を具現する角度(姿勢)に位置付ける。
【0036】
モータリングを通じてエンジン回転数がある程度以上加速したら、インジェクタ111による燃料噴射及び点火プラグ112による火花点火を開始する。次いで、スロットルバルブ132の開度を最小開度から拡開する操作を実行し、気筒11への吸入空気量及び燃料噴射量を増加させて、エンジントルクの増大及びエンジン回転の加速を促進する。
【0037】
上述した内燃機関1の始動の過程で、内燃機関1の吸気通路13から異音が生じることがある。内燃機関1の始動のためのモータリング中は、スロットルバルブ132が最小開度をとるので、吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流の吸気圧が低下(吸気負圧としては増大)してゆく。その後、ファイアリングの開始とともにスロットルバルブ132を拡開する操作を行うことで、吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流の吸気圧が急峻に増大(吸気負圧としては急減)する。このような吸気圧の急変動に起因して、こもり音の如き吸気騒音が発生する。
【0038】
とりわけ、シリーズハイブリッド車両の内燃機関1の始動時のモータリングの目標回転数は、非ハイブリッド車両(内燃機関により駆動輪を回転させて走行する従来型の車両)内燃機関の始動時のモータリングの目標回転数よりも高い。これが、吸気騒音を大きくさせる要因の一つである。
【0039】
既に車両がある程度以上高い車速で走行している状況下で内燃機関1を始動する場合には、仮に内燃機関1から異音が発生したとしても、その異音が走行騒音や走行用モータジェネレータ4の発する電磁騒音等によりマスキングされ、運転者を含む車両の搭乗者に違和感や不快感を与える懸念は小さい。だが、車両が停車しまたは極低車速で徐行している状況下で始動する場合には、内燃機関1から発生する異音がマスキングされずに搭乗者の耳に届き、搭乗者に違和感や不快感を与える可能性がある。
【0040】
上記の点に鑑み、本実施形態のECU0は、内燃機関1の始動の過程で、内燃機関1のファイアリングの開始とともにスロットルバルブ132の開度を拡大する操作を行う際、そのときの車速及び内燃機関1に対する要求出力に応じて、単位時間あたりのスロットルバルブ132の開度の拡大量を増減調整することとしている。
【0041】
図2に、ECU0による内燃機関1の始動制御の模様を示している。図2中、t0は内燃機関1の始動のためのモータリングを開始する時点であり、t1はファイアリングを開始する時点である。
【0042】
時点t1以前は、スロットルバルブ132を最小開度に閉じており、時点t1以降、スロットルバルブ132を最小開度から大きく開いてゆくことになる。ECU0は、そのときの車速及び内燃機関1に対する要求出力に応じて、単位時間あたりのスロットルバルブ132の開度の拡大量を最大とする(スロットルバルブ132を速やかに開く)Aか、それよりも小さくする(よりゆっくりと開く)Bか、さらに小さくする(さらにゆっくりと開く)Cかを選択する。
【0043】
パターンB及びCはそれぞれ、パターンAと比較して、t1以降のスロットルバルブ132の開度の推移が“なまされる”。t1以降の時点tにおけるスロットルバルブ132の開度T(t)を
T(t)={1-e-t/τ}×TT
と仮定すると、パターンCにおける時定数τは、パターンBにおける時定数τよりも大きく、例えばその約二倍に設定する。なお、TTは、ファイアリングの開始後においてスロットルバルブ132をこの大きさまで開くという、その目標開度である。
【0044】
図3に、パターンA、B、Cの各々の適用範囲を示している。車速が所定以下かつ内燃機関1に対する要求出力が所定以下である範囲では、パターンBまたはCを選択する。中でも、車速が低く、要求出力が小さい範囲でパターンCを選択し、それよりは車速が高い、または要求出力が大きい範囲でパターンBを選択する。これら以外の範囲では、パターンAを選択する。
【0045】
パターンAを選択するのは、車速がある程度以上高い(例えば、40km/h以上)走行状況下で内燃機関1を始動する場合、または内燃機関1に対する要求出力が大きい場合である。既に述べた通り、時点t1からスロットルバルブ132の開度が急拡大すると、その下流の吸気圧が急変動して吸気騒音が発生し得る。だが、中速ないし高速走行中は、内燃機関1から生じる異音はマスキングされて搭乗者に知覚されない。また、運転者がアクセルペダルを強く踏み込んで車両を加速させようとしているときや、蓄電装置3の蓄電量が欠乏しこれを遅滞なく充電しなければならないとき等には、異音の発生を容認してでも可及的速やかにエンジントルクを増大させて発電を開始する必要がある。従って、スロットルバルブ132を開く速さを最大とする。
【0046】
パターンBまたはCを選択するのは、車速が低い状況下で内燃機関1を始動する、しかも内燃機関1に対する要求出力が大きくない場合である。ここでは、内燃機関1から生じる異音が搭乗者に知覚される問題が顕在化するので、スロットルバルブ132を緩やかに拡開して、スロットルバルブ132の下流の吸気圧の急変動を抑止し、大きな吸気騒音が発生しないようにする。
【0047】
因みに、パターンA、B、Cの何れをとるとしても、ファイアリングの開始時点t1直後のエンジン回転数の上昇の推移、加速度は大きく変わらない。ECU0は、エンジン回転数が適正な推移に沿って加速するよう、モータリング中に内燃機関1を駆動する発電用モータジェネレータ2の出力トルクを制御し、かつファイアリング開始後に内燃機関1により駆動される発電用モータジェネレータ2の負荷トルクまたは発電電力を制御する。
【0048】
なお、ブレーキブースタ15に対して負圧を供給しなければならない等、開いていたスロットルバルブ132の開度を縮小する操作を行うときには、単位時間あたりの開度の縮小量を最大とする、即ちスロットルバルブ132を速やかに閉じることが許される。その単位時間あたりの開度の縮小量の絶対値は、上掲のパターンBまたはCにおける単位時間あたりの開度の拡大量の絶対値よりも大きい。
【0049】
本実施形態では、車両に搭載された内燃機関1を制御するものであって、内燃機関1のファイアリングとともにスロットルバルブ132の開度を拡大する操作を行う際、そのときの車速及び内燃機関1に対する要求出力に応じて単位時間あたりのスロットルバルブ132の開度の拡大量を増減調整することとし、車速が所定以下かつ要求出力が所定以下である場合、そうでない場合と比較して単位時間あたりのスロットルバルブ132の開度の拡大量をより小さくする内燃機関1の制御装置0を構成した。
【0050】
車速が比較的低い状況下で内燃機関1を始動する場合には、スロットルバルブ132を緩やかに開き、気筒11に連なる吸気通路13内の吸気圧が急変動しないようにして、搭乗者の耳に届くような吸気騒音の発生を抑止する。
【0051】
一方で、車速が比較的高い状況下で内燃機関1を始動する場合や、内燃機関1(若しくは発電用モータジェネレータ2、または走行用モータジェネレータ4)に対する要求出力が大きい場合には、スロットルバルブ132を速やかに開き、必要となるエンジントルクを早急に発生させる。
【0052】
本実施形態によれば、車両の動力性能を必要十分に確保しながら、スロットルバルブ132の開操作に起因するNV性能の悪化を抑制することができる。
【0053】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、本発明の適用対象は、シリーズ方式のハイブリッド車両には限定されない。
【0054】
その他、各部の具体的な構成や処理の内容等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0055】
0…制御装置(ECU)
1…内燃機関
11…気筒
13…吸気通路
132…スロットルバルブ
2…発電機(発電用モータジェネレータ)
3…蓄電装置
4…走行用電動機(走行用モータジェネレータ)
62…駆動輪
図1
図2
図3