(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-28
(45)【発行日】2025-04-07
(54)【発明の名称】扁平形非水電解質電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20250331BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20250331BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20250331BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20250331BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20250331BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250331BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250331BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250331BHJP
H01M 50/183 20210101ALI20250331BHJP
H01M 50/167 20210101ALI20250331BHJP
H01M 6/16 20060101ALI20250331BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M4/13
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/40
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M50/183
H01M50/167
H01M6/16 C
(21)【出願番号】P 2020187039
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078064
【氏名又は名称】三輪 鐵雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115901
【氏名又は名称】三輪 英樹
(72)【発明者】
【氏名】古川 一揮
(72)【発明者】
【氏名】大塚 拓海
(72)【発明者】
【氏名】森下 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】冨田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】増田 俊平
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-056067(JP,A)
【文献】国際公開第2020/066323(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/141231(WO,A1)
【文献】特開平11-144761(JP,A)
【文献】実公平07-033376(JP,Y2)
【文献】特公平06-007493(JP,B2)
【文献】特開2003-208897(JP,A)
【文献】特開昭61-165963(JP,A)
【文献】特開昭64-030157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-10/0585
H01M 4/13-4/62
H01M 6/16
H01M 50/183
H01M 50/167
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極缶と負極缶とを有する外装体内に、正極と負極とを有する積層電極体が収容されてなる扁平形非水電解質電池であって、
前記正極は、正極活物質を含有する正極合剤の成形体を有し、
前記正極の前記正極缶側に
、弾性変形し得る、カーボンを主成分とする導電層が配置され、
前記カーボンを主成分とする導電層が、カーボンシートで構成されており、
前記正極缶と前記カーボンを主成分とする導電層との間に弾性部を有する金属部材が配置されていることを特徴とする扁平形非水電解質電池。
【請求項2】
正極缶と負極缶とを有する外装体内に、正極と負極とを有する積層電極体が収容されてなる扁平形非水電解質電池であって、
前記正極は、正極活物質を含有する正極合剤の成形体を有し、
前記正極の前記正極缶側にカーボンを主成分とする導電層が配置され、
前記カーボンを主成分とする導電層が、繊維状カーボンで構成された多孔性カーボンシートで形成されており、
前記正極缶と前記カーボンを主成分とする導電層との間に弾性部を有する金属部材が配置されていることを特徴とする扁平形非水電解質電池。
【請求項3】
前記外装体は、前記正極缶と前記負極缶とが、ガスケットを介してカシメ封口されて形成されている請求項1または2に記載の扁平形非水電解質電池。
【請求項4】
前記負極は、負極活物質を含有する負極合剤の成形体、リチウムのシートまたはリチウム合金のシートを有している請求項1~3のいずれかに記載の扁平形非水電解質電池。
【請求項5】
前記正極合剤の成形体が固体電解質を含有し、前記負極がリチウムのシートまたはリチウム合金のシートであり、前記正極と前記負極との間に固体電解質を含有する固体電解質層が配置されている請求項4に記載の扁平形非水電解質電池。
【請求項6】
前記正極合剤の成形体が含有する固体電解質、および前記固体電解質層が含有する固体電解質が、硫化物系固体電解質である請求項5に記載の扁平形非水電解質電池。
【請求項7】
前記正極合剤の成形体が固体電解質を含有し、前記負極が負極活物質および固体電解質を含有する負極合剤の成形体であり、前記正極と前記負極との間に固体電解質を含有する固体電解質層が配置されている請求項4に記載の扁平形非水電解質電池。
【請求項8】
前記正極合剤の成形体が含有する固体電解質、前記負極合剤の成形体が含有する固体電解質、および前記固体電解質層が含有する固体電解質が、硫化物系固体電解質である請求項7に記載の扁平形非水電解質電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極合剤の成形体を有する正極の割れを抑制しつつ、内部抵抗を低減し得る扁平形非水電解質電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
正極と負極とを有する積層電極体を、正極缶と負極缶とを有する外装体内に収容してなり、正極活物質などを含む正極合剤の成形体(ペレット、正極合剤層など)を有する正極を使用した扁平形非水電解質電池は、現在、一次電池や二次電池の形態で数多く利用されている。
【0003】
一般に、扁平形非水電解質電池の外装体を構成する正極缶や負極缶は、その内面が正極や負極と接触することで集電体としての役割を担っている。
【0004】
ところで、前記のような扁平形非水電解質電池においては、一次電池の場合には放電に伴って負極が収縮していき、二次電池の場合には充放電によって負極が膨張収縮する。このように、電池の放電によって負極が収縮すると、負極缶の内面との接触による電気的接続が不十分となり、電池が本来有している容量を十分に引き出し得なくなることがある。
【0005】
なお、前記のような電池の放電に伴う負極の収縮による集電の問題の解決を目的としたものではないが、特許文献1には、負極缶と負極との間に、導電性を有するカーボンシートなどを配置する技術が提案されている。放電に伴う負極の収縮の程度によっては、カーボンシートの作用によって、負極と負極缶の内面との電気的接続をある程度保ち得る可能性があるものの、放電に伴う負極の収縮が大きい電池においては、負極と負極缶の内面との電気的接続が不十分となることがあり得るため、改善の余地がある。
【0006】
他方、上記特許文献1にあるように、例えば正極と正極缶との間にばねを縮めた状態で配置し、負極の収縮が生じた場合に前記ばねの復元力によって正極側から負極を負極缶の内面に押し付けることで、負極が収縮しても負極缶の内面との接触を良好にすることも行われている。しかしながら、放電に伴う負極の収縮が大きい電池に使用した場合に、その収縮による負極と負極缶との接触を十分に維持できるようにするために、例えば復元力が大きいばねを使用すると、正極合剤の成形体に割れが生じてしまって電池容量が低下するといった問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-212130号公報(請求項1、[0024]、[0033]、
図1など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、正極合剤の成形体を有する正極の割れを抑制しつつ、内部抵抗を低減し得る扁平形非水電解質電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の扁平形非水電解質電池は、正極缶と負極缶とを有する外装体内に、正極と負極とを有する積層電極体が収容されてなり、前記正極は、正極活物質を含有する正極合剤の成形体を有し、前記正極の前記正極缶側にカーボンを主成分とする導電層が配置され、前記正極缶と前記カーボンを主成分とする導電層との間に弾性部を有する金属部材が配置されていることを特徴とするものである。
【0010】
電池業界においては、高さより径の方が大きい扁平形電池をコイン形電池と呼んだり、ボタン形電池と呼んだりしているが、そのコイン形電池とボタン形電池との間に明確な差はなく、本発明の扁平形非水電解質電池には、コイン形電池、ボタン形電池のいずれもが含まれる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、正極合剤の成形体を有する正極の割れを抑制しつつ、内部抵抗を低減し得る扁平形非水電解質電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の扁平形非水電解質電池の一例を模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に、本発明の扁平形非水電解質電池の一例を模式的に表す断面図を示す。
図1に示す扁平形非水電解質電池1は、正極缶(外装缶)40と、負極缶(封口缶)50と、これらの間に介在するガスケット60で形成された外装体内に、正極10および負極20を有する積層電極体が封入されている。正極10と負極20との間には、通常、セパレータ30が介在するが、扁平形非水電解質電池1が固体電解質電池の場合には、セパレータに代えて固体電解質層30を正極10と負極20との間に介在させる。
【0014】
負極缶50は、正極缶40の開口部にガスケット60を介して嵌合しており、正極缶40の開口端部が内方に締め付けられ、これによりガスケット60が負極缶50に当接することで、正極缶40の開口部が封口されて電池内部が密閉構造となっている。扁平形非水電解質電池1においては、正極缶40は正極端子を兼ね、負極缶50は負極端子を兼ねている。なお、
図1に示す扁平形非水電解質電池1においては、外装缶が正極缶40で、封口缶が負極缶50であるが、本発明の扁平形非水電解質電池においては、封口缶を正極缶とし、外装缶を負極缶とすることもできる。
【0015】
図1に示す扁平形非水電解質電池1において、正極10は正極活物質などを含む正極合剤の成形体を有している。そして、正極10の正極缶40側にはカーボンを主成分とする導電層70が配置されており、さらに正極缶40とカーボンを主成分とする導電層70との間には、弾性部を有する金属部材80が配置されている。
【0016】
このように、本発明の扁平形非水電解質電池は、正極缶と負極缶とを有する外装体内に、正極活物質を含有する正極合剤の成形体を有する正極と、負極とを備えた積層電極体が収容されている。そして、正極の正極缶側にカーボンを主成分とする導電層が配置され、正極缶とカーボンを主成分とする導電層との間に弾性部を有する金属部材が配置されている。
【0017】
本発明の扁平形非水電解質電池においては、放電によって負極が収縮しても、正極側に配置した弾性部を有する金属部材の作用によって、正極側から負極が負極缶の内面に押し付けられるため、負極と負極缶の内面との電気的接続が良好に保たれ、内部抵抗を低く維持することができる。また、正極と弾性部を有する金属部材との間には、カーボンを主成分とする導電層が配置されており、弾性部を有する金属部材の復元力によって正極に応力がかかっても、弾性変形し得るカーボンを主成分とする導電層がクッションの役割を果たし、正極(正極合剤の成形体)の割れの発生を抑制できる。
【0018】
また、正極と弾性部を有する金属部材とを直接接触させた場合には、これらの間の電気的接続が不十分になりやすいが、これらの間に幅広い仕事関数を有するカーボンを主成分とする導電層を介在させることで、正極と弾性部を有する金属部材との間の電気的接続も良好にすることができる。
【0019】
本発明の扁平形非水電解質電池においては、前記の各作用によって、正極合剤の成形体の割れを抑制しつつ、内部抵抗を低くすることが可能となる。
【0020】
本発明の扁平形非水電解質電池には、一次電池と二次電池とが含まれる。また、本発明の扁平形非水電解質電池には、非水電解液などの非水電解質を使用したもの(非水電解質一次電池、非水電解質二次電池)と、正極と負極との間に固体電解質層を介在させた固体電解質電池(固体電解質一次電池、固体電解質二次電池)とが含まれる。
【0021】
(カーボンを主成分とする導電層)
扁平形非水電解質電池において、正極の正極缶側に配置するカーボンを主成分とする導電層には、例えば、カーボンを主成分として含有し、ほかにバインダなどを含む導電層が適用できる。
【0022】
カーボンとバインダとを含む導電層の場合のカーボンとしては、炭素繊維、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維などの繊維状のカーボンが好ましく、また、バインダとしては、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴムなどが好ましい。
【0023】
カーボンとバインダとを含む導電層においては、カーボンは主成分で、その含有量は、50質量%超(より好ましくは70質量%以上)で、99質量%以下であることが好ましい。また、カーボンとバインダとを含む導電層におけるバインダの含有量は、1質量%以上50質量%未満(より好ましくは30質量%以下)であることが好ましい。
【0024】
カーボンとバインダとを含む導電層は、例えば、カーボンおよびバインダを水や有機溶媒に分散(バインダは溶解していてもよい)させて調製した導電層形成用組成物を、正極の表面に塗布し、乾燥することで形成できる。
【0025】
また、カーボンを主成分とする導電層には、各種のカーボンシート、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルトなどの、繊維状カーボンで構成された多孔性カーボンシートを好ましく用いることができ、正極の正極缶側にこれらのカーボンシートを配置することで、前記導電層とすることができる(カーボンシートと正極とは接着していなくてもよく、接着していてもよい)。
【0026】
これらのカーボンシートは、単層構造であってもよく、カーボンペーパー同士、カーボンクロス同士、カーボンフェルト同士が積層された多層構造であってもよく、カーボンペーパー、カーボンクロスおよびカーボンフェルトのうちの2種以上が積層された多層構造であってもよい。
【0027】
前記多孔性カーボンシートを構成する繊維状カーボンの繊維径は、導電性などを考慮すると、2~30μmであることが好ましい。
【0028】
カーボンを主成分とする導電層の厚みは、弾性部を有する金属部材の作用による正極合剤の成形体の割れの発生を抑制する効果を良好にする観点から、10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、カーボンを主成分とする導電層による電池内容積の占有率を小さくし、電極の厚みを可及的に大きくできるようにして、電池容量をより大きくすることを可能とする観点から、カーボンを主成分とする導電層の厚みは、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。
【0029】
(弾性部を有する金属部材)
扁平形非水電解質電池において、正極缶とカーボンを主成分とする導電層との間に配置する弾性部を有する金属部材には、導電性を有する金属製のものが使用されるが、ステンレス鋼製のものが好ましい。なお、本発明に係る「弾性部を有する金属部材」においては、その全体が弾性を有していることは要求されず、積層電極体が有する負極を、正極側から負極缶の内面に押し付け得るような弾性を有する部分(すなわち、弾性部)を一部に有していればよい。
【0030】
扁平形非水電解質電池に使用する弾性部を有する金属部材の特性としては、復元力が、負極厚みの1/2以上であるものが好ましく、負極厚みと同等以上であるものがさらに好ましい。
【0031】
弾性部を有する金属部材の具体例としては、板ばね(薄板ばね、皿ばねなど)、ウェーブワッシャー、コイルばねなどのばね類;輪止(止め輪);などが挙げられる。
【0032】
(正極)
扁平形非水電解質電池に係る正極は、正極合剤の成形体で構成されており、正極合剤の成形体のみからなるものや、正極合剤の成形体からなる層(正極合剤層)を集電体上に形成してなる構造のものなどが挙げられる。
【0033】
扁平形非水電解質電池が一次電池の場合、従来から知られている非水電解質一次電池に用いられている正極活物質と同じものが使用できる。具体的には、例えば、二酸化マンガン、リチウム含有マンガン酸化物〔例えば、LiMn3O6や、二酸化マンガンと同じ結晶構造(β型、γ型、またはβ型とγ型が混在する構造など)を有し、Liの含有量が3.5質量%以下、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である複合酸化物など〕、LiaTi5/3O4(4/3≦a<7/3)などのリチウム含有複合酸化物;バナジウム酸化物;ニオブ酸化物;チタン酸化物;二硫化鉄などの硫化物;フッ化黒鉛;Ag2Sなどの銀硫化物;NiO2などのニッケル酸化物:などが挙げられる。
【0034】
また、扁平形非水電解質電池が二次電池の場合には、従来から知られている非水電解質二次電池に用いられている正極活物質、すなわち、Li(リチウム)イオンを吸蔵・放出可能な活物質と同じものが使用できる。具体的には、Li1-xMrMn2-rO4(ただし、Mは、Li、Na、K、B、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Cr、Zr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Sb、In、Nb、Ta、Mo、W、Y、RuおよびRhよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦1、0≦r≦1)で表されるスピネル型リチウムマンガン複合酸化物、LirMn(1-s-t)NisMtO(2-u)Fv(ただし、Mは、Co、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Zr、Mo、Sn、Ca、SrおよびWよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦r≦1.2、0<s<0.5、0≦t≦0.5、u+v<1、-0.1≦u≦0.2、0≦v≦0.1)で表される層状化合物、Li1-xCo1-rMrO2(ただし、Mは、Al、Mg、Ti、V、Cr、Zr、Fe、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦1、0≦r≦0.5)で表されるリチウムコバルト複合酸化物、Li1-xNi1-rMrO2(ただし、Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦1、0≦r≦0.5)で表されるリチウムニッケル複合酸化物、Li1+s-xM1-rNrPO4Fs(ただし、Mは、Fe、MnおよびCoよりなる群から選択される少なくとも1種の元素で、Nは、Al、Mg、Ti、Zr、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、Sb、VおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦1、0≦r≦0.5、0≦s≦1)で表されるオリビン型複合酸化物、Li2-xM1-rNrP2O7(ただし、Mは、Fe、MnおよびCoよりなる群から選択される少なくとも1種の元素で、Nは、Al、Mg、Ti、Zr、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、Sb、VおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦2、0≦r≦0.5)で表されるピロリン酸化合物などが例示でき、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
扁平形非水電解質電池が固体電解質二次電池の場合には、正極活物質の平均粒子径は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、また、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましい。なお、正極活物質は一次粒子でも一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。平均粒子径が前記範囲の正極活物質を使用すると、正極に含まれる固体電解質との界面を多くとれるため、電池の負荷特性がより向上する。
【0036】
本明細書でいう各種粒子(正極活物質、固体電解質など)の平均粒子径は、粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布測定装置「HRA9320」など)を用いて、粒度の小さい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における50%径の値(D50)を意味している。
【0037】
扁平形非水電解質電池が固体電解質二次電池の場合、正極活物質は、その表面に、正極に含まれる固体電解質との反応を抑制するための反応抑制層を有していることが好ましい。
【0038】
正極合剤の成形体内において、正極活物質と固体電解質とが直接接触すると、固体電解質が酸化して抵抗層を形成し、成形体内のイオン伝導性が低下する虞がある。正極活物質の表面に、固体電解質との反応を抑制する反応抑制層を設け、正極活物質と固体電解質との直接の接触を防止することで、固体電解質の酸化による成形体内のイオン伝導性の低下を抑制することができる。
【0039】
反応抑制層は、イオン伝導性を有し、正極活物質と固体電解質との反応を抑制できる材料で構成されていればよい。反応抑制層を構成し得る材料としては、例えば、Liと、Nb、P、B、Si、Ge、TiおよびZrよりなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含む酸化物、より具体的には、LiNbO3などのNb含有酸化物、Li3PO4、Li3BO3、Li4SiO4、Li4GeO4、LiTiO3、LiZrO3、Li2WO4などが挙げられる。反応抑制層は、これらの酸化物のうちの1種のみを含有していてもよく、また、2種以上を含有していてもよく、さらに、これらの酸化物のうちの複数種が複合化合物を形成していてもよい。これらの酸化物の中でも、Nb含有酸化物を使用することが好ましく、LiNbO3を使用することがより好ましい。
【0040】
反応抑制層は、正極活物質:100質量部に対して0.1~1.0質量部で表面に存在することが好ましい。この範囲であれば正極活物質と固体電解質との反応を良好に抑制することができる。
【0041】
正極活物質の表面に反応抑制層を形成する方法としては、ゾルゲル法、メカノフュージョン法、CVD法、PVD法、ALD法などが挙げられる。
【0042】
正極合剤における正極活物質の含有量は、60~98質量%であることが好ましい。
【0043】
正極合剤には、導電助剤を含有させることができる。その具体例としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、グラフェン、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどの炭素材料などが挙げられる。なお、例えば活物質にAg2Sを用いる場合には放電反応の際に導電性のあるAgが生成するため、導電助剤は含有させなくてもよい。正極合剤において導電助剤を含有させる場合には、その含有量は、1~10質量%であることが好ましい。
【0044】
また、正極合剤にはバインダを含有させることができる。その具体例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂などが挙げられる。なお、例えば正極合剤に硫化物系固体電解質を含有させる場合(詳しくは後述する)のように、バインダを使用しなくても、正極合剤の成形体を形成する上で良好な成形性が確保できる場合には、正極合剤にはバインダを含有させなくてもよい。
【0045】
正極合剤において、バインダを要する場合には、その含有量は、15質量%以下であることが好ましく、また、0.5質量%以上であることが好ましい。他方、正極合剤において、硫化物系固体電解質を含有しているためバインダを要しなくても成形性が得られる場合には、その含有量が、0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましく、0質量%である(すなわち、バインダを含有させない)ことがさらに好ましい。
【0046】
扁平形非水電解質電池が固体電解質電池の場合には、正極合剤には固体電解質を含有させる。固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有していれば特に限定されず、例えば、硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質、ハロゲン化物系固体電解質、酸化物系固体電解質などが使用できる。
【0047】
硫化物系固体電解質としては、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、Li2S-P2S5-GeS2、Li2S-B2S3系ガラスなどの粒子が挙げられる他、近年、Liイオン伝導性が高いものとして注目されているthio-LISICON型のもの〔Li10GeP2S12、Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3などの、Li12-12a-b+c+6d-eM1
3+a-b-c-dM2
bM3
cM4
dM5
12-eXe(ただし、M1はSi、GeまたはSn、M2はPまたはV、M3はAl、Ga、YまたはSb、M4はZn、Ca、またはBa、M5はSまたはSおよびOのいずれかであり、XはF、Cl、BrまたはI、0≦a<3、0≦b+c+d≦3、0≦e≦3〕や、アルジロダイト型のもの〔Li6PS5Clなどの、Li7-f+gPS6-xClx+y(ただし、0.05≦f≦0.9、-3.0f+1.8≦g≦-3.0f+5.7)で表されるもの、Li7-hPS6-hCliBrj(ただし、h=i+j、0<h≦1.8、0.1≦i/j≦10.0)で表されるものなど〕も使用することができる。
【0048】
水素化物系固体電解質としては、例えば、LiBH4、LiBH4と下記のアルカリ金属化合物との固溶体(例えば、LiBH4とアルカリ金属化合物とのモル比が1:1~20:1のもの)などが挙げられる。前記固溶体におけるアルカリ金属化合物としては、ハロゲン化リチウム(LiI、LiBr、LiF、LiClなど)、ハロゲン化ルビジウム(RbI、RbBr、RbF、RbClなど)、ハロゲン化セシウム(CsI、CsBr、CsF、CsClなど)、リチウムアミド、ルビジウムアミドおよびセシウムアミドよりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0049】
ハロゲン化物系固体電解質としては、例えば、単斜晶型のLiAlCl4、欠陥スピネル型または層状構造のLiInBr4、単斜晶型のLi6-3mYmX6(ただし、0<m<2かつX=ClまたはBr)などが挙げられ、その他にも例えば国際公開第2020/070958や国際公開第2020/070955に記載の公知のものを使用することができる。
【0050】
酸化物系固体電解質としては、例えば、ガーネット型のLi7La3Zr2O12、NASICON型のLi1+OAl1+OTi2-O(PO4)3、Li1+pAl1+pGe2-p(PO4)3、ペロブスカイト型のLi3qLa2/3-qTiO3などが挙げられる。
【0051】
これらの固体電解質の中でも、リチウムイオン伝導性が高いことから、硫化物系固体電解質が好ましく、LiおよびPを含む硫化物系固体電解質がより好ましく、特にリチウムイオン伝導性が高く、化学的に安定性の高いアルジロダイト型の硫化物系固体電解質がさらに好ましい。
【0052】
なお、固体電解質の平均粒子径は、粒界抵抗軽減の観点から、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましく、一方、活物質と固体電解質との間での十分な接触界面形成の観点から、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
【0053】
正極合剤における固体電解質の含有量は、4~40質量%であることが好ましい。
【0054】
正極に集電体を使用する場合、その集電体としては、アルミニウムやステンレス鋼などの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル、発泡メタル;カーボンシート;などを用いることができる。
【0055】
正極合剤の成形体は、例えば、正極活物質に、必要に応じて添加される導電助剤、バインダ、固体電解質などを混合して調製した正極合剤を、加圧成形などによって圧縮することで形成することができる。
【0056】
集電体を有する正極の場合には、前記のような方法で形成した正極合剤の成形体を集電体と圧着するなどして貼り合わせることで製造することができる。
【0057】
また、前記の正極合剤と溶媒とを混合して正極合剤含有組成物を調製し、これを集電体や正極と対向させる固体電解質層(固体電解質電池を形成する場合)といった基材上に塗布し、乾燥した後にプレス処理を行うことで、正極合剤の成形体を形成してもよい。
【0058】
正極合剤含有組成物の溶媒には、水やN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶媒を使用することができる。なお、正極合剤含有組成物に固体電解質も含有させる場合の溶媒は、固体電解質を劣化させ難いものを選択することが好ましい。特に、硫化物系固体電解質や水素化物系固体電解質は、微少量の水分によって化学反応を起こすため、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、デカリン、トルエン、キシレンなどの炭化水素溶媒に代表される非極性非プロトン性溶媒を使用することが好ましい。特に、含有水分量を0.001質量%(10ppm)以下とした超脱水溶媒を使用することがより好ましい。また、三井・デュポンフロロケミカル社製の「バートレル(登録商標)」、日本ゼオン社製の「ゼオローラ(登録商標)」、住友3M社製の「ノベック(登録商標)」などのフッ素系溶媒、並びに、ジクロロメタン、ジエチルエーテルなどの非水系有機溶媒を使用することもできる。
【0059】
正極合剤の成形体の厚み(集電体を有する電極の場合は、集電体の片面あたりの正極合剤の成形体の厚み。以下、同じ。)は、通常は50μm以上であるが、電池の高容量化の観点から、200μm以上であることが好ましい。また、正極合剤の成形体の厚みは、通常、3000μm以下である。
【0060】
なお、溶媒を含有する正極合剤含有組成物を用いて集電体上に正極合剤の成形体からなる正極合剤層を形成することで製造される正極の場合には、正極合剤層の厚みは、50~1000μmであることが好ましい。
【0061】
(負極)
扁平形非水電解質電池の負極は、負極活物質を含有する負極合剤の成形体、リチウムのシート、またはリチウム合金のシートを有している。
【0062】
負極が、負極活物質を含有する負極合剤の成形体の場合、負極合剤を成形してなる成形体(ペレットなど)や、負極合剤の成形体からなる層(負極合剤層)を集電体上に形成してなる構造のものなどが挙げられる。
【0063】
負極が負極合剤の成形体を有する場合、その負極活物質としては、例えば、黒鉛などの炭素材料や、Si、Snなどの元素を含む単体、化合物(酸化物など)およびその合金などが挙げられる。また、リチウム金属やリチウム合金(リチウム-アルミニウム合金、リチウム-インジウム合金など)も負極活物質として用いることができる。
【0064】
負極合剤における負極活物質の含有量は、10~99質量%であることが好ましい。
【0065】
負極合剤には、導電助剤を含有させることができる。その具体例としては、正極合剤に含有させ得るものとして先に例示した導電助剤と同じものなどが挙げられる。負極合剤における導電助剤の含有量は1~10質量%であることが好ましい。
【0066】
また、負極合剤にはバインダを含有させることができる。その具体例としては、正極合剤に含有させ得るものとして先に例示したバインダと同じものなどが挙げられる。なお、例えば負極合剤に硫化物系固体電解質を含有させる場合(詳しくは後述する)のように、バインダを使用しなくても、負極合剤の成形体を形成する上で良好な成形性が確保できる場合には、負極合剤にはバインダを含有させなくてもよい。
【0067】
負極合剤において、バインダを要する場合には、その含有量は、15質量%以下であることが好ましく、また、0.5質量%以上であることが好ましい。他方、負極合剤において、硫化物系固体電解質を含有しているためバインダを要しなくても成形性が得られる場合には、その含有量が、0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましく、0質量%である(すなわち、バインダを含有させない)ことがさらに好ましい。
【0068】
扁平形非水電解質電池が固体電解質電池の場合には、負極合剤には固体電解質を含有させる。その具体例としては、正極合剤に含有させ得るものとして先に例示した固体電解質と同じものなどが挙げられる。前記例示の固体電解質の中でも、リチウムイオン伝導性が高く、また、負極合剤の成形性を高める機能を有していることから、硫化物系固体電解質を用いることがより好ましい。
【0069】
負極合剤における固体電解質の含有量は、4~49質量%であることが好ましい。
【0070】
負極合剤の成形体を有する負極に集電体を用いる場合、その集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル、発泡メタル;カーボンシート;などを用いることができる。
【0071】
負極合剤の成形体は、例えば、負極活物質、さらには必要に応じて添加される導電助剤、固体電解質およびバインダなどを混合して調製した負極合剤を、加圧成形などによって圧縮することで形成することができる。負極合剤の成形体のみで構成される負極の場合は、前記の方法により製造することができる。
【0072】
集電体を有する負極の場合には、前記のような方法で形成した負極合剤の成形体を集電体と圧着するなどして貼り合わせることで製造することができる。
【0073】
また、集電体を有する負極の場合、負極活物質、さらには必要に応じて添加される導電助剤、固体電解質およびバインダなどを溶媒に分散させた負極合剤含有組成物(ペースト、スラリーなど)を、集電体に塗布し、乾燥した後、必要に応じてカレンダ処理などの加圧成形をして、集電体の表面に負極合剤の成形体(負極合剤層)を形成する方法によっても、製造することができる。
【0074】
負極合剤含有組成物の溶媒には、水やNMPなどの有機溶媒を使用することができるが、負極合剤含有組成物に固体電解質も含有させる場合の溶媒は、固体電解質を劣化させ難いものを選択することが望ましく、固体電解質を含有する正極合剤含有組成物用の溶媒として先に例示した各種の溶媒と同じものを使用することが好ましい。
【0075】
負極合剤の成形体の厚み(集電体を有する電極の場合は、集電体の片面あたりの負極合剤の成形体の厚み。以下、同じ。)は、通常は50μm以上であるが、電池の高容量化の観点から、200μm以上であることが好ましい。また、負極合剤の成形体の厚みは、通常、3000μm以下である。
【0076】
なお、溶媒を含有する負極合剤含有組成物を用いて集電体上に負極合剤の成形体からなる負極合剤層を形成することで製造される負極の場合には、負極合剤層の厚みは、50~1000μmであることが好ましい。
【0077】
リチウムのシートまたはリチウム合金のシートを有する負極の場合、これらのシートのみからなるものや、これらのシートが集電体と貼り合されてなるものが使用される。
【0078】
リチウム合金に係る合金元素としては、アルミニウム、鉛、ビスマス、インジウム、ガリウムなどが挙げられるが、アルミニウムやインジウムが好ましい。リチウム合金における合金元素の割合(合金元素を複数種含む場合は、それらの合計割合)は、50原子%以下であることが好ましい(この場合、残部はリチウムおよび不可避不純物である)。
【0079】
また、リチウム合金のシートを有する負極の場合、金属リチウム箔などで構成されるリチウム層(リチウムを含む層)の表面にリチウム合金を形成するための合金元素を含む層を圧着するなどして積層した積層体を使用し、この積層体を電池内で非水電解質(非水電解液など)や固体電解質と接触させることで、前記リチウム層の表面にリチウム合金を形成させて負極とすることもできる。このような負極の場合、リチウム層の片面のみに合金元素を含む層を有する積層体を用いてもよく、リチウム層の両面に合金元素を含む層を有する積層体を用いてもよい。前記積層体は、例えば、金属リチウム箔と合金元素で構成された箔とを圧着することで形成することができる。
【0080】
また、電池内でリチウム合金を形成して負極とする場合にも集電体を使用することができ、例えば、負極集電体の片面にリチウム層を有し、かつリチウム層の負極集電体とは反対側の面に合金元素を含む層を有する積層体を用いてもよく、負極集電体の両面にリチウム層を有し、かつ各リチウム層の負極集電体とは反対側の面に合金元素を含む層を有する積層体を用いてもよい。負極集電体とリチウム層(金属リチウム箔)とは、圧着などにより積層すればよい。
【0081】
負極とするための前記積層体に係る前記合金元素を含む層には、例えば、これらの合金元素で構成された箔などが使用できる。前記合金元素を含む層の厚みは、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、20μm以下であることが好ましく、12μm以下であることがより好ましい。
【0082】
負極とするための前記積層体に係るリチウム層には、例えば、金属リチウム箔などを用いることができる。リチウム層の厚みは、0.1~1.5mmであることが好ましい。また、リチウムまたはリチウム合金のシートを有する負極に係る前記シートの厚みも、0.1~1.5mmであることが好ましい。
【0083】
また、リチウムのシートまたはリチウム合金のシートを有する負極が集電体を有する場合、その集電体には、負極合剤の成形体を有する負極に使用可能なものとして先に例示した集電体と同じものが使用できる。
【0084】
(固体電解質層)
扁平形非水電解質電池が固体電解質電池(固体電解質一次電池または固体電解質二次電池)の場合、正極と負極との間には固体電解質層を介在させる。
【0085】
固体電解質層を構成する固体電解質には、正極に使用し得るものして先に例示した各種の硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質、ハロゲン化物系固体電解質および酸化物系固体電解質のうちの1種または2種以上を使用することができる。ただし、電池特性をより優れたものとするためには、硫化物系固体電解質を含有させることが望ましく、アルジロダイト型の硫化物系固体電解質を含有させることがより望ましい。そして、正極および固体電解質層の両者、並びに負極が固体電解質を含有する負極合剤の成形体である場合には負極にも、硫化物系固体電解質を含有させることがさらに望ましく、アルジロダイト型の硫化物系固体電解質を含有させることが特に望ましい。
【0086】
固体電解質層は、樹脂製の不織布などの多孔質体を支持体として有していてもよい。
【0087】
固体電解質層は、固体電解質を加圧成形などによって圧縮する方法;固体電解質を溶媒に分散させて調製した固体電解質層形成用組成物を基材や正極、負極の上に塗布して乾燥し、必要に応じてプレス処理などの加圧成形を行う方法:などで形成することができる。
【0088】
固体電解質層形成用組成物に使用する溶媒は、固体電解質を劣化させ難いものを選択することが望ましく、固体電解質を含有する正極合剤含有組成物用の溶媒として先に例示した各種の溶媒と同じものを使用することが好ましい。
【0089】
固体電解質層の厚みは、100~400μmであることが好ましい。
【0090】
(セパレータ)
扁平形非水電解質電池が固体電解質電池以外の電池である場合、正極と負極との間に介在させるセパレータとしては、強度が十分で、かつ非水電解質を多く保持できるものがよく、そのような観点から、厚さが10~50μmで開口率が30~70%の、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはエチレン-プロピレン共重合体を含む微多孔フィルムや不織布などが好ましい。
【0091】
(非水電解質)
扁平形非水電解質電池が固体電解質電池以外の電池である場合の非水電解質には、通常、非水系の液状電解質(以下、これを「非水電解液」という)が用いられる。そして、その非水電解液としては有機溶媒にリチウム塩などの電解質塩を溶解させたものが用いられる。その有機溶媒としては、特に限定されることはないが、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネートなどの鎖状エステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの誘電率の高い環状エステル;鎖状エステルと環状エステルとの混合溶媒;などが挙げられ、特に鎖状エステルを主溶媒とした環状エステルとの混合溶媒が適している。
【0092】
非水電解液の調製にあたって有機溶媒に溶解させる電解質塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiCnF2n+1SO3(n≧2)、LiN(RfSO2)(Rf’SO2)、LiC(RfSO2)3、LiN(RfOSO2)2〔ここでRf、Rf’はフルオロアルキル基〕などが単独でまたは2種以上混合して用いられる。非水電解液中における電解質塩の濃度は、特に制限はないが、0.3mol/l以上であることが好ましく、0.4mol/l以上であることがより好ましく、また、1.7mol/l以下であることが好ましく、1.5mol/l以下であることがより好ましい。
【0093】
扁平形非水電解質電池の非水電解質には、前記非水電解液以外にも、前記非水電解液をポリマーなどからなるゲル化剤でゲル化したゲル状の電解質を用いることもできる。
【0094】
(積層電極体)
正極と負極とは、固体電解質層またはセパレータを介して積層した積層電極体の形態で、電池に用いられる。
【0095】
なお、固体電解質層を有する積層電極体を形成するに際しては、正極と負極と固体電解質層とを積層した状態で加圧成形することが、積層電極体の機械的強度を高める観点から好ましい。
【0096】
(外装体)
扁平形非水電解質電池の外装体には、外装缶および封口缶を有するものが使用される。なお、前記の通り、
図1に示す扁平形非水電解質電池1においては、正極缶が外装缶で、負極缶が封口缶であるが、負極缶を外装缶とし、正極缶を封口缶とすることもできる。
【0097】
外装体は、
図1に示すように、外装缶と封口缶とをガスケットを介してカシメ封口したものが挙げられるほか、外装缶と封口缶とを、樹脂で接着したものも例示できる。
【0098】
外装缶および封口缶にはステンレス鋼製のものなどが使用できる。また、ガスケットの素材には、ポリプロピレン、ナイロンなどを使用できるほか、電池の用途との関係で耐熱性が要求される場合には、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)などのフッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル(PEE)、ポリスルフォン(PSF)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの融点が240℃を超える耐熱樹脂を使用することもできる。また、電池が耐熱性を要求される用途に適用される場合、その封口には、ガラスハーメチックシールを利用することもできる。
【0099】
扁平形非水電解質電池の外装体の平面視での形状は、円形でもよく、四角形(正方形・長方形)などの多角形であってもよい。また、多角形の場合には、その角を曲線状としていてもよい。
【0100】
本発明の扁平形非水電解質電池は、従来から知られている扁平形非水電解質電池(一次電池または二次電池)と同じ用途に適用することができる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0102】
実施例1
<正極の作製>
Ag2S(正極活物質)と、硫化物系固体電解質(Li6PS5Cl)とを体積比1:1で混合して正極合剤を調製した。この正極合剤152mgを直径:7.4mmの粉末成形金型に投入し、プレス機を用いて4tonf/cm2の圧力で成形を行い、円柱形状の正極合剤成形体よりなる正極を作製した。
【0103】
<固体電解質層の形成>
前記粉末成形金型内の正極の上に、正極に使用したものと同じ硫化物系固体電解質:30mgを入れ、プレス機を用いて1tonf/cm2の圧力で成形を行い、正極合剤成形体の上に固体電解質層を形成し、正極と固体電解質の積層体を作製した。
【0104】
<負極の作製>
厚みが450μmの金属リチウム箔を円形に切断し負極を作製した。
【0105】
<電池の組み立て>
ポリプロピレン製の環状ガスケットをはめ込んだステンレス鋼製の封口缶(負極缶)の内底面上に負極を配置した。次に、正極と固体電解質の積層体を固体電解質層が負極側となるように重ね、その上にカーボンペーパー(カーボンシート、東洋炭素株式会社製「PF-10HP」、厚み100μm)を正極と同じ大きさに打ち抜いたものを、カーボンを主成分とする導電層として配置し、さらにその上にウェーブワッシャー(弾性部を有する金属部材、ミスミ社製「PACK-WVWS-V5-D7」)を配置してからステンレス鋼製の外装缶(正極缶)をかぶせた後、外装缶の開口端部を内方にカシメて封止を行うことにより、正極、固体電解質層、負極からなる積層電極体を形成するとともに、外装缶の内面と積層電極体との間に、ウェーブワッシャー(弾性部を有する金属部材)およびカーボンペーパー(カーボンを主成分とする導電層)が配置された、直径約9mmの扁平形非水電解質電池(固体電解質一次電池)を作製した。
【0106】
実施例2
弾性部を有する金属部材を、板ばね(ミスミ社製「SSRBN8-B」)に変更した以外は、実施例1と同様にして扁平形非水電解質電池を作製した。
【0107】
実施例3
弾性部を有する金属部材を、輪止(オチアイ社製「CSTW-3-SUS」)に変更した以外は、実施例1と同様にして扁平形非水電解質電池を作製した。
【0108】
比較例1
ウェーブワッシャーを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして扁平形非水電解質電池を作製した。
【0109】
比較例2
ウェーブワッシャーを使用せず、また、カーボンペーパーに代えてステンレス鋼(SUS)箔(厚み:10μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして扁平形非水電解質電池を作製した。
【0110】
比較例3
カーボンペーパーに代えてSUS箔(厚み:10μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして扁平形非水電解質電池を作製した。
【0111】
実施例1~3および比較例1~3の扁平形非水電解質電池について、以下の各評価を行った。
【0112】
〔内部抵抗測定〕
実施例1~3および比較例1~3の電池をそれぞれ5個ずつ用意し、20℃における内部抵抗を、1kHzの周波数で交流インピーダンス法により測定し、それらの平均値を各電池の内部抵抗として求めた。
【0113】
〔放電容量測定〕
実施例1~3および比較例1~3の電池を0.1mAの定電流で放電させ、電池電圧が0Vに低下するまでの放電容量を測定した。
【0114】
前記の各評価結果を、正極缶と積層電極体との間の構成と併せて表1に示す。なお、表1では、内部抵抗および放電容量の測定結果は、いずれも比較例1の結果を100とした場合の相対値で示す。
【0115】
【0116】
表1に示す通り、正極缶と積層電極体との間に、弾性部を有する金属部材およびカーボンを主成分とする導電層を正極缶側から順次配置した実施例1~3の扁平形非水電解質電池は、弾性部を有する金属部材を使用せずにカーボンを主成分とする導電層のみを配置した比較例1の電池に比べて、内部抵抗が低く、また、放電容量が大きかった。
【0117】
なお、弾性部を有する金属部材を使用せず、かつカーボンを主成分とする導電層に代えてSUS箔を用いた比較例2の電池、およびカーボンを主成分とする導電層に代えてSUS箔を用いた比較例3の電池は、内部抵抗が高く、また、放電容量が非常に小さかった。これらの電池を放電後に分解したところ、正極に割れが生じていた。
【0118】
実施例4
正極活物質をNiO2に変更し、正極合剤の使用量を141mgに変更した以外は、実施例1と同様にして扁平形非水電解質電池(固体電解質一次電池)を作製した。
【0119】
比較例4
ウェーブワッシャーを使用しなかった以外は、実施例4と同様にして扁平形非水電解質電池を作製した。
【0120】
実施例4および比較例4の扁平形非水電解質電池について、実施例1の電池などと同様にして内部抵抗測定および放電容量測定を行った。これらの結果を、正極缶と積層電極体との間の構成と併せて表2に示す。なお、表2では、内部抵抗および放電容量の測定結果は、いずれも比較例4の結果を100とした場合の相対値で示す。
【0121】
【0122】
表2に示す通り、正極缶と積層電極体との間に、弾性部を有する金属部材およびカーボンを主成分とする導電層を正極缶側から順次配置した実施例4の扁平形非水電解質電池は、弾性部を有する金属部材を使用せずにカーボンを主成分とする導電層のみを配置した比較例4の電池に比べて、内部抵抗が低く、また、放電容量が大きかった。
【符号の説明】
【0123】
1 扁平形非水電解質電池
10 正極
20 負極
30 セパレータまたは固体電解質層
40 正極缶
50 負極缶
60 ガスケット
70 カーボンを主成分とする導電層
80 弾性部を有する金属部材