(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-28
(45)【発行日】2025-04-07
(54)【発明の名称】全固体電池用正極および全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20250331BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250331BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20250331BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250331BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20250331BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250331BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250331BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/36 A
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/0562
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2020194842
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078064
【氏名又は名称】三輪 鐵雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115901
【氏名又は名称】三輪 英樹
(72)【発明者】
【氏名】松岡 尚輝
(72)【発明者】
【氏名】青木 潤珠
(72)【発明者】
【氏名】川端 雄介
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/150559(WO,A1)
【文献】特開2016-062683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/62
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 10/0562
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子からなる正極活物質、および固体電解質を含有する正極合剤の成形体を有し、
前記正極活物質は、前記正極活物質と前記固体電解質との反応を抑制するための反応抑制層を表面に有し、
前記固体電解質の平均粒子径rsに対する前記正極活物質の平均粒子径raの比ra/rsが、2以上20以下(ただし、4.25である場合を除く)であ
り、
前記raが、2~30μmであることを特徴とする全固体電池用正極。
【請求項2】
前記固体電解質の平均粒子径rsが、0.4~2.5μmである請求項1に記載の全固体電池用正極。
【請求項3】
前記反応抑制層は、Nb酸化物を含有している請求項1
または2に記載の全固体電池用正極。
【請求項4】
前記正極活物質として、下記一般式(1)
LiCo
1-a-b-cAl
aM
1
bM
2
cO
2 (1)
〔前記一般式(1)中、M
1は、Mg、NiおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素、M
2は、Mn、Fe、Cu、Zr、Ti、Bi、Ca、F、P、Sr、W、Ba、Nb、Si、Zn、Mo、V、Sn、Sb、Ta、Ge、Cr、K、SおよびErよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0<a<0.1、0<b<0.1、a+b<0.1、0≦cである〕で表されるリチウムコバルト複合酸化物(A)を含有する請求項1~
3のいずれかに記載の全固体電池用正極。
【請求項5】
正極、負極、および前記正極と前記負極との間に介在する固体電解質層を有する全固体電池であって、
前記正極として、請求項1~
4のいずれかに記載の全固体電池用正極を有することを特徴とする全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷特性に優れた全固体電池と、前記全固体電池を構成可能な正極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどのポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化などに伴い、小型・軽量で、かつ高容量・高エネルギー密度の電池が必要とされるようになってきている。
【0003】
現在、この要求に応え得るリチウム電池、特にリチウムイオン電池では、非水電解質として有機溶媒とリチウム塩とを含む有機電解液が用いられている。
【0004】
そして、リチウムイオン電池の適用機器の更なる発達に伴って、リチウムイオン電池の更なる長寿命化・高容量化・高エネルギー密度化が求められていると共に、長寿命化・高容量化・高エネルギー密度化したリチウムイオン電池の信頼性も高く求められている。
【0005】
しかし、リチウムイオン電池に用いられている有機電解液は、可燃性物質である有機溶媒を含んでいるため、電池に短絡などの異常事態が発生した際に、有機電解液が異常発熱する可能性がある。また、近年のリチウムイオン電池の高エネルギー密度化および有機電解液中の有機溶媒量の増加傾向に伴い、より一層リチウムイオン電池の信頼性が求められている。
【0006】
以上のような状況において、有機溶媒を用いない全固体型のリチウム電池(全固体電池)が注目されている。全固体電池は、従来の有機溶媒系電解質に代えて、有機溶媒を用いない固体電解質の成形体を用いるものであり、固体電解質の異常発熱の虞がなく、高い安全性を備えている。
【0007】
また、全固体電池は、高い安全性だけではなく、高い信頼性および高い耐環境性を有し、かつ長寿命であるため、社会の発展に寄与すると同時に安心、安全にも貢献し続けることができるメンテナンスフリーの電池として期待されている。全固体電池の社会への提供により、国際連合が制定する持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標のうち、目標12(持続可能な生産消費形態を確保する)、目標3(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する)、目標7(すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する)、および目標11〔包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市および人間居住を実現する〕の達成に貢献することができる。
【0008】
また、全固体電池においては、種々の改良が試みられている。例えば、特許文献1には、特定の粒径を有する活物質と、特定の粒径を有する固体電解質とを、特定の重量比で混合して使用した電極を適用することで、全固体電池における活物質の利用率を高める技術が提案されている。
【0009】
また、特許文献2には、正極層の正極活物質層における正極活物質の粒径または負極層の負極活物質層における負極活物質の粒径と、これらの層に隣接する固体電解質層における固体電解質の粒径との比を特定範囲内とすることで、正極活物質層や負極活物質層と固体電解質層との界面抵抗を低減する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平8-195219号公報
【文献】特開2016-1596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、現在、全固体電池においては、その適用分野が急速に拡大しており、例えば大きな電流値での放電が求められる用途への適用も考えられることから、これに応え得るように負荷特性を高めることが求められる。
【0012】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、負荷特性に優れた全固体電池と、前記全固体電池を構成可能な正極とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の全固体電池用正極は、一次粒子からなる正極活物質、および固体電解質を含有する正極合剤の成形体を有し、前記正極活物質は、前記正極活物質と前記固体電解質との反応を抑制するための反応抑制層を表面に有し、前記固体電解質の平均粒子径rsに対する前記正極活物質の平均粒子径raの比ra/rsが、2以上20以下であることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の全固体電池は、正極、負極、および前記正極と前記負極との間に介在する固体電解質層を有し、前記正極として、本発明の全固体電池用正極を有することを特徴とするものである。
【0015】
なお、本発明の全固体電池には、一次電池(全固体一次電池)と二次電池(全固体二次電池)とが含まれる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、負荷特性に優れた全固体電池と、前記全固体電池を構成可能な正極とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の全固体電池の一例を模式的に表す断面図である。
【
図2】本発明の全固体電池の他の例を模式的に表す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<全固体電池用正極>
本発明の全固体電池用正極は、一次粒子からなる正極活物質、および固体電解質を含有する正極合剤の成形体を有し、前記正極活物質は、前記正極活物質と前記固体電解質との反応を抑制するための反応抑制層を表面に有し、前記固体電解質の平均粒子径rsに対する前記正極活物質の平均粒子径raの比ra/rsが、2以上20以下である。
【0019】
全固体電池の負荷特性を高めるには、正極における正極活物質と固体電解質との間で、リチウムイオンがよりスムーズに移動できるようにすることが望ましい。
【0020】
本発明では、正極を構成する正極合剤の成形体において、固体電解質との反応を抑制するための反応抑制層を表面に有する正極活物質を一次粒子の状態で含有させるとともに、固体電解質の平均粒子径に対する正極活物質の平均粒子径の比を特定範囲内とすることで、正極活物質と固体電解質との接触を良好にし、両者の間でリチウムイオンがスムーズに移動できるようにして、全固体電池の負荷特性を高め得るようにした。
【0021】
本発明の全固体電池用正極は、正極合剤の成形体を有しており、正極合剤の成形体のみからなるものや、正極合剤の成形体からなる層(正極合剤層)を集電体上に形成してなる構造のものなどが挙げられる。
【0022】
全固体一次電池に使用する全固体電池用正極の場合、正極合剤に含有させる正極活物質(反応抑制層を表面に有する正極活物質)の母材には、従来から知られている非水電解質一次電池に用いられている正極活物質と同じものが使用できる。具体的には、例えば、二酸化マンガン、リチウム含有マンガン酸化物〔例えば、LiMn3O6や、二酸化マンガンと同じ結晶構造(β型、γ型、またはβ型とγ型が混在する構造など)を有し、Liの含有量が3.5質量%以下、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である複合酸化物など〕、LiaTi5/3O4(4/3≦a<7/3)などのリチウム含有複合酸化物;バナジウム酸化物;ニオブ酸化物;チタン酸化物;二硫化鉄などの硫化物;フッ化黒鉛;Ag2Sなどの銀硫化物;NiO2などのニッケル酸化物:などが挙げられる。
【0023】
また、全固体二次電池に使用する全固体電池用正極の場合、正極合剤に含有させる正極活物質(反応抑制層を表面に有する正極活物質)の母材には、従来から知られている非水電解質二次電池に用いられている正極活物質、すなわち、Li(リチウム)イオンを吸蔵・放出可能な活物質と同じものが使用できる。具体的には、Li1-xMrMn2-rO4(ただし、Mは、Li、Na、K、B、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Cr、Zr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Sb、In、Nb、Ta、Mo、W、Y、RuおよびRhよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦1、0≦r≦1)で表されるスピネル型リチウムマンガン複合酸化物、LirMn(1-s-t)NisMtO(2-u)Fv(ただし、Mは、Co、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Zr、Mo、Sn、Ca、SrおよびWよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦r≦1.2、0<s<0.5、0≦t≦0.5、u+v<1、-0.1≦u≦0.2、0≦v≦0.1)で表される層状化合物、Li1-xCo1-rMrO2(ただし、Mは、Al、Mg、Ti、V、Cr、Zr、Fe、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、Sb、Ba、Mn、Bi、Ca、F、P、Sr、W、Si、Ta、K、S、ErおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦1、0≦r≦0.5)で表されるリチウムコバルト複合酸化物、Li1-xNi1-rMrO2(ただし、Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦1、0≦r≦0.5)で表されるリチウムニッケル複合酸化物、Li1+s-xM1-rNrPO4Fs(ただし、Mは、Fe、MnおよびCoよりなる群から選択される少なくとも1種の元素で、Nは、Al、Mg、Ti、Zr、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、Sb、VおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦1、0≦r≦0.5、0≦s≦1)で表されるオリビン型複合酸化物、Li2-xM1-rNrP2O7(ただし、Mは、Fe、MnおよびCoよりなる群から選択される少なくとも1種の元素で、Nは、Al、Mg、Ti、Zr、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、Sb、VおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦2、0≦r≦0.5)で表されるピロリン酸化合物などが例示でき、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
全固体二次電池に使用する全固体電池用正極の場合、前記例示の正極活物質の中でも、下記一般式(1)で表されるリチウムコバルト複合酸化物(A)が、好ましく用いられる。
【0025】
LiCo1-a-b-cAlaM1
bM2
cO2 (1)
【0026】
前記一般式(1)中、M1は、Mg、NiおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素、M2は、Mn、Fe、Cu、Zr、Ti、Bi、Ca、F、P、Sr、W、Ba、Nb、Si、Zn、Mo、V、Sn、Sb、Ta、Ge、Cr、K、SおよびErよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0<a<0.1、0<b<0.1、a+b<0.1、0≦cである。
【0027】
リチウムコバルト複合酸化物(A)は、有機電解液を使用する非水電解質二次電池用の正極活物質に用いた場合、含有するAlやM1元素などの添加元素の作用によって、電池の内部抵抗を増大させる材料である。しかし、有機電解液を有する非水電解質二次電池の場合、正極と負極との間でのイオンの受け渡しを行う電解質が液状(電解液)であるため、元々の内部抵抗が小さいことから、リチウムコバルト複合酸化物(A)による前記の内部抵抗増大は電池特性に殆ど影響しない。一方、正極-負極間でのイオンの受け渡しを固体電解質で行う全固体二次電池においては、正極活物質の作用による内部抵抗の増大によって負荷特性などの電池特性の低下が引き起されることも予想される。
【0028】
しかしながら、リチウムコバルト複合酸化物(A)を全固体二次電池の正極活物質として使用した場合には、こうした予想に反して、例えばLiCoO2を正極活物質とする場合に比べて内部抵抗を下げることが可能であり、全固体二次電池の負荷特性をより高めることができる。
【0029】
LiCoO2を正極活物質として用いた電池を充電すると、価数変化によってCoが膨張する。有機電解液を用いた電池では、これに起因する正極活物質の体積変化が生じても、イオンの受け渡しをする電解質が液状であるために正極活物質との接触が損なわれることはない。一方、全固体二次電池では、正極内でイオンの受け渡しをする電解質が固体(固体電解質)であるため、電池の充放電によって正極活物質が体積変化することで固体電解質との間に隙間が生じてしまい、正極の内部抵抗、延いては電池の内部抵抗が増大してしまう。
【0030】
ところが、前記一般式(1)で表されるリチウムコバルト複合酸化物(A)であれば、充電状態となっても、Alおよび元素M1の作用によってCoの膨張が抑えられるため、正極活物質全体の膨張量(体積変化量)が小さくなる。よって、リチウムコバルト複合酸化物(A)を正極活物質とする全固体電池用正極を使用することで、充放電しても正極内でのリチウムコバルト複合酸化物(A)と固体電解質との接触が良好に維持でき、内部抵抗を低く保ち得ることから、より負荷特性に優れた全固体二次電池とすることができる。
【0031】
リチウムコバルト複合酸化物(A)において、AlはCoサイトに置換される元素、M1はLiサイトに置換される元素であり、ともに充電時におけるCoの膨張量〔リチウムコバルト複合酸化物(A)の膨張量〕を小さくする作用を有している。
【0032】
リチウムコバルト複合酸化物(A)は、元素M1として、Mg、NiおよびNaのうちの少なくとも1種の元素を含有していればよいが、置換するLiとイオン半径が同等であり、さらに充放電時における価数変化を起こさないことからMgが好ましい。
【0033】
リチウムコバルト複合酸化物(A)において、充電時における膨張量を小さく抑える観点から、Alの量aは0より大きく0.1未満であり、元素M1の量bは0より大きく0.1未満であり、また、a+bが0.1未満である。なお、Alの量aは0.005以上であることが好ましく、また、元素M1の量bは0.005以上であることが好ましい。さらに、Alの量aは0.08以下であることが好ましく、また、元素M1の量bは0.08以下であることが好ましい。
【0034】
リチウムコバルト複合酸化物(A)は、元素M2を含有していてもよく、含有していなくてもよい(その量cは0でもよい)が、元素M2の量が多すぎると、例えばCoの量が少なくなって、リチウムコバルト複合酸化物(A)の容量が小さくなる虞がある。よって、元素M2の量cは0.05以下であることが好ましい。
【0035】
正極合剤の成形体は、一次粒子の状態の正極活物質を含有している。これにより、正極合剤の成形体における正極活物質と固体電解質との接触が良好となることから、全固体電池の負荷特性が向上する。
【0036】
なお、正極合剤の成形体には、一次粒子からなる正極活物質と共に、二次粒子として存在する正極活物質が含まれていてもよい。二次粒子として存在する正極活物質は、例えば、正極合剤に含有させ得るものとして先に例示した各種正極活物質の二次粒子が挙げられる。ただし、正極合剤における二次粒子として存在する正極活物質の、正極活物質全量中の割合は、少ないほどよく、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。また、正極合剤における正極活物質は、全てが一次粒子からなる正極活物質であってもよい。このため、二次粒子として存在する正極活物質の正極活物質全量中の割合の下限値は、0質量%である。
【0037】
なお、一次粒子からなる正極活物質としては、市販の正極活物質を用いることができる。正極活物質中に二次粒子が一部混在しているが、大半が一次粒子からなるものを使用することもできる。
【0038】
正極合剤の成形体が含有する正極活物質(一次粒子からなる正極活物質)は、その表面に、正極に含まれる固体電解質との反応を抑制するための反応抑制層を有している。
【0039】
正極合剤の成形体内において、正極活物質と固体電解質とが直接接触すると、固体電解質が酸化して抵抗層を形成し、成形体内のイオン伝導性が低下する虞がある。正極活物質の表面に、固体電解質との反応を抑制する反応抑制層を設け、正極活物質と固体電解質との直接の接触を防止することで、固体電解質の酸化による成形体内のイオン伝導性の低下を抑制することができる。
【0040】
反応抑制層は、イオン伝導性を有し、正極活物質と固体電解質との反応を抑制できる材料で構成されていればよい。反応抑制層を構成し得る材料としては、例えば、Liと、Nb、P、B、Si、Ge、TiおよびZrよりなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含む酸化物、より具体的には、LiNbO3などのNb含有酸化物、Li3PO4、Li3BO3、Li4SiO4、Li4GeO4、LiTiO3、LiZrO3、Li2WO4などが挙げられる。反応抑制層は、これらの酸化物のうちの1種のみを含有していてもよく、また、2種以上を含有していてもよく、さらに、これらの酸化物のうちの複数種が複合化合物を形成していてもよい。これらの酸化物の中でも、Nb含有酸化物を使用することが好ましく、LiNbO3を使用することがより好ましい。
【0041】
反応抑制層は、正極活物質:100質量部に対して0.1~1.0質量部で表面に存在することが好ましい。この範囲であれば正極活物質と固体電解質との反応を良好に抑制することができる。
【0042】
正極活物質の表面に反応抑制層を形成する方法としては、ゾルゲル法、メカノフュージョン法、CVD法、PVD法、ALD法などが挙げられる。
【0043】
なお、正極合剤の成形体が、二次粒子として存在する正極活物質も含有する場合には、この二次粒子として存在する正極活物質(二次粒子を構成している正極活物質の一次粒子)も、前記の反応抑制層を有していることが好ましい。
【0044】
正極合剤における正極活物質の含有量は、60~95質量%であることが好ましい。
【0045】
正極合剤の成形体に含有させる固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有していれば特に限定されず、例えば、硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質、ハロゲン化物系固体電解質、酸化物系固体電解質などが使用できる。
【0046】
硫化物系固体電解質としては、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、Li2S-P2S5-GeS2、Li2S-B2S3系ガラスなどの粒子が挙げられる他、近年、Liイオン伝導性が高いものとして注目されているthio-LISICON型のもの〔Li10GeP2S12、Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3などの、Li12-12a-b+c+6d-eM1
3+a-b-c-dM2
bM3
cM4
dM5
12-eXe(ただし、M1はSi、GeまたはSn、M2はPまたはV、M3はAl、Ga、YまたはSb、M4はZn、Ca、またはBa、M5はSまたはSおよびOのいずれかであり、XはF、Cl、BrまたはI、0≦a<3、0≦b+c+d≦3、0≦e≦3〕や、アルジロダイト型のもの〔Li6PS5Clなどの、Li7-f+gPS6-xClx+y(ただし、0.05≦f≦0.9、-3.0f+1.8≦g≦-3.0f+5.7)で表されるもの、Li7-hPS6-hCliBrj(ただし、h=i+j、0<h≦1.8、0.1≦i/j≦10.0)で表されるものなど〕も使用することができる。
【0047】
水素化物系固体電解質としては、例えば、LiBH4、LiBH4と下記のアルカリ金属化合物との固溶体(例えば、LiBH4とアルカリ金属化合物とのモル比が1:1~20:1のもの)などが挙げられる。前記固溶体におけるアルカリ金属化合物としては、ハロゲン化リチウム(LiI、LiBr、LiF、LiClなど)、ハロゲン化ルビジウム(RbI、RbBr、RbF、RbClなど)、ハロゲン化セシウム(CsI、CsBr、CsF、CsClなど)、リチウムアミド、ルビジウムアミドおよびセシウムアミドよりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0048】
ハロゲン化物系固体電解質としては、例えば、単斜晶型のLiAlCl4、欠陥スピネル型または層状構造のLiInBr4、単斜晶型のLi6-3mYmX6(ただし、0<m<2かつX=ClまたはBr)などが挙げられ、その他にも例えば国際公開第2020/070958や国際公開第2020/070955に記載の公知のものを使用することができる。
【0049】
酸化物系固体電解質としては、例えば、ガーネット型のLi7La3Zr2O12、NASICON型のLi1+OAl1+OTi2-O(PO4)3、Li1+pAl1+pGe2-p(PO4)3、ペロブスカイト型のLi3qLa2/3-qTiO3などが挙げられる。
【0050】
これらの固体電解質の中でも、リチウムイオン伝導性が高いことから、硫化物系固体電解質が好ましく、LiおよびPを含む硫化物系固体電解質がより好ましく、特にリチウムイオン伝導性が高く、化学的に安定性の高いアルジロダイト型の硫化物系固体電解質がさらに好ましい。
【0051】
正極合剤における固体電解質の含有量は、4~40質量%であることが好ましい。
【0052】
正極合剤の成形体が含有する固体電解質の平均粒子径をrs(μm)とし、正極合剤の成形体が含有する一次粒子からなる正極活物質の平均粒子径をra(μm)としたとき、rsに対するraの比ra/rsは、2以上20以下である。ra/rsの値が前記の範囲内にある場合には、正極合剤の成形体内における正極活物質と固体電解質との接触が良好になって、これらの間でイオンがスムーズに移動できるようになるため、全固体電池用正極の抵抗値を低減でき、この正極が使用される全固体電池(本発明の全固体電池)の負荷特性を高めることができる。ra/rsの値は、5以上であることがより好ましく、また、15以下であることがより好ましい。
【0053】
固体電解質の平均粒子径は、0.4μm以上であることが好ましく、また、2.5μm以下であることが好ましい。
【0054】
さらに、一次粒子からなる正極活物質の平均粒子径は、2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、また、30μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0055】
なお、正極合剤の成形体が二次粒子の状態で存在する正極活物質を含有する場合、その二次粒子の平均粒子径は、一次粒子からなる正極活物質の平均粒子径と同等程度であることが好ましい。
【0056】
本明細書でいう各種粒子(正極活物質、固体電解質など)の平均粒子径は、粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布測定装置「HRA9320」など)を用いて、粒度の小さい粒子から積分体積を求める場合の体積基準の積算分率における50%径の値(D50)を意味している。
【0057】
なお、正極活物質や固体電解質の平均粒子径は、正極合剤の成形体の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、特定数(例えば30個)の正極活物質や固体電解質のそれぞれについて、SEMのスケールを用いて測定される粒子径の、全ての値の平均値(数平均値)としても求めることができる。そして、この方法によって求められる正極活物質の平均粒子径および固体電解質の平均粒子径が、前記の粒度分布測定装置を用いて求められる正極活物質の平均粒子径および固体電解質の平均粒子径と、ほぼ同等であることを本発明者らは確認している。
【0058】
正極合剤の成形体には、導電助剤を含有させることができる。その具体例としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、グラフェン、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどの炭素材料などが挙げられる。なお、例えば正極活物質にAg2Sを用いる場合には放電反応の際に導電性のあるAgが生成するため、導電助剤は含有させなくてもよい。正極合剤の成形体に導電助剤を含有させる場合には、正極合剤における含有量は、1~10質量%であることが好ましい。
【0059】
正極合剤の成形体には、樹脂製のバインダは含有させなくてもよく、含有させてもよい。樹脂製のバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂などが挙げられる。ただし、樹脂製のバインダは正極合剤の成形体中において抵抗成分として作用するため、その量はできるだけ少ないことが望ましい。よって、正極合剤の成形体においては、樹脂製のバインダを含有させないか、含有させる場合には正極合剤における含有量を0.5質量%以下とすることが好ましい。正極合剤における樹脂製のバインダの含有量は0.3質量%以下であることがより好ましく、0質量%である(すなわち、樹脂製のバインダを含有させない)ことがさらに好ましい。
【0060】
正極に集電体を使用する場合、その集電体としては、アルミニウムやステンレス鋼などの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル、発泡メタル;カーボンシート;などを用いることができる。
【0061】
正極合剤の成形体は、例えば、正極活物質に、必要に応じて添加される導電助剤、バインダ、固体電解質などを混合して調製した正極合剤を、加圧成形などによって圧縮することで形成することができる。
【0062】
集電体を有する正極の場合には、前記のような方法で形成した正極合剤の成形体を集電体と圧着するなどして貼り合わせることで製造することができる。
【0063】
また、前記の正極合剤と溶媒とを混合して正極合剤含有組成物を調製し、これを集電体や正極と対向させる固体電解質層(固体電解質電池を形成する場合)といった基材上に塗布し、乾燥した後にプレス処理を行うことで、正極合剤の成形体を形成してもよい。
【0064】
正極合剤含有組成物の溶媒には、水やN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶媒を使用することができる。なお、正極合剤含有組成物に固体電解質も含有させる場合の溶媒は、固体電解質を劣化させ難いものを選択することが好ましい。特に、硫化物系固体電解質や水素化物系固体電解質は、微少量の水分によって化学反応を起こすため、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、デカリン、トルエン、キシレンなどの炭化水素溶媒に代表される非極性非プロトン性溶媒を使用することが好ましい。特に、含有水分量を0.001質量%(10ppm)以下とした超脱水溶媒を使用することがより好ましい。また、三井・デュポンフロロケミカル社製の「バートレル(登録商標)」、日本ゼオン社製の「ゼオローラ(登録商標)」、住友3M社製の「ノベック(登録商標)」などのフッ素系溶媒、並びに、ジクロロメタン、ジエチルエーテルなどの非水系有機溶媒を使用することもできる。
【0065】
正極合剤の成形体の厚み(集電体を有する電極の場合は、集電体の片面あたりの正極合剤の成形体の厚み。以下、同じ。)は、通常は50μm以上であるが、電池の高容量化の観点から、200μm以上であることが好ましい。また、正極合剤の成形体の厚みは、通常、3000μm以下である。
【0066】
なお、溶媒を含有する正極合剤含有組成物を用いて集電体上に正極合剤の成形体からなる正極合剤層を形成することで製造される正極の場合には、正極合剤層の厚みは、50~1000μmであることが好ましい。
【0067】
<全固体電池>
本発明の全固体電池は、正極、負極、および正極と負極との間に介在する固体電解質層を有し、正極が本発明の全固体電池用正極である。
【0068】
(負極)
全固体電池の負極には、例えば、負極活物質および固体電解質などを含む負極合剤の成形体を有し、負極合剤の成形体のみからなるものや、負極合剤の成形体からなる層(負極合剤層)を集電体上に形成してなる構造のものなどを使用することができる。
【0069】
全固体電池が一次電池の場合の負極活物質としては、金属リチウム、リチウム合金(リチウム-アルミニウム合金)などが挙げられる。
【0070】
また、全固体電池が二次電池の場合の負極活物質としては、金属リチウム、リチウム合金(リチウム-アルミニウム合金)などのほか、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭などの炭素材料;Si、Snなどのリチウムとの合金化が可能な元素を含む合金;SiやSnの酸化物:などが挙げられる。
【0071】
負極合剤における負極活物質の含有量は、40~95質量%であることが好ましい。
【0072】
負極合剤の成形体には固体電解質を含有させる。その具体例としては、正極合剤の成形体に含有させ得るものとして先に例示した固体電解質と同じものなどが挙げられる。前記例示の固体電解質の中でも、リチウムイオン伝導性が高く、また、負極合剤の成形性を高める機能を有していることから、硫化物系固体電解質を用いることがより好ましい。
【0073】
負極合剤における固体電解質の含有量は、4~49質量%であることが好ましい。
【0074】
負極合剤の成形体には、導電助剤を含有させることができる。その具体例としては、正極合剤の成形体に含有させ得るものとして先に例示した導電助剤と同じものなどが挙げられる。負極合剤における導電助剤の含有量は1~10質量%であることが好ましい。
【0075】
また、負極合剤の成形体には樹脂製のバインダは含有させなくてもよく、含有させてもよい。樹脂製のバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂などが挙げられる。ただし、樹脂製のバインダは負極合剤の成形体中においても抵抗成分として作用するため、その量はできるだけ少ないことが望ましい。よって、負極合剤の成形体においては、樹脂製のバインダを含有させないか、含有させる場合には負極合剤における含有量を0.5質量%以下とすることが好ましい。負極合剤における樹脂製のバインダの含有量は0.3質量%以下であることがより好ましく、0質量%である(すなわち、樹脂製のバインダを含有させない)ことがさらに好ましい。
【0076】
負極合剤の成形体を有する負極に集電体を用いる場合、その集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル、発泡メタル;カーボンシート;などを用いることができる。
【0077】
負極合剤の成形体は、例えば、負極活物質および固体電解質、さらには必要に応じて添加される導電助剤やバインダなどを混合して調製した負極合剤を、加圧成形などによって圧縮することで形成することができる。負極合剤の成形体のみで構成される負極の場合は、前記の方法により製造することができる。
【0078】
集電体を有する負極の場合には、前記のような方法で形成した負極合剤の成形体を集電体と圧着するなどして貼り合わせることで製造することができる。
【0079】
また、集電体を有する負極の場合、負極活物質および固体電解質、さらには必要に応じて添加される導電助剤やバインダなどを溶媒に分散させた負極合剤含有組成物(ペースト、スラリーなど)を、集電体に塗布し、乾燥した後、必要に応じてカレンダ処理などの加圧成形をして、集電体の表面に負極合剤の成形体(負極合剤層)を形成する方法によっても、製造することができる。
【0080】
負極合剤含有組成物の溶媒には、水やNMPなどの有機溶媒を使用することができるが、負極合剤含有組成物に固体電解質も含有させる場合の溶媒は、固体電解質を劣化させ難いものを選択することが望ましく、固体電解質を含有する正極合剤含有組成物用の溶媒として先に例示した各種の溶媒と同じものを使用することが好ましい。
【0081】
負極合剤の成形体の厚み(集電体を有する負極の場合は、集電体の片面あたりの負極合剤の成形体の厚み。以下、同じ。)は、通常は50μm以上であるが、電池の高容量化の観点から、200μm以上であることが好ましい。また、負極合剤の成形体の厚みは、通常、3000μm以下である。
【0082】
なお、溶媒を含有する負極合剤含有組成物を用いて集電体上に負極合剤の成形体からなる負極合剤層を形成することで製造される負極の場合には、負極合剤層の厚みは、50~1000μmであることが好ましい。
【0083】
また、負極には、負極活物質となる金属箔などをそのまま用いたものや、負極活物質となる金属箔と集電体とを積層した構造のものなどを使用することもできる。
【0084】
負極活物質と集電体とを積層した構造の負極の場合、例えば前記金属箔と集電体とを圧着するなどして貼り合せて得ることができる。この場合の集電体には、負極合剤の成形体を有する負極に使用可能な集電体として先に例示したものと同じものを用いることができる。
【0085】
負極活物質となる金属箔を有する負極の場合、負極活物質としては、金属リチウムやリチウム合金が挙げられる。リチウム合金に係る合金元素としては、アルミニウム、鉛、ビスマス、インジウム、ガリウムなどが挙げられるが、アルミニウムやインジウムが好ましい。リチウム合金における合金元素の割合(合金元素を複数種含む場合は、それらの合計割合)は、50原子%以下であることが好ましい(この場合、残部はリチウムおよび不可避不純物である)。
【0086】
リチウム合金箔を有する負極の場合、金属リチウム箔などで構成されるリチウム層(リチウムを含む層)の表面にリチウム合金を形成するための合金元素を含む層を圧着するなどして積層した積層体を使用し、この積層体を電池内で固体電解質と接触させることで、前記リチウム層の表面にリチウム合金を形成させて負極とすることもできる。このような負極の場合、リチウム層の片面のみに合金元素を含む層を有する積層体を用いてもよく、リチウム層の両面に合金元素を含む層を有する積層体を用いてもよい。前記積層体は、例えば、金属リチウム箔と合金元素で構成された箔とを圧着することで形成することができる。
【0087】
また、電池内でリチウム合金を形成して負極とする場合にも集電体を使用することができ、例えば、負極集電体の片面にリチウム層を有し、かつリチウム層の負極集電体とは反対側の面に合金元素を含む層を有する積層体を用いてもよく、負極集電体の両面にリチウム層を有し、かつ各リチウム層の負極集電体とは反対側の面に合金元素を含む層を有する積層体を用いてもよい。負極集電体とリチウム層(金属リチウム箔)とは、圧着などにより積層すればよい。
【0088】
負極とするための前記積層体に係る前記合金元素を含む層には、例えば、これらの合金元素で構成された箔などが使用できる。前記合金元素を含む層の厚みは、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、20μm以下であることが好ましく、12μm以下であることがより好ましい。
【0089】
負極とするための前記積層体に係るリチウム層には、例えば、金属リチウム箔などを用いることができる。リチウム層の厚みは、0.1~1.5mmであることが好ましい。また、金属リチウム箔またはリチウム合金箔を有する負極に係る前記箔の厚みも、0.1~1.5mmであることが好ましい。
【0090】
(固体電解質層)
全固体電池の固体電解質層を構成する固体電解質には、正極に使用し得るものとして先に例示した各種の硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質、ハロゲン化物系固体電解質および酸化物系固体電解質のうちの1種または2種以上を使用することができる。ただし、電池特性をより優れたものとするためには、硫化物系固体電解質を含有させることが望ましく、アルジロダイト型の硫化物系固体電解質を含有させることがより望ましい。そして、正極および固体電解質層の両者、並びに負極が固体電解質を含有する負極合剤の成形体である場合には負極にも、硫化物系固体電解質を含有させることがさらに望ましく、アルジロダイト型の硫化物系固体電解質を含有させることが特に望ましい。
【0091】
固体電解質層は、樹脂製の不織布などの多孔質体を支持体として有していてもよい。
【0092】
固体電解質層は、固体電解質を加圧成形などによって圧縮する方法;固体電解質を溶媒に分散させて調製した固体電解質層形成用組成物を基材や正極、負極の上に塗布して乾燥し、必要に応じてプレス処理などの加圧成形を行う方法:などで形成することができる。
【0093】
固体電解質層形成用組成物に使用する溶媒は、固体電解質を劣化させ難いものを選択することが望ましく、固体電解質を含有する正極合剤含有組成物用の溶媒として先に例示した各種の溶媒と同じものを使用することが好ましい。
【0094】
固体電解質層の厚みは、100~400μmであることが好ましい。
【0095】
(電極体)
正極と負極とは、固体電解質層を介して積層した積層電極体や、さらにこの積層電極体を巻回した巻回電極体の形態で、電池に用いることができる。
【0096】
なお、電極体を形成するに際しては、正極と負極と固体電解質層とを積層した状態で加圧成形することが、電極体の機械的強度を高める観点から好ましい。
【0097】
(電池の形態)
本発明の全固体電池の一例を模式的に表す断面図を
図1に示す。
図1に示す全固体電池1は、外装缶40と、封口缶50と、これらの間に介在する樹脂製のガスケット60で形成された外装体内に、本発明の全固体電池用正極10、負極20、および正極10と負極20との間に介在する固体電解質層30が封入されている。
【0098】
封口缶50は、外装缶40の開口部にガスケット60を介して嵌合しており、外装缶40の開口端部が内方に締め付けられ、これによりガスケット60が封口缶50に当接することで、外装缶40の開口部が封口されて素子内部が密閉構造となっている。
【0099】
外装缶および封口缶にはステンレス鋼製のものなどが使用できる。また、ガスケットの素材には、ポリプロピレン、ナイロンなどを使用できるほか、電池の用途との関係で耐熱性が要求される場合には、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)などのフッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル(PEE)、ポリスルフォン(PSF)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの融点が240℃を超える耐熱樹脂を使用することもできる。さらに、電池が耐熱性を要求される用途に適用される場合、その封口には、ガラスハーメチックシールを利用することもできる。
【0100】
また、
図2および
図3に、本発明の全固体電池の他の例を模式的に表す図面を示す。
図2は全固体電池の平面図であり、
図3は
図2のI-I線断面図である。
【0101】
図2および
図3に示す全固体電池100は、2枚の金属ラミネートフィルムで構成したラミネートフィルム外装体500内に、本発明の全固体電池用正極、固体電解質層および負極からなる電極体200を収容しており、ラミネートフィルム外装体500は、その外周部において、上下の金属ラミネートフィルムを熱融着することにより封止されている。なお、
図3では、図面が煩雑になることを避けるために、ラミネートフィルム外装体500を構成している各層や、電極体を構成している正極、負極およびセパレータを区別して示していない。
【0102】
電極体200の有する正極は、電池100内で正極外部端子300と接続しており、また、図示していないが、電極体200の有する負極も、電池100内で負極外部端子400と接続している。そして、正極外部端子300および負極外部端子400は、外部の機器などと接続可能なように、片端側をラミネートフィルム外装体500の外側に引き出されている。
【0103】
全固体電池の形態は、
図1に示すような、外装缶と封口缶とガスケットとで構成された外装体を有するもの、すなわち、一般にコイン形電池やボタン形電池と称される形態のものや、
図2および
図3に示すような、樹脂フィルムや金属-樹脂ラミネートフィルムで構成された外装体を有するもの以外にも、金属製で有底筒形(円筒形や角筒形)の外装缶と、その開口部を封止する封止構造とを有する外装体を有するものであってもよい。
【0104】
本発明の全固体電池は、従来から知られている一次電池や二次電池と同様の用途に適用し得るが、有機電解液に代えて固体電解質を有していることから耐熱性に優れており、高温に曝されるような用途に好ましく使用することができる。また、本発明の全固体電池用正極は、本発明の全固体電池を構成できる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0106】
実施例1
<正極の作製>
平均粒子径raが5μmで表面にLiNbO3からなる層を有するLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2の一次粒子(正極活物質)と、平均粒子径rsが0.6μmのアルジロダイト型構造を有する硫化物系固体電解質(Li6PS5Cl)と、アセチレンブラック(導電助剤)とを、65:32:3の質量比で混合し、よく混練して正極合剤を調製した。次に、前記正極合剤:75mgを直径:7.5mmの粉末成形金型に入れ、プレス機を用いて加圧成形を行い、円柱形状の正極合剤成形体よりなる正極を作製した。なお、LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2の表面のLiNbO3からなる層の量は、LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2:100質量部に対して1質量部であった。
【0107】
<固体電解質層の形成>
次に、前記粉末成形金型内の前記正極合剤成形体の上に、正極の作製に用いたものと同じ硫化物系固体電解質:9.6mgを投入し、プレス機を用いて加圧成形を行い、前記正極合剤成形体の上に固体電解質層を形成して、正極と固体電解質層との積層体を得た。
【0108】
<負極の作製>
負極として、金属Li箔および金属In箔を円柱形状に成形して重ねたものを使用した。
【0109】
<電池の組み立て>
ポリプロピレン製の環状ガスケットをはめ込んだステンレス鋼製の封口缶の内底面上に、金属In箔側を封口缶の内面側にして負極を配置した。次に、正極と固体電解質層との積層体を、固体電解質層が負極側となるように重ねてからステンレス鋼製の外装缶をかぶせた後、外装缶の開口端部を内方にカシメて封止することにより、正極、固体電解質層および負極からなる積層電極体を形成しつつ、直径約9mmの全固体電池を作製した。
【0110】
実施例2
正極活物質を、平均粒子径raが2μmで表面にLiNbO3からなる層を有するLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2の一次粒子(表面のLiNbO3からなる層の量が、LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2:100質量部に対して1質量部)に変更し、固体電解質を、平均粒子径rsが0.9μmのLi6PS5Clに変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤成形体よりなる正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0111】
実施例3
固体電解質を、平均粒子径rsが0.4μmのLi6PS5Clに変更した以外は、実施例2と同様にして正極合剤成形体よりなる正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0112】
実施例4
正極活物質を、平均粒子径raが27μmで表面にLiNbO3からなる層を有するLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2の一次粒子(表面のLiNbO3からなる層の量が、LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2:100質量部に対して1質量部)に変更し、固体電解質を、平均粒子径rsが2μmのLi6PS5Clに変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤成形体よりなる正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0113】
実施例5
正極活物質を、平均粒子径raが8μmで表面にLiNbO3からなる層を有するLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2の一次粒子(表面のLiNbO3からなる層の量が、LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2:100質量部に対して1質量部)に変更した以外は、実施例3と同様にして正極合剤成形体よりなる正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0114】
比較例1
正極活物質を、平均粒子径raが1μmで表面にLiNbO3からなる層を有するLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2の一次粒子(表面のLiNbO3からなる層の量が、LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2:100質量部に対して1質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤成形体よりなる正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0115】
比較例2
正極活物質を、平均粒子径raが50μmで表面にLiNbO3からなる層を有するLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2の一次粒子(表面のLiNbO3からなる層の量が、LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2:100質量部に対して1質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤成形体よりなる正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0116】
比較例3
固体電解質を、平均粒子径rsが0.2μmのLi6PS5Clに変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤成形体よりなる正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0117】
比較例4
固体電解質を、平均粒子径rsが3μmのLi6PS5Clに変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤成形体よりなる正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0118】
比較例5
正極活物質を、平均粒子径raが0.3μmで表面にLiNbO3からなる層を有するLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2の一次粒子(表面のLiNbO3からなる層の量が、LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2:100質量部に対して1質量部)に変更し、固体電解質を、平均粒子径rsが0.3μmのLi6PS5Clに変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤成形体よりなる正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0119】
比較例6
正極活物質を、平均粒子径raが30μmで表面にLiNbO3からなる層を有するLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2の一次粒子(表面のLiNbO3からなる層の量が、LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2:100質量部に対して1質量部)に変更し、固体電解質を、平均粒子径rsが20μmのLi6PS5Clに変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤成形体よりなる正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0120】
比較例7
正極活物質を、平均粒子径raが5μmのLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2の一次粒子(表面にLiNbO3からなる層を持たないもの)に変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤成形体よりなる正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0121】
比較例8
正極活物質を、平均粒子径が5μmで表面にLiNbO3からなる層を有するLiCo0.98Al0.01Mg0.01O2の二次粒子(表面のLiNbO3からなる層の量が、LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2:100質量部に対して1質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤成形体よりなる正極を作製し、この正極を用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0122】
実施例および比較例の全固体電池について、下記の方法で負荷特性を評価した。
【0123】
実施例および比較例の各全固体電池について、0.5Cの電流値で電圧が4.0Vになるまで定電流充電し、続いて電流値が0.02Cになるまで定電圧充電を行った後に0.05Cの電流値で電圧が2.6Vになるまで放電させて、初期容量を測定した。
【0124】
初期特性評価後の各電池について、放電時の電流値を0.5Cに変更した以外は、初期容量測定時と同じ条件で充電し放電させて0.5C放電容量を測定した。そして、各電池の0.5C放電容量を初期容量で除した値を百分率で表して容量維持率を求め、各電池の負荷特性を評価した。
【0125】
これらの結果を、正極における正極活物質および固体電解質の構成と併せて表1に示す。なお、比較例8における正極活物質の平均粒子径は二次粒子の値であるが、表1では、その値を「ra」の欄に記載し、固体電解質の平均粒子径に対する、この二次粒子の平均粒子径の比を「ra/rs」の欄に記載する。
【0126】
【0127】
表1に示す通り、表面に反応抑制層を有する一次粒子からなる正極活物質を使用し、前記正極活物質の平均粒子径raと固体電解質の平均粒子径rsとの比ra/rsを適切な値とした正極合剤成形体からなる正極を有する実施例1~5の全固体電池は、負荷特性評価時の容量維持率が高く、優れた負荷特性を有していた。
【0128】
これに対し、正極活物質と固体電解質とをra/rsの値が不適となるように組み合わせた正極合剤成形体からなる正極を有する比較例1~6の電池、反応抑制層を表面に持たない正極活物質を使用した正極合剤成形体からなる正極を有する比較例7の電池、および二次粒子で存在する正極活物質を使用した正極合剤成形体からなる正極を有する比較例8の電池は、実施例の電池に比べて負荷特性評価時の容量維持率が低く、負荷特性が劣っていた。
【符号の説明】
【0129】
1、100 全固体二次電池
10 正極
20 負極
30 固体電解質層
40 外装缶
50 封口缶
60 ガスケット
200 電極体
300 正極外部端子
400 負極外部端子
500 ラミネートフィルム外装体