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特許7657584モータ駆動用電源回路の放電回路及び放電方法、並びにロボットコントローラ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-28
(45)【発行日】2025-04-07
(54)【発明の名称】モータ駆動用電源回路の放電回路及び放電方法、並びにロボットコントローラ
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/06 20060101AFI20250331BHJP
   B25J 19/06 20060101ALI20250331BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20250331BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20250331BHJP
【FI】
H02M7/06 H
B25J19/06
H02P5/46 J
H02M7/48 M
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020209092
(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公開番号】P2022096154
(43)【公開日】2022-06-29
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】永田 宏明
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-188897(JP,A)
【文献】特開2012-085419(JP,A)
【文献】特開2010-188498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/00- 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業用ロボットを駆動するモータのために設けられて前記モータの駆動のために直流電力を二次側から出力する電源回路に対して前記電源回路とは別個に設けられ、前記電源回路が当該電源回路の前記二次側に備えているコンデンサを放電する放電回路であって、
前記電源回路の一次側に入力する電圧を検出する第1電圧検出器と、
前記電源回路の二次側の電圧を検出する第2電圧検出器と、
前記電源回路の前記二次側において前記電源回路に並列に設けられた放電抵抗と、
前記放電抵抗に流れる電流を断続するスイッチ素子と、
前記放電抵抗に電流が流れるように前記スイッチ素子を制御する放電制御を実行する電源制御手段と、
を有し、
前記電源制御手段は、前記第2電圧検出器において検出される電圧が回生判定値を上回ったときに前記放電制御を実行するとともに、前記第1電圧検出器において前記一次側の電圧が停電判定値を下回った場合に前記一次側の電圧が前記停電判定値を下回った時点から前記産業用ロボットの停止動作に必要な時間経過したときに前記放電制御を実行し、
前記産業用ロボットの停止動作に必要な時間は、前記コンデンサに蓄積された電荷による残留電圧を利用して、動作中の前記産業用ロボットを非常停止指令により制御して当該産業用ロボットを減速させて安全に停止させる動作に必要な時間である、放電回路。
【請求項2】
前記産業用ロボットの停止動作に必要な時間が予め記憶されている、請求項1に記載の放電回路。
【請求項3】
前記電源制御手段は、前記モータを制御する主制御手段から、前記産業用ロボットの停止動作に必要な時間が通知される、請求項1に記載の放電回路。
【請求項4】
前記電源制御手段は、前記モータを制御する主制御手段から前記産業用ロボットの停止動作が終了したことを通知され、前記通知があったときに、前記産業用ロボットの停止動作に必要な時間が経過したと判断して前記放電制御を実行する、請求項1に記載の放電回路
【請求項5】
産業用ロボットを駆動するモータのための電源回路に設けられているコンデンサを放電する放電方法であって、
前記電源回路の二次側の電圧が回生判定値を上回ったときに、前記電源回路の二次側に対して並列に設けられている放電抵抗に電流を流す放電制御を実行し、
前記電源回路の一次側の電圧が停電判定値を下回った場合にも、前記一次側の電圧が前記停電判定値を下回った時点から前記産業用ロボットの停止動作に必要な時間経過したときに前記放電制御を実行し、
前記産業用ロボットの停止動作に必要な時間は、動作中の前記産業用ロボットを非常停止指令により制御して当該産業用ロボットを減速させて安全に停止させる動作に必要な時間である、放電方法。
【請求項6】
前記産業用ロボットの停止動作に必要な時間として予め記憶されている値に基づいて前記放電制御を実行する、請求項5に記載の放電方法。
【請求項7】
前記モータを制御する主制御手段から通知された、前記産業用ロボットの停止動作に必要な時間に基づいて、前記放電制御を実行する、請求項5に記載の放電方法。
【請求項8】
前記モータを制御する主制御手段から前記産業用ロボットの停止動作が終了したことを通知されたときに、前記産業用ロボットの停止動作に必要な時間が経過したと判断して前記放電制御を実行する、請求項5に記載の放電方法。
【請求項9】
軸ごとにモータを備える産業用ロボットとは別個に設けられて前記産業用ロボットを制御するロボットコントローラであって、
整流回路と平滑コンデンサとを備え、一次側に供給された交流電力に基づいて二次側から直流電力を出力する電源回路と、
前記電源回路の前記一次側に入力する交流電圧を検出する第1電圧検出器と、
前記電源回路の前記二次側の電圧を検出する第2電圧検出器と、
前記二次側において前記電源回路に並列に設けられた放電抵抗と、
前記放電抵抗に流れる電流を断続するスイッチ素子と、
前記二次側から出力される直流電力が供給されて前記モータを駆動して制御するサーボコントローラと、
前記サーボコントローラに対して指令を出力することにより前記モータに対する制御を行なう主制御手段と、
前記放電抵抗に電流が流れるように前記スイッチ素子を制御する放電制御を実行する電源制御手段と、
を有し、
前記電源回路は、前記モータの駆動のために直流電力を前記二次側から出力し、
前記電源回路において前記平滑コンデンサは当該電源回路の前記二次側に設けられており、
前記電源制御手段は、前記第2電圧検出器において検出される電圧が回生判定値を上回ったときに前記放電制御を実行するとともに、前記第1電圧検出器において前記一次側の電圧が停電判定値を下回った時点から前記産業用ロボットの停止動作に必要な時間経過したときに前記放電制御を実行し、
前記主制御手段は、前記一次側の電圧が前記停電判定値を下回った場合に前記産業用ロボットを減速停止させる処理を実行し、
前記産業用ロボットの停止動作に必要な時間は、前記平滑コンデンサに蓄積された電荷による残留電圧を利用して、動作中の前記産業用ロボットを非常停止指令により制御して当該産業用ロボットを減速させて安全に停止させる動作に必要な時間である、ロボットコントローラ。
【請求項10】
前記主制御手段は、前記産業用ロボットの停止動作に必要な時間を放電遅延時間として格納するメモリを備え、前記メモリに格納されている前記放電遅延時間を前記電源制御手段に通知し、
前記電源制御手段は、通知された前記放電遅延時間に基づいて前記放電制御を実行する、請求項9に記載のロボットコントローラ。
【請求項11】
前記主制御手段は、前記産業用ロボットを減速停止させる処理が完了したときに前記電源制御手段に通知し、
前記電源制御手段は、前記通知があったときに、前記産業用ロボットの停止動作に必要な時間が経過したと判断して前記放電制御を実行する、請求項9に記載のロボットコントローラ。
【請求項12】
外部の交流電源と前記電源回路の前記一次側との間に挿入された入力リレーをさらに備え、前記入力リレーは前記産業用ロボットの非常停止時に開放される、請求項9乃至11のいずれか1項に記載のロボットコントローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットの各軸を駆動するモータのための電源回路に対して設けられる放電回路と、電源回路の放電方法と、電源回路及び放電回路を備えたロボットコントローラとに関する。
【背景技術】
【0002】
同期モータや誘導モータなどのモータをサーボドライバによって駆動制御する機器では、商用の交流電源などの外部電源からの交流電力を整流回路によって整流し平滑して得られた直流電力が、サーボドライバに供給される。ここでは整流回路と整流回路の出力に設けられる平滑コンデンサ(キャパシタ)とを含む回路を電源回路と呼ぶことにする。モータを減速させる制御を行なうときは、モータからサーボドライバを介して電源回路側に回生電流が流れる。回生電流が電源回路側に流れると電源回路の二次側(出力側)での直流電圧が上昇し、電源回路に接続する機器や素子の耐圧(すなわち許容される最大の入力電源電圧値)を超える恐れが生じる。そこでモータを用いる機器では、電源回路の二次側に放電抵抗を設け、電源電圧値が一定値を超えたら回生電流を放電抵抗に流して放電抵抗により回生エネルギーを消費するように構成すること「が一般的である。特許文献1は、非常停止時に放電抵抗によって回生エネルギーを消費することによりモータにブレーキをかけることができる回路を開示している。
【0003】
電源回路の一次側(入力側)への交流電力の供給を遮断したときや交流電源が停電となったときは、電源回路の平滑コンデンサには電荷が蓄積されたままであって直流電圧が出力され続けるが、このような場合には、安全確保のため、電源回路の二次側の直流電圧を所定の時間内に所定値以下とする必要がある。特許文献2は、コンタクタにより電源回路への交流電力の供給を遮断したときに、回生エネルギー消費用の放電抵抗を使用して平滑コンデンサの蓄積電荷を強制的に放電させる制御装置を開示している。特許文献3は、交流電源での停電を検出したときに、回生エネルギー消費用の放電抵抗を使用して平滑コンデンサの蓄積電荷を強制的に放電させる制御装置を開示している。特許文献4は、停電を検出したときに、モータを駆動するインバータに対して減速制御指令を出力するともに、放電抵抗を備える回生放電回路に対して回生放電指令を出力するモータ停止回路を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-262283号公報
【文献】特開2004-249534号公報
【文献】特開平9-121592号公報
【文献】特開平10-243675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
産業用ロボットでは、その各軸を駆動するモータとして一般に同期モータあるいは誘導モータが使用され、これらのモータはインバータ機能を有するサーボドライバによって駆動制御される。産業用ロボットのモータでも減速制御を行なうときには回生電流が発生するから、電源回路には回生エネルギーを消費するための放電抵抗が接続され、電源回路の二次側の電圧に応じて放電抵抗に回生電流が流れるようにされる。また産業用ロボットでは、その安全規格上、ロボットの非常停止や交流電源の停電などによって外部電源からの電力供給が遮断されたときに、所定の時間(例えば1分間)内に、電源回路の二次側の電圧を所定の電圧値(例えば43V)以下とすることが求められる。ロボットの非常停止では、リレーやコンタクタによって電源回路の一次側において交流電源を遮断することが一般的である。所定の時間内に電源回路の二次側の電圧を所定の電圧値とするために、特許文献2~4に記載された技術を用いることも考えられる。しかしながら、ロボットの非常停止を行う場合には、移動中のロボットの各軸を安全に停止させる必要があって、そのためには停止動作の期間中もモータを駆動制御するサーボドライバに電力を供給する必要がある場合がある。例えば、ロボットのあるアームが上昇しているときにロボットの非常停止を行う場合、上昇中のアームの速度を所定の減速度で減少させて0とする必要があり、そのときはモータに電力を供給してモータを力行運転させることになる。ロボットを減速停止させる制御を行なっているときにモータへの電力供給が絶たれると、ロボットは制御さないいわゆるフリーラン状態となるおそれがあり、より危険な状態となる可能性がある。したがって、特許文献2~4に記載された技術を適用した場合には、停電時や非常停止時にロボットの安全な停止を実現できない可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、産業用ロボットのモータの駆動に用いられる電源回路のための放電回路及び放電方法であって、外部電源の停電時やロボットの非常停止時にロボットを安全に停止させることができるとともに、安全規格などによって規定されている時間内に安全な電圧まで電源回路の二次側の電圧を低下させることができる放電回路及び放電方法を提供することにある。本発明の別の目的は、そのような放電回路と電源回路とを備えたロボットコントローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の放電回路は、産業用ロボットを駆動するモータのために設けられてモータの駆動のために直流電力を二次側から出力する電源回路に対して電源回路とは別個に設けられ、電源回路がその電源回路の二次側に備えているコンデンサを放電する放電回路であって、電源回路の一次側に入力する電圧を検出する第1電圧検出器と、電源回路の二次側の電圧を検出する第2電圧検出器と、電源回路の二次側において電源回路に並列に設けられた放電抵抗と、放電抵抗に流れる電流を断続するスイッチ素子と、放電抵抗に電流が流れるようにスイッチ素子を制御する放電制御を実行する電源制御手段と、を有し、電源制御手段は、第2電圧検出器において検出される電圧が回生判定値を上回ったときに放電制御を実行するとともに、第1電圧検出器において一次側の電圧が停電判定値を下回った場合に一次側の電圧が停電判定値を下回った時点から産業用ロボットの停止動作に必要な時間経過したときに放電制御を実行する。ここで産業用ロボットの停止動作に必要な時間は、コンデンサに蓄積された電荷による残留電圧を利用して、動作中の産業用ロボットを非常停止指令により制御してその産業用ロボットを減速させて安全に停止させる動作に必要な時間である。
【0008】
産業用ロボットではその非常停止時には機械的な接点を遮断することにより電源回路の一次側への電力供給を遮断することになっているから、外部電源の停止時あるいはロボットの非常停止時には、電源回路の一次側への電力供給が遮断されて一次側の電圧が停電判定値を下回ることになる。本発明の放電回路では、モータで発生する回生エネルギーを消費する放電抵抗が電源回路の二次側(出力側)に設けられているときに、この放電抵抗を、外部電源の停電時やロボットの非常停止時などにおいて電源回路内の平滑コンデンサを放電するためにも使用する。そして、電源回路の一次側の電圧が停電判定値を下回ったことにより外部電源の停電またはロボットの非常停止を検出した場合には、ロボットの停止動作に必要な時間の経過ののちに放電抵抗による放電を実行する。ロボットの停止動作に必要な時間の間は電源回路の二次側に電圧が残留するので、ロボットを安全に停止でき、また、そののちは放電抵抗による放電によって電源回路の二次側の電圧を短期間に、例えば安全規格で定められているような期間内に、安全なレベルにまで低下させることができる。
【0009】
本発明の放電回路では、産業用ロボットの停止動作に必要な時間が例えば数値として予め記憶されていることが好ましい。記憶される数値は、産業用ロボットの機種ごとに定まっていてもよい。また、ロボットが動作中であるとしてそのロボットの安全な停止にかかる時間の最大値は、ロボットの構成や仕様に基づいて事前に分かっているから、そのような最大値に対して適切なマージンを加えた値を産業用ロボットの停止動作に必要な時間とすることが好ましい。産業用ロボットの停止動作に必要な時間を予め記憶しておくことにより、ロボットの非常停止時や外部電源の停電時により確実に放電動作を行うことが可能になる。ロボットの各軸のモータを制御する主制御手段が設けられているときは、電源制御手段が主制御手段から産業用ロボットの停止動作に必要な時間を通知されるようにしてもよい。産業用ロボットの停止動作に必要な時間を主制御手段側で管理することにより、ロボットの機種変更などに対してより柔軟に対応することが可能になる。
【0010】
本発明の放電回路では、電源制御手段は、モータを制御する主制御手段から産業用ロボットの停止動作が終了したことを通知され、その通知があったときに、産業用ロボットの停止動作に必要な時間が経過したと判断して放電制御を実行するようにしてもよい。この場合は、実際に停止動作が終了したことを確認してから放電制御を行なうので、ロボットをより確実に安全に停止させることができる。
【0011】
本発明の放電方法は、産業用ロボットを駆動するモータのための電源回路に設けられているコンデンサを放電する放電方法であって、電源回路の二次側の電圧が回生判定値を上回ったときに、電源回路の二次側に対して並列に設けられている放電抵抗に電流を流す放電制御を実行し、電源回路の一次側の電圧が停電判定値を下回った場合にも、一次側の電圧が停電判定値を下回った時点から産業用ロボットの停止動作に必要な時間経過したときに放電制御を実行する。ここで産業用ロボットの停止動作に必要な時間は、動作中の産業用ロボットを非常停止指令により制御してその産業用ロボットを減速させて安全に停止させる動作に必要な時間である。
【0012】
本発明の放電方法では、モータで発生する回生エネルギーを消費する放電抵抗が電源回路の二次側に設けられている場合に、この放電抵抗を、外部電源の停電時やロボットの非常停止時などにおいて電源回路内の平滑コンデンサを放電するためにも使用する。そして、外部電源の停電またはロボットの非常停止を検出した場合には、ロボットの停止動作に必要な時間の経過ののちに放電抵抗による放電を実行する。ロボットの停止動作に必要な時間の間は電源回路の二次側に電圧が残留するので、ロボットを安全に停止でき、また、そののちは放電抵抗による放電によって電源回路の二次側の電圧を短期間に、例えば安全規格で定められているような期間内に、安全なレベルにまで低下させることができる。
【0013】
本発明の放電方法では、産業用ロボットの停止動作に必要な時間として予め記憶されている値に基づいて放電制御を実行することができる。産業用ロボットの停止動作に必要な時間を予め記憶しておくことにより、ロボットの非常停止時や外部電源の停電時により確実に放電動作を行うことが可能になる。ロボット各軸のモータを制御する主制御手段が設けられているときは、主制御手段から通知された、産業用ロボットの停止動作に必要な時間に基づいて放電制御を実行してもよい。産業用ロボットの停止動作に必要な時間を主制御手段側で管理することにより、ロボットの機種変更などに対してより柔軟に対応することが可能になる。
【0014】
本発明の放電方法では、モータを制御する主制御手段から産業用ロボットの停止動作が終了したことを通知されたときに、産業用ロボットの停止動作に必要な時間が経過したと判断して放電制御を実行してもよい。この場合は、実際に停止動作が終了したことを確認してから放電制御を行なうので、ロボットをより確実に安全に停止させることができる。
【0015】
本発明のロボットコントローラは、軸ごとにモータを備える産業用ロボットとは別個に設けられて産業用ロボットを制御するロボットコントローラであって、整流回路と平滑コンデンサとを備え、一次側に供給された交流電力に基づいて二次側から直流電力を出力する電源回路と、電源回路の一次側に入力する交流電圧を検出する第1電圧検出器と、電源回路の二次側の電圧を検出する第2電圧検出器と、二次側において電源回路に並列に設けられた放電抵抗と、放電抵抗に流れる電流を断続するスイッチ素子と、二次側から出力される直流電力が供給されてモータを駆動して制御するサーボコントローラと、サーボコントローラに対して指令を出力することによりモータに対する制御を行なう主制御手段と、放電抵抗に電流が流れるようにスイッチ素子を制御する放電制御を実行する電源制御手段と、を有し、電源回路は、モータの駆動のために直流電力を二次側から出力し、電源回路において平滑コンデンサはその電源回路の二次側に設けられており、電源制御手段は、第2電圧検出器において検出される電圧が回生判定値を上回ったときに放電制御を実行するとともに、第1電圧検出器において一次側の電圧が停電判定値を下回った場合に、産業用ロボットの停止動作に必要な時間の経過ののちに放電制御を実行し、主制御手段は、一次側の電圧が停電判定値を下回った場合に産業用ロボットを減速停止させる処理を実行する。ここで産業用ロボットの停止動作に必要な時間は、平滑コンデンサに蓄積された電荷による残留電圧を利用して、動作中の産業用ロボットを非常停止指令により制御してその産業用ロボットを減速させて安全に停止させる動作に必要な時間である。
【0016】
本発明のロボットコントローラでは、モータで発生する回生エネルギーを消費する放電抵抗が電源回路の二次側に設けられており、この放電抵抗を、外部電源の停電やロボットの非常停止などの理由によって電源回路への交流電力の供給が遮断したときに電源回路内の平滑コンデンサを放電するためにも使用する。そして、電源回路の一次側の電圧が停電判定値を下回ったことにより交流電力の供給の遮断を検出した場合に、電源制御手段は、ロボットの停止動作に必要な時間の経過ののちに放電抵抗による放電を実行する。ロボットの停止動作に必要な時間の間は電源回路の二次側に電圧が残留するので、その間に主制御手段による減速停止処理によってロボットを安全に停止でき、また、そののちは放電抵抗による放電によって電源回路の二次側の電圧を短期間に、例えば安全規格で定められているような期間内に、安全なレベルにまで低下させることができる。
【0017】
本発明のロボットコントローラでは、主制御手段は、産業用ロボットの停止動作に必要な時間を放電遅延時間として格納するメモリを備え、メモリに格納されている放電遅延時間を電源制御手段に通知し、電源制御手段は、通知された放電遅延時間に基づいて放電制御を実行することが好ましい。主制御手段は、ロボットの制御に必要な各種のパラメータを格納するメモリを備えることが通例であるから、産業用ロボットの停止動作に必要な時間も放電遅延時間としてそのメモリに記憶させておき、例えばロボットコントローラにロボットを接続するたびに放電遅延時間を電源制御手段に通知することによって、種々の機種のロボットのうちのいずれにも対応できるようになり、ロボットの機種変更にも対して柔軟に対応できるようになる。
【0018】
本発明のロボットコントローラでは、主制御手段が、産業用ロボットを減速停止させる処理が完了したときに電源制御手段に通知し、電源制御手段が、通知があったときに、産業用ロボットの停止動作に必要な時間が経過したと判断して放電制御を実行するようにしてもよい。この場合は、実際に停止動作が終了したことを確認してから放電制御を行なうので、ロボットをより確実に安全に停止させることができる。
【0019】
本発明のロボットコントローラでは、外部の交流電源と電源回路の一次側との間に入力リレーを挿入し、この入力リレーは産業用ロボットの非常停止時に開放されるようにすることが好ましい。この構成により、非常停止時により確実にロボットを安全に停止させることができ、かつ、非常停止時に規定の時間内で電源回路の二次側の電圧をより確実に安全な電圧レベルとすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、外部電源の停電時やロボットの非常停止時にロボットを安全に停止させることができるとともに、安全規格などによって規定されている時間内に安全な電圧まで電源回路の二次側の電圧を低下させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の一形態のロボットコントローラの構成を示すブロック図である。
図2】外部から非常停止指令が入力したときの動作を説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。本発明に基づく放電回路は、産業用ロボットの制御を行なうロボットコントローラにおいて好ましく用いられるものである。図1は、本発明の実施の一形態のロボットコントローラの構成を示すブロック図である。以下において、産業用ロボットを単にロボットとも呼ぶ。
【0023】
図1に示すロボットコントローラは、軸ごとにモータ31を備えるロボット30の制御に用いられるものであって、外部電源、例えば単相200/230V、50/60Hzの商用交流電源に接続する。以下の説明では外部電源は交流電源であるものとする。ロボットコントローラは、外部電源から受電する受電端子11を備えており、受電端子11で受電した交流電力は、入力リレー12を介して電源回路10の一次側に供給される。入力リレー12は、機械的接点を備えており、外部電源からの交流電力を電源回路10に供給し、また遮断する。特に入力リレー12は、非常停止指令が入力したときに直ちに電源回路10の一次側への交流電力の供給を遮断できるように構成されている。
【0024】
電源回路10は、その一次側に供給された交流電力を整流する全波整流回路14と、全波整流回路14の出力側に設けられた平滑コンデンサ15とを備え、ロボット30の各軸のモータ31の駆動のために平滑後の直流電力を二次側から出力する。電源回路10の一次側には、入力する交流電力の電圧を検知する交流電圧検出器13が設けられ、電源回路10の二次側には、出力される直流電力の電圧を検知する直流電圧検出器16が設けられている。交流電圧検出器13及び直流電圧検出器16は、それぞれ、第1電圧検出器及び第2電圧検出器に相当する。電源回路10の二次側から出力される直流電力は、ロボット30の軸ごとに対応して設けられているサーボドライバ20に供給される。後述するようにロボットコントローラは主制御部22も備えており、サーボドライバ20は、主制御部22によって制御され、ロボット30における対応する軸のモータ31を駆動しサーボ制御する。モータ31は例えば同期モータあるいは誘導モータで構成されており、減速するときには起電力を発生する。サーボドライバ30は、減速時にモータ31において発生する起電力による回生電流を電源回路10の側に出力する機能も有する。
【0025】
モータ31からの回生電流が電源回路10側に流れると、電源回路10の二次側の電圧が上昇する。この電圧が過度に上昇すると、電源回路10に接続する機器や素子、例えばサーボドライバ20に許容される最大入力電源電圧値を超える恐れがあり、電源回路10の平滑コンデンサ15自体の耐圧を超える恐れもある。そこで電源回路10の二次側に対して放電抵抗18が並列に設けられ、さらに、放電抵抗18に流れる電流を断続するスイッチ素子19が設けられている。図示した例では、スイッチ素子19としてNPN型のバイポーラトランジスタが用いられ、放電抵抗18の一端は、電源回路10の二次側から延びる正(+)側の導線に接続し、放電抵抗18の他端はスイッチ素子19であるトランジスタのコレクタに接続している。このトランジスタのエミッタは、電源回路10の二次側から延びる負(-)側の導線に接続している。そしてスイッチ素子19の導通を制御するために、スイッチ素子19であるトランジスタのゲートに信号を出力する電源制御部21が設けられている。
【0026】
電源回路10の一次側に供給される交流電圧が200Vであるとすると、電源回路10の二次側からは280V程度の直流電圧が出力される。モータ31からの回生電流が流れると、電源回路10の二次側の電圧が上昇し、例えば400Vを超えることも想定される。そこで電源制御部21は、直流電圧検出器16を介して電源回路10の二次側の直流電圧を監視し、この直流電圧が回生判定値を超えたときにスイッチ素子19を導通させ、回生判定値を下回ったときにスイッチ素子19を遮断させるように、スイッチ素子19に信号を出力する。スイッチ素子19が導通状態に制御されることによって放電抵抗18に回生電流が流れて回生エネルギーが消費され、これにより、電源回路10の二次側の電圧が低下する。スイッチ素子19を導通状態として放電抵抗18に電流が流れるようにする制御を放電制御と呼ぶ。実際にはスイッチ素子19の導通と遮断の制御にはヒステリシス特性が組み込まれており、電源制御部21は、電源回路10の二次側の電圧が例えば400Vを超えたらスイッチ素子19を導通させて放電抵抗18により回生エネルギーを消費させ、回生エネルギーの消費により電源回路10の二次側の電圧が例えば380Vを下回ったらスイッチ素子19を遮断状態とする。これにより、回生電流が存在しても、電源回路10の二次側の直流電圧は400V以下に維持される。電源制御部21は、例えばCPU(中央処理ユニット)あるいはマイクロプロセッサなどにより構成される。
【0027】
さらに本実施形態のロボットコントローラでは、電源制御部21は、外部電源の停電時やロボットの非常停止時に、安全規格で定める期間内に電源回路10の二次側の電圧を所定の安全レベル以内とする制御も実施する。安全規格では、一例として、外部電源の遮断や非常停止時に1分以内に電圧を43V未満とすることが定められている。ロボットコントローラには入力リレー12が設けられており、非常停止指令が入力リレー12に入力すると入力リレー12は直ちに開放状態となり、電源回路10の一次側の電圧は0Vとなる。もちろん外部電源の停電時にも電源回路10の一次側の電圧は0Vとなる。交流電圧検出器は13は、電源回路10の一次側の交流電圧を常時監視しており、この電圧が所定の停電判定値を下回ったときには、ロボットの非常停止あるいは外部電源の停電が発生したと判定することができる。電源制御部21は、交流電圧検出器13で検出される交流電圧が停電判定値を下回った場合に、その時点で回生エネルギーを消費するために放電抵抗18に回生電流が流れるように制御しているかどうかによらずに、ロボット30の停止動作に必要な時間の経過ののちに、スイッチ素子19を導通させることにより放電制御を行なう。ロボット30の停止動作に必要な時間を放電遅延時間と呼ぶことにすると、交流電圧検出器13で検出される交流電圧が停電判定値を下回ってから放電遅延時間が経過するまでは、回生エネルギーの消費も含めてそれまで通りの制御を実施する。その結果、停電や非常停止を検出したのち放電遅延時間が経過するまでは、外部電源からの交流電力の供給が遮断されていてもそれまでに平滑コンデンサ15に蓄積された電荷により、電源回路10の二次側にはモータ31を駆動できるだけの残留電圧が発生している。そこでこの残留電圧を利用してロボット30を減速停止させる動作を実行すれば、ロボット30を安全に停止させることが可能になる。そして放電遅延時間の経過ののち、電源制御部21は、スイッチ素子19を導通させる放電制御を実行することにより、電源回路10の二次側から延びる1対の導線の間を放電抵抗18で接続する。その結果、平滑コンデンサ15に蓄積されていた電荷は放電抵抗18を介して放電し、電源回路10の二次側の電圧は、平滑コンデンサ15の容量値と放電抵抗18の抵抗値との積である時定数に応じて速やかに0Vまで低下する。
【0028】
ここでロボット30の停止動作に必要な時間である放電遅延時間について説明する。ロボット30が動作中であるとして非常停止指令によりそのロボット30を減速させて安全に停止させる動作を考える。ロボット30の大きさやどのような運動をしているかによって、安全に停止させるためにかかる時間は異なるが、減速させて安全に停止させる動作にかかる時間の最大値は、ロボットの機種ごとにそのロボットの構成や設計に基づいて事前に求めておくことができる。本実施形態では、そのような最大値に対してさらに適切な安全マージンを加えた値を、放電遅延時間とする。複数機種のロボット30に対応できるロボットコントローラの場合は、ロボット30の機種ごとに放電遅延時間を定めておくことが好ましい。動作中のロボット30を減速させて安全に停止させる動作にかかる時間は、大型のロボットほど長くなる傾向にあるが、高々数秒程度である。一方、安全規格においては、非常停止時は1分程度の時間ののちに電源回路10の出力側の電圧がいわゆる安全電圧以下となることが要求されている。したがって、放電遅延時間を設定して平滑コンデンサ15の放電が始まる時刻を非常停止のタイミングから数秒から10秒程度遅らせたとしても安全規格上の問題は生じない。
【0029】
放電遅延時間は、予め電源制御部21に記憶させておくことができる。あるいは、以下に説明するように主制御部22側に放電遅延時間を記憶させておき、ロボットコントローラにロボット30を接続したとき、あるいはロボットコントローラを起動したときに、主制御部22から電源制御部21に通知されるようにしてもよい。
【0030】
次に、本実施形態のロボットコントローラにおける主制御部22について説明する。主制御部22は、外部からロボット30に対する動作指令が与えられたときに、その動作指令に基づいてロボット30を動作させるために、各軸のサーボドライバ20を出力して各軸のモータ31を制御する。主制御部22は、CPUあるいはマイクロプロセッサにより構成される。主制御部22には、ロボット30の制御に必要な各種のパラメータを格納する不揮発性メモリ23が接続している。不揮発性メモリ23を主制御部23の内部に設けることも可能であり、その場合は、CPUあるいはマイクロプロセッサに内蔵されるフラッシュメモリを不揮発性メモリ23として使用する。主制御部22と不揮発性メモリ23とによって主制御手段が構成される。不揮発性メモリ23に格納されるパラメータには、ロボット23の機種ごとの放電遅延時間が含まれてもよく、その場合は、電源制御部21で用いる放電遅延時間は主制御部22から電源制御部21に通知されることになる。また、回生エネルギーを消費するための放電制御に用いる回生判定値も不揮発性メモリ23に格納して主制御部22から電源制御部21に通知するようにしてもよい。
【0031】
さらに主制御部22は、交流電圧検出器13で検出される交流電圧が停電判定値を下回った場合に、すなわち電源回路10の一次側への交流電力の供給が遮断したと判断される場合に、ロボット30を減速停止させる処理を実行する。図1では交流電圧検出器13の出力が主制御部22にもそのまま供給されているが、主制御部22は、交流電圧検出器13で検出される交流電圧が停電判定値を下回ったことを電源制御部21から通知されてもよい。
【0032】
図2は、本実施形態のロボットコントローラにおいて、ロボット30が通常動作をしているときに外部から非常停止指令が入力したときの動作を示している。電源回路10の一次側には交流200Vが供給されており、その結果、モータ31に対する電源電圧、すなわち電源回路10の二次側の直流電圧は280Vであるものとする。図において外部非常停止が通常動作から非常停止に変化することは、ロボットコントローラに対する非常停止指令が入力したことを意味する。非常停止指令が入力すると、入力リレー12の接点の状態が、閉成(ON)から開放(OFF)へと変化して電源回路10の一次側への交流電力の供給が遮断され、交流電力の供給が遮断したことが交流電圧検出器13によって検出される。この時点では放電抵抗18に接続するスイッチ素子19は遮断状態であり、放電抵抗18は放電動作を行っていない。
【0033】
交流電力の供給が遮断したことが交流電圧検出器13によって検出されると、このタイミングで主制御部22はロボット30を減速停止させる処理を実行する。このとき、モータ31の電源電圧は徐々に低下するが、ロボット30の安全な停止に支障をきたすまでは低下しない。一方、電源制御部21は、交流電力の供給が遮断したことが交流電圧検出器13によって検出されたタイミングから放電遅延時間が経過してから、スイッチ素子19を導通させる放電制御を行なう。ロボット30の減速停止の動作は、放電遅延時間の経過の前に完了しており、放電抵抗18の放電が開始する時点では、ロボット30は安全に停止した状態にある。図においてAは、ロボット30が完全に停止してから放電抵抗18の開始までのマージンを示している。放電抵抗18が放電を開始すれば、モータ31の電源電圧すなわち電源回路10の二次側の電圧は速やかに0Vとなる。
【0034】
以上説明したように本実施形態では、ロボット30の停止動作に必要な時間を放電遅延時間として予め設定しておき、電源回路10の一次側への交流電力の遮断を検出してから放電遅延時間の経過ののちに放電抵抗18による放電を実施することにより、ロボット30を安全に停止させつつ、電源回路10の二次側での残留電圧に関する安全規格をも満たすことが可能になる。ロボット30の機種ごとの放電遅延時間をパラメータとして不揮発性メモリ23に格納しておくことにより、ロボットコントローラに接続するロボット30の機種変更にも柔軟に対応することが可能になる。
【0035】
以上の説明においては、ロボット30の停止動作に必要な時間である放電遅延時間が予め記憶されており、電源制御部21は、記憶されている放電遅延時間に基づき、電源回路10の一次側への交流電力の遮断を検出してから放電遅延時間の経過ののちに放電抵抗18による放電を実施している。しかしながら本発明において、ロボット30の停止動作に必要な時間が経過したかどうかは、予め設定されて記憶されている放電遅延時間に基づかなくても判定することができる。主制御部22は、ロボット20を減速停止させる処理を現実に実行しており、ロボット20が完全に停止したかどうかを知ることができる。そこで、ロボット30を減速停止させる処理が完了したときにその旨を主制御部22が電源制御部21に通知し、この通知があったときに電源制御部21がロボット30の停止動作に必要な時間が経過したと判断して放電制御を実行するようにしてもよい。このように構成した場合は、実際に停止動作が終了したことを確認してから放電制御を行なうので、ロボット30をより確実に安全に停止させることができる。
【符号の説明】
【0036】
10…電源回路;11…受電端子;12…入力リレー;13…交流電圧検出器;14…全波整流回路;15…平滑コンデンサ;16…直流電圧検出器;18…放電抵抗;19…放電トランジスタ;20…サーボドライバ;21…電源制御部;22…主制御部:30…ロボット;31…モータ。
図1
図2