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特許7657637金属担持チタニアナノ粒子及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-28
(45)【発行日】2025-04-07
(54)【発明の名称】金属担持チタニアナノ粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/053 20060101AFI20250331BHJP
   B01J 35/39 20240101ALI20250331BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20250331BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20250331BHJP
【FI】
C01G23/053
B01J35/39
C09D7/62
C09D201/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021058606
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022155211
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-11-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 博輝
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-171319(JP,A)
【文献】特開2018-144004(JP,A)
【文献】国際公開第2014/141992(WO,A1)
【文献】特開2013-236997(JP,A)
【文献】国際公開第2016/042913(WO,A1)
【文献】特表2004-507421(JP,A)
【文献】特表2009-535326(JP,A)
【文献】特開2019-063143(JP,A)
【文献】松村 吉信,銀イオンや銅イオンの抗菌性:作用メカニズムと微生物適応戦略(講座:教育現場における学生からの素朴な疑問4),化学と教育,53巻 5号,日本,2005年05月20日,p. 288-291,https://doi.org/10.20665/kakyoshi.53.5_288
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00- 23/08
B01J 21/00- 38/74
C09D 1/00- 10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタニアナノ粒子の表面に金属が担持された金属担持チタニアナノ粒子であって、
前記チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合しており、
前記チタニアナノ粒子を示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が7~20質量%であり、且つ、
前記チタニアナノ粒子の比表面積は、200~400m /gであり、
前記チタニアナノ粒子に対して銀及び銅の双方が表面に担持されており、
前記銀の形態が、平均粒子径が10~200nmの銀ナノ粒子であり、
前記銅の形態が、銅ナノ粒子、及び2価の銅イオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、
金属担持チタニアナノ粒子。
【請求項2】
前記銅の形態が、2価の銅イオンである、請求項1に記載の金属担持チタニアナノ粒子。
【請求項3】
前記銅の形態が、平均粒子径が1~100nmの銅ナノ粒子である、請求項1に記載の金属担持チタニアナノ粒子。
【請求項4】
前記銀の担持量が、前記チタニアナノ粒子中の酸化チタン質量に対して200質量%以下である、請求項1に記載の金属担持チタニアナノ粒子。
【請求項5】
前記銅の担持量が、前記チタニアナノ粒子中の酸化チタン質量に対して200質量%以下である、請求項1に記載の金属担持チタニアナノ粒子。
【請求項6】
前記アシルオキシ基が、-OCOR(式中、Rは水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数1~2のヒドロキシアルキル基を示す)で表される基でチタン原子と結合している、請求項1~5のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子。
【請求項7】
前記アシルオキシ基が、炭素数1~4のモノカルボン酸及び炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機酸由来のアシルオキシ基である、請求項1~5のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子。
【請求項8】
前記有機酸が酢酸及び/又は乳酸である、請求項7に記載の金属担持チタニアナノ粒子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子を含有する、光触媒。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子、又は請求項9に記載の光触媒の製造方法であって、
(A)チタンを含む物質、有機酸及び水を混合して分散液を得る工程と、
(B)前記工程(A)で得られた分散液を80℃より高い温度で、
常圧下に、1時間以上の時間で、又は
加圧下に、5~30分の時間で、
加熱する工程と、
(C1)前記工程(B)で得られた分散液と、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物と、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物とを混合して得られた分散液に対して紫外光を照射する工程、
(C2)前記工程(B)で得られた分散液と、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物と、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物とを混合する工程、又は
(C3)前記工程(B)で得られた分散液に、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物と、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物とを添加して静置する工程と
を備える、
製造方法。
【請求項11】
50質量%以上の水と、
請求項1~8のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子、又は請求項9に記載の光触媒と
を含有する、金属担持チタニアナノ粒子分散液。
【請求項12】
分散剤を含有しない、請求項11に記載の金属担持チタニアナノ粒子分散液。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子、又は請求項9に記載の光触媒を含有する、塗料。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子、又は請求項9に記載の光触媒を含有する、塗膜。
【請求項15】
請求項14に記載の塗膜を備える、塗装製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属担持チタニアナノ粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衛生意識の向上を受け、屋内建材や日用品等に病原体耐性を付与するために、光触媒が実用化され、光触媒を含む塗料を表面に塗布する形で使用されることが多い。光触媒は、光触媒に光が照射されることで、例えば、触媒表面の酸素と水分とから、抗微生物活性につながる活性酸素種を生成する。抗微生物活性種を生成する前後で光触媒自体が変化しないことから、持続性の高い抗微生物材料として活用されている。一般的に、光触媒は紫外線を吸収し光触媒活性を示す触媒を指すが、屋内等の紫外線が届きにくい環境での活用を考慮し、可視光領域の光に応答して光触媒活性を示す可視光触媒が精力的に開発されている。可視光触媒として最もよく使用されるのは、酸化チタン粉末又は酸化チタンゾルに、鉄、白金、金、銅、銀等の金属を含有させた、金属含有酸化チタン粉末又は金属含有酸化チタンゾルである。
【0003】
屋内環境や日用品が使われる場面では、物陰や夜中等、光が当たらない環境もあるため、暗所でも抗微生活性を発現させるべく、銀、銅等の抗微生活性の金属種を含有させた金属含有酸化チタン粉末及び金属含有酸化チタンゾルも開発されている。
【0004】
ところで、屋内建材や日用品等に供する光触媒塗膜としては、1液系で簡便に塗布することができ、透明性が高く基材の意匠性の自由度を損なうことなく、且つ手が触れる際等に滑落やクラックが起こらないような密着性、耐クラック性を有することが望まれる。
【0005】
ところが、酸化チタン粉末に金属が含有された商品名ルミレッシュ(昭和電工株式会社)やセルミューズ(ダイセルミライズ株式会社)を水に分散させた懸濁液をガラス基板や透明性の高い樹脂基盤上に塗工すると、酸化チタン粉末由来の白色が強く見られ、ガラス基板の透明性が損なわれる。また、このようにして形成した塗膜を指で擦ると粉末が滑落する。
【0006】
このように、金属含有酸化チタン粉末を塗料とする場合は、単体では透明性や基材密着性に課題がある。そこで、高分子有機化合物や多孔質の無機化合物をバインダとして用い、金属含有酸化チタン粉末をバインダ中に固定し、塗膜を形成する方法がある。
【0007】
しかしながら、高分子有機化合物のバインダは金属担持酸化チタン表面を被覆することで光触媒活性を低下させ、多孔質の無機化合物バインダは、高分子有機化合物のバインダに比べ空隙が多い為活性は低下しにくいものの、硬くて脆いため耐クラック性に欠け、触媒の滑落が促進され耐用年数が下がる等、光触媒にバインダを使用することで、金属担持酸化チタン本来の持続性及び抗微生物活性を損なうという問題がある。
【0008】
例えば、特許文献1には、一価銅化合物及び二価銅化合物を含む混合物を表面に担持した光触媒物質を含むウイルス不活化剤が記載されている。この特許文献1の実施例では、CuO粉末と、CuO粉末をシリカ系バインダと混合してガラス板上に塗布し、30分同条件でウイルスと接液した例が紹介されているが、CuO単体の時は30分で10程度ウイルス感染価が減少したのに対し、バインダ使用時はウイルス感染価が10程度しか減少せず、材料担体使用時とバインダ併用時では10倍程度活性の低下が生じた。
【0009】
そこで、バインダを使用せず1液系での塗布が可能な酸化チタンゾルに抗微生物性金属を担持させ、抗微生物性金属担持酸化チタンゾルの塗膜を1液系の塗布により形成する方法が提案されている。しかしながら、酸化チタンゾルについても、塗膜の白濁や、クラックの問題があり、透明性が高く耐久性の高い塗膜の実現は難しい。実際に、X線粒子径が7nmという極小の水溶性酸化チタンゾル商品名CSB(堺化学工業株式会社)をガラス基板上に塗工したところ、塗膜が白濁し、非特許文献1に記載の方法で合成した酸化チタンを塗布したところ、クラックが生じた。このように、金属含有酸化チタン粉末及び酸化チタンゾルを使用する際、バインダレスで、透明性が高く、耐クラック性や密着性の高い塗料を形成するのは難しかった。
【0010】
上述のように、屋内塗装用の金属担持酸化チタン粉末及びゾルは、単体では基材密着性、耐クラック性が低く、バインダの添加等でこれらを補強するが、バインダによる触媒表面の被覆や触媒の滑落により、金属含有酸化チタン本来の抗微生物活性及び活性持続性を損なう。また、屋内建材や日用品は色味の観点で意匠性が求められる物が多い一方で、金属含有酸化チタン粉末は白濁粉末であるため、意匠性の幅が著しく低い。したがって、バインダレスで基材に密着し、塗布膜として高い物理耐性を有す透明性の高い可視光触媒が求められている。
【0011】
また、金属含有酸化チタン粉末及び酸化チタンゾルの別の問題として、酸化チタンとは別に含有させる金属成分の不安定性が挙げられる。例えば、特許文献2に記載のように、酸化チタンを分散させた水溶液に銀錯体を添加すると、溶液の色が徐々に変化し、最終的に銀の沈殿が見られる。このように金属成分が不安定化することで沈殿が見られる現象は、銀、銅等のイオン化傾向の低い元素でよく見られる。そこで、銀及び銅を複合させ、第四級アンモニウムを酸化チタンゾルに含有させることで金属成分を安定剤により安定化させる方法(特許文献2)や、銀の表面をチオール系配位子や酸化チタンで被覆する方法(非特許文献2)が提案されている。
【0012】
しかしながら、特許文献2の方法は人体に対して毒性の強い第四級アンモニウムイオンを含むため、安全性に懸念がある。また、銀の表面をチオール系配位子や酸化チタンで被覆する方法については、完全に被覆した場合、抗微生物性金属である銀の溶出が妨げられ抗微生物活性が損なわれる一方、部分的に被覆した場合は抗微生物性金属である銀が溶出と再析出を繰り返し、変色や沈殿を引き起こす。
【0013】
上述のように、銀、銅等のイオン化傾向の低い抗微生物性金属成分を、酸化チタン溶液中で沈殿を生じさせずに安定的に存在させ、且つこれら金属の溶出を妨げることのない可視光触媒であって、更にごく少量の塗布でも極めて高い抗菌活性を示し、透明性が高い可視光触媒が待望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2013-166705号公報
【文献】特開2008-260684号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan 11.313 (2004): 481-488.
【文献】色材協会誌,2014年,87巻,2号,43-49
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、バインダを使用せずとも1液系で施工性の高い光触媒塗料を提供でき、基材密着性や耐クラック性が高く、銀及び銅の抗微生物性金属成分を、酸化チタン溶液中で沈殿を生じさせず安定的に存在させ、暗所での抗菌・抗ウイルス性も有する、高透明な光触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を鑑み、鋭意検討した結果、本発明者らは、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合し、且つ示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上であるチタニアナノ粒子に、銀及び銅の双方を表面に担持させた、金属担持チタニアナノ粒子が上記課題を全て解決できることを見出した。そして、さらに研究を重ね、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0018】
項1.チタニアナノ粒子の表面に金属が担持された金属担持チタニアナノ粒子であって、
前記チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合しており、
前記チタニアナノ粒子を示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上であり、且つ、
前記チタニアナノ粒子に対して銀及び銅の双方が表面に担持されている、金属担持チタニアナノ粒子。
【0019】
項2.前記銀の形態が、銀ナノ粒子及び/又は1価の銀イオンである、項1に記載の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子。
【0020】
項3.前記銀の形態が、銀ナノ粒子である、項1又は2に記載の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子。
【0021】
項4.前記銅の形態が、銅ナノ粒子、1価の銅イオン及び2価の銅イオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1~3のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子。
【0022】
項5.前記銅の形態が、1価の銅イオン及び/又は2価の銅イオンである、項1~4のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子。
【0023】
項6.前記銅の形態が、2価の銅イオンである、項1~5のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子。
【0024】
項7.前記銀の担持量が、前記チタニアナノ粒子中の酸化チタン質量に対して200質量%以下である、項1~6のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子。
【0025】
項8.前記銅の担持量が、前記チタニアナノ粒子中の酸化チタン質量に対して200質量%以下である、項1~7のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子。
【0026】
項9.前記アシルオキシ基が、-OCOR(式中、Rは水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数1~2のヒドロキシアルキル基を示す)で表される基でチタン原子と結合している、項1~8のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子。
【0027】
項10.前記アシルオキシ基が、炭素数1~4のモノカルボン酸及び炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機酸由来のアシルオキシ基である、項1~9のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子。
【0028】
項11.前記有機酸が酢酸及び/又は乳酸である、項10に記載の金属担持チタニアナノ粒子。
【0029】
項12.項1~11のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子を含有する、光触媒。
【0030】
項13.項1~11のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子又は項12に記載の光触媒の製造方法であって、
(A)チタンを含む物質、有機酸及び水を混合して分散液を得る工程と、
(B)前記工程(A)で得られた分散液を80℃より高い温度で1時間以上加熱する工程と、
(C1)前記工程(B)で得られた分散液と、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物と、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物とを混合して得られた分散液に対して紫外光を照射する工程、
(C2)前記工程(B)で得られた分散液と、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物と、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物とを混合する工程、又は
(C3)前記工程(B)で得られた分散液に、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物と、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物とを添加して静置する工程と
を備える、製造方法。
【0031】
項14.50質量%以上の水と、項1~11のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子又は項12に記載の光触媒とを含有する、金属担持チタニアナノ粒子分散液。
【0032】
項15.前記有機酸とは別途有機分散剤を含有しない、項14に記載の金属担持チタニアナノ粒子分散液。
【0033】
項16.項1~11のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子又は項12に記載の光触媒を含有する、塗料。
【0034】
項17.項1~11のいずれか1項に記載の金属担持チタニアナノ粒子又は項12に記載の光触媒を含有する、塗膜。
【0035】
項18.項17に記載の塗膜を備える、塗装製品。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、バインダを使用せずとも1液系で施工性の高い光触媒塗料を提供でき、基材密着性や耐クラック性が高く、銀及び銅の抗微生物性金属成分を、酸化チタン溶液中で沈殿を生じさせず安定的に存在させ、暗所での抗菌・抗ウイルス性も有する、高透明な光触媒を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0038】
本明細書において、数値範囲をA~Bで表記する場合、A以上B以下を示す。
【0039】
本明細書において、「酸化チタン」又は「チタニア」とは、二酸化チタン(TiO)のみを指すものではなく、三酸化二チタン(Ti);一酸化チタン(TiO);Ti、Ti等に代表される二酸化チタンから酸素欠損した組成のもの等も含む。また、末端OH基に代表されるように一部酸化チタンの合成に起因するTi-O-Ti以外の基を含んでいてもよい。さらに、末端OH基に有機酸等が結合したものも含まれる。
【0040】
1.金属担持チタニアナノ粒子及び光触媒
本発明の金属担持チタニアナノ粒子は、チタニアナノ粒子の表面に金属が担持された金属担持チタニアナノ粒子であって、前記チタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合しており、前記チタニアナノ粒子を示差熱熱重量同時測定装置によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上であり、且つ、前記チタニアナノ粒子に対して銀及び銅の双方が表面に担持されている。
【0041】
このような構成を採用することにより、本発明の金属担持チタニアナノ粒子は、チタニアナノ粒子の平均粒子径及び比表面積を調整することが可能であり、また、金属の形態が金属ナノ粒子(銀ナノ粒子又は銅ナノ粒子)の場合は当該金属ナノ粒子(銀ナノ粒子又は銅ナノ粒子)の平均粒子径及び比表面積を調整することも可能であり、また、チタニアナノ粒子及び金属(銀及び銅)が強固に密着しており、また、分散性に優れ凝集しにくいため、別途分散剤や安定剤等の添加剤を使用せずとも、金属成分(銀及び銅)が安定して分散し、耐変色性、塗布性及び透明性に優れる。また、本発明の金属担持チタニアナノ粒子及び光触媒は、このように、別途分散剤及び安定剤を使用せずとも十分な塗布性及び透明性を有していることから、バインダや分散剤等の添加剤により可視光触媒活性及び暗所抗菌抗ウイルス活性を損なうことがなく、また、擦過等の物理的衝撃に対する耐性が高いことから、持続的に優れた可視光触媒活性を有することができる。このため、本発明の金属担持チタニアナノ粒子は、光触媒(特に可視光応答型光触媒)及び光触媒用塗料材料として有用である。なお、本発明の金属担持チタニアナノ粒子は、明所では、光触媒活性により抗微生物活性を有することができ、また一方、暗所では、表面に存在する金属(銀及び銅)の作用により、抗微生物活性を有することができる。
【0042】
(1-1)チタニアナノ粒子
通常、水、無機酸、遊離した有機酸等は200℃以下でほとんど揮発する。一方、本発明の金属担持チタニアナノ粒子を構成するチタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合していることから、200~600℃の範囲で徐々に脱離する。例えばアセトキシ基の場合は、約260℃をピークとして200~600℃の範囲で徐々に脱離する。このように、本発明の金属担持チタニアナノ粒子を構成するチタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合していることから、乾燥又は焼成時にチタニアナノ粒子同士の凝集を抑制できるためクラック、剥がれ等が起こりにくく塗布性及び透明性に特に優れるとともに、クラック、剥がれ等を抑制することができ、さらには後述の金属を強固に担持させやすい結果可視光触媒活性にも優れる。なお、通常は、表面にアシルオキシ基を有していると可視光触媒活性は低下するのが技術常識であるが、本発明では上記のとおり乾燥又は焼成時にチタニアナノ粒子同士の凝集を抑制できるためクラック、剥がれ等の抑制効果が特に優れているとともに、後述の金属を強固に担持させやすいためアシルオキシ基を有しているにもかかわらず可視光触媒活性も向上させることができる。
【0043】
また、上記チタニアナノ粒子は、表面に存在するチタン原子にアシルオキシ基が大量に結合していることが好ましい。表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が存在している場合は、上記のとおり200~600℃の範囲で徐々に離脱することから、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)によって昇温させた場合に200℃以上での質量減少が大きい。つまり、本発明において、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)によって昇温させた場合に200℃以上での質量減少は、表面に存在するチタン原子にアセトキシ基が結合している数の指標を意味している。このため、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)によって600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上、好ましくは7~20質量%である。この際、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)の詳細な条件は、雰囲気:空気、昇温速度:3℃/分である。
【0044】
上記チタニアナノ粒子は、上記のとおり表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合しているものであるが、このアシルオキシ基は、-OCOR(式中、Rは水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数1~2のヒドロキシアルキル基を示す)で表される基でチタン原子と結合していることが好ましい。言い換えれば、このアシルオキシ基は、炭素数1~4のモノカルボン酸、炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸等の有機酸由来のアシルオキシ基であることが好ましい。
【0045】
上記Rにおいてアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基等が挙げられ、ヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基等が挙げられる。つまり、モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等が挙げられ、ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸等が挙げられる。
【0046】
なお、揮発性、有害性及び分解性の観点から、Rとしては水素原子又はメチル基、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基等が好ましく、水溶性及び臭気の観点からメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基が好ましい。つまり、揮発性、有害性及び分解性の観点から、モノカルボン酸としてはギ酸、酢酸等が好ましく、ヒドロキシカルボン酸としてはグリコール酸、乳酸等が好ましい。また、水溶性及び臭気の観点から酢酸、グリコール酸、乳酸等が特に好ましい。これらの有機酸は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0047】
上記チタニアナノ粒子の平均粒子径は、1~5nmが好ましく、2~4nmがより好ましい。チタニアナノ粒子の平均粒子径をこの範囲とすることにより、金属(銀及び銅)を適度且つより強固に担持させやすく、可視光触媒活性がより高く、且つ透明性のより高い膜が形成しやすい。また、通常平均粒子径が小さい場合、加熱時の収縮が大きいため、クラックや基板からの剥離が起こりやすいが、本発明の金属担持チタニアナノ粒子は平均粒子径が小さいチタニアナノ粒子を使用した場合にも塗布性に優れる材料である。本発明において、チタニアナノ粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡(TEM)観察により測定する。
【0048】
上記チタニアナノ粒子の比表面積は、150~500m/gが好ましく、200~400m/gがより好ましい。チタニアナノ粒子の比表面積をこの範囲とすることにより、金属(銀及び銅)を適度且つより強固に担持させやすく、可視光触媒活性を高くしやすい。上記チタニアナノ粒子の比表面積はBET法により測定する。
【0049】
また、上記チタニアナノ粒子は、N、Cl及びS元素の濃度をいずれも0~5000ppm、特に0~1000ppmとすることができる。チタニアナノ粒子のN、Cl及びS元素の濃度をこの範囲とすることにより、基材の腐食等を抑えやすい。なお、この条件は、TiCl、TiOSO等の酸性チタニア前駆体由来の不純物が存在しないか、又はごく少量であることを意味している。上記チタニアナノ粒子のN、Cl及びS元素の濃度はWDX(蛍光X線)により測定する。
【0050】
さらに、上記チタニアナノ粒子の結晶形は、アナターゼ型が好ましい。アナターゼ型を採用することにより、可視光触媒活性を特に向上させることができる。また、同様の理由から、アナターゼ型以外の結晶形は存在せず、アナターゼ型100%であることが好ましい。
【0051】
(1-2)金属
本発明の金属担持チタニアナノ粒子を構成する金属種は、銀及び銅の双方である。これにより、それぞれ単独で担持させた場合と比較すると、明所及び暗所(特に暗所)における抗菌活性及び抗ウイルス活性を特に向上させることができる。
【0052】
なかでも、銀の形態は、特に制限されるわけではないが、銀の安定性、明所及び暗所(特に暗所)における抗菌活性及び抗ウイルス活性等の観点から、銀ナノ粒子及び/又は1価の銀イオンが好ましく、銀ナノ粒子がより好ましい。
【0053】
また、銅の形態は、特に制限されるわけではないが、銅の安定性、明所及び暗所(特に暗所)における抗菌活性及び抗ウイルス活性等の観点から、銅ナノ粒子、1価の銅イオン及び2価の銅イオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、1価の銅イオン及び/又は2価の銅イオンがより好ましく、2価の銅イオンがさらに好ましい。
【0054】
通常、酸化チタンに金属イオン又は金属ナノ粒子を添加すると、酸化チタンの比表面積や金属イオン濃度に関わらず、金属イオンが経時で還元され金属ナノ粒子が生成され、金属ナノ粒子同士が経時で熱凝集することで、金属の沈殿が見られることが多い。一方、本発明の金属担持チタニアナノ粒子を構成するチタニアナノ粒子は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアシルオキシ基が結合していることから、金属イオン及び金属ナノ粒子がチタニアナノ粒子上で安定化され、経時の還元や熱凝集が抑制される。
【0055】
銀ナノ粒子を使用する場合、上記の観点から銀ナノ粒子の粒径成長が抑えられやすく、当該銀ナノ粒子の平均粒子径は500nm以下が好ましく、10~200nmがより好ましい。担持される銀ナノ粒子の平均粒子径をこの範囲とすることにより、可視光触媒活性をより向上させ、透明性をより向上させた膜を形成しやすい。銀ナノ粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡観察により測定する。
【0056】
銅ナノ粒子を使用する場合、上記の観点から銅ナノ粒子の粒径成長が抑えられやすく、当該銅ナノ粒子の平均粒子径は500nm以下が好ましく、1~100nmがより好ましい。担持される銅ナノ粒子の平均粒子径をこの範囲とすることにより、可視光触媒活性をより向上させ、透明性をより向上させた膜を形成しやすい。銅ナノ粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡観察により測定する。
【0057】
本発明において、チタニアナノ粒子の表面に対する銀の担持量は、抗微生物活性(抗菌活性及び抗ウイルス活性)やチタニアナノ粒子の安定性の観点から、チタニアナノ粒子中の酸化チタンに対して200質量%以下が好ましく、0.0001~25質量%がより好ましく、0.01~10質量%がさらに好ましい。この範囲とすることで、塗布性及び透明性は維持しやすく、暗所での抗菌活性及び抗ウイルス活性並びに光触媒活性を特に向上させやすい。
【0058】
本発明において、チタニアナノ粒子の表面に対する銅の担持量は、抗微生物活性(抗菌活性及び抗ウイルス活性)やチタニアナノ粒子の安定性の観点から、チタニアナノ粒子中の酸化チタンに対して100質量%以下が好ましく、0.0001~25質量%がより好ましく、0.01~10質量%がさらに好ましい。この範囲とすることで、塗布性及び透明性は維持しやすく、暗所での抗菌活性及び抗ウイルス活性並びに光触媒活性を特に向上させやすい。
【0059】
本発明において、チタニアナノ粒子に担持される銀の担持量の銅の担持量に対する比(銀の担持量/銅の担持量)は、特に制限されるわけではないが、抗微生物活性(抗菌活性及び抗ウイルス活性)やチタニアナノ粒子の安定性の観点から、0.0001~2000000が好ましく、0.001~10000がより好ましく、0.01~100がさらに好ましい。
【0060】
2.金属担持チタニアナノ粒子及び光触媒の製造方法
上記した金属をチタニアナノ粒子に担持させる方法としては、金属ナノ粒子及び/又は金属錯体とチタニアナノ粒子とを混合後光照射により担持する光析出法と、任意の方法で合成され金属ナノ粒子及び/又は金属錯体をチタニアナノ粒子と接触させて混合又は静置して担持する方法とがあるが、本発明においては、いずれの方法も採用できる。
【0061】
具体的には、本発明の金属担持チタニアナノ粒子及び光触媒は、
(A)チタンを含む物質、有機酸及び水を混合して分散液を得る工程と、
(B)前記工程(A)で得られた分散液を80℃より高い温度で1時間以上加熱する工程と、
(C1)前記工程(B)で得られた分散液と、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物と、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物とを混合して得られた分散液に対して紫外光を照射する工程、
(C2)前記工程(B)で得られた分散液と、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物と、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物とを混合する工程、又は
(C3)前記工程(B)で得られた分散液に、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物と、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物とを添加して静置する工程と
を備える方法により製造することができる。
【0062】
工程(C1)、(C2)及び(C3)のうちでは、工程(C1)のように、外部からエネルギーを加えることで担持効率を向上させやすい一方、工程(C2)を採用すると、チタニアナノ粒子分散液の高粘度化を防げるだけでなく、均一な粒子を得やすい。
【0063】
また、工程(C1)、(C2)及び(C3)ではいずれも、加熱することで担持効率をさらに向上させることも可能である。
【0064】
(2-1)工程(A)
工程(A)では、チタンを含む物質、有機酸及び水を混合して分散液を得る。
【0065】
使用するチタンを含む物質としては、加熱により酸化チタンとなる物質であれば特に制限はない。つまり、チタンを含む物質としては、酸化チタン及び/又は酸化チタン前駆体が好ましく、具体的には、酸化チタン;水酸化チタン;チタンアルコキシド;三塩化チタン、四塩化チタン等のハロゲン化チタン(特に塩基で中和したもの);金属チタン等が挙げられる。これらのチタンを含む物質は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。これらのなかでも、得られるチタニアの分散性、塗布性及び可視光触媒性の観点から、チタンアルコキシド、水酸化チタン又はハロゲン化チタン(特に塩基で中和したもの)が好ましく、特に純度、分散性、塗布性、透明性及び可視光触媒性の観点からチタンアルコキシドがより好ましい。
【0066】
チタンアルコキシドとしては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn-ブトキシド、チタンテトラn-プロポキシド、チタンテトラエトキシド等が挙げられ、コスト、副生成物の水溶性、塗布性及び可視光触媒性の観点から、チタンテトライソプロポキシドが好ましい。
【0067】
なお、チタンアルコキシドと有機酸との組合せによっては、得られるチタニアを触媒として水に溶けにくいエステル化合物が遊離することがあるが、チタニア自身には問題はない(例えば、チタンテトラn-ブトキシドと酢酸の組合せにおいて、混合し加熱した段階で酢酸ブチルが生じ遊離する)が、均一な分散液を得る観点からは、水溶性に優れる有機酸アルコキシドが得られる有機酸とチタンアルコキシドとの組合せを採用することが好ましい。
【0068】
ハロゲン化チタン(四塩化チタン、三塩化チタン等)については、不純物(ハロゲン)、量産時の反応器の腐食、結晶性制御、塗布性、透明性及び可視光触媒性の観点から、塩基で中和し、沈殿物の洗浄を行ってから用いることが好ましい。その場合、得られるチタニアの分散性の観点から、乾燥を行わずに用いることが好ましい。
【0069】
なお、チタンを含む物質として、酸化チタン、金属チタン等の固体を用いる場合は、平均粒子径は100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。下限値は特に設定されないが、通常1nm程度である。なお、粒径が大きい場合は遊星ボールミル、ペイントシェーカー等を用いて乾式又は湿式で粉砕して用いることもできる。酸化チタン、金属チタン等の固体の平均粒子径は、電子顕微鏡(TEM)観察により測定する。
【0070】
工程(A)で生成する分散液中のチタンを含む物質の濃度は、生産性、反応液の粘度、塗布性、透明性及び可視光触媒性の観点から、0.01~5mol/Lが好ましく、0.05~3mol/Lがより好ましい。
【0071】
反応に使用する酸は、有機酸であり、揮発性のある酸が好ましいことから化学式C2n+1COOH(n=0~3)で示されるモノカルボン酸(炭素数1~4のモノカルボン酸)、炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0072】
揮発性、有害性及び分解性の観点から、モノカルボン酸としてはn=0のギ酸及びn=1の酢酸が好ましく、ヒドロキシカルボン酸としてはグリコール酸、乳酸等が好ましく、水溶性及び臭気の観点から酢酸、グリコール酸、乳酸等が特に好ましい。これらの有機酸は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0073】
有機酸の使用量は、分散性、塗布性、透明性、可視光触媒性及びコストの観点から、チタンを含む物質中のチタン1モルに対して、アシルオキシ基のモル数が1.5モル以上、特に2モル以上となるように調整することが好ましい。有機酸を多く用いるほど経時安定性、塗布性、透明性等を向上させやすい。なお、上限値は特に制限されないが、チタンを含む物質中のチタン1モルに対して、アシルオキシ基のモル数が通常10モル以下となるように調整することが好ましい。
【0074】
工程(A)で得られる分散液中の有機酸の濃度は、分散性、塗布性、透明性、可視光触媒性及びコストの観点から、0.02~10mol/Lが好ましく、0.1~7mol/Lがより好ましい。
【0075】
反応溶媒としては、水等の水性溶媒を主成分(具体的には、例えば50質量%以上)として用いることが好ましいが、反応時にアルコール又はエステルを含んでいてもよい。
【0076】
例えばチタンテトライソプロポキシドを原料として用いた場合、有機酸との反応によりイソプロピルアルコールが生じる。また、加熱により有機酸のイソプロピルエステルが生じることもある。つまり、工程(A)により得られる分散液中には、アルコール又はエステルを投入してもよいし、系中で発生していてもよい。このアルコール又はエステルについては、100℃以下の開放系における加熱により除去してもよいし、減圧により除去してもよいし、反応液中に残留していてもよい。
【0077】
なお、分散液中にアルコールが含まれる場合には、得られるチタニアナノ粒子及び本発明の金属担持チタニアナノ粒子の平均粒子径が小さくなる傾向にあり、平均粒子径を制御するために、意図的にアルコールを添加してもよい。
【0078】
本発明においては、通常チタニアナノ粒子の水熱合成反応に用いることが多い硝酸、塩酸、硫酸等の無機酸(特に無機強酸)は、得られるチタニアナノ粒子の結晶形がアナターゼ型の他にブルッカイト型も混在するだけでなく、得られる分散液の貯蔵安定性、装置の腐食、不純物、排水等の観点からも原則用いないことが好ましい。ただし、原料の分散性、透明性、均一性等を高め取扱いを容易にする場合には、効果を損なわない範囲で、例えば、0.01mol/L以下の範囲で補助的に使用することもできる。この場合、工程(A)で得られる分散液中のN、Cl及びS元素の濃度がいずれも0.01mol/L以下となる。
【0079】
このような工程(A)で得られる分散液のpHは、装置の腐食や取扱いの安全性、分散性等の観点から、2以上6未満が好ましく、2.1~5がより好ましい。
【0080】
工程(A)において、分散液の作製方法は特に制限はなく、チタンを含む物質、有機酸及び水(溶媒)を同時に混合してもよいし、逐次混合してもよい。特に、量産スケールにおいては、凝集して大きな塊を形成しにくく攪拌を継続しやすい観点から、有機酸及び水(溶媒)を混合した後に、攪拌しながらチタンを含む物質を投入することが好ましい。一方、ラボスケールにおいては、チタンを含む物質及び有機酸を混合した後に、攪拌しながら水を投入することが好ましい。
【0081】
(2-2)工程(B)
工程(B)においては、工程(A)で得られた分散液を80℃より高い温度で1時間以上加熱する。
【0082】
工程(B)は、常圧下に行ってもよいし、密閉容器内で加圧下に行ってもよい。チタニアナノ粒子及び本発明の金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子の平均粒子径を小さくする観点から、常圧下に行うことが好ましく、具体的には0.09~0.11MPaが好ましい。なお、加圧下に行う場合は、可視光触媒活性が高く、且つ透明性の高い膜が形成しやすい観点からは、0.2MPa以下(0.11~0.2MPa)において短時間(例えば5~30分程度)の反応を行うことが好ましい。
【0083】
加熱の際には、チタンを含む物質と有機酸と水とを十分に反応させる観点から、撹拌することが好ましい。攪拌の方法は特に制限はなく、常法に従うことができる。また、攪拌時間は、チタンを含む物質と有機酸と水とを十分に反応させる観点から、1時間以上が好ましく、1.5時間以上がより好ましい。攪拌時間の上限値は特に制限されないが、通常240時間である。
【0084】
加熱温度は、80℃より高い温度、好ましくは82℃以上である。加熱温度が80℃以下では、クラックが発生しやすく、塗布性に劣りすぐに脱落することから塗膜を形成することが困難となる。なお、加熱温度の上限値は特に制限はないが、常圧で反応する場合は通常120℃である。
【0085】
このような工程(B)で得られる分散液のpHは、装置の腐食や取扱いの安全性、分散性等の観点から、2以上6未満が好ましく、2.1~5がより好ましい。
【0086】
(2-3)工程(C1)
工程(C1)においては、工程(B)で得られた分散液と、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物と、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物とを混合して得た分散液に対して紫外光を照射する。
【0087】
銀として銀ナノ粒子を使用する場合、当該銀ナノ粒子は、公知又は市販品を使用することができる。銀ナノ粒子を合成する場合、例えば、銀ナノ粒子,日本接着学会誌,2008年,44巻,11号,414-419に記載の方法に基づいて合成することができる。
【0088】
この際使用できる銀ナノ粒子の平均粒子径は、特に制限はなく、抗菌抗ウイルス活性及びナノ粒子の分散安定性の観点から、0.1~500nmが好ましく、1~100nmがより好ましい。
【0089】
銀化合物として銀塩を使用する場合、工程(A)及び(B)で得られるチタニアナノ粒子を含む分散液(ゾル)が酸性であるため、工程(C1)を経た分散液が塩基性となることを避けることが好ましい。このため、銀塩としては、水溶液が酸性又は中性である銀塩が好ましい。このような銀塩としては、具体的には、塩化銀(I)、硝酸銀(I)、有機酸銀(乳酸銀(I)、酢酸銀(I)、クエン酸銀(I)、ミリスチン酸銀(I)等)、硫化銀(I)、酸化銀(I)、リン酸銀(I)、炭酸銀(I)、臭化銀(I)、ヨウ化銀(I)等が挙げられる。これらの銀塩を、還元により銀ナノ粒子となる銀ナノ粒子前駆体として使用することも可能である。
【0090】
以上の銀ナノ粒子及び銀化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0091】
銅として銅ナノ粒子を使用する場合、当該銅ナノ粒子は、公知又は市販品を使用することができる。銅ナノ粒子を合成する場合、例えば、Cu and Cu-Based Nanoparticles: Synthesis and Applications in Catalysis Chemical Reviews, 2016, 116 (6), 3722-3811に記載の方法に基づいて合成することができる。
【0092】
この際使用できる銅ナノ粒子の平均粒子径は、特に制限はなく、抗菌抗ウイルス活性及びナノ粒子の分散安定性の観点から、0.1~200nmが好ましく、1~50nmがより好ましい。
【0093】
銅化合物として銅塩を使用する場合、工程(A)及び(B)で得られるチタニアナノ粒子を含む分散液(ゾル)が酸性であるため、工程(C1)を経た分散液が塩基性となることを避けることが好ましい。このため、銅塩としては、水溶液が酸性又は中性である銅塩が好ましい。このような銅塩としては、具体的には、有機酸銅(酢酸銅(II)、乳酸銅(II)、クエン酸銅(II)、ミリスチン酸銅(II)等)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、リン酸銅(II)、酸化銅(I)、酸化銅(II)、炭酸銅(II)等が挙げられる。これらの銅塩を、還元により銀ナノ粒子となる銀ナノ粒子前駆体として使用することも可能である。
【0094】
以上の銅ナノ粒子及び銅化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0095】
なかでも、特に制限されるわけではないが、得られる金属担持チタニアナノ粒子における銅の安定性、明所及び暗所(特に暗所)における抗菌活性及び抗ウイルス活性等の観点から、銅ナノ粒子、銅ナノ粒子前駆体、1価の銅塩、2価の銅塩等が好ましく、1価の銅塩、2価の銅塩等がより好ましく、2価の銅塩がさらに好ましい。
【0096】
工程(C1)において、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物の使用量は、分散性、透明性、抗微生物活性(抗菌活性及び抗ウイルス活性)、チタニアナノ粒子の安定性等の観点から、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物中の銀元素の質量に換算して、工程(B)で得られた分散液を200℃で加熱した際の固形分量に対して200質量%以下が好ましく、0.0001~25質量%がより好ましく、0.01~10質量%がさらに好ましい。この範囲とすることで、塗布性及び透明性は維持しやすく、暗所での抗菌活性及び抗ウイルス活性並びに光触媒活性を特に向上させやすい。
【0097】
工程(C1)において、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物の使用量は、分散性、透明性、抗微生物活性(抗菌活性及び抗ウイルス活性)、チタニアナノ粒子の安定性等の観点から、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物中の銅元素の質量に換算して、工程(B)で得られた分散液を200℃で加熱した際の固形分量に対して100質量%以下が好ましく、0.0001~25質量%がより好ましく、0.01~10質量%がさらに好ましい。この範囲とすることで、塗布性及び透明性は維持しやすく、暗所での抗菌活性及び抗ウイルス活性並びに光触媒活性を特に向上させやすい。
【0098】
工程(C1)において、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物の使用量の銅ナノ粒子及び/又は銅化合物の使用量に対する比(銀ナノ粒子や銀化合物の使用量/銅ナノ粒子や銅化合物の使用量)は、特に制限されるわけではないが、抗微生物活性(抗菌活性及び抗ウイルス活性)やチタニアナノ粒子の安定性の観点から、0.0001~2000000が好ましく、0.001~10000がより好ましく、0.01~100がさらに好ましい。
【0099】
工程(C1)において、紫外光の照射強度は、銀及び銅のチタニアナノ粒子への担持させやすさ、可視光触媒活性、反応速度、生産性等の観点から、10μW/cm以上が好ましく、100μW/cm以上がより好ましく、1mW/cm以上がさらに好ましい。なお、紫外光の照射強度の上限値は、特に制限はないが、通常2W/cmである。
【0100】
工程(C1)において、紫外光の照射時間は、5分以上照射することでチタニアナノ粒子表面に銀及び銅が生成しやすいが、可視光触媒活性等の観点から10分以上照射することが好ましく、20分以上照射することがより好ましい。なお、紫外光の照射時間の上限値は、特に制限はないが、通常5時間である。
【0101】
工程(C1)においては、紫外光をパルス状にして所定時間間隔で繰り返し照射するパルス照射であっても、途切れなく継続して照射する連続照射であってもよく、要求特性に応じて適宜設定することができる。
【0102】
工程(C1)において、紫外光照射は、銀及び銅のチタニアナノ粒子への担持させやすさ、可視光触媒活性、反応速度、生産性等の観点から、室温(20℃)以上で行うことが好ましく、50℃以上で行うことがより好ましい。なお、温度の上限値は特に制限はないが、常圧で反応する場合は通常100℃である。
【0103】
工程(C1)において、紫外光照射の際には、工程(B)で得られた分散液と、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物と、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物とを十分に反応させる観点から、撹拌することが好ましい。攪拌の方法は特に制限はなく、常法に従うことができる。
【0104】
工程(C1)は、空気雰囲気下に行ってもよいし、嫌気下で行ってもよいが、嫌気下としては、具体的には、窒素雰囲気下やアルゴン雰囲気下等の不活性ガス雰囲気下等が挙げられる。
【0105】
このようにして得られる分散液のpHは、添加する金属種や金属種の添加量によっても異なるが、1~3が好ましい。
【0106】
この後、常法により、金属担持チタニアナノ粒子を沈殿及び遠心分離すること等により、本発明の金属担持チタニアナノ粒子を回収することができる。つまり、大量のアシルオキシ基が表面に存在するチタン原子に結合し、銀及び銅が表面に担持されたチタニアナノ粒子を得ることができる。
【0107】
(2-4)工程(C2)及び(C3)
本発明では、上記した工程(C1)の代わりに、工程(C2)として、工程(B)で得られた分散液と、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物と、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物とを混合する工程や、工程(C3)として、工程(B)で得られた分散液に、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物と、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物とを添加して静置する工程を採用することもできる。
【0108】
使用する銀ナノ粒子、銀化合物、銅ナノ粒子及び銅化合物としては、上記した工程(C1)と同様である。また、銀ナノ粒子、銀化合物、銅ナノ粒子及び銅化合物の使用量も、上記した工程(C1)と同様である。
【0109】
工程(C2)において、工程(B)で得られた分散液と、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物と、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物とを混合する方法は特に制限はなく、常法にしたがうことができる。例えば、工程(B)で得られた分散液に、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物と、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物とを添加し、攪拌することができる。攪拌の方法は特に制限はなく、常法に従うことができる。
【0110】
工程(C2)において、工程(B)で得られた分散液と、銀ナノ粒子及び/又は銀化合物と、銅ナノ粒子及び/又は銅化合物との混合は、銀及び銅のチタニアナノ粒子への担持させやすさ、可視光触媒活性、反応速度、生産性等の観点から、室温(20℃)以上で行うことが好ましく、50℃以上で行うことがより好ましい。なお、温度の上限値は特に制限はないが、常圧で反応する場合は通常100℃である。
【0111】
工程(C2)及び(C3)は、空気雰囲気下に行ってもよいし、嫌気下で行ってもよい。嫌気下としては、具体的には、窒素雰囲気下やアルゴン雰囲気下等の不活性ガス雰囲気下等が挙げられる。
【0112】
このようにして得られる分散液のpHは、添加する金属種や金属種の添加量によっても異なるが、1~3が好ましい。
【0113】
この後、常法により、金属担持チタニアナノ粒子を沈殿及び遠心分離すること等により、本発明の金属担持チタニアナノ粒子を回収することができる。つまり、大量のアシルオキシ基が表面に存在するチタン原子結合し、銀及び銅が表面に担持され、強固に密着したチタニアナノ粒子を得ることができる。
【0114】
3.金属ナノ粒子担持チタニアナノ粒子分散液
本発明の金属担持チタニアナノ粒子分散液(特に光触媒分散液、さらには可視光応答型光触媒分散液)は、上記工程(A)と、工程(B)と、工程(C1)、工程(C2)又は工程(C3)とを経た反応液を用い、必要に応じて超音波分散等の分散工程を加えることにより、さらに均一な分散液を作製できる。この時、従来の可視光応答型光触媒の分散液においては分散剤を使用しなければ均一な分散液を得ることができなかったことから、本発明においても、分散剤を加えてもよいが、分散剤を加えなくても通常の可視光応答型光触媒より遥かに分散性のよい分散液が得られる。分散性がよい結果、コーティングの耐クラック性にも優れる。また、分散剤を加えなくてもよい結果、緻密なチタニアのコーティングも可能になり、塗布性及び透明性にも優れるうえに、可視光触媒活性にも優れる。
【0115】
この際、本発明の金属担持チタニアナノ粒子分散液においては、本発明の金属担持チタニアナノ粒子分散液の総量を100質量%として、主要な溶媒である水の含有量を、コーティングの容易さ、コーティングの膜性等の観点から、50質量%以上、特に60質量%以上とすることが好ましい。
【0116】
また、本発明の金属担持チタニアナノ粒子を反応液から取り出し、溶媒を変更することも可能である。反応液から遠心分離やろ過膜等により水分を除去し、有機溶媒に置換してもよい。その際は本発明の金属担持チタニアナノ粒子を乾燥させないことが、分散性、透明性等の観点から好ましい。
【0117】
分散液に使用する有機溶媒としては、アルコール等が挙げられる。このアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の炭素数1~6の脂肪族アルコールの他、α-テルピネオール等の非脂肪族アルコール;ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ヘキシレングリコール(2-メチル-2,4-ペンタンジオール)、エチレングリコール-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール系溶媒;1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のジオール等が挙げられる。
【0118】
また、OH基を有さなくても、チタニア及び他の溶媒(水、アルコール等)との親和性があればよく、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、テトラエチレングリコールジアセテート等が挙げられる。なかでも、沸点等の観点から、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が好ましい。
【0119】
本発明の金属担持チタニアナノ粒子分散液は、用途に応じて粘度を調整し、塗料とすることができる。例えば、スピンコート、ディップコート、スプレー等に用いる場合は低粘度、刷毛塗り、スキージ法等に用いる場合はそれより粘度を高く調整し、スクリーン印刷に用いる場合は、さらに粘度を高く調製し、流動性を抑制することが好ましい。このようにして得られる本発明の塗膜は、上記のとおり緻密なコーティングである。
【0120】
このようにして得られる本発明の塗膜を備える本発明の塗装製品としては、特に制限されるわけではないが、例えば、建材、建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、各種レンズ、構造部材、住宅等建築設備、調理器具、繊維製品、家具、ディスプレイ、ディスプレイ保護フィルム、水回り部材、車両用照明灯のカバー及び窓ガラス、機械装置又は物品の外装、防塵カバー及び塗装、表示機器、そのカバー、交通標識、各種表示装置、広告塔等の表示物、道路用及び鉄道用等の遮音壁、橋梁、ガードレールの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー等外部で用いられる電子、電気機器の外装部、特に透明部材、ビニールハウス、温室等の外装等が挙げられる。
【実施例
【0121】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0122】
[実施例1]
チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)に酢酸120g(2mol)を加え60分撹拌し、水を538g加えた。この分散液は、チタンテトライソプロポキシドの濃度は0.625mol/L、酢酸の濃度は2.5mol/L、pHは2.2であった。半透明の沈殿が大量に発生したが、60分間撹拌した後に加熱を行ったところ70℃で沈殿がすべて溶解した。なお、この分散液において、無機酸の濃度、N、Cl及びS元素の濃度はいずれも0mol/Lである。
【0123】
その後、常圧(0.10MPa)で、85℃で3時間撹拌したところ、有機分散剤を使うことなく半透明の均一なチタニア分散液が得られた。この分散液に超音波分散を加えたところ、粘度が低減され、透明性が増した。この分散液は水の含有量が67質量%でありpHは2.3であった。
【0124】
この分散液を乾燥し、チタニアナノ粒子を得た。このチタニアナノ粒子について、BET比表面積を測定したところ250m/gであった。また、TEM観察を行ったところ、平均粒子径は約3nmであった。また得られたチタニアナノ粒子について、X線回折で結晶性を解析したところ、アナターゼ型100%であった(他の結晶形は存在しなかった)。
【0125】
この分散液を、水分計を用いて200℃で保持し質量減少がなくなるまで乾燥したチタニアナノ粒子のTG-DTAを、空気雰囲気下3℃/分の昇温条件で600℃まで昇温させて測定したところ、200℃以上での質量減少は10質量%であった。この200℃以上での質量減少は、有機酸である酢酸が脱離することによる質量減少に相当する。遊離した酢酸は200℃以下でほとんど揮発することから、200℃以上における質量減少が10質量%であることが、チタニアナノ粒子表面にアシルオキシ基である大量のアセチル基が-OCOCHの形でチタン原子と結合していることを示唆している。
【0126】
空気雰囲気下において、この分散液15g(5.2質量%)に、分散液中に含まれるチタニアナノ粒子(酸化チタン)に対して、金属重量ベースで銀が50質量%、銅が0.1質量%となるように、硝酸銀(I)を614mg、硝酸銅(II)3水和物を3mg添加しよく攪拌した後、室温で1週間静置することで分散液を得た。更に1週間程度放置しても溶液の色に変化は無く、銀及び銅成分が安定して溶液中に存在していることが確認できた。この時、溶液のpH=1.7であった。また、チタニアナノ粒子上に担持している銀の形態は、銀ナノ粒子(平均粒子径50nm)であり、銅の形態は、2価の銅イオンであった。
【0127】
次に、この分散液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥し、400~800nm(可視光領域)の透過率を紫外・可視分光測定装置((株)島津製作所製UV3400)により測定したところ、塗膜の透過率の平均値は97%であった。また、ガラス基板上に形成された塗膜には亀裂は確認できなかった。このことから、実施例1は耐クラック性に優れることが理解できる。また、得られたガラス基板サンプル面を指で強くこすっても滑落が見られなかった。このことから、実施例1はチタニアナノ粒子とガラス表面の密着度が高いことが理解できる。JISZ2801を参考にした方法(暗所、35℃、1時間)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は3.0以上(検出下限)と非常に高い値が得られた。
【0128】
[実施例2]
空気雰囲気下において、実施例1と同様の方法で得たチタニアナノ粒子を含む分散液15g(5.2質量%)に、分散液中に含まれるチタニアナノ粒子(酸化チタン)に対して、金属重量ベースで銀が0.1質量%、銅が25質量%となるように、硝酸銀(I)を1mg、硝酸銅(II)3水和物を741mg添加しよく攪拌した後、室温で1週間静置することで分散液を得た。更に1週間程度放置しても溶液の色に変化は無く、銀及び銅成分が安定して溶液中に存在していることが確認できた。この時、溶液のpH=1.6であった。また、チタニアナノ粒子上に担持している銀の形態は、銀ナノ粒子(平均粒子径50nm)であり、銅の形態は、2価の銅イオンであった。
【0129】
次に、この分散液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥し、400~800nm(可視光領域)の透過率を紫外・可視分光測定装置((株)島津製作所製UV3400)により測定したところ、塗膜の透過率の平均値は95%であった。また、ガラス基板上に形成された塗膜には亀裂は確認できなかった。このことから、実施例2は耐クラック性に優れることが理解できる。また、得られたガラス基板サンプル面を指で強くこすっても滑落が見られなかった。このことから、実施例2はチタニアナノ粒子とガラス表面の密着度が高いことが理解できる。更に、JISZ2801を参考にした方法(暗所、35℃、1時間)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は3.0以上(検出下限)と非常に高い値が得られた。
【0130】
[実施例3]
空気雰囲気下において、実施例1と同様の方法で得たチタニアナノ粒子を含む分散液15g(5.2質量%)に、分散液中に含まれるチタニアナノ粒子(酸化チタン)に対して、金属重量ベースで銀が25質量%、銅が12.5質量%となるように、硝酸銀(I)を307mg、硝酸銅(II)3水和物を371mg添加しよく攪拌した後、室温で1週間静置することで分散液を得た。更に1週間程度放置しても溶液の色に変化は無く、銀及び銅成分が安定して溶液中に存在していることが確認できた。この時、溶液のpH=1.6であった。また、チタニアナノ粒子上に担持している銀の形態は、銀ナノ粒子(平均粒子径50nm)であり、銅の形態は、2価の銅イオンであった。
【0131】
次に、この分散液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥し、400~800nm(可視光領域)の透過率を紫外・可視分光測定装置((株)島津製作所製UV3400)により測定したところ、塗膜の透過率の平均値は99%であった。また、ガラス基板上に形成された塗膜には亀裂は確認できなかった。このことから、実施例3は耐クラック性に優れることが理解できる。また、得られたガラス基板サンプル面を指で強くこすっても滑落が見られなかった。このことから、実施例3はチタニアナノ粒子とガラス表面の密着度が高いことが理解できる。更に、JISZ2801を参考にした方法(暗所、35℃、1時間)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は3.0以上(検出下限)と非常に高い値が得られた。
【0132】
[実施例4]
空気雰囲気下において、実施例1と同様の方法で得たチタニアナノ粒子を含む分散液15g(5.2質量%)に、分散液中に含まれるチタニアナノ粒子(酸化チタン)に対して、金属重量ベースで銀が5質量%、銅が10質量%となるように、硝酸銀(I)を60mg、硝酸銅(II)3水和物を148mg添加しよく攪拌した後、室温で1週間静置することで分散液を得た。更に1週間程度放置しても溶液の色に変化は無く、銀及び銅成分が安定して溶液中に存在していることが確認できた。この時、溶液のpH=2.4であった。また、チタニアナノ粒子上に担持している銀の形態は、銀ナノ粒子(平均粒子径50nm)であり、銅の形態は、2価の銅イオンであった。
【0133】
次に、この分散液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥し、400~800nm(可視光領域)の透過率を紫外・可視分光測定装置((株)島津製作所製UV3400)により測定したところ、塗膜の透過率の平均値は99%であった。また、ガラス基板上に形成された塗膜には亀裂は確認できなかった。このことから、実施例4は耐クラック性に優れることが理解できる。また、得られたガラス基板サンプル面を指で強くこすっても滑落が見られなかった。このことから、実施例4はチタニアナノ粒子とガラス表面の密着度が高いことが理解できる。更に、JISZ2801を参考にした方法(暗所、35℃、1時間)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は3.0以上(検出下限)と非常に高い値が得られた。
【0134】
また、この分散液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥したサンプルの表面を、含水したコットンで750gの荷重をかけて400回ふき取り試験を実施後、JISZ2801を参考にした方法(暗所、35℃、1時間)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は3.0以上(検出下限)とふき取り試験前と同様に非常に高い値が得られた。このことから、塗膜の耐久性が高いことが確認された。
【0135】
また、この分散液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥した。得られたガラスサンプル上にネココロナウイルスを含む液を滴下し、JISR1756を参考にした方法により1000lux、及び暗所下で8時間接液し抗ウイルス活性値を試験したところ、1000luxで4.4(検出下限)、暗所で3.7であった。
【0136】
[比較例1]
空気雰囲気下において、実施例1と同様の方法で得たチタニアナノ粒子を含む分散液15g(5.2質量%)に、分散液中に含まれるチタニアナノ粒子(酸化チタン)に対して、金属重量ベースで銀が5質量%となるように、硝酸銀(I)を60mg添加しよく攪拌した後、室温で1週間静置することで分散液を得た。更に1週間程度放置しても溶液の色に変化は無く、銀成分が安定して溶液中に存在していることが確認できた。この時、溶液のpH=2.5であった。また、チタニアナノ粒子上に担持している銀の形態は、銀ナノ粒子(平均粒子径50nm)であった。
【0137】
次に、この分散液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥し、400~800nm(可視光領域)の透過率を紫外・可視分光測定装置((株)島津製作所製UV3400)により測定したところ、塗膜の透過率の平均値は99%であった。また、得られたガラス基板サンプル面を指で強くこすっても滑落が見られなかった。このことから、比較例1はチタニアナノ粒子とガラス表面の密着度が高いことが理解できる。更に、JISZ2801を参考にした方法(暗所、35℃、1時間)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は4.0以上と非常に高い値が得られた。
【0138】
また、この分散液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥した。得られたガラスサンプル上にネココロナウイルスを含む液を滴下し、JISR1756を参考にした方法により2000lux及び暗所下で8時間接液し抗ウイルス活性値を試験したところ、2000luxで4.5(検出下限)、暗所で0.3であった。
【0139】
[比較例2]
チタニアナノ粒子ST-01(石原産業(株)製、比表面積300m/g、比表面積から計算した平均粒子径5nm、表面にアシル基は存在しない)10gに酢酸30gと水160gを加え、分散液中に含まれるチタニアナノ粒子(酸化チタン)に対して、金属重量ベースで銀が25質量%、銅が25質量%となるように、硝酸銀(I)を0.31g、硝酸銅(II)3水和物を0.74g添加しよく攪拌した後、室温で静置したが、数日で黒色沈殿が見られ、均一な溶液が得られなかった。このことから比較例2は実施例1のように銀及び銅が安定して存在していないことが確認できた。抗微生物性金属が安定的に存在しない為、その後の試験を断念した。
【0140】
[比較例3]
ルミレッシュCT-2(酸化チタン系可視光応答型触媒の市販品、表面にアシル基は存在しない)10gに水190gを加え、超音波分散を行ったが、均一な溶液が得られなかった。
【0141】
また、この懸濁液をガラス基板上に塗布したが、チタニア膜が完全に不透明であった。このことから、比較例3の分散性は実施例1の分散性に劣ることが理解できる。また、チタニアナノ粒子とガラス表面の密着度が低く、指で軽くこするとチタニアナノ粒子が滑落した。
【0142】
次に、この懸濁液を厚さ0.7mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を80℃で乾燥し、400~800nm(可視光領域)の透過率を紫外・可視分光測定装置((株)島津製作所製UV3400)により測定したところ、塗膜の透過率の平均値は58%であった。また、得られたガラス基板サンプル面を指で軽くこするとチタニアナノ粒子が滑落した。このことから、比較例3は実施例1に比べチタニアナノ粒子とガラス表面の密着度が低いことが理解できる。JISR1752を参考にした方法(明るさ600lux、7時間照射)で大腸菌(K-12)に対する抗菌試験を行ったところ、抗菌活性値は2.0であった。実施例1及び比較例3から、比較例3の可視光触媒活性は実施例1に劣ることが理解できる。光触媒系の材料は光を当てると抗菌性は高くなるが、光照射下でも2.0と実施例1と比較して抗菌効果が低いことが理解できる。