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▶ サーフェス、アンコロジー、インコーポレイテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-28
(45)【発行日】2025-04-07
(54)【発明の名称】免疫療法のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20250331BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250331BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20250331BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20250331BHJP
【FI】
A61K39/395 U ZNA
A61P35/00
A61P37/04
C07K16/28
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022528545
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-20
(86)【国際出願番号】 US2020060524
(87)【国際公開番号】W WO2021097294
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】62/936,176
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522191071
【氏名又は名称】サーフェス、アンコロジー、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SURFACE ONCOLOGY, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ、モーハン
(72)【発明者】
【氏名】マリセッラ、パンデュロ、シシュバ
【審査官】宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-512443(JP,A)
【文献】国際公開第2018/220446(WO,A1)
【文献】特許第7072715(JP,B2)
【文献】特許第7633193(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/
A61K 39/
A61P 35/
A61P 37/
C07K 16/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)NK細胞を優先的に活性化することによって癌を処置する方法;及び/又は
ii)NK細胞の活性化を増強する方
使用するための組成物であって、
前記方法が、CD16及びCD112Rにエンゲージング、カップリング又はバインディングする組成物を投与することを含
前記組成物が、抗CD112R抗体を含み、
前記抗体が、ヒトIgG1であり、
前記抗体が、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、
前記VHが、配列番号712のアミノ酸配列を有し、
前記VLが、配列番号718のアミノ酸配列を有し、
前記ヒトIgG1が、配列番号40000のアミノ酸配列を有する、前記組成物。
【請求項2】
前記癌が、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫又は白血病である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記癌が、扁平上皮癌、小細胞肺癌、下垂体癌、食道癌、星状細胞腫、軟組織肉腫、非小細胞肺癌(扁平細胞非小細胞肺癌を含む)、肺腺癌、肺扁平上皮癌、腹膜癌、肝細胞癌、胃腸癌、膵臓癌、神経膠芽細胞腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝細胞腫、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌又は子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、腎細胞癌、肝臓癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝癌、脳癌、子宮内膜癌、精巣癌、胆管癌、胆嚢癌、胃癌、黒色腫、又は様々な種類の頭頸部癌(頭頸部の扁平上皮癌を含む)である、請求項に記載の組成物。
【請求項4】
第2の療法を施すことをさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記第2の療法が、放射線療法又は外科手術である、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
前記第2の療法が、化学療法剤、オプソニン化剤又は制御性T細胞枯渇剤の投与である、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
前記第2の療法が、PD-1、PD-L1、CTLA-4、Lag-3又はTIM-3のアンタゴニストの投与である、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
前記第2の療法が、TIGIT又はCD96のアンタゴニストの投与である、請求項に記載の組成物。
【請求項9】
前記第2の療法が、PVRL1、PVRL2、PVRL3、PVRL4又はCD155のアンタゴニストの投与である、請求項に記載の組成物。
【請求項10】
前記第2の療法が、CD47のアンタゴニストの投与である、請求項に記載の組成物。
【請求項11】
前記第2の療法が、CD39のアンタゴニストの投与である、請求項に記載の組成物。
【請求項12】
前記第2の療法が、IL-27のアンタゴニストの投与である、請求項に記載の組成物。
【請求項13】
前記第2の療法が、STINGアゴニストの投与である、請求項に記載の組成物。
【請求項14】
前記アンタゴニストが抗体である、請求項12のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年11月15日に出願された米国仮出願第62/936,176号の優先権の利益を主張し、米国仮出願第62/936,176号は、参照によりその全体が組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。2020年11月12日に作成された上記のASCIIコピーは、2020-11-12_01219-0006-00-PCT_ST25.txtという名前で、サイズは1,501,833バイトである。
【背景技術】
【0003】
免疫系の先天性及び適応性の両方の腕は、高度に特殊化された免疫細胞を利用して、身体をパトロールし、悪性腫瘍の兆候を探索します。自然免疫は、非特異的で天然に存在するバリア及び破壊性のペプチド等のメカニズムを使用して、防御の最前線且つ迅速な応答を提供する。ナチュラルキラー(NK)細胞は、自然免疫系の一部であるリンパ球の一種であり、細胞質に保存されているグランザイムを使用して、ウイルスに感染し細胞及び腫瘍細胞を認識して破壊することがでる。
【0004】
獲得免疫は、抗原に反応して時間とともに発達し、持続的な免疫を提供する。CD8T細胞としても知られる細胞傷害性リンパ球(CTL)は、適応免疫応答の一部であり、抗原提示細胞(APC)によって提示されるウイルス由来抗原及び腫瘍由来抗原を認識する。CTLは、APC、例えば、樹状細胞又はマクロファージとの相互作用によって活性化される。APCは、MHC分子との関連で腫瘍抗原を、T細胞表面のT細胞受容体(TCR)に提示する。この接触結合(cognate interaction)の間に、APCはT細胞の活性化、T細胞の増殖、及び細胞傷害性メカニズムを介して抗原を発現する細胞の削減又は排除につながる共刺激シグナルを提供する。
【0005】
抗CD112R免疫療法の投与は、免疫応答を増加、増強及び維持する機会を提供する。CD112Rは、主にT細胞及びNK細胞によって発現される抑制性受容体であり、CD112と活性化受容体CD226との結合について競合する。CD112のCD112Rとの相互作用は、CD226との相互作用よりも親和性が高く、それによってCD226媒介性の細胞活性化を効果的に制御する。CD112との相互作用を遮断する抗CD112R抗体は、阻害性のシグナル伝達をCD112Rの直接の下流で制限すると同時に、CD226とCD112との相互作用を増加させることにより、免疫細胞の活性化を促進する。in vitro研究において、抗CD112R抗体は、免疫エフェクター細胞の増殖、活性化及び細胞傷害性を増加させることが示されている。
【0006】
CD112R mRNAの発現は、いくつかの癌組織で検出され、TCGA(The Cancer Genome Atlas)データセットを使用した予測分析に基づいている。その発現は、T細胞及びNK細胞が豊富な腫瘍で最も強い。骨髄細胞で発現することに加えて、CD112RリガンドであるCD112の発現は、異なる細胞起源の腫瘍細胞で当たり前に(routinely)上昇している。これらの状況を考えると、腫瘍浸潤免疫細胞に対するCD112Rのエンゲージメント(engagement)は、腫瘍微小環境内の局所免疫応答を負に制御する強力な可能性を有している。
【0007】
抗CD112R免疫療法の成功にもかかわらず、癌を処置するための療法の改善、並びにPD-1/PD-L1耐性である癌を処置するための療法が必要である。CD112R及びCD16をカップリングする(couple)薬剤による治療的処置は、CD112Rを発現する免疫細胞が、腫瘍微小環境内の腫瘍細胞及び/又は骨髄細胞上のCD112にエンゲージングする(engage)と、推定的に発生する阻害性のシグナル伝達であって、抗腫瘍免疫応答を増強、増加及び維持する可能性を有する阻害性のシグナル伝達を、下方調節する機会を提供する。本明細書で提供されるのは、CD112R及びCD16とカップリングして(coupling)、且つ/或いは、CD112R及びCD16と同時にバインディングして(binding)、且つ/或いは、CD112R及びCD16とエンゲージングして(engaging)、癌を処置する際に使用するための組成物及び方法である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A図1Aは、腫瘍微小環境を示す概略図である。
図1B図1Bは、CD112R発現が、活性化したNK細胞及びT細胞で増加することを示す図である。
図2図2は、CD112Rが、CT26腫瘍に浸潤しているNK細胞及びCD8T細胞で上方制御されていることを示す図である。
図3A図3Aは、NK細胞上のCD112R及びCD16をカップリングするクローン35を示す概略図である。
図3B図3Bは、抗CD112R抗体:クローン35(IgG1/IgG4)、クローン38(IgG1/IgG4)及びクローン44(IgG1/IgG4)によるNK活性化アッセイの結果を示す図である。
図4A図4Aは、CD112Rの過剰発現がT細胞の活性化を抑止することを示す図である。
図4B図4Bは、クローン35がアイソタイプコントロールと比較してT細胞活性化を増強することを示す図である。
図5A図5Aは、in vitroにおけるNK細胞活性アッセイの結果を示す図である。
図5B図5Bは、マウスIgG1(ヒトIgG4に類似している)及びマウスIgG2a(ヒトIgG1に類似している)における抗CD112R抗体(クローン46)の投与後の腫瘍体積を示す図である。
図6A図6Aは、抗CD112R活性がNK細胞及びT細胞に依存することを示す図である。
図6B図6Bは、抗CD112Rで処置されたマウスにおける再曝露時の免疫記憶を示す図である。
図7図7A及び7Bは、2人のドナーでのNK活性化アッセイにおけるクローン35.4と比較したクローン35を示す図である。
図8図8A~8Bは、抗CD112R(クローン46)、抗TIGIT、又は抗CD112R(クローン46)及び抗TIGITの組み合わせによる処置後のグランザイムBレベル(図8A)及びパーセントインターフェロン-γレベル(図8B)を示す図である。
図9図9は、mIgG1/hIgG4フォーマット対mIgG2a/hIgG1フォーマットにおける抗CD112R(クローン46)抗体についてのCT26モデルの癌における腫瘍体積を示す図である。
図10図10A~10Bは、mIgG2a/hIgG1フォーマットにおけるクローン46投与時の腫瘍体積の変化についてのin vivo試験の結果を示す図である。
図11図11A-11Cは、hIgG1アイソタイプコントロール抗体又はhIgG1アイソタイプコントロールFabと比較した、1μg/mLのクローン35又はクローン35-Fabの存在下でK562細胞と共培養したNK細胞における4-1BB誘導(n=5ドナー)(図11A)、hlgG1アイソタイプコントロールと比較した、1μg/mLのクローン35、クローン35-IgG4又はIgG1変異を有するクローン35(クローン35-N297A)の存在下でK562細胞と共培養したNK細胞における4-1BB誘導(n=5)(図11B)、及び2μg/mLの抗CD16、抗CD32又はmIgG1コントロールFab分子の存在下でのK562細胞との共培養後のNK細胞活性化に関する1μg/mLのクローン35の影響(n=5)(図11C)を示す、さらなる実験の結果を示す図である(P<0.05、**P<0.01;対応のあるt検定)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
I.定義
この出願では、特に明記されていない限り、「又は」の使用は、「及び/又は」を意味する。複数従属項の文脈では、「又は」の使用は、選択的にのみ、先行する複数の独立項又は従属項を指す。用語「含む」、「包含する」及び「有する」は、本明細書では交換可能に使用され得る。
【0010】
以下の用語:「CD112R」、「PVR関連免疫グロブリンドメイン含有」、「CD112受容体」、「ポリオウイルス受容体関連免疫グロブリンドメイン含有タンパク質」、「ポリオウイルス受容体関連免疫グロブリンドメイン含有」、「ネクチン-2受容体」、「C7orfl5」及び「膜貫通タンパク質PVRIG」は、すべて交換可能に使用され、特に明記されていない限り(例えば、マウスCD112R、カニクイザルCD112R等)、天然のヒトCD112Rを指す。この用語には、完全長のプロセシングを受けていないCD112Rと、細胞内でのプロセシングの結果として生じる任意の形態のCD112Rとが含まれる。この用語は、ヒトCD112Rの天然に存在するバリアント、例えば、スプライスバリアント又は対立遺伝子バリアントを包含する。CD112R遺伝子の外部IDには、Entrez Gene:79037、Ensembl:ENSG00000213413、OMIM:617012及びUniProtKB:Q6DKI7が含まれる。
【0011】
「親和性」とは、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位と、その結合パートナー(例えば、抗原)との非共有結合性の相互作用の合計強度を指す。特に明記しない限り、本明細書で使用される場合、「結合親和性」は、結合対のメンバー(例えば、抗体及び抗原)間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子Xの、そのパートナーYに対する親和性は、一般に解離定数(K)で表され得る。親和性は、本明細書に記載されている方法を含む、当技術分野で既知の一般的な方法によって測定され得る。結合親和性を測定するための特定の具体的且つ例示的な実施形態を以下に記載する。
【0012】
「親和性成熟」抗体は、1個又は2個以上の超可変領域(HVR)に1個又は2個以上の変化を有する抗体を指し、そのような変化は、そのような変化を有しない親抗体と比較して、場合により抗原に対する抗体の親和性の向上をもたらす。
【0013】
本明細書における用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、様々な抗体構造を包含し、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)及び抗体フラグメント(それらが所望の抗原結合活性を示す限り)を含むが、これらに限定されない。
【0014】
「抗体フラグメント」は、インタクトな抗体の一部を含む、インタクトな抗体以外の分子を指し、ここで、インタクトな抗体の一部は、インタクトな抗体がバインディングする抗原にバインディングする。抗体フラグメントの例には、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2;ダイアボディ;直鎖抗体;一本鎖抗体分子(例えば、scFv);及び抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体が含まれるが、これらに限定されない。
【0015】
用語「遮断する」は、2個又は3個以上の分子間の相互作用の文脈において、本明細書では、2個又は3個以上の分子間の相互作用の阻害又は防止を指すために使用され、ここで、2個又は3個以上の分子間の相互作用の阻害又は防止は、少なくとも1の条件下で完全又はほぼ完全である。「ほぼ完全な」阻害は、約70~99.9%のパーセント阻害であり、「完全な」阻害は100%である。例えば、ある分子は、用量依存的に特定の濃度でそのような相互作用を完全に又はほぼ完全に阻害する場合に、2個又は3個以上のその他の分子間の相互作用を「遮断する」と言われる。
【0016】
用語「癌」は、本明細書では、異常に高レベルの増殖及び成長を示す細胞の群を指すために使用される。癌は、良性(良性腫瘍とも呼ばれる)、前悪性又は悪性の場合がある。癌細胞は、固形癌細胞又は白血病癌細胞であり得る。用語「腫瘍」は、本明細書では、癌を構成する1個又は2個以上の細胞を指すために使用される。用語「腫瘍増殖」は、本明細書では、癌のサイズ又は程度の対応する増加をもたらす、癌を構成する1個又は2個以上の細胞による増殖又は成長を指すために使用される。
【0017】
「CD16」は、当技術分野ではFcγRIIIとしても知られており、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、単球及びマクロファージの表面に見られることが多い。
【0018】
用語「キメラ」抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の供給源又は種に由来するが、重鎖及び/又は軽鎖の残りが、異なる供給源又は種に由来する抗体を指す。
【0019】
抗体の「クラス」とは、その重鎖が保有する定常ドメイン又は定常領域のタイプを指す。抗体には5種の主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMが存在し、これらのいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgA及びIgAに分類され得る。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ及びμと呼ばれる。
【0020】
1種又は2種以上のさらなる治療薬と「組み合わせた」投与には、同時(simultaneous (concurrent))投与及び任意の順序での連続(consecutive (sequential))投与が含まれる。「同時結合」(及びその反復)は、任意の1時点で同時に1個又は2個以上の標的にバインディングすることができる組成物を指す。同時結合では、すべての時点で同時に1個又は2個以上の標的にバインディングする必要はない。
【0021】
本明細書で使用される用語「細胞傷害性薬剤」は、細胞機能を阻害若しくは防止する物質、及び/又は細胞死若しくは細胞破壊を引き起こす物質を指す。細胞傷害性物質には、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位体);化学療法剤又は薬物(例えば、メトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン又はその他のインターカレート剤);成長阻害剤;酵素、例えば、核酸分解酵素及びそのフラグメント;抗生物質;毒素、例えば、細菌、真菌、植物又は動物起源の小分子毒素又は酵素的に活性な毒素(そのフラグメント及び/又はバリアントを含む);及び以下に開示される様々な抗腫瘍剤又は抗癌剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0022】
「エフェクター機能」は、抗体のFc領域に起因する生物学的活性を指し、抗体のアイソタイプによって異なる。抗体のエフェクター機能の例には、C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC);ファゴサイトーシス;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御;並びにB細胞の活性化が含まれる。
【0023】
薬剤、例えば、医薬製剤の「有効量」は、必要な投与量で一定期間にわたり、所望の治療的又は予防的結果を達成するために、有効な量を指す。
【0024】
本明細書における用語「Fc領域」は、定常領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語は、天然配列Fc領域及びバリアントFc領域を含む。いくつかの実施形態において、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226又はPro230から、重鎖のカルボキシル末端まで及ぶ。しかしながら、Fc領域のC末端リジン(Lys447)は、存在する場合と存在しない場合がある(この段落の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991に記載される、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに従う)。
【0025】
「フレームワーク」、「フレームワーク領域」又は「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般に、4個のFRドメイン:FR1、FR2、FR3及びFR4からなる。したがって、HVR及びFR配列は、一般に、VH(又はVL)において以下の配列:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4に現れる。
【0026】
用語「全長抗体」、「インタクトな抗体」及び「抗体全体」は、本明細書で交換可能に使用され、天然の抗体構造に実質的に類似する構造を有するか、又は本明細書で定義されるFc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。
【0027】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養物」は、交換可能に使用され、外因性核酸が導入された細胞を指し、そのような細胞の後代を含む。宿主細胞は、「形質転換体」及び「形質転換細胞」を含み、初代形質転換細胞と、継代回数に関わらずそれに由来する後代とを含む。後代は、核酸の内容において親細胞と完全に同一とは限らない場合があり、変異を含んでもよい。オリジナルの形質転換された細胞においてスクリーニング又は選択された細胞と同じ機能又は生物学的活性を有する変異後代が、本明細書に含まれる。
【0028】
「ヒト抗体」は、ヒト若しくはヒト細胞によって生産された抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列、ヒト抗体レパートリーを利用する非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列、又はその他のヒト抗体コード配列に対応するアミノ酸配列を有する抗体である。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を具体的に除外する。
【0029】
用語「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体を抗原にバインディングさせることに関与する、抗体重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれ、VH及びVL)は、一般に、同様の構造を有し、各ドメインは、4個の保存されたフレームワーク領域(FR)及び3個の超可変領域(HVR)を含む。(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007) を参照。)単一のVH又はVLドメインは、抗原結合特異性を付与するのに十分であり得る。さらに、特定の抗原にバインディングする抗体は、抗原にバインディングする抗体由来のVH又はVLドメインを使用して単離され、それぞれ、相補的なVL又はVHドメインのライブラリをスクリーニングすることができる。例えば、Portolano et al., J. Immunol. 150:880-887 (1993); Clarkson et al., Nature 352:624-628 (1991) を参照。
【0030】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVL又はVHフレームワーク配列の選択において最も一般的に存在するアミノ酸残基を表すフレームワークである。一般に、ヒト免疫グロブリンVL又はVH配列の選択は、可変ドメイン配列の下位群からのものである。一般に、配列の下位群は、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, NIH Publication 91-3242, Bethesda MD (1991), vols. 1-3における下位群である。いくつかの実施形態において、VLについて、下位群は、上記のKabat et al.,における下位群カッパIである。いくつかの実施形態において、VHについて、下位群は、上記のKabat et al.,における下位群IIIである。
【0031】
本明細書で使用される用語「超可変領域」又は「HVR」は、配列において超可変であり、且つ/或いは、構造的に定義されたループ(「超可変ループ」)を形成し、且つ/或いは、抗原接触残基(「抗原接触体」)を含む、抗体可変ドメインの各領域(「相補性決定領域」又は「CDR」)を指す。一般に、抗体は、6個のHVRを含み、3個がVHに存在し(H1、H2、H3)、3個がVLに存在する(L1、L2、L3)。
【0032】
いくつかの実施形態において、抗体は、配列表に従って提供され、アイソタイプは、ヒトIgG1である。いくつかの実施形態において、抗体は、配列表に従って提供され、アイソタイプはヒトIgG4である。いくつかの実施形態において、抗体は、配列表に従って提供され、アイソタイプは、ヒトIgG4であり、セリン228からプロリン(S228P)への単一の変異が存在する。いくつかの実施形態において、抗体は、配列表に従って提供され、アイソタイプは、ヒトIgG4であり、セリン228からプロリン(S228P)及びロイシン235からグルタミン酸(L235E)の2種の変異が存在する。ヒトIgG1及びIgG4の配列はそれぞれ、配列表の配列番号40000及び40001に示されている。1個又は2個の変異を有するヒトIgG4の配列はそれぞれ、40002及び40003に示されている。全体を通して、抗体又はクローン番号が提供される場合は、抗体はIgG1フォーマットである。抗体又はクローン番号に「.4」が付加されている場合は(例えば「クローン35.4」)、抗体は、配列番号40002を含む定常領域を有するIgG4抗体である。S228P変異は、文献の位置228で生じている。クローン35.4で生じているS→P変異は、位置229であり得るが、それでも本明細書ではS228Pと呼ぶ。一般に、本明細書に記載されるすべての例示された抗体は、ヒトカッパ軽鎖を含む。
【0033】
「イムノコンジュゲート」は、1種又は2種以上の異種分子(細胞傷害性薬剤を含むがこれに限定されない)にコンジュゲートした抗体である。
【0034】
「個体」又は「対象」は哺乳動物である。哺乳動物には、家畜(例えば、牛、羊、猫、犬及び馬)、霊長類(例えば、ヒト及び非ヒト霊長類、例えば、サル)、ウサギ及び齧歯動物(例えば、マウス及びラット)を含むが、これらに限定されない。特定の実施形態において、個体又は対象はヒトである。
【0035】
「単離された」抗体は、その自然環境の構成要素から単離されている抗体である。いくつかの実施形態において、抗体は、例えば、電気泳動法(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフ法(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)によって決定される場合、95%超又は99%超の純度に精製される。抗体純度の評価のための方法の概説については、例えば、Flatman et al., J. Chromatogr. B 848:79-87 (2007)を参照。
【0036】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を構成する別個の抗体が同一である、且つ/或いは、同一のエピトープにバインディングするが、起こり得るバリアント抗体、例えば、自然に生じる変異を含有するか、又はモノクローナル抗体調製物の生産中に発生するバリアント抗体は例外であり、このようなバリアントは、一般に、少量で存在する。異なる決定基(エピトープ)を対象とする異なる抗体を通常含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を対象とする。したがって、「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体の集団から得られるものとしての抗体の特徴を示しており、いかなる特定の方法による抗体の生産を必要とするものとして解釈されるものではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、多様な技術、例えば、以下に限定されないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全て又は一部を含むトランスジェニック動物を利用する方法によって作製され得る。モノクローナル抗体を作製するためのそのような方法及びその他の例示的な方法が、本明細書に記載されている。
【0037】
「裸の抗体」は、異種部分(例えば、細胞傷害性部分)又は放射性標識にコンジュゲートしていない抗体を指す。裸の抗体は、医薬製剤中に存在し得る。
【0038】
「天然抗体」は、様々な構造を有する、天然に存在する免疫グロブリン分子を指す。例えば、天然IgG抗体は、ジスルフィド結合している2個の同一の軽鎖及び2個の同一の重鎖から構成される、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に向かって、各重鎖は、可変重ドメイン又は重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)、次いで、3個の定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3)を有する。同様に、N末端からC末端に向かって、各軽鎖は、可変軽ドメイン又は軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)、次いで、定常軽(CL)ドメインを有する。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2種のうちの1種が割り当てられ得る。
【0039】
参照ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、配列をアラインメントし、必要に応じてギャップを導入して、最大配列同一性パーセントを達成した後の、参照ポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一である候補配列におけるアミノ酸残基の割合として定義され、いかなる保存的置換も配列同一性の一部として考慮しない。アミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的のためのアラインメントは、当技術分野内の様々な方法で、例えば、公的に利用可能なコンピュータソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアを使用して、達成され得る。当業者は、配列をアラインメントするのに適切なパラメータ、例えば、比較する配列の完全長にわたる最大のアラインメントを達成するために必要とされる任意のアルゴリズムを決定することができる。しかしながら、本明細書での目的のために、アミノ酸配列同一性%値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用して生成される。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、Genentech,Inc.によって作成され、ソースコードは、ユーザ文書とともにU.S.Copyright Office,Washington D.C.,20559に出願されており、米国著作権第TXU510087号の下に登録されている。ALIGN-2プログラムは、Genentech,Inc.,South San Francisco,Californiaから公的に利用可能であるか、又はソースコードからコンパイルされ得る。ALIGN-2プログラムは、UNIXオペレーティングシステム、例えば、デジタルUNIX V4.0D上での使用のためにコンパイルされる必要がある。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。
【0040】
ALIGN-2がアミノ酸配列比較のために使用される状況では、所与のアミノ酸配列Bに対する、所与のアミノ酸配列Bとの、又は所与のアミノ酸配列Bと対比した、所与のアミノ酸配列Aのアミノ酸配列同一性%(これは、代替的に、所与のアミノ酸配列Bに対する、所与のアミノ酸配列Bとの、又は所与のアミノ酸配列Bと対比した、特定のアミノ酸配列同一性%を有するか、又は含む、所与のアミノ酸配列Aと表現され得る)は、以下のように計算される。
100×分数(X/Y)
[式中、Xは、A及びBのそのプログラムのアラインメントにおいて、配列アラインメントプログラムALIGN-2によって完全な一致としてスコア化されたアミノ酸残基数であり、Yは、B中のアミノ酸残基の総数である。]
アミノ酸配列Aの長さが、アミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、Bに対するAのアミノ酸配列同一性%は、Aに対するBのアミノ酸配列同一性%と等しくないことが理解されるであろう。別段具体的に記載されない限り、本明細書で使用されるすべてのアミノ酸配列同一性%値は、直前の段落に記載されるようにALIGN-2コンピュータプログラムを使用して得られる。
【0041】
用語「医薬製剤」又は「医薬組成物」は、その中に含まれる有効成分の生物学的活性が有効となるような形態であり、且つ、医薬製剤が投与される対象にとって容認できない有害な追加の成分を含まない調製物を指す。
【0042】
「薬学的に許容可能な担体」は、対象に対して無毒である、有効成分以外の、医薬製剤又は医薬組成物中の成分を指す。薬学的に許容可能な担体には、緩衝剤、賦形剤、安定剤又は保存剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0043】
本明細書で使用される場合、「処置」(及びその文法的変形、例えば、「処置する」又は「処置すること」)は、処置される個体の自然経過を変化させる試みにおける臨床的介入を指し、予防のため又は臨床病理経過中のいずれかに実施され得る。処置の望ましい効果は、疾患の発生又は再発の予防、症状の軽減、疾患の任意の直接的又は間接的病理学的帰結の縮小、転移の予防、疾患進行速度の減少、疾患状態の回復又は緩和、及び寛解又は予後の改善を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、疾患の発生を遅延させるか、又は疾患の進行を減速させるために使用される。
【0044】
明細書で使用される用語「ベクター」は、それが連結されている別の核酸を増殖させることができる核酸分子を指す。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、並びにそれが導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターを含む。特定のベクターは、それらが作動可能に連結されている核酸の発現を導くことができる。このようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」と呼ばれる。
【0045】
II.組成物及び方法
CD16及びCD112Rに同時にエンゲージング、カップリング又はバインディングする方法で使用するための組成物が提供される。いくつかの実施形態において、癌を処置するための方法は、CD112R及びCD16に同時にカップリング、エンゲージング及び/又はバインディングすることができる1種又は2種以上の組成物を投与することを含む。いくつかの実施形態において、組成物は、同時にバインディングすることができる1種の薬剤を含む。いくつかの実施形態において、組成物は、その同時又はほぼ同時の投与によって同時にバインディングする2種以上の薬剤を含む。
【0046】
いくつかの実施形態において、組成物は、CD112R及びCD16にバインディングする多重特異性抗体である。いくつかの実施形態において、組成物は2種の薬剤を含み、一方の薬剤はCD112Rにエンゲージング、カップリング又はバインディングし、他方の薬剤はCD16にエンゲージング、カップリング又はバインディングする。
【0047】
いくつかの実施形態において、
a)NK細胞を優先的に活性化することによって癌を処置する方法;及び/又は
b)NK細胞の活性化を増強する方法;及び/又は
c)NK細胞活性化を増強するが、T細胞活性化を増強しない方法
で使用するための組成物であって、この方法が、CD16及びCD112Rにエンゲージング、カップリング又はバインディングする組成物を投与することを含む、組成物が提供される。
【0048】
いくつかの実施形態において、組成物は、多重特異性抗体であり、この抗体は、CD16及びCD112Rにバインディングする、且つ/或いは、CD16及びCD112Rを遮断する、且つ/或いは、CD16及びCD112Rを活性化する。
【0049】
いくつかの実施形態において、組成物は、CD16アゴニストと、CD112Rにバインディングする及び/又はCD112Rを活性化する薬剤を含む。
【0050】
いくつかの実施形態において、組成物は、抗CD16抗体を含む。
【0051】
いくつかの実施形態において、組成物は、抗CD112R抗体を含む。
【0052】
いくつかの実施形態において、組成物は、抗CD16抗体及び抗CD112R抗体を含む。
【0053】
1.多重特異性抗体
特定の実施形態において、本明細書で提供される抗体は、多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位に結合特異性を有するモノクローナル抗体である。特定の実施形態において、1つの結合特異性は、CD112Rに対する結合特異性であり、別の結合特異性は、CD16に対する結合特異性である。特定の実施形態において、1つの結合特異性は、CD112Rに対する結合特異性であり、1つの結合特異性は、CD16に対する結合特異性であり、別の結合特異性は、PD-1、PD-L1、CTLA-4、Lag-3、TIM-3、TIGIT、CD96、PVRL1、PVRL2、PVRL3、PVRL4、CD155、STING、CD47、CD39及びIL-27の1種又は2種以上から独立して選択される。二重特異性抗体を使用して、CD112Rを発現する細胞に細胞傷害性薬剤を局在させることもできる。二重特異性抗体は、完全長抗体又は抗体フラグメントとして調製され得る。
【0054】
多重特異性抗体を作製するための技術には、異なる特異性を有する2個の免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え共発現(Milstein and Cuello, Nature 305: 537 (1983))、WO93/08829及びTraunecker et al., EMBO J. 10: 3655 (1991)を参照)、及び「ノブインホール(knob-in-hole)」工学(例えば、米国特許第5,731,168号を参照)が含まれるが、これらに限定されない。多重特異性抗体は、抗体Fc-ヘテロ二量体分子を作製するために静電的ステアリング効果を操作すること(WO2009/089004A1);2種又は3種以上の抗体又はフラグメントを架橋すること(例えば、米国特許第4,676,980号及びBrennan et al., Science, 229: 81 (1985)を参照);ロイシンジッパーを使用して二重特異性抗体を生産すること(例えば、Kostelny et al., J. Immunol., 148(5):1547-1553 (1992)を参照);二重特異性抗体フラグメントを作製するために「ダイアボディ」技術を使用すること(例えば、Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)を参照);一本鎖Fv(sFv)二量体を使用すること(例えば、Gruber et al., J. Immunol., 152:5368 (1994)を参照);及び三重特異性抗体を調製すること(例えば、Tutt et al. J. Immunol. 147: 60 (1991)に記載されている)によっても作製され得る。
【0055】
3個又は4個以上の機能的抗原結合部位を有する操作された抗体(「オクトパス抗体」を含む)もまた、本明細書に含まれる(例えば、US2006/0025576A1を参照)。
【0056】
本明細書の抗体又はフラグメントはまた、CD112R及び別の異なる抗原にバインディングする抗原結合部位を含む「二重作用FAb」又は「DAF」を含む(例えば、US2008/0069820を参照)。
【0057】
2.Fc領域バリアント
特定の実施形態において、1個又は2個以上のアミノ酸の改変は、本明細書で提供される抗体のFc領域に導入されて、それにより、Fc領域バリアントを生成し得る。Fc領域バリアントは、1個又は2個以上のアミノ酸位置にアミノ酸の改変(例えば、置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4 Fc領域)を含み得る。
【0058】
特定の実施形態において、本発明は、すべてではないが、いくつかのエフェクター機能を保有することにより、in vivoでの抗体の半減期が重要であるが、特定のエフェクター機能(例えば、補体及びADCC)が不要又は有害である用途のための望ましい候補となる抗体バリアントを企図する。in vitro及び/又はin vivo細胞傷害性アッセイは、CDC及び/又はADCC活性の低減/消失を確認するために行われ得る。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイは、抗体がFcγR結合を欠く(したがって、ADCC活性を欠く可能性が高い)が、FcRn結合能を保持していることを確実にするために行われ得る。ADCCを媒介する主要な細胞であるNK細胞は、FcγRIIIのみを発現するが、単球は、FcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血細胞上でのFcR発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol. 9:457-492 (1991)の464頁の表3にまとめられている。目的分子のADCC活性を評価するためのin vitroアッセイの非限定的な例は、米国特許第5,500,362号(例えば、Hellstrom, I. et al. Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 83:7059-7063 (1986)及びHellstrom, I et al., Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 82:1499-1502 (1985)を参照)、及び同第5,821,337号(Bruggemann, M. et al., J. Exp. Med. 166:1351-1361 (1987)を参照)に記載されている。或いは、非放射性アッセイ方法が、利用され得る(例えば、フローサイトメトリーのためのACTI(商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(CellTechnology,Inc.Mountain View,CA;及びCytoTox96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(Promega,Madison,WI)を参照)。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。代替的に又は追加的に、目的分子のADCC活性は、in vivoで、例えば、動物モデル、例えば、Clynes et al. Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 95:652-656 (1998)に記載される動物モデルにおいて評価され得る。C1q結合アッセイはまた、抗体が、C1qにバインディングすることができず、したがって、CDC活性を欠くことを確認するために実行され得る。例えば、WO2006/029879及びWO2005/100402におけるC1q及びC3c結合ELISAを参照。補体活性化を評価するために、CDCアッセイが、実施され得る(例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996);Cragg, M.S. et al., Blood 101:1045-1052 (2003);及びCragg, M.S. and M.J. Glennie, Blood 103:2738-2743 (2004)を参照)。FcRn結合及びin vivoクリアランス/半減期決定はまた、当技術分野で既知の方法を使用して実行され得る(例えば、Petkova, S.B. et al., Int’l. Immunol. 18(12):1759-1769 (2006)を参照)。
【0059】
エフェクター機能が低下した抗体には、Fc領域の残基238、265、269、270、297、327及び329のうちの1個又は2個以上が置換された抗体が含まれる(米国特許第6,737,056号)。このようなFc変異体には、アミノ酸位置265、269、270、297及び327のうちの2個又は3個以上で置換されたFc変異体が含まれ、残基265及び297がアラニンに置換されたいわゆる「DANA」Fc変異体が含まれる(米国特許第7,332,581)。
【0060】
FcRへの結合が向上又は減少した特定の抗体バリアントが記載されている(例えば、米国特許第6,737,056号、WO2004/056312及びShields et al., J. Biol. Chem. 9(2): 6591-6604 (2001)を参照)。
【0061】
特定の実施形態において、抗体バリアントは、ADCCを向上する1個又は2個以上のアミノ酸置換、例えば、Fc領域の位置298、333及び/又は334(残基のEU番号付け)での置換を有するFc領域を含む。
【0062】
いくつかの実施形態において、変化は、例えば、米国特許第6,194,551号、WO99/51642及びIdusogie et al. J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000)に記載されるように、変化した(すなわち、向上又は減少した)C1q結合及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)をもたらすFc領域において行われる。
【0063】
母体IgGの胎児への移行に関与する、増加した半減期及び新生児Fc受容体(FcRn)への向上した結合を有する抗体(Guyer et al., J. Immunol. 117:587 (1976)及びKim et al., J. Immunol. 24:249 (1994))は、US2005/0014934A1(Hinton et al.)に記載されている。それらの抗体は、FcRnへのFc領域の結合を向上させる1個又は2個以上の置換を有するFc領域を含む。このようなFcバリアントには、Fc領域残基238、252、254、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424又は434のうちの1個又は2個以上での置換、例えば、Fc領域残基434の置換(例えば、米国特許第7,371,826号)を有するFcバリアントが含まれる。
【0064】
Fc領域バリアントのその他の例に関して、Duncan & Winter, Nature 322:738-40 (1988)、米国特許第5,648,260号、米国特許第5,624,821号及びWO94/29351号も参照。
【0065】
いくつかの実施形態において、抗体は配列表に従って提供され、アイソタイプはヒトIgG1である。いくつかの実施形態において、抗体は配列表に従って提供され、アイソタイプはヒトIgG4である。いくつかの実施形態において、抗体は配列表に従って提供され、アイソタイプはヒトIgG4であり、セリン228におけるプロリンへの単一変異(S228P)が存在する。
【0066】
3.抗体誘導体
特定の実施形態において、本明細書で提供される抗体は、当技術分野で既知であり、容易に入手可能な、付加的な非タンパク質性部分(nonproteinaceous moiety)を含むようにさらに改変され得る。抗体の誘導体化に好適な部分には、水溶性ポリマーが含まれるが、これらに限定されない。水溶性ポリマーの非限定的な例には、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダムコポリマーのいずれか)、及びデキストラン又はポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロプロピレングリコールホモポリマー(propropylene glycol homopolymer)、プロリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー(prolypropylene oxide/ethylene oxide co-polymer)、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)、ポリビニルアルコール、及びそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中でのその安定性により、製造における利点を有し得る。ポリマーは、任意の分子量のポリマーであり得、分岐又は非分岐であり得る。抗体に結合しているポリマーの数は異なり得、2個以上のポリマーが結合する場合には、それらは同じ又は異なる分子であり得る。一般に、誘導体化に使用されるポリマーの数及び/又は種類は、検討事項、例えば、抗体の向上すべき具体的な特性若しくは機能、又は抗体誘導体が所定の条件下で療法に使用されるか否か等を含むが、これらに限定されない検討事項に基づいて、決定され得る。
【0067】
別の実施形態では、放射線への曝露によって選択的に加熱され得る、抗体及び非タンパク質性部分のコンジュゲートが提供される。いくつかの実施形態において、非タンパク質性部分は、カーボンナノチューブである(Kam et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102: 11600-11605 (2005))。放射線は、任意の波長であり得、これには、通常の細胞を害しないが、非タンパク質性部分を、抗体-非タンパク質性部分に近位の細胞が死滅する温度まで加熱する波長が含まれるが、これらに限定されない。
【0068】
B.医薬製剤
記載の組成物の医薬製剤が、提供され、本明細書に記載の方法で使用され得る。いくつかの実施形態において、医薬製剤は、それが所望の純度となるように有効成分を、1種又は2種以上の任意選択の薬学的に許容可能な担体、希釈剤及び/又は賦形剤(Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980))と混合することにより、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で調製される。薬学的に許容可能な担体、希釈剤及び賦形剤は、一般に、利用される投薬量及び濃度でレシピエントに対して無毒であり、これらには、滅菌水;緩衝剤、例えば、リン酸塩、クエン酸塩及びその他の有機酸;酸化防止剤、例えば、アスコルビン酸及びメチオニン;保存剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルアルコール又はベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルパラベン又はプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジン;単糖類、二糖類及びその他の炭水化物、例えば、グルコース、マンノース又はデキストリン;キレート剤、例えば、EDTA;糖類、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール;塩形成対イオン、例えば、ナトリウム;金属錯体、例えば、Zn-タンパク質錯体;及び/又は非イオン性界面活性剤、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)が含まれるが、これらに限定されない。本明細書における例示的な薬学的に許容可能な担体は、介在性薬物分散剤(insterstitial drug dispersion agent)、例えば、可溶性の中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えば、ヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質、例えば、rHuPH20(HYLENEX(登録商標)、Baxter International,Inc.)をさらに含む。特定の例示的なsHASEGP(rHuPH20を含む)及び使用方法は、米国特許公開第2005/0260186号及び同第2006/0104968号に記載されている。一態様において、sHASEGPは、1種又は2種以上の追加のグリコサミノグリカナーゼ、例えば、コンドロイチナーゼと組み合わせられる。
【0069】
例示的な凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6,267,958号に記載されている。水性抗体製剤は、米国特許第6,171,586号及びWO2006/044908に記載される製剤を含み、後者の製剤は、ヒスチジン-アセテート緩衝剤を含む。
【0070】
本明細書における医薬製剤又は組成物はまた、処置されている特定の適応症に対して、必要に応じて、2種以上の有効成分、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を有する有効成分を含み得る。このような有効成分は、好適には、意図される目的に対して有効である量で組み合わされて存在する。
【0071】
有効成分は、マイクロカプセル、例えば、コアセルベーション技術又は界面重合によって調製されるマイクロカプセル、例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロース-マイクロカプセル又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メタクリル酸メチル)マイクロカプセル;コロイド状薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル);又はマクロエマルションに、封入され得る。このような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)に記載されている。
【0072】
徐放性調製物が、調製され得る。徐放性調製物の好適な例には、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが含まれ、マトリックスは、成形物品、例えば、フィルム又はマイクロカプセルの形態である。
【0073】
in vivo投与に使用される医薬製剤又は組成物は、一般に無菌である。滅菌は、容易に達成され得、例えば、滅菌濾過膜を通じた濾過によって、容易に達成され得る。
【0074】
C.治療上の使用及び方法
CD16及びCD112Rに同時にエンゲージング、カップリング又はバインディングする方法で使用するための組成物が提供される。いくつかの実施形態において、癌を処置するための方法は、CD112R及びCD16に同時にカップリング、エンゲージング及び/又はバインディングすることができる1種又は2種以上の組成物を投与することを含む。いくつかの実施形態において、組成物は、同時にバインディングすることができる1種の薬剤を含む。いくつかの実施形態において、組成物は、その同時又はほぼ同時の投与によって同時にバインディングする2種以上の薬剤を含む。
【0075】
いくつかの実施形態において、組成物は、CD112R及びCD16にバインディングする多重特異性抗体である。いくつかの実施形態において、組成物は2種の薬剤を含み、一方の薬剤はCD112Rにエンゲージング、カップリング又はバインディングし、他方の薬剤はCD16に会合、連結又は結合する。
【0076】
いくつかの実施形態において、
a)NK細胞を優先的に活性化することによって癌を処置する方法;及び/又は
b)NK細胞の活性化を増強する方法;及び/又は
c)NK細胞活性化を増強するが、T細胞活性化を増強しない方法
で使用するための組成物であって、この方法が、CD16及びCD112Rにエンゲージング、カップリング又はバインディングする組成物を投与することを含む、組成物が提供される。
【0077】
さらなる態様において、本発明は、CD112Rを遮断することが望まれる疾患及び/又は障害を処置する方法を提供する。いくつかの実施形態において、腫瘍を有する対象における抗腫瘍免疫応答を増強、増加及び/又は維持する方法であって、CD16及びCD112Rにカップリングする、CD16及びCD112Rにエンゲージングする、又はCD16及びCD112Rを遮断する1種又は2種以上の薬剤を投与することを含む、方法が提供される。いくつかの実施形態において、腫瘍は癌性である。いくつかの実施形態において、癌を有する対象における癌を処置する方法であって、CD16及びCD112Rをカップリング、エンゲージング又は遮断する1種又は2種以上の薬剤を投与することを含む、方法が提供される。
【0078】
本明細書に記載の組成物は、例えば、癌を処置するために使用され得る。いくつかの実施形態において、癌を処置する方法であって、有効量の、CD16及びCD112Rにエンゲージング、カップリング又はバインディングする、1種又は2種以上の組成物を投与することを含む、方法が提供される。
【0079】
癌は、固形腫瘍又は血液悪性腫瘍(例えば、液体腫瘍)を伴う癌であり得る。
【0080】
処置のためのがんの非限定的な例には、扁平上皮細胞癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、扁平上皮非小細胞肺癌(NSCLC)、非扁平上皮NSCLC、神経膠腫、胃腸癌、腎癌(renal cancer)(例えば、明細胞癌)、卵巣癌、肝臓癌、大腸癌、子宮内膜癌、腎癌(kidney cancer)(例えば、腎細胞癌(RCC))、前立腺癌(例えば、ホルモン不応性前立腺癌)、甲状腺癌、神経芽腫、膵臓癌、膠芽腫(例えば、多形膠芽腫)、子宮頸癌、胃癌(stomach cancer)、膀胱癌、肝細胞癌、乳癌、結腸癌腫、及び頭頸部癌(又は癌腫)、胃癌(gastric cancer)、生殖細胞腫瘍、小児肉腫、副鼻腔ナチュラルキラー、黒色腫(例えば、転移性悪性黒色腫、例えば、皮膚悪性黒色腫又は眼内悪性黒色腫)、骨癌、皮膚癌、子宮癌、肛門部癌、精巣癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰部癌、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、小児固形腫瘍、尿管癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)腫瘍、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊髄軸腫瘍、脳癌、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮癌、扁平上皮癌、T細胞リンパ腫、環境誘発性癌(アスベストによって誘発された癌を含む)、ウイルス関連癌又はウイルス起源の癌(例えば、ヒトパピローマウイルス(HPVに関連又は由来する腫瘍));並びに、2種の主要な血球細胞系統(すなわち、骨髄系細胞株(顆粒球、赤血球、血小板細胞、マクロファージ及び肥満細胞を生産する)又はリンパ系細胞株(B細胞、T細胞、NK細胞及び血漿細胞を生産する))のいずれかに由来する血液悪性腫瘍、例えば、すべての種類の白血病、リンパ腫及び骨髄腫:例えば、急性、慢性、リンパ球性及び/又は骨髄性の白血病、例えば、急性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、未分化性AML(MO)、骨髄芽球性白血病(M1)、骨髄芽球性白血病(M2、細胞成熟を伴う)、前骨髄球性白血病(M3又はM3バリアント[M3V])、骨髄単球性白血病(M4又は好酸球増加を伴うM4バリアント[M4E])、単球性白血病(M5)、赤白血病(M6)、巨核芽球性白血病(M7)、単離された顆粒球性肉腫、及び緑色腫;リンパ腫、例えば、ホジキンリンパ腫(HL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、B細胞血液悪性腫瘍(例えば、B細胞リンパ腫)、T細胞リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、単球性B細胞リンパ腫、粘膜関連リンパ系組織(MALT)リンパ腫、未分化性(例えば、Ki1+)大細胞リンパ腫、成人T細胞リンパ腫/白血病、マントル細胞リンパ腫、血液免疫芽球性T細胞リンパ腫、血管中心性リンパ腫、腸管T細胞リンパ腫、原発性縦隔B細胞リンパ腫、前駆体Tリンパ芽球性リンパ腫、Tリンパ芽球性リンパ腫/白血病(T-Lbly/T-ALL)、末梢T細胞リンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫、移植後リンパ増殖性障害、真性組織球性リンパ腫、原発性中枢神経系リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、B細胞リンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫(LBL)、リンパ系系列の造血器腫瘍、急性リンパ芽球性白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、濾胞性リンパ腫、びまん性組織球性リンパ腫(DHL)、免疫芽球性大細胞型リンパ腫、前駆体Bリンパ芽球性リンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫(CTLC)(菌状息肉腫又はセザリー症候群とも呼ばれる)、及びワルデンストレームのマクログロブリン血症を伴うリンパ形質細胞性リンパ腫(LPL);骨髄腫、例えば、IgG骨髄腫、軽鎖骨髄腫、非分泌性骨髄腫、くすぶり型骨髄腫(無痛性骨髄腫とも呼ばれる)、孤立性形質細胞腫、及び多発性骨髄腫;慢性リンパ球性白血病(CLL)、有毛細胞リンパ腫;骨髄系系列の造血器腫瘍、間葉系起源の腫瘍(例えば、線維肉腫及び横紋筋肉腫);中枢および末梢神経のセミノーマ、奇形癌、腫瘍、例えば、星状細胞腫、神経鞘腫;間葉系起源の腫瘍、例えば、線維肉腫、横紋筋肉腫及び骨肉腫;並びにその他の腫瘍、例えば、黒色腫、色素性乾皮症、ケラトアカントーマ、セミノーマ、甲状腺濾胞性癌及び奇形癌;リンパ系系列の造血器腫瘍、例えば、T細胞及びB細胞の腫瘍、例えば、以下に限定されないが、T細胞傷害、例えば、T-前リンパ球性白血病(T-PLL)(小細胞及び脳回細胞型を含む);T細胞型の大顆粒リンパ球性白血病(LGL);a/d T-NHL肝脾リンパ腫;末梢/成熟性T細胞リンパ腫(多形性及び免疫芽球性サブタイプ);血管中心性(鼻)T細胞リンパ腫;頭部癌又は頸部癌、腎癌、直腸癌、甲状腺癌;急性骨髄性リンパ腫;並びに上記癌の任意の組み合わせが含まれる。本明細書に記載の方法はまた、転移性癌、切除不能な不応性癌(例えば、以前の免疫療法、例えば、CTLA-4又はPD-1遮断抗体による免疫療法に不応性癌)及び/又は再発性癌の処置のためにも使用され得る。
【0081】
特定の実施形態において、本明細書に記載の組成物は、以前の処置、例えば、免疫腫瘍学的薬若しくは免疫療法薬による以前の処置に対して不十分な応答を示した癌又は免疫腫瘍学的薬若しくは免疫療法薬による以前の治療時に進行した癌を有する対象に投与される。いくつかの実施形態において、癌は、以前の処置に対して不応性又は抵抗性であり、癌が本来的に不応性又は抵抗性(例えば、PD-1経路アンタゴニストに対して不応性)であるか、或いは、抵抗性又は不応性状態が、獲得されるかのいずれかである。例えば、本明細書に記載の組成物は、第1の療法に応答しないか、若しくは十分に応答しない対象、又は処置、例えば、単独で若しくは別の療法(例えば、抗PD-1経路アンタゴニスト療法)と組み合わせた抗PD-1経路アンタゴニスト処置の後に、疾患が進行した対象に投与され得る。その他の実施形態において、本明細書に記載の組成物は、免疫腫瘍薬剤、例えば、PD-1経路アンタゴニストを以前に受けた(すなわち、処置された)ことがない対象に投与される。
【0082】
D.組み合わせ
本発明の組成物は、療法において単独で又はその他の薬剤と組み合わせて使用され得る。例えば、本発明の組成物は、少なくとも1種の追加の治療薬と共投与され得る(例えば、第2の療法を投与することをさらに含む)。
【0083】
いくつかの実施形態において、追加的な独立した阻害経路又はその組み合わせを標的とすることは、単剤療法よりもさらに増強された免疫細胞活性化をもたらす可能性を有する。
【0084】
いくつかの実施形態において、追加の治療薬又は第2の薬剤は、化学療法剤、オプソニン化剤、制御性T細胞(「Treg」)枯渇剤、CD112R以外の標的のアンタゴニスト、又はCD112R以外の標的のアゴニストである。特定の実施形態において、第2の薬剤は、本明細書に記載の化学療法剤又は任意の既知の化学療法剤である。いくつかの実施形態において、第2の薬剤はオプソニン化剤であり、オプソニン化剤は、癌細胞又は腫瘍細胞を標的とする抗CD112R抗体以外の抗体である。いくつかの実施形態において、第2の薬剤は、本明細書に記載のTreg枯渇剤又は任意の既知のTreg枯渇剤である。いくつかの実施形態において、第2の薬剤は、CD112R以外の標的のアンタゴニストである。いくつかの実施形態において、第2の薬剤は、CD112R以外の標的のアゴニストである。
【0085】
いくつかの場合において、第2の薬剤は、例えば、独立した阻害経路、例えば、PD-1、PD-L1、CTLA-4、Lag-3又はTIM-3を伴う経路を標的とする。いくつかの実施形態において、第2の薬剤は、PD-1、PD-L1、CTLA-4、Lag-3及びTIM-3のうちの1種又は2種以上に拮抗する。本明細書に記載の併用療法で使用するのに好適なアンタゴニストには、リガンド、抗体(例えば、モノクローナル抗体及び二重特異性抗体)及び多価剤が含まれるが、これらに限定されない。一実施形態において、アンタゴニストは、融合タンパク質、例えば、Fc融合タンパク質、例えば、AMP-244である。いくつかの実施形態において、PD-1アンタゴニストは、抗PD-1又は抗PD-L1抗体である。
【0086】
例示的な抗PD-1抗体は、ニボルマブ(BMS-936558)であるか、或いは、WO2006/121168に記載の17D8、2D3、4H1、5C4、7D3、5F4及び4A11のうちの1種の抗体のCDR又は可変領域を含む抗体である。特定の実施形態において、抗PD-1抗体は、WO2012/145493に記載のMK-3475(ランブロリズマブ)、WO2012/145493に記載のAMP-514、又はPDR001である。さらなる既知のPD-1抗体及びその他のPD-1阻害剤には、WO2009/014708、WO03/099196、WO2009/114335、WO2011/066389、WO2011/161699、WO2012/145493、米国特許第7,635,757号及び同第8,217,149号、並びに米国特許公開第2009/0317368号に記載されるものが含まれる。WO2013/173223に記載の任意の抗PD-1抗体もまた、使用され得る。これらの抗体のうちの1種と結合について競合する、及び/又はこれらの抗体のうちの1種のエピトープと同じPD-1上のエピトープにバインディングする抗PD-1抗体はまた、併用処置においても使用され得る
【0087】
いくつかの実施形態において、併用療法に有用な抗PD-L1抗体は、BMS-936559(WO2007/005874及び米国特許第7,943,743号において12A4と称される)であるか、又はPCT公開第WO07/005874及び米国特許第7,943,743号に記載される3G10、12A4、10A5、5F8、10H10、1B12、7H1、11E6、12B7及び13G4のCDR若しくは可変領域を含む抗体である。特定の実施形態において、抗PD-L1抗体は、MEDI4736(デュルバルマブ及び抗B7-H1としても知られる)、MPDL3280A(アテゾリズマブ及びRG7446としても知られる)、MSB0010718C(アベルマブとしても知られる、WO2013/79174)又はrHigM12B7である。WO2013/173223、WO2011/066389、WO2012/145493、米国特許第7,635,757号及び同第8,217,149号、並びに米国公開第2009/145493号に記載の任意の抗PD-L1抗体もまた、使用され得る。これらの抗体のうちのいずれかと競合する、及び/又はこれらの抗体のうちのいずれかのエピトープと同じエピトープにバインディングする抗PD-L1抗体はまた、併用処置においても使用され得る。
【0088】
特定の実施形態において、本開示の組成物は、CTLA-4アンタゴニスト、例えば、抗CTLA-4抗体とともに使用され得る。一実施形態において、抗CTLA-4抗体は、Yervoy(登録商標)(イピリムマブ又は抗体10D1、PCT公開第WO01/14424号に記載される)、トレメリムマブ(以前のチシリムマブ、CP-675,206)、又は以下の刊行物:WO98/42752、WO00/37504、米国特許第6,207,156号、Hurwitz et al. (1998) Pro. Natl. Acad. Sci. USA 95(17): 10067-10071、Camacho et al. (2004) J. Clin. Oncology 22(145): antibodiestract No. 2505 (antibody CP-675206)及びMokyr et al. (1998) Cancer Res. 58:5301-5304のうちのいずれかに記載のモノクローナル抗CTLA-4抗体の群から選択される抗体である。WO2013/173223に記載の任意の抗CTLA-4抗体もまた、使用され得る。
【0089】
いくつかの実施形態において、本開示の組成物は、LAG-3(本明細書及びその他のものにおいてLAG3とも称される)アンタゴニストと組み合わせて使用される。抗LAG3抗体の例には、米国特許公開第US2011/0150892号、WO10/19570及びWO2014/008218に記載される抗体25F7、26H10、25E3、8B7、11F2又は17E5のCDR又は可変領域を含む抗体が含まれる。一実施形態において、抗LAG-3抗体は、BMS-986016である。使用され得るその他の当技術分野で認識されている抗LAG-3抗体には、US2011/007023、WO08/132601及びWO09/44273に記載されるIMP731及びIMP-321が含まれる。これらの抗体のうちのいずれかと競合する、及び/又はこれらの抗体のうちのいずれかのエピトープと同じエピトープにバインディングする抗LAG-3抗体はまた、併用処置においても使用され得る。
【0090】
いくつかの実施形態において、TIGIT、CD96及びCD112R受容体のうちの2種又は3種以上を標的とすることは同時に、抗CD112R単剤療法よりも、CD226媒介性シグナル伝達を増加させる。したがって、いくつかの実施形態において、第2の薬剤は、TIGIT及び/又はCD96のアンタゴニストである。本明細書に記載の併用療法における使用に好適なアンタゴニストには、リガンド、抗体(例えば、モノクローナル抗体及び二重特異性抗体)及び多価剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0091】
いくつかの実施形態において、PVR遺伝子ファミリーのメンバーは、腫瘍細胞上で上方制御され、内在的腫瘍促進特性を呈することができる。抗CD112R抗体と組み合わせてPVR遺伝子ファミリーのメンバーを追加的に標的とすることは、単剤療法よりも腫瘍に対する感受性の増強をもたらす。したがって、いくつかの実施形態において、第2の薬剤は、PVRL1、PVRL2、PVRL3、PVRL4及びCD155のアンタゴニストのうちの1種又は2種以上から選択される。本明細書に記載の併用療法における使用に好適なアンタゴニストには、リガンド、抗体(例えば、モノクローナル抗体及び二重特異性抗体)及び多価剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0092】
STINGアゴニストは、自然免疫細胞の活性化を誘発し、T細胞プライミング及び腫瘍微小環境への免疫細胞の動員を増加させる。CD112Rと組み合わせてSTINGアゴニストを標的とすることは、T細胞及びNK細胞の動員及び活性化のさらなる増加をもたらす可能性を有する。
【0093】
抗CD47抗体を介した食作用の増加は、マクロファージによるT細胞への癌由来抗原の提示の増加をもたらし得る。抗CD47抗体と、抗CD112R抗体、例えば、本明細書で提供される抗CD112R抗体との併用処置は、癌抗原特異的T細胞応答を増強する機会を提供し、本明細書に完全に包含される。
【0094】
アデノシンは、免疫細胞上に発現するアデノシン受容体を介して、T細胞及びNK細胞の活性化を阻害する。抗CD39抗体は、アデノシン三リン酸(ATP)の加水分解を防止することによってアデノシンの生成を阻害する。抗CD39抗体と、抗CD112R抗体、例えば、本明細書で提供される抗CD112R抗体との併用処置は、免疫細胞におけるアデノシン媒介性細胞シグナル伝達を阻害することによってCD112R療法をさらに増強する機会を提供する。
【0095】
サイトカインは、T細胞及びNK細胞の活性化を効果的に調節することができる。IL-27は、T細胞及びNK細胞媒介性応答を阻害する免疫抑制性サイトカインである。抗IL-27抗体は、免疫細胞における免疫抑制性サイトカインのシグナル伝達を限定することによって、CD112R療法を増強する機会を提供する。したがって、抗IL-27抗体と、抗CD112R抗体、例えば、本明細書で提供される抗CD112R抗体との併用治療が、提供される。
【0096】
本明細書の組成物はまた、その他の治療様式、例えば、外科手術、化学療法、放射線療法又は生物学的製剤の投与(例えば、別の治療用抗体の投与)の前、それと実質的に同時、又はその後にも提供され得る。いくつかの実施形態において、癌は、外科手術、化学療法及び放射線療法、又はそれらの組み合わせから選択される療法の後に再発又は進行している。例えば、微小転移が存在し得るリスクが存在する際に、及び/又は再発のリスクを低減するために、本明細書に記載のCD112R抗体は、補助療法として投与され得る。
【0097】
癌の処置のために、組み合わせは、1種又は2種以上の追加の抗癌剤、例えば、化学療法剤、増殖阻害剤、抗癌ワクチン(例えば、遺伝子療法ワクチン)、抗血管新生剤及び/又は抗腫瘍組成物と併せて投与され得る。
【0098】
いくつかの実施形態では、抗炎症薬、例えば、ステロイド又は非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が、組み合わせて投与され得る。異常増殖性細胞を静止状態にすることが望ましい場合には、本明細書に記載のCD112R抗体による処置と併せて、又はその前に、ホルモン及びステロイド(合成類似体を含む)、例えば、17a-エチニルエストラジオール、ジエチルスチルベストロール、テストステロン、プレドニゾン、フルオキシメステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、テストラクトン、酢酸メゲストロール、メチルプレドニゾロン、メチル-テストステロン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、クロロトリアニセン、ヒドロキシプロゲステロン、アミノグルテチミド、エストラムスチン、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル、ロイプロリド、フルタミド、トレミフェン、ZOLADEX(登録商標)もまた、対象に投与され得る。本明細書に記載の方法又は組成物を使用する際、臨床環境における腫瘍増殖又は転移の調節に使用されるその他の薬剤、例えば、抗模倣薬(antimimetics)もまた、必要に応じて投与され得る。
【0099】
上記の併用療法は、組み合わせた投与(2種又は3種以上の治療薬が同じ又は別個の製剤又は組成物中に含まれる)及び別個の投与を包含し、この場合には、本発明の抗体の投与は、追加の1種又は2種以上の治療薬の投与の前、投与と同時に、及び/又は投与の後であり得る。いくつかの実施形態において、抗CD112R抗体の投与及び追加の治療薬の投与は、互いの約1か月以内、又は約1、2若しくは3週間以内、又は約1、2、3、4、5若しくは6日以内であり得る。
【0100】
本発明の組成物(及び任意の追加の治療薬)は、任意の好適な手段、例えば、非経口投与、肺内投与及び鼻腔内投与、並びに局所処置が望まれる場合には、病変内投与によって投与され得る。非経口注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内及び皮下投与が含まれる。投与が短時間又は慢性的であるか否かに部分的に応じて、任意の好適な経路、例えば、注射、例えば、静脈内又は皮下注射によって、投薬され得る。様々な投薬スケジュール、例えば、以下に限定されないが、単回投与又は様々な時点にわたる複数回投与、ボーラス投与及びパルス注入が、本明細書において企図される。
【0101】
本発明の組成物は、良好な医療行為と一致する様式で、調合、投薬及び投与され得る。この文脈において考慮される因子には、処置される特定の障害、処置される特定の哺乳動物、個別の対象の臨床的状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与のスケジュール管理、及び医療従事者に既知のその他の因子が含まれる。本明細書で使用される場合、「分割用量(split dose)」は、単一の単位用量又は総1日用量を2回又は3回以上の用量に分割すること、例えば、単一の単位用量の2回又は3回以上の投与である。組成物は、「分割投与」として投与され得る。
【0102】
組成物は、そうである必要はないが、任意選択で、問題の障害を予防又は処置するために現在使用されている1種又は2種以上の薬剤とともに調合される。このようなその他の薬剤の有効量は、製剤又は組成物に存在する組成物の量、障害又は処置の種類、及び上で記載されたその他の因子に依存する。これらは、本明細書に記載されるのと同じ投薬量及び本明細書に記載される投与経路で、又は本明細書に記載の投薬量の約1~99%で、又は適切であると経験的/臨床的に決定される任意の投薬量及び任意の経路で、一般に使用される。いくつかの実施形態において、組成物は、即時放出のための製剤で提供され、その他の薬剤は、持続放出のために調合されるか、或いは、その逆である。
【0103】
E.製造品
本発明の別の態様では、上記の障害の処置、予防、及び/又は診断に有用な材料を含む製造品が、提供される。製造品は、容器と、容器のラベル若しくは添付文書又は容器に付随したラベル若しくは添付文書とを含む。好適な容器は、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、IV溶液バッグ等を含む。容器は、多様な材料、例えば、ガラス又はプラスチックから形成され得る。容器は、組成物単独、或いは、状態の処置、予防及び/又は診断に有効である別の組成物と組み合わせた組成物を保持し、滅菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、静脈内注射溶液バッグ又は皮下注射針によって穿孔可能な栓を有するバイアルであり得る)。組成物中の少なくとも1種の有効成分は、抗体であり得る。ラベル又は添付文書は、組成物が選択範囲の状態を処置するために使用されることを指示する。さらに、製造品は、(a)抗体を含む組成物がその中に含まれる第1の容器と、(b)さらなる細胞傷害性薬剤又は治療薬を含む組成物がその中に含まれる第2の容器とを含み得る。本発明のこの実施形態の製造品は、組成物が特定の状態を処置するために使用され得ることを示す添付文書をさらに含み得る。代わりに又は加えて、製造品は、薬学的に許容可能な緩衝剤、例えば、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液及びデキストロース溶液を含む第2(又は第3)の容器をさらに含み得る。それは、商業的な及びユーザの観点から望ましいその他の材料、例えば、その他の緩衝剤、希釈剤、フィルター、針及びシリンジをさらに含み得る。
【0104】
上記の任意の製造品は、免疫複合体を含み得ることが理解される。
【実施例
【0105】
III.実施例
実施例1
CD112Rは、NK細胞及びT細胞で発現する抑制性受容体である。CD112Rは、腫瘍細胞に発現するリガンドである細胞接着分子CD112(PVRL2)であって、活性化受容体CD226と競合するCD112との結合により、免疫細胞の活性化を抑制する。CD112Rに対するCD112の結合は、細胞質尾部の免疫受容体チロシンベースの阻害モチーフ(ITIM:immunoreceptor tyrosine based inhibitory motif)を介して下流のシグナル伝達を誘導し、エフェクター細胞の活性化を抑制する。図1Aは概略図を示し、図1BはNK細胞及びCD8T細胞のCD112R発現データを示している。
【0106】
CD112Rの発現は、マウスの腫瘍に浸潤しているNK細胞において上方制御されている。図2を参照。フローサイトメトリーにより、CT-26腫瘍を皮下移植したBalb/cマウスの脾臓及び解離させた腫瘍からの免疫細胞集団において、CD112Rの発現を評価した。CD112Rの発現は、ネガティブ(アイソタイプコントロール)に対する倍率として表されている。
【0107】
図3Aは、NK細胞に対するクローン35の治療活性のモデルを示している。CD16及びCD112Rの両方にエンゲージングすることにより、クローン35処置は抗腫瘍活性を促進する。図3Bは、Fcエフェクター機能が強化された抗CD112R抗体(hIgG1 Fc、クローン35、クローン38及びクローン44)が、腫瘍細胞共培養において、Fcエフェクター機能が低い抗体(hIgG4 Fc、クローン35.4、クローン38.4及びクローン44.4)よりも強いNK細胞脱顆粒をもたらすことを示している。特に、図3Bは、Fcエフェクター機能が強化されたCD112R抗体の存在下で腫瘍細胞に応答して強化されたNK細胞媒介性の脱顆粒を、Fcエフェクター機能が低いCD112R抗体と比較して示している。ヒトNK細胞及びRaji CD112細胞を、IgG1又はIgG4.1(S228P)アイソタイプを有するCD112R抗体の存在下でCD107a PE抗体と4時間共培養した。共培養後、CD107a陽性のNK細胞の頻度によって、NK細胞の脱顆粒を決定した。
【0108】
図4Aでは、CD112Rの過剰発現がJurkat細胞のTCR媒介性の活性化を阻害している。CD112R-ires-GFPで形質導入されたJurkat細胞(Jurkat CD112R)又はGFPコントロールベクターで形質導入されたJurkat細胞(Jurkat GFP)を、膜結合型抗CD3 scFv及びCD112リガンドを発現するTCR刺激細胞と24時間共培養した。上清へのIL-2分泌によって、活性化をELISAにより測定した。
【0109】
図4Bでは、クローン35処理により、Jurkat.CD112RのTCR媒介性の活性化が増加した。CD112Rを過剰発現するJurkat細胞を、クローン35又はアイソタイプコントロール抗体の存在下で、TCR刺激細胞(膜結合型抗CD3 scFv及びCD112リガンドで形質導入されたRaji細胞)と24時間共培養した。上清へのIL-2分泌によって、Jurkat細胞の活性化をELISAにより測定した。
【0110】
図5Aは、クローン35媒介性のNK細胞の活性化が、CD16の遮断によって部分的に抑制されていることを示している。単一ドナー由来のPBMCを、K562標的細胞と、クローン35と、CD16を遮断するF(ab’)2抗体(Ancell、クローン3G8)、CD32を遮断するF(ab’)2抗体(Ancell、クローン7.3)又は培地単独と、24時間共培養した。4-1BB発現の上方制御によって、NK細胞の活性化をフローサイトメトリーにより評価した。
【0111】
図5Bは、Fcエフェクター機能が低い遺伝子操作された抗CD112R抗体(マウスIgG1、クローン46.mG1)と比較して、Fcエフェクター機能が強化された抗CD112R抗体(マウスIgG2a、クローン46)で処置されたマウスの腫瘍増殖阻害が強いことを示している。グラフは3回の実験のまとめであり、群あたりN=44~45である。
【0112】
CD112R遮断のin vivoでの有効性を、NK細胞又はCD8T細胞の枯渇後のCT26同系マウス腫瘍モデルで評価した。NK細胞及びCD8T細胞をそれぞれ枯渇させるために、Asialo-GM1抗体(Biolegend;カタログ番号146002;用量:100uL/マウス;腹腔内)及び抗CD8a抗体(Bioxcell;カタログ番号BE0085;200μg/マウス;腹腔内)により、マウスを無作為化後から開始して3週間、週2回処置 した。7週齢のBALB/cAnNTac雌マウス(Taconic Biosciences、カタログ番号BALB-F)に、0.1mLの50% Geltrex(GIBCO、カタログ番号A1432-02)及び50% RPMI-1640無血清培地(GIBCO、カタログ番号A10491-01)に入れられた0.2×10細胞のCT26.WT(ATCC、カタログ番号CRL-2638)を右脇腹に皮下移植した。触診可能な腫瘍を有するマウスを移植後4日目に無作為化し、無作為化の日から開始してクローン46(抗CD112RマウスIgG2a;12.5mg/kg;腹腔内)を3週間、週2回腹腔内処置した。腫瘍がIACUC限界サイズ(<2000mm)に達するまで、腫瘍体積を2~3日ごとにキャリパーで測定した。腫瘍体積(mm)を以下のように計算した:幅(mm)×[長さ(mm)]×0.5。結果を図6Aに示す。グラフは、時間の関数として、各処置群の平均腫瘍体積を示している。これらの結果は、抗CD112Rの治療効果がNK細胞又はCD8T細胞の枯渇後に著しく減少することを示している。
【0113】
最初のCT26.WT腫瘍の曝露からの完全奏効を示した抗CD112R処置マウスで、抗腫瘍免疫を評価した。最初の曝露のために、7週齢のBALB/cAnNTac雌マウス(Taconic Biosciences、カタログ番号BALB-F)に、0.1mLの50% Geltrex(GIBCO、カタログ番号A1432-02)及び50% RPMI-1640無血清培地(GIBCO、カタログ番号A10491-01)に入れられた0.2×10細胞のCT26.WT(ATCC、カタログ番号CRL-2638)を右脇腹に皮下移植した。触診可能な腫瘍を有するマウスを移植後4日目に無作為化し、無作為化の日から開始して3週間、週2回で以下の表1のとおりに腹腔内処置した。
【0114】
【表1】
【0115】
腫瘍がIACUC限界サイズ(<2000mm)に達するまで、腫瘍体積を2~3日ごとにキャリパーで測定した。腫瘍体積(mm)を以下のように計算した:幅(mm)×[長さ(mm)]×0.5。
【0116】
識別可能な腫瘍を欠いた移植後50日目のすべての生存マウスを、生存マウス/完全奏効マウスであると見なした。抗CD112R処置群の完全奏効マウス(n=8)に、0.1mLの50% Geltrex(GIBCO、カタログ番号A1432-02)及び50% RPMI-1640無血清培地(GIBCO、カタログ番号A10491-01)に入れられた1×10細胞(一次接種量から5倍に増加)のCT26.WT細胞(ATCC、カタログ番号CRL-2638)を左脇腹に接種することにより再曝露させた。対照として、年齢を一致させたナイーブなBalb/c雌マウス(n=5)にも同様に、0.1mLの50% Geltrex及び50% RPMI-1640無血清培地に入れられた1×10個のCT26.WT細胞を左脇腹に接種した。マウスはそれ以上の処置を受けなかった。腫瘍がIACUC限界サイズ(<2000mm)に達するまで、腫瘍体積を2~3日ごとに測定した。腫瘍体積(mm)を以下のように計算した:幅(mm)×[長さ(mm)]×0.5。結果を図6Bに示す。
【0117】
NK細胞の活性化に対するCD112R抗体の影響を評価するために、クローン35(hIgG1)及びクローン35.4(hIgG4)をPBMC-腫瘍細胞共培養により評価した。CD137(4-1BB)の上方制御は、NK細胞活性化のマーカーとして既に確立されており(Baessler et al. (2010) Blood 115(15); Andre et al. (2018) Cell 175, 1731-1743)、CD137(4-1BB)の上方制御を、抗CD112R抗体又はアイソタイプコントロール抗体とともにK562標的細胞(慢性骨髄性白血病細胞株、ATCC#CCL-243)と共培養したPBMCからのNK細胞において測定した。
【0118】
簡単に説明すると、健康なドナーのバフィーコートから分離された凍結PBMCを解凍し、洗浄し、DMEM+10% FBS+1%ペニシリン-ストレプトマイシン(D10)に再懸濁し、96ウェル平底プレートにウェルあたり5×10細胞の濃度でプレーティングし、標的細胞及び抗体を加える前に37℃で4時間静置した。次いで、最初の実験では(図7A)、抗体をD10で希釈し、10倍の段階希釈により10μg/mLの開始濃度で各ウェルに添加した。次の実験では(図8C~8D)、単一濃度(1μg/mL)の抗CD112R又はIgG1アイソタイプコントロール抗体を各ウェルに添加した。両方の実験で、各条件を2回実行した。次いで、K562細胞を回収し、洗浄し、D10に再懸濁し、ウェルあたり5×10細胞の濃度で各ウェルに加えた。各ウェルの最終容量は200μLであった。次いで、プレートを37℃で16時間インキュベートした。16時間後、細胞をVボトムプレートに移し、PBS+2% FBSで2回洗浄した。細胞を、PBS+2% FBSに入れられた抗CD3 FITC(Biolegend、#300306)、抗NKp46 BV421(Biolegend、#331914)及び抗CD137 APC(Biolegend、#309810)により、4℃で30分間染色した。次いで、細胞を2回洗浄し、PBS+2% FBSに再懸濁した。LSRFortessa X-20(BD Biosciences)フローサイトメーターを使用してデータを取得し、FlowJoソフトウェア(Tree Star)で分析した。NK細胞の活性化を、CD3-NKp46+リンパ球ゲート内のCD137+細胞の頻度として定義した。
【0119】
2回の独立した実験からの2人の別個のドナーからの結果を図7A~7Bに示す。
【0120】
図8は、アイソタイプコントロールと比較して、抗CD112R及び抗TIGITの併用療法の単回投与から72時間後に腫瘍内NK細胞の活性化が増加したことを示す。グランザイムB+の割合(図8A)及びインターフェロン-γ+の割合(図8B)として、活性化を評価した。
【0121】
図9は、Fcエフェクター機能が低い遺伝子操作された抗CD112R抗体(マウスIgG1、クローン46.mG1)と比較して、Fcエフェクター機能が強化された抗CD112R抗体(マウスIgG2a、クローン46)で処置したマウスの腫瘍増殖阻害がより強いことを示している。グラフは3回の実験のまとめであり、群あたりN=44~45である。統計分析を、24日目の時点でマンホイットニー検定によって実施した。
【0122】
図10は、抗CD112R.mG2aによる処置後にCT26腫瘍を拒絶し、接種50日目以降は触診可能な腫瘍を示さなかったマウスのサブセットを示している。これらのマウスは、再曝露時にCT26腫瘍を迅速に拒絶し、腫瘍を有するマウスにおける、Fcエフェクター機能が強化されたCD112R抗体による処置が、マウスのサブセットにおける免疫記憶及び防御免疫の発達につながることを示している。
【0123】
実施例2
一連の追跡実験において、追加のドナー由来のPBMCにおける、抗CD112R抗体及び抗CD112R Fabの複数の並べ替えとの共培養後のNK細胞の活性化を評価した。結果は、クローン35媒介性のNK細胞の活性化の増強には、高いFcエフェクター機能及びCD16のエンゲージメントの両方が必要であることをin vitroアッセイで示している(図11A~C)。
【0124】
図11Aは、クローン35媒介性のNK細胞の活性化が、Fc骨格の非存在下で(抗体Fab)部分的に消失していることを示している。5人のドナー由来のPBMCを、完全長クローン35、クローン35 Fab、完全長アイソタイプコントロール又はアイソタイプコントロールFabのいずれかとともに、K562標的細胞と24時間共培養した。4-1BB(CD137)発現の上方制御によって、NK細胞の活性化をフローサイトメトリーにより評価した。統計分析を、対応のあるt検定分析によって実施した。
【0125】
図11Bは、クローン35媒介性のNK細胞の活性化が、グリコシル化されたFc骨格の非存在下で部分的に消失していることを示している。残基297におけるFc骨格のグリコシル化は、IgG1抗体がFc受容体にバインディングする能力を著しく増強する。位置297におけるアスパラギン残基のアラニンへの操作された変異(N297A)は、この残基のグリコシル化を阻止し、したがって、抗体Fc骨格がFc受容体にエンゲージングする能力を大幅に低下させる(Wang et al, Protein Cell 2018)。この実験では、5人のドナー由来のPBMCを、K562標的細胞と、クローン35、非グリコシル化クローン35(クローン35-N297A)、エフェクター機能が低いクローン35(hIgG4、クローン35.4)又はhIgG1アイソタイプコントロール抗体と、24時間共培養した。4-1BB(CD137)発現の上方制御によって、NK細胞の活性化をフローサイトメトリーにより評価した。統計分析を、対応のあるt検定分析によって実施した。
【0126】
図11Cは、クローン35媒介性のNK細胞の活性化が、CD16の遮断によって部分的に抑制されることを示している。5人のドナー由来のPBMCを、K562標的細胞と、クローン35と、CD16を遮断するFab抗体(Ancell、クローン3G8)、CD32を遮断するFab抗体(Ancell、クローン7.3)又はアイソタイプコントロールのいずれかと24時間共培養した。4-1BB(CD137)発現の上方制御によって、NK細胞の活性化をフローサイトメトリーにより評価した。統計分析を、対応のあるt検定分析によって実施した。
【0127】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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