(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-28
(45)【発行日】2025-04-07
(54)【発明の名称】スロットダイ
(51)【国際特許分類】
B05C 5/02 20060101AFI20250331BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20250331BHJP
【FI】
B05C5/02
B05C11/10
(21)【出願番号】P 2022569806
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2021042651
(87)【国際公開番号】W WO2022130903
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2024-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2020210534
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國安 諭司
(72)【発明者】
【氏名】小島 和也
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-233151(JP,A)
【文献】特開平08-215631(JP,A)
【文献】特開2006-289260(JP,A)
【文献】特開2011-194291(JP,A)
【文献】特開2006-205031(JP,A)
【文献】実開平06-029664(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/02
B05C 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布対象物に向かって流体物を吐出するスリットを含むスロットダイであって、
前記塗布対象物に対向する先端面と、前記スリットを画定する内面と、スロットダイの幅方向へのびる第1の溝及び前記第1の溝に交わるとともに前記第1の溝から前記先端面に向かってのびる少なくとも1つの第2の溝を有する外面と、を含むブロックと、
前記第1の溝の幅を変更して前記スリットの幅を調整する少なくとも1つの調整機具と、を含
み、
前記第2の溝は、前記内面には形成されない、
スロットダイ。
【請求項2】
前記調整機具が、前記第1の溝の幅を変更するねじを含む、請求項1に記載のスロットダイ。
【請求項3】
前記調整機具が、前記ブロックの前記外面の上に前記第1の溝を挟んで隣り合って配置された第1の調整部及び第2の調整部を含む一対の調整部と、前記一対の調整部における前記第1の調整部に貫通して配置され、前記一対の調整部における前記第2の調整部に接触する先端面を含むねじと、を含み、前記ねじが、前記第2の調整部に力を加えて前記第1の溝の幅を変更する、請求項1に記載のスロットダイ。
【請求項4】
前記調整機具が、前記ブロックの前記外面の上に前記第1の溝を挟んで隣り合って配置された第1の調整部及び第2の調整部を含む一対の調整部と、前記一対の調整部における前記第1の調整部に貫通して配置され、前記一対の調整部における前記第2の調整部に挿入されたねじと、を含み、前記ねじが、前記第2の調整部を押し引きして前記第1の溝の幅を変更する、請求項1に記載のスロットダイ。
【請求項5】
前記第1の調整部が、雌ねじ部を含み、前記第2の調整部が、雌ねじ部を含み、前記ねじが、前記第1の調整部の前記雌ねじ部にかみ合う第1の雄ねじ部と、前記第2の調整部の前記雌ねじ部にかみ合う第2の雄ねじ部と、を含む差動ねじである、請求項4に記載のスロットダイ。
【請求項6】
前記少なくとも1つの調整機具が前記ブロックの前記外面の上に前記第1の溝に沿って並ぶ複数の調整機具を含み、前記複数の調整機具において隣り合う2つの調整機具の間に前記少なくとも1つの第2の溝のうちの1つの第2の溝が配置されている、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のスロットダイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スロットダイに関する。
【背景技術】
【0002】
スロットダイは、種々の流体物を塗布するために広く使用されている。スロットダイから吐出される流体物の吐出量の調整方法として、例えば、次のような技術が知られている。
【0003】
下記特許文献1は、レバー機構を利用してリップ間の間隙を調整するダイリップ駆動構造を開示している。ダイリップ駆動構造は、ダイ本体に設けられた第1リップと第2リップとの少なくとも一方を構成するフレキシブルリップ部に対して押圧荷重又は引っ張り荷重を付与することにより、上記第1リップと上記第2リップとの間隙を調整する。例えば、下記特許文献1に開示されたTダイにおいて、ダイ本体の下端近傍には凹状の切り欠き部が幅方向に沿って設けられ、上記切り欠き部を境に弾性変形可能なフレキシブルリップ部が形成されている。凹状の切り欠き部を起点にフレキシブルリップ部が変形することで、第1リップと第2リップとの間隙が調整される。
【0004】
下記特許文献2は、工具本体の先端側に長手方向に沿って形成されたスリットの開口幅を調整することにより、工具本体の先端部に開口するスロットの開口幅を調整する調整機構を開示している。調整機構は、電気的駆動手段によってスリットの開口幅を調整する。調整機構は、電気的移動手段によって長手方向に移動可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-036926号公報
【文献】特開2019-171292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示されたダイリップ駆動構造によってある地点のフレキシブルリップ部が変形すると、上記フレキシブルリップ部の変形に追従して上記フレキシブルリップ部の近傍のフレキシブルリップ部も変形することがある。上記のような現象は、第1リップと第2リップとの間隙の緻密な調整を阻害し、幅方向における塗膜の厚みの均一性を低下させる。また、上記特許文献2に開示された調整機構においても上記のような現象が起こる可能性がある。
【0007】
本開示の一態様は、幅方向における塗膜の厚みの均一性を向上させるスロットダイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下の態様を含む。
<1> 塗布対象物に向かって流体物を吐出するスリットを含むスロットダイであって、上記塗布対象物に対向する先端面と、上記スリットを画定する内面と、スロットダイの幅方向へのびる第1の溝及び上記第1の溝に交わるとともに上記第1の溝から上記先端面に向かってのびる少なくとも1つの第2の溝を有する外面と、を含むブロックと、上記第1の溝の幅を変更して上記スリットの幅を調整する少なくとも1つの調整機具と、を含む、スロットダイ。
<2> 上記調整機具が、上記第1の溝の幅を変更するねじを含む、<1>に記載のスロットダイ。
<3> 上記調整機具が、上記ブロックの上記外面の上に上記第1の溝を挟んで隣り合って配置された第1の調整部及び第2の調整部を含む一対の調整部と、上記一対の調整部における上記第1の調整部に貫通して配置され、上記一対の調整部における上記第2の調整部に接触する先端面を含むねじと、を含み、上記ねじが、上記第2の調整部に力を加えて上記第1の溝の幅を変更する、<1>に記載のスロットダイ。
<4> 上記調整機具が、上記ブロックの上記外面の上に上記第1の溝を挟んで隣り合って配置された第1の調整部及び第2の調整部を含む一対の調整部と、上記一対の調整部における第1の調整部に貫通して配置され、上記一対の調整部における第2の調整部に挿入されたねじと、を含み、上記ねじが、上記第2の調整部を押し引きして上記第1の溝の幅を変更する、<1>に記載のスロットダイ。
<5> 上記第1の調整部が、雌ねじ部を含み、上記第2の調整部が、雌ねじ部を含み、上記ねじが、上記第1の調整部の上記雌ねじ部にかみ合う第1の雄ねじ部と、上記第2の調整部の上記雌ねじ部にかみ合う第2の雄ねじ部と、を含む差動ねじである、<4>に記載のスロットダイ。
<6> 上記少なくとも1つの調整機具が上記ブロックの上記外面の上に上記第1の溝に沿って並ぶ複数の調整機具を含み、上記複数の調整機具において隣り合う2つの調整機具の間に上記少なくとも1つの第2の溝のうちの1つの第2の溝が配置されている、<1>~<5>のいずれか1つに記載のスロットダイ。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、幅方向における塗膜の厚みの均一性を向上させるスロットダイが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の第1実施形態に係るスロットダイを示す概略斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されるスロットダイの概略側面図である。
【
図3】
図3は、
図1及び
図2に示されるスロットダイを用いる塗布方法を説明するための概略図である。
【
図4】
図4は、本開示の第2実施形態に係るスロットダイを示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。本開示は、以下の実施形態に何ら制限されない。以下の実施形態は、本開示の目的の範囲内において適宜変更されてもよい。
【0012】
本開示の実施形態について図面を参照して説明する場合、図面において重複する構成要素及び符号の説明を省略することがある。図面において同一の符号を用いて示す構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。図面における寸法の比率は、必ずしも実際の寸法の比率を表すものではない。
【0013】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を示す。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0014】
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0015】
本開示において、「工程」との用語には、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0016】
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
【0017】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0018】
本開示において、序数詞(例えば、「第1」及び「第2」)は、構成要素を区別するために使用する用語であり、構成要素の数、及び構成要素の優劣を制限するものではない。
【0019】
本開示において、「固形分」とは、溶剤以外の成分を意味する。
【0020】
<第1実施形態に係るスロットダイ>
図1及び
図2を参照して、本開示の第1実施形態に係るスロットダイを説明する。
図1は、本開示の第1実施形態に係るスロットダイを示す概略斜視図である。
図2は、
図1に示されるスロットダイの概略側面図である。方向X及び方向Yは互いに直交し、方向X及び方向Zは互いに直交し、方向Y及び方向Zは互いに直交している。方向Xは、スロットダイの幅方向に平行である。
【0021】
図1及び
図2に示されるスロットダイ100は、第1のブロック10と、第2のブロック20と、調整機具30と、を含む。第1のブロック10と第2のブロック20との間には、スリット40及びマニホールド50が形成されている。
【0022】
(第1のブロック)
第1のブロック10は、第2のブロック20とともにスリット40及びマニホールド50を画定する。第1のブロック10は、第2のブロック20に対向しており、ボルト(図示省略)によって第2のブロック20に固定されている。
【0023】
第1のブロック10は、ステンレス鋼によって形成されている。ただし、第1のブロック10は、ステンレス鋼以外の材料によって形成されてもよい。ステンレス鋼以外の材料としては、例えば、セラミック及び超硬合金が挙げられる。
【0024】
第1のブロック10の形状は、方向Xへのびる柱状である。第1のブロック10の幅は、例えば、塗膜の幅に応じて決定される。第1のブロック10の幅は、20mm~400mmの範囲内であることが好ましい。第1のブロック10の幅は、20mm~200mmの範囲内であってもよい。第1のブロック10の幅は、50mm~100mmの範囲内であってもよい。第1のブロック10の幅とは、方向Xに沿って第1のブロック10の端から端までの距離を意味する。
【0025】
第1のブロック10は、先端面10aと、内面10bと、外面10cと、を含む。スロットダイ100を用いる塗布方法において、先端面10aは、塗布対象物(図示省略)に対向する。先端面10aは、第1のブロック10の先端に設けられており、方向Zを向いている。先端面10aは、方向Xへのびている。内面10bは、スリット40を画定する。内面10bは、方向Yを向いている。内面10bは、方向X及び方向Zへのびている。外面10cは、第1の溝11及び第2の溝12を有する。外面10cは、方向Yとは逆方向を向いている。すなわち、外面10cは、スロットダイ100の外側の面である。外面10cは、方向X及び方向Zへのびている。
【0026】
第1のブロック10は、第1の溝11及び第2の溝12によって区画された先端部10dを含む。後述するように、第1のブロック10の先端部10dは、調整機具30によって第1の溝11の底部11aを起点に変形できる。1つの第1の溝11及び2つの第2の溝12によって区画されている先端部10dの数は、10である。ただし、1つの第1の溝11及び2つの第2の溝12によって区画されている先端部10dの数は、10に限られない。1つの第1の溝11及び2つの第2の溝12によって区画されている先端部10dの数は、第1のブロック10の幅、設置可能な調整機具30の数及び要求される塗膜の厚みの均一性に応じて変更されてもよい。
【0027】
第1の溝11は、方向X及び方向Yにおいて第1のブロック10の先端部10dを区画し、第1のブロック10の先端部10dの可動性を向上させる。スロットダイ100のXZ平面視において、第1の溝11は、方向X、すなわち、スロットダイ100の幅方向へのびている。具体的に、第1の溝11は、スロットダイ100の幅の端から端までのびている。スロットダイ100のXZ平面視において、第1の溝11は、第1のブロック10の先端面10a、すなわち、スロットダイ100の先端に平行である。スロットダイ100のXZ平面視において第1の溝11がスロットダイ100の先端に平行であると、第1のブロック10の先端部10dの可動範囲のばらつきが低減し、幅方向における塗膜の厚みの均一性が向上する。また、第1の溝11は、外面10cからスリット40に向かってのびている。
図2において、第1の溝11の底部11aの形状は、円形である。第1の溝11の底部11aの形状が円形であることで、第1のブロック10の先端部10dの可動性が向上する。ただし、第1の溝11の底部11aの形状は、円形に限られず、四角形といった多角形であってもよい。
【0028】
第1の溝11の幅は、0.1mm~20mmの範囲内であることが好ましく、0.5mm~10mmの範囲内であることがより好ましく、1mm~5mmの範囲内であることが特に好ましい。第1の溝11の幅が大きくなるほど、第1のブロック10の先端部10dの可動性が向上する。第1の溝11の幅が小さくなるほど、第1のブロック10の剛性が向上する。第1の溝11の幅とは、スロットダイ100のXZ平面視において、方向Zに沿って第1の溝11の端から端までの最短距離を意味する。
【0029】
第1の溝11の深さは、例えば、第1のブロック10の厚さ及び第1のブロック10の先端部10dの可動性に応じて決定される。第1の溝11の深さは、10mm~180mmの範囲内であることが好ましく、20mm~80mmの範囲内であることがより好ましい。第1の溝11の深さが大きくなるほど、第1のブロック10の先端部10dの可動性が向上する。第1の溝11の深さが小さくなるほど、第1のブロック10の剛性が向上する。第1の溝11の最大深さの好ましい範囲は、既述した第1の溝11の深さの好ましい範囲と同じである。
【0030】
第1のブロック10の先端部10dの可動性及び第1のブロック10の剛性の観点から、第1の溝11の幅に対する第1の溝11の深さの比(すなわち、[第1の溝11の深さ]/[第1の溝11の幅])は、2~20の範囲内であることが好ましく、5~15の範囲内であることがより好ましい。第1の溝11の幅に対する第1の溝11の最大深さの比(すなわち、[第1の溝11の最大深さ]/[第1の溝11の幅])は、既述した[第1の溝11の深さ]/[第1の溝11の幅]の好ましい範囲と同じである。
【0031】
第2の溝12は、方向Y及び方向Zにおいて第1のブロック10の先端部10dを区画し、ある先端部10dの変形が別の先端部10dに及ぼす影響を低減できる。この結果、幅方向における塗膜の厚みの均一性が向上する。第2の溝12は、第1の溝11に直角に交わるとともに第1の溝11から先端面10aに向かってのびている。すなわち、スロットダイ100のXZ平面視において、第1の溝11と第2の溝12とのなす角は、90°である。ただし、第1の溝11と第2の溝12とのなす角は、90°に限られない。第1の溝11と第2の溝12とのなす角は、85°~95°の範囲内であってもよい。第1の溝11と第2の溝12とのなす角は、87°~93°の範囲内であってもよい。第1の溝11と第2の溝12とのなす角は、89°~91°であってもよい。第1の溝11と第2の溝12とのなす角が90°に近づくほど、スロットダイ100の先端におけるスリット40の制御性が向上し、幅方向における塗膜の厚みの均一性が向上する。また、第1の溝11と同様に、第2の溝12は、外面10cからスリット40に向かってのびている。
【0032】
第2の溝12の幅は、0.1mm~20mmの範囲内であることが好ましく、0.5mm~10mmの範囲内であることがより好ましく、1mm~5mmの範囲内であることが特に好ましい。第2の溝12の幅が大きくなるほど、隣り合う2つの先端部10dの間の距離が大きくなり、ある先端部10dの変形が別の先端部10dに及ぼす影響が低減される。この結果、幅方向における塗膜の厚みの均一性が向上する。第2の溝12の幅が小さくなるほど、第1のブロック10に形成可能な第2の溝12の数が大きくなる。第2の溝12の数が大きくなるほど、スロットダイ100の先端におけるスリット40の幅の調整箇所が増え、幅方向における塗膜の厚みが細かく調整される。この結果、幅方向における塗膜の厚みの均一性が向上する。第2の溝12の幅とは、スロットダイ100のXZ平面視において、方向Xに沿って第2の溝12の端から端までの最短距離を意味する。
【0033】
先端部10dの可動性及び第2の溝部12で区切られる個々のスリット40の幅の制御性の観点から、第1の溝11の幅に対する第2の溝12の幅の比(すなわち、[第2の溝12の幅]/[第1の溝11の幅])は、0.2~5の範囲内であることが好ましく、0.5~3の範囲内であることがより好ましく、0.7~1.5の範囲内であることが特に好ましい。
【0034】
第2の溝12の深さは、例えば、第1のブロック10の厚さ及び第1のブロック10の先端部10dの可動性に応じて決定される。第2の溝12の深さは、10mm~180mmの範囲内であることが好ましく、20mm~80mmの範囲内であることがより好ましい。第2の溝12の深さが大きくなるほど、ある先端部10dの変形が別の先端部10dに及ぼす影響が低減され、幅方向における塗膜の厚みの均一性が向上する。第2の溝12の深さが小さくなるほど、第1のブロック10の剛性が向上する。第2の溝12の最大深さの好ましい範囲は、既述した第2の溝12の深さの好ましい範囲と同じである。
【0035】
幅方向における塗膜の厚みの均一性及び第1のブロック10の剛性の観点から、第2の溝12の幅に対する第2の溝12の深さの比(すなわち、[第2の溝12の深さ]/[第2の溝12の幅])は、2~20の範囲内であることが好ましく、5~15の範囲内であることがより好ましい。第2の溝12の幅に対する第2の溝12の最大深さの比(すなわち、[第2の溝12の最大深さ]/[第2の溝12の幅])は、既述した[第2の溝12の深さ]/[第2の溝12の幅]の好ましい範囲と同じである。
【0036】
幅方向における塗膜の厚みの均一性の観点から、第2の溝12の間隔は、10mm~100mmの範囲内であることが好ましく、15mm~50mmの範囲内であることがより好ましく、25mm~35mmの範囲内であることが特に好ましい。さらに、第2の溝12の間隔は、均等であることが好ましい。第2の溝12の間隔とは、スロットダイ100のXZ平面視において、隣り合う2つの第2の溝12の間の距離を意味する。
【0037】
第1の溝11から先端面10aに向かってのびる第2の溝12の数は、11である。ただし、第2の溝12の数は、11に限られない。第2の溝12の数は、第1のブロック10の幅、設置可能な調整機具30の数及び要求される塗膜の厚みの均一性に応じて変更されてもよい。第2の溝12の数が大きくなるほど、第1の溝11及び第2の溝12によって区画された先端部10dの数が大きくなり、スロットダイ100の先端におけるスリット40の幅の調整箇所の数が大きくなる。この結果、幅方向における塗膜の厚みが細かく調整され、幅方向における塗膜の厚みの均一性が向上する。
【0038】
第1のブロック10の製造方法としては、例えば、鍛造、鋳造及び切削加工が挙げられる。第1の溝11及び第2の溝12は、鍛造又は鋳造の過程で形成されてもよい。第1の溝11及び第2の溝12は、削り出しによって形成されてもよい。
【0039】
(第2のブロック)
第2のブロック20は、第1のブロック10とともにスリット40及びマニホールド50を画定する。第2のブロック20は、第1のブロック10に対向しており、ボルト(図示省略)によって第1のブロック10に固定されている。
【0040】
第2のブロック20は、ステンレス鋼によって形成されている。ただし、第2のブロック20は、ステンレス鋼以外の材料によって形成されてもよい。ステンレス鋼以外の材料としては、例えば、第1のブロック10の成分の説明において例示されたステンレス鋼以外の材料が挙げられる。第2のブロック20は、第1のブロック10に含まれる成分と同じ成分を含むことが好ましい。
【0041】
第2のブロック20の形状は、方向Xへのびる柱状である。第2のブロック20の幅は、第1のブロック10の幅と同じである。第2のブロック20の幅の好ましい範囲は、既述した第1のブロック10の幅の好ましい範囲と同じである。
【0042】
第2のブロック20の製造方法としては、例えば、鍛造、鋳造及び切削加工が挙げられる。
【0043】
(調整機具)
調整機具30は、第1の溝11の幅を変更し、そして、第1の溝11の幅の変更を利用してスロットダイ100の先端におけるスリット40の幅を調整する。後述するように、調整機具30は、ボルト33の回転に応じて第2の調整部32を押し引きすることで、第1の溝11の幅を変更する。調整機具30は、第1のブロック10の外面10cの上に第1の溝11に沿って並んでいる。隣り合う2つの調整機具30の間に第2の溝12が配置されている。つまり、調整機具30及び第2の溝12は、方向X、すなわち、スロットダイ100の幅方向に沿って交互に配置されている。
【0044】
調整機具30の数は、10である。ただし、調整機具30の数は、10に限られない。調整機具30の数は、第1の溝11及び第2の溝12によって区画されている第1のブロック10の先端部10dの数に応じて変更されてもよい。調整機具30の数が大きくなるほど、幅方向における塗膜の厚みが細かく調整される。この結果、幅方向における塗膜の厚みの均一性が向上する。
【0045】
調整機具30は、第1の調整部31と、第2の調整部32と、ボルト33と、を含む。
【0046】
第1の調整部31及び第2の調整部32は、一対の調整部を構成する。第1の調整部31及び第2の調整部32は、第1のブロック10の外面10cの上に第1の溝11を挟んで隣り合って配置されている。第2の調整部32は、1つの第1の溝11及び2つの第2の溝12によって区画されている第1のブロック10の先端部10dに接触している。第1の調整部31及び第2の調整部32は、ボルト(図示省略)によって第1のブロック10の外面10cに固定されている。ただし、第1の調整部31及び第2の調整部32は、ボルト以外の固定具によって第1のブロック10に固定されてもよい。第1の調整部31及び第2の調整部32は、固定具を用いる方法以外の方法によって第1のブロック10に固定されてもよい。第1の調整部31及び第2の調整部32は、ステンレス鋼によって形成されている。ただし、第1の調整部31及び第2の調整部32は、ステンレス鋼以外の材料によって形成されてもよい。ステンレス鋼以外の材料としては、例えば、第1のブロック10の成分の説明において例示されたステンレス鋼以外の材料が挙げられる。第1の調整部31及び第2の調整部32の形状は、四角柱である。ただし、第1の調整部31及び第2の調整部32の形状は、四角柱以外の形状であってもよい。第1の調整部31は、雌ねじ部を含む。第1の調整部31の雌ねじ部は、第1の調整部31のねじ穴を画定する内周面に形成されている。第2の調整部32は、雌ねじ部を含む。第2の調整部32の雌ねじ部は、第2の調整部32のねじ穴を画定する内周面に形成されている。
【0047】
ボルト33は、第1の溝11の幅を変更するねじである。具体的に、ボルト33は、差動ねじの1種であり、ねじ山のピッチの差を利用して第2の調整部32を押し引きする。後述するように、第1の溝11の幅は、スロットダイ100の先端におけるスリット40の幅に影響を及ぼす。ボルト33は、第1の調整部31に貫通して配置されており、第2の調整部32に挿入されている。具体的に、ボルト33は、第1の調整部31のねじ穴を通じて第2の調整部32のねじ穴に挿入されている。ボルト33は、第1の調整部31及び第2の調整部32の両方を貫通して配置されてもよい。ボルト33は、第1の調整部31の雌ねじ部にかみ合う第1の雄ねじ部と、第2の調整部32の雌ねじ部にかみ合う第2の雄ねじ部と、を含む。ボルト33において、第1の雄ねじ部のピッチは、第2の雄ねじ部のピッチと異なる。「雄ねじ部のピッチ」とは、雄ねじ部の隣り合う2つのねじ山の間隔を意味する。第1の雄ねじ部のピッチと第2の雄ねじ部のピッチとの差の絶対値は、0.1mm以上、0.15mm以上又は0.2mm以上であってもよい。第1の雄ねじ部のピッチと第2の雄ねじ部のピッチとの差の絶対値は、0.1mm~0.6mmの範囲内であることが好ましく、0.15mm~0.5mmの範囲内であることがより好ましく、0.2mm~0.4mmの範囲内であることが特に好ましい。ボルト33において、第1の雄ねじ部の外径は、第2の雄ねじ部の外径より大きいことが好ましい。ボルト33は、方向Zへのびており、方向Zに沿う仮想直線を回転軸として回転できる。ボルト33は、回転しながら方向Z又は方向Zとは逆方向へ移動できる。ボルト33の移動方向及び移動量は、ボルト33の回転方向及び回転量に応じて調整される。ボルト33の回転方向及び回転量に応じて、ボルト33が第2の調整部32を押す力又は引く力が変化し、第1の溝11の幅が調整される。ボルト33は、ステンレス鋼によって形成されている。ただし、ボルト33は、ステンレス鋼以外の材料によって形成されてもよい。ステンレス鋼以外の材料としては、例えば、第1のブロック10の成分の説明において例示されたステンレス鋼以外の材料が挙げられる。
【0048】
(スリット)
スリット40は、塗布対象物に向かって流体物を吐出する空間である。スリット40は、第1のブロック10及び第2のブロック20によって画定されている。スリット40は、方向X及び方向Zへのびており、スロットダイ100の先端において吐出口を形成している。スロットダイ100の先端におけるスリット40の幅は、例えば、塗液の流量及び粘度に応じて決定される。スロットダイ100の先端におけるスリット40の幅は、0.3mm~0.8mmの範囲内であることが好ましい。スロットダイ100の先端におけるスリット40の幅とは、スロットダイ100の先端のXY平面視において、方向Yに沿ってスリット40の端から端までの距離を意味する。
【0049】
(マニホールド)
マニホールド50は、流体物を貯留する空間である。マニホールド50は、第1のブロック10及び第2のブロック20によって画定されている。マニホールド50は、スリット40に連通している。マニホールド50に貯留された流体物は、方向Zへ移動し、スリット40を通じて吐出される。スロットダイ100のXZ平面視において、マニホールド50は、方向X、すなわち、スロットダイ100の幅方向へのびている。
図2において、マニホールド50の形状は、略台形である。マニホールド50の形状は、第2のブロック20に形成された略台形状の凹部の形状に対応している。ただし、マニホールド50の形状は、略台形以外の形状であってもよい。マニホールド50の形状は、半円形であってもよい。マニホールド50の形状は、円形であってもよい。円形のマニホールドは、例えば、第1のブロック10に形成された半円状の凹部と第2のブロック20に形成された半円状の凹部との組み合わせによって画定される。
【0050】
(スリットの幅の調整方法)
図2を参照して、スロットダイ100の先端におけるスリット40の幅の調整方法を説明する。第1の溝11及び第2の溝12によって区画されている第1のブロック10の先端部10dは、第1の溝11の底部11aを起点に変形できる。
図2において、ボルト33の回転に応じてボルト33が第2の調整部32を押す力が大きくなると(言い換えると、第1の調整部31と第2の調整部32との間隔が大きくなると)、第2の調整部32に接する第1のブロック10の先端部10dが第1の溝11の底部11aを起点に反時計回りに変形し、第1の溝11の幅が大きくなる。この結果、スロットダイ100の先端におけるスリット40の幅は小さくなる。一方、ボルト33の回転に応じてボルト33が第2の調整部32を引く力が大きくなると(言い換えると、第1の調整部31と第2の調整部32との間隔が小さくなると)、第2の調整部32に接する第1のブロック10の先端部10dが第1の溝11の底部11aを起点に時計回りに変形し、第1の溝11の幅が小さくなる。この結果、スロットダイ100の先端におけるスリット40の幅は大きくなる。上記のような動作によって、スロットダイ100の先端におけるスリット40の幅が調整される。また、第2の溝12を挟んで隣り合う2つの先端部10dに関して、第2の溝12は、調整機具30によって一方の先端部10dに与えられた力が他方の先端部10dに伝達することを抑制できる。つまり、調整機具30によってある先端部10dが変形しても、上記先端部10dの隣に位置する別の先端部10dは変形しにくい。この結果、方向Xに沿って並んでいる複数の調整機具30は、それぞれ独立に、所望の地点でスリット40の幅を調整でき、幅方向における塗膜の厚みの均一性を向上させる。
【0051】
(塗布方法)
図3を参照して、スロットダイ100を用いる塗布方法を説明する。
図3は、
図1及び
図2に示されるスロットダイを用いる塗布方法を説明するための概略図である。
図3に示される塗布方法によれば、多層フィルムが得られる。
【0052】
塗布対象物であるフィルムFは、ロールツーロール(Roll to Roll)方式によって搬送されている。フィルムFの搬送経路の途中にはスロットダイ100及び乾燥装置200が設けられている。
【0053】
フィルムFの成分としては、例えば、重合体及び金属が挙げられる。重合体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びトリアセチルセルロースが挙げられる。フィルムFは、1種又は2種以上の重合体を含んでもよい。金属としては、例えば、鉄、クロム、ニッケル、チタン、銅、アルミニウム、銀及び金が挙げられる。金属は、合金であってもよい。合金としては、例えば、ステンレス鋼及びインバーが挙げられる。フィルムFは、1種又は2種以上の金属を含んでもよい。ある実施形態において、フィルムFは、重合体を含むことが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びトリアセチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。重合体を含むフィルムFの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート製フィルム、ポリエチレンナフタレート製フィルム及びトリアセチルセルロース製フィルムが挙げられる。ある実施形態において、フィルムFは、金属を含むことが好ましく、ニッケル、チタン、銅、アルミニウム、銀及び金からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、銅及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが更に好ましく、アルミニウムを含むことが特に好ましい。金属を含むフィルムFの具体例としては、銅製フィルム及びアルミニウム製フィルムが挙げられる。
【0054】
フィルムFは、高い熱伝導性を有してもよい。高い熱伝導性を有するフィルムFとしては、例えば、200W/(m・K)以上の熱伝導率を有するフィルムFが挙げられる。フィルムFの熱伝導率の上限は、制限されない。フィルムFの熱伝導率は、500W/(m・K)以下であってもよい。フィルムFの熱伝導率は、レーザーフラッシュ法を用いて測定される。まず、フィルムFを、幅方向に沿って3箇所(具体的には、幅方向の両端から5mmの位置と幅方向中央部)、φ5mm~10mmで切り出し、3つの測定試料を得る。レーザーフラッシュ法を適用した熱物性測定装置(例えば、LFA-502、京都電子工業株式会社)を用いて、各測定試料の熱伝導率を測定する。3つの測定値の算術平均をフィルムFの熱伝導率とする。
【0055】
フィルムFの層構造は、制限されない。フィルムFは、単層構造又は多層構造を有してもよい。
【0056】
生産性の向上の観点から、フィルムFは、長尺のフィルムであることが好ましい。フィルムFの長さは、10m以上であることが好ましく、100m以上であることがより好ましく、200m以上であることが特に好ましい。フィルムFの長さの上限は、制限されない。フィルムFの長さの上限は、1,000m又は500mであってもよい。フィルムFの長さは、通常、10m~1,000mの範囲内である。「フィルムFの長さ」とは、フィルムFの搬送方向におけるフィルムFの端から端までの距離を意味する。
【0057】
フィルムFの幅は、制限されない。生産性向上の観点から、フィルムFの幅は、100mm~2,000mmの範囲内であることが好ましい。
【0058】
フィルムFの厚さは、制限されない。材料コストの観点から、フィルムFの厚さは、3μm~50μmの範囲内であることが好ましく、10μm~30μmの範囲内であることがより好ましい。
【0059】
フィルムFの搬送速度は、1m/分~100m/分の範囲内であることが好ましい。
【0060】
フィルムFの張力は、10N/m~500N/mの範囲内であることが好ましく、50N/m~200N/mの範囲内であることがより好ましい。張力の制御は、例えば、公知の張力制御装置を用いて実施される。張力の制御は、張力制御機構を含む公知の搬送装置を用いて実施されてもよい。張力制御機構を含む搬送装置としては、例えば、テンデンシー駆動式ローラー(Tendency drive roller)を含む搬送装置が挙げられる。テンデンシー駆動式ローラーは、例えば、テンデンシー駆動式ローラーを支持する回転軸とテンデンシー駆動式ローラーとの間で作用する摩擦力又は磁力によって回転する。回転軸は、例えば、モーターによって回転される。つまり、回転軸を回転させる力がテンデンシー駆動式ローラーに伝達し、テンデンシー駆動式ローラーが回転する。テンデンシー駆動式ローラーを含む搬送装置は、例えば、回転軸の回転数に応じてフィルムの張力を制御できる。テンデンシー駆動式ローラーに関する技術は、例えば、特許第4066904号公報に記載されている。上記文献の内容は、参照により本明細書に取り込まれる。
【0061】
図3において、スロットダイ100は、搬送されているフィルムFに向かって塗布液を吐出する。塗布液は、塗布液を貯留する容器(図示省略)からスロットダイ100に供給される。
【0062】
塗布液の種類は、制限されない。塗布液は、水系塗布液であることが好ましい。「水系塗布液」とは、塗布液に含まれる溶剤が実質的に水である塗布液を意味する。「塗布液に含まれる溶剤が実質的に水である」とは、塗布液に含まれる溶剤の多くを水が占めることを意味する。水系塗布液に含まれる溶剤に占める水の割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0063】
水系塗布液に含まれる水としては、例えば、天然水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水及び超純水が挙げられる。
【0064】
水系塗布液における水の含有率は、水系塗布液の全質量に対して、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。水系塗布液における水の含有率は、水系塗布液の全質量に対して、100質量%未満であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0065】
水系塗布液は、粒子を含んでもよい。粒子としては、例えば、無機粒子、有機粒子及び無機物質と有機物質との複合粒子が挙げられる。
【0066】
無機粒子としては、例えば、金属の粒子、半金属の粒子、金属化合物の粒子、半金属化合物の粒子、無機顔料の粒子、鉱物の粒子及び多結晶ダイヤモンドの粒子が挙げられる。金属としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属及びこれらの合金が挙げられる。半金属としては、例えば、ケイ素が挙げられる。金属化合物及び半金属化合物としては、例えば、酸化物、水酸化物及び窒化物が挙げられる。無機顔料としては、例えば、カーボンブラックが挙げられる。鉱物としては、例えば、雲母が挙げられる。
【0067】
有機粒子としては、例えば、樹脂の粒子及び有機顔料の粒子が挙げられる。
【0068】
無機物質と有機物質との複合粒子としては、例えば、有機物質によるマトリックス中に無機粒子が分散した複合粒子、有機粒子の周囲を無機物質にて被覆した複合粒子及び無機粒子の周囲を有機物質にて被覆した複合粒子が挙げられる。
【0069】
分散性の付与のために、粒子は、表面処理が施されていてもよい。表面処理によって複合粒子が形成されてもよい。
【0070】
粒子の粒径、比重及び使用形態は、制限されない。粒子の粒径、比重及び使用形態は、例えば、塗布液によって形成される塗膜及び塗膜の製造条件に応じて決定される。
【0071】
水系塗布液は、1種又は2種以上の粒子を含んでもよい。
【0072】
水系塗布液における粒子の含有率は、制限されない。水系塗布液における粒子の含有率は、例えば、粒子の添加目的、塗布液によって形成される塗膜及び塗膜の製造条件に応じて決定される。
【0073】
水系塗布液の成分としては、例えば、バインダー成分、粒子の分散性に寄与する成分、重合性化合物、重合開始剤及び塗布性能を高めるための成分(例えば、界面活性剤)も挙げられる。
【0074】
塗布液の固形分濃度は、70質量%未満であることが好ましく、30質量%~60質量%であることがより好ましい。
【0075】
フィルムFに塗布された塗布液の厚さ(以下、「液膜の厚さ」という場合がある。)は、制限されない。液膜の厚さは、10μm~200μmの範囲内であってもよい。液膜の厚さは、20μm~100μmの範囲内であってもよい。
【0076】
図3において、乾燥装置200は、フィルムFに塗布された塗布液を乾燥する。塗布液の乾燥によって多層フィルムが得られる。乾燥装置200は、送風によって塗布液を乾燥する。送風における気体の温度は、25℃~200℃の範囲内であることが好ましく、30℃~150℃の範囲内であることがより好ましい。送風における風速は、1.5m/秒~50m/秒であることが好ましい。塗布液の乾燥に使用される乾燥装置としては、例えば、オーブン、温風機及び赤外線ヒーターが挙げられる。
【0077】
上記のような方法によって得られる多層フィルムの用途は限られない。
【0078】
<第2実施形態に係るスロットダイ>
図4を参照して、本開示の第2実施形態に係るスロットダイを説明する。
図4は、本開示の第2実施形態に係るスロットダイを示す概略側面図である。
図4に示されるスロットダイ110は、調整機具30にかえて調整機具60が適用されている点を除いて、既述したスロットダイ100の構成要素と同じ構成要素を含む。以下、スロットダイ110について具体的に説明する。ただし、以下のスロットダイ110に関する説明では、スロットダイ100と重複する内容は省略される。
【0079】
調整機具60の配置は、既述した調整機具30の配置と同じであり、調整機具60の数は、既述した調整機具30の数と同じである。
【0080】
調整機具60は、第1の調整部61と、第2の調整部62と、ボルト63と、を含む。
【0081】
第1の調整部61は、雌ねじ部を含む。第1の調整部61の雌ねじ部は、第1の調整部61のねじ穴を画定する内周面に形成されている。
【0082】
ボルト63は、第1の溝11の幅を変更するねじである。ボルト63は、第1の調整部61に貫通して配置されている。ボルト63は、第1の調整部61の雌ねじ部にかみ合う雄ねじ部と、第2の調整部62に接触する先端面と、を含む。ボルト63の先端面は、第2の調整部62に対向している。ボルト63の先端面は、第2の調整部62に接触し、第2の調整部62に力を与えることができる。ボルト63は、方向Zへのびており、方向Zに沿う仮想直線を回転軸として回転できる。ボルト63は、回転しながら方向Z又は方向Zとは逆方向へ移動できる。ボルト63の移動方向及び移動量は、ボルト63の回転方向及び回転量に応じて調整される。ボルト63の回転方向及び回転量に応じて、ボルト63が第2の調整部62を押す力が変化し、第1の溝11の幅が調整される。
【0083】
スロットダイ110の先端におけるスリット40の幅の調整方法を説明する。スリット40の幅の調整は、一部又は全てのボルト63の先端面を第2の調整部63に接触させて実施される。なお、スリット40の幅が目的の範囲内に設定されていれば、全てのボルト63の先端面は第2の調整部63に接触していなくてもよい。ボルト63の回転に応じてボルト63が第2の調整部62を押す力が大きくなると、第2の調整部62に接する第1のブロック10の先端部10dが第1の溝11の底部11aを起点に反時計回りに変形し、第1の溝11の幅が大きくなる。この結果、スロットダイ110の先端におけるスリット40の幅は小さくなる。一方、ボルト63の回転に応じてボルト63が第2の調整部62を押す力が小さくなると、第2の調整部62に接する第1のブロック10の先端部10dが第1の溝11の底部11aを起点に時計回りに変形し、第1の溝11の幅が小さくなる。この結果、スロットダイ110の先端におけるスリット40の幅は大きくなる。上記のような動作によって、スロットダイ110の先端におけるスリット40の幅が調整される。
【0084】
<変形例>
上記した第1実施形態において、第1の溝の幅を変更するねじは、第1の調整部及び第2の調整部にこの順で挿入されている。変形例では、第1の溝の幅を変更するねじは、第2の調整部及び第1の調整部にこの順で挿入されてもよい。つまり、第2の調整部に貫通して配置されており、第1の調整部に挿入されたねじを含む調整機具が使用されてもよい。
【0085】
上記した第1実施形態において、第1の溝の幅を変更するねじは、第2の調整部に螺合している。すなわち、第1の溝の幅を変更するねじの雄ねじ部は、第2の調整部の雌ねじ部にかみ合っている。変形例では、第2の調整部への螺合以外の手段によって第2の調整部に嵌合して第2の調整部を押し引きするねじを含む調整機具が使用されてもよい。第2の調整部を押し引きするねじとしては、例えば、第2の調整部に嵌合する拡径部を含むねじが挙げられる。拡径部では、ねじの外径が大きくなっている。拡径部の外径は、ねじの先端に向かって線形的又は非線形的に大きくなっていてもよい。第2の調整部の内部に設けられたねじの拡径部の形状に対応する形状の空間にねじの拡径部を嵌合することで、第2の調整部を押し引きできる。また、第2の調整部を押し引きするねじとしては、第2の調整部に嵌合する狭窄部を含むねじも挙げられる。狭窄部では、ねじの外径が小さくなっている。第2の調整部の内部に設けられたねじの狭窄部の形状に対応する形状の空間にねじの狭窄部を嵌合することで、第2の調整部を押し引きできる。第2の調整部を押し引きするねじは、第2の調整部に接触する先端面を含むことが好ましい。
【0086】
上記した第2実施形態において、第1の溝の幅を変更するねじは、第1の調整部に貫通して配置されており、ねじの先端面は、第2の調整部に接触している。変形例では、第2の調整部に貫通して配置されており、第1の調整部に接触する先端面を含むねじを含む調整機具が使用されてもよい。上記の変形例では、ねじが第1の調整部を押す力が変化することで、第1の溝の幅が調整される。
【0087】
上記した各実施形態において、第1の溝の幅を変更するねじは、第2の調整部を介して第1の溝及び第2の溝によって区画されている第1のブロックの先端部を動かしている。変形例では、第1の溝及び第2の溝によって区画されている第1のブロックの先端部を直接動かし、第1の溝の幅を変更する調整機具が使用されてもよい。
【0088】
上記した各実施形態において、ねじの回転を利用して、第1の溝の幅を変更する調整機具が使用されている。変形例では、熱膨張する部材を含む調整機具が使用されてもよい。熱膨張する部材の体積は、温度に応じて変化する。温度に応じて、熱膨張する部材の体積が変化することで、第1の溝11の幅が調整される。熱膨張する部材としては、例えば、ヒートボルトが挙げられる。ヒートボルトに関する技術は、例えば、特開2020-152097号公報及び特開2017-159490号公報に記載されている。
【0089】
上記した各実施形態において、油圧駆動又は電気駆動によって第1の溝の幅を変更する調整機具が使用されてもよい。
【0090】
上記した各実施形態において、第1のブロックは、複数の部材を組み合わせて形成されてもよい。第1の溝及び第2の溝は、例えば、第1のブロックを構成する複数の部材を組み合わせて形成されてもよい。上記した各実施形態において、第2のブロックも、複数の部材を組み合わせて形成されてもよい。
【実施例】
【0091】
以下、実施例により本開示を詳細に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0092】
<実施例1>
(フィルムAL1の準備)
フィルムAL1として、380mmの幅、10μmの厚さ、300mの長さ及び230W/(m・K)の熱伝導率を有するアルミニウム製フィルムを準備した。フィルムAL1は、ロール状に巻かれてロールフィルムを形成している。
【0093】
(塗布液Aの準備)
以下の成分を混合し、塗布液Aを調製した。
・ポリビニルアルコール(CKS-50、ケン化度:99モル%、重合度:300、日本合成化学工業株式会社):58質量部
・セロゲンPR(第一工業製薬株式会社):24質量部
・界面活性剤(日本エマルジョン株式会社、エマレックス710):5質量部
・アートパール(登録商標)J-7Pの水分散物:913質量部
【0094】
アートパールJ-7Pの水分散物は、以下の方法によって調製された。74質量部の純水に、3質量部のエマレックス710(日本エマルジョン株式会社、ノニオン界面活性剤)と、3質量部のカルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬株式会社)と、を添加した。得られた水溶液に、20質量部のアートパールJ-7P(根上工業株式会社、シリカ複合架橋アクリル樹脂微粒子)を加え、エースホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)を用いて10,000rpm(revolutions per minute)で15分間分散し、アートパールJ-7Pの水分散物を得た(粒子濃度:20質量%)。得られた水分散物中のシリカ複合架橋アクリル樹脂微粒子の真比重は1.20であり、上記微粒子の平均粒径は6.5μmである。
【0095】
(スロットダイの準備)
鋳造及び削り出しによって、
図1及び
図2に示されるような形状を有する第1のブロック及び第2のブロックを得た。得られた第1のブロック及び第2のブロックを互いにボルトによって接続した後、第1のブロックの上に
図1及び
図2に示されるような構成要素を含む調整器具を設けた。調整器具のボルトは、8mmの外径及び1.25mmのピッチを有する雄ねじ部と、10mmの外径及び1.5mmのピッチを有する雄ねじ部と、を含む差動ねじであり、1回転あたりのボルトの移動距離は、0.25mmである。前者の雄ねじ部は、第2の調整部の雌ねじ部にかみ合い、後者の雄ねじ部は、第1の調整部の雌ねじ部にかみ合っている。以上の手順によってスロットダイを得た。スロットダイの寸法を以下に示す。
スロットダイの幅:350mm
スロットダイの先端におけるスリットの幅:0.5mm
第1の溝の幅:4mm
第1の溝の深さ:30mm
第2の溝の幅:4mm
第2の溝の最大深さ:30mm
第2の溝の間隔:30mm
【0096】
(多層フィルムの製造)
図3に示されるような構成要素を含む製造装置を用いて、フィルムAL1に塗布液Aを塗布し、次に、塗布液を乾燥した。フィルムAL1の搬送速度は、30m/分である。以上の手順によって、多層フィルムを得た。
【0097】
<実施例2>
表1の記載に従ってスロットダイの構成を変更したこと以外は、実施例1と同様の手順によって多層フィルムを得た。
【0098】
<比較例1~3>
表1の記載に従ってスロットダイの構成を変更したこと以外は、実施例1と同様の手順によって多層フィルムを得た。
【0099】
<評価>
(幅方向における塗膜の厚みの均一性)
膜厚測定器(SI-T90、株式会社キーエンス)を用いて、多層フィルムの幅方向における塗膜の厚みを5mmおきに10か所で測定した。得られた多層フィルムの幅方向における塗膜の厚みの分布Tを算出し、以下の基準に従って評価した。評価結果を表1に示す。
A:T≦2%
B:2%<T<4%
C:4%≦T<6%
D:6%≦T
【0100】
【0101】
表1は、比較例1~3における塗膜の厚みの均一性に比べて、実施例1~2における塗膜の厚みの均一性が優れていることを示す。
【0102】
2020年12月18日に出願された日本国特許出願2020-210534号の開示は、参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願及び技術規格は、個々の文献、特許出願及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記載された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0103】
10:第1のブロック
10a:先端面
10b:内面
10c:外面
10d:先端部
11:第1の溝
11a:底部
12:第2の溝
20:第2のブロック
30:調整機具
31、61:第1の調整部
32、62:第2の調整部
33、63:ボルト
40:スリット
50:マニホールド
100、110:スロットダイ
200:乾燥装置
F:フィルム