IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-28
(45)【発行日】2025-04-07
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20250331BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20250331BHJP
   C08L 23/26 20250101ALI20250331BHJP
   C08F 8/46 20060101ALI20250331BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20250331BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L1/02
C08L23/26
C08F8/46
C08F10/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023529803
(86)(22)【出願日】2022-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2022022957
(87)【国際公開番号】W WO2022264881
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2021100340
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金谷 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 庸祐
(72)【発明者】
【氏名】村田 龍之介
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-111690(JP,A)
【文献】特開2005-187524(JP,A)
【文献】特開平08-283475(JP,A)
【文献】特開昭63-033446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系重合体(A)と、セルロース繊維(B)と、ポリオレフィンワックスに無水マレイン酸がグラフトした無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)とを含み、
前記プロピレン系重合体(A)、前記セルロース繊維(B)および前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の合計を100質量部としたとき、前記プロピレン系重合体(A)を50~99.8質量部、前記セルロース繊維(B)を0.1~49.9質量部、前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)を0.1~30質量部の割合で含み、
前記セルロース繊維(B)は、セルロースナノファイバーであり、
前記ポリオレフィンワックスは、プロピレン単独重合体、および、プロピレンとエチレンもしくは炭素原子数4~12のα-オレフィンとの共重合体からなる群より選ばれるポリプロピレン系ワックスであり、かつ
前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)は、下記(i)~(iv)を満たす、
樹脂組成物。
(i)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が300~7500である
(ii)JIS K2207に従って測定した軟化点が70~160℃である
(iii)密度勾配管法で測定した密度が830~1000kg/mである
(iv)酸価が30~200mgKOH/gである
【請求項2】
前記プロピレン系重合体(A)は、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、およびプロピレンと炭素原子数4~12のα-オレフィンの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一つである、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の前記数平均分子量(Mn)は、2000~6000である、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリオレフィンワックスは、プロピレン単独重合体である、
請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の酸価は、40~100mgKOH/gである、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の酸価は、40~60mgKOH/gである、
請求項1に記載の樹脂組成物
【請求項7】
前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)において、前記ポリオレフィンワックスにグラフトした無水マレイン酸の数は0.1~10個/分子である、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)と前記セルロース繊維(B)の質量比(C)/(B)は、0.01~0.2である、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維を含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系材料としては木粉、竹粉、稲わらのような天然素材、樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の熱可塑性樹脂を複合した樹脂組成物が広く知られている。この樹脂組成物を、押出成形法、射出成形法等の各種成形法によって目的とする形状に成形することで、産業廃材として捨てられてきた天然素材の有効活用を目的の一つとして実用化が検討されている。
【0003】
しかしながら、従来のセルロース系材料を含有する樹脂組成物は、サイズが小さなセルロース繊維では成形性、特に流動性が低いため、サイズが大きなセルロース系材料に使用が限定されたり、セルロース系材料の含有量が限定されたりする等の使用上の制限があった。そこで、これら使用上の制限を取り払うべく、樹脂組成物の流動性を向上させるための添加剤の開発が種々行われている。
【0004】
特許文献1では、セルロース系材料の相容化剤として、特定のポリオレフィンワックスと石油樹脂との併用が提案されている。また、特許文献2では、特定の熱可塑性樹脂を含み、かつ当該樹脂と分子構造が近い特定のポリオレフィンワックスを、セルロース系材料の相容化剤として用いることが提案されている。特許文献1および2では、セルロース系材料として、平均粒径がミクロンサイズの大きな木粉が用いられている。一方、特許文献3および特許文献4では、平均繊維長がナノサイズの小さなセルロース繊維が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6470402号公報
【文献】特開2020-111690号公報
【文献】特開2020-12050号公報
【文献】特開2020-76082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のいずれの樹脂組成物においても、木粉やセルロース繊維をムラ無く分散させることが難しく、これらの分散性をさらに高めることが求められていた。また、近年、より高い機械強度や、衝撃に対する耐性(耐衝撃性)を発現させるため、ナノサイズのセルロース繊維の分散性が求められている。
【0007】
しかしながら、ナノサイズのセルロース繊維は表面積が大きいため、樹脂と相溶しにくく、凝集しやすい。そのため、溶融混練時の樹脂組成物のトルクを増大させやすく(加工性を低下させやすく)、十分な機械強度も得られにくい。ナノサイズのセルロース繊維を均一に分散させるには、セルロース繊維同士の水素結合を弱めることが有効であり、セルロース繊維を疎水化するための相容化剤が必須となる。
【0008】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものである。具体的には、セルロース繊維が均一に分散されており、高い機械強度と加工性を備えた樹脂組成物および樹脂組成物の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、樹脂組成物を特定の組成とすることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下の樹脂組成物を提供する。
[1] プロピレン系重合体(A)と、セルロース繊維(B)と、ポリオレフィンワックスに無水マレイン酸がグラフトした無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)とを含み、
前記プロピレン系重合体(A)、前記セルロース繊維(B)および前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の合計を100質量部としたとき、前記プロピレン系重合体(A)を50~99.8質量部、前記セルロース繊維(B)を0.1~49.9質量部、前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)を0.1~30質量部の割合で含み、
前記ポリオレフィンワックスは、エチレン単独重合体、エチレンと炭素原子数3~12のα-オレフィンとの共重合体、プロピレン単独重合体、および、プロピレンとエチレンもしくは炭素原子数4~12のα-オレフィンとの共重合体からなる群より選ばれ、かつ
前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)は、下記(i)~(iv)を満たす、樹脂組成物。
(i)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が300~20000である
(ii)JIS K2207に従って測定した軟化点が70~160℃である
(iii)密度勾配管法で測定した密度が830~1000kg/mである
(iv)酸価が30~200mgKOH/gである
[2] 前記プロピレン系重合体(A)は、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、およびプロピレンと炭素原子数4~12のα-オレフィンの共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一つである、[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の前記数平均分子量(Mn)は、2000~6000である、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4] 前記ポリオレフィンワックスは、プロピレン単独重合体、または、プロピレン・エチレン共重合体である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5] 前記ポリオレフィンワックスは、プロピレン単独重合体である、[4]に記載の樹脂組成物。
[6] 前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)において、前記ポリオレフィンワックスにグラフトした無水マレイン酸の数は0.1~10個/分子である、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7] 前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の酸価は、40~100mgKOH/gである、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8] 前記セルロース繊維(B)は、セルロースナノファイバーである、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9] 前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)と前記セルロース繊維(B)の質量比(C)/(B)は、0.01~0.2である、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0011】
本発明では、セルロース繊維が均一に分散されており、高い機械強度と加工性を備えた樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、以下の説明において、数値範囲を示す「~」は、特に断りがなければ以上から以下を表す。
【0013】
本発明者らは、相溶化剤として特定の無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)を用いることで、セルロース繊維(B)とマトリクス樹脂との相溶性(界面密着性)を高め、セルロース繊維(B)の凝集を抑制できること;および当該作用は、マトリクス樹脂としてプロピレン系重合体(A)を用いた場合に特に効果的に発現することを見出した。
【0014】
その理由は明らかではないが、以下のように推測される。すなわち、酸価が一定以上(30mgKOH/g以上)の特定の無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)、好ましくは数平均分子量(Mn)が低い(好ましくは6000以下)の無水マレイン酸変性ポリプロピレン系ワックスは、表面積の大きなセルロース繊維(B)の表面を十分に被覆しうるだけでなく、マトリクス樹脂であるプロピレン系重合体(A)との親和性にも優れる。そのため、セルロース繊維(B)とマトリクス樹脂とが十分に相溶し(界面密着性が高められ)、セルロース繊維(B)の凝集を抑制できるため、機械強度と加工性を両立しうる。以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
1.樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、プロピレン系重合体(A)、セルロース繊維(B)、および無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)を含有する。
【0016】
本発明の樹脂組成物中のプロピレン系重合体(A)、セルロース繊維(B)、および無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の合計を100質量部としたとき、プロピレン系重合体(A)の含有量は、50~99.8質量部であり、好ましくは55~90質量部であり、より好ましくは60~80質量部である。高い加工性を得るためには、プロピレン系重合体(A)の含有量が高いことが好ましい。
【0017】
一方、樹脂組成物中のプロピレン系重合体(A)、セルロース繊維(B)、および無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の合計を100質量部としたとき、セルロース繊維(B)の含有量は、0.1~49.9質量部であり、好ましくは5~45質量部であり、より好ましくは10~40質量部である。高い機械強度を得るためには、セルロース繊維(B)の含有量が高いことが好ましい。
【0018】
また、樹脂組成物中のプロピレン系重合体(A)、セルロース繊維(B)、および無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の合計を100質量部としたとき、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の含有量は、0.1~30質量部であり、好ましくは0.5~20質量部であり、より好ましくは1~10質量部である。高い機械強度を得るためには、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の含有量が高いことが好ましい。
【0019】
また、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)とセルロース繊維(B)の質量比(C)/(B)は、特に制限されないが、例えば0.01~0.2であることが好ましく、0.02~0.2であることがより好ましく、0.05~0.15であることがさらに好ましい。質量比(C)/(B)が上記範囲内であると、セルロース繊維(B)とプロピレン系重合体(A)との相溶性をより高めやすく、両者の界面密着性がより高められ、樹脂組成物の機械強度も一層高めやすい。
【0020】
以下、樹脂組成物の成分および物性について説明する。
【0021】
1-1.プロピレン系重合体(A)
プロピレン系重合体は、プロピレン(共)重合体である。プロピレン(共)重合体は、プロピレン単独重合体、または、プロピレンと、エチレンもしくは炭素原子数4~12のα-オレフィンとの共重合体であることが好ましい。
【0022】
プロピレン系重合体(A)を、プロピレンとエチレンの共重合体とする場合、プロピレン由来の構成単位の量は、60~99.5モル%が好ましい。プロピレン由来の構成単位の量は、好ましくは80~99モル%であり、より好ましくは90~98.5モル%であり、さらに好ましくは95~98モル%である。エチレン由来の構成単位の量は、0.5~40モル%が好ましく、より好ましくは1~20モル%であり、さらに好ましくは1.5~10モル%であり、さらに好ましくは2~5モル%である。ただし、プロピレン由来の構成単位の量とエチレン由来の構成単位の量との合計は100モル%である。プロピレン由来の構成単位量が多いプロピレン(共)重合体を用いると、得られる成形体の耐熱性や、外観、機械強度が良好になる。
【0023】
プロピレン系重合体(A)を、プロピレンと炭素原子数4~12のα-オレフィンとの共重合体とする場合、炭素原子数4~12のα-オレフィンの例には、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等の直鎖状または分岐状のα-オレフィンが含まれる。その中でも、1-ブテンが特に好ましい。また、プロピレン・α-オレフィン共重合体は、炭素原子数4~12以外のオレフィン由来の構造単位をさらに含んでいてもよく、例えばエチレン由来の構成単位を少量、例えば10モル%以下含んでいてもよい。一方で、エチレン由来の構成単位が含まない場合には、得られる成形体の耐熱性および機械強度のバランスが特に良好になりやすい。プロピレン(共)重合体には、α-オレフィンを、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
プロピレン・炭素原子数4~12のα-オレフィン共重合体における、プロピレン由来の構成単位の量は、60~90モル%が好ましく、より好ましくは65~88モル%であり、さらに好ましくは70~85モル%であり、特に好ましくは75~82モル%である。炭素原子数4以上のα-オレフィン由来の構成単位の量は、10~40モル%が好ましく、より好ましくは12~35モル%であり、さらに好ましくは15~30モル%であり、特に好ましくは18~25モル%である。プロピレン由来の構成単位の量と炭素原子数4以上のα-オレフィン由来の構成単位の量の合計は100モル%である。
【0025】
プロピレン・炭素原子数4~12のα-オレフィン共重合体の組成が上記範囲にあると、外観が優れる成形体が得られる。その理由は明らかではないが、上記組成であると結晶化速度が遅くなり、金型上、あるいは冷却工程において、樹脂組成物の流動時間が長くなる。その結果、表面が滑らかになりやすいと考えられる。また、組成が上記範囲にあると、得られる成形体の機械強度および耐熱性が良好になる。
【0026】
プロピレン・炭素原子数4~12のα-オレフィン共重合体の示差走査熱量計(DSC)で測定される融点(Tm)は、60~120℃が好ましく、好ましくは65~100℃であり、さらに好ましくは70~90℃である。
【0027】
プロピレン系重合体(A)の立体規則性は、特に制限はないが、実質的にシンジオタクティック構造を有することが好ましい。例えば、プロピレン系重合体(A)が、実質的にシンジオタクティック構造を有すると、同一分子量において絡み合い点間分子量(Me)が小さくなり、分子の絡み合いが多くなる。そのため、溶融張力が大きくなり、液だれを起こし難くなる。また、プロピレン系重合体(A)を含む樹脂組成物を用いて成形体を製造する際、成形用の金型やロールに適度に密着しやすくなる。また、一般的なアイソタクティック構造を有するプロピレン(共)重合体と比較してシンジオタクティック構造を有するプロピレン系重合体(A)は、結晶化速度が遅いため、金型やロールでの冷却がゆっくりとなり、密着性が向上する。その結果、成形体の表面の光沢性が高まったり、耐摩耗性や、耐傷付性、耐衝撃性等が高まったりすると推察される。
【0028】
プロピレン系重合体(A)が、実質的にシンジオタクティック構造を有するとは、13C-NMRスペクトルにおける19.5~20.3ppmに相当するピーク面積が、検出される全ピーク面積に対して相対的に0.5%以上であることをいう。シンジオタクティシティーが上記範囲にあると、結晶化速度が十分に遅くなり、加工性が非常に良好になる。また、プロピレン由来の構成単位が、実質的にシンジオタクティック構造を有するプロピレン系(共)重合体は、汎用ポリオレフィン系樹脂であるポリエチレン、ブロックポリプロピレン、アイソタクティックポリプロピレンよりも耐摩耗性や耐傷付性が非常に良好となる。シンジオタクティック構造を有するプロピレン系重合体(A)は、種々公知の製造方法で製造できる。
【0029】
プロピレン系重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、特に制限されないが、例えば6.0以下であることが好ましい。Mw/Mnは、より好ましくは4.0以下であり、さらに好ましくは3.0以下である。Mw/Mnが上記範囲内であると、物性低下を引き起こす低分子量成分が少ないため、外観、耐熱性、機械強度に優れる。さらに混練時の溶融粘度上昇を引き起こす高分子量体が少ないため、加工性に優れる。なお、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)共に、ポリスチレン換算により求められる。
【0030】
プロピレン系重合体(A)の示差走査熱量計(DSC)で測定される融点(Tm)は、250℃以下であるか、または観測されないことが好ましい。融点が観測される場合、融点の上限は、より好ましくは230℃であり、さらに好ましくは200℃であり、特に好ましくは170℃である。また、融点の下限は、好ましくは50℃であり、より好ましくは70℃であり、さらに好ましくは90℃であり、特に好ましくは130℃であり、より好ましくは150℃である。融点が上記範囲にあると、溶融混練による樹脂組成物の調製時や、溶融成形による成形体の作製時に発煙、臭気等が生じ難い。また、ベタつきが生じ難く、耐熱性、機械強度、衝撃強度、衝撃吸収性のバランスに優れる成形体を得ることができる。
【0031】
プロピレン系重合体(A)の示差走査熱量計(DSC)で測定されるガラス転移温度(Tg)は、-140~50℃であることが好ましく、より好ましくは-120~20℃であり、さらに好ましくは-100~-10℃である。ガラス転移温度が上記範囲にあると、得られる成形体の長期安定性、耐熱性、衝撃性、機械強度のバランスが良好になる。
【0032】
プロピレン系重合体(A)の、ISO 1183に準拠し、密度勾配管法に従って測定される密度は、800~1800kg/mの範囲にあることが好ましい。密度の下限は、810kg/mがより好ましく、830kg/mがさらに好ましく、860kg/mが特に好ましく、900kg/mがより好ましい。また、密度の上限は、1300kg/mがより好ましく、1290kg/mがさらに好ましく、1270kg/mが特に好ましく、1240kg/mがより好ましく、1200kg/mがさらに好ましい。
【0033】
プロピレン系重合体(A)のJIS K7171:94(ISO 178)に準拠して測定される曲げ弾性率は、1~10000MPaが好ましい。ここで上記曲げ弾性率が、500MPa以上である場合、曲げ弾性率は好ましくは500~7000MPaであり、より好ましくは700~5000MPaであり、特に好ましくは900~3000MPaであり、さらに好ましくは1000~2300MPaである。曲げ弾性率が上記範囲に入ると、樹脂組成物の加工性が優れるだけでなく、得られる成形体の耐傷付き性、耐熱性、機械強度が良好になる。また、上記曲げ弾性率が500MPa未満の場合、好ましくは300MPa未満であり、より好ましくは100MPa未満であり、さらに好ましくは50MPa未満である。曲げ弾性率が上記範囲であると、柔軟性が優れるだけでなく、衝撃吸収性、軽量性、防振性、制振性、制音性に優れた成形体が得られる。さらには、金型転写性、シボ転写性等の意匠性、表面グリップ性に優れた成形体が得られる。
【0034】
1-2.セルロース繊維(B)
セルロース繊維(B)は、プロピレン系重合体(A)、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)と混合可能であり、所望の外観や物性が得られるものであれば特に制限されない。セルロース繊維(B)としては、例えばセルロースファイバー、セルロールナノファイバーなどが挙げられる。樹脂組成物は、セルロース繊維(B)を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。なお、目的に応じて、セルロース繊維(B)に代えて、木粉を用いてもよい。
【0035】
セルロース繊維(B)(単繊維)の平均繊維長は、0.001~5mmであることが好ましい。平均繊維長が0.001mm以上であると、成形体の機械強度を向上させやすく、平均繊維長が5mm以下であると、セルロース繊維(B)の分散性が損なわれにくい。同様の観点から、セルロース繊維(B)の平均繊維長は、0.01~3mmであることがより好ましい。セルロース繊維(B)が凝集している場合、当該凝集体の平均繊維長も上記と同様でありうる。
【0036】
セルロース繊維(B)(単繊維)の平均繊維径は、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。平均繊維径(単繊維)の下限値は、特に制限されないが、例えば10nmでありうる。セルロース繊維(B)が凝集している場合、当該凝集体の平均繊維径は、2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。
【0037】
セルロース繊維(B)の平均繊維長および平均繊維径は、樹脂組成物(例えば射出成形した試験片など)の走査型電子顕微鏡(SEM)による画像データから、任意の100個のセルロース繊維の繊維長(または繊維径)をそれぞれ測定し、それらの平均値を平均繊維長(または平均繊維径)として測定することができる。
【0038】
このようなセルロース繊維(B)は、木材類、パルプ類、紙類、植物茎・葉類および植物殻類から選ばれるセルロース含有原料を粉砕機で処理して得ることができる。具体的には、セルロース含有原料を、シュレッダー等の裁断機を利用して粗粉砕を行った後、衝撃式の粉砕機または押出機による処理を行ったり、乾燥処理を行ったりする。その後、媒体式の粉砕機を用いて攪拌することで、微細化されたセルロース繊維を得ることができる。
【0039】
例えば、セルロース繊維は、原料パルプを裁断後100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等を用いた粉砕法により解繊して得ることができる。
【0040】
セルロース繊維(B)としては、このようなセルロースパルプを原料としたセルロース繊維またはその変性物を用いることが出来る。これらの中でも、安定性、性能などの点から、セルロース繊維の変性物が好ましく使用可能である。
【0041】
セルロース繊維の変性物としては、エステル化剤、シリル化剤、イソシアネート化合物、ハロゲン化アルキル化剤、酸化アルキレンおよび/またはグリシジル化合物から選択される1種以上の変性剤により変性されたものが挙げられる。
【0042】
エステル化剤の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;およびこれらから任意に選ばれる複数の混合物、並びに、これらから任意に選ばれる、対称無水物(無水酢酸、無水マレイン酸、シクロヘキサン-カルボン酸無水物、ベンゼン-スルホン酸無水物)、混合酸無水物(酪酸-吉草酸無水物)、環状無水物(無水コハク酸、無水フタル酸、ナフタレン-1,8:4,5-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラカルボン酸3,4-無水物)、エステル酸無水物(酢酸3-(エトキシカルボニル)プロパン酸無水物、炭酸ベンゾイルエチル)等が挙げられる。
【0043】
シリル化剤は、セルロース繊維の表面のヒドロキシル基またはその加水分解後の基と反応できる少なくとも一つの反応性基を有するSi含有化合物を包含する。
【0044】
シリル化剤の例としては、クロロジメチルイソプロピルシラン、クロロジメチルブチルシラン、クロロジメチルオクチルシラン、クロロジメチルドデシルシラン、クロロジメチルオクタデシルシラン、クロロジメチルフェニルシラン、クロロ(1-ヘキセニル)ジメチルシラン、ジクロロヘキシルメチルシラン、ジクロロヘプチルメチルシラン、トリクロロオクチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、1,3-ジビニル-1,3-ジフェニル-1,3-ジメチル-ジシラザン、1,3-N-ジオクチルテトラメチル-ジシラザン、ジイソブチルテトラメチルジシラザン、ジエチルテトラメチルジシラザン、N-ジプロピルテトラメチルジシラザン、N-ジブチルテトラメチルジシラザンまたは1,3-ジ(パラ-t-ブチルフェネチル)テトラメチルジシラザン、N-トリメチルシリルアセトアミド、N-メチルジフェニルシリルアセトアミド、N-トリエチルシリルアセトアミド、t-ブチルジフェニルメトキシシラン、オクタデシルジメチルメトキシシラン、ジメチルオクチルメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0045】
ハロゲン化アルキル化剤は、セルロース繊維の表面のヒドロキシル基と反応してこれをハロゲン化アルキル化できる少なくとも一つの官能基を有する有機化合物でありうる。
【0046】
ハロゲン化アルキル化剤の例としては、クロロプロパン、クロロブタン、ブロモプロパン、ブロモヘキサン、ブロモヘプタン、ヨードメタン、ヨードエタン、ヨードオクタン、ヨードオクタデカン、ヨードベンゼン等を用いることが出来る。これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点からブロモヘキサン、およびヨードオクタンが好ましく使用可能である。
【0047】
イソシアネート化合物は、セルロース繊維の表面のヒドロキシル基と反応できるイソシアネート基を少なくとも一つ有する有機化合物でありうる。また、イソシアネート化合物は、特定の温度でブロック基が脱離してイソシアネート基を再生する事が可能なブロックイソシアネート化合物であってもよく、また、ポリイソシアネートの2量体若しくは3量体、ビューレット化イソシアネートなどの変性体、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)等であってもよい。
【0048】
イソシアネート化合物の例としては、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、ブロックイソシアネート化合物、ポリイソシアネート等が挙げられる。例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン)、トリレンジイソシアネート(TDI)、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート)、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α,α-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、上記イソシアネート化合物にオキシム系ブロック剤、フェノール系ブロック剤、ラクタム系ブロック剤、アルコール系ブロック剤、活性メチレン系ブロック剤、アミン系ブロック剤、ピラゾール系ブロック剤、重亜硫酸塩系ブロック剤、またはイミダゾール系ブロック剤を反応させたブロックイソシアネート化合物等が挙げられる。これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点からTDI、MDI、ヘキサメチレンジイソシアネート、および、ヘキサメチレンジイソシアネート変性体とヘキサメチレンジイソシアネートとを原料とするブロック化イソシアネートが好ましく使用可能である。
【0049】
酸化アルキレンおよび/またはグリシジル化合物は、セルロースナノファイバーの表面のヒドロキシル基と反応できる酸化アルキレン基、グリシジル基および/またはエポキシ基を少なくとも一つ有する有機化合物でありうる。
【0050】
酸化アルキレンおよび/またはグリシジル化合物の例としては、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、2-メチルオクチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p-ターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテル、sec-ブチルフェニルグリシジルエーテル、n-ブチルフェニルグリシジルエーテル、フェニルフェノールグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、ジブロモクレジルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル;グリシジルアセテート、グリシジルステアレート等のグリシジルエステル;エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリブチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル等の多価アルコールグリシジルエーテルが挙げられる。これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点から2-メチルオクチルグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、およびペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルが好ましく使用可能である。
【0051】
1-3.無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)
無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)は、プロピレン系重合体(A)とセルロース繊維(B)とを相溶させやすくするための相溶化剤として機能しうる。ただし、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)は、プロピレン系重合体(A)とは異なる。
【0052】
前述のように、樹脂組成物のベースとなるプロピレン系重合体(A)にセルロース繊維(B)を単に配合しただけでは、セルロース繊維(B)の分散性が悪く、均一に混練できないことがある。特に、プロピレン系重合体(A)に対するセルロース繊維(B)の配合量が多めであったり、セルロース繊維(B)の比表面積が大きめであったりすると、混練時の粘度上昇により、分散しにくいことが多い。そのため、樹脂組成物を成形する際、加工性が低下したり、成形体の均一性が不足したりしやすい。その結果、機械強度が十分に得られず、さらには得られる成形体の外観に問題が生じたり、耐熱性、柔軟性(伸び)が十分でなかったりすることがあった。
【0053】
これに対し、本発明者らの検討により、プロピレン系重合体(A)とセルロース繊維(B)とを混練する際に、ポリオレフィンワックスを無水マレイン酸で変性した、酸価が一定以上の特定の無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)を配合することで、外観、耐熱性、機械強度、柔軟性、および加工性が良好な樹脂組成物が得られることが明らかとなった。
【0054】
その詳細な機構は明らかでないが、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の分子鎖中にカルボキシル基が存在すると、当該カルボキシル基がセルロース繊維(B)の分子内に存在する水酸基と電気的に相互作用し、これらの親和性が高まる。また、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)のポリオレフィンワックス部分は、プロピレン系重合体(A)との相溶性が良好である。したがって、セルロース繊維(B)とプロピレン系重合体(A)が無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)を介して相溶し、セルロース繊維(B)がプロピレン系重合体(A)中に均一に分散されやすくなる。その結果、その混練時の摩擦が減り、樹脂組成物の流動性が向上すると推定される。また、樹脂組成物の流動性が向上することで、加工性が向上し、成形体の外観も良好になる。さらに、樹脂組成物の流動性の向上により、セルロース繊維(B)もしくはその凝集体の構造破壊が生じにくくなること、およびセルロース繊維(B)とプロピレン系重合体(A)との界面に空壁が形成されにくくなること(界面密着性が高まること)により、十分な機械強度が得られやすくなる。これらの作用は、特に数平均分子量(Mn)が比較的低い無水マレイン酸変性ポリプロピレン系ワックスを用いることで、より得られやすい。
【0055】
1-3-1.構造・物性
無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)は、ポリオレフィンワックスに無水マレイン酸をグラフトさせたものである。無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)を構成するポリオレフィンワックスは、プロピレン系重合体(A)との親和性を得やすくする観点から、ポリエチレン系ワックス(エチレン単独重合体、エチレンと炭素原子数3~12のα-オレフィンとの共重合体)、または、プロピレン系ワックス(プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレンもしくは炭素原子数4~12のα-オレフィンとの共重合体)でありうる。中でも、プロピレン系重合体(A)との親和性を高める観点などから、プロピレン系ワックスが好ましく、プロピレン単独重合体がより好ましい。
【0056】
そして、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)は、下記要件(i)~(iv)を満たすことが好ましい。
【0057】
(i)無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、300~20000であることが好ましい。数平均分子量(Mn)の上限は、より好ましくは15000であり、さらに好ましくは10000であり、さらに好ましくは6000であり、特に好ましくは5000である。また、数平均分子量(Mn)の下限は、より好ましくは500であり、さらに好ましくは700であり、特に好ましくは1000であり、さらに好ましくは2000である。無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の数平均分子量が上記範囲内にあると、樹脂組成物のセルロース繊維(B)の分散性が高まり、得られる成形体の外観、機械強度が良好になる。また、樹脂組成物の加工性も良好になる。特に数平均分子量が6000以下(好ましくは2000~6000)であると、分子サイズが小さいため、表面積の大きなセルロース繊維(B)の表面を十分に被覆しうるため、分散性を一層高めやすく、樹脂組成物の加工性を一層高めやすい。
【0058】
無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の数平均分子量(Mn)は、後述の未変性ポリオレフィンワックス重合時の重合温度を上げるか、その際の水素濃度を上げると低くなる。また、未変性ポリオレフィンワックス重合時の触媒使用量や、重合後の精製によって調整してもよい。
【0059】
また、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、特に制限されないが、9.0以下であることが好ましい。より好ましくは8.0以下であり、さらに好ましくは7.0以下である。Mw/Mnが上記範囲内であると、物性低下を引き起こすような低分子量成分が少ないため、樹脂組成物から得られる成形体の外観や、耐熱性、機械強度等が良好になる。なお、重量平均分子量(Mw)もポリスチレン換算値である。
【0060】
無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)のMw/Mnは、未変性ポリオレフィンワックスの重合時の触媒種や重合温度等により調整できる。一般に未変性ポリオレフィンワックスの重合にはチーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒が用いられるが、所望のMw/Mnにするためには、メタロセン触媒を用いるのが好ましい。なお、未変性ポリオレフィンワックスの精製によっても無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)のMw/Mnを調整できる。
【0061】
(ii)無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)のJIS K2207に従って測定される軟化点は、70~160℃であることが好ましい。軟化点の上限は、より好ましくは155℃であり、さらに好ましくは150℃である。また、下限は、より好ましくは90℃であり、さらに好ましくは110℃である。軟化点が上限値以下であると、樹脂組成物の加工性や、得られる成形体の外観、耐熱性、機械強度が良好になる。特に軟化点が低いほど、溶融混練時に他の成分(例えばプロピレン系重合体(A))よりも先に無水マレイン酸ポリオレフィンワックス(C)が溶融しやすく、セルロース繊維(B)の表面を被覆しやすいため、好ましい。軟化点が下限値以上であると、得られる樹脂組成物において、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)のブリードアウトが抑制されやすくなる。
【0062】
無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の軟化点は、未変性ポリオレフィンワックスの組成により調整することができる。例えば後述の未変性ポリオレフィンワックスがエチレンとα-オレフィンとの共重合体である場合、α-オレフィンの含有量を多くすることで、軟化点を下げられる。また、未変性ポリオレフィンワックス調製時の触媒種や重合温度や、重合後の精製により、上記軟化点を調整してもよい。
【0063】
(iii)無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の、JIS K7112に従って密度勾配管法で測定される密度は、830~1000kg/mであることが好ましい。より好ましくは860~980kg/mであり、さらに好ましくは890~960kg/mである。無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の密度が上記範囲内にあると、セルロース繊維(B)の分散性が高まり、得られる成形体の外観、機械強度が良好になる。また、樹脂組成物の加工性も良好になる。
【0064】
無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の密度は、後述の未変性ポリオレフィンワックスの組成や重合時の重合温度、水素濃度等によって調整できる。
【0065】
(iv)無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)中の無水マレイン酸由来の酸価は、30~200mgKOH/gが好ましく、より好ましくは30~150mgKOH/gであり、さらに好ましくは30~120mgKOH/gであり、さらに好ましくは40~100mgKOH/gであり、特に好ましくは40~90mgKOH/gである。無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)中の無水マレイン酸由来の酸価が下限値以上であると、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)とセルロース繊維(B)との相溶性が良好となりやすく、酸価が上限値以下であると、粘度増大等の原因となる過度の相互作用が抑制されやすい。したがって、樹脂組成物の加工性が良好になり、さらには得られる成形体の外観、耐熱性、機械強度のバランスが良好となる。
【0066】
無水マレイン酸由来の酸価は、滴定法、元素分析、またはNMR法にて特定できる。具体的には、酸価は、JIS K5902に準拠して測定することができる。
【0067】
(v)無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)において、ポリオレフィンワックスにグラフトした無水マレイン酸基の数は、例えば0.1~10個/分子であることが好ましい。無水マレイン酸基の数が上記範囲内であると、樹脂組成物の溶融混練時のトルクを過剰に上昇させることなく、プロピレン系重合体(A)とセルロース繊維(B)との相溶性を高めやすい。無水マレイン酸基の数は、数平均分子量(Mn)と酸価から計算により算出することができる。
【0068】
1分子あたりにグラフトした無水マレイン酸基の数は、例えば酸価や数平均分子量(Mn)などにより調整することができる。
【0069】
1-3-2.製造方法
無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)は、ポリオレフィンワックス(未変性ポリオレフィンワックス)を無水マレイン酸で変性して得られる。
【0070】
以下、未変性ポリオレフィンワックスおよびその調製方法について先に説明し、その後、これらを用いた無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックスの調製方法について説明する。
【0071】
(未変性ポリオレフィンワックス)
未変性ポリオレフィンワックスは、ポリエチレン系ワックス、または、プロピレン系ワックスであることが好ましい。
【0072】
・ポリエチレン系ワックス
ポリエチレン系ワックスとしては、特開2009-144146号公報等に記載されているポリエチレン系ワックスが好ましい。以下簡単に記載する。
【0073】
ポリエチレン系ワックスは、例えば、エチレン単独重合体またはエチレンと炭素原子数3~12のα-オレフィンとの共重合体とすることができる。エチレン単独重合体の具体例には、高密度ポリエチレンワックス、中密度ポリエチレンワックス、低密度ポリエチレンワックス、直鎖状低密度ポリエチレンワックスが含まれる。
【0074】
ポリエチレン系ワックスがエチレンと炭素原子数3~12のα-オレフィンとの共重合体である場合、エチレン由来の構成単位の量は、91.0~99.9モル%が好ましく、より好ましくは93.0~99.9モル%であり、さらに好ましくは95.0~99.9モル%であり、特に好ましくは95.0~99.0モル%である。一方、炭素原子数3以上のα-オレフィン由来の構成単位の量は、0.1~9.0モル%が好ましく、好ましくは0.1~7.0モル%であり、さらに好ましくは0.1~5.0モル%であり、特に好ましくは1.0~5.0モル%である。ただし、エチレン由来の構成単位と炭素原子数3以上のα-オレフィン由来の構成単位の合計は100モル%である。ポリエチレン系ワックスの構成単位の割合は、13C-NMRスペクトルの解析により求められる。
【0075】
エチレンと共重合する炭素原子数3~12のα-オレフィンの例には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等の直鎖状または分岐状のα-オレフィンが含まれ、好ましくは、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンであり、さらに好ましくは炭素原子数が3~8のα-オレフィンであり、特に好ましくはプロピレン、1-ブテンであり、さらに好ましくはプロピレンである。エチレンとプロピレンや1-ブテンとを共重合すると、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)が硬くなり、べたつきが少なくなる傾向にある。そのため、得られる成形体の表面性が良好となる。また得られる成形体の機械強度や耐熱性を高める点でも好ましい。その理由は明らかではないが、プロピレンや1-ブテンは、他のα-オレフィンと比較して、少量の共重合で効率的に融点を下げる。そのため、同じ融点で比べると結晶化度が高い傾向にあり、このことが要因と推察する。エチレンと共重合するα-オレフィンは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
・ポリプロピレン系ワックス
ポリプロピレン系ワックスは、プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレンの共重合体、または、プロピレンと炭素原子数4~12のα-オレフィンとの共重合体である。
【0077】
ポリプロピレン系ワックスを、プロピレンとエチレンの共重合体とする場合、プロピレン由来の構成単位を60~99.5モル%とすることが好ましい。プロピレン由来の構成単位量は、より好ましくは80~99モル%であり、さらに好ましくは90~98.5モル%であり、特に好ましくは95~98モル%である。エチレン由来の構成単位の量は0.5~40モル%が好ましく、より好ましくは1~20モル%であり、さらに好ましくは1.5~10モル%であり、特に好ましくは2~5モル%である。ただし、プロピレン由来の構成単位と、エチレン由来の構成単位の合計は100モル%である。このようなポリプロピレン系ワックスを用いると、外観、機械強度、耐熱性のバランスに優れる成形体が得られやすい。
【0078】
ポリプロピレン系ワックスを、プロピレンと炭素原子数4~12のα-オレフィンとの共重合体とする場合、炭素原子数4~12のα-オレフィンの例には、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等の直鎖状または分岐状のα-オレフィンが含まれる。これらの中でも、1-ブテンが特に好ましい。
【0079】
プロピレン・炭素原子数4~12のα-オレフィン共重合体における、プロピレン由来の構成単位の量は、60~90モル%であることが好ましく、より好ましくは65~88モル%であり、さらに好ましくは70~85モル%であり、特に好ましくは75~82モル%である。炭素原子数4以上のα-オレフィン由来の構成単位の量は10~40モル%が好ましく、より好ましくは12~35モル%であり、さらに好ましくは15~30モル%であり、特に好ましくは18~25モル%である。ただし、プロピレン由来の構成単位と、炭素原子数4以上のα-オレフィン由来の構成単位の合計は100モル%である。
【0080】
中でも、ポリプロピレン系ワックスが好ましく、プロピレン単独重合体、またはプロピレンとエチレンの共重合体がより好ましく、プロピレン単独重合体がさらに好ましい。これらのポリプロピレンワックスの無水マレイン酸変性物は、プロピレン系重合体(A)との相容性が一層高く、得られる成形体の外観や、機械強度、耐熱性のバランスが良好となる。また、樹脂組成物の加工性も良好になる。
【0081】
・未変性ポリオレフィンワックスの調製方法
未変性ポリオレフィンワックスは、エチレンやプロピレン、4-メチル-1-ペンテン等を直接重合したものであってもよく、高分子量の(共)重合体を準備し、これらを熱分解して得てもよい。熱分解する場合、300~450℃で5分~10時間熱分解することが好ましい。この場合、未変性ポリオレフィンワックスには、不飽和末端が生じる。H-NMRにより測定される、1000個の炭素原子あたりのビニリデン基(不飽和末端)の個数が0.5~5個であると、プロピレン系重合体(A)とセルロース繊維(B)の親和性が高まりやすい。なお、未変性ポリオレフィンワックスは、溶媒に対する溶解度の差で分別する溶媒分別、または蒸留等の方法で精製されていてもよい。
【0082】
一方、エチレンやプロピレン、4-メチル-1-ペンテン等を直接重合して未変性ポリオレフィンワックスを得る場合、その方法は限定されない。種々公知の製造方法を適用でき、例えば、エチレン等をチーグラー/ナッタ触媒またはメタロセン系触媒により重合してもよい。
【0083】
・無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の調製方法
無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)は、上記未変性ポリオレフィンワックスを、無水マレイン酸で変性して得られる。
【0084】
無水マレイン酸による変性方法は、特に制限されない。例えば、原料となる未変性ポリオレフィンワックスと、無水マレイン酸とを、有機過酸化物等の重合開始剤の存在下で溶融混練する方法であってもよい。また、原料となる未変性ポリオレフィンワックスと、無水マレイン酸とを有機溶媒に溶解した溶液に有機過酸化物等の重合開始剤を添加し、溶融混練する方法であってもよい。
【0085】
溶融混練には、オートクレーブ、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダー、タンブラーブレンダー、リボンブレンダー、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等、公知の装置を用いることができる。これらの中でも、オートクレーブ等のバッチ式溶融混練性能に優れた装置を使用すると、各成分が均一に分散・反応した無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)が得られる。また連続式に比べ、バッチ式は滞留時間を調整しやすく、また滞留時間を長く取れるため、変性率や変性効率を高めることが比較的容易であるとの観点で好ましい。
【0086】
なお、未変性ポリオレフィンワックスを無水マレイン酸で変性した後、これを樹脂組成物の製造方法に合わせて、加工してもよい。例えば無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)を、粉体状、タブレット状、ブロック状に加工してもよい。一方で、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)を水や有機溶媒中に分散させたり溶解させたりしてもよい。無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)を水や有機溶媒に溶解もしくは分散させる方法は特に限定されない。例えば、攪拌によって無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)を溶解させたり、分散させたりしてもよい。また、攪拌しながら加熱してもよい。
【0087】
さらに、水や有機溶媒中に溶解または分散させた後に析出させ、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)を微粒子化してもよい。無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)を微粒子化する方法としては、例えば以下の方法がある。まず、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)が60~100℃で析出するように溶媒組成を調整する。そして、当該溶媒および無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の混合物を加熱して、溶媒中に無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)を溶解または分散させる。そして当該溶液を、平均冷却速度1~20℃/時間(好ましくは2~10℃/時間)で冷却し、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)を析出させる。またこの後、貧溶媒を加えて、析出をさらに促進させてもよい。
【0088】
1-4.任意成分
本発明の樹脂組成物は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、任意の成分をさらに含んでいてもよい。任意成分の例には、臭素化ビスフェノール、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカーボネート、トリフェニルホスフェート、ホスホン酸アミドおよび赤燐等のような難燃剤;三酸化アンチモンおよびアンチモン酸ナトリウム等のような難燃助剤;燐酸エステルおよび亜燐酸エステル等のような熱安定剤;ヒンダードフェノール等のような酸化防止剤;耐熱剤;耐候剤;光安定剤;離型剤;流動改質剤;着色剤;滑剤;帯電防止剤;結晶核剤;可塑剤;発泡剤等が含まれる。
【0089】
本発明の樹脂組成物における任意成分の含有量は、プロピレン系重合体(A)、セルロース繊維(B)および無水マレイン酸ポリオレフィンワックス(C)の合計100質量部に対して好ましくは30質量部以下であり、より好ましくは20質量部以下であり、特に好ましくは10質量部以下である。
【0090】
2.樹脂組成物の製造方法
本発明の樹脂組成物は、種々の方法を利用して製造することができる。例えば、プロピレン系重合体(A)と、セルロース繊維(B)と、無水マレイン酸ポリオレフィンワックス(C)と、任意の成分とを、同時にまたは任意の順序で、タンブラー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、単軸或いは二軸の押出機等で混合する方法であってもよい。本発明の樹脂組成物は、プロピレン系重合体(A)と、セルロース繊維(B)と、無水マレイン酸ポリオレフィンワックス(C)と、任意の成分とを溶融混練した後、プロピレン系重合体(A)で希釈して製造してもよい。
【0091】
また、無水マレイン酸ポリオレフィンワックス(C)をセルロース繊維(B)に含浸させた後、これらをプロピレン系重合体(A)と混合してもよい。セルロース繊維(B)に無水マレイン酸ポリオレフィンワックス(C)を含浸させる方法は、特に限定されない。例えば、溶融した無水マレイン酸ポリオレフィンワックス(C)とセルロース繊維(B)とを接触させた状態で、セルロース繊維(B)にロールやバーで張力をかけたり、セルロース繊維(B)の拡幅と集束とを繰り返したり、セルロース繊維(B)に圧力や振動を加えたりする方法が挙げられる。これらの方法によれば、無水マレイン酸ポリオレフィンワックス(C)をセルロース繊維(B)の内部まで含浸させることができる。
【0092】
3.用途
本発明の樹脂組成物は、例えば射出成形、ブロー成形、インフレーション成形、キャストフィルム成形、異型押出成形等の押出成形、圧縮成形等により成形し、成形体として使用される。なお、これらの成形方法の中でも、意匠性と成形性の観点から射出成形法が好ましい。
【0093】
本発明の樹脂組成物は、家庭用品から工業用品に至る広い用途の成形体の製造に使用される。用途の例には、電気部品、電子部品、自動車用部品、機械機構部品、食品容器、フィルム、シート、繊維等が挙げられる。その具体例には、プリンター、パソコン、ワープロ、キーボード、PDA(小型情報端末機)、電話機、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、WiFiルーター、ファクシミリ、複写機、ECR(電子式金銭登録機)、電卓、電子手帳、電子辞書、カード、ホルダー、文具等の事務・OA機器;洗濯機、冷蔵庫、掃除機、電子レンジ、照明器具、ゲーム機、アイロン、炬燵等の家電機器;TV、VTR、ビデオカメラ、デジタルカメラ、一眼レフカメラ、携帯オーディオ端末、ラジカセ、テープレコーダー、ミニディスク、CDプレイヤー、スピーカー、液晶ディスプレイ等のAV機器;コネクター、リレー、コンデンサー、スイッチ、プリント基板、コイルボビン、半導体封止材料、電線、ケーブル、トランス、偏向ヨーク、分電盤、時計等の電気・電子部品および通信機器等が含まれる。
【0094】
また、用途の例には、座席(詰物、表地等)、ベルト、天井張り、コンパーチブルトップ、アームレスト、ドアトリム、リアパッケージトレイ、カーペット、マット、サンバイザー、ホイルカバー、タイヤ、マットレスカバー、エアバック、絶縁材、吊り手、吊り手帯、電線被服材、電気絶縁材、塗料、コーティング材、上張り材、床材、隅壁、デッキパネル、カバー類、合板、天井板、仕切り板、側壁、カーペット、壁紙、壁装材、外装材、内装材、屋根材、防音板、断熱板、窓材等の自動車、車両、船舶、航空機および建築用材料;衣類、カーテン、シーツ、合板、合繊板、絨毯、玄関マット、シート、バケツ、ホース、容器、眼鏡、鞄、ケース、ゴーグル、スキー板、ラケット、テント、楽器等の生活・スポーツ用品等も含まれる。
【0095】
さらに、用途の例には、シャンプーや洗剤、化粧品等のボトル、食用油、醤油等の調味料ボトル、ミネラルウォーターやジュース等の飲料用ボトル、弁当箱、茶碗蒸し用椀等の耐熱食品用容器、皿、箸等の食器類、その他各種食品容器や、包装フィルム、包装袋、歯ブラシや包丁の柄等も含まれる。
【0096】
中でも、機械強度が求められる用途、例えば自動車用部品などに特に好適である。
【実施例
【0097】
本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0098】
1.樹脂
プロピレン系重合体(A):プライムポリマー社製PP(商品名J107G、MFR30g/10分、密度910kg/m)を用いた。
高密度ポリエチレン(比較用):プライムポリマー社製HDPE(商品名7000F、MFR0.04g/10分、密度950kg/m)を用いた。
なお、これらの物性は、それぞれ下記条件で測定した。
【0099】
<MFR>
JIS K7210に準拠し、230℃、2.16kg荷重で測定した。
【0100】
<密度>
JIS K7112に準拠し測定した。
【0101】
2.セルロース繊維
耐圧式オートクレーブに、機械粉砕した粗製パルプおよび水を投入し、130℃で5時間加熱して、精製パルプを得た。その後、当該精製パルプを、ディスクリファイナーを用いて叩解処理、更に高圧ホモジナイザー(内圧:100MPa)を用いて解繊処理、熱風式オーブンを用いて乾燥処理して、セルロース繊維(B)(セルロースナノファイバー)とした。
【0102】
得られたセルロース繊維(B)を、走査型電子顕微鏡(SEM)による画像データで観察したところ、セルロース繊維(B)の凝集体の平均繊維径は1mm、平均繊維長2~3mmであった。
【0103】
3.相溶化剤
3-1.無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)の調製
[製造例1]
無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(W1)は、(1)~(3)に従って調製した。
【0104】
(1)触媒の調製
内容積1.5リットルのガラス製オートクレーブ内で、市販の無水塩化マグネシウム25gをヘキサン500mlで懸濁させた。これを30℃に保ち、撹拌しながらエタノール92mlを1時間かけて滴下し、1時間反応させた。続いて、ジエチルアルミニウムモノクロリド93mlを1時間かけて滴下し、さらに1時間反応させた。その後、四塩化チタン90mlを滴下し、反応容器を80℃に昇温し、1時間反応させた。そして、固体部をデカンテーションにより遊離のチタンが検出されなくなるまでヘキサンで洗浄した。その後、固形分(触媒)をヘキサンに懸濁させて、チタン濃度を滴定により定量し、未変性ポリオレフィンワックスの調製に供した。
【0105】
(2)未変性ポリオレフィンワックスの調製
充分に窒素置換した内容積2リットルのステンレス製オートクレーブに、ヘキサン930mlおよびプロピレン70mlを装入し、水素を20.0kg/cm(ゲージ圧)となるまで導入した。次いで、系内の温度を170℃に昇温させた後、トリエチルアルミニウム0.1ミリモル、エチルアルミニウムセスキクロリド0.4ミリモル、および上記方法で得られた触媒のヘキサン懸濁液を、チタン成分の量が原子換算で0.008ミリモルとなるようにエチレンで圧入し、重合を開始させた。
【0106】
その後、エチレンのみを連続的に供給することにより全圧を40kg/cm(ゲージ圧)に保ち、170℃で40分間重合させた。そして、少量のエタノールを系内に添加して重合を停止させ、未反応のエチレンおよびプロピレンをパージした。得られたポリマー溶液を、100℃、かつ減圧下で一晩乾燥させて、未変性ポリオレフィンワックスを得た。
【0107】
(3)未変性ポリオレフィンワックスの無水マレイン酸変性
上記方法で得られた未変性ポリオレフィンワックス200gをガラス製反応器に仕込み、窒素雰囲気下170℃にて溶融させた。次いで、無水マレイン酸10gおよびジ-t-ブチルペルオキシド(以下「DTBPO」とも称する)2.2gを、反応系(温度170℃)に5時間かけて連続供給した。そして、1時間加熱反応させた後、溶融状態のまま10mmHg真空中で0.5時間脱気処理して揮発分を除去した。その後、反応物を冷却し、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C1)を得た。
【0108】
[製造例2]
ジ-t-ブチルペルオキシドおよび反応させる無水マレイン酸の量を調整して、Mnおよび酸価を表1に示されるように変更した以外は製造例1と同様にして無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C2)を調製した。
【0109】
[製造例3]
ジ-t-ブチルペルオキシドを調整して、Mnを表1に示されるように変更した以外は製造例1と同様の方法で無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C3)を調製した。
【0110】
[製造例4]
ジ-t-ブチルペルオキシドを調整して、Mnを表1に示されるように変更した以外は製造例1と同様の方法で無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C4)を調製した。
【0111】
[製造例5]
エチレンおよびプロピレンを調整して未変性ポリオレフィンワックスを調製した。その後、表1に示される酸価となるようにジ-t-ブチルペルオキシドおよび無水マレイン酸の量を調整した以外は製造例1と同様の方法で未変性ポリオレフィンワックスを無水マレイン酸変性し、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C5)を調製した。
【0112】
[製造例6]
プライムポリマー社製PP(商品名J107G、MFR30g/10分、密度910kg/m)をオートクレーブに投入し、窒素雰囲気下、380℃で3時間加熱することで未変性ポリオレフィンワックスを調製した。その後、製造例1と同様の方法で当該未変性ポリオレフィンワックスを無水マレイン酸変性し、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C6)を調製した。
【0113】
[製造例7]
プライムポリマー社製PP(商品名J107G、MFR30g/10分、密度910kg/m)をオートクレーブに投入し、窒素雰囲気下、380℃で2時間加熱することで未変性ポリオレフィンワックスを調製した。その後、当該未変性ポリオレフィンワックスを製造例1と同様の製法で無水マレイン酸変性し、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C7)を調製した。
【0114】
[製造例8]
重合成分としてエチレンのみを供給した以外は製造例1と同様にして未変性ポリオレフィンワックスを調製した。その後、製造例1と同様の方法で当該未変性ポリオレフィンワックスを無水マレイン酸変性し、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C8)を調製した。
【0115】
3-2.比較用のポリオレフィンワックスの調製
[製造例9]
プロピレンおよびエチレンの重合度を調整した以外は製造例1と同様の方法で未変性ポリオレフィンワックス(W1)を調製した。
【0116】
[製造例10]
プロピレンおよびエチレンの重合度を調整した以外は製造例1と同様の方法で未変性ポリオレフィンワックス(W2)を調製した。
【0117】
[製造例11]
プロピレンおよびエチレンの重合度を調整した以外は製造例1と同様の方法で未変性ポリオレフィンワックス(W3)を調製した。
【0118】
[製造例12]
プライムポリマー社製PP(商品名J107G、MFR30g/10分、密度910kg/m)をオートクレーブに投入し、窒素雰囲気下、380℃で2時間加熱することで、未変性ポリオレフィンワックスを調製した。その後、製造例1と同様の方法で当該未変性ポリオレフィンワックスを無水マレイン酸変性し、無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(W4)を調製した。
【0119】
[製造例13]
ジ-t-ブチルペルオキシドおよび反応させる無水マレイン酸の量を調整して、Mnおよび酸価を表1に示されるように変更した以外は製造例12と同様の方法で無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(W5)を調製した。
【0120】
[製造例14]
ジ-t-ブチルペルオキシドおよび反応させる無水マレイン酸の量を調整して、Mnおよび酸価を表1に示されるように変更した以外は製造例12と同様の方法で無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(W6)を調製した。
【0121】
3-3.物性の測定
無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C1)~(C8)および比較用のポリオレフィンワックス(W1)~(W6)の物性は、それぞれ以下の方法で測定した。
【0122】
<組成>
ワックスを構成する各構造単位の量(エチレンおよびプロピレンの組成比)については、以下の条件で測定した、13C-NMRスペクトルの解析により求めた。
13C-NMRの測定条件
装置:ブルカーバイオスピン社製AVANCEIII cryo-500型核磁気共鳴装置
測定核:13C(125MHz)
測定モード:シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
パルス幅:45°(5.00μ秒)
ポイント数:64k
測定範囲:250ppm(-55~195ppm)
繰り返し時間:5.5秒
積算回数:128回
測定溶媒:オルトジクロロベンゼン/ベンゼン-d6(4/1(体積比))
試料濃度:60mg/0.6mL
測定温度:120℃
ウインドウ関数:exponential(BF:1.0Hz)
ケミカルシフト基準:δδシグナル29.73ppm
【0123】
<数平均分子量(Mn)>
数平均分子量(Mn)は、GPC測定から求めた。測定は以下の条件で行った。そして、市販の単分散標準ポリスチレンを用いた検量線から、数平均分子量(Mn)を求めた。
装置:ゲル浸透クロマトグラフAlliance GPC2000型(Waters社製)
溶剤:o-ジクロロベンゼン
カラム:TSKgel GMH6-HT×2、TSKgel GMH6-HTLカラム×2(何れも東ソー社製)
流速:1.0ml/分
試料:0.15mg/mL o-ジクロロベンゼン溶液
温度:140℃
【0124】
<軟化点>
JIS K2207に準拠して測定した。
【0125】
<密度>
JIS K7112に準拠して測定した。
【0126】
<酸価>
JIS K5902に準拠して測定した。
【0127】
<1分子中の無水マレイン酸基の数>
数平均分子量(Mn)と酸価から、1分子あたりにグラフトした無水マレイン酸基の数を算出した。
【0128】
測定結果を、表1に示す。
【表1】
【0129】
4.樹脂組成物の調製
[実施例1]
プロピレン系重合体(A)67質量部、セルロース繊維(B)30質量部、および無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C1)3質量部を、同方向回転二軸押出機 HK25D(パーカーコーポレーション社製:φ25mm、L/D=41)を用いて溶融混練して、シリンダー温度210℃のもと押出してペレット化した樹脂組成物を得た。
【0130】
[実施例2~13および比較例1~10]
表2または3に示される組成となるように、配合する成分の種類および量を変更した以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0131】
5.樹脂組成物の評価
実施例1~13および比較例1~10の樹脂組成物について、以下の評価を行った。
【0132】
<トルク>
得られた樹脂組成物を二軸押出機でペレット化する時の定常トルクを測定し、平均値を算出した。そして、以下の基準で評価した。
◎:トルクの平均値が10N・m未満
○:トルクの平均値が10N・m以上11N・m未満
△:トルクの平均値が11N・m以上12N・m未満
×:トルクの平均値が12N・m以上
【0133】
<引張強度、引張弾性率>
得られた樹脂組成物のペレットを、120℃で8時間乾燥させた後、射出成形機(ニイガタマシンテクノ社製、ニイガタNN100)を用いて、シリンダー温度210℃、スクリュー回転数60rpm、射出圧力130MPa、金型温度60℃の条件で射出成形し、試験片を作製した。試験片の形状は、JIS K7161に準拠した形状とした。
そして、射出成形した試験片(ISO万能試験片)を用いて、JIS K7161に基づき、チャック間距離115mm、試験速度50mm/分の条件で引張試験を行い、引張強度および引張弾性率を測定した。
【0134】
引張強度は、以下の基準に基づいて評価した。
◎:引張強度が35MPa以上
○:引張強度が30MPa以上35MPa未満
△:引張強度が25MPa以上30MPa未満
×:引張強度が25MPa未満
【0135】
引張弾性率は、以下の基準に基づいて評価した。
◎:引張弾性率が2200MPa以上
○:引張弾性率が2000MPa以上2200MPa未満
△:引張弾性率が1800MPa以上2000MPa未満
×:引張強度が1800MPa未満
【0136】
<界面密着性>
得られた樹脂組成物のペレットの断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)にて1000倍で観察した。そして、セルロース繊維(B)と樹脂との界面密着性を、以下の基準で評価した。
○:界面全体の95%以上が密着している
△:界面全体の90%以上95%未満が密着している
×:界面全体の90%未満が密着している
【0137】
実施例1~13の評価結果を表2に示し、比較例1~10の評価結果を表3に示す。なお、上記評価の全てが△以上であれば許容範囲と判断した。
【0138】
【表2】
【0139】
【表3】
【0140】
表2に示されるように、プロピレン系重合体(A)と、セルロース繊維(B)と、特定の無水マレイン酸変性ポリオレフィンワックス(C)を含む実施例1~13の樹脂組成物は、いずれも加工性と機械強度の両方に優れることがわかる。
【0141】
これに対し、相溶化剤を含まない比較例1、8および9の樹脂組成物や、相溶化剤として、未変性のオレフィンワックスを用いた比較例2および3の樹脂組成物は、いずれも引張強度が低く、比較例4の樹脂組成物は、トルクと引張強度の両方が低めであることがわかる。これは、セルロース繊維と樹脂とが相溶せず、両者の界面に空壁が形成されたためと考えられる。
【0142】
一方、相溶化剤として、数平均分子量(Mn)が高い酸変性オレフィンワックスを用いた比較例5~7の樹脂組成物は、いずれもトルクの増大が著しく、加工性が劣ることがわかる。また、所定の酸変性オレフィンワックス(C1)を用いても、樹脂が高密度ポリエチレンであると、界面密着性が得られず、強度や加工性の改善もみられないことがわかる(比較例10と実施例1の対比)。
【0143】
本出願は、2021年6月16日出願の特願2021-100340に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の樹脂組成物は、セルロース繊維が均一に分散されており、高い機械強度と加工性を備えている。そのような樹脂組成物は、各種用途に適用できる。