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特許7657934立体造形用水硬性材料組成物及び水硬性材料用添加剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-28
(45)【発行日】2025-04-07
(54)【発明の名称】立体造形用水硬性材料組成物及び水硬性材料用添加剤
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20250331BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20250331BHJP
   C04B 24/16 20060101ALI20250331BHJP
   C04B 24/12 20060101ALI20250331BHJP
   C04B 22/16 20060101ALI20250331BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20250331BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20250331BHJP
【FI】
B28B1/30
C04B28/02
C04B24/16
C04B24/12 A
C04B22/16 A
C04B24/26 D
B33Y70/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023536761
(86)(22)【出願日】2022-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2022028094
(87)【国際公開番号】W WO2023002994
(87)【国際公開日】2023-01-26
【審査請求日】2023-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2021120005
(32)【優先日】2021-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 猛
(72)【発明者】
【氏名】新井 太一朗
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-140906(JP,A)
【文献】特開2021-098617(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0032170(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第112551968(CN,A)
【文献】特開2022-023318(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106040961(CN,A)
【文献】特開2009-91392(JP,A)
【文献】守屋慶隆,高性能AE減水剤の最近の動向,材料,1994年,Vol.43 No.491,P.919-929
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/30
C04B 7/00-28/36
B33Y 70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性材料(X)、骨材(Y)、窒素含有化合物(A)及び分散剤(B)を含有する立体造形用水硬性材料組成物であって、
前記窒素含有化合物(A)は、前記窒素含有化合物(A)100質量%に対する窒素原子の含有割合が6.8質量%以上であり、
前記窒素含有化合物(A)は、下記式(1)及び/又は(2);
【化1】

(式中、R は、同一又は異なって、炭素原子数2~6のアルキレン基を表す。)
で表される構造単位を有するポリアルキレンイミンであり、
前記分散剤(B)は、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基及びこれらの塩の基並びにリン酸エステル基からなる群より選択される少なくとも1種を有する化合物である、立体造形用水硬性材料組成物。
【請求項2】
前記窒素含有化合物(A)は、ポリエチレンイミンである、請求項1に記載の立体造形用水硬性材料組成物
【請求項3】
前記窒素含有化合物(A)は、前記水硬性材料(X)100質量部に対して、0.0001~10質量部で含有される、請求項1又は2に記載の立体造形用水硬性材料組成物。
【請求項4】
前記窒素含有化合物(A)は、前記分散剤(B)100質量部に対して、0.01~100,000質量部で含有される、請求項1又は2に記載の立体造形用水硬性材料組成物。
【請求項5】
前記分散剤(B)は、不飽和カルボン酸系単量体(B1)、不飽和スルホン酸系単量体(B2)及びリン酸系単量体(B3)からなる群より選択される少なくとも1種由来の構造単位を有する重合体である、請求項1又は2に記載の立体造形用水硬性材料組成物。
【請求項6】
窒素含有化合物(A)及び分散剤(B)を含む立体造形用途に用いられる水硬性材料用添加剤であって、
前記窒素含有化合物(A)は、前記分散剤(B)100質量部に対して、0.01~100,000質量部で含有され、
前記窒素含有化合物(A)は、前記窒素含有化合物(A)100質量%に対する窒素原子の含有割合が6.8質量%以上であり、
前記窒素含有化合物(A)は、下記式(1)及び/又は(2);
【化1】

(式中、R は、同一又は異なって、炭素原子数2~6のアルキレン基を表す。)
で表される構造単位を有するポリアルキレンイミンであり、
前記分散剤(B)は、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基及びこれらの塩の基並びにリン酸エステル基からなる群より選択される少なくとも1種を有する化合物である、立体造形用途に用いられる水硬性材料用添加剤。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の立体造形用水硬性材料組成物から形成される立体造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木、建設分野や工場製品分野で使用する立体造形用水硬性材料組成物及びこれに使用される水硬性材料用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、立体造形技術は、製造業等における模型・部品の作製に活用されている。その技術を分類すると、光造形(紫外線硬化型樹脂を1層ずつ硬化させて積層する方法)、インクジェット方式(プリンターヘッドから紫外線硬化型樹脂を噴射しながら紫外線を照射して積層する方法)、粉末セッコウ造形(プリンターヘッドから樹脂や糊を噴射し粉末セッコウを固める方法)、粉末焼結造形(樹脂や金属粉末をレーザーで焼き固めて積層する方法)、熱溶融積層造形(細いノズルから熱で溶融した熱可塑性樹脂を吐出して積層する方法)が知られている。立体造形技術により造形される造形体は樹脂、セッコウ、及び金属が主体であり、水硬性材料組成物を用いた建設部材のような大型の造形体を造る技術は、国内よりも海外での検討が進んでいる。既に、欧米や中国では、自動建設工事機械として戸建て住宅レベルの大型の造形体の製造を実施している。
【0003】
たとえば、水硬性材料組成物を用いた立体造形技術として、特許文献1には、コンピュータで作成した3次元データを所定の厚さで切断して2次元スライスデータを作成し、吹付けノズルを2次元スライスデータに基づいて縦横方向に移動制御しつつ、急結剤を添加混合したモルタルを、ベッド(台)上に吹き付け、吹き付けたモルタルを自立硬化させることで2次元スライスデータに基づく形状の固化層を形成し、かかる固化層の形成作業を繰り返して上下方向に順次積層させて造形する技術が開示されている。特許文献2には、鋳物を製造するための型を3Dプリンターで造るための材料について記載されており、セメントと、砂と、促進剤としての水溶性ケイ酸塩とからなる材料が開示されている。
【0004】
一方、水硬性材料組成物として、リグニンスルホン酸系分散剤とメラミンスルホン酸系分散剤とを併用した材料は、すでにグラウト組成物や高強度コンクリート組成物として知られている(特許文献3)。また、水硬性材料組成物として、分散剤と増粘剤とを併用したPCグラウト材が知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-235623号公報
【文献】米国特許第8211226号明細書
【文献】特開2008-247677号公報
【文献】特開2006-290694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
立体造形技術において、使用される水硬性材料組成物は、吹付又は押出ノズルで混合攪拌して押し出された後に積層造形される。立体造形は各種方法が存在するが使用される方法を問わず、水硬性材料組成物には、適度な押出性と積層性とが要求されている。
【0007】
しかしながら、従来の水硬性材料組成物で十分な押出性と積層性とを有する材料は知られていなかった。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、良好な押出性と積層性とを有する立体造形用水硬性材料組成物を提供することである。また、本発明の他の目的は、押出性と積層性とが良好な水硬性材料組成物を得ることができる水硬性材料用添加剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、立体造形に用いられる水硬性材料組成物について種々検討したところ、窒素原子の含有割合が特定の割合である窒素含有化合物と;カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基及びこれらの塩の基並びにリン酸エステル基からなる群より選択される少なくとも1種を有する化合物からなる分散剤とを併用することにより、水硬性材料組成物に特定のレオロジー特性、つまり一定の揺変性を付与し、かつ降伏点を増大させることで、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明は、
(1)水硬性材料(X)、骨材(Y)、窒素含有化合物(A)及び分散剤(B)を含有する立体造形用水硬性材料組成物であって、前記窒素含有化合物(A)は、前記窒素含有化合物(A)100質量%に対する窒素原子の含有割合が6.8質量%以上であり、前記分散剤(B)は、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基及びこれらの塩の基並びにリン酸エステル群からなる群より選択される少なくとも1種を有する化合物である、立体造形用水硬性材料組成物;
(2)前記窒素含有化合物(A)は、前記水硬性材料(X)100質量部に対して、0.0001~10質量部で含有される、上記(1)に記載の立体造形用水硬性材料組成物;
(3)前記窒素含有化合物(A)は、アルキレン基とアミノ基とを有する構造単位及び/又はアリルアミン系単量体由来の構造単位を有する重合体である、上記(1)又は(2)に記載の立体造形用水硬性材料組成物;
(4)前記窒素含有化合物(A)は、前記分散剤(B)100質量部に対して、0.01~100,000質量部で含有される、上記(1)又は(2)に記載の立体造形用水硬性材料組成物;
(5)前記分散剤(B)は、不飽和カルボン酸系単量体(B1)、不飽和スルホン酸系単量体(B2)及びリン酸系単量体(B3)からなる群より選択される少なくとも1種由来の構造単位を有する重合体である、上記(1)又は(2)に記載の立体造形用水硬性材料組成物;
(6)窒素含有化合物(A)及び分散剤(B)を含む立体造形用途に用いられる水硬性材料用添加剤であって、前記窒素含有化合物(A)は、前記分散剤(B)100質量部に対して、0.01~100,000質量部で含有され、前記窒素含有化合物(A)は、前記窒素含有化合物(A)100質量%に対する窒素原子の含有割合が6.8質量%以上であり、前記分散剤(B)は、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基及びこれらの塩の基並びにリン酸エステル基からなる群より選択される少なくとも1種を有する化合物である、立体造形用途に用いられる水硬性材料用添加剤;
(7)上記(1)又は(2)に記載の立体造形用水硬性材料組成物から形成される立体造形物;
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水硬性材料組成物は、上述の構成よりなり、水硬性材料組成物に一定の揺変性を付与し、降伏点を増大させることで押出性と積層性とを向上させることができるため、立体造形用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態であり、本明細書に開示されているとみなされる(つまり、補正の適法な根拠となる)。
【0013】
以下、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上、Y以下」を意味する。本明細書において、「~酸(塩)」は「~酸および/またはその塩」を意味する。「(メタ)アクリル」は「アクリルおよび/またはメタクリル」を意味する。更に、「重量」と「質量」、「重量部」と「質量部」、「重量%」と「質量%」はそれぞれ同義語として扱う。
【0014】
本発明において、「立体造形」とは、型枠等の専用工具を使わずに、3次元データに基づく断面形状を直接積層造形することで、任意の形状の成形体を製造する技術をいう。「積層造形」又は「ラピッドプロトタイピング」と呼ばれることもある。
【0015】
また、本発明の水硬性材料組成物は、建設向けの立体造形用水硬性材料組成物として好適に用いられる。本発明において、「建設向け」とは、「建設工事」(土地に固定されたものを作ったり、一部でも改造したり、外したり、壊したりすること)の用途で用いられることを意味し、例えば、住宅などの建物、塀、橋、構造体の柱などの建築物、ベンチ等の製造に用いられることを意味する。
【0016】
本発明の水硬性材料組成物は、水硬性材料(X)、骨材(Y)、窒素含有化合物(A)、分散剤(B)を含み、水硬性材料用添加剤は、窒素含有化合物(A)及び分散剤(B)を含む。本発明の水硬性材料組成物は、立体造形用水硬性材料組成物として、良好な押出性と積層性とを有する。ここで、押出性は、例えば、フローの測定により評価することができ、積層性は、例えば、降伏点の測定により評価することができる。
【0017】
良好な押出性とは、後述の実施例に記載の条件のフロー評価において、110mm以上(好ましくは180mm以上、より好ましくは200mm以上、さらに好ましくは200mm以上250mm以下、特に好ましくは200mm以上230mm未満、最も好ましくは200mm以上220mm以下)である。良好な積層性とは、フロー評価が200mm以上250mm以下(好ましくは200mm以上230mm未満、より好ましくは200mm以上220mm以下)になるように調整した際の、後述の実施例に記載の条件の降伏点評価が、200Pa以上(好ましく300Pa以上、より好ましくは400Pa以上)である。なお、当該条件における降伏点評価の上限は、実用上、2000Pa以下である。
【0018】
また、積層性は、例えば、揺変性の測定によっても評価することができる。好適な揺変性としては、フロー評価が200mm以上250mm以下(好ましくは200mm以上230mm未満、より好ましくは200mm以上220mm以下)になるように調整した際の、後述の実施例に記載の条件の揺変性評価が、300Pa・s以上(好ましく400Pa・s以上、より好ましくは500Pa・s以上)である。なお、当該条件における揺変性評価の上限は、実用上、4000Pa・s以下である。
【0019】
実施例の組成物は全て、後述の実施例に記載の条件のフロー評価において、フロー値が200mm以上であり、フロー評価が200mm以上250mm以下(好ましくは200mm以上230mm未満、より好ましくは200mm以上220mm以下)になるように調整した際の、後述の実施例に記載の条件の降伏点評価及び揺変性評価において、降伏点は200Pa以上2000Pa以下であり、揺変性は300Pa・s以上4000Pa・s以下である。これら所定のフロー値における所定の降伏点及び揺変性は、立体造形用において押出性と積層性とを両立させるために必要とされるものである。
【0020】
<水硬性材料(X)>
本発明で使用する水硬性材料(X)としては、水硬性又は潜在水硬性を有するものであれば特に限定されず、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、シリカセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメント、ビーライト高含有セメント、各種混合セメント;珪酸三カルシウム、珪酸二カルシウム、アルミン酸三カルシウム、鉄アルミン酸四カルシウム等のセメントの構成成分;潜在水硬性を有するフライアッシュ、シリカヒューム、スラグ、石灰微粉等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、普通ポルトランドセメントが通常よく使用され、好適に適用することができる。
【0021】
水硬性材料(X)の含有量は、水硬性材料組成物の総質量に対して、15質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、20質量%以上80質量%以下であるのがより好ましく、25質量%以上70質量%以下であるのがさらに好ましい。水硬性材料(X)が上記範囲内で水硬性材料組成物に含有されることにより、本発明の所期の効果がより一層発揮される。
【0022】
<骨材(Y)>
本発明で使用する骨材(Y)としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材等が挙げられる。
【0023】
骨材(Y)の含有量は、水硬性材料組成物の総質量に対して、10質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、15質量%以上80質量%以下であるのがより好ましく、20質量%以上70質量%以下であるのがさらに好ましい。骨材(Y)が上記範囲内で水硬性材料組成物に含有されることにより、本発明の所期の効果がより一層発揮される。
【0024】
<窒素含有化合物(A)>
窒素含有化合物(A)は、窒素含有化合物(A)100質量%に対する窒素原子の含有割合が6.8質量%以上である。窒素含有化合物(A)の窒素原子の含有割合は、窒素含有化合物(A)100質量%に対して、好ましくは7~70質量%であり、より好ましくは8~50質量%であり、更に好ましくは8.5~35質量%である。窒素原子の含有割合が上記好ましい範囲であれば水硬性材料組成物に一定の揺変性を付与でき、かつ降伏点をより向上させることができる。
【0025】
なお、立体造形技術において、使用される水硬性材料組成物は、混合攪拌後ポンプで圧送されノズルで押し出される。よって圧送中は途中で配管が閉塞しない様に低粘度である必要があり、圧送後は高い積層性を保つため、ノズル排出後は高粘度かつ、水硬性組成物に高降伏点を付与させる必要がある。3Dプリンター(立体造形用押出し装置)のノズルにより押し出された層は自重、または上部に積層された層から受ける加重よりも高い降伏点を有する必要がある。さもなければ、押し出された層は外部から受ける応力により変形し崩れ、プリントできない。
【0026】
立体造形に使用される水硬性材料組成物は、ノズルで押出しが可能である程度の押出性が必要となり、押し出された後の積層性を示す指標として高い降伏点等が必要となる。降伏点とは、対象の材料の弾性から塑性に変化するために必要な応力と定義され、降伏点が高くなることで、積層性が改善されうる。ここで、立体造形用のノズルは、精密な構造体を形成するために、通常のセメントに用いるものよりも細い傾向にある。よって、立体造形用の水硬性材料組成物は、立体造形用でない用途の水硬性材料組成物に比べて高い押出性が求められる。また、高い押出性を達成しようとして、水硬性材料組成物の水の含有率を高めると押出性は向上するが、押し出された後の立体造形のための積層性が低下する。すなわち、押出性と積層性とは、トレードオフの関係にあるといえる。本発明者らは、このようなトレードオフの関係にある課題に対して、特定の窒素含有率を有する窒素含有化合物(A)と、特定の基を有する分散剤(B)とを組み合わせることで、このトレードオフの関係が解消することを見出した。当該構成により、上記効果が得られるメカニズムは不明だが、特定の窒素含有化合物(A)と特定の分散剤(B)との相互作用により、押出性を変化させずに積層性が向上する、すなわち、流動性(押出性)と積層性とが同時に発揮できるものと推測される。ただし、上記メカニズムはあくまで推測であり、これによって本発明の範囲が限定されるものではない。
【0027】
窒素含有化合物(A)における窒素原子の含有割合は、化合物の組成式から算出することができるが、組成式が不明である等の場合には元素分析により測定することもできる。化合物の組成式から算出する場合、窒素含有化合物(A)が窒素原子含有単量体(A1)由来の構造単位(a1)を有する重合体(α1)である場合、窒素原子含有単量体(A1)における窒素原子の含有割合から算出することができる。具体的には、窒素含有化合物(A)が窒素原子含有単量体(A1)由来の構造単位(a1)を有する重合体(α1)からなる場合、窒素原子含有単量体(A1)における窒素原子の含有割合をそのまま、窒素含有化合物(A)における窒素原子の含有割合とすることができる。
【0028】
上記窒素含有化合物(A)の重量平均分子量としては、好ましくは500~150万である。これにより、水硬性材料組成物に一定の揺変性を付与しつつ降伏点をより向上させることができる。一実施形態において、上記窒素含有化合物(A)の重量平均分子量としては、好ましくは1000~100万であることが好ましい。これにより、水硬性材料組成物に一定の揺変性を付与しつつ降伏点をより向上させることができる。窒素含有化合物(A)の重量平均分子量としては、より好ましくは3000~80万であり、更に好ましくは5000~70万であり、一層好ましくは1万~60万であり、更に一層好ましくは5万~50万であり、特に好ましくは10万~40万である。
【0029】
また、一実施形態において、窒素含有化合物(A)がアルキレン基とアミノ基とを有する構造単位を有する場合、窒素含有化合物(A)の重量平均分子量としては、好ましくは1000~90万であり、より好ましくは1100~50万であり、さらに好ましくは1500~30万であり、特に好ましくは1600~20万であり、最も好ましくは5000~10万である。また、一実施形態において、窒素含有化合物(A)がアリルアミン系単量体由来の構造単位を有する場合、窒素含有化合物(A)の重量平均分子量としては、好ましくは3000~100万であり、より好ましくは5000~90万であり、さらに好ましくは1万~80万であり、特に好ましくは2万~70万であり、最も好ましくは5万~50万である。
【0030】
窒素含有化合物(A)の重量平均分子量は、下記の方法により測定した値である。
【0031】
<分子量測定法>
本発明における重量平均分子量および数平均分子量はゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にてプルランを標準物質とした公知の方法で測定できる。GPCの測定条件として、本発明では、以下の条件を採用するものとする。
測定装置;島津製作所製
使用カラム;昭和電工製 SHODEX OHpak SB-807HQ(2本)+SB-806M/HQ(2本)
溶離液;0.5モル%-硝酸ナトリウム、0.5モル%-酢酸に調製したもの
標準物質;プルランP-82(和光純薬製)
検出器;示唆屈折計(島津製作所製)
流速;0.4ml/min. 。
【0032】
上記窒素含有化合物(A)としては、窒素原子の含有割合が上記範囲を満たすものであれば特に制限されないが、例えば、ポリアルキレンイミン及びその誘導体;窒素原子の含有割合が6.8質量%以上である窒素原子含有単量体(A1)由来の構造単位(a1)を有する重合体(α1)(以下、重合体(α1)ともいう。)等が挙げられる。
【0033】
上記ポリアルキレンイミンは、アルキレン基とアミノ基とを有する構造単位を有していればよく、下記式(1)及び/又は(2);
【0034】
【化1】
【0035】
(式中、Rは、同一又は異なって、炭素原子数2~6のアルキレン基を表す。)
で表される構造単位を有するものであればよい。上記アルキレン基として具体的にはエチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、n-ヘキシレン基等が挙げられる。上記アルキレン基の炭素数として好ましくは2~4であり、更に好ましくは2~3であり、最も好ましくは2である。
【0036】
上記ポリアルキレンイミンとしては、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリブチレンイミン等が挙げられ、エチレンイミン、プロピレンイミン、1,2-ブチレンイミン、2,3-ブチレンイミン、1,1-ジメチルエチレンイミン等の炭素原子数2~6のアルキレンイミンの1種又は2種以上を通常用いられる方法により重合して得ることができる。
【0037】
上記ポリアルキレンイミン誘導体は、窒素原子の含有割合及び重量平均分子量が上記範囲を満たすものであれば特に制限されず、例えば、ポリアルキレンイミンのアミノ基を4級化した化合物やポリアルキレンイミンが有するアミノ基やアルキレン基に置換基を導入した化合物等が挙げられる。
【0038】
上記アミノ基の4級化に用いられる4級化剤としては特に制限されないが、塩化メチル、塩化エチル、臭化メチル、ヨウ化メチル等のハロゲン化アルキル;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジ-n-プロピル等のアルキル硫酸等の一般的なアルキル化剤が挙げられる。
上記置換基としては、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基、アシル基、スルホン酸基、リン酸基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、エステル基等が挙げられる。
【0039】
上記窒素原子含有単量体(A1)としては窒素原子の含有割合が単量体100質量%に対して6.8質量%以上であれば特に制限されないが、例えば下記式(3)~(6);
【0040】
【化2】
【0041】
(式(3)~(6)中、R~Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す。Xは、直接結合又は2価の連結基を表す。式(3)及び(4)中、R、Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~12の炭化水素基を表す。式(5)及び(6)中、R~Rは、同一又は異なって、炭素数1~12の炭化水素基を表す。Yは、陰イオンを表す。)
のいずれかで表される単量体;イミダゾール基、ピラゾール基、イミダゾリン基、トリアゾール基、テトラゾール基、ピリダジン基、ピリミジン基、ピラジン基、プリン基、ベンゾトリアゾール基、プテリジン基等の含窒素複素環基含有単量体;エピクロロヒドリン等のエピハロヒドリンと後述するアミン化合物との反応物等が挙げられる。
【0042】
上記式(3)~(6)におけるR~Rは、水素原子又はメチル基を表すが、R、Rは、水素原子であることが好ましい。上記式(3)~(5)において、Rはメチル基が好ましく、上記式(6)において、Rは水素原子が好ましい。
【0043】
上記R~Rにおける炭化水素基は、鎖状構造であっても、環構造を有していてもよいが、鎖状構造であることが好ましい。炭化水素基が鎖状構造である場合、直鎖状であっても分岐を有していてもよい。上記炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基が好ましく、より好ましくはアルキル基、アルケニル基であり、更に好ましくはアルキル基である。また、上記炭化水素基の炭素数としては、1~10が好ましく、より好ましくは1~8であり、特に好ましくは1~5であり、最も好ましくは1~2である。
【0044】
上記式(3)及び(4)において、R及びRのうち少なくともいずれか一方は、炭素数1~12の炭化水素基であることが好ましく、R及びRの両方が炭素数1~12の炭化水素基であることがより好ましい。すなわち、第1~3級アミノ基の中でも、第3級アミノ基が好ましい。
【0045】
上記式(4)~(6)におけるYは、特に制限されないが、例えば、水酸化物イオン;塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲン化物イオン;硫酸ジメチルイオン、硫酸ジエチルイオン、硫酸ジ-n-プロピルイオン等の硫酸アルキルイオン;酢酸イオン等の有機酸のイオン等が挙げられる。上記式(4)におけるYは、有機酸のイオンが好ましい。上記式(5)又は(6)におけるYは、水酸化物イオン;ハロゲン化物イオン、硫酸アルキルイオンが好ましい。
【0046】
上記式(3)~(6)におけるXが2価の連結基の場合、2価の連結基としては、特に制限されないが、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等の炭素数1~12のアルキレン基、下記式(7);
【0047】
【化3】
【0048】
(式中、hは、0又は1である。iは、0~12の整数を表す。)、
下記式(8);
【0049】
【化4】
【0050】
(式中、jは、0~4の整数を表す。)
及び下記式(9);
【0051】
【化5】
【0052】
(式中、kは、1~10の整数を表す。)
で表される構造等が挙げられる。
【0053】
上記式(7)におけるiは、1~6であることが好ましく、より好ましくは1~4である。上記式(8)におけるjは、1~4であることが好ましく、より好ましくは1~2である。上記式(9)におけるkは、1~8であることが好ましく、より好ましくは1~5である。
【0054】
上記式(3)~(5)におけるXとしては、炭素数1~12のアルキレン基、上記式(7)又は(9)で表される構造が好ましい。上記式(6)におけるXとして好ましくは炭素数1~12のアルキレン基である。上記アルキレン基の炭素数として好ましくは1~6であり、より好ましくは1~4であり、更に好ましくは1又は2である。上記Xがメチレン基であって、R及びRが水素原子、Rが水素原子又はメチル基である場合、上記式(3)~(6)のいずれかで表される単量体は、(メタ)アリル基とアミノ基とを有するアリルアミン系単量体となる。窒素原子含有単量体(A1)がアリルアミン系単量体である形態は本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0055】
上記式(3)~(6)のいずれかで表される単量体として具体的には、具体的には、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のN,N-ジアルキルアミノ基含有(メタ)アクリレート類及び上記モノマーに4級化剤を付加させたモノマー若しくはこれらの塩酸、酢酸等の酸による中和物;アクリルアミド及びその誘導体;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキルアミノ基含有(メタ)アクリルアミド類及び上記モノマーに4級化剤を付加させたモノマー若しくはこれらの塩酸、酢酸等の酸による中和物;モノメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モノエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モノメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、モノエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチル等のモノアルキルアミノ基含有(メタ)アクリレート類及びこれらの塩酸、酢酸等の酸による中和物;モノメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、モノエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、モノメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、モノエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のモノアルキルアミノ基含有(メタ)アクリルアミド類及びこれらの塩酸、酢酸等の酸による中和物;(メタ)アクリル酸-2-アミノエチル等の(メタ)アクリル酸とアルカノールアミンとのエステル類及びこれらの塩酸、酢酸等の酸による中和物;N,N-ジアリルアルキルアミン、及び、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド等の、これに4級化剤を付加させたモノマー若しくはこれの塩酸、酢酸等の酸による中和物;1-アリルオキシ-3-ジブチルアミノ-2-オール、1-アリルオキシ-3-ジエタノールアミノ-2-オール等の炭素数2~8の環状エーテル含有基を有する不飽和単量体と炭素数1~24のアミン化合物との付加反応物及びこれに4級化剤を付加させたモノマー若しくはこれの塩酸、酢酸等の酸による中和物等;ビニルアミン、アリルアミン、N-メチルビニルアミン、1-プロペン-2-アミン及びこれらに4級化剤を付加させたモノマー若しくはこれの塩酸、酢酸等の酸による中和物等が挙げられる。
【0056】
上記炭素数1~24のアミン化合物は、アミノ基を有し、炭素数2~8の環状エーテル含有基を有する不飽和単量体の環状エーテル構造と反応することができる限り特に制限されない。炭素数1~24のアミン化合物の炭素数は、1~20が好ましく、1~16がより好ましい。炭素数1~24のアミン化合物としては、第1級アミン、第2級アミンが挙げられ、例えば、炭素数1~24の(ジ)アルキルアミン、炭素数1~24の(ジ)アルカノールアミン、炭素数1~24のアルキルアルカノールアミン等が挙げられる。
【0057】
炭素数1~24の(ジ)アルキルアミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ジヘプチルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、ドデシルアミン、ジドデシルアミン等が好ましい。
【0058】
炭素数1~24の(ジ)アルカノールアミンとしては、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジブタノールアミン、ヘキサノールアミン等が好ましい。
炭素数1~24のアルキルアルカノールアミンとしては、メチルエタノールアミン等が好ましい。
【0059】
上記式(3)~(6)のいずれかで表される単量体の中でも、好ましくは、N,N-ジアリルメチルアミン及びこれに4級化剤を付加させたモノマー若しくはこれの塩酸、酢酸等の酸による中和物、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド及びこれに4級化剤を付加させたモノマー若しくはこれの塩酸、酢酸等の酸による中和物、N,N-ジアルキルアミノ基含有(メタ)アクリレート類及びこれらの塩酸、酢酸等の酸による中和物やこれらに4級化剤を付加させたモノマー、N,N-ジアルキルアミノ基含有(メタ)アクリルアミド類及びこれらの塩酸、酢酸等の酸による中和物やこれらに4級化剤を付加させたモノマーであり、より好ましくはN,N-ジアリルメチルアミン及びこれに4級化剤を付加させたモノマー若しくはこれの塩酸、酢酸等の酸による中和物である。
【0060】
上記4級化剤としては、特に制限されるものではないが、塩化メチル、塩化エチル、臭化メチル、ヨウ化メチル等のハロゲン化アルキル;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジ-n-プロピル等のアルキル硫酸等の一般的なアルキル化剤が挙げられる。
【0061】
上記含窒素複素環基含有単量体としては、例えば、ビニルイミダゾール、ビニルピラゾール、ビニルイミダゾリン、ビニルトリアゾール、ビニルテトラゾール、ビニルピリダジン、ビニルピリミジン基、ビニルピラジン、ビニルプリン、ビニルベンゾトリアゾール、ビニルプテリジン等が挙げられる。
【0062】
上記エピハロヒドリンとアミン化合物との反応物におけるアミン化合物としては、炭素数1~24の(ジ)アルキルアミンが好ましい。より好ましくは炭素数1~12の(ジ)アルキルアミンであり、更に好ましくは炭素数1~6の(ジ)アルキルアミンであり、最も好ましくはジメチルアミンである。
【0063】
上記窒素原子含有単量体(A1)由来の構造単位(a1)を有する重合体(α1)としては、窒素原子の含有割合及び重量平均分子量が上記範囲を満たすものであれば特に制限されず、窒素原子含有単量体(A1)の単独重合体であっても、2種以上の窒素原子含有単量体(A1)の共重合体や、窒素原子含有単量体(A1)以外のその他の単量体(E)との共重合体であってもよい。
【0064】
上記その他の単量体(E)としては特に制限されないが、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、2-メチレングルタル酸、及びこれらの塩等のカルボキシル基含有単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、α-ヒドロキシメチルエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸の炭素数1~18のアルキル基のエステルである、アルキル(メタ)アクリレート類;酢酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;スチレン等の芳香族ビニル系単量体類;マレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド誘導体;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系単量体類;3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体及びこれらの塩;ビニルホスホン酸、(メタ)アリルホスホン酸等のホスホン酸基を有する単量体;(メタ)アクロレイン等のアルデヒド基含有ビニル系単量体類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール等のその他官能基含有単量体類;ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、モノアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、ビニルアルコール、(メタ)アリルアルコール、イソプレノール等の不飽和アルコールにアルキレンオキシドが1~300モル付加した構造を有する単量体等のポリアルキレングリコール鎖含有単量体;等が挙げられる。これらのその他の単量体についても、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。上記重合体(α1)におけるその他の単量体(E)由来の構造単位の割合は、10質量%以下であってもよく(下限0質量%)、5質量%以下であってもよく、3質量%以下であってもよい。
【0065】
上記重合体(α1)における構造単位(a1)の割合は、窒素原子の含有割合が重合体(α1)100質量%に対して6.8質量%以上であれば特に制限されないが、全構造単位100質量%に対して10~100質量%であることが好ましい。より好ましくは20~100質量%であり、更に好ましくは40~100質量%であり、特に好ましくは60~100質量%である。
【0066】
上記窒素原子含有単量体(A1)由来の構造単位を有する重合体の製造方法は特に制限されないが、窒素原子含有単量体(A1)を含む単量体成分を通常用いられる方法により重合することにより得ることができる。
【0067】
上記窒素含有化合物(A)としては、アルキレン基とアミノ基とを有する構造単位及び/又はアリルアミン系単量体由来の構造単位を有する重合体、上記式(6)で表される構造単位を有する重合体、エピハロヒドリンとアミン化合物との反応物由来の構造単位を有する重合体が好ましい。ここで、アミノ基とは、第1級アミノ基(-NH)だけではなく、上記式(1)に含まれるような第2級アミノ基、および上記式(2)に含まれるような第3級アミノ基も含む。
【0068】
窒素含有化合物(A)としては、より好ましくはポリアルキレンイミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリエピクロロヒドリンジメチルアミンであり、更に好ましくはポリエチレンイミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドである。窒素含有化合物(A)がポリエチレンイミンである形態は本発明の好適な実施形態の1つである。
【0069】
<分散剤(B)>
分散剤(B)は、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基及びこれらの塩の基並びにリン酸エステル基からなる群より選択される少なくとも1種を有する化合物である。上記官能基の中でも好ましくはカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基及びこれらの塩であり、より好ましくはカルボキシル基及びこの塩の基である。
【0070】
上記塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属等の1価金属塩;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属等の2価金属塩;アンモニウム塩;有機アミン塩等が挙げられる。
【0071】
分散剤(B)は、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基及びこれらの塩の基並びにリン酸エステル基からなる群より選択される少なくとも1種を有する単量体由来の構造単位を有する重合体であることが好ましい。すなわち、上記分散剤(B)は、不飽和カルボン酸系単量体(B1)、不飽和スルホン酸系単量体(B2)及びリン酸系単量体(B3)からなる群より選択される少なくとも1種由来の構造単位を有する重合体であることが好ましい。以下では、不飽和カルボン酸系単量体(B1)由来の構造単位を「構造単位(b1)」、不飽和スルホン酸系単量体(B2)由来の構造単位を「構造単位(b2)」、リン酸系単量体(B3)由来の構造単位を「構造単位(b3)」と称し、構造単位(b1)~(b3)をまとめて「構造単位(b)」と称する場合がある。
【0072】
上記不飽和カルボン酸系単量体(B1)は、カルボキシル基及び/又はその塩の基とエチレン性不飽和炭化水素基(不飽和基)を有するものであれば、特に制限されないが、不飽和モノカルボン酸系単量体や不飽和ジカルボン酸系単量体等が挙げられる。
【0073】
不飽和モノカルボン酸系単量体としては、分子内に不飽和基とカルボアニオンを形成しうる基とを1つずつ有する単量体であればよく、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、チグリン酸、3-メチルクロトン酸、2-メチル-2-ペンテン酸、α-ヒドロキシアクリル酸等;これらの1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩;下記不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素数1~22のアルコール又は炭素数2~4のグリコールとのハーフエステル;不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素数1~22のアミンとのハーフアミド等が挙げられる。
【0074】
不飽和ジカルボン酸系単量体としては、分子内に不飽和基を1つとカルボアニオンを形成しうる基を2つとを有する単量体であればよく、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸等や、それらの1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩等、それらの無水物が挙げられる。上記不飽和カルボン酸系単量体(B1)としては、(メタ)アクリル酸(塩)、マレイン酸(塩)又は無水マレイン酸が好ましい。より好ましくは(メタ)アクリル酸(塩)であり、特に好ましくはメタクリル酸(塩)である。
【0075】
上記不飽和スルホン酸系単量体(B2)は、スルホン酸基及び/又はその塩の基とエチレン性不飽和炭化水素基(不飽和基)を有するものであれば、特に制限されないが、スルホン酸基及び/又はその塩の基として、-SOZ(Zは、水素原子、1価金属原子、2価金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す。)で表される基を、1分子中に1個又は2個以上有するものが好ましい。
【0076】
不飽和スルホン酸系単量体(B2)としては、例えば、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、メタリルオキシベンゼンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2-メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸、2-ヒドロキシ-3-アリルオキシスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート((メタ)アクリロイルオキシ)エタンスルホン酸)、スルホプロピル(メタ)アクリレート、スルホブチル(メタ)アクリレート等の不飽和スルホン酸類、並びに、これらの1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0077】
リン酸系単量体(B3)は、リン酸(塩)基及び/又はリン酸エステル基を有するものであれば、特に制限されないが、下記式(10);
-OPO (10)
(式中、Mは、同一又は異なって、水素原子、一価金属原子、二価金属原子、三価金属原子、有機アミン基、又は、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。)
で表される基を、1分子中に1個又は2個以上有するものが好ましい。置換基を有していてもよい炭化水素基としては特に制限されないが、例えば後述する芳香族アルコール類及びキノン類由来の基が挙げられる。上記Mとしては、水素原子、一価金属原子又は二価金属原子が好ましく、より好ましくは一価金属原子であり、更に好ましくはナトリウムである。
【0078】
上記リン酸系単量体(B3)は、構造中に更に芳香族基及び/又は複素環式芳香族基を有することが好ましい。上記芳香族基は、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン等の芳香族化合物由来の芳香環を有する基(芳香族化合物から水素原子を引き抜いて得られる基)であればよく、置換基を有していてもよい。上記複素環式芳香族基は、フラン、チオフェン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン等の複素環式芳香族化合物由来の複素環式芳香環を有する基(複素環式芳香族化合物から水素原子を引き抜いて得られる基)であればよく、置換基を有していてもよい。
【0079】
上記リン酸系単量体(B3)としては芳香族化合物由来の芳香族基を有するリン酸系単量体(B3-1)が好ましく、より好ましくはアリール基を有するものである。
【0080】
上記リン酸系単量体(B3-1)としては、下記式(11);
【0081】
【化6】
【0082】
(式中、Mは、同一又は異なって、水素原子、一価金属原子、二価金属原子、三価金属原子、有機アミン基、又は、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。Qは、直接結合又は2価の連結基を表す。R10は、水素原子、又は、リン酸塩基及びリン酸エステル基以外の置換基を表す。)
で表される構造単位を形成するものであることがより好ましい。上記Q-OPO2、10の結合位置及び結合数は特に制限されず、これらを複数有していてもよい。
【0083】
上記Qは、2価の連結基であれば特に制限されないが、ヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基であることが好ましい。より好ましくは(ポリ)オキシアルキレン基である。オキシアルキレン基の具体例及び好ましい例としては、後述する式(13)における炭素数2~18のオキシアルキレン基と同様のものが挙げられ、最も好ましくはオキシエチレン基である。(ポリ)オキシアルキレン基の平均付加モル数は、1~10が好ましく、より好ましくは1~5であり、更に好ましくは1~2であり、最も好ましくは1である。
【0084】
上記R10の置換基としては、炭素数1~10のアルキル基、アルケニル基等の脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、水酸基、アシル基、エーテル基、アミド基、エステル基、ケトン基、カルボキシル基、カルボキシル基の塩、スルホン酸基、スルホン酸基の塩、(ポリ)アルキレングリコール鎖含有基等が挙げられる。
【0085】
上記リン酸系単量体(B3-1)として具体的には、例えば、フェノキシエタノール、フェノキシジグリコール、(メトキシフェノキシ)エタノール、メチルフェノキシエタノール、ビス(β-ヒドロキシエチル)ヒドロキノンエーテル、ノニルフェノール、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、カテコール、ヒドロキノン、ナフトール、及び、フルフリルアルコール等の芳香族アルコール類及びキノン類のリン酸化物が挙げられる。上記リン酸化物として具体的にはフェノキシエタノールホスフェート、フェノキシジグリコールホスフェート、(メトキシフェノキシ)エタノールホスフェート、メチルフェノキシエタノールホスフェート、ビス(β-ヒドロキシエチル)ヒドロキノンエーテルホスフェート、ビス(β-ヒドロキシエチル)ヒドロキノンエーテルジホスフェート、及び、ノニルフェノールホスフェート等が挙げられる。
【0086】
中でも好ましくは、フェノキシエタノールホスフェート、フェノキシジグリコールホスフェート、ビス(β-ヒドロキシエチル)ヒドロキノンエーテルジホスフェートであり、より好ましくは、フェノキシエタノールホスフェートである。
上記芳香族アルコール類及びキノン類のリン酸化には、リン酸(塩)やポリリン酸(塩)等のリン酸化合物を用いることが好ましい。
【0087】
上記分散剤(B)がリン酸エステル基を有する単量体由来の構造単位を有する重合体である場合、更に(ポリ)アルキレングリコール鎖と芳香族基及び/又は複素環式芳香族基とを有する単量体(以下、(ポリ)アルキレングリコール鎖含有単量体ともいう)由来の構造単位を有するものであることが好ましい。
【0088】
(ポリ)アルキレングリコール鎖含有単量体として具体的には上述の芳香族アルコール;アニリン等の芳香族アミンにアルキレンオキシドを付加させた化合物が挙げられる。好ましくは、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、カテコール、ヒドロキノン、ナフトール、及び、フルフリルアルコール等の芳香族アルコール類にアルキレンオキシドを付加させた化合物である。
【0089】
上記(ポリ)アルキレングリコール鎖含有単量体由来の構造単位の中でも、下記式(12);
【0090】
【化7】
【0091】
(式中、Qは、直接結合又は2価の連結基を表す。R11は、水素原子、又は、リン酸塩基及びリン酸エステル基以外の置換基を表す。R12Oは、同一又は異なって、炭素数2~18のオキシアルキレン基を表す。R13は、水素原子又は炭素数1~30の炭化水素基を表す。mは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1~300の数である。)
で表される構造単位を有するものであることが好ましい。
【0092】
上記Qにおける2価の連結基としては、酸素原子、硫黄原子、ハロゲン原子、-NH-、ヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基等が挙げられる。ヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基は、上記式(11)のQにおけるヘテロ原子を有していてもよい2価の炭化水素基と同様である。Qとして好ましくは酸素原子、-NH-であり、より好ましくは酸素原子である。
【0093】
13における炭素数1~30の炭化水素基は、後述する式(13)のR17における炭素数1~30の炭化水素基と同様である。R13としては水素原子が好ましい。
【0094】
12Oで表されるオキシアルキレン基の好ましい形態は後述する式(13)のAOにおけるオキシアルキレン基と同様である。mとして好ましくは5~280であり、より好ましくは5~160であり、更に好ましくは9~120である。
【0095】
上記(ポリ)アルキレングリコール鎖と芳香族基及び/又は複素環式芳香族基とを有する単量体としては、例えば2-フェノキシエタノール、フェノキシポリエチレングリコール等が好ましい。
【0096】
上記リン酸エステル基を有する単量体由来の構造単位を有する重合体は、上記式(11)で表される構造単位と式(12)で表される構造単位とを有するものであることが好ましい。この場合、式(11)で表される構造単位と式(12)で表される構造単位とのモル比(式(11)/式(12))は、0.3~4であることが好ましい。より好ましくは0.4~3.5であり、更に好ましくは0.45~3である。
【0097】
上記リン酸エステル基を有する単量体由来の構造単位を有する重合体は、上記式(11)及び(12)で表される構造単位がアルデヒド化合物由来の2価の連結基により結合していることが好ましい。単量体由来の構造単位がアルデヒド化合物由来の2価の連結基により結合した縮合物である。
【0098】
上記アルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒド;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール等の炭素数1~5のアルキル基とアルデヒド基とを有する化合物:グリオキシル酸、ベンズアルデヒド、パラホルムアルデヒド等が挙げられる。好ましくはホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、パラホルムアルデヒドであり、最も好ましくはホルムアルデヒドである。
【0099】
上記リン酸系単量体(B3)由来の構造単位を有する重合体は、構造中に芳香族基又は複素環式芳香族基を有しないものであってもよく、例えば、リン酸(塩)基及び/又はリン酸エステル基とエチレン性不飽和炭化水素基(不飽和基)とを有する不飽和リン酸系単量体(B3-2)由来の構造単位を有するものであってもよい。不飽和リン酸系単量体(B3-2)としては、例えば、不飽和カルボン酸と1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物とのエステル化物と、リン酸とのエステル化物が好適である。具体的には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレートとリン酸とのエステル化物;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとリン酸とのエステル化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0100】
上記分散剤(B)の好ましい形態である重合体を構成しうる単量体として、不飽和カルボン酸系単量体(B1)、不飽和スルホン酸系単量体(B2)及びリン酸系単量体(B3)の中でも好ましくは不飽和カルボン酸系単量体(B1)、不飽和スルホン酸系単量体(B2)であり、より好ましくは不飽和カルボン酸系単量体(B1)である。上記分散剤(B)は、不飽和カルボン酸系単量体(B1)由来の構造単位(b1)を有する重合体、不飽和スルホン酸系単量体(B2)由来の構造単位(b2)を有する重合体であることが好ましく、不飽和カルボン酸系単量体(B1)由来の構造単位(b1)を有する重合体であることがより好ましい。
【0101】
上記分散剤(B)が不飽和カルボン酸系単量体(B1)、不飽和スルホン酸系単量体(B2)及び不飽和リン酸系単量体(B3-2)からなる群より選択する少なくとも1種由来の構造単位を有する場合、更に下記式(13);
【0102】
【化8】
【0103】
(式中、R14、R15及びR16は、同一又は異なって、水素原子、又は、メチル基を表す。R17は、水素原子、又は、炭素数1~30の炭化水素基を表す。(AO)は、同一又は異なって、オキシアルキレン基を表す。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1~500の数である。pは、0~4の数を表す。qは、0又は1を表す。)
で表される(ポリ)アルキレングリコール系単量体(C)由来の構造単位(c)を有することが好ましい。
【0104】
上記式(13)中、AOは、「同一又は異なって、」オキシアルキレン基を表すが、これは、ポリアルキレングリコール中にn個存在するAOのオキシアルキレン基が全て同一であってもよく、異なっていてもよいことを意味する。
【0105】
上記式(13)におけるnは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1~500の数であり、好ましくは2~300であり、より好ましくは3~250であり、更に好ましくは10~150であり、特に好ましくは20~80である。
オキシアルキレン基を構成するアルキレン基の炭素数は2~18であることが好ましい。より好ましくは2~10であり、更に好ましくは2~8であり、特に好ましくは2~4である。
【0106】
上記(AO)nで表される(ポリ)オキシアルキレン基は、アルキレンオキシド付加物であり、アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1-ブテンオキシド、2-ブテンオキシド、スチレンオキシド等が挙げられる。中でも好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2~4のアルキレンオキシドであり、より好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシドである。
【0107】
上記(ポリ)オキシアルキレン基が、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド等の中から選ばれる任意の2種類以上のアルキレンオキシド付加物である場合、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの形態であってもよい。なお、親水性と疎水性とのバランス確保のため、ポリアルキレングリコール中のオキシアルキレン基として、オキシエチレン基を必須成分として有することが好ましく、50モル%以上がオキシエチレン基であることがより好ましく、90モル%以上がオキシエチレン基であることが更に好ましい。
【0108】
上記式(13)におけるR14~R16は、同一又は異なって、水素原子又はメチル基を表す。好ましくはR14、R15が水素原子であって、R16が水素原子又はメチル基である。より好ましくは、R14、R15が水素原子であって、R16がメチル基である。
【0109】
上記式(13)中、pは、0~4の数を表し、qは、0又は1を表すが、qが0の場合には、pは1又は2であることが好ましい。この場合、R16はメチル基であることがより好ましい。上記qが1の場合には、pは0であることが好ましい。この場合、R16は水素原子、又は、メチル基であることがより好ましい。上記pが0、qが0の場合、炭素-炭素2重結合に結合している酸素原子に最初に結合するAOは炭素数が4であるオキシアルキレン基が好ましい。上記pは、0であることが好ましく、pが0であり、かつ、qが1である形態は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0110】
上記式(13)におけるR17は、水素原子、又は、炭素数1~30の炭化水素基を表す。R17としては、好ましくは炭素数1~20の炭化水素基又は水素原子であり、より好ましくは、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基、更に好ましくは、水素原子又は炭素数1~12の炭化水素基、特に好ましくは、水素原子又は炭素数1~8の炭化水素基、最も好ましくは、炭素数1~3の炭化水素基である。
【0111】
上記炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、3-ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、イソオクチル基、2,3,5-トリメチルヘキシル基、4-エチル-5-メチルオクチル基及び2-エチルヘキシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の直鎖または分岐鎖のアルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチル等の環状のアルキル基;フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、o-,m-若しくはp-トリル基、2,3-若しくは2,4-キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基及びピレニル基等のアリール基等が挙げられる。これらの中でも、直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が好ましい。
【0112】
上記(ポリ)アルキレングリコール系単量体(C)としては、具体的には例えば、(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;メトキシ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等;ビニルアルコール、(メタ)アリルアルコール、3-メチル-3-ブテン-1-オール(イソプレノール)、3-メチル-2-ブテン-1-オール、2-メチル-3-ブテン-2-オール、2-メチル-2-ブテン-1-オール、2-メチル-3-ブテン-1-オールのいずれかにアルキレンオキシドを1~500モル付加した化合物(例えば、ポリエチレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテル、ポリオキシエチレン(モノ(メタ)アリル)エーテル等);であり、より好ましくは、メトキシ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート;3-メチル-3-ブテン-1-オール(イソプレノール)、(メタ)アリルアルコールにアルキレンオキシドを1~500モル付加した化合物;である。なお、上記の「アルキレンオキシド」は、好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシドである。中でも好ましくは、3-メチル-3-ブテン-1-オール(イソプレノール)、(メタ)アリルアルコールにアルキレンオキシドを1~500モル付加した化合物である。
【0113】
上記分散剤(B)は、構造単位(b)の割合が、全構造単位100質量%に対して1~90質量%であることが好ましい。分散剤(B)における構造単位(b)の割合は、より好ましくは3~80質量%であり、更に好ましくは5~50質量%であり、特に好ましくは7~20質量%である。
【0114】
上記分散剤(B)は、構造単位(c)の割合が、全構造単位100質量%に対して10~99質量%であることが好ましい。分散剤(B)における構造単位(c)の割合は、より好ましくは20~97質量%であり、更に好ましくは50~95質量%であり、特に好ましくは80~93質量%である。
【0115】
分散剤(B)が重合体である場合の、構造単位(b)および構造単位(c)の合計含有割合は、重合体中、80~100質量%であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましく、95~100質量%であることがさらにより好ましい。
【0116】
上記分散剤(B)は、重量平均分子量が1000~100万であることが好ましい。より好ましくは5000~10万であり、更に好ましくは7500~7万であり、特に好ましくは1万~4万である。分散剤(B)がリン酸系単量体(B3)由来の構造単位(b3)を有する重合体である場合、重量平均分子量は3000~10万であることが好ましい。上記重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0117】
分散剤(B)が不飽和カルボン酸系単量体(B1)由来の構造単位(b1)、不飽和スルホン酸系単量体(B2)由来の構造単位(b2)及び(ポリ)アルキレングリコール系単量体(C)由来の構造単位(c)から選択される1種以上の構造単位を有する重合体である場合、重量平均分子量は3,000~100,000であることが好ましく、4,500~80,000であることがより好ましく、6,000~70,000であることがさらに好ましく、7,000~45,000であることが特に好ましく、8,000~35,000であることが特に好ましい。
【0118】
上記分散剤(B)がカルボキシル基及び/又はこの塩の基を有する化合物である場合、上記不飽和カルボン酸系単量体(B1)由来の構造単位(b1)と(ポリ)アルキレングリコール系単量体(C)由来の構造単位(c)とを有する共重合体が好ましい。
【0119】
一実施形態において、分散剤(B)は、不飽和カルボン酸系単量体(B1)由来の構造単位(b1)と;(ポリ)アルキレングリコール系単量体(C)由来の構造単位(c)と;を含む。この場合、一例としては、不飽和カルボン酸系単量体(B1)は(メタ)アクリル酸(塩)であり;(ポリ)アルキレングリコール系単量体(C)は3-メチル-3-ブテン-1-オール(イソプレノール)にアルキレンオキシドを付加した化合物(ポリエチレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテル);(メタ)アリルアルコールにアルキレンオキシドを付加した化合物(ポリオキシエチレン(モノ(メタ)アリル)エーテル);またはメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートである
また、一実施形態において、分散剤(B)は、不飽和スルホン酸系単量体(B2)由来の構造単位(b2)と;(ポリ)アルキレングリコール系単量体(C)由来の構造単位(c)と;を含む。この場合、一例としては、不飽和スルホン酸系単量体(B2)は2-((メタ)アクリロイルオキシ)エタンスルホン酸であり;(ポリ)アルキレングリコール系単量体(C)はメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートである。
【0120】
上記分散剤(B)がスルホン酸基及び/又はこの塩の基を有する化合物である場合、具体的には、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸塩系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系化合物;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸塩系化合物;リグニンスルホン酸塩、変性リグニンスルホン酸塩等のリグニンスルホン酸塩系化合物;ポリスチレンスルホン酸塩系化合物等が挙げられる。
【0121】
上記分散剤(B)が、リン酸基、この塩の基及びリン酸エステル基からなる群より選択される少なくとも1種を有する化合物である場合、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、リン酸モノエステル系単量体、及び、リン酸ジエステル系単量体から得られる共重合体等の、分子中に(ポリ)オキシアルキレン基とリン酸エステル基とを有する共重合体;(ポリ)オキシアルキレン基と、芳香族基及び/又は複素環式芳香族基とを有する単量体、リン酸(塩)基及び/又はリン酸エステル基と、芳香族基及び/又は複素環式芳香族基とを有する単量体、およびアルデヒド化合物からなる重縮合生成物;芳香族トリアジン構造単位、ポリアルキレングリコール構造単位、およびリン酸エステル構造単位を有する重合体等が挙げられる。
【0122】
本発明の水硬性材料組成物及び水硬性材料用添加剤は、上記窒素含有化合物(A)及び分散剤(B)を含むものであり、これらの含有割合は特に制限されないが、分散剤(B)100質量%に対して窒素含有化合物(A)の割合は、固形分換算で0.01~100,000質量%であることが好ましい。これにより水硬性材料組成物の流動性を維持した上で揺変性を向上し、かつ降伏点を増大させることができる。本発明の水硬性材料組成物及び水硬性材料用添加剤における窒素含有化合物(A)の割合は、分散剤(B)100質量%に対して、より好ましくは1~1000質量%である。固形分換算に必要な固形分含有量の測定方法は後述する。
【0123】
上記分散剤(B)がカルボキシル基及び/又はこの塩の基を有する化合物、及び/又は、リン酸基、この塩の基及びリン酸エステル基からなる群より選択される少なくとも1種を有する化合物である場合、分散剤(B)100質量%に対して窒素含有化合物(A)の割合は、0.25~2000質量%であることが好ましい。上記の場合、窒素含有化合物(A)の割合は、分散剤(B)100質量%に対して、より好ましくは0.25~1000質量%であり、更に好ましくは0.25~100質量%である。上記分散剤(B)がスルホン酸基及び/又はこの塩の基を有する化合物である場合、分散剤(B)100質量%に対して窒素含有化合物(A)の割合は、1~2000質量%であることが好ましい。上記の場合、窒素含有化合物(A)の割合は、分散剤(B)100質量%に対して、より好ましくは5~2000質量%であり、更に好ましくは5~1000質量%である。
【0124】
本発明の水硬性材料組成物及び水硬性材料用添加剤における窒素含有化合物(A)の割合は、分散剤(B)100質量%に対して、さらに好ましくは1.5~100質量%であり、特に好ましくは2~65質量%であり、最も好ましくは2.5~50質量%である。一実施形態において、本発明の水硬性材料組成物及び水硬性材料用添加剤は、窒素含有化合物(A)の割合が、分散剤(B)100質量%に対して、1~30質量%、1~25質量%、1~20質量%、1~15質量%、1~10質量%でありうる。また、他の一実施形態において、本発明の水硬性材料組成物及び水硬性材料用添加剤は、窒素含有化合物(A)の割合が、分散剤(B)100質量%に対して、0.5~50質量%、0.7~25質量%、1~20質量%、1.5~15質量%、2~13質量%でありうる。
【0125】
なお、分散剤(B)が、(i)カルボキシル基及びこの塩の基、(ii)スルホン酸基及びこの塩の基、(iii)リン酸基、この塩の基及びリン酸エステル基において、(i)~(iii)の2種以上の基を有する場合、例えば、カルボキシル基とスルホン酸基とを有する場合、これらの基の割合が多い方の化合物に分類するものとする。
【0126】
本明細書中、固形分含量は、以下のようにして測定することができる。
【0127】
<固形分測定方法>
1.アルミ皿を精秤する。
2.1で精秤したアルミ皿に固形分測定物を精秤する。
3.窒素雰囲気下130℃に調温した乾燥機に2で精秤した固形分測定物を1時間入れる。
4.1時間後、乾燥機から取り出し、室温のデシケーター内で15分間放冷する。
5.15分後、デシケーターから取り出し、アルミ皿+測定物を精秤する。
6.5で得られた質量から1で得られたアルミ皿の質量を差し引き、2で得られた固形分測定物の質量で除することで固形分を測定する。
【0128】
上記カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基及びこれらの塩の基並びにリン酸エステル基からなる群より選択される少なくとも1種を有する単量体由来の構造単位を有する重合体の製造方法は特に制限されないが、これらの単量体を含む単量体成分を通常用いられる方法により重合することにより得ることができる。
【0129】
一実施形態において、窒素含有化合物(A)は、ポリアルキレンイミンと;上記式(6)で表される窒素原子含有単量体(A1)由来の構造単位(a1)を有する重合体(α1)とからなる群より選択される1種以上の重合体を含み;分散剤(B)は、不飽和カルボン酸系単量体(B1)由来の構造単位(b1)を有する重合体と;不飽和スルホン酸系単量体(B2)由来の構造単位(b2)を有する重合体と;(ポリ)アルキレングリコール系単量体(C)由来の構造単位(c)とを有する重合体と;からなる群より選択される1種以上の重合体を含む。
【0130】
<水硬性材料組成物及び水硬性材料用添加剤>
本発明の水硬性材料組成物は、水硬性材料(X)、骨材(Y)、窒素含有化合物(A)及び分散剤(B)を含むものであり、本発明の水硬性材料用添加剤組成物は、窒素含有化合物(A)及び分散剤(B)を含むものである。窒素含有化合物(A)及び分散剤(B)をそれぞれ2種以上含んでいてもよい。上記水硬性材料用添加剤における上記窒素含有化合物(A)の含有量(2種以上の窒素含有化合物(A)及び分散剤(B)を含む場合は、その総含有量)は、特に制限されないが、水硬性材料用添加剤中の固形分(すなわち不揮発分)100質量%中、5~100質量%であることが好ましい。より好ましくは20~99質量%、更に好ましくは30~95質量%である。
【0131】
なお、本明細書中、「水硬性材料用添加剤」とは、セメントペースト、モルタル、コンクリート等の水硬性材料組成物へ添加される添加剤のことをいい、上記窒素含有化合物(A)及び分散剤(B)のみからなる剤であってもよいし、また、上記窒素含有化合物(A)及び分散剤(B)だけでなく、必要に応じて更に後述するその他の添加剤等を含む剤であってもよい。
【0132】
本発明の水硬性材料組成物は、水硬性材料(X)と窒素含有化合物(A)とを含むものであり、これらの含有割合は特に制限されないが、水硬性材料(X)100質量%に対して窒素含有化合物(A)の割合は、0.0001~10質量%であることが好ましい。これにより水硬性材料組成物の揺変性を向上させ、かつ降伏点を増大させることができる。本発明の水硬性材料組成物において、窒素含有化合物(A)の含有量は、水硬性材料(X)100質量%に対して、好ましくは0.0005~1質量%、より好ましくは0.001~0.5質量%であり、さらに好ましくは0.001~0.3質量%であり、特に好ましくは0.001~0.2質量%であり、特に好ましくは0.001~0.1質量%である。
【0133】
上記水硬性材料組成物において、本発明の水硬性材料用添加剤の配合割合としては、例えば、本発明の必須成分である窒素含有化合物(A)及び分散剤(B)の合計の割合が、固形分換算で、水硬性材料の全量100質量%に対して、0.0101~11質量%となるように設定することが好ましい。本発明の水硬性材料組成物において、窒素含有化合物(A)及び分散剤(B)の合計の含有量は、水硬性材料(X)100質量%に対して、より好ましくは0.0525~2質量%であり、更に好ましくは0.055~1質量%であり、特に好ましくは0.06~0.7質量%であり、最も好ましくは0.08~0.5質量%である。
【0134】
本発明の水硬性材料組成物において、本発明の窒素含有化合物(A)及び分散剤(B)以外のその他の添加剤を併用してもよく、その他の添加剤としては、水溶性高分子物質、遅延剤、急結剤、早強剤・促進剤、鉱油系消泡剤、油脂系消泡剤、脂肪酸系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤、オキシアルキレン系消泡剤、アルコール系消泡剤、アミド系消泡剤、リン酸エステル系消泡剤、金属石鹸系消泡剤、シリコーン系消泡剤、AE剤、界面活性剤、防水剤、防錆剤、防腐剤、ひび割れ低減剤、膨張材、セメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、着色剤、防カビ剤が挙げられる。
【0135】
上記急結剤としては公知の急結剤であれば良く特に限定されない。用いる急結剤は粉体急結剤、液体急結剤でも、スラリータイプの急結剤でも良い。液体急結剤としては例えば硫酸アルミニウム、フッ素、及びアルカリ金属、さらに、これらとアルカノールアミンを含有するものが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。また本発明で使用する液体急結剤には、既知の水溶性の水和促進剤を使用することが可能である。水和促進剤としては、例えば、ギ酸又はその塩、酢酸又はその塩、及び乳酸又はその塩等の有機系の水和促進剤や、水ガラス、硝酸塩、亜硝酸塩、チオ硫酸塩、及びチオシアン酸塩等の無機系の水和促進剤を使用することが可能である。粉体急結剤としては例えば、カルシウムアルミネート類、硫酸塩類、アルカリ金属アルミン酸塩類、アルカリ金属炭酸塩類、及びオキシカルボン酸類を含有してなるもの等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0136】
上記消泡剤としては、公知の消泡剤であれば良く特に限定されない。例えば、燈油、流動パラフィン等の鉱油系消泡剤;動植物油、ごま油、ひまし油、これらのアルキレンオキシド付加物等の油脂系消泡剤;オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物等の脂肪酸系消泡剤;ジエチレングリコールモノラウレート、グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノラウレート、天然ワックス等の脂肪酸エステル系消泡剤;オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類、ポリオキシアルキレングリコール等のアルコール系消泡剤;ポリオキシアルキレンアミド、アクリレートポリアミン等のアミド系消泡剤;リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等のリン酸エステル系消泡剤;アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等の金属石鹸系消泡剤;シリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変成ポリシロキサン、フルオロシリコーン油等のシリコーン系消泡剤;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン付加物等のオキシアルキレン系消泡剤;等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。上記例示の消泡剤の中でも特に、オキシアルキレン系消泡剤が最も好ましい。本発明のセメント混和剤用共重合体とオキシアルキレン系消泡剤とを組み合わせて用いると、消泡剤使用量が少なくて済み、さらに消泡剤と共重合体との相溶性にも優れるからである。オキシアルキレン系消泡剤としては、分子内にオキシアルキレン基を有しかつ水性液体中の気泡を減少させる作用を有する化合物であれば特に制限はないが、その中でも下記式(14)で表わされる特定のオキシアルキレン系消泡剤が好ましい。
17{-W-(R18 O)u1-R19 }u2 (14)
上記式(14)中、R17 、R19は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1~22のアルキル基、炭素数1~22のアルケニル基、炭素数1~22のアルキニル基、フェニル基またはアルキルフェニル基(アルキルフェニル基中のアルキル基の炭素数は1~22である)を表わす。R18Oは、炭素数2~4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい。u1は、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、0~300の数を表わす。u1が0のとき、R17、R19が同時に水素原子であることはなく、Wは-O-、-CO-、-SO-、-PO-又は-NH-の基を表わす。u2は、1又は2の整数を表わし、R17が水素原子のとき、u2は1である。
【0137】
上記式(14)で表されるオキシアルキレン系消泡剤の例としては、(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン-2-エチルヘキシルエーテル、炭素数12~14の高級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等の(ポリ)オキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、3-メチル-1-ブチン-3-オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェノールエーテル硫酸ナトリウム等の(ポリ)オキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;(ポリ)オキシエチレンステアリルリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルアミン等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン類;等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0138】
上記水硬性材料組成物においては、その1mあたりの単位水量、セメント使用量及び水/セメント比は特に限定されず、例えば、単位水量100~300kg/m、使用セメント量300~500kg/m、水/セメント比(重量比)=0.35~0.6であることが好ましい。より好ましくは、単位水量140~240kg/m、使用セメント量350~480kg/m、水/セメント比(重量比)=0.4~0.5である。
【0139】
<立体造形物及び立体造形方法>
本発明の水硬性材料組成物は、立体造形用として用いられるのに適しており、特に立体造形用として用いられるのに好適であり、建設向け立体造形用としても好適に用いられる。よって、本発明によれば、本発明の立体造形用水硬性材料組成物から形成される立体造形物も提供される。
【0140】
本発明の立体造形用水硬性材料組成物を用いて立体造形物を製造する方法(立体造形方法)は、本発明の水硬性材料組成物をノズルから押出し、水硬性材料組成物を積層する工程を含む。本発明に係る立体造形方法は、好ましくは、水硬性材料(X)、骨材(Y)、窒素含有化合物(A)及び分散剤(B)を混錬する工程と;混錬した水硬性材料組成物を圧縮空気又はポンプ等により圧送する工程と、圧送された水硬性材料組成物をノズルから押出し、水硬性材料組成物を積層させて立体造形物を形成する工程と;を含む。
【0141】
本発明の水硬性材料組成物の圧送配管の先端にはノズル(吐出部)が設けられている。ノズルの径は特に限定されないが、使用する骨材(Y)のサイズや水硬性材料組成物を積層する幅によって適宜設定すればよい。例えば、骨材(Y)のサイズが5mm以下、積層幅が50mm以下であれば、ノズルの径は8~15mmが好ましい。ノズルの形状は、特に限定するものではないが、円形、楕円形、矩形、十字形、星形などが挙げられ、吐出された水硬性材料組成物の表面に平滑性を付与することを目的にノズル周囲にツバを設けてもよい。
【0142】
ノズルから吐出された水硬性材料組成物を積層させて造形していく際には、ノズルを鉛直方向や水平方向に移動させることにより水硬性材料組成物による造形を行ってもよい。例えば、ロボットアームや門型プロッターにノズルを固定し、コンピュータ制御することによりノズルの移動を制御するのが好ましい。コンピュータで作成した3次元データを所定の厚さで切断して2次元スライスデータを作成し、吹付けノズルを2次元スライスデータに基づいて縦・横・斜めなどの水平方向の移動制御を行いながら、ノズルから水硬性材料組成物を吐出させ、垂直方向にノズルを移動させることで繰り返して順次積層させて造形する方法が可能である。ノズルの移動速度は、特に限定されず、積層する幅によって変えることができる。
【実施例
【0143】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0144】
<分散剤(B)の重量平均分子量の測定>
重量平均分子量は、以下の測定条件により測定した。
・装置:Waters Alliance(2695)
・解析ソフト:Waters社製、Empower2プロフェッショナル+GPCオプション
・使用カラム:東ソー(株)製、TSKguardcolumnsSWXL+TSKgel G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
・検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters 2414)、多波長可視紫外(PDA)検出器(Waters 2996)
・溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶解し、さらに酢酸でpH6.0に調整したもの。
・較正曲線作成用標準物質:ポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp)272500、219300、107000、50000、24000、12600、7100、4250、1470)
・較正曲線:上記標準物質のMp値と溶出時間とを基礎にして3次式で作成した。
・流量:1mL/分
・カラム温度:40℃
・測定時間:45分
・標準物質試料液注入量:100μL(重合体濃度0.1質量%の溶離液溶液)
・重合体試料液注入量:100μL(重合体濃度0.5質量%の溶離液溶液)。
【0145】
<GPC解析条件(重合体の分析)>
得られたRIクロマトグラムにおいて、重合体溶出直前・溶出直後のベースラインにおいて平らに安定している部分を直線で結び、重合体を検出・解析した。ただし、単量体や単量体由来の不純物のピークが重合体ピークに一部重なって測定された場合、それらと重合体の重なり部分の最凹部において垂直分割して重合体部と単量体部や不純物部とを分離し、重合体部のみの分子量・分子量分布を計算した。凹部が無い場合はまとめて計算した。重合体純分は、RI検出器によるピーク面積の比より、下記のようにして計算した。
重合体純分=(重合体ピーク面積)/(重合体ピーク面積+単量体や不純物のピーク面積)
<レオメータによる揺変性評価>
(1)装置:Brook field社製 回転式レオメータ RST rheometer
(2)装置の概要:プローブ、試料台、応力検出器からなり、速度を変更させながらプローブを回転させ、その際にプローブにかかる応力を検出できる機構を有する揺変性測定試験用プローブ:Vane Spindle VT-60-30
(3)評価方法:下記のとおり調製した(練り上げた)モルタルを1000mLデスカップに移し試料台に置き、練上がり直後に、60秒間かけてかけ、プローブの回転速度を0rpmから120rpmに上げ、更に60秒間かけ、プローブの回転速度を120rpmから0rpmに下げた。得られた時間 vs応力プロットにおいて、回転速度を上げた際に得られた応力曲線と、回転速度を下げた際に得られた応力曲線が囲む面積を定量し揺変性の尺度とした。
【0146】
<レオメータによる降伏点評価>
(1)装置:Brook field社製 回転式レオメータRST rheometer
(2)装置の概要:プローブ、試料台、応力検出器からなり、一定速度でプローブを回転させ、その際にプローブにかかる応力を検出できる機構を有する降伏点検出試験用プローブ:Vane Spindle VT-60-30
(3)評価方法:下記のとおり調製した(練り上げた)モルタルを1000mLデスカップに移し試料台に置き、練上がり後から5分間静置した。次に30秒間かけてかけ、プローブの回転速度を0rpmから5rpmに上げ、更に30秒間5rpmで攪拌し続けた。得られた時間vs応力プロットの極大値を降伏点と定義した。
【0147】
<分散性評価>
モルタル試験は、温度が20℃±1℃、相対湿度が60%±15%の環境下で行った。モルタル配合は、C/S/W=690/1600/331.2(g)とした。
ただし、
C:セメント(普通ポルトランドセメント、太平洋セメント社製)
S:細骨材(大井川産陸砂)
W:試料(水硬性材料用添加剤)と消泡剤とのイオン交換水溶液
とし、Wについては下記表1~6に記載の水硬性材料用添加剤及び消泡剤を含み、イオン交換水中充分に均一溶解させた。消泡剤としては、アデカノールLG-299(アデカ製)を用いて、分散剤(B)の固形分添加量の5質量%となるように含有させた。モルタルミキサー(ホバート社製ミキサー、型番:N-50)を用い、混練容器へCおよびSを投入し、1速で10秒間混練した。さらに1速で混練しながら、Wを10秒かけて投入した。混練を始めてから60秒後にミキサーを停止し、30秒間モルタルの掻き落としを行った。その後、さらに2速で60秒間混練を行い、モルタルを調製した。このモルタルを、下記の分散性評価と、上記揺変性評価及び降伏点評価とに用いた。
【0148】
上記のようにして得られたモルタルを、フロー測定板(60cm×60cm)に置かれたミニスランプコーン(JISマイクロコンクリートスランプコーン、上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mm)に半量詰めて15回突き棒で突き、さらにモルタルをミニスランプコーンのすりきりいっぱいまで詰めて15回突き棒で突いた後、ミニスランプコーンの表面をならした。その後、最初にミキサーを始動させてから3分30秒後にミニスランプコーンを垂直に引き上げ、広がったモルタルの直径(最も長い部分の直径(長径)および該長径に対して90度をなす部分の直径)を2箇所測定し、その平均値をモルタルフロー値とした。空気量は消泡剤であるオキシアルキレン系消泡剤(アデカノールLG-299(アデカ製))を添加して3.0%未満となるように調整した。
【0149】
<窒素含有化合物(A)について>
窒素含有化合物(A)として、以下の化合物を準備した。
・ポリエチレンイミン(エポミン(登録商標) P-1000(分子量:70,000、アミン価:18)
・ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド 製品コード 52237 (SIGMA-ALDRICH製)(分子量:200,000~350,000)
・ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド 製品コード 409022 (SIGMA-ALDRICH製)(分子量:<100,000)
・ポリエチレンイミン(エポミン(登録商標)SP-006(分子量:600、アミン価:20)
・ポリエチレンイミン(エポミン(登録商標)SP-012/日本触媒社製)(分子量:1,200、アミン価:19)
・ポリエチレンイミン(エポミン(登録商標)SP-018/日本触媒社製)(分子量:1,800、アミン価:19)。
【0150】
ポリエチレンイミンの窒素原子の含有割合は、ポリエチレンイミン100質量%に対して32.5質量%である(ポリエチレンイミンの単量体において、単量体100質量%に対する窒素原子の含有割合は32.5質量%であるため)。また、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドの窒素原子の含有割合は、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド100質量%に対して8.6質量%である(ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドの単量体において、単量体100質量%に対する窒素原子の含有割合は8.6質量%であるため)。
【0151】
<分散剤(B-1)の製造>
L-アスコルビン酸0.4部、3-メルカプトプロピオン酸0.8部を水50.0部に溶解させた水溶液(B1a)を調整した。
【0152】
温度計、撹拌機、滴下装置、窒素導入管、還流冷却器を備えた反応容器に水90.4部、3-メチル-3-ブテン-1-オールにエチレンオキシドが平均50モル付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(IPN-50)191.0部、アクリル酸(AA)0.3部を仕込み、続いて撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で60℃に昇温した後、過酸化水素35%水溶液を0.9部投入した。
30分後、上述の混合溶液(B1a)を3.5時間かけて、アクリル酸(AA)25.5部を3.0時間かけて、それぞれ一定速度で計量滴下した。この間の温度は60℃で一定とした。
【0153】
混合溶液(B1a)の滴下終了後、1時間引き続き60℃を維持し、重合反応を終了した。その後、重合反応温度以下の温度において水酸化ナトリウム水溶液を用いて反応溶液のpHをpH=6.3まで中和した。このようにして、共重合体(B-1)を含む重合体水溶液を得た。得られた共重合体(B-1)の重量平均分子量Mwは32000であった。
【0154】
<分散剤(B-2)の製造>
過流酸アンモニウム2.3部を水75.2部に溶解させた溶液(B2a)を調製した。2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸40.0部を水40.0部に溶解させた溶液(B2b)を調製した。メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数23)160.0部、3-メルカプトプロピオン酸0.7部を水68.9部に溶解させた溶液(B2c)を調製した。温度計、撹拌機、滴下装置、窒素導入管、還流冷却器を備えた反応容器に水112.9部を仕込み、続いて撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃に昇温した後、上述の混合溶液(B2a)を5時間かけて、上述の混合溶液(B2b)及び(B2c)を4時間かけて、それぞれ一定速度で計量滴下した。この間の温度は80℃で一定とした。混合溶液(B2a)の滴下終了後、1時間引き続き80℃を維持し、重合反応を終了した。その後、重合反応温度以下の温度において水酸化ナトリウム水溶液を用いて反応溶液のpHをpH=5.0まで中和し重量平均分子量30,000の重合体水溶液からなる本発明の共重合体(B-2)を得た。
【0155】
<分散剤(B-3)の製造>
過流酸アンモニウム1.5部を水28.5部に溶解させた溶液(B3a)を調製した。ポリエチレングリコールモノ(3-メチル-3-ブテニル)エーテル(エチレンオキシドの平均付加モル数50)72.3部、アクリル酸22.5部、3-メルカプトプロピオン酸1.8部を水64.6部に溶解させた溶液(B3b)を調製した。温度計、撹拌機、滴下装置、窒素導入管、還流冷却器を備えた反応容器に水83.6部を仕込み、続いて撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃に昇温した後、上述の混合溶液(B3a)を4時間かけて、上述の混合溶液(B3b)を3時間かけて、それぞれ一定速度で計量滴下した。この間の温度は80℃で一定とした。混合溶液(B3a)の滴下終了後、1時間引き続き80℃を維持し、重合反応を終了した。その後、重合反応温度以下の温度において水酸化ナトリウム水溶液を用いて反応溶液のpHをpH=5.0まで中和し重量平均分子量13,000の重合体水溶液からなる本発明の共重合体(B-3)を得た。
【0156】
<分散剤(B-4)の製造>
L-アスコルビン酸0.3部を水29.7部に溶解させた溶液(B4a)を調製した。アクリル酸21.4部を水8.6部に溶解させた溶液(B3b)を調製した。3-メルカプトプロピオン酸0.78部を水29.2部に溶解させた溶液(B3c)を調製した。温度計、撹拌機、滴下装置、窒素導入管、還流冷却器を備えた反応容器にメタリルアルコールにエチレンオキサイドを50モル付加した不飽和アルコール158.6部を仕込み、続いて撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で65℃に昇温した後、そこへ過酸化水素30%水溶液0.8部を添加した。上述の混合溶液(B4a)を3.5時間かけて、上述の混合溶液(B4b)及び、混合溶液(B4c)を3時間かけて、それぞれ一定速度で計量滴下した。この間の温度は65℃で一定とした。混合溶液(B4a)の滴下終了後、1時間引き続き65℃を維持し、重合反応を終了した。その後、重合反応温度以下の温度において水酸化ナトリウム水溶液を用いて反応溶液のpHをpH=5.0まで中和し重量平均分子量27,800の重合体水溶液からなる本発明の共重合体(B-4)を得た。
【0157】
<分散剤(B-5)の製造>
過流酸アンモニウム2.3部を水20.7部に溶解させた溶液(B5a)を調製した。メトキシポリエチレングリコールモノメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数25)158部、メタクリル酸42.0部、3-メルカプトプロピオン酸1.5部を水50.0部に溶解させた溶液(B5b)を調製した。温度計、撹拌機、滴下装置、窒素導入管、還流冷却器を備えた反応容器に水170.0部を仕込み、続いて撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃に昇温した後、上述の混合溶液(B5a)を5時間かけて、上述の混合溶液(B5b)を4時間かけて、それぞれ一定速度で計量滴下した。この間の温度は80℃で一定とした。混合溶液(B5a)の滴下終了後、1時間引き続き80℃を維持し、重合反応を終了した。その後、重合反応温度以下の温度において水酸化ナトリウム水溶液を用いて反応溶液のpHをpH=5.0まで中和し重量平均分子量28,600の重合体水溶液からなる本発明の共重合体(B-5)を得た。
【0158】
実施例(1)-1及び比較例(1)-1並びに実施例(1)-2及び比較例(1)-2
ポリエチレンイミン(日本触媒社製、エポミンP-1000)を窒素含有化合物(A)とし、上記合成例で合成した共重合体(B-1)を分散剤(B)として、表1、2に記載の割合で配合して水硬性材料用添加剤を調製した。調製した水硬性材料用添加剤について、上述した方法で分散性、揺変性、降伏点を評価した。比較例(1)-1を100%として実施例(1)-1の揺変性及び降伏点を算出した結果を表1に示す。比較例(1)-2を100%として実施例(1)-2の揺変性及び降伏点を算出した結果を表2に示す。なお、以下の表1~表8において、「添加量(%/セメント)」とは、セメント質量を100質量%とした場合の添加物の質量%(固形分換算)である。
【0159】
実施例(1)-1の水硬性材料用添加剤を用いたモルタルは、フロー値が200mm以上230mm未満であり、フロー評価が200mm以上230mm未満になるように調整した際の降伏点は200Pa以上2000Pa以下であり、揺変性は300Pa・s4000Pa・s以下であった。また、実施例(1)-2の水硬性材料用添加剤を用いたモルタルは、フロー値が200mm以上230mm未満(より詳細には200mm以上220mm以下)であり、フロー評価が200mm以上230mm未満(より詳細には200mm以上220mm以下)になるように調整した際の降伏点は300Pa以上2000Pa以下であり、揺変性は400Pa・s以上4000Pa・s以下であった。
【0160】
【表1】
【0161】
【表2】
【0162】
実施例(2)-1及び比較例(2)-1並びに実施例(2)-2及び比較例(2)-2
ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(SIGMA-ALDRICH社製、製品コード522376)を窒素含有化合物(A)とし、上記合成例で合成した共重合体(B-1)を分散剤(B)として、表3、4に記載の割合で配合して水硬性材料用添加剤を調製した。調製した水硬性材料用添加剤について、上述した方法で分散性、揺変性、降伏点を評価した。比較例(2)-1を100%として実施例(2)-1の揺変性及び降伏点を算出した結果を表3に示す。比較例(2)-2を100%として実施例(2)-2の揺変性及び降伏点を算出した結果を表4に示す。
【0163】
実施例(2)-1の水硬性材料用添加剤を用いたモルタルは、フロー値が200mm以上250mm以下であり、フロー評価が200mm以上250mm以下になるように調整した際の降伏点は200Pa以上であり、揺変性は300Pa・s以上であった。また、実施例(2)-2の水硬性材料用添加剤を用いたモルタルは、フロー値が200mm以上230mm未満(より詳細には200mm以上220mm以下)であり、フロー評価が200mm以上230mm未満(より詳細には200mm以上220mm以下)になるように調整した際の降伏点は300Pa以上2000Pa以下であり、揺変性は400Pa・s以上4000Pa・s以下であった。
【0164】
【表3】
【0165】
【表4】
【0166】
実施例(3)-1及び比較例(3)-1
ポリエチレンイミン(日本触媒社製、エポミンP-1000)を窒素含有化合物(A)とし、上記合成例で合成した共重合体(B-2)を分散剤(B)として、表5に記載の割合で配合して水硬性材料用添加剤を調製した。調製した水硬性材料用添加剤について、上述した方法で分散性、揺変性、降伏点を評価した。揺変性及び降伏点は、比較例(3)-1を100%として実施例(3)-1の揺変性及び降伏点を算出した。結果を表5に示す。なお、実施例(3)-1の水硬性材料用添加剤を用いたモルタルは、フロー値が200mm以上230mm未満(より詳細には200mm以上220mm以下)であり、フロー評価が200mm以上230mm未満(より詳細には200mm以上220mm以下)になるように調整した際の降伏点は300Pa以上2000Pa以下であり、揺変性は400Pa・s以上4000Pa・s以下であった。
【0167】
【表5】
【0168】
実施例(4)-1~(4)-10及び比較例(4)-1、(4)-2
下記表6に記載の化合物Aを窒素含有化合物(A)として、上記合成例で合成した共重合体(B-3)を分散剤(B)として、表6に記載の割合で配合して水硬性材料用添加剤を調製した。調製した水硬性材料用添加剤について、上述した方法で分散性、揺変性、降伏点を評価した。揺変性及び降伏点は、比較例(4)-1を100%として実施例(4)-1~(4)-10および比較例(4)-2の揺変性及び降伏点を算出した。結果を表6に示す。
【0169】
実施例(4)-1~(4)-10の水硬性材料用添加剤を用いたモルタルは、フロー値が200mm以上230mm未満(より詳細には200mm以上220mm以下)であり、フロー評価が200mm以上230mm未満(より詳細には200mm以上220mm以下)になるように調整した際の降伏点は400Pa以上2000Pa以下であり、揺変性は500Pa・s以上4000Pa・s以下であった。
【0170】
【表6】
【0171】
実施例(5)-1~(5)-3及び比較例(5)-1
下記表7に記載の化合物Aを窒素含有化合物(A)として、上記合成例で合成した共重合体(B-4)を分散剤(B)として、表7に記載の割合で配合して水硬性材料用添加剤を調製した。調製した水硬性材料用添加剤について、上述した方法で分散性、揺変性、降伏点を評価した。揺変性及び降伏点は、比較例(5)-1を100%として実施例(5)-1~(5)-3の揺変性及び降伏点を算出した。結果を表7に示す。
【0172】
実施例(5)-1~(5)-3の水硬性材料用添加剤を用いたモルタルは、フロー値が200mm以上230mm未満(より詳細には200mm以上220mm以下)であり、フロー評価が200mm以上230mm未満(より詳細には200mm以上220mm以下)になるように調整した際の降伏点は400Pa以上2000Pa以下であり、揺変性は500Pa・s以上4000Pa・s以下であった。
【0173】
【表7】
【0174】
実施例(6)-1及び比較例(6)-1
下記表8に記載の化合物Aを窒素含有化合物(A)として、上記合成例で合成した共重合体(B-5)を分散剤(B)として、表8に記載の割合で配合して水硬性材料用添加剤を調製した。調製した水硬性材料用添加剤について、上述した方法で分散性、揺変性、降伏点を評価した。揺変性及び降伏点は、比較例(6)-1を100%として実施例(6)-1の揺変性及び降伏点を算出した。結果を表8に示す。
【0175】
実施例(6)-1の水硬性材料用添加剤を用いたモルタルは、フロー値が200mm以上230mm未満(より詳細には200mm以上220mm以下)であり、フロー評価が200mm以上230mm未満(より詳細には200mm以上220mm以下)になるように調整した際の降伏点は200Pa以上2000Pa以下であり、揺変性は300Pa・s以上4000Pa・s以下であった。
【0176】
【表8】
【0177】
上記全ての実施例より、化合物Aを添加することでモルタルの揺変性及び降伏点を高めることが確認された。化合物Aの添加による揺変性及び降伏点向上により3Dプリンティング(立体造形)に好適に利用できる。
【0178】
本出願は、2021年7月20日に出願された、日本特許出願 特願2021-120005号に基づいており、その開示内容は、その全体が参照により本明細書に組みこまれる。
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明の水硬性材料組成物は、立体造形用材料として利用可能であり、土木、建設分野の製品を簡便に製造することができる。