(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】硫化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 17/24 20060101AFI20250401BHJP
H01M 10/0562 20100101ALN20250401BHJP
【FI】
C01B17/24
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2021035650
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2024-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 文武
(72)【発明者】
【氏名】久芳 完治
(72)【発明者】
【氏名】角木 祥太朗
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-201510(JP,A)
【文献】特開2015-074567(JP,A)
【文献】特開2016-216312(JP,A)
【文献】国際公開第2021/186919(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 17/00 - 17/98
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉に投入された
粒子形状の硫酸リチウムを0.05MPa以下に減圧した雰囲気下で、700℃より高い温度に加熱した状態で
粒子形状を保った状態で還元する昇温工程、
を含む硫化リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記昇温工程は、硫酸リチウムと還元剤とを混ぜ合わせた状態で、750℃以上
950℃以下に加熱する、
請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記昇温工程は、硫酸リチウムと還元剤とを混ぜ合わせた状態で、850℃以上950℃以下に加熱する、
請求項2に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項4】
粒子形状の硫酸リチウムと還元剤とを炉に投入する準備工程、
を含む、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記昇温工程は、前記の温度範囲における加熱時間が5分以上90分以下である、
請求項2または3に記載の硫化リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池の固体電解質として硫化リチウムが知られている。特許文献1には、水酸化リチウムを非プロトン性有機溶媒の中で硫化水素と反応させて水硫化リチウムとし、さらに反応を進めて硫化リチウムを製造する方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、有機溶剤を使用しない硫化リチウムの製造方法が開示されている。特許文献2では、金属リチウムと硫黄蒸気または硫化水素を反応させて金属リチウム上に硫化リチウムを生成させる。そして、未反応の金属リチウムを高温にして溶融化して、既に生成している硫化リチウムに拡散、浸透させた後、冷却する。そして、再び金属リチウムと硫黄蒸気または硫化水素とを反応させて硫化リチウムを生成させる。このようなサイクルを繰り返して金属リチウムを100%反応させる。
【0004】
特許文献3には、炭酸リチウムを硫化水素で反応させて硫化リチウムを製造する方法が開示されている。
【0005】
特許文献4には、硫化水素を使用しない硫化リチウムの製造方法が開示されている。特許文献4では、硫酸リチウムと炭素粉末とをそれぞれ微粒子に調整して混合することにより、反応面積を増加させ未反応原料を低減させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-151725号公報
【文献】特開平9-110404号公報
【文献】特開2012-221819号公報
【文献】特開2013-227180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術では、イオン伝導率の高い硫化物固体電解質を作成できるが、有機溶剤を使用するためコストが増加する。特許文献2に記載の技術では、反応のサイクルを繰り返し行う必要がありコストが増加する。特許文献3に記載の技術では、有毒な硫化水素ガスを使用するので、管理が難しく、安全を確保することに高度な注意を要する。特許文献4に記載の技術では、微粒子に調整して混合しなければならないので、工程が増加する。また、ロータリーキルンのような設備で製造する場合、微粒子が設備の内部で飛散して、回収量が低減するおそれがある。
【0008】
硫化水素を使用しない硫酸リチウムと炭素材料とで還元する従来の製造方法では、他の製造方法に比べて、生成された硫化リチウムを用いて固体電解質を作成した際にイオン伝導率が低くなる傾向がある。その原因として、多くの条件において、副生成物として炭酸リチウムまたは酸化リチウムが生成され、硫化リチウムの純度を低下させていることがわかった。
【0009】
このように、リチウム電池に使用される、副生成物がなくイオン伝導率が高い硫化リチウムの製造方法には改善の余地がある。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、副生成物がなくイオン伝導率が高い硫化リチウムのより適切な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の硫化リチウムの製造方法は、炉に投入された硫酸リチウムを0.05MPa以下に減圧した雰囲気下で、700℃より高い温度に加熱した状態で還元する昇温工程、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる硫化リチウムの製造方法は、副生成物がなくイオン伝導率が高い硫化リチウムをより適切に製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、硫化リチウムの製造方法の工程を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、ロータリーキルンを含む製造装置の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、実施例1の試験結果を示すグラフであり、X線回析測定の測定結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例2の試験結果を示すグラフであり、X線回析測定の測定結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例3の試験結果を示すグラフであり、X線回析測定の測定結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例4の試験結果を示すグラフであり、X線回析測定の測定結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例5の試験結果を示すグラフであり、X線回析測定の測定結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、比較例1の試験結果を示すグラフであり、X線回析測定の測定結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、比較例2の試験結果を示すグラフであり、X線回析測定の測定結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、比較例3の試験結果を示すグラフであり、X線回析測定の測定結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、各実施例及び各比較例の試験結果を示すグラフであり、交流インピーダンス測定を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0015】
図1、
図2を用いて、硫化リチウムの製造方法について、説明する。
図1は、硫化リチウムの製造方法の工程を示すフローチャートである。
図2は、ロータリーキルンを含む製造装置の一例を示す模式図である。
【0016】
本実施形態の硫化リチウムの製造方法は、原料としての硫酸リチウムと還元剤とを1つの炉に入れて昇温して、硫化リチウムを製造する。硫酸リチウムと還元剤との反応時に、減圧した雰囲気下で行う。
【0017】
硫酸リチウムは、平均粒径が10μm以上100μm以下であることが好ましく、15μm以上80μm以下であることがより好ましく、30μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。本実施形態の硫化リチウムの製造方法の原料である硫酸リチウムは、微粒子状である必要がない。このため、例えば、ロータリーキルン11のような設備を使用して製造する場合においても、粉末状の硫酸リチウムがロータリーキルン11のキルン本体(炉)12の内部において飛散して、回収が困難になる可能性が低減される。
【0018】
還元剤は、例えば活性炭のように炭素を主成分とする材料であればよく、限定されない。本実施形態では、還元剤が活性炭である場合について説明する。活性炭は、平均粒径が1μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0019】
図1に示すように、硫化リチウムの製造方法は、硫酸リチウムと還元剤とを炉に投入する準備工程(ステップS12)と、炉を昇温する昇温工程(ステップS14)と、炉を冷却する冷却工程(ステップS16)とを含む。
【0020】
[準備工程]
準備工程は、硫酸リチウムと還元剤とを所定のモル比で炉に投入する。また、準備工程では、硫酸リチウムと還元剤とを所定のモル比で混合する。硫酸リチウムの還元剤である活性炭に対するモル比は、例えば、C/Li2SO4比で2以上4以下であることが好ましい。
【0021】
[昇温工程]
昇温工程は、炉において、炉に投入された硫酸リチウムと還元剤とを加熱して昇温する。昇温工程は、減圧した雰囲気下で行う。例えば、炉内を0.05MPa以下に減圧した雰囲気下で行う。圧力は炉内の温度の影響を受けない箇所で測定すればよく、例えばプルドン菅圧力計やピラニー真空計などを用いて測定する。昇温工程を減圧した雰囲気下で行うために、昇温工程の実行時は、例えばポンプを連続して使用して、減圧下で還元を行う。例えば、700℃より高い温度に加熱した状態で行う。
【0022】
昇温工程において、硫酸リチウムは、還元剤によって還元される。昇温工程では、例えば、750℃以上1000℃以下、好ましくは、850℃以上950℃以下の温度範囲に昇温する。700℃以下の温度範囲では、硫酸リチウムと還元剤との反応速度が遅く、生産性が低い。1000℃より高温の温度範囲では、必要以上に温度を上げることになるので生産性が低い。950℃以上の温度範囲では、原料である硫酸リチウムの融点以上であるので、未反応のまま残留している硫酸リチウムが溶解する。750℃以上1000℃以下の温度範囲は、反応速度が高く、生産性が高い。850℃以上950℃以下の温度範囲では、硫酸リチウムが融解せず、粒子形状を保った硫化リチウムが得られる。
【0023】
昇温工程は、加熱を開始してから5℃/min以上の昇温速度で昇温して、所望の温度範囲に達することが好ましい。昇温工程は、所望の温度範囲での加熱時間が5分以上90分以下であることが好ましい。加熱時間を上記の範囲にすることが好ましいのは、長い時間高温で保持していると次第に粒成長が起こり、反応性の低下が起こるためである。
【0024】
硫酸リチウムを炭素にて還元する方法で炭酸リチウム及び酸化リチウムの副生成物を抑制するためには還元時に発生するガスを速やかに除去することが重要である。そこで、本実施形態では、発生するガスに対して十分大きな排気量を持ったポンプを連続して使用して、減圧下を保って還元を行う。これにより、安いコストで高純度の硫化リチウムが得られる。
【0025】
還元時に発生するガスは、温度により組成が異なっていることが見いだされた。反応が起こり始める750℃以上850℃以下程度の温度ではCO2が主であり、温度を上げていくに従ってCO比率が高くなっていくことが分かった。還元時に発生するガスの酸素ポテンシャル、言い換えると、還元雰囲気のCO/CO2比も、副生成物を抑制するためには重要な要因である。低温での反応においては、CO/CO2比が適切な範囲から外れ、排気速度を速くしても硫化リチウム単体を得ることは難しい。排気速度が非常に速い条件になると、ポンプの性能が高いものを用意しなければならずコストが増加する。そこで850℃以上の温度にて0.05MPa以下に減圧しながら還元を行うことにより、副生成物のない高純度の硫化リチウムを得る。
【0026】
[冷却工程]
冷却工程は、昇温工程後、炉を200℃以下まで冷却する。冷却工程は、昇温した炉を自然冷却する。
【0027】
冷却工程後、炉から硫化リチウムを取り出す。
【0028】
準備工程と昇温工程と冷却工程とは、例えば、ロータリーキルン11を有する製造装置10を使用して行ってもよい。
【0029】
[製造装置]
製造装置10は、原料としての硫酸リチウムと、還元剤としての活性炭とを1つの炉に入れて、減圧した雰囲気下で昇温して、硫化リチウムを製造する装置である。製造装置10は、ロータリーキルン11と、材料投入装置18と、材料排出管24と、ポンプ41と、を含む。
【0030】
ロータリーキルン11は、キルン本体12と、ヒータ14と、駆動部16と、を含む。キルン本体12は、筒状部材である。キルン本体12は、筒形状の中心軸が、材料投入装置18側の端部が、他方の端部よりも鉛直方向上側となるように、水平方向に対して傾きを有して配置されることが好ましい。ヒータ14は、キルン本体12を加熱する。
【0031】
駆動部16は、キルン本体12を筒形状の中心軸を回転軸として回転させる。駆動部16は、駆動源30と、伝達機構32と、を含む。駆動源30は、モータ等の回転力を発生させる。伝達機構32は、駆動源30の回転力をキルン本体12に伝達する。
【0032】
材料投入装置18は、ロータリーキルン11へ硫酸リチウムと活性炭とを投入する。材料投入装置18は、材料貯留部21と、材料供給管22と、を含む。材料貯留部21は、硫酸リチウムと活性炭とを貯留する。材料供給管22は、材料貯留部21とキルン本体12とを接続する。材料供給管22は、キルン本体12において、硫酸リチウムと活性炭との搬送経路の上流側に接続されている。材料供給管22は、材料貯留部21からキルン本体12に硫酸リチウムと活性炭とを供給する。
【0033】
材料排出管24は、キルン本体12の材料供給管22が接続されている端部とは反対側の端部に接続されている。材料排出管24は、キルン本体12において、硫酸リチウムと活性炭との搬送経路の下流側に接続されている。材料排出管24は、キルン本体12を通過して製造された硫化リチウムが排出される。
【0034】
ポンプ41は、排気管42を介して、キルン本体12に接続されている。ポンプ41は、キルン本体12の内部を減圧する。ポンプ41は、反応時に、キルン本体12において発生するガスの発生量より大きい排気量を持つ。使用するポンプに制限はなくロータリーポンプとメカニカルブースターポンプまたは油拡散ポンプとの組み合わせなどを用いればよい。炉のサイズや一度に還元処理を行う量によっては一般的に購入可能な150L/min程度の排気量を持つロータリーポンプのみでも上記条件は十分に達成可能である。
【0035】
このように構成された製造装置10では、まず、材料投入装置18から、所定のモル比の硫酸リチウムと活性炭とを、ロータリーキルン11のキルン本体12に投入する。キルン本体12に投入された、硫酸リチウムと還元剤とは混合されている。そして、昇温工程において、ポンプ41を作動させ、排気管42を介してキルン本体12から気体を吸引して減圧する。キルン本体12の内部の圧力を0.05MPa以下に制御する。キルン本体12が、ヒータ14により加熱されつつ、駆動部16により回転軸回りに回転される。キルン本体12に供給された硫酸リチウムと活性炭とは、キルン本体12の回転により、搬送経路に沿って、材料供給管22から材料排出管24に向けて移動する。搬送経路を移動する硫酸リチウムと活性炭とは、ヒータ14により所望の温度まで加熱される。硫酸リチウムと活性炭とが微粒子状ではないので、搬送経路における飛散が抑制される。そして、冷却工程において、ヒータ14を停止して、キルン本体12と硫化リチウムとを冷却する。そして、製造された硫化リチウムを材料排出管24から排出して、回収する。
【0036】
[本実施形態の効果]
本実施形態によれば、硫酸リチウムと還元剤とを1つの炉に入れて、減圧した雰囲気下で昇温して、硫化リチウムを製造できる。本実施形態によれば、副生成物を抑制し、還元時に発生するガスを速やかに除去することができる。本実施形態は、850℃以上の温度にて0.05MPa以下に減圧しながら還元を行うことにより、副生成物のない高純度の硫化リチウムを得ることができる。本実施形態は、減圧下で還元を行うことによって、安いコストで高純度の硫化リチウムを得ることができる。このように、本実施形態は、副生成物がなくイオン伝導率が高い硫化リチウムを製造することができる。
【0037】
これに対して、Arフローにて雰囲気制御を行うためには、発生するガスの10倍以上100倍以下程度のガス量が必要となり経済的ではない。
【0038】
本実施形態では、700℃以上1000℃以下、好ましくは、850℃以上950℃以下の温度範囲に加熱する。本実施形態では、700℃以上1000℃以下の温度範囲にすることにより、反応速度を高く、生産性を高くすることができる。本実施形態では、850℃以上950℃以下の温度範囲にすることにより、硫酸リチウムが融解せず、粒子形状を保った硫化リチウムを得ることができる。
【0039】
本実施形態では、原料として使用する硫酸リチウムを微粒子に調合することを要しないので、工程の増加を抑制できる。ロータリーキルン11を有する製造装置10で製造する場合、搬送経路における飛散を抑制して、回収量が低減されることを抑制できる。このように、本実施形態は、ロータリーキルン11を有する製造装置10を使用した硫化リチウムの製造に適した方法を提供することができる。
【0040】
本実施形態では、製造工程において、有毒な硫化水素ガスを使用しない。本実施形態によれば、製造工程の管理を容易にでき、安全を確保することができる。
【0041】
本実施形態は、製造工程において、硫酸リチウムと還元剤とを使用して、有機溶剤を使用しないので、コストを抑制できる。
【0042】
本実施形態は、製造工程を繰り返し行う必要がないので、製造に要する時間を短縮して、コストを抑制できる。
【0043】
このように、本実施形態によれば、硫化リチウムをより適切に製造できる。
【0044】
[実施例1]
次に、具体的な実施例1を用いて、硫化リチウムの製造方法について、説明する。準備工程において、原料である硫酸リチウムと還元剤である活性炭とを所定のモル比で、グローブボックス内で不活性雰囲気下において秤量し乳鉢で混合した。所定のモル比は、1:2.4とする。硫酸リチウムと活性炭との混合物を、酸化アルミニウムで形成されたるつぼへ投入した。
【0045】
準備工程の後、昇温工程において、硫酸リチウムと活性炭との混合物が投入されたるつぼを、小型の管状炉に入れて、75分間で750℃まで昇温した。昇温時、ポンプ41によって吸引して、所定の圧力まで減圧した。750℃の状態を60分維持した。昇温工程時、ポンプ41によって、キルン本体12を0.001MPa以下に減圧する。
【0046】
昇温工程の終了後、ポンプ41による吸引を停止し、冷却工程において、管状炉の内部を自然冷却して、試料を回収した。
【0047】
製造した試料は、メノウ乳鉢で粉砕した後、Burker社製のD8ADVANCE装置)を使用して粉末X線回析測定を実施して、未反応残渣を評価した。また、粉砕した試料は、硫化リンとモル比3:1で秤量後、大気非暴露容器を用いた遊星ボールミルにてアモルファス状態にした。その後、グローブボックス中でSUS製の導電率測定用セルに0.3g充填した後、室温25℃において、360Mpaの圧力を印加した状態で、1Hz以上7MHz以下の測定範囲において、交流インピーダンス測定を実施した。製造した試料の粉末X線回析測定の測定結果を
図3に示す。製造した試料の交流インピーダンス測定の測定結果を
図11に示す。
【0048】
実施例2ないし実施例3では、温度を変化させた。実施例4ないし実施例5では、圧力を変化させた。比較例1、比較例2では、Arフローのフロー量を変えて行った。比較例3では、Arフローを行わなかった。比較例3では、温度を変化させた。
【0049】
[実施例2]
実施例2では、温度を850℃、圧力を0.001MPaとした。実施例2で製造した試料の粉末X線回析測定の測定結果を
図4に示す。実施例2で製造した試料の交流インピーダンス測定の測定結果を
図11に示す。
【0050】
[実施例3]
実施例3では、温度を1000℃、圧力を0.001MPaとした。実施例3で製造した試料の粉末X線回析測定の測定結果を
図5に示す。実施例3で製造した試料の交流インピーダンス測定の測定結果を
図11に示す。
【0051】
[実施例4]
実施例4では、温度を850℃、圧力を0.05MPaとした。実施例4で製造した試料の粉末X線回析測定の測定結果を
図6に示す。実施例4で製造した試料の交流インピーダンス測定の測定結果を
図11に示す。
【0052】
[実施例5]
実施例5では、温度を850℃、圧力を0.0001MPaとした。実施例5で製造した試料の粉末X線回析測定の測定結果を
図7に示す。実施例5で製造した試料の交流インピーダンス測定の測定結果を
図11に示す。
【0053】
[比較例1]
比較例1では、温度を850℃、流量1l/minにてArをフローし、圧力を0.1MPaとした。比較例1で製造した試料の粉末X線回析測定の測定結果を
図8に示す。比較例1で製造した試料の交流インピーダンス測定の測定結果を
図11に示す。
【0054】
[比較例2]
比較例2では、温度を850℃、流量2l/minにてArをフローし、圧力を0.1MPaとした。比較例2で製造した試料の粉末X線回析測定の測定結果を
図9に示す。比較例2で製造した試料の交流インピーダンス測定の測定結果を
図11に示す。
【0055】
[比較例3]
比較例3では、温度を680℃、Arフローは行わず、圧力を0.001MPaとした。比較例3で製造した試料の粉末X線回析測定の測定結果を
図10に示す。比較例3で製造した試料の交流インピーダンス測定の測定結果は他の実施例及び比較例に比べ非常に大きく同じ表示範囲に入らなかったためここでは提示しない。
【0056】
上記実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1、比較例2、比較例3の測定結果を下記表1に示す。
【0057】
【0058】
図3ないし
図7は、各実施例(実施例1ないし実施例5)の試験結果を示すグラフであり、X線回析測定の測定結果を示すグラフである。表1より、各実施例では、不純物のXRDピークが見られない。不純物は、副生成物である炭酸リチウムと酸化リチウム、及び、未還元の硫酸リチウムである。実施例3は、副生成物は見られなかったが、硫化リチウムは溶融し、粉末では得られなかった。比較例1では、炭酸リチウムが見られた。比較例2では、酸化リチウムが見られた。比較例2では、粉末が舞い飛散した。比較例3では、未還元の硫酸リチウム、炭酸リチウムの生成が見られた。比較例3では、反応速度が遅かった。これらより、各実施例は、各比較例(比較例1ないし比較例3)より、炭酸リチウムの生成及び未還元の硫酸リチウムを低減できる。本試験より、減圧した雰囲気下で昇温工程を行うことにより、副生成物の生成及び未還元の硫酸リチウムを低減して、硫化リチウムをより適切に製造できることを確認した。
【0059】
図11は、各実施例および各比較例の試験結果を示すグラフであり、交流インピーダンス測定を示すグラフである。
図11及び表1より、副生成物の出ていない実施例1ないし実施例5では、交流インピーダンスでの抵抗値が低くなっている。一方で、比較例1、比較例2では、抵抗値が各実施例の1.5倍以上大きな値を示しており、比較例3では非常に大きな値となってしまったため記載していない。イオン伝導率は、測定面積を抵抗値と測定試料厚みで除算することにより計算される。これらより、各実施例は、各比較例より、イオン伝導率を高くすることができることが確認できた。本試験より、昇温工程において、0.05MPa以下に減圧した雰囲気下で、700℃より高い温度に加熱する場合、副生成物がなくイオン伝導率が高い硫化リチウムをより適切に製造できることを確認した。
【0060】
以上より、硫化リチウムの製造方法において、減圧した雰囲気下で昇温工程を行うことにより、副生成物の生成及び未還元の硫酸リチウムを低減して、イオン伝導率の高い硫酸リチウムが得られる。以上より、上述した条件で製造を行うことで、所望のイオン伝導率を有する硫酸リチウムを適切に製造できることがわかる。
【符号の説明】
【0061】
10 製造装置
11 ロータリーキルン
12 キルン本体(炉)
14 ヒータ
16 駆動部
18 材料投入装置
21 材料貯留部
22 材料供給管
24 材料排出管