(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 48/88 20190101AFI20250401BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20250401BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20250401BHJP
【FI】
B29C48/88
B29C48/08
B29C48/305
(21)【出願番号】P 2021125203
(22)【出願日】2021-07-30
【審査請求日】2024-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉川 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】井ノ本 健
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/125526(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/125528(WO,A1)
【文献】特開平10-180847(JP,A)
【文献】特開平10-100226(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0247794(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/88
B29C 48/08
B29C 48/305
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂と希釈材とが混合されたシート材料を口金の吐出口からキャスト装置に向けて吐出し、
前記吐出口よりもシート搬送方向上流側に備えられた減圧チャンバで前記シート材料と前記キャスト装置との間の減圧空間を覆い、
前記減圧チャンバ内の空気を吸引して前記シート材料を前記キャスト装置に密着させ、前記キャスト装置で前記シート材料を搬送しながら冷却して固化する、シートの製造方法であって、
前記減圧チャンバ内の空気の吸引を、前記シート材料の両端部よりシート幅方向外側に形成された減圧チャンバの開口部から行い、
前記吐出口から前記キャスト装置の外周面までの最短距離をH、前記開口部をシート幅方向外側から観察して、前記シート材料よりシート搬送方向下流側部分で開口している面積をS1、としたとき、0<S1/H
2≦0.33とする、
微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記減圧チャンバをシート幅方向外側から観察した前記減圧空間の断面積をM1としたとき、M1/H
2≦2.0とする、請求項1の微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
前記減圧チャンバが、前記開口部を部分的に覆う遮蔽板を備え、
前記遮蔽板が前記開口部を覆う面積を変えることで前記S1を調整する、請求項1または2の微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
前記シート材料の位置に基づいて、前記遮蔽板が前記開口部を覆う面積を制御する、請求項3の微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
ポリオレフィン樹脂と希釈材とが混合されたシート材料を吐出口から吐出するための口金と、
前記吐出口から吐出されたシート材料を搬送しながら冷却して固化するためのキャスト装置と、
前記吐出口よりもシート搬送方向上流側に備えられ、シート材料と前記キャスト装置との間の減圧空間を覆う減圧チャンバと、を有するシートの製造装置であって、
シートの製造中における、前記吐出口から前記キャスト装置までの想定されるシート材料の流れを仮想シート材料として、
前記減圧チャンバが、
前記仮想シート材料の両端部よりシート幅方向外側となる位置に、減圧チャンバ内の空気を吸引するための開口部が形成されており、
前記吐出口から前記キャスト装置の外周面までの最短距離をH、前記開口部をシート幅方向外側から観察して、前記仮想シート材料よりシート搬送方向下流側部分で開口している面積をS1としたとき、0<S1/H
2≦0.33となるように配置された、
微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造装置。
【請求項6】
前記減圧チャンバが、シート幅方向外側から観察した前記減圧空間の断面積をM1としたとき、前記仮想シート材料を基準としてM1/H
2≦2.0となるように配置された、請求項5の微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造装置。
【請求項7】
前記減圧チャンバが、前記開口部を部分的に覆う遮蔽板を備え、
前記遮蔽板が前記開口部を覆う面積を変えることで前記S1を調整できる、請求項5または6の微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造装置。
【請求項8】
シート材料の位置を測定する変位計を備えた、請求項5~7のいずれかの微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
まず、一般的な微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造方法について
図7を参照しながら説明する。
図7は一般的な微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造装置の概略図である。
図7に図示されているように、ポリオレフィン樹脂と希釈材とが混合されたシート材料3を口金1の吐出口5からキャスト装置2に向けて吐出し、吐出口5よりもシート搬送方向上流側に備えられた減圧チャンバ4でシート材料3とキャスト装置2との間の減圧空間9を覆い、シート材料3の両端部よりシート幅方向外側に形成された減圧チャンバ4の開口部8から減圧チャンバ4内の空気を吸引してシート材料3をキャスト装置2に密着させ、キャスト装置2でシート材料3を搬送しながら冷却し、固化する、シートの製造方法が知られている。
【0003】
ところで、本発明の好ましい形態と一見すると似ているように見える技術として、特許文献1に開示されている樹脂シートの製造装置がある。特許文献1には、シート材料の膜振動による厚みムラを抑制する目的で、シート材料の端部付近に整流板が備えられた樹脂シートの製造装置が開示されている。
図8を参照する。
図8は特許文献1の樹脂シートの製造装置の高さ方向上面から観察した矢視図である。
図8に図示されているように、整流板6の整流効果により、シート材料3の端部で渦の形成が抑制され、シート材料の膜振動を抑制、樹脂シートの厚みムラを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、樹脂シートが使用される製品の小型化や軽量化に伴い、樹脂シートの薄膜化が強く望まれている。しかし、樹脂シートを薄膜化させると、ブロワ風量の脈動や昼夜の気温変動など外部要因によって減圧チャンバ内の圧力が変動した際に、口金から吐出されたシートがキャスト装置に着地する位置が変化しやすくなる。シート位置が変化すると、シート材料が減圧チャンバの側壁などに接触し、シート破れを引き起こす。
【0006】
しかし、上述の特許文献1には、シート位置変化によるシート破れや、それを抑制する方法は開示されていない。
【0007】
そこで本発明は、減圧チャンバ内の圧力変動によるシート位置変化を抑制することで、安定してシートを製造できる微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造方法および製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造方法は、ポリオレフィン樹脂と希釈材とが混合されたシート材料を口金の吐出口からキャスト装置に向けて吐出し、上記吐出口よりもシート搬送方向上流側に備えられた減圧チャンバで上記シート材料と上記キャスト装置との間の減圧空間を覆い、上記減圧チャンバ内の空気を吸引して上記シート材料を上記キャスト装置に密着させ、上記キャスト装置で上記シート材料を搬送しながら冷却して固化する、シートの製造方法であって、
上記減圧チャンバ内の空気の吸引を、上記シート材料の両端部よりシート幅方向外側に形成された減圧チャンバの開口部から行い、
上記吐出口から上記キャスト装置の外周面までの最短距離をH、上記開口部をシート幅方向外側から観察して、上記シート材料よりシート搬送方向下流側部分で開口している面積をS1としたとき、0<S1/H2≦0.33とする。
【0009】
本発明の微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造方法は、上記減圧チャンバをシート幅方向外側から観察した上記減圧空間の断面積をM1としたとき、M1/H2≦2.0とすることが好ましい。
【0010】
本発明の微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造方法は、上記減圧チャンバが、上記開口部を部分的に覆う遮蔽板を備え、上記遮蔽板が上記開口部を覆う面積を変えることで上記S1を調整することが好ましい。
【0011】
本発明の微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造方法は、上記シート材料の位置に基づいて、上記遮蔽板が上記開口部を覆う面積を制御することが好ましい。
【0012】
上記課題を解決する本発明の微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造装置は、ポリオレフィン樹脂と希釈材とが混合されたシート材料を吐出口から吐出するための口金と、上記吐出口から吐出されたシート材料を搬送しながら冷却して固化するためのキャスト装置と、上記吐出口よりもシート搬送方向上流側に備えられ、シート材料と上記キャスト装置との間の減圧空間を覆う減圧チャンバと、を有するシートの製造装置であって、
シートの製造中における、上記吐出口から上記キャスト装置までの想定されるシート材料の流れを仮想シート材料として、
上記減圧チャンバが、
上記仮想シート材料の両端部よりシート幅方向外側となる位置に、減圧チャンバ内の空気を吸引するための開口部が形成されており、
上記吐出口から上記キャスト装置の外周面までの最短距離をH、上記開口部をシート幅方向外側から観察して、上記仮想シート材料よりシート搬送方向下流側部分で開口している面積をS1としたとき、0<S1/H2≦0.33となるように配置される。
【0013】
本発明の微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造装置は、上記減圧チャンバが、シート幅方向外側から観察した上記減圧空間の断面積をM1としたとき、上記仮想シート材料を基準としてM1/H2≦2.0となるように配置されることが好ましい。
【0014】
本発明の微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造装置は、上記減圧チャンバが、上記開口部を部分的に覆う遮蔽板を備え、上記遮蔽板が上記開口部を覆う面積を変えることで上記S1を調整できることが好ましい。
【0015】
本発明の微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造装置は、上記シート材料の位置を測定する変位計を備えることが好ましい。
【0016】
[用語説明]
次に、本発明における各用語の意味を説明する。
「シート材料」とは、シートを構成する材料である。シート材料としては、たとえば、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂を希釈剤と混合し加熱溶融させて調整したポリオレフィン溶液の樹脂を用いることができる。希釈剤としては、ポリオレフィン樹脂に混合または溶解できる物質であれば特に限定されない。溶融混練状態では、ポリオレフィンと混和するが室温では固体の溶剤を希釈剤に混合してもよい。このような固体希釈剤として、ステアリルアルコール、セリルアルコール、パラフィンワックス等が挙げられる。延伸での斑などを防止するのに、また、後に塗布することを考慮して、希釈剤は室温で液体であるのが好ましい。液体希釈剤としては、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン等の脂肪族、環式脂肪族又は芳香族の炭化水素、および沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の室温では液状のフタル酸エステルが挙げられる。液体希釈剤の含有量が安定なゲル状シートを得るために、流動パラフィンを用いるのが更に好ましい。例えば、液体希釈剤の粘度は40℃において20~200cStであることが好ましい。ポリオレフィン樹脂と希釈剤との配合割合は、ポリオレフィン樹脂と希釈剤との合計を100質量%として、押出物の成形性を良好にする観点から、ポリオレフィン樹脂10~50質量%が好ましい。ポリオレフィン溶液の均一な溶融混練工程は特に限定されないが、カレンダー、各種ミキサー、スクリューを伴う押出機などが挙げられる。
【0017】
「キャスト装置」とは、口金の吐出口から吐出されたシート材料を密着させることで、冷却、固化しながら、下流へ搬送する装置をいう。形態は特に限定されないが、ロールやベルトなどが挙げられる。
「幅方向」とは、シート材料が口金でシート状に成形されたときの幅方向と一致する方向をいう。
「シート搬送方向」とは、キャスト装置がシートを搬送する方向をいう。搬送先が下流側、反対が上流側である。
「減圧空間」とは、シート材料とキャスト装置との間に形成され、減圧チャンバで覆い、負圧にする空間をいう。
「減圧チャンバ」とは、減圧空間を覆い、減圧することでシート材料をキャスト装置に密着させる装置をいう。一般的には、減圧チャンバ内の圧力は大気圧に対して-1500Pa以上-50Pa以下である。また、減圧チャンバ内の圧力を製膜条件に応じて制御してもよい。
【0018】
「開口部」とは、吸引装置と接続し、減圧チャンバ内部から空気を吸引する減圧チャンバの一部分をいう。開口部の形状は特に限定されないが、正方形、長方形、台形、円形、楕円形などが挙げられる。開口部にはニッケルめっきやクロムめっき、亜鉛めっき等の表面処理が施されていてもよい。吸引装置は特に限定されないが、ブロアや真空ポンプなどが挙げられる。
「遮蔽板」とは、開口部を部分的に覆う部材をいう。遮蔽板の形状は特に限定されないが、板材、穴の開いたパンチングなどが挙げられる。
「仮想シート材料」とは、シートの製造中における、吐出口からキャスト装置までのシート材料の流れを想定したものであり、仮想シート材料のシート幅、キャスト装置に着地する位置、吐出口からキャスト装置までの軌跡などは、製造条件によって変化する。
「側壁」とは、減圧空間のシート幅方向に垂直な面を覆う減圧チャンバの一部分をいう。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリオレフィン樹脂シートの製造方法および製造装置を使用すれば、減圧チャンバ内の圧力変動によるシート位置変化を抑制してシート破膜を抑制し、シートを安定して製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造装置をシート幅方向から観察した矢視図である。
【
図2】
図1のX-X線に沿う高さ方向に垂直な断面図である。
【
図3】一般的な微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造装置をシート幅方向から観察した矢視図である。
【
図4】
図3のZ-Z線に沿う高さ方向に垂直な断面図である。
【
図5】本発明の微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造装置をシート幅方向から観察した矢視図で、減圧空間を示す図である。
【
図6】遮蔽板を備えた本発明のポリオレフィン樹脂シート製造装置をシート幅方向から観察した矢視図である。
【
図7】一般的な微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造装置の概略図である。
【
図8】特許文献1の樹脂シートの製造装置を高さ方向上面から観察した矢視図である。
【
図9】各実施例および各比較例における、S1/H
2とシート位置変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明のポリオレフィン樹脂シートの製造および製造方法について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施形態に限定されるものではない。なお、従来の技術と同じ用途および機能を有している部材については、同じ符号を有している場合がある。
図1、2を参照して、各寸法について説明する。
図1は本発明のポリオレフィン樹脂シートの製造装置をシート幅方向から観察した矢視図、
図2は
図1のX-X線に沿う高さ方向に垂直な断面図である。開口部8をシート幅方向外側から観察して、シート材料3よりシート搬送方向下流側で開口している部分の面積を符号S1、口金1の吐出口からキャスト装置2の外周面までの最短距離を符号Hとする。
【0022】
先ず
図3、4を参照して、減圧チャンバ4内の圧力変動によるシート位置変化について説明する。
図3は一般的なポリオレフィン樹脂シートの製造装置をシート幅方向から観察した矢視図、
図4は
図3のZ-Z線に沿う高さ方向に垂直な断面図である。外部要因によって減圧チャンバ4内の負圧が強くなると、シート材料3はシート搬送方向上流側に引き込まれて位置Aから位置Bまで移動する。するとシート材料3の端部が開口部8のシート搬送方向上流側端部8aや減圧チャンバ4の側壁4aなどに接触し、シート破れを引き起こす。
【0023】
本発明者らは実験、理論計算を重ねた結果、S1を小さくすることで減圧チャンバ4内の圧力変動によるシート位置変化を抑制できることを見出した。
図2を参照して、S1が小さい本発明のポリオレフィン樹脂シートの製造装置における減圧チャンバ4内の圧力変動によるシート位置変化について説明する。S1は、シート材料3がシート搬送方向上流側に移動すると増加する。すると、開口部8の流動抵抗がS1の増加率に応じて低下し、空気を吸引する吸引装置(図示せず)の吸引圧も弱くなる。それにより減圧チャンバ4内の負圧も弱くなる。一般的なポリオレフィン樹脂シートの製造装置のようにS1が大きいと、シート材料3の移動によるS1の増加率は小さく、減圧チャンバ4内の負圧への影響も小さい。それに対し、本発明のポリオレフィン樹脂シートの製造装置のようにS1が小さいと、S1の増加率が大きく、減圧チャンバ4内の負圧も大幅に弱くなる。その結果、シート材料3は位置Bに移動する前に位置Aに戻ろうとするため、減圧チャンバ4内の圧力変動によるシート位置変化を抑制できる。
【0024】
ここで、本発明者らはさらに実験、理論計算を重ねた結果、0<S1/H2≦0.33にすることで、減圧チャンバ4内の圧力変動によるシート位置変化を抑制し、シート破れを防止できることを見出した。S1=0、つまり開口部8のうち、シート材料よりシート搬送方向下流側で開口している部分がない場合、シート材料3が移動しても開口部8の流動抵抗はあまり変わらないため、吸引装置の吸引圧および減圧チャンバ4内の負圧への影響も小さい。また減圧チャンバ4内の負圧によるシート材料3の位置変化量がHに依存するため、Hで正規化したS1によって本発明の効果が得られる範囲を定義した。より好ましくは、0<S1/H2≦0.20である。Hの範囲は特に限定されないが、開口部8が小さ過ぎると異物などが詰まりやすくなってしまうため、現実的にはHは10mm以上が好ましい。
【0025】
図5は本発明のポリオレフィン樹脂シート製造装置をシート幅方向から観察した矢視図で、減圧空間を示す図である。実際には減圧チャンバ4の側壁に遮られて減圧空間は見えないが、側壁が無いものとした図である。
図5に示すように、シート幅方向外側から観察して減圧空間の断面積を符号M1としたとき、本発明のポリオレフィン樹脂シートの製造方法では、M1/H
2≦2.0にすることが好ましい。M1/H
2が2.0より大きくても本発明の効果は得られるが、M1/H
2を2.0以下にすることで、吸引装置の吸引圧減少の影響が短時間で減圧チャンバ4内全体に伝わり、シート位置変化をより抑制できる。より好ましくはM1/H
2≦1.7である。M1/H
2の下限は特に限定されないが、M1が小さ過ぎると減圧チャンバ4内の負圧が幅方向で不均一になってしまうため、現実的にはM1/H
2は1.3以上が好ましい。
【0026】
本発明のポリオレフィン樹脂シートの製造方法では、遮蔽板が開口部を覆う面積を変えることでS1を調整することが好ましい。
図6を参照する。
図6は遮蔽板7を備えた本発明のポリオレフィン樹脂シート製造装置をシート幅方向から観察した矢視図である。遮蔽板7をシート搬送方向に動かして開口部8を覆う面積を変えることで、S1を調整できる。条件変更などによってシート材料3の位置が変わっても、装置を改造することなく、S1を適切な範囲に調整できる。
【0027】
本発明のポリオレフィン樹脂シートの製造方法では、シート材料3の位置に基づいて、遮蔽板7が開口部を覆う面積を制御することが好ましい。環境温度や樹脂状態などによって製膜中にシート材料3の位置が変わっても、シート材料3の位置に基づいて遮蔽板7が開口部8を覆う面積を制御することで、S1を適切な範囲に維持できる。
【0028】
本発明のポリオレフィン樹脂シートの製造装置は、シート材料の位置を測定する変位計(図示せず)を備えていることが好ましい。変位計と遮蔽板7とを制御装置(図示せず)に接続し、変位計からのシート材料の位置の信号に応じて、制御装置から遮蔽板7の位置を制御するように自動制御を行ってもよい。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明におけるポリオレフィン樹脂シート製造方法を用いたポリオレフィン樹脂シート製造の実施例を示す。ここで、シート幅方向外側から観察してシート材料よりシート搬送方向下流側で開口している開口部の面積をS1[mm2]、口金の吐出口からキャスト装置の外周面までの最短距離をH[mm]、シート幅方向外側から観察して減圧空間の断面積をM1[mm2]とする。
【0030】
[実施例1]
図1に図示されている本発明のポリオレフィン樹脂シート製造方法を用いて、実際にポリオレフィン樹脂シートを製造し、圧力変動によるシート位置変化量を評価した結果を説明する。本実施形態における具体的なシートの製造条件は以下の通りである。
【0031】
(1)シート材料:
・高密度ポリエチレン(HDPE):粘度1000Pa・s。ここで、粘度は、せん断速度100/s、温度200℃の条件で、JIS K7117-2の方法で測定した。
・流動パラフィン(LP):動粘度50cSt(40℃mm2/sのとき)。
・HDPEとLPの混合比率は、質量比でHDPE:LP=30:70である。
【0032】
(2)押出:
押出機を用いて流量250kg/hrのシート材料を押し出し、ギヤポンプ、フィルターを介した後、口金に供給した。また、口金に至るまでの装置温度は220℃である。
【0033】
(3)口金:
幅500mm、間隙2mmの吐出口からシート材料を吐出して、シート状に成形した。
【0034】
(4)キャスト装置:
温度35℃、速度10m/分で回転するシート成形ロールにシートを密着させ、冷却して固化した。口金の吐出口はシート成形ロール中心の直上で、Hが40mmとなる位置に設置した。
【0035】
(5)減圧チャンバ:
減圧チャンバは、口金の吐出口の搬送方向上流側に設置され、吐出口から吐出されるシート材料とキャスト装置との間を覆う形状で、M1は3400mm2であり、M1/H2=2.1となった。開口部は水平方向が長辺となる長方形で、長辺は70mm、短辺は32mm、口金の吐出口から開口部の上側端までの距離は3mm、開口部の下側端からシート成形ロールまでの距離は5mmであった。開口部に接続したブロアによって、減圧チャンバ内を-400Paで吸引し、S1は320mm2、S1/H2=0.20となった。
【0036】
(6)シート位置変化量
減圧チャンバ内の圧力を-600Paまで強制的に変更して、シート材料がキャスト装置に着地する位置がシート搬送方向上流側に移動した距離(以下、シート位置変化量)を測定した結果、7.5mmであった。
【0037】
[実施例2~5、比較例1~4]
減圧チャンバの各寸法を表1、2に示したように変更した以外は、実施例1と同じポリオレフィン樹脂シート製造方法でシートを製膜した。
各実施例および比較例での減圧チャンバの各寸法およびシート位置変化量を表1、2に示す。
【0038】
【0039】
【0040】
[評価結果]
図9を参照して、各実施例および比較例におけるS1/H
2とシート位置変化量の関係について説明する。
図9は各実施例および比較例のシート位置変化量を示したグラフである。横軸がS1/H
2、縦軸がシート位置変化量、〇が実施例1~5、×が比較例1~4、点線内が0<S1/H
2≦0.33の範囲である。
【0041】
実施例1~4のポリオレフィン樹脂シートの製造方法では、0<S1/H2≦0.33であったので、シート材料の移動によって減圧チャンバ内の負圧が大幅に弱くなり、シート位置変化量が3.3~9.2mmまで抑制された。
【0042】
実施例5のポリオレフィン樹脂シートの製造方法では、S1/H2が実施例1と同じであったが、M1/H2≦2.0であったので、吸引装置の吸引圧減少の影響が短時間で減圧チャンバ4内全体に伝わり、シート位置変化量は実施例1の7.5mmより抑制されて、5.1mmとなった。
【0043】
比較例1のポリオレフィン樹脂シートの製造方法では、S1/H2=0であったので、シート位置変化量が38.6mmと大きかった。なお、シート位置が38.6mm移動するまでに開口部からシート材料が観察されることはなく、S1/H2=0のままであった。
【0044】
また比較例2~4のポリオレフィン樹脂シートの製造方法では、S1/H2>0.33であったので、シート位置変化量が33.3~38.2mmと大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明はポリオレフィン樹脂シート製造装置および製造方法に限らず、溶液樹脂シート製造装置および製造方法や、ダイコーティングなどにも応用できるが、その応用範囲が、これらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0046】
1 口金
2 キャスト装置
3 シート材料
4 減圧チャンバ
4a 側壁
5 吐出口
6 整流板
7 遮蔽板
8 開口部
8a 開口部のシート搬送方向上流側端部
9 減圧空間