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  • 特許-複合材およびその製造方法 図1A
  • 特許-複合材およびその製造方法 図1B
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  • 特許-複合材およびその製造方法 図2
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  • 特許-複合材およびその製造方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】複合材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20250401BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20250401BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20250401BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20250401BHJP
   C08L 23/08 20250101ALI20250401BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20250401BHJP
   C08L 33/12 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
C08L101/00
B29C43/18
B29C43/34
C08K3/38
C08L23/08
C08L23/16
C08L33/12
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021158695
(22)【出願日】2021-09-29
(65)【公開番号】P2023049135
(43)【公開日】2023-04-10
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 友美
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋充
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-517817(JP,A)
【文献】特開2017-014302(JP,A)
【文献】特開2013-194223(JP,A)
【文献】特開2015-096587(JP,A)
【文献】特開2012-144638(JP,A)
【文献】特開2016-204653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/00
B29C 43/18
B29C 43/34
C08K 3/38
C08L 23/08
C08L 23/16
C08L 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と該樹脂よりも高熱電導率な熱伝導粒子とからなる複合材であって、
該樹脂は、粒状の島状部と該島状部間にある介在部とを有し、
該島状部と該介在部は、同種の樹脂からなり、
該介在部は、該複合材の断面積全体に対して1~10%あり、
該熱伝導粒子は、該島状部間に偏在していると共に六方晶系の窒化ホウ素からなるBN粒子を含む複合材。
【請求項2】
前記熱伝導粒子は、扁平状または繊維状である請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
前記熱伝導粒子は、前記複合材全体に対して5~70体積%ある請求項1または2に記載の複合材。
【請求項4】
前記島状部は、前記複合材の断面積全体に対して30~80%ある請求項1~3のいずれかに記載の複合材。
【請求項5】
前記島状部は、前記熱伝導粒子よりも大きい請求項1~4のいずれかに記載の複合材。
【請求項6】
前記介在部は、前記複合材の断面積全体に対して%ある請求項1~5のいずれかに記載の複合材。
【請求項7】
前記介在部は、前記複合材の断面積全体に対して3~6%ある請求項6に記載の複合材。
【請求項8】
前記介在部は、前記複合材の断面積全体に対して4~5%ある請求項7に記載の複合材。
【請求項9】
前記樹脂は、弾性率が0.1GPa以上である樹脂原料からなる請求項1~8のいずれかに記載の複合材。
【請求項10】
前記樹脂は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)またはオレフィン系エラストマーを含む請求項1~9のいずれかに記載の複合材。
【請求項11】
樹脂原料と熱伝導粒子原料の混合物を加圧成形する成形工程を備え、
請求項1~10のいずれかに記載の複合材が得られる製造方法。
【請求項12】
前記樹脂原料の少なくとも一部は、粒状である請求項11に記載の複合材の製造方法。
【請求項13】
前記樹脂原料は、弾性率が0.1GPa以上である請求項11または12に記載の複合材の製造方法。
【請求項14】
前記成形工程は、前記混合物を加圧成形した成形体を、さらに前記樹脂原料の軟化点以上で加圧成形する請求項11~13のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性に優れる複合材等に関する。
【背景技術】
【0002】
高密度化や高性能化等された電子機器(半導体モジュール等)は、その機能や寿命等を維持するために、放熱が必要となる。電子機器の放熱は、通常、金属製等の放熱部材(ヒートシンク、筐体等)を通じてなされる。この際、電子機器(発熱源)と放熱部材の各表面間にある凹凸やうねり等を吸収する放熱シート(熱伝導シート、熱伝導性絶縁シート等)等が介装されることが多い。
【0003】
放熱シートには、例えば、熱伝導率の高いフィラーと、柔軟性(弾力性)や密着性に優れる樹脂(エラストマー、ゴム等を含む。)とからなる複合材(組成物を含む。)が用いられる。このような複合材に関する提案は種々なされており、例えば、下記の特許文献に関連した記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-255055
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、シリコーン(樹脂)中に、球状のダイヤモンド(第1フィラー)と鱗片状の六方晶窒化ホウ素(第2フィラー)を分散させた等方性の高熱伝導性電気絶縁組成物を提案している。もっとも、その組成物(複合材)は、高熱伝導率で高価なダイヤモンドを多く用いているが、組成物全体の熱伝導率は高々数W/mKに留まっている。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、熱伝導性に優れる新たな複合材等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、従来のように樹脂(マトリックス)中に熱伝導粒子(フィラー)を均一的に分散させることはせず、発想を転換して、島状の樹脂部間に熱伝導粒子を偏在(凝集、集約等)させることで、熱伝導性に優れる複合材を得ることに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0008】
《複合材》
(1)本発明は、樹脂と該樹脂よりも高熱電導率な熱伝導粒子とからなる複合材であって、該樹脂は、粒状の島状部を有し、該熱伝導粒子は、該島状部間に偏在している複合材である。
【0009】
(2)本発明に係る熱伝導粒子は、粒状の島状部間に偏在(密集、凝集)しており、その島状部間で近接状態または接触状態となり易い。このような熱伝導粒子間の連係により主たる熱伝導パスが形成される結果、本発明の複合材は高い熱伝導率を発揮するようになったと考えられる。また本発明の複合材によれば、熱伝導粒子の偏在により熱伝導パスが効率的に形成させるため、熱伝導粒子量を抑制しつつ、優れた熱伝導性が実現され得る。熱伝導粒子量の減少により、原料コストの低減のみならず、全体的な弾性率(ヤング率)も低減される。従って、本発明によれば、熱伝導性または柔軟性(密着性)等に優れた複合材が低コストで提供され得る。
【0010】
《複合材の製造方法》
本発明は、複合材の製造方法としても把握される。例えば、上述したような複合材は、樹脂原料と熱伝導粒子原料の混合物を加圧成形する成形工程を備える製造方法により得られる。樹脂原料には、少なくとも島状部を形成する粒状の樹脂が含まれるとよい。混合物は、樹脂原料の一部が軟化または溶融した固液共存状態でもよい。また、成形工程前または成形工程中に、少なくとも混合物を加熱する加熱工程がなされてもよい。
【0011】
《放熱部材》
本発明は、上述した複合材からなる放熱部材としても把握される。放熱部材は、バルク状の複合材から特定の形状(シート状、ブロック状等)へ加工(スライス、切断、切削等)されたものでもよいし、圧縮成形や射出成形等により所望形状に一体成形されたものでもよい。電子機器等に用いられる放熱部材は、熱伝導性絶縁部材でもよい。
【0012】
《その他》
(1)本明細書でいう「~材」は、「材料」または「部材」を意味する。複合材には、形状が不定な複合材料(素材等)の他、特定形状に成形、加工等された複合部材も含まれる。
【0013】
本明細書でいう「樹脂」(樹脂原料を含む)には、エラストマー、ゴム等が含まれる。このような樹脂は、熱可塑性でも熱硬化性でもよい。
【0014】
(2)本明細書でいう「x~y」は、特に断らない限り、下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。本明細書でいう「x~yμm」は、特に断らない限り、xμm~yμmを意味する。他の単位系(MPa、W/mK、Ωm等)についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】試料1に係る複合材のSEM像である。
図1B】試料2に係る複合材のSEM像である。
図1C】試料3に係る複合材のSEM像である。
図2】熱伝導粒子のアスペクト比の算出に用いた複合材のSEM像である。
図3】偏在試料と均一試料の熱伝導率を比較した棒グラフである。
図4A】試料4に係る複合材のSEM像である。
図4B】試料4の熱伝導率を示す棒グラフである。
図5】マトリックス(樹脂)中にあるフィラー(熱伝導粒子)の接触状態または密接状態を示す模式図である。
図6】島状部の有無によるフィラー(熱伝導粒子)間隔の変化を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、複合材(材料、部材等)のみならず、その製造方法等にも適宜該当する。方法的な構成要素であっても物に関する構成要素となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0017】
《熱伝導粒子(原料)》
(1)形態
熱伝導粒子は、樹脂の島状部間に偏在できる形態であればよい。例えば、複合材の断面を観察したときに、熱伝導粒子の平均最小寸法が島状部の間隔の平均最小寸法よりも小さいとよい。平均最小寸法は、例えば、無作為に抽出した断面の所定域(例えば、440μm×630μm)において、対象物の最小寸法の算術平均値として求まる。
【0018】
なお、本明細書でいう各算術平均値は、所定域内の全数について求めたものでもよいし、所定域内から無作為に抽出した5~100個、10~50個数さらには15~30個数について求めたものでもよい(以下同様)。また、観察像に基づく測定、算出等は、画像処理ソフトウェア(例えばImageJ)を用いてなされるとよい(以下同様)。
【0019】
熱伝導粒子は、さらに、島状部間で、密集、凝集、配向等が可能な形状(さらにはそれが容易な形状)であるとよい。例えば、熱伝導粒子は、扁平状(鱗片状、板状等)または繊維状であるとよい。そのような形状の一指標として、例えば、熱伝導粒子は、平均アスペクト比(AR)が2~300、5~100さらには20~50であってもよい。平均アスペクト比が過小(例えば略球状)な場合、熱伝導粒子間の隙間が多くなり、島状部間における熱伝導粒子の充填性、密集性または接触性、配向性等が低下し得る。平均アスペクト比は大きくてもよいが、その過大な熱伝導粒子は取扱性が劣る。
【0020】
平均アスペクトは、例えば、無作為に抽出した断面(特に介在部の断面)の所定域(例えば、440μm×630μm)にある対象物のアスペクト比の算術平均値として求まる。アスペクト比は、対象物毎について測定した長手方向の長さと、それに直交する方向の長さとの比率(長手方向の長さ/直交方向の長さ)である。長手方向の長さは、対象物(熱伝導粒子)の最大長(線分の長さの最大値)とする。
【0021】
なお、平均アスペクト比は、複合材中にある各熱伝導粒子の測定値に基づいて算出される他、原料段階(樹脂原料との混合前)の熱伝導粒子(単体)の平均アスペクト比でもよい。例えば、偏平状の熱伝導粒子(BN粒子等)なら、その平均厚さと平均粒径に基づいて算出される平均アスペクト比(平均粒径/平均厚さ)を用いてもよい。
【0022】
熱伝導粒子は、例えば、樹脂の島状部よりも小さいとよい。例えば、複合材の断面を観察したときに、熱伝導粒子の平均最大寸法が島状部の平均最大寸法よりも小さいとよい。平均最大寸法は、例えば、無作為に抽出した断面の所定域(例えば、440μm×630μm)にある対象物の最大寸法の算術平均値として求まる。
【0023】
(2)含有割合
熱伝導粒子は、複合材全体に対して、例えば、5~70体積%、15~65体積%、30~60体積%さらには40~55体積%含まれる。熱伝導粒子が過少では複合材の熱伝導率が低下し得る。一方、熱伝導粒子は多いほど複合材の熱伝導率は向上し得るが、高価な熱伝導粒子の増加は複合材の製造コストも増加させる。本発明によれば、熱伝導粒子の含有量を抑制しつつ、複合材の熱伝導率の向上を図り得る。なお、熱伝導粒子の体積率は、直接的に測定されなくても、例えば、樹脂と熱伝導粒子の含有質量比(配合質量比)と各真密度とから算出される。
【0024】
(3)種類
熱伝導粒子は、上述した形態を満たす限り、その種類(材質、製法等)を問わない。熱伝導粒子として、例えば、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)などがある。なかでも、窒化ホウ素は、シリカやアルミナよりも熱伝導率が大きく、また窒化アルミニウムよりも化学的に安定である。従って、窒化ホウ素からなる熱伝導粒子を用いれば、熱伝導性、耐熱性、長期信頼性、電気絶縁性等に優れる複合材(熱伝導部材)が得られる。
【0025】
ちなみに、窒化ホウ素には、一般的に、六方晶系の常圧相(適宜「h-BN」ともいう。)と立方晶系の高圧相(適宜「c-BN」ともいう。)がある。h-BNは、黒鉛と類似した六角網目層が積層された鱗片状(高アスペクト比な偏平状)からなり、面方向(a軸方向)と厚さ方向(c軸方向)で熱伝導率が大きく異なる熱伝導異方性を有する。h-BN粒子の面方向を特定方向(例えば熱源側から冷却源側へ向かう方向)へ配向させると、複合材の熱伝導率(放熱性等)をより高めることができる。このため、通常、h-BNからなる熱伝導粒子(単に「BN粒子」という。)がフィラーとして用いられる。但し、熱伝導粒子として、c-BN粒子や他種粒子(セラミックス粒子、金属粒子等)が含まれてもよい。
【0026】
BN粒子は、例えば、平均粒径が、1~100μm、10~60μm、14~40μmさらには18~30μmである。平均厚さは、例えば、0.01~5μm、0.15~4μm、0.3~3μm、0.5~2.5μmさらには1~2μmである。所望サイズのBN粒子は、樹脂の島状部間で、凝集、密集または配向等がしやすくなり、複合材の熱伝導率の向上に寄与し得る。
【0027】
なお、複合材中におけるBN粒子の粒径や厚さは、上述した断面の所定域(例えば、440μm×630μm)にある対象物の各寸法の算術平均値として求まる。樹脂原料との混合前のBN粒子(熱伝導粒子原料、通常は粉末)なら、平均粒径は、レーザ回折法で得られた粒度分布から50%径(D50:メディアン径)として特定されてもよい。また、平均厚さは、その粉末の顕微鏡像から無作為に抽出(例えば10~100個)したBN粒子について測定した厚さの算術平均値として特定されてもよい。
【0028】
《樹脂(原料)》
(1)樹脂は、島状部を形成すると共に、熱伝導粒子を保持(支持)する。島状部は、例えば、複合材の断面積全体に対して30~80%、35~70%、40~60%さらには45~55%を占め得る。島状部の面積率は、例えば、観察像(断面)の所定域(例えば、440μm×630μm)を画像処理して算出され得る。
【0029】
島状部間に樹脂の介在部がある場合、介在部は、例えば、複合材の断面積全体に対して1~10%、2~8%、3~6%さらには4~5%を占め得る。介在部の面積率は、例えば、観察像(断面)の島状部間の所定域(例えば、50μm×50μm)を画像処理して算出され得る。
【0030】
なお、島状部は、熱伝導粒子よりも大きいとよい。例えば、既述したように、複合材の断面を観察したときに、島状部の平均最大寸法が熱伝導粒子の平均最大寸法がよりも大きいとよい。
【0031】
(2)樹脂は、単種でも複数種でもよい。単種の樹脂を用いれば、原料配合や製造工程等を簡素化できる。複数種の樹脂を用いる場合なら、例えば、各樹脂の特性(熱伝導率、熱伝導粒子との濡れ性、軟化点・融点等)を考慮して、島状部と介在部にそれぞれ好適な樹脂を配分することも可能となる。
【0032】
樹脂(ゴム、エラストマー等を含む。)は、複合材の仕様(絶縁性、熱伝導性、成形性等)に応じて適宜選択される。樹脂には、通常、高分子化合物である合成樹脂(さらにはポリマー)が用いられる。樹脂は、熱可塑性樹脂でも、熱硬化性樹脂でもよい。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル(ポリメチルメタクリレート/PMMA)、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド等である。熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等である。
【0033】
エラストマーは、例えば、オレフィン系(TPO)、ポリスチレン系(TPS)、ポリ塩化ビニル系(TPVC)、ポリウレタン系(TPU)、ポリエステル系(TPC)、ポリアミド系(TPAE)等の熱可塑性エラストマーである。ゴムは、例えば、エチレン- プロピレン- ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム等の他、熱硬化性エラストマー(ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等)でもよい。
【0034】
(3)少なくとも原料段階の樹脂(樹脂原料)は高弾性率であるとよい。樹脂の弾性率が過小な場合、成形時の樹脂の変形量が過大となり、樹脂(特に島状部)と熱伝導粒子の密着性(ひいては複合材の熱伝導率)が低下し得る。
【0035】
樹脂の弾性率(ヤング率)は、例えば、0.1GPa以上、0.5GPa以上、1GPa以上、1.5GPa以上さらには2GPa以上であるとよい。樹脂の弾性率の上限値は、敢えていうと、例えば、15GPa、10GPaさらには5GPaである。
【0036】
成形中または成形後(複合材)における樹脂の弾性率を特定することは難しいため、本明細書でいう「弾性率」は、特に断らない限り、樹脂原料の弾性率とする。「弾性率」は、使用する樹脂のカタログに掲載されている公称値を採用すれば足る。そのような公称値がないときは、粘弾性スペクトロメータを用いて、樹脂の弾性率を特定すればよい。
【0037】
代表的な樹脂のヤング率を例示すると、PMMA:2.5GPa、オレフィンエラストマ:<0.1GPaである。
【0038】
《製造方法》
複合材は、例えば、熱伝導粒子(フィラー)原料と樹脂(マトリックス)原料の混合物を成形して得られる。
【0039】
(1)混合物・原料
島状部は、成形中またはその後の固化中に形成されてもよいが、島状部となり得る粒状の樹脂が混合物(例えば樹脂原料)中に予め含まれた状態であると好ましい。これにより島状部の形成が容易となる。
【0040】
粒状の樹脂は、原料である樹脂粒子のままでもよいし、その一部(例えば、表層部)が軟化または溶融したものでもよい。また混合物は、粒状の樹脂と溶融(軟化を含む。)した樹脂が混在した固液共存状態(半溶融状態)でもよい。粒状の樹脂のサイズや割合(固相率)などは、樹脂の種類、軟化点、融点等を考慮して、加熱温度や加熱時間を制御して調整されるとよい(加熱工程)。例えば、加熱温度は80~200℃さらには100~150℃、加熱時間は0.1~1時間さらには0.3~0.7時間とされる。
【0041】
(2)成形工程
混合物を加圧しつつ成形することで、樹脂の島状部間に熱伝導粒子が密に偏在した高熱伝導率な複合材が得られ易くなる。成形は、例えば、圧縮成形、押出成形、射出成形、トランスファー成形等によりなされ得る。
【0042】
混合物に加える成形圧力(圧縮力)は、例えば、10~500MPa、50~400MPaさらには100~300MPaである。成形圧力が過小では、緻密(高熱伝導率)な複合材が得られず、成形圧力が過大では 生産性の低下やコストの増加を招き得る。なお、成形圧力の印加方向を調整して、熱伝導粒子を特定方向へ配向させてもよい。例えば、BN粒子なら、その面方向が複合材の熱流束方向に略平行に沿うように配向させるとよい。
【0043】
成形工程は多段階でなされてもよい。例えば、成形工程は、混合物を加圧成形した成形体を得る第1成形工程と、その成形体をさらに樹脂原料の軟化点以上で加圧成形する第2成形工程とを備えてもよい。第1成形工程は混合物を加熱せずになされてもよい。第2成形工程は、上述した加熱工程に沿ってなされてもよい。
【0044】
(3)補足
混合物には、熱伝導粒子と樹脂との親和性を高めるカップリング剤を含んでもよい。カップリング剤は、熱伝導粒子の表面処理(カップリング処理、疎水化処理等)により導入されたものでも、熱伝導粒子と樹脂の混合(混練)時に添加されたものでもよい。カップリング剤として、例えば、ヘキサメチルジシラザン(HMDS:C19NSi)などのシランカップリング剤がある。
【0045】
複合材は、熱伝導粒子の他に、材質、特性、粒径等が異なる補助粒子を含んでもよい。熱伝導粒子がh-BN粒子の場合なら、補助粒子として、例えば、c-BN粒子、炭素粒子(ナノカーボン粒子、黒鉛粒子、ダイヤモンド粒子等)等がある。補助粒子は、例えば、熱伝導粒子と同様に島状部よりも小さいとよい。但し、島状部よりも大きい補助粒子が複合材中に含まれてもよい。
【0046】
樹脂が熱硬化性樹脂からなる場合なら、成形後に、熱硬化処理(キュア処理)がなされるとよい。複合材は、最終製品形状またはそれに近い形状のものでもよいし、後加工される素材や中間材でもよい。
【0047】
《複合材》
複合材は、例えば、電子機器等の放熱部材、基板、筐体等に用いられる。このような複合材は、高熱伝導率であると共に、高比抵抗(電気抵抗率)であってもよい。複合材の熱伝導率は、例えば、10~60W/mK、15~50W/mK、さらには30~40W/mKである。なお、その熱伝導率は、特に断らない限り、主たる熱流束方向または熱伝導粒子の配向方向に沿って測定される。
【実施例
【0048】
熱伝導粒子と樹脂からなる複数種の試料(複合材)を製作し、各試料の特性を評価した。以下、このような実施例を示しつつ、本発明を具体的に説明する。
【0049】
[第1実施例]
《原料》
(1)熱伝導粒子
熱伝導粒子源(原料)として、市販されているh-BN粉末(デンカ株式会社製)とAlN粉末(昭和電工株式会社製)を用いた。h-BN粉末には、粒子形態(平均アスペクト比)が異なる2種類を用意した。BN粒子の熱伝導率(長手方向/面方向)は約200W/mKであり、AlN粒子の熱伝導率は約230W/mKであった。各粒子の平均アスペクト比については後述する。
【0050】
(2)樹脂
樹脂原料として、次のように調製した粒状(略球状)のポリメタクリル酸メチル(PMMA/単に「粒状樹脂」という。)を用意した。
【0051】
ポリビニルアルコール(重合度2000):2gを、水:210mlへ撹拌下で投入し、90℃に昇温した後、1時間かけて溶解させた。
【0052】
その溶液を室温に降温させた後、メカニカルスターラーを付けた丸底フラスコへ移した。その溶液へ、メチルメタクリレート:90gと油溶性アゾ重合開始剤(AIBN):0.9gを加えて、窒素気流下で撹拌(スターラー回転数:300rpm)を30分間継続した。なお、いずれの原料にも、富士フイルム和光純薬株式会社製試薬を用いた。
【0053】
さらにその混合液を窒素気流下で撹拌しつつ、60℃×1時間保持した後、70℃×10時間保持して、モノマー(メチルメタクリレート)を重合させた。その処理物を室温まで放冷させてから、スクリーンメッシュによるろ過、水洗、メタノール洗浄した後、真空乾燥させた。その残留物を、メッシュサイズ:500μmのふるいで分級して、それを通過した粒子:26gを分取した。なお、顕微鏡で観察した各粒子は、概ね、直径約200~500μmの略球状であった。この粒状樹脂の弾性率は2.5GPaであった。弾性率は、既述したように、粘弾性スペクトロメータ(株式会社岩本製作所製)を用いて測定した。測定条件は、試料:フィルム状(厚み:0.5mm、幅:5mm、つかみ長:10mm)、周波数:10Hz、温度範囲:Rt~200℃、プログラム速度:10℃/minとした。
【0054】
《複合材の製造》
各熱伝導粒子毎に、粒状樹脂の形状を部分的に残存(半溶融)させた複合材(「偏在試料」という。)と、その形状を消失させた複合材(「均一試料」という。)とを、次のように製造した。
【0055】
(1)偏在試料
各熱伝導粒子(フィラー)と上述した粒状樹脂とを秤量して、各熱伝導粒子が複合材全体に対して50体積%となるように両者を配合した。配合した熱伝導粒子と粒状樹脂を手動で混合した。
【0056】
混合物を金型のキャビティ(4×16×2mm)へ充填して、加熱(金型温度:130℃×30分間)した(加熱工程)。加熱した混合物を、金型内で一軸方向に加圧(300MPa)しつつ、室温まで冷却させた(成形工程)。その後、キャビティから取り出した固化物(複合材)を偏在試料とした(試料1~3)。
【0057】
(2)均一試料
完全に溶融させた液状の樹脂と熱伝導粒子を手動で混合したものを、室温下で真空乾燥(24時間)させた。こうして得られた混合物を、偏在試料と同様に金型で加熱成形して、均一試料を得た。
【0058】
《観察・測定》
(1)SEM
各試料について、切出、樹脂埋め、研磨等を行い、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。それらを図1A図1C(これらを併せて単に「図1」という。)に示した。なお、図1に示した各拡大写真は、熱伝導粒子の存在領域を示している。
【0059】
(2)平均アスペクト比(AR)
各均一試料のSEM像に基づいて、熱伝導粒子のアスペクト比(最大長となる長手方向の長さ/それに直交方向の長さ)を測定・算出した様子を図2にまとめて示した。こうして求めた平均アスペクト比を各図にAR値として示した。
【0060】
(3)面積率
各偏在試料のSEM像に画像処理(ソフトウェア:ImageJ) を行い、島状部と介在部の各樹脂について、全体に占める面積率を求めた。それぞれの面積率を各図に併記した。
【0061】
なお、島状部の面積率は、基本領域(440μm×630μm)に基づいて求めた。介在部の面積率は、その基本領域から島状部を除いた残部領域の拡大領域(50μm×50μm)に基づいて求めた。具体的にいうと、ImageJで二値化して、黒色域:介在部、白色域:フィラーとして、その黒色域の面積分率を介在部の面積率とした。
【0062】
(4)熱伝導率
各試料の熱伝導率(λ)をナノフラッシュ法により求めた。具体的にいうと、ナノフラッシュ法(測定装置:NETZSCH製LFA447)で測定した熱拡散率(α)と、示差走査熱量計(DSC)で求めた比熱(Cp)と、各材料の体積割合から求めた密度(D)とから、λ=α・Cp・Dとして熱伝導率を算出した。
【0063】
熱拡散率は、各試料の製造時の加圧方向に対して、直交方向について測定した。こうして得られた各試料の熱伝導率(試験片の厚さ方向)を図3にまとめて示した。
【0064】
[第2実施例]
(1)試料の製造
第1実施例で用いたPMMAを、オレフィン系エラストマーに変更した偏在試料(試料4)も製造した。オレフィン系エラストマーには、エムテック化学株式会社製OE-90を用いた。この弾性率は、第1実施例と同様に測定したところ、0.1GPaであった。熱伝導粒子であるBN粒子(AR=10)と粒状樹脂であるオレフィン系エラストマーとの混合物は、金型温度:130℃×30分間で加熱した(加熱工程)。その他の工程は、第1実施例と同様に行った。
【0065】
(2)観察・測定
こうして得られた試料についても、第1実施例と同様に、観察および測定を行った。そのSEM像を図4Aに、その熱伝導率を図4Bにそれぞれ示した。両図を併せて単に「図4」という。
【0066】
[評価]
図1図3および図4から明らかなように、扁平な熱伝導粒子(BN粒子)が樹脂の島状部間に偏在した複合材はいずれも、熱伝導粒子が50体積%程度でも、高い熱伝導率(10W/mK以上)を発揮することがわかかった。また、試料1、2(図3)と試料4(図4B)の比較から明らかなように、高弾性率の樹脂を用いた複合材の方が、熱伝導率も高くなることがわかった。
【0067】
[考察]
(1)熱伝導粒子の形態
図3に示す試料1、2と試料3の比較から明らかなように、偏在試料同士でも、熱伝導粒子の形態(平均アスペクト比)により複合材の熱伝導率が大きく相違した。この理由は次のように考えられる。図5に示すように、偏平な熱伝導粒子(AR≫1)は、隣接粒子間で接触または近接する面積が大きい。この場合、熱伝導粒子間で十分な熱伝導パスが形成され易い。一方、略球状の熱伝導粒子(AR≒1)は、隣接粒子間で接触または近接する面積が非常に小さく、樹脂が介在する隙間も多い。この場合、熱伝導粒子間で熱伝導パスの形成がされ難い。こうして偏在試料でも、熱伝導粒子の形態により熱伝導率が大きく相違したと考えられる。
【0068】
(2)島状部
図3に示す試料1、試料2から明らかなように、熱伝導粒子が偏平でも、偏在試料か均一試料かによって、複合材の熱伝導率が大きく相違した。この理由は次のように考えられる。複合材全体に存在する熱伝導粒子の割合が同じでも、島状部がある偏在試料は、島状部がない均一試料よりも、各熱伝導粒子(フィラー)は密接した状態となる。図6に沿って模式的に説明するなら、フィラー数:n、フィラー幅:f、島状部幅:p、フィラー間隔:d1、d0としたとき、d1=d0-2p/nとなる。つまり、同じ大きさの領域で考えると、島状部がある偏在試料は、島状部がない均一試料に対して、フィラーが(2p/n)分だけ近接した状態となり、島状部(p)が大きくなるほどフィラーは密接した状態となる。こうして、偏平な熱伝導粒子を用いた場合でも、島状部の有無により熱伝導率が大きく相違したと考えられる。
【0069】
(3)樹脂の種類
図3に示す試料1、2と図4Bに示す試料4との比較から明らかなように、偏在試料同士でも、試料4の方が試料1、2よりも偏在試料の熱伝導率が低くなった。この理由は、樹脂自体の熱伝導率の相違に依ると考えられる。
【0070】
但し、試料4は試料1、2よりも高弾性であった。このため、試料4の複合材(シート等)でも、発熱部材(電子機器等)と放熱部材(ヒートシンク等)の間に介在するときを考えると、両者間の熱抵抗が十分に低減させ得ると考えられる。
【0071】
以上から、本発明によれば、熱伝導粒子量を抑制しつつも、熱伝導性に優れる複合材が得られることが確認された。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6