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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04303 20160101AFI20250401BHJP
   H01M 8/04228 20160101ALI20250401BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20250401BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20250401BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20250401BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20250401BHJP
   H01M 4/90 20060101ALN20250401BHJP
【FI】
H01M8/04303
H01M8/04228
H01M8/04746
H01M8/04 N
H01M8/0438
H01M8/10 101
H01M4/90 X
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022039005
(22)【出願日】2022-03-14
(65)【公開番号】P2023133804
(43)【公開日】2023-09-27
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】竹井 力
(72)【発明者】
【氏名】水下 佳紀
(72)【発明者】
【氏名】山浦 潔
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-158120(JP,A)
【文献】特開2020-024889(JP,A)
【文献】特開2014-192046(JP,A)
【文献】特開2019-160474(JP,A)
【文献】特開2020-087529(JP,A)
【文献】特開2011-054288(JP,A)
【文献】特開平08-195210(JP,A)
【文献】特開2020-126796(JP,A)
【文献】特開2006-086015(JP,A)
【文献】特開2008-047408(JP,A)
【文献】特開2009-104986(JP,A)
【文献】特開2007-073328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00- 3/18
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
H01M 8/00- 8/2495
H01M 4/86- 4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極、カソード電極、及び前記アノード電極と前記カソード電極との間に配置された電解質膜を有し、前記アノード電極に燃料ガスが供給されると共に前記カソード電極に酸化ガスが供給されて発電する燃料電池と、
前記アノード電極及び前記カソード電極の少なくとも何れか一方の電極に装備される触媒と、
前記一方の電極から排出されるガスの出口に連通したガス排出部と、
前記ガス排出部に設けられた排出部開閉弁と、
前記一方の電極を加圧する加圧装置と、
前記排出部開閉弁の開閉及び前記加圧装置の作動を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の停止後に、前記排出部開閉弁を閉鎖した状態で、前記加圧装置を作動させて前記一方の電極を加圧し、
前記一方の電極は、前記カソード電極であって、
前記ガス排出部は、前記カソード電極から排出される酸化ガスの出口に連通した酸化ガス排出部であって、
前記排出部開閉弁は、前記酸化ガス排出部に設けられた酸化ガス排出部開閉弁であって、
さらに、前記カソード電極の入り口に連通した酸化ガス導入路を備え、
前記加圧装置は、圧縮機によって前記酸化ガス導入路内を加圧する酸化ガス導入路内加圧装置を含む
ことを特徴とする、燃料電池システム
【請求項2】
前記アノード電極に装備される触媒と、
前記アノード電極から排出される燃料ガスの出口に連通した燃料ガス排出部と、
前記燃料ガス排出部に設けられた燃料ガス排出部開閉弁と、
前記アノード電極の入り口に連通した燃料ガス導入路と、
前記燃料ガス導入路と前記酸化ガス導入路とを連通する第一連通路と、
前記第一連通路に設けられた第一開閉弁と、を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の停止後に、前記燃料ガス排出部開閉弁及び前記酸化ガス排出部開閉弁を閉鎖し、前記第一開閉弁を開放した状態で、前記酸化ガス導入路内加圧装置を作動させて前記アノード電極及び前記カソード電極を加圧する
ことを特徴とする、請求項に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記アノード電極に装備される前記触媒と、
前記アノード電極から排出される燃料ガスの出口に連通した燃料ガス排出部と、
前記燃料ガス排出部に設けられた燃料ガス排出部開閉弁と、
前記アノード電極の入り口に連通した燃料ガス導入路と
前記燃料ガス導入路と前記酸化ガス導入路とを連通する第一連通路と、
前記第一連通路に設けられた第一開閉弁と、を備え、
前記加圧装置は、前記アノード電極に供給される燃料ガスを貯留する高圧燃料タンク内の圧力を用いて前記燃料ガス導入路内を加圧する燃料ガス導入路内加圧装置を含み、
前記制御部は、前記燃料ガス排出部開閉弁及び前記酸化ガス排出部開閉弁を閉鎖し、前記第一開閉弁を開放した状態で、前記酸化ガス導入路内加圧装置を作動させて前記アノード電極及び前記カソード電極を加圧する加圧制御を実施し、その後、所定の終了条件が成立したら、前記燃料ガス排出部開閉弁及び前記酸化ガス排出部開閉弁の閉鎖と前記第一開閉弁の開放とを維持した状態で前記酸化ガス導入路内加圧装置を停止し、その後、所定の開始条件が成立したら、前記燃料ガス導入路内加圧装置を作動させて前記アノード電極及び前記カソード電極を加圧するもう一つの加圧制御を実施する
ことを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料電池の内部圧力を検知する圧力センサを備え、
前記終了条件は、前記圧力センサで検出された圧力が予め設定された第一圧力値よりも高いことである
ことを特徴とする、請求項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料電池の内部圧力を検知する圧力センサを備え、
前記開始条件は、前記圧力センサで検出された圧力が予め設定された第二圧力値よりも低いことである
ことを特徴とする、請求項又はに記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記燃料ガス導入路内加圧装置は、
シリンダと、前記シリンダ内を往復動するピストンと、前記シリンダ内の一側に前記ピストンで区画形成された第一室と、前記シリンダ内の他側に前記ピストンで区画形成され前記燃料ガス導入路と連通する第二室と、を有するピストン機構と、
前記第一室と前記高圧燃料タンクとを連通する第二連通路と、
前記第二室と前記高圧燃料タンクとを連通する第三連通路と、
前記第二連通路に介装された第二開閉弁と、
前記第三連通路に介装された第三開閉弁と、を備え、
前記制御部は、前記第二開閉弁を開放し、前記第三開閉弁を閉鎖した状態で、前記燃料ガス導入路内加圧装置を加圧作動させる
ことを特徴とする、請求項3~5の何れか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記燃料電池は、車両に装備された発電用燃料電池である
ことを特徴とする、請求項1~の何れか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記触媒は、セラミックス触媒である
ことを特徴とする、請求項1~の何れか1項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池車両等に用いて好適の燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、アノード電極(水素極)と、カソード電極(酸素極)と、これらの電極間に配置された電解質膜とを有し、アノード電極に燃料ガスが供給されカソード電極に酸化ガスが供給されて発電する。このような燃料電池において、性能劣化を抑制することが課題になっており、種々の技術が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1では、燃料電池自動車が一時停止によるアイドリング運転時に、燃料電池の負荷が小さく高いセル電圧で燃料電池が運転を継続することから、カソード電極に装備された触媒が酸化し、触媒性能が劣化する虞がある点に着目している。特許文献1には、アイドリング運転時に、カソード背圧弁の開度をアイドリング運転以前の状態に比べて小さくして、触媒性能の劣化を抑制することで、燃料電池性能の劣化を抑制する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2及び特許文献3には、燃料電池の運転停止時に、圧縮機で生成した圧縮空気等をアノード電極に供給することでアノード電極を掃気して、アノード電極の触媒層内に含有する水分量を減らせることで、停止時や保管時における、水による触媒劣化を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-24889号公報
【文献】特開2009-104986号公報
【文献】特開2007-73328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1~3の技術により触媒性能の劣化を抑制することが可能になるが、触媒性能の劣化をより一層抑制できるようにすることや、この触媒性能の劣化抑制に係るコストを低減できるようにすることが要望されている。
【0007】
本件の燃料電池システムは、このような課題に鑑み案出されたもので、燃料電池の触媒性能の劣化を低コストでより一層抑制できるようにすることを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで開示する燃料電池システムは、アノード電極、カソード電極、及び前記アノード電極と前記カソード電極との間に配置された電解質膜を有し、前記アノード電極に燃料ガスが供給されると共に前記カソード電極に酸化ガスが供給されて発電する燃料電池と、前記アノード電極及び前記カソード電極の少なくとも何れか一方の電極に装備される触媒と、前記一方の電極から排出されるガスの出口に連通したガス排出部と、前記ガス排出部に設けられた排出部開閉弁と、前記一方の電極を加圧する加圧装置と、前記排出部開閉弁の開閉及び前記加圧装置の作動を制御する制御部と、を備える。前記制御部は、前記燃料電池の停止後に、前記排出部開閉弁を閉鎖した状態で、前記加圧装置を作動させて前記一方の電極を加圧する。さらに、前記一方の電極は、前記カソード電極であって、前記ガス排出部は、前記カソード電極から排出される酸化ガスの出口に連通した酸化ガス排出部であって、前記排出部開閉弁は、前記酸化ガス排出部に設けられた酸化ガス排出部開閉弁であって、さらに、前記カソード電極の入り口に連通した酸化ガス導入路を備え、前記加圧装置は、圧縮機によって前記酸化ガス導入路内を加圧する酸化ガス導入路内加圧装置を含む。
【発明の効果】
【0009】
開示の燃料電池システムによれば、燃料電池の停止後に、排出部開閉弁を閉鎖した状態で、加圧装置を作動させて対象となる電極を加圧するので、当該電極が効率よく加圧される。これにより、高圧になった当該電極内では、飽和水蒸気量の増大によって湿度低下が促進され、水による触媒の劣化を抑制できる。このように、効率よく低湿度化を促進できるためコスト低減を図ることができ、燃料電池の触媒性能の劣化をより一層抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る燃料電池システムを備えた電動車両の要部構成を示すブロック図である。
図2図1の燃料電池システムの要部構成を示すブロック図である。
図3図1の燃料電池システムの制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、実施形態としての燃料電池システムの構造について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0012】
[1.構成]
本実施形態の燃料電池システムは、電動車両に装備されており、燃料電池システムの制御、特に燃料電池の停止後の制御に特徴がある。以下では、まず、電動車両と燃料電池システムの全体構成を説明し、次に、燃料電池システムに設けられた第一加圧装置と、第一加圧装置及び第二加圧装置を用いた燃料電池システムにおける制御とについて説明する。
【0013】
[1-1.電動車両及び燃料電池システム]
図1に示すように、本実施形態に係る電動車両1は、燃料電池システム2に装備された燃料電池20で発電された電力を二次電池11に充電し、二次電池11の電力で駆動モータ12を駆動する、いわゆるレンジエクステンダー電動車両である。電動車両1は、外部充電又は外部給電が可能なプラグインハイブリッド車(PHEV)を含む。二次電池11は、充放電可能な電池であり、特に限定はないが、例えばリチウムイオン電池を用いることができる。
【0014】
燃料電池20は、燃料ガスとして水素が供給され、酸化ガスとして空気が供給され、酸素と水素の電気化学反応によって発電する固体高分子形燃料電池である。燃料電池20の具体的な構成は特に限定はないが、ここでは、複数のセルがセパレータを介して複数積層されたスタック構造を有する。
【0015】
各セルは、アノード電極2A(水素極)、カソード電極2B(酸素極)、及び、これらの間に配置された電解質膜(本実施形態では、一例として固体高分子電解質膜)を備えている。アノード電極2Aは、電解質膜に接触する電極触媒層と、電極触媒層の電解質膜とは反対側に設けられるガス拡散層とからなる。同様に、カソード電極2Bも、電極触媒層とガス拡散層とからなる。図1及び図2では、アノード電極2A及びカソード電極2Bを模式的に示している。
【0016】
電極触媒層は、通常、アノード電極2A及びカソード電極2Bにおける電極反応に対して触媒活性を有する。具体的には、電極触媒層は、担体に担持された触媒を備えている。触媒としては、アノード電極2Aの燃料の酸化反応又はカソード電極2Bの酸化剤の還元反応に対して触媒活性を有しているものであれば、特に限定されず、高分子形燃料電池に一般的に用いられているものを使用することができる。例えば、白金、又は、金属(例えば、ルテニウム,鉄,ニッケル,マンガン,コバルト,銅等)と白金との合金等が挙げられる。
【0017】
カソード電極2Bの電極触媒層の担体には、セラミックスを用いることができ、特に、酸化スズを用いることが好ましい。その他のセラミックスとしては、酸化チタン,酸化ニオブ,酸化タンタル,酸化モリブデン,酸化タングステン等を用いることができる。アノード電極2Aの電極触媒層の担体にも、カソード電極2Bの担体と同様にセラミックスを用いることができる。本実施形態では、アノード電極2A及びカソード電極2Bの各電極触媒層の担体に、上記の何れかのセラミックスが用いられる。ただし、各電極触媒層の担体は、これに限定されず、例えば、カーボンブラック等の炭素粒子や炭素繊維のような導電性炭素材料、金属粒子や金属繊維等の金属材料も当該担体として用いることができる。
【0018】
このようなセルを有する燃料電池20には、詳細は図示しないが、アノード電極2Aのガス拡散層やこれに連通する流路からなるアノード流路(燃料ガス流路)、及び、カソード電極2Bのガス拡散層やこれに連通する流路からなるカソード流路(酸化ガス流路)が設けられる。
【0019】
本燃料電池システム2は、このような燃料電池20に加えて、燃料電池20のアノード電極2A側のアノード流路の上下流に連通接続された燃料ガス流通系統3と、燃料電池20のカソード電極2B側のカソード流路の上下流に連通接続された酸化ガス流通系統4とを備えている。
【0020】
燃料ガス流通系統3は、上流から順に、燃料ガス(水素ガス)が貯留された高圧燃料タンク30(以下「燃料タンク30」という)と、燃料ガス供給管31と、アノード電極2A側のアノード流路(図示略)と、燃料ガス排出管35(燃料ガス排出部)とが連通接続される。
【0021】
燃料ガス供給管31は、燃料タンク30とアノード流路とを繋ぐ流路である。燃料タンク30内の燃料ガスは、燃料ガス供給管31を通じてアノード流路に供給される。燃料ガス供給管31には、上流から順に、元弁32及び減圧弁33が介装される。元弁32は、燃料タンク30の開口部を開閉する弁であり、減圧弁33は、燃料タンク30から供給された燃料ガスを所定圧力まで減圧させ、一定圧力にするための弁である。減圧弁33の下流には、第一加圧装置50が介装され、第一加圧装置50とアノード流路の入り口との間には、燃料再循環流路37の下流端37bが連通接続される。
【0022】
第一加圧装置50は、所定条件下で、燃料タンク30内の圧力を用いて、燃料ガス供給管31のアノード流路の入口側部分である燃料ガス導入路31a内を加圧し、アノード流路内及びカソード流路内を加圧するものである。第一加圧装置50によりカソード流路内を加圧するために、燃料ガス供給管31と後述の酸化ガス供給管41との間には、第一連通路39が連通接続されており、第一連通路39には、第一開閉弁39aが介装される。第一連通路39は、後述する加圧制御に使用される構成要素である。第一加圧装置50の詳細及び第一連通路39については後述する。

【0023】
燃料ガス排出管35は、アノード流路内から排出される燃料ガスが流通する流路である。燃料ガス排出管35には、アノード背圧弁36(第一排出部開閉弁としてのアノード側デッドエンド開閉弁)が介装される。アノード流路の出口とアノード背圧弁36との間には、燃料再循環流路37の上流端37aが連通接続される。
【0024】
アノード背圧弁36は、その開度を任意に調節可能な調節弁であり、燃料ガス排出管35の開度(流路面積)を任意に調節可能なものである。アノード背圧弁36の開度を調整することで、燃料電池20のアノード電極2Aに供給される燃料ガスの圧力を調節することが可能となっている。アノード背圧弁36は当然ながら開閉可能であり、開閉弁としても機能する。
【0025】
燃料再循環流路37は、燃料ガス排出管35のアノード流路出口側部分と、燃料ガス供給管31のアノード流路入口側部分とを連通可能に接続される。燃料再循環流路37には、上流端37aから下流端37bに向かって順に、気液分離装置(図示略),再循環デッドエンド開閉弁37c,再循環ポンプ38,及び再循環ポンプ下流弁37dが介装されている。
【0026】
燃料ガス排出管35には、アノード流路内で電気化学反応によって生成された水と電気化学反応しなかった燃料ガス(水素ガス)とが排出される。この水を含んだ燃料ガスは、気液分離装置において水と分離されて、燃料再循環流路37を経由して、再循環ポンプ38により所定圧力に昇圧されて燃料ガス供給管31に送られる。このとき、再循環デッドエンド開閉弁37cは開放され、再循環ポンプ下流弁37dは、燃料再循環流路37から燃料ガス供給管31に再流入する燃料ガスの量を調節するために用いられる。
【0027】
酸化ガス流通系統4は、上流から順に、空気圧縮機40と、酸化ガス供給管41と、カソード電極2B側のカソード流路(図示略)と、酸化ガス排出管45(酸化ガス排出部)とが連通接続される。空気圧縮機40は、外気を取り込み所定圧力に昇圧する装置であり、圧力調整機能を備えている。空気圧縮機40は、所定条件下で、酸化ガス供給管41のカソード流路の入口側部分である酸化ガス導入路41aを加圧し、カソード流路内及びアノード流路内を加圧する第二加圧装置として機能する。第二加圧装置としての空気圧縮機40については後述する。第二加圧装置40によるアノード流路内の加圧にも、上記の第一開閉弁39aが用いられる。
【0028】
酸化ガス供給管41は、空気圧縮機40とカソード流路とを繋ぐ流路である。酸化ガス供給管41には、上流から順に、加湿ガス導入弁42と、加湿器43と、流量調整弁44とが設けられる。加湿ガス導入弁42は三方切換弁であり、空気圧縮機40で所定圧力に昇圧された外気(空気)を、加湿器43に通過させるルートと、加湿器43に通過させずに(加湿器43を迂回して)バイパス路43aに通過させるルートとに切り替えることができる。導入された外気を加湿器43によって加湿するのは、空気に湿気を持たせることで電解質膜(固体高分子電解質膜)におけるプロトンの伝導性を高め電気化学反応を促進するためである。
【0029】
流量調整弁44は、燃料電池20のカソード側へ供給される酸化ガスの流量を調整するための弁である。この弁の開度を調節することにより、空気圧縮機40から取り込まれた酸化ガスとしての外気が、燃料電池20のカソード電極2Bに一定圧力で供給される。
【0030】
酸化ガス排出管45は、燃料電池20のカソード側から排出された排ガスの流路である。当該排ガスは、電動車両1の外部へ放出される。酸化ガス排出管45には、カソード背圧弁46(第二排出部開閉弁としてのカソード側デッドエンド開閉弁)が設けられる。カソード背圧弁46は、その開度を任意に調節可能な調節弁である。カソード背圧弁46の開度を調整することで、燃料電池20のカソード電極2Bに供給される酸化ガスの圧力を調節することが可能となっている。カソード背圧弁46は当然ながら開閉可能であり、開閉弁としても機能する。
【0031】
なお、本実施形態では、空気圧縮機40で所定圧力に昇圧された外気を導入して燃料電池20に酸化ガスとして供給しているが、外気を直接導入するルートと、空気圧縮機40を経て外気を導入するルートとを設け、これらを切り替えて燃料電池20に酸化ガスを供給する構成としてもよい。
【0032】
このような燃料電池20は、発電専用の燃料電池であり、DC/DCコンバータ14を介して二次電池11に接続される。燃料電池20で発電された直流電力は、DC/DCコンバータ14により所定電圧にされて二次電池11に充電される。また、二次電池11は、インバータ13及びDC/DCコンバータ14を介して駆動モータ12に接続される。二次電池11に充電された直流電力は、インバータ13により交流電力に変換されて駆動モータ12に供給される。駆動モータ12は、二次電池11からの電力によって、駆動輪(図示略)を駆動するためのプラス側の駆動力(トルク)を発生する。また、駆動モータ12は、電動車両1の回生制動時等の減速時には発電機として作動し、マイナス側の回生力(トルク)を発生する。この回生電力は、インバータ13により直流電力に変換され、二次電池11に充電される。
【0033】
これらの燃料電池20、二次電池11及び駆動モータ12の充放電や駆動についての制御は、ECU60(Electronic Control Unit,電子制御ユニット)により行われているが、公知の技術であるので詳細な説明は省略する。ECU60は、図示しないプロセッサ(中央処理装置),主記憶装置(メインメモリやストレージ等),インタフェース装置などを備えるマイクロコンピュータによって構成される。ECU60は、各種センサから検知信号を得ることが可能となっている。
【0034】
本燃料電池システム2は、上記の燃料電池20,燃料ガス流通系統3,及び酸化ガス流通系統4に加えて、所定の加圧制御を実施する制御部61を備える。制御部61は、所定条件下で、第一加圧装置50及び第二加圧装置40の何れかを適宜用いて、アノード電極2A側のアノード流路内及びカソード電極2B側のカソード流路内を加圧する加圧制御を実施する。以下、第一加圧装置50を用いた加圧制御を「第一加圧制御」ともいい、第二加圧装置40を用いた加圧制御を「第二加圧制御」ともいう。
【0035】
本実施形態の制御部61は、ECU60で実行されるプログラムの一部の機能(ECU60内の機能要素)として設けられ、例えばソフトウェアで実現されるものとする。ただし、制御部61をECU60とは別のハードウェア(電子回路)で実現してもよく、あるいはソフトウェアとハードウェアとを併用して実現してもよい。
以下、本実施形態の第一加圧装置50の構成、及び、制御部61によるアノード流路内及びカソード流路内の加圧制御を説明する。
【0036】
[1-2.第一加圧装置]
図1及び図2に示すように、本実施形態の第一加圧装置50は、減圧弁33の直下流に設けられたピストン機構51と、第二連通路52と、第三連通路53と、を備える。すなわち、本実施形態の第一加圧装置50は、ピストン圧縮により少なくともアノード電極2Aを加圧する装置であり、カソード電極2Bの加圧も可能に構成される。
【0037】
ピストン機構51は、シリンダ54と、シリンダ54内を往復動するピストン55と、シリンダ54内の一側(燃料タンク30側)にピストン55で区画されて形成された第一室56と、シリンダ54内の他側(アノード電極2A側)にピストン55で区画されて形成された第二室57と、を備える。第二室57は燃料ガス導入路31aと連通する。
【0038】
第二連通路52は、第一室56と減圧弁33とを接続し、元弁32及び減圧弁33を介して、第一室56と燃料タンク30との間を連通する。第三連通路53は、第二室57と第二連通路52の上流部とを接続し、第二連通路52の上流部,元弁32及び減圧弁33を介して、第二室57と燃料タンク30との間を連通する。なお、これらの連通路52,53は燃料ガス供給管31の一部を構成する。
【0039】
第二連通路52には第二開閉弁58が介装され、第三連通路53には二つの第三開閉弁59a,59bが介装される。なお、二つの第三開閉弁59a,59bを特に区別しない場合は、「第三開閉弁59」という。
本実施形態では、第三連通路53の両端部に、それぞれ第三開閉弁59a,59bが介装されているが、第三連通路53には、何れかの箇所に、少なくとも一つの第三開閉弁59が介装されていればよい。後述の加圧制御時等には、各開閉弁58,59a,59bが適宜切り替えられる。
【0040】
[1-3.燃料電池システムにおける制御]
図1に示すように、燃料電池20のアノード電極2A側のアノード流路には、内部の圧力Paを検知する圧力センサ71と内部の湿度Haを検知する湿度センサ73とが設けられる。燃料電池20のカソード電極2B側のカソード流路には、内部の圧力Pcを検知する圧力センサ72と内部の湿度Hcを検知する湿度センサ74とが設けられる。
【0041】
制御部61は、燃料電池20の停止後に、第一加圧装置50及び第二加圧装置40の何れかを適宜用いて、アノード流路内及びカソード流路内を加圧する加圧制御を実施する。また、加圧制御中に、燃料電池20が始動した場合は、この始動時に復帰制御を実施する。復帰制御は、ピストン圧縮で使用した燃料ガス(水素)を再利用することで、水素燃費悪化を防止するための制御である。
【0042】
制御部61は、上記の各センサ71~74からの検出信号を取得して、アノード流路内の圧力Pa及び湿度Ha、並びに、カソード流路内の圧力Pc及び湿度Hcに基づいて加圧制御を実施する。このとき、制御部61は、アノード流路内の圧力Pa及びカソード流路内の圧力Pcがそれぞれの目標圧力範囲に高まり、且つ、湿度Hcが一定の湿度以下を維持するように加圧制御を実施する。
【0043】
また、制御部61は、この加圧制御に際し、元弁32を開放状態とし、減圧弁33と、減圧弁33の直下流側の開閉弁58,59a,59bと(図2参照)、加湿ガス導入弁42と、流量調整弁44と、第一連通路39を開閉する第一開閉弁39aと、再循環デッドエンド開閉弁37cと、再循環ポンプ下流弁37dと、アノード背圧弁36と、カソード背圧弁46(図1ではこれらの少なくとも二つ以上を総称して「弁類」と表現している)とを、それぞれ開閉操作する。
【0044】
以下、制御部61により実施される加圧制御及び復帰制御の一例を、図3のフローチャートを用いて説明する。図3に示すフローチャートは、例えば電動車両1の主電源がオンの状態のときに所定の制御周期で実施される。なお、以下のフローチャートでは、二つのフラグF1及びF2を用いる。フラグF1は、第一加圧装置50を用いた第一加圧制御を実施する場合に1となり、第一加圧制御を実施しない場合(制御開始前も含む)に0となる。また、フラグF2は、第二加圧装置40を用いた第二加圧制御を実施する場合に1となり、第二加圧制御を実施しない場合(制御開始前も含む)に0となる。制御部61は、フローチャートの実施中、各センサ71~74からの検出信号を取得し続ける。
【0045】
図3に示すように、まず、制御部61は、燃料電池20が停止状態か否かを判定する(ステップS1)。燃料電池20が停止状態ならば、フラグF1が0であるか否かを判定する(ステップS2)。フラグF1が1であれば、第一加圧制御は既に開始され実施中であるため、このフローをリターンしてその制御を続行する。一方、フラグF1が0であれば、続いてフラグF2が0であるか否かを判定する(ステップS3)。ここで、フラグF2が0であれば、フラグF2を1にセットし(ステップS4)、第二加圧制御を開始する(ステップS5)。なお、フラグF2が1であれば、第二加圧制御は既に開始され実施中であるため、このフローをリターンして制御を続行する。
【0046】
なお、本実施形態では、燃料電池20が停止状態になったら、まず、第二加圧制御を実施し、所定の終了条件が成立したら第二加圧制御を終了して、その後、所定の開始条件が成立したら、第一加圧制御を実施する。したがって、フラグF1及びフラグF2が、ともに1となることはない。第一加圧制御及び第二加圧制御は、それぞれの制御を実施しているときに、各フラグF1,F2が1から0にリセットされて制御の終了が判定されるまでは続行する。
【0047】
第二加圧制御では、空気圧縮機40を圧力調整状態とし、流量調整弁44を基準開度の開放状態として、第二開閉弁58及び第三開閉弁59a,59bと、加湿ガス導入弁42と、再循環デッドエンド開閉弁37cと、再循環ポンプ下流弁37dと、アノード背圧弁36と、カソード背圧弁46とを、何れも閉鎖し、第一連通路39を開閉する第一開閉弁39aについては開放する。この状態で空気圧縮機40を作動させる。なお、流量調整弁44の基準開度には、燃料電池20の運転時におけるデフォルト開度を用いることができる。減圧弁33については、燃料電池20の運転時におけるデフォルト開度のままでよい。
【0048】
また、空気圧縮機40を圧力調整状態とし流量調整弁44を開放すると共に、加湿ガス導入弁42を閉鎖することで、空気圧縮機40の作動によって加圧された圧縮外気が、加湿されることなく酸化ガス供給管41の酸化ガス導入路41aに送られ、さらに、カソード電極2B側のカソード流路の内部に送られる。カソード流路の下流側のカソード背圧弁46及び再循環デッドエンド開閉弁37cは閉鎖(デッドエンド)されているので、カソード流路の内部に送られる圧縮外気は漏れることがなくカソード流路の内部を高圧状態にしていく。
【0049】
また、第一開閉弁39aの開放により第一連通路39が開通しているので、酸化ガス導入路41aに送られる圧縮外気は、燃料ガス供給管31の燃料ガス導入路31aに送られ、さらに、アノード電極2A側のアノード流路の内部に送られる。アノード流路の上流側の第二開閉弁58及び第三開閉弁59a,59bは閉鎖され、アノード流路の下流側のアノード背圧弁36も閉鎖されているので、アノード流路の内部に送られる圧縮外気は漏れることがなくアノード流路の内部を高圧状態にしていく。
【0050】
こうして加圧されたカソード流路及びアノード流路の内部では、加圧状態に応じて飽和水蒸気量が増大する。カソード流路及びアノード流路の内部の水分量が減らなくても、飽和水蒸気量が増大することで湿度低下が促進される。このステップS5の第二加圧制御は、フラグF2が1である限りは続けられる。
【0051】
ステップS5において第二加圧制御を開始後、アノード流路内の圧力Paが第一目標圧力Pa1(第一圧力値)よりも高い(Pa>Pa1)か否かを判定する(ステップS6)。第一目標圧力Pa1は、第二加圧制御の終了条件(ここでは必須条件)として予め設定される判定値である。第一目標圧力Pa1は、第二加圧制御の終了後に、次第に圧力Paが低下していったとしても、ある程度の時間は圧力Paを目標圧力範囲に保持できるように、目標圧力範囲の上限値或いは上限値に応じた値に設定される。なお、目標圧力範囲は、各電極2A,2B内の湿度低下を促進可能な、目標とする(理想的な)圧力の範囲である。
【0052】
アノード流路内の圧力Paが第一目標圧力Pa1よりも高いと判定したら、次は、カソード流路内の圧力Pcが第一目標圧力Pc1よりも高い(Pc>Pc1)か否かを判定する(ステップS7)。この第一目標圧力Pc1も第二加圧制御の終了条件(ここでは必須条件)として予め設定される判定値である。第一目標圧力Pc1は、第二加圧制御の終了後に、次第に圧力Pcが低下していったとしても、ある程度の時間は圧力Pcを目標圧力範囲に保持できるように、目標圧力範囲の上限値或いは上限値に応じた値に設定される。なお、アノード側及びカソード側の第一目標圧力Pa1,Pc1は各電極2A,2Bの特性や性質によって設定されてよく、異なる値でも同一の値でもよい。
【0053】
アノード流路内の圧力Paが第一目標圧力Pa1よりも高く、且つ、カソード流路内の圧力Pcが第一目標圧力Pc1よりも高い場合には、何れの流路内も十分に高圧になったものとして、フラグF2を0にリセットし(ステップS8)、空気圧縮機40を停止させて第二の加圧制御を終了する(ステップS9)。このとき、第二加圧制御の開始時に設定した各弁の開閉状態を保持してもいいが、酸化ガス導入路41a内の圧縮空気が、停止した空気圧縮機40側へ漏れないように、空気圧縮機40と酸化ガス導入路41aとの間の流量調整弁44は閉鎖することが好ましい。
【0054】
また、アノード流路内の圧力Paとカソード流路内の圧力Pcとの何れかが、その第一目標圧力Pa1,Pc1よりも高くない場合には、ステップS6又はS7からこのフローをリターンする。この場合、フラグF2が1であるため、燃料電池の停止状態が継続していれば、次の制御周期において再びステップS5に進み、第二加圧制御を続行する。これにより、アノード流路内の圧力Paとカソード流路内の圧力Pcの何れもが、目標圧力範囲の上限値或いは上限値の近傍に向けて調整される。
【0055】
ステップS9で第二加圧制御を終了した場合、アノード流路内の圧力Paが第二目標圧力Pa2(第二圧力値)よりも低い(Pa<Pa2)か否かを判定する(ステップS10)。第二目標圧力Pa2は、第一加圧制御の開始条件の一つとして予め設定される判定値であり、目標圧力範囲の下限値或いは下限値に応じた値に設定される。アノード流路内の圧力Paが第二目標圧力Pa2よりも低いと判定したら、フラグF1を1にセットし(ステップS14)、第一加圧制御を開始する(ステップS15)。
【0056】
また、アノード流路内の圧力Paが第二目標圧力Pa2よりも低くない場合は、カソード流路内の圧力Pcが第二目標圧力Pc2よりも低い(Pc<Pc2)か否かを判定する(ステップS11)。第二目標圧力Pc2も第一加圧制御の開始条件の一つとして予め設定される判定値であり、目標圧力範囲の下限値或いは下限値に応じた値に設定される。なお、アノード側及びカソード側の第二目標圧力Pa2,Pc2は各電極2A,2Bの特性や性質によって設定されてよく、異なる値でも同一の値でもよい。カソード流路内の圧力Pcが第二目標圧力Pc2よりも低いと判定したら、フラグF1を1にセットし(ステップS14)、第一加圧制御を開始する(ステップS15)。
【0057】
アノード流路内の圧力Paとカソード流路内の圧力Pcとが共に第二目標圧力Pa2,Pc2よりも低くない場合には、アノード流路内の湿度Haが上限湿度Ha1よりも高い(Ha>Ha1)か否かを判定する(ステップS12)。上限湿度Ha1は、第一加圧制御の開始条件の一つとして予め設定される判定値であり、アノード流路内の湿度の許容上限値として設定される。アノード流路内の湿度Haが上限湿度Ha1よりも高いと判定したら、フラグF1を1にセットし(ステップS14)、第一加圧制御を開始する(ステップS15)。
【0058】
アノード流路内の圧力Paとカソード流路内の圧力Pcとが共に第二目標圧力Pa2,Pc2よりも低くなく、且つ、アノード流路内の湿度Haが上限湿度Ha1よりも高くない場合には、カソード流路内の湿度Hcが上限湿度Hc1よりも高い(Hc>Hc1)か否かを判定する(ステップS13)。上限湿度Hc1も第一加圧制御の開始条件の一つとして予め設定される判定値であり、カソード流路内の湿度の許容上限値として設定される。なお、アノード側及びカソード側の上限湿度Ha1,Hc1は各電極2A,2Bの特性や性質によって設定されてよく、異なる値でも同一の値でもよい。
【0059】
カソード流路内の湿度Hcが上限湿度Hc1よりも高いと判定したら、フラグF1を1にセットし(ステップS14)、第一加圧制御を開始する(ステップS15)。なお、カソード流路内の湿度Hcが上限湿度Hc1よりも高くない場合、すなわち、ステップS10~S13で何れも「No」と判定した場合は、このフローをリターンして、第一加圧制御は開始しない。
【0060】
したがって、アノード流路内の圧力Paとカソード流路内の圧力Pcとの何れか一方が第二目標圧力Pa2,Pc2よりも低いと判定された場合には、第一加圧制御が開始される。加えて、アノード流路内の圧力Paとカソード流路内の圧力Pcとが共に第二目標圧力Pa2,Pc2よりも低くない場合でも、アノード流路内の湿度Haとカソード流路内の湿度Hcとの何れか一方が上限湿度Ha1,Hc1よりも高いと判定された場合には、第一加圧制御が開始される。
【0061】
第一加圧制御では、減圧弁33を基準開度の開放状態として、第三開閉弁59a,59bと、加湿ガス導入弁42と、再循環デッドエンド開閉弁37cと、再循環ポンプ下流弁37dと、アノード背圧弁36と、カソード背圧弁46とを、何れも閉鎖し、第二開閉弁58を開放し、図2に示す燃料ガスのルートR2を確保する。ルートR2は、第一加圧制御時に高圧の燃料ガスを第一室56に導入するピストン圧縮ラインである。また、第一連通路39を開閉する第一開閉弁39aについては開放する。減圧弁33の基準開度には、燃料電池20の運転時におけるデフォルト開度を用いることができる。流量調整弁44については、閉鎖することが好ましい。
【0062】
第二開閉弁58を開放することにより、シリンダ54の第一室56に高圧の燃料ガスが流れ込み、ピストン55を押圧することにより、シリンダ54の第二室57が燃料ガスと同圧に加圧される。そして、第二室57と連通する燃料ガス導入路31aの内部も加圧されると共に、第一連通路39を通じて、酸化ガス供給管41の酸化ガス導入路41aの内部も加圧される。
【0063】
この結果、アノード電極2A側のアノード流路の内部及びカソード電極2B側のカソード流路の内部が加圧される。アノード流路の上流側の第三開閉弁59a,59bは閉鎖され、アノード流路の下流側のアノード背圧弁36も閉鎖(デッドエンド)されているので、アノード流路の内部に送られる圧縮外気は漏れることがなくアノード流路の内部を高圧状態にしていく。また、第三連通路53の両端の第三開閉弁59a,59bが共に閉鎖されるので、第三連通路53の内部を不要に加圧することがなく、燃料ガスの圧力を効率よく利用できる。
【0064】
一方、カソード流路の上流側の流量調整弁44は閉鎖され、カソード流路の下流側のカソード背圧弁46及び再循環デッドエンド開閉弁37cも閉鎖されているので、カソード流路の内部に送られる燃料ガスは漏れることがなくカソード流路の内部を高圧状態にしていく。こうして加圧されたカソード流路及びアノード流路の内部では、加圧状態に応じて飽和水蒸気量が増大する。カソード流路及びアノード流路の内部の水分量が減らなくても、飽和水蒸気量が増大することで湿度低下が促進される。このステップS15の第一加圧制御は、フラグF1が1である限りは続けられる。
【0065】
一方、燃料電池20が停止状態から始動されると、ステップS1の判定によりステップS16に進み、フラグF1が1であるか否かを判定する。フラグF1が1であると判定した場合には、フラグF1を0にリセットし(ステップS17)、第一加圧制御を終了する(ステップS18)。そして、第一加圧制御の終了と連動するように、復帰制御を実施し(ステップS19)、このフローをリターンする。
【0066】
燃料電池20の始動に伴って第一加圧制御を終了するには、減圧弁33を基準開度の開放状態(例えば、デフォルト開度)とし、第三開閉弁59a,59bを開放して、図2に示す燃料ガスの供給ルートR1を確保する。このとき、アノード背圧弁36とカソード背圧弁46とを共に基準開度等に開放し、第一連通路39を開閉する第一開閉弁39aについては閉鎖する。ルートR1は、復帰制御時に、第一加圧制御で使用した燃料ガスを回収して通常の発電に再利用する再利用ラインである。ルートR1では、燃料ガスが第二連通路52の一部を逆流して第三連通路53に流入する。
【0067】
復帰制御では、図2に示す通常ルートR3を確保して、ピストン圧縮で使用した燃料ガスを通常ルートR3に循環させることで、燃費悪化を防止する。通常ルートR3は、燃料電池20が作動する場合に燃料ガスが通過するラインである。燃料電池20の作動中には、第二開閉弁58は閉鎖するが、復帰制御では、燃料電池20の始動直後の所定の微少時間だけ第二開閉弁58を開放状態に保持し、その後、第二開閉弁58を閉鎖する。
なお、加湿ガス導入弁42は、その後の加湿要求等に基づいて適宜開放する。再循環デッドエンド開閉弁37c及び再循環ポンプ下流弁37dについても、その後の燃料ガスの再循環要求等に基づいて適宜開放する。
【0068】
つまり、第一加圧制御中は、第三連通路53の両端の第三開閉弁59a,59bが共に閉鎖され、第三連通路53の内部は加圧されていない。したがって、第三連通路53の内部は、燃料ガス供給管31の減圧弁33と第二開閉弁58との間の部分やシリンダ54の第一室56の内部等に比べて低圧である。このため、第三開閉弁59a,59bを開放すると、燃料ガス供給管31の減圧弁33と第二開閉弁58との間の部分から燃料ガスが第三連通路53内に流れ込む。この時、第二開閉弁58が開いていれば、第一室56内の燃料ガスも第三連通路53内に流れ込む。
【0069】
なお、第一室56内の燃料ガスが第三連通路53内に流れ込むのは、第三開閉弁59a,59bの開放直後の僅かな時間と考えられ、第三開閉弁59a,59bの開放直後の所定の微少時間だけ第二開閉弁58を開放状態に保持するだけで、ピストン圧縮で使用した燃料ガスを、ルートR1を通じて循環させることができる。この所定の微少時間経過後に、第二開閉弁58を閉鎖すればルートR1が閉じられ、通常ルートR3のみを使用すればよい。
【0070】
一方、ステップS16で、フラグF1が1であると判定されない場合には、ステップS20に進み、フラグF2が1であるか否かを判定する。フラグF2が1であると判定された場合には、フラグF2を0にリセットし(ステップS21)、第二加圧制御を終了する(ステップS22)。
【0071】
第二加圧制御の終了時には、燃料電池20の始動を伴うため、空気圧縮機40を、燃料電池20の作動要求に基づいて駆動すればよい。この場合、減圧弁33を基準開度の開放状態(例えば、デフォルト開度)とし、第三開閉弁59a,59bを開放し、アノード背圧弁36及びカソード背圧弁46を共に基準開度等に開放し、第一連通路39を開閉する第一開閉弁39aを閉鎖して、フローをリターンする。
【0072】
なお、本実施形態では、第一加圧制御の際に、減圧弁33を基準開度の開放状態として、特に開度変更までは行っていないが、第一加圧制御の開始後に、所定時間が経過しても、アノード流路内の圧力Pa及びカソード流路内の圧力Pcが目標値(例えば、第一目標圧力Pa1,Pc1と第二目標圧力Pa2,Pc2との中間の値として設定された第三目標圧力Pa3,Pc3)に達しなければ、減圧弁33の開度を基準開度から所定量だけ増加させてもよい。この場合、減圧弁33の開度を基準開度から所定量だけ増加させて所定時間が経過しても、アノード流路内の圧力Pa及びカソード流路内の圧力Pcが目標値に達しなければ、減圧弁33の開度をさらに所定量だけ増加させてよい。このような制御によれば、圧力Pa,Pcを確実に高めることができる。
【0073】
[2.作用,効果]
(1)実施形態に係る燃料電池システム2では、燃料電池20の停止後に、アノード側デッドエンド開閉弁(第一排出部開閉弁)としてのアノード背圧弁36及びカソード側デッドエンド開閉弁(第二排出部開閉弁)としてのカソード背圧弁46を閉鎖した状態で、加圧装置(第一加圧装置50又は第二加圧装置40)を作動させてアノード電極2Aのアノード流路内及びカソード電極2Bのカソード流路内を加圧する。このため、ガス排出部35,45から圧力が逃げることがなく、電極2A,2B内を効率よく加圧できる。これにより、高圧になった当該電極2A,2B内では、飽和水蒸気量の増大によって湿度低下が促進され、水による触媒の劣化を抑制できる。このように、効率よく低湿度化を促進できるためコスト低減を図ることができ、燃料電池20の触媒劣化をより一層抑制できる。したがって、燃料電池20の性能劣化や耐久性低下を抑制できる。
【0074】
つまり、燃料電池20が停止すると、その後の電極2A,2B内の温度低下に伴い、内部の水蒸気の一部が凝縮して水となる。触媒金属(例えば、プラチナPtや、プラチナPtと異種金属の合金)に水と酸素が吸着すると表面の酸化が進み、触媒の溶解や粗大化を招き、燃料電池の発電性能の劣化低下や、燃料電池の耐久性の低下を招く。このため、燃料電池20の停止中に、燃料電池の発電性能の劣化低下や、燃料電池の耐久性の低下を招きやすい。
【0075】
これに対し、本燃料電池システム2では、電極2A,2B内が効率よく加圧されるので、高圧になった電極2A,2B内の飽和水蒸気量が増大し、湿度低下が促進される。電極2A,2B内の湿度が低下すると、電極2A,2B内での水蒸気の凝縮が抑制され、電極2A,2B内で水分増加が抑制される。このため、触媒金属の表面の酸化が抑えられ、燃料電池20の性能劣化や耐久性低下をより一層抑制できる。
【0076】
(2)加圧装置として、燃料タンク30内の燃料ガスの圧力を用いて燃料ガス導入路31a内を加圧する第一加圧装置50を使用することにより、加圧に要するシステムの作動コストを抑えることができる。
(3)燃料ガス導入路31aと酸化ガス導入路41aとを連通する第一連通路39を用いて、燃料ガスの圧力を酸化ガス導入路41aにも導入して、アノード電極2Aだけでなくカソード電極2Bについても加圧できるので、両電極2A,2Bを効率よく加圧できる。
【0077】
(4)また、加圧装置として、燃料電池20に既存の空気圧縮機40(第二加圧装置)を用いて酸化ガス導入路41a内を加圧することにより、加圧に要するシステムの設備コストを抑えることができる。
(5)燃料ガス導入路31aと酸化ガス導入路41aとを連通する第一連通路39を用いて、空気圧縮機40で圧縮された圧縮空気を燃料ガス導入路31aにも導入して、カソード電極2Bだけでなくアノード電極2Aについても加圧できるので、両電極2A,2Bを効率よく加圧できる。
【0078】
(6)制御部61は、燃料電池20が停止したら、第二加圧装置40による第二加圧制御を実施し、その後、所定の終了条件が成立したら、第二加圧装置40を停止し、その後、所定の開始条件が成立したら、第一加圧装置50による第一加圧制御を実施してアノード電極2A及びカソード電極2Bを加圧する。したがって、まずは、第二加圧装置40による積極的な加圧によって、燃料電池20の停止直後の各電極2A,2B内の圧力低下を抑え、その後は、第一加圧装置50による作動コストを抑えた加圧によって各電極2A,2B内の圧力低下を抑えることにより、低コストで両電極2A,2Bを効率よく加圧できる。
【0079】
(7)第二加圧制御の終了条件は、圧力センサ71,72で検出された燃料電池20の内部圧力Pa,Pcが、第一目標圧力Pa1,Pc1(第一圧力値)よりも高いこと(ステップS6,S7)である。このため、燃料電池20の内部圧力Pa,Pcが十分に高くなった状態で第二加圧制御を終了することができ、第二加圧制御の制御終了後も両電極2A,2Bの圧力を一定レベル以上に維持することが可能になる。
【0080】
(8)第一加圧制御の開始条件は、圧力センサ71,72で検出された燃料電池20の内部圧力Pa,Pcが第二目標圧力Pa2,Pc2(第二圧力値)よりも低いこと(ステップS10,S11)である。このため、燃料電池20の内部圧力Pa,Pcが過剰に低下する前に第一加圧制御を開始することができ、第一加圧制御により両電極2A,2Bの圧力を一定レベル以上に維持することが可能になる。
【0081】
(9)上記の第一加圧装置50は、ピストン機構51と、第二連通路52と、第三連通路53と、第二開閉弁58と、第三開閉弁59とを備えて構成されており、制御部61は、第二開閉弁58を開放し、第三開閉弁59を閉鎖することで、第一加圧装置50を加圧作動させることができる。これにより、燃料タンク30内の燃料ガスの圧力を低コストで利用することができる。
【0082】
(10)燃料電池20は、電動車両1に装備された発電用燃料電池である。発電用燃料電池の場合、停止時間が比較的長いため、停止時において電極2A,2Bに残留或いは凝集した水による触媒の劣化がその分促進されやすい。これに対し、本燃料電池システム2によれば、このような触媒の劣化を低コストで抑制できる。
【0083】
(11)燃料電池20のアノード電極2A及びカソード電極2Bに装備される各触媒は、電極触媒層の担体にセラミックスが用いられたセラミックス触媒である。セラミックス触媒の場合、電極2A,2Bを加圧すると燃料電池抵抗が増大し、電流は流れにくくなることから、両電極2A,2Bの残留ガスの反応が抑制され、この面からも、触媒の劣化を抑制できる。
【0084】
(その他の効果)
本実施形態では、アノード流路内の圧力Paとカソード流路内の圧力Pcとが共に各第一目標圧力Pa1,Pc1よりも高いことを第二加圧制御の終了条件としている。このため、第二加圧制御によってアノード流路内及びカソード流路内をいずれも目標圧力範囲の上限付近まで高めることができ、第二加圧制御を停止させても両電極2A,2B内を高圧状態に維持し易くなる。
【0085】
また、本実施形態では、アノード流路内の圧力Pa及びカソード流路内の圧力Pcの何れか一方が第二目標圧力Pa2,Pc2まで低下したら、第一加圧制御を開始する。このため、アノード流路内の圧力Pa及びカソード流路内の圧力Pcを共に第二目標圧力Pa2,Pc2以上に保持できる。
【0086】
さらに、本実施形態では、第一加圧制御の開始条件として、アノード流路内の圧力Pa及びカソード流路内の圧力Pcだけでなく、アノード流路内の湿度Ha及びカソード流路内の湿度Hcにも着目している。すなわち、アノード流路内の圧力Pa及びカソード流路内の圧力Pcの何れもが第二目標圧力Pa2,Pc2まで低下していなくても、アノード流路内の湿度Ha及びカソード流路内の湿度Hcの何れか一方が上限湿度Ha1,Hc1まで上昇したら、第一加圧制御を開始する。したがって、例えば残留水が多く、圧力Pa,Pcが低下していなくても湿度が高い状況では、触媒の性能劣化や耐久性低下を招きやすいが、このような不具合を回避することができる。
【0087】
[3.その他]
上述した燃料電池システム2の構成は一例であって、上述したものに限られない。例えば、上記実施形態では、アノード電極2Aとカソード電極2Bとを共に加圧しているが、一方の電極のみが水により劣化しやすい場合には、劣化しやすい極のみを加圧するようにしてもよい。この場合、加圧する対象に必要な流路や弁を設け、その他は省略可能である。
【0088】
また、上記実施形態では、燃料電池20が停止状態になったら、まず、第二加圧制御を実施し、所定の終了条件が成立したら第二加圧制御を終了し、その後、所定の開始条件が成立したら、第一加圧制御を実施するように構成しているが、空気圧縮機40(第二加圧装置)のみを用いてアノード電極2Aとカソード電極2Bとの何れか一方または両方を加圧するようにしてもよい。第二加圧制御では、空気圧縮機40を作動させるための電力(作動コスト)がかかるが、アノード背圧弁36やカソード背圧弁46を閉じて空気圧縮機40を作動させるので、圧縮空気の漏れが抑制され、空気圧縮機40の作動効率を高めることができ、作動コストを抑制することができる。
【0089】
また、燃料タンク30の燃料ガスの圧力を用いた第一加圧装置50のみを用いてアノード電極2Aとカソード電極2Bとの何れか一方または両方を加圧するようにしてもよい。第一加圧装置50では、空気圧縮機40を作動させるための電力(作動コスト)がかからず、アノード背圧弁36やカソード背圧弁46を閉じて燃料タンク30の圧力を利用するので、燃料ガスの圧力の漏れが抑制され、燃料ガスの圧力を有効に利用することができる。
【0090】
なお、第二加圧装置40(空気圧縮機)のみを用いてカソード電極2Bのみを加圧する場合や、第一加圧装置50のみを用いてアノード電極2Aのみを加圧する構成としてもよい。このような場合には、第一連通路39及び第一開閉弁39aは省略できる。
また、第一加圧制御の開始条件や終了条件、第二加圧制御の開始条件や終了条件についても、上記の実施形態のものに限定されるものではなく、適宜設定しうる。
【0091】
上記実施形態では、触媒としてセラミックス触媒を用いているが、セラミックス触媒に限定されるものではなく、例えば担体にカーボンを用いたカーボン触媒であっても本燃料電池システムを適用しうる。
さらに、燃料電池20は、電動車両1に装備された発電用燃料電池に限定されるものではなく、走行用燃料電池であってもよいし、発電用及び走行用の双方に用いられる燃料電池であってもよい。さらには、本燃料電池システムは、車両に搭載されるものに限定されない。
また、例えば特許文献1~3に記載のような従来技術に、本燃料電池システムの技術を併用することで、燃料電池の触媒性能の劣化や耐久性の低下を低コストでより一層抑制することができる。
【符号の説明】
【0092】
1 電動車両
2 燃料電池システム
2A アノード電極(水素極)
2B カソード電極(酸素極)
20 燃料電池
30 高圧燃料タンク
31a 燃料ガス導入路
35 燃料ガス排出管(燃料ガス排出部)
36 アノード背圧弁(第一排出部開閉弁)
39 第一連通路
39a 第一開閉弁
40 空気圧縮機(第二加圧装置)
41a 酸化ガス導入路
45 酸化ガス排出管(酸化ガス排出部)
46 カソード背圧弁(第二排出部開閉弁)
50 第一加圧装置
51 ピストン機構
52 第二連通路
53 第三連通路
54 シリンダ
55 ピストン
56 第一室
57 第二室
58 第二開閉弁
59,59a,59b 第三開閉弁
61 制御部
71,72 圧力センサ
Pa アノード流路内の圧力(アノード電極の圧力)
Pa1 第一目標圧力(第一圧力値)
Pa2 第二目標圧力(第二圧力値)
Pc カソード流路内の圧力(カソード電極の圧力)
Pc1 第一目標圧力(第一圧力値)
Pc2 第二目標圧力(第二圧力値)
図1
図2
図3