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  • 特許-オルタネータの制御装置 図1
  • 特許-オルタネータの制御装置 図2
  • 特許-オルタネータの制御装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】オルタネータの制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 9/14 20060101AFI20250401BHJP
   F02D 29/06 20060101ALI20250401BHJP
   H02P 101/45 20150101ALN20250401BHJP
   H02P 103/20 20150101ALN20250401BHJP
   H02P 101/25 20150101ALN20250401BHJP
【FI】
H02P9/14 H
F02D29/06 E
H02P101:45
H02P103:20
H02P101:25
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022082385
(22)【出願日】2022-05-19
(65)【公開番号】P2023170547
(43)【公開日】2023-12-01
【審査請求日】2024-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 真一
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-197473(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0284087(US,A1)
【文献】特開2016-173064(JP,A)
【文献】特開2015-042099(JP,A)
【文献】西独国特許出願公開第03303147(DE,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 9/14
F02D 29/06
H02P 101/45
H02P 103/20
H02P 101/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから伝達される動力で発電してバッテリを充電するオルタネータの駆動を制御するオルタネータの制御装置であって、
前記バッテリの電圧が規定の基準電圧以上、かつ、前記エンジンの回転数が規定の基準回転数以下、かつ、前記オルタネータの温度が規定の基準温度以下の場合には、前記オルタネータのトルクが規定の許容トルク未満になるように、前記オルタネータの励磁電流を制限する、
前記規定の許容トルク未満になる前記励磁電流の値は、その時点での前記エンジンの回転数およびギアシフトの選択状態に基づいて算出される、
ことを特徴とするオルタネータの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のオルタネータの制御装置であって、
前記オルタネータの励磁電流を制限した結果、前記オルタネータの発電量が、車載負荷が必要とする要求電力量より小さくなった場合、前記車載負荷の作動を制限する、ことを特徴とするオルタネータの制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のオルタネータの制御装置であって、
前記規定の許容トルク未満になる前記励磁電流の値は、前記ギアシフトがパーキングの場合、ドライブの場合に比べて、大きく設定される、ことを特徴とするオルタネータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、エンジンから伝達される動力で発電してバッテリを充電するオルタネータの駆動を制御するオルタネータの制御装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジン搭載車両には、当該エンジンから伝達される動力で発電するオルタネータが設けられている。エンジンの動力は、プーリとベルトとを有する伝達機構によりオルタネータに伝達される。つまり、エンジンの動力は、ベルトとプーリとの摩擦力によって伝達される。
【0003】
ここで、エンジンの回転数が低い場合、および、オルタネータの温度が低い場合、オルタネータの負荷トルクが大きくなる。そして、オルタネータの負荷トルクが大きくなると、ベルトとプーリとの間で滑りが発生し、ベルトスリップ、ひいては、ベルトの鳴き(異音)が発生するおそれがある。
【0004】
そこで、こうした異音を防止するために、ベルトの鳴きが生じるおそれがある場合には、エンジンの回転数を上げる技術が一部で提案されている。例えば、特許文献1には、エンジンが低回転で運転している場合に、エンジンとトランスミッションとの間に介在するロックアップクラッチを開放し、これにより、エンジンの回転数を上昇させる制御装置が開示されている。かかる技術によれば、オルタネータの負荷トルクを低減できるため、ベルトの鳴きを効果的に抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-132929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の技術は、車両が走行していない、アイドリング時に使われる。このアイドリング時に上げられるエンジンの回転数には上限がある。そのため、異音を防止できる程度まで、エンジンの回転数を上げられない場合もある。また、エンジンの回転数を上げた場合、その分、燃費に影響するおそれもあった。
【0007】
そこで、本明細書では、エンジンの回転数を不必要に上げることなく、異音を防止できるオルタネータの制御装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示するオルタネータの制御装置は、エンジンから伝達される動力で発電してバッテリを充電するオルタネータの駆動を制御するオルタネータの制御装置であって、前記バッテリの電圧が規定の基準電圧以上、かつ、前記エンジンの回転数が規定の基準回転数以下、かつ、前記オルタネータの温度が規定の基準温度以下の場合には、前記オルタネータのトルクが規定の許容トルク未満になるように、前記オルタネータの励磁電流を制限する、ことを特徴とする。
【0009】
この場合、前記オルタネータの励磁電流を制限した結果、前記オルタネータの発電量が、車載負荷が必要とする要求電力量より小さくなった場合、前記車載負荷の作動を制限してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本明細書で開示する技術によれば、エンジンの回転数を不必要に上げることなく、異音を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】車両の発電システムの構成を示す図である。
図2】オルタネータの負荷トルクを示すグラフである。
図3】オルタネータの制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、オルタネータ12の制御装置26について説明する。図1は、車両の発電システムの構成を示す図である。発電システムは、エンジン10と、オルタネータ12と、バッテリ22と、制御装置26と、を有する。エンジン10には、エンジンプーリ28が連結され、オルタネータ12にはオルタネータプーリ30が連結されている。エンジンプーリ28とオルタネータプーリ30の間には、プーリベルト32が掛け渡されており、エンジン10の回転動力が、当該プーリベルト32を介してオルタネータ12に伝達される。また、エンジン10の出力軸には、変速機14および差動装置18を介して車両の駆動輪20が接続されている。変速機14の状態は、ユーザにより操作されるギアシフト16により変更される。ギアシフト16として「パーキング」が選択されている場合、変速機14はロックされ、エンジン10の出力動力は駆動輪20に伝達されない。一方、ギアシフト16として「ドライブ」が選択されている場合、エンジン10の出力動力が、変速機14を介して駆動輪20に伝達される。以下では、ギアシフト16の選択状態を「シフト状態Sg」と呼ぶ。
【0013】
オルタネータ12は、エンジン10から伝達された動力で発電する。より具体的に説明すると、オルタネータ12は、エンジン10からの伝達動力で回転する回転子と、三相巻線を含む固定子と、固定子からの交流出力を直流出力に整流する整流器と、回転子に印加する励磁電流を制御するレギュレータ(いずれも図示せず)と、を備えている。回転子には、固定子に電圧を誘起するための磁束を発生する界磁巻線が設けられており、レギュレータは、この界磁巻線に印加される励磁電流を制御することで、オルタネータ12の発電電力Poを制御する。
【0014】
オルタネータ12で発電された電力は、バッテリ22に蓄電される。補機負荷24は、オルタネータ12またはバッテリ22から電力供給を受けて動作する。
【0015】
制御装置26は、オルタネータ12の動作を制御するもので、物理的には、プロセッサとメモリとを有するコンピュータである。制御装置26は、エンジン10やオルタネータ12等の状態に応じて、オルタネータ12の励磁電流Ioを制御する。
【0016】
具体的に説明すると、制御装置26には、バッテリ電圧Vb、エンジン回転数Ne、オルタネータ温度Toが入力される。制御装置26は、バッテリ電圧Vbが規定の基準電圧Vst以上、かつ、エンジン回転数Neが規定の基準回転数Nst以下、かつ、オルタネータ温度Toが規定の基準温度Tst以下の場合には、オルタネータ12の励磁電流Ioが、許容電流値Imx以下になるように、オルタネータ12を制御する。かかる構成とする理由について図2を参照して説明する。
【0017】
図2は、オルタネータ12の負荷トルクTRQoを示すグラフである。図2において、横軸はエンジン回転数Neを、縦軸は、オルタネータ12の負荷トルクTRQoを示している。また、図2において、曲線L1は、オルタネータ温度ToがT1の場合の、曲線L2は、オルタネータ温度Toが、T1よりも十分に高温であるT2の場合の、負荷トルクTRQoを示している。
【0018】
図2から明らかな通り、負荷トルクTRQoは、エンジン回転数Neが低いとき、すなわち、Ne≒N1付近で高くなる。この回転数N1は、一般に、アイドリング時に選択される回転数に近い。また、負荷トルクTRQoは、オルタネータ温度Toが低い場合に高くなる。なお、図2における曲線L1におけるオルタネータ温度To=T1は、エンジン始動直後におけるオルタネータ温度Toに近い。
【0019】
ここで、負荷トルクTRQoが高いと、プーリベルト32とプーリ28,30との間で滑りが発生し、ベルトスリップ、ひいては、ベルトの鳴き(異音)が発生するおそれがある。従来、こうした異音が発生しないように、エンジン回転数Neを高く設定することが一部で提案されている。しかし、アイドリング時に選択可能なエンジン回転数Neには上限があり、異音を防止できる回転数まで上げられない場合も多い。また、エンジン回転数Neを上げた場合、その分、車両の燃費に影響する。そこで、一般的には、異音が発生しないような、換言すれば、負荷トルクTRQoに耐えられるようなプーリベルト32およびプーリ28,30が、エンジン10およびオルタネータ12の組み合わせごとに設計されている。そのため、従来技術の場合、取り扱うプーリベルト32およびプーリ28,30の種類が多くなっていた。
【0020】
一方、上述した通り、負荷トルクTRQoが高くなるのは、エンジン回転数Neが低く、オルタネータ温度Toが低いときであり、これは、通常、エンジン10を始動した直後の僅かな期間にのみ生じる。このような短時間にのみ生じる負荷トルクTRQoに耐えるために、プーリベルト32およびプーリ28,30の種類数を増やすことは無駄であった。
【0021】
そこで、本例では、エンジン回転数Neが基準回転数Nst以下、かつ、オルタネータ温度Toが基準温度Tst以下の際には、負荷トルクTRQoを低減するために、オルタネータ12の励磁電流Ioを制限している。ただし、励磁電流Ioを制限した場合、その分、オルタネータ12の発電電力Poが低下する。したがって、この励磁電流Ioの制限は、バッテリ22の充電量に余裕があるとき、すなわち、バッテリ電圧Vbが規定の基準電圧Vst以上の場合にのみ行う。
【0022】
具体的には、制御装置26は、Vb≧VstかつNe≦NstかつTo≦Tstである制限条件を満たす場合、負荷トルクTRQoが規定の許容トルク以下(すなわち鳴きが生じないトルク)に収まる励磁電流、すなわち、許容電流値Imxを、その時点でのエンジン回転数Neおよびシフト状態Sgに基づいて算出する。なお、ギアシフト16が、「パーキング」の場合、「ドライブ」の場合に比べて、エンジン10にかかる負荷、ひいては、負荷トルクTRQoが軽減される。そのため、ギアシフト16が「パーキング」の場合、「ドライブ」の場合に比べて、励磁電流Ioの許容電流値Imxを大きく設定できる。
【0023】
制御装置26は、オルタネータ12の励磁電流Ioが、算出された許容電流値Imxを越えないように、オルタネータ12のレギュレータを駆動する。これにより、エンジン10の始動直後において、負荷トルクTRQoが過度に高くなることが防止でき、プーリベルト32の鳴きを効果的に防止できる。
【0024】
ところで、励磁電流Ioを制限した場合、当然ながら、オルタネータ12の発電電力Poが低下する。このオルタネータ12の発電電力Poが、補機負荷24が消費する電力よりも小さい場合、バッテリ22の蓄電量が徐々に低下することになる。そこで、制御装置26は、励磁電流Ioの制限を行っている場合に、オルタネータ12の発電電力Poが、補機負荷24からの要求電力Prq未満となれば、補機負荷24の動作を制限し、要求電力Prqの低下を計る。これにより、バッテリ22の蓄電量が低下することを防止できる。
【0025】
次に、制御装置26によるオルタネータ12の制御の流れについて図3を参照して説明する。この処理は、エンジン10の始動により開始する。制御装置26は、まず、バッテリ電圧Vbを確認し、このバッテリ電圧Vbを基準電圧Vstと比較する(S10)。比較の結果、バッテリ電圧Vbが、基準電圧Vst未満の場合には、オルタネータ12による十分な発電が求められるため、通常の制御を行う(S22)。通常の制御では、エンジン回転数Neおよび要求電力Prq等に基づいて、励磁電流Ioを決定する。
【0026】
一方、バッテリ電圧Vbが基準電圧Vst以上の場合、制御装置26は、エンジン回転数Neと基準回転数Nstを比較する(S12)。エンジン回転数Neが基準回転数Nst超過の場合、負荷トルクTRQoは低いことが予想されるため、励磁電流Ioの制限は不要となる。そのため、この場合は、通常の制御を行う(S22)。
【0027】
一方、エンジン回転数Neが、基準回転数Nst以下の場合、制御装置26は、さらに、オルタネータ温度Toと基準温度Tstとを比較する。オルタネータ温度Toが基準温度Tst超過の場合には、負荷トルクTRQoは低いと予想されるため、制御装置26は、通常の制御を実行する(S22)。
【0028】
一方、オルタネータ温度Toが基準温度Tst以下の場合、負荷トルクTRQoが高くなりやすいと予想される。この場合、制御装置26は、現在のエンジン回転数Neおよびシフト状態Sgに基づいて、許容電流値Imxを算出し、励磁電流Ioが許容電流値Imx以下になるように、オルタネータ12のレギュレータを制御する(S16)。すなわち、この場合、制御装置26は、励磁電流Ioの制限処理を実行する。
【0029】
励磁電流Ioの制限処理を実行した場合、制御装置26は、さらに、オルタネータ12の発電電力Poと、補機負荷24からの要求電力Prqを比較する(S18)。そして、発電電力Poが要求電力Prq未満の場合、制御装置26は、要求電力Prqが低下するように、補機負荷24の作動を一部制限する(S20)。一方、発電電力Poが要求電力Prq以上の場合は、補機負荷24の制限はせず、そのまま、ステップS24に進む。ステップS24では、エンジン10の状態を確認し、エンジン10が作動している場合は、ステップS10に戻り、同様の処理を繰り返す。一方、エンジン10が停止した場合には、全ての処理が終了となる。
【0030】
以上の説明で明らかな通り、本例では、負荷トルクTRQoが高くなりやすい、特定の条件下では、励磁電流Ioを制限するため、エンジン回転数Neを不必要に上げなくても、また、プーリベルト32およびプーリ28,30を特別に設計しなくても、異音を防止できる。
【符号の説明】
【0031】
10 エンジン、12 オルタネータ、14 変速機、16 ギアシフト、18 差動装置、20 駆動輪、22 バッテリ、24 補機負荷、26 制御装置、28 エンジンプーリ、30 オルタネータプーリ、32 プーリベルト、Ne エンジン回転数、Prq 要求電力、Sg シフト状態、To オルタネータ温度、Vb バッテリ電圧。
図1
図2
図3