(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】反射防止基材
(51)【国際特許分類】
G02B 1/111 20150101AFI20250401BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20250401BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20250401BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20250401BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
G02B1/111
G02B1/14
G02B1/18
B32B7/023
B32B27/30 A
(21)【出願番号】P 2022532464
(86)(22)【出願日】2021-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2021020584
(87)【国際公開番号】W WO2021256229
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2024-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2020104394
(32)【優先日】2020-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(72)【発明者】
【氏名】山本 良亮
(72)【発明者】
【氏名】若山 彰太
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-181544(JP,A)
【文献】特開2013-181039(JP,A)
【文献】特開2008-070459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/111
G02B 1/14
G02B 1/18
B32B 7/023
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)、(B)、(C)及び(D)層をこの順に積層してなる反射防止基材であって、
(A)基材層
(B)ハードコート層
(C)光吸収層
(D)活性エネルギー線硬化型樹脂、中空シリカ、およびフッ素系化合物を含有する低屈折率樹脂組成物を活性エネルギー線により硬化させた、低屈折率層
前記(C)光吸収層の膜厚が
2~
15nmであ
り、
前記(C)光吸収層が、CVD及びPVDから選択されるDry製膜によって形成され、
前記(D)低屈折率層における活性エネルギー線硬化型樹脂が、ウレタン(メタ)アクリレート成分を含有し、
前記(D)低屈折率層におけるフッ素系化合物が、パーフルオロポリエーテル結合を有する、前記反射防止基材。
【請求項2】
前記(C)光吸収層が、窒化チタン、チタン酸窒化物、窒化ジルコニウム、金、銀、および銅からなる群より選択される少なくとも一つから形成されたものである、請求項1に記載の反射防止基材。
【請求項3】
前記(D)低屈折率層の波長550nmにおける屈折率が1.45以下である、請求項1
または2に記載の反射防止基材。
【請求項4】
視感反射率が1.0%以下である、請求項1から
3のいずれかに記載の反射防止基材。
【請求項5】
防汚層を含まない、請求項1から
4のいずれかに記載の反射防止基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止基材に関し、特に、視感反射率が低く、防汚性に優れた反射防止基材に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、カーナビゲーション、ゲーム機などのディスプレイ用途において、外光の映り込みを防止するために反射防止機能を有する材料が使用されている。
【0003】
反射防止材料は一般的に光学干渉の技術が用いられている。光学干渉は一般的に可視光の波長よりも薄い膜厚の光学薄膜が用いられる。特に視感反射率が1.0%以下の超低反射を実現するためには光学薄膜を複層コーティングする必要があり、例えば密着層の上にNb2O5-SiO2-Nb2O5-SiO2のような4層構成の反射防止膜が知られている(特許文献1、2)。しかしながら、このような多層膜を形成するには多数の成膜装置が必要となるため、高コストとなることが課題である。また、ディスプレイで使用するためには防汚機能が必要となるため、最表層に防汚層を設置する必要がある。
【0004】
一方、膜数を減らしつつ視感反射率を低下させる方法として、光吸収層を用いる方法が知られている(特許文献3、4)。光吸収層としては窒化チタン、窒化ジルコニウム、金、銀、銅などを用いることが可能であり、屈折率nが負の波長分散であり、消衰係数kが正の波長分散を持つものを用いることが望ましい。これら光吸収層にSiO2のような低屈折率の膜を形成することで2層コートでも低い視感反射率を実現可能である。しかしながら、この手法でもディスプレイで使用するためには防汚機能が必要となるため、最表層に防汚層を設置する必要がある。
【0005】
光吸収層の上に防汚層を設置する方法として、光吸収層の上に有機シランおよびフッ素をコートする方法が知られている(特許文献5)。この方法は熱硬化であり生産性が低く、安定的に物性を出すためには長時間加熱をしなくてはならないことが課題である。
【0006】
反射防止性能を向上させるために、低屈折率層は低屈折率である方が望ましい。しかしながら、一般に使用可能な材料であるSiO2の屈折率は1.46と高く、十分な反射防止性能を出すことが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-35969
【文献】特開2018-8431
【文献】特開平10-96801
【文献】特開平9-73001
【文献】特開2002-341107
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、少ない工程と層数で低い視感反射率および防汚性を実現する反射防止基材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、以下の本発明によって上記課題を解決することができることを見出した。即ち、本発明は以下の通りである。
<1> 下記(A)、(B)、(C)及び(D)層をこの順に積層してなる反射防止基材であって
(A)基材層
(B)ハードコート層
(C)光吸収層
(D)活性エネルギー線硬化型樹脂、中空シリカ、およびフッ素系化合物を含有する低屈折率樹脂組成物を活性エネルギー線により硬化させた、低屈折率層
前記(C)光吸収層の膜厚が1~20nmである、前記反射防止基材である。
<2> 前記(C)光吸収層が、窒化チタン、チタン酸窒化物、窒化ジルコニウム、金、銀、および銅からなる群より選択される少なくとも一つから形成されたものである、上記<1>に記載の反射防止基材である。
<3> 前記(C)光吸収層の膜厚が2~15nmである、上記<1>または<2>に記載の反射防止基材である。
<4> 前記(D)低屈折率層における活性エネルギー線硬化型樹脂が、ウレタン(メタ)アクリレート成分を含有する、上記<1>から<3>のいずれかに記載の反射防止基材である。
<5> 前記(D)低屈折率層におけるフッ素系化合物が、パーフルオロポリエーテル結合を有する、上記<1>から<4>のいずれかに記載の反射防止基材である。
<6> 前記(D)低屈折率層の波長550nmにおける屈折率が1.45以下である、上記<1>から<5>のいずれかに記載の反射防止基材である。
<7> 視感反射率が1.0%以下である、上記<1>から<6>のいずれかに記載の反射防止基材である。
<8> 防汚層を含まない、上記<1>から<7>のいずれかに記載の反射防止基材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の手法を用いることで、新たに防汚コーティングを行うことなく防汚性を付与した反射防止基材が製造可能となる。本発明の反射防止基材は、視感反射率が低いという利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について製造例や実施例等を例示して詳細に説明するが、本発明は例示される製造例や実施例等に限定されるものではなく、本発明の内容を大きく逸脱しない範囲であれば任意の方法に変更して行うこともできる。
【0012】
[基材層]
本発明では、基材層を構成する材料について特に制限は無いが、ガラス基材、金属基材、またはプラスチック基材を用いることが可能である。特にプラスチック基材は、それを構成する化合物の種類が多様であり、様々な領域で使用されている。
【0013】
プラスチック基材としては、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。熱可塑性樹脂の種類については特に限定されないが、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、含ノルボルネン樹脂、ポリエーテルスルホン、セロファン、芳香族ポリアミド等が挙げられる。
【0014】
基材層に含まれるポリカーボネート樹脂としては、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OCO]-単位(Rが脂肪族基、芳香族基、又は脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの)を含むものであれば、特に限定されないが、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート等が好ましく、ビスフェノールA骨格、又はビスフェノールC骨格を有するポリカーボネートが特に好ましい。ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールAとビスフェノールCの混合物、又は、共重合体を用いてもよい。ビスフェノールC系のポリカーボネート樹脂、例えば、ビスフェノールCのみのポリカーボネート樹脂、ビスフェノールCとビスフェノールAの混合物あるいは共重合体のポリカーボネート樹脂を用いることにより、基材層の硬度を向上できる。
また、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、15,000~40,000であることが好ましく、より好ましくは20,000~35,000であり、さらに好ましくは22,500~25,000である。
【0015】
また、基材層に含まれるアクリル樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、メチルメタクリレート(MMA)に代表される各種(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、またはPMMAやMMAと他の1種以上の単量体との共重合体であり、さらにそれらの樹脂の複数種が混合されたものが挙げられる。これらのなかでも、低複屈折性、低吸湿性、耐熱性に優れた環状アルキル構造を含む(メタ)アクリレートが好ましい。以上のような(メタ)アクリル樹脂の製品例として、アクリペット(三菱レイヨン製)、デルペット(旭化成ケミカルズ製)、パラペット(クラレ製)等があるが、これらに限定されない。
【0016】
ポリカーボネート樹脂と上述のアクリル樹脂を含む二層品を用いることも可能である。ポリカーボネート樹脂と上述のアクリル樹脂を含む二層品を用いることにより、表面硬度を向上させつつ、基材層の熱成形性を維持することが可能である。
【0017】
また、基材層は、熱可塑性樹脂以外の成分として添加剤を含んでいてもよい。例えば、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、離型剤及び着色剤から成る群から選択された少なくとも1種類の添加剤などである。また、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等を基材層に添加してもよい。
【0018】
[ハードコート層]
本発明では、基材層上にハードコート層を設ける。例えば、基材層を構成する熱可塑性樹脂にハードコートをしたものを使用することが可能である。ハードコート層の形成方法としては、活性エネルギー線硬化型樹脂を含有するハードコート組成物を塗布、乾燥後、活性エネルギー線により硬化する方法や、熱硬化性化合物を含有する熱硬化性組成物を塗布、乾燥後、加熱することにより硬化する方法が可能である。このうち、活性エネルギー線硬化型樹脂を含有するハードコート組成物を塗布、乾燥後、活性エネルギー線により硬化する方法が望ましい。
【0019】
活性エネルギー線硬化型樹脂は、活性エネルギー線硬化性を有する官能基を保有する化合物であればいずれも使用可能であるが、ウレタン(メタ)アクリレート成分を含有するものが望ましい。ウレタン(メタ)アクリレートは、ポリオール、イソシアネート、及び(メタ)アクリレート由来のウレタン(メタ)アクリレートと、(メタ)アクリレートとを含む樹脂材料の重合体を含む。すなわち、ポリオール、イソシアネート、及び(メタ)アクリレートの三成分を脱水縮合反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレートと、(メタ)アクリレートとの混合物であることが好ましい。
【0020】
ハードコート組成物は、物性を改善するために添加剤を添加することが可能である。例えば、防汚性や滑り性を付与可能なフッ素系添加物やシリコーン系添加物、耐擦傷性改善のため無機粒子成分などが使用される。
【0021】
[光吸収層]
本発明では、ハードコート層上に光吸収層を設ける。光吸収層を構成する材料としては、金、銀、銅、ニッケル、クロム、スズ、パラジウムのような金属およびこれらの合金、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、チタン酸窒化物のような金属窒化物、酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケルのような金属酸化物が使用可能である。これらのうち、窒化チタン、チタン酸窒化物、窒化ジルコニウム、金、銀、および銅からなる群より選択される少なくとも一つを用いることが望ましい。これらを用いることで広い波長範囲で低い視感反射率を実現可能となる。
【0022】
光吸収層の成膜は、Dry製膜で実施することが好ましい。Dry製膜の方法としては、CVDやPVDが用いられているが、一般的にはPVDが使用される。PVDの方法として、蒸着、スパッタリングが一般的に広く用いられている。蒸着、スパッタリングの装置は、ULVAC社、シンクロン社、オプトラン社など多数の装置メーカーが市販している。
【0023】
光吸収層の膜厚としては、好ましくは1~40nm、より好ましくは1~20nm、更に好ましくは2~20nm、更により好ましくは2~15nm、特に好ましくは3~10nmである。膜厚が薄すぎると反射率低減効果が低く、また厚すぎると透過率が著しく低下する原因となることがある。本発明において、光吸収層の膜厚の測定方法としては、後述する実施例に記載された方法を採用することができる。
【0024】
光吸収層とハードコート層との間に密着層を設けることも可能である。密着層には例えばSiO2、SiOx、SiNx、Al2O3、AlOx、AlNx等が設置される。これら密着層はDry製膜で実施され、蒸着、スパッタリングが一般に使用される。
【0025】
密着層の膜厚は、好ましくは1~10nm、より好ましくは2~5nmである。密着層が薄すぎると密着効果が低く、厚すぎると光学性能に影響を与えることがある。
【0026】
[低屈折率層]
本発明では、光吸収層上に低屈折率層を設ける。本発明における低屈折率層は、活性エネルギー線硬化型樹脂、中空シリカ、およびフッ素系化合物を含有する低屈折率樹脂組成物を活性エネルギー線により硬化させたものである。本発明において、低屈折率樹脂組成物は、活性エネルギー線硬化型樹脂、中空シリカ、フッ素系化合物に加え、シリコーン系化合物や光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0027】
活性エネルギー線硬化型樹脂は、活性エネルギー線硬化を有する官能基を保有する化合物であればいずれも使用可能であるが、ウレタン(メタ)アクリレート成分を含有するものが望ましい。ウレタン(メタ)アクリレートは、ポリオール、イソシアネート、及び(メタ)アクリレート由来のウレタン(メタ)アクリレートと、(メタ)アクリレートとを含む樹脂材料の重合体を含む。すなわち、ポリオール、イソシアネート、及び(メタ)アクリレートの三成分を脱水縮合反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレートと、(メタ)アクリレートとの混合物であることが好ましい。
【0028】
中空シリカとは、シリカの内部が空気であり、屈折率が低いことが特徴である。中空シリカとして、例えば日揮触媒化成のスルーリア(商品名)が市販されているが、これに限定されるものではない。
中空シリカは、活性エネルギー線硬化型樹脂/中空シリカ=90/10~10/90(質量%)の割合で混合することが好ましく、80/20~20/80(質量%)の割合で混合することがより好ましい。中空シリカの含有量が多すぎると耐擦傷性が低下し、少なすぎると屈折率が高くなり十分な反射防止性能が得られないことがある。
【0029】
フッ素系化合物は、パーフルオロポリエーテル結合を有するものが好ましく使用される。これらの化合物は合成品を用いることも可能であるが、市販品を容易に入手することが可能である。例えば、DIC社のメガファックRSシリーズ、信越化学社のKYシリーズ、ダイキン社のオプツールシリーズなどが使用可能である。
フッ素系化合物の含有量は、低屈折率樹脂組成物中、1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
【0030】
シリコーン系化合物は、ポリアルキルシロキサン結合を有するものが好ましく使用される。これらの化合物は合成品を用いることも可能であるが、市販品を容易に入手することが可能である。例えば、信越シリコーン社のKPシリーズ、ビックケミージャパン社のBYKシリーズ、EVONIK社のTEGO Glideシリーズなどが使用可能である。
【0031】
フッ素化合物およびシリコーン系化合物は、これらを混合して使用することも可能である。
【0032】
また、低屈折率樹脂組成物は、活性エネルギー線硬化性、より好ましくは、紫外線硬化性を有する。よって、低屈折率樹脂組成物は、光重合開始剤を含むことが好ましい。光重合開始剤としては、IGM Resins B.V.社製のOmnirad 184(従来はBASF社製のIRGACURE 184)(1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン)、Omnirad 1173(旧IRGACURE 1173)(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン)、Omnirad TPO H(旧IRGACURE TPO)(2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド)、Omnirad 819(旧IRGACURE 819)(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド)、Lamberti社製のEsacureONE(オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン)等が好ましく用いられる。
【0033】
活性エネルギー線硬化型樹脂、中空シリカ、およびフッ素系化合物(更には、好ましく添加されるシリコーン系化合物、光重合開始剤)の混合物は、一般に有機溶媒で希釈して使用される。有機溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、エチルセルソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシブタノール等が挙げられる。
有機溶媒は、低屈折率樹脂組成物中の固形分が0.5~10質量%となるように使用することが好ましく、1~5質量%となるように使用することがより好ましい。有機溶媒の使用量が多すぎると膜厚の制御が困難となり、少なすぎると外観が悪化する原因となることがある。
【0034】
例えば、活性エネルギー線硬化型樹脂、中空シリカ、フッ素系化合物、および光重合開始剤の混合物を有機溶媒で希釈し、所定の方法でコーティングを行った後、有機溶媒を乾燥後、活性エネルギー線により硬化させることで低屈折率層を形成することができる。有機溶媒を乾燥する過程で表面自由エネルギーの小さいフッ素系化合物が表層に出てくるため、特に防汚層を形成しなくても防汚機能を発現することが可能となる。
【0035】
コーティングは一般的な方法で実施可能である。例えばバーコーター、スピンコーター、グラビアコーター、コンマコーター、ダイコーターなどで実施可能である。
【0036】
低屈折率樹脂組成物を有機溶媒で希釈し、コーティング後に乾燥し、活性エネルギー線で硬化することで低屈折率層を得ることができる。活性エネルギー線としては、紫外光線、近紫外光線、可視光線などが用いられるが、これらのうち紫外光線が最も一般的に使用される。
【0037】
低屈折率層の550nmにおける屈折率は、好ましくは1.45以下、より好ましくは1.42以下、更に好ましくは1.40以下である。屈折率が低いほど反射防止性能が向上する。また、屈折率が低いほど光吸収層を薄くすることが可能となるため、透過率が向上する。本発明において、屈折率の測定方法は、後述する実施例で記載された方法を採用することができる。
【0038】
本発明の反射防止基材は、視感反射率が1.0%以下であることが好ましく、0.9%以下であることがより好ましく、0.8%以下であることが特に好ましい。視感反射率が1.0%以下であると視認性向上の効果が良好であり好ましい。本発明において、視感反射率の測定方法は、後述する実施例で記載された方法を採用することができる。
【0039】
本発明の反射防止基材は、透過率が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。透過率が上記範囲であると外観が良好であり好ましい。本発明において、透過率の測定方法は、後述する実施例で記載された方法を採用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0041】
<反射率(視感反射率)>
日本電色工業株式会社製のSD6000により、JIS Z 8722-2009に沿って測定した。測定は、各実施例のフィルムの裏面(基材層側)からの反射を防ぐため、塗工面の反対の面に黒スプレー処理を行い、反射率を測定した。具体的には、国際照明委員会(CIE)により定義された標準光源であるD65の光源下において、正反射光と拡散反射光を合わせて測定するSCI方式により反射率を測定した。このように測定された反射率を用いて、JIS Z8701に規定されている反射の刺激値Yである、視感反射率を算出した。
【0042】
<透過率>
日立ハイテクサイエンス社製の分光光度計U-4100を用いて、波長550nmの光に対する透過率を測定した。
【0043】
<指紋ふき取り性試験>
試験片に人工指紋液としてオレイン酸2μlを滴下し、シリコンパットで押し広げたのちにクロスを取り付け、人工指紋液の上を完全に通過させた。この操作を繰り返し、5回以下でふき取れたものを〇、6回以上かかったものを×と評価した。
【0044】
<ヘイズ>
村上色彩技術研究所社製のヘイズメーター(製品名:HM-150)を用いて、JIS-K-7136に準拠して、ヘイズ(%)を測定した。
【0045】
<光吸収層の膜厚>
光吸収層の膜厚測定には接触式段差計(Bruker社製DektakXT)を使用した。光吸収層の成膜ごとに一部マスキングをしたガラス基材を搭載し、マスキングされた未成膜部と成膜部の段差を測定し、その値を膜厚とした。なお、多層に成膜後の反射防止基材に対して光吸収層の膜厚を測定する場合には、集束イオンビーム加工されたフィルム断面を透過型電子顕微鏡により観察し膜厚を測定する方法を採用することができる。
【0046】
基材として、実施例1~5及び比較例1~3では、ポリカーボネート(PC)とポリメチルメタクリレート(PMMA)の2層フィルムのPMMA側に、後述するウレタンアクリレート系のハードコート組成物(B-1)を用いてハードコート処理を行ったハードコートフィルム(製品名:MRF08U(三菱ガス化学製))を使用した。実施例6では、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるフィルム(製品名:コスモシャインA4100(東洋紡社製)、厚み:188μm)に上記と同様にウレタンアクリレート系のハードコート処理を行ったハードコートフィルムを使用し、実施例7では、トリアセチルセルロース(TAC)からなるフィルム(製品名:TD80UL(富士フイルム社製)、厚み:80μm)に上記と同様にウレタンアクリレート系のハードコート処理を行ったハードコートフィルムを使用した。
【0047】
低屈折率樹脂組成物(A-1)
低屈折率層を形成するために、硬化性の低屈折率塗料を以下のように調製した。
まず、攪拌機、温度計、冷却器、モノマー滴下ロート及び乾燥空気導入管を備えた5つ口フラスコに、予め乾燥空気を流入させて系内を乾燥させた。そして、5つ口フラスコに、2,2,3,3-テトラフルオロ-1,4ブタンジオール(Exfluor Research Corporation製のC4DIOL)58.9質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート279.8質量部、重合触媒としてのジブチ錫ラウリレート0.5質量部、及び溶剤としてのメチルエチルケトン500質量部を投入し、60℃に加温した。その後、イソホロンジイソシアネート161.3質量部を投入後、60~70℃にて反応させた。反応物中のイソシアネート残基が消費されたことを赤外線吸収スペクトルで確認し、反応を終了させ6官能ウレタンアクリレートオリゴマーを得た。
さらに、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル(VEEA)を、ウレタンアクリレートオリゴマー(ウレタンアクリレート液)に対して、ウレタンアクリレート液/VEEA=90/10(質量%)の割合で混合した。
こうして得られた樹脂材料の液体成分に対し、中空シリカ(日揮触媒化成製スルーリア4320)を添加し、固形分換算で樹脂材料/中空シリカ=50/50(質量%)の割合になるよう混合した。さらに、こうして得られた低屈折塗料原料(樹脂材料+中空シリカ)に対し、光重合開始剤として1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASF社製I-184)を5質量%と、フッ素系化合物であるメガファックRS-90(DIC製:固形分は10質量%であり溶剤MEKで希釈されたもの)を10質量%と、BYK-UV3575(ビックケミー社製の変性ポリジメチルシロキサン系界面活性剤)を10質量%とをそれぞれ添加して溶解させ、溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテル)を加えて、固形分が1.5質量%となるように濃度を調整した。なお、各添加剤の配合量は、低屈折塗料原料の固形分量を100質量%とした場合に、該固形分量100質量%に対しての質量%を記載した。
【0048】
ハードコート組成物(B-1)
ハードコート塗料として、ウレタンアクリレートUN-954(根上工業株式会社製)、光開始剤として1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASF社製I-184)を5質量%、レベリング剤としてBYK-3550(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を1質量%及び、溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテル)を加えて、固形分が30質量%となるように濃度を調整した。なお、各添加剤の配合量は、ハードコート塗料の固形分量を100質量%とした場合に、該固形分量100質量%に対しての質量%を記載した。
【0049】
低屈折率樹脂組成物(A-1)をガラスプレートに塗布し、100℃で2分乾燥し積算光量400mJ/cm2でUV硬化し低屈折率層を形成した。低屈折率層の550nmにおける屈折率を分光エリプソメーター(堀場製作所社製 Auto SE)で測定した結果、該屈折率は1.38であった。また、上記と同様の方法でハードコート組成物(B-1)の屈折率を測定したところ1.50であった。
【0050】
(実施例1)
上述の基材(製品名:MRF08U)のハードコート処理を行った面に、銅をスパッタリングにより膜厚3.0nmとなるように成膜を行い、光吸収層を形成した。次に、乾燥、UV硬化後の膜厚が100nmになるように光吸収層上に低屈折率樹脂組成物(A-1)をバーコーターでコーティングし、100℃2分乾燥後、積算光量400mJ/cm2でUV硬化を行い、低屈折率層を形成し、反射防止基材を作製した。得られた反射防止基材に対して、視感反射率及び透過率を測定した結果、視感反射率は0.60%であり、透過率は87%であった。指紋ふき取り性試験を行った結果、〇であった。
【0051】
(実施例2)
上述の基材(製品名:MRF08U)のハードコート処理を行った面に、窒化チタンをスパッタリングにより膜厚6.0nmとなるように成膜を行い、光吸収層を形成した。次に、乾燥、UV硬化後の膜厚が100nmになるように光吸収層上に低屈折率樹脂組成物(A-1)をバーコーターでコーティングし、100℃で2分乾燥後、積算光量400mJ/cm2でUV硬化を行い、低屈折率層を形成し、反射防止基材を作製した。得られた反射防止基材に対して、視感反射率及び透過率を測定した結果、視感反射率は0.75%であり、透過率は80%であった。指紋ふき取り性試験を行った結果、〇であった。
【0052】
(実施例3)
上述の基材(製品名:MRF08U)のハードコート処理を行った面に、窒化チタンをスパッタリングにより膜厚3.6nmとなるように成膜を行い、光吸収層を形成した。次に、乾燥、UV硬化後の膜厚が85nmになるように光吸収層上に低屈折率樹脂組成物(A-1)をバーコーターでコーティングし、100℃で2分乾燥後、積算光量400mJ/cm2でUV硬化を行い、低屈折率層を形成し、反射防止基材を作製した。得られた反射防止基材に対して、視感反射率及び透過率を測定した結果、視感反射率は0.49%であり、透過率は85.6%であった。指紋ふき取り性試験を行った結果、〇であった。
【0053】
(実施例4)
上述の基材(製品名:MRF08U)のハードコート処理を行った面に、窒化チタンをスパッタリングにより膜厚6.4nmとなるように成膜を行い、光吸収層を形成した。次に、乾燥、UV硬化後の膜厚が85nmになるように光吸収層上に低屈折率樹脂組成物(A-1)をバーコーターでコーティングし、100℃で2分乾燥後、積算光量400mJ/cm2でUV硬化を行い、低屈折率層を形成し、反射防止基材を作製した。得られた反射防止基材に対して、視感反射率及び透過率を測定した結果、視感反射率は0.50%であり、透過率は82.2%であった。指紋ふき取り性試験を行った結果、〇であった。
【0054】
(実施例5)
上述の基材(製品名:MRF08U)のハードコート処理を行った面に、窒化チタンをスパッタリングにより膜厚11.3nmとなるように成膜を行い、光吸収層を形成した。次に、乾燥、UV硬化後の膜厚が85nmになるように光吸収層上に低屈折率樹脂組成物(A-1)をバーコーターでコーティングし、100℃で2分乾燥後、積算光量400mJ/cm2でUV硬化を行い、低屈折率層を形成し、反射防止基材を作製した。得られた反射防止基材に対して、視感反射率及び透過率を測定した結果、視感反射率は0.50%であり、透過率は73.2%であった。指紋ふき取り性試験を行った結果、〇であった。
【0055】
(実施例6)
上述のPET基材(製品名:コスモシャインA4100)のハードコート処理を行った面に、窒化チタンをスパッタリングにより膜厚6.4nmとなるように成膜を行い、光吸収層を形成した。次に、乾燥、UV硬化後の膜厚が85nmになるように光吸収層上に低屈折率樹脂組成物(A-1)をバーコーターでコーティングし、100℃で2分乾燥後、積算光量400mJ/cm2でUV硬化を行い、低屈折率層を形成し、反射防止基材を作製した。得られた反射防止基材に対して、視感反射率及び透過率を測定した結果、視感反射率は0.58%であり、透過率は82.1%であった。指紋ふき取り性試験を行った結果、〇であった。
【0056】
(実施例7)
上述のTAC基材(製品名:TD80UL)のハードコート処理を行った面に、窒化チタンをスパッタリングにより膜厚6.4nmとなるように成膜を行い、光吸収層を形成した。次に、乾燥、UV硬化後の膜厚が85nmになるように光吸収層上に低屈折率樹脂組成物(A-1)をバーコーターでコーティングし、100℃で2分乾燥後、積算光量400mJ/cm2でUV硬化を行い、低屈折率層を形成し、反射防止基材を作製した。得られた反射防止基材に対して、視感反射率及び透過率を測定した結果、視感反射率は0.40%であり、透過率は82.3%であった。指紋ふき取り性試験を行った結果、〇であった。
【0057】
(比較例1)
上述の基材(製品名:MRF08U)のハードコート処理を行った面に、銅をスパッタリングにより膜厚4.0nmとなるように成膜を行い、光吸収層を形成した。その後、光吸収層上にSiO2を58nmスパッタリングにより製膜し、反射防止基材を作製した。得られた反射防止基材に対して、視感反射率及び透過率を測定した結果、視感反射率は0.80%であり、透過率は80%であった。指紋ふき取り性試験を行った結果、×であった。
【0058】
(比較例2)
上述の基材(製品名:MRF08U)のハードコート処理を行った面に、乾燥、UV硬化後の膜厚が100nmになるように低屈折率樹脂組成物(A-1)をバーコーターでコーティングし、100℃で2分乾燥後、積算光量400mJ/cm2でUV硬化を行い、低屈折率層を形成し、反射防止基材を作製した。得られた反射防止基材に対して、視感反射率及び透過率を測定した結果、視感反射率は1.42%であり、透過率は93.6%であった。指紋ふき取り性試験を行った結果、〇であった。
【0059】
(比較例3)
上述の基材(製品名:MRF08U)のハードコート処理を行った面に、窒化チタンをスパッタリングにより膜厚21.1nmとなるように成膜を行い、光吸収層を形成した。次に、乾燥、UV硬化後の膜厚が85nmになるように光吸収層上に低屈折率樹脂組成物(A-1)をバーコーターでコーティングし、100℃で2分乾燥後、積算光量400mJ/cm2でUV硬化を行い、低屈折率層を形成し、反射防止基材を作製した。得られた反射防止基材に対して、視感反射率及び透過率を測定した結果、視感反射率は14.12%であり、透過率は42.1%であった。指紋ふき取り性試験を行った結果、〇であった。
【0060】
実施例1~7及び比較例1~3の結果を以下の表1に示す。
【表1】