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特許7658425ステンレス鋼粉末、ステンレス鋼部材およびステンレス鋼部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】ステンレス鋼粉末、ステンレス鋼部材およびステンレス鋼部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250401BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20250401BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20250401BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20250401BHJP
   B22F 10/34 20210101ALI20250401BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C22C38/60
B22F1/00 T
B22F10/34
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023515759
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2022044457
(87)【国際公開番号】W WO2023157425
(87)【国際公開日】2023-08-24
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2022022541
(32)【優先日】2022-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】水谷 映斗
(72)【発明者】
【氏名】高下 拓也
(72)【発明者】
【氏名】中村 徹之
(72)【発明者】
【氏名】高 法剛
(72)【発明者】
【氏名】堀内 潤
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-117084(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136866(WO,A1)
【文献】特開2020-158842(JP,A)
【文献】特開2019-119913(JP,A)
【文献】特開2017-150016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
B22F 1/00
B22F 10/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.20%以下、
Si:2.0%以下、
Mn:2.0%以下、
P:0.040%以下、
S:0.010%以下、
Cr:18.0~35.0%、
Ni:1.0%以下、
Cu:0.50~4.0%、
Nb:0.7~3.0%、
Mo:6.0%以下、
W:6.0%以下、
N:0.030%以下、
O:0.10%以下を含有し、かつ下記(1)式を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
体積基準のメジアン径D50が10μm以上200μm以下である、ステンレス鋼粉末。
(Mo+W)≧2.0 ・・・(1)
ただし、(1)式におけるMoおよびWは、それぞれMoおよびWの含有量(質量%)である。
【請求項2】
Cuの含有量が、質量%で、
Cu:1.0~4.0%である、請求項1に記載のステンレス鋼粉末。
【請求項3】
さらに、質量%で、
Al:6.0%以下を含有する、請求項1に記載のステンレス鋼粉末。
【請求項4】
さらに、質量%で、
Al:6.0%以下を含有する、請求項2に記載のステンレス鋼粉末。
【請求項5】
さらに、質量%で、
Ti:0.30%以下、
V:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
B:0.0100%以下、
Zr:0.50%以下、
Ca:0.0100%以下、
Mg:0.0050%以下、
REM:0.50%以下、
Sn:0.50%以下、
Sb:0.50%以下
のうちから選ばれる一種以上を含有する、請求項1~4のいずれかに記載のステンレス鋼粉末。
【請求項6】
質量%で、
C:0.20%以下、
Si:2.0%以下、
Mn:2.0%以下、
P:0.040%以下、
S:0.010%以下、
Cr:18.0~35.0%、
Ni:1.0%以下、
Cu:0.50~4.0%、
Nb:0.85~3.0%、
Mo:6.0%以下、
W:6.0%以下、
N:0.030%以下、
O:0.10%以下を含有し、かつ下記(1)式を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
800℃で引張試験を行って測定した0.2%耐力が60MPa以上である高温耐力と、
表面を#600の研磨紙で研磨して得た試験片に対して、大気中で、800℃で400時間保持する酸化試験を行った後に、酸化増量が20g/m以下かつ酸化皮膜の剥離が生じていない耐酸化性を有する、ステンレス鋼部材。
(Mo+W)≧2.0 ・・・(1)
ただし、(1)式におけるMoおよびWは、それぞれMoおよびWの含有量(質量%)である。
【請求項7】
Cuの含有量が、質量%で、
Cu:1.0~4.0%である、請求項6に記載のステンレス鋼部材。
【請求項8】
さらに、質量%で、
Al:6.0%以下を含有する、請求項6に記載のステンレス鋼部材。
【請求項9】
さらに、質量%で、
Al:6.0%以下を含有する、請求項7に記載のステンレス鋼部材。
【請求項10】
さらに、質量%で、
Ti:0.30%以下、
V:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
B:0.0100%以下、
Zr:0.50%以下、
Ca:0.0100%以下、
Mg:0.0050%以下、
REM:0.50%以下、
Sn:0.50%以下、
Sb:0.50%以下
のうちから選ばれる一種以上を含有する、請求項6~9のいずれかに記載のステンレス鋼部材。
【請求項11】
請求項1~4のいずれかに記載のステンレス鋼粉末を用いて、積層造形法によりステンレス鋼部材を製造する、800℃で引張試験を行って測定した0.2%耐力が60MPa以上である高温耐力と、表面を#600の研磨紙で研磨して得た試験片に対して、大気中で、800℃で400時間保持する酸化試験を行った後に、酸化増量が20g/m 以下かつ酸化皮膜の剥離が生じていない耐酸化性を有する、ステンレス鋼部材の製造方法。
【請求項12】
請求項5に記載のステンレス鋼粉末を用いて、積層造形法によりステンレス鋼部材を製造する、800℃で引張試験を行って測定した0.2%耐力が60MPa以上である高温耐力と、表面を#600の研磨紙で研磨して得た試験片に対して、大気中で、800℃で400時間保持する酸化試験を行った後に、酸化増量が20g/m 以下かつ酸化皮膜の剥離が生じていない耐酸化性を有する、ステンレス鋼部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼粉末に関し、特に、自動車排気系部材や熱交換器などの、形状が複雑で、かつ優れた高温耐力と耐酸化性が求められる部材の製造に好適なステンレス鋼粉末に関する。また、本発明は、このステンレス鋼粉末を用いて造形されたステンレス鋼部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属積層造形の活用が広がっている。現在最も普及が進んでいる造形手法は粉末積層溶融法(パウダーベッド方式ともいう)である。粉末積層溶融法は、レーザーあるいは電子ビームを熱源として、原料となる金属粉末を溶融させながら積層造形する方法である。
【0003】
積層造形の最大の特徴は、従来の加工法では成形不可能であった形状の造形物を、表面や内部の構造まで加味して製造できる点にある。さらに、積層造形法は材料の加工性を考慮する必要がないため、従来は加工が困難で製品形状が限られていたNi基合金やTi基合金などでも、任意の形状に造形することができる。
【0004】
このような特徴を生かし、宇宙・航空分野や医療分野において、金属積層造形の産業利用が進んでいる。例えば、タービンブレードのように、形状が複雑で、高い耐熱性が求められる部材においては、積層造形法によってNi合金の部材を製造することで、形状の最適化や部材点数削減などのメリットが得られている。また、医療分野においては、各患者に適応した形状の人口関節やインプラントが製造できるなどのメリットから、積層造形の利用が進んでいる。
【0005】
積層造形は、現時点では、量産性が低いことおよび造形コストが高いことから宇宙航空や医療分野への適用に留まっているが、これらの課題が解決されれば、自動車など生産性やコストが重視される分野への適用も広まっていくと考えられる。特に自動車分野においては、形状が複雑な排気系部材や熱交換器の製造に積層造形法を適用することで、形状の最適化が可能となったり、ろう付けや溶接などの接合が不要となって部材全体の強度が向上できたりするなど、付加価値を付与できる可能性がある。このため、積層造形法に用いる材料として、Ni基合金やTi基合金よりも価格が低い素材である、ステンレス鋼などのFe基合金が着目されている。
【0006】
積層造形用のステンレス鋼粉末として、特許文献1~6が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開2019/139017号
【文献】国際公開2019/235014号
【文献】国際公開2020/110498号
【文献】国際公開2021/214958号
【文献】特許第6270563号公報
【文献】特許第6985940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、自動車の燃費向上や二酸化炭素の排出量低減が求められており、このような厳しい環境規制に対応するため自動車の排ガス温度は上昇傾向にある。特に、エキゾーストマニホールドなどのエンジンに近い部材は1000℃を超える高温にさらされる場合がある。そのため、これまで高温部材に用いられてきたSUS444系鋼種(18mass%Cr-2mass%Mo-0.5mass%Nb)では高温耐力が不足する場合が出てきている。よって、SUS444を上回る優れた高温耐力と、SUS444と同等以上の優れた耐酸化性を有するステンレス鋼が求められている。
【0009】
ステンレス鋼の高温耐力を高めるためには、Cr、Nb、Mo、W、Cu、Alといった元素の含有量を高めることが効果的である。特に、Alには高温耐力だけでなく耐酸化性を高める効果もある。しかし、これら元素の含有量を高めると、常温においても材料強度が過度に上昇して、ステンレス鋼板やステンレス鋼パイプの製造が困難になってしまう。たとえステンレス鋼板やステンレス鋼パイプが製造できた場合でも、加工性が低いためプレスや曲げなどの加工で割れが生じ、エキゾーストマニホールドや熱交換器などの所望の形状を得ることができない場合が多かった。
【0010】
そこで本発明者らは、製造性や加工性の制限を受けることなく素材の高合金化や高性能化が可能となる手法として、積層造形に着目した。パウダーベッド法で積層造形を行う場合、素材には金属粉末を用いるが、金属粉末の製造は板材やパイプ材よりも容易なため、成分設計の自由度が大幅に高くなる。また、エキゾーストマニホールドや熱交換器のように形状が複雑な部材の場合、板材やパイプ材から複数の工程を費やして部材を成型するよりも、積層造形によって一工程で最終製品を成型した方が、製造期間を短くできる場合もあり形状の自由度も高い。このように、積層造形を用いることで、自動車排気系部材や熱交換器の大幅な高機能化を達成することができると考えた。
【0011】
積層造形用のステンレス鋼粉末として、特許文献1~6が開示されている。しかしながら、特許文献1~6に開示された材料は、自動車排気系部材、特にエキゾーストマニホールドへの適用を想定した場合に求められる十分な高温耐力と耐酸化性を満たすものでなく、これらの要求特性を満たすステンレス鋼粉末の開発が求められていた。さらに、積層造形で製造された部材には、積層造形特有の急速凝固によっても、割れが生じないこと、すなわち造形性に優れることが求められる。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高温耐力および耐酸化性に優れたステンレス鋼部材を製造することができるステンレス鋼粉末を提供することを目的とする。
【0013】
ここで、高温耐力に優れるとは、800℃で引張試験を行って測定した0.2%耐力が60MPa以上であることを意味する。
【0014】
また、耐酸化性に優れるとは、ステンレス鋼部材の表面を#600の研磨紙で研磨して得た試験片に対して、大気中で、800℃で400時間保持する酸化試験を行った後に、酸化増量が20g/m以下かつ酸化皮膜の剥離が生じていないことを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成すべき鋭意検討したところ、Cr含有量を18.0質量%以上に高め、Cuを0.50質量%以上、好ましくは1.0質量%以上、Nbを0.7質量%以上、MoおよびWの一方もしくは両方を合計で2.0質量%以上含有することで、優れた高温耐力および耐酸化性を達成できることを見出した。さらに、Alを0.3質量%以上含有するとより優れた高温耐力および耐酸化性が得られることを見出した。さらにまた、Al含有量を2.0質量%以上にまで高めると、特に優れた高温耐力および耐酸化性が得られることを見出した。
【0016】
これほど高合金の鋼を従来のように板材やパイプ材に加工することは困難であるが、金属粉末を製造し、これを材料として積層造形を行うことによって、極めて優れた特性を有する複雑な形状のステンレス鋼部材を得ることができる。
【0017】
特に、エキゾーストマニホールドへの適用を考えた場合、優れた耐酸化性を有するとともに、SUS444よりも優れた高温耐力を有することが望ましい。より具体的には、800℃における0.2%耐力が60MPa以上となる高温耐力を有することが望まれる。
【0018】
本発明は、以上の知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。本発明の要旨は次のとおりである。
【0019】
[1]質量%で、
C:0.20%以下、
Si:2.0%以下、
Mn:2.0%以下、
P:0.040%以下、
S:0.010%以下、
Cr:18.0~35.0%、
Ni:1.0%以下、
Cu:0.50~4.0%、
Nb:0.7~3.0%、
Mo:6.0%以下、
W:6.0%以下、
N:0.030%以下、
O:0.10%以下を含有し、かつ下記(1)式を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する、ステンレス鋼粉末。
(Mo+W)≧2.0 ・・・(1)
ただし、(1)式におけるMoおよびWは、それぞれMoおよびWの含有量(質量%)である。
[2]Cuの含有量が、質量%で、
Cu:1.0~4.0%である、[1]に記載のステンレス鋼粉末。
[3]さらに、質量%で、
Al:6.0%以下を含有する、[1]または[2]に記載のステンレス鋼粉末。
[4]さらに、質量%で、
Ti:0.30%以下、
V:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
B:0.0100%以下、
Zr:0.50%以下、
Ca:0.0100%以下、
Mg:0.0050%以下、
REM:0.50%以下、
Sn:0.50%以下、
Sb:0.50%以下
のうちから選ばれる一種以上を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載のステンレス鋼粉末。
[5]質量%で、
C:0.20%以下、
Si:2.0%以下、
Mn:2.0%以下、
P:0.040%以下、
S:0.010%以下、
Cr:18.0~35.0%、
Ni:1.0%以下、
Cu:0.50~4.0%、
Nb:0.7~3.0%、
Mo:6.0%以下、
W:6.0%以下、
N:0.030%以下、
O:0.10%以下を含有し、かつ下記(1)式を満たし、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する、ステンレス鋼部材。
(Mo+W)≧2.0 ・・・(1)
ただし、(1)式におけるMoおよびWは、それぞれMoおよびWの含有量(質量%)である。
[6]Cuの含有量が、質量%で、
Cu:1.0~4.0%である、[5]に記載のステンレス鋼部材。
[7]さらに、質量%で、
Al:6.0%以下を含有する、[5]または[6]に記載のステンレス鋼部材。
[8]さらに、質量%で、
Ti:0.30%以下、
V:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
B:0.0100%以下、
Zr:0.50%以下、
Ca:0.0100%以下、
Mg:0.0050%以下、
REM:0.50%以下、
Sn:0.50%以下、
Sb:0.50%以下
のうちから選ばれる一種以上を含有する、[5]~[7]のいずれかに記載のステンレス鋼部材。
[9]前記[1]~[4]のいずれかに記載のステンレス鋼粉末を用いて、積層造形法によりステンレス鋼部材を製造する、ステンレス鋼部材の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高温耐力および耐酸化性に優れたステンレス鋼部材を製造することができるステンレス鋼粉末を提供できる。
【0021】
本発明によれば、ステンレス鋼部材の製造、特に積層造形法によるステンレス鋼部材の製造に好適に用いられるステンレス鋼粉末を提供できる。本発明のステンレス鋼粉末は、自動車排気系部材や熱交換器など、複雑な形状を有し、かつ、優れた耐熱性が求められるステンレス鋼部材の材料として好適であり、特に前記ステンレス鋼部材を積層造形法により製造する際の材料として好適である。
【0022】
また、本発明のステンレス鋼粉末を用いて製造されたステンレス鋼部材は、優れた高温耐力および耐酸化性を有している。さらに、積層造形時の急激な温度変化による割れが生じないため、造形性に優れている。本発明によって得られるステンレス鋼部材は、特に自動車排気系部材や熱交換器など、複雑な形状を有し、かつ、優れた耐熱性が求められる部材として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を、以下の実施形態に基づき説明する。
【0024】
まず、本発明のステンレス鋼粉末およびステンレス鋼部材の成分組成について説明する。なお、成分組成における単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り、単に「%」で示す。
【0025】
C:0.20%以下
Cには、Nbなどの元素と炭化物を生成して鋼の強度を高める効果がある。この効果を得るためには、C含有量を0.0050%以上とすることが好ましく、0.03%以上とすることがより好ましい。一方、C含有量が0.20%を超えると鋼が過度に硬質化し、ステンレス鋼部材の靭性が低下する。また、C含有量が0.20%を超えると、積層造形中に凝固割れが生じやすくなり、造形性が低下する。そのため、C含有量は0.20%以下とする。C含有量は、好ましくは0.15%以下である。
【0026】
Si:2.0%以下
Siには、鋼の耐酸化性を向上させる効果がある。この効果を得るためには、Si含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Si含有量が2.0%を超えると、鋼が過度に硬質化し靭性が低下する。そのため、Si含有量は2.0%以下とする。Si含有量は、好ましくは1.5%以下であり、より好ましくは1.0%以下である。
【0027】
Mn:2.0%以下
Mnには、酸化速度を低減させ、またスケールの剥離を防止する効果がある。この効果を得るためには、Mn含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Mnはオーステナイト相生成元素であるため、Mn含有量が2.0%を超えると、オーステナイト相が生成して熱疲労特性が低下する。従って、Mn含有量は2.0%以下とする。Mn含有量は、好ましくは1.0%以下である。
【0028】
P:0.040%以下
Pは、耐食性を低下させる元素であるため低減することが望ましく、P含有量の上限を0.040%とする。P含有量は、好ましくは0.030%以下であり、より好ましくは0.020%以下である。なお、P含有量の下限は特に限定されない。ただし、過度の脱Pはコストの増加を招くので、P含有量は0.005%以上が好ましい。
【0029】
S:0.010%以下
Sは耐食性を低下させる元素であるため低減することが望ましく、S含有量の上限を0.010%とする。S含有量は、好ましくは0.005%以下であり、より好ましくは0.003%以下である。なお、S含有量の下限は特に限定されない。ただし、過度の脱Sはコストの増加を招くので、S含有量は0.0005%以上が好ましい。
【0030】
Cr:18.0~35.0%
Crは、鋼の耐食性および耐酸化性を向上させる重要な元素である。今回目標とするSUS444と同等以上の優れた耐酸化性を得るためには、Cr含有量を18.0%以上とする必要がある。しかし、Cr含有量が35.0%を超えるとステンレス鋼部材の靭性が低下する。そのため、Cr含有量は18.0~35.0%の範囲とする。Cr含有量は、好ましくは20.0%以上であり、より好ましくは22.0%以上である。また、Cr含有量は、好ましくは30.0%以下であり、より好ましくは27.0%以下である。
【0031】
Ni:1.0%以下
Niには、ステンレス鋼部材の靭性を向上させる効果がある。この効果を得るためには、Ni含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Niは、オーステナイト相の生成を促進する元素である。Ni含有量が1.0%を超えるとオーステナイト相が生成して、熱疲労特性や耐酸化性が低下する。そのため、Ni含有量は1.0%以下とする。Ni含有量は、好ましくは0.5%以下である。
【0032】
Cu:0.50~4.0%
Cuは、鋼中にε-Cuとして析出して、高温耐力を高める元素である。この効果はCu含有量を0.50%以上、好ましくは1.0%以上とすることで得られる。しかし、Cu含有量が4.0%を超えると鋼が過度に硬質化してステンレス鋼部材の靭性が低下する。そのため、Cu含有量は0.50~4.0%の範囲とし、好ましくは1.0~4.0%の範囲とする。Cu含有量は、より好ましくは1.5%以上である。また、Cu含有量は、好ましくは3.0%以下である。
【0033】
Nb:0.7~3.0%
Nbには、固溶強化元素として鋼の高温耐力を高める効果がある。また、鋼中のCやNと炭化物や窒化物を形成して鋼の高温耐力を高める効果もある。これらの効果は、Nb含有量が0.7%以上で得られる。しかし、Nb含有量が3.0%を超えると、金属間化合物相が生成してステンレス鋼部材の靭性が低下する。従って、Nb含有量は、0.7~3.0%の範囲とする。Nb含有量は、好ましくは0.7~2.0%の範囲であり、より好ましくは0.7~1.5%の範囲である。
【0034】
Mo:6.0%以下、W:6.0%以下、かつ、下記(1)式を満たす
(Mo+W)≧2.0 ・・・(1)
ただし、(1)式におけるMoおよびWは、それぞれMoおよびWの含有量(質量%)である。
MoおよびWには、固溶強化元素として鋼の高温耐力を高める効果がある。この効果を得るためには、MoおよびWのうち一種もしくは二種を合計で2.0%以上含有する必要がある。すなわち、上記(1)式を満たす必要がある。MoおよびWの一種もしくは二種の合計含有量は、好ましくは3.0%以上である。一方、Mo、Wの含有量がそれぞれ6.0%を超えると、金属間化合物が析出してステンレス鋼部材の靭性の低下を招く。従って、Mo、Wの含有量は、それぞれ6.0%以下とする。Mo、Wの含有量は、好ましくはそれぞれ5.0%以下である。なお、MoおよびWの一種もしくは二種の合計含有量は、同様の理由から6.0%以下とすることが好ましい。なお、Mo、Wそれぞれの含有量の下限は、特に限定されない。Mo、Wそれぞれの含有量の下限は、上記(1)式を満たすことができれば、0質量%であってもよい。
【0035】
N:0.030%以下
Nには、Nbなどの元素と窒化物を生成して鋼の強度を高める効果がある。この効果を得るためには、N含有量を0.0030%以上とすることが好ましく、0.0050%以上とすることがより好ましい。一方、N含有量が0.030%を超えるとステンレス鋼部材の靭性が低下する。そのため、N含有量は0.030%以下とする。N含有量は、好ましくは0.020%以下である。
【0036】
O:0.10%以下
本発明のステンレス鋼粉末はガスアトマイズ法や水アトマイズ法で製造するこができるが、これらの手法で製造された金属粉末にはOが混入しやすい。造形物中に生成する酸化物系介在物の量を低減するため、Oの含有量は0.10%以下とする。O含有量は、好ましくは、0.05%以下である。なお、O含有量の下限は特に限定されない。ただし、過度の脱Oはコストの増加を招くので、O含有量は0.005%以上が好ましい。
【0037】
本発明のフェライト系ステンレス鋼粉末およびステンレス鋼部材は、上記成分を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する。
【0038】
本発明のステンレス鋼粉末およびステンレス鋼部材は、上記成分に加えて、さらに、Al:6.0%以下を含有することができる。
【0039】
Al:6.0%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素である。この効果を得るためには、Al含有量を0.001%以上とすることが好ましい。また、Al含有量をさらに高めることで、表面にAl酸化物の皮膜が形成して鋼の耐酸化性を著しく高める効果もある。この効果を得るためには、Al含有量を0.3%以上とすることがより好ましく、2.0%以上とすることがさらに好ましく、3.0%以上とすることがさらにより好ましく、4.0%以上とすることが特に好ましい。しかし、Al含有量が6.0%を超えるとステンレス鋼部材の靭性が低下する。さらに、鋼の線膨張係数が上昇して、ステンレス鋼部材の熱疲労特性が低下する。このため、Al含有量は6.0%以下とする。
【0040】
本発明のステンレス鋼粉末およびステンレス鋼部材は、上記成分に加えて、さらに、Ti:0.30%以下、V:0.50%以下、Co:0.50%以下、B:0.0100%以下、Zr:0.50%以下、Ca:0.0100%以下、Mg:0.0050%以下、REM:0.50%以下、Sn:0.50%以下、Sb:0.50%以下のうちから選ばれる一種以上を含有することができる。
【0041】
Ti:0.30%以下
Tiには、鋼中のCやNと炭化物や窒化物を形成して鋼の強度を高める効果がある。この効果を得るためには、Ti含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Ti含有量が0.30%を超えると、鋼が過度に硬質化してステンレス鋼部材の靭性が低下する。従って、Tiを含有する場合、Ti含有量は0.30%以下の範囲とする。Ti含有量は、好ましくは0.20%以下である。
【0042】
V:0.50%以下
Vには、鋼中のCやNと炭化物や窒化物を形成して鋼の強度を高める効果がある。この効果を得るためには、V含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、V含有量が0.50%を超えると、鋼が過度に硬質化してステンレス鋼部材の靭性が低下する。従って、Vを含有する場合、V含有量は0.50%以下の範囲とする。V含有量は、好ましくは0.30%以下である。
【0043】
Co:0.50%以下
Coは、ステンレス鋼部材の靭性を向上させる元素である。この効果を得るためには、Co含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Coの含有量が0.50%を超えると、鋼が過度に硬質化してかえって靭性が低下する。そのため、Coを含有する場合、Co含有量は0.50%以下の範囲とする。
【0044】
B:0.0100%以下
Bには、粒界を強化して靭性を向上させる効果がある。この効果を得るためには、B含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。しかし、B含有量が0.0100%を超えると鋼が過度に硬質化し、かえってステンレス鋼部材の靭性が低下する。そのため、Bを含有する場合、B含有量は0.0100%以下の範囲とする。B含有量は、より好ましくは0.0005%以上である。また、B含有量は、より好ましくは0.0050%以下である。
【0045】
Zr:0.50%以下
Zrには、酸化皮膜の密着性を改善し耐酸化性を向上させる効果がある。この効果を得るためには、Zr含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Zr含有量が0.50%を超えると金属間化合物相が析出してかえって耐酸化性が低下する。そのため、Zrを含有する場合、Zr含有量は0.50%以下の範囲とする。Zr含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
【0046】
Ca:0.0100%以下
Caには、酸化物系介在物の融点を低下させ、金属粉末を製造する際に溶鋼中の介在物を減少させる効果がある。この効果を得るためには、Ca含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。しかし、Ca含有量が0.0100%を超えるとステンレス鋼部材の靭性が低下する。そのため、Caを含有する場合、Ca含有量は0.0100%以下の範囲とする。Ca含有量は、より好ましくは0.0005%以上である。また、Ca含有量は、好ましくは0.0050%以下であり、より好ましくは0.0030%以下である。
【0047】
Mg:0.0050%以下
Mgは、耐食性を向上させる効果がある元素である。この効果は0.0002%以上のMgの含有で得られる。よって、Mgを含有する場合、Mg含有量は0.0002%以上の範囲が好ましい。しかし、Mg含有量が0.0050%を超えるとステンレス鋼部材の靭性が低下する。そのため、Mgを含有する場合、Mg含有量は0.0050%以下の範囲とする。Mg含有量は、より好ましくは0.0005%以上である。また、Mg含有量は、好ましくは0.0035%以下であり、より好ましくは0.0020%以下である。
【0048】
REM:0.50%以下
REM(希土類元素)には、酸化皮膜の密着性を改善し耐酸化性を向上させる効果がある。この効果を得るためにはREM含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、REM含有量が0.50%を超えるとステンレス鋼部材の靭性が低下する。そのため、REMを含有する場合、REM含有量は0.50%以下の範囲とする。REM含有量は、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.10%以上である。また、REM含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.20%以下である。なお、REMは、Sc、Yと、原子番号57のランタン(La)から原子番号71のルテチウム(Lu)までの15元素の総称であり、ここでいうREM含有量は、これらの元素の合計含有量である。
【0049】
Sn:0.50%以下
Snには、造形物の表面を研磨した際の肌荒れを防止する効果がある。この効果を得るためには、Sn含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Sn含有量が0.50%を超えると凝固割れが発生しやすくなり造形性が低下する。そのため、Snを含有する場合、Sn含有量は0.50%以下の範囲とする。Sn含有量は、より好ましくは0.03%以上であり、さらに好ましくは0.05%以上である。また、Sn含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
【0050】
Sb:0.50%以下
Sbには、造形物の表面を研磨した際の肌荒れを防止する効果がある。この効果を得るためには、Sb含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Sb含有量が0.50%を超えると凝固割れが発生しやすくなり造形性が低下する。そのため、Sbを含有する場合、Sb含有量は0.50%以下の範囲とする。Sb含有量は、より好ましくは0.03%以上であり、さらに好ましくは0.05%以上である。また、Sb含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
【0051】
次に、本発明のステンレス鋼粉末の好ましい性状(粒径)について説明する。
【0052】
本発明のステンレス鋼粉末は、体積基準のメジアン径D50が10μm以上200μm以下であることが好ましい。ステンレス鋼粉末のメジアン径D50が過度に小さいと、粉末の流動性低下に伴う、粉末の充填ムラが生じ、積層造形時に、空隙などの欠陥が生成する原因となる。その結果、かかる鋼粉末を原料として製造された鋼部材の強度、低温靭性、耐食性が低下するおそれがある。ステンレス鋼粉末のメジアン径D50が10μm以上であると、積層造形時における空隙などの欠陥の生成を抑制しやすくなる。このため、ステンレス鋼粉末のメジアン径D50は10μm以上とすることが好ましい。ステンレス鋼粉末のメジアン径D50は、20μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。一方、ステンレス鋼粉末のメジアン径D50が過度に大きいと、積層造形時に空隙などの欠陥を生成する原因となる。その結果、かかる鋼粉末を原料として製造された鋼部材では、前記欠陥に起因する強度、低温靭性、耐食性の低下につながるおそれがある。ステンレス鋼粉末のメジアン径D50が200μm以下であると、積層造形時における空隙などの欠陥の生成を抑制しやすくなる。このため、ステンレス鋼粉末のメジアン径D50は200μm以下とすることが好ましい。ステンレス鋼粉末のメジアン径D50は、150μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。
【0053】
なお、ステンレス鋼粉末のメジアン径D50は、ステンレス鋼粉末の体積累積分布のメジアン径(50%粒子径)のことを指す。ステンレス鋼粉末のメジアン径の測定には、レーザー回折粒子径測定装置を用いることができる。本発明では、次に説明する方法で、ステンレス鋼粉末のメジアン径D50を測定する。
【0054】
レーザー回折粒子径測定装置としては、堀場製作所製:LA-950V2などがある。もちろん、他の装置を使用しても構わないが、正確な測定を行う為に測定可能粒子径範囲の下限が0.1μm以下、上限が200μm以上のものを用いることが好ましい。レーザー回折粒子径測定装置では、ステンレス鋼粉末を分散させた溶媒に対してレーザー光を照射し、レーザー光の回折、散乱強度からステンレス鋼粉末の粒度分布および平均粒子径(メジアン径)を測定する。ステンレス鋼粉末を分散させる溶媒としては、前記粉末の分散性が良く、扱いが容易であるエタノールを用いることが好ましい。水などのファンデルワールス力が高く、分散性の低い溶媒を用いると、測定中に前記粉末が凝集し、本来の平均粒子径よりも測定結果が大きくなる場合があるので好ましくない。従って、ステンレス鋼粉末を含有したエタノール溶液に対して、測定前に超音波による分散処理を施すことが好ましい。
【0055】
なお、測定対象とするステンレス鋼粉末によって、適正な分散処理時間が異なるため、上記分散処理時間を0~60minの間で10min間隔の7段階で実施し、各分散処理後にステンレス鋼粉末の粒度分布および平均粒子径(メジアン径)の測定を行う。各測定中はステンレス鋼粉末の凝集を防ぐために、溶媒を攪拌しながら測定を行う。そして、分散処理時間を10min間隔で変更して行った7回の測定で得られた平均粒子径(メジアン径)のうち、最も小さい値を、ステンレス鋼粉末のメジアン径D50として用いる。
【0056】
次に、本発明のステンレス鋼粉末の製造方法の好ましい実施形態について説明する。
【0057】
本発明のステンレス鋼粉末は、最終の材料形態として、つぎの一連の製造工程で提供される。例えば、溶解-インゴット形成-マスターインゴットの再溶解-アトマイズプロセスによる粉末の作製、といった各工程を経て、本発明のステンレス鋼粉末が製造される。
【0058】
まず、溶解-インゴット形成の工程では、上記した元素の所定量が材料として高周波真空溶解炉にて溶解され、合金化され、鋳造されてインゴット(マスターインゴット)が作製される。この際、減圧下のAr雰囲気、溶解温度:1600℃以上、の条件で溶解することが好ましい。この条件とする理由は次のとおりである。溶解温度が低すぎると、溶鋼をノズルから滴下させる際に、溶鋼が凝固してノズルが閉塞する。また、溶鋼の酸化を防止する観点から、減圧下のAr雰囲気で溶解することが望ましい。なお、この工程で使用される溶解炉は、高周波真空溶解炉に限定されずに、本発明では他の溶解炉(例えば直接通電加熱式の溶解炉)を使用することもできる。
【0059】
ついで、マスターインゴットの再溶解-アトマイズプロセスの工程では、鋳造したマスターインゴットを素材として、高周波あるいは誘導炉等の溶解炉で再溶解し、不活性ガスのArあるいはHeを用いたガスアトマイズ法により低酸素量のステンレス鋼粉末を得る。
【0060】
その後、これらのステンレス鋼粉末は、好ましくは上述のメジアン径D50となるように分級されて、本発明のステンレス鋼粉末として供される。なお、分級は、篩を用いて行ってもよく、気流分級など他の手法を用いて行ってもよい。また、ガスアトマイズ法の代わりに、水アトマイズ法を使用してもよい。
【0061】
次に、本発明のステンレス鋼部材の製造方法の一実施形態について説明する。
【0062】
まず、上記した本発明のステンレス鋼粉末を材料として用いて、例えば積層造形法(金属粉末積層造形法)により、ステンレス鋼積層造形物(3次元構造物)を造形する。積層造形法として、例えば3Dプリンタ法を用いることができる。ここでは、レーザータイプのパウダーベッド方式の3Dプリンターを用いる。特に3Dプリンターの設定条件は規定しない。溶融過多や溶融不足を防止する観点から、例えば、3Dプリンターのレーザー出力は150~300W、スキャンスピードは700~1100mm/sとすることが好ましい。ついで、造形した部材に、必要に応じて熱処理を施して、本発明のステンレス鋼部材を得る。この熱処理工程では、850~1200℃の範囲の温度で1分以上保持した後、空冷する。好ましくは、1000~1200℃の範囲の温度で10分以上保持した後、空冷する。
【実施例
【0063】
以下、実施例により本発明を説明する。まず、表1に示すA~Kの成分組成の原料粉末を、ガスアトマイズ法により製造した。さらに製造した粉末に対して分級を行い、体積基準のメジアン径D50が表1の値となるように調整したステンレス鋼粉末を得た。これを材料として用いて、パウダーベッド方式でステンレス鋼部材(鋼部材A~K)の製造を行った。造形装置は、EOS社製M290を用いた。ステンレス鋼粉末溶融の熱源はレーザーとし、走査速度800m/s、出力200W、1層あたりの粉末積層厚40μmの条件で造形した。造形物の形状は、幅35mm、長さ180mm、積層方向厚さ4mmの板状とした。この造形物に対して、1000℃の大気中で1時間保持してから空冷する熱処理を施してから、後述する各試験に供する試験片を採取し特性評価を行った。
なお、鋼粉末Kは、SUS444相当の成分組成である。また、試料Lは、従来の小型鋼塊溶製、熱間圧延および熱延板焼鈍で、板厚4mmにしたSUS444相当の成分組成の熱延焼鈍板である。
【0064】
(1)造形性
造形性は、積層造形後のステンレス鋼部材(鋼部材A~K)における割れの有無で評価した。まず、熱処理後の造形物の表面(最も面積の広い2面)を厚さ1mm分研削した。この研削面についてJIS Z2343-1(2017)に記載の方法に準じて浸透探傷試験を行い割れの有無を確認した。
長さ1.0mm以上の割れが確認されない場合を〇、長さ1.0mm以上の割れが確認された場合を×と評価し、〇であれば造形性に優れると評価した。
【0065】
(2)高温耐力
高温耐力は、800℃における引張試験で求めた0.2%耐力(σ0.2)で評価した。熱処理後の造形物(鋼部材A~K)、または、熱延焼鈍板(鋼板L)から、厚さ4mm、平行部幅10mm、評点間距離50mmの板状引張試験片を採取し、試験温度800℃で15分間保持した後、引張試験を行って0.2%耐力を求めた。このとき、引張速度は、0.2mm/minとした。
0.2%耐力の測定結果は、60MPa未満を×、60MPa以上100MPa未満を○、100MPa以上を◎とし、○あるいは◎であれば高温耐力に優れると評価した。
【0066】
(3)耐酸化性
耐酸化性は、酸化試験を行って評価した。まず、熱処理後の造形物(鋼部材A~K)、または、熱延焼鈍板(鋼板L)の表面(最も面積の広い2面)を厚さ1mm分研削して、厚さ2mmの板状試験片を得た。この試験片から、20mm×30mm×2.0mmの酸化試験片を採取し、表面を#600の研磨紙で研磨して酸化試験片とした。この酸化試験片に対して高温の大気中で400時間保持する酸化試験を行い、耐酸化性を評価した。試験温度は、800℃、1100℃の2条件とした。酸化試験後に、酸化増量が20g/mを超えるもしくは表面の酸化皮膜に剥離が生じた場合を不合格(×)、酸化増量が20g/m以下かつ酸化皮膜の剥離が生じていない場合を合格(○)とした。
耐酸化性は、800℃および1100℃いずれの条件の試験も不合格の場合を×、800℃の条件の試験で合格し、1100℃の条件の試験で不合格の場合を〇、800℃および1100℃いずれの条件の試験でも合格の場合を◎とし、○あるいは◎であれば、耐酸化性に優れると評価した。
【0067】
以上、(1)~(3)までの評価結果を表2に示す。本発明の範囲内であれば、高温耐力と耐酸化性に優れ、さらに造形性にも優れた特性を有することがわかる。
特に、Alを含有した鋼粉末を用いて造形した鋼部材E~Iでは1100℃の耐酸化性も合格し、より優れた耐酸化性を有していた。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のステンレス鋼粉末を用いることで、優れた高温耐力と耐酸化性を有するステンレス鋼部材を、凝固割れが生じることなく造形することができる。本発明で得られるステンレス鋼部材は、特に自動車の熱交換器や排気系部材に好適に用いることができる。さらに、これらの用途に限らず様々な部材に適用できる。