(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ素子及び固体電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/055 20060101AFI20250401BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
H01G9/055 103
H01G9/028 F
(21)【出願番号】P 2023529751
(86)(22)【出願日】2022-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2022021914
(87)【国際公開番号】W WO2022264794
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2021099701
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】玉谷 康浩
(72)【発明者】
【氏名】楠田 和哉
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-267107(JP,A)
【文献】特開2010-267866(JP,A)
【文献】特開平11-168034(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221096(WO,A1)
【文献】特開2005-045007(JP,A)
【文献】特開2005-216929(JP,A)
【文献】特開2011-155236(JP,A)
【文献】特開2018-032768(JP,A)
【文献】特開2002-025863(JP,A)
【文献】特開2010-177467(JP,A)
【文献】特開2014-041933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/055
H01G 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層を少なくとも一方の主面に有する弁作用金属基体と、
前記誘電体層上に設けられ、前記弁作用金属基体を陽極部及び陰極部に分離する絶縁マスク層と、
前記陰極部の前記誘電体層上に設けられる固体電解質層と、
前記固体電解質層上に設けられるカーボン層と、
前記カーボン層上に設けられる陰極導体層と、を備え、
前記固体電解質層は、先端が前記絶縁マスク層の外表面の少なくとも一部を覆うように設けられ、
前記陰極部において前記絶縁マスク層に接する領域に設けられる前記固体電解質層の厚みが、前記陰極部の中央領域に設けられる前記固体電解質層の厚みよりも小さく、
前記カーボン層は、先端が前記絶縁マスク層の外表面において前記固体電解質層の先端と同じ位置又は前記固体電解質層の先端よりも陰極部側の位置を覆うように設けられ、
前記陰極導体層は、先端が前記絶縁マスク層の外表面において前記カーボン層の先端よりも陰極部側の位置を覆うように設けられ、
前記陰極部には、前記陰極導体層が前記カーボン層の一部を覆わない陰極導体層非形成領域が存在する、固体電解コンデンサ素子。
【請求項2】
前記弁作用金属基体の主面の法線方向から見たとき、前記陰極導体層は、先端の中央部が前記絶縁マスク層上に位置し、かつ、先端の両端部が前記陰極部上に位置するように設けられている、請求項1に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項3】
前記弁作用金属基体の主面の法線方向から見たとき、前記陰極導体層は、先端の両端部から先端の中央部に向かって前記絶縁マスク層に近づくように設けられている、請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項4】
前記固体電解質層は、前記誘電体層上に設けられる第1固体電解質層と、前記第1固体電解質層上に設けられる第2固体電解質層と、を含み、
前記第1固体電解質層における導電性高分子の含有量よりも前記第2固体電解質層における導電性高分子の含有量が多い、請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項5】
前記陰極導体層は、銀層である、請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサ素子と、
前記固体電解コンデンサ素子を封止する外装体と、
前記外装体から露出する前記固体電解コンデンサ素子の前記弁作用金属基体と電気的に接続される第1外部電極と、
前記外装体から露出する前記固体電解コンデンサ素子の前記陰極導体層と電気的に接続される第2外部電極と、を備える、固体電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ素子及び固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、微細孔を有する弁作用金属表面に形成された誘電体酸化皮膜上に導電性重合体を含む固体電解質層を設けた固体電解コンデンサ素子であって、固体電解質層の表面にカーボンペースト層及び高導電性ペースト層が重ねて形成されたコンデンサ素子の断面において、固体電解質層が陰極と陽極を分離する絶縁物層の陰極側の外表面の一部を覆い、その表面を高導電性ペースト層が当該絶縁物層の陰極部の境界を水平方向に空間的に越えた位置まで形成されている構造を含むことを特徴とする固体電解コンデンサ素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、(1)固体電解質層を、陽極と陰極を分離する弁作用金属の外表面に形成された絶縁物層の一部を覆う形態とし、かつ(2)高導電性ペーストを、陽極と陰極を分離する弁作用金属の外表面に形成された絶縁物層の陰極部の境界を空間的に越えるように塗布した形態とした構造とすることによって、固体電解コンデンサの漏れ電流不良が増加することなく等価直列抵抗を低下させることが可能であるとされている。
【0005】
特許文献1の表2には、実施例において、絶縁物層の陰極側の外表面に固体電解質層を形成し、さらに、その上にカーボンペースト層及び高導電性ペースト層を形成することにより等価直列抵抗が低下していることが示されている。しかしながら、特許文献1の表1には、実施例と比較例で漏れ電流に大きな差異がないことが示されている。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、等価直列抵抗が低く、かつ、漏れ電流不良の少ない固体電解コンデンサ素子を提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記固体電解コンデンサ素子を備える固体電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の固体電解コンデンサ素子は、誘電体層を少なくとも一方の主面に有する弁作用金属基体と、上記誘電体層上に設けられ、上記弁作用金属基体を陽極部及び陰極部に分離する絶縁マスク層と、上記陰極部の上記誘電体層上に設けられる固体電解質層と、上記固体電解質層上に設けられるカーボン層と、上記カーボン層上に設けられる陰極導体層と、を備える。上記固体電解質層は、先端が上記絶縁マスク層の外表面の少なくとも一部を覆うように設けられ、上記カーボン層は、先端が上記絶縁マスク層の外表面において上記固体電解質層の先端と同じ位置又は上記固体電解質層の先端よりも陰極部側の位置を覆うように設けられ、上記陰極導体層は、先端が上記絶縁マスク層の外表面において上記カーボン層の先端よりも陰極部側の位置を覆うように設けられる。上記陰極部には、上記陰極導体層が上記カーボン層の一部を覆わない陰極導体層非形成領域が存在する。
【0008】
本発明の固体電解コンデンサは、本発明の固体電解コンデンサ素子と、上記固体電解コンデンサ素子を封止する外装体と、上記外装体から露出する上記固体電解コンデンサ素子の上記弁作用金属基体と電気的に接続される第1外部電極と、上記外装体から露出する上記固体電解コンデンサ素子の上記陰極導体層と電気的に接続される第2外部電極と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、等価直列抵抗が低く、かつ、漏れ電流不良の少ない固体電解コンデンサ素子を提供することができる。さらに、本発明によれば、上記固体電解コンデンサ素子を備える固体電解コンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る固体電解コンデンサ素子の一例を模式的に示す平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す固体電解コンデンサ素子のX-X線に沿った断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す固体電解コンデンサ素子のY-Y線に沿った断面図である。
【
図4】
図4Aは、
図1に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層及び絶縁マスク層の一例を模式的に示す平面図である。
図4Bは、
図1に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層、絶縁マスク層及び固体電解質層の一例を模式的に示す平面図である。
図4Cは、
図1に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層、絶縁マスク層、固体電解質層及びカーボン層の一例を模式的に示す平面図である。
【
図5】
図5は、
図2に示す固体電解コンデンサ素子のV部を拡大した断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第2実施形態に係る固体電解コンデンサ素子の一例を模式的に示す平面図である。
【
図7】
図7は、
図6に示す固体電解コンデンサ素子のX-X線に沿った断面図である。
【
図8】
図8は、
図6に示す固体電解コンデンサ素子のY-Y線に沿った断面図である。
【
図9】
図9Aは、
図6に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層及び絶縁マスク層の一例を模式的に示す平面図である。
図9Bは、
図6に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層、絶縁マスク層及び固体電解質層の一例を模式的に示す平面図である。
図9Cは、
図6に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層、絶縁マスク層、固体電解質層及びカーボン層の一例を模式的に示す平面図である。
【
図10】
図10は、本発明の第3実施形態に係る固体電解コンデンサ素子の一例を模式的に示す平面図である。
【
図13】
図13Aは、
図10に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層及び絶縁マスク層の一例を模式的に示す平面図である。
図13Bは、
図10に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層、絶縁マスク層及び固体電解質層の一例を模式的に示す平面図である。
図13Cは、
図10に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層、絶縁マスク層、固体電解質層及びカーボン層の一例を模式的に示す平面図である。
【
図14】
図14は、絶縁マスク層が形成された弁作用金属基体を準備する工程の一例を示す模式図である。
【
図15】
図15は、固体電解質層を形成する工程の一例を示す模式図である。
【
図16】
図16は、固体電解質層を形成した後の素子部の一例を模式的に示す平面図である。
【
図18】
図18は、本発明の固体電解コンデンサの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図20】
図20は、比較例に係る固体電解コンデンサ素子の一例を模式的に示す平面図である。
【
図22】
図22Aは、
図20に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層及び絶縁マスク層の一例を模式的に示す平面図である。
図22Bは、
図20に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層、絶縁マスク層及び固体電解質層の一例を模式的に示す平面図である。
図22Cは、
図20に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層、絶縁マスク層、固体電解質層及びカーボン層の一例を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の固体電解コンデンサ素子及び固体電解コンデンサについて説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0012】
[固体電解コンデンサ素子]
本発明の固体電解コンデンサ素子は、誘電体層を少なくとも一方の主面に有する弁作用金属基体と、誘電体層上に設けられ、弁作用金属基体を陽極部及び陰極部に分離する絶縁マスク層と、陰極部の誘電体層上に設けられる固体電解質層と、固体電解質層上に設けられるカーボン層と、カーボン層上に設けられる陰極導体層と、を備える。
【0013】
本発明の固体電解コンデンサ素子では、固体電解質層は、先端が絶縁マスク層の外表面の少なくとも一部を覆うように設けられ、カーボン層は、先端が絶縁マスク層の外表面において固体電解質層の先端と同じ位置又は固体電解質層の先端よりも陰極部側(
図1、
図6及び
図10の矢印A側)の位置を覆うように設けられ、陰極導体層は、先端が絶縁マスク層の外表面においてカーボン層の先端よりも陰極部側の位置を覆うように設けられる。これにより、等価直列抵抗を低くすることができる。
【0014】
さらに、本発明の固体電解コンデンサ素子では、陰極部には、陰極導体層がカーボン層の一部を覆わない陰極導体層非形成領域が存在する。これにより、漏れ電流不良を低減することができる。
【0015】
例えば、浸漬法(ディップ法)により固体電解質層を形成する場合、自重により固体電解質層が絶縁マスク層の近傍から下方に垂れ下がることにより、陰極部における絶縁マスク層の近傍の固体電解質層の厚みが陰極部の中央領域における固体電解質層の厚みよりも小さくなる。本発明者らが検討した結果、固体電解質層の薄い箇所に銀層などの陰極導体層が形成されると、陰極導体層が固体電解質層を通過して誘電体層に接触し、トンネル電流により導通してショートする、あるいは漏れ電流が大きくなるおそれがあることが判明した。そこで、本発明者らは、固体電解質層の薄い箇所に陰極導体層が形成されなければ、等価直列抵抗を低くできるとともに、漏れ電流不良を低減できると考えた。
【0016】
上述のとおり、本発明の固体電解コンデンサ素子では、固体電解質層は、陰極部を覆うとともに絶縁マスク層の外表面の少なくとも一部を覆うように設けられ、カーボン層は、陰極部を覆うとともに絶縁マスク層の外表面において固体電解質層の少なくとも一部を覆うように設けられ、陰極導体層は、陰極部を覆うとともに絶縁マスク層の外表面においてカーボン層の少なくとも一部を覆うように設けられ、かつ、陰極導体層がカーボン層の一部を覆わない陰極導体層非形成領域が陰極部に存在することにより、等価直列抵抗を低く、かつ、漏れ電流不良を少なくすることができる。
【0017】
以下に示す各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもない。第2実施形態以降では、第1実施形態と共通の事項についての記述は省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態毎には逐次言及しない。
【0018】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る固体電解コンデンサ素子では、カーボン層の弧状の先端が固体電解質層の弧状の先端よりも陰極部側の位置にあり、かつ、陰極導体層の弧状の先端がカーボン層の弧状の先端よりも陰極部側の位置にある。以下、特に断りのない限り、固体電解質層、カーボン層及び陰極導体層の弧状の先端を、単に先端と記述する。
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態に係る固体電解コンデンサ素子の一例を模式的に示す平面図である。
図2は、
図1に示す固体電解コンデンサ素子のX-X線に沿った断面図である。
図3は、
図1に示す固体電解コンデンサ素子のY-Y線に沿った断面図である。
【0020】
図1、
図2及び
図3に示す固体電解コンデンサ素子1は、誘電体層20を表面に有する弁作用金属基体10と、誘電体層20上に設けられる絶縁マスク層30と、誘電体層20上に設けられる固体電解質層40と、固体電解質層40上に設けられるカーボン層50と、カーボン層50上に設けられる陰極導体層60と、を備える。
【0021】
図4Aは、
図1に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層及び絶縁マスク層の一例を模式的に示す平面図である。
図4Bは、
図1に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層、絶縁マスク層及び固体電解質層の一例を模式的に示す平面図である。
図4Cは、
図1に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層、絶縁マスク層、固体電解質層及びカーボン層の一例を模式的に示す平面図である。
【0022】
図1、
図2、
図3及び
図4Aに示すように、誘電体層20上には、所定幅の絶縁マスク層30が周設されている。絶縁マスク層30は、弁作用金属基体10の短辺に沿うように、弁作用金属基体10の両主面及び両側面に設けられている。絶縁マスク層30によって、弁作用金属基体10が陽極部31及び陰極部32に分離されている。
【0023】
図1、
図2、
図3及び
図4Bに示すように、固体電解質層40は、陰極部32の誘電体層20上に設けられている。固体電解質層40は、先端40aが絶縁マスク層30の外表面を覆うように設けられている。固体電解質層40は、絶縁マスク層30の外表面の一部を覆うように設けられていてもよく、絶縁マスク層30の外表面の全体を覆うように設けられていてもよい。
【0024】
図1、
図2、
図3及び
図4Cに示すように、カーボン層50は、先端50aが絶縁マスク層30の外表面において固体電解質層40の先端40aよりも陰極部32側の位置を覆うように設けられている。
【0025】
図1及び
図2に示すように、陰極導体層60は、先端60aが絶縁マスク層30の外表面においてカーボン層50の先端50aよりも陰極部32側の位置を覆うように設けられている。
【0026】
その一方で、
図1及び
図3に示すように、陰極部32には、陰極導体層60がカーボン層50の一部を覆わない陰極導体層非形成領域A1及びA2が存在する。
【0027】
図1に示すように、弁作用金属基体10の主面の法線方向から見たとき、陰極導体層60は、先端60aの中央部が絶縁マスク層30上に位置し、かつ、先端60aの両端部が陰極部32上に位置するように設けられていることが好ましい。また、弁作用金属基体10の主面の法線方向から見たとき、陰極導体層60は、先端60aの両端部から先端60aの中央部に向かって絶縁マスク層30に近づくように設けられていることが好ましい。
【0028】
弁作用金属基体10の主面の法線方向から見た弁作用金属基体10の形状、すなわち、弁作用金属基体10を厚み方向から平面視した形状は四角形状であり、好ましくは、長辺及び短辺を有する矩形状である。
【0029】
図5は、
図2に示す固体電解コンデンサ素子のV部を拡大した断面図である。
【0030】
弁作用金属基体10の主面には、
図5に示すように、複数の凹部が設けられている。そのため、弁作用金属基体10の主面は、多孔質状になっている。弁作用金属基体10の主面が多孔質状になっていることにより、弁作用金属基体10の表面積が大きくなっている。なお、弁作用金属基体10の表面及び裏面の両方が多孔質状である場合に限られず、弁作用金属基体10の表面及び裏面の一方のみが多孔質状であってもよい。
【0031】
弁作用金属基体10は、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム等の金属単体、又は、これらの金属の少なくとも一種を含む合金等の弁作用金属によって構成されている。弁作用金属の表面には、酸化被膜を形成することができる。
【0032】
なお、弁作用金属基体10は、芯部と当該芯部の少なくとも一方の主面に設けられた多孔質部とによって構成されていればよく、金属箔の表面をエッチングしたもの、金属箔の表面に多孔質状の微粉焼結体を形成したもの等を適宜採用することができる。
【0033】
誘電体層20は、弁作用金属基体10の少なくとも一方の主面に設けられている。誘電体層20は、上記弁作用金属の表面に設けられた酸化被膜によって構成されていることが好ましい。例えば、誘電体層20は、アルミニウムの酸化物で構成されている。アルミニウムの酸化物は、後述するように、弁作用金属基体10の表面が陽極酸化処理されることにより形成される。
【0034】
絶縁マスク層30は、誘電体層20上に設けられている。
図5に示すように、絶縁マスク層30は、弁作用金属基体10の複数の細孔(凹部)を充填するように設けられていることが好ましい。ただし、絶縁マスク層30によって誘電体層20の外表面の一部が覆われていればよく、絶縁マスク層30によって充填されていない弁作用金属基体10の細孔(凹部)が存在していてもよい。
【0035】
絶縁マスク層30は、例えば、絶縁性樹脂を含む組成物などのマスク材を塗布して形成される。絶縁性樹脂としては、例えば、ポリフェニルスルホン(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、シアン酸エステル樹脂、フッ素樹脂(テトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体など)、可溶性ポリイミドシロキサンとエポキシ樹脂からなる組成物、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、及び、それらの誘導体又は前駆体等が挙げられる。
【0036】
マスク材の塗布は、例えば、スクリーン印刷、ローラー転写、ディスペンサ塗布、インクジェット印刷等の方法により行うことができる。
【0037】
固体電解質層40は、誘電体層20上に設けられている。
図5に示すように、固体電解質層40は、弁作用金属基体10の複数の細孔(凹部)を充填するように設けられていることが好ましい。ただし、固体電解質層40によって誘電体層20の外表面の一部が覆われていればよく、固体電解質層40によって充填されていない弁作用金属基体10の細孔(凹部)が存在していてもよい。
【0038】
固体電解質層40を構成する材料としては、例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアニリン類等の導電性高分子等が用いられる。これらの中では、ポリチオフェン類が好ましく、PEDOTと呼ばれるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。また、上記導電性高分子は、ポリスチレンスルホン酸(PSS)等のドーパントを含んでいてもよい。
【0039】
固体電解質層40は、例えば、3,4-エチレンジオキシチオフェン等の重合性モノマーの含有液を用いて、誘電体層20の表面にポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)等の導電性高分子の重合膜を形成する方法や、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)等の導電性高分子の分散液を誘電体層20の表面に塗布して乾燥させる方法等によって形成される。
【0040】
なお、弁作用金属基体10の細孔(凹部)を充填する内層を形成した後、誘電体層20全体を被覆する外層を形成することが好ましい。内層の形成は、例えば、浸漬法、スポンジ転写、スクリーン印刷、ディスペンサ塗布、インクジェット印刷等の方法により行うことができる。同様に、外層の形成は、例えば、浸漬法、スポンジ転写、スクリーン印刷、ディスペンサ塗布、インクジェット印刷等の方法により行うことができる。
【0041】
カーボン層50は、固体電解質層40上に設けられている。カーボン層50は、例えば、カーボンペーストを固体電解質層40の表面に塗布して乾燥させる方法等によって形成される。
【0042】
カーボンペーストの塗布は、例えば、浸漬法、スポンジ転写、スクリーン印刷、スプレー塗布、ディスペンサ塗布、インクジェット印刷等の方法により行うことができる。
【0043】
陰極導体層60は、カーボン層50上に設けられている。陰極導体層60は、例えば、金、銀、銅、白金等の金属を含む導電性ペーストをカーボン層50の表面に塗布して乾燥させる方法等によって形成される。陰極導体層60は、銀層であることが好ましい。
【0044】
導電性ペーストの塗布は、例えば、浸漬法、スポンジ転写、スクリーン印刷、スプレー塗布、ディスペンサ塗布、インクジェット印刷等の方法により行うことができる。
【0045】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る固体電解コンデンサ素子では、カーボン層の先端が固体電解質層の先端と同じ位置にあり、かつ、陰極導体層の先端がカーボン層の先端よりも陰極部側の位置にある。ただし、陰極導体層の弧状の先端の頂部は、カーボン層の弧状の先端の頂部と同じ位置にある。
【0046】
図6は、本発明の第2実施形態に係る固体電解コンデンサ素子の一例を模式的に示す平面図である。
図7は、
図6に示す固体電解コンデンサ素子のX-X線に沿った断面図である。
図8は、
図6に示す固体電解コンデンサ素子のY-Y線に沿った断面図である。
【0047】
図6、
図7及び
図8に示す固体電解コンデンサ素子2は、誘電体層20を表面に有する弁作用金属基体10と、誘電体層20上に設けられる絶縁マスク層30と、誘電体層20上に設けられる固体電解質層40と、固体電解質層40上に設けられるカーボン層50と、カーボン層50上に設けられる陰極導体層60と、を備える。
【0048】
図9Aは、
図6に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層及び絶縁マスク層の一例を模式的に示す平面図である。
図9Bは、
図6に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層、絶縁マスク層及び固体電解質層の一例を模式的に示す平面図である。
図9Cは、
図6に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層、絶縁マスク層、固体電解質層及びカーボン層の一例を模式的に示す平面図である。
【0049】
図6、
図7、
図8及び
図9Aに示すように、誘電体層20上には、所定幅の絶縁マスク層30が周設されている。絶縁マスク層30は、弁作用金属基体10の短辺に沿うように、弁作用金属基体10の両主面及び両側面に設けられている。絶縁マスク層30によって、弁作用金属基体10が陽極部31及び陰極部32に分離されている。
【0050】
図6、
図7、
図8及び
図9Bに示すように、固体電解質層40は、陰極部32の誘電体層20上に設けられている。固体電解質層40は、先端40aが絶縁マスク層30の外表面を覆うように設けられている。固体電解質層40は、絶縁マスク層30の外表面の一部を覆うように設けられていてもよく、絶縁マスク層30の外表面の全体を覆うように設けられていてもよい。
【0051】
図6、
図7、
図8及び
図9Cに示すように、カーボン層50は、先端50aが絶縁マスク層30の外表面において固体電解質層40の先端40aと同じ位置を覆うように設けられている。
【0052】
図6及び
図7に示すように、陰極導体層60は、先端60aが絶縁マスク層30の外表面においてカーボン層50の先端50aよりも陰極部32側の位置を覆うように設けられている。ただし、陰極導体層60の先端60aの頂部は、カーボン層50の先端50aの頂部と同じ位置にある。
【0053】
その一方で、
図6及び
図8に示すように、陰極部32には、陰極導体層60がカーボン層50の一部を覆わない陰極導体層非形成領域A1及びA2が存在する。
【0054】
図6に示すように、弁作用金属基体10の主面の法線方向から見たとき、陰極導体層60は、先端60aの中央部が絶縁マスク層30上に位置し、かつ、先端60aの両端部が陰極部32上に位置するように設けられていることが好ましい。また、弁作用金属基体10の主面の法線方向から見たとき、陰極導体層60は、先端60aの両端部から先端60aの中央部に向かって絶縁マスク層30に近づくように設けられていることが好ましい。
【0055】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態に係る固体電解コンデンサ素子では、カーボン層の先端が固体電解質層の先端よりも陰極部側の位置にあり、かつ、陰極導体層の先端がカーボン層の先端よりも陰極部側の位置にある。ただし、陰極導体層の弧状の先端の頂部は、カーボン層の弧状の先端の頂部と同じ位置にある。
【0056】
図10は、本発明の第3実施形態に係る固体電解コンデンサ素子の一例を模式的に示す平面図である。
図11は、
図10に示す固体電解コンデンサ素子のX-X線に沿った断面図である。
図12は、
図10に示す固体電解コンデンサ素子のY-Y線に沿った断面図である。
【0057】
図10、
図11及び
図12に示す固体電解コンデンサ素子3は、誘電体層20を表面に有する弁作用金属基体10と、誘電体層20上に設けられる絶縁マスク層30と、誘電体層20上に設けられる固体電解質層40と、固体電解質層40上に設けられるカーボン層50と、カーボン層50上に設けられる陰極導体層60と、を備える。
【0058】
図13Aは、
図10に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層及び絶縁マスク層の一例を模式的に示す平面図である。
図13Bは、
図10に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層、絶縁マスク層及び固体電解質層の一例を模式的に示す平面図である。
図13Cは、
図10に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層、絶縁マスク層、固体電解質層及びカーボン層の一例を模式的に示す平面図である。
【0059】
図10、
図11、
図12及び
図13Aに示すように、誘電体層20上には、所定幅の絶縁マスク層30が周設されている。絶縁マスク層30は、弁作用金属基体10の短辺に沿うように、弁作用金属基体10の両主面及び両側面に設けられている。絶縁マスク層30によって、弁作用金属基体10が陽極部31及び陰極部32に分離されている。
【0060】
図10、
図11、
図12及び
図13Bに示すように、固体電解質層40は、陰極部32の誘電体層20上に設けられている。固体電解質層40は、先端40aが絶縁マスク層30の外表面を覆うように設けられている。固体電解質層40は、絶縁マスク層30の外表面の一部を覆うように設けられていてもよく、絶縁マスク層30の外表面の全体を覆うように設けられていてもよい。
【0061】
図10、
図11、
図12及び
図13Cに示すように、カーボン層50は、先端50aが絶縁マスク層30の外表面において固体電解質層40の先端40aよりも陰極部32側の位置を覆うように設けられている。
【0062】
図10及び
図11に示すように、陰極導体層60は、先端60aが絶縁マスク層30の外表面においてカーボン層50の先端50aよりも陰極部32側の位置を覆うように設けられている。ただし、陰極導体層60の先端60aの頂部は、カーボン層50の先端50aの頂部と同じ位置にある。
【0063】
その一方で、
図10及び
図12に示すように、陰極部32には、陰極導体層60がカーボン層50の一部を覆わない陰極導体層非形成領域A1及びA2が存在する。
【0064】
図10に示すように、弁作用金属基体10の主面の法線方向から見たとき、陰極導体層60は、先端60aの中央部が絶縁マスク層30上に位置し、かつ、先端60aの両端部が陰極部32上に位置するように設けられていることが好ましい。また、弁作用金属基体10の主面の法線方向から見たとき、陰極導体層60は、先端60aの両端部から先端60aの中央部に向かって絶縁マスク層30に近づくように設けられていることが好ましい。
【0065】
第1実施形態~第3実施形態のように、カーボン層の弧状の先端が固体電解質層の弧状の先端よりも陰極部側の位置にあり、かつ、陰極導体層の弧状の先端がカーボン層の弧状の先端よりも陰極部側の位置にあってもよく、あるいは、カーボン層の弧状の先端が固体電解質層の弧状の先端と同じ位置にあり、かつ、陰極導体層の弧状の先端がカーボン層の弧状の先端よりも陰極部側の位置にあってもよい。
【0066】
本発明の固体電解コンデンサ素子は、例えば、以下の方法により製造される。以下の例では、大判の弁作用金属基体を用いて、複数の固体電解コンデンサ素子を同時に製造する方法について説明する。
【0067】
図14は、絶縁マスク層が形成された弁作用金属基体を準備する工程の一例を示す模式図である。
【0068】
図14に示すように、誘電体層20を表面に有する弁作用金属基体10Aを準備する。弁作用金属基体10Aは、複数の素子部11と支持部12とを含む。各々の素子部11は短冊状であり、支持部12から突出している。また、各々の素子部11の誘電体層20上には絶縁マスク層30が形成されている。
【0069】
まず、表面に多孔質部を有する弁作用金属基体10Aをレーザー加工又は打ち抜き加工などで切断することにより、複数の素子部11と支持部12とを含む形状に加工する。
【0070】
次に、各々の素子部11の短辺に沿うように、素子部11の両主面及び両側面に絶縁マスク層30を形成する。
【0071】
その後、弁作用金属基体10Aに陽極酸化処理を行うことにより、弁作用金属基体10Aの表面に誘電体層20となる酸化被膜を形成する。この際、レーザー加工又は打ち抜き加工などで切断された素子部11の側面にも酸化被膜が形成される。なお、すでにアルミニウムの酸化物が形成されている化成箔を弁作用金属基体10Aとして用いてもよい。この場合も、切断後の弁作用金属基体10Aに陽極酸化処理を行うことにより、切断された素子部11の側面に酸化被膜を形成する。
【0072】
図15は、固体電解質層を形成する工程の一例を示す模式図である。
【0073】
素子部11の誘電体層20上に固体電解質層40(
図4B等参照)を形成する。
図15に示すように、固体電解質を含有する処理液を浸漬法によって弁作用金属基体10Aに塗布することが好ましい。
図15には、固体電解質を含有する処理液70が処理槽75に供給されている状態が示されている。
【0074】
固体電解質を含有する処理液70として、例えば、導電性高分子の分散液が用いられる。導電性高分子の分散液を誘電体層20の外表面に付着し乾燥させることで、導電性高分子膜を形成することができる。あるいは、固体電解質を含有する処理液70として、重合性モノマー、例えば3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤との含有液が用いられてもよい。重合性モノマーの含有液を誘電体層20の外表面に付着させて、化学重合により導電性高分子膜を形成することができる。この導電性高分子膜が、固体電解質層40となる。
【0075】
図15に示すように、弁作用金属基体10Aを処理液70に浸漬することにより、処理液70が弁作用金属基体10Aの多孔質部に含浸される。所定時間の浸漬後、弁作用金属基体10Aを処理液70から引き上げ、所定温度及び所定時間で乾燥させる。処理液70への浸漬、引き上げ及び乾燥を所定回数繰り返すことにより、固体電解質層40が形成される。
【0076】
例えば、導電性高分子を含む第1の分散液に弁作用金属基体10Aを浸漬、引き上げ及び乾燥することにより、第1固体電解質層を形成する。第1の分散液への浸漬、引き上げ及び乾燥は複数回行う。
【0077】
第1固体電解質層を形成した後、プライマー化合物を含む溶液に弁作用金属基体10Aを浸漬、引き上げ及び乾燥することにより、プライマー層を形成してもよい。
【0078】
その後、導電性高分子を含む第2の分散液に弁作用金属基体10Aを浸漬、引き上げ及び乾燥することにより、第2固体電解質層を形成する。この際、第2の分散液における導電性高分子の濃度は、第1の分散液における導電性高分子の濃度よりも高いことが好ましい。
【0079】
上記の方法により形成される固体電解質層は、誘電体層上に設けられる第1固体電解質層と、上記第1固体電解質層上に設けられる第2固体電解質層と、を含み、上記第1固体電解質層における導電性高分子の含有量よりも上記第2固体電解質層における導電性高分子の含有量が多くなる。
【0080】
弁作用金属基体10Aを純水で洗浄し、余剰のプライマー化合物を除去する。洗浄後、乾燥処理を行う。以上により、固体電解質層40を所定の領域に形成する。
【0081】
図16は、固体電解質層を形成した後の素子部の一例を模式的に示す平面図である。
図17は、
図16に示す素子部のX-X線に沿った断面図である。
【0082】
図16及び
図17に示すように、陰極部32の中央領域に設けられる固体電解質層40bの厚みよりも、陰極部32において絶縁マスク層30に接する領域に設けられる固体電解質層40cの厚みが大きいことが好ましい。
【0083】
上述のとおり、陰極部32における絶縁マスク層30の近傍の固体電解質層40cの厚みが陰極部32の中央領域における固体電解質層40bの厚みよりも小さいと、トンネル電流により導通してショートする、あるいは漏れ電流が大きくなるおそれがある。これに対し、
図16及び
図17に示すように、陰極部32における絶縁マスク層30の近傍の固体電解質層40cの厚みを陰極部32の中央領域における固体電解質層40bの厚みよりも大きくすることで、ショートが発生しにくくなるとともに、漏れ電流不良を低減することができる。
【0084】
固体電解質層40を形成した後、カーボンペーストに弁作用金属基体10Aを浸漬、引き上げ及び乾燥することにより、カーボン層50(
図4C等参照)を所定の領域に形成する。
【0085】
カーボン層50を形成した後、銀ペースト等の導電性ペーストに弁作用金属基体10Aを浸漬、引き上げ及び乾燥することにより、陰極導体層60(
図1等参照)を所定の領域に形成する。
【0086】
弁作用金属基体10Aを切断して、素子部11を分離する。
【0087】
以上の工程を経て、固体電解コンデンサ素子が得られる。
【0088】
[固体電解コンデンサ]
以下、本発明の固体電解コンデンサ素子を含む固体電解コンデンサの一例について説明する。なお、本発明の固体電解コンデンサ素子は、他の構成を有する固体電解コンデンサに含まれてもよい。例えば、リードフレームが外部電極として用いられてもよい。また、本発明の固体電解コンデンサには、本発明の固体電解コンデンサ素子以外の固体電解コンデンサ素子が含まれてもよい。
【0089】
図18は、本発明の固体電解コンデンサの一例を模式的に示す斜視図である。
図19は、
図18に示す固体電解コンデンサのZ-Z線に沿った断面図である。
【0090】
図18及び
図19においては、固体電解コンデンサ100及び外装体110の長さ方向をL、幅方向をW、高さ方向をTで示している。ここで、長さ方向Lと幅方向Wと高さ方向Tとは互いに直交している。
【0091】
図18及び
図19に示すように、固体電解コンデンサ100は、略直方体状の外形を有している。固体電解コンデンサ100は、外装体110と、第1外部電極120と、第2外部電極130と、複数の固体電解コンデンサ素子1と、を備える。固体電解コンデンサ素子1は、本発明の固体電解コンデンサ素子の一例である。
【0092】
外装体110は、複数の固体電解コンデンサ素子1を封止している。すなわち、外装体110には、複数の固体電解コンデンサ素子1が埋設されている。なお、外装体110は、1つの固体電解コンデンサ素子1を封止していてもよい。すなわち、外装体110の内部には、1つの固体電解コンデンサ素子1が埋設されていてもよい。
【0093】
外装体110は、略直方体状の外形を有している。外装体110は、高さ方向Tにおいて相対する第1主面110a及び第2主面110b、幅方向Wにおいて相対する第1側面110c及び第2側面110d、並びに、長さ方向Lにおいて相対する第1端面110e及び第2端面110fを有している。
【0094】
上記のように外装体110は、略直方体状の外形を有しているが、角部及び稜線部に丸みが付けられていることが好ましい。角部は、外装体110の3面が交わる部分であり、稜線部は、外装体110の2面が交わる部分である。
【0095】
外装体110は、例えば、封止樹脂から構成される。
【0096】
封止樹脂は、少なくとも樹脂を含み、樹脂及びフィラーを含むことが好ましい。
【0097】
樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、液晶ポリマー等が好ましく用いられる。
【0098】
フィラーとしては、シリカ粒子、アルミナ粒子、金属粒子等が好ましく用いられる。
【0099】
封止樹脂としては、固形エポキシ樹脂とフェノール樹脂とシリカ粒子とを含む材料が好ましく用いられる。
【0100】
固形の封止樹脂を用いる場合、コンプレッションモールド、トランスファーモールド等の樹脂モールドが好ましく用いられ、コンプレッションモールドがより好ましく用いられる。また、液状の封止樹脂を用いる場合、ディスペンス法、印刷法等の成形方法が好ましく用いられる。中でも、コンプレッションモールドにより固体電解コンデンサ素子1の周囲を封止樹脂で封止して、外装体110を形成することが好ましい。
【0101】
外装体110は、基板と、基板上に設けられた封止樹脂とから構成されてもよい。基板は、例えば、ガラスエポキシ基板等の絶縁性樹脂基板である。この場合、基板の底面が、外装体110の第2主面110bを構成する。基板の厚さは、例えば、100μmである。
【0102】
複数の固体電解コンデンサ素子1は、高さ方向Tに積層されている。複数の固体電解コンデンサ素子1の各々の延在方向は、外装体110の第1主面110a及び第2主面110bと略平行となっている。固体電解コンデンサ素子1同士は、導電性接着剤を介して互いに接合されていてもよい。
【0103】
第1外部電極120は、外装体110の第1端面110eに設けられている。
図18では、第1外部電極120は、外装体110の第1端面110eから、第1主面110a、第2主面110b、第1側面110c及び第2側面110dの各々に亘って設けられている。第1外部電極120は、外装体110から露出する固体電解コンデンサ素子1の弁作用金属基体10と電気的に接続されている。第1外部電極120は、外装体110の第1端面110eにおいて弁作用金属基体10と直接的に接続されてもよく、間接的に接続されてもよい。
【0104】
第2外部電極130は、外装体110の第2端面110fに設けられている。
図18では、第2外部電極130は、外装体110の第2端面110fから、第1主面110a、第2主面110b、第1側面110c及び第2側面110dの各々に亘って設けられている。第2外部電極130は、外装体110から露出する固体電解コンデンサ素子1の陰極導体層60と電気的に接続されている。第2外部電極130は、外装体110の第2端面110fにおいて陰極導体層60と直接的に接続されてもよく、間接的に接続されてもよい。
【0105】
第1外部電極120及び第2外部電極130は、各々、浸漬塗布法、スクリーン印刷法、転写法、インクジェット印刷法、ディスペンス法、スプレーコート法、刷毛塗り法、ドロップキャスト法、静電塗装法、めっき法、及び、スパッタ法からなる群より選択される少なくとも1種の方法により形成されることが好ましい。
【0106】
第1外部電極120は、導電成分と樹脂成分とを含む樹脂電極層を有することが好ましい。第1外部電極120が樹脂成分を含むことにより、第1外部電極120と外装体110の封止樹脂との密着性が高まるため、信頼性が向上する。
【0107】
第2外部電極130は、導電成分と樹脂成分とを含む樹脂電極層を有することが好ましい。第2外部電極130が樹脂成分を含むことにより、第2外部電極130と外装体110の封止樹脂との密着性が高まるため、信頼性が向上する。
【0108】
導電成分は、銀、銅、ニッケル、錫等の金属単体、又は、これらの金属の少なくとも1種を含有する合金等を主成分として含むことが好ましい。
【0109】
樹脂成分は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等を主成分として含むことが好ましい。
【0110】
樹脂電極層は、例えば、浸漬塗布法、スクリーン印刷法、転写法、インクジェット印刷法、ディスペンス法、スプレーコート法、刷毛塗り法、ドロップキャスト法、静電塗装法等の方法により形成される。中でも、樹脂電極層は、スクリーン印刷法で導電性ペーストを塗工することにより形成された印刷樹脂電極層であることが好ましい。樹脂電極層が、スクリーン印刷法で導電性ペーストを塗工することにより形成される場合、浸漬塗布法で導電性ペーストを塗工することにより形成される場合と比較して、第1外部電極120及び第2外部電極130が平坦になりやすい。すなわち、第1外部電極120及び第2外部電極130の厚みが均一になりやすい。
【0111】
第2外部電極130が樹脂電極層を有する場合、第2外部電極130、カーボン層50及び陰極導体層60が樹脂成分を含むことにより、第2外部電極130とカーボン層50との密着性及び第2外部電極130と陰極導体層60との密着性が高まるため、信頼性が向上する。
【0112】
第1外部電極120及び第2外部電極130の少なくとも一方は、めっき法により形成される、いわゆるめっき層を有していてもよい。めっき層としては、例えば、亜鉛・銀・ニッケル層、銀・ニッケル層、ニッケル層、亜鉛・ニッケル・金層、ニッケル・金層、亜鉛・ニッケル・銅層、ニッケル・銅層等が挙げられる。これらのめっき層上には、例えば、銅めっき層と、ニッケルめっき層と、錫めっき層とが順に(あるいは、一部のめっき層を除いて)設けられることが好ましい。
【0113】
第1外部電極120及び第2外部電極130の少なくとも一方は、樹脂電極層及びめっき層をともに有していてもよい。例えば、第1外部電極120は、弁作用金属基体10に接続された樹脂電極層と、樹脂電極層の表面上に設けられた外層めっき層と、を有していてもよい。また、第1外部電極120は、弁作用金属基体10に接続された内層めっき層と、内層めっき層を覆うように設けられた樹脂電極層と、樹脂電極層の表面上に設けられた外層めっき層と、を有していてもよい。
【実施例】
【0114】
以下、本発明の固体電解コンデンサ素子をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0115】
[固体電解コンデンサ素子の作製]
(実施例)
実施例1~10として、
図1、
図2及び
図3に示す固体電解コンデンサ素子1を合計10個作製した。作製方法を以下に示す。
【0116】
(1)
図14に示すように、複数の素子部11を有する短冊状の弁作用金属基体10Aをレーザー加工又は打ち抜き加工で形成する。弁作用金属基体10Aは塩酸等によりエッチング処理された多孔質部を有する。
【0117】
(2)素子部11の短辺に沿うように、素子部11の両主面及び両側面に絶縁マスク層30を形成する。1つの素子部11における容量部の寸法が、長さ方向Lの寸法:4.5mm以上7.0mm以下、幅方向Wの寸法:3.0mm以上4.0mmの間で所定の寸法になるように絶縁マスク層30を形成する。絶縁マスク層30の寸法は容量部の長さ方向Lに沿った長さが0.5mm以上2mm以下となるように形成する。
【0118】
(3)弁作用金属基体10に陽極酸化処理を行い、誘電体層20となる酸化被膜を素子部11に形成する。レーザー加工又は打ち抜き加工された素子部11の側面にも酸化被膜が形成される。弁作用金属基体10Aに対して、ホウ酸、リン酸、アジピン酸、又は、これらのナトリウム塩、アンモニウム塩等を含む水溶液中で陽極酸化処理を行うことにより、酸化被膜が形成される。
【0119】
(4)第1固体電解質層を構成する導電性高分子を含む分散液に弁作用金属基体10Aを浸漬することにより、上記分散液を含浸させて第1固体電解質層を
図4Bに示す領域に形成する。浸漬後に乾燥処理を行う。(4)の作業を複数回行う。なお、浸漬条件において、引き下げ速度(浸漬速度)を最適化することにより、分散液の多孔質部への含浸性が向上し、その結果、後述する静電容量が向上する。
【0120】
(5)プライマー化合物を含む溶液(特許第6449914号公報参照。少なくとも1種のアミン基と、少なくとも1種のカルボン酸基又はスルホン酸基とを含む二官能性又は多官能性モノマー化合物)に弁作用金属基体10Aを浸漬することにより、プライマー層を
図4Bに示す領域に形成する。浸漬後に乾燥処理を行う。
【0121】
乾燥処理において、乾燥中に短冊状の弁作用金属基体10Aを180度反転させた状態で乾燥させると、絶縁マスク層30の近傍にプライマー化合物を含む溶液が溜まりやすくなるため、プライマー化合物の乾燥後の付着量が多くなる。
【0122】
また、プライマー化合物を含む溶液への浸漬条件において、引き下げ速度(浸漬速度)を最適化することにより、具体的にはプライマー化合物を含む溶液が多孔質部を有する弁作用金属基体10Aを染み上がる速度よりも引き下げ速度を遅くすることにより、多孔質部への含浸性が向上するため、プライマー化合物の乾燥後の付着量が多くなる。
【0123】
(6)第2固体電解質層を構成する導電性高分子を含む分散液に弁作用金属基体10Aを浸漬することにより、上記分散液を含浸して第2固体電解質層を
図4Bに示す領域に形成する。浸漬後に乾燥処理を行う。
【0124】
乾燥処理において、乾燥中に短冊状の弁作用金属基体10Aを180度反転させた状態で乾燥させると、絶縁マスク層30の近傍に固体電解質を含む溶液が溜まりやすくなるため、プライマー化合物との架橋反応により、乾燥後の第2固体電解質層の厚みが大きくなる。(5)の乾燥処理での180度反転を行うと、より一層プライマー化合物との架橋反応が促進されるため、乾燥後の第2固体電解質層の厚みが大きくなるが、浸漬条件の最適化のみでも効果がある。これらにより、後述する等価直列抵抗(ESR)が向上する。
【0125】
なお、第2固体電解質層は、第1固体電解質層よりも導電性高分子の濃度が高い分散液を含浸させて形成される。
【0126】
上記(5)又は(6)により、固体電解質層40は、陰極部32における絶縁マスク層30の近傍の厚みが、陰極部32の中央領域の厚みよりも大きくなる。
【0127】
(7)短冊状の弁作用金属基体10Aを純水で洗浄し、余剰のプライマー化合物を除去する。洗浄後、乾燥処理を行う。
【0128】
(8)カーボンペーストに弁作用金属基体10Aを浸漬することにより、
図4Cに示す領域にカーボン層50を形成する。浸漬後に乾燥処理を行う。
【0129】
(9)銀ペーストに弁作用金属基体10Aを浸漬することにより、
図1に示す領域に陰極導体層60を形成する。浸漬後に乾燥処理を行う。
【0130】
(比較例)
比較例1~10として、
図20及び
図21に示す固体電解コンデンサ素子1Aを合計10個作製した。作製方法は実施例と同様である。
【0131】
図20は、比較例に係る固体電解コンデンサ素子の一例を模式的に示す平面図である。
図21は、
図20に示す固体電解コンデンサ素子のX-X線に沿った断面図である。
【0132】
図20及び
図21に示す固体電解コンデンサ素子1Aは、誘電体層20を表面に有する弁作用金属基体10と、誘電体層20上に設けられる絶縁マスク層30と、誘電体層20上に設けられる固体電解質層40と、固体電解質層40上に設けられるカーボン層50と、カーボン層50上に設けられる陰極導体層60と、を備える。
【0133】
図22Aは、
図20に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層及び絶縁マスク層の一例を模式的に示す平面図である。
図22Bは、
図20に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層、絶縁マスク層及び固体電解質層の一例を模式的に示す平面図である。
図22Cは、
図20に示す固体電解コンデンサ素子を構成する誘電体層、絶縁マスク層、固体電解質層及びカーボン層の一例を模式的に示す平面図である。
【0134】
図20、
図21及び
図22Aに示すように、誘電体層20上には、所定幅の絶縁マスク層30が周設されている。絶縁マスク層30は、弁作用金属基体10の短辺に沿うように、弁作用金属基体10の両主面及び両側面に設けられている。絶縁マスク層30によって、弁作用金属基体10が陽極部31及び陰極部32に分離されている。
【0135】
図20、
図21及び
図22Bに示すように、固体電解質層40は、陰極部32の誘電体層20上に設けられている。固体電解質層40は、先端が絶縁マスク層30の外表面を覆うように設けられている。固体電解質層40は、絶縁マスク層30の外表面の一部を覆うように設けられていてもよく、絶縁マスク層30の外表面の全体を覆うように設けられていてもよい。
【0136】
図20、
図21及び
図22Cに示すように、カーボン層50は、先端50aが絶縁マスク層30の外表面を覆うように設けられるとともに、先端50aが絶縁マスク層30の外表面において固体電解質層40の先端40aと同じ位置を覆うように設けられている。
【0137】
図20及び
図21に示すように、陰極導体層60は、先端60aが絶縁マスク層30の外表面においてカーボン層50の先端50aと同じ位置を覆うように設けられている。
【0138】
図20及び
図21に示すように、陰極部32には、陰極導体層60がカーボン層50の一部を覆わない陰極導体層非形成領域が存在しない。
【0139】
[固体電解コンデンサ素子の評価]
実施例1~10及び比較例1~10の固体電解コンデンサ素子について、初期特性として120Hzにおける静電容量、100kHzにおける等価直列抵抗(ESR)及び漏れ電流(LC)を測定した。なお、漏れ電流は16Vの定格電圧を印加して2分後に測定した。静電容量及びESRに関しては、平均値(Avg)及び標準偏差(σ)を算出した。LCに関しては、5μA未満のものを○(良)、5μA以上200μA未満のものを△(可)、200μA以上でショートしたものを×(不可)と判定した。結果を表1に示す。
【0140】
【0141】
表1より、実施例に係る固体電解コンデンサ素子では、比較例に係る固体電解コンデンサ素子と比べて、等価直列抵抗が低く、かつ、漏れ電流不良が少ないことが分かる。
【符号の説明】
【0142】
1、1A、2、3 固体電解コンデンサ素子
10、10A 弁作用金属基体
11 素子部
12 支持部
20 誘電体層
30 絶縁マスク層
31 陽極部
32 陰極部
40 固体電解質層
40a 固体電解質層の先端
40b 陰極部の中央領域に設けられる固体電解質層
40c 陰極部において絶縁マスク層に接する領域に設けられる固体電解質層
50 カーボン層
50a カーボン層の先端
60 陰極導体層
60a 陰極導体層の先端
70 処理液
75 処理槽
100 固体電解コンデンサ
110 外装体
110a 第1主面
110b 第2主面
110c 第1側面
110d 第2側面
110e 第1端面
110f 第2端面
120 第1外部電極
130 第2外部電極
A1、A2 陰極導体層非形成領域