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特許7658503処理装置、分布型音響センシングシステム、分布型音響センシング方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】処理装置、分布型音響センシングシステム、分布型音響センシング方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/353 20060101AFI20250401BHJP
【FI】
G01D5/353 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024500757
(86)(22)【出願日】2022-02-16
(86)【国際出願番号】 JP2022006120
(87)【国際公開番号】W WO2023157113
(87)【国際公開日】2023-08-24
【審査請求日】2024-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】美島 咲子
(72)【発明者】
【氏名】河野 航
(72)【発明者】
【氏名】近藤 玲史
(72)【発明者】
【氏名】樋野 智之
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-48706(JP,A)
【文献】特表2019-518968(JP,A)
【文献】国際公開第2020/157917(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/255358(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2012/0230629(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/26-5/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分布型音響センシングに用いられる光ファイバに設定した、複数の長ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群と、複数の短ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群とを取得する信号取得部と、
前記複数の長ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第1の特徴量に基づいて長ゲージ長区間を選択し、選択した前記長ゲージ長区間に対応する複数の短ゲージ長区間を選択する信号選択部と、
選択された前記複数の短ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第2の特徴量に基づいて、1つの短ゲージ長区間を、イベントが発生した区間として決定する区間推定部と、を備える、
処理装置。
【請求項2】
前記信号選択部は、前記選択された複数の短ゲージ長区間のそれぞれの信号と、前記選択された長ゲージ長区間の信号とを比較し、前記選択された長ゲージ長区間の信号に最も近似する信号を有する短ゲージ長区間を、前記イベントが発生した区間として決定する、
請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記信号選択部は、前記信号として、時間波形信号、前記時間波形信号に周波数フィルタを適用した波形信号、前記時間波形信号の雑音を抑圧する処理を行った波形信号、前記時間波形信号をフーリエ変換した信号、前記時間波形信号をCQT(Constant Q Conversion)によって変換した信号、及び、前記時間波形信号から取得したスペクトログラムのいずれかを用いる、
請求項2に記載の処理装置。
【請求項4】
前記信号選択部は、前記選択された複数の短ゲージ長区間のそれぞれの時間波形信号又は前記時間波形信号を変換した波形信号に対して主成分分析を行うことで得られる主成分、又は、前記選択された複数の短ゲージ長区間のそれぞれの前記時間波形信号又は前記時間波形信号を変換した波形信号のメル周波数ケプストラム係数に基づいて、前記イベントが発生した区間を決定する、
請求項1に記載の処理装置。
【請求項5】
前記信号選択部は、第1の特徴量が第1の閾値よりも大きい長ゲージ長区間を選択する、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項6】
前記信号選択部は、前記選択された複数の短ゲージ長区間のうちで、第1の特徴量が最大のものを前記イベントが発生した区間として決定する、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項7】
前記信号選択部は、
第1の特徴量が第1の閾値よりも大きい長ゲージ長区間を選択し、
前記選択された複数の短ゲージ長区間のうちで、第1の特徴量が最大のものを前記イベントが発生した区間として決定する、
請求項1に記載の処理装置。
【請求項8】
センシングに用いられる光ファイバと、
前記光ファイバに光パルスを出力してその戻り光をモニタする検出部と、
前記検出部での前記戻り光のモニタ結果を受け取る処理装置と、を備え、
前記処理装置は、
前記光ファイバに設定した、複数の長ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群と、複数の短ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群とを取得する信号取得部と、
前記複数の長ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第1の特徴量に基づいて長ゲージ長区間を選択し、選択した前記長ゲージ長区間に対応する複数の短ゲージ長区間を選択する信号選択部と、
選択された前記複数の短ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第2の特徴量に基づいて、1つの短ゲージ長区間を、イベントが発生した区間として決定する区間推定部と、を備える、
分布型音響センシングシステム。
【請求項9】
分布型音響センシングに用いられる光ファイバに設定した、複数の長ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群と、複数の短ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群とを取得し、
前記複数の長ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第1の特徴量に基づいて長ゲージ長区間を選択し、選択した前記長ゲージ長区間に対応する複数の短ゲージ長区間を選択し、
選択された前記複数の短ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第2の特徴量に基づいて、1つの短ゲージ長区間を、イベントが発生した区間として決定する、
分布型音響センシング方法。
【請求項10】
分布型音響センシングに用いられる光ファイバに設定した、複数の長ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群と、複数の短ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群とを取得する処理と、
前記複数の長ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第1の特徴量に基づいて長ゲージ長区間を選択し、選択した前記長ゲージ長区間に対応する複数の短ゲージ長区間を選択する処理と、
選択された前記複数の短ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第2の特徴量に基づいて、1つの短ゲージ長区間を、イベントが発生した区間として決定する処理と、をコンピュータに実行させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理装置、分布型音響センシングシステム、分布型音響センシング方法及びプログラムが格納された非一時的なコンピュータ可読媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバセンシング技術の一つとして、分布型音響センシング(Distributed acoustic sensing:DAS)が知られている。DASでは、光ファイバに音波が当たると光ファイバを通過する光が変調されるため、その反射光または透過光を検波することで、遠隔地の音波ないしは振動をモニタすることができる。
【0003】
DASシステムは、一般に、音や振動を感じる光ファイバとインテロゲータ(Interrogator)と呼ばれる検出部とで構成される。インテロゲータは「問い合わせる者」の意味で、光ファイバにプローブ光を当て、光ファイバからの反射光又は透過光を受光し、光ファイバに作用する音波や振動の状態を検出する(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2021-511491号公報
【文献】特表2019-518968号公報
【文献】特開2012-63146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DASシステムでのセンシングには、検出する現象(以下、イベントと称する)の詳細な位置を特定するのが難しいという問題がある。DASシステムでは、対象領域に敷設した光ケーブルに含まれる光ファイバに、所定のゲージ長を有する区間を設定し、区間内で生じた音や振動の状態を信号として計測した後にいずれの区間の近傍でイベントが生じたかを検出する。この場合、一般に、長いゲージ長の区間からの戻り光から得られる信号は強度が大きく、SN(Signal to Noise)比が高い信号が得られる。そのため、イベントの発生を容易に検出できるものの、ゲージ長が長いため、イベント発生の位置が長い区間内のどこであるかまでは特定できない。これに対し、短いゲージ長の区間からの戻り光から得られる信号は強度が小さく、SN比が低い信号が得られる。そのため、信号の変動がイベント発生によるものか雑音等によるものかの判別が困難であり、イベント検出精度が劣る。そのため、イベント検出の空間分解能を向上させるためにゲージ長を短くしても、イベントを好適に検出することは困難である。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、分布型音響センシングシステムにおいて高い空間分解能にてイベントの発生を検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様である処理装置は、分布型音響センシングに用いられる光ファイバに設定した、複数の長ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群と、複数の短ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群とを取得する信号取得部と、複数の前記長ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第1の特徴量に基づいて長ゲージ長区間を選択し、選択した前記長ゲージ長区間に対応する複数の短ゲージ長区間を選択する信号選択部と、選択された前記複数の短ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第2の特徴量に基づいて、1つの短ゲージ長区間を、イベントが発生した区間として決定する区間推定部と、を備えるものである。
【0008】
本発明の一態様である分布型音響センシングシステムは、センシングに用いられる光ファイバと、前記光ファイバに光パルスを出力してその戻り光をモニタする検出部と、前記検出部での前記戻り光のモニタ結果を受け取る処理装置と、を備え、前記処理装置は、前記光ファイバに設定した、複数の長ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群と、複数の短ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群とを取得する信号取得部と、複数の前記長ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第1の特徴量に基づいて長ゲージ長区間を選択し、選択した前記長ゲージ長区間に対応する複数の短ゲージ長区間を選択する信号選択部と、選択された前記複数の短ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第2の特徴量に基づいて、1つの短ゲージ長区間を、イベントが発生した区間として決定する区間推定部と、を備えるものである。
【0009】
本発明の一態様である分布型音響センシング方法は、分布型音響センシングに用いられる光ファイバに設定した、複数の長ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群と、複数の短ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群とを取得し、複数の前記長ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第1の特徴量に基づいて長ゲージ長区間を選択し、選択した前記長ゲージ長区間に対応する複数の短ゲージ長区間を選択し、選択された前記複数の短ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第2の特徴量に基づいて、1つの短ゲージ長区間を、イベントが発生した区間として決定するものである。
【0010】
本発明の一態様であるプログラムが格納された非一時的なコンピュータ可読媒体は、分布型音響センシングに用いられる光ファイバに設定した、複数の長ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群と、複数の短ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群とを取得する処理と、複数の前記長ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第1の特徴量に基づいて長ゲージ長区間を選択し、選択した前記長ゲージ長区間に対応する複数の短ゲージ長区間を選択する処理と、選択された前記複数の短ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第2の特徴量に基づいて、1つの短ゲージ長区間を、イベントが発生した区間として決定する処理と、をコンピュータに実行させるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分布型音響センシングシステムにおいて高い空間分解能にてイベントの発生を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1にかかる分布型音響センシングシステムの構成を模式的に示す図である。
図2】実施の形態1にかかる処理装置の構成を模式的に示す図である。
図3】実施の形態1にかかる処理装置の構成をより詳細に示す図である。
図4】光ファイバに設定されるゲージを模式的に示す図である。
図5】ゲージ長と信号との関係の例を示す図である。
図6】実施の形態1にかかる分布型音響センシングシステムのイベント区間決定動作のフローチャートである。
図7】実施の形態2にかかる分布型音響センシングシステムの構成を模式的に示す図である。
図8】実施の形態2にかかる分布型音響センシングシステムのイベント区間決定動作のフローチャートである。
図9】実施の形態3にかかる分布型音響センシングシステムの構成を模式的に示す図である。
図10】実施の形態3にかかる分布型音響センシングシステムのイベント区間決定動作のフローチャートである。
図11】実施の形態4にかかる分布型音響センシングシステムの構成を模式的に示す図である。
図12】実施の形態4にかかる分布型音響センシングシステムのイベント区間情報更新動作のフローチャートである。
図13】実施の形態4にかかる分布型音響センシングシステムのイベント区間情報更新動作のフローチャートである。
図14】隣接する2つの長ゲージ長区間に対応する短ゲージ長区間の類似度に基づいてイベントの類似性を判定する場合のフローチャートである。
図15】隣接する2つの長ゲージ長区間が共有する短ゲージ長区間を有する例を示す図である。
図16】隣接する2つの長ゲージ長区間が共有する短ゲージ長区間を有さない例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。各図面においては、同一要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略される。
【0014】
実施の形態1
実施の形態1にかかるDASシステムについて説明する。図1に、実施の形態1にかかるDASシステム100の構成を模式的に示す。DASシステム100は、検出部1及び2、処理装置10及び光ファイバF及びFを有する。処理装置10は、制御信号COMによって検出部1を制御し、制御信号COMによって検出部2を制御するように構成される。また、処理装置10は、検出部1から検出結果を示す検出信号DETを受け取り、検出部2から検出結果を示す検出信号DETを受け取り、これらに音響センシングに要する信号処理を行うものとして構成される。
【0015】
光ファイバF及びFは、音波AWのセンシングの対象となる領域の同じ又は近接した経路に敷設されるものであり、例えば、海底ケーブルなどの光ケーブルCに同梱されるファイバである。
【0016】
検出部1は、光ファイバFと接続され、光ファイバFへ光パルスPを出力し、光ファイバFにおける後方散乱光である戻り光Rを検出する、いわゆるインテロゲータとして構成される。検出部1は、戻り光Rの検出結果である検出信号DETを処理装置10へ出力する。
【0017】
検出部2は、光ファイバFと接続され、光ファイバFへ光パルスPを出力し、光ファイバFにおける後方散乱光である戻り光Rを検出する、いわゆるインテロゲータとして構成される。検出部2は、戻り光Rの検出結果である検出信号DETを処理装置10へ出力する。
【0018】
図2に、処理装置10の構成を模式的に示す。また、図3に、実施の形態1にかかる処理装置の構成をより詳細に示す。処理装置10は、信号取得部11、信号選択部12、区間推定部13及び記憶部14を有する。信号取得部11は、検出部1及び2から出力される検出信号DET及びDETを受け取り、信号選択部12での信号処理に用いられるデータ形式へ変換するための信号処理を行い、処理後の信号を信号選択部12へ出力する。信号選択部12は、受け取った長ゲージ長区間についての信号群を参照し、音源に最も近いと推定される長ゲージ長区間を選択し、かつ、後述するゲージ対応情報TABに基づいて、選択された長ゲージ長区間に対応する複数の短ゲージ長区間を選択する。区間推定部13は、選択された複数の短ゲージ長区間の信号群を参照して、音源に最も近いと推定される短ゲージ長区間をイベント区間として決定する。記憶部14には、各長ゲージ長区間にどの短ゲージ長区間が対応しているか、すなわち、1つの長ゲージ長区間に包含される複数の短ゲージ長区間が指定された、ゲージ対応情報TABが格納されている。なお、記憶部14には他の情報も格納可能であり、信号取得部11、信号選択部12及び区間推定部13は、適宜、必要な情報を記憶部14から読み出し、かつ、必要な情報を記憶部14に書き込み可能である。
【0019】
本実施の形態では、光ファイバF及びFにはそれぞれ異なる長さのゲージが設定される。図4に、光ファイバF及びFに設定されるゲージを模式的に示す。この例では、光ファイバFに、検出部1から遠ざかる方向に向けて、ゲージ長G(以下、長ゲージ長とも称する)の長ゲージ長区間L~L(Mは、2以上の整数)が設定されている。光ファイバFに、検出部2から遠ざかる方向に向けて、ゲージ長G(以下、短ゲージ長とも称する)の短ゲージ長区間S~S(Nは、2以上の整数)が設定されている。
【0020】
長ゲージ長Gは短ゲージ長Gよりも長く、図4では、一例として、長ゲージ長Gは短長ゲージ長Gの3倍(G=3G)としている。但し、これは例示に過ぎず、長ゲージ長Gが短ゲージ長Gよりも長い限り、長ゲージ長G及び短ゲージ長Gは任意の値とすることができる。例えば、長ゲージ長Gは数十m、短ゲージ長Gは数十cm~数mとすることができる。
【0021】
なお、隣接する2つの長ゲージ長区間に対しては、重複しないように短ゲージ長区間を対応させてもよいし、重複するように短ゲージ長区間を対応させてもよい。例えば、図4において、重複しないように、長ゲージ長区間Lに短ゲージ長区間S~S、長ゲージ長区間Lに短ゲージ長区間S~S、長ゲージ長区間Lに短ゲージ長区間S~Sに対応させてもよい。また、例えば、図4において、長ゲージ長区間Lと長ゲージ長区間Lとの境界に位置する短ゲージ長区間Sを共有してもよく、長ゲージ長区間Lと長ゲージ長区間Lとの境界に位置する短ゲージ長区間Sを共有してもよい。この場合、長ゲージ長区間Lには、長ゲージ長区間Lと共有する短ゲージ長区間S、短ゲージ長区間S及びS、長ゲージ長区間Lと共有する短ゲージ長区間Sが対応することとなる。なお、隣接する2つの長ゲージ長区間が共有する短ゲージ長区間は1つに限られず、任意の数としてもよい。
【0022】
これにより、検出部1は長ゲージ長区間L~Lのそれぞれからの戻り光を受け取って検出結果を出力し、検出部2は、短ゲージ長区間S~Sのそれぞれからの戻り光を受け取って検出結果を出力することができる。そして、処理装置10は、これらの検出結果から得られる信号を適宜分析することができる。
【0023】
本実施の形態にかかるDASシステム100は、複数の長ゲージ長区間からの戻り光から得られる信号群と、複数の短ゲージ長区間からの戻り光から得られる信号群とを組み合わせて用いることで、音源の詳細位置を特定するものとして構成される。
【0024】
DASシステムにおける光ファイバに音波AWが到達した場合の戻り光を解析すると、一般に、長ゲージ長の区間からの戻り光から得られる信号と、短ゲージ長の区間からの戻り光から得られる信号とには、差異が生じる。図5に、ゲージ長と信号との関係の例を示す。ここでは、例として、長ゲージ長区間Lとこれに対応する短ゲージ長区間S_1~S_3に着目し、これらから得られる信号SIG_L、SIG_S_1~SIGS_3の周波数領域での波形を示している。長ゲージ長区間からの戻り光からは、一般に、強度が大きく、SN(Signal to Noise)比が高い信号が得られる。このため、光ファイバFに音波AWが到達した場合、隣接する長ゲージ長区間の信号強度の差は比較的大きくなるので、音源に近い長ゲージ長区間を容易に識別することができる。
【0025】
これに対し、短ゲージ長区間からの戻り光からは、一般に、強度が小さく、SN比が低い信号が得られる。このため、短ゲージ長区間からの戻り光の信号強度をモニタしても、音波が到達した場合と音波以外の原因で信号強度が変動した場合の信号強度の変動が小さく、判別が難しい。
【0026】
DASシステム100では、ゲージ長の違いによる性質を利用して、光ファイバに音波が到達した場合に、まず音源に一番近い長ゲージ長区間を特定し、特定した長ゲージ長区間に対応する、すなわち、同様の位置に設けられている短ゲージ長区間から得られる信号を解析することで、音源に一番近い短ゲージ長区間をイベント区間として決定する。これにより、DASシステム100は、音源に一番近い位置(イベント位置)を、高精度に決定することができる。
【0027】
以下、DASシステム100におけるイベント位置決定動作について説明する。図6に、DASシステム100におけるイベント区間決定動作のフローチャートを示す。
【0028】
ステップST11
検出部1は、光ファイバFに光パルスPを出力して、戻り光Rをモニタする。そして、戻り光Rを光電変換した検出信号DETを処理装置10へ出力する。検出部2は、光ファイバFに光パルスPを出力し、戻り光Rをモニタする。そして、戻り光Rを光電変換した検出信号DET処理装置10へ出力する。
【0029】
ステップST12
信号取得部11は、検出信号DETに基づいて長ゲージ長区間の信号群を取得し、取得した信号群を信号選択部12へ出力する。また、信号取得部11は、検出信号DETに基づいて短ゲージ長区間の信号群を取得し、取得した信号群を信号選択部12へ出力する。
【0030】
ステップST13
信号選択部12は、各長ゲージ長区間について取得した信号群をモニタし、第1の特徴量が閾値よりも大きな長ゲージ長区間が有るか判定する。ここでは、各長ゲージ長区間の信号強度を、各長ゲージ長区間の第1の特徴量として用いる例について説明する。信号選択部12は、各長ゲージ長区間について取得した信号群をモニタし、信号強度の変動が閾値よりも大きな長ゲージ長区間が有るか判定する。
【0031】
ステップST14
信号選択部12は、第1の特徴量の変動が閾値よりも大きな長ゲージ長区間が有る場合、その長ゲージ長区間を、音波が到達するなどのイベント発生した長ゲージ長区間として選択する。
【0032】
ステップST15
信号選択部12は、選択された長ゲージ長区間に対応する複数の短ゲージ長区間を選択する。ここで、長ゲージ長区間のそれぞれに対応する複数の短ゲージ長区間は予め決定されており、その対応情報であるゲージ対応情報TABは、例えばデータテーブルとして記憶部14に予め格納されていてもよい。信号選択部12は、必要に応じてゲージ対応情報TABを参照して、選択された長ゲージ長区間に対応する複数の短ゲージ長区間を選択することができる。
【0033】
ステップST16
区間推定部13は、選択された2つ以上の短ゲージ長区間のそれぞれの第2の特徴量に基づいて、最も強度が大きな音波が到達したと推定される短ゲージ長区間(以下、イベント区間と称する)を選択する。ここでは、各短ゲージ長区間の信号強度の最大値を、各短ゲージ長区間の第2の特徴量として用いる例について説明する。処理装置10は、2つ以上の短ゲージ長区間の波形のそれぞれから強度の最大値を取得し、最大値が最も大きな短ゲージ長区間をイベント区間として選択する。
【0034】
上述では、選択された複数の短ゲージ長区間の波形のそれぞれの強度の最大値を特徴量として用いてイベント区間の選択する例について説明したが、他の特徴量を用いてイベント区間を選択してもよい。各短ゲージ長区間の特徴量として、例えば、選択された長ゲージ長区間と各短ゲージ長区間とにおける信号の類似度を用いてもよい。
【0035】
用いる信号としては、時間波形信号でもよいし、時間波形信号に所定の処理を行った信号を用いてもよい。例えば、時間波形信号に対して、ローパスフィルタを適用した信号や、雑音を抑圧する処理を行った信号を用いて類似度を算出してもよい。また、例えば、時間波形信号をフーリエ変換やCQT(Constant Q Conversion)によって変換した、時間及び周波数領域の信号、いわゆるスペクトログラムを用いてもよい。この場合、変換後の信号そのものだけではなく、変換後の波形信号の強度に対して所定の閾値による弁別処理を行って2値化した信号や、強度変化が急峻な箇所を強調するためにエッジ強調フィルタを適用した信号など、変換後の信号に所定の信号処理を行った信号を用いてもよい。また、いわゆるスペクトログラムを用いてもよい。
【0036】
類似度の算出には、選択された長ゲージ長区間について取得した波形信号と各短ゲージ長区間について取得した波形信号との間の差異を示す指標を用いてもよい。特徴量がデータ点の分布やベクトル量などの多次元量である場合には、差異を示す指標として、相互相関、相関係数、マハラビノス距離、コサイン距離、ピアソンの積率相関係数などの各種の指標を用いることができる。また、特徴量がスカラー量である場合には、2つの値の差や差の絶対値などの指標を用いることができる。
【0037】
また、特徴量として、時間波形信号や時間及び周波数領域の信号に対して主成分分析を行うことで得られる主成分や、時間及び周波数領域の信号のメル周波数ケプストラム係数を用いてもよい。
【0038】
以上、本構成によれば、イベントが発生した概要位置を長ゲージ長区間にて特定し、特定した長ゲージ長区間に対応する短ゲージ長区間からイベント区間を決定することで、イベント区間の詳細な位置を絞り込むことができる。つまり、イベント区間を高い空間分解能で決定することができる。
【0039】
上述したように、短ゲージ長区間では、イベントの発生によって得られる信号のSN比が低く、信号の変動がイベントによるものか雑音等の影響によるものかを判別することは、一般的には難しい。しかし、本構成によれば、高いSN比の信号が得られる長ゲージ長区間を利用してイベントが発生した概要位置を特定している。これにより、特定された長ゲージ長区間に対応する短ゲージ長区間の信号に現れる強度変動は、イベントによるものであると判別できるので、イベントが発生した短ゲージ長区間を精度よく決定することが可能となる。
【0040】
実施の形態2
実施の形態1では、2本の光ファイバの一方に長ゲージ長区間を設定し、他方に短ゲージ長区間を設定する例について説明したが、長ゲージ長区間の信号群と短ゲージ長区間の信号群が得られる限り、他の構成とすることが可能である。以下、長ゲージ長区間の信号群と短ゲージ長区間の信号群を得られるDASシステムの他の構成について説明する。
【0041】
図7に、実施の形態2にかかるDASシステム200の構成を模式的に示す。DASシステム200は、処理装置2、検出部1及び光ファイバFを有する。検出部1は、実施の形態1と同様であるので、説明を省略する。
【0042】
DASシステム200では、DASシステム100と同様に、検出部1が光パルスPを光ファイバFへ出力して、光ファイバFに設定された所定のゲージ長のゲージ区間からの戻り光Rをモニタすることができる。これにより、複数のゲージ区間について得られた信号群を取得することができる。
【0043】
処理装置2は、所定の信号処理を行うことで、取得した信号群を異なるゲージ長区間の信号に変換可能に構成される。処理装置2の信号取得部21、信号選択部22、区間推定部23及び記憶部24は、それぞれ処理装置1の信号取得部11、信号選択部12、区間推定部13及び記憶部14に対応する。
【0044】
本構成では、光ファイバFに長ゲージ長区間を設定し、信号処理によって長ゲージ長区間について得られた信号群を短ゲージ長区間についての信号群に変換することが可能である。
【0045】
以下、DASシステムの200動作について説明する。図8に、実施の形態2にかかるDASシステム200のイベント区間決定動作のフローチャートを示す。図8では、図6のステップST12がステップST21及びST22に置換されている。
【0046】
ステップST21
信号取得部21は、長ゲージ長区間に対応する信号群を取得する。
【0047】
ステップST22
信号取得部21は、記憶部24から読みこんだ信号処理条件INFに基づいて、長ゲージ長区間に対応する信号群に対して信号処理を行い、短ゲージ長区間に対応する信号群を取得する。
【0048】
その他のステップST11、ST13~ST16は、図6と同様であるので、説明を省略する。
【0049】
本構成における信号処理の条件は、以下のように初期設定処理を行うことで決定することができる。まず、予め既知の音源を光ファイバFの近傍に設定し、既知の音波を光ファイバFに照射して長ゲージ長区間についての信号群を取得する。その後、光ファイバに短ゲージ長区間を設定して、再度、既知の音波を照射して短ゲージ長区間についての信号群を取得する。そして、得られた2つの信号群を比較して、長ゲージ長区間の信号を変換して短ゲージ長区間の信号を得られる条件を設定する初期設定処理を行うことで、信号処理条件を取得し、信号処理条件INFとして記憶部24に格納することができる。
【0050】
また、光ファイバFに短ゲージ長区間を設定し、信号処理によって短ゲージ長区間について得られた信号群を長ゲージ長区間についての信号群に変換してもよい。この場合でも、上述と同様に信号処理条件を取得できる。
【0051】
なお、DASシステム200の変形例として、検出部での戻り光の検出を変更することで、長ゲージ長区間についての信号群と短ゲージ長区間についての信号群を取得する構成とすることも可能である。例えば、検出部に2つの受光部を設け、光ファイバFからの戻り光を2つの受光部に分配してもよい。この場合、信号処理によらず、物理的に戻り光を2分割することで、一方の受光部から出力される信号から長ゲージ長区間についての信号群を取得し、他方の受光部から出力される信号から短ゲージ長区間についての信号群を取得することが可能となる。よって、同様に、光パルスを出力するごとに、長ゲージ長区間についての信号群と、他方の受光部から出力される信号から短ゲージ長区間についての信号群と、を同時に取得することができる。
【0052】
以上、実施の形態2にかかるDASシステムによれば、実施の形態1と同様にイベント区間を高い空間分解能で決定することができる。
【0053】
実施の形態3
実施の形態3にかかるDASシステムについて説明する。実施の形態3にかかるDASシステム300は、DASシステム200の変形例として構成される。図9に、実施の形態3にかかるDASシステム300の構成を模式的に示す。DASシステム300は、処理装置3、検出部1及び光ファイバFを有する。検出部1及び光ファイバFは、DASシステム200と同様であるので、説明を省略する。
【0054】
処理装置3は、後述するようにゲージ長の切替を行うことで、長ゲージ長区間の信号群と短ゲージ長区間の信号群とを取得可能に構成される。処理装置3の信号取得部31、信号選択部32、区間推定部33及び記憶部34は、それぞれ処理装置1の信号取得部11、信号選択部12、区間推定部13及び記憶部14に対応する。
【0055】
DASシステム300では、光ファイバFに、長ゲージ長区間と短ゲージ長区間とを、時分割にて交互に設定する。つまり、長ゲージ長区間を設定した状態で信号群を取得する処理と、短ゲージ長区間を設定した状態で信号群を取得する処理とを交互に実施することができる。
【0056】
以下、DASシステムの300動作について説明する。図10に、実施の形態3にかかるDASシステム300のイベント区間決定動作のフローチャートを示す。図10では、図6のステップST11及びST12がステップST31~ST36に置換されている。
【0057】
ステップST31
信号取得部31は、まず、光ファイバFに複数の長ゲージ長区間を設定する。
【0058】
ステップST32
検出部1は、光ファイバFに、光パルスPを出力して、戻り光Rをモニタする。そして、戻り光Rを光電変換した検出信号DETを処理装置10へ出力する。
【0059】
ステップST33
信号取得部31は、検出信号DETに基づいて長ゲージ長区間の信号群を取得し、取得した信号群を、例えば記憶部34に、長ゲージ長区間信号群情報SIGとして格納する。
【0060】
ステップST34
信号取得部31は、ゲージ長を切り替えて、光ファイバFに複数の短ゲージ長区間を設定する。
【0061】
ステップST35
検出部1は、光ファイバFに、光パルスPを出力して、戻り光Rをモニタする。そして、戻り光Rを光電変換した検出信号DETを処理装置10へ出力する。
【0062】
ステップST36
信号取得部31は、検出信号DETに基づいて短ゲージ長区間の信号群を取得し、取得した信号群を、例えば記憶部34に、短ゲージ長区間信号群情報SIGとして格納する。
【0063】
その他のステップST13~ST16は、図6と同様であるので、説明を省略する。
【0064】
本構成では、例えば、音源からの音波が連続的に発せられる場合、又は、間欠的に発せられる場合、同じ音源からの音波を複数回サンプリングすることができる。これにより、時間的に同時ではないものの、ゲージ長を切り替えるタイミングを十分に短く設定することで、同様又は近似した音波について、長ゲージ長区間についての信号群と短ゲージ長区間についての信号群とを取得することが可能である。
【0065】
以上、実施の形態3にかかるDASシステムによれば、実施の形態1及び2と同様に、イベント区間を高い空間分解能で決定することができる。
【0066】
実施の形態4
実施の形態1では、長ゲージ長区間を1つだけ選択し、選択した1つの長ゲージ長区間に対応する複数の短ゲージ長区間から、音源に近い複数の短ゲージ長区間を決定した。しかし、2つの長ゲージ長区間でイベントが発生した場合には、これら2つの長ゲージ長区間に対応する短ゲージ長区間から、音源に近い複数の短ゲージ長区間を決定した方がよいと考え得る。本実施の形態では、このように、2つの長ゲージ長区間に対応する短ゲージ長区間から、音源に近い複数の短ゲージ長区間を決定するDASシステムについて説明する。
【0067】
図11に、実施の形態4にかかるDASシステム400の構成を模式的に示す。DASシステム400は、DASシステム100の処理装置1を、処理装置4に置換した構成を有する。検出部1及び2、光ファイバF及びFは、DASシステム100と同様であるので、説明を省略する。
【0068】
処理装置4の信号取得部41、信号選択部42、区間推定部43及び記憶部44は、それぞれ処理装置1の信号取得部11、信号選択部12、区間推定部13及び記憶部14に対応する。
【0069】
以下、DASシステムの400動作について説明する。DASシステム400では、図6に示すイベント区間決定動作を行った後に、隣接する長ゲージ長区間にイベント区間が存在する場合に、それらが同じイベントであるか、すなわち、同一の音波に起因するものであるかを判別し、必要に応じてイベント区間情報を更新する処理を行う。
【0070】
図12及び図13に、実施の形態4にかかるDASシステム400のイベント区間情報更新動作のフローチャートを示す。図12及び図13の各ステップは、図6のステップST11~ST16の完了後に行われるものである。
【0071】
なお、本構成では、図6のステップST11~ST16を行うことで、予め取得された長ゲージ長区間信号群情報SIG、短ゲージ長区間信号群情報SIG、及び、イベント区間である短ゲージ長区間を示す情報であるイベント区間情報EVTが格納されている。
【0072】
ステップST41
信号取得部41は、イベント区間情報EVT及びゲージ対応情報TABを参照し、検出部1の側から順に、隣接する2つの長ゲージ長区間のそれぞれにイベント区間が存在する箇所を検索する。隣接する2つの長ゲージ長区間のそれぞれにイベント区間が存在する箇所が存在しない場合には、処理を終了する。
【0073】
ステップST42
隣接する2つの長ゲージ長区間のそれぞれにイベント区間が存在する箇所が有った場合、信号選択部42は、発見した隣接する2つの長ゲージ長区間LA及びLBを選択し、選択結果を区間推定部43へ渡す。
【0074】
ステップST43
区間推定部43は、実施の形態1で説明したように、長ゲージ長区間LA及びLBの類似度を算出し、算出した類似度が所定の閾値よりも大きいかを判定する。長ゲージ長区間LA及びLBの類似度を算出し、算出した類似度が所定の閾値以下の場合、処理をステップST41へ戻す。これにより、類似度が小さい場合は、長ゲージ長区間LA及びLBの信号群が非類似であり、それぞれが別のイベントであると判定されたことが理解できる。
【0075】
ステップST44
ステップST43で算出した類似度が所定の閾値よりも大きい場合、区間推定部43は、長ゲージ長区間LA及びLBのイベント区間を削除する。具体的には、区間推定部43は、記憶部44にアクセスし、イベント区間情報EVTから、長ゲージ長区間LA及びLBのイベント区間を削除する処理を行う。
【0076】
ステップST45
信号選択部42は、長ゲージ長区間LAに対応する複数の短ゲージ長区間を選択する。
【0077】
ステップST46
区間推定部43は、長ゲージ長区間LAに対応する複数の短ゲージ長区間のそれぞれの特徴量に基づいて、最も強度が大きな音波が到達したと推定される短ゲージ長区間である、イベント区間候補SAを選択する。
【0078】
ステップST47
信号選択部42は、長ゲージ長区間LBに対応する複数の短ゲージ長区間を選択する。
【0079】
ステップST48
区間推定部43は、長ゲージ長区間LBに対応する複数の短ゲージ長区間のそれぞれの特徴量に基づいて、最も強度が大きな音波が到達したと推定される短ゲージ長区間である、イベント区間候補SBを選択する。
【0080】
ステップST49
区間推定部43は、長ゲージ長区間LAとイベント区間候補SAとの間の類似度と、長ゲージ長区間LBとイベント区間候補SBとの間の類似度をそれぞれ算出する。そして、長ゲージ長区間LAとイベント区間候補SAとの間の類似度が、長ゲージ長区間LBとイベント区間候補SBとの間の類似度以上であるかを判定する。
【0081】
ステップST50
長ゲージ長区間LAとイベント区間候補SAとの間の類似度が長ゲージ長区間LBとイベント区間候補SBとの間の類似度以上である場合、イベント区間候補SAをイベント区間として決定し、イベント区間情報EVTを更新する。その後、処理をステップST41へ戻す。
【0082】
ステップST51
長ゲージ長区間LAとイベント区間候補SAとの間の類似度が長ゲージ長区間LBとイベント区間候補SBとの間の類似度よりも小さい場合、イベント区間候補SBをイベント区間として決定し、イベント区間情報EVTを更新する。その後、処理をステップST41へ戻す。
【0083】
以上のステップST41~ST51を行うことで、複数の長ゲージ区間で同じイベントに起因するイベント区間が存在する場合、重複するイベント区間を削除して、1つのイベントに起因するイベント区間に集約することが可能となる。
【0084】
また、非類似のイベント区間についてはそのまま残存させることができるので、別々のイベントに起因するイベント区間の情報を好適に保持することが可能である。
【0085】
図12及び図13では、隣接する2つの長ゲージ長区間の波形信号の類似度に基づいて、イベントの類似性を判断したが、隣接する2つの長ゲージ長区間に対応する短ゲージ長区間の類似度に基づいて判断してもよい。以下、具体的に説明する。
【0086】
図14に、隣接する2つの長ゲージ長区間に対応する短ゲージ長区間の類似度に基づいてイベントの類似性を判定する場合のフローチャートを示す。図14では、図12のステップST43が、ステップST61~ST64に置換されている。
【0087】
ステップST61
区間推定部43は、長ゲージ長区間LA及びLBで共有する短ゲージ長区間が有るかを判定する。ここで、短ゲージ長区間の共有について説明する。図15に、長ゲージ長区間LA及びLBが共有する短ゲージ長区間を有する例を示す。この例では、長ゲージ長区間LA及びLBの境界BNDを跨いで存在する短ゲージ長区間SSHは、長ゲージ長区間LA及びLBの両方に対応する短ゲージ長区間である。図16に、長ゲージ長区間LA及びLBが共有する短ゲージ長区間を有さない例を示す。この例では、長ゲージ長区間LA及びLBは、それぞれ独自の短ゲージ長区間が対応しており、両者に重複して対応する短ゲージ長区間は存在しない。
【0088】
ステップST62
長ゲージ長区間LA及びLBで共有する短ゲージ長区間が有る場合、区間推定部43は、共有されている短ゲージ長区間SSHに隣接する、長ゲージ長区間LAに対応する短ゲージ長区間Saと長ゲージ長区間LBに対応する短ゲージ長区間Sbとの間の類似度を算出する。換言すれば、短ゲージ長区間Saは、長ゲージ長区間LAに対応する複数の短ゲージ長区間のうちで、共有されている短ゲージ長区間SSH以外で最も長ゲージ長区間LBに近い短ゲージ長区間である。短ゲージ長区間Sbは、長ゲージ長区間LBに対応する複数の短ゲージ長区間のうちで、共有されている短ゲージ長区間SSH以外で最も長ゲージ長区間LAに近い短ゲージ長区間である。
【0089】
ステップST63
長ゲージ長区間LA及びLBで共有する短ゲージ長区間が無い場合、区間推定部43は、長ゲージ長区間LAに対応する複数の短ゲージ長区間のうちで長ゲージ長区間LBに隣接する短ゲージ長区間Saと、長ゲージ長区間LBに対応する複数の短ゲージ長区間のうちで長ゲージ長区間LAに隣接する短ゲージ長区間Sbと、の類似度を算出する。
【0090】
ステップST64
区間推定部43は、短ゲージ長区間Saと短ゲージ長区間Sbとの類似度が所定の閾値よりも大きいかを判定する。類似度が所定の閾値よりも大きい場合には処理をステップST44へ進め、類似度が所定の閾値以下の場合には処理をステップST41へ戻す。
【0091】
その他のステップについては、図12及び図13と同様であるので、説明を省略する。
【0092】
よって、この場合においても、図12及び図13と同様に、同一イベントに基づく短ゲージ長区間を1つに集約することができる。
【0093】
上述では、実施の形態1にかかるDASシステム100の変形例として説明したが、これは例示に過ぎない。長ゲージ長区間の信号群と短ゲージ長区間の信号群とを利用できる限り、実施の形態2及び3にかかるDASシステムに適用できることは、言うまでも無い。
【0094】
その他の実施の形態
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上述の実施の形態では、類似度について説明したが、類似度は、大きい場合に類似、小さい場合に非類似を示す指標であってもよいし、大きい場合に非類似、小さい場合に類似を示す指標であってもよい。
【0095】
上述の実施の形態では、2つの値a及び値bの大小関係を判定するステップについて説明したが、値aと値bとが等しい場合には、必要に応じて、値aが大きいと判定してもよいし、値bが大きいと判定してもよい。換言すれば、値aが値bよりも大きいか(つまり、値bが値a以下であるか)を判定してもよいし、値aが値b以上であるか(つまり、値bが値aよりも小さいか)を判定してもよい。
【0096】
上述の実施の形態では、本発明をハードウェアの構成として説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明は、処理装置における処理を、CPU(Central Processing Unit)にコンピュータプログラムを実行させることにより実現することも可能である。 また、上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0097】
上述では本発明について説明したが、本発明は、以下のように記載することも可能である。
【0098】
(付記1)分布型音響センシングに用いられる光ファイバに設定した、複数の長ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群と、複数の短ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群とを取得する信号取得部と、複数の前記長ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第1の特徴量に基づいて長ゲージ長区間を選択し、選択した前記長ゲージ長区間に対応する複数の短ゲージ長区間を選択する信号選択部と、選択された前記複数の短ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第2の特徴量に基づいて、1つの短ゲージ長区間を、イベントが発生した区間として決定する区間推定部と、を有する、処理装置。
【0099】
(付記2)前記信号選択部は、前記選択された複数の短ゲージ長区間のそれぞれの信号と、前記選択された長ゲージ長区間の信号とを比較し、前記選択された長ゲージ長区間の信号に最も近似する信号を有する短ゲージ長区間を、前記イベントが発生した区間として決定する、付記1に記載の処理装置。
【0100】
(付記3)前記信号選択部は、前記信号として、時間波形信号、前記時間波形信号に周波数フィルタを適用した波形信号、前記時間波形信号の雑音を抑圧する処理を行った波形信号、前記時間波形信号をフーリエ変換した信号、前記時間波形信号をCQT(Constant Q Conversion)によって変換した信号、及び、前記時間波形信号から取得したスペクトログラムのいずれかを用いる、付記2に記載の処理装置。
【0101】
(付記4)前記信号選択部は、前記選択された複数の短ゲージ長区間のそれぞれの時間波形信号又は前記時間波形信号を変換した波形信号に対して主成分分析を行うことで得られる主成分、又は、前記選択された複数の短ゲージ長区間のそれぞれの前記時間波形信号又は前記時間波形信号を変換した波形信号のメル周波数ケプストラム係数に基づいて、前記イベントが発生した区間を決定する、付記1に記載の処理装置。
【0102】
(付記5)前記信号選択部は、第1の特徴量が第1の閾値よりも大きい長ゲージ長区間を選択する、付記1乃至4のいずれか一つに記載の処理装置。
【0103】
(付記6)前記信号選択部は、前記選択された複数の短ゲージ長区間のうちで、第1の特徴量が最大のものを前記イベントが発生した区間として決定する、付記1乃至5のいずれか一つに記載の処理装置。
【0104】
(付記7)前記信号選択部は、第1の特徴量が第1の閾値よりも大きい長ゲージ長区間を選択し、前記選択された複数の短ゲージ長区間のうちで、第1の特徴量が最大のものを前記イベントが発生した区間として決定する、付記1に記載の処理装置。
【0105】
(付記8)前記複数の長ゲージ長区間は、第1の光ファイバに設定され、前記複数の短ゲージ長区間は、第1の光ファイバと同じ又は近接した経路の第2の光ファイバに設定される、付記1乃至7のいずれか一つに記載の処理装置。
【0106】
(付記9)前記信号取得部は、1本の光ファイバに前記複数の長ゲージ長区間及び前記複数の短ゲージ長区間の一方を設定して信号群を取得し、取得した信号群に所定の信号処理を行うことで、前記複数の長ゲージ長区間及び前記複数の短ゲージ長区間の他方の信号群を取得する、付記1乃至7のいずれか一つに記載の処理装置。
【0107】
(付記10)前記信号取得部は、1本の光ファイバに前記複数の長ゲージ長区間を設定して前記複数の長ゲージ長区間の信号群を取得する処理と、前記1本の光ファイバに前記複数の短ゲージ長区間を設定して前記複数の短ゲージ長区間の信号群を取得する処理と、を交互に行う、付記1乃至7のいずれか一つに記載の処理装置。
【0108】
(付記11)前記イベントが発生した区間を決定した後に、前記イベントが発生した区間を含む、隣接する2つの長ゲージ長区間を検索し、前記隣接する2つの長ゲージ長区間の信号が類似している場合、前記隣接する2つのそれぞれについて、対応する複数の短ゲージ長区間を選択し、選択された前記複数の短ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第2の特徴量に基づいて、1つの短ゲージ長区間をイベント区間候補として選択し、前記隣接する2つの長ゲージ長区間の一方である第1の長ゲージ長区間の信号と前記第1の長ゲージ長区間のイベント候補の信号と類似の度合いを示す類似度と、前記隣接する2つの長ゲージ長区間の他方である第2の長ゲージ長区間の信号と前記第2の長ゲージ長区間のイベント候補の信号と類似の度合いを示す類似度と、を比較し、前記類似度が大きい方の長ゲージ区間の前記イベント候補を、前記第1及び第2の長ゲージ長区間の前記イベントが発生した区間に代えて、新たに、イベントが発生した区間として決定する、付記1乃至10のいずれか一つに記載の処理装置。
【0109】
(付記12) 前記イベントが発生した区間を決定した後に、前記イベントが発生した区間を含む、隣接する2つの長ゲージ長区間を検索し、前記隣接する2つの長ゲージ長区間のそれぞれから、他方の長ゲージ長区間に近接する短ゲージ長区間を1つ選択し、前記隣接する2つの長ゲージ長区間から選択された2つの短ゲージ長区間の信号が類似している場合、前記隣接する2つのそれぞれについて、対応する複数の短ゲージ長区間を選択し、選択された前記複数の短ゲージ長区間の信号群のそれぞれの特徴量に基づいて、1つの短ゲージ長区間をイベント区間候補として選択し、前記隣接する2つの長ゲージ長区間の一方である第1の長ゲージ長区間の信号と前記第1の長ゲージ長区間のイベント候補の信号と類似の度合いを示す類似度と、前記隣接する2つの長ゲージ長区間の他方である第2の長ゲージ長区間の信号と前記第2の長ゲージ長区間のイベント候補の信号と類似の度合いを示す類似度と、を比較し、前記類似度が大きい方の長ゲージ区間の前記イベント候補を、前記第1及び第2の長ゲージ長区間のイベント発生区間に代えて、新たに、イベントが発生した区間として決定する、付記1乃至10のいずれか一つに記載の処理装置。
【0110】
(付記13)センシングに用いられる光ファイバと、前記光ファイバに光パルスを出力してその戻り光をモニタする検出部と、前記検出部での前記戻り光のモニタ結果を受け取る処理装置と、を備え、前記処理装置は、前記光ファイバに設定した、複数の長ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群と、複数の短ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群とを取得する信号取得部と、複数の前記長ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第1の特徴量に基づいて長ゲージ長区間を選択し、選択した前記長ゲージ長区間に対応する複数の短ゲージ長区間を選択する信号選択部と、選択された前記複数の短ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第2の特徴量に基づいて、1つの短ゲージ長区間を、イベントが発生した区間として決定する区間推定部と、を備える、分布型音響センシングシステム。
【0111】
(付記14)分布型音響センシングに用いられる光ファイバに設定した、複数の長ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群と、複数の短ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群とを取得し、複数の前記長ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第1の特徴量に基づいて長ゲージ長区間を選択し、選択した前記長ゲージ長区間に対応する複数の短ゲージ長区間を選択し、選択された前記複数の短ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第2の特徴量に基づいて、1つの短ゲージ長区間を、イベントが発生した区間として決定する、分布型音響センシング方法。
【0112】
(付記15)分布型音響センシングに用いられる光ファイバに設定した、複数の長ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群と、複数の短ゲージ長区間からの戻り光に基づいて取得した複数の信号群とを取得する処理と、複数の前記長ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第1の特徴量に基づいて長ゲージ長区間を選択し、選択した前記長ゲージ長区間に対応する複数の短ゲージ長区間を選択する処理と、選択された前記複数の短ゲージ長区間の信号群のそれぞれの第2の特徴量に基づいて、1つの短ゲージ長区間を、イベントが発生した区間として決定する処理と、をコンピュータに実行させる、プログラムが格納された非一時的なコンピュータ可読媒体。
【符号の説明】
【0113】
100、200、300、400 DASシステム
1、2 検出部
10、20、30、40 処理装置
11、21、31、41 信号取得部
12、22、32、42 信号選択部
13、23、33、43 区間推定部
14、24、34、44 記憶部
EVT イベント区間情報
F、F、F 光ファイバ
INF 信号処理条件
SIG 長ゲージ長区間信号群情報
SIG 短ゲージ長区間信号群情報
TAB ゲージ対応情報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16