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特許7658514制御仕様定義方法、車両制御装置、制御仕様定義装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】制御仕様定義方法、車両制御装置、制御仕様定義装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/08 20120101AFI20250401BHJP
   B60W 40/04 20060101ALI20250401BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20250401BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20250401BHJP
【FI】
B60W30/08
B60W40/04
G08G1/16 C
B60W60/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024528021
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2022024096
(87)【国際公開番号】W WO2023243033
(87)【国際公開日】2023-12-21
【審査請求日】2024-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109612
【弁理士】
【氏名又は名称】倉谷 泰孝
(74)【代理人】
【識別番号】100116643
【弁理士】
【氏名又は名称】伊達 研郎
(74)【代理人】
【識別番号】100184022
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 美保
(72)【発明者】
【氏名】川上 大介
(72)【発明者】
【氏名】千田 伸男
(72)【発明者】
【氏名】青木 利晃
(72)【発明者】
【氏名】冨田 堯
(72)【発明者】
【氏名】河井 達治
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-510570(JP,A)
【文献】特開2022-090872(JP,A)
【文献】特開2021-135193(JP,A)
【文献】特開2013-045447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00- 1/16
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
B62D 6/00- 6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1車両の自動運転の制御に用いられる制御仕様を定義する制御仕様定義方法であって、
前記第1車両の位置及び動作を表す第1モデル要素と第2車両の位置及び動作を表す第2モデル要素とを2次元図に配置する操作を取得し、
前記第1モデル要素及び前記第2モデル要素が配置された前記2次元図に基づいて前記制御仕様を定義し、
前記2次元図は、開始地点と一定時間経過後の地点との両方における前記第1車両と前記第2車両との位置関係を含む制御仕様定義方法。
【請求項2】
第1車両の自動運転の制御に用いられる制御仕様を定義する制御仕様定義方法であって、
前記第1車両の位置及び動作を表す第1モデル要素と第2車両の位置及び動作を表す第2モデル要素とを2次元図に配置する操作を取得し、
前記第1モデル要素及び前記第2モデル要素が配置された前記2次元図に基づいて安全分析結果を取得し、
前記第1モデル要素及び前記第2モデル要素が配置された前記2次元図並びに前記安全分析結果に基づいて前記制御仕様を定義し、
前記2次元図は、開始地点と一定時間経過後の地点との両方における前記第1車両と前記第2車両との位置関係を含む制御仕様定義方法。
【請求項3】
第1車両の自動運転の制御に用いられる制御仕様を定義する制御仕様定義方法であって、
前記第1車両の位置及び動作を表す第1モデル要素と第2車両の位置及び動作を表す第2モデル要素とを2次元図に配置する操作を取得し、
前記第1モデル要素及び前記第2モデル要素が配置された前記2次元図に基づいて安全分析結果を取得し、
前記第1モデル要素及び前記第2モデル要素が配置された前記2次元図並びに前記安全分析結果に基づいて前記制御仕様を定義し、
前記安全分析結果は、前記第1モデル要素及び前記第2モデル要素が配置された前記2次元図を用いてコントロールストラクチャを作成し、アクシデントに至るまでのシナリオを前記第1モデル要素及び前記第2モデル要素が配置された前記2次元図を用いて作成したSTPA(System Theoretic Process Analysis)による分析結果である制御仕様定義方法。
【請求項4】
請求項2に記載の制御仕様定義方法であって、
前記安全分析結果は、前記第1モデル要素及び前記第2モデル要素が配置された前記2次元図を用いてコントロールストラクチャを作成し、アクシデントに至るまでのシナリオを前記第1モデル要素及び前記第2モデル要素が配置された前記2次元図を用いて作成しSTPA(System Theoretic Process Analysis)による分析結果である制御仕様定義方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の制御仕様定義方法であって、
前記第1モデル要素の前記第1車両の前記動作及び前記第2モデル要素の前記第2車両の前記動作の少なくともいずれか一方に分岐が設けられている制御仕様定義方法。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか1項に記載の制御仕様定義方法であって、
前記第1モデル要素の前記第1車両の前記動作の少なくとも一部と前記第2モデル要素の前記第2車両の前記動作の少なくとも一部とが同期されている制御仕様定義方法。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか1項に記載の制御仕様定義方法であって、
前記第1車両の前記動作は、前記第1車両の位置及び動作並びに前記第1車両からの物体の認知の少なくともいずれか一つを含み、
前記第2車両の前記動作は、前記第2車両の位置及び動作並びに前記第2車両からの物体の認知の少なくともいずれか一つを含む制御仕様定義方法。
【請求項8】
第1車両が位置する環境を取得する環境取得部と、
前記第1車両の位置及び動作を表す第1モデル要素並びに第2車両の位置及び動作を表す第2モデル要素が配置された2次元図に基づいて定義された制御仕様と、前記環境取得部で取得された前記環境とに基づいて前記第1車両の自動運転を制御する制御部とを備え
前記2次元図は、開始地点と一定時間経過後の地点との両方における前記第1車両と前記第2車両との位置関係を含む車両制御装置。
【請求項9】
第1車両の自動運転の制御に用いられる制御仕様を定義する制御仕様定義装置であって、
前記第1車両の位置及び動作を表す第1モデル要素並びに第2車両の位置及び動作を表す第2モデル要素を2次元図に配置する操作を取得する操作取得部と、
前記第1モデル要素及び前記第2モデル要素が配置された前記2次元図に基づいて前記制御仕様を定義する定義部とを備え
前記2次元図は、開始地点と一定時間経過後の地点との両方における前記第1車両と前記第2車両との位置関係を含む制御仕様定義装置。
【請求項10】
請求項に記載の制御仕様定義装置であって、
前記第1モデル要素及び前記第2モデル要素が配置された前記2次元図に基づいて安全分析結果を取得する安全分析部と、
前記定義部は、前記安全分析結果に基づいて前記制御仕様を定義する制御仕様定義装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動運転システムにおける車両の制御仕様定義方法、車両制御装置、制御仕様定義装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載システムとして多種多様な電子機器が車両に搭載されている。近年の車両の多機能化、複雑化に伴い、これらの電子機器を制御する制御装置の搭載数は増加している。特に、昨今、研究開発が加速している自動運転システムにおいては、車両のエンジン制御、ブレーキ制御、ステアリング制御を連携させることによって高度な自動運転を実現するシステムが提案されている。
【0003】
自動運転システムでは、適用領域の拡大や自動運転レベルの上昇に伴い、複雑な状況での認知・判断・動作を含む機能を実現するための制御が求められる。このため、ユースケースや制御仕様の表現も複雑化している。制御仕様を定義する手法として、自然言語による記述、シーケンス図、状態遷移図、フローチャートなどを用いるUML(Unified Modeling Language)のような準形式的な記述を用いることにより、制御仕様の抜け漏れが抑制されている。例えば、特許文献1の技術では、車両の制御仕様をフローチャートで記述されている。
【0004】
また、車両の制御仕様を検討する上で安全性に関する観点は重要であり、機能安全規格(ISO26262)ではハザード分析とリスクアセスメントにより、想定されるリスクの抽出とリスク対策が求められる。なお、ISOは、国際標準化機構(International Organization for Standardization)のことである。
【0005】
安全分析の手法として、非特許文献1としてSTPA(System Theoretic Process Analysis)という手法がある。STPAはシステム理論に基づく安全解析方法論であるSTAMP(Systems-Theoretic Accident Model and Processes)を安全分析の手法として確立したものであり、システムを構成するサブシステム間の相互作用に着目した分析手法である。手順としては、1st Stepとしてシステムのアクシデント、ハザード、安全制約を識別し、2nd Stepとしてコントロールストラクチャを構築することで要素間の相互作用を明確化し、3rd Stepとして非安全な相互作用である、UCA(Unsafe Control Action)を抽出し、最後に、4th Stepとしてアクシデントの要因を特定して対策検討する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-153028号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】STPA HANDBOOK
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
第1車両と第2車両との物理的な位置関係によって、第1車両及び第2車両の一方の動作が他方に危険を招く可能性がある。このため、車両の制御仕様の定義では、第1車両及び第2車両の位置及び動作を考慮する必要がある。しかしながら、特許文献1に記載されているようなフローチャートでは、実環境における第1車両及び第2車両の位置及び動作を把握することが困難であり、抜け漏れなく制御仕様を定義することが困難であった。
【0009】
そこで、本開示は、上記のような問題点を鑑みてなされたものであり、制御仕様を適切に定義することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る制御仕様定義方法は、第1車両の自動運転の制御に用いられる制御仕様を定義する制御仕様定義方法であって、第1車両の位置及び動作を表す第1モデル要素と第2車両の位置及び動作を表す第2モデル要素とを2次元図に配置する操作を取得し、第1モデル要素及び第2モデル要素が配置された2次元図に基づいて制御仕様を定義し、前記2次元図は、開始地点と一定時間経過後の地点との両方における前記第1車両と前記第2車両との位置関係を含む
【0011】
また、本開示に係る車両制御装置は、第1車両が位置する環境を取得する環境取得部と、第1車両の位置及び動作を表す第1モデル要素並びに第2車両の位置及び動作を表す第2モデル要素が配置された2次元図に基づいて定義された制御仕様と、環境取得部で取得された環境とに基づいて第1車両の自動運転を制御する制御部とを備え、前記2次元図は、開始地点と一定時間経過後の地点との両方における前記第1車両と前記第2車両との位置関係を含む
【0012】
さらに、本開示に係る制御仕様定義装置は、第1車両の自動運転の制御に用いられる制御仕様を定義する制御仕様定義装置であって、第1車両の位置及び動作を表す第1モデル要素並びに第2車両の位置及び動作を表す第2モデル要素を2次元図に配置する操作を取得する操作取得部と、第1モデル要素及び第2モデル要素が配置された2次元図に基づいて制御仕様を定義する定義部とを備え、前記2次元図は、開始地点と一定時間経過後の地点との両方における前記第1車両と前記第2車両との位置関係を含む
【発明の効果】
【0013】
このような構成によれば、制御仕様を適切に定義することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態1に係る制御仕様定義装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1に係るモデル要素を示す図である。
図3】実施の形態1に係る制御仕様定義装置の動作を示すフローチャートである。
図4】実施の形態1に係る車両制御装置の構成を示すブロック図である。
図5】実施の形態2に係る制御仕様の定義の例を説明するための図である。
図6】実施の形態2に係る制御仕様の定義の例を説明するための図である。
図7】実施の形態2に係る制御仕様の定義の例を説明するための図である。
図8】実施の形態2に係る制御仕様の定義の例を説明するための図である。
図9】実施の形態2に係る制御仕様の定義の例を説明するための図である。
図10】実施の形態3に係る制御仕様の定義の例を説明するための図である。
図11】実施の形態3に係る自車両の動作を示すフローチャートである。
図12】実施の形態4に係る制御仕様の定義の例を説明するための図である。
図13】実施の形態4に係る自車両の動作を示すフローチャートである。
図14】実施の形態5に係る自車両の振る舞いを網羅的に示す図である。
図15】実施の形態5に係る自車両の振る舞いを網羅的に示す図である。
図16】実施の形態5に係る自車両の振る舞いを網羅的に示す図である。
図17】実施の形態5に係る自車両の遷移パターンを網羅的に示す図である。
図18】実施の形態5に係る他車両の遷移パターンを網羅的に示す図である。
図19】実施の形態5に係る自車両の遷移パターンと他車両の遷移パターンとの組を網羅的に示す図である。
図20】実施の形態5に係る遷移パターンのうちの一組の分析結果を示す図である。
図21】実施の形態6に係る制御仕様定義装置の構成を示すブロック図である。
図22】実施の形態6に係る安全分析のフローを示した図である。
図23】実施の形態6に係るアクシデント、ハザード、安全制約を示した図である。
図24】実施の形態6に係る安全分析のインプットとなるシナリオの事例を示す図である。
図25】実施の形態6に係る安全分析のコントロールストラクチャを示す図である。
図26】実施の形態6に係る安全分析のUCAを分析した結果を示す図である。
図27】実施の形態6に係る安全分析のUCAに対してモデル要素を活用しアクシデントに至るまでのシナリオを示す図である。
図28】実施の形態6に係る安全分析のUCAとはならなかったシナリオについて示す図である。
図29】変形例に係る制御仕様定義装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図30】変形例に係る制御仕様定義装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
図1は、本実施の形態1に係る制御仕様定義装置1の構成を示すブロック図である。制御仕様定義装置1は、第1車両の自動運転の制御に用いられる制御仕様(機能仕様とも呼ばれる。)を定義する装置である。以下、第1車両を「自車両」と記し、第1車両以外の第2車両を「他車両」と記し、両者を区別しない場合には「車両」と記して説明することもある。また、自車両をXとし、自車両X以外の他車両を主にY、A,B等と表記することもある。なお、制御仕様定義装置1は自車両に搭載されてもよいし、自車両に搭載されずに自車両と通信可能に構成されてもよい。
【0016】
制御仕様定義装置1は、操作取得部2と定義部3とを備える。操作取得部2は、自車両の位置及び動作を表す第1モデル要素である自車両モデル要素と、他車両の位置及び動作を表す第2モデル要素である他車両モデル要素とを、2次元の情報となる2次元図(平面図)に配置する操作を取得する。自車両モデル要素と他車両モデル要素とは、実質的に同じであるため、以下、両者を区別しない場合には「モデル要素」と記して説明することもある。モデル要素が配置される2次元図には、例えば、制御仕様が定義されるべき場所を模式的に示す2次元図が用いられる。
【0017】
図2は、モデル要素を示す図である。なお、以下で説明するモデル要素は一例であり、様々なシチュエーションを表現するために他のモデル要素を追加してもよければ、これら以外の表現方法をモデル要素としても用いてよい。
【0018】
四角形のモデル要素は、自車両、他車両、その他のオブジェクトを表すオブジェクトノードである。オブジェクトノードの中には、オブジェクトの名称及びその状態が表される。同じオブジェクトであっても振る舞いの前後で複数配置してもよい。このため、同一のオブジェクトに関して、ある時点でのオブジェクトノードと、別の時点でのオブジェクトノードとが同じ2次元図に配置されてもよい。
【0019】
実線矢印のモデル要素は、車両の振る舞いを表す。車両の振る舞いは、車両の動作のうち車両の走行に関する動作である。複数の同一のオブジェクトノードが実線矢印のモデル要素で結ばれることによって、一つのオブジェクトについて異なる時点での振る舞いが表わされる。
【0020】
ひし形のモデル要素は分岐を表す。分岐を表すひし形のモデル要素が、振る舞いなどの動作を表すモデル要素と組合せられることによって、自車両の動作及び他車両の動作のいずれかまたは両方に分岐を設けることができ、その結果として、様々な動作パターンを含むシナリオを定義することができる。
【0021】
破線矢印のモデル要素は、車両の動作以外の振る舞いである車両の位置、速度などの確認を表す。破線矢印のモデル要素により、例えば、自車両の自動制御装置が他車両などの物体を確認したこと、及び、他車両の自動制御装置が自車両などの物体を確認したことを表すことができる。なお、ここでいう確認は認知及び認識に相当する。
【0022】
太線のモデル要素は、同期を表す。太線のモデル要素は、ある時点での複数のオブジェクトの位置関係を明確化する場合に用いられる。この太線のモデル要素によって、自車両の動作の少なくとも一部と、他車両の動作の少なくとも一部とが同期される。なお、太い線の横に数字(番号、記号)等が記載されることによって、同期の時点が識別可能になる。例えば、同期の時点が同じである場合には、その同期の太線の横に同じまたは関連する数字が記載され、同期の時点が異なる場合には、その同期の太線の横に異なる数字が記載される。
【0023】
図1の操作取得部2は、これらのモデル要素を組み合わせて2次元図(平面図)に配置する操作を取得することにより、自車両モデル要素と他車両モデル要素とを2次元図に配置する操作を取得する。モデル要素の詳細については実施の形態2以降で説明する。なお、操作取得部2は、手書きなどで用紙に描かれた2次元図から上記操作を読み取るように構成されてもよいし、描画を支援する設計支援ツールの入力装置で構成されてもよい。
【0024】
図1の定義部3は、上記操作後の2次元図(平面図)、つまり自車両モデル要素及び他車両モデル要素が配置された2次元図に基づいて、自車両の自動運転の制御に用いられる制御仕様を定義する。
【0025】
図3は、本実施の形態1に係る制御仕様定義装置1の動作を示すフローチャートである。
【0026】
ステップS1にて、操作取得部2は、自車両の位置及び動作を表す自車両モデル要素と、他車両の位置及び動作を表す他車両モデル要素とを、2次元図に配置する操作を取得する。
【0027】
ステップS2にて、定義部3は、自車両モデル要素及び他車両モデル要素が配置された2次元図に基づいて、自車両の自動運転の制御に用いられる制御仕様を定義する。その後、図3の動作が終了する。
【0028】
図4は、本実施の形態1の自車両に搭載された車両制御装置10の構成を示すブロック図である。詳細は後述するが、車両制御装置10は、制御仕様定義装置1で定義された制御仕様を用いるように構成されている。
【0029】
車両制御装置10は、自車両に搭載された複数の環境取得部である環境取得部30,31,32と、自動運転ECU(Electronic Control Unit)20と、エンジンECU40と、ブレーキECU41と、ステアリングECU42と、車載ネットワーク51,52とを備える。自動運転ECU20は、車載ネットワーク51を介して環境取得部30,31,32と接続され、車載ネットワーク52を介してエンジンECU40、ブレーキECU41、及び、ステアリングECU42と接続されている。
【0030】
環境取得部30~32は、自車両の周辺環境の情報などの、自車両が位置する環境の情報である環境情報を取得する。環境取得部30,31,32のそれぞれには、例えば、カメラ、ミリ波レーダー、ソナーなどの各種センサ、及び、車車間通信モジュール、路車間通信モジュールなどが用いられる。なお、環境取得部の数は、図4の3つに限ったものではない。
【0031】
自動運転ECU20は、認知部21と、制御部である車両制御部22とを含む。なお、自動運転ECU20には、上記で説明した制御仕様、つまり自車両モデル要素と他車両モデル要素とが配置された2次元図に基づいて制御仕様定義装置1で定義された制御仕様が記憶されている。
【0032】
認知部21は、環境取得部30~32で取得された環境情報を集約する。車両制御部22は、上記制御仕様と、認知部21で集約された環境情報とに基づいて、自車両の自動運転を制御する。例えば、車両制御部22は、自車両の位置及び目的地に基づいて、自車両が自動運転で走行すべき走行経路を生成し、走行経路に対して制御仕様が定義されている場合に、制御仕様と、認知部21で集約された環境情報とに基づいて制御量を演算する。ここでいう制御量は、例えば、目標ハンドル角、目標エンジン駆動量、及び、目標ブレーキ駆動量などを含む。車両制御部22は、車載ネットワーク52を介して、エンジンECU40、ブレーキECU41、及び、ステアリングECU42に、制御量などの演算結果を出力する。
【0033】
エンジンECU40、ブレーキECU41、及び、ステアリングECU42のそれぞれは、演算結果に基づいてアクチュエータ制御を行う。以上のように構成された車両制御装置10によって、自車両の自動運転が実現される。なお、自動運転は、AD(Autonomous Driving)制御の自動運転であってもよいし、ADAS(Advanced Driver Assistance System)制御の自動運転であってもよい。
【0034】
以上のように、第1車両の自動運転の制御に用いられる制御仕様を定義する制御仕様定義方法であって、第1車両の位置及び動作を表す第1モデル要素と第2車両の位置及び動作を表す第2モデル要素とを2次元図に配置する操作を取得し、第1モデル要素及び第2モデル要素が配置された2次元図に基づいて制御仕様を定義する制御仕様定義方法なので、制御仕様を適切に定義することができる。
【0035】
また、第1車両が位置する環境を取得する環境取得部と、第1車両の位置及び動作を表す第1モデル要素並びに第2車両の位置及び動作を表す第2モデル要素が配置された2次元図に基づいて定義された制御仕様と、環境取得部で取得された環境とに基づいて第1車両の自動運転を制御する制御部とを備える車両制御装置なので、制御仕様を適切に定義することができる。
【0036】
さらに、第1車両の自動運転の制御に用いられる制御仕様を定義する制御仕様定義装置であって、第1車両の位置及び動作を表す第1モデル要素並びに第2車両の位置及び動作を表す第2モデル要素を2次元図に配置する操作を取得する操作取得部と、第1モデル要素及び第2モデル要素が配置された2次元図に基づいて制御仕様を定義する定義部とを備える制御仕様定義装置なので、制御仕様を適切に定義することができる。
【0037】
実施の形態2.
本実施の形態2では、実施の形態1で説明したモデル要素を用いて車両制御装置10の制御仕様を定義する例について説明する。なお、実施の形態2に係る制御仕様定義装置1及び車両制御装置10の構成は、実施の形態1で説明した図1の構成及び図4の構成と同様である。
【0038】
図5は、自車両Xが他車両Yを追い抜くシナリオの例を示す図である。なお図5では、図2のモデル要素を用いずに表される自車両Xと他車両Yとの位置関係と、図2のモデル要素を用いて表される自車両Xと他車両Yとの位置関係とが示されている。
【0039】
図5の例では、片側3車線の直線道路が想定されている。そして、開始時点では、中央車線を走行している自車両Xは、左車線を走行している他車両Yの右後方に位置し、自車両Xが加速することで、その時点から一定時間経過後の時点で自車両Xが左車線の他車両Yを追い抜くというシナリオが想定されている。
【0040】
図2のモデル要素を用いない場合には、このシナリオの自車両Xと他車両Yとの位置関係は、図5の左側の上下2つの図で表される。一方、図2のモデル要素を用いた場合には、このシナリオの自車両Xと他車両Yとの位置関係は、図5の右側の1つの図で表される。図5の右側の図では、開始時点と、開始時点から一定時間経過後の時点との両方について、自車両X及び他車両Yのオブジェクトノードが配置され、同じ車両のオブジェクトノード同士が矢印で結ばれている。図5の例では、左車線の他車両Yは一定速度で走行し、中央車線の自車両Xは加速して走行している。これによって、自車両Xは、一定速度で走行している他車両Yを追い抜くために加速していることが、振る舞いを表す矢印を比較的長くすることによって表されている。このようにモデル要素を用いることによって、自車両X及び他車両Yのそれぞれの位置及び振る舞いを、1つ図で表現することが可能となる。
【0041】
図6は、図2のモデル要素を用いて自車両の振る舞いに分岐を設けた例を示す図である。図6の例でも、片側3車線の直線道路が想定されている。自車両が中央車線を走行している状態において、「左車線に車線変更を行う」、「中央車線を走行継続する」、「右車線に車線変更を行う」から一つが選択して実行された場合の自車両位置の関係が網羅的に表されている。図6の例では、2次元図(平面図)に「車線上」という枠を設けることで、車線変更中の状態が中間状態として表現可能となっている。
【0042】
図6の例では、選択条件は明記されていないが、分岐後の振る舞い、つまり矢印に選択条件が付記されてもよい。例えば、選択条件として「中央車線前方に他車両がいた場合、右車線に車線変更する」という内容が付記されてもよい。図6のような分岐を用いることによって複数の動作パターンを含むシナリオを、1つの図面で表現することが可能となる。第1モデル要素の第1車両の動作及び第2モデル要素の第2車両の動作の少なくともいずれか一方に分岐が設けられているので、制御仕様を適切に定義することができる。
【0043】
図7は、図2のモデル要素を用いて同期を設けた例を示す図である。図7では、図2のモデル要素を用いずに表される自車両Xと他車両Yとの位置関係と、図2のモデル要素を用いて表される自車両Xと他車両Yとの位置関係とが示されている。
【0044】
時点(1)の同期として、中央車線を走行している自車両Xと、左車線を走行している他車両Yとが進行方向に対して並走している位置関係が表されている。時点(1)から自車両Xは時速60km/hで走行し、他車両Yは40km/hで走行する。時点(1)から一定時間経過後の時点(2)の同期として、自車両Xが他車両Yを追い抜く位置関係が表されている。このような位置関係は、図5のようにオブジェクトノード及び矢印だけでもある程度表現できるが、図7のような同期を用いることによって、同じ時点での位置関係を明確化できる。このため、例えば図6の分岐後の自車両と他車両との位置関係を明確に表現することなどが可能となる。第1モデル要素の第1車両の動作の少なくとも一部と第2モデル要素の第2車両の動作の少なくとも一部とが同期されているので、制御仕様を適切に定義することができる。
【0045】
図8は、図2のモデル要素を用いて車両の振る舞い以外の動作を行うシナリオの例を示す図である。図8の例では、片側3車線の直線道路にて、中央車線を走行している自車両が、左車線を走行している他車両の位置及び動作などを確認(認知)することが表されている。
【0046】
第1車両の動作は、第1車両の位置及び動作並びに第1車両からの物体の認知の少なくともいずれか一つを含み、第2車両の動作は、第2車両の位置及び動作並びに第2車両からの物体の認知の少なくともいずれか一つを含むので、制御仕様を適切に定義することができる。
【0047】
図9は、図2のモデル要素を用いて自車両及び他車両が車線変更するシナリオの例を示す図である。図9の例では、自車両は中央車線から左車線に車線変更し、他車両は左車線から中央車線に車線変更することが表されている。「車線上」では自車両と他車両とが同じ位置に配置されているため、衝突可能性がある。以上のようにモデル要素を用いることによって、フローチャートなどでは表現できなかった車線変更中の自車両と他車両との衝突可能性を表現することが可能となる。なお、図9では、右車線を省略している。
【0048】
以上のように、実施の形態1の内容に加えて、分岐、同期、認知(確認)によって、制御仕様を適切に定義することができる。
【0049】
実施の形態3.
本実施の形態3では、実施の形態1で説明したモデル要素を組合せて車両制御装置10の制御仕様を定義する例について説明する。なお、実施の形態3に係る制御仕様定義装置1及び車両制御装置10の構成は、実施の形態1で説明した図1の構成及び図4の構成と同様である。
【0050】
図10は、自車両Xが、自車両Xの前方の他車両Yを追い越すシナリオの例を示す図である。なお図10では、図2のモデル要素を用いずに表される自車両Xと他車両Yとの位置関係と、図2のモデル要素を用いて表される自車両Xと他車両Yとの位置関係とが示されている。
【0051】
開始時点である時点(1)では、自車両Xは左車線を走行しており、自車両Xの前方には他車両Yが走行している。自車両Xはまず、他車両Yの速度を確認し、他車両Yの速度が閾値以下であり、かつ、自車両Xの車線変更が可能であるかを判定する。
【0052】
他車両Yの速度が閾値以下であり、かつ、自車両Xの車線変更が可能であると判定されなかった場合(少なくともいずれか一方が否定された場合)には、時点(3)-1の自車両Xは、左車線の走行を継続し、時点(3)-1と同期する時点(3)の他車両Yを追従する。
【0053】
他車両Xの速度が閾値以下であり、かつ、自車両Yの車線変更が可能であると判定された場合には、時点(2)の自車両Xに移行するために、自車両Xは中央車線へ車線変更を行い、車線変更後に加速を行う。そして、時点(2)の自車両Xは、時点(2)の他車両Yの位置を確認し、他車両Yが自車両Xから一定距離以上離れて後方に位置しているか否かを判定する。
【0054】
他車両Yが自車両Xから一定距離以上離れて後方に位置していると判定された場合には、時点(3)-2の自車両Xに移行するために、自車両Xは左車線へ車線変更を行う。これにより、時点(3)-2の自車両Xは、時点(3)-2と同期する時点(3)の他車両Yの前方を走行することになり、追い越しが完了する。
【0055】
他車両Yが自車両Xから一定距離以上離れて後方に位置していないと判定された場合には、時点(3)-3の自車両Xは、中央車線の走行を継続し、時点(3)-3と同期する時点(3)の他車両Yとの間の距離を広げる。
【0056】
なお、以上のようなシナリオにおいて、「他車両Yの速度を確認」や「他車両Yの位置を確認」といった自車両Xの動作を行うための情報は認知部21にて集約され、車両制御装置10の制御、つまり自車両Xの動作は車両制御部22にて決定される。
【0057】
図11は、図10に示す2次元図に基づく制御仕様を用いた、車両制御装置10の制御、つまり自車両Xの動作を示すフローチャートである。なお説明の便宜上、図10で説明した動作は、以下で説明する図11の動作と多少異なるが、図11の動作と完全同一にすることは可能である。
【0058】
まず、ステップS11にて、自車両は、自車両の前方を走行する他車両の速度を検出して確認する。この動作は、図10の時点(1)の動作に対応する。
【0059】
次に、ステップS12にて、自車両は、追い越しを行うか否かの判定と、車線変更可能か否かの判定とを行う。追い越しを行うか否かの判定は、例えば、他車両の速度が閾値以下であるか否かによって判定される。車線変更可能か否かの判定は、例えば、車線変更先に別の他車両が存在するか否かによって判定される。
【0060】
追い越しを行うと判定されなかった場合、または、車線変更可能であると判定されなかった場合には、図11の動作が終了する。このときの動作は、図10の時点(3)-1の動作に対応する。一方、追い越しを行うと判定され、かつ、車線変更可能であると判定された場合には、処理がステップS13に進む。
【0061】
ステップS13にて、自車両は車線変更を行い、ステップS14にて、自車両は加速を行って左車線の他車両を追い抜く。
【0062】
次に、ステップS15にて、自車両は、他車両が自車両から一定距離以上離れて後方に位置するか否かを判定する。他車両が自車両から一定距離以上離れて後方に位置すると判定された場合には処理がステップS16に進む。一方、他車両が自車両から一定距離以上離れて後方に位置していないと判定された場合には、図11の動作が終了する。このときの動作は、図10の時点(3)-3の動作に対応する。
【0063】
ステップS16にて、自車両は、他車両が走行している車線に車線変更を行い、追い越しが完了する。このときの動作は、図10の時点(3)-2の動作に対応する。
【0064】
以上のように、実施の形態1の内容に加えて、分岐、同期、認知(確認)によって、制御仕様を適切に定義することができる。また、実施の形態3によれば、図2のモデル要素を組合せることにより、自車両及び他車両の位置及び動作を考慮した複数のシナリオを、制御仕様として定義することができる。なお、実施の形態3では追い越しを想定したシナリオにて説明を行ったが、適用可能なシナリオはこれらに限らず、多岐への応用が可能である。
【0065】
実施の形態4.
本実施の形態4では、実施の形態1で説明したモデル要素を組合せて車両制御装置10の制御仕様を定義する他の例について説明する。なお、実施の形態4に係る制御仕様定義装置1及び車両制御装置10の構成は、実施の形態1で説明した図1の構成及び図4の構成と同様である。
【0066】
図12は、側道などの合流前車線を走行している自車両Xが、本線などの合流先車線に合流するシナリオの例を示す図である。なお図12では、図2のモデル要素を用いずに表される自車両Xと他車両Yとの位置関係と、図2のモデル要素を用いて表される自車両Xと他車両Yとの位置関係とが示されている。
【0067】
開始時点である時点(1)では、自車両Xは、合流後に消失する合流前車線を走行しており、他車両Yは合流先車線を走行している。自車両Xは、他車両Yの速度及び位置を確認し、自車両Xの合流先車線への車線変更が可能であるかを判定する。自車両Xの合流先車線への車線変更が可能であると判定された場合には、時点(2)の自車両Xに移行するために、自車両Xは合流先車線への車線変更を行い、車線変更後に加速を行う。これにより、時点(2)の自車両Xは、時点(2)と同期する時点(2)-1の他車両Yの後方を走行するか、時点(2)と同期する時点(2)-2の他車両Yの前方を走行する。
【0068】
自車両Xの合流先車線への車線変更が可能であると判定されなかった場合には、自車両Xは、減速しながら合流前車線を走行し、他車両Yが自車両Xを追い抜くことを確認する。次に、自車両Xは、他車両Yに続く別の他車両Z(図示せず。)の位置及び速度を確認し、自車両Xの合流先車線への車線変更が可能であるかを判定する。自車両Xの合流先車線への車線変更が可能であると判定された場合には、時点(3)の自車両Xに移行するために、自車両Xは合流先車線への車線変更を行い、車線変更後に加速を行う。これにより、時点(3)の自車両Xは、時点(3)の他車両Yの後方を走行する。
【0069】
自車両Xの合流先車線への車線変更が可能であると判定されず、かつ、自車両Xが合流前車線の消失地点の手前まで到達したと判定された場合には、自車両Xは走行を停止し、他車両Yを含めて他車両が自車両Xを追い抜くことを確認する。停止後の自車両Xは、上記と同様に自車両Xの合流先車線への車線変更が可能であるかを判定し、自車両Xの合流先車線への車線変更が可能であると判定された場合には、時点(4)の自車両Xに移行するために、自車両Xは合流先車線への車線変更及び加速を行う。これにより、時点(4)の自車両はX、時点(4)の自車両Xの前方に位置する時点(4)の他車両Z(図示せず。)の後方を走行する。
【0070】
以上のようなシナリオにおいて、「他車両の位置、速度を確認」といった自車両Xの動作を行うための情報は認知部21にて集約され、車両制御装置10の制御、つまり自車両Xの動作は車両制御部22にて決定される。
【0071】
図13は、図12に示す2次元図に基づく制御仕様を用いた、車両制御装置10の制御、つまり自車両Xの動作を示すフローチャートである。説明の便宜上、図12で説明した動作は、以下で説明する図13の動作と多少異なるが、図13の動作と完全同一にすることは可能である。
【0072】
まず、ステップS21にて、自車両は、合流先車線の他車両を確認する。次に、ステップS22にて、自車両は、合流先車線への車線変更が可能であるか否かを判定する。例えば、自車両は、他車両との距離が閾値以上であり、かつ、他車両の速度が閾値以下であると判定された場合には、合流先車線への車線変更が可能と判定し、他車両との距離が閾値以上であり、かつ、他車両の速度が閾値以下であると判定されなかった場合(少なくといずれか一方が非該当な場合)には、合流先車線への車線変更が可能でないと判定する。
【0073】
合流先車線への車線変更が可能であると判定された場合には、処理がステップS23に進む。一方、合流先車線への車線変更が可能であると判定されなかった場合には、処理がステップS26に進む。
【0074】
ステップS23にて自車両は減速を行い、ステップS24にて自車両は合流前車線の消失地点の手前まで到達したか否かを判定する。自車両が合流前車線の消失地点の手前まで到達したと判定された場合には、処理がステップS25に進み、自車両が当該地点の手前まで到達していないと判定された場合には、処理がステップS21に戻る。
【0075】
ステップS25にて自車両は停止する。その後、処理がステップS21に戻る。
【0076】
ステップS26にて、自車両は合流先車線に車線変更し、ステップS27にて、自車両は加速を行う。その後、図13の動作が終了する。
【0077】
以上のように、実施の形態1の内容に加えて、分岐、同期、認知(確認)によって、制御仕様を適切に定義することができる。また、実施の形態4によれば、図2のモデル要素を組合せることにより、自車両及び他車両の位置及び動作を考慮した複数のシナリオを、制御仕様として定義することができる。なお、実施の形態4では合流を想定したシナリオにて説明を行ったが、適用可能なシナリオはこれらに限らず、多岐への応用が可能である。
【0078】
実施の形態5.
実施の形態5では、実施の形態1で説明したモデル要素を用いて自車両及び他車両の動作について網羅的に表現した例について説明する。なお、実施の形態5に係る制御仕様定義装置1及び車両制御装置10の構成は、実施の形態1で説明した図1の構成及び図4の構成と同様である。
【0079】
図14から図16までは、図2のモデル要素を用いて片側3車線の直線道路を走行する自車両の振る舞いを網羅的に示す図である。図14では、自車両の現在地から速度の変更可能性と車線の変更可能性とが、自車両の網羅的な振る舞いとして図示されている。同様に、図15には、自車両の初期位置が中央車線である場合の自車両の網羅的な振る舞いが図示され、図16には、自車両の初期位置が右車線である場合の自車両の網羅的な振る舞いが図示されている。
【0080】
図14に示すように、自車両の初期位置が左車線である場合、まず自車両は、加速、速度維持、減速という3つの振る舞いの中からいずれかを選択する可能性がある。また、次の選択の分岐として、自車両は、車線維持、車線変更という2つの振る舞いの中からいずれかを選択する可能性がある。図15及び図16においても、自車両は、図14と同様の振る舞いの中からいずれかを選択する可能性がある。なお、図14から図16までに記載されている数値は、取りうる振る舞いの数を表現している。
【0081】
図17は、自車両の遷移パターンを網羅的に示す図であり、図18は、他車両の遷移パターンを網羅的に示す図である。また、図19は、自車両の遷移パターンと他車両の遷移パターンとの組み合わせを網羅的に示す図である。
【0082】
初期状態として自車両が左車線(図17のA0)、他車両が中央車線(図18のB0)に位置した場合には、自車両は図17に示すようにA0→A1→A2→A3と遷移していき、他車両は図18に示すようにB0→B1→B2→B3と遷移していく。自車両及び他車両のそれぞれは、遷移途中に加速や減速を行う可能性があるため、並走しなくなる可能性もあるが、図19に示される自車両及び他車両の遷移パターンによれば、その並走の可能性を把握することができる。具体的には、「A1B1」、「A2B2」、「A3B3」では、自車両と他車両とが並走しているため、自車両と他車両とが同じ車線にいれば衝突する可能性が考えられる。
【0083】
図20は、図19で示した遷移パターンのうち、「A1B1」での衝突可能性の分析結果を示す図である。図17に示すように、A1では自車両は左車線または中央車線に存在する可能性がある。一方、図18に示すように、B1では他車両は左車線、中央車線、右車線のいずれかに存在する可能性がある。図20の状態No.1からNo.6までのうち、自車両及び他車両が同じ車線に位置する状態No.1及び状態No.5では衝突可能性がある。また、「A1B1」の最終状態としては自車両及び他車両の位置は異なるが、「A0B0」から「A1B1」への遷移を考慮すると、遷移時に交差する可能性がある状態No.4でも衝突可能性がある。一方、状態No.2、3,6ではいずれも衝突の可能性が無い。
【0084】
以上のように、図2の要素を用いて自車両と他車両との位置関係を網羅的に表現した本実施の形態5によれば、フローチャートなどでは確認できなかった衝突可能性を確認することが可能となる。なお、制御仕様定義装置1は、定義部3で定義された制御仕様に基づいて、図20のような自車両と他車両との衝突可能性の分析結果を生成してもよい。
【0085】
実施の形態6.
実施の形態6では、実施の形態1から実施の形態5のいずれかで説明したモデル要素を用いて自車両及び他車両の動作について安全分析であるSTPAを実施したものである。
【0086】
図21は、本実施の形態6に係る制御仕様定義装置1の構成を示すブロック図である。図1の制御仕様定義装置1との違いは、安全分析部4を備えていることである。安全分析部4は、操作取得部2で定義された自車両のモデル要素及び他車両のモデル要素が配置された2次元図(平面図)に基づいて安全分析を行い、分析結果を用いて定義部3にて自車両の自動運転の制御に用いられる制御仕様が定義される。
【0087】
図22は、安全分析部4にて実施される安全分析のフローを示す。まず、ステップS31では、システムのアクシデント、ハザード、安全制約を識別する。これらはSTPAの手順1st Stepと同様である。
【0088】
次に、ステップS32では、分析対象となる自動運転システムの振る舞いを表現したシナリオを操作取得部2から取得する。従来の単なるSTPAでは、次のステップS33でコントロールストラクチャを構築するために、システムの登場人物とこれらの相互作用を洗い出すことになる。ところが、本開示では、ステップS32の段階で、登場人物だけでなく、これらの振る舞いがモデル要素を活用されて整理されたシナリオとしてインプットすることで、コントロールストラクチャ内の要素や相互作用の抜け漏れを防ぐことができるようになる。
【0089】
次に、ステップS33では、STPAの手順2nd Stepと同様にコントロールストラクチャを構築する。従来のSTPAの手順に従い、コントロールストラクチャを構築する。ステップS32で定義したシナリオと整合性を合わせることによって、振る舞いも明確にすることができる。
【0090】
次に、ステップS34では、STPAの手順3rd Stepと同様にコントロールストラクチャにしえされているコントロールアクションに対し、ガイドワードを適用し、非安全な相互作用(UCA:Unsafe Control Action)を抽出する。
【0091】
次に、ステップS35では、ステップS34で抽出されたUCAシナリオについてモデル要素を活用したシナリオで表現する。モデル要素を活用した図面でUCAを示すことにより、アクシデントまでの一連のシナリオを明確にすることができる。また、UCAとして抽出されなかったところについては、UCAが無いことを明示することができる。
【0092】
次に、ステップS36では、STPAの手順4th Stepとしてアクシデントの要因を特定し、アクシデントの対策を検討する。なお、本フローはSTPAを想定したフローであるが、安全分析の手法をSTPAに限定されるものではない。
【0093】
図23は、ステップS31に従い、自動運転システムにおける高速道での前方車に追従するユースケースを想定し、前方車を認識する機能の事例に対して、システムのアクシデント、ハザード、安全制約を定義した事例の図である。ここでは、以下のように定義している。アクシデントとしては、他車両、周辺等に衝突する又は衝突される。ハザードとしては、前方車両が認識(確認)できなくなる。安全制約としては、前方車両を認識(確認)できることである。
【0094】
図24は、安全分析のインプットとなるシナリオの事例をモデル表現した図面である。シナリオとして渋滞時に2車線上の走行車線で自車両が前方車両車を追従している際に、前方車両が車線変更したときのシナリオを表現している。なお、自車両は走行車線を継続して走行している。同期(1)の時点で走行車線を自車両Xが走行中に、自車両Xの前方に前方車両Aが走行中であり、前方車両Aの前方に前方車両Bが走行中である。まず、同期(1)の時点で自車両Xは前方車両Aを認識する。次に、同期(2)の時点で自車両Xは、前方車両Aが走行車線から車線中間線に車線変更したことを認識する。同時に、同期(2)の時点で自車両Xは、走行車線を走行中の前方車両Bを認識する。次に、同期(3)の時点で、前方車両Aは追い越し車線へ車線変更を完了し、自車両Xは加速して走行しながら前方車両Bを認識している。
【0095】
図25は、ステップS33にて、コントロールストラクチャを構築した事例の図である。図において実線はコントロールアクションを示し、点線はフィードバックデータを示している。コントロールストラクチャは、分析対象となるシステムとそれらを取り巻く周辺の登場人物(自車両、前方車両、他車両、運転手、交通環境等)を整理し、それぞれの相互作用を考慮して、「動作状況」、「交通環境情報」等が作成される。図24を参考とすることで、図24に示されている「走行する」、「認識する」といった振る舞いもコントロールアクションとして図25に示すことができ、コントロールストラクチャを充実化させることができる。
【0096】
図26は、図24及び図25に記載の「前方車両を認識する」というコントロールアクションについてUCAを分析した結果を示した図面である。CAは対象とする認識内容、提供条件はCAによる他車両の条件(状況)である。従来のUCA抽出では対象のコントロールアクションに対して4つのガイドワードである「Not Providing」、「Providing causes hazard」、「Too early / Too late」、「Stop too soon / Applying too long」を適用して分析を行う。特に、図26では認識を対象に分析しているため、「Providing causes hazard」を細分化し、「正しく認識」と「誤認識」に分けて分析している。また、「誤認識」についてはさらに「認識対象そのものを間違える誤認識」と「認識対象のラベルを間違える誤認識」とで細分化している。
【0097】
オリジナルのUCAをより細分化することで、コントロールアクションが認識の場合、正しく認識した場合と誤認識している場合、さらに誤認識の場合には認識対象そのものを間違える場合と認識対象のラベルを間違える場合とで、その後の車両動作への影響が異なる可能性があるので、細分化した分析を実施することで異なる影響を網羅的に考慮することができる。
【0098】
図24のシナリオでは4つのタイミングで「前方車両を認識する」シーンがあるため、それぞれのシーンでの分析を行う。図24の「2及び3の認識」はタイミングが同じであることから、相互に関連するUCAとなる。例としては「2の認識」が提供されない「Not providing」の場合、「3の認識」が提供されることでUCAとなることやその逆のパターン(2の認識が提供され、3の認識が提供されない)が当てはまる。
【0099】
図27は、分析したUCA(図26)の「Not Providing」の「(A)前方車を認識せず、追突する」のUCAに対して、モデル要素を活用することでアクシデントに至るまでのシナリオを表現した例である。「前方車両Aを認識する」が提供されないことで、自車両Xが加速し、車線変更中の前方車両Aと衝突するというシナリオが表現されている。
【0100】
図28は、分析したUCA(図26)のUCAとはならなかった「正しく認識」の「(B)前方車を正しく認識し、問題なし」に対して、モデル要素を活用することでシナリオを表現した例である。「前方車両Aを認識する」が提供されることでアクシデントには至らないというシナリオが表現されている。図28の「1の認識」は、この段階では前方車両Aも車線変更を始めていないため、自車両Xとしては対象の前方車両Aを正しく認識できていれば問題ない。
【0101】
安全分析であるSTPAにモデル要素を活用したシナリオ図面を活用することで、自車両及び他車両の動的な振る舞いを考慮することができるので、コントロールストラクチャ作成時に自車両及び自車両周辺との相互作用を明確化できる。
【0102】
また、分析対象のシナリオを限定できる。従来のSTPAでの分析では、「自動運転システムレベル3での高速道における渋滞時の前方車追従」というユースケースのみを想定していたのに対して、道路位置関係図を用いた分析によって「前方車両のレーンチェンジ」というシナリオに限定して分析を行うことができる。
【0103】
さらに、一つのコントロールアクションについて詳細なUCAの分析ができている。従来のSTPAの手法では、「前方車を認識する」という一つのコントロールアクションに対して、特にシーンを限定せずに分析を行うことになるので、各ガイドワードから想起されるUCAを一つ記載して終了してしまい、図26の分析結果よりも浅い分析となってしまう可能性が高い。
【0104】
また、UCA抽出後にUCAのシナリオをモデル要素として活用して表現することによってシナリオが明確化できるので、UCAには無い部分のシナリオについてもUCAが無いことを明確にできる。
【0105】
以上のように、第1車両の自動運転の制御に用いられる制御仕様を定義する制御仕様定義方法であって、第1車両の位置及び動作を表す第1モデル要素と第2車両の位置及び動作を表す第2モデル要素とを2次元図に配置する操作を取得し、第1モデル要素及び第2モデル要素が配置された平面図に基づいて安全分析結果を取得し、第1モデル要素及び第2モデル要素が配置された2次元図並びに安全分析結果に基づいて制御仕様を定義する制御仕様定義方法なので、制御仕様を適切に定義することができる。
【0106】
また、安全分析結果は、第1モデル要素及び第2モデル要素が配置された2次元図を用いてコントロールストラクチャを作成し、アクシデントに至るまでのシナリオを第1モデル要素及び第2モデル要素が配置された2次元図を用いて作成してSTPAによる分析結果である制御仕様定義方法なので、制御仕様を適切に定義することができる。
【0107】
さらに、第1車両の自動運転の制御に用いられる制御仕様を定義する制御仕様定義装置であって、第1車両の位置及び動作を表す第1モデル要素並びに第2車両の位置及び動作を表す第2モデル要素を2次元図に配置する操作を取得する操作取得部と、第1モデル要素及び第2モデル要素が配置された2次元図に基づいて安全分析結果を取得する安全分析部と、第1モデル要素及び第2モデル要素が配置された2次元図に基づいて制御仕様を定義し、安全分析結果に基づいて制御仕様を定義する定義部とを備える制御仕様定義装置なので、制御仕様を適切に定義することができる。
【0108】
変形例1.
図29及び図30は、実施の形態1から実施の形態6までの変形例に係る制御仕様定義装置及び車両制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。図1の操作取得部2及び定義部3、図21の操作取得部2、定義部3、安全分析部4を総称して「操作取得部2等」と記す。操作取得部2等は、図29に示す処理回路81により実現される。すなわち、処理回路81は、車両のモデル要素を2次元図(平面図)に配置する操作を取得する操作取得部2と、2次元図に基づいて制御仕様を定義する定義部3と、安全分析を行う安全分析部4とを備える。処理回路81には、専用のハードウェアが適用されてもよいし、メモリ83に格納されるプログラムを実行するプロセッサ82が適用されてもよい。プロセッサ82には、例えば、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)などが該当する。
【0109】
処理回路81が専用のハードウェアである場合、処理回路81は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ82、並列プログラム化したプロセッサ82、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。操作取得部2等の各部の機能それぞれは、処理回路81を分散させた回路で実現されてもよいし、各部の機能をまとめて一つの処理回路81で実現されてもよい。
【0110】
処理回路81がプロセッサ82である場合には、操作取得部2等の機能は、ソフトウェア等との組み合わせにより実現される。なお、ソフトウェア等には、例えば、ソフトウェア、ファームウェアが該当する。ソフトウェア等はプログラムとして記述され、メモリ83に格納される。図22に示すように、処理回路81に適用されるプロセッサ82は、メモリ83に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。すなわち、制御仕様定義装置1は、処理回路81により実行されるときに、第1車両の位置及び動作を表す第1モデル要素と、第2車両の位置及び動作を表す第2モデル要素とを、2次元図に配置する操作を取得するステップと、第1モデル要素及び第2モデル要素が配置された2次元図に基づいて制御仕様を定義するステップと、が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ83を備える。換言すれば、このプログラムは、操作取得部2等の手順や方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。ここで、メモリ83は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)などの、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD(Digital Versatile Disc)、そのドライブ装置等、または、今後使用されるあらゆる記憶媒体であってもよい。
【0111】
以上、操作取得部2等の各機能が、ハードウェア及びソフトウェア等のいずれか一方で実現される構成について説明した。本開示は、これらに限ったものではなく、操作取得部2等の一部を専用のハードウェアで実現し、別の一部をソフトウェア等で実現する構成であってもよい。例えば、操作取得部2等については専用のハードウェアとしての処理回路81、インターフェース及びレシーバなどでその機能を実現し、それ以外についてはプロセッサ82としての処理回路81がメモリ83に格納されたプログラムを読み出して実行することによってその機能を実現することが可能である。
【0112】
以上のように、処理回路81は、ハードウェア、ソフトウェア等、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
【0113】
また、以上で説明した制御仕様定義装置1は、装置とサーバとを適宜に組み合わせてシステムとして構築される制御仕様定義システムにも適用することができる。この場合、以上で説明した制御仕様定義装置1の各機能あるいは各構成要素は、前記システムを構築する各機器に分散して配置されてもよいし、いずれかの機器に集中して配置されてもよい。
【0114】
なお、各実施の形態及び各変形例を自由に組み合わせたり、各実施の形態及び各変形例を適宜、変形、省略したりすることが可能である。また、図において、同一の符号を付したものは、同一またはこれに相当するものであり、このことは明細書の全文、図面の全図において共通することである。さらに、明細書全文に表れている構成要素の形態は、あくまで例示であってこれらの記載に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0115】
1 制御仕様定義装置、2 操作取得部、3 定義部、4 安全分析部、10 車両制御装置、20 自動運転ECU、21 認知部、22 車両制御部、30,31,32 環境取得部、40 エンジンECU、41ブレーキECU、42 ステアリングECU、51,52 車載ネットワーク、81 処理回路、82 プロセッサ、83 メモリ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30