(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-31
(45)【発行日】2025-04-08
(54)【発明の名称】樹脂組成物および電力ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 3/44 20060101AFI20250401BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20250401BHJP
H01B 9/00 20060101ALI20250401BHJP
【FI】
H01B3/44 G
H01B7/02 A
H01B9/00 Z
(21)【出願番号】P 2025504835
(86)(22)【出願日】2024-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2024016576
【審査請求日】2025-01-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187643
【氏名又は名称】白鳥 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】泉 直毅
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/017562(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/120374(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/200935(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/44
H01B 7/02
H01B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分として、プロピレン単位を有するプロピレン系樹脂(A)
および熱可塑性エラストマ(B)
のみを含有し、
融点が110℃以上であり、
分子量分布を測定したときに、分子量が1×10
4以下の成分の割合が3%以下である、
樹脂組成物。
【請求項2】
導体と、
前記導体の周囲に被覆され、樹脂組成物から形成される絶縁層と、
を備え、
前記樹脂組成物は、
樹脂成分として、プロピレン単位を有するプロピレン系樹脂(A)
および熱可塑性エラストマ(B)
のみを含有し、
融点が110℃以上であり、
分子量分布を測定したときに、分子量が1×10
4以下の成分の割合が3%以下である、
電力ケーブル。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマ(B)は、オレフィン単位を有するオレフィン系熱可塑性エラストマ、およびスチレン単位を有するスチレン系熱可塑性エラストマの少なくとも1つである、
請求項2に記載の電力ケーブル。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマ(B)の融点が110℃以上160℃以下である、
請求項2又は請求項3に記載の電力ケーブル。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマ(B)は、分子量が1×10
4以下の成分の割合が4.0%以下である、
請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項6】
前記プロピレン系樹脂(A)の融点が130℃以上170℃以下である、
請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項7】
前記樹脂組成物は、前記プロピレン系樹脂(A)を50質量部以上90質量部以下、前記熱可塑性エラストマ(B)を10質量部以上50質量部以下、含む、
請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物および電力ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、直流送電用途において、固体絶縁電力ケーブル(以下、「電力ケーブル」と略す)が開発されている。この電力ケーブルにおいては、絶縁層を構成する成分として、架橋ポリエチレンが広く用いられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様によれば、
プロピレン単位を有するプロピレン系樹脂(A)と、
熱可塑性エラストマ(B)と、を含有し、
融点が110℃以上であり、
分子量分布を測定したときに、分子量が1×104以下の成分の割合が3%以下である、
樹脂組成物が提供される。
【0005】
本開示の他の態様によれば、
導体と、
前記導体の周囲に被覆され、樹脂組成物から形成される絶縁層と、
を備え、
前記樹脂組成物は、
プロピレン単位を有するプロピレン系樹脂(A)と、
熱可塑性エラストマ(B)と、を含有し、
融点が110℃以上であり、
分子量分布を測定したときに、分子量が1×104以下の成分の割合が3%以下である、
電力ケーブルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る電力ケーブルの軸方向に直交する模式的断面図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態に係る電力ケーブルの製造方法で用いる押出機の概略構成図である。
【
図3】
図3は、スクリュフライトの形状を説明するための概略図である。
【
図4】
図4は、滞留抑制部材を説明するための概略図である。
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態に係る電力ケーブルの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[発明が解決しようとする課題]
経年劣化した架橋ポリエチレンでは、リサイクルできず、焼却するしかなかった。このため、環境への影響が懸念されていた。
【0008】
そこで、近年では、絶縁層を構成する樹脂成分として、プロピレン単位を有するポリマ成分、例えばポリプロピレンが注目されている。ポリプロピレンによれば、非架橋であっても、高い絶縁性を実現することができる。すなわち、絶縁性とリサイクル性とを両立することができる。
【0009】
一方、プロピレン単位を有するポリマ成分では、絶縁層において安定して絶縁性を得られないことがあった。
【0010】
本開示の目的は、電力ケーブルにおいて安定して絶縁性を得る技術を提供することである。
【0011】
[発明の効果]
本開示によれば、電力ケーブルにおいて安定して絶縁性を得ることができる。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
<発明者等の得た知見>
まず、発明者等の得た知見について概略を説明する。
【0013】
電力ケーブルにおいて、プロピレン単位を有するポリマ成分で絶縁層を構成する場合、例えば、高電圧印加時に絶縁層内に空間電荷が生成し、絶縁層の絶縁性が低下することがある。この傾向は高温環境下でより顕著となる。なお、ここでいう絶縁性とは、絶縁層についての体積抵抗率、直流破壊電界強度および空間電荷特性などを意味する。
【0014】
絶縁層の絶縁性を向上させるために、極性基を有する変性ポリマを配合する方法が検討されている。この変性ポリマとしては、例えば、プロピレンを不飽和カルボン酸で変性した変性プロピレンなどがある。
【0015】
しかし、変性ポリマを添加するだけでは、樹脂組成物や絶縁層の絶縁性が安定しないことが確認された。この点について検討を行ったところ、変性ポリマには、その製法上、ラジカルが発生したり、分子鎖が切断されたりすることで、低分子量成分が含まれ、その低分子量成分が絶縁性を低下させることが分かった。低分子量成分は、特に高温環境下では電荷キャリアとして振る舞う傾向がある。そのため、低分子量成分は、樹脂組成物中で局所的に空間電荷の蓄積を引き起こし、特に高温環境下では樹脂組成物中を移動し、蓄積をより引き起こすものと考えられる。そのため、プロピレン系樹脂に変性ポリマを添加しても、低分子量成分の影響により、変性ポリマによる空間電荷トラップ効果を得られにくくなることがある。この結果、絶縁層では、高い絶縁性を安定して得られないことがある。
【0016】
このことから、本発明者等は変性ポリマを添加せずに絶縁性を向上させる方法について検討を行い、絶縁層を形成する樹脂組成物に添加する柔軟成分に着目した。プロピレン系樹脂は結晶性が高く、それ単体では硬い傾向にあるため、電力ケーブルの絶縁層に要求される柔軟性を満足できないことがある。この柔軟成分としては、各種エラストマやワックス成分などが使用される。
【0017】
ただし、柔軟成分を用いる場合、以下の点が懸念される。
【0018】
まず、柔軟成分の融点がプロピレン系樹脂と比較して低い点である。柔軟成分は、融点が低くなるほど、高温環境下にて樹脂組成物中で非晶質化したり、溶融したりする領域の比率が高くなることがある。そのため、融点の低い柔軟成分を混合すると、高温環境下で電荷の移動が生じやすく、絶縁性の低下につながることがある。
【0019】
次に、柔軟成分の分子量がプロピレン系樹脂と比較して低い点である。一般的に、樹脂やエラストマはその種類に応じた固有の分子量分布を有する。柔軟成分は、分子量が低くなるほど、分子量分布において低分子量成分の比率が高くなることがある。低分子量成分は、高分子量成分と比較して融点が低く、樹脂組成物中を移動して局所的な空間電荷の蓄積を引き起こすので、高温環境下で絶縁性の低下を引き起こすことがある。
【0020】
このことから、プロピレン系樹脂に添加する柔軟成分として、融点が高く、低分子量成分の少ない熱可塑性エラストマに着目した。そして、プロピレン系樹脂および熱可塑性エラストマを含む樹脂組成物において、融点を110℃以上、分子量が1×104以下である低分子量成分の割合を3%以下に制御することにより、高温環境下での空間電荷の蓄積を抑制し、高い絶縁性を実現できることを見出した。
【0021】
本開示は、発明者等が見出した上述の知見に基づくものである。
【0022】
<本開示の実施態様>
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0023】
[1]本開示の一態様に係る樹脂組成物は、
プロピレン単位を有するプロピレン系樹脂(A)と、
熱可塑性エラストマ(B)と、を含有し、
融点が110℃以上であり、
分子量分布を測定したときに、分子量が1×104以下の成分の割合が3%以下である。
この構成によれば、高い絶縁性を安定して得ることができる。
【0024】
[2]本開示の他の態様に係る電力ケーブルは、
導体と、
前記導体の周囲に被覆され、樹脂組成物から形成される絶縁層と、
を備え、
前記樹脂組成物は、
プロピレン単位を有するプロピレン系樹脂(A)と、
熱可塑性エラストマ(B)と、を含有し、
融点が110℃以上であり、
分子量分布を測定したときに、分子量が1×104以下の成分の割合が3%以下である。
この構成によれば、高温環境下でも高耐圧を実現でき、安定的な直流送電が可能となる。
【0025】
[3]上記[2]に記載の電力ケーブルにおいて、
前記熱可塑性エラストマ(B)は、オレフィン単位を有するオレフィン系熱可塑性エラストマ、およびスチレン単位を有するスチレン系熱可塑性エラストマの少なくとも1つである。
この構成によれば、絶縁層の柔軟性を向上させつつ、高い絶縁性を安定して得ることができる。
【0026】
[4]上記[2]又は[3]に記載の電力ケーブルにおいて、
前記熱可塑性エラストマ(B)の融点が110℃以上160℃以下である。
この構成によれば、樹脂組成物の融点を110℃以上に調整しやすく、高い絶縁性を安定して得ることができる。
【0027】
[5]上記[2]から[4]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記熱可塑性エラストマ(B)は、分子量が1×104以下の成分の割合が4.0%以下である。
この構成によれば、低分子量成分の割合を低く調整することができ、高い絶縁性を安定して得ることができる。
【0028】
[6]上記[2]から[5]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記プロピレン系樹脂(A)の融点が130℃以上170℃以下である。
この構成によれば、樹脂組成物の融点を110℃以上に調整しやすく、高い絶縁性を安定して得ることができる。
【0029】
[7]上記[2]から[6]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記樹脂組成物は、前記プロピレン系樹脂(A)を50質量部以上90質量部以下、前記熱可塑性エラストマ(B)を10質量部以上50質量部以下、含む。
この構成によれば、低分子量成分の割合を低くし、高い絶縁性を安定して得ることができる。
【0030】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0031】
<本開示の一実施形態>
(1)樹脂組成物
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、後述する電力ケーブルの絶縁層を形成する材料として使用することができる。樹脂組成物は、プロピレン単位を有するプロピレン系樹脂(A)、熱可塑性エラストマ(B)、必要に応じて、その他の添加剤を含む。なお、以下では、プロピレン系樹脂(A)を(A)成分、熱可塑性エラストマ(B)を(B)成分ともいう。
【0032】
樹脂組成物は、異なる融点および分子量分布を有するプロピレン系樹脂(A)および熱可塑性エラストマ(B)を混合して形成され、その融点が110℃以上、分子量が1×104以下の成分(以下、低分子量成分ともいう)の割合が3%以下である。樹脂組成物は、(A)成分と(B)成分との混合により所定の相構造を有する。相構造としては、例えば(A)成分中に(B)成分が微細に分散する構造(いわゆる海島構造)、もしくは(A)成分と(B)成分とが相溶する構造となる。
【0033】
(樹脂組成物の融点)
樹脂組成物は、プロピレン系樹脂(A)と比較して融点の低い熱可塑性エラストマ(B)を含むことで、樹脂組成物の融点は(A)成分が本来有する融点よりも低くなる。樹脂組成物の融点は、(A)成分と(B)成分との添加比率を示す指標となる。樹脂組成物の融点が110℃以上となることで、融点の低い(B)成分の比率を所定量に制御することができる。これにより、高温環境下で(B)成分の非晶質化や溶融による影響を低減することができる。樹脂組成物の融点の上限は特に限定されないが、例えば170℃以下であるとよい。また後述するように、(B)成分として、オレフィン系熱可塑性エラストマを使用する場合、樹脂組成物の融点は、例えば130℃以上170℃以下であるとよい。また(B)成分として、スチレン系熱可塑性エラストマを使用する場合、樹脂組成物の融点は、例えば110℃以上170℃以下であるとよい。
【0034】
なお、本明細書において融点は以下のように測定される。
まず、試料について、例えばJIS-K-7121(1987年)に準拠して示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)を行う。具体的には、DSC装置において、室温(常温、例えば27℃)から220℃まで10℃/分で昇温させる。これにより、温度に対する、単位時間当たりの吸熱量(熱流)をプロットすることで、DSC曲線が得られる。このとき、試料における単位時間当たりの吸熱量が極大(ピーク)になる温度を「融点(融解ピーク温度)」とする。
【0035】
(樹脂組成物の分子量分布)
樹脂組成物は、分子量分布を測定したときに、樹脂組成物に含まれるプロピレン系樹脂(A)および熱可塑性エラストマ(B)に由来する所定の幅の分子量分布を有する。本実施形態では、樹脂組成物の分子量分布において、分子量が1×104以下である低分子量成分の割合が3%以下である。低分子量成分の割合は、2.5%以下であってもよく、1.5%以下であってもよい。なお、低分子量成分の割合について下限値は特に限定されないが、例えば0.0001%である。
【0036】
低分子量成分は、樹脂組成物の分子量分布において、分子量が1×104以下の成分を示す。低分子量成分は、分子量の比較的低い熱可塑性エラストマ(B)に由来する成分、もしくは(B)成分やプロピレン系樹脂(A)の熱分解物に由来する成分である。低分子量成分の割合は、樹脂組成物全体に占める低分子量成分の割合を示し、分子量分布において、分子量分布全体の面積に対する、分子量が1×104以下の領域の面積の比率である。上述したように、低分子量成分は融点が低く、高温環境下で絶縁性を低下させるおそれがある。この点、本実施形態では、樹脂組成物に占める低分子量成分の比率を3%以下とすることにより、絶縁性の低下を抑制することができる。なお、分子量分布の測定については実施例にて後述する。
【0037】
樹脂組成物の分子量分布は、プロピレン系樹脂(A)や熱可塑性エラストマ(B)の分子量分布により決定され、その分子量範囲は特に限定されないが、例えば1×103以上1×108以下の範囲であるとよい。また、樹脂組成物に占める低分子量成分の割合は、分子量の低い熱可塑性エラストマ(B)の含有量や、使用する(B)成分の分子量によって調整することができる。
【0038】
(構成成分)
次に、樹脂組成物を構成する、プロピレン系樹脂(A)、熱可塑性エラストマ(B)およびその他の添加剤について説明する。
【0039】
(プロピレン系樹脂(A))
プロピレン系樹脂(A)は、樹脂組成物において主成分を構成する樹脂材料であり、プロピレン単位を有する成分である。この(A)成分としては、プロピレン単独重合体(以下、ホモPPともいう)およびプロピレンランダム重合体(以下、ランダムPPともいう)の少なくとも1つを用いることができる。ホモPPはプロピレン単位を含み、ランダムPPはプロピレン単位とエチレン単位とを有する。ランダムPPにおけるエチレン単位の含有量は、例えば、0.5質量%以上15質量%以下であるとよく、0.5質量%以上10質量%以下であってもよい。エチレン単位の含有量を0.5質量%以上とすることで、球晶成長(粗大結晶の生成)を抑制することができ、絶縁性を高く維持することができる。一方で、エチレン単位の含有量を15質量%以下とすることで、融点の低下を抑制し、非架橋または微架橋での使用を安定的に実現することができる。
【0040】
樹脂組成物においてより高い絶縁性を得る観点からは、プロピレン系樹脂(A)は、ランダムPPであるとよい。ホモPPは、ランダムPPと比較して結晶量が多く、高い絶縁性を得られるものの、絶縁層において結晶中や結晶間で割れなどを引き起こすため、本来有する絶縁性を得られないことがある。これに対して、ランダムPPは、エチレン単位を含むため、結晶量が低くなるものの、絶縁層において粗大結晶化による割れが生じにくく、ホモPPと比較して高い絶縁性を得ることができる。
【0041】
なお、プロピレン系樹脂(A)の立体規則性としてはアイソタクチック、シンジオタクチックおよびアタクチックなどが挙げられる。立体規則性は特に限定されないが、アイソタクチックであるとよい。立体規則性がアイソタクチックであることにより、樹脂組成物の融点の低下を抑制することができる。その結果、非架橋または微架橋での使用を安定的に実現することができる。
【0042】
また、プロピレン系樹脂(A)の融点は、特に限定されないが、融点は130℃以上170℃以下であるとよい。プロピレン系樹脂(A)がホモPPである場合、その融点は120℃以上165℃以下であるとよく、ランダムPPの場合、その融点は130℃以上170℃以下であるとよい。このような融点を有するプロピレン系樹脂(A)によれば、樹脂組成物の融点をより高くしつつ、低分子量成分の割合をより低くすることができる。
【0043】
プロピレン系樹脂(A)の数平均分子量は、特に限定されないが、5.0×104以上であるとよく、8.0×104以上5.0×105以下であってもよい。このような数平均分子量を有する(A)成分によれば、低分子量成分が少なく、樹脂組成物において低分子量成分の割合をより小さく調整することができる。
【0044】
なお、数平均分子量は、プロピレン系樹脂(A)について、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC:Gel Permeation Chromatography)により、ポリスチレン(PS)を標準試料として作成された検量線に基づいて分子量分布を測定し、この分子量分布から算出される。熱可塑性エラストマ(B)の数平均分子量も同様に算出することができる。詳細な算出方法は実施例で後述する。
【0045】
プロピレン系樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は、熱可塑性エラストマ(B)との相溶性の観点から0.1g/10min以上5.0g/10min以下であるとよく、0.1g/10min以上2.0g/10min以下であってもよい。このようなMFRとすることにより、樹脂組成物の相構造を各成分が相溶した構造や各成分が微細に分散した構造に形成することができる。これにより、樹脂組成物の柔軟性や絶縁性を向上させることができる。なお、ここでMFRとは、JIS K7210に準拠し、温度190℃、荷重2.16kgにて測定される値である。
【0046】
(熱可塑性エラストマ(B))
熱可塑性エラストマ(B)は、プロピレン単位を有するプロピレン系樹脂(A)と比較して低い結晶性を有しており、(A)成分の結晶成長を制御し、樹脂組成物や絶縁層に柔軟性を付与することができる。
【0047】
熱可塑性エラストマ(B)は、プロピレン系樹脂(A)と比較して融点が低く、また低分子量成分の比率が高い傾向にあり、樹脂組成物の融点を下げ、樹脂組成物における低分子量成分の比率を高める傾向にある。この点、本実施形態では、成分(B)は、融点が高く、低分子量成分の比率が少ないものを選択するとよい。
【0048】
具体的には、熱可塑性エラストマ(B)の融点は110℃以上160℃以下であるとよい。このような融点を有する成分(B)によれば、樹脂組成物の融点を過度に下げることなく、融点を110℃以上に調整しやすい。
【0049】
また、熱可塑性エラストマ(B)は、分子量分布を測定したときに、分子量が1×104以下である低分子量成分の割合が4.0%以下であるとよい。このような分子量分布を有する(B)成分によれば、樹脂組成物における低分子量成分の割合を3%以下に安定して調整することができる。なお、(B)成分に含まれる低分子量成分の割合は、樹脂組成物においてその割合を低くする観点からは、低いほどよい。その下限値は特に限定されないが、例えば0.001%であるとよい。
【0050】
熱可塑性エラストマ(B)の数平均分子量は、特に限定されないが、5.0×104以上であるとよく、8.0×104以上7.0×105以下であってもよい。このような数平均分子量を有する(B)成分によれば、低分子量成分の比率が小さく、樹脂組成物に含まれる低分子量成分の割合を低く抑えることができる。
【0051】
熱可塑性エラストマ(B)としては、樹脂組成物の柔軟性を向上できる成分であればよく、例えば、アミド系、エステル系、オレフィン系、スチレン系、ウレタン系、塩ビ系、フッ素系など公知の成分を用いることができる。この中でもプロピレン系樹脂(A)と混合したときに微細に分散または相溶させる観点から、オレフィン系およびスチレン系の少なくとも1つを用いるとよい。絶縁性をより向上させる観点からはオレフィン系であるとよい。オレフィン系によれば、スチレン系と比較して、プロピレン系樹脂(A)との相溶性が高く、また融点や分子量が高いものを選択しやすいため、絶縁性をより向上させることができる。
【0052】
オレフィン系熱可塑性エラストマ(いわゆるTPO)は、ハードセグメントとして、ポリエチレンおよびポリプロピレンの少なくとも1つのオレフィン単位と、ソフトセグメントとして、エチレン‐αオレフィン共重合体単位と、含んで構成される。オレフィン系熱可塑性エラストマは、オレフィン単位とエチレン‐αオレフィン共重合体単位の共重合体タイプであってもよく、オレフィンとエチレン‐αオレフィン共重合体との混合タイプであってもよい。これらの中でも(A)成分との混合性の観点からは共重合体を用いるとよい。αオレフィンは、炭素数2~8の直鎖または分岐のα-オレフィンであって、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等を用いることができる。この中でも、TPOは、ハードセグメントとしてポリプロピレンを、ソフトセグメントとして、エチレン‐プロピレンゴムを有するとよい。なお、オレフィン系熱可塑性エラストマは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
スチレン系熱可塑性エラストマは、ハードセグメントとしてスチレン単位と、ソフトセグメントとして、エチレン、プロピレン、ブチレンおよびイソプレンなどのうち少なくとも1つのモノマ単位と、を含む共重合体である。
【0054】
スチレン系熱可塑性エラストマとしては、例えば、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体(SIS)、水素化スチレンイソプレンスチレン共重合体、水素化スチレンブタジエンラバー、水素化スチレンイソプレンラバー、スチレンエチレンブチレンオレフィン結晶ブロック共重合体などが挙げられる。これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
なお、ここでいう「水素化」とは、二重結合に水素を添加したことを意味する。例えば、「水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」とは、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体の二重結合に水素を添加したポリマを意味する。なお、スチレンが有する芳香環の二重結合には水素が添加されていない。「水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」は、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)と言い換えることができる。
【0056】
スチレン系熱可塑性エラストマとしては、ベンゼン環を除く化学構造中に二重結合を含まない物がよい。二重結合を有する物を用いた場合、樹脂組成物の成形時などで樹脂成分が熱劣化することがあり、得られる絶縁層の特性を低下させることがある。この点、二重結合を含まない物によれば、熱劣化の耐性が高いので、絶縁層の特性をより高く維持することができる。
【0057】
スチレン系熱可塑性エラストマにおけるスチレン単位の含有量は、特に限定されないが、プロピレン系樹脂(A)の結晶成長の制御、および絶縁層の柔軟化という観点からは、5質量%以上35質量%以下であるとよい。また、スチレン単位の含有量が上記範囲内となることで、ソフトセグメントとして例えばエチレン単位などのモノマ単位を所定量確保できるので、スチレン系熱可塑性エラストマと(A)成分との相溶性を向上させることができる。これにより、絶縁層の絶縁性を安定して向上させることができる。
【0058】
オレフィン系熱可塑性エラストマおよびスチレン系熱可塑性エラストマの融点は特に限定されない。例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマの融点は130℃以上160℃以下であるとよい。また例えば、スチレン系熱可塑性エラストマの融点は110℃以上130℃以下であるとよい。このような融点を有する成分によれば、樹脂組成物の融点を過度に下げることなく、融点を110℃以上170℃以下に調整しやすい。
【0059】
熱可塑性エラストマ(B)のMFRは、プロピレン系樹脂(A)との相溶性の観点から0.1g/10min以上5.0g/10min以下であるとよく、0.1g/10min以上2.0g/10min以下であってもよい。このようなMFRとすることにより、樹脂組成物において上述した相構造を安定して形成することができる。
【0060】
熱可塑性エラストマ(B)は、プロピレン系樹脂(A)と混合したときに微細に分散もしくは相溶させる観点からは、そのMFRが(A)成分のMFRとの乖離が小さいとよい。具体的には、樹脂組成物が(A)成分および(B)成分のMFRの差が300g/10min以下であるとよい。
【0061】
(その他の添加剤)
樹脂組成物は、必要に応じて、その他の添加剤を含んでもよい。その他の添加剤としては、酸化防止剤、架橋剤、滑剤および着色剤を含んでいてもよい。
【0062】
酸化防止剤としては、例えばフェノール系や硫黄系、アミン系などの公知の酸化防止剤を用いることができる。酸化防止剤の含有量は特に限定されないが、例えばプロピレン系樹脂(A)および熱可塑性エラストマ(B)の合計の含有量を100質量部としたときに、0.1質量部以上1.0質量部以下であるとよい。
【0063】
また、樹脂組成物は、リサイクルの観点から、架橋せずに非架橋であるとよいが、架橋させるために架橋剤を含んでもよい。ただし、架橋させるとしても、ゲル分率(架橋度)が低くなるように架橋させるとよい。具体的には、樹脂組成物における架橋剤の残渣が300ppm未満となるような架橋度で架橋させるとよい。なお、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを使用した場合には、残渣は、例えば、クミルアルコール、α-メチルスチレンなどである。
【0064】
また、樹脂組成物は、絶縁層の押出工程において樹脂組成物の流動性を向上させるために、滑剤を含んでもよい。滑剤としては、例えば、脂肪酸金属塩または脂肪酸アミドなど従来公知の成分を用いることができる。これらは1種を単独、または2種以上を併用してもよい。
【0065】
なお、本実施形態の樹脂組成物は、融点と低分子量成分の割合とを所定範囲に制御することにより絶縁性を高く維持できるので、無機充填剤を添加しなくてもよい。後述するように、無機充填剤は、樹脂組成物の押出工程でのメッシュの目詰まりを引き起こし、滞留する樹脂組成物が過度に加熱されて低分子量成分の形成を促すおそれがある。この点、無機充填剤を添加しないことで、低分子量成分の割合を低く調整することができる。
【0066】
(配合比)
樹脂組成物におけるプロピレン系樹脂(A)および熱可塑性エラストマ(B)の配合比は、樹脂組成物の融点を110℃以上にできれば特に限定されない。使用する(A)成分や(B)成分に応じて各成分の含有量を調整するとよい。具体的には、プロピレン系樹脂(A)および熱可塑性エラストマ(B)の合計の含有量を100質量部としたとき、(A)成分の含有量が50質量部以上90質量部以下、(B)成分の含有量が10質量部以上50質量部以下であるとよい。このような含有量とすることにより、樹脂組成物の融点と低分子量成分の割合を上述の範囲に調整しやすい。
【0067】
(2)電力ケーブル
次に、
図1を用い、本実施形態の電力ケーブルについて説明する。
図1は、本実施形態に係る電力ケーブルの軸方向に直交する断面図である。
【0068】
本実施形態の電力ケーブル10は、いわゆる固体絶縁電力ケーブルとして構成されている。また、本実施形態の電力ケーブル10は、例えば、陸上(管路内)、水中または水底に布設されるよう構成されている。なお、電力ケーブル10は、例えば、直流に用いられる。
【0069】
具体的には、電力ケーブル10は、例えば、導体110と、内部半導電層120と、絶縁層130と、外部半導電層140と、遮蔽層150と、シース160と、を有している。
【0070】
(導体(導電部))
導体110は、例えば、純銅、銅合金、アルミニウム、またはアルミニウム合金等を含む複数の導体芯線(導電芯線)を撚り合わせることにより構成されている。
【0071】
(内部半導電層)
内部半導電層120は、導体110の外周を覆うように設けられている。また、内部半導電層120は、半導電性を有し、導体110の表面側における電界集中を抑制するよう構成されている。内部半導電層120は、例えば、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のエチレン系共重合体、熱可塑性エラストマ、上述の低結晶性樹脂などのうち少なくともいずれかと、導電性のカーボンブラックと、を含んでいる。
【0072】
(絶縁層)
絶縁層130は、内部半導電層120の外周を覆うように設けられ、上述した樹脂組成物から形成されている。例えば、絶縁層130は樹脂組成物を押出して成形される。
【0073】
(外部半導電層)
外部半導電層140は、絶縁層130の外周を覆うように設けられている。また、外部半導電層140は、半導電性を有し、絶縁層130と遮蔽層150との間における電界集中を抑制するよう構成されている。外部半導電層140は、例えば、内部半導電層120と同様の材料により構成されている。
【0074】
(遮蔽層)
遮蔽層150は、外部半導電層140の外周を覆うように設けられている。遮蔽層150は、例えば、銅テープを巻回することにより構成されるか、或いは、複数の軟銅線等を巻回したワイヤシールドとして構成されている。なお、遮蔽層150の内側や外側に、ゴム引き布等を素材としたテープが巻回されていてもよい。
【0075】
(シース)
シース160は、遮蔽層150の外周を覆うように設けられている。シース160は、例えば、ポリ塩化ビニルまたはポリエチレンにより構成されている。
【0076】
なお、本実施形態の電力ケーブル10は、水中ケーブルまたは水底ケーブルであれば、遮蔽層150よりも外側に、いわゆるアルミ被などの金属製の遮水層や、鉄線鎧装を有していてもよい。
【0077】
一方で、本実施形態の電力ケーブル10は、例えば、遮蔽層150よりも外側に遮水層を有していなくてもよい。つまり、本実施形態の電力ケーブル10は、非完全遮水構造により構成されていてもよい。
【0078】
(具体的寸法等)
電力ケーブル10における具体的な各寸法としては、特に限定されるものではないが、例えば、導体110の直径は5mm以上60mm以下であり、内部半導電層120の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、絶縁層130の厚さは3mm以上35mm以下であり、外部半導電層140の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、遮蔽層150の厚さは0.1mm以上5mm以下であり、シース160の厚さは1mm以上である。本実施形態の電力ケーブル10に適用される直流電圧は、例えば20kV以上である。
【0079】
(3)ケーブル諸特性
本実施形態では、上述したように、樹脂組成物がプロピレン系樹脂(A)および熱可塑性エラストマ(B)を含み、樹脂組成物の融点と、分子量分布における低分子量成分の割合が所定の要件を満たすことで、絶縁層130において高い絶縁性を安定して得ることができる。
【0080】
具体的には、本実施形態の絶縁層130は、例えば、高温かつ高電界の条件下において測定した以下の絶縁性の要件を満たす。なお、当該測定は、例えば、絶縁層130の厚さ方向の中央部から採取したシートにより行われる。このときの絶縁層130のシートの厚さは、例えば、0.2mmである。
【0081】
絶縁層130について、温度90℃および直流電界40kV/mmの条件下において測定した空間電荷蓄積量は、例えば、100%以下であるとよく、25%以下であってもよい。また、温度90℃および直流電界80kV/mmの条件下において測定した空間電荷蓄積量は、例えば100%以下であるとよく、40%以下であってもよい。
【0082】
空間電荷蓄積量は、電流積分電荷法により求められる。電流積分電荷法では、試料としてのシートと直列に接続した測定用コンデンサに電荷を蓄積させ、電流の積分値である電荷量を評価する。具体的には、温度90℃にて、40kV/mmもしくは80kV/mmの直流電界を試料に連続印加し、300秒経過後における電荷量Q300と、印加直後(0秒)における電荷量Q0とに基づいて、下記式より空間電荷蓄積量を求める。
空間電荷蓄積量=(Q300/Q0-1)×100
【0083】
また、温度90℃および直流電界40kV/mmの条件下、もしくは温度90℃および直流電界80kV/mmの条件下において測定した絶縁層130のシートの体積抵抗率は、例えば、5.0×1014Ω・cm以上であるとよく、1.0×1015Ω・cm以上であってもよい。
【0084】
また、温度90℃の条件下において測定した絶縁層130のシートの直流破壊電界強度は、例えば、160kV/mm以上であるとよく、200kV/mm以上であってもよい。
【0085】
(4)押出機
続いて、本実施形態の電力ケーブルの製造方法に先立ち、電力ケーブルの製造に使用する押出機について
図2を用いて説明する。
図2は、本開示の一実施形態に係る電力ケーブルの製造方法で用いる押出機の概略構成図である。
【0086】
押出機200は、上述の樹脂組成物を調製するための装置である。押出機200において、各成分を加熱しながら混合することで樹脂組成物が調製される。このとき、樹脂成分が加熱により熱分解し、低分子量化することがある。例えば、酸素を含む雰囲気にて加熱混合を行う場合、樹脂成分が熱分解することがある。また例えば、樹脂成分が押出機200内に滞留することで加熱時間が長くなると、樹脂成分が熱分解することがある。このため、樹脂組成物では、低分子量成分の割合が、含有成分の本来の値よりも高くなることがある。
【0087】
本実施形態では、樹脂組成物において低分子量成分の割合を所定範囲に調整する観点からは、押出機200を、樹脂組成物は押出機内を不活性ガス雰囲気に調整しつつ押出したり、押出機のスクリュや押出口を、樹脂組成物が滞留しにくいように構成するとよい。以下、押出機200の具体的な構成について説明する。
【0088】
図2に示すように、押出機200は、樹脂組成物の材料が供給される筒状のシリンダ210と、シリンダ210内に材料を供給するためのホッパ220と、シリンダ210の第1方向(
図2中の左側)から挿入され、回転自在に配置されるスクリュ230と、スクリュ230を回転させる回転駆動機構240と、シリンダ210の第2方向(
図2中の右側)に取り付けられ、樹脂組成物を排出する孔部が設けられる排出部250と、シリンダ210内を不活性ガス雰囲気に調整する雰囲気調整部260と、を備えて構成される。なお、以下では、第1方向を樹脂組成物の加熱混合において上流側、第2方向を下流側ともいう。
【0089】
筒状のシリンダ210は、材料を収容し混合する空間をその内部に有する。筒状のシリンダ210では、その内部空間に供給された各材料がスクリュ230により混合される。スクリュ230は、シリンダ210の第1方向の端部から挿入され、シリンダ210の軸方向の中心に配置される。スクリュ230は、回転駆動機構240に接続されて、回転可能に支持される。スクリュ230は、回転駆動機構240により回転され、各材料を混合しながら排出部250へ向かって押し出すように構成される。スクリュ230は、1軸でもよく、2軸でもよい。
図2では、2軸のスクリュ230が紙面の奥方向に並行に配置され、その一方のスクリュ230が示されている。なお、回転駆動機構240としては、例えば公知の回転モータなどを用いることができる。
【0090】
スクリュ230には、スクリュ本体部231の表面にスクリュフライト232がらせん状に配置される。スクリュフライト232の断面形状は特に限定されないが、
図3に示すように、テーパ形状であるとよい。
図3は、スクリュフライトの形状を説明するための概略図であり、スクリュ230の軸方向に沿った断面図である。
図3中、右側がスクリュ230の先端方向(シリンダ210の第2方向)であり、左側がスクリュ230の末端方向(シリンダ210の第1方向)である。スクリュフライト232が
図3において破線で示すような矩形状を有する場合、樹脂組成物がスクリュフライト232の末端側に滞留しやすくなり、滞留した樹脂組成物が加熱分解することがある。そのため、樹脂組成物のスクリュ230の表面への滞留を抑制する観点からは、スクリュフライト232の断面形状は、
図3に示すように、末端側の側面がテーパ形状であるとよい。言い換えると、スクリュフライト232の第1方向側の側面とスクリュ本体部231の表面とのなす角が鈍角であるとよい。なす角としては、例えば120°~145°とするとよい。
【0091】
排出部250は、シリンダ210の第2方向の端部に配置される。排出部250は、例えば厚さ方向に貫通する複数の孔部を有し、シリンダ210の内部で混合されて調製された樹脂組成物を外部に押し出すように構成される。排出部250としては、例えばブレーカープレートを用いることができる。なお、シリンダ210と排出部250との間には、樹脂組成物に含まれる異物を取り除く目的でメッシュなどを配置してもよい。
【0092】
また
図4に示すように、シリンダ210内の第2方向の端部に、排出部250と接する位置に、滞留抑制部材270を配置してもよい。
図4は、滞留抑制部材を説明するための概略図であり、シリンダ210の第2方向の端部の断面図である。
図4に示すように、滞留抑制部材270は、樹脂組成物がシリンダ210内に滞留することを抑制し、排出部250からの押出を促すものである。滞留抑制部材270は、厚さ方向に貫通し、厚さ方向に向かって径が小さくなる複数のテーパ孔部271を有する。滞留抑制部材270は、テーパ孔部271の小径側が排出部250の孔部251と連通するように配置される。滞留抑制部材270によれば、排出部250の孔部251の縁やシリンダ210の内壁と排出部250との隅に樹脂組成物が滞留することを抑制することができる。滞留抑制部材270は、例えばブレーカープレと同じ材質で構成されるとよい。
【0093】
シリンダ210には、その内部を不活性ガス雰囲気に調整する雰囲気調整部260が接続される。雰囲気調整部260は、シリンダ210の内部に不活性ガスを供給するように構成される。シリンダ210の内部には、ホッパ220からの材料の供給にともない空気が混入することがあるが、雰囲気調整部260によりシリンダ210の内部を不活性ガス雰囲気に調整することができる。これにより、混合する材料や得られる樹脂組成物が空気により酸化し熱分解することを抑制することができる。つまり、樹脂組成物において、高分子量成分の割合を高く維持しつつ、低分子量成分の割合の増加を抑制することができる。
【0094】
不活性ガスとしては、特に限定されないが、例えば窒素ガスやアルゴンガスなどを用いるとよい。
【0095】
なお、押出機200は、シリンダ210の内部を加熱するための加熱部(図示略)などを備えてもよい。加熱部としては従来公知のものを用いることができる。
【0096】
(5)電力ケーブルの製造方法
次に、本実施形態の電力ケーブルの製造方法について
図5を用いて説明する。
図5は、本開示の一実施形態に係る電力ケーブルの製造方法を示すフローチャートである。以下、ステップを「S」と略す。
【0097】
(S100:樹脂組成物調製工程)
まず、絶縁層130を形成するための樹脂組成物を調製する。
【0098】
本実施形態では、例えばプロピレン系樹脂であるプロピレン系樹脂(A)、熱可塑性エラストマ(B)、そして、必要に応じて、その他の添加剤(酸化防止剤など)を、
図2に示す押出機200に供給する。そして、ホッパ220から供給した各材料をシリンダ210の内部で加熱しながら混合する。このとき、雰囲気調整部260によりシリンダ210の内部を不活性ガス雰囲気に調整している。そして、加熱混合により得られた樹脂組成物を排出部250から押し出し、造粒する。これにより、絶縁層130を構成することとなるペレット状の樹脂組成物を得る。
【0099】
各成分の含有量は、樹脂組成物の融点が110℃以上、低分子量成分の割合が3%以下となるように適宜調整するとよい。例えば、プロピレン系樹脂(A)を50質量部以上90質量部以下、熱可塑性エラストマ(B)を10質量部以上50質量部以下とするとよい。
【0100】
樹脂組成物調製工程S100にて、不活性ガス雰囲気にて各成分を加熱混合し押し出すことにより、樹脂組成物の加熱にともなう低分子量化を抑制し、その割合を低くすることができる。
【0101】
(S200:導体準備工程)
一方で、複数の導体芯線を撚り合わせることにより形成された導体110を準備する。
【0102】
(S300:ケーブルコア形成工程(押出工程、絶縁層形成工程))
樹脂組成物調製工程S100および導体準備工程S200が完了したら、上述の樹脂組成物を用い、導体110の外周を例えば3mm以上の厚さで被覆するように絶縁層130を形成する。
【0103】
このとき、本実施形態では、例えば、3層同時押出機を用いて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に形成する。
【0104】
具体的には、3層同時押出機のうち、内部半導電層120を形成する押出機Aに、例えば、内部半導電層用組成物を投入する。絶縁層130を形成する押出機Bとして、
図2に示す押出機200に、上述したペレット状の樹脂組成物を投入する。このとき、押出機200のシリンダ210の内部を不活性ガス雰囲気に調整する。なお、押出機Bの設定温度は、例えば所望の融点よりも10℃以上80℃以下の温度だけ高い温度に設定する。線速および押出圧力に基づいて、設定温度を適宜調節するとよい。外部半導電層140を形成する押出機Cに、押出機Aに投入した内部半導電層用樹脂組成物と同様の材料を含む外部半導電層用組成物を投入する。
【0105】
次に、押出機A~Cからのそれぞれの押出物をコモンヘッドに導き、導体110の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に押出す。これにより、ケーブルコアとなる押出材が形成される。
【0106】
その後、押出材を、例えば、水により冷却する。
【0107】
ケーブルコア形成工程S300にて、不活性ガス雰囲気にてペレット状の樹脂組成物を加熱しながら混合し、押出すことにより、加熱による低分子量成分の割合の増加を抑制することができる。この結果、絶縁層130において低分子量成分の割合を低く抑制することができる。
【0108】
以上のケーブルコア形成工程S300により、導体110、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140により構成されるケーブルコアが形成される。
【0109】
(S400:遮蔽層形成工程)
ケーブルコアを形成したら、外部半導電層140の外側に、例えば銅テープを巻回することにより遮蔽層150を形成する。
【0110】
(S500:シース形成工程)
遮蔽層150を形成したら、押出機に塩化ビニルを投入して押出すことにより、遮蔽層150の外周に、シース160を形成する。
【0111】
以上により、固体絶縁電力ケーブルとしての電力ケーブル10が製造される。
【0112】
(6)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0113】
(a)本実施形態の樹脂組成物は、プロピレン単位を有するプロピレン系樹脂(A)と、熱可塑性エラストマ(B)と、を含有し、樹脂組成物の融点が110℃以上、分子量分布を測定したときに、分子量が1×104以下の低分子量成分の割合が3%以下となる。樹脂組成物には、(B)成分に由来する低分子量成分が含まれることがあり、低分子量成分は高温環境下にて非晶質化したり、溶融したりすることがある。溶融した低分子量成分は、樹脂組成物中を移動して空間電荷の蓄積を引き起こし、電荷キャリアとして振る舞い、絶縁性を低下させるおそれがある。この点、樹脂組成物の融点を110℃以上と高くすることで、樹脂成分の溶融と、それにともなう流動を抑制し、樹脂組成物中で固定化させることができる。つまり、低分子量成分を樹脂組成物中で微細に分散した状態もしくは相溶した状態を維持することができる。しかも、樹脂組成物において低分子量成分の割合を低くすることで、それによる絶縁性の低下をさらに抑制することができる。この結果、樹脂組成物は高温環境下でも高い絶縁性を維持することができる。そのため、絶縁層130を上記樹脂組成物で形成することにより、絶縁層130を高温であっても高耐圧とすることが可能となる。この結果、本実施形態の電力ケーブル10により安定的な直流送電が可能となる。
【0114】
(b)樹脂組成物では、プロピレン系樹脂(A)に熱可塑性エラストマ(B)を微細に分散させる、もしくは相溶させることができる。つまり、樹脂組成物において(B)成分を均一に分布させることができる。この結果、(B)成分により(A)成分の過度な結晶成長を抑制することができ、樹脂組成物に柔軟性を付与することができる。つまり、樹脂組成物について柔軟性より高く安定して発現させることができる。
【0115】
(c)熱可塑性エラストマ(B)はオレフィン系熱可塑性エラストマおよびスチレン系熱可塑性エラストマの少なくとも1つであるとよい。オレフィン系熱可塑性エラストマによれば、プロピレン系樹脂(A)に微細に分散もしくは相溶させることができ、またスチレン系熱可塑性エラストマと比較して融点が高いので、上述の効果(a)をより確実に得ることができる。一方、スチレン系熱可塑性エラストマによれば、芳香環により電子をトラップして安定的な共鳴構造を形成できるので、樹脂組成物の絶縁性をより向上させることができる。
【0116】
(d)熱可塑性エラストマ(B)の融点は110℃以上160℃以下であるとよい。このような(B)成分によれば、プロピレン系樹脂(A)と混合して樹脂組成物を調製したときに、樹脂組成物の融点を過度に低下させることなく、110℃以上に調整することができる。これにより、上述の効果(a)をより確実に得ることができる。
【0117】
(e)熱可塑性エラストマ(B)は、分子量が1×104以下の成分の割合が4.0%以下であるとよい。このような(B)成分によれば、樹脂組成物を調製したときに、低分子量成分の割合を3%以下により確実に調整することができる。これにより、上述の効果(a)をより確実に得ることができる。
【0118】
(f)プロピレン系樹脂の融点は130℃以上170℃以下であるとよい。このような(A)成分によれば、熱可塑性エラストマ(B)と混合したときに、樹脂組成物の融点を110℃以上に維持しつつ、電力ケーブルに要求される柔軟性を実現することができる。
【0119】
(g)樹脂組成物は、プロピレン系樹脂(A)と熱可塑性エラストマ(B)の合計の含有量を100質量部としたときに、(A)成分を50質量部以上90質量部以下、(B)成分を10質量部以上50質量部以下、含むとよい。このような配合量とすることにより、樹脂組成物の融点を110℃以上、樹脂組成物における低分子量成分の割合を3%以下により確実に調整することができ、上述の効果(a)をより確実に得ることができる。
【0120】
(h)熱可塑性エラストマ(B)の数平均分子量が8.0×104以上であるとよい。このような(B)成分によれば、低分子量成分の割合が低いので、プロピレン系樹脂(A)と混合して樹脂組成物を調製したときに、樹脂組成物における低分子量成分の割合を低くすることができる。これにより、上述の効果(a)をより確実に得ることができる。
【0121】
(i)樹脂組成物は、絶縁性を向上させる変性ポリマや無機充填剤を実質的に含まなくてもよい。樹脂組成物は、融点と低分子量成分の割合が所定範囲となるように形成されているので、変性ポリマや無機充填剤を含有しなくても高い絶縁性を実現することができる。また、樹脂組成物が無機充填剤を含む場合、押出機200から押し出す際に、樹脂組成物がメッシュで目詰まりを起こしやすく、樹脂組成物が押出機200内に滞留しやすくなる。この点、無機充填剤を含まないことで、樹脂組成物の滞留、および、滞留にともなう低分子量化をより確実に抑制することができる。また、変性ポリマは熱劣化しやすい傾向があるが、変性ポリマを含まないことで、長時間にわたって電力ケーブルを製造する際の樹脂組成物の劣化を抑制することができる。これにより、例えば長尺の電力ケーブルを製造する場合、樹脂組成物の熱劣化を抑制し、絶縁層の長手方向にわたって特性のばらつきを低減し、高く維持することができる。
【0122】
(j)樹脂組成物の調製の際、プロピレン系樹脂(A)、熱可塑性エラストマ(B)、必要に応じて、その他の添加剤を押出機200のシリンダ210に供給し、不活性ガス雰囲気にて加熱混合するとよい。もしくは、押出機200におけるスクリュ230のスクリュフライト232を、第1方向側がテーパ形状となるように構成するとよい。もしくは、押出機200のシリンダ210と排出部250との間に、厚さ方向に貫通し、第1方向から第2方向に向かって径が小さくなる複数のテーパ孔部271を有する滞留抑制部材270を配置するとよい。これらの少なくとも1つの構成によれば、樹脂組成物の調製中に樹脂成分が熱分解し、低分子量化することを抑制できる、これにより、樹脂組成物において低分子量成分の割合を3%以下により確実に調整することができ、上述の効果(a)を得ることができる。
【0123】
<本開示の他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について具体的に説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0124】
上述の実施形態では、電力ケーブル10が遮水層を有していなくてもよい場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。電力ケーブル10は、簡易的な遮水層を有していてもよい。具体的には、簡易的な遮水層は、例えば、金属ラミネートテープからなる。金属ラミネートテープは、例えば、アルミまたは銅等からなる金属層と、金属層の片面または両面に設けられる接着層と、を有している。金属ラミネートテープは、例えば、ケーブルコアの外周(外部半導電層よりも外周)を囲むように縦添えにより巻き付けられる。なお、当該遮水層は、遮蔽層よりも外側に設けられていてもよいし、遮蔽層を兼ねていてもよい。このような構成により、電力ケーブル10のコストを削減することができる。
【0125】
上述の実施形態では、電力ケーブル10が陸上、水中または水底に布設されるよう構成される場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。例えば、電力ケーブル10は、いわゆる架空電線(架空絶縁電線)として構成されていてもよい。
【0126】
上述の実施形態では、ケーブルコア形成工程S300において3層同時押出を行ったが、1層ずつ押出してもよい。
【実施例】
【0127】
次に、本開示に係る実施例を説明する。これらの実施例は本開示の一例であって、本開示はこれらの実施例により限定されない。
【0128】
(1)材料について
樹脂組成物の調製に用いた材料を以下に列挙する。
【0129】
プロピレン系樹脂(A)としてプロピレンランダム重合体(PP1)を、熱可塑性エラストマ(B)として、オレフィン系エラストマ(TPO1)~(TPO2)やスチレン系熱可塑性エラストマ(SEBS1)~(SEBS2)をそれぞれ準備した。各成分の物性値は以下のとおりである。なお、融点や数平均分子量、MFR、低分子量成分の割合は後述の方法により予め測定した。
・PP1:融点160℃、数平均分子量1.5×105、MFR0.6g/10min
・TPO1:ハードセグメントがポリプロピレン、ソフトセグメントがエチレン‐プロピレンゴムであるオレフィン系熱可塑性エラストマ、融点135℃、低分子量成分の割合5.1%、数平均分子量9.0×104、MFR4.7g/10min
・TPO2:ハードセグメントがポリプロピレン、ソフトセグメントがエチレン‐プロピレンゴムであるオレフィン系熱可塑性エラストマ、融点140℃、低分子量成分の割合1.5%、数平均分子量1.6×105、MFR3.2g/10min
・SEBS1:融点115℃、低分子量成分の割合5.4%、数平均分子量1.2×105、MFR4.5g/10min、スチレン量10質量%
・SEBS2:融点120℃、低分子量成分の割合2.0%、数平均分子量1.5×105、MFR3.7g/10min、スチレン量12質量%
【0130】
また、その他の添加剤として、酸化防止剤としてヒンダードフェノール系である、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]を準備した。
【0131】
(2)樹脂組成物の調製
上記各材料を下記表1に示す配合量で押出機に供給し、押出機により加熱混合し造粒することにより、サンプル1~サンプル5を作製した。樹脂組成物の調製に際し、押出条件を以下のように変更した。サンプル1~サンプル4では、上述した押出機を用いて、シリンダの内部を窒素ガスでパージするとともに、スクリュフライトの第1方向側の側面がテーパ形状を有するスクリュを採用し、押出を行った。一方、サンプル5では、シリンダの内部を窒素ガスでパージせず、また矩形状のスクリュを採用し、押出を行った。なお、各サンプルでは、酸化防止剤の配合量を0.1質量部とした。
【0132】
【0133】
(3)電力ケーブルの作製
次に、直径が14mmの希薄銅合金製の導体芯線を撚り合せることにより形成された導体を準備した。導体を準備したら、エチレン-エチルアクリレート共重合体を含む内部半導電層用樹脂組成物と、表1で調製した絶縁層用の樹脂組成物と、内部半導電層用樹脂組成物と同様の材料からなる外部半導電層樹脂組成物と、をそれぞれ押出機A~Cに投入した。押出機A~Cからのそれぞれの押出物をコモンヘッドに導き、導体の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層を同時に押出した。これにより、中心から外周に向けて、導体、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層を有する電力ケーブルのサンプルを作製した。
【0134】
(4)評価
調製した樹脂組成物と、作製した電力ケーブルの絶縁層から切り出したサンプルについて、その融点、低分子量成分の割合、空間電荷特性、体積抵抗率、直流破壊強度を評価した。各評価方法は以下のとおりである。
【0135】
(融点)
各サンプルで調製した樹脂組成物の融点は、DSC測定により求めた。DSC測定は、JIS-K-7121(1987年)に準拠して行った。具体的には、DSC装置としては、パーキンエルマー社製DSC8500(入力補償型)を用いた。基準試料は例えばα-アルミナとした。測定試料の質量は、8~10gとした。DSC装置において、室温(27℃)から220℃まで10℃/分で昇温させた。これにより、温度に対する、単位時間当たりの吸熱量(熱流)をプロットすることで、DSC曲線を得た。このとき、各測定試料における単位時間当たりの吸熱量が極大(最も高いピーク)になる温度を「融点」とした。
【0136】
(分子量分布)
絶縁層を形成する樹脂組成物の分子量分布は、GPCにより下記条件下でPSを標準試料として作成された検量線に基づいて、ベース樹脂の数平均分子量を測定した。本実施例では、得られた分子量分布に基づき、分子量分布全体の総面積に対する、分子量が1×104以下の領域の面積の比率を求め、分子量が1×104以下の低分子量成分の割合を求めた。
装置:東ソー製 HLC-8321GPC/HT
溶離液:1,2,4-トリクロロベンゼン
温度:140℃
濃度:1.0mg/mL
流速:1.0mL/min
なお、PSの検量線は、1000以上550万以下の分子量の範囲内の結果に基づいて作成した。
【0137】
(空間電荷特性)
絶縁層の空間電荷特性は、絶縁層の空間電荷蓄積量により評価した。空間電荷蓄積量は、電流積分電荷法により測定した。具体的には、まず、電力ケーブルの絶縁層からシート状の試料片を採取した。続いて、この試料片を測定用コンデンサに直列に接続した後、測定用コンデンサに電荷を蓄積させ、電流の積分値である電荷量を測定した。本実施例では、温度90℃にて、40kV/mmまたは80kV/mmの直流電界を試料に連続印加し、300秒経過後における電荷量Q300と、印加直後(0秒)における電荷量Q0とに基づいて、下記式より、温度90℃、直流電界40kV/mmでの空間電荷蓄積量と、温度90℃、直流電界80kV/mmでの空間電荷蓄積量を求めた。本実施例では、温度90℃、直流電界40kV/mmでの空間電荷蓄積量が25%以下である場合をA(最良)とし、空間電荷蓄積量が25%超100%以下である場合をB(良好)とし、空間電荷蓄積量が100%超である場合をC(不良)として評価した。また、温度90℃、直流電界80kV/mmでの空間電荷蓄積量が40%以下である場合をA(最良)とし、空間電荷蓄積量が40%超100%以下である場合をB(良好)とし、空間電荷蓄積量が100%超である場合をC(不良)として評価した。
空間電荷蓄積量=(Q300/Q0-1)×100
【0138】
(体積抵抗率)
絶縁層の体積抵抗率は、空間電荷特性と同様に電力ケーブルの絶縁層から採取したシート状の試料片を用いて測定した。具体的には、試料片を温度90℃のシリコーンオイル中に浸漬させ、直径25mmの平板電極を用いて、40kV/mmまたは80kV/mmの直流電界を試料片に印加することで、体積抵抗率を測定した。当該体積抵抗率が1×1015Ω・cm以上である場合をA(最良)とし、体積抵抗率が5×1014Ω・cm以上1×1015Ω・cm未満である場合をB(良好)とし、体積抵抗率が5×1014Ω・cm未満である場合をC(不良)として評価した。
【0139】
(直流破壊強度)
絶縁層の直流破壊強度は、空間電荷特性と同様に電力ケーブルの絶縁層から採取したシート状の試料片を用いて測定した。具体的には、まず、試料片を温度90℃のシリコーンオイル中に浸漬させ、直径25mmの平板電極を用いて、4kV/minの速度で印加電圧を上昇させた。そして、試料片が絶縁破壊に至ったときに、このときに印加していた電圧を試料片の厚さで除算することで、試料片の直流破壊強度を求めた。当該直流破壊強度が200kV/mm以上である場合をA(最良)とし、直流破壊強度が160kV/mm以上200kV/mm未満である場合をB(良好)とし、直流破壊強度が160kV/mm未満である場合をC(不良)として評価した。
【0140】
(5)評価結果
各サンプルについて上述した評価を行い、その評価結果を表1にまとめた。
【0141】
表1に示すように、サンプル1やサンプル2では、融点は高いものの、低分子量成分の割合の高いTPO1やSEBS1を用いたため、樹脂組成物の融点を110℃以上にできるものの、低分子量成分の割合を3%以下に維持できないことが確認された。この結果、高温環境下での絶縁性が低くなることが確認された。これらのサンプルでは、低分子量成分の割合が高く、低分子量成分が高温環境下で溶融し、樹脂組成物中を流動することで、局所的な電荷の蓄積を引き起こしたものと推測される。また特に、サンプル2は、サンプル1と比較して樹脂組成物の融点が低いため、低分子量成分がより溶融しやすく、絶縁性がより低下したものと推測される。
【0142】
一方、サンプル3やサンプル4では、融点が高く、また低分子量成分の割合の低いTPO2やSEBS2を用いたため、樹脂組成物において、その融点を110℃以上、低分子量成分の割合を3%以下にできることが確認された。特に、サンプル3では、SEBS2よりも融点の高いTPO2を用いることで、樹脂組成物の融点をより高くでき、その結果、高温環境下での絶縁性をより高くできることが確認された。これは、樹脂組成物に含まれる樹脂成分の高温環境下での溶融をより抑制でき、低分子量成分の分散状態や相溶状態を維持できたためと推測される。
【0143】
また、サンプル5では、サンプル3と同様の材料を用いたが、サンプル3よりも低分子量成分の割合が高くなることが確認された。この結果、高温環境下での絶縁性がサンプル3よりも低くなることが確認された。低分子量成分の割合がサンプル3よりも高くなった理由としては、サンプル5では、各材料を加熱混合する押出機にて、窒素ガスでのパージおよびテーパ形状を有するスクリュフライトを採用しないことで、樹脂組成物が押出機内に残留しやすく、樹脂組成物が熱分解により低分子量化したためと推測される。そして、この低分子量成分が高温環境下にて溶融して流動することで、局所的な電荷の蓄積を引き起こし、絶縁性を低下させたものと推測される。
【0144】
以上のように、樹脂組成物において、プロピレン単位を有するプロピレン系樹脂(A)と、熱可塑性エラストマ(B)とを使用し、その樹脂組成物の融点と低分子量成分の割合を所定の要件を満たすようにすることで、高温環境下でも、空間電荷の蓄積を抑制し、体積抵抗率や直流破壊電界強度を向上できることが確認された。つまり、樹脂組成物において高い絶縁性を安定して得られることが確認された。これにより、絶縁層を高温環境下でも高耐圧とすることができ、電力ケーブルにより安定的な直流送電が可能となる。
【0145】
<本開示の好ましい態様>
以下、本開示の好ましい態様を付記する。
【0146】
(付記1)
プロピレン単位を有するプロピレン系樹脂(A)と、
熱可塑性エラストマ(B)と、を含有し、
融点が110℃以上であり、
分子量分布を測定したときに、分子量が1×104以下の成分の割合が3%以下である、
樹脂組成物。
【0147】
(付記2)
導体と、
前記導体の周囲に被覆され、樹脂組成物から形成される絶縁層と、
を備え、
前記樹脂組成物は、
プロピレン単位を有するプロピレン系樹脂(A)と、
熱可塑性エラストマ(B)と、を含有し、
融点が110℃以上であり、
分子量分布を測定したときに、分子量が1×104以下の成分の割合が3%以下である、
電力ケーブル。
【0148】
(付記3)
付記2において、好ましくは、
前記熱可塑性エラストマ(B)は、オレフィン単位を有するオレフィン系熱可塑性エラストマ、およびスチレン単位を有するスチレン系熱可塑性エラストマの少なくとも1つである。
【0149】
(付記4)
付記3において、好ましくは、
前記熱可塑性エラストマ(B)は、オレフィン単位を有するオレフィン系熱可塑性エラストマである。
【0150】
(付記5)
付記2から付記4のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記熱可塑性エラストマ(B)の融点が110℃以上160℃以下である。
【0151】
(付記6)
付記2から付記5のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記熱可塑性エラストマ(B)は、分子量が1×104以下の成分の割合が4.0%以下である。
【0152】
(付記7)
付記2から付記6のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記プロピレン系樹脂(A)はプロピレンランダム重合体である。
【0153】
(付記8)
付記2から付記7のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記プロピレン系樹脂(A)の融点が130℃以上170℃以下である。
【0154】
(付記9)
付記2から付記8のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記樹脂組成物は、前記プロピレン系樹脂(A)を50質量部以上90質量部以下、前記熱可塑性エラストマ(B)を10質量部以上50質量部以下、含む。
【0155】
(付記10)
付記2から付記9のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記熱可塑性エラストマ(B)の数平均分子量が5.0×104以上である。
【0156】
(付記11)
付記2から付記10のいずれか1つにおいて、好ましくは、
前記プロピレン系樹脂(A)の数平均分子量が5.0×104以上である。
【0157】
(付記12)
導体と、前記導体の周囲に被覆され、樹脂組成物から形成される絶縁層と、を備える電力ケーブルの製造方法であって、
前記樹脂組成物を調製する調製工程と、
前記樹脂組成物を前記導体の周囲を被覆するように押出し、前記絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、を有し、
前記調製工程では、プロピレン単位を有するプロピレン系樹脂(A)と、熱可塑性エラストマ(B)とを、前記樹脂組成物の融点が110℃以上となるように添加し、前記樹脂組成物の分子量分布を測定したときに、分子量が1×104以下の成分の割合が3%以下となるように加熱混合する、
電力ケーブルの製造方法。
【0158】
(付記13)
付記12において、好ましくは、
前記調製工程では、加熱混合を不活性ガス雰囲気で行う。
【0159】
(付記14)
付記12又は13において、好ましくは、
前記調製工程では、筒状のシリンダと、前記シリンダの第1方向から挿入され、回転自在に配置されるスクリュと、前記シリンダの第2方向に取り付けられ、前記樹脂組成物を排出する排出口が設けられる排出部と、前記シリンダ内を不活性ガス雰囲気に調整する雰囲気調整部と、を備える押出機を用いて、前記樹脂組成物を調製する。
【0160】
(付記15)
付記14において、好ましくは、
前記スクリュは、スクリュ本体部と、前記スクリュ本体部の表面にらせん状に配置されるスクリュフライトと、を備え、
前記スクリュフライトは、前記第1方向側の側面がテーパ形状となるように構成される。
【符号の説明】
【0161】
10 電力ケーブル
110 導体
120 内部半導電層
130 絶縁層
140 外部半導電層
150 遮蔽層
160 シース
200 押出機
210 シリンダ
220 ホッパ
230 スクリュ
231 スクリュ本体部
232 スクリュフライト
240 回転駆動機構
250 排出部
251 孔部
260 雰囲気調整部
270 滞留抑制部材
271 テーパ孔部
【要約】
樹脂組成物は、プロピレン単位を有するプロピレン系樹脂(A)と、熱可塑性エラストマ(B)と、を含有し、融点が110℃以上であり、分子量分布を測定したときに、分子量が1×104以下の成分の割合が3%以下である。